JP3788634B2 - 高純度テレフタル酸の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は高純度テレフタル酸の製造方法に関し、更に詳しくは液相酸化反応によって得られた粗テレフタル酸結晶の酢酸溶媒スラリーの母液を水で置換する母液置換法に関する。
【0002】
【従来の技術】
テレフタル酸はp−キシレンに代表されるp−アルキルベンゼン等のp−フェニレン化合物の液相酸化反応によって製造されるが、通常は酢酸を溶媒(母液)としてコバルト、マンガン等の触媒を使用し、またはこれに臭素化合物、アセトアルデヒドのような促進剤を加えた触媒が用いられる。
しかし、この反応生成物には4ーカルボキシベンズアルデヒド(4CBA)やパラトルイル酸や種々の着色性不純物を含むため、高純度テレフタル酸を得るにはかなり高度の精製技術を必要とする。
【0003】
液相酸化反応で得られた粗テレフタル酸を精製する方法としては、粗テレフタル酸を水溶媒で高温・高圧下に溶解し、接触水素化処理、酸化処理、再結晶処理あるいはテレフタル酸結晶が一部溶解したスラリー状での高温浸漬処理等の種々の方法が知られている。
特に粗テレフタル酸を水に溶解して高温・高圧下に第VIII族貴金属触媒を用いて接触水素化処理工程を行う方法は、高純度テレフタル酸製造の大規模な商業的プロセスとして数十年の歴史を有している。
【0004】
しかしながら、この接触水素化処理工程を行う方法では、プロセスフローが長いことが大きな問題点の一つに挙げられる。すなわち該プロセスでは、溶媒回収や触媒回収等の複雑なしかも煩わしいユニットを除いた主要なプロセスフローだけを列挙してみても1ないしは2段以上の酸化反応器、数個の粗製系逐次的晶析器、粗製系分離機、粗製系ドライヤー、再溶解槽、接触水素化反応器、数個の精製系逐次的晶析器、精製系分離機、精製系ドライヤーと連なっている。
【0005】
このようにプロセスフローが長くなる大きな要因としては、酸化によって粗テレフタル酸を製造する反応の溶媒が酢酸であり、接触水素化処理によって精製する反応の溶媒が水である点が挙げられる。
このような酢酸から水への溶媒置換を行うには、酸化で生成した粗テレフタル酸を一旦酢酸溶媒から完全に分離し、次に水溶媒で再溶解しなければならない。もし粗テレフタル酸と酢酸の分離が不完全で、粗テレフタル酸に溶媒酢酸が付着したまま接触水素化処理工程に供給されると、酢酸自体は接触水素化処理によって化学的変化を受けることは殆どないので、粗テレフタル酸に付着した溶媒酢酸は接触水素化処理の水溶媒に混入して系外に排出されることになる。
これは酢酸という有価物が流出して失われることであり、また流出される酢酸は環境に対して無害化しなければならないので、その経済的損失は大きなものになる。
【0006】
この経済的な損失を抑えるためには、酸化工程からの結晶を含むスラリーより母液を分離する粗製系分離機と粗製系ドライヤーを組み合わせて接触水素化工程へ送る粗テレフタル酸に酢酸が付着して同伴することをほぼ完全に遮断することが必要であり、現行の商業的規模の装置ではこのような分離機とドライヤーを組み合わせたフローが用いられている。
結晶を含むスラリーから母液を分離する方法として最も一般的に用いられるのは遠心分離機や回転式バキュームフィルターであり、粗テレフタル酸結晶スラリーから母液を分離する場合もこの両者が広範に使用されている。
【0007】
遠心分離機は高速回転しているバスケット中に原料の酢酸スラリーを導入し母液を上部からオーバーフローさせ、結晶は下部へ誘導する方法であり、高速回転させるという遠心分離機の構造上の制約から保全、保守が煩雑であることが欠点である。
また粗テレフタル酸結晶のリンスが簡単にできないので母液を完全に除くことができず、そのために遠心分離工程の下流に乾燥工程を設けて粗テレフタル酸結晶に付着残存している酢酸を除去する必要がある。
【0008】
回転式バキュームフィルターは濾材の回転と共にハウジングの底部に貯まっている粗テレフタル酸結晶が濾材に付着して上昇・回転し、一般的にはリンスポイントを通過後、結晶をケーキとして剥離するものである。
この方式においては高速回転を要しないために、保全や保守は比較的容易であるが、粗テレフタル酸結晶に付着した母液を完全にリンスで除去することは難しいため、下流にドライヤーを必要とするのは遠心分離機と同様である。
【0009】
遠心分離機や回転式バキュームフィルターに代わる結晶の分離、母液の除去方法として、特公昭33−5410号には粗テレフタル酸を水で再結晶したスラリーを高温(165℃以上)で垂直管に通し、高温水の緩慢な上昇流に抗してテレフタル酸結晶を重力で沈降させ、付着母液を洗浄する方法が記載されている。
この方法はテレフタル酸結晶を水溶媒で再結晶した後、結晶と母液の分離を高温(加圧下)で行っているが、基本的にはテレフタル酸スラリーの母液を新鮮な溶媒に置き換える母液置換法である。
【0010】
この母液置換法では重力を結晶の沈降に用いるので、特別の動力を必要としない点で優れており、使用される装置自体がシンプルな点も魅力的である。しかし母液置換率が低いことと、実験結果をそのままスケールアップすることが難しいという欠点を持っている。
母液置換率を向上させるためには高温水の上昇流を大きくすれば良いが、このためには大量の溶媒(水)を使用しなければならず、また上昇流を大きくすると結晶の沈降速度が低下し、小粒径の結晶が大量に垂直菅の頂部から溢流することになる。
【0011】
このような欠点を克服するために、特開昭57−53431号では、多数の孔をもった複数個の横方向の仕切り板で分割されたテレフタル酸結晶の重力沈降工程と粒子輸送工程を組み合わせた母液置換法を提案している。このような仕切り板は装置内流体のチャンネリングまたはバックミキシングを防止して母液置換率を高めるためのものであるが、しかしスラリーを扱う重力沈降を利用した母液置換においてこのような仕切り板を設けることは、仕切り板への結晶の堆積、開口部の閉塞やバルキングが起こり、運転の安定化に多大な労力を要する。
【0012】
また特開平1−160942号では、横方向に仕切られた多数の棚段を設け、各棚段上を比較的ゆっくりと回転するかきとり羽根でテレフタル酸結晶を落下させる構造の母液置換塔を提案しており、該置換塔を用いて粗テレフタル酸の酢酸溶媒(母液)を水で置換した実施例で99%以上と推定される高水準の母液置換率を達成している。
しかしながら該実施例は実験室規模での装置で供給テレフタル酸スラリー量が約1トン/hであり、これを商業的規模にスケールアップすれば、おおよそ該実施例の100倍量のテレフタル酸スラリーを処理しなければならず、この処理量に見合った母液置換塔の大きさを想定すると、該実施例の置換塔に比較して約100倍の断面積が必要になる。すなわちテレフタル酸結晶が装置内を沈降する速度は、重力と溶媒の特性によって規定されるので、母液置換塔の大きさには関係なく一定である条件において母液置換塔の断面積を約100倍にしなければならず、上記のごとき高水準の母液置換塔を達成するためには、巨大な母液置換塔が必要となる。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
液相酸化反応によって得られた粗テレフタル酸結晶の酢酸溶媒スラリーの母液を母液置換塔を用いて水に置換し、得られた粗テレフタル酸の水スラリーを接触水素化処理装置に導けば、現行プロセスフローでの酸化工程からのスラリーより母液を分離する分離機とドライヤーを不要とすることができる。
しかしながら以上の如く高純度テレフタル酸を製造する一連の商業的規模での母液置換法、すなわち現行のプロセスフローにおいて粗テレフタル酸の母液分離機とドライヤーの機能を代替できる実際的な技術は未だ完成をみていない。
【0014】
本発明の目的は、液相酸化反応によって得られた粗テレフタル酸結晶の酢酸溶媒スラリーの母液を水で置換し、得られた粗テレフタル酸の水スラリーの母液をそのまま接触水素化処理装置に送る方法を完成させ、高純度テレフタル酸製造プラントにおいて、プロセスフローの短縮化、ひいては投資額の節減と運転に係わる費用の低減化を実現することである。
【0015】
酢酸の損失とそれに付随する排水処理負荷による経済的損失の境界線をどこに設定するかは製造工場のおかれている様々な経済的環境によって判断しなければならないので厳密な線引きは難しいが、一般的には母液置換率が99%以上であれば商業的規模での実施の可能性があると判断される。そして母液置換率が99.9%を超える水準を達成できれば、実施の可能性が確実になってくると判断される。従って本発明の具体的な目標は、従来の母液置換法に比し効率的な母液置換法を完成し、99%以上、望ましくは99.9%以上の母液置換率を達成することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、これら先行する数十年にもわたる技術的発想と進歩、またそれらの技術的障害を乗り越えるべく長年の研究を重ねた結果、母液置換塔の下部にテレフタル酸結晶の堆積層を形成し、その底部より水を供給することにより、小型でシンプルな装置で99%以上の高い母液置換率を達成することができることを見出し、特許出願を行った(特願平7−118299号)。
更に本発明者等は検討を行い、テレフタル酸結晶の堆積層中に複数の水平方向に延びるアームを持つ撹拌軸(アーム式撹拌翼)を設けてこれを静かに回転させることにより堆積層の微小な流動性を保持することにより、またテレフタル酸の堆積層に何らかの方法で脈動を与えることにより、堆積層中の置換水の偏流やチャンネリングが抑えられまた置換水の分散が良くなり、更に母液置換塔の運転性が飛躍的に向上することを見出し、本発明に到達した。
【0017】
即ち本発明は、p−アルキルベンゼンの液相酸化によって得られたテレフタル酸結晶の酢酸溶媒スラリーを水溶媒スラリーに母液置換した後、接触水素化処理を行う高純度テレフタル酸の製造方法において、母液置換塔上部に該酢酸溶媒スラリーを導入し、テレフタル酸結晶の沈降によって塔下部にテレフタル酸結晶の堆積層を形成し、底部より塔内部に水の上昇流を形成するに足る置換水を供給し、塔底部からテレフタル酸結晶の堆積層をスクリューコンベヤーにより抜き出し、堆積層中にアーム式撹拌翼を設け、該撹拌翼を静かに回転させることにより堆積層の流動性を保持することを特徴とする高純度テレフタル酸の製造方法である。
【0018】
【発明の実施の形態】
母液置換に供する粗テレフタル酸結晶の酢酸溶媒スラリーは、p−アルキルベンゼン等のp−フェニレン化合物、代表的にはパラキシレンを酸化して製造され、通常はコバルト、マンガン等の重金属塩触媒、またはこれに臭素化合物、或いはアセトアルデヒドのような促進剤を加えた触媒が用いられる。溶媒には3〜20%程度の水分を含有した酢酸を用いる。分子状酸素としては通常空気または酸素が用いられ、一般に温度170〜230℃、圧力10〜30気圧で1ないしは2段以上で反応が行われる。
【0019】
液相酸化工程を終えたスラリー状の反応流出物中にはテレフタル酸結晶以外に4CBA、パラトルイル酸、触媒その他種々の不純物を含有している。この反応流出物を1または2段以上にわたる粗製系逐次的晶析器に導き、逐次降温させながら溶媒に溶解していたテレフタル酸を更に結晶化させ、所定の温度まで降温させる。
その後、テレフタル酸結晶の酢酸溶媒スラリーは母液置換塔に供給され、塔内の水の上昇流中に導き、酸化反応母液は少量の微細テレフタル酸結晶と共に水の上昇液流にともなって上方へ、大部分のテレフタル酸結晶は塔内を沈降する。
【0020】
沈降したテレフタル酸結晶はスラリーとして塔底部より抜き出されるが、本発明では塔下部に堆積層を形成し、この堆積層内部より置換水を供給する。置換水の供給方法は堆積層中での分散を良くして置換水のチャンネリングや偏流を防ぐために、堆積層中に設けたアーム式攪拌翼よりあたかもスプリンクラーのように供給する方法や、堆積層中に設けたリングヘッダーを介して供給する方法を採用すると効果的である。塔下部の堆積層は公知の工学的手法で連続的或いは間欠的な手法によって抜き出される。
その結果、堆積層の個々のテレフタル酸結晶は下方へ移動する。それに対して塔内には水の上昇流が存在するので、テレフタル酸結晶と水が向流に接触し、結晶表面に付着していた酢酸溶媒および酢酸溶媒に含まれる種々の酸化反応副生不純物等が効率よく洗浄されることになる。
これにより塔底部からは酢酸溶媒を殆ど含まないテレフタル酸結晶の水溶媒スラリーが抜き出され、このスラリーは何等の追加的な処理を加えることなく既に公知である種々の精製方法、一般的には水溶媒スラリーを高温・高圧下で溶解し、第VIII族貴金属触媒を使って接触水素化処理工程を経て高純度テレフタル酸を製造する工程に送ることができる。
【0021】
本発明を実施する上での主要な条件について以下に述べる。
母液置換塔における母液置換率は99%以上、望ましくは99.9%以上の達成が要求されるが、その為の主要な条件はテレフタル酸結晶堆積層の流動性を保持することである。またテレフタル酸結晶堆積層の長さ(高さ)と塔内を上昇する水の線速度(上昇線速度)を適当に取る必要がある。
【0022】
堆積層の長さは塔上部からのテレフタル酸スラリーの供給速度、塔底部からの水の供給速度、塔底部からのテレフタル酸スラリーの抜き出し速度などの複数の操作因子の結果として決定されるが、実際の運転操作においては母液置換塔中の結晶沈降部分と堆積層の界面を検出し、それを所定の位置に保つようにテレフタル酸結晶の堆積層抜き出し速度を調整することで達成される。
この堆積層が長くなれば洗浄効果が増して母液置換率がアップし、反対に短くなれば母液置換率が低下するので、堆積層の長さはできるだけ長い方が好ましいが、あまり長すぎるとテレフタル酸結晶自身の静圧のためにブロッキングが発生する恐れがあるので不必要なまでの長さは避けなければならない。
【0023】
また母液置換率は塔径の関数としても示され、99%以上の母液置換率を達成するために堆積層の長さを母液置換塔の直径の5分の1以上とする必要がある。上昇線速度は堆積層のテレフタル酸結晶に対して向流的に上昇する水の流量を表し、便宜的に堆積層部分の空塔基準で定義される。我々の経験によれば上昇線速度を大きくすると母液置換率も上昇するが、おおよそ3m/hを越えると急速に母液置換率が低下する。
【0024】
母液置換塔の設計においては上昇線速度の下限は0を越えた値、つまり実質的に上昇流が形成されれば良く、上限はおおよそ3m/hである。
上昇線速度をこの上限より大きな値に設定することは置換率の低下を招くばかりでなく、一部のテレフタル酸結晶が十分に沈降せず上昇液流と共に上方へ取り出されることとなり、更に水の使用量が増加して塔頂部から回収される酢酸母液中の水濃度の上昇を引き起こすことにもなる。
【0025】
母液置換塔の温度は特に制限されないが、高純度テレフタル酸製造装置全体に関わるいくつかの要素を勘案する必要がある。
その一つは、より高温で母液置換を行うことは得られるテレフタル酸の品質を向上させる効果がある。すなわち一般的なテレフタル酸製造装置では、酸化反応器から粗製系逐次的晶析器へ導入される時点では、反応によって生成したテレフタル酸の大部分は既に結晶として存在している。晶析器では逐次降温することにより、母液中に溶けていた残りの部分のテレフタル酸が逐次晶析してくる。温度の高い部分で得られた結晶はより低温で得られた結晶よりも純度が高いことは一般的な現象であるが、テレフタル酸の晶析の場合は、不純物として存在している4CBAはテレフタル酸と共晶析することが知られており、共晶析してくる割合は温度が低くなるほど急速に大きくなる性質をもっている。従って母液置換をより高温で行うならば、得られる水スラリー中の粗テレフタル酸の純度が向上し、接触水素化処理工程を経て得られる高純度テレフタル酸の品質向上につながる利点がある。
【0026】
もう一つは、接触水素化処理反応は、より高温、具体的には250℃を越える温度で行われているので、母液置換をより低い温度で実施することは熱エネルギーの損失となる。酸化反応は概ね200℃近辺で行われるので、それよりも大幅に低い温度で母液置換を実施すれば、降温と昇温を繰り返す必要からエネルギーの損失となり、従って母液置換塔を酸化反応とできるだけ近い温度で行うことが望ましい。
【0027】
本発明における母液置換塔は極めて単純な装置で、かつ動力部分が少ないので高温、高圧での実施が容易である。しかしながら温度が高いと、母液置換塔の頂部から流出する酢酸溶媒母液中へのテレフタル酸溶解量が必然的に多くなる。この母液は再び酸化反応の溶媒として循環使用されるので、テレフタル酸の損失には直結しないが、反応器の実質的な生産量低下を招くことになる。
これらの諸条件を勘案すれば、母液置換工程の温度は概ね酸化反応温度より120℃以内の低温、すなわち80〜180℃程度とするのが好ましい。
母液置換塔の圧力は酢酸や水の温度を維持する圧力であり、温度が決まれば自動的に下限の圧力が決定され、0〜15kg/cm2 G程度となる。
【0028】
母液置換塔内のテレフタル酸結晶堆積層については、その流動性を保持することが重要である。これはテレフタル酸結晶が沈降してできる堆積層が完全な圧密状態になるとスラリーとしての特性が失われ、工学的な手法によって母液置換塔から抜き出すことが出来なくなるからである。これを防ぐためにはテレフタル酸結晶の堆積層を常に流動させることが必要となる。また堆積層の流動性を保持することにより供給置換水の分散が促進され、更に置換水がテレフタル酸結晶の堆積層中を偏流して上昇したり、チャンネリングすることを防止できる。
もちろん堆積層の流動性が激しくなると堆積層に於ける物質移動が促進されるため、母液置換塔の精製能力、即ち母液置換率が低下してしまう。母液置換率を必要以上に低下させないためには堆積層の流動性を微小に抑えることが必須となる。
【0029】
堆積層に微小な流動性を与える方法としてはアーム式撹拌翼が最も効果的である。また何らかの方法により堆積層に脈動を与えることも効果がある。
アーム式撹拌翼としては、アームが撹拌軸から水平方向に延びるものなら何でも良く、撹拌軸上方向から見た時アームが一文字、十文字、巴型などアームの本数や形状には特に制約はない。アームの段数は堆積層の高さによって決まり、またアームの断面については丸、三角、菱形など堆積層を剪断するのに著しく動力を要するものでなければ特に制約はない。
アーム式撹拌翼の回転数は毎分0.1〜20回転が好ましく、更に好適には毎分0.5〜10回転である。
アーム式撹拌翼の翼径についてはテレフタル酸結晶の堆積層全体を流動化させる長さが必要とされる。実際の装置では母液置換塔塔径の0.7〜0.99倍の翼径が好ましく、更に好適には母液置換塔塔径の0.8〜0.99倍の翼径である。
【0030】
堆積層に脈動を与える方法としては、供給置換水を供給時、停止時と間欠的に繰り返す方法、供給置換水のラインにパルサーを付けて脈動を与える方法、母液置換塔の底部、つまりテレフタル酸結晶が堆積している部分に直にパルサーを設置して脈動を与える方法等がある。
このようなアーム式撹拌翼を設けてこれを静かに回転させ、堆積層の微小な流動性を保持することにより、またテレフタル酸の堆積層に何らかの方法で脈動を与えることにより、堆積層中の置換水の偏流やチャンネリングが抑えられまた置換水の分散が良くなり、更に母液置換塔の運転性が飛躍的に向上する。
【0031】
【実施例】
次に実施例によって本発明を更に具体的に説明する。ただし本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0032】
実施例1
図1に示す装置を用いて液相酸化反応によって得られた原料スラリーである粗テレフタル酸結晶の酢酸溶媒スラリーの母液を水で置換する実験を行った。
図1において母液置換塔1はSUS製容器である。母液置換塔の上部には原料スラリー導入管3があり、原料スラリー供給ポンプ2に連結されている。塔頂部には母液排出管4がある。母液置換塔の底部は半楕円の皿型構造になっており、スラリー槽9に連結されている。
スラリー槽9は外部に設置された循環ポンプ12によって循環・撹拌されている。循環ポンプ12からの戻り管の途中にはスラリー抜き出しポンプ13への分岐管と水供給ポンプ14への分岐管が連結されている。
【0033】
塔底部にはスクリューコンベヤーガイド管6が内挿して接続されており、上方に向けて斜めに切断されて堆積層抜き出し口7を形成している。
スクリューガイド管6の内部にはスクリューコンベヤー5が入っており、一端は結晶抜き出し口7に達し、他端はスラリー槽9の上部に達している。スクリューコンベヤー5は外部に設置したモーター8に連結されている。
母液置換塔1の中央部に横方向に示した漣線aはテレフタル酸結晶堆積層の上面であり、漣線aからスクリューガイド管6の上端までの長さが堆積層の長さ(高さ)となる。
【0034】
図1において先ず水供給ポンプ14を駆動し、系内に100℃の水を張り込んだ。母液排出管4から水がオーバーフローし始めてから循環ポンプ12およびスラリー抜き出しポンプ13を作動させた。更にモーター11を作動させてアーム式撹拌翼10を毎分4回転の速度で回転させた。
次に原料スラリー供給ポンプ2を作動して、原料スラリー導入管3を経由して150℃の原料スラリーを供給した。原料スラリーには商業的規模で製造されたテレフタル酸の酢酸溶媒スラリーを用いた。該原料スラリーはパラキシレンを酸化反応触媒としてコバルト、マンガン、臭素化合物を用い、反応温度195℃で含水酢酸溶媒中に空気を吹き込んで酸化した反応生成物である。該反応生成物を数段の逐次的に降温された晶析器を経由して150℃まで冷却されたスラリーとし、このスラリーを母液置換塔1に供給した。
粉面検出器で検知しながら堆積層の高さが所定の位置に達したら、モーター8を作動させて結晶抜き出し用スクリューコンベヤー5を回転させて結晶の抜き出しを開始した。
【0035】
系内が定常状態になった後、それぞれの流量を次のように調節設定した。
原料スラリー供給ポンプ2 783kg/h(結晶濃度32.4%)
スラリー抜きだしポンプ13 762kg/h(結晶濃度33.3%)
水供給ポンプ14 586kg/h
なお堆積層の高さが所定の位置に保たれるように、粉面検出器で監視しながらモーター8の回転数を調節した。この条件にける塔内の水の上昇線速度は空塔基準で0.88m/hとなる。
【0036】
3日間の連続運転を行った時点で装置の各々の点でサンプル採取を行って、各組成を分析した結果は下記の通りであった。
▲1▼原料スラリーの母液(原料スラリー供給ポンプ2から採取したサンプルを室温まで冷却し、静置した上澄み液)
酢酸 85.2%
水 14.5%
不明分 0.3%
▲2▼抜き出しスラリー(スラリー抜きだしポンプ13から採取したサンプルを室温まで冷却し、静置した上澄み液)
酢酸 0.102%
これより酢酸基準の母液置換率を計算すると99.9%となる。
【0037】
比較例1
実施例1において、アーム式撹拌翼の回転を止めて運転を行ったところ、堆積層の流動性が無くなり置換水の上昇流のチャンネリングが発生し、更に塔底部でバルキングが起こり塔底部からの結晶の抜き出しが不安定になり、運転できなくなった。
【0038】
【発明の効果】
本発明の高純度テレフタル酸製造法においては、極めて高い母液置換率が得られかつ堆積層中に設けたアーム式撹拌翼を静かに回転させて堆積層の流動性を保持することにより母液置換装置の運転性が格段に向上する。
この母液置換法により液相酸化反応によって得られた粗テレフタル酸の母液分離機とドライヤーが不要になる。またこの母液置換塔は、小型でシンプルな装置であり、実験室規模の装置から商業的規模の装置へのスケールアップが容易である。更に該母液置換塔は、高温高圧での運転が容易であるので、より高品質の高純度テレフタル酸を得ることができ、粗テレフタル酸の晶析器数を減らすこともできる。
【0039】
このため従来の高純度テレフタル酸製造法における大きな問題点の一つであったプロセスフローの短縮が行われ、高純度テレフタル酸製造における建設費が著しく削減されると共に運転操作が容易となる。
また本発明の高純度テレフタル酸製造法においては、粗テレフタル酸の母液分離機とドライヤーで消費されていた用役費用が削減されることとなると共に、極めて高い母液置換率が得られることから、液相酸化反応の溶媒である酢酸の流出量が削減され排水処理にかかる負荷の増加はほとんど発生していない。
従って本発明により商業的に極めて有利な高純度テレフタル酸の製造を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で使用した母液置換装置の説明図である。
【符号の説明】
1:母液置換塔
2:原料スラリー供給ポンプ
3:原料スラリー導入管
4:母液排出管
5:結晶抜き出し用スクリューコンベヤー
6:スクリューコンベヤーガイド管
7:結晶抜き出し口
8:モーター
9:スラリー槽
10:アーム式撹拌翼
11:モーター
12:循環ポンプ
13:スラリー抜き出しポンプ
14:水供給ポンプ
a(漣線):堆積層上面
b:テレフタル酸結晶の堆積層
Claims (6)
- p−アルキルベンゼンの液相酸化によって得られたテレフタル酸結晶の酢酸溶媒スラリーを水溶媒スラリーに母液置換した後、接触水素化処理を行う高純度テレフタル酸の製造方法において、母液置換塔上部に該酢酸溶媒スラリーを導入し、テレフタル酸結晶の沈降によって塔下部にテレフタル酸結晶の堆積層を形成し、底部より塔内部に水の上昇流を形成するに足る置換水を供給し、塔底部からテレフタル酸結晶の堆積層をスクリューコンベヤーにより抜き出し、堆積層中にアーム式撹拌翼を設け、該撹拌翼を静かに回転させることにより堆積層の流動性を保持することを特徴とする高純度テレフタル酸の製造法
- 置換水を間欠的に供給する請求項1に記載の高純度テレフタル酸の製造法
- 置換水にパルスを与えつつ供給する請求項1〜2に記載の高純度テレフタル酸の製造法
- 母液置換塔の底部にパルスを与える請求項1に記載の高純度テレフタル酸の製造法
- アーム式撹拌翼の回転数を毎分0.1〜20回転とする請求項1に記載の高純度テレフタル酸の製造法
- 堆積層底部からの置換水を堆積層中に設けられた撹拌翼よりスプリンクラー様に供給する請求項1に記載の高純度テレフタル酸の製造法
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP09697996A JP3788634B2 (ja) | 1996-04-18 | 1996-04-18 | 高純度テレフタル酸の製造法 |
Applications Claiming Priority (1)
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JP09697996A JP3788634B2 (ja) | 1996-04-18 | 1996-04-18 | 高純度テレフタル酸の製造法 |
Publications (2)
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