JP3795521B2 - ペプチド−キレート化剤複合体 - Google Patents
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Description
本発明は診断用造影の分野に属し、炎症部位を標的とするのに有用なペプチド標的剤に関する。
発明の背景
診断用造影の技術は、体内で部位選択的に結合又は局在して、診断上興味のある画像を解像するのに有用な標的剤を利用するものである。例えば、モノクローナル抗体は、特定のガン細胞に対して高い親和性及び特異性を有するように開発されたものであり、したがって腫瘍を造影するのに有用である。その高親和性及び特異性にもかかわらず、産業的規模で生産するには経費がかかり、しかも標識特性が不十分であるために、抗体は理想的な造影剤を提供するものではない。特に、金属標識は、抗体上の多数の低親和性結合部位で結合する傾向にあり、in vivoで放出され、その結果、非標的部位において標識の望ましくない蓄積がおこる。抗体に替わる別の標的剤は、受容体結合性小ペプチドである。ペプチドは、種々のキレート化分子と複合体を形成して、標識が促進され、効率のよい標識がなされるという利点を有する。ペプチドが有する、抗体を上回るその他の利点は、合成が容易である、迅速に組織に浸透する、及び身体から迅速に***されるという点である。
天然テトラペプチドであるタフトシンTKPRは、好中球及びマクロファージの外表面上に発現する受容体と結合することにより食作用を刺激することが発見された。食作用は、細菌感染に対する宿主の防御の主力部隊であり、したがって食作用の刺激物質として、タフトシンは感染性炎症の部位を造影するための良好なペプチドであると予測される。しかしながら、放射性核種金属で標識されたタフトシンは、非標的部位に望ましくなく蓄積することが試験により示されている。特に、標識タフトシンは、胃腸管中に蓄積するため、造影剤としてのその有用性が制限されてしまう。
抗体に関連する困難性からみて、炎症部位に局在することができる一方、非標的組織中には実質的に蓄積されないペプチド標的剤を提供することが望まれている。
本発明の要約
追跡可能な金属で標識された場合に、炎症部位の診断用造影に有用であるペプチド−キレート化剤複合体が提供されるものである。ペプチド成分は、天然テトラペプチドであるタフトシンのアンタゴニストであり、一方キレート化剤成分は、金属、特にテクネチウム−99mのような放射性核種金属による標識部位として働く。本発明の一面によれば、Thr−X−Pro−Pro−Arg(ここで、Xは、アミノ酸残基又はそのアナログである)が金属キレート化剤と結合しているペプチド−キレート化剤複合体が提供される。
本発明の詳細な実施態様では、複合体の金属キレート化剤成分は、式(I):
(式中、R1及びR2は、一緒になって、場合により5員又は6員環と縮合していてもよい、5員又は6員複素環を形成し(ここで、いずれかの環は、場合によりアルキル、アルコキシ、カルボキシル、ハロゲン、ヒドロキシル及び結合基から選択される基で置換されていてもよい);
R3は、H;アルキル;ならびにアミノ、アミノアシル、カルボキシル、グアニジニル、ヒドロキシル、チオール、フェニル、フェノールイル、インドリル及びイミダゾリルから選択される基で置換されているアルキルから選択され;
R4は、ヒドロキシル、アルコキシ及び結合基から選択され;そして
Tは、H又は硫黄保護基を示す)
で示される。
本発明の特定の実施態様では、複合体の金属キレート化剤成分は、式(II):
(式中、R3、R4及びTは、上記と同義である)
で示される。
本発明の一面によれば、ペプチド−キレート化剤複合体は、診断上有用な金属あるいはその酸化物又は窒化物と錯体を形成した形で提供される。
本発明の別の一面によると、式:Thr−X−Pro−Pro−Argのペプチドが、診断上有用な金属あるいはその酸化物又は窒化物と錯体を形成した金属キレート化剤と結合しているペプチド−キレート化剤複合体を含有する組成物の診断的有効量を投与する工程を有する、哺乳類における炎症部位の造影法が提供される。
発明の詳細な説明
本発明は、診断上有用な金属と錯体を形成し、炎症部位の造影に有用なペプチド−キレート化剤複合体を提供するものである。「複合体」とも呼ばれるペプチド−キレート化剤複合体は、ペプチド成分として、金属キレート化剤と結合しているタフトシンのアンタゴニストを組み入れたものであり、このペプチド成分は、アミノ酸配列Thr−X−Pro−Pro−Arg(TXPPR)(ここで、Xは、天然又は非天然アミノ酸残基である)を有する。詳細な実施態様では、Xは、生理学的条件下で電荷されるか又は極性であるα炭素側鎖を有するアミノ酸残基である。好ましくは、Xは、アミノ酸残基、リシン(Lys又はK)、グルタミン(Gln又はQ)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又はN)、グルタミン酸(Glu又はE)、アスパラギン酸(Asp又はD)、チロシン(Tyr又はY)及びトレオニン(Thr又はT)からなる群から選択される。更に好ましくは、Xは、リシン、グルタミン、アルギニン及びアスパラギンから選択される。最も好ましくは、Xは、リシン及びグルタミンから選択される。
非天然性であるアミノ酸残基もXに包含される。適当な非天然残基は、複合体の生体分布特性に影響することなくリシン又はグルタミンと置き換わりえるものである。それは、リシンのグルタミンによる置換は、造影のために十分耐容され、Xは、側鎖構造においては様々に変化され得るという事実から理解される。特に、非天然アミノ酸残基としては、その側鎖の長さにおいて天然残基と異なるリシン、グルタミン、アルギニン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、チロシン及びトレオニンが挙げられる。非天然残基の側鎖は、1個又は2個のC1〜C2アルキル基を分岐鎖として有するC1〜C8アルキレン鎖を組み入れたものである。好ましくは、アルキレン鎖は、1〜8個のメチレン基を有し、1個又は2個のメチレン基により対応する天然残基と異なる。好ましくは、非天然残基としては、その側鎖に1個又は数個のメチレン基を有するリシン及びグルタミンが挙げられる。適当な非天然残基は、市販されているか又は確立された化学的技術にしたがって合成することができる。
キレート化剤は、ペプチドThr−X−Pro−Pro−ArgのN−又はC−末端のいずれかと結合していると理解される。N末端にキレート化剤を結合させた場合、ペプチドThr−X−Pro−Pro−Argは、好ましくは1〜3個のアミノ酸残基によりそのC末端で延長されてもよいし、又はC末端で修飾されてもよく、例えばアミド化されるか、そうでなければ誘導化されることによって、エキソペプチダーゼによる消化を阻止する。許容可能な延長又は修飾とは、本明細書に記載された評価モデルにより決定されているように、複合体の炎症造影能を明らかに低下させないものである。
診断用造影のためには、キレート化剤は、放射性核種金属と結合して、生理学的条件下で安定であり、更に標的分子との複合のための反応性官能基をも有する錯体を形成する化合物である。放射性核種金属99mTcのキレート化剤は、代表的には、4個の窒素及び硫黄の金属配位性原子の組合せを組み入れたもので、N4、N3S、N2S2等と示される。しかしながら、キレート化剤は、酸素、リン及びセレンのようなその他の金属配位性原子を組み入れていてもよい。本発明の複合体の有利な合成のためには、キレート化剤は、理想的にはペプチドに基づくものであり、したがって複合体は、固相ペプチド合成技術を用いてin totoで合成することができる。
本発明の実施態様では、ペプチドは、そのN末端で、上記の式(I)のN3S型金属キレート化剤と結合している。この製造及び用途は、同時係属中の米国特許出願(Pollak et al. 1993年12月22日出願、出願番号08/171,737)に開示されている。別の実施態様では、ペプチドは、N末端で、式(II)のN2S2型金属キレート化剤と結合している。上記の式(I)及び(II)中で用いたように、可変基R1〜R4及びTを定義する用語は以下の意味を有する:
「アルキル」は、直鎖又は分岐鎖状C1〜C8アルキルを示し、低級C1〜C4アルキルが挙げられる;
「アルコキシ」は、直鎖又は分岐鎖状C1〜C8アルコキシを示し、低級C1〜C4アルコキシが挙げられる;
「チオール」は、アルキル基で置換されてチオエーテルを形成してもよいスルフヒドリル基を示す;
「硫黄保護基」は、硫黄原子と結合し、硫黄の酸化を阻止し、金属とのキレート形成により開裂される基を含む化学基を示す。適当な硫黄保護基としては、公知のアルキル、アリール、アシル、アルカノイル、アリールオイル、メルカプトアシル及びオルガノチオ基が挙げられる。
「結合基」は、ペプチドとキレート化剤を結合させるのに役立つ一方、ペプチドの標的機能又はキレート化剤の金属結合機能に悪影響を及ぼさない化学基を示す。適当な結合基としては、ペプチド又はキレート化剤との結合のための反応基で官能化されているアルキル鎖及びアミノ酸鎖が挙げられる。
「金属キレート化剤」は、金属がin vivoで複合体と結合したままの生理学的条件下で追跡可能である金属原子と安定な錯体を形成する分子を示す。
本発明の好ましい実施態様では、キレート化剤は、上記の式(I)又は式(II)(式中、R1及びR2は、一緒になって、6員複素環を形成し;R3は、H、ならびにメチル及びエチルから選択されるヒドロキシ置換アルキル基から選択され、最も好ましくはヒドロキシメチルであり;R4は、1〜3個のアミノ酸残基の結合基であり;そしてTは、硫黄保護基アセトアミドメチル(Acm)又はベンゾイル(Bz)である)に合致する。
本発明の更に好ましい実施態様では、キレート化剤は、上記の式(I)(式中、R1及びR2は、一緒になって、ピリジン環を形成し;R3は、ヒドロキシメチルであり;Tは、Acmであり、そしてR4は、−Gly−及び−Gly−Asp−Gly−から選択される結合基である)に合致する。ペプチドと結合した形のこれらのキレート化剤は、以下の配列で示される:
Pic−Ser−Cys(Acm)−Gly−TKPPR;
Pic−Ser−Cys(Acm)−Gly−TQPPR;及び
Pic−Ser−Cys(Acm)−Gly−Asp−Gly−TKPPR
(ここで、Picは、アミノ酸誘導体ピコリン酸を示す)。
本発明の好ましい実施態様では、キレート化剤は、上記の式(II)(式中、R3は、ヒドロキシメチルであり;Tは、Acm又はBzであり、そしてR4は、結合基−Gly−Asp−Gly−である)と合致する。R4の結合基でペプチドと結合したこのキレート化剤は、以下の式で示される:
Bz−MA−Ser−Cys−Ser−Gly−Asp−Gly−TKPPR
(式中、Bz−MAは、ベンゾイルメルカプト酢酸基を示す)。
本発明の好ましい実施態様では、キレート化剤は、上記の式(II)に合致する。
本発明の更に別の実施態様では、ペプチドは、同時係属中の米国特許出願(Pollak et al. 1994年7月22日出願、出願番号08/279,155)に開示の金属キレート化剤と結合し、これが式(III):
(式中、Wは、場合によりN、O及びSから選択される1個又は2個のヘテロ原子により中断され、場合によりハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、カルボキシル、C1〜C4アルキル、アリール及びC(O)Zから選択される少なくとも1個の基により置換されている直鎖又は分岐鎖状、飽和又は不飽和C1〜C4アルキル鎖であり;
Yは、H、又はWにより定義された置換基であり;
W及びYは、一緒になって、ハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、カルボキシル、オキソ、C1〜C4アルキル、アリール及びC(O)Zから選択される少なくとも1個の基により場合により置換されている5〜8員飽和又は不飽和複素環を形成してもよく;
R1〜R4は、H;カルボキシル;C1〜C4アルキル;ヒドロキシル、アミノ、スルフヒドリル、ハロゲン、カルボキシル、C1〜C4アルコキシカルボニル及びアミノカルボニルから選択される基で置換されているC1〜C4アルキル;プロリン以外のD又はLアミノ酸のα炭素側鎖;ならびにC(O)Zから独立して選択され;
R5及びR6は、H;カルボキシル;アミノ;C1〜C4アルキル;ヒドロキシル、カルボキシル又はアミノにより置換されているC1〜C4アルキル;及びC(O)Zから独立して選択され;
R7は、H及び硫黄保護基から選択され;そして
Zは、配列Thr−X−Pro−Pro−Arg(ここで、Xは、前記と同義である)を有する標的分子から選択される)
と合致する。
本発明の好ましい実施態様では、上記式(III)のR1〜R7、W、X、Y及びZは、キレート化剤DMG−Ser−Cys(Acm)(ここで、DMGは、アミノ酸残基アナログであるN’,N−ジメチルグリシンを示す)となるよう選択される。このキレート化剤を組み入れているペプチドThr−X−Pro−Pro−Argの複合体としては:
DMG−Ser−Cys(Acm)−G−TKPPR;
DMG−Ser−Cys(Acm)−G−TQPPR;
DMG−Ser−Cys(Acm)−βAla−TKPPR;及び
DMG−Ser−Cys(Acm)−βAla−βAla−TKPPRが挙げられる。
別の詳細な実施態様では、ペプチドThr−X−Pro−Pro−Argの複合体は、ペプチドのC末端に結合させたキレート化剤を有する。この型の複合体としては:
及び
が挙げられる。
本発明の複合体は、選択されるキレート化剤によって種々の方法で調製することができる。複合体のペプチド部分は、ペプチド合成技術で一般的に確立されている固相法などの技術により好都合に調製される。固相合成は、ポリスチレンなどの不溶性支持体又はマトリックスに結合させた伸長させるペプチド鎖へアミノ酸残基を段階的に付加させることからなる。ペプチドは、t−ブチルオキシカルボニル基(tBoc)又はフルオレニルメトキシカルボニル(FMOC)基などのN保護剤によりそのアミノ基を保護しながら、先ずペプチドのC末端残基を市販の支持体に固定させる。アミノ保護基を、tBOCの場合にはTFA、FMOCの場合にはピペリジンなどの適当な脱保護化剤により除去し、次のアミノ酸残基(Nの保護された形で)を、ジシクロカルボジイミド(DCC)などのカップリング剤を用いて付加する。ペプチド結合形成時に、試薬を支持体から洗い落とす。最終残基の付加後、トリフルオロ酢酸(TFA)又はフッ化水素(HF)などの適当な試薬を用いて、ペプチドを支持体からはずす。
ペプチドのThr残基の遊離アミノ基と、キレート化剤のカルボキシル基又は活性化エステルなどの適当な官能基とを反応させることによりペプチド及びキレート化剤成分を結合させて、複合体を生成する。例えば、複合体は、エチレン鎖上のカルボキシル置換基により官能化させる場合、配位化学の技術でよく知られているキレート化剤エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を組み入れてもよい。この種のEDTA誘導体の合成は、Arya et al.(Bioconjugate Chemistry 1991, 2:323)に報告されており、ここでは、4個の配位カルボキシル基が、各々t−ブチル基によりブロックされている一方、エチレン鎖のカルボキシル置換基は、遊離しており、ペプチドのアミノ基と反応し、それにより複合体を生成する。
複合体は、ペプチド性で、固相ペプチド合成に適合している金属キレート化剤成分を組み入れていてもよい。この場合、キレート化剤は、上記のEDTAと同様の方法でペプチドと結合していてもよいし、あるいはキレート化剤及びペプチドを、ペプチドのC末端残基から出発してキレート化剤のN末端残基で終わるようin toto合成するのもより好都合である。
複合体には、ペプチドをキレート化剤と結合させるのに役立つが、ペプチドの標的機能又はキレート化剤の金属結合機能に悪影響を及ぼさない結合基成分を更に組み入れていてもよい。適切な結合基成分としては、ペプチドとキレート化剤の両方と結合するための反応基で官能化されたアミノ酸鎖及びアルキル鎖が挙げられる。キレート化剤がペプチド性であって、複合体が、固相法によりin toto合成することができる場合、アミノ酸鎖が好ましい結合基である。詳細な実施態様では、結合基は、1〜5個の残基、より詳細には1〜3個の残基を有するアミノ酸鎖である。好ましい結合基としては、−Gly−及び−Gly−Asp−Gly−、ならびに合成アミノ酸残基鎖、−βAla−及び−βAla−βAla−が挙げられる。
ペプチドのThr残基のアミノ基を、アルキル鎖上のカルボキシル基又は活性化エステルなどの第一の官能基と反応させることにより、アルキル鎖結合基を複合体に組み入れてもよい。その後、アルキル鎖上の第二の官能基をキレート化剤上の適当な基と反応させることにより、キレート化剤をアルキル鎖と連結させて、複合体の生成を完了させる。アルキル鎖上の第二の官能基は、キレート化剤上の官能基と反応性であり、好ましくはペプチドのThr残基とは反応しない置換基から選択される。例えば、キレート化剤がカルボキシル基又は活性化エステルなどの官能基を組み入れている場合には、アルキル鎖結合基の第二の官能基は、アミノ基であることができる。望ましくない物質の生成を避けるためには、複合体の生成において、存在する官能基の保護及び脱保護が必要であると思われる。保護及び脱保護は、有機合成技術でよく用いられる保護基、試薬及び方法を用いて達成される。特に、上記の固相ペプチド合成に用いられる保護及び脱保護技術を使用することができる。
アルキル鎖に替わる別の化学結合基は、複合体中への組み入れに関して上記のアルキル鎖と同様の方法で官能化されるポリエチレングリコール(PEG)である。別法として、結合基を先ずキレート化剤に、次いでペプチドに結合させてもよいと考えられる。
本発明の一面によれば、ペプチド−キレート化剤複合体には、錯体を形成させることのできる診断上有用な金属を組み入れる。適当な金属としては、テクネチウム及びレニウムなどの放射性核種を、99mTcO3+、99mTcO2 +、ReO3+及びReO2 +などの種々の形態で挙げることができる。複合体内への金属の組み入れは、配位化学技術でよく用いられる種々の方法により行なうことができる。金属が、テクネチウム−99mである場合、以下の一般的手順を用いてテクネチウム錯体を生成することができる。エタノールなどの水性アルコールに複合体を溶解することによって、ペプチド−キレート化剤複合体溶液を先ず生成する。次に、溶液を脱気して酸素を除去した後、チオール保護基を適当な試薬で、例えば水酸化ナトリウムで除去し、酢酸などの有機酸で中和する(pH6.0〜6.5)。標識の工程では、モリブデン発生器から得られた過テクネチウム酸ナトリウムを、テクネチウムを還元するのに十分な量の塩化第一スズなどの還元剤とともに複合体溶液に加えて、加熱する。標識複合体を、クロマトグラフィー処理により、例えばC−18 Sep Pakカートリッジを用いて、夾雑物99mTcO4 -及びコロイド99mTcO2から分離してもよい。
別の方法では、トランスキレート化反応により標識を行なうことができる。テクネチウム供給源は、選択されたキレート化剤との配位子交換を促す置換活性配位子と錯体を形成したテクネチウムの溶液である。トランスキレート化に適した配位子としては、酒石酸、クエン酸及びヘプタグルコン酸が挙げられる。この場合、好ましい還元試薬は、亜ジチオン酸ナトリウムである。上記の方法を用いて複合体を標識するか、あるいはキレート化剤それ自体を標識した後、ペプチドと結合させて複合体を生成することができる。この方法は「予備標識化配位子」法と呼ばれる。
本発明の複合体を標識するための別の方法としては、同時係属中の米国特許出願第08/152,680号(1993年11月16日出願)に記載の方法が挙げられる。要約すると、金属キレート形成時に開裂される結合により、固相支持体上にペプチド−キレート化剤複合体を固定する。これは、キレート化剤が錯体形成原子の1つにより支持体の官能基と結合する場合に行なう。好ましくは、錯体形成硫黄原子を、マレイミドなどの硫黄保護基で官能化されている支持体に結合させる。
診断上有用な金属で標識されている場合、本発明のペプチド−キレート化剤複合体を用いて、診断用造影技術で確立されている方法により、炎症部位を検出することができる。テクネチウム−99mなどの放射性核種金属で標識された複合体を、等張生理食塩水などの薬学的に許容しうる溶液に溶解し、静注により哺乳類に投与することができる。投与に適した標識複合体の量は、迅速に***される複合体は、それほど迅速に***されないものよりは高用量で投与するという観点から選択された複合体の分布特性に応じて決定する。炎症の造影に許容しうる単位用量は、体重70kgの個体について約5〜40mCiの範囲である。In vivoにおける分布及び局在化は、投与後の適切な時点、典型的には非標的組織でのクリアランス速度に対する標的部位での蓄積速度に応じて30分〜180分で、標準的シンチグラフィー法により追跡する。
以下の実施例で更に本発明の実施態様を説明する。
実施例1
複合体の調製:
Pic−Ser−Cys(Acm)−G−TKPPR
Pic−Ser−Cys(Acm)−GDG−TKPPR
Bz−MA−Ser−Cys−GDG−TKPPR
Applied Biosystems 433Aペプチドシンセサイザー(Foster City, CA)を用いて、保護C末端を有する残基を予めつけた2−メトキシ−4−アルコキシベンジルアルコール樹脂(Sasrin樹脂、Bachem Biosciences Inc., Philadelphia PA)上で、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(FMOC)化学を用いて、ペプチド−キレート化剤複合体をin toto合成した。合成の最終残基としてそれぞれピコリン酸及びベンゾイルメルカプト酢酸を用いることにより、N末端残基Pic及びBz−MAを組み入れた。
複合体を結合させた樹脂を12時間真空乾燥した。トリフルオロ酢酸(TFA)95%及び水5%の冷却溶液(ペプチド−樹脂100mg当り1ml)を複合体−樹脂と室温で1.5〜2時間混合して、樹脂から複合体をはずした。濾過により樹脂を除去し、50mlの円錐形ポリプロピレン遠心分離管中、t−ブチルメチルエーテル30mlにより3回洗浄して、白色沈澱を得た。アセトニトリルを加えて、沈澱物を水に溶解した。沈澱物をアセトン−ドライアイス中で凍結させ、12時間凍結乾燥させた。生じた白色粉末を水に溶解し、0.45μmシリンジフィルター(GelmanAcrodisc LC PVDF)で濾過し、緩衝液Aとして水に溶解した0.1%TFA及び緩衝液Bとしてアセトニトリルに溶解した0.1%TFAを用いて、C18カラム(Waters RCM 25 x 10)を用いた逆相HPLC(Beckman System Gold)により精製した。カラムを100:0の緩衝液A:緩衝液Bで平衡化させ、1ml/分で25分間かけて、50%緩衝液Bまで線状勾配で溶離した。分画をHPLC上で再分析し、適合プロフィールにしたがってプールした。必要な場合には、同一条件を用いて、プールした分画を再精製した。純粋な分画を、アセトン−ドライアイス中で凍結させ、10時間凍結乾燥して、白色粉末を得た。
同様の方法で、複合体DMG−Ser−Cys(Acm)−G−TKPPR;DMG−Ser−Cys(Acm)−G−TQPPR;DMG−Ser−Cys(Acm)−βAla−TKPPR;及びDMG−Ser−Cys(Acm)−βAla−βAla−TKPPRを、市販の残基N’,N−ジメチル−グリシン(DMG)を合成の最終残基として用いて合成した。
複合体の調製:
及び
ペプチドThr−X−Pro−Pro−Argは、以下の手順で、リシン残基を含むキレート化剤又はそれに結合した結合基に、リシン残基のεアミノ基を介して、そのC末端で結合させることができる。標記の複合体に関しては、Applied Biosystems 433Aペプチドシンセサイザーを用い、FMOC−グリシンを予めつけた2−メトキシ−4−アルコキシベンジルアルコール樹脂及び1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロヘキシリジン)−エチル(Dde)オルトゴナル保護リシンを用いて、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(FMOC)化学により、ペプチド及び結合基の一部(TKPPR−βAla−Lys−Gly−OH及びTKPPR−βAla−βAla−Lys−Gly−OH)をまず合成した。ペプチド−樹脂をシンセサイザーから取り出し、2時間真空乾燥した。
ペプチド−樹脂(50mg/2ml)を、N−メチルピロリドン(NMP)溶液中、2%ヒドラジン水和物とともに3分間2回撹拌した後、濾過し、DCMで洗浄し、4時間真空乾燥して、ε−アミノリシン保護基(Dde)を除去した。
キレート化剤部分DMG−Ser−Cys(Acm)−Gly−OHを、433Aペプチドシンセサイザー上でペプチドのε−アミノリシンに付加した。キレート化剤−ペプチド−樹脂を2時間真空乾燥した。トリフルオロ酢酸(TFA)10ml、フェノール0.75g、1,2−エタンジオール0.25ml、チオアニソール0.5ml及び水0.5mlの冷却溶液を、キレート化剤−ペプチド−樹脂と室温で2.5〜3時間混合して、樹脂及び保護基から、キレート化剤−ペプチドをはずした。濾過して樹脂を除去し、TFA1〜3mlで洗浄して、透明な黄色の液体6〜8mlを得た。この液体を、50mlの円錐形ポリプロピレン遠心分離管中、0℃で、tert−ブチルメチルエーテル30〜35ml中に徐々に滴下して、白色沈澱を得た。沈澱物を7000rpmで0℃で10分間遠心分離(Sorvall RT6000, Dupont)し、デカントし、t−ブチルメチルエーテルで2回以上洗浄した。真空下で乾燥後、沈澱物を水に溶解させた。沈澱物をアセトン−ドライアイス中で凍結させ、10時間凍結乾燥した。得られた白色粉末を、ジメチルスルホキシド(20μl)及び50:50アセトニトリル:水溶液(980μl)に溶解し、0.45μmシリンジフィルター(Gelman Acrodisc LC PVDF)により濾過し、緩衝液Aとして水に溶解した0.1%TFA及び緩衝液Bとしてアセトニトリルに溶解した0.1%TFAを用いて、C18カラム(Waters RCM 25 x 10)を用いた逆相HPLC(Beckman System Gold)により精製した。カラムを50:50緩衝液A:緩衝液Bで平衡化させ、1ml/分で25分間かけて、100%緩衝液Bまで線状勾配で溶離した。分画をHPLC上で再分析し、適合プロフィールにしたがってプールした。純粋な分画をアセトン−ドライアイス中で凍結させ、12時間凍結乾燥して、白色粉末を得た。
実施例2 複合体の標識及び造影
以下のようにラット炎症モデルで、造影試験を行なった。雄性ウィスター系ラット(Charles River、150〜200g)に、酵母細胞壁懸濁液であるザイモサン(25mg)をその左後脚に筋注し、24時間後に造影を行なった。脚の病巣炎症は1日後に可視的に検出可能となった。
各複合体(50μl、生理食塩水中2mg/ml)を、生理食塩水100μl、過テクネチウム酸塩100μl(10mCi)及びグルコン酸第一スズ(塩化第一スズ50μg及びグルコン酸ナトリウム1mg)100μlと共に1.5ml試験管に入れた。試験管に栓をし、沸騰水浴中に10分間入れた後、Watman PVDFシリンジにより濾過して、標識複合体溶液を収集し、これを更に生理食塩水で希釈して、約100μCi(3.7MBq)の活性を有する注射液(200μl)を調製した。ラットを、ソムノトール(somnotol)(40〜50mg/kg)で麻酔し、Tc−99m標識複合体溶液(200μl)を尾静脈に静注した。ガンマ線カメラにより、投与30分後に、連続全身シンチグラムを得た。次いでラットを麻酔して屠殺し、器官、尿、血液、炎症筋(左脚)、及び非炎症筋(右脚)の標本の重量を測定し、ウェル形ガンマ計数器又はガンマ線量測定器のいずれかで計数した。(1)ラットの体重は200gであり、(2)血液容積は体重の8%であるという仮定に基づいて、血中線量算定を行なった。下表に示す結果は、多数の試験の平均であり、尾中残留線量について補正される。
理論に拘束されることを望むものではないが、高い標的対バックグラウンド比で示されるような、標的組織で薬剤が選択的に蓄積される場合に良好な画像が得られると考えられる。造影剤の有用性を示す他の因子は、その生体分布及び***速度である。例えば、腎臓を経て尿中に迅速に***されるものとは対照的に、胃腸管に蓄積される薬剤は、標的部位がその近くにある場合には画像を不鮮明にする。
表に略記した結果は、そのN末端でキレート化剤と結合しているTKPPR又はTQPPRペプチドを含む複合体が、試験した他のタフトシン関連ペプチドに比して有意に高い炎症筋対非炎症筋比(標的対バックグラウンド)、ならびに優れた分布特性を有することを示している。このため、これらの複合体は、炎症筋組織を最も明確に区別した画像を示した。ペプチドをN2S2及びN3S種のキレート化剤と結合させると、いずれも、高い標的対バックグラウンド比及び尿中への迅速な***を示した。アミノ酸長1〜4の3種の異なる結合基を用いて、ペプチドをキレート化剤と結合させたところ、それぞれが良好な画像を示した。
本来のタフトシンペプチド及び他のアンタゴニストをN3Sキレート化剤と結合させて試験を行なったが、いずれも、TKPPR及びTQPPR複合体より低い標的対バックグラウンド比ならびに胃腸管中での高い蓄積性(1例を除く)を示した。TKKPR複合体は、胃腸管及び血液中では低蓄積性であったが、尿中の量は特に低く、このことは複合体が他の場所に蓄積されたことを示し、これは造影には望ましくない。そのC末端でキレート化剤と結合させると、TKPPRペプチドは、相対的に低い標的対バックグラウンド比及び胃腸管での高蓄積性を示し、その結果画像の解像度が低くなった。
これらの結果により、そのN末端でキレート化剤と結合させたペプチドTKPPR又はTQPPRを組み入れた複合体が、炎症の造影に有用であることが示され、このことは、複合体中に組み入れられたキレート化剤又は結合基の種類とは無関係である。
Claims (11)
- 炎症部位を造影するのに有用なペプチド−キレート化剤複合体であって、配列Thr−X−Pro−Pro−Arg(ここで、Xは、Lys又はGlnである)を有するペプチドと結合させた金属キレート化剤を含み、
金属キレート化剤が、一般式:
(式中、R1及びR2は、一緒になって、場合により5員又は6員環と縮合していてもよい5員又は6員複素環を形成し(ここで、いずれかの環は、場合によりアルキル、アルコキシ、カルボキシル、ハロゲン、ヒドロキシル及び結合基から選択される基で置換されていてもよい);
R3は、H;アルキル;ならびにアミノ、アミノアシル、カルボキシル、グアニジニル、ヒドロキシル、チオール、フェニル、フェノールイル、インドリル及びイミダゾリルから選択される基で置換されているアルキルから選択され;
R4は、ヒドロキシル、アルコキシ及び結合基から選択され;そして
Tは、H又は硫黄保護基を示す)
で示される、ペプチド−キレート化剤複合体(金属キレート化剤は、ペプチドのN末端と結合しており、かつペプチドは、R 4 で金属キレート化剤と結合している)。 - 金属キレート化剤及びペプチドが、結合基により結合されている、請求項1に記載のペプチド−キレート化剤複合体。
- 結合基が、1つ又はそれ以上のアミノ酸残基である、請求項2記載のペプチド−キレート化剤複合体。
- 結合基が、−Gly−、−Gly−Asp−Gly−、−βAla−及び−βAla−βAla−から選択される、請求項2記載のペプチド−キレート化剤複合体。
- 結合基が、−Gly−及び−Gly−Asp−Gly−から選択される、請求項1記載のペプチド−キレート化剤複合体。
- Pic−Ser−Cys(Acm)−G−TKPPR;
Pic−Ser−Cys(Acm)−GDG−TKPPR;又は
Pic−Ser−Cys(Acm)−G−TQPPR
から選択される、請求項1記載のペプチド−キレート化剤複合体。 - Pic−Ser−Cys(Acm)−G−TKPPR;又は
Pic−Ser−Cys(Acm)−G−TQPPR;
から選択される、請求項1記載のペプチド−キレート化剤複合体。 - 診断上有用な金属あるいはその酸化物又は窒化物と錯体を形成した形である、請求項1〜7のいずれかに記載のペプチド−キレート化剤複合体。
- 99mTcあるいはその酸化物又は窒化物と錯体を形成した形である、請求項1〜7のいずれかに記載のペプチド−キレート化剤複合体。
- 請求項8記載のペプチド−キレート化剤複合体を含有する、哺乳類における炎症部位の造影用組成物。
- 請求項9記載のペプチド−キレート化剤複合体を含有する、哺乳類における炎症部位の造影用組成物。
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