JP3802586B2 - 熱膨脹率を異にする二種の部材の、ろう材を用いた加熱接合方法 - Google Patents
熱膨脹率を異にする二種の部材の、ろう材を用いた加熱接合方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱膨脹率を異にする二種の部材の加熱接合方法、特に希土類元素を含む永久磁石よりなる第1部材と、その第1部材よりも熱膨脹率が大きいFe合金よりなる第2部材とを、ろう材を用いて加熱下で接合する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、例えば、第1部材としての希土類元素を含む永久磁石と、第2部材としての鋼製取付台とを接合する場合、合成樹脂接着剤が用いられている(例えば、特公昭61−33339号公報参照)。
【0003】
このように合成樹脂接着剤を用いる理由は、希土類元素を含む永久磁石は、非常に脆いため機械加工性が悪く、また高温下に曝されると、金属組織が変化するのでそれに伴い磁気特性が影響を受ける、といった性質を有し、そのため鋼製取付台に永久磁石を取付ける場合、あり差し構造、ねじ止め、溶接等の取付手段を採用することができないからである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、合成樹脂接着剤による接合では、その永久磁石の昇温に伴い接合強度が著しく低下し、また接合強度のばらつきが大きいため品質管理が難しい、といった問題がある。
【0005】
本発明は前記に鑑み、希土類元素を含む永久磁石よりなる第1部材と、その第1部材よりも熱膨脹率が大きいFe合金よりなる第2部材とを、ろう材を用いて加熱下で強固に接合すると共に両部材の接合部に発生する熱応力を緩和して、熱膨脹率が小さい方の部材が脆くても、冷却工程でその部材に割れが発生するのを回避することができる前記加熱接合方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、希土類元素を含む永久磁石よりなる第1部材と、その第1部材よりも熱膨脹率が大きいFe合金よりなる第2部材とを加熱下で接合するに当り、板状インサートであって、一方の平坦面側から他方の平坦面側に向って熱膨脹率が小から大に変化し、且つ一方の平坦面側の熱膨脹率は前記第1部材の熱膨脹率よりも大きく、また他方の平坦面側の熱膨脹率は前記第2部材の熱膨脹率よりも小さいものを用意し、前記板状インサートにおいて、前記一方の平坦面を前記第1部材の接合面に向けると共にそれら平坦面および接合面間に第1のろう材を介在させ、また前記他方の平坦面を前記第2部材の接合面に向けると共にそれら平坦面および接合面間に第2のろう材を介在させて、第1部材、第1のろう材、板状インサート、第2のろう材および第2部材よりなる積層体を作製し、次いで前記積層体を加熱して前記第1部材と前記板状インサートとを前記第1のろう材よりなる第1の接合層を介して接合し、また前記第2部材と前記板状インサートとを前記第2のろう材よりなる第2の接合層を介して接合する、熱膨脹率を異にする二種の部材の、ろう材を用いた加熱接合方法であって、前記第1,第2のろう材が、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも一種である希土類元素と、Cu、Al、Ga、Co、Fe、Ag、Ni、Au、Mn、Zn、Pd、Sn、Sb、Pb、Bi、GeおよびInから選択される少なくとも一種である合金元素AEとからなる希土類元素系合金よりなり、前記第1,第2のろう材において前記合金元素AEの含有量が5原子%≦AE≦50原子%であることを特徴とする。
【0007】
前記手段を採用することにより、希土類元素を含む永久磁石よりなる第1部材と、板状インサートとを、希土類元素系合金より構成された高活性な第1のろう材よりなる第1の接合層を介して強固に接合(即ちろう接)し得ると共に、その第1部材よりも熱膨脹率が大きいFe合金よりなる第2部材と、板状インサートとを、同じく希土類元素系合金より構成された高活性な第2のろう材よりなる第2の接合層を介して強固に接合(即ちろう接)し得るので、第1,第2部材間の接合強度の高い接合体を得ることができる。また特に第1,第2のろう材において前記合金元素AEの含有量が5原子%≦AE≦50原子%であるため、各ろう材の活性が損なわれず、しかも固液共存状態において液相を確保可能となる。
【0008】
一方の平坦面側から他方の平坦面側に向って熱膨脹率が小から大に変化し、且つ一方の平坦面側の熱膨脹率は第1部材の熱膨脹率よりも大きく、また他方の平坦面側の熱膨脹率は第2部材の熱膨脹率よりも小さい板状インサートを第1,第2部材間に介在させると、それらの熱膨脹率が第1部材から第2部材に至るに従って漸次大きくなるように変化する。これにより、冷却工程で、第1,第2部材の熱膨脹率差に起因して両部材の接合部に生じる熱応力を緩和し得るので、熱膨脹率が小さい方の第1部材が希土類元素を含む永久磁石であって脆くても、それに割れが発生するのを回避することができる。
【0009】
なお、第1,第2のろう材の熱膨脹率は、それらの縦弾性係数Eを小さくし得ると共にそれらの厚さを考慮すると、無視しても差支えない。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1は接合体1の一例を示す。この接合体1においては第1部材が、NdFeB系永久磁石、SmCo系永久磁石等の希土類元素を含む永久磁石2であり、また第2部材が、永久磁石2よりも熱膨脹率が大きい炭素鋼(Fe系合金)よりなる鋼製ブロック体3である。
【0011】
永久磁石2と鋼製ブロック体3との間に接合部4が存在する。その接合部4は、中間に存する板状インサート5と、永久磁石2および板状インサート5間に存する第1の接合層6と、鋼製ブロック体3および板状インサート5間に存する第2の接合層7とよりなる。
【0012】
板状インサート5は、永久磁石2側の一方の平坦面a側から他方の平坦面b側に向って熱膨脹率が小から大に変化し、且つ一方の平坦面a側の熱膨脹率は永久磁石2の熱膨脹率よりも大きく、また他方の平坦面b側の熱膨脹率は鋼製ブロック体3の熱膨脹率よりも小さい。
【0013】
第1,第2の接合層6,7は、箔状(または薄板状)をなす第1,第2のろう材が加熱下で液相を生じる、つまり両ろう材が完全な液相状態になるか、または固相と液相とが共存する固液共存状態になることによって形成されたものである。
【0014】
接合処理に当っては、図2に示すように、板状インサート5において、一方の平坦面aを永久磁石2の接合面cに向けると共にそれら平坦面aおよび接合面c間に第1の箔状ろう材8を介在させ、また他方の平坦面bを鋼製ブロック体3の接合面dに向けると共にそれら平坦面bおよび接合面d間に第2の箔状ろう材9を介在させて、図3に示すように永久磁石2、第1のろう材8、板状インサート5、第2のろう材9および鋼製ブロック体3よりなる積層体10を作製する。次いで積層体10を、真空加熱炉内に設置して加熱することにより、第1,第2のろう材8,9を液相状態または固液共存状態にし、これにより、永久磁石2と板状インサート5とを第1のろう材8よりなる第1の接合層6を介して接合し、また鋼製ブロック体3と板状インサート5とを第2のろう材9よりなる第2の接合層7を介して接合する。その後、炉冷を行って接合体1を得る。
【0015】
前記接合処理における加熱時間hは、それが長過ぎる場合には永久磁石2および鋼製ブロック体3の特性に影響を与えるので、h≦10時間であることが望ましく、生産性向上の観点からはh≦1時間である。
【0016】
前記手段を採用することにより、永久磁石2と板状インサート5とを第1の接合層6を介して、また鋼製ブロック体3と板状インサート5とを第2の接合層7を介してそれぞれ強固に接合し得るので、永久磁石2および鋼製ブロック体3間の接合強度の高い接合体1を得ることができる。
【0017】
永久磁石2および鋼製ブロック体3間に板状インサート5を存在させると、それら2,3,5の熱膨脹率が永久磁石2から鋼製ブロック体3に至るに従って漸次大きくなるように変化する。これにより、冷却工程で、永久磁石2および鋼製ブロック体3の熱膨脹率差に起因して接合部4に生じる熱応力を緩和し得るので、熱膨脹率が小さい方の永久磁石2が脆い場合にもそれに割れが発生するのを回避することができる。
【0018】
なお、第1,第2のろう材8,9の熱膨脹率は、それら8,9の縦弾性係数Eを小さくし得ると共にそれらの厚さを考慮すると、無視しても差支えない。
【0019】
板状インサート5としては、例えば、図4に示すように、複数、図示例では第1〜第4Fe−Ni合金板111 〜114 よりなるクラッド板が用いられる。各Fe−Ni合金板111 〜114 におけるNi含有量は永久磁石2より離れるに従って漸減している。この場合、Ni含有量の最大値Ni(max)は第1Fe−Ni合金板111 のNi(max)=36原子%であり、また最小値Ni(min)は第4Fe−Ni合金板114 のNi(min)=10原子%である。
【0020】
表1は板状インサート5の各部の組成および熱膨脹係数を示す。
【0021】
【表1】
【0022】
図4、表1から明らかなように、板状インサート5において、第1Fe−Ni合金板111 が一方の平坦面aを備え、また第4Fe−Ni合金板114 が他方の平坦面bを備える。そして一方の平坦面a側から他方の平坦面b側に向って熱膨脹率が小から大に変化する。
【0023】
第1,第2のろう材8,9としては、希土類元素系合金より構成された高活性なものが用いられる。これらのろう材8,9においては、非晶質相の体積分率Vfが50%≦Vf≦100%であることが望ましい。その理由は次の通りである。即ち、非晶質相は、酸化の起点となるような粒界層が存在しないので耐酸化性が著しく高く、また酸化物の混在も僅少であり、その上偏析がなく組成が均一である、といった特性を有するので、第1,第2の接合層6,7の強度向上を図る上で有効であるからである。
【0024】
両ろう材8,9において、希土類元素にはY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも一種が該当し、それらは単体、または混合物であるMm(ミッシュメタル)、Di(ジジミウム)の形態で用いられる。また合金元素AEは希土類元素と共晶反応を行うもので、その合金元素AEには、Cu、Al、Ga、Co、Fe、Ag、Ni、Au、Mn、Zn、Pd、Sn、Sb、Pb、Bi、GeおよびInから選択される少なくとも一種が該当する。合金元素AEの含有量は5原子%≦AE≦50原子%に設定される。二種以上の合金元素AEを含有する場合には、それらの合計含有量が5原子%≦AE≦50原子%となる。ただし、合金元素AEの含有量がAE>50原子%ではろう材8,9の活性が損われ、一方、AE<5原子%では固液共存状態において液相を確保することが難しくなる。
【0025】
表2,3は、ろう材8,9を構成する各種希土類元素系共晶合金およびそれらの縦弾性係数Eを示す。
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】
また希土類元素系亜、過共晶合金としては以下のものを挙げることができる。各化学式において、数値の単位は原子%である(これは以下同じ)。Eは縦弾性係数を意味する。
(a) Nd60Cu40合金(E=4500kgf/mm2 )、Nd75Cu25合金(E=4000kgf/mm2 )、Nd80Cu20合金(E=3950kgf/mm2 )、Nd50Cu50合金(E=9000kgf/mm2 )……液相発生温度520℃(図5参照)
(b) Sm75Cu25合金(E=4000kgf/mm2 )、Sm65Cu35合金(E=4300kgf/mm2 )……液相発生温度597℃
(c) Nd90Al10合金(E=3850kgf/mm2 、液相発生温度634℃)、Nd80Co20合金(E=4000kgf/mm2 、液相発生温度599℃)、La85Ga15合金(E=4000kgf/mm2 、液相発生温度550℃)
さらに三元系合金としては、Nd65Fe5 Cu30合金(E=4200kgf/mm2 、液相発生温度501℃)およびNd70Cu25Al5 合金(E=4000kgf/mm2 、液相発生温度474℃)を挙げることができる。
〔実施例1〕
純度99.9%のNdと、純度99.9%のCuと、純度99.9%のAlとを、Nd70Cu25Al5 合金が得られるように秤量し、次いでその秤量物を真空溶解炉を用いて溶解し、その後鋳造を行ってインゴットを得た。
【0029】
このインゴットから約50gの原料を採取し、これを石英ノズルで高周波溶解して溶湯を調製し、次いで溶湯を石英ノズルのスリットから、その下方で高速回転するCu製冷却ロール外周面にアルゴンガス圧により噴出させて超急冷し、幅30mm、厚さ20μmのNd70Cu25Al5 合金よりなる薄帯を得た。この薄帯は均質であると共に連続性も良く、したがって前記組成の合金は薄帯形成性が良好である。
【0030】
この場合の製造条件は次の通りである。即ち、石英ノズルの内径 40mm、スリットの寸法 幅 0.25mm、長さ 30mm、アルゴンガス圧 1.0kgf/cm2 、溶湯温度 800℃、スリットと冷却ロールとの距離 1.0mm、冷却ロールの周速 33m/sec 、溶湯の冷却速度 約105 K/sec である。
【0031】
図6は薄帯のX線回折結果を示し、この薄帯においては2θ≒32°に幅広のハローパターンが観察され、このことから薄帯の金属組織は非晶質単相組織であることが判明し、その結晶化温度TxはTx=129.8℃であった。また薄帯の液相発生温度TmはTm=474℃であって易融化が図られており、さらに薄帯は、高い靱性を有するので、180°密着曲げが可能であり、また変色もなく優れた耐酸化性を備えていた。さらにまた前記製造条件において、冷却ロールの周速のみを変えて薄帯の厚さを20μmから400μmまで変化させ、非晶質単相組織が得られる薄帯の臨界厚さを求めたところ、その臨界厚さは270μmであることが判明した。
【0032】
次に、厚さ100μmの薄帯に打抜き加工を施して、図2に示すように縦100mm、横20mmで箔状をなし、且つ非晶質の第1,第2のろう材8,9を作製した。
【0033】
第1部材として、縦100mm、横20mm、厚さ5mmのNdFeB系永久磁石(住友特殊金属社製、商品名NEOMAX−28UH、キュリー点310℃)2を選定し、また第2部材として、炭素鋼(JIS S35C)よりなり、且つ縦20mm、横20mm、長さ100mmの直方体状の鋼製ブロック体3を選定した。
【0034】
NdFeB系永久磁石2の熱膨脹係数は約1.0×10-6/℃(平均値)であり、また鋼製ブロック体3の熱膨脹係数は約12.2×10-6/℃であった。
【0035】
図7は、NdFeB系永久磁石2および鋼製ブロック体3の温度と熱膨脹率との関係を示す。図7から明らかなように、NdFeB系永久磁石2は、約310℃にて熱膨脹率が逆転し、また約310℃以下の温度域における熱膨脹率変化が小さいといった特異性を持つこと、および加熱工程後の冷却工程において、その温度降下に伴いNdFeB系永久磁石2の熱膨脹率と鋼製ブロック体3の熱膨脹率との差が急激に増大することが判る。
【0036】
さらに板状インサート5として、表1および図4に示した構造を有し、縦100mm、横20mm、厚さ1.5mmのものを用意した。
【0037】
図2,4に示すように、鋼製ブロック体3の長方形をなす上向きの接合面d上に第2のろう材9を、また第2のろう材9上に、第4Fe−Ni合金板114 (他方の平坦面b)を下向きにした板状インサート5を、さらに板状インサート5の第1Fe−Ni合金板111 (一方の平坦面a)上に第1のろう材8を、さらにまた第1のろう材8上に長方形の接合面cを下向きにしたNdFeB系永久磁石2をそれぞれ重ね合せて、図3に示す積層体10を作製した。
【0038】
次いで、その積層体10を真空加熱炉内に設置し、加熱温度T=540℃、加熱時間h=20分間の加熱工程、それに次ぐ炉冷よりなる冷却工程を行って、図1に示すようにNdFeB系永久磁石2と、第1のろう材8より形成された結晶質の第1の接合層6と、板状インサート5と、第2のろう材9より形成された結晶質の第2の接合層7と、鋼製ブロック体3とよりなる接合体1を得た。この接合処理においては、加熱温度TがT=540℃であって、両ろう材8,9の液相発生温度Tm=474℃を超えているので、両ろう材8,9は完全な液相状態となる。
【0039】
このようにして得られた接合体1を目視にて観察したところ、NdFeB系永久磁石2と板状インサート5とが第1の接合層6を介して十分に接合しており、また鋼製ブロック体3と板状インサート5とが第2の接合層7を介して十分に接合していることが判明した。
【0040】
またNdFeB系永久磁石2において割れの発生は全然認められなかった。これは、図7に示したように、NdFeB系永久磁石2と鋼製ブロック体3の熱膨脹率が冷却工程において大きく異なるにも拘らず、板状インサート5を使用したことにより、冷却工程において接合部4に発生する熱応力が緩和されたことに起因する。特に、板状インサート5において、NdFeB系永久磁石2に最も近い第1Fe−Ni合金板111 の組成をインバー(invar)組成にして、約310℃以下の温度域における第1Fe−Ni合金板111 の熱的挙動をNdFeB系永久磁石2のそれに近似させたことが、NdFeB系永久磁石2の割れ発生を回避する上に大きな要因となっている。
【0041】
NdFeB系永久磁石2、SmCo系永久磁石等の希土類元素を含む永久磁石は、接合処理時の加熱温度TがT>650℃になると、その磁気特性、特に保磁力 IHC (磁化の強さI=0)が低下傾向となる。ただし、残留磁束密度Brおよび保磁力 BHC (磁束密度B=0)は殆ど変わらず、したがって最大磁気エネルギ積(BH)maxは略一定である。両ろう材8,9を用いた接合処理において、その加熱温度TはT=540℃であってT≦650℃であるから、NdFeB系永久磁石2の磁気特性を変化させるようなことはない。
〔実施例2〕
箔状をなす非晶質の第1,第2のろう材8,9として、実施例1で述べたものと同一組成で、且つ縦20mm、横20mm、厚さ100μmのものを各ろう材8,9について2つ宛用意した。
【0042】
またNdFeB系永久磁石2として、実施例1で述べたものと同一構造で、且つ縦20mm、横20mm、厚さ5mmのものを用意した。
【0043】
さらに鋼製ブロック体3として、実施例1で述べたものと同一材質で、且つ縦20mm、横20mm、長さ40mmのものを2つ用意した。
【0044】
さらにまた、板状インサート5として、実施例1で述べたものと同一構造で、且つ縦20mm、横20mm、厚さ1.5mmのものを2つ用意した。
【0045】
図8(図4も参照)に示すように、1つの鋼製ブロック体3の正方形をなす上向きの接合面d上に第2のろう材9を、第2のろう材9上に、第4Fe−Ni合金板114 (他方の接合面b)を下向きにした板状インサート5を、板状インサート5の第1Fe−Ni合金板111 (一方の平坦面a)上に第1のろう材8を、第1のろう材8上に正方形をなす一方の接合面cを下向きにしたNdFeB系永久磁石2を、NdFeB系永久磁石2の正方形をなす他方の上向きの接合面c上に第1のろう材8を、第1のろう材8上に、第1Fe−Ni合金板111 (一方の平坦面a)を下向きにした板状インサート5を、板状インサート5の第4Fe−Ni合金板114 (他方の平坦面b)上に第2のろう材9を、第2のろう材9上に接合面dを下向きにしたもう1つの鋼製ブロック体3をそれぞれ重ね合せて積層体を作製し、同様の手順で合計20個の積層体を作製した。両鋼製ブロック体3に存する貫通孔13は引張り試験においてチャックとの連結に用いられる。
【0046】
次いで、各積層体を真空加熱炉内に設置し、加熱温度T=540℃、加熱時間h=20分間の加熱工程、それに次ぐ炉冷よりなる冷却工程を行って、図9に示す20個のサンドイッチ状物14を得た。各サンドイッチ状物14は、1つのNdFeB系永久磁石2を共用する2つの接合体1よりなる。
【0047】
この接合処理においては、実施例1同様に、加熱温度TがT=540℃に設定されているので、液相発生温度TmがTm=474℃の各ろう材8,9は完全な液相状態となる。
【0048】
このようにして得られた各サンドイッチ状物14を目視にて観察したところ、NdFeB系永久磁石2と各板状インサート5とが第1の接合層6を介して十分に接合しており、また鋼製ブロック体3と各板状インサート5とが第2の接合層7を介して十分に接合していることが判った。またNdFeB系永久磁石2において割れの発生は全然認められなかった。
【0049】
比較のため、前記同様のNdFeB系永久磁石2と前記同様の2つの鋼製ブロック体3とを、それら鋼製ブロック体3により、エポキシ樹脂系接着剤(日本チバガイギ社製、商品名アラルダイト)を介しNdFeB系永久磁石2を挟むように重ね合せて積層体を作製し、同様の手順で合計20個の積層体を作製した。次いで、これら積層体を乾燥炉内に設置して、加熱温度200℃、加熱時間60分間の加熱工程、それに次ぐ炉冷よりなる冷却工程を行って、2つの鋼製ブロック体3と永久磁石2とをそれぞれエポキシ樹脂系接着剤を介して接合した20個のサンドイッチ状物を得た。
【0050】
ろう材8,9および板状インサート5を用いたサンドイッチ状物14およびエポキシ樹脂系接着剤を用いたサンドイッチ状物の各10個について室温下で引張り試験を行い、また残りの各10個について150℃の加熱下で引張り試験を行ったところ、表4の結果を得た。
【0051】
【表4】
【0052】
表4から明らかなように、ろう材8,9および板状インサート5を用いたサンドイッチ状物14は、室温下および150℃の加熱下において、エポキシ樹脂系接着剤を用いたサンドイッチ状物に比べて接合強度が高く、またその接合強度は両環境下において殆ど変わらず、さらにそのばらつきも小さい。エポキシ系接着剤を用いたサンドイッチ状物は室温下における接合強度が低い上にそのばらつきが大きく、また150℃の加熱下ではその接合強度が室温下のそれの3分の1に低下する。
【0053】
NdFeB系永久磁石2、SmCo系永久磁石等の希土類元素を含む永久磁石の濡れ性の悪さは、その結晶粒界に希土類元素濃度、この実施例ではNd濃度の高い相が存在していることに起因する。前記ろう材8,9を用いた接合処理において、それらろう材8,9は液相状態となっており、Ndを主成分とするNd70Cu25Al5 合金より生じた液相は、高活性であると共に前記結晶粒界に存するNd濃度の高い相と主成分を共通にすることからNdFeB系永久磁石2に対して優れた濡れ性を発揮し、また前記高活性化に伴い鋼製ブロック体3および板状インサート5に対する濡れ性も極めて良好である。
【0054】
前記接合技術は、回転機としてのモータ用ロータにおいて、そのロータ本体に対するNdFeB系永久磁石2の接合に適用され、回転数が10000rpm 以上である高速回転モータの実現を可能にするものである。
【0055】
【発明の効果】
本発明によれば、希土類元素を含む永久磁石よりなる第1部材と、板状インサートとを、希土類元素系合金より構成された高活性な第1のろう材よりなる第1の接合層を介して強固に接合(即ちろう接)し得ると共に、その第1部材よりも熱膨脹率が大きいFe合金よりなる第2部材と、板状インサートとを、同じく希土類元素系合金より構成された高活性な第2のろう材よりなる第2の接合層を介して強固に接合(即ちろう接)し得るので、熱膨張率を異にする第1,第2部材を強固に接合することができる。また特に第1,第2のろう材において前記合金元素AEの含有量が5原子%≦AE≦50原子%であるため、各ろう材の活性が損なわれず、しかも固液共存状態において液相を確保可能となる。
また一方の平坦面側から他方の平坦面側に向って熱膨脹率が小から大に変化し、且つ一方の平坦面側の熱膨脹率は第1部材の熱膨脹率よりも大きく、また他方の平坦面側の熱膨脹率は第2部材の熱膨脹率よりも小さい板状インサートを第1,第2部材間に介在させるので、それらの熱膨脹率が第1部材から第2部材に至るに従って漸次大きくなるように変化し、これにより、冷却工程で、第1,第2部材の熱膨脹率差に起因して両部材の接合部に生じる熱応力を緩和し得るので、熱膨脹率が小さい第1部材が希土類元素を含む永久磁石であって脆くても、それに冷却工程で割れが発生するのを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】接合体の一部拡大正面図である。
【図2】永久磁石、ろう材、板状インサートおよび鋼製ブロック体の重ね合せ関係の一例を示す斜視図である。
【図3】積層体の側面図である。
【図4】板状インサートの構造説明図である。
【図5】Cu−Nd系状態図である。
【図6】Nd70Cu25Al5 合金のX線回折図である。
【図7】温度と熱膨脹率との関係を示すグラフである。
【図8】永久磁石、ろう材、板状インサートおよび鋼製ブロック体の重ね合せ関係の他例を示す斜視図である。
【図9】サンドイッチ状物の斜視図である。
【符号の説明】
1 接合体
2 永久磁石(第1部材)
3 鋼製ブロック体(第2部材)
5 板状インサート
6,7 第1,第2の接合層
8,9 第1,第2のろう材
10 積層体
111 〜114 第1〜第4Fe−Ni合金板
a 一方の接合面
b 他方の接合面
c,d 接合面
Claims (3)
- 希土類元素を含む永久磁石よりなる第1部材(2)と、その第1部材(2)よりも熱膨脹率が大きいFe合金よりなる第2部材(3)とを加熱下で接合するに当り、板状インサート(5)であって、一方の平坦面(a)側から他方の平坦面(b)側に向って熱膨脹率が小から大に変化し、且つ一方の平坦面(a)側の熱膨脹率は前記第1部材(2)の熱膨脹率よりも大きく、また他方の平坦面(b)側の熱膨脹率は前記第2部材(3)の熱膨脹率よりも小さいものを用意し、
前記板状インサート(5)において、前記一方の平坦面(a)を前記第1部材(2)の接合面(c)に向けると共にそれら平坦面(a)および接合面(c)間に第1のろう材(8)を介在させ、また前記他方の平坦面(b)を前記第2部材(3)の接合面(d)に向けると共にそれら平坦面(b)および接合面(d)間に第2のろう材(9)を介在させて、第1部材(2)、第1のろう材(8)、板状インサート(5)、第2のろう材(9)および第2部材(3)よりなる積層体(10)を作製し、
次いで前記積層体(10)を加熱して前記第1部材(2)と前記板状インサート(5)とを前記第1のろう材(8)よりなる第1の接合層(6)を介して接合し、また前記第2部材(3)と前記板状インサート(5)とを前記第2のろう材(9)よりなる第2の接合層(7)を介して接合する、熱膨脹率を異にする二種の部材の、ろう材を用いた加熱接合方法であって、
前記第1,第2のろう材(8,9)は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも一種である希土類元素と、Cu、Al、Ga、Co、Fe、Ag、Ni、Au、Mn、Zn、Pd、Sn、Sb、Pb、Bi、GeおよびInから選択される少なくとも一種である合金元素AEとからなる希土類元素系合金よりなり、
前記第1,第2のろう材(8,9)において前記合金元素AEの含有量が5原子%≦AE≦50原子%であることを特徴とする、熱膨脹率を異にする二種の部材の、ろう材を用いた加熱接合方法。 - 前記板状インサート(5)は、複数のFe−Ni合金板(111 〜114 )よりなるクラッド板であり、各Fe−Ni合金板(111 〜114 )におけるNi含有量は前記第1部材(2)より離れるに従って漸減している、請求項1記載の熱膨脹率を異にする二種の部材の、ろう材を用いた加熱接合方法。
- 前記Ni含有量の最小値Ni(min)がNi(min)=10原子%であり、また最大値Ni(max)がNi(max)=36原子%である、請求項2記載の熱膨脹率を異にする二種の部材の、ろう材を用いた加熱接合方法。
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