JP3829408B2 - 車両用能動型振動制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、エンジンを含むパワーユニットから車体に伝達される振動を、パワーユニット及び車体間に介在する能動型エンジンマウントが発生する能動的な支持力によって低減するようになっている車両用能動型振動制御装置に関し、特に、能動型エンジンマウントを搭載したことによる車両の燃費悪化代を低減できるようにしたものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の従来の技術としては、例えば特開平4−302729号公報に開示されたものがある。即ち、上記公報には、能動的な支持力を発生可能な液体封入式の能動型エンジンマウントが開示されており、かかる能動型エンジンマウントにあっては、エンジンシェイクのような比較的低周波の振動に対しては、受動的な液体封入式のエンジンマウントと同様に、二つの液体室間を往来する液体の共振を利用して振動体から支持体に伝達される振動を減衰する一方、アイドル振動以上の比較的高周波の振動に対しては、液体室の隔壁の一部を形成する可動部材を能動的に変位させ、液体室の圧力変化を支持弾性体の拡張ばねに作用させて積極的に支持力を発生させ振動を打ち消すようにしていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
確かに、上記のような能動型エンジンマウントであれば、その能動型エンジンマウントを通じてパワーユニットから車体に伝達される振動を、能動的な支持力によってある程度相殺して、車体側の振動低減に寄与することができる。
【0004】
しかし、能動型エンジンマウントを搭載した車両にあっては、かかる能動型エンジンマウントを駆動させるためのエネルギが当然に必要であるため、その分燃費が悪化してしまうことは避けることができない。
【0005】
本発明は、このような従来の技術が有する解決すべき課題に着目してなされたものであって、燃費悪化代を低減することができる車両用能動型振動制御装置を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、パワーユニット及び車体間に介在し且つ能動的な支持力を発生可能な能動型エンジンマウントと、前記車体の振動を検出する車体振動検出手段と、前記車体振動検出手段が検出する前記車体の振動が低減するように前記パワーユニットの振動発生状況に基づいて前記能動型エンジンマウントを駆動制御する制御手段と、を備えた車両用能動型振動制御装置において、前記パワーユニット以外から前記車体に伝達される振動のレベルが所定のしきい値を超えている状況では、前記制御手段が前記能動型エンジンマウントに供給する駆動信号のレベルを低く抑えるようにした。
【0007】
また、上記目的を達成するために、請求項2に係る発明は、パワーユニット及び車体間に介在し且つ能動的な支持力を発生可能な能動型エンジンマウントと、前記車体の振動を検出する車体振動検出手段と、前記車体振動検出手段が検出する前記車体の振動が低減するように前記パワーユニットの振動発生状況に基づいて前記能動型エンジンマウントを駆動制御する制御手段と、を備えた車両用能動型振動制御装置において、前記制御手段から前記能動型エンジンマウントに供給される駆動信号が所定の規制値を越えないように調整する駆動信号調整手段と、走行路面から前記車体に伝達される路面振動のレベルが所定のしきい値を超えているときに当該路面振動のレベルが大きい状況であると判断する路面入力判断手段と、前記路面入力判断手段が前記路面振動のレベルが大きい状況であると判断した場合に前記規制値を縮小方向に変更する規制値変更手段と、を設けた。
【0008】
請求項3に係る発明は、上記請求項2に係る発明である車両用能動型振動制御装置において、前記路面入力判断手段は、前記車体振動検出手段の出力信号に基づいて前記路面振動のレベルが大きい状況であるか否かを判断するようになっているものである。
【0009】
また、請求項4に係る発明は、上記請求項2又は3記載の車両用能動型振動制御装置において、前記路面入力判断手段は、前記路面振動の所定周波数の成分に基づいて前記路面振動のレベルが大きい状況であるか否かを判断するようになっているものである。
【0010】
そして、請求項5に係る発明は、上記請求項4に係る発明である車両用能動型振動制御装置において、前記所定周波数を、前記車両のばね下共振周波数とした。
【0011】
これに対し、請求項6に係る発明は、上記請求項4に係る発明である車両用能動型振動制御装置において、前記パワーユニットから前記車体に伝達されている振動の基本周波数を検出する基本周波数検出手段を有し、所定周波数は、前記基本周波数検出手段が検出した前記振動の基本周波数とした。
【0012】
さらに、請求項7に係る発明は、上記請求項4〜6に係る発明である車両用能動型振動制御装置において、前記路面入力判断手段は、前記所定周波数の成分が所定のしきい値を越えている場合に前記路面振動のレベルが大きい状況であると判断するようになっているものである。
【0013】
また、請求項8に係る発明は、上記請求項2〜7に係る発明である車両用能動型振動制御装置において、車速を検出する車速検出手段を有し、前記規制値変更手段は、前記車速検出手段が検出した前記車速が所定値以下の場合には、縮小方向に変更していた前記規制値を初期設定値に戻すとともに、前記規制値の変更を禁止するようになっているものである。
【0014】
そして、請求項9に係る発明は、上記請求項2〜8に係る発明である車両用能動型振動制御装置において、前記規制値変更手段は、前記路面入力判断手段が前記路面振動のレベルが大きい状況であると判断した場合に、前記規制値を縮小方向に徐々に変更するようになっているものである。
【0015】
さらに、請求項10に係る発明は、上記請求項2〜9に係る発明である車両用能動型振動制御装置において、前記規制値変更手段は、前記路面入力判断手段が前記路面振動のレベルが大きい状況ではないと判断した場合に、縮小方向に変更していた前記規制値を直ちに初期設定値に戻すようになっている。
【0016】
ここで、請求項1に係る発明にあっては、制御手段が、車体の振動が低減するように、パワーユニットの振動発生状況(例えば、エンジンにおける燃焼タイミングに同期したパルス信号)に基づいて能動型エンジンマウントを適宜駆動制御する結果、パワーユニットで発生し能動型エンジンマウントを通じて車体側に伝達される振動は、能動型エンジンマウントが発生する能動的な支持力によって低減されるようになる。
【0017】
その一方で、パワーユニット以外から車体に伝達される振動のレベルが大きい状況では、上記のように能動型エンジンマウントが発生する能動的な支持力によってパワーユニットから車体に伝達される振動が低減されたとしても、乗員が感じる振動レベルはそれほど低減されることにはならない。このため、かかる状況で駆動信号のレベルを低く抑えて能動型エンジンマウントによる振動低減効果をわざと低下させたとしても、それによって乗員の不快感を大幅に増大させる可能性が極めて低い。
【0018】
そして、駆動信号のレベルを低く抑えれば、それだけ能動型エンジンマウントにおける消費エネルギが少なくなる。
請求項2に係る発明にあっても、制御手段が能動型エンジンマウントを適宜駆動制御する結果、パワーユニットで発生し能動型エンジンマウントを通じて車体側に伝達される振動は、能動型エンジンマウントが発生する能動的な支持力によって低減される。
【0019】
また、この請求項2に係る発明では、路面入力判断手段が、走行路面から車輪やサスペンション等を通じて車体に伝達される路面振動のレベルが大きい状況であるか否かを判断するようになっている。そして、パワーユニット以外を振動源とする振動の一つである路面振動のレベルが大きい状況では、駆動信号を低く抑えて能動型エンジンマウントによる振動低減効果をわざと低下させたとしても、それによって乗員の不快感を大幅に増大させる可能性が極めて低い。
【0020】
そこで、路面入力判断手段が上記状況であると判断した場合に、規制値変更手段が、駆動信号調整手段が用いる規制値を縮小方向に変更すると、駆動信号のレベルが低く抑えられるようになり、それだけ能動型エンジンマウントにおける消費エネルギが少なくなる。
【0021】
なお、駆動信号調整手段による駆動信号の調整は、例えば電磁力によって力を発生する電磁アクチュエータを内蔵した能動型エンジンマウントのように、駆動信号が所定のオフセット分(直流成分)と信号成分(交流成分)とによって形成されているような場合には、その信号成分が所定の規制値を越えないように調整することになる。
【0022】
また、路面入力判断手段は、例えば車両のばね下部分に取り付けた加速度センサ等のばね下振動検出手段の出力信号に基づいて路面振動が大きい状況であるか否かを判断することができる。
【0023】
これに対し、請求項3に係る発明にあっては、路面入力判断手段は、そもそもの振動低減制御に必要な車体振動検出手段の出力信号に基づいて上記状況を判断するようになっている。これは、車体振動検出手段は車体の振動を検出する手段であり、パワーユニットから能動型エンジンマウントを通じて車体に伝達されるエンジン振動だけではなく、路面から車輪やサスペンション等を通じて車体に伝達される路面振動も検出可能だからである。
【0024】
請求項4に係る発明にあっては、路面振動のうち所定周波数の成分に基づいて上記状況を判断するようになっているから、所定周波数を適宜選定又は調整することにより、駆動信号を低く抑えても乗員に不快感を与えない状況を正確に判断できるようになる。
【0025】
例えば、請求項5に係る発明のように、所定周波数をばね下共振周波数とすれば、走行路面からの入力によってばね下が暴れて大きな振動や騒音が発生していることを推定できるようになるから、駆動信号を低く抑えても乗員に不快感を与えない状況をより正確に判断できる。
【0026】
特に、所定周波数をばね下共振周波数とすれば、上記請求項3に係る発明のように、車体振動検出手段の出力信号に基づいて路面入力判断手段が判断を行うような構成とした場合に、車体振動検出手段の出力信号から問題としている路面振動の成分を略確実に抽出できるようになる。
【0027】
また、請求項6に係る発明のように、パワーユニットから車体に伝達される振動の基本周波数(エンジン振動の基本周波数)を検出する基本周波数検出手段を有する場合には、所定周波数を、その基本周波数に設定するようにしてもよい。即ち、路面振動の周波数成分のうち上記振動の基本周波数の成分が大きければ、乗員は、その基本周波数と同じ周波数の路面振動を感じている筈であるから、パワーユニットから車体に伝達される振動の低減効果が多少低下したとしても、パワーユニットから車体に伝達される振動は路面振動にマスキングされるため、乗員の不快感を大きく増大させることにはならない。つまり、この請求項6に係る発明であっても、駆動信号を低く抑えても乗員に不快感を与えない状況をより正確に判断できる。
【0028】
なお、請求項4〜6に係る発明における路面入力判断手段の具体的な判断方法としては、例えば請求項7に係る発明のように、所定周波数の成分と、所定のしきい値とを比較し、前者が後者を越えている場合に路面振動のレベルが大きい状況であると判断するような方法が簡易で望ましい。
【0029】
一方、請求項8に係る発明にあっては、車速が所定値以下の場合、つまり車両が低速で走行している場合や、停車している場合には、駆動信号を低く抑えることを禁止するようになっている。これは、車速が低い状況や停車している状況では、路面からの振動入力のレベルが低いばかりか、大きな風切り音等も発生していない可能性が高いため、駆動信号を低く抑えてしまうと、乗員に不快感を与えてしまう可能性が高いと考えられるからである。よって、この請求項6に係る発明のように、車速が所定値以下の場合には、規制値変更手段による駆動信号の調整を禁止すれば、乗員に不快感を与えてしまう可能性をより低減できる。
【0030】
また、請求項9に係る発明にあっては、規制値変更手段による規制値の縮小方向への変更を徐々に行うようにしているため、振動低減制御による振動低減効果が急激になくなるようなことはないから、乗員が振動レベルの急激な悪化を感じた場合にそれをシステムの故障であると誤認識するような確率を、低減することができる。また、例えば悪路から良路に移行した場合のように、路面振動のレベルが急激に低下したようなときにも、乗員が感じる振動低減効果の悪化代が常に最大になるようなことを避けることができる。
【0031】
そして、請求項10に係る発明にあっては、路面振動のレベルが大きい状況から小さい状況に移行した場合に、規制値変更手段は規制値を直ちに元の状態に戻すようになっているから、例えば悪路から良路に移行したときに乗員が感じる振動低減効果の悪化代を、極小さく抑えることができる。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、乗員の不快感を大幅に増大させる可能性が極めて低い状況では、駆動信号を低く抑て能動型エンジンマウントにおける消費エネルギが少なくなるようにしたため、能動型エンジンマウントを搭載していることによる車両の燃費悪化代が低減されるという効果がある。
【0033】
また、請求項3に係る発明であれば、本来の振動低減制御に必要な車体振動検出手段の出力信号を利用して路面入力判断手段における判断を行うようにしたため、コスト的に有利であるという効果もある。
【0034】
そして、請求項4〜7に係る発明であれば、駆動信号を低く抑えても乗員に不快感を与えない状況をより正確に判断することが可能になるから、本発明による作用効果をより確実に発揮できるようになる。
【0035】
さらに、請求項8〜10に係る発明であれば、規制値変更手段による規制値の変更を適宜工夫したため、乗員が感じる不快感をより軽減できる可能性が高くなるという効果がある。
【0036】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1乃至図6は本発明の第1の実施の形態を示す図であって、図1は本発明に係る車両用能動型振動制御装置を適用した車両の概略側面図である。
【0037】
先ず、構成を説明すると、車両のパワーユニットを構成するエンジン30が、駆動信号に応じた能動的な支持力を発生可能な能動型エンジンマウント1を介して、サスペンションメンバ等から構成される車体35に支持されている。なお、実際には、エンジン30を含むパワーユニット及び車体35間には、能動型エンジンマウント1の他に、エンジン30及び車体35間の相対変位に応じた受動的な支持力を発生する複数のエンジンマウントも介在している。受動的なエンジンマウントとしては、例えばゴム状の弾性体で荷重を支持する通常のエンジンマウントや、ゴム状の弾性体内部に減衰力発生可能に流体を封入してなる公知の流体封入式のマウントインシュレータ等が適用できる。
【0038】
一方、能動型エンジンマウント1は、例えば、図2に示すように構成されている。即ち、この実施の形態における能動型エンジンマウント1は、エンジン30への取付け用のボルト2aを上部に一体に備え且つ内部が空洞で下部が開口したキャップ2を有し、このキャップ2の下部外面には、軸が上下方向を向く内筒3の上端部がかしめ止めされている。
【0039】
内筒3は、下端側の方が縮径した形状となっていて、その下端部が内側に水平に折り曲げられて、ここに円形の開口部3aが形成されている。そして、内筒3の内側には、キャップ2及び内筒3内部の空間を上下に二分するように、キャップ2及び内筒3のかしめ止め部分に一緒に挟み込まれてダイアフラム4が配設されている。ダイアフラム4の上側の空間は、キャップ2の側面に孔を開けることにより大気圧に通じている。
【0040】
さらに、内筒3の内側にはオリフィス構成体5が配設されている。なお、本実施の形態では、内筒3内面及びオリフィス構成5間には、薄膜状の弾性体(ダイアフラム4の外周部を延長させたものでもよい)が介在していて、これにより、オリフィス構成体5は内筒3内側に強固に嵌め込まれている。
【0041】
このオリフィス構成体5は、内筒3の内部空間に整合して略円柱形に形成されていて、その上面には円形の凹部5aが形成されている。そして、その凹部5aと、底面の開口部3aに対向する部分との間が、オリフィス5bを介して連通するようになっている。オリフィス5bは、例えば、オリフィス構成体5の外周面に沿って螺旋状に延びる溝と、その溝の一端部を凹部5aに連通させる流路と、その溝の他端部を開口部3aに連通させる流路とで構成される。
【0042】
一方、内筒3の外周面には、内周面側が若干上方に盛り上がった肉厚円筒状の支持弾性体6の内周面が加硫接着されていて、その支持弾性体6の外周面は、上端側が拡径した外筒7の内周面上部に加硫接着されている。
【0043】
そして、外筒7の下端部は上面が開口した円筒形のアクチュエータケース8の上端部にかしめ止めされていて、そのアクチュエータケース8の下端面からは、車体35側への取付け用の取付けボルト9が突出している。取付けボルト9は、その頭部9aが、アクチュエータケース8の内底面に張り付いた状態で配設された平板部材8aの中央の空洞部8bに収容されている。
【0044】
さらに、アクチュエータケース8の内側には、円筒形の鉄製のヨーク10Aと、このヨーク10Aの中央部に軸を上下に向けて巻き付けられた励磁コイル10Bと、ヨーク10Aの励磁コイル10Bに包囲された部分の上面に極を上下に向けて固定された永久磁石10Cと、から構成される電磁アクチュエータ10が配設されている。
【0045】
また、アクチュエータケース8の上端部はフランジ状に形成されたフランジ部8Aとなっていて、そのフランジ部8Aに外筒7の下端部がかしめられて両者が一体となっているのであるが、そのかしめ止め部分には、円形の金属製の板ばね11の周縁部(端部)が挟み込まれていて、その板ばね11の中央部の電磁アクチュエータ10側には、リベット11aによって磁化可能な磁路部材12が固定されている。なお、磁路部材12はヨーク10Aよりも若干小径の鉄製の円板であって、その底面が電磁アクチュエータ10に近接するような厚みに形成されている。板ばね11及び磁路部材12によって可動部材が構成される。
【0046】
さらに、上記かしめ止め部分には、フランジ部8Aと板ばね11とに挟まれるように、リング状の薄膜弾性体13と、力伝達部材14のフランジ部14aとが支持されている。具体的には、アクチュエータケース8のフランジ部8A上に、薄膜弾性体13と、力伝達部材14のフランジ部14aと、板ばね11とをこの順序で重ね合わせるとともに、その重なり合った全体を外筒7の下端部をかしめて一体としている。
【0047】
力伝達部材14は、磁路部材12を包囲する短い円筒形の部材であって、その上端部がフランジ部14aとなっており、その下端部は電磁アクチュエータ10のヨーク10Aの上面に結合している。具体的には、ヨーク10Aの上端面周縁部に形成された円形の溝に、力伝達部材14の下端部が嵌合して両者が結合されている。また、力伝達部材14の弾性変形時のばね定数は、薄膜弾性体13のばね定数よりも大きい値に設定されている。
【0048】
ここで、本実施の形態では、支持弾性体6の下面及び板ばね11の上面によって画成された部分に主流体室15が形成され、ダイアフラム4及び凹部5aによって画成された部分に副流体室16が形成されていて、これら主流体室15及び副流体室16間が、オリフィス構成体5に形成されたオリフィス5bを介して連通している。なお、これら主流体室15,副流体室16及びオリフィス5b内には、エチレングリコール等の流体が封入されている。
【0049】
かかるオリフィス5bの流路形状等で決まる流体マウントとしての特性は、走行中のエンジンシェイク発生時、つまり5〜15Hzで能動型エンジンマウント1が加振された場合に高動ばね定数、高減衰力を示すように調整されている。
【0050】
そして、電磁アクチュエータ10の励磁コイル10Bは、コントローラ25からハーネス23aを通じて供給される電流である駆動信号yに応じて所定の電磁力を発生するようになっている。コントローラ25は、マイクロコンピュータ,必要なインタフェース回路,A/D変換器,D/A変換器,アンプ、ROM,RAM等の記憶媒体等を含んで構成され、アイドル振動やこもり音振動・加速時振動が車体35に入力されている場合には、その振動を低減できる能動的な支持力が能動型エンジンマウント1に発生するように、能動型エンジンマウント1に対する駆動信号yを生成し出力するようになっている。
【0051】
ここで、アイドル振動やこもり音振動は、例えばレシプロ4気筒エンジンの場合、エンジン回転2次成分のエンジン振動が車体35に伝達されることが主な原因であるから、そのエンジン回転2次成分に同期して駆動信号yを生成し出力すれば、車体側振動の低減が可能となる。そこで、本実施の形態では、エンジン30のクランク軸の回転に同期した(例えば、レシプロ4気筒エンジンの場合には、クランク軸が180度回転する度に一つの)インパルス信号を生成し基準信号xとして出力するパルス信号生成器26を設けていて、その基準信号xが、エンジン30における振動の発生状態を表す信号としてコントローラ25に供給されるようになっている。
【0052】
一方、電磁アクチュエータ10のヨーク10Aの下端面と、アクチュエータケース8の底面を形成する平板部材8aの上面との間に挟み込まれるように、エンジン30から支持弾性体6を通じて伝達する加振力を検出する荷重センサ22が配設されていて、荷重センサ22の検出結果がハーネス23bを通じて残留振動信号eとしてコントローラ25に供給されるようになっている。荷重センサ22としては、具体的には、圧電素子,磁歪素子,歪ゲージ等が適用可能である。
【0053】
また、例えば変速機の出力側の回転数に基づいて車速を検出する車速センサ28が設けられていて、その車速センサ28が検出した車速検出信号Vが、コントローラ25に供給されるようになっている。
【0054】
そして、コントローラ25は、供給される残留振動信号e及び基準信号xに基づき、逐次更新型の適応アルゴリズムの一つである同期式Filtered−XLMSアルゴリズムを実行することにより、能動型エンジンマウント1に対する駆動信号yを演算し、その駆動信号yを能動型エンジンマウント1に出力するようになっている。
【0055】
具体的には、コントローラ25は、フィルタ係数Wi (i=0,1,2,…,I−1:Iはタップ数)可変の適応ディジタルフィルタWを有していて、最新の基準信号xが入力された時点から所定のサンプリング・クロックの間隔で、その適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数Wi を順番に駆動信号yとして出力する一方、基準信号x及び残留振動信号eに基づいて適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数Wi を適宜更新する処理を実行するようになっている。
【0056】
適応ディジタルフィルタWの更新式は、Filtered−X LMSアルゴリズムに従った下記の(1)式のようになる。
Wi (n+1)=Wi (n)−μRT e(n) ……(1)
ここで、(n),(n+1)が付く項はサンプリング時刻n,n+1における値であることを表し、μは収束係数である。また、更新用基準信号RT は、理論的には、基準信号xを、能動型エンジンマウント1の電磁アクチュエータ10及び荷重センサ22間の伝達関数Cを有限インパルス応答型フィルタでモデル化した伝達関数フィルタC^でフィルタ処理した値であるが、基準信号xの大きさは“1”であるから、伝達関数フィルタC^のインパルス応答を基準信号xに同期して次々と生成した場合のそれらインパルス応答波形のサンプリング時刻nにおける和に一致する。
【0057】
また、理論的には、基準信号xを適応ディジタルフィルタWでフィルタ処理して駆動信号yを生成するのであるが、基準信号xの大きさが“1”であるため、フィルタ係数Wi を順番に駆動信号yとして出力しても、フィルタ処理の結果を駆動信号yとしたのと同じ結果になる。
【0058】
さらに、コントローラ25は、上記のような適応ディジタルフィルタWを用いた振動低減処理内においては、駆動信号yとして出力されるフィルタ係数Wi の交流成分が所定の規制値Wmax を越えないように、全てのフィルタ係数Wi の交流成分に同じ補正係数β(0<β≦1)を乗じて一定比率でこれを縮小するというフィルタ係数調整処理も実行するようになっている。
【0059】
このようなフィルタ係数調整処理は、基本的には、適宜更新されるフィルタ係数Wi をそのまま駆動信号yとして出力する構成では、電磁アクチュエータ10の特性や搭載しているバッテリの容量等で決まる出力可能な上限値を駆動信号yが越えてしまった場合に、上限値を越えた駆動信号yが強制的に上限値に修正されてしまうのに対し、上限値を越えない駆動信号yはそのまま出力されるため、駆動信号yには実際には存在しない高調波成分が重畳されたことと等価になって振動低減制御を劣化させる原因となるからである。
【0060】
フィルタ係数Wi の規制値Wmax は、通常は初期値Wint に設定されている。初期値Wint は、電磁アクチュエータ10の特性や搭載しているバッテリの容量等から決まる駆動信号yとして出力可能な範囲の最大値である。
【0061】
そして、本実施の形態では規制値Wmax は可変となっている。具体的には、振動低減制御に対して実質的に並列に、規制値Wmax を設定する規制値設定処理が実行されるようになっていて、かかる規制値設定処理では、残留振動信号eと車速Vとに基づいて規制値Wmax を設定するようになっている。
【0062】
次に、本実施の形態の動作を説明する。
即ち、エンジンシェイク発生時には、オリフィス5bの流路形状等を適宜選定している結果、この能動型エンジンマウント1は高動ばね定数、高減衰力の支持装置として機能するため、エンジン30側で発生したエンジンシェイクが能動型エンジンマウント1によって減衰されるとともに、図示しない他の流体封入式エンジンマウント等によってもエンジンシェイクは減衰されるから、車体35側の振動レベルが低減される。なお、エンジンシェイクに対しては、特に可動板12を積極的に変位させる必要はない。
【0063】
一方、オリフィス5b内の流体がスティック状態となり主流体室15及び副流体室16間での流体の移動が不可能になるアイドル振動周波数以上の周波数の振動が入力された場合には、コントローラ25は、所定の演算処理を実行し、電磁アクチュエータ10に駆動信号yを出力し、能動型エンジンマウント1に振動を低減し得る能動的な支持力を発生させる。
【0064】
これを、アイドル振動,こもり音振動入力時にコントローラ25内で実行される処理の概要を示すフローチャートである図3に従って具体的に説明する。
先ず、そのステップ101において所定の初期設定が行われた後に、ステップ102に移行し、伝達関数フィルタC^に基づいて更新用基準信号RT が演算される。なお、このステップ102では、一周期分の更新用基準信号RT がまとめて演算される。
【0065】
そして、ステップ103に移行しカウンタiが零クリアされた後に、ステップ104に移行して、適応ディジタルフィルタWのi番目のフィルタ係数Wi が駆動信号yとして出力される。
【0066】
ステップ104で駆動信号yを出力したら、ステップ105に移行し、残留振動信号eが読み込まれる。そして、ステップ106に移行して、カウンタjが零クリアされ、次いでステップ107に移行し、適応ディジタルフィルタWのj番目のフィルタ係数Wj が上記(1)式に従って更新される。
【0067】
ステップ107における更新処理が完了したら、ステップ108に移行し、次の基準信号xが入力されているか否かを判定し、ここで基準信号xが入力されていないと判定された場合は、適応ディジタルフィルタWの次のフィルタ係数の更新又は駆動信号yの出力処理を実行すべく、ステップ109に移行する。
【0068】
ステップ109では、カウンタjが、出力回数Ty (正確には、カウンタjは0からスタートするため、出力回数Ty から1を減じた値)に達しているか否かを判定する。この判定は、ステップ104で適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数Wi を駆動信号yとして出力した後に、適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数Wi を、駆動信号yとして必要な数だけ更新したか否かを判断するためのものである。そこで、このステップ109の判定が「NO」の場合には、ステップ110でカウンタjをインクリメントした後に、ステップ107に戻って上述した処理を繰り返し実行する。
【0069】
しかし、ステップ109の判定が「YES」の場合には、適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数のうち、駆動信号yとして必要な数のフィルタ係数の更新処理が完了したと判断できる。そこで、ステップ200に移行し、適応ディジタルフィルタWの全てのフィルタ係数W* が規制値Wmax を越えないようにするためのフィルタ係数調整処理を実行する。かかるフィルタ係数調整処理については後述する。そして、ステップ200からステップ111に移行し、カウンタiをインクリメントした後に、上記ステップ104の処理を実行してから所定のサンプリング・クロックの間隔に対応する時間が経過するまで待機し、サンプリング・クロックに対応する時間が経過したら、上記ステップ104に戻って上述した処理を繰り返し実行する。
【0070】
一方、ステップ108で基準信号xが入力されたと判断された場合には、ステップ112に移行し、カウンタi(正確には、カウンタiが0からスタートするため、カウンタiに1を加えた値)を最新の出力回数Ty として保存した後に、ステップ102に戻って、上述した処理を繰り返し実行する。
【0071】
このような図3の処理を繰り返し実行する結果、コントローラ25から能動型エンジンマウント1の電磁アクチュエータ10に対しては、基準信号xが入力された時点から、サンプリング・クロックの間隔で、適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数Wi が順番に駆動信号yとして供給される。
【0072】
この結果、励磁コイル10Bに駆動信号yに応じた磁力が発生するが、磁路部材12には、既に永久磁石10Cによる一定の磁力が付与されているから、その励磁コイル10Bによる磁力は永久磁石10Cの磁力を強める又は弱めるように作用すると考えることができる。つまり、励磁コイル10Bに駆動信号yが供給されていない状態では、磁路部材12は、板ばね11による支持力と、永久磁石10Cの磁力との釣り合った中立の位置に変位することになる。そして、この中立の状態で励磁コイル10Bに駆動信号yが供給されると、その駆動信号yによって励磁コイル10Bに発生する磁力が永久磁石10Cの磁力と逆方向であれば、磁路部材12は電磁アクチュエータ10とのクリアランスが増大する方向に変位する。逆に、励磁コイル10Bに発生する磁力が永久磁石10Cの磁力と同じ方向であれば、磁路部材12は電磁アクチュエータ10とのクリアランスが減少する方向に変位する。
【0073】
このように磁路部材12は正逆両方向に変位可能であり、磁路部材12が変位すれば主流体室15の容積が変化し、その容積変化によって支持弾性体6の拡張ばねが変形するから、この能動型エンジンマウント1に正逆両方向の能動的な支持力が発生するのである。
【0074】
そして、駆動信号yとなる適応ディジタルフィルタWの各フィルタ係数Wi は、同期式Filtered−X LMSアルゴリズムに従った上記(1)式によって逐次更新されるため、ある程度の時間が経過して適応ディジタルフィルタWの各フィルタ係数Wi が最適値に収束した後は、駆動信号yが能動型エンジンマウント1に供給されることによって、エンジン30から能動型エンジンマウント1を介して車体35側に伝達されるアイドル振動やこもり音振動が低減されるようになるのである。
【0075】
以上は車両走行時等に実行される振動低減処理の動作である。
一方、図3のステップ200のフィルタ係数調整処理が実行されると、図4に示すように、先ずステップ201において、適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数W* からなる数列に含まれている直流成分が一旦除去され、次いでステップ202に移行し、直流成分が除去された各フィルタ係数W* のいずれか一つでも規制値Wmax を越えているか否かを判定する。
このステップ202の判定が「NO」の場合には、フィルタ係数W* をそのまま駆動信号yとして出力しても構わないと判断し、ステップ203、204の処理は実行せずに図3の処理に復帰する。
【0076】
一方、ステップ202の判定が「YES」の場合には、フィルタ係数W* の調整が必要であると判断し、ステップ203に移行する。ステップ203では、補正係数βを0を越え1未満の値に設定する。具体的には、補正係数βは、これを各フィルタ係数W* に乗じた結果の最大値が、規制値Wmax を越えることなくその規制値Wmax と略等しくなるような値に設定することが望ましく、補正係数βを乗じる前のフィルタ係数W* の最大値をW*maxとすれば、補正値βは、
β=Wmax /W*max
とすればよい。
【0077】
そして、ステップ204に移行し、補正係数βを各フィルタ係数W* に乗じて新たなフィルタ係数W* を演算し(W* =βW* )、その演算された新たなフィルタ係数W* からなる数列で適応ディジタルフィルタWを置き換えて図3の処理に復帰する。
【0078】
このようなフィルタ係数調整処理が実行されれば、フィルタ係数W* の交流成分が規制値Wmax を越えている場合にはそれが一定の比率で縮小されることになるから、駆動信号yとして出力されるフィルタ係数W* に不要な高調波成分が重畳されて振動低減制御の精度低下を招くことなく、フィルタ係数W* を適宜調整することができる。
【0079】
さらに、コントローラ25内では所定の割り込み間隔(例えば、振動低減処理のサンプリング・クロックに同期した割り込み間隔)で図5に示す規制値設定処理が実行され、先ずそのステップ301において車速センサ28から供給される車速検出信号Vを読み込み、これを車速Vとして記憶する。次いで、ステップ302に移行し、車速Vが所定値V0 以下であるか否かを判定し、かかる判定が「YES」の場合には、規制値Wmax を初期値Wint に設定するためにステップ307に移行して、今回のこの処理を終了する。
【0080】
これに対し、ステップ302の判定が「NO」の場合には、ステップ303に移行し、現在の残留振動信号e(n)を読み込み、次いでステップ304に移行し、残留振動信号eをバンドパス・フィルタ処理して所定の周波数成分P(n)を演算する。かかるバンドパス・フィルタ処理の中心周波数は、車両のばね下共振周波数に一致又は略一致させ、周波数成分P(n)がばね下共振周波数近傍の周波数成分となるようにする。
【0081】
そして、ステップ305に移行し、現時点の周波数成分P(n)と過去三回の図5の処理で演算した周波数成分P(n−1)、P(n−2)、P(n−3)とを加算して一定期間内の積算値σP (=P(n)+P(n−1)+P(n−2)+P(n−3))を演算する。
【0082】
次いで、ステップ306に移行し、現在の積算値σP が所定のしきい値αを越えているか否かを判断し、この判断が「YES」の場合には、エンジン30以外から車体35に伝達される振動のレベルが大きい状況であると判断し、ステップ308に移行して、現在の規制値Wmax から単位減少値ΔWを減じた値を新たなWmax (=Wmax −ΔW)とし、これで今回の図5の処理を終了する。
【0083】
これに対し、ステップ306の判定が「NO」の場合には、ステップ307に移行する。ステップ307では、現時点の規制値Wmax の値に関係なく、規制値Wmax を直ちに初期値Wint に設定する。ステップ307の処理を終えたら、今回の図5の処理を終了する。
【0084】
今、走行中の車両が舗装された良路から未舗装の悪路に移行したとすると、路面から車輪やサスペンション等を通じて車体35に路面振動が入力され、それが残留振動信号eに含まれるようになる。すると、図5のステップ304で演算される周波数成分Pは、図6(a)に示すように良路から悪路に移行した時点t0 を境に徐々に大きくなり、積算値σP も図6(b)に示すように徐々に大きくなるが、積算値σP がしきい値αを越えるまでの間は、図6(c)に示すように、規制値Wmax は初期値Wint のままである。
【0085】
悪路が直ぐに終了して良路に移行してしまえば、車体35に伝達される路面振動は低くなるから、周波数成分Pは小さくなり、その積算値σP もしきい値αを越えることなく縮小に向かう。そのため、規制値Wmax は初期値Wint から減少することはないから、駆動信号yが低く抑えられるようなことはなく、通常通りに振動低減制御が実行される。
【0086】
しかし、悪路走行が継続し、周波数成分Pが図6(a)の時刻t3 〜t6 に示すようにある程度の大きさになると、積算値σP も増大し、例えば図6(b)の時刻t5 においてしきい値αを越えるようになる。すると、積算値σP がしきい値αを越えている間は、ステップ306の判定が「YES」となってステップ308の処理が実行される結果、規制値Wmax は、単位減少値ΔWの幅で徐々に縮小される。
【0087】
規制値Wmax が徐々に小さくなると、図4の処理が実行される結果、フィルタ係数W* の値が徐々に縮小方向に調整されるようになるから、駆動信号y自体が低く抑えられるようになり、能動型エンジンマウント1で発生する制御振動のレベルが小さくなる。
【0088】
その結果、振動低減制御による振動低減の効果代は低減し、その分は車体35側の振動レベルが増大することになるが、かかる状況では、路面から車体35に入力される振動のレベルが過大であるため、効果代の低減分は全体から見て僅かであり、乗員の不快感を増大させる可能性は極めて低い。
【0089】
これに対し、駆動信号yが低く抑えられれば、それだけ能動型エンジンマウント1における消費電力が少なくて済むようになり、能動型エンジンマウント1を搭載したことによる車両の燃費悪化代を低減することができるようになる。
【0090】
かかる状況から車両が良路に移行したとすると、図6(a)の時刻t6 以降のように周波数成分Pは徐々に低下し、それに伴って積算値σP も図6(b)の時刻t7 以降のように徐々に減少する。そして、時刻t9 において積算値σP がしきい値αを下回ったとすると、ステップ306の判定が「NO」となってステップ307に移行するようになるから、図6(c)の時刻t9 に示すように、規制値Wmax は、直ちに初期値Wint に戻ることになる。
【0091】
このため、駆動信号yを低く抑えていた悪路から良路に移行した場合には、即座に駆動信号yを低く抑えていたことが禁止されるから、通常通りの振動低減制御が実行され、エンジン30から車体35に伝達される振動が低減されて車室内振動・騒音の低減が図られる。
【0092】
また仮に、駆動信号yが低く抑えられていた状況であったとしても、車両が減速して車速Vが所定値V0 以下になったとすると、ステップ302の判定が「YES」となってステップ307に移行するから、即座に駆動信号yを低く抑えていたことが禁止されるから、通常通りの振動低減制御が実行される。即ち、車速Vが低くなれば、走行路面から伝達される振動のレベルも低くなり、まもなく車体35の路面振動も収束するはずであるから、周波数成分Pの値に関係なく通常通りの振動低減制御を実行することが望ましいのである。そして、車速Vが所定値V0 以下である限り、ステップ307の処理が実行されるから、駆動信号yが低く抑えられる状況に移行することはない。
【0093】
このように本実施の形態にあっては、振動低減制御を実行する一方で、フィルタ係数W* の大きさを規制する処理に用いられる規制値Wmax を、車体35に伝達される路面振動が大きい状況では縮小させる処理を実行するようになっているから、乗員に大きな不快感を与える可能性を低く抑えつつ、車両の燃費悪化代を低減することができるのである。
【0094】
しかも、車体35に伝達される路面振動が大きい状況か否かの判断を、残留振動信号eに基づいて行うようにしているから、別途センサを設ける必要もないから、コスト的にも有利である。また、かかる判断も、残留振動信号e全体に基づくのではなく、その残留振動信号eに含まれるばね下共振周波数近傍の成分に基づいて行うようになっているから、残留振動信号eに含まれる各成分のうち、路面からばね下部材を通じて車体35に伝達されている振動を略正確に抽出して判断に用いることができる。
【0095】
さらに、規制値Wmax も、図6(c)に示すように、縮小させるときには徐々に変化させ、初期値Wint に戻すときには即座に戻すようにしているから、駆動信号yを低く抑える処理を実行することにより乗員に与える不快感を増大させる可能性を極めて低くできる。
【0096】
ここで、本実施の形態にあっては、加重センサ22が車体振動検出手段に対応し、パルス信号生成器26及び図3のステップ101〜112の処理が制御手段に対応し、図4に示す処理が駆動信号調整手段に対応し、図5のステップ303〜306の処理が路面入力判断手段に対応し、ステップ301、302、307、308の処理が規制値変更手段に対応し、車速センサ28が車速検出手段に対応し、初期値Wint が初期設定値に対応する。
【0097】
図7及び図8は本発明の第2の実施の形態を示す図であって、図7は本発明に係る車両用能動型振動制御装置を適用した車両の概略側面図であり、図8は規制値設定処理の概要を示すフローチャートである。なお、振動低減処理やフィルタ係数調整処理の内容は上記第1の実施の形態と同様であるため、その図示及び重複する説明は省略するとともに、上記第1の実施の形態と同様の構成及び処理には同じ符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0098】
即ち、本実施の形態にあっては、車両のばね下部材を構成するサスペンション部材の適所には、ばね下の上下方向の振動を検出するための加速度センサ29が固定されていて、その加速度センサ29が検出した加速度検出信号gがコントローラ25に供給されるようになっている。
【0099】
そして、コントローラ25内で規制値設定処理が実行され、ステップ302の判定が「NO」となると、ステップ401に移行し、基準信号xの入力周期に基づいて、エンジン30で発生する振動の基本周波数f0 を検出するようになっている。基本周波数f0 は、エンジン30での燃焼タイミングの周波数に等しく、燃焼タイミングは結局は基準信号xに同期しているから、基準信号xの周波数がそのまま基本周波数f0 となる。
【0100】
次いで、ステップ402に移行し、加速度センサ29から供給される加速度検出信号gを読み込み、その加速度検出信号gを、ステップ403においてバンドパス・フィルタ処理して周波数成分Pを抽出する。ただし、このステップ403におけるバンドパス・フィルタ処理の中心周波数は、上記第1の実施例とは異なり、ステップ401で抽出した基本周波数f0 に設定する。従って、周波数成分Pは、路面からばね下に入力される振動のうち、基本周波数f0 近傍の周波数成分となる。
【0101】
そして、ステップ404に移行し、周波数成分Pが所定のしきい値P0 を越えているか否かを判定し、判定が「NO」の場合にはステップ307に移行する一方、判定が「YES」の場合にはステップ308に移行する。
【0102】
つまり、本実施の形態にあっては、路面振動に含まれる基本周波数f0 近傍の周波数成分の大きさに基づいて、車体35の振動のレベルが大きい状況であるか否かを判断するようになっているが、これは、路面振動の基本周波数f0 近傍の周波数成分が大きければ、乗員は、その基本周波数f0 と同じ周波数の路面振動を感じている筈であり、能動型エンジンマウント1による振動低減効果が多少低下したとしても、そもそもエンジン30から車体35に伝達されていた振動は、路面振動にマスキングされているため、乗員の不快感を大きく増大させる可能性は低いからである。つまり、加速度検出信号gを、中心周波数を基本周波数f0 に設定したバンドパス・フィルタで処理することにより抽出した周波数成分Pに基づいた判断を行うため、駆動信号yを低く抑えても乗員に不快感を与えない状況をより正確に判断できるのである。
【0103】
車両の燃費悪化代が低減する等のその他の作用効果は、上記第1の実施の形態と同様である。
ここで、本実施の形態にあっては、パルス信号生成器26及びステップ401の処理によって基本周波数検出手段が構成され、加速度センサ29及びステップ402〜404の処理によって路面入力判断手段が構成される。
【0104】
なお、上記第1の実施の形態では、特に悪路を走行する場合を例に動作を説明したが、車体35の路面振動のレベルが大きくなるのは悪路走行時に限定されるものではなく、例えば、高速道路を走行する際に、高速道路の目地を通過する度に入力される振動の周波数が、速度との関係でばね下共振周波数近傍になる場合があり、そのような場合にも車体35の路面振動のレベルが大きくなる可能性があり、本発明は有効である(請求項5に係る発明又は請求項6に係る発明の一例となる。)。
【0105】
また、上記第1の実施の形態にあっては、加重センサ22の出力に基づいて、車体35の路面振動のレベルが大きい状況であるか否かを判断するようになっているが、これに限定されるものではなく、上記第2の実施の形態と同様に、ばね下部材の振動を検出する加速度センサ29が出力する加速度検出信号gに基づいてもよい。
【0106】
さらに、上記各実施の形態では、駆動信号yを同期式Filtered−X LMSアルゴリズムに従って生成しているが、適用可能なアルゴリズムはこれに限定されるものではなく、通常のFiltered−X LMSアルゴリズムであってもよいし、周波数領域のLMSアルゴリズムであってもよい。また、系の特性が安定しているのであれば、LMSアルゴリズム等の適応アルゴリズムを用いることなく、基準信号xに応じた通常のフィードフォワード制御と残留振動信号eに応じた通常のフィードバック制御とを組み合わせた制御を行うようにしてもよい。その例としては、例えば、基準信号xを係数固定のディジタルフィルタ或いはアナログフィルタでフィルタ処理することにより駆動信号yを生成し、その位相のみを残留振動信号eが小さくなる方向に変化させる一方、駆動信号yの大きさを規制値Wmax に応じて適宜縮小するような制御が考えられる。
【0107】
そして、上記各実施の形態では、規制値設定処理を実行する際に、残留振動信号eや加速度検出信号gをソフト的に実現されているバンドパス・フィルタで処理するようになっているが、かかるバンドパス・フィルタは電子回路等によってアナログフィルタとして実現するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施の形態を示す車両の概略側面図である。
【図2】能動型エンジンマウントの一例を示す断面図である。
【図3】コントローラ内で実行される振動低減処理を示すフローチャートである。
【図4】コントローラ内で実行されるフィルタ係数調整処理を示すフローチャートである。
【図5】コントローラ内で実行される規制値設定処理を示すフローチャートである。
【図6】第1の実施の形態の動作を説明する波形図である。
【図7】第2の実施の形態を示す車両の概略側面図である。
【図8】第2の実施の形態のコントローラ内で実行される規制値設定処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1 能動型エンジンマウント
22 加重センサ(車体振動検出手段)
25 コントローラ
26 パルス信号生成器
28 車速センサ(車速検出手段)
29 加速度センサ
30 エンジン
35 車体
Claims (10)
- パワーユニット及び車体間に介在し且つ能動的な支持力を発生可能な能動型エンジンマウントと、前記車体の振動を検出する車体振動検出手段と、前記車体振動検出手段が検出する前記車体の振動が低減するように前記パワーユニットの振動発生状況に基づいて前記能動型エンジンマウントを駆動制御する制御手段と、を備えた車両用能動型振動制御装置において、
前記パワーユニット以外から前記車体に伝達される振動のレベルが所定のしきい値を超えている状況では、前記制御手段が前記能動型エンジンマウントに供給する駆動信号のレベルを低く抑えるようになっていることを特徴とする車両用能動型振動制御装置。 - パワーユニット及び車体間に介在し且つ能動的な支持力を発生可能な能動型エンジンマウントと、前記車体の振動を検出する車体振動検出手段と、前記車体振動検出手段が検出する前記車体の振動が低減するように前記パワーユニットの振動発生状況に基づいて前記能動型エンジンマウントを駆動制御する制御手段と、を備えた車両用能動型振動制御装置において、
前記制御手段から前記能動型エンジンマウントに供給される駆動信号が所定の規制値を越えないように調整する駆動信号調整手段と、走行路面から前記車体に伝達される路面振動のレベルが所定のしきい値を超えているときに当該路面振動のレベルが大きい状況であると判断する路面入力判断手段と、前記路面入力判断手段が前記路面振動のレベルが大きい状況であると判断した場合に前記規制値を縮小方向に変更する規制値変更手段と、を設けたことを特徴とする車両用能動型振動制御装置。 - 前記路面入力判断手段は、前記車体振動検出手段の出力信号に基づいて前記路面振動のレベルが大きい状況であるか否かを判断するようになっている請求項2記載の車両用能動型振動制御装置。
- 前記路面入力判断手段は、前記路面振動の所定周波数の成分に基づいて前記路面振動のレベルが大きい状況であるか否かを判断するようになっている請求項2又は請求項3記載の車両用能動型振動制御装置。
- 前記所定周波数は、前記車両のばね下共振周波数である請求項4記載の車両用能動型振動制御装置。
- 前記パワーユニットから前記車体に伝達されている振動の基本周波数を検出する基本周波数検出手段を有し、所定周波数は、前記基本周波数検出手段が検出した前記振動の基本周波数である請求項4記載の車両用能動型振動制御装置。
- 前記路面入力判断手段は、前記所定周波数の成分が所定のしきい値を越えている場合に前記路面振動のレベルが大きい状況であると判断するようになっている請求項4乃至請求項6のいずれかに記載の車両用能動型振動制御装置。
- 車速を検出する車速検出手段を有し、前記規制値変更手段は、前記車速検出手段が検出した前記車速が所定値以下の場合には、縮小方向に変更していた前記規制値を初期設定値に戻すとともに、前記規制値の変更を禁止するようになっている請求項2乃至請求項7のいずれかに記載の車両用能動型振動制御装置。
- 前記規制値変更手段は、前記路面入力判断手段が前記路面振動のレベルが大きい状況であると判断した場合に、前記規制値を縮小方向に徐々に変更するようになっている請求項2乃至請求項8のいずれかに記載の車両用能動型振動制御装置。
- 前記規制値変更手段は、前記路面入力判断手段が前記路面振動のレベルが大きい状況ではないと判断した場合に、縮小方向に変更していた前記規制値を直ちに初期設定値に戻すようになっている請求項2乃至請求項9のいずれかに記載の車両用能動型振動制御装置。
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