JP3784493B2 - 孔版印刷方法およびその装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、サーマルヘッドなどの発熱体によって熱穿孔されたマスタを複数の版胴に巻装して多連同時印刷を行う孔版印刷方法および孔版印刷装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
デジタル式の感熱孔版印刷装置としては、微小な発熱素子が一列に配置されたサーマルヘッドを感熱孔版マスタ(以下「マスタ」と記す)に接触させ、発熱素子にパルス的な通電を行いながらマスタを搬送し、画像情報に応じて溶融穿孔したマスタを多孔性の円筒状版胴の外周面に巻装した後に、穿孔した部分よりインクを通過させて用紙に転移させることにより印刷画像を形成するものが知られている。
【0003】
1つの版胴を備える単胴式のタイプの孔版印刷装置、この装置に用いられる孔版印刷方法では、カラー印刷を行う場合など複数のマスタを用いて合成印刷を行う際には、1つのマスタで所定の印刷部数の印刷を行った後に1つ目のマスタに替えて2つ目のマスタを版胴に巻装して合成印刷を行う。よって、印刷部数を増やす必要が生じたときには、もう一度1つ目のマスタを版胴に巻装するところからやり直す必要があり、作業が繁雑であるので作業効率が悪く時間がかかってしまうという問題がある。また、印刷直後に次の印刷を行う場合には、印刷装置の給紙部などが印刷用紙のインクによって汚れてしまうという問題もある。
【0004】
そこで、複数の版胴を備え、版胴ごとに異なる色を印刷するためのマスタを巻装し、多連同時印刷を行う複胴式の孔版印刷装置およびこの装置に用いられる孔版印刷方法が提供されており、これを用いた孔版印刷方法に関する発明が特開平7−17121号公報に開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来の孔版印刷方法、孔版印刷装置においては、例えば写真のような高解像度の領域を有し、この領域に低濃度領域と高濃度領域とが存在するものを原稿とするマスタを用いて印刷を行うと、単胴式、複胴式に関わらず、図4に示すように、破線で示す直線の理想のガンマ曲線とはならず、低濃度領域では理想の値よりも印刷濃度O.Dが低く、高濃度領域では理想の値よりも印刷濃度O.Dが高い、実線で示す略S字状のガンマ曲線となる特性を有するという問題がある。
【0006】
マスタは2値化処理されたデータに基づいて穿孔され、サーマルヘッドによって穿孔される孔の径は一定であるため、高解像度領域の印刷を行う際には、中間調処理を行ったデータに基づいてマスタの穿孔が行われる。
【0007】
中間調処理としては、面積階調によって中間調の表現を行うディザ法が知られている。ディザ法は、一般的には、4×4のマトリックスの中に一定の規則にしたがってスレッシュホールドレベルを配置したディザマトリックスを用いて画像濃度を2値化して目の錯覚を利用して中間調の表現を行う単純ディザ法が知られているが、孔版印刷装置においては、図5に示すように12×12のマトリックスを用いたディザ法により中間調の表現を行っている。
【0008】
低濃度領域では図5に符号50で示すインクを転写する領域の割合が小さくなり、高濃度領域ではインクを転写する領域50の割合が大きくなる。
【0009】
孔版印刷において、上述したように、実際の印刷のガンマ曲線が理想のガンマ曲線とはならないのは、印刷のときに用紙がマスタからはがれる際、インクがマスタから引き裂かれる状態となるため、低濃度領域では穿孔された孔の数が少ないので用紙に付着すべき理想のインク量よりも少ない量しか転写されず、高濃度領域では穿孔された孔の数が多いので用紙に付着すべき理想のインク量よりも多い量が転写されてしまうからである。
【0010】
また、孔版印刷における製版条件としては、文字モード、写真モード、文字写真モードの3種類がある。
【0011】
文字モードでは、原稿の内容に関わらず原稿の濃度に対してスレッシュホールドレベルによる2値化を行い、写真モードでは原稿の内容に関わらず原稿全体を中間調処理し、文字写真モードでは、原稿の内容に応じ、低解像度領域と高解像度領域に分離して、低解像度領域に2値化処理を行い、高解像度領域に中間調処理を行う。
【0012】
文字モードは、原稿全体をスレッシュホールドレベルによって2値化処理するのみであるから、低解像度領域の再現性は良くても、高解像度領域の再現性が悪く、写真モードは、原稿全体を中間調処理するのみであるため、高解像度領域の再現性は比較的良くても低解像度領域の再現性が悪い。文字写真モードでは原稿を低解像度領域と高解像度領域とに分離し、低解像度領域には2値化処理を行い、高解像度領域に中間調処理を行うので、低解像度領域の再現性は良く、高解像度領域の再現性は比較的良い。
【0013】
そこで、従来の孔版印刷方法、孔版印刷装置においては、写真などの高解像度領域に加え、文字などの低解像度領域を有するものを原稿とするマスタを用いて印刷を行う場合には、マスタの製版を文字写真モードで行っていたが、複数の版胴を用いて合成印刷を行う孔版印刷方法および孔版印刷装置は提供されておらず、1つの版胴を用いる孔版印刷方法、孔版印刷装置で合成印刷を行っていたため、上述した単胴式の孔版印刷装置における合成印刷を行う際の問題を有していた。
【0014】
また、特開平8−202201には、電子写真方式の画像形成手段と、孔版印刷を行う版胴とをそれぞれ1つずつ備え、電子写真方式の画像形成手段で高解像度領域の画像形成を行い、孔版印刷を行う版胴で低解像度領域の印刷を行って合成印刷を行う発明が開示されているが、電子写真方式による画像形成には時間がかかるため、連続した高速の合成印刷ができないという問題があった。
【0015】
本発明は、これらの問題をすべて解決する孔版印刷方法および孔版印刷装置の提供を目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、外周面に製版済みマスタを巻装可能な複数の版胴と、上記各版胴に巻装されたマスタにインクを供給するインク供給手段と、上記各版胴相互間を連繋する印刷用紙搬送手段とを用い、上記インク供給手段から供給されたインクを、上記各版胴上のマスタに形成された孔を通過させて印刷用紙に印刷を行う孔版印刷方法において、上記マスタを、印刷原稿を所定の領域に分けた印刷画像データに基づいて製版することにより形成し、このマスタを上記各版胴にそれぞれ巻装して連続印刷することにより合成印刷を行い、上記所定の領域が、低解像度領域と、高解像度領域を低濃度領域から高濃度領域までを濃度ごとに分けた複数の領域とであって、高濃度領域の印刷には、低濃度領域の印刷に用いるインクよりも淡色のインクを用いて合成印刷を行うことを特徴とする。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の孔版印刷方法において、高解像度領域の印刷には、低解像度領域の印刷に用いるインクよりも淡色のインクを用いて合成印刷を行うことを特徴とする。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の孔版印刷方法において、低解像度領域の印刷にはスレッシュホールドレベルを用いた2値化処理によって製版したマスタを用い、高解像度領域の印刷には中間階調処理によって製版したマスタを用いて合成印刷を行うことを特徴とする。
【0019】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3の何れか1つに記載の孔版印刷方法において、低解像度領域の印刷には、高解像度領域の印刷に用いるインクと異なる色のインクを用いて合成印刷を行うことを特徴とする。
【0020】
請求項5記載の発明は、外周面に製版済みマスタを巻装可能な複数の版胴と、上記各版胴に巻装されたマスタにインクを供給するインク供給手段と、上記各版胴相互間を連繋する印刷用紙搬送手段とを用い、上記インク供給手段から供給されたインクを、上記各版胴上のマスタに形成された孔を通過させて印刷用紙に印刷を行う孔版印刷装置において、上記マスタを、低解像度領域と、高解像度領域をのうちの低濃度領域から高濃度領域までを濃度ごとに分けた印刷画像データに基づいて製版する製版手段を有し、上記インク供給手段が、濃淡の異なる複数のインクを有し、請求項1乃至4の何れか1つに記載の孔版印刷方法により印刷を行うことを特徴とする。
【0025】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図を参照して詳細に説明する。
【0026】
図1を参照して、本発明を適用した孔版印刷方法およびこの孔版印刷方法により合成印刷を行う複胴式孔版印刷装置の第1の実施例の全体構成を孔版印刷動作と共に説明する。
【0027】
図1において、符号Aは本発明を適用した複胴式孔版印刷装置の第1の実施例を示す。この複胴式孔版印刷装置Aは、図1に示すように、用紙搬送方向Xの上流側から下流側に沿って並設された2つの第1版胴1aおよび第2版胴1bを具備している。版胴1aと版胴1bとは、略同一の機能および構成を有する。また、版胴1aの内外廻りに配設された後述するインク供給手段、製版装置および排版装置等と、版胴1bの内外廻りに配設された後述するインク供給手段、製版装置および排版装置とは、略同一の機能および構成を有しているので、それらを同一符号の末尾に符号aまたはbを付加することで区別することとし、その一方を詳述した場合には重複説明を避けるため他方の説明をできるだけ省略する。
【0028】
複胴式孔版印刷装置Aは、周知の感熱デジタル製版一体型孔版印刷装置の構造を有している。複胴式孔版印刷装置Aは、マスタ33aを外周面に巻き付ける版胴1aと、版胴1aの右上方に配置されマスタ33aを製版する製版装置41aと、製版装置41aの下方に配置され給紙トレイ21上に積載された印刷用紙22を給送する給紙装置20と、版胴1aの左上方に配置され使用済みのマスタ33aを版胴1aから剥ぎ取り排版する排版装置42aと、版胴1aの下方に配置され給送されてくる印刷用紙22を版胴1a上の製版済みのマスタ33aに押し付けることにより印刷を行う印圧装置32aと、印圧装置32aで印刷された印刷済みの印刷用紙22を版胴1aから分離・剥離するエアーナイフ7aと、マスタ33bを外周面に巻き付ける版胴1bと、版胴1bの左上方に配置されマスタ33bを製版する製版装置41bと、版胴1bの左方に配置され使用済みのマスタ33bを版胴1bから剥ぎ取り排版する排版装置42bと、版胴1bの下方に配置され給送されてくる印刷用紙22を版胴1b上の製版済みのマスタ33bに押し付けることにより印刷を行う印圧装置32bと、印圧装置32aと印圧装置32bとの間に配置され印圧装置32aで印刷された印刷済みの印刷用紙22を印圧装置32bに搬送する印刷用紙搬送手段としての中間搬送装置17aと、印圧装置32bで印刷された印刷済みの印刷用紙22を版胴1bから分離・剥離するエアーナイフ7bと、排版装置42bの下方に配置され印圧装置32aおよび印圧装置32bで合成印刷された印刷済みの印刷用紙22を排紙トレイ37上に排出する上記エアーナイフ7bを含む排紙装置35とから主に構成されている。
【0029】
複胴式孔版印刷装置Aの両製版装置41a,41bおよび排版装置42aの上方には、原稿の画像を読み取るための図示を省略した原稿読取装置が配設されている。
【0030】
複胴式孔版印刷装置Aの動作を上記した各装置等の細部構成を含めて説明する。
【0031】
版胴1aは、周知の多孔性円筒状をなし、ドラム軸2aの周りに回動自在に支持されている。版胴1aは、図示しないメインモータにより回転される。版胴1a外周部の一母線上には、マスタ33aの先端部をクランプする開閉自在なクランパ5aが設けられている。クランパ5aは、クランパ軸6aで版胴1a上に枢着されていて、版胴1aの外周廻りの適宜の位置に配設されている図示を省略した開閉手段により所定位置で開閉される。版胴1aの内部には、版胴1aの内周面から外周面に向けてインクを供給するためのインク供給手段が配設されている。 マスタ33aとしては、ポリエステル等の熱可塑性樹脂フィルムに多孔質の支持体として和紙等を貼り合わせたマスタが用いられている。マスタ33aは、上記のものに限らず、非常に薄い実質的に熱可塑性樹脂フィルムのみからなるものを用いることも可能である。
【0032】
オペレータが、上記原稿読取装置の原稿受け台(図示せず)に印刷すべき原稿をセットし、製版を起動させるための図示しないスタートキーを押下すると、排版工程が両版胴1a,1bにおいて同様に実行される。すなわち、版胴1aが図中矢印方向と反対方向(反時計回り方向)に回転し、版胴1aの外周面に巻装されていた使用済みのマスタ33aが版胴1aの外周面から漸次剥され搬送されつつ各排版ボックス(図示せず)内へ排出されていわゆる排版が終了する。
【0033】
排版工程と並行して、上記原稿読取装置が作動して原稿読み取りが行われる。この原稿読み取りに係る詳細な構成及び動作は、例えば公知の「縮小式の原稿読取方式」で行われるようになっており、原稿読み取りされた画像は最終的にCCD(電荷結合素子)等の光電変換素子からなる画像センサにより光電変換される。画像センサにより光電変換され電気信号は、図示しないアナログ/デジタル(A/D)変換基板に送信されることによりデジタル画像信号に変換される。
【0034】
上記原稿読み取り動作と並行して、デジタル信号化された画像信号に基づき、両製版装置41a,41bにおいて同様の製版・給版工程が行われる。マスタ33aが、製版装置41aに配設されている平面型のサーマルヘッドに押し付けられているプラテンローラ(共に図示せず)および送り出しローラ対(図示せず)の回転により、マスタ搬送路の下流側に搬送される。このように搬送されるマスタ33aに対して、上記サーマルヘッドの主走査方向に一列に配列された多数の微小な発熱素子が、上記A/D変換基板およびその後の製版制御基板(図示せず)で各種処理を施されて送られてくるデジタル画像信号に応じて各々選択的に発熱し、発熱した発熱素子に接触しているマスタ33aの熱可塑性樹脂フィルムが溶融穿孔される。このようにして、画像情報に応じたマスタ33aの位置選択的な溶融穿孔により、画像情報が穿孔パターンとして書き込まれる。
【0035】
画像情報が書き込まれて製版された製版済みのマスタ33aの先端は、上記送り出しローラ対の回転により版胴1aの外周部側へ向かって送り出され、給版ガイド板(図示せず)により進行方向を変えられ、給版位置状態にある版胴1aの拡開したクランパ5aへ向かって垂れ下がる。このとき版胴1aは、排版工程により使用済みのマスタ33aを既に除去されている。
【0036】
版胴1b側における製版済みのマスタ33bの先端は、送り出しローラ対の回転により版胴1b外周部側へ向かって送り出され、給版ガイド板(図示せず)により略水平方向に案内されつつ、給版位置状態にある版胴1bの拡開したクランパ5bへ向かって挿入される。
【0037】
製版済みのマスタ33aの先端部が、一定のタイミングでクランパ5aによりクランプされると、版胴1aは図中矢印方向(時計回り方向)に回転しつつ外周面に製版済みのマスタ33aを徐々に巻き付けていく。製版済みのマスタ33aの後端部は、製版完了後に製版装置41aに配設されている可動刃および固定刃等からなる切断手段の作動により一定の長さに切断されて、一版のマスタ33aが版胴1aの外周面に完全に巻装されると、いわゆる給版工程が終了する。
【0038】
一版の各製版済みのマスタ33a,33bが各版胴1a,1bの外周面にそれぞれ巻装されると製版・給版工程が終了し、印刷工程が開始される。先ず、給紙トレイ21上に積載された最上位の印刷用紙22を呼び出しコロ23に接触するまで給紙トレイ21を上昇させておく。呼び出しコロ23に接触している最上位の印刷用紙22が、呼び出しコロ23の回転動作により搬送されると共に、分離コロ対24,25および分離板26の協働作用により1枚に分離され、上下一対のガイド板上28およびガイド板下27に案内されつつレジストローラ対29,30に向けて用紙搬送方向Xに給送される。このとき、搬送された印刷用紙22の先端は、レジストローラ対29,30のニップ部直前部位に当接し、ガイド板上28に沿って撓んだ状態で停止している。
【0039】
1つ目の版胴1aは、印刷動作が始まると印刷の回転速度で回転され始める。版胴1aの内周側では、インク供給ディストリビュータ(図示せず)からインク供給手段としてのインクローラ3aとドクタローラ4aとの間に形成されたインク溜りIaにインクが供給され、このインクはインクローラ3aとドクタローラ4aとが回転することによって混練され伸ばされると共に、インクローラ3aの外周面に均一に付着するようになる。
【0040】
インクの残量は、インク検知手段(例えば特開平5−229243号公報の図2参照)によって検知され、インクが少なくなったときには上記インク供給ディストリビュータから補給される。
【0041】
版胴1aの回転方向と同一方向に、かつ、版胴1aの回転速度と同期して回転しながら内周面に転接するインクローラ3aにより、インクが版胴1aの内周側に供給される。
【0042】
印圧装置32aは、インクローラ3a、プレスローラ9a、プレスローラブラケット11a、プレスローラテンション13aおよびプレスローラカム12aから主に構成されている。プレスローラ9aは、給送されてきた印刷用紙22を版胴1aに押し付けて印刷画像を印刷用紙22上に形成する押圧手段としての機能を有する。プレスローラ9aは、プレスローラブラケット11aの一方の揺動端において回転自在に支持されていて、版胴1aの外周面に接離自在に設けられている。
【0043】
版胴1aに対するプレスローラ9aの印圧は、プレスローラブラケット11aの他方の揺動端側に張設されたプレスローラテンション13a(引張バネ)によって加えられると共に、このプレスローラテンション13aの付勢力によってプレスローラブラケット11aの他方の揺動端は、扇状のプレスローラカム12aの輪郭周面に圧接している。
【0044】
プレスローラカム12aは、図示しないメインモータによって給紙装置20からの印刷用紙22の給紙タイミングおよび版胴1aの回転に合せて同期して回転されるようになっており、給紙装置20から印刷用紙22が給紙されないときには、その大径部をプレスローラブラケット11aの他方の揺動端に対向させている。
【0045】
プレスローラカム12aは、給紙装置20から印刷用紙22が給送されてくると回転して、その小径部をプレスローラブラケット11aの他方の揺動端に対向させ、プレスローラ9aを図において時計回り方向に回転させるようになっている。
【0046】
印刷用紙22がレジストローラ対29,30により版胴1aの回転と同期した所定のタイミングで印圧装置32aにおける版胴1aとプレスローラ9aとの間に給送されてくると、これに同期して版胴1aの外周面下方に離間していたプレスローラ9aが揺動・上昇されることにより、版胴1aの外周面に巻装されている製版済みのマスタ33aに押し付けられる。なお、版胴に印圧を加えるプレスローラは周知の圧胴を用いても良い。
【0047】
これにより、版胴1aの多孔部から滲み出たインクの粘性による付着力によって、製版済みのマスタ33aが版胴1aの外周面上に密着すると同時に、さらに製版済みのマスタ33aの穿孔パターン部からインクが滲み出し、この滲み出たインクが印刷用紙22の表面に転移されて、1つ目の画像領域の印刷画像が形成される。
【0048】
1つ目の画像領域の印刷画像を形成された印刷用紙22は、その先端がエアーナイフ7aの先端近傍の所までくると、エアーナイフ7aが版胴1aの回転動作と同期してエアーナイフ軸8aを中心に回転して版胴1aの外周面に接近し、図示を省略した空気圧発生装置で生成されたエアーナイフ7aの先端から吹き出る圧縮空気流によって、印刷用紙22の先端が版胴1aから分離・剥離される。エアーナイフ7aにより分離・剥離された印刷用紙22は、中間搬送装置17aによって用紙搬送方向Xの下流側へとさらに搬送される。
【0049】
中間搬送装置17aは、従動ローラ14aと駆動ローラ15aとの間に掛け渡された多孔性の搬送ベルト16aと、吸引用のファン18aとで主に構成されている。中間搬送装置17aの搬送ベルト16aは、版胴1aの周速度と略同じ搬送速度で版胴1aと同期して駆動されるようになっている。搬送ベルトにより印刷済みの印刷用紙を吸引しつつ搬送するので、印刷用紙搬送手段がローラ対である場合などに生ずる印刷用紙搬送手段の汚れを回避し、確実に印刷用紙を搬送することができる。
【0050】
エアーナイフ7aにより分離・剥離された印刷済みの印刷用紙22は、ファン18aの作動により吸引されつつ、搬送ベルト16aに吸着され、この搬送ベルト16aの反時計回り方向の回転により、次の印圧装置32b部位へ向かって吸着搬送される。
【0051】
このとき、2つ目の版胴1bは、版胴1aと同期して印刷動作が始まり、印刷の回転速度で回転され始める。版胴1bの内周側では、版胴1aと同様の構成および動作内容で版胴1bの回転速度と同期して回転しながら内周面に転接するインクローラ3bにより、インクが版胴1bの内周側に供給される。
【0052】
印刷用紙22が中間搬送装置17aの搬送ベルト16aによって版胴1bの回転と同期した所定のタイミングで印圧装置32bにおける版胴1bとプレスローラ9bとの間に給送されてくると、これに同期して版胴1bの外周面下方に離間していたプレスローラ9bが揺動・上昇されることにより、版胴1bの外周面に巻装されている製版済みのマスタ33bに押し付けられる。
【0053】
これにより、版胴1bの多孔部から滲み出たインクの粘性による付着力によって、製版済みのマスタ33bが版胴1bの外周面上に密着すると同時に、さらに製版済みのマスタ33bの穿孔パターン部からインクが滲み出し、この滲み出たインクが印刷用紙22の表面に転移されて、2つ目の画像領域の印刷画像が形成され、合成印刷が完了する。
【0054】
合成印刷画像を形成された印刷用紙22は、その先端がエアーナイフ7bの先端近傍の所までくると、エアーナイフ7bが版胴1bの回転動作と同期してエアーナイフ軸8bを中心に回転して版胴1bの外周面に接近すると同時に、図示を省略した空気圧発生装置で生成されたエアーナイフ7bの先端から吹き出る圧縮空気流によって、印刷用紙22の先端が版胴1bから分離・剥離される。エアーナイフ7bにより分離・剥離された印刷済みの印刷用紙22は、排紙装置35によってさらに用紙搬送方向Xの下流側に位置する排紙トレイ37へ搬送される。
【0055】
排紙装置35は、従動ローラ39と駆動ローラ38との間に掛け渡された多孔性の搬送ベルト40と、吸引用ファン36とで主に構成されている。排紙装置35の搬送ベルト40は、版胴1bの周速度と略同じ搬送速度で版胴1bと同期して駆動されるようになっている。
【0056】
エアーナイフ7bにより分離・剥離された印刷済みの印刷用紙22は、吸引用ファン36の作動により吸引されつつ、搬送ベルト40に吸着され、この搬送ベルト40の反時計回り方向の回転により、排紙トレイ37上に順次排出積載される。このようにしていわゆる「版付け」、あるいは「試し刷り」が終了する。
【0057】
図示しない操作パネルのテンキーで印刷枚数を設定し、印刷スタートキーを押下すると上記試し刷りと同様の工程で、給紙、印刷および排紙の各工程が設定した印刷枚数分繰り返して行なわれ、孔版印刷の全工程が終了する。
【0058】
複胴式孔版印刷装置Aを構成する上記各装置等の構成およびその配置状態は、あくまでもその一例を示したものであり、他の周知の装置および種々の配置状態をもって構成してもよいことはいうまでもない。例えば、エアーナイフ7a,7bの他に、各版胴1a,1bの外周面近傍に揺動自在な周知の排紙剥離爪のみを用いた装置もある。
【0059】
本実施例は上記原稿読取装置において読み取られる原稿の画像が、例えば写真のような高解像度の画像である場合に適用される。読み取られた画像データは、低濃度領域のデータと高濃度領域のデータとに分けられ、これらのデータに基づいて、製版装置41aで低濃度領域を印刷するためのマスタ33aが製版され、製版装置41bで高濃度領域を印刷するためのマスタ33bが製版される。
【0060】
読み取った画像データを低濃度領域のデータと高濃度領域のデータとに分けるには、それぞれの領域に応じたフィルタを用いる。具体的には、高濃度領域を抽出する場合には、低濃度領域をカットするフィルタを用い、高濃度領域を抽出する場合には、低濃度領域をカットするフィルタを用いる。フィルタによってカットされた領域は出力が0となり、製版時に、この領域に対応するマスタの部分は穿孔されず、印刷をされない領域となる。なお、画像データの処理及び処理されたデータの記憶、製版装置側への出力等は、図示しない制御手段によって行う。
【0061】
製版は何れも、12×12のマトリックスを用いたディザ法(図5参照)により処理したデータに基づいて行われ、中間調の再現が行われている。高濃度領域の印刷に低濃度領域の印刷に用いるインクよりも淡色のインクを用いると階調性の良い画像とすることができるので、本実施例においては、版胴1bにおける印刷に使用するインクには灰色のものを用い、版胴1aにおける印刷に使用するインクには黒色のものを用いる。
【0062】
インクの色の組み合わせの例としては、低濃度領域に黒インクを用いる場合には高濃度領域に濃紺インクを用い、低濃度領域に濃い緑インクを用いる場合には高濃度領域に薄い緑インクを用いる組み合わせがあり、この例にしたがって、各色の濃淡の組み合わせが可能である。同じ系列の色のインクでこのような組み合わせを行うことによって、階調性に優れた合成印刷を行うことができる。
【0063】
このような組み合わせの色のインクで合成印刷を行うと、その特性は、図2において実線で示すように、1点鎖線で示す従来の印刷のガンマ曲線よりも、破線で示す理想のガンマ曲線に近いガンマ曲線を描く。これは階調性に優れた印刷を行っていることを示している。
【0064】
本発明の第2の実施例を説明する。本実施例が第1の実施例と異なるのは、主にマスタの製版条件であるので、孔版印刷装置の各構成は、第1の実施例と同一の符号を用いて説明する。本実施例は上記原稿読取装置において読み取られる原稿の画像が、例えば文字のような低解像度の画像領域と、例えば写真のような高解像度の画像領域とからなる場合に適用される。読み取られた画像データは、低解像度領域のデータと高解像度領域のデータとに分けられ、これらのデータに基づいて、図1に示す製版装置41aで低解像度度領域を印刷するためのマスタ33aが製版され、製版装置41bで高解像度領域を印刷するためのマスタ33bが製版される。マスタ33aの製版はスレッシュホールドレベルを用いた2値化処理が行われたデータに基づいて行われ、マスタ33bの製版は12×12のマトリックスを用いたディザ法(図5参照)により中間調の再現を行うように処理されたデータに基づいて行われる。
【0065】
版胴1bにおける高解像度領域の印刷に使用するインクには灰色のものを用い、版胴1aにおける低解像度領域の印刷に使用するインクには黒色のものを用いている。
【0066】
それぞれの領域を印刷するインクの組み合わせはこれに限られず、第1の実施例で挙げたような様々な組み合わせが考えられるが、高解像度領域の印刷に低解像度領域の印刷に用いるインクよりも淡色のインクを用いることが肝要であって、インク色の組み合わせをこのようにすることにより、写真等の高解像度の画像を良好な階調性で印刷でき、また文字等の低解像度の画像を際立たせて印刷することができるので、それぞれの領域に適した印刷を行い、高画質の合成印刷を行うことができる。
【0067】
また、低解像度領域の印刷に、高解像度領域の印刷に用いるインクと異なる系列の色のインクを用いて合成印刷を行えば、目立つ印刷を行うことができる。この場合、上記原稿読取装置には、多色重ね刷り印刷に必要な色分解のための諸機能を有する構成が必要となる。このような構成としては、例えば特開昭64−18682号公報に記載されているような、ミラー群とレンズとの間の光路上に、複数の色フィルターを切換可能に制御できるフィルターユニットと同様の機能及び構成を有するものが配設されおり、自動製版・給版等の動作を行うようになっている周知の構成がある。
【0068】
図3に本発明の第3の実施例を示す。本実施例が第1、第2の実施例と主に異なっているのは、版胴の数が4つであること、これに伴い版胴周辺の装置、つまり製版装置、排版装置、中間搬送装置、印圧装置などが増加していること、マスタの製版条件である。製版装置、排版装置については図示を省略しているが、第1、第2の実施例における各構成要素と同等の他の構成については同等の符号を付して説明を省略する。
【0069】
本実施例では、上記原稿読取装置において読み取られる原稿の画像が、例えば文字のような低解像度の画像領域と、例えば写真のような高解像度の画像領域とからなる場合であって、高解像度の画像領域を低濃度領域から高濃度領域まで、濃度ごとに3つの領域に分け、合計4つの領域ごとに印刷して合成印刷を行う場合に適用される。マスタはそれぞれの画像領域ごとに4枚製版され、各版胴に巻き付けられ、順次印刷が行われて合成印刷が行われる。この場合インクは、低解像度領域、高解像度領域のうち最も低濃度の領域、2番目に低濃度の領域、高濃度の領域の順で漸次淡色となる。画像領域を細かく分けることによってそれぞれの領域に適した印刷を行うので、第1、第2の実施例に比べてさらに高画質の合成印刷を行うことができる。
【0070】
第1、第2、第3の実施例は、本発明のほんの一例にすぎない。本発明によれば、版胴の数を多くすればするほど、高画質の合成印刷を行うことができる。例えば、高解像度領域のみの原稿を、高濃度領域と低濃度領域との2つの領域に分けて合成印刷を行う場合に、版胴を4つ備えた孔版印刷装置を用いれば、それぞれの領域について周知の2色印刷を行い、その合成印刷を行うことができる。版胴が8つであれば、高濃度と低濃度のそれぞれの領域について、周知のフルカラー用のイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのインクを用いて周知のフルカラー印刷を行い、その合成印刷を行うことができる。原稿が低解像度領域を含む場合には、さらに版胴の数を増せば、低解像度領域の周知の2色印刷あるいは周知のフルカラー印刷をも含む合成印刷を行うことができる。
【0071】
また、製版するためのデータは、上記したように原稿読取装置で読み取ったデータでなく、コンピュータ等で作成されたデータ等の外部からのデータを孔版印刷装置の制御手段で高濃度領域、低濃度領域、高解像度領域、低解像度領域等に適宜分けたものであっても、これら各領域に予め分けられたデータを孔版印刷装置の制御手段に入力したものであってもよい。
【0072】
本発明は、孔版印刷装置に備えられた複数の版胴の内、2つ以上を用いて合成印刷を行う場合に適用されるものであるので、孔版印刷装置に備えられた版胴を必ずしもすべて用いて合成印刷を行う必要はなく、また、製版のみを行う装置に適用し、製版されたマスタを複胴式の孔版印刷装置に用いて合成印刷を行うことも可能である。
【0073】
【発明の効果】
請求項1記載の発明によれば、マスタを印刷原稿を所定の領域に分けた印刷画像データに基づいて製版することにより形成し、このマスタを複数の版胴にそれぞれ巻装して連続印刷することにより合成印刷を行うので、版胴を1つのみ備えた孔版印刷機を用いて合成印刷を行う孔版印刷方法が有していた、印刷部数を増やす必要が生じた際における作業効率の悪さによる時間の浪費の問題や、印刷直後の再印刷の際の給紙部の汚れの問題、連続した高速の合成印刷ができないという問題を解決し、高速で合成印刷ができて時間を浪費することなく、印刷部数の増減への柔軟な対応をすることができ、給紙装置の汚れを回避することができる。
【0074】
また、請求項1記載の発明によれば、画像領域を低解像度領域と高解像度領域とに分け、さらに高解像度領域を低濃度領域から高濃度領域に分けてマスタを製版し、これらマスタで合成印刷を行うのでそれぞれの領域に応じた印刷を行うことができる。
【0075】
また、請求項1記載の発明によれば、高濃度領域の印刷には、低濃度領域の印刷に用いるインクよりも淡色のインクを用いて合成印刷を行うので、各濃度領域に応じて、印刷濃度の特性を理想のガンマ曲線に近いものになるように補正を行った印刷を行うことができるから、原稿を忠実に再現した、高品位の印刷を行うことができる。また、画像領域を低解像度領域と高解像度領域とに分け、高解像度領域について、高濃度領域の印刷に、低濃度領域の印刷に用いるインクよりも淡色のインクを用いて合成印刷を行った場合には、さらに細かい領域のそれぞれに応じた印刷を行うことができるので、より原稿を忠実に再現した、より高品位の印刷を行うことができる。
【0076】
請求項2記載の発明によれば、高解像度領域の印刷には、低解像度領域の印刷に用いるインクよりも淡色のインクを用いて合成印刷を行うので、各解像度領域に応じた印刷を行うことができるから、原稿を忠実に再現した、高品位の印刷を行うことができる。
【0077】
請求項3記載の発明によれば、低解像度領域の印刷にはスレッシュホールドレベルを用いた2値化処理によって製版したマスタを用い、高解像度領域の印刷には中間階調処理によって製版したマスタを用いて合成印刷を行うので、それぞれの領域に応じた印刷画像を得ることができ、より原稿を忠実に再現した、より高品位の印刷を行うことができる。
【0078】
請求項4記載の発明によれば、低解像度領域の印刷には、高解像度領域の印刷に用いるインクと異なる色のインクを用いて合成印刷を行うので、高画質で目立つ印刷画像を、簡単に得ることができる。
【0079】
請求項5記載の発明によれば、請求項1乃至4の何れか1つに記載の孔版印刷方法により上述の効果を奏する孔版印刷装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用した孔版印刷装置の第1の実施例の側面図である。
【図2】図1に示した孔版印刷装置のガンマ曲線を示す相関図である。
【図3】本発明を適用した孔版印刷装置の第3の実施例の側面図である。
【図4】従来の孔版印刷装置のガンマ曲線を示す相関図である。
【図5】12×12のマトリックスを用いたディザ法の例を示す図である。
【符号の説明】
1a、1b、1c、1d 版胴
3a、3b、3c、3d インク供給手段
22 印刷用紙
33a、33b、33c、33d マスタ
Claims (5)
- 外周面に製版済みマスタを巻装可能な複数の版胴と、上記各版胴に巻装されたマスタにインクを供給するインク供給手段と、上記各版胴相互間を連繋する印刷用紙搬送手段とを用い、上記インク供給手段から供給されたインクを、上記各版胴上のマスタに形成された孔を通過させて印刷用紙に印刷を行う孔版印刷方法において、
上記マスタを、印刷原稿を所定の領域に分けた印刷画像データに基づいて製版することにより形成し、このマスタを上記各版胴にそれぞれ巻装して連続印刷することにより合成印刷を行い、
上記所定の領域が、低解像度領域と、高解像度領域を低濃度領域から高濃度領域までを濃度ごとに分けた複数の領域とであって、
高濃度領域の印刷には、低濃度領域の印刷に用いるインクよりも淡色のインクを用いて合成印刷を行うことを特徴とする孔版印刷方法。 - 請求項1記載の孔版印刷方法において、高解像度領域の印刷には、低解像度領域の印刷に用いるインクよりも淡色のインクを用いて合成印刷を行うことを特徴とする孔版印刷方法。
- 請求項1又は2記載の孔版印刷方法において、低解像度領域の印刷にはスレッシュホールドレベルを用いた2値化処理によって製版したマスタを用い、高解像度領域の印刷には中間階調処理によって製版したマスタを用いて合成印刷を行うことを特徴とする孔版印刷方法。
- 請求項1乃至3の何れか1つに記載の孔版印刷方法において、低解像度領域の印刷には、高解像度領域の印刷に用いるインクと異なる色のインクを用いて合成印刷を行うことを特徴とする孔版印刷方法。
- 外周面に製版済みマスタを巻装可能な複数の版胴と、上記各版胴に巻装されたマスタにインクを供給するインク供給手段と、上記各版胴相互間を連繋する印刷用紙搬送手段とを用い、上記インク供給手段から供給されたインクを、上記各版胴上のマスタに形成された孔を通過させて印刷用紙に印刷を行う孔版印刷装置において、
上記マスタを、低解像度領域と、高解像度領域をのうちの低濃度領域から高濃度領域までを濃度ごとに分けた印刷画像データに基づいて製版する製版手段を有し、
上記インク供給手段が、濃淡の異なる複数のインクを有し、
請求項1乃至4の何れか1つに記載の孔版印刷方法により印刷を行うことを特徴とする孔版印刷装置。
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