JP3776343B2 - 異常監視装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば連続的に圧延を行なう圧延機等、時間的に継続した動作を行なう診断対象における異常の有無を監視する異常監視装置、およびコンピュータを異常監視装置として動作させる異常監視プログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より機器や設備の異常の有無を判定する様々な設備診断手法による設備診断が実行され、あるいは提案されている。この設備診断においては、設備が破壊され、あるいは直ちに停止する必要がある重大故障のみを検出対象とするのではなく、むしろ、そのような重大故障に至る前の、例えば回転機械におけるベアリングに傷が入ったり、あるいはある可動部分の摩耗が進んできたといった程度の、今のところまだ十分に稼動を続けることができるが、そのままにしておくと将来重大故障につながるおそれがある異常を検出対象とする必要がある。
【0003】
そのような設備診断手法の典型例として、例えばその機器や設備が正常状態にあるときの音響振動波形を得、その音響振動波形をスペクトル解析してその特徴を調べておき、異常の有無を検出する際にその機器や設備の音響振動波形を得てスペクトル解析を行い、そのスペクトル中に、正常時には見られない特定の周波数成分のピークが存在するか否か、あるいはピークの組合せが正常時のそれと同じであるか否か等により異常の検出を行なうことが知られている。
【0004】
また、特開平7−43259号公報には、その機器や設備が正常状態にあるときの音響振動波形を得、その音響振動波形に基づいて逆フィルタを作成しておき、異常の有無を検出する際にその機器や設備の音響振動波形を得、その音響振動波形にあらかじめ求めておいた逆フィルタを作用させて残差信号を求め、この残差信号を解析することによって機器や設備の異常を検出することが提案されている。
【0005】
さらに、特開平8−304124号公報には、その機器や設備が正常状態にあるときの複数の音響振動波形を得、それら複数の音響振動波形のうちの例えば1つの音響振動波形に基づいて逆フィルタを作成して、その逆フィルタを例えば残りの複数の音響振動波形に作用させることにより複数の残差信号を求め、それら複数の残差信号それぞれに基づいて統計的変量を複数求めておき、異常の有無を検出する際においても、その機器や設備の複数の音響振動波形を得、あらかじめ求めておいた上記の逆フィルタをそれら複数の音響振動波形に作用させて複数の残差信号を求め、それら複数の残差信号に基づいて複数の統計的変量を求め、正常状態にあるときに求めた複数の統計的変量と異常の有無の検出の際に求めた複数の統計的変量との間で、例えばF検定やt検定等の手法による検定あるいは推定を行なうことにより、その機器や設備の異常の有無を検出することが提案されている。
【0006】
上記のスペクトル解析を行なうことによって機器や設備の異常を検出する手法も、その診断対象機器や設備の性質によってはかなり有効な手法であり、上記の逆フィルタを作成しておく手法や統計的検定等を行なう手法はさらに有効な手法である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記の様々な設備診断手法のいずれを採用する場合であっても、その診断対象の状態を反映した物理量をセンサで取り込んだ後、その診断対象の異常の有無の判定を行なうまでに演算が必要となり、その診断対象が時間的に継続した動作を行なうものの場合、その演算を行なっている間であっても動作し続けることになるが、その間は異常検出の対象から抜けてしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、時間的に継続した動作を行なう診断対象の異常の有無を、空白期間を置くことなく検出続けることのできる異常監視装置、およびコンピュータをそのような異常監視装置として動作させる異常監視プログラムを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明の異常監視装置は、時間的に継続した動作を行なう診断対象である回転機械の異常の有無を監視する異常監視装置において、
診断対象である回転機械の状態を反映した所定の物理量を捉えて、その物理量を表わす、時間的に継続した信号を得るセンサと、
上記センサで得られた信号を一部重複して順次切り出した各部分信号を交互もしくは循環的に分担して受け取り、受け取った部分信号に基づいて、診断対象である回転機械の異常の有無を判定する複数の異常監視部を備え、
それら複数の異常監視部は、診断対象である回転機械の一回転を複数の位相範囲に区切ったときの、各異常監視部ごとに固定された位相範囲に対応する部分信号を分担して受け取って、受け取った部分信号に基づいて、診断対象である回転機械の異常の有無を判定するものである異常監視装置であって、
上記診断対象が正常な状態にあるときに上記センサにより得られる基準信号に基づいて逆フィルタを求める演算を含む演算を行なうことにより基準データを求める基準演算部を備え、
上記複数の異常監視部は、いずれも、上記センサにより異常監視時に得られる診断信号に逆フィルタを作用させることにより残差信号を求める演算とその残差信号の移動平均演算とを含む演算を行ない、その演算の結果に基づいて、診断対象の異常の有無を判定するものであることを特徴とする。
【0010】
本発明の異常監視装置は、複数の異常監視部を備え、センサから得た信号を間断なくあるいは一部重複して順次切り出し、切り出した各部分信号を交互に(異常監視部が2つの場合)あるいは循環的に(異常監視部が3つ以上の場合)分担して受けとって、交互あるいは循環的に異常の有無を検出するようにしたため、例えば単発事象の発生を待ち受け監視を対象とする場合などであっても、異常有無検出の空白期間を生じさせることなく、異常有無検出を継続することができる。
【0011】
ここで、上記本発明の異常監視装置において、診断対象が正常な状態にあるときにセンサにより得られる基準信号に基づいて逆フィルタを求める演算を含む演算を行なうことにより基準データを求める基準演算部を備え、
上記複数の異常監視部は、いずれも、センサにより異常監視時に得られる診断信号に逆フィルタを作用させることにより残差信号を求める演算を含む演算を行ない、その演算の結果に基づいて、診断対象の異常の有無を判定するものであることが好ましい。
【0012】
ここで、上記の「逆フィルタを求める演算を含む演算」は、逆フィルタを求める演算のみで構成されている場合を含む概念であり、その場合は、逆フィルタを上記の基準データとすることができる。また、「逆フィルタを求める演算を含む演算」は、逆フィルタを求める演算が含まれていればよく、前述のように、複数の基準信号のうちの例えば1つの基準信号に基づいて逆フィルタを作成し、その逆フィルタを他の複数の基準信号に作用させて複数の統計的変量を求める演算であってもよい。その場合は、そのようにして求めた複数の統計的変量が基準データとなり得る。
【0013】
また、上記の「逆フィルタを作用させることにより残差信号を求める演算を含む演算」も上記と同様であり、残差信号を求める演算のみで構成されていてもよく、あるいは前掲の特開平7−43259号公報に記載されているように、その残差信号のパワーの移動平均値を求めるなど、その残差信号を演算して異常の有無を判定するのに都合のよいデータを求める演算や、あるいは、前掲の特開平8−304124号公報に記載されているような複数の診断信号に逆フィルタを作用させて複数の残差信号を求め、それら複数の残差信号に基づいて複数の統計的変量を求める演算であってもよい。
【0014】
逆フィルタを用いると信号上から定常的な騒音を消し去ることができ、診断対象の異常の有無を一層高精度に判定することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明の異常監視装置の基本的な一実施形態を示すブロック図である。
【0018】
この異常監視装置10は、たとえば連続的に圧延を行なう圧延機等、時間的に継続した動作を行なう診断対象20の異常の有無を監視する異常監視装置であって、センサ11、基準演算部12、および複数の異常監視部13A,13B,…,13Nから構成されている。
【0019】
この異常監視装置10のセンサ11では、診断対象20の状態を反映した所定の物理量(例えば音や振動等)が捉えられ、その物理量を表わす、時間的に継続した信号が得られる。
【0020】
また、基準演算部12では、診断対象20が正常な状態にあるときにセンサ11により得られる基準信号に基づいて逆フィルタを求める演算を含む演算が行なわれ、これにより基準データが求められる。この基準演算部12により求められる基準データは、逆フィルタ自体であってもよく、前述したような統計的変量であってもよい。この実施形態では逆フィルタ自体が基準データとして採用されている。
【0021】
診断対象20が複数の動作状態を有するものの場合は、基準演算部12では、その診断対象20が各動作状態にあるときに得た各基準信号に基づいて各動作状態に対応する各逆フィルタが求められる。ただし、1つの動作状態、あるいは1つの動作状態とみなすことのできる状態が連続するものの場合等においては、動作状態にこだわらずに逆フィルタを1つのみ求めてもよい。
【0022】
例えば、診断対象20がゆっくりと回転する回転機械の場合は、その回転機械の一回転を間断なくあるいは順次一部ずつ重複する複数の位相範囲に区切ったときの各位相範囲が各動作状態とみなされ、それら各位相範囲に対応する各部分基準信号ごとに逆フィルタを求めてもよく、回転の位相によって動作状態が大きく変化するのでなければ、位相範囲にこだわらずに逆フィルタを1つだけ求めてもよい。
【0023】
また、複数の異常監視部13A,13B,…,13Nでは、センサ11により異常監視時に得られた診断信号を間断なくあるいは一部重複して順次切り出した各部分診断信号を交互もしくは循環的に分担して受け取り、受け取った部分診断信号に基づいて、診断対象20の異常の有無が検出される。具体的には、これらの異常監視部13A,13B,…,13Nでは、各部分診断信号に、センサ11でそれら各部分診断信号を得たときの診断対象20の各動作状態とそれぞれ同一の各動作状態に対応する逆フィルタを作用させることにより各残差信号が求められる。あるいは動作状態にこだわらずに逆フィルタを求めたときは、各部分診断信号に、同一の逆フィルタを作用させて各残差信号が求められる。さらに、それら各残差信号のパワーが求められ、それらの各パワーをしきい値と比較することにより診断対象20の異常の有無が判定される。
【0024】
この診断対象20がゆっくりと回転する回転機械の場合は、複数の異常監視部13A,13B,…,13Nは、センサ11により異常監視時に得られる診断信号を、その回転機械の一回転を逆フィルタの演算の際に区切った複数の位相範囲と同一の複数の位相範囲に対応する複数の部分診断信号に区切ったときの、各部分診断信号を交互もしくは循環的に分担して受け取り、受け取った部分診断信号に、基準演算部12により得られたその部分診断信号に対応する位相範囲と同一の位相範囲の部分基準信号に基づいて求められた逆フィルタを作用させることにより残差信号を求め、その残差信号のパワーをしきい値と比較することにより、その回転機械の異常の有無が判定される。
【0025】
図2は、本発明の異常監視装置の一実施形態を示すシステム概念図である。
【0026】
監視対象物21は、本発明にいう診断対象の一例に相当するものである。この監視対象物21には、異常の有無を検出するための信号を得るセンサとして、振動センサ210Aと音響センサ210Bが取り付けられあるいは近傍に配備されている。これら振動センサ210Aと音響センサ210Bは、それらの双方が備えられている必要はなく、監視対象物21の特性に応じていずれか一方のみ備えられていてもよい。
【0027】
これらの振動センサ210Aや音響センサ210Bで得られた波形信号はフィルタアンプ211に入力されて、監視対象物21に異常が生じたときにその異常に起因する音や振動に含まれる周波数帯域のみ通過するようフィルタリングされるとともに、適切に増幅される。このフィルタアンプ211を経由した後の信号は、A/D変換ユニット220を構成するA/D変換器221に入力されてサンプリングされ、そのサンプリングデータがリング構造メモリ221に順次格納される。このリング構造メモリ221は、サンプリングデータをそのリングの一周分順次格納し、一周分を過ぎた後は順次上書きしていくタイプのメモリである。尚、ここでは一例としてリング構造メモリを示したが、サンプリングデータを十分な長さに亘って格納できるものであればリング構造を成すメモリである必要はない。
【0028】
このリング構造メモリ221に格納されたサンプリングデータは、一部ずつが順次重なるメモリ領域ごとに波形データとして順次読み出される。
【0029】
異常監視コンピュータ230では、本実施形態では2つの比較診断タスクA,Bが動作しており、A/D変換ユニット220のリング構造メモリ221から順次読み出された波形データは、それら2つの比較診断タスクA,Bに交互に渡される。各比較診断タスクA,Bは、波形データを受け取ると、その受け取った波形データに基づく監視対象物21の異常の有無が判定される。これら2つの比較診断タスクA,Bでの異常の有無の検出にあたっては、あらかじめ、監視対象物21が正常な状態にあることがわかっている段階で上記と同様にしてサンプリングして得たデータに基づいて逆フィルタが求められ、各比較診断タスクA,Bでは、異常監視時に受け取った波形データにその逆フィルタを作用させることにより残差信号が求められ、その残差信号のパワーがしきい値と比較され、その大小に応じて、異常の有無が判定される。ここで、2つの比較診断タスクA,Bのいずれか一方でも異常が検出されると、異常が検出されたことを表わす警報が出力される。
【0030】
監視対象物21が正常に動作しているときに求められる逆フィルタは、その監視対象物21が常に同一の動作状態で動作しているときは1つのみ求めればよいが、例えばゆっくりと回転する回転機械を監視対象物とするような場合は、その回転対象物の一回転を複数の位相範囲に区切り、それら複数の位相範囲それぞれで得られた各波形データに基づいて、各位相範囲に応じた各逆フィルタが求められ、異常監視時においても、逆フィルタを求めたときの位相範囲と同一の位相範囲で得られた波形データがリング構造メモリ221から読み出されて、その読み出された波形データに、その波形データを得た位相範囲と同一の位相範囲のデータに基づいて求められた逆フィルタを作用させる。こうすることにより、その回転機械の異常の有無を一層高精度に検出することができる。
【0031】
ただし、ゆっくりと回転する回転機械を監視対象物とする場合であっても、その回転機械が正常に動作している場合に複数の位相範囲で得られる各波形データが統計的に同一の性質を有する(いわば、その回転機械が、回転の位相にかかわらず一様に回転している)場合は、位相範囲にこだわらずに唯一の逆フィルタを求め、どの位相範囲についてもその唯一の逆フィルタ作用させてもよい。
【0032】
図3は、本発明の異常監視装置の一実施形態として動作する異常監視コンピュータの外観斜視図である。本発明の一実施形態としての異常監視装置は、この診断用コンピュータ100のハードウェアとその内部で実行されるソフトウェアとからなる異常監視装置本体と、さらにここでは不図示のセンサ等との組合せにより実現されている。
【0033】
この異常監視コンピュータ100は、CPU、RAMメモリ、磁気ディスク、通信用ボード等を内蔵した本体101、本体からの指示によりその表示画面102a上に画面表示を行なうCRTディスプレイ102、この異常監視コンピュータ内に、オペレータの指示や文字情報を入力するためのキーボード103、表示画面上の任意の位置を指定することによりその位置に表示されているアイコン等に応じた指示を入力するマウス104を備えている。
【0034】
本体101には、CD−ROM105(図4参照)が取り出し自在に装填され、装填されたCD−ROM105をドライブするCD−ROMドライブも内蔵されている。
【0035】
ここでは、CD−ROM105に、異常監視プログラムが記憶されており、そのCD−ROM105が本体101内に装填され、CD−ROMドライブによりそのCD−ROM105に記憶された異常監視プログラムがその異常監視コンピュータ100の磁気ディスク内にインストールされる。異常監視コンピュータ100の磁気ディスク内にインストールされた異常監視プログラムが起動されると、この異常監視コンピュータ100は、本発明の異常監視装置のうちのセンサ等を除く異常監視装置本体の一実施形態として動作する。
【0036】
図4は、図3に示す異常監視コンピュータ100のハードウェア構成図である。
【0037】
このハードウェア構成図には、中央演算処理装置(CPU)111、RAM112、磁気ディスクコントローラ113、CD−ROMドライブ115、マウスコントローラ116、キーボードコントローラ117、ディスプレイコントローラ118、通信用ボード119、およびA/D変換ボード120が示されており、それらはバス110で相互に接続されている。
【0038】
CD−ROMドライブ115は、図3を参照して説明したように、CD−ROM105が装填され、装填されたCD−ROM105をアクセスするものである。
【0039】
通信用ボード119は、診断対象を制御する機械制御装置(図示せず)に接続され、機械制御装置から、診断対象の制御状態(稼動状態にあるか静止状態にあるか、あるいは回転機械を診断対象とする場合におけるその回転機械の現在の回転角度(位相)等)を表わす制御状態情報が入力される。
【0040】
またA/D変換ボード120には、異常監視用の信号を得るためのセンサ図1に示す振動センサおよび音響センサ22等が接続されている。このA/D変換ボード120は、図2に示すA/D変換ユニット220に相当するものであり、センサでピックアップされた信号を入力しサンプリングしてメモリに一旦格納し、その後順次一部ずつ重なったメモリ領域ごとに読み出して内部に取り込む役割りを担っている。
【0041】
また、図4には、磁気ディスクコントローラ113によりアクセスされる磁気ディスク114、マウスコントローラ116により制御されるマウス104、キーボードコントローラ117により制御されるキーボード103、およびディスプレイコントローラ118により制御されるCRTディスプレイ102も示されている。
【0042】
図5は、本発明の異常監視プログラムの一実施形態を模式的に示した図である。
【0043】
ここでは、この異常監視プログラム130は、CD−ROM105に記憶されており、CD−ROM105が図3,図4に示す異常監視コンピュータ100に装填されてドライブされ、そのCD−ROM105に記憶された異常監視プログラム130がその異常監視コンピュータ100にインストールされて実行されることにより、その異常監視コンピュータ100が、診断対象の状態を検出するセンサと合わせて本発明の異常監視装置の一実施形態として動作する。
【0044】
図5に示す異常監視プログラム130は、基準演算部131と複数の異常監視部132A,132B,……,132Nとから構成されている。
【0045】
基準演算部131は、図1に示す異常監視装置10の基準演算部12に相当し、複数の異常監視部132A,132B,……,132Nは、図1の異常監視装置10を構成する異常監視部13A,13B,…,13Nにそれぞれ相当するが、図1に示す異常監視装置10のセンサ11を除く構成が、図3,4に示す異常監視コンピュータ100と、そこにインストールされた図5に示す異常監視プログラムとで構成される場合、図1に示す異常監視装置10の基準演算部12および異常監視部132A,132B,……,132Nは、いずれも、コンピュータのハードウェア、OS(オペレーションシステム)、およびアプリケーションプログラムとしての異常監視プログラムの複合で構成されているのに対し、図5に示す異常監視プログラム130は、それらのうちのアプリケーションプログラムのみで構成されている。図5の異常監視プログラム130を構成する各部の作用は、図1の異常監視装置10の対応する各部の作用と同一であり、重複説明は省略する。
【0046】
図6は、図3,図4に示す異常監視コンピュータ内で実行される2つの比較診断タスクA,Bのフローチャートである。これら2つの比較診断タスクA,Bは、図5に示す異常監視プログラム130の異常監視部132A,132B,……,132Nの具体例の1つである。
【0047】
比較診断タスクAには、A/D変換ボード内のリング構造メモリ内に格納されたサンプリングデータ(A/D変換データ)のうちの、一部のメモリ領域に格納されたデータからなる波形データが入力され(ステップa1)、診断対象が正常な状態にあるときに入力された基準波形データとの比較が実行され(本実施形態では、上述したように、あらかじめ基準波形データに基づく逆フィルタが求められ、今回入力された波形データにその逆フィルタが作用される)(ステップa2)、その比較の結果として異常があったときは(ステップa3)、異常があったことを表わす診断警報が出力される。
【0048】
異常がなかったときは、この比較診断タスクAが次に分担すべきデータがリング構造メモリに入力されるのを待ち(ステップa4)、リング構造メモリにこの比較診断タスクAが分担すべき波形データが格納されると(ステップa5)、その波形データが入力され(ステップa6)、以下同様にして異常検出が繰り返される。比較診断タスクAが分担すべきデータが所定時間以上にわたってリング構造メモリに格納されないときは、システム異常処理が行なわれる(ステップa7)。
【0049】
比較診断タスクBの動作も比較診断タスクAの動作と同様であり、相違点は、比較診断タスクAとの間で交互に波形データを受け取ることで、波形データを受け取るタイミングおよびその後の異常判定のタイミングが異なることのみである。
【0050】
このようにして本実施形態では、診断対象の異常が、2つの比較診断タスクA,Bにより交互に、全体として間断なく監視される。
【0051】
図7は、シートを圧延しながら搬送するシート圧延機を診断対象としたときのシステム構造図である。
【0052】
このシート上には異物が乗る可能性があり、その異物がシート上に乗ったままシート圧延機に噛み込まれるとそのシートが不良品となってしまうおそれがある。そこで、ここでは、その異物の噛み込み時に発せられる異音を捉えるために集音マイクが配備され、その集音マイクにより得られた音響波形信号が異常監視装置本体に入力される。
【0053】
このシート圧延機は、機械制御装置により、ロール送り速度が複数の速度のうちのいずれかに制御される。そのロール送り速度の情報は、制御状態情報として異常監視装置本体に入力される。
【0054】
異常監視装置本体では、異物の噛み込みがないことが確認された状態において、機械制御装置により制御される各送り速度ごとに逆フィルタが求められ、異常監視時においては、2つもしくは3つ以上のタスクにより交互もしくは循環的に分担して、間断なく異物の噛み込みによる異音が検出される。
【0055】
尚、上記各実施形態は、振動あるいは音響を捉えて異常検出を行なう例であるが、振動あるいは音響以外の異なる物理量を捉えて異常監視を行なってもよい。
【0056】
次に、逆フィルタおよびその逆フィルタを用いた異常の有無の検出方法について説明する。
【0057】
任意の時系列信号は、適当な線型系に白色雑音を入力したときの出力と見なすことができる。与えられた時系列信号から対応する線型系を決定することは、線型予測分析と呼ばれ、確立した手法が存在する。通常そのようにして求められるものに、自己回帰モデル(ARモデル)がある。これは標本化、離散化された時系列信号をX(n)、n=1、2、・・・ とする時、第n時点の信号X(n)をそれ以前のM個の時点のデータから次のようにして決定するものである。
【0058】
【数1】
【0059】
ここでe(n)は線型系への仮想的な入力信号で、白色雑音である。時系列信号が与えられた時、そのデータから係数の組{Ak}を求めることにより、その時系列信号に対する自己回帰モデルが決定される。
【0060】
いま係数の組{Ak}が求まった時、時系列信号データ{X(n)}を用いてY(n)を次のように定義する。この時Y(n)はX(n)の線型予測値といわれる。
【0061】
【数2】
【0062】
そこで次のような量を計算すると、(1)、(2)式から、
X(n)−Y(n)=e(n) …(3)
となり、残差は白色雑音となる。つまり、第n時点の時系列信号データX(n)から、それ以前のMケのデータから求めた予測値Y(n)を減じると、入力の白色雑音が得られる。ここでは、X(n)から予測値Y(n)を減じて残差e(n)を求めることを、逆フィルタを作用させると称している。このようにある時系列信号を適切な自己回帰モデルで表すことができれば、それを用いて構成された逆フィルタを元の時系列信号に作用させることにより、白色雑音を得る。すなわち入力信号は逆フィルタにより、白色化される。この場合、入力時系列信号は逆フィルタの設計時に用いた信号そのものでなくてもよく、その自己回帰モデルが同一のものすなわち同じ特性の信号であれば、出力として白色化された信号を得ることができる。ただし、時系列信号の特性が設計に用いたそれと異なっていた場合には、逆フィルタを作用させても白色化はされず、白色雑音は得られない。
【0063】
そこで、正常時の作動音や振動等(作動音等)を担持する第1の時系列信号を用いて、逆フィルタを予め構成しておき、任意の時点で作動音等を担持する新たな第2の時系列信号を得、この第2の時系列信号に逆フィルタを作用させて出力を監視することにより、正常時とは異なる時系列信号(残差信号)を検出することが出来る。
【0064】
本実施形態では、具体的には、以下の信号処理方法を採用することができる。
【0065】
先ず、図1の基準演算部12において、診断対象が正常な状態にあるときに得られた音信号データあるいは振動信号データを1024点用いて、FFT(高速フーリェ変換)を行い、それから電力スペクトルを求める。次にそれをIFFT(逆高速フーリェ変換)して自己相関関数を求め、それを用いてLevinsonのアルゴリズム(例えば三上著「ディジタル信号処理入門」CQ出版発行参照)により計算し、逆フィルタの係数{Ak}を求める。
【0066】
その後、異常監視部13A,13B,…,13Nでは、その逆フィルタを作用させて残差信号が求められるが、その残差信号を求めるための演算は、本実施形態では、係数{a[k]}を用いて移動平均計算により行なわれる。
【0067】
ここでは残差信号のパワーの移動平均を求めるために、まず残差信号の時系列から、128データを取り出し、FFT、パワースペクトル計算、IFFTを経て自己相関関数を求め、その原点のピーク値からパワーを求める。その後データの始点を50点ずつずらしながら、パワーを順次求める。
【0068】
逆フィルタとしては、一例として、次数M=27、係数{a[k]}は、表1のものが採用される。
【0069】
【表1】
a[ 0]= 1.000000
a[ 1]=−2.887330
a[ 2]= 3.947344
a[ 3]=−3.535249
a[ 4]= 2.447053
a[ 5]=−1.620133
a[ 6]= 1.315352
a[ 7]=−1.268161
a[ 8]= 0.937471
a[ 9]=−0.380573
a[10]=−0.040919
a[11]= 0.284076
a[12]=−0.353665
a[13]= 0.397849
a[14]=−0.533185
a[15]= 0.501902
a[16]=−0.238178
a[17]=−0.003048
a[18]= 0.192420
a[19]=−0.166854
a[20]=−0.010498
a[21]= 0.061383
a[22]= 0.017323
a[23]=−0.014146
a[24]=−0.131247
a[25]= 0.239157
a[26]=−0.242444
a[27]= 0.115678
図8〜図11は正常状態にある設備から得られる波形の一例を示すものであり、図8は正常状態にある設備から採取された音信号の信号波形、図9はこの音信号に逆フィルタを作用させた後の残差信号の信号波形、図10はこの残差信号の電力スペクトル、図11は残差信号の電力の移動平均を示している。
【0070】
図12〜図15は、設備が異常状態にあるときに得られた波形の一例を示すもので、各図は、それぞれ図8〜図11と同じ形式の信号波形を示している。正常状態及び異常状態にある設備からそれぞれ得られた音信号の波形を示す図8及び図12を直接比較しても、これらから直ちに正常・異常を判断することは困難である。しかし、これらに逆フィルタを作用させて得られた残差信号を示す図9及び図13相互を分析することにより、正常・異常の判断が可能となる。
【0071】
図9及び図13を比較すると容易に理解できるように、設備が正常状態にあるときは、残差信号の振幅は極めて小さいが、これと比較し、設備が異常状態になるとその振幅は極めて大きくなる。従って、残差信号における電力の最大値を基準として正常・異常の判断が可能となる。例えば設備が正常状態にあるときに得られた信号の最大電力よりも10dB以上大きな残差信号の振幅を有する場合を異常、これ未満の残差信号の振幅を有する場合を正常と判定することで、正常・異常の判断を行なうことができる。
【0072】
また、図10及び図14に示されたように、残差信号をフーリエ変換して得られたスペクトルにおいては、異常が発生すると電力スペクトルの増大が生ずる。例えば、図10の電力のピークは100dB以下であるが、図14においては電力のピークはほぼ120dBに達している。
【0073】
更に、残差信号の電力の移動平均を示す図11及び図15相互の比較を行うと、異常によってこの移動平均が増大することがわかる。例えば、設備が正常状態にあるときの移動平均の最大値よりも20dB以上大きな移動平均データを示す場合は異常、これ未満のデータを示す場合は正常と判定できる。この方法を採用すると、異常の有無の判定が特に容易となり、短時間での異常検出が可能であるため、現場における実時間的な検出を行うことができて、特に好適である。なお、異常の種類によっては、電力の移動平均の分析よりも上記電力スペクトルの分析による検出の方が、より正確に欠陥の存在を検出できる。
【0074】
以上説明した実施形態は、本発明にいう基準データとして逆フィルタを作成しておき、残差信号を求めてその残差信号に基づいて異常の有無の検出を行なうものであるが、本発明は必ずしもこの検出方法を採用する必要はなく、例えば前述したスペクトル解析の手法や、統計的推定又は検定を行なう手法を採用してもよい。
【0075】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明によれば、時間的に継続した動作を行なう診断対象の異常の有無を空白期間を置くことなく検出し続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の異常監視装置の基本的な一実施形態を示すブロック図である。
【図2】本発明の異常監視装置の一実施形態を示すシステム概念図である。
【図3】本発明の異常監視装置の一実施形態として動作する異常監視コンピュータの外観斜視図である。
【図4】図3に示す異常監視コンピュータのハードウェア構成図である。
【図5】本発明の異常監視プログラムの一実施形態を示す模式図である。
【図6】図3,図4に示す異常監視コンピュータ内で実行される2つの比較診断タスクA,Bのフローチャートである。
【図7】シートを圧延しながら搬送するシート圧延機を診断対象としたときのシステム構造図である。
【図8】正常状態にある診断対象から得られた音信号の波形図である。
【図9】図8の信号に逆フィルタを作用させて得られた信号波形図である。
【図10】図9の信号から得られた電力スペクトル図である。
【図11】図9の信号から得られた電力の移動平均を示す図である。
【図12】異常状態にある診断対象から得られた音信号の波形図である。
【図13】図12の信号に逆フィルタを作用させて得られた信号波形図である。
【図14】図13の信号から得られた電力スペクトル図である。
【図15】図13の信号から得られた電力の移動平均を示す図である。
【符号の説明】
10 異常監視装置
11 センサ
12 基準演算部
13A,13B,…,13N 異常監視部
20 診断対象
21 監視対象物
100 診断用コンピュータ
130 異常監視プログラム
131 基準演算部
132A,132B,…,132N 異常監視部
211 フィルタアンプ
220 A/D変換ユニット
221 A/D変換器
222 リング構造メモリ
230 異常監視タスク
Claims (1)
- 時間的に継続した動作を行なう診断対象である回転機械の異常の有無を監視する異常監視装置において、
診断対象である回転機械の状態を反映した所定の物理量を捉えて、該物理量を表わす、時間的に継続した信号を得るセンサと、
前記センサで得られた信号を一部重複して順次切り出した各部分信号を交互もしくは循環的に分担して受け取り、受け取った部分信号に基づいて、診断対象である回転機械の異常の有無を判定する複数の異常監視部を備え、
前記複数の異常監視部は、診断対象である回転機械の一回転を複数の位相範囲に区切ったときの、各異常監視部ごとに固定された位相範囲に対応する部分信号を分担して受け取って、受け取った部分信号に基づいて、診断対象である回転機械の異常の有無を判定するものである異常監視装置であって、
前記診断対象が正常な状態にあるときに前記センサにより得られる基準信号に基づいて逆フィルタを求める演算を含む演算を行なうことにより基準データを求める基準演算部を備え、
前記複数の異常監視部は、いずれも、前記センサにより異常監視時に得られる診断信号に前記逆フィルタを作用させることにより残差信号を求める演算と該残差信号の移動平均演算とを含む演算を行ない、該演算の結果に基づいて、前記診断対象の異常の有無を判定するものであることを特徴とする異常監視装置。
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