JP3896031B2 - 高強度uoe鋼管の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼管の製造方法に関し、詳しくは、天然ガスや原油などを長距離輸送するためのラインパイプ等に用いられる引っ張り強度が800MPa以上で大径の高強度UOE鋼管の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
天然ガスや原油などを長距離輸送するためのラインパイプに多く用いられるUOE又はUO鋼管と呼ばれる大径のシーム溶接鋼管は、一般に、図1(a)〜(i)に示すように、(a)所定寸法の平鋼板1を用いて、(b)その板幅調整、両幅端部の開先加工2を行い、(c)両幅端部の曲げ加工3を行い、さらに、(d)U形の成形4、(e)O形の成形5により管状にプレス成形した後、(f)突合わせ部をガスシ−ルドアーク溶接、レーザー溶接等により仮付け溶接6、(g)サブマージアーク溶接などにより内面シーム溶接7および(h)外面シーム溶接8を行い、その後、(i)鋼管の真円度を高めるためにエキスパンダ−などにより拡管成形9を行う工程で製造される。最近のUOE鋼管の製造工場は、高生産性確保のために、これらの各工程が1本のライン線上に配置され連続的に加工できるよう工夫されている。
【0003】
近年、ガス、石油の利用量の拡大、輸送コストの低減等を理由にした高圧輸送および輸送効率拡大のため、ラインパイプの大型化、薄肉・高強度化が進んでいる。このような背景で、現在、ラインパイプ材として引張強度700MPa級の高強度UOE鋼管の試作が開始され、800MPaまたは1000MPa級の高強度UOE鋼管の開発も進められている。
【0004】
一般に、シーム溶接鋼管では、溶接HAZおよび溶接金属の引っ張り強度が母材の引っ張り強度と同等以上とし、シーム溶接鋼管の引張試験の際に母材部分で破断することが求められる。しかしながら、引張強度700MPa級以上の高強度UOE鋼管では、溶接金属の高強度化により溶接HAZに歪が集中して引張試験の際に溶接HAZの位置で破断する危険性が高くなる。
【0005】
更に、引張強度800MPa以上の高強度UOE鋼管では、製造工程でシーム溶接部に横割れが発生するという問題が新たに発生してきた。
【0006】
この横割れは、従来から溶接金属の拡散性水素による水素脆化、割れ感受性の増大、引張応力の付加の3つ要因により発生する水素割れであると言われている(例えば、溶接接合便覧:丸善(株)平成2年9月、P885)。
【0007】
また、HT80(引張強さ780MPa以上)の高強度鋼の低温割れに関して溶接金属に発生する横割れの防止が最も困難であるとの報告がなされており(「溶接学会誌」第46巻(1977)第12号、875〜880頁)、拡散性水素量と溶接ワイヤの組成から横割れ発生限界を予測する試みが行われている(「溶接学会誌」第46巻(1977)第8号、561〜566頁)。
【0008】
しかし、これらの報告では、特定の水素含有量で割れが発生する場合にはシーム溶接時に予熱温度または層間温度を高くすることにより割れ発生が防止できるとの見解を表明するにとどまっている。
【0009】
このように溶接金属の横割れの対策としてシーム溶接時の予熱処理または後熱処理の実施や溶接材料の拡散性水素量の低減等が挙げられる。
【0010】
しかし、溶接時の予熱処理または後熱処理は、UOE鋼管の製造工程を繁雑化し、生産性の低下や製造コストの増加を招き好ましくない。
【0011】
また、800MPa以上の高強度鋼管では、鋼管引張試験時の母材破断を実現できる溶接金属の靱性を確保するためには、サブマージ溶接に高塩基度のフラックスを用いて溶接金属中の酸素量を低減する必要があり、一般に高塩基度フラックスは拡散性水素量が高いため、溶接材料の拡散性水素量の低減は、溶接金属の靱性確保の点から限界がある。
【0012】
更に、特開2001−71176号公報では、溶接金属の化学組成を規定することにより溶接後冷却時のマルテンサイト変態温度を調整し溶接残留応力を緩和することで溶接金属の横割れを防止する方法が提案されている。
【0013】
しかし、溶接金属のマルテンサイト変態点の低下のための合金元素の増加は、靱性低下や溶接高温割れを助長し、鋼管引張試験時の母材破断を実現するための溶接金属の強度と靱性のバランスおよび溶接性の確保の観点から鋼管の母材および溶接金属の成分設計の制約が大きくなり好ましくない。
【0014】
従って、引張強度800MPa以上の高強度UOE鋼管を製造する際に発生する溶接金属の横割れを、生産性の低下や製造コストの増加、さらには母材および溶接金属の成分設計の制約も少なく、かつ、シーム溶接部の靱性などの鋼管の機械特性を維持できる方法が望まれている。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
上記の従来技術の問題に鑑みて、本発明は、800MPa以上の高強度UOE鋼管を製造する際に、生産性の低下や製造コストの増加、さらには母材および溶接金属の成分設計の制約も少なく、かつ、シーム溶接部の靱性などの鋼管の機械特性を維持しつつ、高強度UOE鋼管の製造時の溶接金属の横割れを防止し、さらには拡管成形時の拡管割れを防止できる高強度UOE鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は、溶接金属の横割れの挙動の解析結果から、横割れの発生は、シーム溶接完了から拡管成形開始までの時間と拡散性水素量、拡管成形時の拡管率、溶接金属の強度との関係で整理することができ、これらの関係を規定することにより抑制できるという知見に基になされたものである。
【0017】
つまり、本発明の要旨とするところは、母材の引張強度が800MPa以上、外径が406mm以上、かつ肉厚が10mm以上の高強度UOE鋼管の製造方法において、鋼板を管状に成形後、突合わせ部を仮付け溶接後、拡散性水素量が20ml/100g以下の溶接フラックスを用い、シ−ム溶接金属の引張強度が1400MPa以下、かつ母材の引張強度の0.8倍〜1.4倍の条件で鋼管の内面および外面をサブマージアーク溶接によるシーム溶接を行い、この溶接終了時から30分以上経過した後に、拡管率が5%以下の条件で拡管成形することを特徴とする高強度UOE鋼管の製造方法、である。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、まず、800MPa以上の高強度UOE鋼管を製造する際に、溶接金属の横割れが発生するUOE鋼管のサイズおよび強度を調査した結果、以下のことがわかった。
【0019】
(1) 高強度UOE鋼管のサイズについては、その肉厚が10mm以上の場合に溶接金属の横割れが多く発生する。また、その外径が406mm以上の場合には、通常、板厚が10mm以上となるため溶接金属の横割れが多く発生する。
【0020】
なお、800MPa以上の高強度UOE鋼管では、設備能力によりU形およびO形のプレス成形または拡管成形が可能な鋼管の肉厚は規制を受け、現状設備能力上、製造可能な鋼管の肉厚の上限は約40mmである。
【0021】
(2) UOE鋼管の強度については、鋼管母材の引張強度が800MPa以上で溶接金属の横割れが多く発生する。
【0022】
なお、鋼管母材の引張強度が1200MPaを超えるような超高強度鋼管は、現状の製造工程で製造する場合に、成形性の低下、シ−ム溶接部の溶接HAZおよび溶接金属の靱性低下および拡管割れの発生などの問題が多くなり、現状の製造可能な鋼管の引張強度の上限は、約1200MPaである。
【0023】
以上を踏まえて、本発明では、溶接金属の横割れが多く発生する溶接金属の母材の引張強度が800MPa以上、外径が406mm以上、かつ肉厚が10mm以上の高強度UOE鋼管の製造方法を対象とした。
【0024】
以下に本発明の高強度UOE鋼管の製造方法における製造条件の限定理由について説明する。
【0025】
本発明者らは、引っ張り強度が950MPaの鋼板を管状にプレス成形後、突合せ部を引っ張り強度および拡散性水素量が異なる種々のフラックスとワイヤを用いてサブマージアーク溶接によるシーム溶接を行い、その後、シーム溶接後から拡管開始までの時間および拡管率を変えて拡管成形を行うことにより長さ10mのUOE鋼管を製造し、溶接金属の横割れ発生状況を調査した。
フラックス中の拡散性水素量は、JIS Z3118鋼溶接部の水素量測定方法に準じて、2号試験片を使用して当該フラックスを用いてサブマージアーク溶接直後の溶接金属中の拡散性水素量を、測定したものであり、溶着金属100g中の拡散性水素量である(以下、同様とする)。また、溶接金属の横割れの有無は、シーム溶接後72時間経過後に溶接ビード表面を超音波探傷試験により全長にわたり調査し、1個でも横割れが発生していた場合は、横割れ有りと判断した(以下、同様とする)。
【0026】
本発明者らの実験により、本発明が対象とする肉厚が約40mm以下のUOE鋼管の製造条件では、シーム溶接後、約25分経過すると溶接金属は200℃から100℃前後の温度に冷却されることが確認された。また、溶接金属中の拡散性水素は、100℃を超える温度では拡散されて母材あるいは管外に放出されるが、100℃前後を境に拡散性水素の拡散速度は急激に低下するため、100℃以下の温度では溶接金属中の拡散性水素は移動されにくくなることがわかった。
【0027】
一方、鋼管の拡管成形工程では、鋼管内部から押し広げられるために、母材およびシーム溶接部は鋼管円周方向に伸ばされ、逆に溶接線方向に縮もうとする。この際、シーム溶接部の溶接金属の変形能は母材に比べて変形能が大きいため、溶接金属が過大な塑性変形により収縮する際に母材に拘束される結果、溶接金属の溶接線方向に引張応力が生じることを確認している。
【0028】
溶接金属の引っ張り強度が高い場合には、溶接金属の割れ感受性が高くなり鋼管の拡管成形後に横割れが多く発生する傾向にあることも確認した。
【0029】
これらの知見から、本発明者らは、鋼管の拡管成形後に、シーム溶接線を横切って鋼管円周方向に発生する溶接金属の横割の発生は、特に、シーム溶接直後の溶接金属中の拡散性水素量、シーム溶接後から拡管成形開始までの時間に依存する拡散性水素の拡散速度、拡管成形時の拡管率、さらには溶接金属の引っ張り強度の条件に依存するものと考え、更に、これらの条件について詳細な検討を行った。
【0030】
(フラックス中の拡散性水素量)
図2にシーム溶接後から拡管成形開始までの時間とシーム溶接時に用いるフラックス中の拡散性水素量中の拡散性水素量および溶接金属の横割れ発生状況との関係を示す。なお、シーム溶接得られる溶接金属の引っ張り強度は1000MPa、拡管成形時の拡管率は3%で行った。
【0031】
図2から、シーム溶接後から拡管成形開始までの時間が30分以上で、かつシーム溶接時に用いるフラックス中の拡散性水素量中の拡散性水素量が20ml/100g以下の条件で、溶接金属の横割れは発生しない。
【0032】
シーム溶接時に用いるフラックス中の拡散性水素量中の拡散性水素量が20ml/100g以下の場合には、シーム溶接後から拡管成形開始までの時間が30分で溶接金属中の拡散性水素が十分に拡散されて母材あるいは管外に放出されるため、その時間が30分以上での拡管成形時に溶接金属中に残存する拡散性水素量は少なく、拡管成形により溶接金属の溶接方向に引張応力が負荷されても水素脆化による横割れが発生しにくくなる。
【0033】
一方、シーム溶接時に用いるフラックス中の拡散性水素量中の拡散性水素量が20ml/100gを超える場合には、シーム溶接後から拡管成形開始までの時間が30分ではまだ溶接金属中の拡散性水素が十分に拡散されず残存し、かつ、その時間が30分以上では溶接金属中の拡散性水素の拡散速度が極度に遅くなり拡散されにくくなるため、拡管成形により溶接金属の溶接方向に引張応力が負荷された場合に水素脆化による横割れが発生しやすくなる。このため、シーム溶接後から拡管成形開始までの時間が120分の場合でも、拡管成形後に横割れが生じている。
【0034】
従って、本発明では、サブマージアーク溶接によるシーム溶接時に用いるフラックス中の拡散性水素量を20ml/100g以下に規定する。なお、フラックス中の拡散性水素量は、JIS Z3118鋼溶接部の水素量測定方法に準じて、2号試験片を使用して当該フラックスを用いてサブマージアーク溶接直後の溶接金属中の拡散性水素量を、測定したものであり、溶着金属100g中の拡散性水素量である。
【0035】
(拡管成形時の拡管率)
図3にシーム溶接後から拡管成形開始までの時間と拡管成形時の拡管率および溶接金属の横割れ発生状況との関係を示す。なお、シーム溶接で得られる溶接金属の引っ張り強度は1000MPa、シーム溶接に用いたフラックス中の拡散性水素量は10ml/100gで行った。
【0036】
図2から、シーム溶接後から拡管成形開始までの時間が30分以上で、かつ拡管成形時の拡管率が5%以下の条件で、溶接金属の横割れは発生しない。一方、拡管成形時の拡管率が5%を超える場合には、シーム溶接後から拡管成形開始までの時間にかかわらず過剰な応力集中により横割れが発生し、更に、シーム溶接部のビード形状によっては、拡管成形時に溶接HAZ(溶接止端部)位置での破断(拡管割れ)が生じる。
【0037】
拡管成形時の拡管率が5%以下の場合には、拡管成形により溶接金属の溶接方向に負荷させる引張応力が小さいために水素脆化による横割れが発生しにくくなり、シーム溶接後から拡管成形開始までの時間が30分以上の溶接金属中の拡散性水素が十分に拡散され、残存する拡散性水素量が少ない場合には、水素脆化の抑制との相乗作用により横割れは発生しなくなる。
【0038】
一方、拡管成形時の拡管率が5%を超える場合には、拡管成形により溶接金属の溶接方向に負荷させる引張応力が大きいために水素脆化による横割れが発生しやすくなり、シーム溶接後から拡管成形開始までの時間が30分以上の溶接金属中の拡散性水素が十分に拡散され、残存する拡散性水素量が少ない場合でも、溶接金属の横割れが発生しやすくなり、更に、塑性変形が大きすぎると、拡管割れ(溶接HAZ位置での破断)が発生する危険性が生じる。
【0039】
従って、本発明では、拡管成形時の拡管率を5%以下に規定する。
【0040】
なお、拡管成形時の拡管率の下限は、特に規定する必要はないが、母材の引張強度が800MPa以上の高強度UOE鋼管では、拡管率が過度に小さすぎると、鋼管の真円度が悪化し品質上好ましくないため、鋼管の品質の観点からその下限を0.3%とするのが好ましい。
【0041】
(溶接金属の引っ張り強度)
図4にシーム溶接後から拡管成形開始までの時間とシーム溶接部の溶接金属の引っ張り強度および溶接金属の横割れ発生状況との関係を示す。なお、シーム溶接に用いたフラックス中の拡散性水素量は10ml/100g、拡管成形時の拡管率は3%で行った。
【0042】
図2から、シーム溶接後から拡管成形開始までの時間が30分以上で、かつ溶接金属の引っ張り強度が1400MPa以下の条件で、溶接金属の横割れは発生しない。一方、溶接金属の引っ張り強度が1400MPaを超える場合には、シーム溶接後から拡管成形開始までの時間にかかわらず横割れが発生する。
【0043】
溶接金属の引っ張り強度が1400MPa以下の場合には、溶接金属の高強度化により溶接金属の水素脆化に対する感受性が増加することによる影響は少ないため、シーム溶接後から拡管成形開始までの時間が30分以上の溶接金属中の拡散性水素が十分に拡散され、残存する拡散性水素量が少ない場合には、水素脆化の抑制との相乗作用により横割れは発生しなくなる。
【0044】
一方、溶接金属の引っ張り強度が1400MPaを超える場合には、強化元素の増加による溶接金属の水素脆化に対する感受性が大きくなり、シーム溶接後から拡管成形開始までの時間が30分以上の溶接金属中の拡散性水素が十分に拡散され、残存する拡散性水素量が少ない場合でも、横割れが発生しやすくなる。従って、本発明では、シーム溶接の溶接金属の引っ張り強度の上限を1400MPa以下に規定する。
【0045】
(溶接金属の母材に対する引っ張り強度比)
本発明では、引張強度800MPa以上の高強度UOE鋼管を対象とするが、このような高強度UOE鋼管では、溶接金属の横割れの発生と共に、拡管成形時に溶接HAZまたは溶接金属の位置で破断する拡管割れの発生が問題となる。
【0046】
本発明では、溶接金属の横割れの発生を抑制すると共に、拡管割れの発生を防止するために、上述した溶接金属の引っ張り強度の上限を1400MPa以下に規定すると共に、その引張強度を母材の引っ張り強度の0.8倍〜1.4倍に規定する。
【0047】
溶接金属の引っ張り強度が母材の引っ張り強度の1.4倍を超えると、拡管時にシーム溶接部の溶接HAZ部に過剰に塑性歪が集中し拡管割れが発生しやすくなる。一方、溶接金属の引っ張り強度が母材引っ張り強度の0.8倍より低くなると、シーム溶接部の引っ張り強度が母材に比較して低すぎるため、拡管成形時にシーム溶接部の溶接金属位置で破断しやすくなる。従って、溶接金属の引張強度を母材の引っ張り強度の0.8倍〜1.4倍に規定する。
【0048】
本発明では、上述した製造条件を満足させることにより、母材の引張強度が800MPa以上、外径が406mm以上、かつ肉厚が10mm以上の高強度UOE鋼管の製造方法において、溶接金属の横割れ、および、拡管割れの発生を防止し、優れた品質の高強度UOE鋼管を製造することができる。
【0049】
本発明の高強度UO鋼管は、通常のUO鋼管の製造工程を用いて製造することができる。
【0050】
鋼板を管状にプレス成形した後、突合せ部のシーム溶接に先立って行われる仮付け溶接は、多様されているガスシールドアーク溶接でも、最近実用されつつあるレーザーなどのビーム溶接でも良い。
【0051】
シーム溶接は、X開先に加工した突合せ部を、鋼管の内面側および外面側からそれぞれ1層の溶接を行うことで行われる。このシーム溶接は、溶接能率が高く、開先形状の許容範囲が広く、更に、仮付け溶接金属の再溶融が可能である、サブマージアーク溶接が好ましく、溶接能率向上の観点から多電極を用い、1電極目は溶込みの安定性からワイヤ+極の直流電極が好ましい。電流、電圧条件は、内面溶接は仮付け溶接を突き抜けない条件で、外面溶接は完全に仮付け溶接を再溶融する条件が好ましい。また、溶接速度は板厚にもよるが、板厚20mmで1.5m/min程度であり、当然早いほど好ましい。
【0052】
サブマージアーク溶接に用いられるフラックスは、溶接金属中の酸素濃度を低減し溶接金属の靱性を向上することができる中塩基度また高塩基度のフラックスが好ましい。
【0053】
また、本発明の対象である引張強度が800MPa以上の鋼管の母材成分は、特に規定する必要はなく、例えば、以下に示すC:0.02〜0.12%、Si:0.35%以下、Mn:0.5〜2.0%、Ni:0.02〜4%、CrおよぶMoの何れか1種または2種の合計量:0.1〜4%を含有する鋼で良い。
なお、ここで%は質量%を示す(以下、同様である)。
【0054】
Cは、鋼中に添加することにより低コストで強度を向上することができ、多いほどコスト低減できるが、あまり多いとシーム溶接した際の溶接HAZ部に島状マルテンサイトと呼ばれる硬組織が生成し、靱性が低下するため好ましくなく、一方、少なすぎると焼入れ性不足で、強度、靱性の確保が難しい。そのため、C含有量は0.02〜0.12%にするのが好ましい。
【0055】
Siは、溶接HAZに島状マルテンサイトを形成しやすい成分であり、あまり添加量が高いと溶接HAZ部の靱性低下を引起こすため、その含有量は、0.35%以下とするのが好ましい。
【0056】
Mnは、焼入れ性を高め強度、靱性を確保するための成分であり、少ないと強度、靱性の確保が難しい。しかし、含有量が2.0%を超えると造塊割れの原因になる。そにため、Mn含有量は0.5〜2.0%にするのが好ましい。
【0057】
NiもMnと同様に、強度、靱性、特に靱性を確保するための成分であり、0.02%以上の添加が好ましい。しかし、あまり高いと高価な元素のため、経済的でなくなる。そのため、Ni含有量は0.02〜4%にするのが好ましい。
【0058】
Cr、Moは何れも強度確保のための元素で、少ないと強度確保ができない。また、あまり高いと熱影響部が硬くなりすぎ、単に拡管成形のタイミングを調整しただけでは溶接割れを防止できない。そのため、CrおよぶMoの何れか1種または2種の合計量を0.1〜4%にするのが好ましい。
【0059】
P、Sは不可避的に混入する成分であり、靱性確保のため、Pは0.04%以下、Sは0.03%以下に制限するのが好ましい。
【0060】
更に強度、靱性の向上等のために、Al、Ti、Nb、V、B、CaおよびMgのうちの何れか1種または2種以上を合計量で1%以下添加しても良い。
【0061】
また、鋼管のシーム溶接部の溶接金属の成分も特に規制しないが、共金系のワイヤおよびフラックスの溶接材料により溶接金属の成分を母材成分とほぼ同じ成分系とするのが好ましい。しかし、ラインパイプの多くは溶接ままで使用され、母材のように圧延による組織制御により強度、靱性の確保等の操作ができないため、母材の機械的特性とのバランスを考慮して添加成分の含有量を調整するのが好ましい。
【0062】
【実施例】
次に、実施例に基づき本発明を更に具体的に説明する。
【0063】
表1に鋼管製造時に用いた鋼板の板厚、強度および化学成分を、表2にシーム溶接に用いたフラックスおよび溶接条件を、表3にシーム溶接に用いた溶接ワイヤの化学成分をそれぞれ示す。表4に表1〜3の鋼板、シーム溶接条件の何れかの条件を組み合わせて、シーム溶接および拡管条件が本発明範囲内(本発明例)および範囲外(比較例)でUOE鋼管を製造後、溶接金属の横割れおよび拡管割れの発生状況を示す。なお、表2に示した高塩基度−溶融型フラックスは、SiO2:10%、Al2O3:25%、CaO:15%、CaF2:35%、その他成分:15%からなる、粒度:80以下のメシュのものを用いた。また、高塩基度−焼成型フラックスの基本成分系は溶融型フラックスと同じであり、これに合金材として、Fe、Si、Mn、Niを合計量で5%程度添加し、水ガラスで顆粒状にして480℃で焼成したものを用いた。
【0064】
また、表4におけるフラックス中の拡散性水素量の調整は、表2に示す密封保管された各フラックスをそのまま使用する他、密封保管された各フラックスを4日ほど開封放置して拡散性水素量を高くしたものを使用することで行った。
【0065】
なお、表4におけるフラックス中の拡散性水素量は、JIS Z3118鋼溶接部の水素量測定方法に準じて2号試験片を使用し、交流625A、電圧30V、溶接速度60cm/min、ワイヤ付出し30mmで溶接した後、拡散性水素量の測定はガスクロ法で行った。この際のワイヤは表3に示すWC:径4.8mmを使用し、フラックスは溶接試験に使用したと同じ条件のものを使用した。
【0066】
溶接ワイヤは表3に示すWA,WB,WCの3種類を母材強度により、組み合わせを変えて使用した。
【0067】
溶接金属の横割れ観察は、目視、PTおよびRT(JIS Z3104高溶接部の放射線透過試験方法および透過写真の等級分類方法)でシーム溶接後72時間経過した後に行った。
【0068】
管の製造は8〜10m長さの鋼板を、まず管サイズに必要な幅に切断した後、端部をシ−ム溶接部がX開先になるように開先加工し、この後、Uプレス、Oプレスを行い、筒状に加工した。その後、仮付け溶接として、570MPa級ワイヤを使用して入熱6.5kJ/cmの炭酸ガス溶接により鋼管の外側から全線溶接した。この後、表3に示すワイヤを使用して、表2に示す条件で鋼管の内面、その後、外面からそれぞれ同一条件で1パスのサブマージアーク溶接によりシーム溶接を行った。
【0069】
シーム溶接後の拡管成形は、内面から油圧で押し拡げる装置を使用して行い、拡管前後の管外周長さを巻き尺を使用して測定し、下記(1)式より拡管率を求めた。
【0070】
実施番号1の発明例は、板厚16mm、強度1050MPaで外径930mmの鋼管を、拡散性水素量4ml/100gの高塩基度の溶融型フラックスを使用して3電極潜弧溶接し、40分後に拡管率2%の拡管成形した。このときの溶接金属強度は1077MPa、溶接金属強度/母材強度は1.03である。この場合、本発明の条件を満たしているため、溶接金属の横割れおよび拡管割れのない健全なUOE鋼管が製造できた。
【0071】
実施番号2の発明例は、実施番号1の発明例と同じ成分で板厚25mm、強度1010MPa、外径457mmの鋼管を、拡散性水素量18ml/100gの高塩基度の溶融型フラックスを使用して3電極潜弧溶接し、40分後に拡管率5%の拡管成形した。このときの溶接金属強度は1145MPa、溶接金属強度/母材強度は1.35と溶接金属の強度は高い。しかし、拡管時期が30分以降で、拡散性水素量、拡管率および溶接金属の強度も本発明の範囲内のため溶接金属の横割れおよび拡管割れのない健全なUOE鋼管が得られている。
【0072】
実施番号3の発明例は、板厚14mm、強度1190MPa、外径762mmの鋼管を、拡散性水素量10ml/100gの高塩基度の溶融型フラックスを使用して3電極潜弧溶接し、35分後に拡管率1%の拡管成形した。このときの溶接金属強度は1030MPa、溶接金属強度/母材強度0.87である。この場合も、本発明の条件範囲内のため、溶接金属の横割れおよび拡管割れのない健全なUOE鋼管が得られている。
【0073】
実施番号4の本発明例は、板厚32mm、強度830MPa、外径930mmの鋼管を、拡散性水素量5ml/100gの高塩基度の焼結型フラックスを使用して4電極潜弧溶接し、35分後に拡管率3%の拡管成形した。このときの溶接金属強度は805MPa、溶接金属強度/母材強度0.95であったこの場合も、本発明の条件を満たしており、溶接金属の横割れおよび拡管割れのない、健全なUOE鋼管が得られている。
【0074】
実施番号5の比較例は、実施番号1の発明例と同じ材質および寸法の鋼管を同じ溶接条件でシーム溶接したが、シ−ム溶接後20分で拡管成形したため、溶接金属に横割れが発生した。
【0075】
実施番号6の比較例は、実施例2の発明例と同じ材質および寸法の鋼管を同じ溶接条件でシ−ム溶接したが、シ−ム溶接後25分で拡管成形したため、溶接金属に横割れが発生した。
【0076】
実施番号7の比較例は、実施例2の発明例と同じ成分で板厚が25mの鋼管で、高塩基度の溶融型フラックスで、3電極潜弧溶接をした。溶接金属中の拡散性水素量は15ml/100gである。また、シ−ム溶接後20分で拡管率5%の拡管成形をした。これは溶接金属の強度が低いため割れは認められなかったが、溶接金属の強度が低く、溶接金属位置で拡管割れが発生した。
【0077】
実施番号8の比較例は、板厚14mmで、強度1190MPa、外径762mmの鋼管を、拡散性水素量22ml/100gの高塩基度の溶融型フラックスを使用して3電極で、溶接金属の強度1340MPaの条件でサブマージアーク溶接した。拡管時期は40分後で拡管率も本発明の範囲内であるが、このとき使用したフラックスが4日ほど開封放置したもので、拡散性水素量が過剰のため溶接金属に横割れが発生している。
【0078】
実施番号9の比較例は、実施番号4の発明例と同じ材料で板厚32mm、強度930MPaで外径930mmの鋼管を、高塩基度の焼結型フラックスを使用して4電極潜弧溶接し、溶接金属強度は890MPaで、40分後に拡管率2%の拡管成形した。拡管時期、溶接金属の強度および拡管率は本発明の条件を満たしている。また、溶接金属の強度も低く横割れに対しては有利であるが、このとき使用したフラックスが4日ほど開封放置したもので、拡散性水素量が24ml/100gと高く、そのため、溶接金属に横割れが認められた。
【0079】
実施番号10の比較例は、板厚16mm、強度1050MPaで外径930mmの鋼管を、拡散性水素量5ml/100gの高塩基度の溶融型フラックスを使用して3電極で、溶接金属強度1500MPaで溶接金属強度/母材強度1.42の条件で潜弧溶接し、35分後に拡管率5%の拡管成形した。拡管時期や拡散性水素量は本発明の条件範囲にはいっているが、溶接金属強度が過剰で溶接金属強度/母材強度も1.42と高く溶接金属に横割れが発生した他、拡管成形時に溶接HAZ位置で拡管割れが発生した。
【0080】
実施番号11の比較例は、実施番号1の発明例と同じ条件の板厚16mm、強度1050MPaで外径930mmの鋼管を、拡散性水素量4ml/100gの高塩基度の溶融型フラックスを使用して3電極で、溶接金属強度は1079MPa条件で潜弧溶接し、45分後に拡管率7%の拡管成形した。拡管率が過剰のため、溶接金属に微小な横割れが確認された他、拡管成形時に溶接HAZ位置で拡管割れが発生した。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
【発明の効果】
本発明により、天然ガスや原油などを長距離輸送するためのラインパイプ等で用いられる引っ張り強度が800MPa以上の大径の高強度UOE鋼管の製造方法において、生産性の低下や製造コストの増加、さらには母材および溶接金属の成分設計の制約も少なく、かつ、シーム溶接部の靱性などの鋼管の機械特性を維持しつつ、シーム部の溶接金属の横割れ、さらには拡管成形時の拡管割れを防止することができる。
【0086】
これにより、ガス、石油の利用量の拡大、輸送コストの低減等を理由にした高圧輸送および輸送効率拡大のためのラインパイプの大型化、薄肉・高強度化のニーズに応えられる引っ張り強度が800N/mm2以上の高強度UOE鋼管を高品質および高生産で製造することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一般的なUOE鋼管の製造工程(a)〜(i)を示す図である。
【図2】シーム溶接後から拡管成形開始までの時間とシーム溶接時に用いるフラックス中の拡散性水素量および溶接金属の横割れ発生状況との関係を示す図である。
【図3】シーム溶接後から拡管成形開始までの時間と拡管成形時の拡管率および溶接金属の横割れ発生状況との関係を示す図である。
【図4】シーム溶接後から拡管成形開始までの時間とシーム溶接部の溶接金属の引っ張り強度および溶接金属の横割れ発生状況との関係を示す図である。
【符号の説明】
1 鋼板
2 板幅調整、開先加工
3 端部曲げ加工
4 U成形
5 O成形
6 仮付け溶接
7 内面シーム溶接
8 外面シーム溶接
9 拡管成形
Claims (1)
- 母材の引張強度が800MPa以上、外径が406mm以上、かつ肉厚が10mm以上の高強度UOE鋼管の製造方法において、鋼板を管状に成形後、突合わせ部を仮付け溶接後、拡散性水素量が20ml/100g以下の溶接フラックスを用い、シ−ム溶接金属の引張強度が1400MPa以下、かつ母材の引張強度の0.8倍〜1.4倍の条件で鋼管の内面および外面をサブマージアーク溶接によるシーム溶接を行い、この溶接終了時から30分以上経過した後に、拡管率が5%以下の条件で拡管成形することを特徴とする高強度UOE鋼管の製造方法。
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