JP3878557B2 - 布地に形成された破断部の補修方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、切欠き、焼穴等の局部的な破断部を有する布地の補修方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、衣服等に生じた切欠き、焼穴等の局部的な破断部を補修する場合には、同破断部を単に縫い塞ぐ補修方法がとられている。この補修方法は、破断部を頂点として裏表に山折りにし、重なり合った布地の破断部の周端部近傍を、破断部の周端部に沿って縫合することによって布地の表面に露出された糸で破断部を縫い塞いだり、または、破断部の端面を突き合わせ、同端面の両側に布地の表裏で糸を掛け渡すように縫合して破断部を縫い塞ぐようにしている。
【0003】
一方、破断部に共布(破断部を有する布と同じ布)を補う補修方法として、「かけつぎ」又は「かけはぎ」が用いられている。この補修方法は、破断部の布地の目、柄、あるいは大きさを合わせた共布を準備し、破断部の布地と共布の布地の目、あるいは柄を合わせながら、破断部周辺の布地の横糸、若しくは縦糸と、共布の横糸、若しくは縦糸とを、針先で織り込むように連結して布地と共布とを一枚の布のように補綴して一体化するようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上述したように破断部を単に縫い塞ぐ補修方法では、縫合のための糸が布地の表面に露出するために見栄えを悪くするという欠点があった。
【0005】
さらに、表面に露出した糸が磨耗して綻びの原因となり補修効果の持続性を悪くする欠点もあった。
【0006】
また、破断部を単に縫い塞ぐ方法では、補修に伴って窪みや歪みを生じてしまい補修の痕跡を残すことは避けられず、縫合のための糸が布地の表面に露出することに加えて一層見栄えを悪くするという欠点があった。
【0007】
一方、「かけつぎ」又は「かけはぎ」は、補修の痕跡を残すことなく美しく仕上げることはできるものの、そのために、破断部の布地と共布の布地の目、あるいは柄を合わせながら、破断部を有する布地に共布を織り込んでいく作業は、高度の熟練と多大な労力、そして、多くの時間を必要とし、高価なものとなってしまうという欠点があった。
【0008】
このような現状に鑑み、本発明者は「かけつぎ」又は「かけはぎ」に匹敵する美しい仕上がりと、補修効果の持続性を備え、しかも、簡略化された作業により短時間で局部的な破断部を補修可能とする補修方法を実現すべく研究開発を行い、本発明に至ったものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
すなわち、請求項1に係る本発明では、布地に形成された破断部の左右端面同士を付き合わせ、前記破断部の上端部から下端部にかけて縫合する破断部の補修方法において、縫合糸を通した針を、破断部の上端部近傍の布地内部へと刺し込み、針先を布地内部にて進ませながら、破断部の左右端面間に布地の内部で糸を掛け渡し、針を所定距離進ませた後に布地の表面から抜き出し、次いで、この針を抜き出した位置と同じ位置に刺し込み、付き合わせた端面に向けて布地の内部で縫合糸を折り返すように針を進ませて行う縫合により、上端部から下端部まで布地の内部で糸を交互に掛け渡しながら縫合することとした。
【0010】
また、請求項2に係る本発明では、前記請求項1において、縫合する糸の始端部及び終端部を布地の内部に引っ張り込むことによって、糸の始端及び終端に形成された玉止めを布地の内部に収容することとした。
【0011】
また、請求項3に係る本発明では、前記請求項1又は請求項2において、破断部近傍の布地の内部に複数条の糸を各条の糸の張力をそれぞれ調節しながら貫通させることによって、破断部近傍の布地を平坦化することとした。
【0012】
また、請求項4に係る本発明では、前記請求項1から請求項3のいずれかにおいて、破断部の裏面に補強布を接着することとした。
【0013】
【発明の実施の形態】
衣服を着用している際に思わず衣服を引っ掛けたり、たばこによって焼穴を作ったり、また、衣服等を収納している間に虫喰いになったり等して、布地等に局部的な破断部を生じる場合がある。本発明は、かかる破断部を補修する方法に関するものである。
【0014】
本発明では、破断部を補修するにあたり、布地に形成された破断部の端面間において、布地の内部で糸を交互に掛け渡すことによって、破断部の端面同士を突き合わせた状態で破断部を縫合することにしている。
【0015】
しかも、この時、縫合する糸の始端部、及び終端部を布地の内部に引っ張り込むことによって、糸の始端、及び終端に形成した玉止めも布地内部に収容するようにしている。
【0016】
このように、縫合の糸が布地の内部にて掛け渡されるとともに、玉止めも布地内部に収容されるので、布地の表裏面において縫合の痕跡が残ることを完全に防止して美しく仕上げることができる。しかも、縫い目と玉止めを磨耗から保護して補修効果を長く持続することができる。
【0017】
しかも、補修に共布を必要とせず、共布を保管しておいたり、縫い代を切り取って共布を準備したり等の手間をかけることなく手軽に、しかも容易に破断部の補修を行うことができる。
【0018】
ここで、上記破断部が虫食いや燒穴等のように欠損部を有する場合には、破断部の端面を強制的に付き合わせたことによって破断部の両端に歪みが発生してしまうことがある。
【0019】
そこで、歪んだ部分の布地内部において、布地の縦方向、横方向、及び様々な斜め方向に沿って新たな糸を適度な張りを持たせて挿入し、歪んだ部分における布地の密度を変化させるとともに、張りを加えることによって布地の歪みを吸収して歪んだ部分を平らに補正する。これにより、補修の痕跡を残すことを防止して美しい仕上がりとすることができる。
【0020】
このようにして、破断部の縫合にかかる処理が終了すると、次に、破断部周辺の裏側に補強布を宛がう。同補強布には接着糊が塗付されており、アイロンを用いて加熱することにより容易に補強布を布地に接着することができるようになっている。
【0021】
アイロンを用いて加熱し補強布と布地を接着する際、補強布と布地の間に両面接着シートを介在させておけば、より強固に接着することができる。
【0022】
このように、破断部の周辺の布地の裏面に補強布を宛がうことにより、破断部における補修を保護することができるとともに、破断部周辺の布地を補強することができ、補修効果を長く持続させることができる。
【0023】
さらに、補強布の周縁部を縫い目が表面に露出しないように布地にかがり付けて、クリーニングや洗濯にも耐えて補強布が布地から剥離しないようにする。これにより、補修の仕上がりをいつまでも美しく保持することができるとともに、補修効果を長く持続させることができる。
【0024】
このように、本発明に係る局部的な破断部を有する布地の補修方法では、従来技術である「かけはぎ」又は「かけはぎ」よりも簡略化した作業により短時間で補修可能としながらも、仕上がりは補修の痕跡を残さず「かけつぎ」又は「かけはぎ」と同等に美しく、しかも耐久性に優れており補修効果を長く持続させることができる。
【0025】
したがって、衣服等に生じた破断部の補修を、「かけつぎ料」又は「かけはぎ料」よりも安い料金で提供することができる。
【0026】
なお、破断部を縫合する際には、接着効果を有する糸を用いて縫合することもできる。この場合、縫合後にアイロンを用いて加熱することによって、破断部を糸と接着剤により強固に連結することができ、破断部を容易に補修することができる。また、補強布が布地の風合いを損なう場合等、補強布を宛がうことが困難である場合にも有効である。
【0027】
【実施例】
以下において、図面に基づいて本発明の具体的な実施例について詳説する。
【0028】
(縫合)
布地に形成された破断部の一例として、図1に、布地1の縦方向に沿って平面視略紡錘形に形成された破断部2を示す。図1において、同破断部2の左側に位置する端面を左端面3、同破断部2の右側に位置する端面を右端面4とする。
【0029】
布地1に形成された破断部2を補修するにあたっては、まず、同破断部2の形状、大きさ、及び破断部2が形成されている方向、また、同破断部2周辺における布地1の目、及び柄を考慮して、同破断部2の端面同士を付き合わせた状態にて縫合する方向を決定する。
【0030】
今、破断部2は、布地1の縦方向に沿って平面視略紡錘形に形成されているので、左右端面3,4間で交互に糸を掛け渡しながら、同左右端面3,4を突き合わせるように破断部2の破断方向に沿って左右端面3,4の上端部5から左右端面3,4の下端部6へ向けて縫合することとする。
【0031】
次に、縫合に使用する糸を準備する。通常、縫合に使用される糸は、複数(通常3本)のさらに細い糸を撚って形成されている。そこで、この撚りを解いて1本のさらに細い糸に分解し、同細い糸を破断部2の縫合に使用する縫合糸7とする。
【0032】
次に、同縫合糸7を針に通し、一本どりとして始端玉止め8を形成する。
【0033】
このようにして縫合のための準備が終了すると、次に、破断部2を縫い塞ぐべく縫合するわけであるが、同縫合の工程について図2を参照しながら説明する。
【0034】
まず、図2(a)に示すように、針先を左右端面3,4の上端部5近傍の布地1内部へと刺し込み、布地1内部に刺し込んだ針先をそのまま布地1内部にて進ませながら、左右端面3,4の上端部5左側の厚さ方向における略中央部である1回目の抜き出し点T1から抜き出す。
【0035】
次に、図2(b)に示すように、縫合糸7を引いて、同縫合糸7の始端部を布地1の内部に引っ張り込むことによって、上記始端玉止め8を布地1内部に収容するとともに、同始端玉止め8を布地1の繊維に掛止させる。さらに、縫合糸7の始端部から1回目の抜き出し点T1にかけて布地1の内部に収容した縫合糸7の張力を調節する。
【0036】
次に、図2(c)に示すように、再び針先を破断部2右側の布地1へ向けて、破断部2の左右端面3,4を付き合わせた際に1回目の抜き出し点T1と当接する右端面4の略中央部である1回目の刺し込み点t1に刺し込む。
【0037】
次に、図2(d)に示すように、針先をそのまま破断部2の破断方向と直交する方向からやや下向き方向に、布地1内部を所定距離進ませて破断部2右側の布地1の表面から抜き出して1回目の折り返し点R1とする。
【0038】
次に、図2(e)に示すように、縫合糸7を引くことによって左端面3と右端面4とを付き合わせる。しかも、縫合糸7を引くことによって1回目の抜き出し点T1から1回目の折り返し点R1にかけて布地1内部に収容した縫合糸7の張力を調節して、左右端面3,4を付き合わせたことに起因して歪みが生じないようにする。
【0039】
次に、図2(f)に示すように、針先を破断部2左側の布地1へ向けて上記1回目の折り返し点R1に刺し込む。
【0040】
次に、図2(g)に示すように、破断部2の破断方向と直交する方向からやや下向き方向に、布地1の内部を進ませて右端面4の厚さ方向における略中央部である2回目の抜き出し点T2から抜き出す。ここでも、縫合糸7を引くことによって、1回目の折り返し点R1から2回目の抜き出し点T2にかけて布地1内部に収容した縫合糸7の張力を調節して、左右端面3,4を付き合わせたことに起因して歪みが生じないようにする。
【0041】
次に、図2(h)に示すように、再び針先を破断部2左側の布地1へ向けて、破断部2の左右端面3,4を付き合わせた際に2回目の抜き出し点T2と当接する左端面3の略中央部である2回目の刺し込み点t2に刺し込む。
【0042】
次に、図2(i)に示すように、破断部2の破断方向と直交する方向からやや下向き方向に、布地1内部を所定距離進ませて破断部2左側の布地1の表面から抜き出して2回目の折り返し点R2とする。
【0043】
次に、図2(j)に示すように、縫合糸7を引くことによって、左端面3と右端面4とを付き合わせる。ここでも、縫合糸7を引くことによって、2回目の抜き出し点T2から2回目の折り返し点R2にかけて布地1内部に収容した縫合糸7の張力を調節して、左右端面3,4を付き合わせたことに起因して歪みが生じないようにする。
【0044】
次に、図2(k)に示すように、針先を破断部2右側の布地1へ向けて上記2回目の折り返し点R2に刺し込み、破断部2の破断方向と直交する方向からやや下向き方向に、布地1の内部を進ませて左端面3の厚さ方向における略中央部である3回目の抜き出し点T3から抜き出す。そして、縫合糸7を引くことによって、2回目の折り返し点R2から3回目の抜き出し点T3にかけて布地1内部に収容した縫合糸7の張力を調節して、左右端面3,4を付き合わせたことに起因して歪みが生じないようにする。
【0045】
このように、1回目,2回目・・・・(n−1)回目の折り返し点R1,R2・・・・R(n−1)にて縫合を折り返し、破断部2の左右端面3,4間に布地1の内部で糸を交互に掛け渡すことによって、図3に示すように、破断部2の左右端面3,4を突き合わせた状態で縫合する。ここで、針は(n−1)回目の折り返し点R(n−1)で折り返し、破断部2の下端部6を通過して破断部2左側の布地1の表面から抜き出し、n回目の折り返し点Rnとする。
【0046】
このようにして、一旦破断部2の上端部5から下端部6にかけて縫合が終了すると、次に、図4に示すように、針先を破断部2に向けて折り返し点Rnに刺し込み、破断部2の破断方向と直交する方向に向けて布地1の内部を所定距離進ませ、破断部2右側の布地1の表面に抜き出し、復路1回目の折り返し点R1'とする。
【0047】
次に、縫合糸7を引くことによって、n回目の折り返し点Rnから復路1回目の折り返し点R1'にかけて布地1の内部に収容した縫合糸7の張力を調節して、左右端面3,4を付き合わせたことに起因して歪みが生じないようにする。
【0048】
次に、針先を破断部2左側に向けて折り返し点R1'に刺し込み、破断部2の破断方向と直交する方向から鋭角に上端部5へ向けた方向へ布地1の内部を所定距離進ませて、左右端面3,4を通過し、破断部2より所定間隔離間して布地1の表面に抜き出し、折り返し点R2'とする。
【0049】
このように、復路1回目,2回目・・・・n回目の折り返し点R1',R2'・・・・Rn'を往路1回目,2回目・・・・n回目の折り返し点R1,R2・・・・Rnとずらした位置に設けて縫合を折り返し、すでに付き合わされた破断部2の左右端面3,4間にさらに布地1の内部で糸を交互に掛け渡して縫合することにより、左右端面3,4を強く連結するとともに、布地1の内部に張力を調節した縫合糸7を多く収容することによって、左右端面3,4を付き合わせたことに起因して生じた歪みをより吸収して可及的に歪みを補正して布地1を平坦化することができる。
【0050】
このように、左右端面3,4の上下端部5,6間を繰り返し縫合することによって左右端面3,4間における連結の強度を上げることができるとともに、布地1を平らに補正することができる。なお、縫合を繰り返す回数は、布地1の種類や目の状態、破断部2の形状や大きさ等によって決定する。本実施例においては1往復とした。
【0051】
このようにして、破断部2の縫合が終了すると、図5(a)に示すように、復路n回目の折り返し点Rn'から針を抜き出した状態となっている。
【0052】
次に、図5(b)に示すように、復路n回目の折り返し点Rn'において縫合糸7に終端玉止め9を形成する。
【0053】
次に、図5(c)に示すように、針先を復路n回目の折り返し点Rn'に刺し込む。
【0054】
次に、図5(d)に示すように、針先を適当な方向へそのまま布地1の内部を所定距離進ませて布地1の表面に抜き出す。
【0055】
次に、図5(e)に示すように、縫合糸7を引いて終端玉止め9を布地1の内部に引っ張り込むことによって、同終端玉止め9を布地1の内部に収容するとともに、同終端玉止め8を布地1の繊維に掛止させる。
【0056】
次に、図5(f)に示すように、縫合糸7を引っ張って、縫合糸7に布地1の張り具合よりも強い張りをかけた状態にて縫合糸7を切断する。そして、布地1を引っ張ることによって縫合糸7の終端部を布地1の内部に収容する。
【0057】
このように、本発明では破断部2を縫合糸7により縫い塞ぐことによって補修するわけであるが、縫合糸7は布地1内部にて掛け渡されるので、縫い目は全て布地1内部に収容されることになり見栄えを向上することができる。さらに、縫合糸7が磨耗により劣化することを防止して、補修効果を長く持続させることができる。
【0058】
しかも、縫合糸7に形成した始終端玉止め8,9を布地1内部に収容することができるため、縫合の痕跡を残すことを防止して見栄えをさらに向上することができる。さらに、磨耗により始終端玉止め8,9が解けたり、損傷したり等することを防止して補修効果を長く持続させることができる。
【0059】
上述したようにして、本発明では破断部2を縫合の痕跡を残さないように縫い塞ぐことができる。
ここで、破断部2が比較的大きな欠損部を有する場合には、破断部2の左右端面3,4を強制的に突き合わせて縫合したことに起因して、左右端面3,4の上下端部5,6近傍に窪み10が発生することがある。
【0060】
そこで、同窪み10を補正して布地1を平坦に補正する必要がある。かかる窪み10の補正について、図6を参照しながら以下に説明する。
(窪みの補正)
まず、窪み10の補正に使用する糸を準備する。前述した縫合糸7と同様に、通常の糸を1本の細い糸に分解し、同細い糸を窪み10の補正に使用する補正糸7'とする。
【0061】
補正糸7'を針に通し、1本どりとして同補正糸7'の終端部に始端玉止め8'を形成し、破断部2の上端部5右側の近傍における布地1の内部に針先を窪み10へ向けて刺し込む。
【0062】
次に、針先をそのまま布地1の内部にて破断部2の破断方向と直交する方向へ進ませて、対向する窪み10の周縁部に針を出し、1回目の折り返し始点S1とする。
【0063】
次に、破断部2を縫合する場合と同様に、補正糸7'を引いて、同補正糸7'の始端部を布地1の内部に引っ張り込むことによって、上記始端玉止め8'を布地1の内部に収容するとともに、同始端玉止め8'を布地1の繊維に掛止させる。さらに、補正糸7'を引くことによって布地1の内部に収容した補正糸7'の張力を調節して布地1を平坦化させる。
【0064】
このように、始端玉止め8'を布地1の内部に収容することにより、見栄えを良くすることができるとともに、始端玉止め8'が磨耗により解けたり、劣化したりすることを防止して補正効果を長く持続させることができる。
【0065】
次に、針先を窪み10の中央へ向けて1回目の折り返し始点S1における布地1の内部に刺し込み、そのまま布地1の内部を所定間隔進ませて布地1の表面に抜き出し、1回目の折り返し終点F1とする。
【0066】
次に、破断部2を縫合する場合と同様に、補正糸7'を引くことによって布地1の内部に収容した補正糸7'の張力を調節して布地1を平坦化させる。
【0067】
次に、針先を窪み10右側に向けて1回目の折り返し終点F1における布地1の内部に刺し込み、そのまま布地1の内部を破断方向と直交する方向に進ませて、対向する窪み10の周縁部に針を出し、2回目の折り返し始点S2とする。
【0068】
次に、1回目の折り返し始点S1に針を抜き出した時と同様に、補正糸7'を引くことによって布地1の内部に収容した補正糸7'の張力を調節して布地1を平坦化させる。
【0069】
次に、針先を窪み10の中央へ向けて2回目の折り返し始点S2における布地1の内部に刺し込み、そのまま布地1の内部を所定間隔進ませて布地1の表面に抜き出し、2回目の折り返し終点F2とする。この時、2回目の折り返し始点S2と2回目の折り返し終点F2間の距離を、1回目の折り返し始点S1と1回目の折り返し終点F1間の距離よりも若干長くとるようにする。
【0070】
次に、1回目の折り返し終点F1に針を抜き出した時と同様に、補正糸7'を引くことによって布地1の内部に収容した補正糸7'の張力を調節して布地1を平坦化させる。
【0071】
このように、窪み10部において、布地1の目の密度や厚さ、また、窪み10の大きさや形状等の条件を加味して、破断方向と直行する方向に往復しながら、補正糸7'に適度な張りを与えて布地1の内部に挿入することによって、布地1の密度を変化させるとともに布地1に張りを与えて窪み10を可及的に補正する。
【0072】
ここで、折り返す際に、2回目の折り返し始点S2と2回目の折り返し終点F2間の距離を、1回目の折り返し始点S1と1回目の折り返し終点F1間の距離よりも若干長くとったように、折り返し回数が増えるごとに折り返し始点Sと折り返し終点F間の距離を長くとるようにして、挿入する補正糸7'の密度を上端部5近傍から遠のくにつれて低くなるように補正糸7'を挿入すると、窪み10部分の布地1を可及的に平坦化することができる。
【0073】
このようにして、窪み10部において破断方向と直交する方向についての補正が終了すると、次に、窪み10部において破断方向についての補正を行う。この場合、上記した窪み10部において破断方向と直交する方向についての補正と同様の処理を行う。ただし、挿入される補正糸7'の挿入密度は一定とした。
【0074】
このようにして、窪み10部に補正糸7'を挿入することができたら、次に、挿入した補正糸7'を窪み10の周縁部を通過した近傍に針を抜き出し、補正糸7'に終端玉止め9'を形成する。
【0075】
次に、破断部2の縫合において終端玉止め9を処理した場合と同様にして、補正糸7'に形成した終端玉止め9'を布地1の内部に収容する。
【0076】
このように、補正糸7'は、上述した破断部2の縫合の場合と同様に、始終端玉止め8',9'を布地1の内部に収容するとともに、補正糸7'は布地1内において収容され縫い目が表面に現れることはない。したがって、見栄えを向上させることができるとともに、始終端玉止め8',9'が解けたり、補正糸7'が磨耗することを防止して補正効果を長く持続させることができる。
【0077】
しかも、補正の痕跡を残すことを防止して補正を美しく仕上げることができる。
【0078】
次に、破断部2の下端部6に形成された窪み10を、破断部2の上端部5に形成された窪み10を補正した方法と同様にして補正する。
【0079】
(補強)
次に、破断部2を補強する方法について図7,図8に基づいて説明する。
【0080】
破断部2周辺の布地1の裏側に補強布11を接着することによって破断部2を補強する。
【0081】
ここで、同補強布11の裏面には接着糊12が塗付されており、同接着糊12は加熱することによって溶融し、補強布11と布地1とを容易に接着することができるようになっている。したがって、補強布11を、アイロンを用いて加熱することにより、同補強布11を容易に破断部2周辺の布地1に接着することができる。
【0082】
しかも、補強布11と布地1とを接着する際に、補強布11と布地1との間に両面接着シート13を介在させてから加熱すると、補強布11の接着糊12と両面接着シート13とで補強布11と布地1との接着することができるので、接着力をさらに強力とすることができる。
【0083】
このように、破断部2周辺の布地1の裏面を補強布11で接着仕上げすることにより、破断部2周辺の布地1を補強することができるとともに、破断部2に力が加わって破断部2を縫合している縫合糸7を切断してしまうことを防止するように補修を保護して補修効果を長く持続させることができる。
【0084】
次に、補強布11の周縁部をかがり糸14でかがるように、しかも、この時の縫い目が布地1の表面に露出しないように布地1に縫い付ける。本実施例では千鳥ぐけを施しているが、補強布11の周縁部をかがり糸14でかがるように布地1に縫い付けることができれば、どのような方法であっても構わない。
【0085】
これにより、クリーニングや洗濯にも耐えて補強布11が布地1から剥がれることを防止して、見栄えを向上させるとともに、補修効果を持続させることができる。
【0086】
以上に説明したように、本発明に係る局部的な破断部2を有する布地1の補修方法では、縫い目も始終端玉止め8、9も布地1の内部に収容しているため、補修の痕跡を残すことなく、「かけつぎ」又は「かけはぎ」に匹敵する美しい仕上がりとすることができる。
【0087】
しかも、補修にかかる作業は「かけつぎ」又は「かけはぎ」に比べて簡略化された容易な作業であり、短時間で補修可能とすることができる。
【0088】
したがって、衣服等に生じた破断部2の補修を、「かけつぎ料」又は「かけはぎ料」よりも安い料金で提供することができる。
【0089】
さらに、破断部2の補修に共布を必要としないので、共布を保管しておいたり、縫い代を切り取って共布を準備したり等の手間をかけることなく手軽に、しかも容易に破断部2の補修を行うことができる。
【0090】
以上、布地1の縦方向に沿って平面視略紡錘形に形成された破断部2の補修方法について説明してきたが、破断部の大きさ・形状・方向等、また、布地の種類、目の密度や状態、厚さ、柄等によって、縫合糸の掛け渡し方・折り返し方法・窪みの補正のための縫合糸の挿入方法等について様々な方法があり、本実施例に限られるものではない。
【0091】
例えば、縫合の際の折り返し方法については、針を一旦抜き出した位置と同じ位置に戻して折り返すのではなく、針を抜き出した位置と再び刺し込む位置とを若干ずらして折り返すことによって、折り返しのポイントを布地の繊維にしっかりと掛止させて、折り返しのポイントが布地にしっかりと固定されるようにしてもよい。
【0092】
また、破断部の上下端部に生じる窪みを補正する方法については、布地の目の密度、柄、及び厚さ等や、破断部の大きさ、形状、及び破断部の形成された方向等の条件によって、様々な方法が考えられる。実施例において記述したように、窪み10部において、縦方向と横方向に沿うように補正糸7'を挿入する方法の他に、図9に示すように、補正糸7'を斜め方向に挿入する方法もある。また、補正糸7'を縦方向、横方向、斜め方向の全てに挿入する方法もある。どのように、補正糸7'を挿入して窪みを補正するかは、上述したように、布地や破断部の様々な条件によって決定される。
【0093】
なお、布地の種類や破断部の種類によっては、縫合糸として接着効果を有する縫合糸を使用する場合もある。
【0094】
例えば、縫合糸の表面に接着剤をコーティングした縫合糸を使用したり、通常の縫合糸と接着剤で形成された糸とを2本どりとして縫合する場合もある。これらの場合には、縫合後にアイロンで過熱することによって、破断部を糸と接着剤によって強固に連結することができ、持続効果の高い補修を容易に行うことができる。特に、補強布が布地の風合いを損なう場合等、補強布を宛がうことが困難である場合に有効である。
【0095】
請求項1に係る本発明によれば、縫合糸を通した針を、破断部の上端部近傍の布地内部へと刺し込み、針先を布地内部にて進ませながら、破断部の左右端面間に布地の内部で糸を掛け渡し、針を所定距離進ませた後に布地の表面から抜き出し、次いで、この針を抜き出した位置と同じ位置に刺し込み、付き合わせた端面に向けて布地の内部で縫合糸を折り返すように針を進ませて行う縫合により、上端部から下端部まで布地の内部で糸を交互に掛け渡しながら縫合することとしたので、付き合わせた端面を往復する糸を布地内部に収容することができ、補修のための縫い目が布地の表面に露出することを防止して美しい仕上がりとすることができる。
【0096】
請求項2に係る本発明によれば、縫合する糸の始端部及び終端部を布地の内部に引っ張り込むことによって、糸の始端及び終端に形成された玉止めを布地の内部に収容するようにしたので、縫合の痕跡を残すことを防止して、補修後の仕上がりを美しくして見栄えを良くすることができるとともに、玉止めが解けたり、糸が磨耗することを防止して、補修効果を長く持続させることができる。
【0097】
請求項3に係る本発明によれば、破断部近傍の布地の内部に複数条の糸を各条の糸の張力をそれぞれ調節しながら貫通させることによって、破断部近傍の布地を平坦化するようにしたので、補修の痕跡を残すことを防止して、補修後の見栄えを良くすることができる。
【0098】
請求項4に係る本発明によれば、破断部の裏面に補強布を接着するようにしたので、破断部周辺の布地を補強することができるとともに、破断部に力が加わって破断部を縫合している縫合糸を切断してしまうことを防止するように補修を保護して補修効果を長く持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】布地に形成された破断部の説明図である。
【図2】本発明に係る布地に形成された破断部を補修する工程を示す説明図である。
【図3】破断部の縫合における往路の説明図である。
【図4】破断部における縫合の説明図である。
【図5】終端玉止めの処理の工程を示す説明図である。
【図6】破断部の上端部に生じた窪みの補正方法の説明図である。
【図7】破断部周辺の布地に補強布を宛がった説明図である。(平面)
【図8】破断部周辺の布地に補強布を宛がった説明図である。(断面)
【図9】破断部の上端部に生じた窪みを補正する他の補正方法の説明図である。
【符号の説明】
1 布地
2 破断部
3 左端面
4 右端面
5 上端部
6 下端部
7 縫合糸
8 始端玉止め
9 終端玉止め
10 窪み
11 補強布
Claims (4)
- 布地に形成された破断部の左右端面同士を付き合わせ、前記破断部の上端部から下端部にかけて縫合する破断部の補修方法において、
縫合糸を通した針を、破断部の上端部近傍の布地内部へと刺し込み、
針先を布地内部にて進ませながら、破断部の左右端面間に布地の内部で糸を掛け渡し、
針を所定距離進ませた後に布地の表面から抜き出し、
次いで、この針を抜き出した位置と同じ位置に刺し込み、付き合わせた端面に向けて布地の内部で縫合糸を折り返すように針を進ませて行う縫合により、上端部から下端部まで布地の内部で糸を交互に掛け渡しながら縫合することを特徴とする破断部の補修方法。 - 縫合する糸の始端部及び終端部を布地の内部に引っ張り込むことによって、糸の始端及び終端に形成された玉止めを布地の内部に収容することを特徴とする請求項1記載の布地に形成された破断部の補修方法。
- 破断部近傍の布地の内部に複数条の糸を各条の糸の張力をそれぞれ調節しながら貫通させることによって、破断部近傍の布地を平坦化することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の布地に形成された破断部の補修方法。
- 破断部の裏面に補強布を接着することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の布地に形成された破断部の補修方法。
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