JP3835678B2 - 装飾性塗膜の形成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築物や土木構造物等に適用可能な装飾塗膜の形成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
建築物や土木構造物等の基材としては、コンクリート、モルタル等のセメント系材料が多く用いられている。このようなセメント系材料では、材料の経時的な硬化収縮や、基材への荷重の影響等によって、基材表面にひび割れが発生するおそれがある。このため、セメント系の基材上に塗膜を形成する場合には、基材表面にひび割れが生じても、その動きに追従可能な塗膜が必要とされている。
また、建築物の壁材としては、窯業系サイディング板、金属系サイディング板、ALC板等の板状建材も多く用いられている。このような板状建材で壁面を形成すると、建材間の継目に目地が生じてしまうため、シーリング材等の目地処理材を充填することにより防水性が確保されている。ここで用いられる目地処理材は、一般に高い弾性を有することから、目地処理を施した継目部分上に形成される塗膜には、目地処理材の変位に追従可能な性能が求められている。
このような下地の変位に対して、追従可能な性能を有する仕上塗材としては、例えば、JIS A6909に規定されている防水形複層塗材が代表的であるが、この他にも、防水形薄塗材(通称単層弾性塗材)や可とう形薄塗材(通称弾性リシン)等が同様の性能を有するものとして一般的に使用されている。
一方、建築物や土木構造物等の表面に対しては、美観性が高く、個性的な意匠性を表出する仕上げを望む声が強くなってきている。最近では、特に、石材調、砂岩調等の自然の風合いを表出できる装飾性塗材への期待が高まっている。このような装飾性塗材は、一般に、合成樹脂を結合材とし、その中に自然石の粉砕物や、陶磁器の粉砕物、着色骨材等の各種骨材を混合したものであり、骨材の種類や配合比率を調整することによって、様々な意匠性を表出することが可能である。このような装飾性塗材についても、セメント系基材のひび割れや建材継目の変位等に対して追従可能な性能が望まれている。
下地の変位に追従可能な装飾性塗材としては、例えば、特開平5−200354号公報に開示されたものが挙げられる。該公報に開示された塗材では、結合材として、乾燥時に弾性を有するアクリル共重合樹脂等を用いることで、追従性を付与している。しかしながら、上記公報の装飾性塗材によって形成された塗膜では、下地への追従性能が付与される反面、ほこり、塵、排気ガス等の汚染物質が付着しやすくなり、塗装後比較的短期間のうちに塗膜が汚れてしまうという問題がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような点に鑑みなされたものであり、石材調、砂岩調等のような装飾性の高い外観が形成でき、下地基材の変位に対して追従可能な性能を有するとともに、汚れ防止性をも有する塗膜の形成方法を提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
これらの課題を解決するため、本発明者は鋭意検討を行い、特定の合成樹脂エマルションを含む2種の塗材を積層することを見出し、本発明を完成した。
【0005】
すなわち、本発明は下記の特徴を有するものである。
1.第一の塗材、及び第二の塗材を順に積層する装飾性塗膜の形成方法であって、
第一の塗材、及び第二の塗材がいずれも、
(A)合成樹脂エマルション、
(B)自然石の粉砕物、陶磁器の粉砕物、及び着色骨材から選ばれる少なくとも一種の骨材、
を含む装飾性塗材であり、
第一の塗材の(A)成分として、
(A−1)ガラス転移温度が、−80〜30℃且つ下記(A−2)成分のガラス転移温度以下である合成樹脂エマルション、及び、
(A−2)ガラス転移温度が−10〜60℃の合成樹脂エマルションを含み、
第二の塗材の(A)成分として上記(A−2)成分を含み、
第一の塗材によって形成される塗膜の単位体積当たりの骨材比率が、第二の塗材によって形成される塗膜の単位体積当たりの骨材比率より小さく、
第一の塗材によって形成される塗膜と、第二の塗材によって形成される塗膜とが、同一色であり、
第一の塗材としては、第二の塗材に(A−1)成分を混合したものを用いることを特徴とする装飾性塗膜の形成方法。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をその実施の形態とともに詳細に説明する。
【0007】
本発明は、建築物内外壁や土木構築物等の表面化粧に用いることができる。対象となる基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、磁器タイル、繊維混入セメント板、セメント珪酸カルシウム板、スラグセメントパーライト板、石綿セメント板、ALC板、サイディング板、石膏ボード、合板、押出成形板、鋼板等が挙げられる。これら基材の表面は、何らかの表面処理(例えば、シーラー、サーフェーサー、フィラー等)が施されたものでもよく、既に塗膜が形成されたものでもよい。本発明は、特に、コンクリート、モルタル等のセメント系基材面、または、複数の板状建材で構成された基材面に対して好ましく適用することができる。
【0008】
本発明で用いる第一の塗材、及び第二の塗材は、いずれも、
(A)合成樹脂エマルション、
(B)自然石の粉砕物、陶磁器の粉砕物、及び着色骨材から選ばれる少なくとも一種の骨材、
を含む装飾性塗材である。
【0009】
(A)合成樹脂エマルション(以下「(A)成分」ともいう)として使用可能な樹脂の種類としては、例えば、エチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合系等を挙げることができる。このうち、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、あるいはこれらの複合系を使用すると、塗膜の耐候性を高めることができる点で好適である。
【0010】
(B)骨材(以下「(B)成分」ともいう)は、装飾性を付与する成分であり、自然石の粉砕物、陶磁器の粉砕物、及び着色骨材から選ばれる少なくとも一種以上が使用可能である。具体的には、例えば、大理石、御影石、蛇紋岩、花崗岩、蛍石、寒水石、長石、珪石、珪砂等の粉砕物、陶磁器粉砕物、セラミック粉砕物、ガラス粉砕物、ガラスビーズ、樹脂粉砕物、樹脂ビーズ、金属粒等や、それらの表面を着色コーティングしたもの等が挙げられる。骨材の粒径は、0.01mm〜5.0mmであることが望ましい。
【0011】
第一の塗材、第二の塗材においては、本発明の効果を阻害しない限り、上述の成分の他に、通常塗材に使用可能な成分を含むこともできる。このような成分としては、例えば、着色顔料、体質顔料、繊維、増粘剤、造膜助剤、レベリング剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が使用可能である。
【0012】
本発明では、第一の塗材、第二の塗材を順に積層するが、これらの塗材については、形成塗膜の単位体積当たりの骨材比率(以下、単に「骨材比率」ともいう)を特定している。即ち、第一の塗材によって形成される塗膜の単位体積当たりの骨材比率が、第二の塗材によって形成される塗膜の単位体積当たりの骨材比率より小さいことが必須である。第一の塗材及び第二の塗材の骨材比率が、このように設定されることにより、下地基材の変位に対して追従することが可能となる。各塗材の骨材比率は、上述の条件を満たす限り、特に限定されるものではなく、所望の光沢、色相、質感等に応じ適宜設定すればよいが、その範囲は、通常10〜90体積%(好ましくは40〜80体積%)である。
なお、本発明における単位体積当たりの骨材比率は、下記式にて理論的に算出される値であり、空隙は除外されるものである。
【数1】
【0013】
第一の塗材、及び第二の塗材を積層する際の、好ましい態様の一例は、
第一の塗材が、(A)成分として、
(A−1)ガラス転移温度が、−80〜30℃(好ましくは−40〜20℃)且つ下記(A−2)成分のガラス転移温度以下である合成樹脂エマルション(以下「(A−1)成分」ともいう)
を含み、第二の塗材が、(A)成分として、
(A−2)ガラス転移温度が−10〜60℃(好ましくは0〜50℃)の合成樹脂エマルション(以下「(A−2)成分」ともいう)
を含む場合である。
【0014】
また、好ましい態様の別の一例は、
第一の塗材が、(A)成分として、(A−1)成分及び(A−2)成分を含み、第二の塗材が、(A)成分として、(A−2)成分を含む場合である。この態様における第一の塗材は、第二の塗材に(A−1)成分を混合することで得ることもできる。第一の塗材における(A−1)成分と(A−2)成分との重量比率は、特に限定されないが、通常、固形分換算で、(A−1):(A−2)=100:0〜5:95(好ましくは95:5〜20:80)である。
【0015】
本発明では、各塗材に使用する合成樹脂エマルションをこのような組合わせにすることにより、下地基材の変位に対する追従性と、汚れ防止性とを併せ持つ塗膜が形成される。(A−1)成分のTgが−80℃より低い場合は、第二の塗材の塗膜に割れが生じやすくなる。(A−1)成分のTgが30℃より高い場合は、第一の塗材の塗膜が下地の変位に追従できず、割れが生じやすくなる。(A−2)成分のTgが−10℃より低い場合は、塗膜が汚れやすくなる。(A−2)成分のTgが60℃より高い場合は、第二の塗材の塗膜に割れが生じやすくなる。
【0016】
また、本発明では、仮に、第二の塗材の塗膜に割れが生じた場合であっても、第一の塗材の塗膜に割れが波及することを防止することができる。特に、第一の塗材によって形成される塗膜と、第二の塗材によって形成される塗膜とを、同一色にすれば、美観性の低下を最小限に抑制することができる。このような塗材は、第一の塗材と第二の塗材において、ほぼ同一の(B)成分を用いることによって得ることができる。第二の塗材に(A−1)成分を混合したものを、第一の塗材として用いれば、同一の(B)成分を有する2種の塗材を簡単に得ることができる。
【0017】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0018】
(塗材の製造)
表1に示す混合比率にて下記原料を混合し、塗材1〜5を製造した。
・合成樹脂エマルション1:アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%、Tg35℃)
・合成樹脂エマルション2:アクリルシリコン樹脂エマルション(固形分50重量%、Tg25℃)
・合成樹脂エマルション3:アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%、Tg5℃)
・合成樹脂エマルション4:アクリルシリコン樹脂エマルション(固形分50重量%、Tg−20℃)
・造膜助剤:2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート
・増粘剤:ポリカルボン酸系増粘剤
・消泡剤:シリコーン系消泡剤
・骨材:天然石粉砕物及び着色骨材の混合物(平均粒径0.1〜3.0mm)
【0019】
【表1】
【0020】
(実施例1)
図1に示すように、10mm×10mm角の目地溝を有する下地を、10mm厚のセメント系乾式建材を用いて作製した。この下地の目地溝にポリウレタン系シーリング材を充填後、全面にシーラー処理を施したものを試験用基材とした。上記試験用基材の表面に、まず、第一の塗材として塗材3を塗付量2.0kg/m2にて塗付し、20℃・65%RH(以下「標準状態」という)で3時間乾燥した。さらに、第二の塗材として塗材1を塗付量2.0kg/m2にて塗付し、標準状態で14日間乾燥することにより、試験体を作製した。この塗膜の外観は、天然石調の仕上りとなった。
得られた試験体について、下記の方法によって、温冷繰り返し試験及び耐汚染性試験を行ったところ、いずれも良好な結果となった。
【0021】
温冷繰り返し試験
得られた試験体について、水浸漬(20℃)18時間→−20℃3時間→50℃3時間の温冷繰返し試験を10サイクル行い、塗膜の表面状態の変化を目視にて観察した。評価は、異常が認められないものを○、割れが発生したものを×とした。
耐汚染性試験
得られた試験体を、大阪府茨木市で南面向きに設置して、屋外暴露を実施し、1ヶ月後の汚れの程度を評価した。評価は以下の通り。
良好○>△>×劣
【0022】
(実施例2)
第一の塗材として塗材3、第二の塗材として塗材2を用いた以外は、実施例1と同様にして試験体を作製したところ、塗膜の外観は天然石調の仕上りとなった。また、得られた試験体について、実施例1と同様にして温冷繰り返し試験、耐汚染性試験を行ったところ、いずれも良好な結果となった。
(実施例3)
第一の塗材として塗材5、第二の塗材として塗材2を用いた以外は、実施例1と同様にして試験体を作製したところ、塗膜の外観は天然石調の仕上りとなった。また、得られた試験体について、実施例1と同様にして温冷繰り返し試験、耐汚染性試験を行ったところ、いずれも良好な結果となった。
【0023】
(比較例1)
試験用基材に対し、塗材4のみを二回塗り重ねた。それ以外は、実施例1と同様に試験を行ったところ、耐汚染性に劣る結果となった。
(比較例2)
試験用基材に対し、塗材1のみを二回塗り重ねた。それ以外は、実施例1と同様に試験を行ったところ、温冷繰り返し試験において割れが発生してしまった。
【0024】
【表2】
【0025】
【発明の効果】
本発明によれば、石材調、砂岩調等のような装飾性の高い外観で、下地基材の変位に対して追従可能な性能を有するとともに、汚れ防止性をも有する塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】温冷繰り返し試験において使用する下地の構成を示す斜視図
【符号の説明】
1. 5mm厚スレート板
2. 10mm厚乾式建材
3. 目地溝
Claims (1)
- 第一の塗材、及び第二の塗材を順に積層する装飾性塗膜の形成方法であって、
第一の塗材、及び第二の塗材がいずれも、
(A)合成樹脂エマルション、
(B)自然石の粉砕物、陶磁器の粉砕物、及び着色骨材から選ばれる少なくとも一種の骨材、
を含む装飾性塗材であり、
第一の塗材の(A)成分として、
(A−1)ガラス転移温度が、−80〜30℃且つ下記(A−2)成分のガラス転移温度以下である合成樹脂エマルション、及び、
(A−2)ガラス転移温度が−10〜60℃の合成樹脂エマルションを含み、
第二の塗材の(A)成分として上記(A−2)成分を含み、
第一の塗材によって形成される塗膜の単位体積当たりの骨材比率が、第二の塗材によって形成される塗膜の単位体積当たりの骨材比率より小さく、
第一の塗材によって形成される塗膜と、第二の塗材によって形成される塗膜とが、同一色であり、
第一の塗材としては、第二の塗材に(A−1)成分を混合したものを用いることを特徴とする装飾性塗膜の形成方法。
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