JP3772965B2 - プレス金型およびプレス加工方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プレス加工時の成形作業における、残留応力の除去作業を効率的に行うための技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、車両の軽量化を図るため、車両のメンバー、クロス類のプレス成形品を中心として、軽量化しつつ強度を高める施策がなされており、材料についても高強度化が促進されている。しかしながら、材料の高強度化は、成形不良であるスプリングバック、そり、ひねり等(以下、「スプリングバック等」という。)を、より顕著に発生させることになる。図18には、いわゆる「ハット断面形状」を有するメンバーW0を示している。また、図19には、スプリングバック等の生じていないときの断面形状を有するメンバーW0を点線で、スプリングバック等を生じたメンバーW0’を実線で示している。このような成形不良は、成形時(絞り、曲げ)に、金型のダイR部での曲げ・曲げ戻しにより残留応力(板厚の内外での応力差)が発生することに起因し、材料の高強度化が進む程、顕著に発生するものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来は、かかる不具合を解消するにあたり、金型を見込むこと(完成状態で設計寸法にするため、図面上の正規位置に対し後工程での変化分量だけ、反対方向に意図的に寸法を考慮すること。)によって対応していたが、適切な見込みのための金型形状の補正には多大な工数を要していた。そこで、図20に示すサイジング加工や、図21に示す段絞りによって、素材に張力を付与し、残留応力を除去するという手法が採られる場合もあった。
【0004】
しかしながら、サイジング加工の場合には、図20(a)に示す、プレス加工によりワークを必要な製品形状へと成形する第1工程と、図20(b)に示す、第1工程よりの絞り深さHよりもΔHだけ絞り深さを増大させることで、製品形状の縦壁部に張力を付与する、第2工程とで、異なる金型101、102を用いる必要があった。したがって、金型に関する設備コストと、金型101から金型102へと製品を移すための工数の増加とを、余儀なくされていた。
【0005】
一方、段絞りの場合には、図21(a)に示す絞り工程の下死点の少し手前で、製品形状が完成する以前から、クッション107だけでなく、上型103と下型のポンチ104とに形成した段部105、106で、素材108の製品部分Ma(図中点線の円で囲む範囲)の周辺部を拘束し、図21(b)に示す絞り工程の下死点において、製品形状の縦壁部に張力を付与するものであり、金型は1つで済むことになる。しかしながら、上型103と下型のポンチ104とに形成した段部105、106で素材108を拘束する時点では、素材108は、製品形状への成形が完了していないことから、素材108と金型との接触面積が少なく、素材108の製品形状の縦壁部に十分な張力を付与するためには、製品部分以外の被拘束部分を広く取る必要がある。よって、段絞りの場合は、歩留まりの悪化を避けることができなかった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、サイジング加工や段絞りによることなく、1つの金型によって、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形し、更に、製品形状の縦壁部に張力を付与する工程を連続的に行い、かつ、歩留まりの悪化を防ぐことを可能とすることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための、本発明の請求項1に係るプレス金型は、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形し、更に、製品形状の縦壁部に張力を付与する工程を連続的に行う絞り成形用の金型であって、
上型と下型とを有する一対の金型構造を有し、前記下型のポンチの周囲を囲む位置にクッションを二重に備え、該二重のクッションの一方は、前記上型の縦壁と対向する下型のクッションであり、前記下型の縦壁成形面の一部をなしており、なおかつ、前記下型のポンチは、前記一方のクッションの位置に応じ、型締完了前は型の見込みを考慮した形状をなし、型締完了時点では型の見込みを考慮しない形状をなしており、前記二重のクッションと、前記二重のクッションによる弾性力の作用開始点を異にする二種類のバネとにより、素材の変形開始から型締完了までの間に、素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと、拘束力を、段階的に増大させながら付与する拘束力制御手段を構成したことを特徴とする。
【0008】
前記拘束力制御手段によって、素材の変形開始から型締完了までの間に、素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと、拘束力を、段階的に増大させながら付与することにより、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部に、必要な張力を付与する。しかも、下型のポンチは、一方のクッションの位置に応じ、型締完了前は型の見込みを考慮した形状をなし、型締完了時点では型の見込みを考慮しない形状をなしていることから、型締完了前は、型の見込みによって製品形状の矯正を行い、さらに、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部に必要な張力を付与することで、型の見込みと張力付与との相乗効果により、製品形状の矯正を行う。なお、本説明において、素材の製品部分に隣接する極小範囲とは、歩留まりの悪化を可能な限り抑えつつ必要な拘束力を付与するための、製品部分に連続する必要最小限の範囲を意味するものである。
【0009】
又、上記課題を解決するための、本発明の請求項2に係るプレス金型は、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形し、更に、製品形状の縦壁部に張力を付与する工程を連続的に行う曲げ成形用の金型であって、
上型と下型とを有する一対の金型構造を有し、前記上型は、パッドと、該パッドの反力を発生させるためのバネを有しており、前記下型のポンチの一部は、クッションとして形成され、該クッションは、前記下型の縦壁成形面の一部をなしており、なおかつ、前記下型のポンチは、前記クッションの位置に応じ、型締完了前は型の見込みを考慮した形状をなし、型締完了時点では型の見込みを考慮しない形状をなしており、前記クッションと、曲げ成形がある程度進行した時点で、前記クッションがワークに当接する高さに前記クッションを支持するバネとにより、素材の変形開始から型締完了までの間に、素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと、拘束力を、段階的に増大させながら付与する拘束力制御手段を構成したことを特徴とする。
【0010】
前記拘束力制御手段によって、素材の変形開始から型締完了までの間に、素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと、拘束力を、段階的に増大させながら付与することにより、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部に、必要な張力を付与する。しかも、下型のポンチは、一方のクッションの位置に応じ、型締完了前は型の見込みを考慮した形状をなし、型締完了時点では型の見込みを考慮しない形状をなしていることから、型締完了前は、型の見込みによって製品形状の矯正を行い、さらに、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部に必要な張力を付与することで、型の見込みと張力付与との相乗効果により、製品形状の矯正を行う。
【0011】
また、本発明の請求項3に係るプレス金型は、請求項1または2項記載のプレス金型において、前記拘束力制御手段は、下型のクッションに設けた、ワークを必要な製品形状に成形した状態で素材へ当接する突起を含むものである。
【0012】
本発明によれば、前記下型のクッションに設けた突起が、ワークを必要な製品形状に成形した状態で素材へ当接することによって、下型のクッションから素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと付与される流入抵抗力を、ワークを必要な製品形状に成形した状態で増大させる。そして、製品形状の縦壁部に必要な張力を付与するものである。
【0013】
また、本発明の請求項4に係るプレス金型は、請求項3記載のプレス金型において、前記突起は、ノコギリ刃状断面を有するものとしている。
【0014】
本発明では、ワークを必要な製品形状に成形した状態で前記突起は素材に食い込み、かつ、食い込んだ後は、素材の流入を確実に阻止して、下型のクッションから素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと付与される流入抵抗力を増大させる。そして、製品形状の縦壁部に、必要な張力を付与するものである。
【0015】
また、本発明の請求項5に係るプレス金型は、請求項3または4記載のプレス金型において、前記突起は、上型の縦壁と対向する下型のクッションに設けられたものである。
【0016】
本発明によれば、ワークを必要な製品形状に成形した状態で、上型の縦壁と対向する下型のクッションに設けられた前記突起が、素材に食い込む。前記突起が素材に食い込んだ後は、素材の流入を確実に阻止して、下型のクッションから素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと付与される流入抵抗力を増大させる。そして、製品形状の縦壁部に、必要な張力を付与するものである。
【0017】
また、上記課題を解決するための、本発明の請求項6に係るプレス加工方法は、上型と下型とを有する一対の金型構造を有し、前記下型のポンチの周囲を囲む位置にクッションを二重に備え、該二重のクッションの一方は、前記上型の縦壁と対向する下型のクッションであり、前記下型の縦壁成形面の一部をなしている絞り成形用の金型を用いたプレス加工により、ワークを必要な製品形状に成形し、更に、製品形状の縦壁部に張力を付与する工程を連続的に行う方法であって、
素材の変形開始から型締完了までの間に、前記上型と前記二重のクッションとにより、素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと、拘束力を、段階的に増大させながら付与し、なおかつ、前記下型のポンチを、前記クッションの位置に応じ、型締完了前は型の見込みを考慮した形状として、型締完了時点では型の見込みを考慮しない形状へと変化させることで、素材の変形開始から型締完了までの間に見込み工程を含むことを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、素材の変形開始から型締完了までの間に、素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと、拘束力を段階的に増大させながら付与することにより、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部に、必要な張力を付与することができる。
しかも、型締完了前は、型の見込みによって製品形状の矯正を行い、さらに、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部に必要な張力を付与することで、型の見込みと張力付与との相乗効果によって、製品形状の矯正を行うことができる。
【0019】
また、上記課題を解決するための、本発明の請求項7に係るプレス加工方法は、上型と 下型とを有する一対の金型構造を有し、前記上型は、パッドと、該パッドの反力を発生させるためのバネを有しており、前記下型のポンチの一部は、クッションとして形成され、該クッションは、前記下型の縦壁成形面の一部をなしている曲げ成形用の金型を用いたプレス加工により、ワークを必要な製品形状に成形し、更に、製品形状の縦壁部に張力を付与する工程を連続的に行う方法であって、
素材の変形開始から型締完了までの間に、前記上型と前記クッションとにより、素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと、拘束力を、段階的に増大させながら付与し、なおかつ、前記下型のポンチを、前記クッションの位置に応じ、型締完了前は型の見込みを考慮した形状として、型締完了時点では型の見込みを考慮しない形状へと変化させることで、素材の変形開始から型締完了までの間に見込み工程を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、素材の変形開始から型締完了までの間に、素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと、拘束力を段階的に増大させながら付与することにより、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部に、必要な張力を付与することができる。
しかも、型締完了前は、型の見込みによって製品形状の矯正を行い、さらに、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部に必要な張力を付与することで、型の見込みと張力付与との相乗効果によって、製品形状の矯正を行うことができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分及び相当する部分については同一符号で示し、詳しい説明は省略する。
【0022】
図1から図4には、本発明の第1の実施の形態に係る絞り成形用金型と、当該絞り成形用金型によってワークを必要な製品形状に成形し、更に、製品形状の縦壁部に張力を付与する工程を連続的に行う手順を示している。
【0023】
当該絞り成形用金型は、上型1と下型2とを有する一対の金型構造を有し、下型2のポンチ2Aの周囲を囲む位置に、クッションリング3(以下、「クッション」という。)を備えている。そして、上型1に対するクッション3の反力を発生させるために、二種類の弾性力発生部材4,5(以下、「バネ」と称す。)を有している。バネ4,5は、いずれもタンカシリンダー、ウレタンストリッパー等の、弾性により反力を発生する部材、構造物等が用いられている。なお、後述する他の実施例において用いられる各バネも、これらのバネ4,5と同様のものである。
【0024】
そして、バネ4は、下型2に板状の素材W(以下、「ワーク」という。)をセットした時点から、クッション3がワークWに当接することが可能な高さとなるように、クッション3を支えている。一方、バネ5は、上型1を下降させて絞り成形がある程度進行した時点で、初めてクッション3に当接し(図3参照)、その弾性力をクッション3に作用させるものである。すなわち、バネ4,5は、クッション3に対する弾性力の作用開始点を異にしている。
【0025】
ここで、図1〜図4を参照しながら、ワークWに対し、絞り加工を施すと共に、型締めによって、ワークWに残留応力を除去するための張力を付与する手順を説明する。
【0026】
まず、図1に示すように、ワークWを下型2のポンチ2Aおよびクッション3の上にセットする。続いて、図2に示すように、上型1を下降させて、型締めを開始する。このとき、ワークWの製品部分または製品部分に隣接する極小範囲を、上型1とクッション3とで挟持する。そして、図3に示すように、上型1を下降させて絞り成形がある程度進行した時点で、バネ5は初めてクッション3に当接し、その弾性力をクッション3に作用させる。そして、上型1に対する下型2のクッション3の反力を、型締途中で増大させる。さらに、上型1に対する下型2のクッション3の反力を増大させた状態を維持しながら、図4に示す型締完了状態に至るものである。
【0027】
よって、図3に示す、上型1に対する下型2のクッション3の反力を増大させた時点から、図4に示す型締完了状態までは、ワークWの製品部分または製品部分に隣接する極小範囲に対する拘束力を増大させることにより、プレス加工によりワークWを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部Wbに必要な張力を付与することができる。そしてワークWに絞り成形を施すことによって生じた残留応力を適切に除去し、当該残留応力に起因する成形不良を解消することができる。
【0028】
上記構成をなす、本発明の第1の実施の形態に係る絞り成形用金型によれば、以下のような作用効果を得ることができる。まず、本実施の形態に係る絞り成形用金型は、上型1に対する下型2のクッション3を支える反力発生手段として、クッション3に対する弾性力の作用開始点を異にする二種類のバネ4,5を有し、バネ4,5によって、素材の変形開始から型締完了までの間に、ワークWの製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと付与する拘束力を、段階的に増大させながら付与する、「拘束力制御手段」を構成する。かかる拘束力制御手段を備えることによって、上型1および下型2の縦壁成形面でワークWを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部Wbに張力を付与する工程を、連続的に行うことが可能となる。
【0029】
しかも、上型1とクッション3とで挟持する部分は、ワークWの製品部分または製品部分に隣接する極小範囲であることから、歩留まりの悪化を無くし、若しくは可能な限り抑えることが可能である。
【0030】
よって、本発明の第1の実施の形態に係る絞り成形用金型によれば、材料の高強度化を促進することによる成形不良の増大を防ぎつつ、従来のサイジング加工のごとく、ワークを必要な製品形状へと成形する第1工程と製品形状の縦壁部に張力を付与する第2工程とで、異なる金型を用いる必要をなくし、かつ、従来の段絞りのごとく、歩留まりの悪化を来たすこともなく、高強度化された材料の絞り成形を、低コストで行うことが可能となる。
【0031】
なお、図1〜図4に示す例では、クッション3を支える反力発生手段として、クッション3に対する弾性力の作用開始点を異にする二種類のバネ4,5を用いた例を示したが、例えば、単一の非線型のバネに代えることによっても、同様の作用効果を得ることができる。
【0032】
さて、図5には、本発明の第1の実施の形態に係る絞り成形用金型を、曲げ成形用金型に応用した場合を示している。上型11は、パッド16と、パッド16の反力を発生させるためのバネ17を有している。また、下型12のポンチ12Aに隣接するように、クッション13が設けられている。クッション13を支えるバネ14は、上型11を下降させて曲げ成形がある程度進行した時点(図5に示す時点)で、初めてクッション3がワークWに当接する高さに、クッション3を支持している。
【0033】
当該曲げ成形用金型においても、クッション13、バネ14は、図5に示す状態から曲げ成形がさらに進行して、上型11とクッション13とでワークWを挟持するに至った時点で、ワークWの製品部分または製品部分に隣接する極小範囲に対する拘束力を増大させる、「拘束力制御手段」を構成している。そして、かかる拘束力制御手段により、上型1および下型2の縦壁成形面でワークWを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部Wbに必要な張力を付与して残留応力を適切に除去し、残留応力に起因する成形不良を解消することができる。よって、図1〜図4に示す絞り成形用金型と同様の作用効果を、曲げ成形においても得ることが可能である。
【0034】
次に、図6および図7を参照しながら、本発明の第2の実施の形態に係る絞り成形用金型と、当該絞り成形用金型によってワークを必要な製品形状に成形し、更に、製品形状の縦壁部に張力を付与する工程を連続的に行う手順を説明する。
【0035】
当該絞り成形用金型は、上型21と下型22とを有する一対の金型構造を有し、下型22のポンチ22Aの周囲を囲む位置に、クッションリング23(以下、「クッション」という。)を備えている。また、ポンチ22Aのさらに外側を囲む位置に、下型22の一部を突出させて曲げ刃22Bを設けている。バネ24は、下型22にワークWをセットした時点から、クッション23がワークWに当接することが可能な高さとなるように、クッション23を支えている。なお、上型21の側面21Aと、曲げ刃22Bの側面22Cとのクリアランスは、ワークWの板厚と同じか若しく板厚よりも若干狭くなるように設定されている。そして、側面21A,22Cは、後述のように、曲げ刃22Bによって折り曲げられたワークWの端部Waを挟持するための、「縦壁」となっている。
【0036】
この絞り成形用金型によって、ワークWに対し絞り加工を施すと共に、型締めによって、ワークWの残留応力を除去するための張力を付与する手順は、以下の通りである。まず、図示は省略するが、ワークWを下型22のポンチ22Aおよびクッション23の上にセットする。続いて、図6に示すように、上型21を下降させて、型締めを開始する。このとき、ワークWの製品部分または製品部分に隣接する極小範囲を、上型21とクッション23とで挟持する。そして、上型21を下降させて絞り成形がある程度進行した時点で、上型21とクッション23とに挟持されたワークWの端部Waが曲げ刃22Bに当接し、型締方向と平行な方向(図6の上下方向)へと折り曲げられる。
【0037】
さらに、上型21を下降させると、図7に示すように、曲げ刃22Bよって折り曲げられたワークWの端部Waは、縦壁である側面21A、22Cによって挟持される。この、側面21A、22CによってワークWの端部Waを挟持ことにより、素材の流入を阻止し、素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲に対する拘束力を増大させる。そして、図示しない型締完了状態まで当該拘束力を維持するものである。
【0038】
よって、図7に示す、側面21A、22CによってワークWの端部Waを挟持した時点から、型締完了状態までは、ワークWの製品部分または製品部分に隣接する極小範囲に対する拘束力を増大させることにより、プレス加工によりワークWを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部Wbに必要な張力を付与することができる。そしてワークWに絞り成形を施すことによって生じた残留応力を適切に除去し、当該残留応力に起因する成形不良を解消することができる。
【0039】
上記構成をなす、本発明の第2の実施の形態に係る絞り成形用金型によれば、以下のような作用効果を得ることができる。当該絞り成形用金型は、ワークWの、上型21と下型22のクッション23とによって拘束される部分またはその周囲の極小範囲(ワークWの端部Wa)を、型締方向(図6、図7の上下方向)と平行に折り曲げる曲げ刃22Bと、折り曲げられた部分を挟持する縦壁としての側面21A,22Cとを有している。
【0040】
そして、素材の変形開始から型締完了までの間に、ワークWの端部Waを曲げ刃22Bで折り曲げて、側面21A,22Cで挟持することにより、素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと付与する拘束力を、段階的に増大させながら付与する、「拘束力制御手段」を構成している。そして、かかる拘束力制御手段を備えることによって、本発明の第1の実施の形態の絞り成形用金型と同様に、上型21および下型22の縦壁成形面によってワークWを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部Wbに張力を付与する工程を、連続的に行うことが可能となる。
【0041】
なお、本発明の第2の実施の形態では、「拘束力制御手段」を、ワークWの端部Waを折り曲げる曲げ刃22Bと、折り曲げられた端部Waを挟持する側面21A,22Cとで構成したが、かかる構成に代えて、上型21とクッション23との対向面に、いわゆるロックビードのごとき、素材流入量を意図的に抑える面形状や、クランク形状等、上型と下型とによって拘束される部分またはその周囲の極小範囲を、型締方向と平行に折り曲げ、折り曲げられた部分を挟持する面形状を形成することによっても、同様の作用効果を得ることができる。その他、本発明の第1の実施の形態と同様の作用効果については、説明を省略する。
【0042】
さて、図8には、本発明の第2の実施の形態に係る絞り成形用金型を、曲げ成形用金型に応用した場合を示している。上型31は、パッド36と、パッド36の反力を発生させるためのバネ37を有している。また、下型32の一部を突出させて曲げ刃32Bを設けている。さらに、上型31の側面31Aと、曲げ刃32Bの側面32Cとのクリアランスは、ワークWの板厚と同じか若しく板厚よりも若干狭くなるように設定されている。そして、側面31A,32Cは、曲げ刃32Bによって折り曲げられたワークWの端部Waを挟持するための、「縦壁」となっている。
【0043】
当該曲げ成形用金型においても、図8に示す型締完了状態に至る直前に、ワークWの端部Waを曲げ刃32Bで折り曲げて、側面31A,32Cで挟持することにより、素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと付与する拘束力を、段階的に増大させながら付与する、「拘束力制御手段」を構成している。そして、かかる拘束力制御手段により、上型31および下型32の縦壁成形面によってワークWを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部Wbに必要な張力を付与して残留応力を適切に除去し、残留応力に起因する成形不良を解消することができる。よって、図6および図7に示す絞り成形用金型と同様の作用効果を、曲げ成形においても得ることが可能である。
【0044】
次に、図9および図10を参照しながら、本発明の第3の実施の形態に係る絞り成形用金型と、当該絞り成形用金型によってワークを必要な製品形状に成形し、更に、製品形状の縦壁部に張力を付与する工程を連続的に行う手順を説明する。
【0045】
当該絞り成形用金型は、上型41と下型42とを有する一対の金型構造を有し、下型42のポンチ42Aの周囲を囲む位置に、クッションリング43、48(以下、「クッション」という。)を、二重に備えている。クッション48は、クッション43と当接するための、当接片48aを備えている。そして、上型41に対するクッション43の反力を発生させる為の弾性力発生部材44(以下、「バネ」と称す。)と、上型41に対するクッション48の反力を発生させるための弾性力発生部材45(以下、「バネ」と称す。)を有している。
【0046】
そして、バネ44は、下型42にワークWをセットした時点から、クッション43がワークWに当接することが可能な高さとなるように、クッション43を支えている。一方、バネ45は、絞り成形の当初は、ワークWに対しクッション48を当接させず、上型1を下降させて絞り成形がある程度進行し、クッション48の当接片48aにクッション43が当接した時点で(図10参照)、初めてその弾性力をクッション43に作用させるものである。すなわち、バネ44,45は、クッション43に対する弾性力の作用開始点を異にしている。
【0047】
しかも、クッション48の、ワークWに当接する上面には、ノコギリ刃状断面を有する突起48bを設けており、クッション48の当接片48aにクッション43が当接する時点で(図10参照)、クッション48の突起48bは、ワークWに当接し、さらにワークWへと食い込むものである。
【0048】
ここで、図9および図10を参照しながら、ワークWに対し、絞り加工を施すと共に、型締めによって、ワークWに残留応力を除去するための張力を付与する手順を説明する。
【0049】
まず、図示は省略するが、ワークWを、下型42のポンチ42Aおよびクッション43の上にセットする。続いて、図9に示すように、上型41を下降させて、型締めを開始する。このとき、ワークWの製品部分または製品部分に隣接する極小範囲を、上型41とクッション43とで挟持する。そして、図10に示すように、上型1を下降させて絞り成形がある程度進行した時点で、クッション43の下面がクッション48の当接片48aに当接する。また、クッション48の当接片48aにクッション43が当接した時点で(図10参照)クッション48の突起48aはワークWに当接し、食い込む。以降は、バネ44,45の双方の弾性力が、クッション43,48を介してワークWに作用するので、上型41に対する下型42のクッション43,48による反力を、型締途中で増大させることができる。さらに、上型41に対する反力をクッション43,48によって増大させた状態を維持しながら、図示しない型締完了状態に至るものである。
【0050】
よって、図10に示す、上型41に対する下型42のクッション43,48による反力を増大させた時点から型締完了状態までは、ワークWの製品部分または製品部分に隣接する極小範囲に対する拘束力を増大させることによって、プレス加工によりワークWを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部Wbに必要な張力を付与することができる。しかも、ワークWに対し途中から当接するクッション48の突起48bは、ワークWへと食い込むことによって、素材の流入を強制的に阻止している。したがって、ワークWに絞り成形を施すことによって生じた残留応力を適切に除去し、当該残留応力に起因する成形不良を解消することができる。
【0051】
上記構成をなす、本発明の第3の実施の形態に係る絞り成形用金型によれば、以下のような作用効果を得ることができる。まず、本実施の形態に係る絞り成形用金型は、上型41に対する下型42のクッション43,48を支える反力発生手段として、弾性力の作用開始点を異にする二種類のバネ44,45を有し、バネ44,45によって、素材の変形開始から型締完了までの間に、ワークWの製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと付与する拘束力を、段階的に増大させながら付与する、「拘束力制御手段」を構成する。
【0052】
また、ワークWに対し途中から当接するクッション48の突起48bも、ワークWへと食い込むことによって素材の流入を阻止し、「第2の拘束力制御手段」を構成する。しかも、突起48bは、いわゆるノコギリ刃状断面を有するので、素材の流入を確実に阻止して、クッション48から素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと付与される流入抵抗力を増大させることができる。
【0053】
そして、これらの拘束力制御手段を備えることによって、上型1および下型2の縦壁成形面でワークWを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部Wbに張力を付与する工程を、連続的に行うことが可能となる。その他、本発明の第1、第2の実施の形態と同様の作用効果については、説明を省略する。
【0054】
さて、図11には、本発明の第3の実施の形態に係る絞り成形用金型を、曲げ成形用金型に応用した場合を示している。上型51は、パッド56と、パッド56の反力を発生させるためのバネ57を有している。また、下型52のポンチ52Aに隣接するように、クッション53が設けられている。クッション53を支えるバネ54は、上型51を下降させて曲げ成形がある程度進行した時点(図11に示す時点)で、初めてクッション53がワークWに当接する高さに、クッション53を支持している。加えて、クッション53の、ワークWに当接する上面には、ノコギリ刃状断面を有する突起53bを設けている。
【0055】
当該曲げ成形用金型においても、図11に示す状態から曲げ成形がさらに進行して、上型51とクッション53とでワークWを挟持するに至った時点で、ワークWの製品部分または製品部分に隣接する極小範囲に対する拘束力を増大させる、「拘束力制御手段」を構成している。また、クッション53の突起53bも、ワークWへと食い込むことによって素材の流入を阻止する、「第2の拘束力制御手段」を構成している。そして、これらの拘束力制御手段により、上型51および下型52の縦壁成形面によってワークWを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部Wbに必要な張力を付与して残留応力を適切に除去し、残留応力に起因する成形不良を解消することができる。よって、図9および図10に示す絞り成形用金型と同様の作用効果を、曲げ成形においても得ることが可能である。
【0056】
次に、図12〜図14を参照しながら、本発明の第4の実施の形態に係る絞り成形用金型と、当該絞り成形用金型によってワークを必要な製品形状に成形し、更に、製品形状の縦壁部に張力を付与する工程を連続的に行う手順を説明する。
【0057】
当該絞り成形用金型は、上型61と下型62とを有する一対の金型構造を有し、下型62のポンチ62Aの周囲を囲む位置に、クッションリング63、68(以下、「クッション」という。)を、二重に備えている。そして、上型61に対するクッション63の反力を発生させる為の弾性力発生部材64(以下、「バネ」と称す。)と、上型61に対するクッション68の反力を発生させるための弾性力発生部材65(以下、「バネ」と称す。)を有している。
【0058】
本実施の形態では、クッション68は、上型61の縦壁と対向する下型のクッションであり、下型62の縦壁成形面の一部をなし、クッション63と当接するための当接片68aを備えている。
【0059】
そして、バネ64は、下型62に板状の素材W(以下、「ワーク」という。)をセットした時点から、クッション63がワークWに当接することが可能な高さとなるように、クッション63を支えている。一方、バネ65は、絞り成形の当初は、ワークWに対しクッション68を当接させず、上型1を下降させて絞り成形がある程度進行し、クッション68の当接片68aにクッション63が当接した時点で(図13参照)、初めてその弾性力をクッション63に作用させるものである。すなわち、バネ64,65は、クッション63に対する弾性力の作用開始点を異にしている。
【0060】
しかも、クッション68は、下型62の縦壁成形面の一部をなすものであって、当該縦壁成形面に、ノコギリ刃状断面を有する突起68bを設けている。そして、クッション68の当接片68aにクッション63が当接する時点で(図13参照)、クッション68の突起68bは、ワークWの縦壁部Wbに当接し、食い込むものである。
【0061】
加えて、クッション68は、可動範囲の下死点にある時(図14参照)に、下型62の縦壁成形面として求められる縦壁形状となるように形成されている。よって、クッション68が可動範囲の上死点にある時(図12、図13)には、ポンチ62Aとクッション68とからなる下型62の縦壁成形面は、段付面を構成し、下型62に型の見込みを施した場合と同じ状態となっている。
【0062】
ここで、図12〜図14を参照しながら、ワークWに対し、絞り加工を施すと共に、型締めによって、ワークWに残留応力を除去するための張力を付与する手順を説明する。
【0063】
まず、図示は省略するが、ワークWを、下型62のポンチ62Aおよびクッション63の上にセットする。続いて、図12に示すように、上型61を下降させて、型締めを開始する。このとき、ワークWの製品部分または製品部分に隣接する極小範囲を、上型61とクッション63とで挟持する。そして、図13に示すように、上型1を下降させて絞り成形がある程度進行した時点で、クッション63の下面がクッション68の当接片68aに当接する。よって、この時点から、バネ64,65の双方の弾性力が、クッション63,68を介してワークWに作用することとなり、上型61に対する下型62のクッション63,68による反力を、型締途中で増大させることができる。
【0064】
また、図13に示す時点では、ポンチ62Aとクッション68とからなる下型62の縦壁成形面は、段付面を構成し、下型62に型の見込みを施した場合と同じ状態となっているので、ワークWに対し、見込みによる形状不良問題の解消を図ることができる。
【0065】
そして、上型61に対する反力をクッション63,68によって増大させた状態を維持しながら、図14に示す型締完了状態に至る。型締完了時点では、クッション68は、可動範囲の下死点へと移動しているので、ポンチ62Aとクッション68とからなる下型62の縦壁成形面は、見込みのための段付形状は解消され、下型62の縦壁成形面として求められる縦壁形状を構成することとなる。よって、上型61と下型62の縦壁とは、見込みを考慮しない金型形状となる。
【0066】
よって、図13に示す、上型61に対する下型62のクッション63,68による反力を増大させた時点から、図14に示す、型締完了状態までは、ワークWの製品部分または製品部分に隣接する極小範囲に対する拘束力を増大させることによって、プレス加工によりワークWを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部Wbに必要な張力を付与することができる。しかも、ワークWに対し途中から当接するクッション68の突起68bは、ワークWへと食い込むことによって、素材の流入を強制的に阻止している。したがって、ワークWに絞り成形を施すことによって生じた残留応力を適切に除去し、当該残留応力に起因する成形不良を解消することができる。
【0067】
上記構成をなす、本発明の第4の実施の形態に係る絞り成形用金型によれば、以下のような作用効果を得ることができる。まず、本実施の形態に係る絞り成形用金型は、上型61に対する下型62のクッション63,68を支える反力発生手段として、弾性力の作用開始点を異にする二種類のバネ64,65を有し、バネ64,65によって、素材の変形開始から型締完了までの間に、ワークWの製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと付与する拘束力を、段階的に増大させながら付与する、「拘束力制御手段」を構成する。
【0068】
また、ワークWに対し途中から当接するクッション68の突起68bも、ワークWへと食い込むことによって素材の流入を阻止し、「第2の拘束力制御手段」を構成する。しかも、突起68bは、いわゆるノコギリ刃状断面を有するので、素材の流入を確実に阻止して、クッション68から素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと付与される流入抵抗力を増大させることができる。
【0069】
さらに、下型62のポンチ62Aは、クッション68の位置に応じ、型締完了前は、図12,図13に示すように型の見込みを考慮した形状をなすことから、型締完了前は、型の見込みによって製品形状の矯正を行うことができる。すなわち、素材の変形開始から型締完了までの間に、見込み工程を含ませることが可能であり、型の見込みと張力付与との相乗効果によって、ワークWの矯正を行うことが可能となる。しかも、意図的に型の見込みを考慮した型形状とすることなく、単に、クッション68を昇降させることのみによって、型の見込みを可能としたものである。その他、本発明の第1〜第3の実施の形態と同様の作用効果については、説明を省略する。
【0070】
さて、図15および図16には、本発明の第4の実施の形態に係る絞り成形用金型を、曲げ成形用金型に応用した場合を示している。上型71は、パッド76と、パッド76の反力を発生させるためのバネ77を有している。また、下型72のポンチ72Aの一部は、クッション73として形成され、クッション73は、下型72の縦壁成形面の一部をなしている。そして、クッション73の、上型71の縦壁と対向する面に、ノコギリ刃状断面形状を有する突起73bを備えている。
【0071】
クッション73を支えるバネ74は、上型51を下降させて、曲げ成形がある程度進行した時点(図15に示す時点)で、初めてクッション73がワークWに当接する高さに、クッション73を支持している。
【0072】
さらに、クッション73は、可動範囲の下死点にある時に(図示しない型締終了時点)、下型72の縦壁成形面として求められる縦壁形状となるように形成されている。よって、クッション73が可動範囲の上死点にある時(図15、図16)には、ポンチ72Aとクッション73とからなる下型72の縦壁成形面は、段付面を構成し、下型72に、型の見込みを施した場合と同じ状態となっている。
【0073】
当該曲げ成形用金型においても、図15に示す状態から曲げ成形がさらに進行して、図16に示すように、上型71とクッション73とでワークWを挟持するに至った時点で、ワークWの製品部分または製品部分に隣接する極小範囲に対する拘束力を増大させる、「拘束力制御手段」を構成している。また、クッション73の突起73bも、ワークWへと食い込むことによって素材の流入を阻止する、「第2の拘束力制御手段」を構成している。
【0074】
そして、これらの拘束力制御手段により、上型71および下型72の縦壁成形面によってワークWを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部Wbに必要な張力を付与して残留応力を適切に除去し、残留応力に起因する成形不良を解消することができる。
【0075】
さらに、下型72のポンチ72Aは、クッション73の位置に応じ、型締完了前は、図16に示すように型の見込みを考慮した形状をなすことから、型締完了前は、型の見込みによって製品形状の矯正を行うことができる。すなわち、型の見込みと張力付与との相乗効果によって、ワークWの矯正を行うことが可能となる。よって、図12〜図14に示す絞り成形用金型と同様の作用効果を、曲げ成形においても得ることが可能である。
【0076】
なお、以上の本発明の第1〜第4の実施の形態において、ワークWを、ハット断面形状へと成形する場合を例に挙げて説明したが、本発明は、かかる場合に限定されるものではなく、材料の高強度化によりスプリングバック等が顕著となるプレス成形部品に対し、広く利用することが可能である。
【0077】
【実施例】
図17には、素材の変形開始から型締完了までの間に、素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと与える拘束力を、段階的に増大させる方法(本発明に係るプレス加工方法)と、素材に与える拘束力を一定とする方法(従来のプレス加工方法)とで、プレス成形品の残留応力の違いを示している。符号Iで示す線は、本発明に係る方法による値を示すものであり、素材の変形当初の拘束力Fを5kNとし、最終的な拘束力を、グラフに示す値に設定して実験したものである。一方、符号Aで示す線は、従来のプレス加工方法による値を示すものであり、素材の拘束力Fは、グラフに示す値で一定として実験したものである。
【0078】
図17から明らかなように、本発明に係る方法によると、最終的な拘束力を30kN以上としたときに、プレス成形品の残留応力の減少効果が、従来の方法に比して、特に顕著となることが明らかとなった。
【0079】
【発明の効果】
本発明はこのように構成したので、以下のような効果を有する。まず、本発明の請求項1に係るプレス金型によれば、絞り成形において、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部に必要な張力を付与することが可能となるので、従来のサイジング加工や段絞りによることなく、1つの金型によって、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形し、更に、製品形状の縦壁部に張力を付与する工程を連続的に行うことができる。しかも、かかるプレス加工の際の、歩留まりの悪化を防ぐことが可能となる。加えて、型締完了前は、型の見込みによって製品形状の矯正を行い、さらに、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部に必要な張力を付与することで、型の見込みと張力付与との相乗効果によって、製品形状の矯正を行うことができるので、矯正効果を更に高めることが可能となる。
【0080】
本発明の請求項2に係るプレス金型によれば、曲げ成形において、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部に必要な張力を付与することが可能となるので、従来のサイジング加工や段絞りによることなく、1つの金型によって、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形し、更に、製品形状の縦壁部に張力を付与する工程を連続的に行うことができる。しかも、かかるプレス加工の際の、歩留まりの悪化を防ぐことが可能となる。加えて、型締完了前は、型の見込みによって製品形状の矯正を行い、さらに、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部に必要な張力を付与することで、型の見込みと張力付与との相乗効果によって、製品形状の矯正を行うことができるので、矯正効果を更に高めることが可能となる。
【0081】
また、本発明の請求項3に係るプレス金型によれば、前記下型のクッションに設けた突起が、ワークを必要な製品形状に成形した状態で素材へ当接することによって、下型のクッションから素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと付与される流入抵抗力を、ワークを必要な製品形状に成形した状態で増大させるので、素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲に対する拘束力を、段階的に増大させることが可能となり、1つの金型によって、プレス加工により成形工程と張力付与工程とを連続的に行い、かつ、歩留まりの悪化を防ぐことが可能となる。
【0082】
また、本発明の請求項4に係るプレス金型によれば、前記下型のクッションに設けたノコギリ刃状断面を有する突起が素材に食い込み、かつ、食い込んだ後は、素材の流入を確実に阻止して、下型のクッションから素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと付与される流入抵抗力を増大させることが可能となり、1つの金型によって、プレス加工により成形工程と張力付与工程とを連続的に行い、かつ、歩留まりの悪化を防ぐことが可能となる。
【0083】
また、本発明の請求項5に係るプレス金型によれば、ワークを必要な製品形状に成形した状態で、上型の縦壁と対向する下型のクッションに設けられた前記突起が素材に食い込み、素材の流入を確実に阻止して、下型のクッションから素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと付与される流入抵抗力を増大させることが可能となり、1つの金型によって、プレス加工により成形工程と張力付与工程とを連続的に行い、かつ、歩留まりの悪化を防ぐことが可能となる。
【0084】
そして、本発明の請求項6に係るプレス加工方法によれば、絞り成形用の金型を用いたプレス加工により、ワークを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部に必要な張力を付与することが可能となるので、サイジング加工や段絞りによることなく、1つの金型によって、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形し、更に、製品形状の縦壁部に張力を付与する工程を連続的に行うことができる。しかも、かかるプレス加工の際の、歩留まりの悪化を防ぐことが可能となる。加えて、型締完了前は、型の見込みによって製品形状の矯正を行い、さらに、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部に必要な張力を付与することで、型の見込みと張力付与との相乗効果によって、製品形状の矯正を行うことができるので、矯正効果を更に高めることが可能となる。
【0085】
また、本発明の請求項7に係るプレス加工方法によれば、曲げ形用の金型を用いたプレス加工により、ワークを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部に必要な張力を付与することが可能となるので、サイジング加工や段絞りによることなく、1つの金型によって、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形し、更に、製品形状の縦壁部に張力を付与する工程を連続的に行うことができる。しかも、かかるプレス加工の際の、歩留まりの悪化を防ぐことが可能となる。加えて、型締完了前は、型の見込みによって製品形状の矯正を行い、さらに、プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形した状態で、製品形状の縦壁部に必要な張力を付与することで、型の見込みと張力付与との相乗効果によって、製品形状の矯正を行うことができるので、矯正効果を更に高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施の形態に係る絞り成形用金型の要部を示す、断面模式図であり、ワークをセットした状態を示すものである。
【図2】 図1に続き、ワークに絞り成形を施す手順を示す説明図であり、型締めを開始した状態を示すものである。
【図3】 図2に続き、ワークに絞り成形を施す手順を示す説明図であり、上型に対する下型のクッションの反力を、型締途中で増大させた状態を示すものである。
【図4】 図3に続き、ワークに絞り成形を施す手順を示す説明図であり、型締完了状態を示すものである。
【図5】 本発明の第1の実施の形態に係る絞り成形用金型を、曲げ成形用金型に応用した場合を示す、要部断面図である。
【図6】 本発明の第2の実施の形態に係る絞り成形用金型の要部を示す、断面模式図であり、型締めを開始した状態を示すものである。
【図7】 図6に続き、ワークに絞り成形を施す手順を示す説明図であり、上型に対する下型のクッションの反力を、型締途中で増大させた状態を示すものである。
【図8】 本発明の第2の実施の形態に係る絞り成形用金型を、曲げ成形用金型に応用した場合を示す、要部断面図である。
【図9】 本発明の第3の実施の形態に係る絞り成形用金型の要部を示す、断面模式図であり、型締めを開始した状態を示すものである。
【図10】 図9に続き、ワークに絞り成形を施す手順を示す説明図であり、上型に対する下型のクッションの反力を、型締途中で増大させた状態を示すものである。
【図11】 本発明の第3の実施の形態に係る絞り成形用金型を、曲げ成形用金型に応用した場合を示す、要部断面図である。
【図12】 本発明の第4の実施の形態に係る絞り成形用金型の要部を示す、断面模式図であり、型締めを開始した状態を示すものである。
【図13】 図12に続き、ワークに絞り成形を施す手順を示す説明図であり、上型に対する下型のクッションの反力を、型締途中で増大させた状態を示すものである。
【図14】 図13に続き、ワークに絞り成形を施す手順を示す説明図であり、型締完了状態を示すものである。
【図15】 本発明の第4の実施の形態に係る絞り成形用金型を、曲げ成形用金型に応用した場合を示す、要部断面図であり、型締めを開始した状態を示すものである。
【図16】 図15に続き、ワークに曲げ成形を施す手順を示す説明図であり、型締完了状態を示すものである。
【図17】 本発明に係るプレス加工方法と、従来のプレス加工方法とで、プレス成形品の残留応力の違いを示すグラフである。
【図18】 いわゆる「ハット断面形状」を有するメンバーを示す立体図である。
【図19】 図18に示すメンバーのスプリングバック等を生じていないときの断面形状を有するメンバーを点線で、スプリングバック等を生じたメンバーを、実線で示した図である。
【図20】 従来のサイジング加工の手順を示す概略図である。
【図21】 従来の段絞りの手順を示す概略図である。
【符号の説明】
1,11,21,31,41,51,61,71 上型
2,12,22,32,42,52,62,72 下型
2A,22A,32A,42A,52A,62A,72A ポンチ
22B 曲げ刃
22C 側面
3,13,23,43,53,63,73 クッション
53b,73b 突起
4,14,24,44,54,64,74 バネ
5,45,65 バネ
16,36,76 パッド
17,37,77 バネ
48,68 クッション
48a,68a 当接片
48b,68b 突起
Claims (7)
- プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形し、更に、製品形状の縦壁部に張力を付与する工程を連続的に行う絞り成形用の金型であって、
上型と下型とを有する一対の金型構造を有し、前記下型のポンチの周囲を囲む位置にクッションを二重に備え、該二重のクッションの一方は、前記上型の縦壁と対向する下型のクッションであり、前記下型の縦壁成形面の一部をなしており、なおかつ、前記下型のポンチは、前記一方のクッションの位置に応じ、型締完了前は型の見込みを考慮した形状をなし、型締完了時点では型の見込みを考慮しない形状をなしており、
前記二重のクッションと、前記二重のクッションによる弾性力の作用開始点を異にする二種類のバネとにより、素材の変形開始から型締完了までの間に、素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと、拘束力を、段階的に増大させながら付与する拘束力制御手段を構成したことを特徴とするプレス金型。 - プレス加工によりワークを必要な製品形状に成形し、更に、製品形状の縦壁部に張力を付与する工程を連続的に行う曲げ成形用の金型であって、
上型と下型とを有する一対の金型構造を有し、前記上型は、パッドと、該パッドの反力を発生させるためのバネを有しており、前記下型のポンチの一部は、クッションとして形成され、該クッションは、前記下型の縦壁成形面の一部をなしており、なおかつ、前記下型のポンチは、前記クッションの位置に応じ、型締完了前は型の見込みを考慮した形状をなし、型締完了時点では型の見込みを考慮しない形状をなしており、
前記クッションと、曲げ成形がある程度進行した時点で、前記クッションがワークに当接する高さに前記クッションを支持するバネとにより、素材の変形開始から型締完了までの間に、素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと、拘束力を、段階的に増大させながら付与する拘束力制御手段を構成したことを特徴とするプレス金型。 - 前記拘束力制御手段は、下型のクッションに設けた、ワークを必要な製品形状に成形した状態で素材へ当接する突起を含むことを特徴とする請求項1または2記載のプレス金型。
- 前記突起は、ノコギリ刃状断面を有することを特徴とする請求項3記載のプレス金型。
- 前記突起は、上型の縦壁と対向する下型のクッションに設けられていることを特徴とする請求項3または4記載のプレス金型。
- 上型と下型とを有する一対の金型構造を有し、前記下型のポンチの周囲を囲む位置にクッションを二重に備え、該二重のクッションの一方は、前記上型の縦壁と対向する下型のクッションであり、前記下型の縦壁成形面の一部をなしている絞り成形用の金型を用いたプレス加工により、ワークを必要な製品形状に成形し、更に、製品形状の縦壁部に張力を付与する工程を連続的に行う方法であって、
素材の変形開始から型締完了までの間に、前記上型と前記二重のクッションとにより、素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと、拘束力を、段階的に増大させながら付与し、なおかつ、前記下型のポンチを、前記クッションの位置に応じ、型締完了前は型の見込みを考慮した形状として、型締完了時点では型の見込みを考慮しない形状へと変化させることで、素材の変形開始から型締完了までの間に見込み工程を含むことを特徴とするプレス加工方法。 - 上型と下型とを有する一対の金型構造を有し、前記上型は、パッドと、該パッドの反力を発生させるためのバネを有しており、前記下型のポンチの一部は、クッションとして形成され、該クッションは、前記下型の縦壁成形面の一部をなしている曲げ成形用の金型を用いたプレス加工により、ワークを必要な製品形状に成形し、更に、製品形状の縦壁部に張力を付与する工程を連続的に行う方法であって、
素材の変形開始から型締完了までの間に、前記上型と前記クッションとにより、素材の製品部分または製品部分に隣接する極小範囲へと、拘束力を、段階的に増大させながら付 与し、なおかつ、前記下型のポンチを、前記クッションの位置に応じ、型締完了前は型の見込みを考慮した形状として、型締完了時点では型の見込みを考慮しない形状へと変化させることで、素材の変形開始から型締完了までの間に見込み工程を含むことを特徴とするプレス加工方法。
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