JP3764350B2 - 厚板の製造方法及び圧延機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼構造物(船舶など)の部材として有用な厚板鋼板の製造方法、及びそのために使用する圧延機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
厚板鋼板を熱間圧延で製造する場合、加熱段階で生じる一次スケール、圧延段階で生じる二次スケールなどの異物が圧延ロールに噛み込む虞がある。そのため鋼板の先端が圧延ロールに噛み込む前から高圧水を鋼板に噴射し、この噴射を鋼板(板材)の後端まで継続することによってデスケーリングを行い、鋼板の表面を清浄している。例えば図6は、従来のデスケーリング方法を説明するための概略図である。この方法では、鋼板を圧延するための一対のワークロール2と、このワークロールの変形を防止するためのバックアップロール3とで構成された4段圧延機1zを使用する。前記ワークロール2の入口側には、複数のデスケーリングノズル4が幅方向に一列に配設されており、このノズル4は被圧延鋼板(圧延材)5の進入方向と逆らう方向に向けられている。そして被圧延鋼板5がワークロール2に噛み込む前から、前記ノズル4より高圧水を噴射し、鋼板の先端から後端に至るまでデスケーリングを行っている。しかし熱間圧延を複数パス繰り返す熱間リバース圧延において前記デスケーリングを実施した場合、圧延中の空気放冷及びデスケーリング水の噴射によって被圧延鋼板の四周部(先端部、後端部、両側部)が中央部よりも冷却されてしまい、温度差が顕著になる。そのため、四周部(特に、先端部及び後端部)の材質と中央部の材質とが異なってしまう。
【0003】
先端部及び後端部と中央部との温度差を低減する技術として、特開昭63−132715号公報及び特開平5−104103号公報開示の技術が知られている。前記特開昭63−132715号公報には、圧延機の前後にデスケーリングヘッダ(配管)を配置し、このヘッダに形成された高圧水噴射ノズル(デスケーリングノズル)を圧延機側に向けると共に、この噴射ノズル位置を被圧延材先端が通過したときより被圧延材尾端が圧延機を抜けるまでの間のみ前記噴射ノズルから高圧水を噴射する方法が開示されている(請求項1)。しかしこのような方法でデスケーリングすると、圧延機の前のノズルで除去されたスケールがワークロールに噛み込み、被圧延材の表面を損傷する虞がある。そこでこの公報の実施例では、圧延機の後のノズルからのみ高圧水を噴射すれば、デスケーリングによって除去したスケールがワークロールに噛み込む虞はないとしている。しかし圧延機の後のノズルからのみ高圧水を噴射したとしても、被圧延材の鋼種や温度によっては、圧延後、次パスの圧延までのアイドルタイム中にスケールが発生する場合がある。そして圧延前にデスケーリングを行わないため、被圧延材の表面に厚いスケール層が付着したままで圧延を行うこととなり、スケールが圧壊され、鋼板表面は赤色を呈し、粉塵を発生する。また鋼板の表面が粗くなり、その部分の冷却が加速されて鋼板の温度ムラが生じる。
【0004】
また前記特開平5−104103号公報には、スラブに対し幅出し圧延を行い、それに引き続いて仕上げ圧延を行う制御圧延鋼板の圧延方法において、前記幅出し圧延時に、幅方向中央部を優先的にデスケーリング水冷却(センタデスケーリング)を行い(当該公報の図(c))、鋼板を90度回転し(当該公報の図(d))、前記幅方向を圧延方向にして仕上圧延する方法が開示されている。しかしこの方法では、幅出し圧延時に温度制御のためのセンタデスケーリング(幅方向中央部のデスケーリング)を行っており鋼板が厚いため、温度制御(温度の均一化)が困難であり、材質を均一にすることが困難である。さらに幅出圧延工程で温度制御できたとしても、仕上げ圧延工程を経るため、温度差が再び発生する虞もある。
【0005】
一方、被圧延鋼板には、スキッドマーク(又はスキッド部)と称される部分がある。この部分は、被圧延鋼板を熱間圧延のために加熱する際にスキッドレールと接触していた部分であり周りに比べて温度が低い。このスキッドマーク部分とと他の部分との温度差を低減することも重要である。例えば、材料とプロセス,vol.7(1994),408〜411頁には、スキッドマーク部分と他の部分との温度差を低減するためには、皮下の一次スケールを完全に除去する、又は圧延中のスケール層厚を圧延条件により決定される臨界値以下に薄くし、スケールの圧壊を防止すればよいことを提案している。この提案は、スキッドマーク部分と他の部分とでは、圧延を繰り返した際の温度履歴が異なり、スキッドマーク部分に引っ張り応力が作用し、スキッドマーク部分のスケールが剥離して薄くなること、換言すればスキッドマーク以外の部分はスケール層が厚いこと、スケール層が厚くなると冷却速度が大きくなる(断熱層のパラドックス)こと、またスケール層が厚くなると圧延時の圧壊によって表面粗さが増大して冷却速度はさらに加速されること、従ってスキッドマーク以外の部分の温度が低くなってしまうこと、そのためスケールを完全に除去してスケール厚みを等しくすれば冷却速度も等しくなることを理由としている。しかしこの文献には、スケールを完全に除去しても、加速冷却鋼板の冷却むらを防止し均一冷却を達成するには限界があることも記載されている。
【0006】
このように従来の技術では、厚板鋼板の先端部及び後端部と中央部との間の温度差を低減するのが困難であり、スキッドマーク部分とそれ以外の部分との間の温度差も低減するのが困難である。そのため材質がばらついたり、残留応力が発生する。材質がばらつくと、材質の異なる部分を切除して出荷する必要があり歩留まりが低下する。また残留応力が発生すると、冷間再矯正工程などの追加作業によって残留応力を除去する必要があり、煩雑である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、熱間リバース圧延によって厚板を製造するに際して、厚板鋼板の平面方向の温度差を低減し、厚板の材質を略均一化する点にある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、リバース圧延において、被圧延鋼板の圧延ロール進入側の端部(先端部)に対しては水の噴射量を抑制すれば他の部分(高温部)との温度差を小さくできること、さらには前記高温部に対してはスケール層の厚みが薄く略均一になるまでデスケーリングすれば冷却速度をも略等しくでき、厚板の材質を略均一化できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち上記目的を達成し得た本発明の厚板の製造方法とは、被圧延鋼板を熱間圧延するパスを複数回繰り返すと共に、少なくとも1つのパスにおいて被圧延鋼板に水を噴射してデスケーリングしながら熱間圧延する熱間リバース圧延によって厚板を製造する方法であって、前記デスケーリングするパスにおいて、被圧延鋼板の圧延ロール進入側の端部に対しては水の噴射量を抑制すると共に、進入側端部から所定長さ以降の下流側部分に対しては所定強さ以上で水を噴射してスケールを略完全に除去する。前記被処理鋼板の進入側端部から所定長さ以降の下流側部分において表面温度の高い部分と低い部分とがある場合には、高い部分と低い部分とに分けて水の噴射量及び噴射強さを調整するのが望ましい。すなわち表面温度が高い部分に対しては水の噴射量を多くしかつ噴射強さを強くして表面温度の高い部分と低い部分との温度差を低減すると共に、スケール厚さを略均一にするのが望ましい。このことにより、圧延後の冷却過程におけるスケールの剥離量を表面温度の高い部分と低い部分との間で略一致させ、冷却速度を略一致させることができる。また本発明では、水を噴射するための複数個のデスケーリングノズルを圧延ロールの入口側において幅方向に併設し、鋼板の幅方向の表面温度分布に合わせて各デスケーリングノズルからの水の噴射量を調節することにより、圧延方向と略直交する方向の温度差を低減してもよい。
【0010】
本発明には熱間圧延ロールと、この圧延ロールの入口側に配設されかつ被圧延鋼板のスケールを略完全に除去するためのデスケーリングノズルと、このデスケーリングノズルに供給する噴射水の量及び強さを制御可能な制御手段と、前記圧延ロールにおける被圧延鋼板の噛み込みタイミングを検出するための検出手段とを備え、この検出手段の噛み込みタイミングの検出信号に応答して、被圧延鋼板の圧延ロール進入側の端部に対しては水の噴射量を抑制すると共に、進入側端部から所定長さ以降の下流側部分に対してはスケールを略完全に除去可能な強さの水の供給を指示するためのコントロール手段とを備えている圧延機も含まれる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明では、加熱工程で加熱した被圧延鋼板を熱間リバース圧延し、圧延後に冷却(例えば、水冷却などによる加速冷却)する方法[例えば、熱加工制御法(Thermo−Mechanical−Control−Process)]によって厚板を製造している。
【0012】
前記加熱工程では、汎用の加熱炉(バッチ炉、連続炉など、特に連続炉)を用いて加熱する。本発明は、スキッドレールを使用する連続炉(例えば、プッシャー式加熱炉、ウォーキングビーム式加熱炉など)を用いる場合に有利である。これらの炉を用いれば、スラブの長手方向もしくは幅方向に複数本(例えば、2本)のスキッドマークと称する低温部分が発生するものの、本発明によれば後述の熱間リバース圧延工程でスキッドマーク部分と他の部分(高温部)との温度差を低減できるため、スキッドマークが発生しても鋼材の材質を均質にできると共に、残留応力の発生を防止でき、鋼材の品質を略均一にできる。
【0013】
なお前記加熱工程でのスラブの加熱温度は鋼板の種類に応じて適宜選択でき、例えば、1000〜1200℃程度である。
【0014】
また前記熱間リバース圧延では、被圧延鋼板を熱間圧延するパスを複数回繰り返す。このようなリバース圧延では、鋼板の圧延方向先端部の温度が低くなり過ぎて、圧延方向の材質が不均一になり易い。またリバース圧延では、加圧ロールとの接触による温度低下と、その後の復熱を繰り返しながら鋼板の温度が低下していくため、鋼板にスキッドマーク部分などの低温部分がある場合、当該部分は圧延終了時にスケールが剥離し易い温度(Ac1点〜Ac3点程度)にまで冷却され、スケールが剥離し易くなると共に、周囲との温度差による残留応力が発生してスケールがさらに剥離し易くなる。そしてスケールが剥離すると、その後の冷却工程での冷却速度が遅くなり、周囲の温度の方がむしろ低下してしまい、温度差が発生する虞がある。ところが本発明によれば、圧延において特定のデスケーリング方法を採用しているため(後述)、リバース圧延であっても先端部やスキッドマーク部分とそれら以外の部分との温度差を略均一化できる。
【0015】
すなわち本発明では、熱間リバース圧延において、前記複数のパスのうち少なくとも1つのパスでは、被圧延鋼板に水を噴射してデスケーリングする。なお前記デスケーリングするパスの数は、全パスの1〜8割程度、好ましくは1.5〜7割程度、さらに好ましくは2〜5割程度である。なおデスケーリングは、奇数パス及び偶数パスのいずれか一方に片寄るのではなく、奇数パス及び偶数パスの両パスにおいて略同じ回数行うのが望ましい。
【0016】
そして前記デスケーリングパスにおいて、特定のデスケーリング方法を採用している。以下、添付図面を参照しつつさらに詳細に説明する。
【0017】
図1はリバース圧延(デスケーリングパス)で使用する圧延機及びその圧延機を用いたデスケーリング方法の一例を示す概略図である。図1の圧延機1aは、鋼板を圧延するための一対のワークロール2と、このワークロールの変形を防止するためのバックアップロール3とで構成された4段圧延機である。前記ワークロール2の入口側には、上下対象に前後に2列(合計4列)のデスケーリングヘッダ(図示せず)が配設されており、各デスケーリングヘッダには、それぞれ複数個のデスケーリングノズルが形成されている。すなわちデスケーリングノズル4a、4bは上下対象に前後に2列(合計4列)配設されており、各列では、複数のデスケーリングノズルが幅方向に配設されている。これらノズル4a、4bは被圧延鋼板(圧延材)5の進入方向と逆らう方向に向けられている。このような圧延機1aを用いれば、以下に説明するような作用によって、デスケーリングできると共に、鋼材の平面方向の温度差を均一化しながら圧延できる。
【0018】
すなわち被圧延鋼板5がワークロール2に噛み込む前は、デスケーリングノズル4a、4bからの水の噴射を停止し、被処理鋼板5が前進してワークロール2に噛み込むと、1列目のデスケーリングノズル4aからの水の噴射を開始する。このようにすれば、被圧延鋼板の先端部から所定長さ以降の下流側部分(例えば、先端部から長さ2000mm以降、好ましくは1500mm以降、さらに好ましくは1200mm以降の部分)に対してのみ高圧水をあてることができ、先端部との温度差を低減できると共に、スケール層の厚みを薄く略均一にできる。スケール層の厚みを薄く略均一にすると、スケール厚みによる冷却速度の違いを低減できるため、冷却工程後(加速冷却工程後など)の温度差をも低減できる。そのため鋼板の先端部から後端部に亘って温度を均一化でき、鋼板(厚板)の材質及び品質を略均一にできる。
【0019】
なお先端部と、この先端部から所定長さ以降の下流側部分(高温部)との温度差を低減し、かつ前記高温部のスケールを略完全に除去できる限り、先端部においてデスケーリングを行なってもよい。図2は、先端部のデスケーリングも行なう例について説明するための概略図である。図2の例では、被圧延鋼板5がワークロール2に噛み込む前は、1列目のデスケーリングノズル4aからのみ高圧水を噴射し、2列目のデスケーリングノズル4bからの水の噴射を停止する(図2(a)参照)。一部のデスケーリングノズルから水を噴射することによって、被圧延鋼板5の進入側の端部(先端部)のスケールを除去できると共に、他の一部のデスケーリングノズルの水の噴射を停止することによって、先端部の温度が低下し過ぎるのを防止できる。
【0020】
被処理鋼板5が前進してワークロール2に噛み込むと、2列目のデスケーリングノズルからも水を噴射する(図2(b)参照)。すなわち被圧延鋼板の先端部から所定長さ以降の下流側部分に対して、前記先端部よりも水の噴射量を多くする。そのため、略完全にデスケーリングしてスケール層を薄く均一にできると共に、温度の低い先端部との温度差を低減できる。
【0021】
さらに図2の圧延機1aを用いれば、被処理鋼板5が先端部以外に表面温度が低い部分(例えば、スキッドマーク)を有していても、当該低温部の水の噴射量を高温部より少なくすることにより(すなわち、高温部の水の噴射量を低温部より多くすることにより)当該部分をデスケーリングしながら、他の部分(高温部)との温度差を低減できる。図2(c)は表面温度が低い部分(スキッドマークなど)を有する被処理鋼板を圧延する方法の一例を示す概略図である。図2(c)の例では、被圧延鋼板の圧延方向と略直交する方向に複数本(例えば、2本)のスキッドマークが形成されている。そして前記複数本のスキッドマークのうち、ある一本のスキッドマーク6がノズル4a、4bからの水の噴射領域にさしかかると、2列目のノズル4bからの水の噴射を停止し、スキッドマーク6が水の噴射領域を通過するとノズル4bからの水の噴射を再開する。表面温度が低い部分(スキッドマーク部分など)のみ、ノズル4bからの水の噴射を停止することによって、表面温度が低い部分(スキッドマーク部分など)のスケールを除去しながら、当該部分と他の部分(高温部)との温度差をも低減できる。低温部及び高温部の温度差を低減すると、残留応力の発生を抑制できるため冷却工程(加速冷却工程など)でのスケールの剥離量を低温部と高温部とで略等しくすることができ、冷却速度を略一致させることができる。しかも冷却前の温度差も殆どないため、冷却速度を略等しくすることによって、冷却後の温度差を略無くすことができ、鋼板(厚板)の材質及び品質を略均一にできる。
【0022】
前記図1、2(a)〜(c)に示した水の噴射量及び噴射強さの制御、すなわち先端部、低温部(スキッドマーク部分など)、及びそれら以外の部分(高温部)に対する水噴射の制御を整理すると、以下の通りである。
【0023】
先端部
高温部に比べて水の噴射量を少なくして高温部との温度差を低減する。水の噴射強さは、スケールを薄くできる程度であってもよいが、スケールを薄くできない程度であってもよく、スケールを除去しなくてもよい。
【0024】
具体的には、水量(鋼板の幅1m、圧延速度1m/s当たりの水量)は、例えば、0×10-4m3以上、6×10-4m3以下(好ましくは4.5×10-4m3以下、さらに好ましくは3×10-4m3以下)である。水圧は、例えば、0〜2.5MPa程度である。
【0025】
低温部(スキッドマーク部分など)
高温部に比べて水の噴射量を少なくして高温部との温度差を低減する。水の噴射強さは、スケールを略完全に除去できる程度であることが多い。
【0026】
具体的には、水量(鋼板の幅1m、圧延速度1m/s当たりの水量)は、例えば、0×10-4m3以上(好ましくは3×10-4m3以上)、12×10-4m3以下(好ましくは9×10-4m3以下)である。水圧は、例えば、0MPa以上(好ましくは1MPa以上、さらに好ましくは2.5MPa以上)、6MPa以下(好ましくは4MPa以下)である。
【0027】
高温部
先端部及び低温部よりも水の噴射量を増大する。さらに水の噴射強さは、スケールを略完全に除去できる程度である。
【0028】
具体的には、水量(鋼板の幅1m、圧延速度1m/s当たりの水量)は、例えば、0×10-4m3より大きく(好ましくは1×10-4m3以上、さらに好ましくは6×10-4m3以上、特に9×10-4m3以上)、12×10-4m3以下である。水圧は、例えば、4〜8MPa程度である。
【0029】
高温部のスケール除去後のスケール層の厚みは、例えば、20μm以下、好ましくは12μm以下(特に、5μm以下)である。なおスケール層を真に完全に除去するのは困難であり、通常、5μm以上である。
【0030】
また先端部と高温部との温度差は、圧延後(全パス終了後)の温度差で、例えば、50℃以下(好ましくは45℃以下、さらに好ましくは40℃以下)、0℃以上(通常10℃以上、より一般的には20℃以上)である。また低温部(スキッドマーク部)と高温部との温度差は、圧延後(全パス終了後)の温度差で、例えば、30℃以下(好ましくは20℃以下、さらに好ましくは10℃以下)、0℃以上(通常10℃以上、より一般的には15℃以上)である。
【0031】
先端部から高温部(先端部から所定長さ以降の下流側部分)への水噴射の切り替えのタイミングは、被圧延鋼板5のワークロール2への噛み込みに基づいて行なえばよく、例えば、噛み込む前(所定時間前、例えば直前)でもよく、被圧延鋼板5が噛み込んだときでもよく、噛み込んでから所定時間経過した後でもよい。
【0032】
水噴射の制御は目視によって行ってもよいが、センサなどを備えた制御システムを利用すると簡便である。図3は、図2に示す水噴射の制御に利用する制御システムの一例を説明するための概略図である。
【0033】
図3の例では、前記圧延機1aには、ワークロール2への被圧延鋼板5の噛み込みを検出するための検出手段(ロードセル、光センサなど、この例ではロードセル)11と、圧延時の板厚を検出するための検出手段(この例では、圧下位置検出器)12とが取り付けられており、これら検出手段からの噛み込みの検出信号と板厚の検出信号とがコントロール手段15に送られる。このコントロール手段15は、制御回路13と入力手段(コンピューター端末など)14とで構成されており、前記入力手段14からは、圧延に関する情報(圧延長さ、圧延幅、デスケーリングタイミング、使用ヘッダ本数テーブル、圧延速度など)が必要に応じて入力される。また前記コントロール手段15には、被処理鋼板の表面温度を読み取って温度信号をこのコントロール手段15に送信するための温度センサ17も接続している。このコントロール手段15は、これら各検出器(又はセンサ)からの情報を利用して、デスケーリングのタイミングを制御している。
【0034】
より詳細には、1列目のデスケーリングノズル4aへの水の供給量を制御するための第1の制御バルブ16aと、2列目のデスケーリングノズル4bへの水の供給量を制御するための第2の制御バルブ16bとで構成された制御手段を用いる。前記第1および第2の制御バルブ16aは、前記コントロール手段15に接続しており、このコントロール手段15の指示に応じてバルブの開度が調整される。
【0035】
例えば、前記図2(a)に示すように被圧延鋼板5がワークロール2に噛み込む前には、ロードセルからの非噛み込み信号がコントロール手段13に送られ、このコントロール手段13からの指示に従って、1列目のデスケーリングノズル4aに通じるバルブ16aは開となり、2列目のデスケーリングノズル4bに通じるバルブ16bは閉となる。
【0036】
また前記図2(b)に示すように被圧延鋼板5がワークロール2に噛み込むと、ロードセルからの噛み込み信号に応じて、2列目のデスケーリングノズル4bに通じるバルブ16bが開となる。
【0037】
前記図2(c)に示すように低温部分(スキッドマーク部分)が水の噴射領域に近づく場合には、その位置及び長さ(圧延方向の長さ)を温度センサ14で読み取り、圧延速度などの情報に基づいてコントロール手段13が2列目ノズル4bの噴射停止及び再開のタイミングを計算し、計算結果に基づいてバルブ16bに開閉信号を送る。
【0038】
なお前記制御システムにおいて、圧下位置検出器12は必ずしも必要ではない。またスキッドマーク部分の温度制御を行わない場合、温度センサ17も必ずしも必要ではない。
【0039】
また図2の例とは異なる制御を行なう場合、各制御の目的に応じてコントロールすればよい。例えば、図1のようにデスケーリングノズルの一部しか使用せずかつ先端部に対しては水噴射を行なわない場合、2列目ノズル4bに接続するバルブ16bは常時閉にしてもよい。さらには後述するようにノズルを1列だけ配設する場合、第1の制御バルブだけを使用し、その開度を調節すればよい。
【0040】
本発明では被圧延鋼板の幅方向(圧延方向と略直交する方向)の温度差を低減してもよく、その場合、幅方向に配設されたデスケーリングヘッダからの水の噴射強さを被圧延鋼板の幅方向の表面温度分布に合わせて調節すればよい。例えば、被圧延鋼板の幅方向端部は空冷とデスケーリング水による水冷との2つの抜熱作用によって幅方向中央部よりも温度が低くなり易いため、幅方向端部にいくに従って幅方向中央部よりも水の噴射量及び/又は噴射強さ(特に噴射量)を抑制することが多い。また被圧延鋼板の圧延方向と略平行する方向に複数本のスキッドマークがある場合には、スキッドマーク部の水の噴射量及び/又は噴射強さ(特に噴射量)をスキッドマーク部以外よりも抑制してもよい。前記水量の抑制は、ON−OFF式制御などのように断続的に行なってもよい。
【0041】
本発明に使用する圧延機は、4段式圧延機に限られず、汎用の圧延機はいずれも使用できる。
【0042】
またデスケーリングノズルは、圧延機の入口側のみならず、入口側及び出口側の両方に配設してもよい。
【0043】
さらに入口側のノズルは、必ずしも前後に2列配設する必要はなく、1列だけ配設してもよく(複数列配設して1列だけ使用する場合も含む)、3列以上配設してもよい。ノズルの列数に拘わらず、各列トータルの水噴射を制御することによって、図1、2(a)〜(c)と同様にして水の噴射量及び噴射強さ並びに噴射のタイミングを制御できる。
【0044】
本発明によれば、デスケーリングによってスケールを略完全に除去しているため、スケールが発生し易い鋼種を用いても温度差の発生や残留応力の発生を効果的に防止でき、厚板の材質や品質を略均一にできる。本発明において有利に使用できる鋼種(スケールが発生し易い鋼種)としては、例えば、成分組成が下記の通りである鋼が例示できる。
【0045】
C:0.1〜0.2質量%
Si:0.1〜0.5質量%
Mn:0.5〜1.5質量%
P:0.03質量%以下(0質量%を含まず)
S:0.02質量%以下(0質量%を含まず)
Al:0.01〜1.0質量%
なお残部は実質的にFe及び不可避的不純物であってもよく、他の元素(Ti,Nbなど)を含有していてもよい。Ti及び/Nbを含有する場合、Ti量は0.05質量%以下程度、Nb量は0.05質量%以下程度であってもよい。
【0046】
特にスケールが発生し易い鋼種としては、下記鋼種1及び鋼種2が例示できる。
【0047】
[鋼種1]
C:0.12〜0.16質量%
Si:0.17〜0.27質量%
Mn:1.00〜1.15質量%
P:0.025質量%以下(0質量%を含まず)
S:0.012質量%以下(0質量%を含まず)
Al:0.018〜0.05質量%
残部はFe及び不可避的不純物である。
【0048】
[鋼種2]
C:0.13〜0.15質量%
Si:0.30〜0.40質量%
Mn:1.20〜1.30質量%
P:0.010質量%以下(0質量%を含まず)
S:0.002質量%(0質量%を含まず)
Al:0.02〜0.05質量%
Ti:0.009〜0.015質量%
Nb:0.005〜0.01質量%
また本発明によれば、厚板の材質や品質を略均一にできる。そのため、厚板を切断した後でも厚板が変形する虞がなく、鋼板の平坦度を高めることもできる。例えば、板厚9〜100mm程度(好ましくは15〜70mm程度)の平坦度の高い厚板を製造できる。また本発明では、幅方向の温度差をも低減できるため、異幅鋼板(圧延方向で幅が変化する鋼板)を有利に製造できる。
【0049】
本発明によって得られた厚板は、材質や品質が略均一なため、鋼構造物(船舶、橋梁、圧力容器、大径鋼管など、特に船舶)の部材として有利に使用できる。
【0050】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0051】
実施例1及び比較例1
表面温度1140℃(スキッドマーク部分の温度1120℃)に加熱したスラブ(厚さ235mm、幅1700mm、長さ2770mm)を粗ミル(粗圧延ロール)にて巾出し圧延することによって得られたリバース圧延用鋼板(厚さ66.0mm、幅3000mm、長さ5600mm)を用いて、10パスの熱間リバース圧延を行った。前記10パスのうち、第1パス、第3パス、及び第5パスにおいて、図2に示すデスケーリング方法に従ってデスケーリングを行なった(表1参照)。なお、鋼板の圧延方向の両側の端部のうち片側のみしかデスケーリングされないため、奇数パスのみのデスケーリングを行うことは少ないものの、この実施例ではデスケーリング方法の違いによる効果を明確にするため、奇数パスのみのデスケーリングを行った。
【0052】
ただし図2の例とは異なり、先端部に対する1列目ノズル4aからの水の噴射は行わなかった。先端部、スキッドマーク部分及びそれら以外の部分(高温部)に対する水噴射の制御は、下記表2に示す通りである。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
得られた鋼板(厚さ26.0mm、幅3000mm、長さ14200mm)の各部位のスケール厚み及び温度は表3及び図4に示す通りである。この鋼板を水冷によって約580℃まで加速冷却した。加速冷却後の厚板の各部位の降伏強度を測定し、図5に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表3及び図4〜5から明らかなように、比較例では先端部の温度は高温部よりも約60℃も低く、かつ高温部の温度が均一になるのは先端部から長さ約1000mm以降の部分であるのに対して、実施例では先端部と高温部との温度差を約30℃程度に半減でき、さらには先端部から長さ約500mm以降の部分で温度を均一にできる。そのため比較例の厚板では先端部の降伏強度と高温部の降伏強度との差が約35MPaもあるのに対して、実施例では先端部の降伏強度と高温部の降伏強度との差を約18MPa程度にまで低減できる。また高温部(降伏強度の定常部)から+10MPa程度までを鋼板として使用するとすると、比較例では先端から約700mmまでの部分を切り捨てる必要があるのに対して、実施例では先端から約400mmまでの部分だけを切り捨てればよく、切り捨て代を約300mm程度低減できる。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、被圧延鋼板の先端部に対する水の噴射量を抑制すると共に、先端部から所定長さ以降の下流側部分に対しては水の噴射を強くしてスケーリングを略完全に除去しているため、厚板鋼板の平面方向(特に圧延方向)の温度差を低減でき、厚板の材質を略均一化できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明のデスケーリング方法の一例を説明するための概略図である。
【図2】図2は本発明のデスケーリング方法の他の例を説明するための概略図である。
【図3】図3は本発明で使用する制御システムの一例を説明するための概略図である。
【図4】図4は実施例及び比較例で得られた鋼板の先端からの距離と表面温度との関係を示すグラフである。
【図5】図5は実施例及び比較例で得られた鋼板の先端からの距離と降伏強度との関係を示すグラフである。
【図6】図6は従来のデスケーリング方法を説明するための概略図である。
【符号の説明】
1a…圧延機
2…圧延ロール
4a、4b…デスケーリングヘッダ
16a、16b…制御手段
11…検出手段
15…コントロール手段
Claims (6)
- 被圧延鋼板を熱間圧延するパスを複数回繰り返すと共に、少なくとも1つのパスにおいて被圧延鋼板に水を噴射してデスケーリングしながら熱間圧延する熱間リバース圧延によって厚板を製造する方法であって、前記デスケーリングするパスにおいて、被圧延鋼板の圧延ロール進入側の端部に対しては水の噴射量を抑制すると共に、進入側端部から所定長さ以降の下流側部分に対しては所定強さ以上で水を噴射してスケールを略完全に除去する厚板の製造方法。
- 前記被処理鋼板の進入側端部から所定長さ以降の下流側部分をスキッドマーク部分と他の部分とに分けて水の噴射量及び噴射強さを調整することとし、前記他の部分に対しては水の噴射量を多くしかつ噴射強さを強くして該他の部分とスキッドマーク部分との温度差を低減すると共に、スケール厚さを略均一にすることにより、圧延後の冷却過程におけるスケールの剥離量を該他の部分とスキッドマーク部分との間で略一致させ、冷却速度を略一致させる請求項1記載の製造方法。
- 圧延ロールへの被圧延鋼板の噛み込みのタイミングに基づいて、前記進入側端部から所定長さ以降の下流側部分に対する水の噴射を強くする請求項1又は2記載の製造方法。
- 圧延ロールの入口側に水を噴射するためのデスケーリングノズルを配設し、被圧延鋼板の進入方向と逆らう方向に向けて水を噴射する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
- 水を噴射するための複数個のデスケーリングノズルを圧延ロールの入口側において幅方向に併設し、鋼板の幅方向の表面温度分布に合わせて各デスケーリングノズルからの水の噴射量を調節することにより、圧延方向と略直交する方向の温度差を低減する請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
- 熱間圧延ロールと、この圧延ロールの入口側に配設されかつ被圧延鋼板のスケールを略完全に除去するためのデスケーリングノズルと、このデスケーリングノズルに供給する噴射水の量及び強さを制御可能な制御手段と、前記圧延ロールにおける被圧延鋼板の噛み込みタイミングを検出するための検出手段とを備え、この検出手段の噛み込みタイミングの検出信号に応答して、被圧延鋼板の圧延ロール進入側の端部に対しては水の噴射量を抑制すると共に、進入側端部から所定長さ以降の下流側部分に対してはスケールを略完全に除去可能な強さの水の供給を指示するためのコントロール手段とを備えている圧延機。
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