JP3874077B2 - ヒステリシスを有するボロメ−タ型赤外線検出器及びその駆動方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱分離構造を有するボロメ−タ型赤外線検出器の駆動方法に関し、特に、抵抗温度特性にヒステリシスがある抵抗体を用いたボロメ−タ型赤外線検出器の駆動方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のサ−ミスタ−ボロメ−タ型赤外線センサでは、ヒステリシスのないボロメ−タ材料が一般的に使われていたが、最近、川野(特開2000-55737号公報)は、高感度のボロメ−タ型赤外線センサを実現するために、抵抗温度係数は大きいが、ヒステリシスのあるボロメ−タ材料を使ったセンサの駆動方法を提案している。図3から図6を用いて、川野の従来例を説明する。
【0003】
図3は、熱分離構造を有するボロメ−タ型赤外線アレイセンサの画素構造を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のA−A’断面図である。図3(B)に示されているように、ダイアフラム10は、ボロメータ薄膜5およびその下に形成された絶縁支持膜3、ボロメータ薄膜5の上面に形成された絶縁保護膜6、同保護膜の外表面に形成された赤外吸収膜7を備えている。また、ダイアフラム10は、ボロメータ薄膜5の両端に電極4を備えている。電極4は電極配線14に接続され、電極4にパルスバイアス電圧を印加してボロメータ薄膜5の温度変化に起因する抵抗変化を読み取ることによって赤外線が検知される。
【0004】
この赤外線センサは、ダイアフラム10が梁12、12’によって宙に浮いた構造になっており、それによってボロメータ薄膜5が熱分離されるように設計されている。基板2の上には赤外反射膜1が設けられ、該赤外反射膜1とダイアフラム10との間に空洞9を設け、赤外反射膜1とダイアフラム10との間隔を最適に限定することによって、ダイアフラム表面の赤外吸収膜7によって吸収された入射赤外線11のほとんどが散失することなくボロメータ薄膜5を含むダイアフラム10で吸収される。これによりダイアフラム10の温度が上昇し、ボロメータ薄膜5の抵抗が変化する。
【0005】
図3(B)において、基板2上の土手16は空洞9の側壁を構成し、ダイアフラム10と土手16との間はスリット8によって熱遮断されている。なお、図3(A)の参照番号13、13’はそれぞれ梁12、12’の付け根であり、参照番号15は電極配線のコンタクトである。
【0006】
図4は、図3の画素に用いられたボロメ−タ薄膜5の比抵抗(ρ)と温度の関係を示す図である。ボロメータには周期的にパルスバイアス電圧または電流が印加され、ヒステリシスの温度幅ΔTtより大きい温度変動幅ΔTcで昇温・降温が周期的に繰り返される(図5参照)。図5にはパルスバイアスのタイミングが示されていないが、読出時間τroの間にパルス的に電圧または電流が印加される。ΔTcはΔTt+ΔTmaxより大きくなるようにパルスバイアス幅τroや電圧で設定される。ここで、ΔTmaxは、予想される赤外線光量変化に起因するボロメータ感温部の温度変化の最大値である。
【0007】
いま、赤外線光量が設定された基準値であるとき、ボロメータを降温曲線50上の状態A(温度Tobj)におき、温度サイクルを開始する。まず、パルスバイアスを印加して昇温を開始すると、ボロメータは、物理化学的構造変化を伴わずに温度上昇して比抵抗曲線(図中A→Bで表されている)は、昇温曲線51と状態Bで交わる。ΔTc>ΔTtであるので、ボロメータ温度はさらに上昇する。状態Bの温度TBを超すと、ボロメータは物理化学的構造変化を伴って温度上昇し、状態C(温度Tc=Tobj+ΔTc)に到る。
【0008】
次に、パルスバイアス解除後に降温が始まると、物理化学的構造変化を伴わずに温度降下し、比抵抗曲線(図中C→Dで表されている)は状態Dで降温曲線50と交わる。状態Dの温度から最初の温度Tobjまでは物理化学的構造変化を伴って温度降下する。
【0009】
被写体からの赤外線光量が減少した場合には、この温度サイクル中にボロメータの温度がΔTobjだけ下降する。従って、温度サイクルはΔTobjだけ低温側(図の左方)にずれる。図4の点A’は、次の温度サイクル開始点である。このようにして、ΔTobjを検出することによって、高い抵抗温度係数(TCR:Temperature coefficientof resistance)を維持したまま赤外線の光量変化を検知することができる。
【0010】
図4では、温度サイクルの開始点を降温曲線50上においた場合について説明したが、温度サイクルの開始点をヒステリシス曲線以外の点においても同様な結果を得ることができる。図6は、温度サイクルの開始点をヒステリシス曲線以外の点に設定した場合の温度サイクルの一例を説明する図である。
【0011】
図6は、昇温曲線51の外側(高温側)の点Cを温度サイクルの開始点に設定し、ボロメータ温度を最初に降下させ、次に上昇させる場合の例である。温度サイクルが行われる温度領域はT1〜T2で、この温度領域は比抵抗温度特性のヒステリシスが起こる温度領域TD〜TUの範囲内にある。温度変動幅ΔTc>ΔTtとなるようにパルスバイアスの条件(電圧とパルス幅)を設定している。
【0012】
図6を参照すると、状態C(温度T2)から出発してボロメータ温度を降下させる。ボロメータ材料は物理化学的構造変化を生じることなく昇温曲線51を横切って降温曲線50上の点Dに達する。さらに温度を降下させると、降温曲線に沿って(物理化学的構造変化をしながら)状態A(温度T1)に到達する。次の昇温過程においては、ボロメータ材料は物理化学的構造変化を生じないで昇温曲線51上の状態Bに達する。ボロメータ材料の温度が更に上昇すると、該材料は昇温曲線に沿って(物理化学的構造変化を生じながら)昇温曲線上の点E(温度T2)に達する。これで最初の1サイクルを終了する。第2サイクルは昇温曲線51上の点Eから開始するのであるから、図4の温度サイクルと全く同様な動作になる。従って、赤外線検出は第2サイクル以後の温度サイクルで実行すれば図4と同様な方法を適用することができる。
【0013】
この従来例のボロメータ型赤外線センサに安定した動作を行わせる条件は、温度サイクルの温度差をΔTc、一周期後の光量変化に伴う温度変化をΔTobjとして、ΔTc>ΔTt+|ΔTobj|となるようにΔTcを決めることと、温度サイクルの温度領域を、ボロメータ比抵抗温度特性のヒステリシスが起こる温度領域TD〜TU内に設定することである。
【0014】
同従来例の赤外センサでは、温度サイクルを実現するために、ボロメータに電流を断続的に供給してジュール熱を発生させた。これにより、特別な昇温・降温装置は必要なく、コンパクトなセンサが実現できた。また同時に、電流を流すことを利用して抵抗値の測定も行った。このような電流制御および抵抗値の読出動作は、素子に隣接する読出集積回路により一括して行った。
【0015】
図5は、ボロメータに電流を供給し、1フレーム毎に昇温・降温を繰り返す温度サイクルを説明した図である。抵抗値は、印加した電圧と流れた電流によって測定する。この場合の温度差ΔTcは次式で表される。
【0016】
【0017】
ここで、VBはボロメータに印加されるバイアス電圧、RBはボロメータの抵抗、Gthは熱コンダクタンス、τthは熱時定数、τroはパルスバイアス幅(=読出時間)である。同従来例では、図3に示されている素子を50μm間隔で並べてアレイ素子を作成し、ΔTcは12.9℃となるよう設計した。また、ボロメータ材料として室温付近で転移点を迎えるように、意図的に酸素欠陥を多くしたVO2薄膜を用いた。この膜のTCRは10%/Kである。尚、通常の相転移の無い領域のVO2のTCRは2%/K程度である。また、この膜のヒステリシスの温度幅ΔTtは5℃である。このようにして得られた赤外線センサの温度分解能を測定したところ、F/1の光学系に対して20mKの温度分解能が得られた。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来例の問題点を議論する前に、ボロメ−タ型赤外線検出器のレスポンシビティRV(V/W)について説明する。RVは、熱時定数が問題にならないような低周波領域では次式で表される。
【0019】
【0020】
ここで、αはボロメ−タ材料の抵抗温度係数、ηは赤外吸収率、VBはバイアス電圧、Gthは熱コンダクタンスである。印加するバイアス電圧を大きくすると、レスポンシビティRVも増加する。
【0021】
前記従来例で説明したボロメ−タ型赤外線センサにおいて、ヒステリシスのあるボロメ−タ材料を使って赤外センサを高感度にする動作条件は、(1)ダイアフラムの温度がヒステリシスが起こる温度領域TD〜TU内にあること、且つ(2)ジュ−ル熱によるダイアフラムの温度上昇がヒステリシスの温度幅ΔTtおよび被写体からの赤外輻射による温度上昇分|ΔTobj|の和より大きいことである。
【0022】
しかし、ヒステリシスのあるボロメ−タ材料の開発において、TDとTU及びヒステリシスの温度幅ΔTtを制御することは殆ど不可能に近い。また、動作温度をTDとTUの範囲に入れるためには、(1)式を見て分るように、読出時間τroを固定するとVBの下限と上限が決まる。VBに上限があると、(2)式から分るように、レスポンシビティをある値以上に大きくすることができない。つまり、この従来例では高感度にするには問題がある。
【0023】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その主たる目的は、レスポンシビティを増加させるバイアス電圧に上限を与えず、駆動条件に自由度を与えることができるヒステリシスを有するボロメ−タ型赤外線検出器及びその駆動方法を提供することにある。
【0024】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明のボロメータ型赤外線検出器は、抵抗温度特性にヒステリシスを有するボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが、梁によって基板に支持されてなるボロメータ型赤外線検出器であって、前記ダイアフラムを外部から昇温/降温する第1の温度制御手段と、前記ボロメータ薄膜に通電することにより前記ダイアフラムを内部から昇温する第2の温度制御手段とを備え、前記ボロメ−タ薄膜の抵抗温度特性において、低温側でヒステリシスの無い温度領域をNL領域、ヒステリシスがある温度領域をH領域とした場合に、前記第1の温度制御手段により設定される前記NL領域内の低温側温度と、前記第1の温度制御手段及び前記第2の温度制御手段により設定される前記H領域内の高温側温度とで規定される温度サイクルで前記ダイアフラムの温度が制御され、かつ、赤外線入射時においても、前記低温側温度は前記N L 領域内となり、前記高温側温度は前記H領域内となるように設定され、前記高温側温度において前記ダイアフラムの信号の読み出しが行われるものである。
【0028】
また、本発明の駆動方法は、抵抗温度特性にヒステリシスを有するボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが、梁によって基板に支持されてなるボロメータ型赤外線検出器の駆動方法であって、前記ダイアフラムを外部から昇温/降温する第1の温度制御手段と、前記ボロメータ薄膜に通電することにより前記ダイアフラムを昇温する第2の温度制御手段とを用い、前記ボロメ−タ薄膜の抵抗温度特性において、低温側でヒステリシスの無い温度領域をNL領域、ヒステリシスがある温度領域をH領域とした場合に、前記第1の温度制御手段により設定される前記NL領域内の低温側温度と、前記第1の温度制御手段及び前記第2の温度制御手段により設定される前記H領域内の高温側温度とで規定される温度サイクルで前記ダイアフラムの温度を制御し、かつ、赤外線入射時においても、前記低温側温度は前記N L 領域内となり、前記高温側温度は前記H領域内となるように設定し、前記高温側温度において前記ダイアフラムの信号の読み出しを行うものである。
【0030】
以下に、本発明のヒステリシスを有するボロメ−タ型赤外線検出器及びその駆動方法について、図1乃至図3を用いて説明する。なお、本発明が対象とする熱分離構造を有するボロメ−タ型赤外線検出器の基本的な構造については、従来技術(図3)の欄で詳述しているため、ここでは構造のバリエ−ションについてのみ記載する。
【0031】
従来の技術では、赤外反射膜1の上に絶縁保護膜が形成されていなかったが、赤外反射膜形成後の工程による同反射膜の反射特性を劣化させないように、SiO2,Si3N4,SiONのような絶縁保護膜を成膜した方が良い。また、赤外吸収膜7がダイアフラム10の最上層に形成されているが、絶縁支持膜3と絶縁保護膜6をSi3N4,SiONやSiC及びそれらの複合膜にした場合、波長8〜13μmの赤外線を吸収するので、赤外吸収膜7は必ずしも必要ではない。
【0032】
さて、図3のボロメ−タ薄膜5が、図1のようなヒステリシスを持つ場合の駆動方法を説明する。尚、抵抗温度係数が大きく、且つヒステリシスを有するボロメ−タ薄膜の成膜方法については、佐々木(特許公報第2976924号)に記載されている。
【0033】
図1は、ヒステリシスのあるボロメ−タ用多結晶薄膜の抵抗の温度特性を示す図である。同多結晶薄膜の特性を、ヒステリシスのない温度TD以下の領域NL,抵抗温度係数が大きくヒステリシスのある領域H(温度範囲TD〜TU)及びヒステリシスのない温度TU以上の領域NHに分けて考える。
【0034】
抵抗温度特性においてヒステリシスのある結晶は、一般に1次の相転移(結晶構造の変化)を伴い、相転移の際、潜熱があるためヒステリシスが生じる。その結果、図1の低温領域NLから昇温した場合に抵抗が辿る昇温曲線51と、高温領域NHから降温した場合に抵抗が辿る降温曲線50に差が生じる。その差ΔTtは、同じ材料でも結晶成長や成膜の方法により異なる。
【0035】
また、一般に、ヒステリシスのある領域では材料物性が劇的に変化する。ヒステリシスのあるボロメ−タ薄膜を領域NLのある温度TPから昇温して領域Hのある温度THまで持っていき、再び領域NLの温度TPに戻すと、抵抗値は曲線53に沿って元の値に戻る。しかし、領域H内の温度TH1に戻した場合、昇温曲線51上の抵抗になるとは限らず、一般に昇温曲線51と降温曲線50に挟まれた領域内のヒステリシスル−プ54上の値になる。従って、抵抗温度係数が大きく、且つヒステリシスのあるボロメ−タ型赤外線検出器を安定に動作させるには、領域NL内に最初の動作点を置き、信号読出しを抵抗温度係数の高い領域、つまり感度を高くするヒステリシス領域H内で行い、信号読出し後、領域NL内の最初の動作点に戻す必要がある。
【0036】
以上のことを鑑み、ヒステリシスのあるボロメ−タ型赤外線検出器の駆動方法について、図1と図2を用いて説明する。まず、検出器の動作点を領域NLと領域Hの間に交互に又は周期的に位置させるには、図3の熱分離構造を有するボロメ−タ型赤外線検出器をペルチェ素子のような温度制御器の上に載せて領域NL内の温度TPに制御し、同検出器の電極4に、図2下図に示すような幅τroで電圧VBのパルスバイアス電圧を印加することにより、ダイアフラム10を発熱させて、図2上図に示す温度変化を引き起こさせる。
【0037】
この時、ダイアフラム10の温度は領域H内のT2に達し、パルスバイアス解除後は熱分離構造の熱時定数τthで温度が下がり、領域NL内の温度T1になる。T1の値とペルチェによる制御温度(=基板2の温度)TPの差ΔTOは、後述する実施形態で分かるように微小である。
【0038】
この駆動方法を図1で説明する。熱分離構造を有するボロメ−タ型赤外線検出器をペルチェ素子のような温度制御器の上に載せて、図3の基板2を領域NL内の温度TP,ボロメ−タ抵抗RPの動作点(TP,RP)に、図3のダイアフラム10を同じく領域NL内の動作点(T1,R1)に設定する。ここで、赤外線入射がなければ、(T1,R1)は(TP,RP)に等しい。
【0039】
次に、図2下図に示すパルスバイアス20をダイアフラム10内の電極4に印加することにより、図3のダイアフラム10を発熱させ、式1に従ってダイアフラム10の温度をΔTCだけ上昇させて領域H内の動作点(TH,RH)や(T2,R2)にシフトさせる。センサの感度向上の度合いを検討する場合、前者は赤外線が入射していない画素、後者は赤外線が入射している画素の動作点に対応すると考える。
【0040】
図1から分かるように、本発明の「ヒステリシスを有するボロメ−タ型赤外線検出器の駆動方法」において、検出器の信号をヒステリシスのある領域Hで読み出すと、温度変化に対する抵抗の変化率が増大されることが分かる。定量的に増大率Gがどのくらいになっているかは、領域NLの抵抗温度特性を領域Hに外挿することによって推定できる(図1の破線52参照)。
【0041】
【0042】
また本発明は、川野(特開2000-55737号公報)の従来例に比べ、次のような利点がある。同従来例では、ダイアフラム10の温度がヒステリシスのある領域H内(温度範囲TD〜TU)に常に入るようにパルスバイアスの電圧VBや幅τroを調整する必要がある。この場合、VBに下限と上限があり駆動条件にマ−ジンが少なく、アレイセンサ上でヒステリシス特性にばらつきがあるとセンサとしてうまく動作しない場合がある。また、VBに上限があることは、式2から分るように、レスポンシビティの観点から問題がある。これに対して、本発明では、ペルチェの温度設定TPを調整することにより、電圧VBや幅τroの駆動条件の範囲を広げることができ、特に、VBの上限をより大きな値まで伸ばすことができるので、従来技術の問題を解決することができる。
【0043】
【発明の実施の形態】
本発明のヒステリシスを有するボロメ−タ型赤外線検出器及びその駆動方法の実施形態について、図1乃至図3を用いて説明する。画素数320×240で画素ピッチ37μmのボロメ−タ型赤外線アレイセンサにおいて、ヒステリシスのあるボロメ−タ薄膜5として酸化バナジウムを用いた。
【0044】
同アレイセンサは、ペルチェ素子の上に取りつけられ、真空パッケ−ジに実装されている。このような構造を有する画素の熱コンダクタンスGthは約0.1μW/K、熱容量Cthは約1.0nJ/K、熱時定数τthは約10msecである。同アレイセンサに加えるパルスバイアスの読出時間τroは、例えば60μsecで、この時間が回路系の帯域と共にノイズの大きさを決めている。
【0045】
320×240アレイセンサの基板2は、ペルチェ素子により領域NLの温度TP=25℃に設定され、同温度でのボロメ−タ抵抗RBは61kΩである。パルスバイアス電圧VB=5.2Vを印加すると、式1よりジュ−ル熱によるダイアフラム10の温度上昇ΔTCは約27℃になり、ダイアフラム10の温度が52℃になりヒステリシス領域H内の動作点(TH,RH)に移動する(TH=52℃,RH=12.3kΩ)。以上は、被写体からの赤外線の入射がない場合である。
【0046】
次に、F/1の光学系を通して、背景温度27℃(=300K)の下で被写体として50℃(=323K)の黒体炉を入射すると、ダイアフラムの温度はΔTO〜140mK上昇する。この場合、動作点は(T2,R2)に移動している(T2=52.14℃,R2=12.197kΩ)。なお、図を見やすくするため、図1ではΔTOを拡大して表現している。
【0047】
本実施形態をヒステリシスがないボロメ−タ材料の場合(図1の抵抗の温度特性曲線52)と比べると、T2=52.14℃,R'2=25.827kΩとなり(R'H=25.9kΩ)、式3より増大率は約3倍となる。つまり、本発明の方が従来例に比べて感度が3倍高い。このことは、320×240ボロメ−タ型赤外アレイセンサの温度分解能が約3倍向上したことからも分る。
【0048】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のヒステリシスを有するボロメ−タ型赤外線検出器及びその駆動方法によれば、温度制御器により同検出器のダイアフラムの温度をヒステリシスのない低温側の領域に設定し、パルスバイアスを印加して信号を読み出す際、ジュ−ル熱による温度上昇で、抵抗温度係数が大きく且つヒステリシスのある温度範囲にダイアフラムの温度をシフトさせることにより、ボロメ−タ型赤外線センサを高感度で駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のヒステリシスを有するボロメ−タ型赤外線検出器の駆動方法を説明するボロメ−タ薄膜の抵抗の温度特性である。
【図2】本発明のボロメ−タ型赤外線センサにおいて、ボロメ−タに電圧または電流を供給し、1フレ−ム毎に昇温・降温を繰り返す温度サイクルを説明する図である。
【図3】従来例のボロメ−タ型赤外線センサの構造を示す図で、(A)は平面図、(B)は(A)のA−A’断面図である。
【図4】従来例のボロメ−タ型赤外線センサの動作原理を説明するボロメ−タ薄膜の比抵抗の温度特性である。
【図5】従来例のボロメ−タ型赤外線センサにおいて、ボロメ−タに電流を供給し、1フレ−ム毎に昇温・降温を繰り返す温度サイクルを説明する図である。
【図6】従来例のボロメ−タ型赤外線センサの動作において、温度サイクルの開始点をヒステリシス曲線以外の点に設定した場合の温度サイクルの一例を説明する図である。
【符号の説明】
1 赤外反射膜
2 基板
3 絶縁支持膜
4 電極
5 ボロメータ薄膜
6 絶縁保護膜
7 赤外吸収膜
8 スリット
9 空洞
10 ダイアフラム
11 赤外線
12、12’ 梁
13、13’ 梁の付け根
14 電極配線
15 電極配線のコンタクト
16 土手
20 パルスバイアス
21 ダイアフラムの温度変化
50 降温曲線
51 昇温曲線
52 ヒステリシスが無い材料の抵抗の温度特性
53 戻りの経路
54 ヒステリシスル−プ
Claims (2)
- 抵抗温度特性にヒステリシスを有するボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが、梁によって基板に支持されてなるボロメータ型赤外線検出器であって、
前記ダイアフラムを外部から昇温/降温する第1の温度制御手段と、前記ボロメータ薄膜に通電することにより前記ダイアフラムを内部から昇温する第2の温度制御手段とを備え、
前記ボロメ−タ薄膜の抵抗温度特性において、低温側でヒステリシスの無い温度領域をNL領域、ヒステリシスがある温度領域をH領域とした場合に、
前記第1の温度制御手段により設定される前記NL領域内の低温側温度と、前記第1の温度制御手段及び前記第2の温度制御手段により設定される前記H領域内の高温側温度とで規定される温度サイクルで前記ダイアフラムの温度が制御され、かつ、赤外線入射時においても、前記低温側温度は前記N L 領域内となり、前記高温側温度は前記H領域内となるように設定され、前記高温側温度において前記ダイアフラムの信号の読み出しが行われることを特徴とするボロメ−タ型赤外線検出器。 - 抵抗温度特性にヒステリシスを有するボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが、梁によって基板に支持されてなるボロメータ型赤外線検出器の駆動方法であって、
前記ダイアフラムを外部から昇温/降温する第1の温度制御手段と、前記ボロメータ薄膜に通電することにより前記ダイアフラムを昇温する第2の温度制御手段とを用い、
前記ボロメ−タ薄膜の抵抗温度特性において、低温側でヒステリシスの無い温度領域をNL領域、ヒステリシスがある温度領域をH領域とした場合に、
前記第1の温度制御手段により設定される前記NL領域内の低温側温度と、前記第1の温度制御手段及び前記第2の温度制御手段により設定される前記H領域内の高温側温度とで規定される温度サイクルで前記ダイアフラムの温度を制御し、かつ、赤外線入射時においても、前記低温側温度は前記N L 領域内となり、前記高温側温度は前記H領域内となるように設定し、前記高温側温度において前記ダイアフラムの信号の読み出しを行うことを特徴とするボロメ−タ型赤外線検出器の駆動方法。
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