JP3897330B2 - 熱搬送媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷暖房システム等に適用される熱搬送媒体、特に、流動抵抗低減効果の持続性が高い熱搬送媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、地域冷暖房システムにおいては、熱供給側システムと熱利用側システムとが循環流路を介して接続され、この循環流を通して熱搬送媒体が循環される。このような地域冷暖房システムでは、熱供給側システムから熱利用側システム、例えばビル等に設置される空調システムまで冷温熱媒体である液体(例えば水)を循環させるための配管は、その長さは数km以上になることがあり、その液体搬送動力はかなり大きく、地域冷暖房システムのランニングコストの約60%〜70%であるとも言われている。
【0003】
この液体搬送動力を低減させる有効な方法として、粘弾性を示す界面活性剤水溶液を熱搬送媒体として用い、流動摩擦抵抗を著しく低減させる方法が提案されている。これは、循環流路を規定する配管内を流動する液体、例えば水に特定の第四級アンモニウム塩とサリチル酸塩の混合物からなる界面活性剤を例えば数10〜数1000ppm溶解させると、界面活性剤が水中で、疎水基部を中心部に親水基部を外周部に配置したミセルを形成し、そのミセルが棒状の形態をなして高次に絡まって粘弾性を示すことに起因するといわれている。このような特性を示す界面活性剤及びこれを用いた水搬送配管内の摩擦抵抗低減方法は、例えば特公平3−76360号公報、特公平4−6231号公報、特公平5−47534号公報、特開平8−311431号公報等に開示されている。
【0004】
一方、このような効果を示す界面活性剤の濃度には特定の範囲があることが知られている。従って、摩擦低減効果を得るためには、配管内の界面活性剤の濃度を効果の得られる範囲内に常時保つ必要がある。しかしながら、界面活性剤の分子は、配管や熱交換器等の機器材料である金属に吸着しやすいという特徴を持っており、それ故に、初期に投入した液体中の界面活性剤の濃度は、金属への吸着により経時的に減少する傾向にあり、冷暖房システムの熱搬送システムを長期間を運転すると、液相中の界面活性剤の濃度が低下し、その摩擦低減効果が減少する。このように濃度が低下すると、界面活性剤水溶液を搬送するポンプ動力が一定だとすると、摩擦低減効果の減少により圧力損失が増大し、その結果、配管内を流れる界面活性剤水溶液の流量が減少する。そのため、熱利用側システムでの熱量が不足するという事態が発生するが、このような事態を解消するためには、ポンプ動力を増加しなければならない。また、常に摩擦低減効果を維持しながら熱搬送システムを省エネルギー運転するためには、濃度が低下する度に界面活性剤を補給しなければならないが、これは手間がかかり、熱搬送システムの運転効率も悪くなる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、配管内面や熱交換器の金属壁面に界面活性剤分子が吸着するのを少なくし、これによって、液相中の界面活性剤の濃度低下を抑えることができる熱搬送媒体を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、摩擦低減効果を有する界面活性剤水溶液を熱搬送媒体に使用する場合に、この水溶液中に金属被膜剤を添加すると、水溶液中の界面活性剤の濃度が減少せず、摩擦低減効果を持続させることができ、前記目的が達成できることを見いだした。
即ち、本発明は、熱供給側システム及び熱利用側システムを循環する循環流路を通して循環される熱搬送媒体であって、
不凍剤、
亜硝酸リチウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸ベリリウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸鉄、亜硝酸銅、亜硝酸ニッケル、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸鉄、リン酸銅、リン酸ニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属被膜剤及び
ステアリルトリメチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物、ドデシルトリメチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物、ヘキシルトリメチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物、ヘプチルトリメチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物、オレイルビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物、オレイルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物又はオレイルトリヒドロキシエチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物からなる界面活性剤が、水性液体に添加されていることを特徴とする熱搬送媒体である。
【0007】
本発明の熱搬送媒体によると、水性液体、例えば水に不凍剤が添加されているので、低温度条件下においても使用可能である。また、このような水性液体に摩擦低減効果を有する界面活性剤及び金属被膜剤が添加されているので、界面活性剤が循環流路を規定する配管や熱交換器等の金属表面へ吸着して水溶液中(液相中)の界面活性剤の濃度が減少するが、このような現象を金属被膜剤を加えることにより防止でき、界面活性剤の濃度低下を抑えることができる。これは、金属被膜剤が水溶液中に溶解することによって生成するイオンが、界面活性剤よりも優先的に配管や熱交換器等の金属表面に吸着することで、界面活性剤が金属表面に吸着するサイトを少なくすることによるものと考えられる。これにより、水溶液中(液相中)の界面活性剤濃度の低下を効果的に抑制し、界面活性剤の摩擦低減効果が経時的に減少してしまうことを防止することができる。
【0008】
また、本発明では、前記不凍剤がグリコール及びアルコールから選ばれた少なくとも1種類以上の化合物であり、金属被膜剤が亜硝酸塩及びリン酸塩から選ばれた少なくとも1種類以上の化合物であることを特徴とする。
本発明の熱搬送媒体によると、金属被膜剤が亜硝酸塩及びリン酸塩から選ばれた少なくとも1種類以上の化合物であり、このような化合物のイオンは、界面活性剤よりも優先的に配管や熱交換器等の金属表面に吸着して界面活性剤が金属表面に吸着するサイトを少なくするように考えられ、その結果、水溶液中(液相中)の界面活性剤濃度の低下を効果的に抑制することができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う熱搬送媒体の実施の形態を説明する。図1は、本発明に従う熱搬送媒体が適用される熱搬送システムの一例を簡略的に示すブロック図であり、図2は、熱搬送媒体中の界面活性剤の濃度と摩擦低減率との関係を示す図である。
図1において、図示の熱搬送システムは、例えば、熱搬送媒体に熱を供給する熱供給側システム13と、熱搬送媒体の熱を利用する熱利用側システム14と、熱供給側システム13と熱利用側システム14との間で熱搬送媒体を循環させる循環流路12とを備え、循環流路12は、例えば各種の金属製配管から構成される。この形態では、循環流路12の供給側流路16に熱搬送媒体の流量を計測するための電磁流量計15が配設され、その戻り側流路17に熱搬送媒体を循環させるための循環ポンプ11が配設されており、熱搬送媒体は、このような循環流路12に充填して使用される。
【0010】
次に、熱搬送媒体について説明すると、この熱搬送媒体は、水性液体、例えば水であり、この水性液体に、摩擦低減効果を有する界面活性剤と、低温条件下における凍結を防止するための不凍剤と界面活性剤の金属表面(例えば配管、熱交換器等の表面)への吸着を抑えるための金属被膜剤とが添加されている。
一般的に、熱搬送媒体の摩擦低減効果は、界面活性剤の濃度によって変化することが知られている。その一例として、界面活性剤として、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドとサリチル酸ナトリウムを1:1.5のモル比で混合させたものを使用し、その水溶液中の界面活性剤の濃度と摩擦低減率との関係を調べると、図2に示す通りである。図2における摩擦低減率とは、同じ直管配管内を同じ流速条件下で、界面活性剤が添加されてない場合に計測した圧力損失値に対する界面活性剤を添加した場合に計測した圧力損失値の低減割合を示した値であり、低減割合の値が大きいほど摩擦低減効果が大きいことを示している。図2の圧力損失の計測条件は、使用配管:サイズ50Aの炭素鋼鋼管、熱搬送媒体の流速:2m/sである。図2から理解されるように、界面活性剤の濃度が0〜500ppm迄は、摩擦低減率は比例的に増加するが、界面活性剤の濃度が500ppm以上であると、摩擦低減率はほぼ一定で、約80%になるとの結果が得られた。このようなことから、界面活性剤の摩擦低減効果を充分に発現させるためには、その濃度を500ppm以上に維持する必要があることが分かる。
熱搬送媒体に含まれる界面活性剤の種類については、特に制限されるものではないが、例えば、セチルトリメチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物、ステアリルトリメチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物、ドデシルトリメチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物、ヘキシルトリメチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物、ヘプチルトリメチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物、オレイルビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物、オレイルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物、オレイルトリヒドロキシエチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物等がある。
【0011】
この界面活性剤の濃度は、図2に示すとおり、少ないと摩擦低減効果が発現せず、また多すぎても摩擦低減効果はある一定の値以上には増加しないので、経済的に無駄である。このようなことから、その濃度は、300〜4000ppmであるのが好ましく、500〜2500ppm以上であるのがより好ましい。
熱搬送媒体に加えられる金属被膜剤の種類についても、特に制限されるものではないが、水性液体、例えば水を用いたときには水への溶解性が良いものが使い勝手が良く好ましい。このような金属被膜剤は、例えば、亜硝酸リチウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸ベリリウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸鉄、亜硝酸銅、亜硝酸ニッケル等の亜硝酸塩や、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸鉄、リン酸銅、リン酸ニッケル等のリン酸塩から選ばれた少なくとも1種類以上の化合物が好ましく、亜硝酸ナトリウムが特に好ましい。金属被膜剤の濃度に関しては、少ないと配管や熱交換器等の金属表面への吸着量が少なく、界面活性剤の金属表面吸着を抑制する効果(水溶液中の濃度減少を抑制する効果)が低くなり、また多すぎると特に界面活性剤の金属表面吸着を抑制する効果(水溶液中の濃度減少を抑制する効果)は変わらないが、経済的に無駄である。このようなことから、金属被膜剤の濃度は、500〜3000ppmであるのが好ましく、700〜2000ppmであるのがより好ましい。
【0012】
また、熱搬送媒体に含まれる不凍剤の種類についても、特に制限はされないが、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコールやメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールから選ばれた少なくとも1種類以上の化合物が好ましく、プロピレンアルコールが特に好ましい。不凍剤の濃度については、その濃度が低いと熱搬送媒体の凝固温度が高くなるため、低温への使用可能な温度域が小さくなり、逆にその濃度が大きいと使用温度域がより低温まで拡張できるが、粘性が大きくなって流動性が悪くなる。このようなことから、不凍剤の濃度は、5〜40重量%であるのが好ましく、7〜30重量%であるのがより好ましい。
【0013】
【実施例及び比較例】
本発明の熱搬送媒体の効果を確認するために、模擬循環ラインを用いて次の通りの実験を行った。模擬循環ラインは、配管サイズ50Aの炭素鋼鋼管(SGP黒管)30mと片渦巻式ポンプ(三和ハイドロテック社製、形式MPL−8515)、電磁流量計(日立製作所社製、形式FMR104W−40)で構成される密閉系循環ラインを用い、その基本的構成は、図1に示すシステムから熱供給側システム13及び熱利用側システム14を省略したものと同様であった。熱搬送媒体としては、水性液体として水を用い、不凍剤としてプロピレングリコールを、界面活性剤(摩擦低減剤)としてステアリルトリメチルアンモニウムクロライドとサリチル酸ナトリウムとをモル比1:1.5で混合させた化合物を、また金属被膜剤として亜硝酸ナトリウムを、それぞれ、10重量%、500ppm、750ppmの濃度で溶解させた水溶液(以下、「摩擦抵抗低減水溶液」ともいう)を用いた。ポンプの動力は定格(60kHz)では7.5kWであり、インバータ制御を行うことによりポンプ動力の調整を行った。
【0014】
まず、摩擦抵抗低減水溶液の温度を30℃に保ち、この水溶液の流量をポンプの定格流量値(250dm3/min)で一定になるように、ポンプ動力をインバータ制御した。一般に、ポンプ動力はインバータ周波数の3乗に比例するので、ポンプ動力低減率は、{1−(インバータ周波数/60)3}×100で求められる。そして、このように算出したポンプ動力低減率の経時変化を求め、求めた結果は、図3に丸印で示す通りであった。図3には、摩擦低減剤水溶液をサンプリングし、そのサンプリング液中の界面活性剤の濃度を液体クロマトグラフィーにて求めた結果もプロットの近傍にカッコ書きで示した。
【0015】
比較のために、熱搬送媒体に金属被膜剤としての亜硝酸ナトリウムを添加しない以外は全て同じ条件で比較実験を行った。その結果は、図3に四角印で示す通りであった。
図3より明らかな通り、実施例では50日経過後もポンプ動力削減率および界面活性剤の濃度は初期の値といずれも同じであったのに対し、比較例では、5日経過の段階で、ポンプ動力削減率が急激に低下し、それに対応して界面活性剤の濃度も急激に低下した。
【0016】
以上の結果から分かるように、界面活性剤を添加した熱搬送媒体に金属被膜剤を添加することによって、水溶液中(液相中)に存在し、摩擦低減効果に寄与する界面活性剤の濃度を長期にわたって一定に保つことができ、それに伴ってポンプ動力削減効果も一定に維持することができる。
【0017】
【発明の効果】
本発明の請求項1の熱搬送媒体によれば、水性液体に摩擦低減効果を有する界面活性剤及び金属被膜剤が添加されているので、界面活性剤が循環流路を規定する配管や熱交換器等の金属表面へ吸着して水溶液中(液相中)の界面活性剤の濃度が減少するが、このような現象を金属被膜剤を加えることにより防止でき、これによって、界面活性剤の濃度低下を抑え、長期にわたってポンプ動力削減効果を維持することができる。
【0018】
また、本発明の請求項2の熱搬送媒体によれば、金属被膜剤が亜硝酸塩及びリン酸塩から選ばれた少なくとも1種類以上の化合物であり、このような化合物のイオンは、界面活性剤よりも優先的に配管や熱交換器等の金属表面に吸着するようになり、その結果、水溶液中(液相中)の界面活性剤濃度の低下を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の熱搬送媒体を用いる熱搬送システムの一例を簡略的に示すブロック図である。
【図2】熱搬送媒体中の界面活性剤の濃度と摩擦低減率との関係を示す図である。
【図3】実施例および比較例におけるポンプ動力削減効果の経時変化を示す図である。
【符号の説明】
11 循環ポンプ
12 循環流路
13 熱供給側システム
14 熱利用側システム
15 電磁流量計
16 供給側流路
17 戻り側流路
Claims (2)
- 熱供給側システム及び熱利用側システムを循環する循環流路を通して循環される熱搬送媒体であって、
不凍剤、
亜硝酸リチウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸ベリリウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸鉄、亜硝酸銅、亜硝酸ニッケル、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸鉄、リン酸銅、リン酸ニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属被膜剤及び
ステアリルトリメチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物、ドデシルトリメチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物、ヘキシルトリメチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物、ヘプチルトリメチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物、オレイルビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物、オレイルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物又はオレイルトリヒドロキシエチルアンモニウム塩とサリチル酸塩との混合物からなる界面活性剤が、水性液体に添加されていることを特徴とする熱搬送媒体。 - 前記不凍剤がグリコール及びアルコールから選ばれた少なくとも1種類以上の化合物であり、金属被膜剤が亜硝酸塩及びリン酸塩から選ばれた少なくとも1種類以上の化合物であることを特徴とする請求項1記載の熱搬送媒体。
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