JP3797687B2 - 生地改良剤およびそれを用いる生地製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、生地改良を目的とした生地改良剤およびそれを用いる生地製造方法に関する。詳しくは本発明は、パン、イーストドーナツ、クロワッサン、デニッシュペストリーなどのイースト発酵食品用の生地改良剤およびそれを用いるイースト発酵食品生地製造方法、ならびに、冷凍生地改良剤およびそれを用いる冷凍生地製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
イースト発酵食品の生地改良には、グルテンネットワーク形成の促進剤として酸化剤が用いられる。
例えば、生地の混捏から焼成中まで働く酸化剤としては、臭素酸カリが知られているが、最終製品であるパンへの残存性が高いため、現在は使用されていない。
【0003】
現在最も実用的に使用されているのは、アスコルビン酸を主体としたイーストフードや改良剤である。アスコルビン酸は生地混捏中に生地中に抱込まれた酸素により酸化されてデヒドロアスコルビン酸となり、このデヒドロアスコルビン酸が生地を酸化し、グルテンネットワークの形成を促進することが知られている。
しかし生地混捏時以外の工程では、アスコルビン酸がデヒドロアスコルビン酸に酸化される機会が少なく、生地混捏時以外の工程ではアスコルビン酸の作用が期待できない。そのため、短時間で効率的に生地強化を行うためにアスコルビン酸は、臭素酸カリに比べ数倍もの添加量が必要となる。また、アスコルビン酸を過剰に加えた場合は、まず生地の過剰な締まりが生じ、さらにそのレベルを越えると逆に生地の軟化を招くといった問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
生地の混捏から長時間にわたり酸化作用を得るためには、アスコルビン酸からデヒドロアスコルビン酸への酸化反応を持続させる必要がある。すなわち、生地の混捏中から焼成段階までアスコルビン酸をデヒドロアスコルビン酸に酸化し続ける何らかの手段の開発が望まれる。
そこで我々はこの反応を仲介するアスコルビン酸オキシダーゼに着目した。
小麦粉中に存在するアスコルビン酸オキシダーゼ(以下、「ASO」と略称することもある。)の働きについては、アスコルビン酸のデヒドロアスコルビン酸への酸化反応の仲介をするという報告がある(Cereal Foods World,Vol.38 No.8 page.554−556,558−5591993 T.Kuninori,J.Nishiyama)。しかし、小麦粉中のアスコルビン酸オキシダーゼの活性はごくわずかであり、貯蔵期間中に失活するとの報告もある(Z Lebensm Unters Forsch,Vol.171 No.6 page.425−429 1980 K.Pfeilsticker S.Roeung/Cereal Chem.,Vol.63 No.3 page.197−200 1986 P.Cherdkiatgumchal D.R.Grant)。
【0005】
すなわち、アスコルビン酸を効率よくデヒドロアスコルビン酸に酸化するためには、小麦粉中のアスコルビン酸オキシダーゼ活性だけでは不十分である。特に混捏時以外の酸素を抱き込む機会のない工程では、アスコルビン酸をデヒドロアスコルビン酸に酸化し続けることは困難である。
また、アスコルビン酸オキシダーゼをグルテンネットワーク形成の促進を目的に単独で使用しても、他の酸化酵素と比べて、生地中のSH結合の酸化を促進する効果は小さい。
【0006】
本発明は、生地の混捏から長時間にわたり酸化作用を得るための手段、すなわち生地の混捏中から焼成段階までアスコルビン酸をデヒドロアスコルビン酸に酸化し続ける手段を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはアスコルビン酸とアスコルビン酸オキシダーゼを併用することで、アスコルビン酸は、生地の混捏中から焼成段階までデヒドロアスコルビン酸に酸化され続けるとの知見を得た。
【0008】
アスコルビン酸とアスコルビン酸オキシダーゼの適性バランスについては不明であった。そこで本発明者らは、アスコルビン酸オキシダーゼの適正添加量を検討し、これを明らかにした。さらに、これを研究する課程で、アスコルビン酸とアスコルビン酸オキシダーゼを併用することによる予想外の効果を見いだし本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明はアスコルビン酸にアスコルビン酸オキシダーゼを併用したことを特徴とする生地改良剤である。本発明の生地改良剤は、特にパン、イーストドーナツ、クロワッサン、デニッシュペストリーなどのイースト発酵食品用の生地改良剤である。また、本発明は生地、特にイースト発酵食品生地の製造に際し、上記生地改良剤を使用することを特徴とする生地製造方法である。
【0010】
一般に生地強化を目的に使用されるグルテンでは、製品の外皮は薄く、柔らかくなるが、内相はソフトさを失い、歯ごたえがあり引きの強い状態となってしまう。またアスコルビン酸単独では、内相をソフトに保った状態で、外皮のみを強化することはできない。アスコルビン酸にアスコルビン酸オキシダーゼを併用することによりはじめて、製品の外皮を強化し、内相をソフトな状態にすることを可能とした。
【0011】
生地混捏中は酸素が供給され続けるために、アスコルビン酸は随時デヒドロアスコルビン酸に酸化される。一方デヒドロアスコルビン酸は生地中のSH基を酸化してグルテンネットワークの形成を促進し、自身はアスコルビン酸に還元される。そのため混捏時の生地中のアスコルビン酸とデヒドロアスコルビン酸の存在比率は、一定に保たれる。
【0012】
アスコルビン酸オキシダーゼは、この反応系においてアスコルビン酸の酸化に対して触媒的働きをする。このためアスコルビン酸オキシダーゼがある一定量以上存在すれば、生地中のアスコルビン酸の酸化が促進され、グルテンネットワークの形成が一層促進されると考え、アスコルビン酸とアスコルビン酸オキシダーゼの適正添加量を検討した。
【0013】
発酵以降の工程では、酸素を生地中に抱き込む機会が少なく、アスコルビン酸のデヒドロアスコルビン酸への酸化反応はほとんど進行しないが、アスコルビン酸オキシダーゼがある一定以上存在する場合は、アスコルビン酸の酸化反応が進行し、しかも生地中心部と表面部での酸化反応速度に差が生じる。これは、生地中心部では酸素量がわずかであるのに対し、生地表面では空気と接触しているためと考えられる。
【0014】
アスコルビン酸オキシダーゼの活性は、ホイロ(38〜40℃)中で最大となり、生地表面での反応がより一層促進され、生地表面のグルテンネットワークが強化されるのに対して、成形以後の工程において内相部分では反応に必要な酸素が不足するため、生地強化の度合いが生地表面と内相部分で異なってくることを見いだした。そのために、焼成後の製品においても生地表面が強化されしっかりしているにもかかわらず、内相部分をソフトにすることができる。
【0015】
イーストドーナツのようなフライ処理を行う製品では、外皮の強化により余分な油の吸い込みを起こさず、また放冷などによる冷却後も製品表面への油分のシミ出しが少なくなることを見いだした。そのため、フライ処理製品では、吸油感が少なく、油っぽさが軽減でき、製品の商品価値が向上する。また本発明の改良剤を用いることで、ホワイトライン(イーストドーナツは比重が小さいため、ケーキドーナツのように油中に沈まない。このためにフライ中の生地膨張により、中央部が油面に接しなくなる。この部分は直接加熱されないために白いライン状に残り、これがホワイトラインと呼ばれる)がはっきり出るため、外観上の製品価値も向上する。
【0016】
本発明はアスコルビン酸にアスコルビン酸オキシダーゼを併用したことを特徴とする冷凍生地改良剤である。また、本発明冷凍生地の製造に際し、上記生地改良剤を使用することを特徴とする生地製造方法である。
【0017】
冷凍生地においては、外皮が強化されることで、特に解凍時の生地だれを防止し、冷凍耐性が向上することを見いだした。これは、解凍中に生地温度の上昇に伴いアスコルビン酸オキシダーゼの残存活性により生地表面のグルテンネットワークが再構築されて外皮が強化されるために、解凍時の生地だれが抑制されるものと考えられる。
このためフライ処理を行う冷凍生地においても、フライ前に生地表面が強化されることで、生地だれを防止し、余分な油分の吸い込みを起こさず、また放冷などによる冷却後も製品表面への油分のシミ出しが少ない製品が得られることを見いだした。特に生地だれを防止するため、きれいなホワイトラインができ、商品価値が向上する。
【0018】
ホイロ後冷凍生地では、解凍後の発酵(ホイロ)工程がないため、生地の弱化が生じると生地中のガスが抜け、製品の劣化を生じる。本発明の改良剤を用いる場合、凍結前の成形−ホイロ工程で生地表面を強化するため、保存中の生地弱化を抑制できる。また解凍工程においてアスコルビン酸オキシダーゼの残存活性により生地強化が可能であるため、生地中のガスが抜けるのを抑制できる。したがって本発明の改良剤は、ホイロ後冷凍生地にも効果的である。
【0019】
アスコルビン酸オキシダーゼの必要最低添加量は、小麦粉1kg当たりASO活性として1U(ユニット)以上である。アスコルビン酸オキシダーゼの添加量は、アスコルビン酸1mg当たりASO活性として5Uを上限とし、小麦粉1kg当たり500Uを上限とすることが望ましい。
したがって、アスコルビン酸オキシダーゼを併用する本発明においては、アスコルビン酸の添加レベルは、小麦粉1kg当たり1〜100mg、好ましくは5〜50mgであり、このときのアスコルビン酸オキシダーゼの添加量は、小麦粉1kg当たりASO活性として、1〜500U(好ましくは1〜250U)となる。
ここで言うASO活性とは、0.5mMアスコルビン酸(pH5.6)1mlとASO酵素溶液0.1mlを30℃、5分間反応させたとき、1分間に1μmolのアスコルビン酸を酸化する酵素量を1Uとした。
【0020】
本発明の改良剤はアスコルビン酸およびアスコルビン酸オキシダーゼを組み合わせることを特徴とするが、必要に応じて、グアガム、キサンタンガムなどの増粘多糖類、グルテン、レシチンなどの食品素材、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、ステアロイル乳酸ナトリウム、コハク酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリドなどの乳化剤、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、グルコースオキシダーゼなどの酵素剤、グルコースなどの糖類、などを併用した形態を採ってもかまわない。
【0021】
また冷凍生地へ利用する場合のアスコルビン酸オキシダーゼの必要最低添加量は、小麦粉1kg当たりASO活性として2U(ユニット)以上であり、アスコルビン酸オキシダーゼの添加量は、アスコルビン酸1mg当たりASO活性として10Uを上限とし、小麦粉1kg当たり500Uを上限とすることが望ましい。
したがってをアスコルビン酸オキシダーゼを併用する本発明においては、アスコルビン酸の添加レベルは、小麦粉1kg当たり10〜500mg、好ましくは50〜300mgであり、このときのアスコルビン酸オキシダーゼの添加量は、小麦粉1kg当たりASO活性として、2〜500U(好ましくは2〜300U)となる。
【0022】
本発明の改良剤を冷凍生地に利用する場合には、少なくともアミラーゼおよび/またはヘミセルラーゼおよび/又は乳化剤を組み合わせた形態を採ることが望ましい。
アミラーゼおよび/またはヘミセルラーゼは、生地の伸展性、製品のソフト感を補うことができ、食感の改善が期待される。乳化剤は、生地強化と生地進展性の面でプラスに働いている。
【0023】
乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、コハク酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、大豆リン脂質等から1種又は2種以上の組み合わせを選択できるが、ジアセチル酒石酸モノグリセリドが望ましい。
【0024】
【実施例】
本発明を実施例によって説明する。本発明はこの実施例によって何ら限定されない。
【0025】
実施例1、比較例1〜4
以下の(1)配合、(2)工程によりワンローフ・ブレッドを製造し、評価した。その結果を表1に示した。
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【表1】
【0030】
実施例1に示したように、アスコルビン酸とアスコルビン酸オキシダーゼを併用することで、外皮が強化され、内相がソフトになった。また比較例2に示したように、生地強化に一般的に用いられるグルテンを用いると、外皮を強化することはできず、内相のソフトさも失われることが分かった。
【0031】
実施例2〜実施例5、比較例5
以下の(1)配合、(2)工程によりバターロールを製造し、評価した。結果を表2に示した。
【0032】
【0033】
【0034】
(2)工程
ミキシング 低速3分高速2分,↓油脂,低速1分高速4分
捏上温度 27℃
フロア 28℃,80分パンチ20分
分割重量 40g
ベンチ 15分
ホイロ 38℃,30分
焼成 210℃,8分
【0035】
【表2】
【0036】
実施例2および3に示したようにアスコルビン酸を併用することで、外皮が強化され、内相がソフトになり、食感の優れた製品を得ることができた。
実施例5に示したように、アスコルビン酸オキシダーゼ添加量が少ないと、アスコルビン酸と併用しても外皮強化の効果を十分に得難い傾向があり、実施例4に示したように、アスコルビン酸オキシダーゼがアスコルビン酸に対し過剰に存在すると、内相のソフトさにやや欠ける傾向があった。
【0037】
実施例6
以下の(1)配合、(2)工程によりイーストドーナツを製造し、評価した。結果を表3に示した。
【0038】
【0039】
(2)工程
ミキシング 低速3分高速2分,↓油脂,低速1分高速4分
捏上温度 27℃
フロア 28℃,90分
分割重量 45g
ベンチ 15分
ホイロ 38℃,30分
フライ 180℃,片面2分ずつ
【0040】
比較例6
アスコルビン酸オキシダーゼ製剤を添加せずに、実施例6と同様に操作した。
結果を表3に示した。
【0041】
実施例7
アスコルビン酸を小麦粉100部当たり0.005部(50mg/小麦粉1kg)添加した他は、実施例6に示した配合にて、実施例6に示した工程により成型まで行い、−30℃で60分間凍結処理を行ってイーストドーナツ成型冷凍生地を製造した。−20℃で1ヶ月間保存した後、解凍(25℃,60分)、ホイロ(38℃,60分)、フライ(180℃,片面2分ずつ)工程を行い、評価した。結果を表3に示した、
【0042】
比較例7
アスコルビン酸オキシダーゼ製剤を添加せずに、実施例7と同様に操作した。結果を表3に示した。
【0043】
【表3】
【0044】
実施例6に示したように、アスコルビン酸とアスコルビン酸オキシダーゼを併用することで、製品への過剰な油の浸透がなくなり、油っぽさが軽減された他、製品のさくみが一層改善された。また外皮の保形性が向上するため、きれいなホワイトラインができ、外観の面でも改善され、商品価値も向上した。また実施例7に示したように、冷凍生地においても同様の効果が認められた。
【0045】
実施例8
グルテン(昭和産業(株)製パウダーグルA)8kg、ジアセチル酒石酸モノグリセリド製剤1.6kgをプロシェアミキサにて予備混合した、これに予め別に予備混合しておいたバイタルグルテン330g、アスコルビン酸50g、アスコルビン酸オキシダーゼ製剤(ナガセ生化学工業(株)ASO−10)10g、アミラーゼ製剤(レーム社製FDスーパー)10gをミキサーに投入し、均一になるまで混合し、改良剤を調製した。
以下の(1)配合、(2)工程によりクロワッサン成型冷凍生地を製造し、評価した。結果を表4に示した。
【0046】
【0047】
(2)工程
ミキシング 低速3分高速1分,↓油脂,低速3分高速6分
捏上温度 25℃
フロア 20℃,20分
リターディング −25℃,30分、−2℃,90分
ロールイン 三つ折り×2
リターディング −25℃,30分、−2℃,90分
成型 三つ折り
凍結 −35℃,60分
保存 −20℃,1ヶ月
解凍 25℃,60分
ホイロ 38℃,60分
焼成 200℃,12分
【0048】
比較例8
アスコルビン酸オキシダーゼ製剤を添加せずに、実施例8と同様に改良剤を調製した。このとき、他の添加物の割合が同一になるように、アスコルビン酸オキシダーゼ製剤を強力粉に置き換えた。
実施例8と同様に操作してクロワッサン成型冷凍生地を製造し、評価した。結果を表4に示した。
【0049】
【表4】
【0050】
【発明の効果】
本発明により、皮がしっかりし、内相がソフトなイースト発酵食品が提供できる。イースト発酵食品のフライ処理製品の場合は、吸油感が少なく、油っぽくないイースト発酵食品のフライ製品の提供が可能となる。
冷凍生地の場合も解凍中の生地だれを防止し、皮がしっかりした内相がソフトなイースト発酵食品が提供できる。また冷凍生地のフライ処理製品においても解凍中の生地だれを防止し、吸油感が少なく、油っぽくないイースト発酵食品のフライ製品の提供が可能となる。
Claims (4)
- アスコルビン酸にアスコルビン酸オキシダーゼを併用したことを特徴とするイースト発酵食品生地改良剤。
- 生地改良剤が冷凍生地改良剤である請求項1のイースト発酵食品生地改良剤。
- イースト発酵食品生地の製造に際し、請求項1の生地改良剤を使用することを特徴とするイースト発酵食品生地の製造方法。
- 生地が冷凍生地である請求項3のイースト発酵食品生地の製造方法。
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JP25003295A JP3797687B2 (ja) | 1995-08-23 | 1995-08-23 | 生地改良剤およびそれを用いる生地製造方法 |
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1995
- 1995-08-23 JP JP25003295A patent/JP3797687B2/ja not_active Expired - Fee Related
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