JP3862589B2 - 光学ガラス流出装置及び光学ガラス塊の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、所定量の光学ガラス塊を製造する技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
成形光学素子の成形用素材である光学ガラス塊を得るための、溶融ガラス流出パイプの構造に関する発明は、従来から多く提案されているが、その発明のポイントは、以下の2点である。
・光学性能を満足する光学ガラスを得られること。
・広範囲の各種重量の光学ガラス塊を得ることができ、なお、重量バラツキは小さく、重量精度が高いこと。
【0003】
このような発明として、例えば、特開平9−59030号公報、特開平8−290922号公報、特開平8−188419号公報、特開平10−36123号公報に開示されているものが知られている。
【0004】
特開平9−59030号公報においては、次のような構成が開示されている。
【0005】
るつぼ下部に太径ノズルを設け、この太径ノズル開口部の隙間を弁機構により制御することにより、溶融ガラスの流量制御を行ない、この太径ノズル下部に設けた細径ノズルの開口部より溶融ガラスを流出させる。そして、弁機構の開口高さおよび開口時間により、溶融ガラスの流量制御を行なう。また、るつぼと弁機構を白金で製作している。
【0006】
特開平8−290922号公報においては、次のような構成が開示されている。
【0007】
溶融ガラス供給ノズルと、この供給ノズルの下端に設置される滴下手段とを、分離接合可能な構成とする。そして、供給ノズル下端を冷却した後、供給ノズルと滴下手段を分離し、内径の異なる滴下手段を供給ノズルに接合することにより、溶融ガラス供給量を変更する。
【0008】
特開平8−188419号公報においては、次の構成が開示されている。
【0009】
溶融ガラスを滴下供給する供給ノズルにおいて、供給ノズル先端の内径を、供給ノズルの内径より大きく形成する。それにより、従来より大きな溶融ガラスを供給することを可能にしている。
【0010】
特開平10−36123号公報においては、次の構成が開示されている。
【0011】
導管から流出する溶融ガラスを鋳型に鋳込むにあたり、導管流出口の口径を、導管本体よりも大きくする。これにより、導管流出口での溶融ガラスの滞留時間を長く出来る。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の従来の方法は、以下に示す様な問題点を有していた。
【0013】
まず、特開平9−59030号公報に開示されている方法では、以下に示す問題がある。
【0014】
るつぼに近接した、るつぼ下部の細径ノズルの開口部から溶融ガラスを流出するため、るつぼ内の溶融ガラスの温度と開口部から流出する溶融ガラスの温度に、大きな温度差をつけることは、現実的に困難である。そのため、開口部からは、かなり高温の溶融ガラスが流出することになる。そして、このように高温の溶融ガラスを流出させると、溶融ガラスの表層からガラス中の易揮発成分が蒸発揮発し、ガラス表層の屈折率が変化する。すなわち、このように高温で流出された光学ガラスには、「脈理」と呼ばれる光学欠陥が発生する。
【0015】
また、弁機構の開口高さにより、溶融ガラス流出量を調整するに際し、実際には、弁機構の開口高さは、弁機構とるつぼとの熱膨張による変形により、微妙に変化するので、溶融ガラス流出量のバラツキは大きなものになる。
【0016】
また、一回の溶融ガラス流出量は、太径ノズルの直径と弁機構の開口高さ、開口時間により決まるので、比較的多量の溶融ガラスを得ることは容易であるが、逆に、微小量の溶融ガラスを重量精度良く得ることが困難である。
【0017】
さらに、るつぼと弁機構を共に白金で製作しているため、万一、るつぼと弁機構が接触した場合、るつぼと弁機構が融着し、作動しなくなるため、作業性が悪い。すなわち、一般に瓶ガラス用などの溶融ガラスの流出に使われる、弁機構による溶融ガラスの流出(いわゆる、プランジャー方式)は、品質特性の高さから白金るつぼ内での溶融が必要となる光学ガラスの溶融には、不適である。
【0018】
また、特開平8−290922号公報に開示されている方法では、以下に示す問題がある。
・供給ノズル下端を冷却した後、供給ノズルと滴下手段を分離しようとしても、現実には、その分離は極めて困難である。なぜならば、供給ノズルと滴下手段との隙間にはガラスが入り込んだ状態で冷却固化されているから、このガラスを破壊しないと、供給ノズルと滴下手段を分離できない。
・また、このように、供給ノズルと滴下手段を分離できる構造の装置で、ガラスを溶融流出すると、流出ガラス内に微細な泡が発生することが多く、このガラスを光学ガラスとして使用することはできない。これは、分離部にトラップされた泡から微細な泡の流出が続くためである。
【0019】
また、特開平8−188419号公報、および、特開平10−36123号公報に開示されている技術は、ほぼ同一であり、これらの技術により、より大きな溶融ガラス塊を得ることが可能になる。
【0020】
しかしながら、これらの従来技術にも問題があり、それは、得られたガラス塊に、薄い「脈理」が発生する点である。
【0021】
ここで、この「脈理」の発生プロセスとして、本願発明者が推測した仮説を図2を用いて説明する。
【0022】
図2において、1は溶融ガラス流出パイプ、11はテーパー状の溶融ガラス流出口、2は溶融ガラス、3は溶融ガラス塊、4は受け型、5は揮発ガラス、6は異常屈折率溶融ガラスである。
【0023】
溶融ガラス流出パイプ1は、溶融るつぼ(不図示)に連結されており、その下端の溶融ガラス流出口11をテーパー状に開くことにより、より大きな溶融ガラス塊3を得ることを可能にしている。受け型4を、溶融ガラス流出口11の直下の位置に待機させ、溶融ガラス流出口11から液滴状に流出している溶融ガラス2を、連続した状態で受け型4の上に受け、所望重量の溶融ガラスを受けた後、受け型4を所定距離下降させ、そこで静止する。すると、溶融ガラスに括れが生じ、その括れは、溶融ガラスの表面張力により進展し、溶融ガラスは直ちに自然切断され、溶融ガラス塊3が得られる。その状態が、図2に示されている。
【0024】
なお、溶融ガラス流出口11のテーパー角が大きい場合、流出してきた溶融ガラス2が、溶融ガラス流出口11一杯に広がらず、図2に示すように、テーパー状の溶融ガラス流出口11の途中までしか広がらない。
【0025】
また、高温の溶融状態のガラスの表面からは、ガラス成分中の易揮発成分が揮発する。図2では、その様子を模式的に揮発ガラス5として示している。このガラスの揮発は、溶融ガラス流出口11の溶融ガラス2からも、受け型4の上の溶融ガラス塊3からも、発生する。また、揮発したガラスのうち幾らかは、再度凝集し、溶融ガラス2や溶融ガラス塊3に戻ったり、受け型4や溶融ガラス流出口11に堆積する。
【0026】
一方、溶融ガラス流出パイプ1の中を流れる溶融ガラス2は、溶融るつぼ(不図示)から、十分に長い距離を流れた後、溶融ガラス流出口11から流出される。そして、この溶融ガラス流出パイプ1の内部の流れは、粘度が高く、パイプ内径が小さく、流速も低いので、レイノルズ数が低く、層流の管内流である。したがって、溶融ガラス2が溶融ガラス流出パイプ1の内部を流れるにつき、粘性抵抗により流速分布ができ、管中央では流れが速く、逆に、管壁近くでは流れが遅くなる。そして、この流速分布は、放物線状の速度分布となる。
【0027】
すなわち、管壁近くでは、流速は極めて遅く、淀んだ状態である。この状態は、テーパー状の溶融ガラス流出口11を溶融ガラスが広がっていく時も続く。そして、溶融ガラスの表面においても、溶融ガラス流出口11の壁近くでは、流速は極めて遅い。
【0028】
一方、溶融ガラス表面では、溶融ガラスの揮発が起きている。そして、溶融ガラス流出口11の壁近くでは、新しいガラスの流入が無い状態で揮発が続くので、ガラス成分が変質し、異常な屈折率になる。その異常屈折率溶融ガラス6を、図2に示す。
【0029】
また、溶融ガラスから揮発した揮発ガラス5が、溶融ガラス流出口に再度凝着してできた変質ガラスも、この位置で淀み、異常屈折率溶融ガラス6となる。
【0030】
そして、溶融ガラス塊3を得る工程で、この位置で淀んでいる異常屈折率溶融ガラス6にも、わずかな流速が生じるので、この異常屈折率溶融ガラス6が、溶融ガラス塊3の表層に、僅かに流れ込んでくる。これが、光学的欠陥である「脈理」として観察されると考えられる。
【0031】
また、溶融ガラス流出口11がテーパー状に広がっていない場合でも、この「脈理」は発生している。
【0032】
その様子を、図3に示す。記号は図2と同じである。
【0033】
溶融ガラス流出口11の壁面近くでは、流速が極めて遅いため、溶融ガラス表面で、屈折率異常溶融ガラス6が淀んだ状態になり、溶融ガラス塊3を得る工程で、屈折率異常溶融ガラス6が僅かに流れ込み、「脈理」が発生する。
【0034】
一方、この「脈理」は、溶融ガラスの揮発に起因するので、流出溶融ガラス温度を低くすれば発生状態は少なくなる。しかし、今度は、ガラス粘度が高くなるため、いわゆる「シャーレスカット」(鋏を使わない切断)が困難になり、「シャーレスカット」時に、糸状ガラスが発生し、「巻込み」と呼ばれる光学欠陥が発生する。
【0035】
すなわち、本発明は、従来技術では解決できなかった「脈理」などの光学欠陥の無い、極めて光学品質の高い光学ガラス塊を、各種の重量について、高い重量精度で製造することを、解決すべき課題としている。
【0036】
そして、本発明の目的は、光学品質の優れた光学ガラスを製造することができる光学ガラス流出装置を提供することである。
【0037】
また、本発明の他の目的は、光学品質に優れ、さらに、所望の大きさの光学ガラス塊を製造することができる光学ガラス流出装置を提供することである。
【0038】
また、本発明の更に他の目的は、より一層、光学品質の優れた光学ガラスを安定して製造することができる光学ガラス流出装置を提供することである。
【0039】
また、本発明の更に他の目的は、各種重量の光学ガラス塊を、高い光学品質、重量精度で製造することができる光学ガラス流出装置を提供することである。
【0040】
また、本発明の更に他の目的は、成形光学素子製造用素材として適した高品質の光学ガラス塊を提供することである。
【0041】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係わる光学ガラス流出装置は、光学ガラスを溶融するためのるつぼと、該るつぼに接続され、前記るつぼ内の溶融ガラスを流出させるための流出パイプとを具備し、前記流出パイプは、その途中位置に絞り部を有し、該絞り部の開口断面積が前記流出パイプの前記絞り部よりも上流側の開口断面積の1/3から1/20であり、前記絞り部から前記流出パイプの先端に向かうにつれて徐々に寸法が広げられており、前記流出パイプの絞り部の温度は、絞り部以外の部分の温度よりも高温になるように制御されていることを特徴としている。
【0043】
また、この発明に係わる光学ガラス流出装置において、前記絞り部は、前記流出パイプの先端から80mm以内の位置に設けられていることを特徴としている。
【0047】
また、本発明に係わる光学ガラス塊の製造方法は、光学ガラスを溶融するためのるつぼから、溶融ガラスを流出パイプを通して流出させて光学ガラス塊を得る光学ガラス塊の製造方法であって、前記流出パイプの途中位置に絞り部を設け、該絞り部の開口断面積が前記流出パイプの前記絞り部よりも上流側の開口断面積の1/3から1/20であり、前記溶融ガラスを前記絞り部において、前記流出パイプの絞り部以外の部分の温度よりも高温になるように加熱して通過させた後、前記絞り部から前記流出パイプの先端に向かうにつれて徐々に寸法を広げることで、受け型の上に所定量供給する供給工程と、前記溶融ガラスの表面張力により前記溶融ガラスを切断する切断工程とを具備することを特徴としている。
【0049】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な一実施形態について説明する。
【0050】
まず、一実施形態の概要について説明する。
【0051】
本発明の一実施形態では、光学ガラス溶融るつぼに接続された溶融ガラス流出パイプにおいて、流出パイプの途中において、パイプ内径が絞られている。
【0052】
溶融ガラスを、溶融るつぼに接続された溶融ガラス流出パイプを介して流出させることにより、溶融るつぼと溶融ガラス流出口の温度差を付けることが可能になり、溶融ガラス流出口の温度を比較的低くでき、その結果、「脈理」を防止できる。その目的のためには、溶融ガラス流出パイプの長さは長いことが望ましい。
【0053】
一方、溶融ガラス流出パイプの長さが長いと、溶融ガラスは粘度が高いため、粘性抵抗の影響を大きく受け、放物線状の速度分布を持つ流れに発達する。すなわち、流出パイプの中心部では流速が速いが、逆に、流出パイプの壁近くでは流速が極めて遅い流れになる。
【0054】
しかし、このような流れも、流出パイプの途中において、パイプ内径を絞ることにより、流速分布が一様な一様流になる。溶融ガラス流出口近くで、パイプ内径を絞ることにより、溶融ガラス流出口まで、流速分布を一様に近く保つことができる。すなわち、溶融ガラス流出口においても、壁近くでの流速が十分にあり、溶融ガラス表面と溶融ガラス流出口の壁が接する部分でも、揮発により変質した溶融ガラスが滞留すること無く、溶融ガラスの流出が行われる。この様子を図1に示す。
【0055】
その結果、「脈理」のない高品質の光学ガラスを製造することができる。
【0056】
なお、図4から図8は、粘性流体が管内を流れる時、粘性による流速分布の発達の様子、および、絞りによる流速の一様化を示す模式図である。
【0057】
図4は、溶融るつぼ7から溶融ガラス流出パイプ1へ、溶融ガラスが流入するときの様子を示しており、溶融るつぼ7内は、準静的状態なのでここから流入する溶融ガラスは、ほぼ一様の流速である。
【0058】
図5、図6、図7は、溶融ガラス流出管内部での流れの発達を示す図である。管壁からの粘性抵抗により、管内での流速分布は、管壁近くでの流速が遅くなり、図5に示すような流速分布になる。
【0059】
流出管内を流れが更に進むと、速度分布が更に顕著になって、図6に示すような状態になり、最終的には、図7に示すように、放物線状の速度分布を持つようになる。
【0060】
このように速度分布を持った流れ状態を、パイプ内径を絞ることにより一様流にした状態を示したものが、図8である。
【0061】
なお、このような流速分布に関する知見は、室温での一般の液体の管内流に関する実験から得られているものであるが、粘性流体理論からして、同様の現象が溶融ガラス流出パイプ内でも、生じていると考えられる。
【0062】
また、本実施形態では、光学ガラス溶融るつぼに接続された溶融ガラス流出パイプにおいて、流出パイプの途中において一旦パイプ内径が絞られ、再度、パイプ内径が所望の寸法に拡げられる。
【0063】
溶融ガラス流出パイプの途中でパイプ内径を絞ることにより、パイプ内の溶融ガラスの流速分布が一様流になることは、上述した作用と同じである。その後、パイプ内径を所望の寸法に連続的に広げても、この連続的に広がっている溶融ガラス流出部において、溶融ガラスの流れは、壁近くで十分な流速あるので、溶融ガラス表面と溶融ガラス流出口の壁が接する部分でも、揮発により変質した溶融ガラスが滞留すること無く、溶融ガラスの流出が行われる。
【0064】
その結果、「脈理」のない高品質の光学ガラスを製造することができる。
【0065】
また、本実施形態では、溶融ガラス流出口のパイプ内径を所望の寸法に広げているので、大きなガラス塊を得る場合、受け型に溶融ガラスを受ける工程を瞬間的に行なうことが可能になり、その結果、光学ガラス塊の下面に発生するゴブインマークと呼ばれる凸凹の発生を防ぐことができる。
【0066】
また、本実施形態では、溶融ガラス流出パイプの流出口から80mmの距離の範囲内で、パイプ内径が絞られている。
【0067】
溶融ガラス流出パイプの途中でパイプ内径を絞ることにより、パイプ内の溶融ガラスの流速分布が一様になり、このようなパイプ壁近くで十分な流速のある状態で、溶融ガラスを流出させることにより、揮発により屈折率の変化した溶融ガラスの滞留なく溶融ガラスを流出できることは、既に説明した。
【0068】
しかしながら、パイプ内径の絞り部分が溶融ガラス流出口から遠い位置に設置されていると、絞り部分通過後の溶融ガラス流出パイプの長さが長くなり、この部分での粘性抵抗により、パイプ壁近くでの流速が遅くなり、そして、溶融ガラス流出口において、壁近くの流速が極めて遅くなり、揮発ガラスの滞留が起こり、「脈理」などの光学欠陥が発生する。
【0069】
本願発明者は、パイプ内径の絞りの設置位置について、実験的検討を行ない、溶融ガラス流出パイプの流出口から80mmの距離の範囲内で、パイプ内径を絞れば、高品質の光学ガラスを得ることができることを見出した。
【0070】
また、本実施形態では、パイプ内径の絞りが、断面積比で、1/3から1/20までの範囲である。
【0071】
溶融ガラス流出部の途中でパイプ径を絞ることにより、溶融ガラスを一様流にし、ガラス流出口での壁近くの流速を十分にし、変質ガラスの滞留を無くし、高品質のガラスを流出できることは、既に説明した。
【0072】
このパイプ内径の絞りが、緩い場合、すなわち、絞り前のパイプの内断面積と絞り部のパイプの内断面積の比(=絞り部のパイプの内断面積/絞り前のパイプの内断面積)が大きい場合、この絞りによる効果が十分に得られない場合がある。本願発明者は、パイプ内径の絞り径について、実験的検討を行ない、パイプ内径の絞りが、断面積比で1/3より大きい場合、絞りによる効果が十分に得られず、得られる光学ガラスの品質が低くなることを見出した。
【0073】
逆に、パイプ内径の絞りが、きつい場合、すなわち、絞り前のパイプの内断面積と絞り部のパイプの内断面積の比(=絞り部のパイプの内断面積/絞り前のパイプの内断面積)が小さい場合、この絞り部での溶融ガラスの流速が、かなり速くなり、一方、その部分の圧力は、ベルヌイの定理により、かなり低下する。すると、溶融ガラス中に溶存していたガス成分が、微細な泡となって発生してくる。
【0074】
本願発明者は、パイプ内径の絞り径について、実験的検討を行ない、パイプ内径の絞りが、断面積比で1/20より小さい場合、絞り部での流速増加に伴う圧力低減により、溶融ガラス中に微細な泡が発生することを見出した。
【0075】
すなわち、パイプ内径の絞りが、断面積比で、1/3から1/20までの範囲であれば、高品質の光学ガラスを流出できることを見出したのである。
【0076】
また、本実施形態では、パイプ内径絞り部分とそれ以外の部分において、その温度を個別に制御できるようにした。
【0077】
上記で説明した光学ガラス溶融装置では、溶融ガラス流出パイプの中で、パイプ内径絞り部分が、その律速部となる。なぜなら、絞り部では流動抵抗が、パイプの他の部分に比べ大きくなるためである。
【0078】
したがって、このパイプ内径絞り部分とそれ以外の部分において、その温度を個別に制御することにより、溶融ガラス流出量を所望の価に制御することが可能になる。
【0079】
また、本実施形態では、溶融状態の光学ガラスを、光学ガラス溶融るつぼから、溶融ガラス流出パイプを介して流出させるに際して、流出パイプの途中において、パイプ内径が絞られた状態で、溶融ガラスを流出する。
【0080】
既に説明したように、溶融ガラス流出部の途中でパイプ径を絞ることにより、溶融ガラスを一様流にし、ガラス流出口での壁近くの流速を十分にし、変質ガラスの滞留を無くし、高品質のガラスを流出できる。よって、このように得られた光学ガラスは、脈理等の光学欠陥が無く、高品質である。
【0081】
また、本実施形態では、パイプ内径が絞られた状態で流出された溶融状態の光学ガラスを、受け型の上に所定重量受け、その後、溶融ガラスの表面張力により溶融ガラスを切断し、溶融光学ガラス塊を得る。
【0082】
いわゆるシャーレスカットにより、溶融ガラスの表面張力により溶融ガラスを切断し、溶融光学ガラス塊を得るためには、溶融ガラスの粘度を低くする必要があり、そのため、溶融ガラスの温度を高くしなければならない。
【0083】
しかし、一方、このような高温の溶融ガラスを流出させると、その表面からの揮発が激しく、変質ガラスが生じる。
【0084】
ここで、本実施形態では、溶融ガラス流出部の途中でパイプ径を絞ることにより、溶融ガラスを一様流にし、ガラス流出口での壁近くの流速を十分にし、変質ガラスの滞留を無くし、高品質のガラスを流出できる。よって、このように得られた光学ガラス塊は、脈理等の光学欠陥が無く、高品質である。
【0085】
次に、本発明の一実施形態について、図1、図9を参照して具体的に説明する。
【0086】
図1は、溶融ガラス流出口付近を説明する図であり、図9は、溶融ガラス流出装置全体を説明する図である。
【0087】
図1において、1は溶融ガラス流出パイプ、2は溶融ガラス、3は溶融ガラス塊、4は受け型、5は揮発ガラス、8は溶融ガラス流出パイプの内径絞り部、11は溶融ガラス流出口である。また、図9において、1は溶融ガラス流出パイプ、7は溶融るつぼ、8は溶融ガラス流出パイプの内径絞り部、9a,9bは溶融ガラス流出パイプ1および内径絞り部8を個別に通電加熱するための電気回路、11は溶融ガラス流出口である。
【0088】
溶融るつぼ7は白金で作られており、周囲に設置されたヒーター(不図示)により、ガラス溶融温度に加熱保持される。光学ガラス素材(不図示)を、溶融るつぼ7に投入し、溶融する。
【0089】
溶融ガラス流出パイプ1は、白金で作られており、溶融るつぼ7の下部に接続されている。
【0090】
溶融ガラス流出パイプ1内に設けられた内径絞り部8は、図9に示すように、溶融ガラス流出パイプ1の下端近くに設けられる。図1に示すように、内径絞り部8を通過した後、パイプ内径は、テーパー形状で滑らかに広がり、溶融ガラス流出口11に至る。
【0091】
溶融ガラス流出パイプ1と内径絞り部8は、各々、別個の電気回路9a,9bにより通電加熱され、所望の温度に制御されることにより、溶融ガラスの流出量を制御することができる。この電気回路9a,9bの制御により、溶融ガラス流出口11から、液滴状に溶融ガラスが流出する状態にする。
【0092】
受け型4は、NC(数値制御)装置に連結され、その移動位置と移動速度を、高精度に制御できる。
【0093】
ガラス塊3を受け型4の上に受ける工程において、まず、受け型4は、溶融ガラス流出口11の直下の位置まで上昇する。すると、受け型4の上に、溶融ガラスが連続的に受けられ溜まり始める。その後、受け型4を微小速度で下降させ、受け型4の上に所望重量の溶融ガラスを得る。そこで、受け型4を所定距離、急降下させる。すると、溶融ガラスに括れが生じ、そして、溶融ガラスの表面張力により、この括れが進展し、溶融ガラスが自然切断され、溶融ガラス塊3が得られる。
【0094】
このようにして得られたガラス塊3は、脈理などの光学欠陥が無く、高品質のものである。
【0095】
このように、本実施形態により、脈理の無いガラス塊が得られるのは、溶融ガラス流出パイプ1内での溶融ガラスの流速分布が、絞りにより一様になり、溶融ガラス流出口でも、壁近くで十分な流速があり、変質ガラスの滞留を防止できるためと考えられる。
【0096】
なお、本実施形態においては、溶融ガラス流出パイプ1の流出口11から80mmの距離の範囲内で、パイプ内径が絞られていることが望ましく、また、パイプ内径の絞りが、断面積比で、1/3から1/20までの範囲であることが望ましい。
【0097】
【実施例】
以下、本実施形態の具体的実施例、および比較例を示す。
【0098】
(実施例1)
実施例1では、パイプ内径絞り部が、溶融ガラス流出パイプの下端に位置し、パイプ内径が、絞られた後、再度、テーパー状に広がり、溶融ガラス流出口に至り、この光学ガラス溶融装置から流出する溶融光学ガラスから光学ガラス塊を得る例について説明する。
【0099】
実施例1の装置構成は、図1、図9に示す。
【0100】
実施例1において、溶融ガラス流出パイプ1の内径は6mmであり、流出パイプ1の長さ、すなわち、溶融るつぼ7の下端から流出口11までの長さは、300mmである。
【0101】
内径絞り部8は、ガラス流出口11の上方15mmの位置に設けられ、内径絞り部のパイプ内径は1.5mmであり、面積比は1/16となる。絞り部の長さは5mmである。絞り部の後、パイプ内径はテーパー状に連続的に広がり、流出口11でのパイプ内径は10mmである。
【0102】
受け型4は、多孔質カーボンで作られ、その背面からガスを噴出している状態で、溶融ガラスを受けることにより、受け型4から浮上した状態で溶融ガラスを受け、ガラス塊3を得た。
【0103】
実施例1では、SK12相当の光学ガラスを溶融した。溶融るつぼ7は1100℃に保たれ、流出パイプ1は900℃、内径絞り部8は1000℃に保たれ、流出口11からは、溶融ガラスが液滴状に流出している状態にした。この時の溶融ガラスの流出量は毎分40gであった。
【0104】
受け型4を、流出口11の下方5mmの位置にセットし、毎秒0.1mmの速度で下降させ、10秒後、受け型4を7mm急降下させ、溶融ガラスを自然切断し、溶融ガラス塊を得た。このようにして、重量7gのガラス塊を得た。
【0105】
このガラス塊には、脈理などの光学欠陥が無く、光学素子成形用素材として適した高品質のガラス塊であった。
【0106】
なお、内径絞り部8のパイプ内径を、1.3mmから3.5mmの範囲にした場合でも、すなわち、絞り部の断面積比が1/3から1/20の範囲でも、同様に高品質のガラス塊を得ることができる。
【0107】
このように本実施例によれば、比較的大きな高品質のガラス塊を得ることができる。
【0108】
(比較例)
実施例1に対する比較例を示す。
・従来の方法
流出パイプに絞りを設けず、一定内径の流出パイプで流出し、流出口をテーパー状に広げた場合について説明する。
【0109】
溶融ガラス流出パイプとして、長さ300mm、内径4mmのものを用い、その流出口でパイプ内径10mmになるようテーパー状に広げたものを用いた。流出パイプ温度を800℃、流出口温度を900℃にし、溶融ガラス塊を得たが、得られたガラス塊には脈理があり、光学品質の低いものであった。
【0110】
流出口温度を低くすると、脈理は減少するが、いわゆるシャーレスカットが困難になり光学素子成形用素材としては適さなくなる。
・絞りが弱すぎる場合
流出パイプの絞りが弱すぎ、効果が無かった場合について説明する。
【0111】
パイプ内径絞り部分の内径を4mmとし、すなわち、絞り断面積比を1/2.25とし、その他の条件は実施例1と同一にし、溶融ガラスを流出した。このようにして得られたガラス塊は、脈理があり、光学品質の低いものであった。
【0112】
これは、絞りが弱すぎたため、本実施形態の効果が現れなかったためである。
・絞りが強すぎる場合
流出パイプの絞りが強すぎ、欠陥が発生した場合について説明する。
【0113】
パイプ内径絞り部分の内径を1mmとし、すなわち、絞り断面積比を1/36とし、その他の条件は実施例1と同一にし、溶融ガラスを流出した。このように流出した溶融ガラスには微細な泡が発生し、得られたガラス塊にも泡が残り、品質の低いものである。
【0114】
これは、絞りが強すぎ、絞り部での溶融ガラスの流速増加に伴い圧力が減少し、溶融ガラス中に溶け込んでいたガスが発泡したためである。
【0115】
(実施例2)
実施例2では、流出パイプを絞った後、パイプ内径をそのままで、流出口から流出させる場合について説明する。
【0116】
溶融ガラス流出口以外の構造は、実施例1と同一である。溶融ガラス流出口は、内径1.5mm、外径3mmのパイプ状の形状である。
【0117】
実施例2でも、SK12相当の光学ガラスを溶融した。溶融るつぼ7は1100℃に保たれ、流出パイプ1は800℃、パイプ内径絞り部は900℃に保たれ、流出口11からは、溶融ガラスが液滴状に流出している状態にした。この時の溶融ガラスの流出量は毎分10gであった。
【0118】
受け型4を、流出口11の下方3mmの位置にセットし、毎秒0.1mmの速度で下降させ、3秒後、受け型4を4mm急降下させ、溶融ガラスを自然切断し、溶融ガラス塊を得た。このようにして、重量0.5gのガラス塊を得た。
【0119】
このガラス塊には、脈理などの光学欠陥が無く、光学素子成形用素材として適した高品質のガラス塊であった。
【0120】
このように本実施例によれば、比較的小さな高品質のガラス塊を得ることができる。
【0121】
(比較例)
実施例2に対する、従来の方法による比較例を示す。
【0122】
流出パイプに絞りを設けず、一定内径の流出パイプで、流出口まで流出した場合について説明する。
【0123】
溶融ガラス流出パイプとして、長さ300mm、内径1.5mmのものを用いた。流出パイプ温度を800℃、流出口温度を900℃にし、溶融ガラス塊を得たが、得られたガラス塊には脈理があり、光学品質の低いものであった。
【0124】
流出口温度を低くすると、脈理は減少するが、いわゆるシャーレスカットが困難になり光学素子成形用素材としては適さなくなる。
【0125】
(実施例3)
実施例3では、流出パイプの絞り部が、流出口からやや離れた位置にある場合について説明する。
【0126】
実施例3の装置構成では、図10に示すように、内径絞り部8を流出パイプの流出口11から80mm上方の位置に設けた。絞り部の内径は1.5mm、長さは5mmである。
【0127】
絞り部以外の流出パイプの内径は、内径4mmであり、流出パイプ全体の長さは300mmである。流出部は、内径4mm外径6mmのパイプ形状である。
【0128】
実施例3も、SK12相当の光学ガラスを溶融した。溶融るつぼ7は1100℃に保たれ、流出パイプ1は850℃、パイプ内径絞り部は950℃に保たれ、流出口11からは、溶融ガラスが液滴状に流出している状態にした。この時の溶融ガラスの流出量は毎分20gであった。
【0129】
受け型4を、流出口11の下方3mmの位置にセットし、毎秒0.1mmの速度で下降させ、6秒後、受け型4を4mm急降下させ、溶融ガラスを自然切断し、溶融ガラス塊を得た。このようにして、重量2gのガラス塊を得た。
【0130】
このガラス塊には、脈理などの光学欠陥が無く、光学素子成形用素材として適した高品質のガラス塊であった。
【0131】
このように本実施例によれば、絞り部を加熱するための電気回路の配線を高い位置に設置できるので、この配線と受け型との接触を防止でき、その結果、装置構成の自由度を上げることが可能になる。
【0132】
(比較例)
実施例3の比較例として、内径絞り部の設置位置が、流出口から離れ過ぎていたため、本実施形態の効果が見られなかった場合について説明する。
【0133】
実施例3と同一構造で、内径絞り部を流出口から100mmの位置に設置した状態で溶融ガラスを流出したものは、得られたガラス塊にわずかに脈理が存在し、好ましい品質ではなかった。
【0134】
(実施例4)
実施例4では、流出パイプ中に2ヶ所の内径絞り部を設けた場合について説明する。
【0135】
実施例4の装置構成を図11に示す。流出パイプの中央部と下端部の2ヶ所に内径絞り部を設けている。流出パイプ全体の長さは300mmであり、中央部の絞りは、パイプ下端から120mmの位置、下端部の絞りは、パイプ下端から10mmの位置に設けられている。
【0136】
流出パイプの内径は4mmであり、中央部の絞りの内径は1.5mmで、断面積比は1/7、下端部の内径は2mmで、断面積比は1/4である。
【0137】
流出パイプは、中央の絞り部分、それより上の部分、それより下の部分の3ゾーンに別れ、温度制御できるよう電気回路9a,9b,9cが設けられている。
【0138】
実施例4も、SK12相当の光学ガラスを溶融した。溶融るつぼ7は1100℃に保たれ、流出パイプ上部は900℃、中央絞り部は850℃、流出パイプ下部は1000℃に保たれ、流出口11からは、溶融ガラスが液滴状に流出している状態にした。この時の溶融ガラスの流出量は毎分10gであった。
【0139】
受け型4を、流出口11の下方3mmの位置にセットし、毎秒0.1mmの速度で下降させ、5秒後、受け型4を4mm急降下させ、溶融ガラスを自然切断し、溶融ガラス塊を得た。このようにして、重量0.8gのガラス塊を得た。
【0140】
このガラス塊には、脈理などの光学欠陥が無く、光学素子成形用素材として適した高品質のガラス塊であった。
【0141】
本実施例によれば、極めて高い重量精度のガラス塊を得ることができた。これは、パイプ中央の絞り部を独立して温度制御することで、ガラス流量を制御することができるためである。
【0142】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、脈理等の光学欠陥の無い高品質の光学ガラス塊を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一実施形態の溶融ガラス流出装置におけるガラス流出口付近の拡大図である。
【図2】従来の溶融ガラス流出装置におけるガラス流出口付近の拡大図である。
【図3】従来の溶融ガラス流出装置におけるガラス流出口付近の拡大図である。
【図4】本発明の一実施形態の作用を説明する図である。
【図5】本発明の一実施形態の作用を説明する図である。
【図6】本発明の一実施形態の作用を説明する図である。
【図7】本発明の一実施形態の作用を説明する図である。
【図8】本発明の一実施形態の作用を説明する図である。
【図9】実施例1を説明する図である。
【図10】実施例3を説明する図である。
【図11】実施例4を説明する図である。
【符号の説明】
1 溶融ガラス流出パイプ
3 溶融ガラス塊
4 受け型
7 溶融るつぼ
8 内径絞り部
11 流出口
Claims (3)
- 光学ガラスを溶融するためのるつぼと、
該るつぼに接続され、前記るつぼ内の溶融ガラスを流出させるための流出パイプとを具備し、
前記流出パイプは、その途中位置に絞り部を有し、該絞り部の開口断面積が前記流出パイプの前記絞り部よりも上流側の開口断面積の1/3から1/20であり、前記絞り部から前記流出パイプの先端に向かうにつれて徐々に寸法が広げられており、前記流出パイプの絞り部の温度は、絞り部以外の部分の温度よりも高温になるように制御されていることを特徴とする光学ガラス流出装置。 - 前記絞り部は、前記流出パイプの先端から80mm以内の位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス流出装置。
- 光学ガラスを溶融するためのるつぼから、溶融ガラスを流出パイプを通して流出させて光学ガラス塊を得る光学ガラス塊の製造方法であって、
前記流出パイプの途中位置に絞り部を設け、該絞り部の開口断面積が前記流出パイプの前記絞り部よりも上流側の開口断面積の1/3から1/20であり、前記溶融ガラスを前記絞り部において、前記流出パイプの絞り部以外の部分の温度よりも高温になるように加熱して通過させた後、前記絞り部から前記流出パイプの先端に向かうにつれて徐々に寸法を広げることで、受け型の上に所定量供給する供給工程と、
前記溶融ガラスの表面張力により前記溶融ガラスを切断する切断工程とを具備することを特徴とする光学ガラス塊の製造方法。
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