JP3894703B2 - ガスシールドアーク溶接用ワイヤ - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガスシールドアーク溶接用ワイヤに係り、とくに950MPa以上の引張強さを有する超高張力鋼板のガスシールドアーク溶接、さらに詳しくはMAG(マグ)溶接、に好適なワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
高張力鋼の溶接には、被覆アーク溶接、サブマージアーク溶接、マグ(MAG)溶接、ティグ(TIG)溶接など各種の溶接方法が適用されている。各種溶接方法のなかで、引張強さが950MPa以上の超高張力鋼板を溶接する際には、低温割れの発生を防止する観点から、溶接金属中の水素量を低減できるマグ溶接、ティグ溶接が好適である。
【0003】
また、ティグ溶接によれば、溶接金属中の酸素量を極めて低くすることが可能であり、良好な靱性を有する溶接金属を得ることができる。しかし、溶接施工効率の面からはティグ溶接にくらべマグ溶接の方が優れており、溶接施工コストの軽減という観点からは、マグ溶接の適用が要望されている。
高張力鋼の溶接においては、強度が高くなればなるほど溶接部に低温割れが発生しやすくなり、また溶接部の靱性も低下する傾向となる。そのため、高張力鋼用溶接材料には、高い強度を有し、かつ良好な耐低温割れ感受性と高い靱性を有することが要求されている。
【0004】
このようなことから、強度、靱性、耐低温割れ性の向上を目的として、種々の高張力鋼用溶接材料が開発されている。高張力鋼用マグ溶接材料では、C、Si、Mn、Ni、Cr、Moを基本成分として、さらに、V、Ti、Nb、Nなどの合金元素を単独または複合して添加し、所望の溶接部強度を確保しているのが一般的である。これは、合金元素の多量添加は靱性を劣化させるため、基本成分の多量添加を避け、少量の添加で強度増加が期待できる元素を添加して、高い強度と良好な靱性を確保しようとするものである。
【0005】
例えば、特公昭63-32558号公報には、TiとNbの複合添加による析出強化および組織強化を利用した高強度と高靱性を有する超高張力鋼用マグ溶接材料が提案されている。また、特開昭61-135499 号公報には、Niを3.51%以上添加し、さらにVを添加して、Vによる析出強化とNiによる靱性改善により、高強度と良好な靱性を得る超高張力鋼用マグ溶接材料が提案されている。
【0006】
また、特開平7-276080号公報には、C、Si、Mn、Ni、Cr、Moを基本組成として、TiとVを複合添加し、さらにNを適量添加して、TiとVによる析出強化とNによる靱性改善により、高強度と良好な靱性を得る超高張力鋼用マグ溶接材料が提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特公昭63-32558号公報、特開平7-276080号公報に記載された技術におけるように、溶接材料(ワイヤ)にTiとNbあるいはTiとV、Nを多量に添加すると、溶接金属を高強度化できるが、溶接金属の靱性が劣化する場合があり、安定して高強度と良好な靱性を有する溶接金属を得ることができないという問題があった。また、特開昭61-135499 号公報に記載された技術では、高価なNi、Vを多量に添加する必要があり、製造コストが上昇し経済的に問題を残していた。
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、引張強さ:950MPa以上の超高張力鋼板をマグ溶接により溶接継手を作製する際に、高強度と高靱性を有する溶接金属を形成することができる、超高張力鋼のマグ溶接用ワイヤを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、まず溶接用ワイヤの基本組成について鋭意検討した。その結果、超高張力鋼の溶接において、高靱性の溶接金属を得るためには、溶接用ワイヤの基本組成としてNiを2.90〜3.50%含有することが好ましいという知見を得た。超高張力鋼の溶接においては、この範囲を外れると良好な靱性を有する溶接金属を得ることができない。
【0010】
さらに、本発明者らは、溶接用ワイヤの基本組成としてNiを2.90〜3.50%含有させたうえで、溶接金属の良好な靱性を確保しつつ、溶接金属の強度をさらに増加させる手段について検討した。本発明者らは、強度増加元素として、少量添加で強度の増加が得られるTiに注目した。しかし、Tiのみの添加では、強度の増加は得られるが、やはり強度の増加に伴い靱性の劣化が見られた。そこで、本発明者らは、従来、靱性を劣化させると考えられ添加量が制限されていたAlに注目し、溶接金属の靱性確保に有効なAl含有量が存在することを見いだした。溶接用ワイヤに、Tiと、さらに適正量のAlを添加することにより、高強度でかつ高靱性の溶接金属を形成できるという知見を得た。さらに加えて、溶接用ワイヤ中の不純物としてV、Nb、N、O量を低減することにより、さらに靱性が向上することを見いだした。
【0011】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討し完成されたものである。
すなわち、本発明は、質量%で、C:0.020 〜0.060 %、Si:0.20〜0.50%、Mn:1.50〜2.50%、Ni:2.90〜3.50%、Cr:0.7 〜1.5 %、Mo:0.30〜1.00%、Ti:0.010 〜0.050 %、Al:0.020 〜0.080 %を含み、不純物としてのP、S、N、O、V、Nbを、P:0.007 %以下、S:0.007 %以下、N:0.007 %以下、O:0.007 %以下、V:0.005 %以下、Nb:0.003 %以下に低減し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする超高張力鋼マグ溶接用ワイヤである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明溶接用ワイヤの組成限定理由について説明する。なお、質量%は、以下、単に%と記す。
C:0.020 〜0.060 %
Cは、溶接金属の強度を増加させる元素であるが、0.020 %未満では所望の強度を得ることができない。一方、0.060 %を超える含有は、靱性が低下するとともに低温割れ感受性が増大する。このため、Cは0.020 〜 0.060%の範囲に限定した。
【0013】
Si:0.20〜0.50%
Siは、溶接金属の脱酸のために不可欠の元素であり、また溶接金属の強度を増加させる元素であり、本発明では0.20%以上の含有を必要とする。Si含有量が0.20%未満では、ピンホール、ブローホールが発生するうえ、靱性が劣化する。一方、0.50%を超える含有は、靱性が劣化する。このため、Siは0.20〜0.50%の範囲に限定した。
【0014】
Mn:1.50〜2.50%
Mnは、溶接金属の強度および靱性を増加させる元素であり、本発明では1.50%以上の含有を必要とする。しかし、2.50%を超える含有は、靱性が低下するとともに低温割れ感受性が増大する。このため、Mnは1.50〜2.50%の範囲に限定した。
【0015】
Ni:2.90〜3.50%
Niは、溶接金属の靱性を向上させる元素であり、本発明では2.90%以上の含有を必要とする。Ni含有量が2.90%未満では、所望の靱性を確保できない。一方、Niを3.50%超えて含有すると、本発明におけるような950MPa以上の引張強さを有する溶接金属では靱性はかえって低下する。このため、Niは2.90〜3.50%の範囲に限定した。
【0016】
Cr:0.7 〜1.5 %
Crは、溶接金属の強度を増加させる有効な元素であり、本発明では0.7 %以上の含有を必要とする。一方、1.5 %を超える含有は、靱性が低下するとともに低温割れ感受性が増大する。このため、Crは0.7 〜1.5 %の範囲に限定した。
Mo:0.30〜1.00%
Moは、溶接金属の強度を増加させる有効な元素であり、本発明では0.30%以上の含有を必要とする。一方、1.00%を超える含有は、靱性が低下するとともに低温割れ感受性が増大する。このため、Moは0.30〜1.00%の範囲に限定した。
【0017】
Ti:0.010 〜0.050 %
Tiは、析出強化により溶接金属の強度を増加させる元素であり、本発明では0.010 %以上の含有を必要とする。一方、0.050 %を超えて含有すると、強度は増加するが靱性が劣化する。このため、Tiは0.010 〜0.050 %の範囲に限定した。
Al:0.020 〜0.080 %
Alは、溶接金属の脱酸剤として作用するとともに、Tiと複合添加することにより強度が増加した溶接金属の靱性を、所望のレベルに確保する作用を有している。このような作用は0.020 %以上の含有で認められるが、0.080 %を超える含有は靱性を著しく劣化させる。このため、Alは0.020 〜0.080 %の範囲に限定した。
【0018】
また、本発明では、不純物としてのP、S、N、O、V、Nbを下記のように低減する。
P:0.007 %以下
Pは、溶接金属の靱性を低下させる元素であり、本発明ではできるだけ低減する。P含有量が0.007 %を超えると、靱性の劣化が著しくなる。このため、Pは0.007 %以下に限定する。
【0019】
S:0.007 %以下
Sは、溶接金属の靱性を低下させ、また高温割れの原因にもなる元素であり、できるだけ低減する。S含有量が0.007 %を超えると、靱性の劣化が著しくなる。このため、Sは0.007 %以下に限定する。
N:0.007 %以下
Nは、少量の添加で溶接金属の強度を増加させる元素であるが、同時に靱性を劣化させる。このため、Nは0.007 %以下に限定する。
【0020】
V:0.005 %以下
Vは、少量の添加で溶接金属の強度を増加させる元素であるが、同時に靱性を劣化させる。このため、Vは0.005 %以下に限定する。
Nb:0.003 %以下
Nbは、少量の添加で溶接金属の強度を増加させる元素であるが、同時に靱性を劣化させる。このため、Nbは0.003 %以下に限定する。
【0021】
O:0.007 %以下
Oは、高強度の溶接金属では靱性を劣化させる元素であり、できるだけ低減する。O含有量が0.007 %を超えると、溶接金属の靱性が著しく劣化する。このため、Oは0.007 %以下に限定する。
本発明の溶接用ワイヤの製造方法について説明する。
【0022】
上記した組成の溶鋼を通常公知の溶製方法で溶製し、造塊法あるいは連続鋳造法により鋳造し、圧延素材とする。これら圧延素材を、熱間圧延、冷間圧延により所定の寸法のワイヤとする。熱間圧延条件、冷間圧延条件についてはとくに限定する必要はない。
上記した組成で所定寸法のワイヤは、さらに防錆のため表面にCuめっきを施すのが好ましい。Cuめっきのめっき厚は0.2 〜1.0 μm とするのが好ましい。0.2 μm 未満では、防錆効果が少なく、一方1.0 μm を超えるとワイヤ送給性が劣化する。
【0023】
本発明の溶接用ワイヤは、超高張力鋼板のマグ溶接用として利用できる。シールドガスとしては、Arガスを主体としてCO2 などを混合した混合ガスを用い、作業性を考慮する場合はさらにHeを混合した、Ar−He−CO2 からなる混合ガスを用いる。
【0024】
【実施例】
表1に示す組成の鋼板(板厚50mm)に熱処理(焼入れ−焼戻し)を施し、引張強さ950 MPa 以上の超高張力鋼板とした。この鋼板を、図1に示す開先形状に加工したのち、表2に示す組成の溶接用ワイヤ(1.2mm φ)を用いて、多層溶接を行い、溶接継手を作製した。溶接法は、Ar−CO2 混合ガスおよびAr−He−CO2 混合ガスをシールドガスとするマグ溶接法とした。溶接条件を表3に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】
【表4】
【0029】
これらの溶接継手から試験片を採取し、引張試験、衝撃試験を実施し、引張特性、衝撃特性を調査した。
(1)引張試験
溶接継手部から、JIS Z 3121に規定されるJIS 1号引張試験片(全厚の溶接継手引張試験片)を採取し、これら溶接継手部引張試験片による引張試験を実施し、引張強度を求めた。
(2)衝撃試験
溶接継手部の溶接金属中央部で、板厚1/4 の位置から、JIS Z 3111に規定するシャルピー衝撃試験片(JIS 4号衝撃試験片)を採取し、-20 ℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギー(vE-20 )を求めた。
【0030】
これらの結果を表4に示す。なお、引張特性の評価は、950MPa以上の継手引張強度を示したものを○、それ以外を×とした。靱性の評価は、-20 ℃におけるシャルピー吸収エネルギー(vE-20 )が95J以上の靱性を示したものを○、それ以外を×とした。
【0031】
【表5】
【0032】
【表6】
【0033】
【表7】
【0034】
表4から、本発明例は、いずれも継手部引張強度が950MPa以上を示し、溶接金属のvE-20 が95J以上を示し、強度、靱性とも良好である。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、継手部引張強度あるいはvE-20 のいずれかが上記値を満足せず、強度、靱性のいずれかが低下している。
【0035】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、溶接金属の靱性劣化もなく、所望の継手部引張強さを有する、引張強さ:950MPa以上の超高張力鋼板のマグ溶接継手を容易に作製することができ、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接継手部の開先形状を示す説明図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガスシールドアーク溶接用ワイヤに係り、とくに950MPa以上の引張強さを有する超高張力鋼板のガスシールドアーク溶接、さらに詳しくはMAG(マグ)溶接、に好適なワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
高張力鋼の溶接には、被覆アーク溶接、サブマージアーク溶接、マグ(MAG)溶接、ティグ(TIG)溶接など各種の溶接方法が適用されている。各種溶接方法のなかで、引張強さが950MPa以上の超高張力鋼板を溶接する際には、低温割れの発生を防止する観点から、溶接金属中の水素量を低減できるマグ溶接、ティグ溶接が好適である。
【0003】
また、ティグ溶接によれば、溶接金属中の酸素量を極めて低くすることが可能であり、良好な靱性を有する溶接金属を得ることができる。しかし、溶接施工効率の面からはティグ溶接にくらべマグ溶接の方が優れており、溶接施工コストの軽減という観点からは、マグ溶接の適用が要望されている。
高張力鋼の溶接においては、強度が高くなればなるほど溶接部に低温割れが発生しやすくなり、また溶接部の靱性も低下する傾向となる。そのため、高張力鋼用溶接材料には、高い強度を有し、かつ良好な耐低温割れ感受性と高い靱性を有することが要求されている。
【0004】
このようなことから、強度、靱性、耐低温割れ性の向上を目的として、種々の高張力鋼用溶接材料が開発されている。高張力鋼用マグ溶接材料では、C、Si、Mn、Ni、Cr、Moを基本成分として、さらに、V、Ti、Nb、Nなどの合金元素を単独または複合して添加し、所望の溶接部強度を確保しているのが一般的である。これは、合金元素の多量添加は靱性を劣化させるため、基本成分の多量添加を避け、少量の添加で強度増加が期待できる元素を添加して、高い強度と良好な靱性を確保しようとするものである。
【0005】
例えば、特公昭63-32558号公報には、TiとNbの複合添加による析出強化および組織強化を利用した高強度と高靱性を有する超高張力鋼用マグ溶接材料が提案されている。また、特開昭61-135499 号公報には、Niを3.51%以上添加し、さらにVを添加して、Vによる析出強化とNiによる靱性改善により、高強度と良好な靱性を得る超高張力鋼用マグ溶接材料が提案されている。
【0006】
また、特開平7-276080号公報には、C、Si、Mn、Ni、Cr、Moを基本組成として、TiとVを複合添加し、さらにNを適量添加して、TiとVによる析出強化とNによる靱性改善により、高強度と良好な靱性を得る超高張力鋼用マグ溶接材料が提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特公昭63-32558号公報、特開平7-276080号公報に記載された技術におけるように、溶接材料(ワイヤ)にTiとNbあるいはTiとV、Nを多量に添加すると、溶接金属を高強度化できるが、溶接金属の靱性が劣化する場合があり、安定して高強度と良好な靱性を有する溶接金属を得ることができないという問題があった。また、特開昭61-135499 号公報に記載された技術では、高価なNi、Vを多量に添加する必要があり、製造コストが上昇し経済的に問題を残していた。
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、引張強さ:950MPa以上の超高張力鋼板をマグ溶接により溶接継手を作製する際に、高強度と高靱性を有する溶接金属を形成することができる、超高張力鋼のマグ溶接用ワイヤを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、まず溶接用ワイヤの基本組成について鋭意検討した。その結果、超高張力鋼の溶接において、高靱性の溶接金属を得るためには、溶接用ワイヤの基本組成としてNiを2.90〜3.50%含有することが好ましいという知見を得た。超高張力鋼の溶接においては、この範囲を外れると良好な靱性を有する溶接金属を得ることができない。
【0010】
さらに、本発明者らは、溶接用ワイヤの基本組成としてNiを2.90〜3.50%含有させたうえで、溶接金属の良好な靱性を確保しつつ、溶接金属の強度をさらに増加させる手段について検討した。本発明者らは、強度増加元素として、少量添加で強度の増加が得られるTiに注目した。しかし、Tiのみの添加では、強度の増加は得られるが、やはり強度の増加に伴い靱性の劣化が見られた。そこで、本発明者らは、従来、靱性を劣化させると考えられ添加量が制限されていたAlに注目し、溶接金属の靱性確保に有効なAl含有量が存在することを見いだした。溶接用ワイヤに、Tiと、さらに適正量のAlを添加することにより、高強度でかつ高靱性の溶接金属を形成できるという知見を得た。さらに加えて、溶接用ワイヤ中の不純物としてV、Nb、N、O量を低減することにより、さらに靱性が向上することを見いだした。
【0011】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討し完成されたものである。
すなわち、本発明は、質量%で、C:0.020 〜0.060 %、Si:0.20〜0.50%、Mn:1.50〜2.50%、Ni:2.90〜3.50%、Cr:0.7 〜1.5 %、Mo:0.30〜1.00%、Ti:0.010 〜0.050 %、Al:0.020 〜0.080 %を含み、不純物としてのP、S、N、O、V、Nbを、P:0.007 %以下、S:0.007 %以下、N:0.007 %以下、O:0.007 %以下、V:0.005 %以下、Nb:0.003 %以下に低減し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする超高張力鋼マグ溶接用ワイヤである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明溶接用ワイヤの組成限定理由について説明する。なお、質量%は、以下、単に%と記す。
C:0.020 〜0.060 %
Cは、溶接金属の強度を増加させる元素であるが、0.020 %未満では所望の強度を得ることができない。一方、0.060 %を超える含有は、靱性が低下するとともに低温割れ感受性が増大する。このため、Cは0.020 〜 0.060%の範囲に限定した。
【0013】
Si:0.20〜0.50%
Siは、溶接金属の脱酸のために不可欠の元素であり、また溶接金属の強度を増加させる元素であり、本発明では0.20%以上の含有を必要とする。Si含有量が0.20%未満では、ピンホール、ブローホールが発生するうえ、靱性が劣化する。一方、0.50%を超える含有は、靱性が劣化する。このため、Siは0.20〜0.50%の範囲に限定した。
【0014】
Mn:1.50〜2.50%
Mnは、溶接金属の強度および靱性を増加させる元素であり、本発明では1.50%以上の含有を必要とする。しかし、2.50%を超える含有は、靱性が低下するとともに低温割れ感受性が増大する。このため、Mnは1.50〜2.50%の範囲に限定した。
【0015】
Ni:2.90〜3.50%
Niは、溶接金属の靱性を向上させる元素であり、本発明では2.90%以上の含有を必要とする。Ni含有量が2.90%未満では、所望の靱性を確保できない。一方、Niを3.50%超えて含有すると、本発明におけるような950MPa以上の引張強さを有する溶接金属では靱性はかえって低下する。このため、Niは2.90〜3.50%の範囲に限定した。
【0016】
Cr:0.7 〜1.5 %
Crは、溶接金属の強度を増加させる有効な元素であり、本発明では0.7 %以上の含有を必要とする。一方、1.5 %を超える含有は、靱性が低下するとともに低温割れ感受性が増大する。このため、Crは0.7 〜1.5 %の範囲に限定した。
Mo:0.30〜1.00%
Moは、溶接金属の強度を増加させる有効な元素であり、本発明では0.30%以上の含有を必要とする。一方、1.00%を超える含有は、靱性が低下するとともに低温割れ感受性が増大する。このため、Moは0.30〜1.00%の範囲に限定した。
【0017】
Ti:0.010 〜0.050 %
Tiは、析出強化により溶接金属の強度を増加させる元素であり、本発明では0.010 %以上の含有を必要とする。一方、0.050 %を超えて含有すると、強度は増加するが靱性が劣化する。このため、Tiは0.010 〜0.050 %の範囲に限定した。
Al:0.020 〜0.080 %
Alは、溶接金属の脱酸剤として作用するとともに、Tiと複合添加することにより強度が増加した溶接金属の靱性を、所望のレベルに確保する作用を有している。このような作用は0.020 %以上の含有で認められるが、0.080 %を超える含有は靱性を著しく劣化させる。このため、Alは0.020 〜0.080 %の範囲に限定した。
【0018】
また、本発明では、不純物としてのP、S、N、O、V、Nbを下記のように低減する。
P:0.007 %以下
Pは、溶接金属の靱性を低下させる元素であり、本発明ではできるだけ低減する。P含有量が0.007 %を超えると、靱性の劣化が著しくなる。このため、Pは0.007 %以下に限定する。
【0019】
S:0.007 %以下
Sは、溶接金属の靱性を低下させ、また高温割れの原因にもなる元素であり、できるだけ低減する。S含有量が0.007 %を超えると、靱性の劣化が著しくなる。このため、Sは0.007 %以下に限定する。
N:0.007 %以下
Nは、少量の添加で溶接金属の強度を増加させる元素であるが、同時に靱性を劣化させる。このため、Nは0.007 %以下に限定する。
【0020】
V:0.005 %以下
Vは、少量の添加で溶接金属の強度を増加させる元素であるが、同時に靱性を劣化させる。このため、Vは0.005 %以下に限定する。
Nb:0.003 %以下
Nbは、少量の添加で溶接金属の強度を増加させる元素であるが、同時に靱性を劣化させる。このため、Nbは0.003 %以下に限定する。
【0021】
O:0.007 %以下
Oは、高強度の溶接金属では靱性を劣化させる元素であり、できるだけ低減する。O含有量が0.007 %を超えると、溶接金属の靱性が著しく劣化する。このため、Oは0.007 %以下に限定する。
本発明の溶接用ワイヤの製造方法について説明する。
【0022】
上記した組成の溶鋼を通常公知の溶製方法で溶製し、造塊法あるいは連続鋳造法により鋳造し、圧延素材とする。これら圧延素材を、熱間圧延、冷間圧延により所定の寸法のワイヤとする。熱間圧延条件、冷間圧延条件についてはとくに限定する必要はない。
上記した組成で所定寸法のワイヤは、さらに防錆のため表面にCuめっきを施すのが好ましい。Cuめっきのめっき厚は0.2 〜1.0 μm とするのが好ましい。0.2 μm 未満では、防錆効果が少なく、一方1.0 μm を超えるとワイヤ送給性が劣化する。
【0023】
本発明の溶接用ワイヤは、超高張力鋼板のマグ溶接用として利用できる。シールドガスとしては、Arガスを主体としてCO2 などを混合した混合ガスを用い、作業性を考慮する場合はさらにHeを混合した、Ar−He−CO2 からなる混合ガスを用いる。
【0024】
【実施例】
表1に示す組成の鋼板(板厚50mm)に熱処理(焼入れ−焼戻し)を施し、引張強さ950 MPa 以上の超高張力鋼板とした。この鋼板を、図1に示す開先形状に加工したのち、表2に示す組成の溶接用ワイヤ(1.2mm φ)を用いて、多層溶接を行い、溶接継手を作製した。溶接法は、Ar−CO2 混合ガスおよびAr−He−CO2 混合ガスをシールドガスとするマグ溶接法とした。溶接条件を表3に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】
【表4】
【0029】
これらの溶接継手から試験片を採取し、引張試験、衝撃試験を実施し、引張特性、衝撃特性を調査した。
(1)引張試験
溶接継手部から、JIS Z 3121に規定されるJIS 1号引張試験片(全厚の溶接継手引張試験片)を採取し、これら溶接継手部引張試験片による引張試験を実施し、引張強度を求めた。
(2)衝撃試験
溶接継手部の溶接金属中央部で、板厚1/4 の位置から、JIS Z 3111に規定するシャルピー衝撃試験片(JIS 4号衝撃試験片)を採取し、-20 ℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギー(vE-20 )を求めた。
【0030】
これらの結果を表4に示す。なお、引張特性の評価は、950MPa以上の継手引張強度を示したものを○、それ以外を×とした。靱性の評価は、-20 ℃におけるシャルピー吸収エネルギー(vE-20 )が95J以上の靱性を示したものを○、それ以外を×とした。
【0031】
【表5】
【0032】
【表6】
【0033】
【表7】
【0034】
表4から、本発明例は、いずれも継手部引張強度が950MPa以上を示し、溶接金属のvE-20 が95J以上を示し、強度、靱性とも良好である。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、継手部引張強度あるいはvE-20 のいずれかが上記値を満足せず、強度、靱性のいずれかが低下している。
【0035】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、溶接金属の靱性劣化もなく、所望の継手部引張強さを有する、引張強さ:950MPa以上の超高張力鋼板のマグ溶接継手を容易に作製することができ、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接継手部の開先形状を示す説明図である。
Claims (1)
- 質量%で、
C:0.020 〜0.060 %、 Si:0.20〜0.50%、
Mn:1.50〜2.50%、 Ni:2.90〜3.50%、
Cr:0.7 〜1.5 %、 Mo:0.30〜1.00%、
Ti:0.010 〜0.050 %、 Al:0.020 〜0.080 %
を含み、不純物としてのP、S、N、O、V、Nbを、
P:0.007 %以下、 S:0.007 %以下、
N:0.007 %以下、 O:0.007 %以下、
V:0.005 %以下、 Nb:0.003 %以下
に低減し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする超高張力鋼マグ溶接用ワイヤ。
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