JP3783219B2 - ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物から成る、ウェルド部を有する成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電気・電子機器部品、自動車機器部品、あるいは化学機器部品用等の材料として、高い耐熱性を有し、かつ耐化学薬品性を有する熱可塑性樹脂が要求されてきている。ポリフェニレンスルフィド(以下ではPPSと略すことがある)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下ではPASと略すことがある)がこの要求に応える樹脂の一つとして、近年注目されてきている。
【0003】
しかし、該樹脂は成形時に、金型キャビティー内で二つ以上の樹脂流の流動先端界面が合流して融着する部分、即ちウェルド部の靭性等の機械的強度が極端に低くなるという欠点を有している。このため、熱応力や機械的応力を受けたとき、ウェルド部から破壊するという問題があった。
【0004】
そこで、ウェルド部の靭性等の機械的強度を改善するために、これまでいくつかの方法が提案されている。
【0005】
特公平6‐39113号公報には、PAS、エポキシアルコキシシラン等のシラン化合物及び無機充填剤を配合した樹脂組成物が開示されている。特公平6‐51311号公報には、PAS、アミノアルコキシシラン及び無機充填剤を配合した樹脂組成物が開示されている。また、特開平1‐193360号公報及び同3‐43452号公報には、PAS、ウレイドシラン及び無機充填剤を配合した樹脂組成物が開示されている。しかしながら、いずれもPASと上記シラン化合物との反応性は十分ではなく、ウェルド部の靭性等の機械的強度の向上が十分とは言えなかった。また、PASの製造に際して、反応を二段階で行い、二段階で水を添加する方法、反応系に重合助剤として、アルカリ金属カルボン酸塩、例えば酢酸ナトリウム、酢酸リチウムを用いる方法、あるいは低分子量PASを熱酸化処理して架橋し、高分子量PASを製造する方法等を使用している。従って、PASの製造コストの増大あるいはPASの十分な機械的強度が得られない等の欠点をも有していた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ウェルド部の靭性等の機械的強度が高く、かつ安価なポリアリーレンスルフィド樹脂成形品を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく種々の検討を行った。その結果、下記所定のPASを用いると、予期されざることにエポキシ系シランカップリング剤及び任意的に無機充填剤と組合されて、ウェルド部の靭性等の機械的強度が著しく高く、かつ安価な成形品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、
(1)(A)塩化メチレンによる抽出量が0.7重量%以下であり、溶融粘度V6 が20〜15000ポイズであり、かつ‐SX基(Xはアルカリ金属又は水素原子である)が15μmol/g以上であるポリアリーレンスルフィド 100重量部、
(B)エポキシ系シランカップリング剤 0.01〜5.0重量部、及び
(C)無機充填剤 0〜400重量部
を含む樹脂組成物を射出成形して得られる、ウェルド部を有するポリアリーレンスルフィド樹脂成形品である。
【0009】
好ましい態様として、
(2)一つの成形品に対して2か所以上のゲートより射出成形して得られる上記(1)記載の樹脂成形品、
(3)(B)エポキシ系シランカップリング剤を0.05〜3.0重量部含む請求項1又は2記載の樹脂成形品、
(4)(B)エポキシ系シランカップリング剤を0.1〜2.0重量部含む請求項1又は2記載の樹脂成形品
を挙げることができる。
【0010】
上記(A)PASは、‐SX基が多い。従って、多くのエポキシ系シランカップリング剤と良好に反応する。また、本発明のPASは塩化メチレンによる抽出量が少ない。従って、比較的分子量の小さいオリゴマーは殆ど存在せず、エポキシ系シランカップリング剤が無駄に消費されることがない。以上のことから、本発明のPASは、エポキシ系シランカップリング剤との反応性に富むと共に、該剤の少量の添加で高い機械的強度を持つPAS樹脂成形品を得ることができるのである。
【0011】
更に、本発明のPASは下記に述べるように、上記の従来法のように、反応を二段階で行い、二段階で水を添加する方法、あるいは反応系に重合助剤を用いるPAS製造法等を使用しない。従って、得られたPASは安価である。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の成分(A)PASは、塩化メチレンによる抽出量が0.7重量%以下、好ましくは0.6重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下である。上記範囲においては、PAS中に比較的分子量の低いオリゴマーが存在しないため好ましい。該抽出量が上記上限を超えては、エポキシ系シランカップリング剤による成形物ウェルド部の靭性等の機械的強度の改善効果が低くなり好ましくない。ここで、塩化メチレンによる抽出量は、以下のように求めた値である。PAS粉末4gを塩化メチレン80gに加え、4時間ソクスレー抽出を実施した後、室温まで冷却し、抽出後の塩化メチレン溶液を秤量ビンに移す。更に、上記の抽出に使用した容器を塩化メチレン合計60gを用いて、3回に分けて洗浄し、該洗浄液を回収後、上記秤量ビン中にまとめる。次に、約80℃に加熱して、該秤量ビン中の塩化メチレンを蒸発させて除去し、残渣を秤量することにより求める。
【0013】
(A)PASは、‐SX基(Xはアルカリ金属又は水素原子である)が15μmol/g以上、好ましくは18〜35μmol/g、特に好ましくは20〜30mol/gである。該基が上記下限未満では、PASとエポキシ系シランカップリング剤との反応性が低下する。ここで、‐SX基の定量は下記の通りに実施した。PAS粉末を予め120℃で4時間乾燥した後、該PAS粉末20gをN‐メチル‐2‐ピロリドン150gに加えて、粉末凝集塊がなくなるように室温で30分間激しく攪拌混合する。次に、該スラリーを濾過した後、毎回約80℃の温水1リットルを用いて7回洗浄を繰り返す。得られた濾過ケーキを純水200g中に再度スラリー化し、次いで、1Nの塩酸を加えて該スラリーのpHを4.5に調整する。次に、25℃で30分間攪拌し、濾過した後、毎回約80℃の温水1リットルを用いて6回洗浄を繰り返す。得られた濾過ケーキを純水200g中に再度スラリー化し、次いで、1Nの水酸化ナトリウムにより滴定し、定量する。
【0014】
更に、(A)PASは、溶融粘度V6 が20〜15000ポイズ、好ましくは100〜10000ポイズ、特に好ましくは400〜5000ポイズである。上記下限未満では、機械的強度等PAS本来の特性が得られず、またエポキシ系シランカップリング剤との反応性も十分ではなく、本発明の目的である成形品のウェルド部の靭性等の機械的強度の向上を達成することができない。上記上限を越えては、成形加工性が低下するため好ましくない。ここで、溶融粘度V6 は、フローテスターを用いて、300℃、荷重20kgf/cm2 、L/D=10/1で6分間保持した後に測定した値である。
【0015】
本発明において、(A)PASは、有機アミド系溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させ、かつ反応中、反応缶の気相部分を冷却することにより反応缶内の気相の一部を凝縮させ、これを液相に還流せしめることにより製造したポリアリーレンスルフィド(イ)を、有機溶媒、次いで水で洗浄して得ることができる。
【0016】
ここで、上記のPAS(イ)は、特開平5‐222196号公報に記載の方法により製造することができる。
【0017】
この重合方法において、還流される液体は、水とアミド系溶媒の蒸気圧差の故に、液相バルクに比較して水含有率が高い。この水含有率の高い還流液は、反応溶液上部に水含有率の高い層を形成する。その結果、残存のアルカリ金属硫化物(例えばNa2 S)、ハロゲン化アルカリ金属(例えばNaCl)、オリゴマー等が、その層に多く含有されるようになる。従来法においては230℃以上の高温下で、生成したPASとNa2 S等の原料及び副生成物とが均一に混じりあった状態では、高分子量のPASが得られないばかりでなく、せっかく生成したPASの解重合も生じ、チオフェノールの副生成が認められる。しかし、本発明では、反応缶の気相部分を積極的に冷却して、水分に富む還流液を多量に液相上部に戻してやることによって上記の不都合な現象が回避でき、反応を阻害するような因子を真に効率良く除外でき、高分子量PASを得ることができるものと思われる。但し、本発明は上記現象による効果のみにより限定されるものではなく、気相部分を冷却することによって生じる種々の影響によって、高分子量のPASが得られるのである。
【0018】
この重合方法においては、従来法のように反応の途中で水を添加することを要しない。しかし、水を添加することを全く排除するものではない。但し、水を添加する操作を行えば、本発明の利点のいくつかは失われる。従って、好ましくは、重合反応系内の全水分量は反応の間中一定である。
【0019】
反応缶の気相部分の冷却は、外部冷却でも内部冷却でも可能であり、自体公知の冷却手段により行える。たとえば、反応缶内の上部に設置した内部コイルに冷媒体を流す方法、反応缶外部の上部に巻きつけた外部コイルまたはジャケットに冷媒体を流す方法、反応缶上部に設置したリフラックスコンデンサーを用いる方法、反応缶外部の上部に水をかける又は気体(空気、窒素等)を吹き付ける等の方法が考えられるが、結果的に缶内の還流量を増大させる効果があるものならば、いずれの方法を用いても良い。外気温度が比較的低いなら(たとえば常温)、反応缶上部に従来備えられている保温材を取外すことによって、適切な冷却を行うことも可能である。外部冷却の場合、反応缶壁面で凝縮した水/アミド系溶媒混合物は反応缶壁を伝わって液相中に入る。従って、該水分に富む混合物は、液相上部に溜り、そこの水分量を比較的高く保つ。内部冷却の場合には、冷却面で凝縮した混合物が同様に冷却装置表面又は反応缶壁を伝わって液相中に入る。
【0020】
一方、液相バルクの温度は、所定の一定温度に保たれ、あるいは所定の温度プロフィールに従ってコントロールされる。一定温度とする場合、 230〜275 ℃の温度で 0.1〜20時間反応を行うことが好ましい。より好ましくは、 240〜265 ℃の温度で1〜6時間である。より高い分子量のPASを得るには、2段階以上の反応温度プロフィールを用いることが好ましい。この2段階操作を行う場合、第1段階は 195〜240 ℃の温度で行うことが好ましい。温度が低いと反応速度が小さすぎ、実用的ではない。 240℃より高いと反応速度が速すぎて、十分に高分子量なPASが得られないのみならず、副反応速度が著しく増大する。第1段階の終了は、重合反応系内ジハロ芳香族化合物残存率が1モル%〜40モル%、且つ分子量が 3,000〜20,000の範囲内の時点で行うことが好ましい。より好ましくは、重合反応系内ジハロ芳香族化合物残存率が2モル%〜15モル%、且つ分子量が 5,000〜15,000の範囲である。残存率が40モル%を越えると、第2段階の反応で解重合など副反応が生じやすく、一方、1モル%未満では、最終的に高分子量PASを得難い。その後昇温して、最終段階の反応は、反応温度 240〜270 ℃の範囲で、1時間〜10時間行うことが好ましい。温度が低いと十分に高分子量化したPASを得ることができず、また 270℃より高い温度では解重合等の副反応が生じやすくなり、安定的に高分子量物を得難くなる。
【0021】
実際の操作としては、先ず不活性ガス雰囲気下で、アミド系溶媒中のアルカリ金属硫化物中の水分量が所定の量となるよう、必要に応じて脱水または水添加する。水分量は、好ましくは、アルカリ金属硫化物1モル当り0.5〜2.5モル、特に0.8〜1.2モルとする。2.5モルを超えては、反応速度が小さくなり、しかも反応終了後の濾液中にフェノール等の副生成物量が増大し、重合度も上がらない。0.5モル未満では、反応速度が速すぎ、十分な高分子量の物を得ることができないと共に、副反応等の好ましくない反応が生ずる。
【0022】
反応時の気相部分の冷却は、一定温度での1段反応の場合では、反応開始時から行うことが望ましいが、少なくとも 250℃以下の昇温途中から行わなければならない。多段階反応では、第1段階の反応から冷却を行うことが望ましいが、遅くとも第1段階反応の終了後の昇温途中から行うことが好ましい。冷却効果の度合いは、通常反応缶内圧力が最も適した指標である。圧力の絶対値については、反応缶の特性、攪拌状態、系内水分量、ジハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とのモル比等によって異なる。しかし、同一反応条件下で冷却しない場合に比べて、反応缶圧力が低下すれば、還流液量が増加して、反応溶液気液界面における温度が低下していることを意味しており、その相対的な低下の度合いが水分含有量の多い層と、そうでない層との分離の度合いを示していると考えられる。そこで、冷却は反応缶内圧が、冷却をしない場合と比較して低くなる程度に行うのが好ましい。冷却の程度は、都度の使用する装置、運転条件などに応じて、当業者が適宜設定できる。
【0023】
ここで使用する有機アミド系溶媒は、PAS重合のために知られており、たとえばN‐メチルピロリドン(NMP)、N,N‐ジメチルホルムアミド、N,N‐ジメチルアセトアミド、N‐メチルカプロラクタム等、及びこれらの混合物を使用でき、NMPが好ましい。これらは全て、水よりも低い蒸気圧を持つ。
【0024】
アルカリ金属硫化物も公知であり、たとえば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物である。これらの水和物及び水溶液であっても良い。又、これらにそれぞれ対応する水硫化物及び水和物を、それぞれに対応する水酸化物で中和して用いることができる。安価な硫化ナトリウムが好ましい。
【0025】
ジハロ芳香族化合物は、たとえば特公昭45‐3368号公報記載のものから選ぶことができるが、好ましくはp‐ジクロロベンゼンである。又、少量(20モル%以下)のジフェニルエーテル、ジフェニルスルホン又はビフェニルのパラ、メタ又はオルトジハロ物を1種類以上用いて共重合体を得ることができる。例えば、m‐ジクロロベンゼン、o‐ジクロロベンゼン、p,p´‐ジクロロジフェニルエーテル、m,p´‐ジクロロジフェニルエーテル、m,m´‐ジクロロジフェニルエーテル、p,p´‐ジクロロジフェニルスルホン、m,p´‐ジクロロジフェニルスルホン、m,m´‐ジクロロジフェニルスルホン、p,p´‐ジクロロビフェニル、m,p´‐ジクロロビフェニル、m,m´‐ジクロロビフェニルである。
【0026】
PASの分子量をより大きくするために、例えば1,3,5‐トリクロロベンゼン、1,2,4‐トリクロロベンゼン等のポリハロ化合物を、パラ及びメタジハロ芳香族化合物の合計量に対して好ましくは5モル%以下の濃度で使用することもできる。
【0027】
また、他の少量添加物として、末端停止剤、修飾剤としてのモノハロ化物を併用することもできる。
【0028】
次に、有機溶媒でのPASの洗浄は、好ましくは以下の方法で行われる。即ち、上記工程で生成したPAS(イ)のスラリーを濾過した後、得られた濾過ケーキを有機溶媒に分散させる方法である。該洗浄により、PAS(イ)中に存在する比較的低分子量のオリゴマー成分を良好に除去し得るため好ましい。
【0029】
洗浄の一態様において、まず上記工程で生成したPAS(イ)のスラリーを濾過してPASケーキを得る。次いで、該PASケーキを、重量で好ましくは0.5〜10倍の有機溶媒中に投入して、好ましくは常温〜180℃で、好ましくは10分間〜10時間攪拌混合した後、濾過する。該攪拌混合及び濾過操作を好ましくは1〜10回繰り返す。該洗浄に使用する有機溶媒としては、上記PAS (イ)の製造工程の説明中に記載した有機アミド系溶媒、あるいはキシレン等が挙げられる。好ましくは有機アミド系溶媒が用いられる。該有機アミド系溶媒はPAS(イ)の製造工程で使用したものと同一であっても、異なっていても良い。該有機アミド系溶媒として、特に好ましくはN‐メチルピロリドンが使用される。
【0030】
引続く水洗浄は、公知の方法に従って行うことができる。しかし、好ましくは上記の有機溶媒で洗浄した後に得られた濾過ケーキを、水に分散させることにより行われる。例えば、上記の濾過ケーキを、重量で好ましくは1〜5倍の水中に投入して、好ましくは常温〜90℃で、好ましくは5分間〜10時間攪拌混合した後、濾過する。該攪拌混合及び濾過操作を好ましくは2〜10回繰り返すことにより、PASに付着した溶媒及び副生塩の除去を行って水洗浄を終了する。上記のようにして水洗浄を行うことにより、フィルターケーキに水を注ぐ洗浄方法に比べて少ない水量で効率的な洗浄が可能となる。また、本発明者は、従来から行われている乾燥による溶媒除去が、PASとエポキシ系シランカップリング剤との反応性を低下させていたことを見出した。しかし、本発明のように水洗浄による溶媒除去を用いれば、PASとエポキシ系シランカップリング剤との高い反応性を維持し得るのである。
【0031】
本発明においては、上記のようにして得られたPASに、更に酸処理を施すこともできる。該酸処理は、100℃以下の温度、好ましくは40〜80℃の温度で実施される。該温度が上記上限を超えると、酸処理後のPAS分子量が低下するため好ましくない。また、40℃未満では、残存している無機塩が析出してスラリーの流動性を低下させ、連続処理のプロセスを阻害するため好ましくない。該酸処理に使用する酸溶液の濃度は、好ましくは0.01〜5.0重量%である。また、該酸溶液のpHは、酸処理後において、好ましくは4.0〜5.0である。上記の濃度及びpHを採用することにより、被処理物であるPAS中の‐SY (Yはアルカリ金属を示す)末端の大部分を‐SH末端に転化することができると共に、プラント設備等の腐食を防止し得るため好ましい。該酸処理に要する時間は、上記酸処理温度及び酸溶液の濃度に依存するが、好ましくは5分間以上、特に好ましくは10分間以上である。上記未満では、PAS中の‐SY末端を‐SH末端に十分に転化できず好ましくない。上記酸処理には、例えば酢酸、ギ酸、シュウ酸、フタル酸、塩酸、リン酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸等が使用され、酢酸が特に好ましい。該処理を施すことにより、PAS中の不純物であるアルカリ金属、例えばナトリウムを低減できる。従って、製品使用中のアルカリ金属、例えばナトリウム溶出及び電気絶縁性の劣化を抑制することができる。
【0032】
本発明で使用する成分(B)エポキシ系シランカップリング剤としては、好ましくはγ‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ‐グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β‐(3,4‐エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ‐グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ‐グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0033】
成分(B)エポキシ系シランカップリング剤の配合量は、成分(A)PAS100重量部に対して、その下限が0.01重量部、好ましくは0.05重量部、特に好ましくは0.1重量部であり、上限が5.0重量部、好ましくは3.0重量部、特に好ましくは2.0重量部である。成分(B)が上記下限未満では成形品のウェルド部の靭性等の機械的強度が低く、上記上限を超えては増粘による成形加工性の低下、機械的強度の低下、成形品の外観不良やコストアップの原因となり好ましくない。
【0034】
本発明には更に、任意成分として(C)無機充填剤を配合することができる。(C)無機充填剤としては特に限定されないが、例えば粉末状/リン片状の充填剤、繊維状充填剤などが使用できる。粉末状/リン片状の充填剤としては、例えばアルミナ、タルク、マイカ、カオリン、クレー、酸化チタン、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、窒化ケイ素、ガラス、ハイドロタルサイト、酸化ジルコニウム、ガラスビーズ、カーボンブラック等が挙げられる。また、繊維状充填剤としては、例えばガラス繊維、アスベスト繊維、炭素繊維、シリカ繊維、シリカ/アルミナ繊維、チタン酸カリ繊維、ポリアラミド繊維等が挙げられる。また、この他にZnOテトラポット、金属塩(例えば塩化亜鉛、硫酸鉛など)、酸化物(例えば酸化鉄、二酸化モリブデンなど)、金属(例えばアルミニウム、ステンレスなど)等の充填剤を使用することもできる。これらを1種単独でまたは2種以上組合せて使用できる。
【0035】
成分(C)無機充填剤の配合量は、成分(A)PAS100重量部に対して、上限が400重量部、好ましくは200重量部、特に好ましくは100重量部である。成分(C)が上記上限を超えては成形性が悪化し好ましくない。また機械的強度を高めるためには、0.01重量部以上配合するのが好ましい。
【0036】
更に、必要に応じて、上記の成分の他に、公知の添加剤及び充填剤、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、熱安定剤、滑剤、着色剤等を配合することができる。
【0037】
以上のような各成分を混合する方法は、特に限定されるものではない。一般に広く使用されている方法、例えば各成分をヘンシェルミキサー等の混合機で混合する等の方法を用いることができる。
【0038】
本発明の成形品を成形するには、例えば、上記の混合物を一軸又は二軸の押出機にて溶融混練して一旦ペレット状の組成物とし、これを射出成形することによって容易にかつ経済的に実施することができる。しかし、これに限定されるものではなく、必要成分の一部をマスターバッチとして混合、成形する方法も使用し得る。
【0039】
本発明においてウェルド部とは、射出成形法によって成形され、かつ金型キャビティ内で2つ以上の樹脂流の流動先端界面が合流して融着した部分である。ウェルド部は成形品に空隙部がある場合、あるいは肉厚の変化があり、厚肉部から薄肉部へ一方的に材料を流せない場合に発生しやすい。ゲートが2個以上ある場合や、1点ゲートでもリング状、円又は角筒状物の成形にはウェルド部の発生は絶対に避けることができない。ウェルド部は一般に成形品表面に線状の色むらとなって現れたり、樹脂の流れが合流した模様が現れることから識別することができる。
【0040】
本発明の成形品は、好ましくは、射出成形する際、一つの成形品に対応する一つの金型キャビティの2か所以上にゲートを設けて射出成形することによって得られるものである。該成形品には、ゲート数に対応した2つ以上の樹脂流の接合する界面(ウェルド部)が必ず形成され、その界面領域も広く、従って、従来、ウェルド部の強度的欠陥も顕著で、実用的強度に致命的な支障が生じていた。本発明はかかる2か所以上のゲートを用いた成形品に生ずるウェルド部の著しい欠陥を改善するのに特に有効である。
【0041】
上記のようなウェルド部を有する成形品としては、例えば、電子部品としてのコネクター、コイルボビン、プリント基板、電子部品用シャシー等、電熱部品としてのランプソケット、ドライヤーグリル、サーモスタットベース、サーモスタットケース等、モーター部品としてのブラッシュホルダー、軸受、モーターケース等、精密機器としての複写機用爪、カメラ用絞り部品、時計ケース、時計地板等、自動車部品としての排ガス循環バルブ、キャブレター、オルタネータ端子台、タコメーターハウジング、バッテリーハウジング等、あるいは化学装置部品としてのクレンジングフレーム、インシュレーター、パイプブラケット、ポンプケーシング、タワー充填物等の多くの機能性部品が挙げられる。好ましくは、コネクターとして使用される。これら成形品は必ずウェルド部を有するとは限らないが、その機能上ウェルド部を避けることが難しいものである。また、上記の成形品は一例でありウェルド部を有する成形品が、これらに限定されるわけではない。
【0042】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0043】
【実施例】
実施例において、溶融粘度V6 は島津製作所製フローテスターCFT‐500Cを用いて測定した値である。
【0044】
合成例1
150リットルのオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.7重量%Na2 S)19.285kgとNMP45.0kgを仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら204℃まで昇温して、水4.892kgを留出させた。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、パラジクロロベンゼン(以下ではp‐DCBと略すことがある)22.161kgとNMP18.0kgを仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いて1kg/cm2 Gに加圧して昇温を開始した。液温が220℃で5時間攪拌しつつ、オートクレーブ上部の外側に取り付けた散水装置により水を散水し、オートクレーブ上部を冷却した。その後、昇温して、液温を255℃とし、次いで該温度で2時間攪拌し反応を進めた。次に、降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。オートクレーブ上部を冷却中、液温が下がらないように一定に保持した。
【0045】
得られた重合スラリーを濾過した後、得られた濾過ケーキを未使用のNMP中にスラリー化した(スラリー濃度15重量%)。次いで、120℃で30分間攪拌し、濾過してNMPを除去し、次に濾過ケーキを約80℃の温水(重量で濾過ケーキの約2倍)中に投入して、約30分間十分に攪拌した後、濾過した。この水洗浄及び濾過の操作を7回繰り返した。その後、得られた濾過ケーキを120℃で約5時間熱風循環乾燥機中で乾燥して白色粉末状のPPSを得た。得られたPPS(P‐1)のV6 は970ポイズであった。
【0046】
合成例2
合成例1と同一にして得られた重合スラリーを濾過した後、得られた濾過ケーキを未使用のNMP中にスラリー化した(スラリー濃度15重量%)。次いで、120℃で30分間攪拌し、濾過してNMPを除去し、次に濾過ケーキを約80℃の温水(重量で濾過ケーキの約2倍)中に投入して、約30分間十分に攪拌した後、濾過した。この水洗浄及び濾過の操作を2回繰り返した。得られた濾過ケーキを純水中にスラリー化した後、該スラリーに酢酸を加えてpH5.0に調節して50℃で30分間攪拌を行い酸処理を施した。酸処理後濾別し、純水を加えて攪拌後濾過する操作を4回繰り返した。次に、得られた濾過ケーキを120℃で約5時間熱風循環乾燥機中で乾燥して白色粉末状のPPSを得た。得られたPPS(P‐2)のV6 は880ポイズであった。
【0047】
合成例3(比較例に使用)
未使用のNMPによる洗浄を行わなかった以外は、合成例1と同じく実施した。得られたPPS(P‐3)のV6 は820ポイズであった。
【0048】
合成例4(比較例に使用)
合成例1と同一にして得られた重合スラリーを濾過した後、そのケーキをエバポレーターで10torrの減圧下、200℃の油浴中でNMPが留出しなくなるまで、約1時間乾燥した。その後冷却し、約80℃の温水(重量で濾過ケーキの約2倍)中に投入して、約30分間十分に攪拌した後、濾過した。この水洗浄及び濾過の操作を7回繰り返した。その後、該濾過ケーキを120℃で5時間熱風循環乾燥機中で乾燥し、茶褐色粉末状の製品を得た。得られたPPS(P‐4)のV6 は1020ポイズであった。
【0049】
合成例5(比較例に使用、特開昭61‐7332号の方法に従って製造したPPSである。)
(1) 前段重合
150リットルのオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.7重量%Na2 S)19.028kgとNMP45.0kgを仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら204℃まで昇温して、水4.497kgを留出させた。残存する水分量は硫化ソーダ1モル当り1.10モルであった。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却した後、p‐DCB22.200kgとNMP18.0kgを仕込んで、210℃で10時間重合させて、前段重合スラリー(S‐1)を得た。
【0050】
スラリー中の残存p‐DCB量をガスクロマトグラフを用いて測定し、下記式に従って、p‐DCBの転化率を求めた。転化率は95.0モル%であった。
【0051】
【数1】
p‐DCBの転化率=[p‐DCB仕込量(モル)−p‐DCB残存量(モル)]×100/p‐DCB仕込量(モル)
スラリー100gをとり、そのまま吸引濾過して液状成分を除去した。次いで、固形分を約1kgの脱イオン水中に分散させ、再度吸引濾過して、生成PPSを洗浄した。このような操作を3回繰り返した後、100℃で2時間乾燥して(空気雰囲気下)、PPS粉を得た。該PPSについて310℃で溶融粘度を測定した。剪断速度200秒-1に換算して60ポイズであった。
(2) 後段重合
スラリー(S‐1)550gを1リットルのオートクレーブに仕込み、水50.4g(硫化ソーダ1モル当り全水量として4.60モルとなる)を添加し、窒素雰囲気下に250℃に昇温して3時間重合させた。p‐DCBの転化率は99.0%であった。冷却後、パール状PPSをNMP、PPSオリゴマー等から篩別した。次いで、該パール状PPSを脱イオン水で繰り返し洗浄した後、100℃で3時間熱風循環乾燥機中で乾燥して白色のパール状PPSを得た。得られたPPS(P‐5)のV6 は1440ポイズであった(310℃、剪断速度200秒-1で測定した値は約1100ポイズであった)。
【0052】
【実施例1〜5及び比較例1〜4】
表1に示す量(重量部)の各PPS、エポキシ系シランカップリング剤及びガラスファイバー(CS 3J‐961S、商標、日東紡績株式会社製)をヘンシェルミキサーで5分間予備混合して均一にした後、20mmφの二軸異方向回転押出機を使用して、バレル設定温度300℃、回転数400rpmで溶融混練し押出してペレットを作成した。更に出来上がったペレットをシリンダー温度320℃、金型温度130℃に設定した射出成形機により、幅80mm×長さ180mm×厚さ3mmの平板を、両側にフィルムゲートを有する金型を使用して成形した。次いで、これを幅20mmの短冊状に切り出した後、ASTM D638に準拠して引張強度を測定し、またASTM D256に準拠してアイゾット衝撃強度を測定してウェルド部の強度を評価した。
【0053】
ここで、実施例1〜4及び比較例1〜4で使用したエポキシ系シランカップリング剤は、γ‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(A187、商標、日本ユニカー株式会社製)であり、実施例5で使用したエポキシ系シランカップリング剤は、β‐(3,4‐エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(A186、商標、日本ユニカー株式会社製)である。
【0054】
以上の結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
実施例1は、本発明の樹脂成形品であり良好なウェルド部の強度を有していた。実施例2は、実施例1で用いた(A)PPSに更に酸処理を施したPPSを用いて製造した成形品である。実施例1と同様に、良好なウェルド部の強度を示した。また、実施例3及び4は、実施例2と同一条件において、(B)エポキシ系シランカップリング剤の含有量を本発明の範囲内で増加させて製造した成形品である。(B)の含有量を増加すると、ウェルド部の強度が増加した。実施例5は、実施例2において(B)の種類を変えたものである。(B)として、β‐(3,4‐エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランを用いると、より良好なウェルド部の強度が得られた。
【0056】
一方、比較例1及び2は、いずれも塩化メチレン抽出量が本発明の範囲を超えるPPSを用いたものである。実施例1と比べて、ウェルド部の強度はいずれも著しく低かった。比較例3は、‐SX基が本発明の範囲未満のPPSを用いたものである。実施例1と比べて、ウェルド部の強度は著しく低かった。比較例4は、実施例1と同一条件において(B)を配合せずに成形したものである。実施例1と比べて、ウェルド部の強度は著しく低かった。
【0057】
【発明の効果】
本発明は、ウェルド部の靭性等の機械的強度が高く、かつ安価なポリアリーレンスルフィド樹脂成形品を提供する。
Claims (2)
- (A)塩化メチレンによる抽出量が0.7重量%以下であり、溶融粘度V6 が20〜15000ポイズであり、かつ‐SX基(Xはアルカリ金属又は水素原子である)が15μmol/g以上であるポリアリーレンスルフィド 100重量部、
(B)エポキシ系シランカップリング剤 0.01〜5.0重量部、及び
(C)無機充填剤 0〜400重量部
を含む樹脂組成物を射出成形して得られる、ウェルド部を有するポリアリーレンスルフィド樹脂成形品。 - 一つの成形品に対して2か所以上のゲートより射出成形して得られる請求項1記載の樹脂成形品。
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