JP3824483B2 - 芳香族カルボン酸とその酸塩化物、および合成法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高分子、特に耐熱性の高い縮合系高分子の原料として有用な芳香族カルボン酸およびその酸塩化物誘導体、並びにそれらの合成法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一分子に2つのカルボキシル基を有する芳香族カルボン酸およびその酸塩化物は、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾチアゾール樹脂などの原料として用いられ、その用途に応じて様々な構造を有する樹脂が合成され、使用されている。
一方これらの樹脂は一般に熱可塑性の高分子であるが、高い耐熱性を有しており、高温にさらされる用途に多く用いられている。そしてより耐熱性を高める手段として、熱硬化可能な置換基を導入する試みがなされているが、それに用いる原料が要望されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記用途に適した芳香族カルボン酸およびその酸塩化物誘導体、並びにそれらの合成法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は一般式(1)で表される芳香族カルボン酸および一般式(2)で表される前記カルボン酸の酸塩化物誘導体。
【0005】
【化7】
(式中、Xは、水素、アルキル基又は芳香族基を表す。)
【0006】
【化8】
(式中、Xは、水素、アルキル基又は芳香族基を表す。)
【0007】
又、本発明は、一般式(3)で表される化合物と、一般式(4)で表される化合物とを反応させて得られた一般式(5)で表される化合物を、アルカリ金属水酸化物存在下で処理することにより一般式(6)で表される化合物を生成させ、更に、酸処理することにより得られることを特徴とする一般式(1)で表される芳香族カルボン酸の合成法であり、好ましくは、一般式(3)で表される化合物と、一般式(4)で表される化合物との反応において、遷移金属触媒を用いることを特徴とする合成法である。
【0008】
【化9】
(式中、Yは脱離基を表す。)
【0009】
【化10】
(式中、X1はトリメチルシリル基、ヒドロキシプロピル基、アルキル基又は芳香族基を表す。)
【0010】
【化11】
(式中、X1はトリメチルシリル基、ヒドロキシプロピル基、アルキル基又は芳香族基を表す。)
【0011】
【化12】
(式中、Xは水素、アルキル基又は芳香族基を、Mはアルカリ金属を表す。)
【0012】
更に、本発明は、前記合成法において得られる、一般式(6)で表される化合物又は一般式(1)で表される化合物を、塩素化剤で処理することにより得られることを特徴とする一般式(2)で表される芳香族カルボン酸の酸塩化物誘導体の合成法である。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の一般式(1)で表される芳香族カルボン酸および一般式(2)で表されるその酸塩化物誘導体は、例えば、以下のルートによって合成することが出来る。
【0014】
【化13】
式(3)中のYは脱離基を、式(4)及び式(5)中のX1はトリメチルシリル基、ヒドロキシプロピル基、アルキル基又は芳香族基を、式(1)、式(2)及び式(6)中のXは水素、アルキル基又は芳香族基を、また、式(6)中のMはアルカリ金属を表す。
【0015】
まず、出発原料として、式(3)で示される、ベンゼン環上の第5位脱離基Yで置換されたイソフタル酸のメチルエステル化合物と、アセチレンの片側がX1基で置換された化合物(式(4))でカップリング反応させることによって式(5)で示される化合物が得られる。前記カップリング反応において、触媒を用いると良いが、例えば、パラジウムなどの遷移金属触媒を用いる。ただし、この時、前記脱離基Yとしては、触媒下のカップリング反応で容易にアルキル基や芳香環から脱離する基が好ましく、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン、トリフロオロメタンスルホニロキシ基等が好ましく挙げられる。また、置換基X1としては保護基として働く基が挙げられ、この場合、好ましくはトリメチルシリル基、ヒドロキシプロピル基等が選ばれ、また、置換基X1としては芳香族基またはアルキル基が挙げられ、芳香族基としてはフェニル基、ナフチル基、アントリル基、キノキル基、キノキサリル基等が挙げられる。
【0016】
次に、この化合物を塩基性アルカリ金属水酸化物を用いてアセチル基から脱メチル反応を行い、また、式(5)で表される化合物においてX1基が保護基である場合は脱保護を同時に行い、式(6)で表されるイソフタル酸誘導体のアルカリ金属塩が得られる。
【0017】
更に、式(6)で表されるイソフタル酸誘導体のアルカリ金属塩を酸処理することによって式(1)で表される芳香族カルボン酸を、また塩素化剤で処理することによって式(2)で表される酸塩化物誘導体を得ることが出来る。
【0018】
式(3)で示されるベンゼン環上の第5位がYで置換されたイソフタル酸は、脱離基Yがトリフルオロメタンスルホニロキシ基の場合、5−ヒドロキシイソフタル酸ジメチル(式(7))をトリフルオロメタンスルホン酸無水物(式(8))でエステル化する事によって、5−トリフルオロメタンスルホニロキシイソフタル酸ジメチル(式(3’))が得られる。
【0019】
【化14】
【0020】
しかしながら、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(式(8))が高価であり、また禁水の条件下で使用するなど、取り扱いに注意を要する。ここで、5−アミノイソフタル酸(式(9))を原料に用い、ジアゾニウム塩(式(10))を経由して進行するSandmeyer反応を行うことにより、式(11)で示される脱離基Yがハロゲンであるイソフタル酸を合成することができる。続けてカルボン酸をメタノールでメチルエステル化することで、式(3)で示される脱離基Yがハロゲンであるイソフタル酸ジメチル(式(3))を安価かつ容易に得ることができる。
【0021】
【化15】
【0022】
以下、製造法の例について説明する。
5−ブロモイソフタル酸ジメチル(式(3)においてY=Br))を用いた例としては、まず、5−ブロモイソフタル酸ジメチルは、5−アミノイソフタル酸(式(9))と臭化水素酸、および亜硝酸ナトリウムとを反応させることによりジアゾニウム臭酸塩(式(10))を得る。これを臭化第一銅と反応させることにより窒素ガスが発生し、5−ブロモイソフタル酸(式(11))が得られる。続けて、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気化において、硫酸等の酸性触媒存在化、メタノールを加えて還流させることにより、メタノールとカルボン酸がエステル化反応し、5−ブロモイソフタル酸ジメチルが得られる。このとき、メタノールの量は反応の平衡を生成物側に移動させるために大過剰で用いる方が望ましい。また、系中の水分量を少なくするために、あらかじめメタノールは蒸留しておいたほうが良い。
【0023】
また、5−トリフルオロメタンスルホニロキシ イソフタル酸ジメチル(式(3)においてY=トリフルオロメタンスルホニロキシ基)を用いる場合は、まず、5−ヒドロキシイソフタル酸ジメチル(式(7))と塩基とを溶媒に溶解し、−78℃〜10℃に冷却した溶液に、トリフルオロメタンスルホン酸無水物を加え、0℃ないし、溶媒の沸点以下の温度範囲で反応させる。この時、反応時間は特に制限されない。また、前記反応において、トリフルオロメタンスルホン酸無水物の添加前に、冷却を行うのは、反応が発熱反応であるためであり、これ以上の温度では、反応が急激に進行し、溶媒が突沸する等の危険性があるためである。
このようにして得られた反応生成物に、通常の分離手段、例えば抽出、分液、濃縮等の操作を施すことにより、5−トリフルオロメタンスルホニロキシイソフタル酸ジメチルを得ることが出来る。
また、これを必要に応じて、再結晶、カラムクロマトグラフィー等により精製することが出来る。
【0024】
トリフルオロメタンスルホン酸無水物の使用量としては、5−ヒドロキシイソフタル酸ジメチルに対して、1〜1.5当量倍が好ましい。
【0025】
塩基としては、3級アミンで活性水素を有さないアミンが好ましく、具体例としてはピリジン、メチルピリジン等のピリジン類、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のトリアルキルアミン類が挙げられ、これらの使用量は、5−ヒドロキシイソフタル酸ジメチルとトリフルオロメタンスルホン酸無水物の合計量に対して、1〜1.5当量倍を用いることが好ましい。
【0026】
溶媒としては、ベンゼン、トルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、1,2−ジクロロメタン、クロロホルム等の芳香族炭化水素、炭化水素、エーテル、ハロゲン化炭化水素等の、反応に不活性な溶媒の単独、又はそれらの混合物が挙げられ、その使用量については、特に制限はない。
また、溶媒中に水分が存在すると、反応試薬であるトリフルオロメタンスルホン酸無水物と副反応を起こし、実際の反応当量比が変わるため、無水の溶媒を用いるか、予め、含まれる水分量を把握して、使用量を調整して理論的な当量より多く仕込んでおくことが望ましい。
【0027】
次に、式(5)で表される化合物を得る方法としては、上記で得た5−ブロモイソフタル酸ジメチル又は5−トリフルオロメタンスルホニロキシ イソフタル酸ジメチルと式(4)で表されるアセチレンの片側が保護基X1、アルキル基または芳香族基X1で置換された化合物とを、触媒存在下で、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気中で、20〜150℃の温度範囲でカップリング反応することによって反応生成物が得られる。この時、反応時間は特に制限されない。このようにして得られた反応生成物に対して、濃縮、再沈殿等の分離操作を施すことにより、式(5)で表される化合物を得ることができ、これは必要に応じてカラムクロマトグラフィー、再結晶等により、精製することが出来る。
【0028】
式(4)で表されるアセチレンの片側が保護基X1で保護された化合物としては、保護基X 1 がアルカリ金属の水酸化物で脱保護出来る化合物であれば制限はないが、保護基X1がトリメチルシリル基であるトリメチルシリルアセチレンや、ヒドロキシプロピル基である3−メチル−1−ブチン−3−オールが好適である。式(4)で表される化合物は、式(3)で表される化合物に対して計算上は1当量倍で十分であるが、反応を完全に進行させるために1から2当量倍の範囲で添加量を調節すると良い。
【0029】
触媒系としては、通常炭素−炭素結合を形成しうる触媒系なら特に制限無く用いることが出来るが、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムとヨウ化銅およびトリフェニルホスフィンからなる触媒系を用いることが望ましい。ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムの添加量は、特に規定されないが、式(5)で表される化合物に対して、0.1から1mol%、トリフェニルホスフィンは、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに対して1から20当量倍、ヨウ化銅は1から5当量倍の間である。
【0030】
この反応に用いられる溶媒としては、発生する酸を捕捉して触媒反応を促進するためにアミン系の溶媒が用いられる。かかる溶媒としてはジエチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、トリブチルアミン等の3級アミン類、ピリジン、ピペリジン等の環状アミン類があげられる。これらの溶媒は単独、又は2種以上を組み合わせて用いられる。その使用量は、特に特定されないが原料に対して2から50重量倍を用いる。また、これらの溶媒は、副反応や触媒の失活等を防ぐためにあらかじめ蒸留しておくことが望ましい。
【0031】
次に、式(6)で表されるイソフタル酸誘導体のアルカリ金属塩を得る方法としては、式(5)で表される化合物を溶媒中、アルカリ金属水酸化物存在下で処理することによってアセチル基の脱メチル反応を行い、また、式(5)で表される化合物において、X基が、トリメチルシリル基、ヒドロキシプロピル基等の保護基の場合、エチニル基の脱保護も同時に行うことにより、反応生成物を得る。この時、反応温度および反応時間は、特に制限されないが、反応温度については、室温ないし溶媒の還流温度の範囲で行うと良い。得られた反応生成物を、冷却により析出した結晶を分離し、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒で洗浄し、その後、乾燥することで、式(6)で表されるイソフタル酸誘導体のアルカリ金属塩を得ることが出来る。
【0032】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが好ましく、添加量は、式(5)で表される化合物に対して3当量倍以上であり、これより多くても差し支えない。
【0033】
反応溶媒としては、アルカリ金属水酸化物と反応しうるエステル類以外であれば、特に制限はないが、アルカリ金属水酸化物の溶解性が高い、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒が好ましい。溶媒量は、特に制限されないが操作性の問題から、イソフタル酸ジメチルエステルに対して5から50重量倍を用いるのが良い。
【0034】
本発明の式(1)で表される芳香族カルボン酸は、上記で得られたイソフタル酸誘導体のアルカリ金属塩(式(6))を、水に溶解し、塩酸、硫酸、硝酸等の酸で、好ましくはpH1まで酸性化処理することによって、析出物を得て、これを濾取し、洗浄し、乾燥することにより得ることが出来る。この場合、強酸性下に長時間曝しておくと、エチニル部位が付加反応や重合等の副反応を受ける場合があるので、短時間で処理することが望ましい。
【0035】
本発明の式(2)で表される前記カルボン酸の酸塩化物誘導体は、上記で得られたイソフタル酸誘導体のアルカリ金属塩(式(6))を、溶媒中または、過剰量の塩素化剤を溶媒として用い、0〜70℃の温度範囲で反応させた後、溶媒を留去し、得られた固形物を溶媒で洗浄し、更に再結晶させることで、得ることが出来る。また、式(6)で表されるイソフタル酸誘導体アルカリ金属塩の代わりに、式(1)で表される芳香族カルボン酸を用いても良い。
【0036】
塩素化剤としては、塩化チオニル等が好ましいが、塩素化剤の使用量は、式(6)で表されるイソフタル酸誘導体のアルカリ金属塩に対して、2当量倍以上であり、特に上限はない。また、溶媒を用いない場合には、10当量倍以上の大過剰で用いても差し支えない。
【0037】
溶媒は、特に限定される物ではないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等の塩素化溶媒があげられる。これらは、式(6)で表されるイソフタル酸誘導体のアルカリ金属塩に対して、任意の量を使用できる。
【0038】
反応を促進するために、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン等の塩基を添加しても良い。
また、エチニル部位での重合を抑制するために、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル等の重合禁止剤を添加しても良い。
【0039】
【実施例】
以下に本発明を説明するために実施例を示すが、これによって本発明を限定するものではない。
【0040】
得られた化合物は特性評価のため、融点測定、1H−NMR、13C(1H)−NMR、MSの各種スペクトルの測定および元素分析を行った。各特性の測定条件は次のとおりとした。
【0041】
試験方法
(1)融点:セイコー電子製DSC−200型示差走査熱量計(DSC)を用い、10℃/min.の昇温速度により、測定した。
(2)核磁気共鳴スペクトル分析(1H−NMR、13C(1H)−NMR):日本電子製JNM−GSX400型を用いて測定した。1H−NMRは共鳴周波数400MHz、13C(1H )−NMRは共鳴周波数100MHzで、それぞれ測定した。測定溶媒は、5−エチニルイソフタル酸は重水素化溶媒である重水素化ジメチルスルホキシドDMSO−d6、5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸は重水素化溶媒である重水素化アセトン(CD3)2CO 、5−エチニルイソフタル酸塩化物、5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸塩化物は重水素化溶媒である重水素化クロロホルムCDCl3を、それぞれ用いた。
(3)赤外分光分析(IR):日本電子(株)製JIR−5500型を用いて、KBr錠剤法により測定した。
(4)質量分析(MS):日本電子(株)製JMS−700型を用いてフィールド脱着(FD)法で測定した。
(5)元素分析:炭素及び水素はPERKIN ELMER社製2400型を用いて、塩素はフラスコ燃焼滴定法で測定した。
【0042】
(実施例1)
[5−ヒドロキシイソフタル酸ジメチルから5−トリフルオロメタンスルホニロキシ イソフタル酸ジメチルの合成]
温度計、ジムロート冷却管、塩化カルシウム管、攪拌機を備えた4つ口の5リットルフラスコに、5−ヒドロキシイソフタル酸ジメチル190.0g(0.904mol)、脱水トルエン3リットル、脱水ピリジン214.7g(2.718mol)を仕込み、撹拌しながら−30℃まで冷却した。ここに無水トリフルオロメタンスルホン酸510.2g(1.808mol)を、温度が−25℃以上に上がらないように注意しながら、ゆっくりと滴下して添加した。この場合、滴下が終了するまでに1時間を要した。添加後、反応温度を0℃に昇温し1時間、さらに室温に昇温し5時間反応した。得られた反応混合物を4リットルの氷水に注ぎ、水層と有機層を分離した。更に水層を500mlのトルエンで2回抽出し、これを先の有機層とあわせた。この有機層を水3Lで2回洗浄し、無水硫酸マグネシウム100gで乾燥、濾過により無水硫酸マグネシウムを除去し、ロータリーエバポレーターでトルエンを留去、減圧乾燥する事によって、淡黄色固体の5―トリフルオロメタンスルホニロキシ イソフタル酸ジメチルを294.0g得た(収率95%)。この粗生成物をヘキサンで、再結晶する事によって白色針状晶を得、これを次の反応に用いた。
【0043】
[5−トリフルオロメタンスルホニロキシ イソフタル酸ジメチルから4−(3,5−ビス(メトキシカルボニル)フェニル)−2−メチル−3−ブチン−1−オールの合成]
温度計、ジムロート冷却管、窒素導入管、攪拌機を備えた4つ口の1リットルフラスコに、上記で得られた5―トリフルオロメタンスルホニロキシ イソフタル酸ジメチル125g(0.365mol)、トリフェニルホスフィン1.1g(0.00419mol)、ヨウ化銅0.275g(0.00144mol)、3−メチル−1−ブチン−3−オール33.73g(0.401mol)を仕込み、窒素を流した。脱水トリエチルアミン375mlおよび脱水ピリジン200mlを加え、撹拌溶解した。1時間窒素を流し続けた後、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.3g(0.000427mol)を素早く添加し、オイルバスで1時間加熱還流した。その後、トリエチルアミンおよびピリジンを減圧留去し、粘稠な褐色溶液を得た。これを水500mlに注ぎ析出した固形物を濾取し、さらに水500ml、5N塩酸500ml、水500mlで各2回洗浄した。この固形物を、50℃で減圧乾燥することにより、98.8gの4−(3,5−ビス(メトキシカルボニル)フェニル)−2−メチル−3−ブチン−1−オールを得た(収率98%)
。
【0044】
[4−(3,5−ビス(メトキシカルボニル)フェニル)−2−メチル−3−ブチン−1−オールから5−エチニルイソフタル酸二カリウム塩の合成]
温度計、ジムロート冷却管、攪拌機を備えた5Lの4つ口フラスコにn−ブタノール3リットル、水酸化カリウム(85%)182g(2.763mol)を仕込み、加熱還流して溶解した。これに合成した4−(3,5−ビス(メトキシカルボニル)フェニル)−2−メチル−3−ブチン−1−オール 95g(0.344mol)を加えて30分間加熱還流した。これを氷浴にて冷却し、析出した結晶を濾取した。この結晶をエタノール1リットルで2回洗浄し、60℃で減圧乾燥することによって、88.87gの5−エチニルイソフタル酸ジカリウム塩を得た(97%)。
【0045】
[5−エチニルイソフタル酸二カリウム塩から5−エチニルイソフタル酸の合成]5−エチニルイソフタル酸二カリウム塩 5g(0.019mol)を20mlのイオン交換水に溶解し、5C濾紙にて濾過する事によって不溶物を除去した。この濾液に5(mol/L)塩酸をpHが1になるまで撹拌しながら加えた。析出した固形物を濾取し、更にイオン交換水での洗浄、濾過を2回繰り返した。得られた固形物を50℃で減圧乾燥する事により5−エチニルイソフタル酸 3.6gを得た(収率99.5%)。
【0046】
[5−エチニルイソフタル酸二カリウム塩から5−エチニルイソフタル酸二塩化物の合成]
温度計、ジムロート冷却管、攪拌機を備えた2Lの4つ口フラスコに、5−エチニルイソフタル酸ジカリウム塩80g(0.3mol)、クロロホルム400リットルを仕込み、0℃に冷却した。これに塩化チオニル391g(4.5mol)を、5℃以下で1時間にかけて滴下した。その後、ジメチルホルムアミド4ml、ヒドロキノン4gを加え、45〜50℃で3時間撹拌した。冷却後濾過して結晶を除き、結晶をクロロホルム150mlで洗浄した。濾液と洗浄液をあわせて40℃以下で減圧濃縮し、得られた残渣をジエチルエーテル200mで2回抽出濾過した。抽出液からジエチルエーテルを減圧留去する事で、半固体の粗生成物を得た。これを乾燥したn−ヘキサンで洗浄し、続いてジエチルエーテルで再結晶する事で13gの5−エチニルイソフタロイル ジクロリドを得た(収率19%)。
【0047】
得られた5−エチニルイソフタル酸および5−エチニルフタル酸二塩化物のスペクトルデータを以下に示す。これらのデータは、得られた化合物が目的物であることを支持している。
【0048】
[5−エチニルイソフタル酸(C10H6O4)]
外観:白色粉末
融点:106.2℃(DSC,10℃/min)
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6):δ8.16(s,2H),8.45(s,1H)
13C(1H )−NMR(100MHz,DMSO−d6):δ81.5,82.6,122.7,130.0,131.9,135.9,165.7
IR(KBr,cm-1):3272,3081,1797,1741,1438,1265,800,761
MS(FD)(m/z):190(M+)
【0049】
[5−エチニルイソフタル酸二塩化物(C10H4O2Cl2)]
外観:赤褐色固体
融点:49℃(DSC、10℃/min)
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ8.47(s,2H),8.77(s,1H)
13C(1H )−NMR(100MHz,CDCl3):δ80.0,81.6,124.9,133.0,134.7,139.8,166.6
IR(KBr,cm-1):3465,3077,1766,1736,1151,1022,802,740
MS(FD)(m/z):190(M+−2Cl)
元素分析:
理論値 C:52.86% H:1.77% Cl:31.21 O:14.08%
実測値 C:52.74% H:1.70% Cl:30.89 O:14.67%
【0050】
(実施例2)
[5−トリフルオロメタンスルホニロキシ イソフタル酸ジメチルから1−(3,5−ビス(メトキシカルボニル)フェニル)−2−フェニルエチンの合成]
温度計、ジムロート冷却管、窒素導入管、攪拌機を備えた4つ口の1リットルフラスコに、実施例1と同様にして得られた5―トリフルオロメタンスルホニロキシ イソフタル酸ジメチル125g(0.365mol)、トリフェニルホスフィン1.1g(0.00419mol)、ヨウ化銅0.275g(0.00144mol)、エチニルベンゼン40.95g(0.401mol)を仕込み、窒素を流した。脱水トリエチルアミン375mlおよび脱水ピリジン200mlを加え、撹拌溶解した。1時間窒素を流し続けた後、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.3g(0.000427mol)を素早く添加し、オイルバスで1時間加熱還流した。その後トリエチルアミンおよびピリジンを減圧留去し、粘稠な褐色溶液を得た。これを水500mlに注ぎ、析出した固形物を濾取し、さらに水500ml、5mol/L塩酸500ml、水500mlで各2回洗浄した。この固形物を50℃で減圧乾燥することにより80.8gの1−(3,5−ビス(メトキシカルボニル)フェニル)−2−フェニルエチンを得た(収率75%)。
【0051】
[(3,5−ビス(メトキシカルボニル)フェニル)−2−フェニルエチンから5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸二カリウム塩の合成]
温度計、ジムロート冷却管、攪拌機を備えた5Lの4つ口フラスコにn−ブタノール3リットル、水酸化カリウム(85%)180g(2.72mol)を仕込み、加熱還流して溶解した。これに合成した(3,5−ビス(メトキシカルボニル)フェニル)−2−フェニルエチン 80g(0.272mol)を加えて30分間加熱還流した。これを氷浴にて冷却し、析出した結晶を濾取した。この結晶をエタノール1リットルで2回洗浄し、60℃で減圧乾燥することによって90.35gの5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸ジカリウム塩を得た(97%)。
【0052】
[5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸二カリウム塩から5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸の合成]
5−(2−フェニルエチニル)エチニルイソフタル酸二カリウム塩 6.5g(0.019mol)を20mlのイオン交換水に溶解し、5C濾紙にて濾過する事によって不溶物を除去した。この濾液に5mol/L塩酸を、pHが1になるまで撹拌しながら加えた。析出した固形物を濾取し、更にイオン交換水での洗浄、濾過を2回繰り返した。得られた固形物を50℃で減圧乾燥する事により5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸 5.0gを得た(収率99.5%)。
【0053】
[5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸二カリウム塩から5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸二塩化物の合成]
温度計、ジムロート冷却管、攪拌機を備えた2Lの4つ口フラスコに5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸ジカリウム塩82.1g(0.24mol)、1,2−ジクロロエタン400リットルを仕込み、0℃に冷却した。これに塩化チオニル391g(4.5mol)を5℃以下で1時間にかけて滴下した。その後、ジメチルホルムアミド4ml、ヒドロキノン4gを加え、45〜50℃で3時間撹拌した。冷却後、濾過して結晶を除き、結晶をクロロホルム150mlで洗浄した。濾液と洗浄液とをあわせて、40℃以下で減圧濃縮し、得られた残渣を、ジエチルエーテル200mで2回抽出濾過した。抽出液からジエチルエーテルを減圧留去する事で、半固体の粗生成物を得た。これを乾燥したn−ヘキサンで洗浄し、続いてジエチルエーテルで再結晶する事で13.8gの5−(2−フェニルエチニル)イソフタロイル ジクロリドを得た(収率19%)。
【0054】
得られた5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸および5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸二塩化物のスペクトルデータを以下に示す。これらのデータは、得られた化合物が目的物であることを支持している。
【0055】
[5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸(C16H10O4)]
外観:白色粉末
融点:99.7℃(DSC,10℃/min)
1H−NMR(400MHz,(CD3)2CO ):δ7.44(m,3H),7.64(m,2H),8.35(d,2H,J=1.6Hz),8.63(t,1H,J=1.6Hz)
13C(1H )−NMR(100MHz,(CD3)2CO ):δ88.0,91.7,123.2,125.0,129.5、129.5,129.9,131.0,132.5,132.7,132.7,136.8,166.2
IR(KBr,cm-1):3549,2968,2365,1722,1492,1446,1276,917,756,674
MS(FD)(m/z):266(M+)
【0056】
[5−エチニルイソフタル酸二塩化物(C16H8O2Cl2)]
外観:白色固体
融点:124℃(DSC、10℃/min)
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ7.40(m,3H),7.57(m,2H),8.50(d,2H,J=1.6Hz),8.73(t,2H,J=1.6Hz)
13C(1H )−NMR(100MHz,CDCl3):δ85.7,93.6,121.6,126.2,128.6,129.5,131.9,132.2,134.6,139.2,166.8
IR(KBr,cm-1):3489,3075,2216,1756,1580,1489,1440,1329,1218,1145,1000,819,690
MS(FD)(m/z):266(M+−2Cl)
元素分析:
理論値 C:63.39% H:2.66% Cl:23.39 O:10・56%
実測値 C:63.04% H:2.49% Cl:22.69 O:11.78%
【0057】
(実施例3)
[5−ブロモ イソフタル酸の合成]
温度計、攪拌機、滴下ロートを備えた4つ口の1リットルフラスコに5−ヒドロキシイソフタル酸99.18g(0.55mol)と48%臭化水素酸165mL、蒸留水150mLをいれ、攪拌した。フラスコを5℃以下まで冷却し、ここへ亜硝酸ナトリウム39.4g(0.57mol)を、蒸留水525mLに溶解したものを、1時間かけて滴下し、ジアゾニウム塩水溶液を得た。温度計、ジムロート冷却管、滴下ロート、攪拌機を備えた4つ口の3リットルフラスコに、臭化第一銅94.25g(0.66mol)と48%臭化水素酸45mLを入れ、攪拌した。フラスコを0℃以下に冷却し、上記のジアゾニウム塩水溶液を2時間かけて滴下した。滴下終了後に室温で30分攪拌し、続けて30分還流させた。放冷後、析出物を濾別し、蒸留水2Lで2回洗浄し、得られた白色固体を50℃で2日間減圧乾燥し、粗成生物117gを得た。精製せずに次の反応へ用いた。
【0058】
[5−ブロモ イソフタル酸からの5−ブロモ イソフタル酸ジメチルの合成]
攪拌機、ジムロート冷却管を備えた500mLフラスコに、上記で得られた5−ブロモ イソフタル酸110g、メタノール500mL、濃硫酸10gを入れ、6時間還流させた。放冷後、蒸留水1Lに滴下し、これを5%炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した。析出物を濾別し、蒸留水2Lで2回洗浄した後、得られた白色固体を50℃で2日間減圧乾燥し、5−ブロモ イソフタル酸ジメチル109g(0.4mol)を得た。(収率89%)
【0059】
[5−ブロモ イソフタル酸ジメチルからの4−(3,5−ビス(メトキシカルボニル)フェニル)−2−メチル−3−ブチン−1−オールの合成]
実施例1において、5―トリフルオロメタンスルホニロキシ イソフタル酸ジメチル125g(0.365mol)を5−ブロモ イソフタル酸ジメチル99.7g(0.365mol)とする以外は実施例1と同様にして、98.8gの4−(3,5−ビス(メトキシカルボニル)フェニル)−2−メチル−3−ブチン−1−オールを得た(収率98%)。
【0060】
以下、実施例と同様にして5−エチニルイソフタル酸二カリウム塩、5−エチニルイソフタル酸、5−エチニルイソフタル酸二塩化物が得られた。5−エチニルイソフタル酸および5−エチニルイソフタル酸二塩化物の外観、融点と1H−NMR,13C(1H)−NMR,IR,MS,元素分析のスペクトルデータはいずれも実施例1と一致し、同一化合物が得られたことを示している。
【0061】
(実施例4)
[1−(3,5−ビス(メトキシカルボニル)フェニル)−2−フェニルエチンの合成]
実施例2において、5―トリフルオロメタンスルホニロキシ イソフタル酸ジメチル125g(0.365mol)を、実施例3と同様にして得られた5−ブロモ イソフタル酸ジメチル99.7g(0.365mol)とする以外は同様にして5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸ジメチル80.8gの1−(3,5−ビス(メトキシカルボニル)フェニル)−2−フェニルエチンを得た(収率75%)。
【0062】
以下、実施例2と同様にして、5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸二カリウム塩、5−エチニルイソフタル酸、5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸二塩化物が得られた。5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸および5−(2−フェニルエチニル)イソフタル酸二塩化物の外観、融点と1H―NMR,13C(1H)−NMR,IR,MS,元素分析のスペクトルデータはいずれも実施例2と一致し、同一化合物が得られたことを示している。
【0063】
【発明の効果】
本発明により式(1)で表される芳香族カルボン酸および式(2)で表される(1)の酸塩化物を得ることができ、これらは、高分子、特に縮合系高分子の原料として有用である。
Claims (5)
- 一般式(3)で表される化合物と、一般式(4)で表される化合物との反応において、遷移金属触媒を用いることを特徴とする請求項3記載の芳香族カルボン酸の合成法。
- 請求項3又は4記載の合成法において得られる、一般式(6)で表される化合物又は一般式(1)で表される化合物を、塩素化剤で処理することにより得られることを特徴とする一般式(2)で表される芳香族カルボン酸の酸塩化物誘導体の合成法。
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