JP3761131B2 - 原動機付車両 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動変速機を備えるとともに、原動機がアイドリング状態でかつ所定の低車速以下においてブレーキペダルの踏込み時にはブレーキペダルの踏込み開放時に比べてクリープの駆動力を低減する駆動力低減装置または/および車両停止時に原動機を自動で停止可能な原動機停止装置を備え、さらにブレーキペダルの踏込み開放時にも引続きホイールシリンダにブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置を備える原動機付車両に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、原動機付車両には、燃費向上や低公害などを目的として、クリープ走行時の駆動力を低減させたり、車両停止時に原動機を停止させる装置を備える車両がある。さらに、駆動力を低減(または原動機を自動停止)させた時の坂道発進時に、車両が後退するのを防止するために、ブレーキペダルの踏込み開放時にもホイールシリンダのブレーキ液圧を保持可能な装置を備える車両がある。
なお、クリープは、自動変速機を備える車両のシフトレバーでDレンジまたはRレンジなどの走行レンジが選択されている時に、アクセルペダルを踏込まなくても(原動機がアイドリング状態)、車両が這うようにゆっくり動くことである。
【0003】
本願出願人による特願平10−370250号には、自動変速機を備える原動機付車両であって、駆動力低減装置または/および原動機停止装置、さらにブレーキ液圧保持装置を備える原動機付車両について記載している。駆動力低減装置は、所定の低車速以下において、ブレーキペダルの踏込み時にはブレーキペダルの踏込み開放時に比べてクリープの駆動力を低減することができる。原動機停止装置は、原動機付車両停止時に、原動機を自動で停止することができる。ブレーキ液圧保持装置は、ブレーキペダルの踏込み開放時にも引続きホイールシリンダにブレーキ液圧を作用することができる。このブレーキ液圧保持装置は、マスターシリンダとホイールシリンダを結ぶ液圧通路と、液圧通路を連通する連通位置と液圧通路を遮断する遮断位置に切換わる電磁弁と、電磁弁を迂回してマスターシリンダとホイールシリンダを常時連通する迂回通路と、迂回通路に設けられ迂回通路の流量を制限する絞りと、電磁弁を切換える制御部を備える。そして、電磁弁を遮断位置に切換えて、絞りの流量制限によりブレーキペダルの踏込み力の低下速度に対してホイールシリンダ内のブレーキ液圧の低下速度を小さくする。
【0004】
この原動機付車両によれば、駆動力低減装置または/および原動機停止装置の作動により燃費の悪化などを防止するとともに、ブレーキ液圧保持装置の作動によって、駆動力低減装置または/および原動機停止装置の作動時の上り坂での発進時に車両の後退を防止することができる。さらに、この原動機付車両のブレーキ液圧保持装置によれば、絞りによる流量制限によりブレーキ液圧を保持しているため、ブレーキペダルの踏込みを緩めた時に、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を徐々に低下させることができる。したがって、ブレーキペダルの踏込みを緩めた後、結果として、時間遅れで、踏込みを緩めた後のブレーキペダルの踏込み力に相当するブレーキ液圧までホイールシリンダ内のブレーキ液圧が低下する。そのため、下り坂での発進時に、ブレーキペダルの踏込みを緩めるだけで車両を発進させることもできる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
図11にブレーキ液の温度−粘度の関係をグラフで示す。なお、このグラフは、横軸が温度(度:℃)、縦軸が粘度(センチストークス:CST)である。このグラフから判るように、ブレーキ液の温度が低くなると、ブレーキ液の粘度が極端に大きくなる。また、ブレーキ液の粘性が高くなると、絞りを通過する単位時間当たりのブレーキ液量が少なくなる。したがって、ブレーキ液の温度が低い場合、電磁弁が遮断位置に切換わってブレーキ液圧保持装置が作動し、さらにブレーキペダルの踏込みが緩められた時に、緩めた後のブレーキペダルの踏込み力に相当するブレーキ液圧までホイールシリンダ内のブレーキ液圧が低下するのに要する時間が非常に長くなる。その結果、下り坂において、ブレーキペダルの踏込みを緩めるだけで車両を円滑に発進させることができなくなる。
【0006】
そこで、本発明の課題は、ブレーキ液の温度が低く、ブレーキ液の粘性が高い場合に、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を遅滞なく低下させることができるとともに、上り坂での発進時に車両の後退を防止することができる原動機付車両を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決した請求項1の発明に係る原動機付車両は、アクセルペダルの踏込み開放時にも変速機において走行レンジが選択されている場合は、原動機から駆動輪へ駆動力を伝達する原動機付車両であって、所定の低車速以下の時、前記駆動力の大きさをブレーキペダルの踏込みに応じて切換え、前記ブレーキペダルの踏込み時には前記ブレーキペダルの踏込み開放時に比べて前記駆動力を低減する駆動力低減装置と、前記ブレーキペダルの踏込み開放後も引続きホイールシリンダにブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置とを備え、前記ブレーキ液圧保持装置は、ドライバーのブレーキペダルの踏込み力に応じたブレーキ液圧を発生するマスターシリンダと前記ホイールシリンダを結ぶ液圧通路と、前記液圧通路に設けられ、前記液圧通路を連通する連通位置と前記液圧通路を遮断する遮断位置とに切換わる電磁弁と、前記電磁弁を迂回し、前記マスターシリンダと前記ホイールシリンダ間を常時連通する迂回通路と、前記迂回通路に設けられ、前記迂回通路の流量を制限する絞りと、前記電磁弁を前記連通位置または前記遮断位置に切換える制御部とを備え、前記電磁弁を前記遮断位置に切換えて、前記絞りの流量制限により前記ブレーキペダルの踏込み力の低下速度に対して前記ホイールシリンダ内のブレーキ液圧の低下速度を小さくするブレーキ液圧低下速度減少手段で構成される、原動機付車両において、ブレーキ液の温度を検出する温度検出手段を備え、前記ブレーキ液の温度が所定値以下の時に前記駆動力低減装置および前記ブレーキ液圧保持装置の作動を禁止することを特徴とする。
この原動機付車両によれば、ブレーキ液の温度が低い時に、ブレーキ液圧保持装置の作動を禁止しているので、ブレーキペダルの踏込みが緩められると、ブレーキ液の粘性が高くても、踏込みが緩められた後のブレーキペダルの踏込み力に相当するブレーキ液圧までホイールシリンダ内のブレーキ液圧が遅滞なく低下する。さらに、ブレーキ液の温度が低い時に、駆動力低減装置の作動を禁止しているので、ブレーキペダルが踏込まれて車両が所定の低車速以下になっても駆動力を大きな状態に維持する。
【0008】
また、前記課題を解決した請求項2の発明に係る原動機付車両は、アクセルペダルの踏込み開放時にも変速機において走行レンジが選択されている場合は、原動機から駆動輪へ駆動力を伝達する原動機付車両であって、所定の低車速以下の時、前記駆動力の大きさをブレーキペダルの踏込みに応じて切換え、前記ブレーキペダルの踏込み時には前記ブレーキペダルの踏込み開放時に比べて前記駆動力を低減する駆動力低減装置と、前記原動機付車両停止時、前記原動機を停止可能な原動機停止装置と、前記ブレーキペダルの踏込み開放後も引続きホイールシリンダにブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置とを備え、前記ブレーキ液圧保持装置は、ドライバーのブレーキペダルの踏込み力に応じたブレーキ液圧を発生するマスターシリンダと前記ホイールシリンダを結ぶ液圧通路と、前記液圧通路に設けられ、前記液圧通路を連通する連通位置と前記液圧通路を遮断する遮断位置とに切換わる電磁弁と、前記電磁弁を迂回し、前記マスターシリンダと前記ホイールシリンダ間を常時連通する迂回通路と、前記迂回通路に設けられ、前記迂回通路の流量を制限する絞りと、前記電磁弁を前記連通位置または前記遮断位置に切換える制御部とを備え、前記電磁弁を前記遮断位置に切換えて、前記絞りの流量制限により前記ブレーキペダルの踏込み力の低下速度に対して前記ホイールシリンダ内のブレーキ液圧の低下速度を小さくするブレーキ液圧低下速度減少手段で構成される、原動機付車両において、ブレーキ液の温度を検出する温度検出手段を備え、前記ブレーキ液の温度が所定値以下の時に前記駆動力低減装置、前記原動機停止装置および前記ブレーキ液圧保持装置の作動を禁止することを特徴とする。
この原動機付車両によれば、ブレーキ液の温度が低い時に、ブレーキ液圧保持装置の作動を禁止しているので、ブレーキペダルの踏込みが緩められると、ブレーキ液の粘性が高くても、踏込みが緩められた後のブレーキペダルの踏込み力に相当するブレーキ液圧までホイールシリンダ内のブレーキ液圧が遅滞なく低下する。さらに、ブレーキ液の温度が低い時に、駆動力低減装置および原動機停止装置の作動を禁止しているので、ブレーキペダルが踏込まれて車両が停止しても、原動機の作動を維持するとともに、駆動力を大きな状態に維持する。
【0009】
さらに、前記課題を解決した請求項3の発明に係る原動機付車両は、アクセルペダルの踏込み開放時にも変速機において走行レンジが選択されている場合は、原動機から駆動輪へ駆動力を伝達する原動機付車両であって、前記原動機付車両停止時、前記原動機を停止可能な原動機停止装置と、ブレーキペダルの踏込み開放後も引続きホイールシリンダにブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置とを備え、前記ブレーキ液圧保持装置は、ドライバーのブレーキペダルの踏込み力に応じたブレーキ液圧を発生するマスターシリンダと前記ホイールシリンダを結ぶ液圧通路と、前記液圧通路に設けられ、前記液圧通路を連通する連通位置と前記液圧通路を遮断する遮断位置とに切換わる電磁弁と、前記電磁弁を迂回し、前記マスターシリンダと前記ホイールシリンダ間を常時連通する迂回通路と、前記迂回通路に設けられ、前記迂回通路の流量を制限する絞りと、前記電磁弁を前記連通位置または前記遮断位置に切換える制御部とを備え、前記電磁弁を前記遮断位置に切換えて、前記絞りの流量制限により前記ブレーキペダルの踏込み力の低下速度に対して前記ホイールシリンダ内のブレーキ液圧の低下速度を小さくするブレーキ液圧低下速度減少手段で構成される、原動機付車両において、ブレーキ液の温度を検出する温度検出手段を備え、前記ブレーキ液の温度が所定値以下の時に前記原動機停止装置および前記ブレーキ液圧保持装置の作動を禁止することを特徴とする。
この原動機付車両によれば、ブレーキ液の温度が低い時に、ブレーキ液圧保持装置の作動を禁止しているので、ブレーキペダルの踏込みが緩められると、ブレーキ液の粘性が高くても、踏込みが緩められた後のブレーキペダルの踏込み力に相当するブレーキ液圧までホイールシリンダ内のブレーキ液圧が遅滞なく低下する。さらに、ブレーキ液の温度が低い時に、原動機停止装置の作動を禁止しているので、ブレーキペダルが踏込まれて車両が停止しても、原動機の作動を維持し、駆動力を大きな状態に維持する。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に係る原動機付車両の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は原動機付車両のシステム構成図、図2は原動機付車両のブレーキ液圧保持装置の構成図、図3は図2のブレーキ液圧保持装置の具体的な構造を示す断面図、図4は図3のブレーキ液圧保持装置の(a)リリーフ弁と絞り部分の要部を拡大した断面図、(b)絞りを切削により形成する際の作用図、(c)絞りを押付けにより形成する際の作用図、(c−1)溝加工を示す作用図、(c−2)コイニングを示す作用図、図5は原動機付車両の(a)ブレーキ液圧保持装置の電磁弁をONするためのロジック、(b)エンジン自動停止条件、図6は原動機付車両の(a)ブレーキ液圧保持装置の電磁弁をOFFするためのロジック、(b)エンジン自動始動条件、図7は原動機付車両において駆動力低減装置、原動機停止装置およびブレーキ液圧保持装置が作動時の(a)駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャート、(b)車両停止時のブレーキ液圧回路の構成図、図8は原動機付車両において駆動力低減装置およびブレーキ液圧保持装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時の駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャート、図9は原動機付車両において駆動力低減装置、原動機停止装置およびブレーキ液圧保持装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時の駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャート、図10は原動機付車両において原動機停止装置およびブレーキ液圧保持装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時の駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャートである。
【0011】
本発明の原動機付車両は、ブレーキペダルの踏込み開放時にもホイールシリンダにブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置を備えるとともに、そのブレーキ液圧保持装置内のブレーキ液の温度を検出する温度検出手段を備える。また、原動機がアイドリング状態でかつ所定の低車速以下においてブレーキペダルが踏込まれている時にクリープの駆動力を低減する駆動力低減装置または/および車両停止中に原動機を自動で停止可能な原動機停止装置を備える。さらに、温度検出手段で検出されたブレーキ液の温度が所定値以下の時、ブレーキ液圧保持装置、駆動力低減装置および原動機停止装置の作動を禁止する機能を備える。本実施の形態で説明する原動機付車両は、原動機としてガソリンなどを動力源とする内燃機関であるエンジンと電気を動力源とするモータを備えるハイブリッド車両であり、変速機としてベルト式無段変速機(以下、CVTと記載する)を備える車両である。なお、本発明の原動機付車両は、原動機としてエンジンのみ、モータのみなど、原動機を特に限定しない。また、変速機としては、CVTに限らず、広く普及している有段の自動変速機であっても良い。
【0012】
《システム構成》
まず、本実施の形態の原動機付車両(以下、車両と記載)のシステム構成を図1を参照して説明する。車両は、原動機としてエンジン1とモータ2を備え、変速機としてCVT3を備える。エンジン1は、燃料噴射電子制御ユニット(以下、FIECUと記載する)に制御される。なお、FIECUは、マネージメント電子制御ユニット(以下、MGECUと記載する)と一体で構成し、燃料噴射/マネージメント電子制御ユニット(以下、FI/MGECUと記載する)4に備わっている。また、モータ2は、モータ電子制御ユニット(以下、MOTECUと記載する)5に制御される。さらに、CVT3は、CVT電子制御ユニット(以下、CVTECUと記載する)6に制御される。
【0013】
さらに、CVT3には、駆動輪8,8が装着された駆動軸7が取り付けられる。駆動輪8,8には、ホイールシリンダWC(図2参照)などを備えるディスクブレーキ9,9が装備されている。ディスクブレーキ9,9のホイールシリンダWCには、ブレーキ液圧保持装置RUを介してマスターシリンダMCが接続される。マスターシリンダMCには、マスターパワMPを介してブレーキペダルBPからの踏込みが伝達される。ブレーキペダルBPは、ブレーキスイッチBSWによって、ブレーキペダルBPが踏込まれているか否かが検出される。また、ブレーキスイッチBSWは、ブレーキペダルBPにドライバーが足を置いているか否かを検出することをもって、ブレーキペダルBPの踏込みの有無を検出するものでもよい。
【0014】
エンジン1は、熱エネルギーを利用する内燃機関であり、CVT3および駆動軸7などを介して駆動輪8,8を駆動する。なお、エンジン1は、燃費悪化の防止などのために、車両停止時に自動で停止させる場合がある。そのために、車両は、エンジン自動停止条件を満たした時にエンジン1を停止させる原動機停止装置を備える。
【0015】
モータ2は、図示しないバッテリからの電気エネルギーを利用し、エンジン1による駆動をアシストするアシストモードを有する。また、モータ2は、アシスト不要の時(下り坂や減速時など)に駆動軸7の回転による運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、図示しないバッテリに蓄電する回生モードを有し、さらにエンジン1を始動する始動モードなどを有する。
【0016】
CVT3は、ドライブプーリとドリブンプーリとの間に無端ベルトを巻掛け、各プーリ幅を変化させて無端ベルトの巻掛け半径を変化させることによって、変速比を無段階に変化させる。そして、CVT3は、出力軸に発進クラッチを連結し、この発進クラッチを係合して、無端ベルトで変速されたエンジン1などの出力を発進クラッチの出力側のギアを介して駆動軸7に伝達する。なお、このCVT3を備える車両は、クリープ走行が可能であるとともに、このクリープの駆動力を低減する駆動力低減装置を備える。クリープの駆動力は、発進クラッチの係合力によって調整され、駆動力が大きい状態と駆動力が小さい状態の2つの大きさを有する。この駆動力の大きい状態は、傾斜5°に釣り合う駆動力を有する状態であり、本実施の形態では強クリープと呼ぶ。他方、駆動力の小さい状態は、殆ど駆動力がない状態であり、本実施の形態では弱クリープと呼ぶ。強クリープでは、アクセルペダルの踏込みが開放された時(すなわち、アイドリング状態時)で、かつポジションスイッチPSWで走行レンジ(Dレンジ、LレンジまたはRレンジ)が選択されている時に、ブレーキペダルBPの踏込みを開放すると車両が這うようにゆっくり進む。弱クリープでは、所定の低車速以下の時でかつブレーキペダルBPが踏込まれた時で、車両は停止か微低速である。
なお、ポジションスイッチPSWのレンジ位置は、シフトレバーで選択する。ポジションスイッチPSWのレンジは、駐停車時に使用するPレンジ、ニュートラルであるNレンジ、バック走行時に使用するRレンジ、通常走行時に使用するDレンジおよび急加速や強いエンジンブレーキを必要とする時に使用するLレンジがある。また、走行レンジとは、車両が走行可能なレンジ位置であり、この車両ではDレンジ、LレンジおよびRレンジの3つのレンジである。さらに、ポジションスイッチPSWでDレンジが選択されている時には、モードスイッチMSWで、通常走行モードであるDモードとスポーツ走行モードであるSモードを選択できる。
【0017】
FI/MGECU4に含まれるFIECUは、最適な空気燃費比となるように燃料の噴射量を制御するとともに、エンジン1を統括的に制御する。FIECUにはスロットル開度やエンジン1の状態を示す情報などが送信され、各情報に基づいてエンジン1を制御する。また、FI/MGECU4に含まれるMGECUは、MOTECU5を主として制御するとともに、エンジン自動停止条件およびエンジン自動始動条件の判断を行う。MGECUにはモータ2の状態を示す情報が送信されるとともに、FIECUからエンジン1の状態を示す情報などが入力され、各情報に基づいて、モータ2のモードの切換え指示などをMOTECU5に行う。また、MGECUにはCVT3の状態を示す情報、エンジン1の状態を示す情報、ポジションスイッチPSWのレンジ情報およびモータ2の状態を示す情報などが送信され、各情報に基づいて、エンジン1の自動停止または自動始動を判断する。
【0018】
MOTECU5は、FI/MGECU4からの制御信号に基づいて、モータ2を制御する。FI/MGECU4からの制御信号にはモータ2によるエンジン1の始動、エンジン1の駆動のアシストまたは電気エネルギーの回生などを指令するモード情報やモータ2に対する出力要求値などがあり、MOTECU5は、これらの情報に基づいて、モータ2に命令を出す。また、モータ2などから情報を得て、発電量などのモータ2の情報やバッテリの容量などをFI/MGECU4に送信する。
【0019】
CVTECU6は、CVT3の変速比や発進クラッチの係合力などを制御する。CVTECU6にはCVT3の状態を示す情報、エンジン1の状態を示す情報およびポジションスイッチPSWのレンジ情報などが送信され、CVT3のドライブプーリとドリブンプーリの各シリンダの油圧の制御および発進クラッチの油圧の制御をするための信号などをCVT3に送信する。さらに、CVTECU6は、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA,SVB(図2参照)のON(閉)/OFF(開)を制御する(すなわち、電磁弁SVA,SVBを切換える制御部としての機能を有する)とともに、クリープの駆動力を大きい状態か小さい状態のいずれにするかを判断する。また、CVTECU6は、ブレーキ液圧保持装置RUの故障を検出するために、故障検出装置DUを備えている。この故障検出装置DUは、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA,SVBをON(閉)/OFF(開)するための駆動回路も備える。
なお、前記した電磁弁SVA,SVBのON(閉)/OFF(開)の制御およびクリープの駆動力の大きさの制御には、ブレーキ液の温度も判断要素となる。CVTECU6にはブレーキ液圧保持装置RUの温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度の情報が送信され、その温度が所定値以下の時、電磁弁SVA,SVBをOFF(開状態)に維持するとともに、クリープの駆動力を大きな状態に維持する。さらに、CVTEUC6は、ブレーキ液の温度が所定値以下になっていることを示す情報(後記するF_CVTOKの中に含まれる情報)をFI/MGECU4に送信する。FI/MGECU4は、この送信された情報に基づいて、ブレーキ液の温度が所定値以下の時、エンジン1を自動で停止しない。
【0020】
ディスクブレーキ9,9は、駆動輪8,8と一体となって回転するディスクロータを、ホイールシリンダWC(図2参照)を駆動源とするブレーキパッドで挟み付け、その摩擦力で制動力を得る。ホイールシリンダWCには、ブレーキ液圧保持装置RUを介してマスターシリンダMCのブレーキ液圧が供給される。
【0021】
ブレーキ液圧保持装置RUは、ブレーキペダルBPの踏込み開放後も、ホイールシリンダWCにブレーキ液圧を作用させる。ブレーキ液圧保持装置RUは、CVTECU6内の故障検出装置DUにおけるブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA,SVBを駆動(ON/OFF)するための駆動回路も含むものとする。また、ブレーキ液圧装置RUは、ブレーキ液の温度を検出する温度検出手段として温度センサTSを備える。この温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度が所定値以下になると、ブレーキ液圧保持装置RUの作動は、禁止される。なお、ブレーキ液圧保持装置RUの構成などについては、後で詳細に説明する。(図2参照)
なお、電磁弁がON/OFFするとは、「常時開型の電磁弁では、電磁弁がONするとは電磁弁が閉じて閉状態になることであり、電磁弁がOFFするとは電磁弁が開いて開状態になること」である。他方、「常時閉型の電磁弁では、電磁弁がONするとは電磁弁が開いて開状態になることであり、電磁弁がOFFするとは電磁弁が閉じて閉状態になること」である。本実施の形態における電磁弁SVA,SVBは、常時開型の電磁弁である。また、駆動回路は、電磁弁SVA,SVBをONするために、電磁弁SVA,SVBの各コイルに電流を供給し、電磁弁をOFFするために、電流の供給を停止する。
【0022】
マスターシリンダMCは、ブレーキペダルBPの踏込みを油圧に変える装置である。さらに、そのブレーキペダルBPの踏込みをアシストするために、マスターパワMPが、マスターシリンダMCとブレーキペダルBPの間に設けらている。マスターパワMPは、ドライバーがブレーキペダルBPを踏む力の他に、エンジン1の負圧や圧縮空気などの力を加えて制動力を強化し、ブレーキング時の踏力を軽くする装置である。また、ブレーキペダルBPにはブレーキスイッチBSWが設けられ、このブレーキスイッチBSWは、ブレーキペダルBPが踏込まれているか踏込みが開放されているかを検出する。
【0023】
この車両に備わる駆動力低減装置は、CVT3およびCVTECU6などで構成される。駆動力低減装置は、ブレーキペダルBPが踏込まれている時かつ車速が5km/h以下の時(所定の低車速以下の時)に、クリープの駆動力を低減し、強クリープ状態から弱クリープ状態にする。駆動力低減装置は、CVTECU6で、ブレーキペダルBPが踏込まれているかをブレーキスイッチBSWの信号から判断するとともに、車速が5km/h以下であるかをCVT3の車速パルスから判断する。さらに、CVTECU6では前記2つの基本条件に追加して、ブレーキ液の温度が所定値以上、ブレーキ液圧保持装置RUが正常(ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA,SVB(図2参照)の駆動回路が正常も含む)およびポジションスイッチPSWのレンジがDレンジであることも判断し、5つの条件を満たしたときに、CVT3に発進クラッチの係合力を弱める命令を送信し、クリープの駆動力を低減させている。車両は、この駆動力低減装置による駆動力の低減によって、燃費の悪化を防止する。
なお、弱クリープ状態およびエンジン1停止の時には、CVTECU6で、強クリープになるため条件を判断する。そして、強クリープの条件が満たされると、CVTECU6からCVT3に発進クラッチの係合力を強める命令を送信し、クリープの駆動力を大きくする。
【0024】
この車両に備わる原動機停止装置は、FI/MGECU4などで構成される。原動機停止装置は、車両が停止状態の時に、エンジン1を自動で停止させることができる。原動機停止装置は、FI/MGECU4のMGECUで、車速が0km/hなどのエンジン自動停止条件を判断する。なお、エンジン自動停止条件については、後で詳細に説明する。そして、エンジン自動停止条件が全て満たされていると判断すると、FI/MGECU4からエンジン1にエンジン停止命令を送信し、エンジン1を自動で停止させる。車両は、この原動機停止装置によるエンジン1の自動停止によって、さらに一層燃費の悪化を防止する。
なお、この原動機停止装置によるエンジン1の自動停止時に、FI/MGECU4のMGECUで、エンジン自動始動条件を判断する。そして、エンジン自動始動条件が満たされると、FI/MGECU4からMOTECU5にエンジン始動命令を送信し、さらに、MOTECU5からモータ2にエンジン1を始動させる命令を送信し、モータ2によってエンジン1を自動始動させるとともに、強クリープ状態にする。なお、エンジン自動始動条件については、後で詳細に説明する。
また、故障検出装置DUでブレーキ液圧保持装置RUの故障が検出されると、原動機停止装置の作動は、禁止される。さらに、温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度が所定値以下になると、原動機停止装置の作動は、禁止される。
【0025】
次に、このシステムにおいて送受信される信号について説明する。なお、図1中の各信号の前に付与されている「F_」は信号が0か1のフラグ情報であることを表し、「V_」は信号が数値情報(単位は任意)であることを表し、「I_」は信号が複数種類の情報を含む情報であることを表す。
【0026】
FI/MGECU4からCVTECU6に送信される信号について説明する。V_MOTTRQは、モータ2の出力トルク値である。F_MGSTBは、後で説明するエンジン自動停止条件の中でF_CVTOKの5つの条件を除いた条件が全て満たされているか否かを示すフラグであり、満たしている場合は1、満たしていない場合は0である。ちなみに、F_MGSTBとF_CVTOKが共に1に切換わるとエンジン1を自動停止し、どちらかのフラグが0に切換わるとエンジン1を自動始動する。
【0027】
FI/MGECU4からCVTECU6とMOTECU5に送信される信号について説明する。V_NEPは、エンジン1の回転数である。
【0028】
CVTECU6からFI/MGECU4に送信される信号について説明する。F_CVTOKは、CVT3が弱クリープ状態、CVT3のレシオ(プーリ比)がロー、CVT3の油温が所定値以上、ブレーキ液の温度が所定値以上およびブレーキ液圧保持装置RUが正常(ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA,SVB(図2参照)の駆動回路が正常も含む)の5つの条件が満たされているか否かを示すフラグであり、5つの条件が全て満たされている場合は1、1つでも条件を満たしていない場合は0である。なお、エンジン停止時には、CVT3が弱クリープ状態、CVT3のレシオがロー、CVT3の油温が所定値以上およびブレーキ液の温度が所定値以上の条件は維持され、F_CVTOKは、ブレーキ液圧保持装置RUが正常か否かのみで判断される。すなわち、エンジン1停止時、ブレーキ液圧保持装置RUが正常の場合にはF_CVTOKは1、ブレーキ液圧保持装置RUが故障の場合にはF_CVTOKは0となる。F_CVTTOは、CVT3の油温が所定値以上か否かを示すフラグであり、所定値以上の場合は1、所定値未満の場合は0である。なお、このCVT3の油温は、CVT3の発進クラッチの油圧を制御するリニアソレノイド弁の電気抵抗値から推定する。F_POSRは、ポジションスイッチPSWのレンジでRレンジが選択されているか否かを示すフラグであり、Rレンジの場合は1、Rレンジ以外の場合は0である。F_POSDDは、ポジションスイッチPSWのレンジでDレンジかつモードスイッチMSWのモードでDモードが選択されているか否かを示すフラグであり、DモードDレンジの場合は1、DレンジDモード以外の場合は0である。なお、FI/MGECU4は、DレンジDモード、Rレンジ、Pレンジ、Nレンジを示す情報が入力されていない場合、DレンジSモード、Lレンジのいずれかが選択されていると判断する。
【0029】
エンジン1からFI/MGECU4とCVTECU6に送信される信号について説明する。V_ANPは、エンジン1の吸気管の負圧値である。V_THは、スロットルの開度である。V_TWは、エンジン1の冷却水温である。V_TAは、エンジン1の吸気温である。
【0030】
CVT3からFI/MGECU4とCVTECU6に送信される信号について説明する。V_VSP1は、CVT3内に設けられた2つの車速ピックアップの一方から出される車速パルスである。この車速パルスに基づいて、車速を算出する。
【0031】
CVT3からCVTECU6に送信される信号について説明する。V_NDRPは、CVT3のドライブプーリの回転数を示すパルスである。V_NDNPは、CVT3のドリブンプーリの回転数を示すパルスである。V_VSP2は、CVT3内に設けられた2つの車速ピックアップの他方から出される車速パルスである。なお、V_VSP2は、V_VSP1より高精度であり、CVT3の発進クラッチの滑り量の算出などに利用する。
【0032】
MOTECU5からFI/MGECU4に送信される信号について説明する。V_QBATは、バッテリの残容量である。V_ACTTRQは、モータ2の出力トルク値であり、V_MOTTRQと同じ値である。I_MOTは、電気負荷を示すモータ2の発電量などの情報である。なお、モータ駆動電力を含めこの車両で消費される電力は、全てこのモータ2で発電される。
【0033】
FI/MGECU4からMOTECU5に送信される信号について説明する。V_CMDPWRは、モータ2に対する出力要求値である。V_ENGTRQは、エンジン1の出力トルク値である。I_MGは、モータ2に対する始動モード、アシストモード、回生モードなどの情報である。
【0034】
マスターパワMPからFI/MGECU4に送信される信号について説明する。V_M/PNPは、マスターパワMPの定圧室の負圧検出値である。
【0035】
ポジションスイッチPSWからFI/MGECU4に送信される信号について説明する。ポジションスイッチPSWでNレンジまたはPレンジのどちらかが選択されている場合のみ、ポジション情報としてNかPが送信される。
【0036】
CVTECU6からCVT3に送信される信号について説明する。V_DRHPは、CVT3のドライブプーリのシリンダの油圧を制御するリニアソレノイド弁への油圧指令値である。V_DNHPは、CVT3のドリブンプーリのシリンダの油圧を制御するリニアソレノイド弁への油圧指令値である。なお、V_DRHPとV_DNHPにより、CVT3の変速比を変える。V_SCHPは、CVT3の発進クラッチの油圧を制御するリニアソレノイド弁への油圧指令値である。なお、V_SCHPにより、発進クラッチの係合力を変える。
【0037】
CVTECU6からブレーキ液圧保持装置RUに送信される信号について説明する。F_SOLAは、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA(図2参照)をON(閉)/OFF(開)するためのフラグであり、ONさせる場合は1、OFFさせる場合は0である。F_SOLBは、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVB(図2参照)をON(閉)/OFF(開)するためのフラグであり、ONさせる場合は1、OFFさせる場合は0である。
【0038】
ポジションスイッチPSWからCVTECU6に送信される信号について説明する。ポジションスイッチPSWでNレンジ、Pレンジ、Rレンジ、DレンジまたはLレンジのいずれの位置に選択されているかが、ポジション情報として送信される。
【0039】
モードスイッチMSWからCVTECU6に送信される信号について説明する。モードスイッチMSWでDモード(通常走行モード)かSモード(スポーツ走行モード)のいずれが選択されているかが、モード情報として送信される。なお、モードスイッチMSWは、ポジションスイッチPSWがDレンジに設定されている時に機能するモード選択スイッチである。
【0040】
ブレーキスイッチBSWからFI/MGECU4とCVTECU6に送信される信号について説明する。F_BKSWは、ブレーキペダルBPが踏込まれている(ON)か踏込みが開放されているか(OFF)を示すフラグであり、踏込まれている場合は1、踏込みが開放されている場合は0である。なお、この信号は、前記のとおりブレーキペダルBPに足を置いているか(ON)、足を置いていないか(OFF)を示すフラグである場合もある。
【0041】
ブレーキ液圧保持装置RUからCVTECU6に送信される信号について説明する。V_TBKOは、温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度である。なお、エンジンルーム内に配置されているブレーキ液圧保持装置RUのブレーキ液の温度は、前記したV_TA(エンジン1の吸気温)に基づいて推定することもできる。両者とも、エンジンルームの温度に関連して変化するからである。
【0042】
《ブレーキ液圧保持装置の構成》
車両に備わるブレーキ液圧保持装置RUは、液圧式ブレーキ装置のブレーキ液圧回路内に組み込まれ、ドライバーのブレーキペダルBPの踏込み力の低下速度に対してホイールシリンダ内のブレーキ液圧の低下速度を小さくするブレーキ液圧低下速度減少手段で構成される。また、ブレーキ液圧保持装置RUは、ブレーキ液の温度を検出する温度センサTSを備える。
以下、図2を参照して、ブレーキ液圧保持装置RUを液圧式ブレーキ装置BKとともに説明する。
【0043】
〔液圧式ブレーキ装置〕
まず、液圧式ブレーキ装置BKの説明を行う(図2参照)。車両の液圧式ブレーキ装置BKのブレーキ液圧回路BCは、マスターシリンダMCとホイールシリンダWCとこれを結ぶブレーキ液配管FPよりなる。ブレーキは安全走行のために極めて重要な役割を有するので、液圧式ブレーキ装置BKはそれぞれ独立したブレーキ液圧回路を2系統設け(BC(A) ,BC(B) )、一つの系統が故障した時でも、残りの系統で最低限のブレーキ力が得られるようになっている。
【0044】
マスターシリンダMCの本体にはピストンMCP,MCPが挿入されており、ドライバーがブレーキペダルBPを踏込むことにより、ピストンMCP,MCPが押されてマスターシリンダMC内のブレーキ液に圧力が加わり、機械的な力がブレーキ液圧(ブレーキ液の液圧)に変換される。ドライバーがブレーキペダルBPから足を放して踏込みを開放すと、戻しバネMCS,MCSの力でピストンMCP,MCPが元に戻され、同時にブレーキ液圧も元に戻る。図2に示すマスターシリンダMCは、独立したブレーキ液圧回路BCを2系統設けるというフェイルアンドセーフの観点から、ピストンMCP,MCPを2つ並べてマスターシリンダMCの本体を2分割した、タンデム式のマスターシリンダMCである。
【0045】
プレーキペダルBPの操作力を軽くするために、ブレーキペダルBPとマスターシリンダMCの間にマスターパワMP(ブレーキブースタ)が設けられる。図2に示すマスターパワMPは、バキューム(負圧)サーボ式のものであり、図示しないエンジン1の吸気マニホールドから負圧を取出して、ドライバーによるブレーキペダルBPの操作を容易にしている。
【0046】
ブレーキ液配管FPは、マスターシリンダMCとホイールシリンダWCを結び、マスターシリンダMCで発生したブレーキ液圧を、ブレーキ液を移動させることによりホイールシリンダWCに伝達する流路の役割を果たす。また、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧の方が高い場合には、ホイールシリンダWCからマスターシリンダMCにブレーキ液を戻す流路の役割を果す。ブレーキ液圧回路BCは前記のとおりそれぞれ独立したものが設けられるため、ブレーキ液配管FPもそれぞれ独立のものが2系統設けられる。図2に示すブレーキ液配管FPなどにより構成されるブレーキ液圧回路BCは、一方のブレーキ液圧回路BC(A) が右前輪と左後輪を制動し、他方のブレーキ液圧回路BC(B) が左前輪と右後輪を制動するX配管方式のものである。なお、ブレーキ液圧回路は、X配管方式ではなく、一方のブレーキ液圧回路が両方の前輪を他方のブレーキ液圧回路が両方の後輪を制動する前後分割方式とすることもできる。
【0047】
ホイールシリンダWCは、車輪ごとに設けられ、マスターシリンダMCにより発生しブレーキ液配管FPを通してホイールシリンダWCに伝達されたブレーキ液圧を、車輪を制動するための機械的な力(ブレーキ力)に変換する役割を果す。ホイールシリンダWCの本体には、ピストン(図示せず)が挿入されており、このピストンがブレーキ液圧に押されて、ディスクブレーキの場合はブレーキパッドを、またはドラムブレーキの場合はブレーキシュウを作動させて車輪を制動するブレーキ力を作り出す。
なお、前記以外に前輪のホイールシリンダWCのブレーキ液圧と後輪のホイールシリンダWCのブレーキ液圧を制御するブレーキ液圧制御バルブなどが、必要に応じて設けられる。
【0048】
〔ブレーキ液圧保持装置〕
次に、ブレーキ液圧保持装置RUの説明を行う(図2参照)。ブレーキ液圧保持装置RUは、車両発進時におけるドライバーのブレーキペダルBPの踏込み力の低下速度に対してホイールシリンダWC内のブレーキ液圧の低下速度を小さくするブレーキ液圧低下速度減少手段で構成される。このブレーキ液圧低下速度減少手段は、ドライバーが車両の再発進時ブレーキペダルBPの踏込みを開放した際に、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧の減少する速度(ブレーキ力の低下する速度)が、ドライバーのブレーキペダルBPの踏込みを緩める速度よりも遅くなる機能を有する。
【0049】
このような機能を有するブレーキ液圧低下速度減少手段は、ブレーキ液圧回路BC内にブレーキ液の流れに対して流体抵抗となる部分を設けることにより構成することができる。そして、ブレーキ液の流れ自体を規制し、ドライバーのブレーキペダルBPの踏込み力の低下速度に対して、ホイールシリンダWC内のブレーキ液圧の低下速度を小さくすることができる。
【0050】
なお、液圧式ブレーキ装置BKは、同一の構成を有する2つのブレーキ液圧回路BC(A) ,BC(B) を備えるので、その1つであるブレーキ液圧回路BC(A) を代表して説明する。ブレーキ液圧回路BC(A) は、ブレーキ液の流れ自体を規制するため、電磁弁SVAおよび絞りD、必要に応じてチェック弁CVおよびリリーフ弁RVを備える。なお、ブレーキ液圧低下速度減少手段は、電磁弁SVAおよび絞りDで構成する。また、ブレーキ液圧回路BC(A) は、マスターシリンダMCとホイールシリンダWCを結ぶとともに、電磁弁SVAによって連通または遮断される液圧通路MNPを備える。さらに、電磁弁SVAを迂回するとともに、マスターシリンダMCとホイールシリンダWCを常時連通する迂回通路BYPを備える。なお、絞りDは、迂回通路BYPに設けられ、ブレーキ液の流量を制限する。さらに、ブレーキ液の温度を検出する温度センサTSを備える。なお、図2では、温度センサTSは、ブレーキ液圧回路BC(B) のブレーキ液の温度を検出する構成であるが、ブレーキ液圧回路BC(A) ,BC(B) のどちらに設けてもよいし、また両方に設けてもよい。
【0051】
電磁弁SVAは、CVTECU6からの電気信号によりON(閉)/OFF(開)し、ON状態(閉状態)でブレーキ液配管FP内のブレーキ液の流れを遮断してホイールシリンダWCに加えられたブレーキ液圧を保持する役割を果す。ちなみに、図2に示す電磁弁SVAは、OFF状態(開状態)にあることを示す。この電磁弁SVAにより、坂道発進時に、ドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを開放した場合でも、ホイールシリンダWCにブレーキ液圧が保持され、車両の後退を防止することができる。なお、車両の後退とは、車両の持つ位置エネルギ(自重)により、ドライバーが進もうとする方向とは逆の方向に、車両が進んでしまうこと(坂道を下ってしまうこと)を意味する。
【0052】
電磁弁SVAには、通電(ON)時に開状態になる常時閉型と通電(ON)時に閉状態になる常時開型があるが、いずれの電磁弁を使用することもできる。ただし、フェイルアンドセーフの観点からは、常時開型の電磁弁が好ましい。故障などにより通電が絶たれた場合に、常時閉型の電磁弁では、ブレーキが効かなくなったり、逆にブレーキが効きっぱなしになったりするからである。なお、通常の操作において電磁弁SVAがON(閉状態)になるのは、車両が停止した時から発進の間までであるが、どのような場合に(条件で)電磁弁SVAがON(閉状態)になるのか、あるいはOFF(開状態)になるのかは後に説明する。
なお、電磁弁SVAがON(閉状態)の時には、電磁弁SVAは遮断位置であり、電磁弁SVAがOFF(開状態)の時には、電磁弁SVAは連通位置である。
【0053】
絞りDは、電磁弁SVAのON/OFFにかかわらず、マスターシリンダMCとホイールシリンダWCとを導通する。殊に電磁弁SVAがON(閉状態)で、かつドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを開放したか踏込みを緩めた場合に、ホイールシリンダWCに閉じ込められたブレーキ液を徐々にマスターシリンダMC側に逃がし、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧を所定速度で低下させる役割を果す。この絞りDは、ブレーキ液配管FPに流量調整弁を設けることにより構成することもできるし、ブレーキ液配管FPの一部に流体に対する抵抗となる部分(流路の断面積が小さくなっている部分)を設けることにより構成することもできる。
【0054】
絞りDの存在により、ドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを開放したり緩めたりすれば、電磁弁SVAがON状態(閉状態)でも、ブレーキが永久に効きっぱなしという状態がなく、徐々にブレーキ力(制動力)が低下して行く。すなわち、ドライバーのブレーキペダルBPの踏込み力の低下速度に対して、ホイールシリンダWC内のブレーキ液圧の低下速度を小さくすることができる。これにより、電磁弁SVAがON状態(閉状態)でも所定時間後にはブレーキ力が充分弱まり、原動機の駆動力により車両を再発進(坂道発進)させることが可能になる。また、下り坂では、ドライバーがアクセルペダルを踏込むことなく、車両の位置エネルギのみにより車両を発進させることができる。
【0055】
なお、ドライバーがブレーキペダルBPを踏込んでいる状態で、マスターシリンダMCのブレーキ液圧がホイールシリンダWCのブレーキ液圧よりも高い限りは、絞りDの存在によりブレーキ力が低下することはない。絞りDは、ホイールシリンダWCとマスターシリンダMCのブレーキ液圧の差(差圧)によりブレーキ液圧の高い方からブレーキ液圧の低い方にブレーキ液を所定速度で流す役割を有するからである。すなわち、ドライバーがブレーキペダルBPを踏込みを緩めない限りは、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧が絞りDの存在により、上昇することはあっても低下することはない。この絞りDに逆止弁的な機能を持たせて、マスターシリンダMC側からホイールシリンダWC側へのブレーキ液の流れを阻止する構成としても良い。
【0056】
ホイールシリンダWCのブレーキ液圧を低下させる速度は、例えば、上り坂などでドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを開放してアクセルペダルを踏込み(ペダルの踏替え)、原動機が坂道発進するのに充分な駆動力に達するまで、車両の後退を防ぐことができる時間を確保することができるものであればよい。ペダルを踏替えて充分な駆動力が増すまでの時間は、通常0.5秒程度である。なお、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧を低下させる速度が早い場合は、電磁弁SVAがON状態(閉状態)であっても、ブレーキペダルBPの踏込みを開放するとすぐにブレーキ力がなくなり、充分な駆動力を得るまでに、車両が坂道を後退してしまう。したがって、ブレーキ液圧保持装置RUにより、坂道発進を容易にするという目的を達成できない。逆に、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧を低下させる速度が遅い場合は、ブレーキペダルBPの踏込みを開放してもブレーキが良く効いた状態が続くため車両の後退はなくなるが、ブレーキ力および坂道に抗する原動機の駆動力を確保するために、余分な時間や動力を要することになり好ましくない。また、坂道発進を容易にすることも困難になる。
【0057】
絞りDによるホイールシリンダWCのブレーキ液圧を低下させる速度は、ブレーキ液の性状や絞りDの種類(流路の断面積・長さなどの形状)により決定される。特に、図11のブレーキ液の温度−粘度の関係を示すグラフからも判るように、ブレーキ液の温度が所定値(ブレーキ液の温度が−10℃〜−20℃付近)以下になると、ブレーキ液の粘度が急激に大きくなる。そして、ブレーキ液の粘性が高くなると、絞りを通過する単位時間当たりのブレーキ液量が少なくなるので、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧を低下させる速度が遅くなる。
なお、絞りDを、電磁弁SVAやチェック弁CVなどと組合せて一体として設けても良い。組合せることにより、部品点数や設置スペースの削減を図ることができる。
【0058】
前記したように、絞りDを使用する場合、ブレーキ液の温度(ひいては、ブレーキ液の粘性)を監視しておく必要がある。そこで、ブレーキ液圧保持装置RU内を流れるブレーキ液の温度を検出するために、温度検出手段として温度センサTSを設ける。温度センサTSとしては、サーミスタを使用する。
なお、本実施の形態では、温度センサTSを設けてブレーキ液の温度を検出するが、他の手段でブレーキ液の温度を検出してもよい。例えば、ブレーキ液圧保持装置RUが配置されるエンジンルーム内の温度に関連して変化するエンジン1の吸気温から推定してもよい。
【0059】
チェック弁CVは必要に応じて設けられるが、このチェック弁CVは、電磁弁SVAがON状態(閉状態)で、かつドライバーがブレーキペダルBPを踏増しした場合に、マスターシリンダMCで発生したブレーキ液圧をホイールシリンダWCに伝える役割を果す。チェック弁CVは、マスターシリンダMCで発生したブレーキ液圧がホイールシリンダWCのブレーキ液圧を上回る場合に有効に作動し、ドライバーのブレーキペダルBPの踏増しに対応して迅速にホイールシリンダWCのブレーキ液圧を上昇させる。
なお、マスターシリンダMCのブレーキ液圧がホイールシリンダWCのブレーキ液圧よりも上回った場合に、一旦閉じた電磁弁SVAがOFF(開状態)になるような構成とすれば、電磁弁SVAのみでブレーキペダルBPの踏増しに対応することができるので、チェック弁CVを設ける必要はない。
【0060】
リリーフ弁RVも必要に応じて設けられるが、このリリーフ弁RVは、電磁弁SVAがON状態(閉状態)の場合で、かつドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを開放したか踏込みを緩めた場合に、ホイールシリンダWCに閉込められたブレーキ液を所定のブレーキ液圧になるまで迅速にマスターシリンダMC側に逃がす役割を果す。リリーフ弁RVは、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧が予め定められたブレーキ液圧以上で、かつマスターシリンダMCのブレーキ液圧よりも高い場合に作動する。これにより、電磁弁SVAがON(閉状態)の場合に、ホイールシリンダWC内の必要以上のブレーキ液圧を所定のブレーキ液圧に迅速に低減することができる。したがって、「坂道発進の際に,ドライバーが必要以上に強くブレーキペダルBPを踏込んでいて、ブレーキペダルBPの踏込み開放後、絞りDのみによりホイールシリンダWCのブレーキ液圧を低下させるのでは時間がかかって好ましくない」という問題を、リリーフ弁RVにより解決することができる。
【0061】
なお、ブレーキスイッチBSWは、ブレーキペダルBPが踏込まれているか否かを検出し、この検出値に基づいて、CVTECU6が電磁弁SVA,SVBのON/OFFの指示を行う。ブレーキスイッチBSWは、ブレーキペダルBPにドライバーの足が載せられているか否かを検出するものでもよい。
【0062】
《ブレーキ液圧保持装置の具体的構造》
次に、図3を参照して、ブレーキ液圧保持装置RUの具体的構造を説明する。図3に示すブレーキ液圧保持装置RUは、電磁弁SV、絞りD、チェック弁CVおよびリリーフ弁RVを組合せて、一まとめにした構造を有する。すなわち、このブレーキ液圧保持装置RUを液圧式ブレーキ装置BKのブレーキ液圧回路BC内に設けた場合は、図2に示す構成のものになる。この構造において、絞りDは、リリーフ弁RV内の一部に一体として設けられている。
【0063】
電磁弁SVは、ブレーキ液圧保持装置RUの上部に位置する。電磁弁SVのコイル部SVcに電流が流れることにより磁力が発生し、この磁力によりシャフトSVsが上下する。シャフトSVsの下端にはボールSVbが取付けられており、シャフトSVsが上下することによりボールSVbも上下して弁部SVvを開閉する。電磁弁SVへの通電は、2つの電極SVe,SVeを通して行なわれる。符号SVfは、シャフトSVsを上方向に付勢する付勢バネである。電磁弁SVがON状態(閉状態)の時(すなわち、電磁弁SVが遮断位置に切換わった時)、シャフトSVsが下降し、ボールSVbが弁部SVvを閉じる。他方、電磁弁SVがOFF状態(開状態)の時(すなわち、電磁弁SVが連通位置に切換わった時)、シャフトSVsが上昇し、ボールSVbが弁部SVvを開く。
電磁弁SVがOFF状態(開状態)である場合に、マスターシリンダMCからのブレーキ液は、マスターシリンダ側ジョイントJmからブレーキ液圧保持装置RU内に入り、主流路Cm(主流路Cm、環状流路Cr、主流路Cm)、開状態にある弁部SVv、主流路Cm、ホイールシリンダ側ジョイントJwを通過して、ホイールシリンダWCに達する。他方、ホイールシリンダWCからマスターシリンダMCにブレーキ液が流れる場合は、これとは逆の順路になる。なお、液圧通路MNPは、主流路Cm(主流路Cm、環状流路Cr、主流路Cm)、弁部SVv、主流路Cmで構成する。
この電磁弁SVによりブレーキ液の主流路Cmが遮断され、ホイールシリンダWCにブレーキ液圧が保持される。
【0064】
チェック弁CVは、電磁弁SVの弁部SVvの下部近傍に位置する。電磁弁SVがON状態(閉状態)の時に、ドライバーがブレーキペダルBPを踏増しした場合、マスターシリンダMCからのブレーキ液は、マスターシリンダ側ジョイントJmからブレーキ液圧保持装置RU内に入り、主流路Cm、環状流路Cr、チェック弁CVの弁部CVv、主流路Cm、ホイールシリンダ側ジョイントJwを通過してホイールシリンダWCに達する。チェック弁CVが開くのは、マスターシリンダMCのブレーキ液圧がホイールシリンダWCのブレーキ液圧よりも高く、かつ両者のブレーキ液圧の差である差圧がチェック弁CVの作動圧よりも高い場合である。チェック弁CVの作動圧は、チェック弁CVのボールCVbを押圧するバネCVsの押圧力などにより設定される。なお、符号CVcで示される部材は、環状流路Crとの連通穴を塞ぐボールである。また、環状流路Crは、電磁弁SVの弁部SVvの下部からチェック弁CVを取囲むようにして配設されたリング状をしたブレーキ液の流路である。
このチェック弁CVにより、電磁弁SVがON状態(閉状態)の場合でも、ドライバーがブレーキペダルBPを踏増しすることにより、ブレーキ力を増加することができる。
【0065】
リリーフ弁RVは、ブレーキ液圧保持装置RUの下部に位置する。リリーフ弁RVの上部は、分岐油路Cbを介して環状流路Crに接続されている。したがって、電磁弁SVがON状態(閉状態)で、ドライバーが強く踏込んでいたブレーキペダルBPの踏込みを開放した場合に、ホイールシリンダWCのブレーキ液は、ホイールシリンダ側ジョイントJw、主流路Cm、分岐流路Cb、リリーフ弁RVの弁部RVv、分岐流路Cb、環状流路Cr、主流路Cm、マスターシリンダ側ジョイントJmを通過してマスターシリンダMCに達する。リリーフ弁RVが開くのは、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧がマスターシリンダMCのブレーキ液圧よりも高く、かつ両者のブレーキ液圧の差である差圧がリリーフ弁RVの作動圧(リリーフ圧)よりも高い場合である。リリーフ圧は、リリーフ弁RVのボールRVbを押圧するバネRVsの押圧力などにより設定される。
このリリーフ弁RVにより、電磁弁SVがON(閉状態)の場合でもドライバーが強く踏んでいたブレーキペダルBPの踏込みを開放すれば、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧を一気にリリーフ弁RVの設定圧まで低減させることができる。
【0066】
絞りDは、リリーフ弁RVの弁部RVvに小さな溝として設けられ(詳細は後述する)、この溝は、リリーフ弁RVが閉状態であっても、ボールRVbにより塞がれることはない。したがって、電磁弁SV、チェック弁CV、リリーフ弁RVの開閉の状態にかかわらず、マスターシリンダMCとホイールシリンダWCとは常に絞りDを介して導通された状態にある。ホイールシリンダWCのブレーキ液圧がマスターシリンダMCのブレーキ液圧よりも高い場合は、ブレーキ液は、ホイールシリンダ側ジョイントJw、主流路Cm、分岐流路Cb、リリーフ弁RVの弁部RVvに設けた絞りD、分岐流路Cb、環状流路Cr、主流路Cm、マスターシリンダ側ジョイントJmを通過して、マスターシリンダMCに達する。絞りDのどちらの方向にブレーキ液が流れるかは、マスターシリンダMCとホイールシリンダWCのブレーキ液圧の差のみに支配される。絞りDを通過するブレーキ液の量は、絞りDの流路の断面積、流路の長さ、マスターシリンダMCとホイールシリンダWCのブレーキ液圧の差(差圧)、ブレーキ液の粘性などにより変化する。したがって、ブレーキ液圧保持装置RU、駆動力低減装置および原動機停止装置の作動を禁止するために設定されるブレーキ液の温度の所定値は、絞りDの流路の断面積、流路の長さおよびブレーキ液の粘性などの値を考慮して設定する。なお、迂回通路BYPは、分岐流路Cb、リリーフ弁RVの弁部RVvに設けた絞りD、分岐流路Cbで構成する。
この小さな溝である絞りDにより、ドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを緩めるか開放すると電磁弁SVがON状態(閉状態)でも、ブレーキ液がホイールシリンダWC側からマスターシリンダMC側に流れ、ブレーキ力が徐々に低減して行く。
【0067】
図4を参照して、さらにリリーフ弁RVおよび絞りDを詳細に説明する。
リリーフ弁RVは、ボールRVbをテーパ状に形成された弁部RVvに押圧することで、ブレーキ液の流路を遮断する常時閉型の弁である。ボールRVbを押圧するのはバネRVsである。この構成においては、ホイールシリンダWC側のブレーキ液圧がマスターシリンダMC側のブレーキ液圧よりも高く、かつ両者の差圧がバネRVsの押圧力よりも大きくなった場合に、ボールRVbがバネRVsの押圧力に抗して浮き上がり、リリーフ弁RVが開状態になる。そして、差圧がバネRVsの押圧力よりも小さくなった時、浮き上がっていたボールRVbが、弁部RVvに押圧され、リリーフ弁RVが閉状態になる。
【0068】
絞りDは、このテーパ状に形成された弁部RVvの一部にブレーキ液の流れに沿った小さな断面略V字状のV溝として設けられる。前記したとおり、かかる絞りDは、リリーフ弁RVが閉状態であっても、ボールRVbにより塞がれることがないので、ブレーキ液を常に導通する。図4(a)に矢印で示すブレーキ液の流れは、マスターシリンダMC側のブレーキ液圧が低い場合の流れである。この絞りDの断面の形状は、U字状などでもよく、ドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを開放した場合に、所定速度でブレーキ液をマスターシリンダMC側に流すことができるものであれば特定の形状に限定されない。
【0069】
V溝としての絞りDは、図4(b)に示すように、刃具CBでテーパ状の弁部RVvを切削することにより作製することができる。また、図4(c)に示すように、治具JBをテーパ状の弁部RVvに押付けることにより作製することもできる。なお、図4(b),(c)の矢印は、刃具CB、治具JBを動かす方向を示す。
【0070】
押付けによるV溝の作製は、例えば、先端が楔状の治具JBを押付けた後に(溝加工)、さらに、球状治具JB’を押付ける(コイニング)ことにより行うことができる。(図4(c1),(c2)参照)。この作製方法の場合は、前段の溝加工により生じた返りREは、後段のコイニングにより平坦化される。なお、押付けの場合は、材料の変形のみで絞りDを作製するので、切削屑が生じない利点がある。
図3および図4では、絞りDを、リリーフ弁RV内に一体として設ける構成としているが、電磁弁SV内あるいはチェック弁CV内に一体として設ける構成としてもよい。なお、図3のブレーキ液圧保持装置RUは、電磁弁SVなどを組合わせて一まとめにした構造をしているが、絞りDをV溝として構成するに際して、この一まとめにしたブレーキ液圧保持装置RUの構造に限定されることはない。電磁弁SVやチェック弁CVなどが組み合わされることなくそれぞれ別個に設けられている構造のブレーキ液圧保持装置RUにあっても、絞りDをリリーフ弁RVなどに設けたV溝として構成することができる。
【0071】
《ブレーキ液圧保持装置の基本的動作》
ブレーキ液圧保持装置RUの基本的動作について図2を参照して説明する。
(上り坂での停止・発進) 例えば、上り坂で信号待ちをする場合、ドライバーは、車両が自重で後退しないようにブレーキペダルBPを踏込む。これにより、マスターシリンダMC内のブレーキ液が圧縮されブレーキ液圧が高まり、このブレーキ液圧はブレーキ液の流れを伴って、ブレーキ液配管FP、開状態にある電磁弁SVA,SVBを通してホイールシリンダWCに伝達され、車輪を制動するブレーキ力に変換され、そして車両が坂道で停止する。
【0072】
車両の電気系統などを統括的に制御するCVTECU6は、車両が停止していることなどの条件を判断して、電磁弁SVA,SVBをON(閉状態)にして、ホイールシリンダWC内のブレーキ液圧を保持する。CVTECU6は、車両が停止している場所が坂道か否かを判断する必要はない。
なお、電磁弁SVA,SVBがON状態(閉状態)にあっても、チェック弁CV,CVが設けてあれば、ドライバーはブレーキペダルBPの踏込みを踏増すことにより、このチェック弁CV,CVを通して、ブレーキ力を増すことができる。
【0073】
次に、ドライバーは坂道を発進するため、ブレーキペダルBPの踏込みを開放し、図示しないアクセルペダルを踏込む。この操作において、電磁弁SVA,SVBはON状態(閉状態)にあるため、ドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを開放しても、車両が坂道を後退することはない。ただし、ホイールシリンダWC内のブレーキ液のブレーキ液圧は、絞りD,Dを通して徐々に低減して行く。
一方、ドライバーがアクセルペダルを踏込むことにより、駆動力が増して行く。そして、駆動力が坂道の前進を阻止する力および徐々に低減して行くブレーキ力の和より大きくなった時に、車両が坂道を発進する。
絞りD,Dにより、ドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを開放した後、0.5秒間程度車両が坂道を後退することがなければ、ドライバーは、坂道発進を容易にすることができる。ドライバーによっては、必要以上にブレーキペダルBPを強く踏込んでいる場合がある。このような場合に、リリーフ弁RV、RVが設けてあれば、ブレーキペダルBPの踏込みを開放したり踏込みを緩めることで、ホイールシリンダWC内のブレーキ液圧を所定のブレーキ液圧(リリーフ圧)まで一気に低減させることができるので、迅速な坂道発進を行うことができる。
【0074】
なお、坂道発進後、いつまでも電磁弁SVA,SVBがON状態(閉状態)では、ブレーキの引きずりを起こして好ましくない。このため、ドライバーの発進操作がなされた時点で電磁弁SVA,SVBをOFF(開状態)にする制御を行うのがよい。具体的には、自動変速機車では、アクセルペダルの踏込みがなされた時点などで、電磁弁SVをOFF(開状態)にする制御を行うのがよい。また、フェイルアンドセーフアクションとして、ブレーキペダルBPの踏込みを開放してから所定時間後(例えば2〜3秒後)に、ブレーキ液の流れを阻止していた電磁弁SVA,SVBをOFF(開状態)にする制御を行ってもよい。ブレーキペダルBPの踏込み・踏込みの開放はブレーキスイッチBSWにより検知する。さらに、不必要なブレーキの引きずりをなくするために、車速が所定速度(例えば車速5km/h)以上になった場合に、電磁弁SVA,SVBをOFF(開状態)にする制御を行ってもよい。
【0075】
(下り坂での停止・発進) 下り坂で停止する場合は、ドライバーは、上り坂の場合と同様にブレーキペダルBPを踏込んで停車する。CVTECU6は、車両が停止していることなどの条件を判断して、上り坂の場合と同様に、電磁弁SVA,SVBをON(閉状態)にして、ホイールシリンダWC内のブレーキ液圧を保持する。
【0076】
次に、ドライバーは坂道を下るため(発進するため)に、ブレーキペダルBPの踏込みを開放する。通常、下り坂の場合は、ドライバーはアクセルペダルを踏込むことなく、車両の自重を利用して坂道を下ろうとする。前記したブレーキ液圧保持装置RUによれば、絞りD,Dにより電磁弁SVA,SVBがON状態(閉状態)であっても、ブレーキペダルBPの踏込みを開放しもしくは踏込みを緩めることにより、ブレーキ力が徐々に弱まって行く。したがって、通常の車両における下り坂の発進と同様に、アクセルペダルを踏込むことなく車両を発進させることができる。
【0077】
ブレーキ液圧保持装置RUによれば、発進が困難である上り坂であっても、容易に発進することができる。また、下り坂や平坦な場所であっても、車両の発進に支障はない。さらに、CVTECU6が、車両の停止場所が坂道か平坦な場所であるかを判断する必要がなく、坂道であるか否かを検出する手段も必要ない。
【0078】
《ブレーキ液圧が保持される場合》
次に、ブレーキ液圧保持装置RUによりブレーキ液圧が保持される場合を説明する。ブレーキ液圧が保持されるのは、図5(a)に示すように、I)車両の駆動力が弱クリープ状態になり、かつ、II)車速が0km/hになった場合である。この条件を満たすときに、2つの電磁弁SVA,SVBがともにONして、閉状態になり、ホイールシリンダWCにブレーキ液圧が保持される。なお、駆動力が弱クリープ状態(F_WCRON=1)になるのは、弱クリープ指令(F_WCRP=1)が発せられた後である。この強クリープ状態から弱クリープ状態への駆動力の低減は、駆動力低減装置によって行う。
【0079】
I) 「弱クリープ状態」という条件は、坂道において、ドライバーに充分強くブレーキペダルBPを踏込ませるという理由による。すなわち、強クリープ状態は傾斜5度の坂道でも車両が後退しないような駆動力を有しているので、ドライバーは、ブレーキペダルBPを強く踏込まないでも、坂道で車両を停止させることができる。したがって、ドライバーがブレーキペダルBPを弱くしか踏込んでいない場合がある。このような場合に、電磁弁SVA,SVBをON(閉状態)にし、さらに,エンジン1を停止してしまうと車両が坂道を後退してしまうからである。
【0080】
II) 「車速が0km/h」であるという条件は、走行中に電磁弁SVA,SVBをONした(閉じた)のでは、任意の位置に車両を停止することができなくなるという理由による。
【0081】
〔I.弱クリープ指令が発せられる条件〕
弱クリープ指令(F_WCRP)は、図5(a)に示すように、1)ブレーキ液圧保持装置RUが正常であること、2)ブレーキ液の温度が所定値以上であること(V_TBKO)、3)ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONになっていること(F_BKSW)、4)車速が5km/h以下になっていること(F_VS)、5)ポジションスイッチPSWがDレンジであること(F_POSD)、の各条件がすべて満たされた場合に発せられる。この各条件は、駆動力低減装置で判断される。なお、駆動力を弱クリープ状態にするのは、前記したようにドライバーにブレーキペダルBPを強く踏込ませるためという理由に加えて、燃費を向上させるためという理由もある。以下、1)〜5)の条件を説明する。
【0082】
1) ブレーキ液圧保持装置RUが正常でない場合に弱クリープ指令が発せられないのは、例えば、電磁弁SVA,SVBがON(閉状態)にならないなどの異常がある場合に弱クリープ指令が発せられて弱クリープ状態になると、ホイールシリンダWCにブレーキ液圧が保持されないために、坂道発進時に、ドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを解除すると、一気にブレーキ力がなくなり車両が坂道を後退してしまうからである。この場合、強クリープ状態を保つことで、坂道での後退を防止して坂道発進(登坂発進)を容易にする。
【0083】
2) ブレーキ液の温度が所定値以下で弱クリープ指令が発せられないのは、ブレーキ液の温度が低い場合(すなわち、ブレーキ液の粘性が高い場合)に、ブレーキ液圧保持装置RUを作動させて電磁弁SVA,SVBをON(閉状態)にすると、ブレーキペダルBPの踏込みを部分的に緩めた場合に、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧の低下速度が極端に遅くなる問題があるからである。すなわち、ブレーキペダルBPの踏込みを緩めただけでは、ブレーキスイッチBSWはONの状態のままであり、いつまでも電磁弁SVA,SVBはON状態(閉状態)でいる。したがって、ブレーキ液は狭い絞りDを通してのみ排出されることになるが、前記したようにブレーキ液の温度が低いと粘性が高いため、所望の速度でブレーキ液が流れないので、いつまでもブレーキ力が強い状態に保持されたままになってしまうからである。
このように、ブレーキ液温が低い場合には、弱クリープ状態になることを禁止して、強クリープ状態を維持し、坂道での後退を防止する。ちなみに、強クリープ状態が保持されれば、ブレーキ液圧保持装置RUは作動せず、電磁弁SVA,SVBがONせず、閉状態になることはない。
ブレーキ液の温度の所定値は、下り坂でブレーキペダルBPの踏込みを緩めるだけで、車両を発進させることが円滑にできなくなる程度にブレーキ液の粘性が上昇するブレーキ液の温度である。本実施の形態では、ブレーキ液の温度の所定値は、−10℃とする。なお、前記したように、絞りDを通過する単位時間あたりのブレーキ液量は、ブレーキ液の粘性だけでなく、絞りDの断面積や流路の長さなどによって変化する。したがって、この所定値は、ブレーキ液圧保持装置RUの具体的構造によって変化し、実験的に定めるものである。
【0084】
3) ブレーキペダルBPが踏込まれていないとき(F_BKSW)に弱クリープ指令が発せられないのは、ドライバーは、少なくとも駆動力の低下を望んでいないからである。
【0085】
4) 車速が5km/h以上で弱クリープ指令が発せられないのは、発進クラッチを経由して駆動輪8,8からの逆駆動力をエンジン1やモータ2に伝達して、エンジンブレーキを効かしたり、モータ2による回生発電を行わせることがあるからである。
【0086】
5) ポジションスイッチPSWがDレンジなどである場合と異なり、ポジションスイッチPSWがRレンジまたはLレンジでは、弱クリープ指令は発せられない。強クリープ走行による車庫入れなどを容易にするためである。
【0087】
弱クリープ状態であるか否かはCVT3の発進クラッチに対する油圧指令値により判定する。弱クリープ状態であるフラグF_WCRPONは、次に強クリープ状態になるまで立ちつづける。
【0088】
〔II.エンジンの自動停止条件〕
燃費をさらに向上させるため、車両の停止時に、エンジン1が自動停止されるが、この条件について説明する。以下の各条件がすべて満たされた場合に、エンジン停止指令(F_ENGOFF)が発せられ、エンジン1が自動的に停止する(図5(b)参照)。このエンジン1の自動停止は、原動機停止装置が行う。したがって、以下のエンジン自動停止条件は、原動機停止装置で判断される。
【0089】
1) ポジションスイッチPWSがDレンジであり、かつモードスイッチMSWがDモード(以下この状態を「DレンジDモード」という)であること; DレンジDモード以外では、イグニッションスイッチを切らない限りエンジン1は停止しない。例えば、ポジションスイッチPSWがPレンジやNレンジの場合に、エンジン1を自動的に停止させる指令が発せられてエンジン1が停止すると、ドライバーは、イグニッションスイッチが切られたものと思い込んで車両を離れてしまうことがあるからである。
なお、ポジションスイッチPSWがDレンジであり、かつモードスイッチMSWがSモード(以下この状態を「DレンジSモード」という)の場合は、エンジン1の自動停止を行なわない。ドライバーは、DレンジSモードでは、素早い車両の発進などが行えることを期待しているからである。また、ポジションスイッチPSWがLレンジ、Rレンジの場合に、エンジン1の自動停止が行なわれないのは、車庫入れなどの際に頻繁にエンジン1が自動停止したのでは、煩わしいからである。
【0090】
2) ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONの状態であること; ドライバーに注意を促すためである。ブレーキスイッチBSWがONの場合、ドライバーは、ブレーキペダルBPに足を置いた状態にある。したがって、仮に、エンジン1の自動停止により駆動力がなくなって車両が坂道を後退し始めても、ドライバーは、ブレーキペダルBPの踏増しを容易に行い得るからである。
【0091】
3) エンジン1始動後、一旦車速が5km/h以上に達すること; クリープ走行での車庫出し車庫入れを容易にするためである。車両を車庫から出し入れする際の切り替えし操作などで、停止するたびにエンジン1が自動停止したのでは、煩わしいからである。
【0092】
4) 車速0km/hであること; 停止していれば駆動力は必要がないからである。
5)バッテリ容量が所定値以上であること; エンジン1停止後、モータ2でエンジン1を再始動することができないという事態を防止するためである。
6)電気負荷所定値以下であること; 負荷への電気の供給を確保するためである。
【0093】
7) マスターパワMPの定圧室の負圧が所定値以上であること; 定圧室の負圧が小さい状態でエンジン1を停止すると、定圧室の負圧はエンジン1の吸気管より導入しているため、定圧室の負圧はさらに小さくなり、ブレーキペダルBPを踏込んだ場合の踏込み力の増幅が小さくなりブレーキの効きが低下してしまうからである。
【0094】
8) アクセルペダルが踏込まれていないこと; ドライバーは、駆動力の増強を望んでおらず、エンジン1を停止しても支障がないからである。
【0095】
9) CVT3が弱クリープ状態であること; ドライバーに強くブレーキペダルBPを踏込ませて、エンジン1停止後も車両が後退するのを防ぐためである。すなわち、エンジン1が始動している場合、坂道での後退は、ブレーキ力とクリープ力の合計で防止される。このため、強クリープ状態では、ドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを加減して、強く踏込まないで弱くしか踏込んでいない場合がある。
【0096】
10) CVT3のレシオがローであること; CVT3のレシオ(プーリ比)がローでない場合は円滑な発進ができない場合があるため、エンジン1の自動停止は行わない。したがって、円滑な発進のため、CVT3のレシオがローである場合には、エンジン1の自動停止を行う。
【0097】
11) エンジン1の水温が所定値以上であること; エンジン1の自動停止・自動始動は、エンジン1が安定している状態で実施するのが好ましいからである。水温が低いと、寒冷地では、エンジン1が再始動しない場合があるからである。
【0098】
12) CVT3の油温が所定値以上であること; CVT3の油温が低い場合は、発進クラッチの実際の油圧の立ち上りに後れを生じ、エンジン1の始動から強クリープ状態になるまでに時間がかかり、坂道で車両が後退する場合があるため、エンジン1の停止を禁止する。
【0099】
13) ブレーキ液の温度が所定値以上であること; ブレーキ液の温度が低い場合(すなわち、ブレーキ液の粘性が高い場合)は、絞りDでの流体抵抗が大きくなり、不要なブレーキの引きずりが生じるからである。このため、ブレーキ液圧保持装置RUは作動させない。したがって、エンジン1の自動停止および弱クリープ状態を禁止して、強クリープによって、坂道での後退を防止する。
【0100】
14) ブレーキ液圧保持装置RUが正常であること; ブレーキ液圧保持装置RUに異常がある場合は、ブレーキ液圧を保持することができないことがあるので、強クリープ状態を継続させて、坂道で車両が後退しないようにする。したがって、ブレーキ液圧保持装置RUに異常がある場合は、エンジン1の自動停止を行わない。他方、ブレーキ液圧保持装置RUが正常である場合は、エンジン1の自動停止を行っても支障がない。
【0101】
《ブレーキ液圧の保持が解除される場合》
一旦、ON(閉状態)になった電磁弁SVA,SVBは、図6(a)に示すように、I)ブレーキペダルBPの踏込み開放後、所定の遅延時間が経過した場合、II)駆動力が強クリープ状態になった場合、III)車速が5km/h以上になった場合、のいずれかの条件を満たすときにOFF(開状態)になり、ブレーキ液圧の保持が解除される。
【0102】
I) 遅延時間は、ブレーキペダルBPの踏込みが開放された場合(ブレーキスイッチBSWがOFFになった場合)に、カウントされ始める。遅延時間は2〜3秒程度であり、フェイルアンドセーフアクションとして電磁弁SVA,SVBをOFF(開状態)にして、ブレーキの引きずりをなくする。
【0103】
II) 駆動力が強クリープ状態になると電磁弁SVA,SVBをOFF(開状態)にするのは、強クリープ状態は5度の坂道に抗して車両を停止させることができるような駆動力を備えるため、ホイールシリンダWCにブレーキ液圧を保持して車両が後退するのを防止する必要がなくなるからである。強クリープ状態になるのは強クリープ指令(F_SCRP)が発せられた後であるが、強クリープ指令は、DレンジにおいてブレーキペダルBPの踏込みが開放された場合(ブレーキスイッチBSWがOFFの場合)に発せられる。
【0104】
III) 車速が5km/h以上になると電磁弁SVA,SVBがOFF(開状態)になるのは、無駄なブレーキの引きずりをなくするためのフェイルアンドセーフアクションである。
【0105】
〔エンジンの自動始動条件〕
エンジン1の自動停止後、エンジン1は以下の場合に自動的に始動されるが、この条件を説明する(図6(b)参照)。以下の条件のいずれかを満たす場合に、エンジン1が自動的に始動する。
【0106】
1) DレンジDモードであり、かつブレーキペダルBPの踏込みが開放されたこと; ドライバーの発進操作が開始されたと判断されるため、エンジン1は自動始動する。
【0107】
2) DレンジSモードに切換えられた場合; DレンジDモードでエンジン1が自動停止した後、DレンジSモードに切換えると、エンジン1は自動始動する。ドライバーはDレンジSモードでは素早い発進を期待するからであり、ブレーキペダルBPの踏込みの開放を待つことなく、エンジン1を自動始動する。
【0108】
3) アクセルペダルが踏込まれた場合; ドライバーは、エンジン1による駆動力を期待しているからである。
【0109】
4) Pレンジ、Nレンジ、Lレンジ、Rレンジに切換えられた場合; DレンジDモードでエンジン1が自動停止した後、Pレンジなどに切換えると、エンジン1は自動始動する。PレンジまたはNレンジに切換えた場合に、エンジン1が自動始動しないと、ドライバーはイグニッションスイッチを切ったものと思ったり、イグニッションスイッチを切る必要がないものと思って、そのまま車両から離れてしまうことがあり、フェイルアンドセーフの観点から好ましくないからである。このような事態を防止するため、エンジン1を再始動する。また、Lレンジ、Rレンジに切換えられた時にエンジン1を自動始動するのは、ドライバーに発進の意図があると判断されるからである。
【0110】
5) バッテリ容量が所定値以下になった場合; バッテリ容量が所定値以上でなければエンジン1の自動停止はなされないが、一旦、エンジン1が自動停止された後でも、バッテリ容量が低減する場合がある。この場合は、バッテリに充電することを目的としてエンジン1が自動始動される。なお、所定の値は、これ以上バッテリ容量が低減するとエンジン1を自動始動することができなくなるという限界のバッテリ容量よりも高い値に設定される。
【0111】
6) 電気負荷が所定値以上になった場合; 例えば、照明などの電気負荷が稼動していると、バッテリ容量が急速に低減してしまい、エンジン1を再始動することができなくなってしまうからである。したがって、バッテリ容量にかかわらず電気負荷が所定値以上である場合は、エンジン1を自動始動する。
【0112】
7) マスターパワMPの負圧が所定値以下になった場合; マスターパワMPの負圧が小さくなるとブレーキの制動力が低下するため、これを確保するためにエンジン1を再始動する。
【0113】
8) ブレーキ液圧保持装置RUが故障している場合; 電磁弁SVA,SVBや電磁弁の駆動回路などが故障している場合は、エンジン1を始動して強クリープ状態を作り出す。エンジン1自動停止後、電磁弁の駆動回路を含むブレーキ液圧保持装置RUに故障が検出された場合は、発進時、ブレーキペダルBPの踏込みが開放された際に、ブレーキ液圧を保持することができない場合があるので、強クリープ状態にすべく、故障が検出された時点でエンジン1を自動始動する。すなわち、強クリープ状態で車両が後退するのを防止し、坂道発進を容易にする。なお、ブレーキ液圧保持装置RUの故障検出は、故障検出装置DUで行う。
【0114】
《通常時の制御タイムチャート》
次に、前記システム構成を備えた車両について、走行時を例に、どのような制御が行われるのかを、図7を参照して説明する。なお、車両のポジションスイッチPSWおよびモードスイッチMSWはDモードDレンジで変化させないこととする。また、ブレーキ液圧保持装置RUは、リリーフ弁RVを備えた構成のものである。
ここで、図7(a)の上段の制御タイムチャートは、車両の駆動力とブレーキ力の増減を時系列で示した図である。図中、太い線が駆動力を示し、細い線がブレーキ力を示す。図7(a)の下段の制御タイムチャートは、電磁弁SVA,SVBのON(閉)/OFF(開)を示した図である。図7(b)は、停止時のブレーキ液圧回路BCの状態を示す図であり、電磁弁SV(SVA,SVB)は,ON状態(閉状態)にある。
【0115】
まず、図7(a)において、車両走行時,ドライバーがブレーキペダルBPを踏込むと(ブレーキスイッチBSW[ON])、ブレーキ力が増して行く。ブレーキペダルBPを踏込む際には、ドライバーはアクセルペダルの踏込みを開放するため、駆動力は、減少して行きやがて強クリープ状態になる(通常のアイドリング状態)。そして、継続してブレーキペダルBPが踏込まれて、車速が5km/h以下になると、弱クリープ指令(F_WCRP)が発せられ、弱クリープ状態になり(F_WCRPON)、さらに、駆動力が減少する。
【0116】
そして、車速が0km/hになると、電磁弁SVA,SVBがON(閉状態)になるとともに、エンジン1が自動的に停止(F_ENGOFF)して駆動力がなくなる。この際、電磁弁SVA,SVBがON(閉状態)になるので、ホイールシリンダWCにはブレーキ液圧が保持される。また、エンジン1は弱クリープ状態を経て停止するので、ドライバーは、坂道で車両が後退しない程度に強くブレーキペダルBPを踏込んでいる。したがって、エンジン1が自動停止しても車両が後退することはない(後退抑制力)。仮に、後退するようでもブレーキペダルBPを僅かに踏増しするだけで、後退は防止される。ドライバーはブレーキペダルBPを踏込んだ状態(ブレーキペダルBPに足を置いた状態)にいるので、慌てることなく、容易にブレーキペダルBPの踏増しを行える。なお、エンジン1を自動停止するのは、燃費を向上させることおよび排気ガスの発生をなくするためである。
駆動力が弱クリープ状態になる条件、電磁弁SVA,SVBがON(閉状態)になる条件、エンジン1が自動停止される条件は、図5を参照して既に説明したとおりである。
【0117】
次に、ドライバーが、再発進に備えてブレーキペダルBPの踏込みを開放する。ドライバーがリリーフ弁RVの設定圧(リリーフ圧)以上にブレーキペダルBPを踏込んでいる場合には、図7(a)に示すようにブレーキペダルBPの踏込みの開放により、リリーフ弁RVが作動してリリーフ圧までブレーキ力が短時間に低減する。このリリーフ弁RVにより、ドライバーが必要以上にブレーキペダルBPを強く踏込んでいる場合でも、迅速な坂道発進を行うことができる。
【0118】
ブレーキペダルBPの踏込みが完全に開放されると(ブレーキスイッチBSW[OFF])、エンジン自動始動指令(F_ENGON)が発せられ、信号通信およびメカ系の遅れによるタイムラグの後、エンジン1が自動始動する。そして、駆動力が増加して強クリープ状態になる(F_SCRPON)。ブレーキペダルBPの踏込みが開放されて(ブレーキスイッチBSWがOFFになって)から、強クリープ状態になるまでの時間は約0.5秒である。この間は、電磁弁SVA,SVBが依然としてON状態(閉状態)にあるので、ブレーキ液は細い絞りDを通してのみしかマスターシリンダMC側に移動することができないので、ブレーキ力は徐々にしか減少せず、車両の後退が防止される。
【0119】
そして、強クリープ状態(F_SCRPON)になれば坂道に抗することができる駆動力が生じるので、ブレーキ力が車両の発進の障害にならないように、また、ブレーキの無駄な引きずりをなくするため、ON状態(閉状態)にある電磁弁SVA,SVBをOFF(開状態)にして、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧を一気に低下させてブレーキ力をなくする。その後、アクセルペダルのさらなる踏込みにより駆動力が増加して、車両は加速して行く。
駆動力が強クリープ状態になる条件、電磁弁SVA,SVBがOFF(開状態)になる条件は、図6を参照して既に説明したとおりである。
【0120】
なお、図7(a)上段図のブレーキ力を示す線において、「リリーフ圧」の部分から右斜め下に伸びる仮想線はブレーキ液圧が保持されない場合を示し、この場合は、ブレーキペダルBPの踏込み力の低下に遅れることなくブレーキ力が低下し消滅するので、坂道発進を容易に行うことはできない。また、図7(a)上段図のブレーキ力を示す線において、電磁弁SVA,SVBがOFF(開状態)になった部分から右斜め下に徐々に低下して行く仮想線は、電磁弁SVA,SVBがOFF(開状態)にならない場合のブレーキ力の減少状況を示す。この仮想線に示すようにブレーキ力が低下して行くと、ブレーキの引きずりを生じて好ましくない。図7(a)下段図のV_BKDLYは、遅延時間を示す。遅延時間が経過したならば、フェイルアンドセーフアクションとして、状況の如何にかかわらず電磁弁SVA,SVBがOFF(開状態)になる。
【0121】
《ブレーキ液の温度が所定値以下の時の制御》
ブレーキ液の温度が低くなると、ブレーキ液の粘性が高くなり、ブレーキ液圧保持装置RUの絞りDを通過する単位時間あたりのブレーキ液量が少なくなる。その場合、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVがON(閉状態)の時、ブレーキペダルBPの踏込みが緩められると、踏込みが緩められた後のブレーキペダルBPの踏込み力に相当するブレーキ液圧までホイールシリンダWC内のブレーキ液圧が低下するまでに非常に時間を要する。その結果、下り坂で、ブレーキペダルBPを踏込みを緩めるだけで、車両を円滑に発進させることができない。そこで、ブレーキ液の温度が所定値以下になった場合、ブレーキ液圧保持装置RUの作動を禁止する。さらに、ブレーキ液圧保持装置RUの作動禁止時に、ホイールシリンダWC内にブレーキ液圧が保持されないことを考慮して、上り坂で車両の後退を防止するために、駆動力低減装置または/および原動機停止装置の作動も禁止する。
【0122】
ブレーキ液の温度は、ブレーキ液圧保持装置RUの温度センサTSによって、検出される。その検出されたブレーキ液の温度は、ブレーキ液圧保持装置RUからCVTECU6にV_TBKOによって送信される。送信後、CVTECU6は、ブレーキ液の温度が−10℃以下か否かを判断する。そして、CVTECU6は、ブレーキ液の温度が−10℃以下と判断すると、前記した弱クリープ状態にするための条件(図5(a)の条件参照)を満たさないので、強クリープ状態を維持する。さらに、前記した電磁弁SVをON(閉状態)にするための条件(図5(a)の条件参照)を満たさないので、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVをOFF(開状態)に維持する。
【0123】
また、CVTECU6は、F_CVTOKにおけるブレーキ液の温度が所定値(−10℃)以上の条件を満たさなくなるため、F_CVTOKを0に切換える。そして、0となったF_CVTOKが送信されるFI/MGECU4は、前記したエンジン自動停止条件(図5(b)の条件参照)を満たさないので、エンジン1の自動停止を行わない。
【0124】
前記したように、車両は、ブレーキ液の温度が所定値(−10℃)以下になった時に、強クリープ状態を維持する。さらに、ブレーキペダルBPの踏込みが緩められた場合、ホイールシリンダWC内のブレーキ液が絞りDによる流量制限を受けることなくマスターシリンダMC側に戻ることができるため、踏込みが緩められた後のブレーキペダルBPの踏込み力に相当するブレーキ液圧までホイールシリンダWC内のブレーキ液圧が遅滞なく低下する。その結果、この車両は、下り坂での発進時に、ブレーキペダルBPの踏込みを緩めるだけで円滑に発進することができる。他方、上り坂での発進時に、ブレーキペダルBPの踏込みを開放しても後退することはない。
【0125】
次に、車両のブレーキ液の温度が所定値(−10℃)以下になった時におけるブレーキ力と駆動力の制御を時系列に沿って説明する。この車両は駆動力低減装置および原動機停止装置を備えるが、ここでは、駆動力低減装置のみを備える場合、駆動力低減装置および原動機停止装置を備える場合および原動機停止装置のみを備える場合の3つのパターンについて説明する。
【0126】
《ブレーキ液の温度が所定値以下の時の制御タイムチャート(1)》
図8を参照して、駆動力低減装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時のブレーキ力と駆動力の制御を時系列に沿って説明する。また、この場合は、駆動力低減装置および原動機停止装置の両方を備えるが、エンジン自動停止条件を満たさないために、エンジン1が自動停止しない場合にも該当する。なお、車両のポジションスイッチPSWおよびモードスイッチMSWは、DレンジDモードを変化させないこととする。
なお、図8の上段の制御タイムチャートは、車両の駆動力とブレーキ力の増減を時系列で示した図であり、図中の太い線が駆動力を示し、細い線がブレーキ力を示す。また、図8の下段の制御タイムチャートは、電磁弁SVA,SVBのON(閉)/OFF(開)を示した図である。
【0127】
ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONされるまで、駆動力は、アクセルペダル(図示せず)の踏込み量などに応じて駆動力を有し、ブレーキ力はない。そして、アクセルペダルの踏込みが開放されるとともに、ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONされると、駆動力が減少するとともに、ブレーキ力が増加して、車速が低下していく。さらに、駆動力が減少し、強クリープ状態になり(通常のアイドリング状態)、ブレーキ力も最大になる。
【0128】
通常、ブレーキスイッチBSWがONかつ車速が5km/hになった時点S5で、駆動力低減装置は、弱クリープ指令を出し、弱クリープ状態になるまで駆動力を減少させる。しかし、温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度が−10℃以下であるため、駆動力低減装置は、作動が禁止され、弱クリープ指令を出さない。そのため、強クリープ状態が、維持される。
【0129】
さらに、車速が低下し、弱クリープ状態かつ車速0km/hになった時点S0で、通常、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA,SVBがON(閉)する。しかし、ブレーキ液の温度が−10℃以下であるため、電磁弁SVA,SVBは、ONせず、開状態を維持する。
【0130】
その結果、ブレーキペダルBPの踏込み開放が始められると、ブレーキ液圧保持装置RUが作動しないため、ブレーキペダルBPの踏込みの低下速度に応じて、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧が低下し、ブレーキ力も減少する。すなわち、ホイールシリンダWCのブレーキ液が絞りDによる流量制限を受けないため、ブレーキ力が保持されない。しかし、駆動力は強クリープ状態が維持されているため、坂道でも、車両は、後退しない。
【0131】
駆動力低減装置のみを備える車両によれば、ブレーキ液の温度が所定値(−10℃)以下の時に、CVTECU6によって温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度が所定値以下であることを判断する。そして、CVTECU6は、ブレーキ液圧保持装置RUおよび駆動力低減装置の作動を禁止する。そのため、ブレーキペダルBPが踏込まれて、車速が5km/h以下となっても、強クリープ状態が維持される。さらに、車速が0km/hとなっても、電磁弁SVA,SVBのOFF(開状態)が維持される。その結果、ブレーキ液の温度が所定値以下でも、この車両は、下り坂での発進時に、ブレーキペダルBPの踏込みを緩めると円滑に発進することができる。他方、上り坂での発進時に、ブレーキペダルBPの踏込みを開放しても後退することはない。
【0132】
《ブレーキ液の温度が所定値以下の時の制御タイムチャート(2)》
図9を参照して、駆動力低減装置および原動機停止装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時のブレーキ力と駆動力の制御を時系列に沿って説明する。なお、車両のポジションスイッチPSWおよびモードスイッチMSWは、DレンジDモードを変化させないこととする。
なお、図9の上段の制御タイムチャートは、車両の駆動力とブレーキ力の増減を時系列で示した図であり、図中の太い線が駆動力を示し、細い線がブレーキ力を示す。また、図9の下段の制御タイムチャートは、電磁弁SVA,SVBのON(閉)/OFF(開)を示した図である。
【0133】
ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONされるまで、駆動力は、アクセルペダル(図示せず)の踏込み量などに応じて駆動力を有し、ブレーキ力はない。そして、アクセルペダルの踏込みが開放されるとともに、ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONされると、駆動力が減少するとともに、ブレーキ力が増加して、車速が低下していく。さらに、駆動力が減少し、強クリープ状態になり(通常のアイドリング状態)、ブレーキ力も最大になる。
【0134】
通常、ブレーキスイッチBSWがONかつ車速が5km/hになった時点S5で、駆動力低減装置は、弱クリープ指令を出し、弱クリープ状態になるまで駆動力を減少させる。しかし、温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度が−10℃以下であるため、駆動力低減装置は、作動が禁止され、弱クリープ指令を出さない。そのため、強クリープ状態が、維持される。
【0135】
さらに、車速が低下し、弱クリープ状態かつ車速0km/hになった時点S0で、通常、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA,SVBがON(閉)する。しかし、ブレーキ液の温度が−10℃以下であるため、電磁弁SVA,SVBは、ONせず、開状態を維持する。また、車速0km/hになった時点S0で、通常、原動機停止装置は、エンジン自動停止条件を満たしたことを確認し、エンジン1を自動停止させる。そのため、駆動力が全くなくなる。しかし、CVTECU6でブレーキ液の温度が−10℃以下と判断され、FI/MGECU4にF_CVTOKでその情報が送信されているので、原動機停止装置は、作動が禁止され、エンジン1を自動停止させない。そのため、強クリープ状態が、維持される。
【0136】
その結果、ブレーキペダルBPの踏込み開放が始められると、ブレーキ液圧保持装置RUが作動しないため、ブレーキペダルBPの踏込みの低下速度に応じて、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧が低下し、ブレーキ力も減少する。すなわち、ホイールシリンダWCのブレーキ液が絞りDによる流量制限を受けないため、ブレーキ力が保持されない。しかし、駆動力は強クリープ状態が維持されているため、坂道でも、車両は、後退しない。
【0137】
駆動力低減装置および原動機停止装置を備える車両によれば、ブレーキ液の温度が所定値(−10℃)以下の時に、CVTECU6によって温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度が所定値以下であることを判断する。そして、CVTECU6は、ブレーキ液圧保持装置RU、駆動力低減装置および原動機停止装置の作動を禁止する。そのため、ブレーキペダルBPが踏込まれて、車速が5km/h以下となっても、強クリープ状態が維持される。さらに、車速が0km/hになっても、エンジン1が自動で停止されることなく、強クリープ状態が維持されるとともに、電磁弁SVA,SVBのOFF(開状態)が維持される。その結果、ブレーキ液の温度が所定値以下でも、この車両は、下り坂での発進時に、ブレーキペダルBPの踏込みを緩めると円滑に発進することができる。他方、上り坂での発進時に、ブレーキペダルBPの踏込みを開放しても後退することはない。
【0138】
《ブレーキ液の温度が所定値以下の時の制御タイムチャート(3)》
図10を参照して、原動機停止装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時のブレーキ力と駆動力の制御を時系列に沿って説明する。なお、車両のポジションスイッチPSWおよびモードスイッチMSWは、DレンジDモードを変化させないこととする。
なお、図10の上段の制御タイムチャートは、車両の駆動力とブレーキ力の増減を時系列で示した図であり、図中の太い線が駆動力を示し、細い線がブレーキ力を示す。また、図10の下段の制御タイムチャートは、電磁弁SVA,SVBのON(閉)/OFF(開)を示した図である。
【0139】
ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONされるまで、駆動力は、アクセルペダル(図示せず)の踏込み量などに応じて駆動力を有し、ブレーキ力はない。そして、アクセルペダルの踏込みが開放されるとともに、ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONされると、駆動力が減少するとともに、ブレーキ力が増加して、車速が低下していく。さらに、駆動力が減少し、強クリープ状態になり(通常のアイドリング状態)、ブレーキ力も最大になる。
【0140】
さらに、車速が低下し、弱クリープ状態かつ車速0km/hになった時点S0で、通常、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA,SVBがON(閉)する。しかし、ブレーキ液の温度が−10℃以下であるため、電磁弁SVA,SVBは、ONせず、開状態を維持する。また、車速0km/hになった時点S0で、通常、原動機停止装置は、エンジン自動停止条件を満たしたことを確認し、エンジン1を自動停止させる。そのため、駆動力が全くなくなる。しかし、CVTECU6でブレーキ液の温度が−10℃以下と判断され、FI/MGECU4にF_CVTOKでその情報が送信されているので、原動機停止装置は、作動が禁止され、エンジン1を自動停止させない。そのため、強クリープ状態が、維持される。
【0141】
その結果、ブレーキペダルBPの踏込み開放が始められると、ブレーキ液圧保持装置RUが作動しないため、ブレーキペダルBPの踏込みの低下速度に応じて、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧が低下し、ブレーキ力も減少する。すなわち、ホイールシリンダWCのブレーキ液が絞りDによる流量制限を受けないため、ブレーキ力が保持されない。しかし、駆動力は強クリープ状態が維持されているため、坂道でも、車両は、後退しない。
【0142】
原動機停止装置のみを備える車両によれば、ブレーキ液の温度が所定値(−10℃)以下の時に、CVTECU6によって温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度が所定値以下であることを判断する。そして、CVTECU6は、ブレーキ液圧保持装置RUおよび原動機停止装置の作動を禁止する。そのため、ブレーキペダルBPが踏込まれて、車速が0km/hになっても、エンジン1が自動で停止されることなく、強クリープ状態が維持されるとともに、電磁弁SVA,SVBのOFF(開状態)が維持される。その結果、ブレーキ液の温度が所定値以下でも、この車両は、下り坂での発進時に、ブレーキペダルBPの踏込みを緩めると円滑に発進することができる。他方、上り坂での発進時に、ブレーキペダルBPの踏込みを開放しても後退することはない。
【0143】
以上、本発明は、前記の実施の形態に限定されることなく、様々な形態で実施される。
例えば、ブレーキ液の温度の所定値を−10℃と設定したが、ブレーキ液の性状、絞りの具体的な構造などによって他の所定値を設定してもよい。
また、温度検出手段としてサーミスタを使用したが、他の温度センサやエンジンの吸気温から推定する手段としてもよい。
【0144】
【発明の効果】
前記のように、請求項1の発明に係る原動機付車両によれば、ブレーキ液の温度が所定値以下の時、ブレーキ液圧保持装置および駆動力低減装置の作動を禁止する。そのため、ブレーキペダルの踏込みが緩められた場合、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を遅滞なく低下させることができる。その結果、ブレーキ液の温度が低い場合(すなわち、ブレーキ液の粘性が高い場合)でも、下り坂での発進時に、ブレーキペダルの踏込みを緩めるだけで、車両を円滑に発進させることができる。また、所定の低車速以下でも駆動力を大きな状態に維持しているので、上り坂での発進時に、ブレーキ力が保持されていなくても、車両の後退を防止することができる。
【0145】
請求項2の発明に係る原動機付車両によれば、ブレーキ液の温度が所定値以下の時、ブレーキ液圧保持装置、駆動力低減装置および原動機停止装置の作動を禁止する。そのため、ブレーキペダルの踏込みが緩められた場合、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を遅滞なく低下させることができる。その結果、ブレーキ液の温度が低い場合(すなわち、ブレーキ液の粘性が高い場合)でも、下り坂での発進時に、ブレーキペダルの踏込みを緩めるだけで、車両を円滑に発進させることができる。また、車両停止時でも駆動力を大きな状態に維持しているので、上り坂での発進時に、ブレーキ力が保持されていなくても、車両の後退を防止することができる。
【0146】
請求項3の発明に係る原動機付車両によれば、ブレーキ液の温度が所定値以下の時、ブレーキ液圧保持装置および原動機停止装置の作動を禁止する。そのため、ブレーキペダルの踏込みが緩められた場合、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を遅滞なく低下させることができる。その結果、ブレーキ液の温度が低い場合(すなわち、ブレーキ液の粘性が高い場合)でも、下り坂での発進時に、ブレーキペダルの踏込みを緩めるだけで、車両を円滑に発進させることができる。また、車両停止時でも駆動力を大きな状態に維持しているので、上り坂での発進時に、ブレーキ力が保持されていなくても、車両の後退を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る原動機付車両のシステム構成図である。
【図2】本発明に係る原動機付車両のブレーキ液圧保持装置の構成図である。
【図3】図2のブレーキ液圧保持装置の具体的な構造を示す断面図である。
【図4】図3のブレーキ液圧保持装置の(a)リリーフ弁と絞り部分の要部を拡大した断面図、(b)絞りを切削により形成する際の作用図、(c)絞りを押付けにより形成する際の作用図、(c−1)溝加工を示す作用図、(c−2)コイニングを示す作用図である。
【図5】本発明に係る原動機付車両の(a)ブレーキ液圧保持装置の電磁弁をONするためのロジック、(b)エンジン自動停止条件である。
【図6】本発明に係る原動機付車両の(a)ブレーキ液圧保持装置の電磁弁をOFFするためのロジック、(b)エンジン自動始動条件である。
【図7】本発明に係る原動機付車両において駆動力低減装置、原動機停止装置およびブレーキ液圧保持装置が作動時の(a)駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャート、(b)車両停止時のブレーキ液圧回路の構成図である。
【図8】本発明に係る原動機付車両において駆動力低減装置およびブレーキ液圧保持装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時の駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャートである。
【図9】本発明に係る原動機付車両において駆動力低減装置、原動機停止装置およびブレーキ液圧保持装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時の駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャートである。
【図10】本発明に係る原動機付車両において原動機停止装置およびブレーキ液圧保持装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時の駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャートである。
【図11】ブレーキ液の温度−粘度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1・・・エンジン(原動機)
3・・・ベルト式無段変速機(CVT)(駆動力低減装置)
4・・・燃料噴射/マネージメント電子制御ユニット(FI/MGECU)(原動機停止装置)
5・・・モータ電子制御ユニット(MOTECU)
6・・・CVT電子制御ユニット(CVTECU)(駆動力低減装置)(制御部)
8・・・駆動輪
BP・・・ブレーキペダル
BYP・・・迂回通路
D・・・絞り(ブレーキ液圧低下速度減少手段)
DU・・・故障検出装置
MC・・・マスターシリンダ
MNP・・・液圧通路
RU・・・ブレーキ液圧保持装置
SV,SVA,SVB・・・電磁弁(ブレーキ液圧低下速度減少手段)
TS・・・温度センサ(温度検出手段)
WC・・・ホイールシリンダ
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動変速機を備えるとともに、原動機がアイドリング状態でかつ所定の低車速以下においてブレーキペダルの踏込み時にはブレーキペダルの踏込み開放時に比べてクリープの駆動力を低減する駆動力低減装置または/および車両停止時に原動機を自動で停止可能な原動機停止装置を備え、さらにブレーキペダルの踏込み開放時にも引続きホイールシリンダにブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置を備える原動機付車両に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、原動機付車両には、燃費向上や低公害などを目的として、クリープ走行時の駆動力を低減させたり、車両停止時に原動機を停止させる装置を備える車両がある。さらに、駆動力を低減(または原動機を自動停止)させた時の坂道発進時に、車両が後退するのを防止するために、ブレーキペダルの踏込み開放時にもホイールシリンダのブレーキ液圧を保持可能な装置を備える車両がある。
なお、クリープは、自動変速機を備える車両のシフトレバーでDレンジまたはRレンジなどの走行レンジが選択されている時に、アクセルペダルを踏込まなくても(原動機がアイドリング状態)、車両が這うようにゆっくり動くことである。
【0003】
本願出願人による特願平10−370250号には、自動変速機を備える原動機付車両であって、駆動力低減装置または/および原動機停止装置、さらにブレーキ液圧保持装置を備える原動機付車両について記載している。駆動力低減装置は、所定の低車速以下において、ブレーキペダルの踏込み時にはブレーキペダルの踏込み開放時に比べてクリープの駆動力を低減することができる。原動機停止装置は、原動機付車両停止時に、原動機を自動で停止することができる。ブレーキ液圧保持装置は、ブレーキペダルの踏込み開放時にも引続きホイールシリンダにブレーキ液圧を作用することができる。このブレーキ液圧保持装置は、マスターシリンダとホイールシリンダを結ぶ液圧通路と、液圧通路を連通する連通位置と液圧通路を遮断する遮断位置に切換わる電磁弁と、電磁弁を迂回してマスターシリンダとホイールシリンダを常時連通する迂回通路と、迂回通路に設けられ迂回通路の流量を制限する絞りと、電磁弁を切換える制御部を備える。そして、電磁弁を遮断位置に切換えて、絞りの流量制限によりブレーキペダルの踏込み力の低下速度に対してホイールシリンダ内のブレーキ液圧の低下速度を小さくする。
【0004】
この原動機付車両によれば、駆動力低減装置または/および原動機停止装置の作動により燃費の悪化などを防止するとともに、ブレーキ液圧保持装置の作動によって、駆動力低減装置または/および原動機停止装置の作動時の上り坂での発進時に車両の後退を防止することができる。さらに、この原動機付車両のブレーキ液圧保持装置によれば、絞りによる流量制限によりブレーキ液圧を保持しているため、ブレーキペダルの踏込みを緩めた時に、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を徐々に低下させることができる。したがって、ブレーキペダルの踏込みを緩めた後、結果として、時間遅れで、踏込みを緩めた後のブレーキペダルの踏込み力に相当するブレーキ液圧までホイールシリンダ内のブレーキ液圧が低下する。そのため、下り坂での発進時に、ブレーキペダルの踏込みを緩めるだけで車両を発進させることもできる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
図11にブレーキ液の温度−粘度の関係をグラフで示す。なお、このグラフは、横軸が温度(度:℃)、縦軸が粘度(センチストークス:CST)である。このグラフから判るように、ブレーキ液の温度が低くなると、ブレーキ液の粘度が極端に大きくなる。また、ブレーキ液の粘性が高くなると、絞りを通過する単位時間当たりのブレーキ液量が少なくなる。したがって、ブレーキ液の温度が低い場合、電磁弁が遮断位置に切換わってブレーキ液圧保持装置が作動し、さらにブレーキペダルの踏込みが緩められた時に、緩めた後のブレーキペダルの踏込み力に相当するブレーキ液圧までホイールシリンダ内のブレーキ液圧が低下するのに要する時間が非常に長くなる。その結果、下り坂において、ブレーキペダルの踏込みを緩めるだけで車両を円滑に発進させることができなくなる。
【0006】
そこで、本発明の課題は、ブレーキ液の温度が低く、ブレーキ液の粘性が高い場合に、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を遅滞なく低下させることができるとともに、上り坂での発進時に車両の後退を防止することができる原動機付車両を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決した請求項1の発明に係る原動機付車両は、アクセルペダルの踏込み開放時にも変速機において走行レンジが選択されている場合は、原動機から駆動輪へ駆動力を伝達する原動機付車両であって、所定の低車速以下の時、前記駆動力の大きさをブレーキペダルの踏込みに応じて切換え、前記ブレーキペダルの踏込み時には前記ブレーキペダルの踏込み開放時に比べて前記駆動力を低減する駆動力低減装置と、前記ブレーキペダルの踏込み開放後も引続きホイールシリンダにブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置とを備え、前記ブレーキ液圧保持装置は、ドライバーのブレーキペダルの踏込み力に応じたブレーキ液圧を発生するマスターシリンダと前記ホイールシリンダを結ぶ液圧通路と、前記液圧通路に設けられ、前記液圧通路を連通する連通位置と前記液圧通路を遮断する遮断位置とに切換わる電磁弁と、前記電磁弁を迂回し、前記マスターシリンダと前記ホイールシリンダ間を常時連通する迂回通路と、前記迂回通路に設けられ、前記迂回通路の流量を制限する絞りと、前記電磁弁を前記連通位置または前記遮断位置に切換える制御部とを備え、前記電磁弁を前記遮断位置に切換えて、前記絞りの流量制限により前記ブレーキペダルの踏込み力の低下速度に対して前記ホイールシリンダ内のブレーキ液圧の低下速度を小さくするブレーキ液圧低下速度減少手段で構成される、原動機付車両において、ブレーキ液の温度を検出する温度検出手段を備え、前記ブレーキ液の温度が所定値以下の時に前記駆動力低減装置および前記ブレーキ液圧保持装置の作動を禁止することを特徴とする。
この原動機付車両によれば、ブレーキ液の温度が低い時に、ブレーキ液圧保持装置の作動を禁止しているので、ブレーキペダルの踏込みが緩められると、ブレーキ液の粘性が高くても、踏込みが緩められた後のブレーキペダルの踏込み力に相当するブレーキ液圧までホイールシリンダ内のブレーキ液圧が遅滞なく低下する。さらに、ブレーキ液の温度が低い時に、駆動力低減装置の作動を禁止しているので、ブレーキペダルが踏込まれて車両が所定の低車速以下になっても駆動力を大きな状態に維持する。
【0008】
また、前記課題を解決した請求項2の発明に係る原動機付車両は、アクセルペダルの踏込み開放時にも変速機において走行レンジが選択されている場合は、原動機から駆動輪へ駆動力を伝達する原動機付車両であって、所定の低車速以下の時、前記駆動力の大きさをブレーキペダルの踏込みに応じて切換え、前記ブレーキペダルの踏込み時には前記ブレーキペダルの踏込み開放時に比べて前記駆動力を低減する駆動力低減装置と、前記原動機付車両停止時、前記原動機を停止可能な原動機停止装置と、前記ブレーキペダルの踏込み開放後も引続きホイールシリンダにブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置とを備え、前記ブレーキ液圧保持装置は、ドライバーのブレーキペダルの踏込み力に応じたブレーキ液圧を発生するマスターシリンダと前記ホイールシリンダを結ぶ液圧通路と、前記液圧通路に設けられ、前記液圧通路を連通する連通位置と前記液圧通路を遮断する遮断位置とに切換わる電磁弁と、前記電磁弁を迂回し、前記マスターシリンダと前記ホイールシリンダ間を常時連通する迂回通路と、前記迂回通路に設けられ、前記迂回通路の流量を制限する絞りと、前記電磁弁を前記連通位置または前記遮断位置に切換える制御部とを備え、前記電磁弁を前記遮断位置に切換えて、前記絞りの流量制限により前記ブレーキペダルの踏込み力の低下速度に対して前記ホイールシリンダ内のブレーキ液圧の低下速度を小さくするブレーキ液圧低下速度減少手段で構成される、原動機付車両において、ブレーキ液の温度を検出する温度検出手段を備え、前記ブレーキ液の温度が所定値以下の時に前記駆動力低減装置、前記原動機停止装置および前記ブレーキ液圧保持装置の作動を禁止することを特徴とする。
この原動機付車両によれば、ブレーキ液の温度が低い時に、ブレーキ液圧保持装置の作動を禁止しているので、ブレーキペダルの踏込みが緩められると、ブレーキ液の粘性が高くても、踏込みが緩められた後のブレーキペダルの踏込み力に相当するブレーキ液圧までホイールシリンダ内のブレーキ液圧が遅滞なく低下する。さらに、ブレーキ液の温度が低い時に、駆動力低減装置および原動機停止装置の作動を禁止しているので、ブレーキペダルが踏込まれて車両が停止しても、原動機の作動を維持するとともに、駆動力を大きな状態に維持する。
【0009】
さらに、前記課題を解決した請求項3の発明に係る原動機付車両は、アクセルペダルの踏込み開放時にも変速機において走行レンジが選択されている場合は、原動機から駆動輪へ駆動力を伝達する原動機付車両であって、前記原動機付車両停止時、前記原動機を停止可能な原動機停止装置と、ブレーキペダルの踏込み開放後も引続きホイールシリンダにブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置とを備え、前記ブレーキ液圧保持装置は、ドライバーのブレーキペダルの踏込み力に応じたブレーキ液圧を発生するマスターシリンダと前記ホイールシリンダを結ぶ液圧通路と、前記液圧通路に設けられ、前記液圧通路を連通する連通位置と前記液圧通路を遮断する遮断位置とに切換わる電磁弁と、前記電磁弁を迂回し、前記マスターシリンダと前記ホイールシリンダ間を常時連通する迂回通路と、前記迂回通路に設けられ、前記迂回通路の流量を制限する絞りと、前記電磁弁を前記連通位置または前記遮断位置に切換える制御部とを備え、前記電磁弁を前記遮断位置に切換えて、前記絞りの流量制限により前記ブレーキペダルの踏込み力の低下速度に対して前記ホイールシリンダ内のブレーキ液圧の低下速度を小さくするブレーキ液圧低下速度減少手段で構成される、原動機付車両において、ブレーキ液の温度を検出する温度検出手段を備え、前記ブレーキ液の温度が所定値以下の時に前記原動機停止装置および前記ブレーキ液圧保持装置の作動を禁止することを特徴とする。
この原動機付車両によれば、ブレーキ液の温度が低い時に、ブレーキ液圧保持装置の作動を禁止しているので、ブレーキペダルの踏込みが緩められると、ブレーキ液の粘性が高くても、踏込みが緩められた後のブレーキペダルの踏込み力に相当するブレーキ液圧までホイールシリンダ内のブレーキ液圧が遅滞なく低下する。さらに、ブレーキ液の温度が低い時に、原動機停止装置の作動を禁止しているので、ブレーキペダルが踏込まれて車両が停止しても、原動機の作動を維持し、駆動力を大きな状態に維持する。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に係る原動機付車両の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は原動機付車両のシステム構成図、図2は原動機付車両のブレーキ液圧保持装置の構成図、図3は図2のブレーキ液圧保持装置の具体的な構造を示す断面図、図4は図3のブレーキ液圧保持装置の(a)リリーフ弁と絞り部分の要部を拡大した断面図、(b)絞りを切削により形成する際の作用図、(c)絞りを押付けにより形成する際の作用図、(c−1)溝加工を示す作用図、(c−2)コイニングを示す作用図、図5は原動機付車両の(a)ブレーキ液圧保持装置の電磁弁をONするためのロジック、(b)エンジン自動停止条件、図6は原動機付車両の(a)ブレーキ液圧保持装置の電磁弁をOFFするためのロジック、(b)エンジン自動始動条件、図7は原動機付車両において駆動力低減装置、原動機停止装置およびブレーキ液圧保持装置が作動時の(a)駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャート、(b)車両停止時のブレーキ液圧回路の構成図、図8は原動機付車両において駆動力低減装置およびブレーキ液圧保持装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時の駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャート、図9は原動機付車両において駆動力低減装置、原動機停止装置およびブレーキ液圧保持装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時の駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャート、図10は原動機付車両において原動機停止装置およびブレーキ液圧保持装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時の駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャートである。
【0011】
本発明の原動機付車両は、ブレーキペダルの踏込み開放時にもホイールシリンダにブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置を備えるとともに、そのブレーキ液圧保持装置内のブレーキ液の温度を検出する温度検出手段を備える。また、原動機がアイドリング状態でかつ所定の低車速以下においてブレーキペダルが踏込まれている時にクリープの駆動力を低減する駆動力低減装置または/および車両停止中に原動機を自動で停止可能な原動機停止装置を備える。さらに、温度検出手段で検出されたブレーキ液の温度が所定値以下の時、ブレーキ液圧保持装置、駆動力低減装置および原動機停止装置の作動を禁止する機能を備える。本実施の形態で説明する原動機付車両は、原動機としてガソリンなどを動力源とする内燃機関であるエンジンと電気を動力源とするモータを備えるハイブリッド車両であり、変速機としてベルト式無段変速機(以下、CVTと記載する)を備える車両である。なお、本発明の原動機付車両は、原動機としてエンジンのみ、モータのみなど、原動機を特に限定しない。また、変速機としては、CVTに限らず、広く普及している有段の自動変速機であっても良い。
【0012】
《システム構成》
まず、本実施の形態の原動機付車両(以下、車両と記載)のシステム構成を図1を参照して説明する。車両は、原動機としてエンジン1とモータ2を備え、変速機としてCVT3を備える。エンジン1は、燃料噴射電子制御ユニット(以下、FIECUと記載する)に制御される。なお、FIECUは、マネージメント電子制御ユニット(以下、MGECUと記載する)と一体で構成し、燃料噴射/マネージメント電子制御ユニット(以下、FI/MGECUと記載する)4に備わっている。また、モータ2は、モータ電子制御ユニット(以下、MOTECUと記載する)5に制御される。さらに、CVT3は、CVT電子制御ユニット(以下、CVTECUと記載する)6に制御される。
【0013】
さらに、CVT3には、駆動輪8,8が装着された駆動軸7が取り付けられる。駆動輪8,8には、ホイールシリンダWC(図2参照)などを備えるディスクブレーキ9,9が装備されている。ディスクブレーキ9,9のホイールシリンダWCには、ブレーキ液圧保持装置RUを介してマスターシリンダMCが接続される。マスターシリンダMCには、マスターパワMPを介してブレーキペダルBPからの踏込みが伝達される。ブレーキペダルBPは、ブレーキスイッチBSWによって、ブレーキペダルBPが踏込まれているか否かが検出される。また、ブレーキスイッチBSWは、ブレーキペダルBPにドライバーが足を置いているか否かを検出することをもって、ブレーキペダルBPの踏込みの有無を検出するものでもよい。
【0014】
エンジン1は、熱エネルギーを利用する内燃機関であり、CVT3および駆動軸7などを介して駆動輪8,8を駆動する。なお、エンジン1は、燃費悪化の防止などのために、車両停止時に自動で停止させる場合がある。そのために、車両は、エンジン自動停止条件を満たした時にエンジン1を停止させる原動機停止装置を備える。
【0015】
モータ2は、図示しないバッテリからの電気エネルギーを利用し、エンジン1による駆動をアシストするアシストモードを有する。また、モータ2は、アシスト不要の時(下り坂や減速時など)に駆動軸7の回転による運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、図示しないバッテリに蓄電する回生モードを有し、さらにエンジン1を始動する始動モードなどを有する。
【0016】
CVT3は、ドライブプーリとドリブンプーリとの間に無端ベルトを巻掛け、各プーリ幅を変化させて無端ベルトの巻掛け半径を変化させることによって、変速比を無段階に変化させる。そして、CVT3は、出力軸に発進クラッチを連結し、この発進クラッチを係合して、無端ベルトで変速されたエンジン1などの出力を発進クラッチの出力側のギアを介して駆動軸7に伝達する。なお、このCVT3を備える車両は、クリープ走行が可能であるとともに、このクリープの駆動力を低減する駆動力低減装置を備える。クリープの駆動力は、発進クラッチの係合力によって調整され、駆動力が大きい状態と駆動力が小さい状態の2つの大きさを有する。この駆動力の大きい状態は、傾斜5°に釣り合う駆動力を有する状態であり、本実施の形態では強クリープと呼ぶ。他方、駆動力の小さい状態は、殆ど駆動力がない状態であり、本実施の形態では弱クリープと呼ぶ。強クリープでは、アクセルペダルの踏込みが開放された時(すなわち、アイドリング状態時)で、かつポジションスイッチPSWで走行レンジ(Dレンジ、LレンジまたはRレンジ)が選択されている時に、ブレーキペダルBPの踏込みを開放すると車両が這うようにゆっくり進む。弱クリープでは、所定の低車速以下の時でかつブレーキペダルBPが踏込まれた時で、車両は停止か微低速である。
なお、ポジションスイッチPSWのレンジ位置は、シフトレバーで選択する。ポジションスイッチPSWのレンジは、駐停車時に使用するPレンジ、ニュートラルであるNレンジ、バック走行時に使用するRレンジ、通常走行時に使用するDレンジおよび急加速や強いエンジンブレーキを必要とする時に使用するLレンジがある。また、走行レンジとは、車両が走行可能なレンジ位置であり、この車両ではDレンジ、LレンジおよびRレンジの3つのレンジである。さらに、ポジションスイッチPSWでDレンジが選択されている時には、モードスイッチMSWで、通常走行モードであるDモードとスポーツ走行モードであるSモードを選択できる。
【0017】
FI/MGECU4に含まれるFIECUは、最適な空気燃費比となるように燃料の噴射量を制御するとともに、エンジン1を統括的に制御する。FIECUにはスロットル開度やエンジン1の状態を示す情報などが送信され、各情報に基づいてエンジン1を制御する。また、FI/MGECU4に含まれるMGECUは、MOTECU5を主として制御するとともに、エンジン自動停止条件およびエンジン自動始動条件の判断を行う。MGECUにはモータ2の状態を示す情報が送信されるとともに、FIECUからエンジン1の状態を示す情報などが入力され、各情報に基づいて、モータ2のモードの切換え指示などをMOTECU5に行う。また、MGECUにはCVT3の状態を示す情報、エンジン1の状態を示す情報、ポジションスイッチPSWのレンジ情報およびモータ2の状態を示す情報などが送信され、各情報に基づいて、エンジン1の自動停止または自動始動を判断する。
【0018】
MOTECU5は、FI/MGECU4からの制御信号に基づいて、モータ2を制御する。FI/MGECU4からの制御信号にはモータ2によるエンジン1の始動、エンジン1の駆動のアシストまたは電気エネルギーの回生などを指令するモード情報やモータ2に対する出力要求値などがあり、MOTECU5は、これらの情報に基づいて、モータ2に命令を出す。また、モータ2などから情報を得て、発電量などのモータ2の情報やバッテリの容量などをFI/MGECU4に送信する。
【0019】
CVTECU6は、CVT3の変速比や発進クラッチの係合力などを制御する。CVTECU6にはCVT3の状態を示す情報、エンジン1の状態を示す情報およびポジションスイッチPSWのレンジ情報などが送信され、CVT3のドライブプーリとドリブンプーリの各シリンダの油圧の制御および発進クラッチの油圧の制御をするための信号などをCVT3に送信する。さらに、CVTECU6は、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA,SVB(図2参照)のON(閉)/OFF(開)を制御する(すなわち、電磁弁SVA,SVBを切換える制御部としての機能を有する)とともに、クリープの駆動力を大きい状態か小さい状態のいずれにするかを判断する。また、CVTECU6は、ブレーキ液圧保持装置RUの故障を検出するために、故障検出装置DUを備えている。この故障検出装置DUは、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA,SVBをON(閉)/OFF(開)するための駆動回路も備える。
なお、前記した電磁弁SVA,SVBのON(閉)/OFF(開)の制御およびクリープの駆動力の大きさの制御には、ブレーキ液の温度も判断要素となる。CVTECU6にはブレーキ液圧保持装置RUの温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度の情報が送信され、その温度が所定値以下の時、電磁弁SVA,SVBをOFF(開状態)に維持するとともに、クリープの駆動力を大きな状態に維持する。さらに、CVTEUC6は、ブレーキ液の温度が所定値以下になっていることを示す情報(後記するF_CVTOKの中に含まれる情報)をFI/MGECU4に送信する。FI/MGECU4は、この送信された情報に基づいて、ブレーキ液の温度が所定値以下の時、エンジン1を自動で停止しない。
【0020】
ディスクブレーキ9,9は、駆動輪8,8と一体となって回転するディスクロータを、ホイールシリンダWC(図2参照)を駆動源とするブレーキパッドで挟み付け、その摩擦力で制動力を得る。ホイールシリンダWCには、ブレーキ液圧保持装置RUを介してマスターシリンダMCのブレーキ液圧が供給される。
【0021】
ブレーキ液圧保持装置RUは、ブレーキペダルBPの踏込み開放後も、ホイールシリンダWCにブレーキ液圧を作用させる。ブレーキ液圧保持装置RUは、CVTECU6内の故障検出装置DUにおけるブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA,SVBを駆動(ON/OFF)するための駆動回路も含むものとする。また、ブレーキ液圧装置RUは、ブレーキ液の温度を検出する温度検出手段として温度センサTSを備える。この温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度が所定値以下になると、ブレーキ液圧保持装置RUの作動は、禁止される。なお、ブレーキ液圧保持装置RUの構成などについては、後で詳細に説明する。(図2参照)
なお、電磁弁がON/OFFするとは、「常時開型の電磁弁では、電磁弁がONするとは電磁弁が閉じて閉状態になることであり、電磁弁がOFFするとは電磁弁が開いて開状態になること」である。他方、「常時閉型の電磁弁では、電磁弁がONするとは電磁弁が開いて開状態になることであり、電磁弁がOFFするとは電磁弁が閉じて閉状態になること」である。本実施の形態における電磁弁SVA,SVBは、常時開型の電磁弁である。また、駆動回路は、電磁弁SVA,SVBをONするために、電磁弁SVA,SVBの各コイルに電流を供給し、電磁弁をOFFするために、電流の供給を停止する。
【0022】
マスターシリンダMCは、ブレーキペダルBPの踏込みを油圧に変える装置である。さらに、そのブレーキペダルBPの踏込みをアシストするために、マスターパワMPが、マスターシリンダMCとブレーキペダルBPの間に設けらている。マスターパワMPは、ドライバーがブレーキペダルBPを踏む力の他に、エンジン1の負圧や圧縮空気などの力を加えて制動力を強化し、ブレーキング時の踏力を軽くする装置である。また、ブレーキペダルBPにはブレーキスイッチBSWが設けられ、このブレーキスイッチBSWは、ブレーキペダルBPが踏込まれているか踏込みが開放されているかを検出する。
【0023】
この車両に備わる駆動力低減装置は、CVT3およびCVTECU6などで構成される。駆動力低減装置は、ブレーキペダルBPが踏込まれている時かつ車速が5km/h以下の時(所定の低車速以下の時)に、クリープの駆動力を低減し、強クリープ状態から弱クリープ状態にする。駆動力低減装置は、CVTECU6で、ブレーキペダルBPが踏込まれているかをブレーキスイッチBSWの信号から判断するとともに、車速が5km/h以下であるかをCVT3の車速パルスから判断する。さらに、CVTECU6では前記2つの基本条件に追加して、ブレーキ液の温度が所定値以上、ブレーキ液圧保持装置RUが正常(ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA,SVB(図2参照)の駆動回路が正常も含む)およびポジションスイッチPSWのレンジがDレンジであることも判断し、5つの条件を満たしたときに、CVT3に発進クラッチの係合力を弱める命令を送信し、クリープの駆動力を低減させている。車両は、この駆動力低減装置による駆動力の低減によって、燃費の悪化を防止する。
なお、弱クリープ状態およびエンジン1停止の時には、CVTECU6で、強クリープになるため条件を判断する。そして、強クリープの条件が満たされると、CVTECU6からCVT3に発進クラッチの係合力を強める命令を送信し、クリープの駆動力を大きくする。
【0024】
この車両に備わる原動機停止装置は、FI/MGECU4などで構成される。原動機停止装置は、車両が停止状態の時に、エンジン1を自動で停止させることができる。原動機停止装置は、FI/MGECU4のMGECUで、車速が0km/hなどのエンジン自動停止条件を判断する。なお、エンジン自動停止条件については、後で詳細に説明する。そして、エンジン自動停止条件が全て満たされていると判断すると、FI/MGECU4からエンジン1にエンジン停止命令を送信し、エンジン1を自動で停止させる。車両は、この原動機停止装置によるエンジン1の自動停止によって、さらに一層燃費の悪化を防止する。
なお、この原動機停止装置によるエンジン1の自動停止時に、FI/MGECU4のMGECUで、エンジン自動始動条件を判断する。そして、エンジン自動始動条件が満たされると、FI/MGECU4からMOTECU5にエンジン始動命令を送信し、さらに、MOTECU5からモータ2にエンジン1を始動させる命令を送信し、モータ2によってエンジン1を自動始動させるとともに、強クリープ状態にする。なお、エンジン自動始動条件については、後で詳細に説明する。
また、故障検出装置DUでブレーキ液圧保持装置RUの故障が検出されると、原動機停止装置の作動は、禁止される。さらに、温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度が所定値以下になると、原動機停止装置の作動は、禁止される。
【0025】
次に、このシステムにおいて送受信される信号について説明する。なお、図1中の各信号の前に付与されている「F_」は信号が0か1のフラグ情報であることを表し、「V_」は信号が数値情報(単位は任意)であることを表し、「I_」は信号が複数種類の情報を含む情報であることを表す。
【0026】
FI/MGECU4からCVTECU6に送信される信号について説明する。V_MOTTRQは、モータ2の出力トルク値である。F_MGSTBは、後で説明するエンジン自動停止条件の中でF_CVTOKの5つの条件を除いた条件が全て満たされているか否かを示すフラグであり、満たしている場合は1、満たしていない場合は0である。ちなみに、F_MGSTBとF_CVTOKが共に1に切換わるとエンジン1を自動停止し、どちらかのフラグが0に切換わるとエンジン1を自動始動する。
【0027】
FI/MGECU4からCVTECU6とMOTECU5に送信される信号について説明する。V_NEPは、エンジン1の回転数である。
【0028】
CVTECU6からFI/MGECU4に送信される信号について説明する。F_CVTOKは、CVT3が弱クリープ状態、CVT3のレシオ(プーリ比)がロー、CVT3の油温が所定値以上、ブレーキ液の温度が所定値以上およびブレーキ液圧保持装置RUが正常(ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA,SVB(図2参照)の駆動回路が正常も含む)の5つの条件が満たされているか否かを示すフラグであり、5つの条件が全て満たされている場合は1、1つでも条件を満たしていない場合は0である。なお、エンジン停止時には、CVT3が弱クリープ状態、CVT3のレシオがロー、CVT3の油温が所定値以上およびブレーキ液の温度が所定値以上の条件は維持され、F_CVTOKは、ブレーキ液圧保持装置RUが正常か否かのみで判断される。すなわち、エンジン1停止時、ブレーキ液圧保持装置RUが正常の場合にはF_CVTOKは1、ブレーキ液圧保持装置RUが故障の場合にはF_CVTOKは0となる。F_CVTTOは、CVT3の油温が所定値以上か否かを示すフラグであり、所定値以上の場合は1、所定値未満の場合は0である。なお、このCVT3の油温は、CVT3の発進クラッチの油圧を制御するリニアソレノイド弁の電気抵抗値から推定する。F_POSRは、ポジションスイッチPSWのレンジでRレンジが選択されているか否かを示すフラグであり、Rレンジの場合は1、Rレンジ以外の場合は0である。F_POSDDは、ポジションスイッチPSWのレンジでDレンジかつモードスイッチMSWのモードでDモードが選択されているか否かを示すフラグであり、DモードDレンジの場合は1、DレンジDモード以外の場合は0である。なお、FI/MGECU4は、DレンジDモード、Rレンジ、Pレンジ、Nレンジを示す情報が入力されていない場合、DレンジSモード、Lレンジのいずれかが選択されていると判断する。
【0029】
エンジン1からFI/MGECU4とCVTECU6に送信される信号について説明する。V_ANPは、エンジン1の吸気管の負圧値である。V_THは、スロットルの開度である。V_TWは、エンジン1の冷却水温である。V_TAは、エンジン1の吸気温である。
【0030】
CVT3からFI/MGECU4とCVTECU6に送信される信号について説明する。V_VSP1は、CVT3内に設けられた2つの車速ピックアップの一方から出される車速パルスである。この車速パルスに基づいて、車速を算出する。
【0031】
CVT3からCVTECU6に送信される信号について説明する。V_NDRPは、CVT3のドライブプーリの回転数を示すパルスである。V_NDNPは、CVT3のドリブンプーリの回転数を示すパルスである。V_VSP2は、CVT3内に設けられた2つの車速ピックアップの他方から出される車速パルスである。なお、V_VSP2は、V_VSP1より高精度であり、CVT3の発進クラッチの滑り量の算出などに利用する。
【0032】
MOTECU5からFI/MGECU4に送信される信号について説明する。V_QBATは、バッテリの残容量である。V_ACTTRQは、モータ2の出力トルク値であり、V_MOTTRQと同じ値である。I_MOTは、電気負荷を示すモータ2の発電量などの情報である。なお、モータ駆動電力を含めこの車両で消費される電力は、全てこのモータ2で発電される。
【0033】
FI/MGECU4からMOTECU5に送信される信号について説明する。V_CMDPWRは、モータ2に対する出力要求値である。V_ENGTRQは、エンジン1の出力トルク値である。I_MGは、モータ2に対する始動モード、アシストモード、回生モードなどの情報である。
【0034】
マスターパワMPからFI/MGECU4に送信される信号について説明する。V_M/PNPは、マスターパワMPの定圧室の負圧検出値である。
【0035】
ポジションスイッチPSWからFI/MGECU4に送信される信号について説明する。ポジションスイッチPSWでNレンジまたはPレンジのどちらかが選択されている場合のみ、ポジション情報としてNかPが送信される。
【0036】
CVTECU6からCVT3に送信される信号について説明する。V_DRHPは、CVT3のドライブプーリのシリンダの油圧を制御するリニアソレノイド弁への油圧指令値である。V_DNHPは、CVT3のドリブンプーリのシリンダの油圧を制御するリニアソレノイド弁への油圧指令値である。なお、V_DRHPとV_DNHPにより、CVT3の変速比を変える。V_SCHPは、CVT3の発進クラッチの油圧を制御するリニアソレノイド弁への油圧指令値である。なお、V_SCHPにより、発進クラッチの係合力を変える。
【0037】
CVTECU6からブレーキ液圧保持装置RUに送信される信号について説明する。F_SOLAは、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA(図2参照)をON(閉)/OFF(開)するためのフラグであり、ONさせる場合は1、OFFさせる場合は0である。F_SOLBは、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVB(図2参照)をON(閉)/OFF(開)するためのフラグであり、ONさせる場合は1、OFFさせる場合は0である。
【0038】
ポジションスイッチPSWからCVTECU6に送信される信号について説明する。ポジションスイッチPSWでNレンジ、Pレンジ、Rレンジ、DレンジまたはLレンジのいずれの位置に選択されているかが、ポジション情報として送信される。
【0039】
モードスイッチMSWからCVTECU6に送信される信号について説明する。モードスイッチMSWでDモード(通常走行モード)かSモード(スポーツ走行モード)のいずれが選択されているかが、モード情報として送信される。なお、モードスイッチMSWは、ポジションスイッチPSWがDレンジに設定されている時に機能するモード選択スイッチである。
【0040】
ブレーキスイッチBSWからFI/MGECU4とCVTECU6に送信される信号について説明する。F_BKSWは、ブレーキペダルBPが踏込まれている(ON)か踏込みが開放されているか(OFF)を示すフラグであり、踏込まれている場合は1、踏込みが開放されている場合は0である。なお、この信号は、前記のとおりブレーキペダルBPに足を置いているか(ON)、足を置いていないか(OFF)を示すフラグである場合もある。
【0041】
ブレーキ液圧保持装置RUからCVTECU6に送信される信号について説明する。V_TBKOは、温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度である。なお、エンジンルーム内に配置されているブレーキ液圧保持装置RUのブレーキ液の温度は、前記したV_TA(エンジン1の吸気温)に基づいて推定することもできる。両者とも、エンジンルームの温度に関連して変化するからである。
【0042】
《ブレーキ液圧保持装置の構成》
車両に備わるブレーキ液圧保持装置RUは、液圧式ブレーキ装置のブレーキ液圧回路内に組み込まれ、ドライバーのブレーキペダルBPの踏込み力の低下速度に対してホイールシリンダ内のブレーキ液圧の低下速度を小さくするブレーキ液圧低下速度減少手段で構成される。また、ブレーキ液圧保持装置RUは、ブレーキ液の温度を検出する温度センサTSを備える。
以下、図2を参照して、ブレーキ液圧保持装置RUを液圧式ブレーキ装置BKとともに説明する。
【0043】
〔液圧式ブレーキ装置〕
まず、液圧式ブレーキ装置BKの説明を行う(図2参照)。車両の液圧式ブレーキ装置BKのブレーキ液圧回路BCは、マスターシリンダMCとホイールシリンダWCとこれを結ぶブレーキ液配管FPよりなる。ブレーキは安全走行のために極めて重要な役割を有するので、液圧式ブレーキ装置BKはそれぞれ独立したブレーキ液圧回路を2系統設け(BC(A) ,BC(B) )、一つの系統が故障した時でも、残りの系統で最低限のブレーキ力が得られるようになっている。
【0044】
マスターシリンダMCの本体にはピストンMCP,MCPが挿入されており、ドライバーがブレーキペダルBPを踏込むことにより、ピストンMCP,MCPが押されてマスターシリンダMC内のブレーキ液に圧力が加わり、機械的な力がブレーキ液圧(ブレーキ液の液圧)に変換される。ドライバーがブレーキペダルBPから足を放して踏込みを開放すと、戻しバネMCS,MCSの力でピストンMCP,MCPが元に戻され、同時にブレーキ液圧も元に戻る。図2に示すマスターシリンダMCは、独立したブレーキ液圧回路BCを2系統設けるというフェイルアンドセーフの観点から、ピストンMCP,MCPを2つ並べてマスターシリンダMCの本体を2分割した、タンデム式のマスターシリンダMCである。
【0045】
プレーキペダルBPの操作力を軽くするために、ブレーキペダルBPとマスターシリンダMCの間にマスターパワMP(ブレーキブースタ)が設けられる。図2に示すマスターパワMPは、バキューム(負圧)サーボ式のものであり、図示しないエンジン1の吸気マニホールドから負圧を取出して、ドライバーによるブレーキペダルBPの操作を容易にしている。
【0046】
ブレーキ液配管FPは、マスターシリンダMCとホイールシリンダWCを結び、マスターシリンダMCで発生したブレーキ液圧を、ブレーキ液を移動させることによりホイールシリンダWCに伝達する流路の役割を果たす。また、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧の方が高い場合には、ホイールシリンダWCからマスターシリンダMCにブレーキ液を戻す流路の役割を果す。ブレーキ液圧回路BCは前記のとおりそれぞれ独立したものが設けられるため、ブレーキ液配管FPもそれぞれ独立のものが2系統設けられる。図2に示すブレーキ液配管FPなどにより構成されるブレーキ液圧回路BCは、一方のブレーキ液圧回路BC(A) が右前輪と左後輪を制動し、他方のブレーキ液圧回路BC(B) が左前輪と右後輪を制動するX配管方式のものである。なお、ブレーキ液圧回路は、X配管方式ではなく、一方のブレーキ液圧回路が両方の前輪を他方のブレーキ液圧回路が両方の後輪を制動する前後分割方式とすることもできる。
【0047】
ホイールシリンダWCは、車輪ごとに設けられ、マスターシリンダMCにより発生しブレーキ液配管FPを通してホイールシリンダWCに伝達されたブレーキ液圧を、車輪を制動するための機械的な力(ブレーキ力)に変換する役割を果す。ホイールシリンダWCの本体には、ピストン(図示せず)が挿入されており、このピストンがブレーキ液圧に押されて、ディスクブレーキの場合はブレーキパッドを、またはドラムブレーキの場合はブレーキシュウを作動させて車輪を制動するブレーキ力を作り出す。
なお、前記以外に前輪のホイールシリンダWCのブレーキ液圧と後輪のホイールシリンダWCのブレーキ液圧を制御するブレーキ液圧制御バルブなどが、必要に応じて設けられる。
【0048】
〔ブレーキ液圧保持装置〕
次に、ブレーキ液圧保持装置RUの説明を行う(図2参照)。ブレーキ液圧保持装置RUは、車両発進時におけるドライバーのブレーキペダルBPの踏込み力の低下速度に対してホイールシリンダWC内のブレーキ液圧の低下速度を小さくするブレーキ液圧低下速度減少手段で構成される。このブレーキ液圧低下速度減少手段は、ドライバーが車両の再発進時ブレーキペダルBPの踏込みを開放した際に、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧の減少する速度(ブレーキ力の低下する速度)が、ドライバーのブレーキペダルBPの踏込みを緩める速度よりも遅くなる機能を有する。
【0049】
このような機能を有するブレーキ液圧低下速度減少手段は、ブレーキ液圧回路BC内にブレーキ液の流れに対して流体抵抗となる部分を設けることにより構成することができる。そして、ブレーキ液の流れ自体を規制し、ドライバーのブレーキペダルBPの踏込み力の低下速度に対して、ホイールシリンダWC内のブレーキ液圧の低下速度を小さくすることができる。
【0050】
なお、液圧式ブレーキ装置BKは、同一の構成を有する2つのブレーキ液圧回路BC(A) ,BC(B) を備えるので、その1つであるブレーキ液圧回路BC(A) を代表して説明する。ブレーキ液圧回路BC(A) は、ブレーキ液の流れ自体を規制するため、電磁弁SVAおよび絞りD、必要に応じてチェック弁CVおよびリリーフ弁RVを備える。なお、ブレーキ液圧低下速度減少手段は、電磁弁SVAおよび絞りDで構成する。また、ブレーキ液圧回路BC(A) は、マスターシリンダMCとホイールシリンダWCを結ぶとともに、電磁弁SVAによって連通または遮断される液圧通路MNPを備える。さらに、電磁弁SVAを迂回するとともに、マスターシリンダMCとホイールシリンダWCを常時連通する迂回通路BYPを備える。なお、絞りDは、迂回通路BYPに設けられ、ブレーキ液の流量を制限する。さらに、ブレーキ液の温度を検出する温度センサTSを備える。なお、図2では、温度センサTSは、ブレーキ液圧回路BC(B) のブレーキ液の温度を検出する構成であるが、ブレーキ液圧回路BC(A) ,BC(B) のどちらに設けてもよいし、また両方に設けてもよい。
【0051】
電磁弁SVAは、CVTECU6からの電気信号によりON(閉)/OFF(開)し、ON状態(閉状態)でブレーキ液配管FP内のブレーキ液の流れを遮断してホイールシリンダWCに加えられたブレーキ液圧を保持する役割を果す。ちなみに、図2に示す電磁弁SVAは、OFF状態(開状態)にあることを示す。この電磁弁SVAにより、坂道発進時に、ドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを開放した場合でも、ホイールシリンダWCにブレーキ液圧が保持され、車両の後退を防止することができる。なお、車両の後退とは、車両の持つ位置エネルギ(自重)により、ドライバーが進もうとする方向とは逆の方向に、車両が進んでしまうこと(坂道を下ってしまうこと)を意味する。
【0052】
電磁弁SVAには、通電(ON)時に開状態になる常時閉型と通電(ON)時に閉状態になる常時開型があるが、いずれの電磁弁を使用することもできる。ただし、フェイルアンドセーフの観点からは、常時開型の電磁弁が好ましい。故障などにより通電が絶たれた場合に、常時閉型の電磁弁では、ブレーキが効かなくなったり、逆にブレーキが効きっぱなしになったりするからである。なお、通常の操作において電磁弁SVAがON(閉状態)になるのは、車両が停止した時から発進の間までであるが、どのような場合に(条件で)電磁弁SVAがON(閉状態)になるのか、あるいはOFF(開状態)になるのかは後に説明する。
なお、電磁弁SVAがON(閉状態)の時には、電磁弁SVAは遮断位置であり、電磁弁SVAがOFF(開状態)の時には、電磁弁SVAは連通位置である。
【0053】
絞りDは、電磁弁SVAのON/OFFにかかわらず、マスターシリンダMCとホイールシリンダWCとを導通する。殊に電磁弁SVAがON(閉状態)で、かつドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを開放したか踏込みを緩めた場合に、ホイールシリンダWCに閉じ込められたブレーキ液を徐々にマスターシリンダMC側に逃がし、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧を所定速度で低下させる役割を果す。この絞りDは、ブレーキ液配管FPに流量調整弁を設けることにより構成することもできるし、ブレーキ液配管FPの一部に流体に対する抵抗となる部分(流路の断面積が小さくなっている部分)を設けることにより構成することもできる。
【0054】
絞りDの存在により、ドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを開放したり緩めたりすれば、電磁弁SVAがON状態(閉状態)でも、ブレーキが永久に効きっぱなしという状態がなく、徐々にブレーキ力(制動力)が低下して行く。すなわち、ドライバーのブレーキペダルBPの踏込み力の低下速度に対して、ホイールシリンダWC内のブレーキ液圧の低下速度を小さくすることができる。これにより、電磁弁SVAがON状態(閉状態)でも所定時間後にはブレーキ力が充分弱まり、原動機の駆動力により車両を再発進(坂道発進)させることが可能になる。また、下り坂では、ドライバーがアクセルペダルを踏込むことなく、車両の位置エネルギのみにより車両を発進させることができる。
【0055】
なお、ドライバーがブレーキペダルBPを踏込んでいる状態で、マスターシリンダMCのブレーキ液圧がホイールシリンダWCのブレーキ液圧よりも高い限りは、絞りDの存在によりブレーキ力が低下することはない。絞りDは、ホイールシリンダWCとマスターシリンダMCのブレーキ液圧の差(差圧)によりブレーキ液圧の高い方からブレーキ液圧の低い方にブレーキ液を所定速度で流す役割を有するからである。すなわち、ドライバーがブレーキペダルBPを踏込みを緩めない限りは、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧が絞りDの存在により、上昇することはあっても低下することはない。この絞りDに逆止弁的な機能を持たせて、マスターシリンダMC側からホイールシリンダWC側へのブレーキ液の流れを阻止する構成としても良い。
【0056】
ホイールシリンダWCのブレーキ液圧を低下させる速度は、例えば、上り坂などでドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを開放してアクセルペダルを踏込み(ペダルの踏替え)、原動機が坂道発進するのに充分な駆動力に達するまで、車両の後退を防ぐことができる時間を確保することができるものであればよい。ペダルを踏替えて充分な駆動力が増すまでの時間は、通常0.5秒程度である。なお、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧を低下させる速度が早い場合は、電磁弁SVAがON状態(閉状態)であっても、ブレーキペダルBPの踏込みを開放するとすぐにブレーキ力がなくなり、充分な駆動力を得るまでに、車両が坂道を後退してしまう。したがって、ブレーキ液圧保持装置RUにより、坂道発進を容易にするという目的を達成できない。逆に、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧を低下させる速度が遅い場合は、ブレーキペダルBPの踏込みを開放してもブレーキが良く効いた状態が続くため車両の後退はなくなるが、ブレーキ力および坂道に抗する原動機の駆動力を確保するために、余分な時間や動力を要することになり好ましくない。また、坂道発進を容易にすることも困難になる。
【0057】
絞りDによるホイールシリンダWCのブレーキ液圧を低下させる速度は、ブレーキ液の性状や絞りDの種類(流路の断面積・長さなどの形状)により決定される。特に、図11のブレーキ液の温度−粘度の関係を示すグラフからも判るように、ブレーキ液の温度が所定値(ブレーキ液の温度が−10℃〜−20℃付近)以下になると、ブレーキ液の粘度が急激に大きくなる。そして、ブレーキ液の粘性が高くなると、絞りを通過する単位時間当たりのブレーキ液量が少なくなるので、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧を低下させる速度が遅くなる。
なお、絞りDを、電磁弁SVAやチェック弁CVなどと組合せて一体として設けても良い。組合せることにより、部品点数や設置スペースの削減を図ることができる。
【0058】
前記したように、絞りDを使用する場合、ブレーキ液の温度(ひいては、ブレーキ液の粘性)を監視しておく必要がある。そこで、ブレーキ液圧保持装置RU内を流れるブレーキ液の温度を検出するために、温度検出手段として温度センサTSを設ける。温度センサTSとしては、サーミスタを使用する。
なお、本実施の形態では、温度センサTSを設けてブレーキ液の温度を検出するが、他の手段でブレーキ液の温度を検出してもよい。例えば、ブレーキ液圧保持装置RUが配置されるエンジンルーム内の温度に関連して変化するエンジン1の吸気温から推定してもよい。
【0059】
チェック弁CVは必要に応じて設けられるが、このチェック弁CVは、電磁弁SVAがON状態(閉状態)で、かつドライバーがブレーキペダルBPを踏増しした場合に、マスターシリンダMCで発生したブレーキ液圧をホイールシリンダWCに伝える役割を果す。チェック弁CVは、マスターシリンダMCで発生したブレーキ液圧がホイールシリンダWCのブレーキ液圧を上回る場合に有効に作動し、ドライバーのブレーキペダルBPの踏増しに対応して迅速にホイールシリンダWCのブレーキ液圧を上昇させる。
なお、マスターシリンダMCのブレーキ液圧がホイールシリンダWCのブレーキ液圧よりも上回った場合に、一旦閉じた電磁弁SVAがOFF(開状態)になるような構成とすれば、電磁弁SVAのみでブレーキペダルBPの踏増しに対応することができるので、チェック弁CVを設ける必要はない。
【0060】
リリーフ弁RVも必要に応じて設けられるが、このリリーフ弁RVは、電磁弁SVAがON状態(閉状態)の場合で、かつドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを開放したか踏込みを緩めた場合に、ホイールシリンダWCに閉込められたブレーキ液を所定のブレーキ液圧になるまで迅速にマスターシリンダMC側に逃がす役割を果す。リリーフ弁RVは、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧が予め定められたブレーキ液圧以上で、かつマスターシリンダMCのブレーキ液圧よりも高い場合に作動する。これにより、電磁弁SVAがON(閉状態)の場合に、ホイールシリンダWC内の必要以上のブレーキ液圧を所定のブレーキ液圧に迅速に低減することができる。したがって、「坂道発進の際に,ドライバーが必要以上に強くブレーキペダルBPを踏込んでいて、ブレーキペダルBPの踏込み開放後、絞りDのみによりホイールシリンダWCのブレーキ液圧を低下させるのでは時間がかかって好ましくない」という問題を、リリーフ弁RVにより解決することができる。
【0061】
なお、ブレーキスイッチBSWは、ブレーキペダルBPが踏込まれているか否かを検出し、この検出値に基づいて、CVTECU6が電磁弁SVA,SVBのON/OFFの指示を行う。ブレーキスイッチBSWは、ブレーキペダルBPにドライバーの足が載せられているか否かを検出するものでもよい。
【0062】
《ブレーキ液圧保持装置の具体的構造》
次に、図3を参照して、ブレーキ液圧保持装置RUの具体的構造を説明する。図3に示すブレーキ液圧保持装置RUは、電磁弁SV、絞りD、チェック弁CVおよびリリーフ弁RVを組合せて、一まとめにした構造を有する。すなわち、このブレーキ液圧保持装置RUを液圧式ブレーキ装置BKのブレーキ液圧回路BC内に設けた場合は、図2に示す構成のものになる。この構造において、絞りDは、リリーフ弁RV内の一部に一体として設けられている。
【0063】
電磁弁SVは、ブレーキ液圧保持装置RUの上部に位置する。電磁弁SVのコイル部SVcに電流が流れることにより磁力が発生し、この磁力によりシャフトSVsが上下する。シャフトSVsの下端にはボールSVbが取付けられており、シャフトSVsが上下することによりボールSVbも上下して弁部SVvを開閉する。電磁弁SVへの通電は、2つの電極SVe,SVeを通して行なわれる。符号SVfは、シャフトSVsを上方向に付勢する付勢バネである。電磁弁SVがON状態(閉状態)の時(すなわち、電磁弁SVが遮断位置に切換わった時)、シャフトSVsが下降し、ボールSVbが弁部SVvを閉じる。他方、電磁弁SVがOFF状態(開状態)の時(すなわち、電磁弁SVが連通位置に切換わった時)、シャフトSVsが上昇し、ボールSVbが弁部SVvを開く。
電磁弁SVがOFF状態(開状態)である場合に、マスターシリンダMCからのブレーキ液は、マスターシリンダ側ジョイントJmからブレーキ液圧保持装置RU内に入り、主流路Cm(主流路Cm、環状流路Cr、主流路Cm)、開状態にある弁部SVv、主流路Cm、ホイールシリンダ側ジョイントJwを通過して、ホイールシリンダWCに達する。他方、ホイールシリンダWCからマスターシリンダMCにブレーキ液が流れる場合は、これとは逆の順路になる。なお、液圧通路MNPは、主流路Cm(主流路Cm、環状流路Cr、主流路Cm)、弁部SVv、主流路Cmで構成する。
この電磁弁SVによりブレーキ液の主流路Cmが遮断され、ホイールシリンダWCにブレーキ液圧が保持される。
【0064】
チェック弁CVは、電磁弁SVの弁部SVvの下部近傍に位置する。電磁弁SVがON状態(閉状態)の時に、ドライバーがブレーキペダルBPを踏増しした場合、マスターシリンダMCからのブレーキ液は、マスターシリンダ側ジョイントJmからブレーキ液圧保持装置RU内に入り、主流路Cm、環状流路Cr、チェック弁CVの弁部CVv、主流路Cm、ホイールシリンダ側ジョイントJwを通過してホイールシリンダWCに達する。チェック弁CVが開くのは、マスターシリンダMCのブレーキ液圧がホイールシリンダWCのブレーキ液圧よりも高く、かつ両者のブレーキ液圧の差である差圧がチェック弁CVの作動圧よりも高い場合である。チェック弁CVの作動圧は、チェック弁CVのボールCVbを押圧するバネCVsの押圧力などにより設定される。なお、符号CVcで示される部材は、環状流路Crとの連通穴を塞ぐボールである。また、環状流路Crは、電磁弁SVの弁部SVvの下部からチェック弁CVを取囲むようにして配設されたリング状をしたブレーキ液の流路である。
このチェック弁CVにより、電磁弁SVがON状態(閉状態)の場合でも、ドライバーがブレーキペダルBPを踏増しすることにより、ブレーキ力を増加することができる。
【0065】
リリーフ弁RVは、ブレーキ液圧保持装置RUの下部に位置する。リリーフ弁RVの上部は、分岐油路Cbを介して環状流路Crに接続されている。したがって、電磁弁SVがON状態(閉状態)で、ドライバーが強く踏込んでいたブレーキペダルBPの踏込みを開放した場合に、ホイールシリンダWCのブレーキ液は、ホイールシリンダ側ジョイントJw、主流路Cm、分岐流路Cb、リリーフ弁RVの弁部RVv、分岐流路Cb、環状流路Cr、主流路Cm、マスターシリンダ側ジョイントJmを通過してマスターシリンダMCに達する。リリーフ弁RVが開くのは、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧がマスターシリンダMCのブレーキ液圧よりも高く、かつ両者のブレーキ液圧の差である差圧がリリーフ弁RVの作動圧(リリーフ圧)よりも高い場合である。リリーフ圧は、リリーフ弁RVのボールRVbを押圧するバネRVsの押圧力などにより設定される。
このリリーフ弁RVにより、電磁弁SVがON(閉状態)の場合でもドライバーが強く踏んでいたブレーキペダルBPの踏込みを開放すれば、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧を一気にリリーフ弁RVの設定圧まで低減させることができる。
【0066】
絞りDは、リリーフ弁RVの弁部RVvに小さな溝として設けられ(詳細は後述する)、この溝は、リリーフ弁RVが閉状態であっても、ボールRVbにより塞がれることはない。したがって、電磁弁SV、チェック弁CV、リリーフ弁RVの開閉の状態にかかわらず、マスターシリンダMCとホイールシリンダWCとは常に絞りDを介して導通された状態にある。ホイールシリンダWCのブレーキ液圧がマスターシリンダMCのブレーキ液圧よりも高い場合は、ブレーキ液は、ホイールシリンダ側ジョイントJw、主流路Cm、分岐流路Cb、リリーフ弁RVの弁部RVvに設けた絞りD、分岐流路Cb、環状流路Cr、主流路Cm、マスターシリンダ側ジョイントJmを通過して、マスターシリンダMCに達する。絞りDのどちらの方向にブレーキ液が流れるかは、マスターシリンダMCとホイールシリンダWCのブレーキ液圧の差のみに支配される。絞りDを通過するブレーキ液の量は、絞りDの流路の断面積、流路の長さ、マスターシリンダMCとホイールシリンダWCのブレーキ液圧の差(差圧)、ブレーキ液の粘性などにより変化する。したがって、ブレーキ液圧保持装置RU、駆動力低減装置および原動機停止装置の作動を禁止するために設定されるブレーキ液の温度の所定値は、絞りDの流路の断面積、流路の長さおよびブレーキ液の粘性などの値を考慮して設定する。なお、迂回通路BYPは、分岐流路Cb、リリーフ弁RVの弁部RVvに設けた絞りD、分岐流路Cbで構成する。
この小さな溝である絞りDにより、ドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを緩めるか開放すると電磁弁SVがON状態(閉状態)でも、ブレーキ液がホイールシリンダWC側からマスターシリンダMC側に流れ、ブレーキ力が徐々に低減して行く。
【0067】
図4を参照して、さらにリリーフ弁RVおよび絞りDを詳細に説明する。
リリーフ弁RVは、ボールRVbをテーパ状に形成された弁部RVvに押圧することで、ブレーキ液の流路を遮断する常時閉型の弁である。ボールRVbを押圧するのはバネRVsである。この構成においては、ホイールシリンダWC側のブレーキ液圧がマスターシリンダMC側のブレーキ液圧よりも高く、かつ両者の差圧がバネRVsの押圧力よりも大きくなった場合に、ボールRVbがバネRVsの押圧力に抗して浮き上がり、リリーフ弁RVが開状態になる。そして、差圧がバネRVsの押圧力よりも小さくなった時、浮き上がっていたボールRVbが、弁部RVvに押圧され、リリーフ弁RVが閉状態になる。
【0068】
絞りDは、このテーパ状に形成された弁部RVvの一部にブレーキ液の流れに沿った小さな断面略V字状のV溝として設けられる。前記したとおり、かかる絞りDは、リリーフ弁RVが閉状態であっても、ボールRVbにより塞がれることがないので、ブレーキ液を常に導通する。図4(a)に矢印で示すブレーキ液の流れは、マスターシリンダMC側のブレーキ液圧が低い場合の流れである。この絞りDの断面の形状は、U字状などでもよく、ドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを開放した場合に、所定速度でブレーキ液をマスターシリンダMC側に流すことができるものであれば特定の形状に限定されない。
【0069】
V溝としての絞りDは、図4(b)に示すように、刃具CBでテーパ状の弁部RVvを切削することにより作製することができる。また、図4(c)に示すように、治具JBをテーパ状の弁部RVvに押付けることにより作製することもできる。なお、図4(b),(c)の矢印は、刃具CB、治具JBを動かす方向を示す。
【0070】
押付けによるV溝の作製は、例えば、先端が楔状の治具JBを押付けた後に(溝加工)、さらに、球状治具JB’を押付ける(コイニング)ことにより行うことができる。(図4(c1),(c2)参照)。この作製方法の場合は、前段の溝加工により生じた返りREは、後段のコイニングにより平坦化される。なお、押付けの場合は、材料の変形のみで絞りDを作製するので、切削屑が生じない利点がある。
図3および図4では、絞りDを、リリーフ弁RV内に一体として設ける構成としているが、電磁弁SV内あるいはチェック弁CV内に一体として設ける構成としてもよい。なお、図3のブレーキ液圧保持装置RUは、電磁弁SVなどを組合わせて一まとめにした構造をしているが、絞りDをV溝として構成するに際して、この一まとめにしたブレーキ液圧保持装置RUの構造に限定されることはない。電磁弁SVやチェック弁CVなどが組み合わされることなくそれぞれ別個に設けられている構造のブレーキ液圧保持装置RUにあっても、絞りDをリリーフ弁RVなどに設けたV溝として構成することができる。
【0071】
《ブレーキ液圧保持装置の基本的動作》
ブレーキ液圧保持装置RUの基本的動作について図2を参照して説明する。
(上り坂での停止・発進) 例えば、上り坂で信号待ちをする場合、ドライバーは、車両が自重で後退しないようにブレーキペダルBPを踏込む。これにより、マスターシリンダMC内のブレーキ液が圧縮されブレーキ液圧が高まり、このブレーキ液圧はブレーキ液の流れを伴って、ブレーキ液配管FP、開状態にある電磁弁SVA,SVBを通してホイールシリンダWCに伝達され、車輪を制動するブレーキ力に変換され、そして車両が坂道で停止する。
【0072】
車両の電気系統などを統括的に制御するCVTECU6は、車両が停止していることなどの条件を判断して、電磁弁SVA,SVBをON(閉状態)にして、ホイールシリンダWC内のブレーキ液圧を保持する。CVTECU6は、車両が停止している場所が坂道か否かを判断する必要はない。
なお、電磁弁SVA,SVBがON状態(閉状態)にあっても、チェック弁CV,CVが設けてあれば、ドライバーはブレーキペダルBPの踏込みを踏増すことにより、このチェック弁CV,CVを通して、ブレーキ力を増すことができる。
【0073】
次に、ドライバーは坂道を発進するため、ブレーキペダルBPの踏込みを開放し、図示しないアクセルペダルを踏込む。この操作において、電磁弁SVA,SVBはON状態(閉状態)にあるため、ドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを開放しても、車両が坂道を後退することはない。ただし、ホイールシリンダWC内のブレーキ液のブレーキ液圧は、絞りD,Dを通して徐々に低減して行く。
一方、ドライバーがアクセルペダルを踏込むことにより、駆動力が増して行く。そして、駆動力が坂道の前進を阻止する力および徐々に低減して行くブレーキ力の和より大きくなった時に、車両が坂道を発進する。
絞りD,Dにより、ドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを開放した後、0.5秒間程度車両が坂道を後退することがなければ、ドライバーは、坂道発進を容易にすることができる。ドライバーによっては、必要以上にブレーキペダルBPを強く踏込んでいる場合がある。このような場合に、リリーフ弁RV、RVが設けてあれば、ブレーキペダルBPの踏込みを開放したり踏込みを緩めることで、ホイールシリンダWC内のブレーキ液圧を所定のブレーキ液圧(リリーフ圧)まで一気に低減させることができるので、迅速な坂道発進を行うことができる。
【0074】
なお、坂道発進後、いつまでも電磁弁SVA,SVBがON状態(閉状態)では、ブレーキの引きずりを起こして好ましくない。このため、ドライバーの発進操作がなされた時点で電磁弁SVA,SVBをOFF(開状態)にする制御を行うのがよい。具体的には、自動変速機車では、アクセルペダルの踏込みがなされた時点などで、電磁弁SVをOFF(開状態)にする制御を行うのがよい。また、フェイルアンドセーフアクションとして、ブレーキペダルBPの踏込みを開放してから所定時間後(例えば2〜3秒後)に、ブレーキ液の流れを阻止していた電磁弁SVA,SVBをOFF(開状態)にする制御を行ってもよい。ブレーキペダルBPの踏込み・踏込みの開放はブレーキスイッチBSWにより検知する。さらに、不必要なブレーキの引きずりをなくするために、車速が所定速度(例えば車速5km/h)以上になった場合に、電磁弁SVA,SVBをOFF(開状態)にする制御を行ってもよい。
【0075】
(下り坂での停止・発進) 下り坂で停止する場合は、ドライバーは、上り坂の場合と同様にブレーキペダルBPを踏込んで停車する。CVTECU6は、車両が停止していることなどの条件を判断して、上り坂の場合と同様に、電磁弁SVA,SVBをON(閉状態)にして、ホイールシリンダWC内のブレーキ液圧を保持する。
【0076】
次に、ドライバーは坂道を下るため(発進するため)に、ブレーキペダルBPの踏込みを開放する。通常、下り坂の場合は、ドライバーはアクセルペダルを踏込むことなく、車両の自重を利用して坂道を下ろうとする。前記したブレーキ液圧保持装置RUによれば、絞りD,Dにより電磁弁SVA,SVBがON状態(閉状態)であっても、ブレーキペダルBPの踏込みを開放しもしくは踏込みを緩めることにより、ブレーキ力が徐々に弱まって行く。したがって、通常の車両における下り坂の発進と同様に、アクセルペダルを踏込むことなく車両を発進させることができる。
【0077】
ブレーキ液圧保持装置RUによれば、発進が困難である上り坂であっても、容易に発進することができる。また、下り坂や平坦な場所であっても、車両の発進に支障はない。さらに、CVTECU6が、車両の停止場所が坂道か平坦な場所であるかを判断する必要がなく、坂道であるか否かを検出する手段も必要ない。
【0078】
《ブレーキ液圧が保持される場合》
次に、ブレーキ液圧保持装置RUによりブレーキ液圧が保持される場合を説明する。ブレーキ液圧が保持されるのは、図5(a)に示すように、I)車両の駆動力が弱クリープ状態になり、かつ、II)車速が0km/hになった場合である。この条件を満たすときに、2つの電磁弁SVA,SVBがともにONして、閉状態になり、ホイールシリンダWCにブレーキ液圧が保持される。なお、駆動力が弱クリープ状態(F_WCRON=1)になるのは、弱クリープ指令(F_WCRP=1)が発せられた後である。この強クリープ状態から弱クリープ状態への駆動力の低減は、駆動力低減装置によって行う。
【0079】
I) 「弱クリープ状態」という条件は、坂道において、ドライバーに充分強くブレーキペダルBPを踏込ませるという理由による。すなわち、強クリープ状態は傾斜5度の坂道でも車両が後退しないような駆動力を有しているので、ドライバーは、ブレーキペダルBPを強く踏込まないでも、坂道で車両を停止させることができる。したがって、ドライバーがブレーキペダルBPを弱くしか踏込んでいない場合がある。このような場合に、電磁弁SVA,SVBをON(閉状態)にし、さらに,エンジン1を停止してしまうと車両が坂道を後退してしまうからである。
【0080】
II) 「車速が0km/h」であるという条件は、走行中に電磁弁SVA,SVBをONした(閉じた)のでは、任意の位置に車両を停止することができなくなるという理由による。
【0081】
〔I.弱クリープ指令が発せられる条件〕
弱クリープ指令(F_WCRP)は、図5(a)に示すように、1)ブレーキ液圧保持装置RUが正常であること、2)ブレーキ液の温度が所定値以上であること(V_TBKO)、3)ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONになっていること(F_BKSW)、4)車速が5km/h以下になっていること(F_VS)、5)ポジションスイッチPSWがDレンジであること(F_POSD)、の各条件がすべて満たされた場合に発せられる。この各条件は、駆動力低減装置で判断される。なお、駆動力を弱クリープ状態にするのは、前記したようにドライバーにブレーキペダルBPを強く踏込ませるためという理由に加えて、燃費を向上させるためという理由もある。以下、1)〜5)の条件を説明する。
【0082】
1) ブレーキ液圧保持装置RUが正常でない場合に弱クリープ指令が発せられないのは、例えば、電磁弁SVA,SVBがON(閉状態)にならないなどの異常がある場合に弱クリープ指令が発せられて弱クリープ状態になると、ホイールシリンダWCにブレーキ液圧が保持されないために、坂道発進時に、ドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを解除すると、一気にブレーキ力がなくなり車両が坂道を後退してしまうからである。この場合、強クリープ状態を保つことで、坂道での後退を防止して坂道発進(登坂発進)を容易にする。
【0083】
2) ブレーキ液の温度が所定値以下で弱クリープ指令が発せられないのは、ブレーキ液の温度が低い場合(すなわち、ブレーキ液の粘性が高い場合)に、ブレーキ液圧保持装置RUを作動させて電磁弁SVA,SVBをON(閉状態)にすると、ブレーキペダルBPの踏込みを部分的に緩めた場合に、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧の低下速度が極端に遅くなる問題があるからである。すなわち、ブレーキペダルBPの踏込みを緩めただけでは、ブレーキスイッチBSWはONの状態のままであり、いつまでも電磁弁SVA,SVBはON状態(閉状態)でいる。したがって、ブレーキ液は狭い絞りDを通してのみ排出されることになるが、前記したようにブレーキ液の温度が低いと粘性が高いため、所望の速度でブレーキ液が流れないので、いつまでもブレーキ力が強い状態に保持されたままになってしまうからである。
このように、ブレーキ液温が低い場合には、弱クリープ状態になることを禁止して、強クリープ状態を維持し、坂道での後退を防止する。ちなみに、強クリープ状態が保持されれば、ブレーキ液圧保持装置RUは作動せず、電磁弁SVA,SVBがONせず、閉状態になることはない。
ブレーキ液の温度の所定値は、下り坂でブレーキペダルBPの踏込みを緩めるだけで、車両を発進させることが円滑にできなくなる程度にブレーキ液の粘性が上昇するブレーキ液の温度である。本実施の形態では、ブレーキ液の温度の所定値は、−10℃とする。なお、前記したように、絞りDを通過する単位時間あたりのブレーキ液量は、ブレーキ液の粘性だけでなく、絞りDの断面積や流路の長さなどによって変化する。したがって、この所定値は、ブレーキ液圧保持装置RUの具体的構造によって変化し、実験的に定めるものである。
【0084】
3) ブレーキペダルBPが踏込まれていないとき(F_BKSW)に弱クリープ指令が発せられないのは、ドライバーは、少なくとも駆動力の低下を望んでいないからである。
【0085】
4) 車速が5km/h以上で弱クリープ指令が発せられないのは、発進クラッチを経由して駆動輪8,8からの逆駆動力をエンジン1やモータ2に伝達して、エンジンブレーキを効かしたり、モータ2による回生発電を行わせることがあるからである。
【0086】
5) ポジションスイッチPSWがDレンジなどである場合と異なり、ポジションスイッチPSWがRレンジまたはLレンジでは、弱クリープ指令は発せられない。強クリープ走行による車庫入れなどを容易にするためである。
【0087】
弱クリープ状態であるか否かはCVT3の発進クラッチに対する油圧指令値により判定する。弱クリープ状態であるフラグF_WCRPONは、次に強クリープ状態になるまで立ちつづける。
【0088】
〔II.エンジンの自動停止条件〕
燃費をさらに向上させるため、車両の停止時に、エンジン1が自動停止されるが、この条件について説明する。以下の各条件がすべて満たされた場合に、エンジン停止指令(F_ENGOFF)が発せられ、エンジン1が自動的に停止する(図5(b)参照)。このエンジン1の自動停止は、原動機停止装置が行う。したがって、以下のエンジン自動停止条件は、原動機停止装置で判断される。
【0089】
1) ポジションスイッチPWSがDレンジであり、かつモードスイッチMSWがDモード(以下この状態を「DレンジDモード」という)であること; DレンジDモード以外では、イグニッションスイッチを切らない限りエンジン1は停止しない。例えば、ポジションスイッチPSWがPレンジやNレンジの場合に、エンジン1を自動的に停止させる指令が発せられてエンジン1が停止すると、ドライバーは、イグニッションスイッチが切られたものと思い込んで車両を離れてしまうことがあるからである。
なお、ポジションスイッチPSWがDレンジであり、かつモードスイッチMSWがSモード(以下この状態を「DレンジSモード」という)の場合は、エンジン1の自動停止を行なわない。ドライバーは、DレンジSモードでは、素早い車両の発進などが行えることを期待しているからである。また、ポジションスイッチPSWがLレンジ、Rレンジの場合に、エンジン1の自動停止が行なわれないのは、車庫入れなどの際に頻繁にエンジン1が自動停止したのでは、煩わしいからである。
【0090】
2) ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONの状態であること; ドライバーに注意を促すためである。ブレーキスイッチBSWがONの場合、ドライバーは、ブレーキペダルBPに足を置いた状態にある。したがって、仮に、エンジン1の自動停止により駆動力がなくなって車両が坂道を後退し始めても、ドライバーは、ブレーキペダルBPの踏増しを容易に行い得るからである。
【0091】
3) エンジン1始動後、一旦車速が5km/h以上に達すること; クリープ走行での車庫出し車庫入れを容易にするためである。車両を車庫から出し入れする際の切り替えし操作などで、停止するたびにエンジン1が自動停止したのでは、煩わしいからである。
【0092】
4) 車速0km/hであること; 停止していれば駆動力は必要がないからである。
5)バッテリ容量が所定値以上であること; エンジン1停止後、モータ2でエンジン1を再始動することができないという事態を防止するためである。
6)電気負荷所定値以下であること; 負荷への電気の供給を確保するためである。
【0093】
7) マスターパワMPの定圧室の負圧が所定値以上であること; 定圧室の負圧が小さい状態でエンジン1を停止すると、定圧室の負圧はエンジン1の吸気管より導入しているため、定圧室の負圧はさらに小さくなり、ブレーキペダルBPを踏込んだ場合の踏込み力の増幅が小さくなりブレーキの効きが低下してしまうからである。
【0094】
8) アクセルペダルが踏込まれていないこと; ドライバーは、駆動力の増強を望んでおらず、エンジン1を停止しても支障がないからである。
【0095】
9) CVT3が弱クリープ状態であること; ドライバーに強くブレーキペダルBPを踏込ませて、エンジン1停止後も車両が後退するのを防ぐためである。すなわち、エンジン1が始動している場合、坂道での後退は、ブレーキ力とクリープ力の合計で防止される。このため、強クリープ状態では、ドライバーがブレーキペダルBPの踏込みを加減して、強く踏込まないで弱くしか踏込んでいない場合がある。
【0096】
10) CVT3のレシオがローであること; CVT3のレシオ(プーリ比)がローでない場合は円滑な発進ができない場合があるため、エンジン1の自動停止は行わない。したがって、円滑な発進のため、CVT3のレシオがローである場合には、エンジン1の自動停止を行う。
【0097】
11) エンジン1の水温が所定値以上であること; エンジン1の自動停止・自動始動は、エンジン1が安定している状態で実施するのが好ましいからである。水温が低いと、寒冷地では、エンジン1が再始動しない場合があるからである。
【0098】
12) CVT3の油温が所定値以上であること; CVT3の油温が低い場合は、発進クラッチの実際の油圧の立ち上りに後れを生じ、エンジン1の始動から強クリープ状態になるまでに時間がかかり、坂道で車両が後退する場合があるため、エンジン1の停止を禁止する。
【0099】
13) ブレーキ液の温度が所定値以上であること; ブレーキ液の温度が低い場合(すなわち、ブレーキ液の粘性が高い場合)は、絞りDでの流体抵抗が大きくなり、不要なブレーキの引きずりが生じるからである。このため、ブレーキ液圧保持装置RUは作動させない。したがって、エンジン1の自動停止および弱クリープ状態を禁止して、強クリープによって、坂道での後退を防止する。
【0100】
14) ブレーキ液圧保持装置RUが正常であること; ブレーキ液圧保持装置RUに異常がある場合は、ブレーキ液圧を保持することができないことがあるので、強クリープ状態を継続させて、坂道で車両が後退しないようにする。したがって、ブレーキ液圧保持装置RUに異常がある場合は、エンジン1の自動停止を行わない。他方、ブレーキ液圧保持装置RUが正常である場合は、エンジン1の自動停止を行っても支障がない。
【0101】
《ブレーキ液圧の保持が解除される場合》
一旦、ON(閉状態)になった電磁弁SVA,SVBは、図6(a)に示すように、I)ブレーキペダルBPの踏込み開放後、所定の遅延時間が経過した場合、II)駆動力が強クリープ状態になった場合、III)車速が5km/h以上になった場合、のいずれかの条件を満たすときにOFF(開状態)になり、ブレーキ液圧の保持が解除される。
【0102】
I) 遅延時間は、ブレーキペダルBPの踏込みが開放された場合(ブレーキスイッチBSWがOFFになった場合)に、カウントされ始める。遅延時間は2〜3秒程度であり、フェイルアンドセーフアクションとして電磁弁SVA,SVBをOFF(開状態)にして、ブレーキの引きずりをなくする。
【0103】
II) 駆動力が強クリープ状態になると電磁弁SVA,SVBをOFF(開状態)にするのは、強クリープ状態は5度の坂道に抗して車両を停止させることができるような駆動力を備えるため、ホイールシリンダWCにブレーキ液圧を保持して車両が後退するのを防止する必要がなくなるからである。強クリープ状態になるのは強クリープ指令(F_SCRP)が発せられた後であるが、強クリープ指令は、DレンジにおいてブレーキペダルBPの踏込みが開放された場合(ブレーキスイッチBSWがOFFの場合)に発せられる。
【0104】
III) 車速が5km/h以上になると電磁弁SVA,SVBがOFF(開状態)になるのは、無駄なブレーキの引きずりをなくするためのフェイルアンドセーフアクションである。
【0105】
〔エンジンの自動始動条件〕
エンジン1の自動停止後、エンジン1は以下の場合に自動的に始動されるが、この条件を説明する(図6(b)参照)。以下の条件のいずれかを満たす場合に、エンジン1が自動的に始動する。
【0106】
1) DレンジDモードであり、かつブレーキペダルBPの踏込みが開放されたこと; ドライバーの発進操作が開始されたと判断されるため、エンジン1は自動始動する。
【0107】
2) DレンジSモードに切換えられた場合; DレンジDモードでエンジン1が自動停止した後、DレンジSモードに切換えると、エンジン1は自動始動する。ドライバーはDレンジSモードでは素早い発進を期待するからであり、ブレーキペダルBPの踏込みの開放を待つことなく、エンジン1を自動始動する。
【0108】
3) アクセルペダルが踏込まれた場合; ドライバーは、エンジン1による駆動力を期待しているからである。
【0109】
4) Pレンジ、Nレンジ、Lレンジ、Rレンジに切換えられた場合; DレンジDモードでエンジン1が自動停止した後、Pレンジなどに切換えると、エンジン1は自動始動する。PレンジまたはNレンジに切換えた場合に、エンジン1が自動始動しないと、ドライバーはイグニッションスイッチを切ったものと思ったり、イグニッションスイッチを切る必要がないものと思って、そのまま車両から離れてしまうことがあり、フェイルアンドセーフの観点から好ましくないからである。このような事態を防止するため、エンジン1を再始動する。また、Lレンジ、Rレンジに切換えられた時にエンジン1を自動始動するのは、ドライバーに発進の意図があると判断されるからである。
【0110】
5) バッテリ容量が所定値以下になった場合; バッテリ容量が所定値以上でなければエンジン1の自動停止はなされないが、一旦、エンジン1が自動停止された後でも、バッテリ容量が低減する場合がある。この場合は、バッテリに充電することを目的としてエンジン1が自動始動される。なお、所定の値は、これ以上バッテリ容量が低減するとエンジン1を自動始動することができなくなるという限界のバッテリ容量よりも高い値に設定される。
【0111】
6) 電気負荷が所定値以上になった場合; 例えば、照明などの電気負荷が稼動していると、バッテリ容量が急速に低減してしまい、エンジン1を再始動することができなくなってしまうからである。したがって、バッテリ容量にかかわらず電気負荷が所定値以上である場合は、エンジン1を自動始動する。
【0112】
7) マスターパワMPの負圧が所定値以下になった場合; マスターパワMPの負圧が小さくなるとブレーキの制動力が低下するため、これを確保するためにエンジン1を再始動する。
【0113】
8) ブレーキ液圧保持装置RUが故障している場合; 電磁弁SVA,SVBや電磁弁の駆動回路などが故障している場合は、エンジン1を始動して強クリープ状態を作り出す。エンジン1自動停止後、電磁弁の駆動回路を含むブレーキ液圧保持装置RUに故障が検出された場合は、発進時、ブレーキペダルBPの踏込みが開放された際に、ブレーキ液圧を保持することができない場合があるので、強クリープ状態にすべく、故障が検出された時点でエンジン1を自動始動する。すなわち、強クリープ状態で車両が後退するのを防止し、坂道発進を容易にする。なお、ブレーキ液圧保持装置RUの故障検出は、故障検出装置DUで行う。
【0114】
《通常時の制御タイムチャート》
次に、前記システム構成を備えた車両について、走行時を例に、どのような制御が行われるのかを、図7を参照して説明する。なお、車両のポジションスイッチPSWおよびモードスイッチMSWはDモードDレンジで変化させないこととする。また、ブレーキ液圧保持装置RUは、リリーフ弁RVを備えた構成のものである。
ここで、図7(a)の上段の制御タイムチャートは、車両の駆動力とブレーキ力の増減を時系列で示した図である。図中、太い線が駆動力を示し、細い線がブレーキ力を示す。図7(a)の下段の制御タイムチャートは、電磁弁SVA,SVBのON(閉)/OFF(開)を示した図である。図7(b)は、停止時のブレーキ液圧回路BCの状態を示す図であり、電磁弁SV(SVA,SVB)は,ON状態(閉状態)にある。
【0115】
まず、図7(a)において、車両走行時,ドライバーがブレーキペダルBPを踏込むと(ブレーキスイッチBSW[ON])、ブレーキ力が増して行く。ブレーキペダルBPを踏込む際には、ドライバーはアクセルペダルの踏込みを開放するため、駆動力は、減少して行きやがて強クリープ状態になる(通常のアイドリング状態)。そして、継続してブレーキペダルBPが踏込まれて、車速が5km/h以下になると、弱クリープ指令(F_WCRP)が発せられ、弱クリープ状態になり(F_WCRPON)、さらに、駆動力が減少する。
【0116】
そして、車速が0km/hになると、電磁弁SVA,SVBがON(閉状態)になるとともに、エンジン1が自動的に停止(F_ENGOFF)して駆動力がなくなる。この際、電磁弁SVA,SVBがON(閉状態)になるので、ホイールシリンダWCにはブレーキ液圧が保持される。また、エンジン1は弱クリープ状態を経て停止するので、ドライバーは、坂道で車両が後退しない程度に強くブレーキペダルBPを踏込んでいる。したがって、エンジン1が自動停止しても車両が後退することはない(後退抑制力)。仮に、後退するようでもブレーキペダルBPを僅かに踏増しするだけで、後退は防止される。ドライバーはブレーキペダルBPを踏込んだ状態(ブレーキペダルBPに足を置いた状態)にいるので、慌てることなく、容易にブレーキペダルBPの踏増しを行える。なお、エンジン1を自動停止するのは、燃費を向上させることおよび排気ガスの発生をなくするためである。
駆動力が弱クリープ状態になる条件、電磁弁SVA,SVBがON(閉状態)になる条件、エンジン1が自動停止される条件は、図5を参照して既に説明したとおりである。
【0117】
次に、ドライバーが、再発進に備えてブレーキペダルBPの踏込みを開放する。ドライバーがリリーフ弁RVの設定圧(リリーフ圧)以上にブレーキペダルBPを踏込んでいる場合には、図7(a)に示すようにブレーキペダルBPの踏込みの開放により、リリーフ弁RVが作動してリリーフ圧までブレーキ力が短時間に低減する。このリリーフ弁RVにより、ドライバーが必要以上にブレーキペダルBPを強く踏込んでいる場合でも、迅速な坂道発進を行うことができる。
【0118】
ブレーキペダルBPの踏込みが完全に開放されると(ブレーキスイッチBSW[OFF])、エンジン自動始動指令(F_ENGON)が発せられ、信号通信およびメカ系の遅れによるタイムラグの後、エンジン1が自動始動する。そして、駆動力が増加して強クリープ状態になる(F_SCRPON)。ブレーキペダルBPの踏込みが開放されて(ブレーキスイッチBSWがOFFになって)から、強クリープ状態になるまでの時間は約0.5秒である。この間は、電磁弁SVA,SVBが依然としてON状態(閉状態)にあるので、ブレーキ液は細い絞りDを通してのみしかマスターシリンダMC側に移動することができないので、ブレーキ力は徐々にしか減少せず、車両の後退が防止される。
【0119】
そして、強クリープ状態(F_SCRPON)になれば坂道に抗することができる駆動力が生じるので、ブレーキ力が車両の発進の障害にならないように、また、ブレーキの無駄な引きずりをなくするため、ON状態(閉状態)にある電磁弁SVA,SVBをOFF(開状態)にして、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧を一気に低下させてブレーキ力をなくする。その後、アクセルペダルのさらなる踏込みにより駆動力が増加して、車両は加速して行く。
駆動力が強クリープ状態になる条件、電磁弁SVA,SVBがOFF(開状態)になる条件は、図6を参照して既に説明したとおりである。
【0120】
なお、図7(a)上段図のブレーキ力を示す線において、「リリーフ圧」の部分から右斜め下に伸びる仮想線はブレーキ液圧が保持されない場合を示し、この場合は、ブレーキペダルBPの踏込み力の低下に遅れることなくブレーキ力が低下し消滅するので、坂道発進を容易に行うことはできない。また、図7(a)上段図のブレーキ力を示す線において、電磁弁SVA,SVBがOFF(開状態)になった部分から右斜め下に徐々に低下して行く仮想線は、電磁弁SVA,SVBがOFF(開状態)にならない場合のブレーキ力の減少状況を示す。この仮想線に示すようにブレーキ力が低下して行くと、ブレーキの引きずりを生じて好ましくない。図7(a)下段図のV_BKDLYは、遅延時間を示す。遅延時間が経過したならば、フェイルアンドセーフアクションとして、状況の如何にかかわらず電磁弁SVA,SVBがOFF(開状態)になる。
【0121】
《ブレーキ液の温度が所定値以下の時の制御》
ブレーキ液の温度が低くなると、ブレーキ液の粘性が高くなり、ブレーキ液圧保持装置RUの絞りDを通過する単位時間あたりのブレーキ液量が少なくなる。その場合、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVがON(閉状態)の時、ブレーキペダルBPの踏込みが緩められると、踏込みが緩められた後のブレーキペダルBPの踏込み力に相当するブレーキ液圧までホイールシリンダWC内のブレーキ液圧が低下するまでに非常に時間を要する。その結果、下り坂で、ブレーキペダルBPを踏込みを緩めるだけで、車両を円滑に発進させることができない。そこで、ブレーキ液の温度が所定値以下になった場合、ブレーキ液圧保持装置RUの作動を禁止する。さらに、ブレーキ液圧保持装置RUの作動禁止時に、ホイールシリンダWC内にブレーキ液圧が保持されないことを考慮して、上り坂で車両の後退を防止するために、駆動力低減装置または/および原動機停止装置の作動も禁止する。
【0122】
ブレーキ液の温度は、ブレーキ液圧保持装置RUの温度センサTSによって、検出される。その検出されたブレーキ液の温度は、ブレーキ液圧保持装置RUからCVTECU6にV_TBKOによって送信される。送信後、CVTECU6は、ブレーキ液の温度が−10℃以下か否かを判断する。そして、CVTECU6は、ブレーキ液の温度が−10℃以下と判断すると、前記した弱クリープ状態にするための条件(図5(a)の条件参照)を満たさないので、強クリープ状態を維持する。さらに、前記した電磁弁SVをON(閉状態)にするための条件(図5(a)の条件参照)を満たさないので、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVをOFF(開状態)に維持する。
【0123】
また、CVTECU6は、F_CVTOKにおけるブレーキ液の温度が所定値(−10℃)以上の条件を満たさなくなるため、F_CVTOKを0に切換える。そして、0となったF_CVTOKが送信されるFI/MGECU4は、前記したエンジン自動停止条件(図5(b)の条件参照)を満たさないので、エンジン1の自動停止を行わない。
【0124】
前記したように、車両は、ブレーキ液の温度が所定値(−10℃)以下になった時に、強クリープ状態を維持する。さらに、ブレーキペダルBPの踏込みが緩められた場合、ホイールシリンダWC内のブレーキ液が絞りDによる流量制限を受けることなくマスターシリンダMC側に戻ることができるため、踏込みが緩められた後のブレーキペダルBPの踏込み力に相当するブレーキ液圧までホイールシリンダWC内のブレーキ液圧が遅滞なく低下する。その結果、この車両は、下り坂での発進時に、ブレーキペダルBPの踏込みを緩めるだけで円滑に発進することができる。他方、上り坂での発進時に、ブレーキペダルBPの踏込みを開放しても後退することはない。
【0125】
次に、車両のブレーキ液の温度が所定値(−10℃)以下になった時におけるブレーキ力と駆動力の制御を時系列に沿って説明する。この車両は駆動力低減装置および原動機停止装置を備えるが、ここでは、駆動力低減装置のみを備える場合、駆動力低減装置および原動機停止装置を備える場合および原動機停止装置のみを備える場合の3つのパターンについて説明する。
【0126】
《ブレーキ液の温度が所定値以下の時の制御タイムチャート(1)》
図8を参照して、駆動力低減装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時のブレーキ力と駆動力の制御を時系列に沿って説明する。また、この場合は、駆動力低減装置および原動機停止装置の両方を備えるが、エンジン自動停止条件を満たさないために、エンジン1が自動停止しない場合にも該当する。なお、車両のポジションスイッチPSWおよびモードスイッチMSWは、DレンジDモードを変化させないこととする。
なお、図8の上段の制御タイムチャートは、車両の駆動力とブレーキ力の増減を時系列で示した図であり、図中の太い線が駆動力を示し、細い線がブレーキ力を示す。また、図8の下段の制御タイムチャートは、電磁弁SVA,SVBのON(閉)/OFF(開)を示した図である。
【0127】
ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONされるまで、駆動力は、アクセルペダル(図示せず)の踏込み量などに応じて駆動力を有し、ブレーキ力はない。そして、アクセルペダルの踏込みが開放されるとともに、ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONされると、駆動力が減少するとともに、ブレーキ力が増加して、車速が低下していく。さらに、駆動力が減少し、強クリープ状態になり(通常のアイドリング状態)、ブレーキ力も最大になる。
【0128】
通常、ブレーキスイッチBSWがONかつ車速が5km/hになった時点S5で、駆動力低減装置は、弱クリープ指令を出し、弱クリープ状態になるまで駆動力を減少させる。しかし、温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度が−10℃以下であるため、駆動力低減装置は、作動が禁止され、弱クリープ指令を出さない。そのため、強クリープ状態が、維持される。
【0129】
さらに、車速が低下し、弱クリープ状態かつ車速0km/hになった時点S0で、通常、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA,SVBがON(閉)する。しかし、ブレーキ液の温度が−10℃以下であるため、電磁弁SVA,SVBは、ONせず、開状態を維持する。
【0130】
その結果、ブレーキペダルBPの踏込み開放が始められると、ブレーキ液圧保持装置RUが作動しないため、ブレーキペダルBPの踏込みの低下速度に応じて、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧が低下し、ブレーキ力も減少する。すなわち、ホイールシリンダWCのブレーキ液が絞りDによる流量制限を受けないため、ブレーキ力が保持されない。しかし、駆動力は強クリープ状態が維持されているため、坂道でも、車両は、後退しない。
【0131】
駆動力低減装置のみを備える車両によれば、ブレーキ液の温度が所定値(−10℃)以下の時に、CVTECU6によって温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度が所定値以下であることを判断する。そして、CVTECU6は、ブレーキ液圧保持装置RUおよび駆動力低減装置の作動を禁止する。そのため、ブレーキペダルBPが踏込まれて、車速が5km/h以下となっても、強クリープ状態が維持される。さらに、車速が0km/hとなっても、電磁弁SVA,SVBのOFF(開状態)が維持される。その結果、ブレーキ液の温度が所定値以下でも、この車両は、下り坂での発進時に、ブレーキペダルBPの踏込みを緩めると円滑に発進することができる。他方、上り坂での発進時に、ブレーキペダルBPの踏込みを開放しても後退することはない。
【0132】
《ブレーキ液の温度が所定値以下の時の制御タイムチャート(2)》
図9を参照して、駆動力低減装置および原動機停止装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時のブレーキ力と駆動力の制御を時系列に沿って説明する。なお、車両のポジションスイッチPSWおよびモードスイッチMSWは、DレンジDモードを変化させないこととする。
なお、図9の上段の制御タイムチャートは、車両の駆動力とブレーキ力の増減を時系列で示した図であり、図中の太い線が駆動力を示し、細い線がブレーキ力を示す。また、図9の下段の制御タイムチャートは、電磁弁SVA,SVBのON(閉)/OFF(開)を示した図である。
【0133】
ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONされるまで、駆動力は、アクセルペダル(図示せず)の踏込み量などに応じて駆動力を有し、ブレーキ力はない。そして、アクセルペダルの踏込みが開放されるとともに、ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONされると、駆動力が減少するとともに、ブレーキ力が増加して、車速が低下していく。さらに、駆動力が減少し、強クリープ状態になり(通常のアイドリング状態)、ブレーキ力も最大になる。
【0134】
通常、ブレーキスイッチBSWがONかつ車速が5km/hになった時点S5で、駆動力低減装置は、弱クリープ指令を出し、弱クリープ状態になるまで駆動力を減少させる。しかし、温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度が−10℃以下であるため、駆動力低減装置は、作動が禁止され、弱クリープ指令を出さない。そのため、強クリープ状態が、維持される。
【0135】
さらに、車速が低下し、弱クリープ状態かつ車速0km/hになった時点S0で、通常、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA,SVBがON(閉)する。しかし、ブレーキ液の温度が−10℃以下であるため、電磁弁SVA,SVBは、ONせず、開状態を維持する。また、車速0km/hになった時点S0で、通常、原動機停止装置は、エンジン自動停止条件を満たしたことを確認し、エンジン1を自動停止させる。そのため、駆動力が全くなくなる。しかし、CVTECU6でブレーキ液の温度が−10℃以下と判断され、FI/MGECU4にF_CVTOKでその情報が送信されているので、原動機停止装置は、作動が禁止され、エンジン1を自動停止させない。そのため、強クリープ状態が、維持される。
【0136】
その結果、ブレーキペダルBPの踏込み開放が始められると、ブレーキ液圧保持装置RUが作動しないため、ブレーキペダルBPの踏込みの低下速度に応じて、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧が低下し、ブレーキ力も減少する。すなわち、ホイールシリンダWCのブレーキ液が絞りDによる流量制限を受けないため、ブレーキ力が保持されない。しかし、駆動力は強クリープ状態が維持されているため、坂道でも、車両は、後退しない。
【0137】
駆動力低減装置および原動機停止装置を備える車両によれば、ブレーキ液の温度が所定値(−10℃)以下の時に、CVTECU6によって温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度が所定値以下であることを判断する。そして、CVTECU6は、ブレーキ液圧保持装置RU、駆動力低減装置および原動機停止装置の作動を禁止する。そのため、ブレーキペダルBPが踏込まれて、車速が5km/h以下となっても、強クリープ状態が維持される。さらに、車速が0km/hになっても、エンジン1が自動で停止されることなく、強クリープ状態が維持されるとともに、電磁弁SVA,SVBのOFF(開状態)が維持される。その結果、ブレーキ液の温度が所定値以下でも、この車両は、下り坂での発進時に、ブレーキペダルBPの踏込みを緩めると円滑に発進することができる。他方、上り坂での発進時に、ブレーキペダルBPの踏込みを開放しても後退することはない。
【0138】
《ブレーキ液の温度が所定値以下の時の制御タイムチャート(3)》
図10を参照して、原動機停止装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時のブレーキ力と駆動力の制御を時系列に沿って説明する。なお、車両のポジションスイッチPSWおよびモードスイッチMSWは、DレンジDモードを変化させないこととする。
なお、図10の上段の制御タイムチャートは、車両の駆動力とブレーキ力の増減を時系列で示した図であり、図中の太い線が駆動力を示し、細い線がブレーキ力を示す。また、図10の下段の制御タイムチャートは、電磁弁SVA,SVBのON(閉)/OFF(開)を示した図である。
【0139】
ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONされるまで、駆動力は、アクセルペダル(図示せず)の踏込み量などに応じて駆動力を有し、ブレーキ力はない。そして、アクセルペダルの踏込みが開放されるとともに、ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONされると、駆動力が減少するとともに、ブレーキ力が増加して、車速が低下していく。さらに、駆動力が減少し、強クリープ状態になり(通常のアイドリング状態)、ブレーキ力も最大になる。
【0140】
さらに、車速が低下し、弱クリープ状態かつ車速0km/hになった時点S0で、通常、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA,SVBがON(閉)する。しかし、ブレーキ液の温度が−10℃以下であるため、電磁弁SVA,SVBは、ONせず、開状態を維持する。また、車速0km/hになった時点S0で、通常、原動機停止装置は、エンジン自動停止条件を満たしたことを確認し、エンジン1を自動停止させる。そのため、駆動力が全くなくなる。しかし、CVTECU6でブレーキ液の温度が−10℃以下と判断され、FI/MGECU4にF_CVTOKでその情報が送信されているので、原動機停止装置は、作動が禁止され、エンジン1を自動停止させない。そのため、強クリープ状態が、維持される。
【0141】
その結果、ブレーキペダルBPの踏込み開放が始められると、ブレーキ液圧保持装置RUが作動しないため、ブレーキペダルBPの踏込みの低下速度に応じて、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧が低下し、ブレーキ力も減少する。すなわち、ホイールシリンダWCのブレーキ液が絞りDによる流量制限を受けないため、ブレーキ力が保持されない。しかし、駆動力は強クリープ状態が維持されているため、坂道でも、車両は、後退しない。
【0142】
原動機停止装置のみを備える車両によれば、ブレーキ液の温度が所定値(−10℃)以下の時に、CVTECU6によって温度センサTSで検出されたブレーキ液の温度が所定値以下であることを判断する。そして、CVTECU6は、ブレーキ液圧保持装置RUおよび原動機停止装置の作動を禁止する。そのため、ブレーキペダルBPが踏込まれて、車速が0km/hになっても、エンジン1が自動で停止されることなく、強クリープ状態が維持されるとともに、電磁弁SVA,SVBのOFF(開状態)が維持される。その結果、ブレーキ液の温度が所定値以下でも、この車両は、下り坂での発進時に、ブレーキペダルBPの踏込みを緩めると円滑に発進することができる。他方、上り坂での発進時に、ブレーキペダルBPの踏込みを開放しても後退することはない。
【0143】
以上、本発明は、前記の実施の形態に限定されることなく、様々な形態で実施される。
例えば、ブレーキ液の温度の所定値を−10℃と設定したが、ブレーキ液の性状、絞りの具体的な構造などによって他の所定値を設定してもよい。
また、温度検出手段としてサーミスタを使用したが、他の温度センサやエンジンの吸気温から推定する手段としてもよい。
【0144】
【発明の効果】
前記のように、請求項1の発明に係る原動機付車両によれば、ブレーキ液の温度が所定値以下の時、ブレーキ液圧保持装置および駆動力低減装置の作動を禁止する。そのため、ブレーキペダルの踏込みが緩められた場合、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を遅滞なく低下させることができる。その結果、ブレーキ液の温度が低い場合(すなわち、ブレーキ液の粘性が高い場合)でも、下り坂での発進時に、ブレーキペダルの踏込みを緩めるだけで、車両を円滑に発進させることができる。また、所定の低車速以下でも駆動力を大きな状態に維持しているので、上り坂での発進時に、ブレーキ力が保持されていなくても、車両の後退を防止することができる。
【0145】
請求項2の発明に係る原動機付車両によれば、ブレーキ液の温度が所定値以下の時、ブレーキ液圧保持装置、駆動力低減装置および原動機停止装置の作動を禁止する。そのため、ブレーキペダルの踏込みが緩められた場合、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を遅滞なく低下させることができる。その結果、ブレーキ液の温度が低い場合(すなわち、ブレーキ液の粘性が高い場合)でも、下り坂での発進時に、ブレーキペダルの踏込みを緩めるだけで、車両を円滑に発進させることができる。また、車両停止時でも駆動力を大きな状態に維持しているので、上り坂での発進時に、ブレーキ力が保持されていなくても、車両の後退を防止することができる。
【0146】
請求項3の発明に係る原動機付車両によれば、ブレーキ液の温度が所定値以下の時、ブレーキ液圧保持装置および原動機停止装置の作動を禁止する。そのため、ブレーキペダルの踏込みが緩められた場合、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を遅滞なく低下させることができる。その結果、ブレーキ液の温度が低い場合(すなわち、ブレーキ液の粘性が高い場合)でも、下り坂での発進時に、ブレーキペダルの踏込みを緩めるだけで、車両を円滑に発進させることができる。また、車両停止時でも駆動力を大きな状態に維持しているので、上り坂での発進時に、ブレーキ力が保持されていなくても、車両の後退を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る原動機付車両のシステム構成図である。
【図2】本発明に係る原動機付車両のブレーキ液圧保持装置の構成図である。
【図3】図2のブレーキ液圧保持装置の具体的な構造を示す断面図である。
【図4】図3のブレーキ液圧保持装置の(a)リリーフ弁と絞り部分の要部を拡大した断面図、(b)絞りを切削により形成する際の作用図、(c)絞りを押付けにより形成する際の作用図、(c−1)溝加工を示す作用図、(c−2)コイニングを示す作用図である。
【図5】本発明に係る原動機付車両の(a)ブレーキ液圧保持装置の電磁弁をONするためのロジック、(b)エンジン自動停止条件である。
【図6】本発明に係る原動機付車両の(a)ブレーキ液圧保持装置の電磁弁をOFFするためのロジック、(b)エンジン自動始動条件である。
【図7】本発明に係る原動機付車両において駆動力低減装置、原動機停止装置およびブレーキ液圧保持装置が作動時の(a)駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャート、(b)車両停止時のブレーキ液圧回路の構成図である。
【図8】本発明に係る原動機付車両において駆動力低減装置およびブレーキ液圧保持装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時の駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャートである。
【図9】本発明に係る原動機付車両において駆動力低減装置、原動機停止装置およびブレーキ液圧保持装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時の駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャートである。
【図10】本発明に係る原動機付車両において原動機停止装置およびブレーキ液圧保持装置を備える場合でかつブレーキ液の温度が所定値以下の時の駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャートである。
【図11】ブレーキ液の温度−粘度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1・・・エンジン(原動機)
3・・・ベルト式無段変速機(CVT)(駆動力低減装置)
4・・・燃料噴射/マネージメント電子制御ユニット(FI/MGECU)(原動機停止装置)
5・・・モータ電子制御ユニット(MOTECU)
6・・・CVT電子制御ユニット(CVTECU)(駆動力低減装置)(制御部)
8・・・駆動輪
BP・・・ブレーキペダル
BYP・・・迂回通路
D・・・絞り(ブレーキ液圧低下速度減少手段)
DU・・・故障検出装置
MC・・・マスターシリンダ
MNP・・・液圧通路
RU・・・ブレーキ液圧保持装置
SV,SVA,SVB・・・電磁弁(ブレーキ液圧低下速度減少手段)
TS・・・温度センサ(温度検出手段)
WC・・・ホイールシリンダ
Claims (3)
- アクセルペダルの踏込み開放時にも変速機において走行レンジが選択されている場合は、原動機から駆動輪へ駆動力を伝達する原動機付車両であって、
所定の低車速以下の時、前記駆動力の大きさをブレーキペダルの踏込みに応じて切換え、前記ブレーキペダルの踏込み時には前記ブレーキペダルの踏込み開放時に比べて前記駆動力を低減する駆動力低減装置と、
前記ブレーキペダルの踏込み開放後も引続きホイールシリンダにブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置とを備え、
前記ブレーキ液圧保持装置は、
ドライバーのブレーキペダルの踏込み力に応じたブレーキ液圧を発生するマスターシリンダと前記ホイールシリンダを結ぶ液圧通路と、
前記液圧通路に設けられ、前記液圧通路を連通する連通位置と前記液圧通路を遮断する遮断位置とに切換わる電磁弁と、
前記電磁弁を迂回し、前記マスターシリンダと前記ホイールシリンダ間を常時連通する迂回通路と、
前記迂回通路に設けられ、前記迂回通路の流量を制限する絞りと、
前記電磁弁を前記連通位置または前記遮断位置に切換える制御部とを備え、
前記電磁弁を前記遮断位置に切換えて、前記絞りの流量制限により前記ブレーキペダルの踏込み力の低下速度に対して前記ホイールシリンダ内のブレーキ液圧の低下速度を小さくするブレーキ液圧低下速度減少手段で構成される、
原動機付車両において、
ブレーキ液の温度を検出する温度検出手段を備え、
前記ブレーキ液の温度が所定値以下の時に前記駆動力低減装置および前記ブレーキ液圧保持装置の作動を禁止することを特徴とする原動機付車両。 - アクセルペダルの踏込み開放時にも変速機において走行レンジが選択されている場合は、原動機から駆動輪へ駆動力を伝達する原動機付車両であって、
所定の低車速以下の時、前記駆動力の大きさをブレーキペダルの踏込みに応じて切換え、前記ブレーキペダルの踏込み時には前記ブレーキペダルの踏込み開放時に比べて前記駆動力を低減する駆動力低減装置と、
前記原動機付車両停止時、前記原動機を停止可能な原動機停止装置と、
前記ブレーキペダルの踏込み開放後も引続きホイールシリンダにブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置とを備え、
前記ブレーキ液圧保持装置は、
ドライバーのブレーキペダルの踏込み力に応じたブレーキ液圧を発生するマスターシリンダと前記ホイールシリンダを結ぶ液圧通路と、
前記液圧通路に設けられ、前記液圧通路を連通する連通位置と前記液圧通路を遮断する遮断位置とに切換わる電磁弁と、
前記電磁弁を迂回し、前記マスターシリンダと前記ホイールシリンダ間を常時連通する迂回通路と、
前記迂回通路に設けられ、前記迂回通路の流量を制限する絞りと、
前記電磁弁を前記連通位置または前記遮断位置に切換える制御部とを備え、
前記電磁弁を前記遮断位置に切換えて、前記絞りの流量制限により前記ブレーキペダルの踏込み力の低下速度に対して前記ホイールシリンダ内のブレーキ液圧の低下速度を小さくするブレーキ液圧低下速度減少手段で構成される、
原動機付車両において、
ブレーキ液の温度を検出する温度検出手段を備え、
前記ブレーキ液の温度が所定値以下の時に前記駆動力低減装置、前記原動機停止装置および前記ブレーキ液圧保持装置の作動を禁止することを特徴とする原動機付車両。 - アクセルペダルの踏込み開放時にも変速機において走行レンジが選択されている場合は、原動機から駆動輪へ駆動力を伝達する原動機付車両であって、
前記原動機付車両停止時、前記原動機を停止可能な原動機停止装置と、
ブレーキペダルの踏込み開放後も引続きホイールシリンダにブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置とを備え、
前記ブレーキ液圧保持装置は、
ドライバーのブレーキペダルの踏込み力に応じたブレーキ液圧を発生するマスターシリンダと前記ホイールシリンダを結ぶ液圧通路と、
前記液圧通路に設けられ、前記液圧通路を連通する連通位置と前記液圧通路を遮断する遮断位置とに切換わる電磁弁と、
前記電磁弁を迂回し、前記マスターシリンダと前記ホイールシリンダ間を常時連通する迂回通路と、
前記迂回通路に設けられ、前記迂回通路の流量を制限する絞りと、
前記電磁弁を前記連通位置または前記遮断位置に切換える制御部とを備え、
前記電磁弁を前記遮断位置に切換えて、前記絞りの流量制限により前記ブレーキペダルの踏込み力の低下速度に対して前記ホイールシリンダ内のブレーキ液圧の低下速度を小さくするブレーキ液圧低下速度減少手段で構成される、
原動機付車両において、
ブレーキ液の温度を検出する温度検出手段を備え、
前記ブレーキ液の温度が所定値以下の時に前記原動機停止装置および前記ブレーキ液圧保持装置の作動を禁止することを特徴とする原動機付車両。
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