JP3695687B2 - ブレーキ力保持装置付車両 - Google Patents
ブレーキ力保持装置付車両 Download PDFInfo
- Publication number
- JP3695687B2 JP3695687B2 JP34725999A JP34725999A JP3695687B2 JP 3695687 B2 JP3695687 B2 JP 3695687B2 JP 34725999 A JP34725999 A JP 34725999A JP 34725999 A JP34725999 A JP 34725999A JP 3695687 B2 JP3695687 B2 JP 3695687B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- vehicle
- brake
- force
- state
- braking force
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Expired - Lifetime
Links
Images
Landscapes
- Regulating Braking Force (AREA)
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両停止時、運転者のブレーキ操作解除後も車両に引き続きブレーキ力を作用させるブレーキ力保持装置を備えるブレーキ力保持装置付車両に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両停止時運転者のブレーキ操作解除後も車両自体に発進駆動力が生じるまで、引き続きこの車両にブレーキ力を作用させることができるブレーキ力保持装置を備えたブレーキ力保持装置付車両が知られている。ブレーキ力保持装置には、マスタシリンダとホイールシリンダ間の液圧通路に電磁弁を設け、この液圧通路を電磁弁で連通/遮断してブレーキ力を保持するものがある。このブレーキ力保持装置付車両は、ブレーキペダルの踏み込みが解除された後も、電磁弁で液圧通路を遮断してブレーキ液圧をホイールシリンダに保持する。そして、発進操作がなされると電磁弁による液圧通路の遮断を解除し、上り坂において後退のない円滑な発進を行えるようにしている。
【0003】
例えば、特開昭60−12360号公報には、マスタシリンダとホイールシリンダの間に電磁逆止弁を設け、電磁逆止弁を作動することにより、ホイールシリンダからマスタシリンダへのブレーキ液の逆流を阻止してブレーキ力を保持する車両用制動装置が開示されている。この電磁逆止弁の作動条件又は解除条件は、車速センサ、アクセルペダルスイッチ、ブレーキペダルスイッチなどの各種検出装置からの信号に基づいて電子式制御ユニットで判断している。
また、例えば、特開平9−202159号公報には、運転者のブレーキ操作にかかわらず車両にブレーキ力を付与できるブレーキ力付与手段と駆動力検出手段を備え、運転者がブレーキペダルを踏み込んだ状態からブレーキペダルを解除した際に、駆動力が小さい状態から大きな状態に切り替わるまでは、ブレーキ力付与手段を制御してブレーキ力を保持する発進クラッチを備えた車両におけるブレーキ力制御装置が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記したブレーキ力制御装置などにおけるブレーキ力の制御は、車両が停止している場所が上り坂であるか下り坂であるかにかかわらずブレーキ力を保持する。このため、下り坂において、運転者がブレーキペダルの踏み込みを緩めることで微速前進(車両の自重による微速前進)しようとする際に、円滑に発進することができないという課題を有する。また、ブレーキ力を保持する必要のない下り坂でブレーキ力を保持するのは、無駄な動作である。さらに、上り坂においても、車両が停止している場所の勾配に関係なく一定のブレーキ力を保持するため、実際の車両状態に対してブレーキ力の過不足が生じ、円滑な車両の発進の点から課題を有する。
【0005】
ところで、特開昭63−43854号公報には、マスタシリンダとホイールシリンダの間に電磁弁を設け、電磁弁制御手段から電磁弁への通電により、ホイールシリンダにブレーキ液圧を保持するブレーキ液圧保持装置の制御装置が開示されている。電磁弁制御手段は、傾斜検出手段、ブレーキスイッチ、クラッチスイッチ、バックギアスイッチからの信号に基づいて、上り坂において前進又は後進中に車両が停止した場合に電磁弁に通電する。このように傾斜検出手段を備えることで、下り坂での不必要なブレーキ力の保持を禁止して、ブレーキペダルの踏み込みを緩めることでの円滑な微速前進を可能としている。
しかし、上り傾斜(上り坂)又は下り傾斜(下り坂)を検出するため、特別の傾斜検出手段を必要とすると共に、車両の進行方向を判断するため、バックギアスイッチからの信号を必要とする。
また、この傾斜検出手段は、上り傾斜(上り坂)又は下り傾斜(下り坂)かを検出するものであり、勾配(勾配の程度)を検出することができない。従って、上り坂においては勾配に関係なく、一定のブレーキ力を保持する。このため、実際の車両状態に対してブレーキ力の過不足を生じ、円滑な車両の発進の点から、なお未解決な課題を残す。
【0006】
そこで、本発明は、簡単な構成で上記課題を解決し、円滑な車両の発進を行うことのできるブレーキ力保持装置付車両を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決すべく本発明者は鋭意研究を行い、運転者のブレーキ操作と車両が発進しようとしている場所の勾配との間に一定の関連性があることに着目し、本発明を完成するに至った。即ち、前記課題を解決した本発明は、車両の停止時における運転者のブレーキ操作解除後も車両自体に発進駆動力が生じるまで、引き続きこの車両にブレーキ力を作用させるブレーキ力保持装置を備えた車両において、前記運転者の停止時におけるブレーキ操作量を検出して、このブレーキ操作量から単位時間毎のブレーキ操作の解除速度を算出し、前記ブレーキ力保持装置は、前記解除速度に対応して設定されたブレーキ力を保持することを特徴とする。
【0008】
このブレーキ力保持装置付車両によれば、車両発進時、運転者が踏み込んでいたブレーキペダルの踏み込みを解除する際のブレーキ操作量の解除速度に基づいてブレーキ力保持装置を作動し、ブレーキ力を作用する(ブレーキ力を保持する)。そして、車両自体に発進駆動力が生じた時点で、ブレーキ力保持装置によるブレーキ力の保持を解除する。なお、ブレーキ力は、ブレーキ操作量の解除速度に応じて、ブレーキ操作量の解除速度が大きければ大きく保持し、ブレーキ操作量の解除速度が小さければ小さく保持するようにしてもよい(ブレーキ力を保持しないことを含む)。また、ブレーキ操作量の解除速度に基づいて、ブレーキ力を保持する場合とブレーキ力を保持しない場合(ブレーキ力保持装置を作動しない場合)の2段階を設定してもよい(大中小の3段階など何段階でもよい)。
【0009】
ここで、ブレーキ操作量の解除速度は、運転者がブレーキペダルの踏み込みを解除する際のブレーキ操作量を単位時間毎(微小時間毎)に算出したもの(ブレーキ操作量の時間微分値)であるが、このブレーキ操作量の解除速度は、車両が停止している場所の勾配に強く関係する。つまり、運転者は、上り坂では車両の後退が生じるので、ブレーキペダルの踏み込みを素早く解除してアクセルペダルを踏み込もうとする。従って、上り坂でのブレーキ操作量の解除速度は大きくなる。一方、下り坂では車両は自重で前進するので、ブレーキペダルの踏み込みを緩やかに解除して車両を制御しようとする。従って、下り坂でのブレーキ操作量の解除速度は小さくなる。また、平地では、ブレーキペダルの踏み込みを中くらいの速度で解除するため、ブレーキ操作量の解除速度は中くらいになる。これは、前進ギア(変速機のギアポジション)で坂道を上る場合も、下る場合も同じである。また、後進ギアで坂道を上る場合も、下る場合も同じである。
従って、この構成によれば、上り坂を登る場合に、ブレーキ操作解除後(ブレーキペダルの踏み込み開放後)も大きなブレーキ力が車両に作用し、後退のない車両の発進を行うことができる。また、下り坂を下る場合は、小さなブレーキ力(ゼロを含む)が作用し、ブレーキペダルの踏み込みを緩めることによる微速前進を行うことができる(自重による前進力が保持されたブレーキ力を上回る場合)。しかも、この構成においては、傾斜検出手段やバックギアスイッチなどを特に必要としない。
【0010】
ちなみに、ブレーキ操作量の解除速度は、ブレーキペダルが強く踏み込まれている状態から踏み込みが開放される場合、中くらいに踏み込まれている状態から踏み込みが開放される場合、緩く踏み込まれている状態から踏み込みが開放される場合など、ブレーキペダルの踏み込み状態(ストローク)に影響されることなく求めることができる利点がある。
【0011】
また、本発明のブレーキ力保持装置付車両は、前記ブレーキ操作量の解除速度が所定値を越えたことを条件に、前記ブレーキ力保持装置を作動させることを特徴とする(請求項2)。
この構成によれば、ブレーキ操作量の解除速度が所定値を越えた場合、つまり、運転者がブレーキペダルの踏み込みを早く解除する場合は、ブレーキ力保持装置が作動し、ブレーキ力が保持される。一方、ブレーキ操作量の解除速度が所定値に満たない場合、つまり、下り坂で運転者がブレーキペダルの踏み込みをゆっくりと解除する場合は、ブレーキ力保持装置が作動せず、ブレーキ力が保持されない。従って、ブレーキペダルの踏み込みを緩めることによる微速前進を、運転者の意に添って(運転者のブレーキペダル操作に基づいて)一層円滑に行うことができる。また、ブレーキ力保持装置の無駄な作動を排除することができる。
【0012】
さらに、本発明のブレーキ力保持装置付車両は、前記ブレーキ力保持装置が前記ブレーキ操作量の解除速度が大きいほど、大きなブレーキ力を前記車両に作用させることを特徴とする(請求項5)。つまり、上り坂を登る場合(前進・後退を問わず)、勾配が急であるほど車両の後退を生じやすい。このため、運転者は、勾配が急であるほどブレーキペダルの踏み込みをより素早く解除し、ペダルを踏み替えてアクセルペダルの踏み込みを開始し、原動機からの駆動力により後退を抑制しようとする。従って、ブレーキ操作量の解除速度が大きいほど大きなブレーキ力を車両に作用させ、ブレーキ操作量の解除速度が小さいほど小さなブレーキ力を車両に作用させることで、勾配(勾配の程度)にかかわらず円滑な車両の発進を行うことができる。なお、下り坂を下る場合(前進・後進を問わず)、車両には自重による前進力が生じる。このため、運転者は、ブレーキペダルの踏み込みをゆっくりと解除して、前進力をブレーキ力で制御しようとする。従って、このような、前進力が生じる下り坂の場合は、ブレーキ力の保持を行わないで、運転者の意に添ったブレーキ操作を可能とすることが好ましい。例えば、ブレーキ力保持装置を作動しないか、作動してもブレーキ力の保持を行わないことなどである。
【0013】
そして、本発明のブレーキ力保持装置付車両は、前記ブレーキ力保持装置が前記車両に作用するブレーキ力を漸減すると共に、このブレーキ力を漸減する漸減速度を前記ブレーキ操作量の解除速度が大きいほど、小さくすることを特徴とする(請求項6)。このように、ブレーキ力を漸次減少させることで、発進駆動力まで増大して行く駆動力と漸次減少するブレーキ力の調和を図って、円滑な車両の発進を実現することができる。同時に、ブレーキ操作量の解除速度が大きいほど漸減速度を小さくすることで、例えば、後退を生じやすい急勾配の上り坂ほど(大きな)ブレーキ力が長く保持される。従って、発進駆動力が生じるまでの間、車両に作用するブレーキ力により、後退を抑制することができる。一方、ブレーキ操作量の解除速度が小さいほど漸減速度を大きくすることで、平地や下り坂における無駄なブレーキの引きずりをなくすることができる。従って、本発明によれば、一層円滑な車両の発進を実現することができる。
その他の、解決手段については、後記する発明の実施の形態で明らかにする。
【0014】
なお、特許請求の範囲の「車両自体に発進駆動力が生じるまで」とは、エンジンやモータなどの原動機の出力が無い場合(上り坂で後退を生じないような充分な出力が発生していない場合を含む)から、上り坂で後退を生じない程度の出力が発生するまでである。発進駆動力が生じたか否かは、駆動輪の駆動トルクを直接測定して判断してもよいが、下記の時点をもって車両自体に発進駆動力が生じたと判断することができる。
▲1▼運転者の操作によりアクセルペダルが踏み込まれた時点(自動変速機搭載車両)
▲2▼運転者の操作によりアクセルペダルが踏み込まれ、かつクラッチが接続された時点(手動変速機搭載車両)
▲3▼自動変速機搭載車両であって、ブレーキペダルの踏み込み解除に応じて、自動的に坂道に抗する程度まで駆動力が大きくなるように発進クラッチのトルク伝達容量を増加するものにあっては、その増加が達成された時点(本願実施の形態での「クリープ立ち上がり」時点)
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に係るブレーキ力保持装置付車両の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態は、次の3つの実施形態に分けて説明する。
第1の実施形態は、運転者のブレーキ操作量の解除速度が所定値(以下「閾値」という)を越えたことを条件にブレーキ力保持装置を作動させる。
第2の実施形態は、第1の実施形態の制御に加えて、運転者のブレーキ操作量の解除速度が大きいほど、大きなブレーキ力を車両に作用させる。
第3の実施形態は、第1の実施形態の制御に加えて、運転者のブレーキ操作量の解除速度が大きいほど、ブレーキ力を漸減する速度を小さくする。
【0016】
◎第1の実施形態;
先ず、第1の実施形態に係るブレーキ力保持装置付車両(以下「車両」という)の説明を行う。
第1の実施形態に係る車両は、運転者のブレーキ操作解除後も引き続き車両にブレーキ力を保持して作用させるブレーキ力保持装置を備える。そして、この車両は、運転者のブレーキ操作量を検出し、このブレーキ操作量の解除速度(以下「ブレーキ操作解除速度」という)に基づいてブレーキ力保持装置を作動させる。ただし、ブレーキ力保持装置は、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えたことを条件に作動する。かつ、ブレーキ力は漸減しつつ保持する。
【0017】
具体的には、この第1の実施形態の車両は、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えた場合にブレーキ力保持装置を作動して一定のブレーキ力を車両に発進駆動力が生じるまで漸減しつつ保持し、ブレーキ操作解除速度が閾値以下の場合はブレーキ力保持装置の作動を禁止してブレーキ力の保持を行わない。ここで、ブレーキ力の保持は、ブレーキ液圧を保持することにより行われる。
なお、この車両は、原動機がアイドリング状態でかつ所定車速以下で、ブレーキペダルの踏み込み状態に応じてクリープの駆動力を大きい状態と小さい状態に切り換える駆動力制御装置を備える。ここで、クリープとは、自動変速機を備える車両でDレンジ又はRレンジなどの走行レンジが選択されているときに、アクセルペダルを踏み込まなくても(原動機がアイドリング状態)、車両が這うようにゆっくり動くことである。
【0018】
≪車両のシステム構成など≫
第1の実施形態に係る車両のシステム構成などを図1及び図2を参照して説明する。図1は第1の実施形態に係る車両のシステム構成図、図2は第1の実施形態に係る車両のブレーキ力保持装置の構成図である。
第1の実施形態に係る車両は、原動機としてガソリンなどを動力源とする内燃機関であるエンジン1と電気を動力源とするモータ2を備えるハイブリッド車両であり、変速機としてベルト式無段変速機3(以下、CVT3と記載する)を備える。なお、本発明の車両は、原動機としてエンジンのみ、モータのみなど、原動機を特に限定しない。また、変速機としてトルクコンバーターを備える自動変速機や手動変速機など、変速機を特に限定しない。
【0019】
〔エンジン(原動機)・CVT(変速機)・モータ(原動機)〕
エンジン1は、燃料噴射電子制御ユニット(以下、FIECUと記載する)に制御される。なお、FIECUは、マネージメント電子制御ユニット(以下、MGECUと記載する)と一体で構成し、燃料噴射/マネージメント電子制御ユニット(以下、FI/MGECUと記載する)4に備わっている。また、モータ2は、モータ電子制御ユニット(以下、MOTECUと記載する)5に制御される。さらに、CVT3は、CVT電子制御ユニット(以下、CVTECUと記載する)6に制御される。
【0020】
さらに、CVT3には、駆動輪8,8が装着された駆動軸7が取り付けられる。駆動輪8,8には、ホイールシリンダWC(図2参照)などを備えるディスクブレーキ9,9が装備されている。ディスクブレーキ9,9のホイールシリンダWCには、ブレーキ力保持装置RUを介してマスタシリンダMCが接続される。マスタシリンダMCには、マスタパワーMPを介してブレーキペダルBPからの踏み込みが伝達される。ブレーキペダルBPは、ブレーキスイッチBSWによって、ブレーキペダルBPが踏み込まれているか否かが検出される。
【0021】
エンジン1は、熱エネルギーを利用する内燃機関であり、CVT3及び駆動軸7などを介して駆動輪8,8を駆動する。なお、エンジン1は、燃費悪化の防止などのために、車両停止時に自動で停止させる場合がある。そのために、車両は、エンジン自動停止条件を満たしたときにエンジン1を停止させる原動機停止装置を備える。
【0022】
モータ2は、図示しないバッテリからの電気エネルギーを利用し、エンジン1による駆動をアシストするアシストモードを有する。また、モータ2は、アシスト不要の時(下り坂や減速時など)に駆動軸7の回転による運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、図示しないバッテリに蓄電する回生モードを有し、さらにエンジン1を始動する始動モードなどを有する。
【0023】
CVT3は、ドライブプーリとドリブンプーリとの間に無端ベルトを巻き掛け、各プーリ幅を変化させて無端ベルトの巻き掛け半径を変化させることによって、変速比を無段階に変化させる。そして、CVT3は、出力軸に発進クラッチを連結し、この発進クラッチを係合して、無端ベルトで変速されたエンジン1などの出力を発進クラッチの出力側のギアを介して駆動軸7に伝達する。なお、このCVT3を備える車両は、アイドリング時におけるクリープ走行が可能であると共に、このクリープの駆動力を低減する駆動力制御装置DCUを備える。
【0024】
〔駆動力制御装置〕
駆動力制御装置DCUは、CVT3に備えられ、発進クラッチの駆動力伝達容量を可変制御して、クリープの駆動力の大きさを切り換える。また、駆動力制御装置DCUは、車両移動(又は、車両後退)を検出したときには、駆動力を増加させる。なお、駆動力制御装置DCUは、後に説明するCVTECU6も構成に含むものとする。
【0025】
駆動力制御装置DCUは、後に説明する弱クリープ状態にする条件、中クリープ状態にする条件、強クリープ状態にする条件及び走行時強クリープ状態にする条件をCVTECU6で判断し、発進クラッチの駆動力伝達容量を変えて、予め設定された各クリープ状態の駆動力に切り換える。さらに、駆動力制御装置DCUは、登坂発進時、車両が後退したか又は車両が移動したかを検出したときには、発進クラッチの駆動力伝達容量を増加させて強クリープ状態に切り換える。駆動力制御装置DCUは、CVTECU6でクリープの駆動力を切り換える各条件を判断し、CVTECU6からCVT3に発進クラッチの係合油圧を制御するリニアソレノイド弁への油圧指令値を送信する。そして、駆動力制御装置DCUは、CVT3でこの油圧指令値に基づいて、発進クラッチの係合力を切り換える。これにより、駆動力伝達容量も変わり、クリープの駆動力が切り換わる。なお、車両は、この駆動力制御装置DCUによる駆動力の低減によって、燃費の改善が図られる。燃費の改善は、エンジン1の負荷の低減と、発進クラッチにおける油圧ポンプの負荷の低減などにより実現される。ここで、駆動力伝達容量とは、発進クラッチが伝達できる最大駆動力(駆動トルク)を意味する。つまり、エンジン1で発生した駆動力が駆動力伝達容量を上回った場合、発進クラッチは駆動力伝達容量を越える駆動力を駆動輪8,8に伝達することはできない。
ちなみに、故障検出装置DUでブレーキ力保持装置RUの故障が検出されると、駆動力制御装置DCUによる弱クリープ状態への切り換えは、禁止される。
【0026】
駆動力制御装置DCUは、所定車速以下でアクセルペダルの踏み込みが解除されている状態でも変速機において走行レンジが選択されている場合は、原動機から駆動輪へ駆動力を伝達すると共に、ブレーキペダルBPの踏み込みの状態により、ブレーキペダルBPが踏み込まれているときは駆動輪に伝達する駆動力を「小さい状態」にし、ブレーキペダルBPが踏み込まれていないときは駆動力を「大きい状態」にする。このように、ブレーキペダルBPの踏み込み時に駆動力を「小さい状態」にするのは、駆動力をブレーキ力で制することに起因する車体振動を抑制するためである。また、運転者に強くブレーキペダルBPを踏み込ませて仮にエンジン1による駆動力が消滅しても坂道で停止する際に自重により車両が後退しないようにするためである。一方、ブレーキペダルBPの踏み込み解除時に駆動力を「大きい状態」にするのは、車両の発進や加速などに備えるほかブレーキ力によらないでもある程度の坂道に抗することができるようにするためである。
【0027】
なお、本実施形態に係る車両のクリープの駆動力は、▲1▼大きい状態と▲2▼小さい状態の他、▲3▼前記大きい状態と前記小さい状態の中間程度の状態の、3つの大きさを有する。各状態での駆動力伝達容量は、駆動力が大きい状態では大きく、駆動力が小さい状態では小さく、駆動力が中間程度の状態では中間程度の大きさに予め設定されている。本実施の形態では、駆動力(クリープの駆動力)が大きい状態を強クリープ状態、駆動力が小さい状態を弱クリープ状態、駆動力が前記大きい状態と前記小さい状態の中間程度の状態を中クリープ状態と呼ぶ。さらに、強クリープ状態には、駆動力が大きいレベルと小さいレベルがあり、大きいレベルを単に強クリープ状態と呼び、小さいレベルを走行時強クリープ状態と呼ぶ。強クリープ状態は、傾斜5°の勾配に釣り合う駆動力を有する状態である。走行時強クリープ状態は、強クリープ状態より小さい駆動力であり、弱クリープ状態に切り換わる前段階の状態である。弱クリープ状態は、殆ど駆動力がない状態である。中クリープ状態は、強クリープ状態と弱クリープ状態の中間程度の駆動力を有する状態であり、強クリープ状態から弱クリープ状態に切り換わる過程で段階的に駆動力を低減させる場合の中間状態である。強クリープ状態は、所定車速以下でアクセルペダルの踏み込みが解除され(すなわち、アイドリング状態時)、かつポジションスイッチPSWで走行レンジが選択されているときに実現され、ブレーキペダルBPの踏み込みを解除すると車両が這うようにゆっくり進む。弱クリープ状態は、さらにブレーキペダルBPが踏み込まれたときに実現され、車両は停止か微低速である。
【0028】
〔ポジションスイッチ〕
ポジションスイッチPSWのレンジは、シフトレバーで選択する。ポジションスイッチPSWのレンジは、駐停車時に使用するPレンジ、ニュートラルであるNレンジ、バック走行時に使用するRレンジ、通常走行時に使用するDレンジ及び急加速や強いエンジンブレーキを必要とするときに使用するLレンジがある。なお、本実施形態では、走行レンジとは、車両が走行可能なDレンジ、Lレンジ及びRレンジの3つのレンジをいう。さらに、本実施の形態では、ポジションスイッチPSWでDレンジが選択されているときには、モードスイッチMSWで、通常走行モードであるDモードとスポーツ走行モードであるSモードを選択できる。ちなみに、ポジションスイッチPSWとモードスイッチMSWの情報は、CVTECU6に送信され、さらにメータ10に送信される。メータ10は、ポジションスイッチPSWとモードスイッチMSWで選択されたレンジ情報とモード情報を表示する。なお、本実施の形態において、前記したクリープの駆動力の低減(つまり駆動力を中クリープ状態、弱クリープ状態にすること)は、ポジションスイッチPSWがDレンジ又はLレンジにあるときに行なわれ、Rレンジにあるときは強クリープ状態が保持される。また、Nレンジ、Pレンジでは駆動輪8,8には駆動力は伝達されないが、駆動力伝達容量が低減され形式上は弱クリープ状態に切り換えられる。これらの点に付いては、後に詳細に説明する。
【0029】
〔ECU類〕
FI/MGECU4に含まれるFIECUは、最適な空気燃費比となるように燃料の噴射量を制御すると共に、エンジン1を統括的に制御する。FIECUは、スロットル開度やエンジン1の状態を示す情報などが送信され、各情報に基づいてエンジン1を制御する。また、FI/MGECU4に含まれるMGECUは、MOTECU5を主として制御すると共に、エンジン自動停止条件及びエンジン自動始動条件の判断を行う。MGECUは、モータ2の状態を示す情報が送信されると共に、FIECUからエンジン1の状態を示す情報などが入力され、各情報に基づいて、モータ2のモードの切り換え指示などをMOTECU5に行う。また、MGECUにはCVT3の状態を示す情報、エンジン1の状態を示す情報、ポジションスイッチPSWのレンジ情報及びモータ2の状態を示す情報などが送信され、各情報に基づいて、エンジン1の自動停止又は自動始動を判断する。
【0030】
MOTECU5は、FI/MGECU4からの制御信号に基づいて、モータ2を制御する。FI/MGECU4からの制御信号にはモータ2によるエンジン1の始動、エンジン1の駆動のアシスト又は電気エネルギーの回生などを指令するモード情報やモータ2に対する出力要求値などがあり、MOTECU5は、これらの情報に基づいて、モータ2に命令を出す。また、モータ2などから情報を得て、発電量などのモータ2の情報やバッテリの容量などをFI/MGECU4に送信する。
【0031】
CVTECU6は、CVT3の変速比や発進クラッチの駆動力伝達容量などを制御する。CVTECU6は、CVT3の状態を示す情報、エンジン1の状態を示す情報及びポジションスイッチPSWのレンジ情報などが送信され、CVT3のドライブプーリとドリブンプーリの各シリンダの油圧の制御及び発進クラッチの油圧の制御をするための信号などをCVT3に送信する。さらに、CVTECU6は、ブレーキ力保持装置RUの電磁弁SV(A),SV(B)(図2参照)のON(遮断)/OFF(連通)を制御する制御部CUを備え、電磁弁SV(A),SV(B)をON(遮断)/OFF(連通)するために、ブレーキ力保持装置RUに通電する。また、CVTECU6は、クリープの駆動力の切り換え判断をすると共に、ブレーキ力保持装置RUの作動中に車両移動(又は、車両後退)を検出したときは駆動力を増加させる判断をし、この判断をした情報をCVT3の駆動力制御装置DCUに送信する。また、CVTECU6は、ブレーキ力保持装置RUの故障を検出するために、故障検出装置DUを備えている。
なお、CVTECU6は、クリープの駆動力の切り換え判断及び車両移動(又は、車両後退)を検出したときに駆動力を増加させる判断をすると共に、その判断結果に基づいて発進クラッチの係合油圧を制御するリニアソレノイド弁への油圧指令値を送信する。
【0032】
〔ブレーキ(ブレーキ力保持装置)〕
ディスクブレーキ9,9は、駆動輪8,8と一体となって回転するディスクロータを、ホイールシリンダWC(図2参照)を駆動源とするブレーキパッドで挟み付け、その摩擦力で制動力を得る。ホイールシリンダWCには、ブレーキ力保持装置RUを介してマスタシリンダMCのブレーキ液圧が供給される。
【0033】
ブレーキ力保持装置RUは、ブレーキペダルBPの踏み込み解除後もホイールシリンダWCにブレーキ液圧を作用させて、ブレーキ力を保持する。ブレーキ力保持装置RUは、CVTECU6内の制御部CUも構成に含むものとする。この、ブレーキ力保持装置RUの構成などについては、後で詳細に説明する(図2参照)。
【0034】
なお、電磁弁がON/OFFするとは、「常時開型の電磁弁では、電磁弁がONするとは電磁弁が閉じてブレーキ液の流れを遮断する遮断位置になることであり、電磁弁がOFFするとは電磁弁が開いてブレーキ液の流れを許容する連通位置になること」である。他方、「常時閉型の電磁弁では、電磁弁がONするとは電磁弁が開いてブレーキ液の流れを許容する連通位置になることであり、電磁弁がOFFするとは電磁弁が閉じてブレーキ液の流れを遮断する遮断位置になること」である。後に説明するように、本実施の形態における電磁弁SV(A),SV(B)は、常時開型の電磁弁(比例電磁弁)である。また、制御部CU内に備えられる駆動回路は、電磁弁SV(A),SV(B)をON/OFFするために、電磁弁SV(A),SV(B)の各電磁コイルに流す電流量を算出し、電磁弁SV(A),SV(B)に通電する。
【0035】
マスタシリンダMCは、ブレーキペダルBPの踏み込みを油圧に変える装置である。さらに、そのブレーキペダルBPの踏み込みをアシストするために、マスタパワーMPが、マスタシリンダMCとブレーキペダルBPの間に設けられている。マスタパワーMPは、運転者がブレーキペダルBPを踏み込む力に、エンジン1の負圧や圧縮空気などの力を加えて制動力を強化し、ブレーキング時の踏力を軽くする装置である。また、ブレーキペダルBPにはブレーキスイッチBSWが設けられ、このブレーキスイッチBSWは、ブレーキペダルBPが踏み込まれているか踏み込みが解除されているかを検出する。
【0036】
〔原動機停止装置〕
この車両に備わる原動機停止装置は、FI/MGECU4やCVTECU6などで構成される。原動機停止装置は、車両が停止状態のときに、エンジン1を自動で停止させることができる。原動機停止装置は、FI/MGECU4とCVTECU6でエンジン自動停止条件を判断する。なお、エンジン自動停止条件については、後で詳細に説明する。そして、エンジン自動停止条件が全て満たされていると判断すると、FI/MGECU4からエンジン1にエンジン停止命令を送信し、エンジン1を自動で停止させる。車両は、この原動機停止装置によるエンジン1の自動停止によって、さらに燃費の改善を図る。また、原動機停止装置は、この原動機停止装置によるエンジン1自動停止時に、FI/MGECU4とCVTECU6で、エンジン自動始動条件を判断する。そして、エンジン自動始動条件が満たされると、FI/MGECU4からMOTECU5にエンジン始動命令を送信し、さらに、MOTECU5からモータ2にエンジン1を始動させる命令を送信し、モータ2によってエンジン1を自動始動させると共に、強クリープ状態にする。なお、エンジン自動始動条件については、後で詳細に説明する。
ちなみに、故障検出装置DUでブレーキ力保持装置RUの故障が検出されると、原動機停止装置の作動は、禁止される。
【0037】
〔信号類〕
次に、このシステムにおいて送受信される信号類について説明する。なお、図1中の各信号の前に付与されている「F_」は信号が0か1のフラグ情報であることを表し、「V_」は信号が数値情報(単位は任意)であることを表し、「I_」は信号が複数種類の情報を含む情報であることを表す。
【0038】
FI/MGECU4からCVTECU6に送信される信号について説明する。V_MOTTRQは、モータ2の出力トルク値である。F_MGSTBは、エンジン自動停止条件の中でFI/MGECU4で判断する条件で、その条件が全て満たされているか否かを示すフラグであり、満たしている場合は1、満たしていない場合は0である。なお、F_MGSTBのエンジン自動停止条件は、後で詳細に説明する。ちなみに、F_MGSTBとF_CVTOKが共に1に切り換わるとエンジン1を自動停止し、どちらかのフラグが0に切り換わるとエンジン1を自動始動する。
【0039】
FI/MGECU4からCVTECU6とMOTECU5に送信される信号について説明する。V_NEPは、エンジン1の回転数である。
【0040】
CVTECU6からFI/MGECU4に送信される信号について説明する。F_MCRPONは、中クリープ状態であるか否かを示すフラグであり、中クリープ状態の場合は1、中クリープ状態でない場合は0である。なお、F_MCRPONが1の場合、エンジン1に中クリープ状態時の中エア(強クリープよりも弱いエア)を吹くことを要求している。F_AIRSCRPは、強クリープ状態時の強エア要求フラグであり、強クリープ状態時の強エアを吹く場合には1、吹かない場合には0である。なお、F_MCRPONとF_AIRSCRPが共に0の場合には、FI/MGECU4は弱クリープ状態時の弱エアを吹く。ちなみに、強クリープ状態、中クリープ状態、弱クリープ状態にかかわらず、アイドリング時のエンジン回転数を一定に保つには、強クリープ状態、中クリープ状態、弱クリープ状態の各状態に応じたエアを吹いてエンジン出力を調整する必要がある。強クリープ状態のように、エンジン1の負荷が高いときには強いエア(強クリープ状態時の強エア)を吹く必要がある。なお、エアを吹くとは、エンジン1のスロットル弁をバイパスする空気通路から、スロットル弁下流の吸気管にエアを送り込むことである。エアの強さは、空気通路の開度を制御して送り込むエアの強さ(量)を調節する。F_CVTOKは、エンジン自動停止条件の中でCVTECU6で判断する条件で、その条件が全て満たされているか否かを示すフラグであり、満たしている場合は1、満たしていない場合は0である。なお、F_CVTOKのエンジン自動停止条件は、後で詳細に説明する。F_CVTTOは、CVT3の油温が所定値以上か否かを示すフラグであり、所定値以上の場合は1、所定値未満の場合は0である。なお、このCVT3の油温は、CVT3の発進クラッチの油圧を制御するリニアソレノイド弁の電気抵抗値から推定する。F_POSRは、ポジションスイッチPSWのレンジでRレンジが選択されているか否かを示すフラグであり、Rレンジの場合は1、Rレンジ以外の場合は0である。F_POSDDは、ポジションスイッチPSWのレンジでDレンジかつモードスイッチMSWのモードでDモードが選択されているか否かを示すフラグであり、DレンジDモードの場合は1、DレンジDモード以外の場合は0である。なお、FI/MGECU4は、DレンジDモード、Rレンジ、Pレンジ、Nレンジを示す情報が入力されていない場合、DレンジSモード、Lレンジのいずれかが選択されていると判断する。
【0041】
エンジン1からFI/MGECU4とCVTECU6に送信される信号について説明する。V_ANPは、エンジン1の吸気管の負圧値である。V_THは、スロットルの開度である。V_TWは、エンジン1の冷却水温である。V_TAは、エンジン1の吸気温である。なお、エンジンルーム内に配置されているブレーキ力保持装置RUのブレーキ液温は、この吸気温に基づいて推定する。両者とも、エンジンルームの温度に関連して変化するからである。
【0042】
CVT3からFI/MGECU4とCVTECU6に送信される信号について説明する。V_VSP1は、CVT3内に設けられた2つの車速ピックアップの一方から出される車速パルスである。この車速パルスに基づいて、車速を算出する。
【0043】
CVT3からCVTECU6に送信される信号について説明する。V_NDRPは、CVT3のドライブプーリの回転数を示すパルスである。V_NDNPは、CVT3のドリブンプーリの回転数を示すパルスである。V_VSP2は、CVT3内に設けられた2つの車速ピックアップの他方から出される車速パルスである。なお、V_VSP2は、V_VSP1より高精度であり、CVT3の発進クラッチの滑り量の算出などに利用する。
【0044】
MOTECU5からFI/MGECU4に送信される信号について説明する。V_QBATは、バッテリの残容量である。V_ACTTRQは、モータ2の出力トルク値であり、V_MOTTRQと同じ値である。I_MOTは、電気負荷を示すモータ2の発電量などの情報である。なお、モータ駆動電力を含めこの車両で消費される電力は、全てこのモータ2で発電される。
【0045】
FI/MGECU4からMOTECU5に送信される信号について説明する。V_CMDPWRは、モータ2に対する出力要求値である。V_ENGTRQは、エンジン1の出力トルク値である。I_MGは、モータ2に対する始動モード、アシストモード、回生モードなどの情報である。
【0046】
マスタパワーMPからFI/MGECU4に送信される信号について説明する。V_M/PNPは、マスタパワーMPの定圧室の負圧検出値である。
【0047】
ポジションスイッチPSWからFI/MGECU4に送信される信号について説明する。ポジションスイッチPSWでNレンジ又はPレンジのどちらかが選択されている場合のみ、ポジション情報としてNかPが送信される。
【0048】
CVTECU6からCVT3に送信される信号について説明する。V_DRHPは、CVT3のドライブプーリのシリンダの油圧を制御するリニアソレノイド弁への油圧指令値である。V_DNHPは、CVT3のドリブンプーリのシリンダの油圧を制御するリニアソレノイド弁への油圧指令値である。なお、V_DRHPとV_DNHPにより、CVT3の変速比を変える。V_SCHPは、CVT3の発進クラッチの油圧を制御するリニアソレノイド弁への油圧指令値である。なお、V_SCHPにより、発進クラッチの係合力(すなわち、駆動力伝達容量)を変える。
【0049】
CVTECU6からブレーキ力保持装置RUに送信される信号について説明する。V_SOLAは、ブレーキ力保持装置RUの電磁弁SV(A)(図2参照)をON(閉)/OFF(開)するために、電磁コイルに流す電流量である。V_SOLBは、ブレーキ力保持装置RUの電磁弁SV(B)(図2参照)をON(閉)/OFF(開)するために、電磁コイルに流す電流量である。なお、後に説明する制御電流Iは、このV_SOLA及びV_SOLBそのものである。
【0050】
ポジションスイッチPSWからCVTECU6に送信される信号について説明する。ポジションスイッチPSWでNレンジ、Pレンジ、Rレンジ、Dレンジ又はLレンジのいずれの位置に選択されているかが、ポジション情報として送信される。
【0051】
モードスイッチMSWからCVTECU6に送信される信号について説明する。モードスイッチMSWでDモード(通常走行モード)かSモード(スポーツ走行モード)のいずれが選択されているかが、モード情報として送信される。なお、モードスイッチMSWは、ポジションスイッチPSWがDレンジに設定されているときに機能するモード選択スイッチである。
【0052】
ブレーキスイッチBSWからFI/MGECU4とCVTECU6に送信される信号について説明する。F_BKSWは、ブレーキペダルBPが踏み込まれている(ON)か踏み込みが解除されているか(OFF)を示すフラグであり、踏み込まれている場合は1、踏み込みが解除されている場合は0である。
【0053】
CVTECU6からメータ10に送信される信号について説明する。ポジションスイッチPSWでNレンジ、Pレンジ、Rレンジ、Dレンジ又はLレンジのいずれの位置に選択されているかが、ポジション情報として送信される。さらに、モードスイッチMSWでDモード(通常走行モード)かSモード(スポーツ走行モード)のいずれが選択されているかが、モード情報として送信される。
【0054】
ブレーキ操作量検出器BGからCVTECU6に送信される信号について説明する。V_BGは、運転者のブレーキ操作量をマスタシリンダMC側のブレーキ液圧値としてCVTECU6に送信するものである。この信号に基づいて、ブレーキ操作解除速度などが求められる(これらの点については後に説明する)。
【0055】
その他、フラグには、図1に示すもの以外に、制御部CUにおいてブレーキ力の保持判断に使用されるF_BKTHがある(図3、図6(a)参照)。
制御部CUは、ブレーキスイッチBSWがONの状態でブレーキ操作解除速度が閾値を越えた場合、F_BKTHを1にする。また、制御部CUは、ブレーキスイッチBSWがOFFになったとき、あるいは、ブレーキペダルBPが踏み増しされた場合(ブレーキ操作解除速度が負の値になったとき)に、F_BKTHを0にする。このF_BKTHにより制御部CUは、ブレーキ力の保持、ブレーキ力の保持解除などを行う。具体的な制御は後述する。
【0056】
《ブレーキ力保持装置》
〔ブレーキ力保持装置の構成〕
ブレーキ力保持装置RUは、運転者のブレーキ操作量を検出し、このブレーキ操作解除速度に基づいて、運転者のブレーキ操作解除後も車両自体に発進駆動力が生じるまで車両にブレーキ力を作用させる。ただし、ブレーキ力保持装置は、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えたことを条件に作動し、ブレーキ力を保持する。
【0057】
第1の実施形態に係る車両のブレーキ力保持装置RUは、図2に示すように、液圧式ブレーキ装置BKのブレーキ液圧通路FP内に組み込まれ、マスタシリンダMCとホイールシリンダWC間のブレーキ液圧通路FPを連通する連通位置と該ブレーキ液圧通路FPを遮断してホイールシリンダWCのブレーキ液圧を保持(つまりブレーキ力を保持)する遮断位置に切り換わる電磁弁SVを有する。電磁弁SVは、制御部CUによって電磁コイル(図示せず)に流れる電流量が制御され、その電流量に応じて連通位置と遮断位置に切り換わって、保持したブレーキ液圧を調整しながら低減(漸減)することができる。
【0058】
先ず、液圧式ブレーキ装置BKの説明を行い、次にブレーキ力保持装置RUの説明を行う(いずれも図2参照)。
液圧式ブレーキ装置BKのブレーキ液圧回路BCは、マスタシリンダMCとホイールシリンダWCとこれを結ぶブレーキ液圧通路FPよりなる。ブレーキは安全走行のために極めて重要な役割を有するので、液圧式ブレーキ装置BKはそれぞれ独立したブレーキ液圧回路を2系統設け(BC(A)、BC(B))、一つの系統が故障したときでも残りの系統で最低限のブレーキ力が得られるようになっている。
【0059】
マスタシリンダMCは、本体にピストンMCPが挿入されており、運転者がブレーキペダルBPを踏み込むことによりピストンMCPが押されてマスタシリンダMC内のブレーキ液に圧力が加わり機械的な力がブレーキ液圧(ブレーキ液に加わる圧力)に変換される。運転者がブレーキペダルBPから足を放して踏み込みを解除すると、戻しバネMCSの力でピストンMCPが元に戻され、同時にブレーキ液圧も元に戻る。図2に示すマスタシリンダMCは、独立したブレーキ液圧回路BCを2系統設けるというフェイルアンドセーフの観点から、ピストンMCPを2つ並べてマスタシリンダMCの本体を2分割したタンデム式のマスタシリンダMCである。
【0060】
プレーキペダルBPの操作力を軽くするために、ブレーキペダルBPとマスタシリンダMCの間にマスタパワーMP(ブレーキブースタ)が設けられる。図2に示すマスタパワーMPは、バキューム(負圧)サーボ式のものであり、エンジン1の吸気マニホールドから負圧を取り出して、運転者によるブレーキペダルBPの操作を容易にしている。
【0061】
ブレーキ液圧通路FPは、マスタシリンダMCとホイールシリンダWCを結び、マスタシリンダMCで発生したブレーキ液圧を、ブレーキ液を移動させることによりホイールシリンダWCに伝達する流路の役割を果たす。また、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧の方が高い場合には、ホイールシリンダWCからマスタシリンダMCにブレーキ液を戻す流路の役割を果す。ブレーキ液圧回路BCは前記のとおりそれぞれ独立したものが設けられるため、ブレーキ液圧通路FPもそれぞれ独立のものが2系統設けられる。図2に示すブレーキ液圧通路などにより構成されるブレーキ液圧回路BCは、一方のブレーキ液圧回路BC(A)が右前輪と左後輪を制動し、他方のブレーキ液圧回路BC(B)が左前輪と右後輪を制動するX配管方式のものである。なお、ブレーキ液圧回路は、X配管方式ではなく、一方のブレーキ液圧回路が両方の前輪を他方のブレーキ液圧回路が両方の後輪を制動する前後分割方式とすることもできる。
【0062】
ホイールシリンダWCは、車輪8ごとに設けられ、マスタシリンダMCにより発生しブレーキ液圧通路FPを通してホイールシリンダWCに伝達されたブレーキ液圧を、車輪8を制動するための機械的な力(ブレーキ力)に変換する役割を果す。ホイールシリンダWCは、本体にピストンが挿入されており、このピストンがブレーキ液圧に押されて、ディスクブレーキの場合はブレーキパッド或いはドラムブレーキの場合はブレーキシューを作動させて、車輪8を制動するブレーキ力を作り出す。
なお、前記以外に前輪のホイールシリンダWCのブレーキ液圧と後輪のホイールシリンダWCのブレーキ液圧を制御するブレーキ液圧制御バルブなどが、必要に応じて設けられる。
【0063】
次に、本発明の車両(ブレーキ力保持装置付車両)の要部であるブレーキ力保持装置RUを説明する(図2参照)。
このブレーキ力保持装置RUは、電磁弁SV及びチェック弁CV、ブレーキ操作量検出器BG並びに制御部CU(CVTECU6に内包される)を含んで構成されるが、このうち電磁弁SVは、マスタシリンダMCとホイールシリンダWCを結ぶブレーキ液圧通路FPに組み込まれる。ちなみに、ブレーキ力保持装置RUは、マスターシリンダMCのブレーキ液圧を検出するために、ブレーキ液圧通路FPにブレーキ液圧センサPGを備えるが、本実施形態においては、このブレーキ液圧センサPGが、ブレーキ操作量検出器BGを兼ねる。
【0064】
電磁弁SVは、制御部CUからの電気信号により作動し、遮断位置(ON)でブレーキ液圧通路FPのブレーキ液の流れを遮断する遮断状態と、連通位置(OFF)でブレーキ液圧通路FPのブレーキ液の流れを許容する連通状態を有する。さらに、電磁弁SVは、遮断位置(ON)と連通位置(OFF)を切り換えてブレーキ液圧通路FPのブレーキ液の流れを遮断/許容を繰り返しながら、ブレーキ液圧を調整する調圧状態を有する。ちなみに、図2に示す2つの電磁弁SV(A),SV(B)は共に連通位置にあることを示す。この電磁弁SVにより、登坂発進時に運転者がブレーキペダルBPの踏み込みを解除した場合でも、ホイールシリンダWCにブレーキ液圧を保持し、車両の後退を防止することができる。なお、後退とは、車両の自重により運転者が進もうとする方向とは逆の方向に車両が進んでしまうこと(坂道を下ってしまうこと)を意味する。
【0065】
▲1▼電磁弁SVが遮断状態に切り換わるときは、ブレーキ液の流れを一気に遮断して、ホイールシリンダWCに加えられたブレーキ液圧をブレーキ力として保持する。しがたって、ブレーキ力保持装置RUは、電磁弁SVを遮断状態に切り換えることによって、ホイールシリンダWCに送り込まれたブレーキ液圧をそのまま保持することができる。
ちなみに、ホイールシリンダWCに送り込まれるブレーキ液圧は、マスタパワーMP、マスターシリンダMC及びブレーキ液圧通路FPを介して伝達された運転者のブレーキペダルBPの踏み込み力に比例したブレーキ液の圧力である。
【0066】
▲2▼電磁弁SVが連通状態に切り換わるときは、ホイールシリンダWCとマスタシリンダMC間のブレーキ液の流れを一気に許容して、ブレーキ力を瞬時に解除する。なお、電磁弁SVが連通状態に維持されているときは、ホイールシリンダWCにはブレーキ液圧が保持されない(ブレーキ力が保持されない)。
【0067】
▲3▼電磁弁SVが調圧状態に切り換わるときは、電磁弁SVが遮断位置と連通位置に交互に繰り返して切り換わり、ホイールシリンダWCからマスタシリンダMCに流れるブレーキ液の流量を調整する。そして、ブレーキ液圧(ひいては、ブレーキ力)を調整しながら低減し、保持ブレーキ力の漸減を行う。
後述するように、ブレーキ力の漸減は、制御部CUから電磁弁SVに供給される制御電流I(V_SOLA,V_SOLB)の値を、漸次減少させることにより実現される(第1の減少速度で減少)。
【0068】
なお、第1の実施形態においては、電磁弁SVが連通状態から遮断状態に切り換わる際には、調圧状態を経由することなく切り換わる。他方、電磁弁SVが遮断状態から連通状態に切り換わる際には、調圧状態を経由して切り換わる。電磁弁SVが遮断状態、連通状態又は調圧状態に切り換わる条件については、後で詳細に説明する。
【0069】
ここで、ブレーキ液圧を調整しながらブレーキ液圧を低減することができる電磁弁SVとしては、比例電磁弁などがある。比例電磁弁(図2の電磁弁SV)は、一例として、弁に内蔵するバネSによる付勢力と印加されるパイロット圧に受圧面積を掛け合わせた積との和(以下「付勢力など」という)が、弁に内蔵する電磁コイル(図示せず)により生じる電磁力と均衡するように弁の開閉(連通/遮断)を繰り返す。比例電磁弁が常時開型のものであれば、付勢力などが電磁力よりも大きければ弁が開いて連通位置になる。なお、連通位置は、電磁力>付勢力などになるまで持続される。他方、付勢力などが電磁力よりも小さければ弁が閉じて遮断位置になる。また、遮断位置は、電磁力<付勢力などになるまで持続される。ここで、パイロット圧は、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧である。
【0070】
比例電磁弁の電磁力は、電磁コイルに供給される制御電流の電流値により変化する。常時開型の比例電磁弁の場合、遮断状態での大きな電流値からこの電流値を徐々に低下させれば電磁力も徐々に弱まるため、付勢力などと電磁力との釣り合いで、連通位置と遮断位置を切り換えながらブレーキ液圧を調整することができる。そして、ホイールシリンダに保持されているブレーキ液圧を低減させる際、この制御電流の電流値を漸次減少させることによって、ブレーキ液圧(つまりブレーキ力)を漸次減少させることができる。
なお、常時開型の比例電磁弁の場合、電磁コイルに供給される制御電流の電流値がゼロ(略ゼロ)のとき、連通状態が維持される。
【0071】
ところで、第1の実施形態では電磁弁SVが比例電磁弁であることを前提とするが、必ずしも比例電磁弁に限定されるものではなく、前記説明した遮断状態、連通状態及び調圧状態を作り出せるものであれば弁の種類を問わない。
また、電磁弁SVには、通電時に連通位置になる常時閉型と通電時に遮断位置になる常時開型があるが、いずれの電磁弁を使用することもできる。ただし、フェイルアンドセーフの観点からは、常時開型の電磁弁が好ましい。故障などにより通電が絶たれた場合に、常時閉型の電磁弁では、ブレーキが効かなくなったり逆にブレーキが効きっぱなしになったりするからである。なお、本実施形態は、電磁弁SVが常時開型のものであることを前提として説明する。
【0072】
チェック弁CVは、必要に応じて設けられるが、電磁弁SVが遮断位置にありかつ運転者がブレーキペダルBPを踏み増しした場合に、マスタシリンダMCで発生したブレーキ液圧をホイールシリンダWCに伝える役割を果す。チェック弁CVは、マスタシリンダMCで発生したブレーキ液圧がホイールシリンダWCのブレーキ液圧を上回る場合に有効に作動し、運転者のブレーキペダルBPの踏み増しに対応して迅速にホイールシリンダWCのブレーキ液圧を上昇させる。なお、マスタシリンダMCのブレーキ液圧がホイールシリンダWCのブレーキ液圧よりも上回った場合に一旦閉じた電磁弁SVが連通状態になるような構成とすれば、電磁弁SVのみでブレーキペダルBPの踏み増しに対応することができるので、チェック弁CVを設ける必要はない。つまり、マスタシリンダMC側のブレーキ液圧値とホイールシリンダWC側のブレーキ液圧値を検出し、前者のブレーキ液圧値が後者のブレーキ液圧を上回った場合に電磁弁SVが連通状態になる構成とすることで、チェック弁CVを不要とすることができる。
【0073】
ブレーキスイッチBSWは、ブレーキペダルBPが踏み込まれているか否かを検出する。そして、この検出値を制御部CUに送信する。
【0074】
ブレーキ液圧センサPGは、ブレーキ液圧通路FPに設けられ、マスタシリンダMC側のブレーキ液圧を検出する。このブレーキ液圧センサPGは、前記のとおりブレーキ操作量検出器BGを兼ね、運転者のブレーキ操作量を検出し、検出値V_BGを制御部CUに送信する。ちなみに、このブレーキ液圧センサPGが検出するマスタシリンダMC側のブレーキ液圧は、ホイールシリンダWC側のブレーキ液圧と異なり、運転者のブレーキ操作量に比例するものである。従って、ブレーキ液圧センサPGがブレーキ操作量検出器BGを兼ねる構成で、充分に運転者のブレーキ操作量を検出することができる。また、このブレーキ操作量検出器BGは、運転者がブレーキペダルBPを強く踏み込んでいる場合、中程度に踏み込んでいる場合、緩く踏み込んでいる場合のいずれの状況でも、ブレーキ操作解除速度を正しく測定することができる。
なお、ブレーキ操作量検出器BGは、ブレーキペダルBPの支軸の回転角を検出する回転変位計、ブレーキペダルBPの踏力を検知するもの、ブレーキペダルのストロークを検知するもの、マスタシリンダMCあるいはマスタパワーMPのピストンのストロークを検知するもの・・など、単位時間当たりのブレーキ操作量(つまりブレーキ操作解除速度)が算出可能なものを使用してもよい。
【0075】
制御部CUは、ブレーキ操作量検出器BGの検出値V_BG、フラグF_BKTH、ブレーキスイッチBSWの信号、車速などから電磁弁SVを連通状態、遮断状態又は調圧状態の何れの状態にするかを判断し、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えた場合(F_BKTH=1)に、電磁弁SVに制御電流I(V_SOLA,V_SOLB)を供給してブレーキ力保持装置RUを作動する。
【0076】
閾値は、この値を大きく設定すると、運転者のブレーキペダルBPの踏み込み解除を意図したものでないブレーキ操作をノイズとしてカットすることができる利点がある。一方、閾値を大きく設定すると、ブレーキ操作解除速度が閾値に達するまでに相当ブレーキペダルBPの踏み込みが解除されているため、保持すべきブレーキ力が小さくなっており、上り坂で後退を生じることがあるという不都合がある。従って、閾値は、これを大きくした場合の利益と不利益を比較考量して設定される。ちなみに、本実施形態の場合、運転者のブレーキ操作によってのみブレーキ力が増加される構成であるので、閾値を大きく設定すると、前記した不都合が生じやすい。
【0077】
なお、第1の実施形態では、制御部CUは、▲1▼ブレーキ操作解除速度が閾値を越えた場合にブレーキ力保持装置RUを作動する。かつ、制御部CUは、▲2▼電磁弁SVを遮断状態にするための制御電流Iの電流値の大きさを、ブレーキ操作解除速度の大小にかかわらず一定にして電磁弁SVに供給する。かつ、制御部CUは、▲3▼電磁弁SVに供給した制御電流Iの電流値を直ちに所定の割合(後述する第1の減少速度)で漸次減少させ、電磁弁SVを調圧状態にしようとする。
従って、電磁弁SVに供給した制御電流Iの電流値とホイールシリンダWCに保持されているブレーキ液圧の関係によっては、▲1▼制御電流Iが供給されて電磁弁SVが遮断状態になると同時に調圧状態に移行する場合、▲2▼制御電流Iが供給されても電磁弁SVが直ぐに遮断状態にならない場合(ホイールシリンダWCのブレーキ液圧が大きい場合)、▲3▼制御電流Iが供給されると電磁弁SVがしばらく遮断状態になる場合(ホイールシリンダWCのブレーキ液圧が小さい場合)の3つの場合がある。
【0078】
〔ブレーキ力保持装置の基本制御〕
次に、第1の実施形態に係る車両のブレーキ力保持装置RU(制御部CU)の基本制御について説明する。
1) ブレーキ力保持装置RUは、ブレーキ操作解除後も車両自体に発進駆動力が生じるまで、引き続き車両にブレーキ力を作用させる。
▲1▼「ブレーキ操作解除後も」という条件は、運転者のブレーキ操作解除によりブレーキ力が低減する。従って、引き続き車両にブレーキ力を作用させなければ上り坂での後退を生じるからという理由による。
▲2▼「発進駆動力が生じるまで」という条件は、発進駆動力が生じていない場合は、電磁弁SVを遮断状態(含調圧状態)にしてブレーキ力を作用しなければ、上り坂での後退を生じるからという理由による。なお、「発進駆動力が生じるまで」については、クリープ立ち上がりとして後に説明する。
【0079】
2) かつ、ブレーキ力保持装置RUは、運転者のブレーキ操作量を検出し、ブレーキ操作解除速度に基づいて作動される。具体的には、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えたことを条件に作動される。
「閾値」を条件にするのは、前記のとおり、運転者のブレーキペダルBPの踏み込み解除を意図したものでないブレーキ操作をノイズとしてカットするという理由に加え、下り坂など、ブレーキ操作解除速度が小さい場合に、ブレーキ力保持装置RUの動作を禁止して、ブレーキペダルBPの踏み込みを緩めることによる微速前進を円滑に行わせるという理由による。つまり、下り坂での微速前進時にブレーキ力を保持すると、運転者の意に添った車両の制御がしづらくなるからという理由による。
【0080】
3) かつ、ブレーキ力保持装置RUは、遮断状態にある電磁弁SVを直ちに調圧状態する。
「調圧状態」にするのは、ブレーキ力を徐々に低減(漸減)することで、上昇しつつある駆動力とブレーキ力との調和を図って、円滑な車両の発進を達成するためである。また、下り坂を、ブレーキペダルBPの踏み込みを緩めることで微速前進しようとする運転者の操作を可能とするためである。
【0081】
このような制御を行うことにより、上り坂での後退のない発進、下り坂での自重による微速前進を実現することができる。なお、平地あるいは緩やかな下り坂でブレーキ力保持装置が作動してブレーキ力を保持(作用)しても、ブレーキ力は漸減されて徐々に低下する。また、車両に発進駆動力が生じるとブレーキ力の保持が解除される。従って、運転者の操作に支障が生じることはない。
【0082】
≪具体的な車両の制御≫
次に、第1の実施形態の車両において、どのような制御がなされるのかを具体的に説明する(図3から図9参照)。
ここで、図3は、ブレーキ力保持装置のブレーキ力を保持する制御ロジックである。図4は、駆動力制御装置の(a)は弱クリープ状態にする制御ロジック、(b)は走行時強クリープ状態にする制御ロジック、(c)は中クリープ状態にする制御ロジックである。図5は、原動機停止装置のエンジンを自動停止する制御ロジックである。図6は、ブレーキ力保持装置の(a)は車両自体に発進駆動力が生じたことによりブレーキ力の保持を解除する制御ロジック(第1の減少速度→第2の減少速度→連通状態)、(b)はフェイルアンドセーフなどの観点からブレーキ力の保持を解除する制御ロジック(第1の減少速度→連通状態)、(c)はクリープの立ち上がりを判断する制御ロジックである。図7は、駆動力制御装置の(a)は強クリープ状態にする制御ロジック(車両後退検出バージョン)、(b)は強クリープ状態にする制御ロジック(車両移動検出バージョン)である。図8は、原動機停止装置の(a)はエンジンを自動始動する制御ロジック(車両後退検出バージョン)、(b)はエンジンを自動始動する制御ロジック(車両移動検出バージョン)である。図9は、車両後退検出方法の一例であり、(a)は車両後退検出の構成図、(b)は(a)図の▲1▼方向回転のパルス位相、(c)は(a)図の▲2▼方向回転のパルス位相である。
【0083】
〔ブレーキ力が保持される場合〕
ブレーキ力保持装置RUによりブレーキ力が保持される場合(ブレーキ力が作用される場合)について説明する。ブレーキ力が保持されるのは、次の4つの条件がすべて満たされた場合である(図3参照)。
I)ブレーキスイッチBSWがONであること
II)ポジションスイッチPSWが、ニュートラル(Nレンジ)、パーキング(Pレンジ)、リバース(Rレンジ)のいずれでもないこと
III)車速が0km/hであること
VI)ブレーキ操作解除速度が閾値(所定値)を越えたこと
これらの条件をすべて満たすときに、制御部CUから電磁弁SVに制御電流Iが所定の電流値で供給され、電磁弁SVが遮断状態になり、ブレーキ力が保持される。なお、制御部CUは、遮断状態になった電磁弁SVの制御電流Iの電流値を、直ちに予め定められている第1の減少速度で漸減して、電磁弁SVを調圧状態にする(第2の減少速度については後述する)。
ここで、電磁弁SVを遮断状態にする条件は、CVTECU6の制御部CUで判断する。また、制御電流Iの電磁弁SVを遮断状態にするための制御電流Iの電流値、この電流値を漸減する第1の減少速度などは、制御部CUが備えるテーブルに従う。
【0084】
前記したブレーキ力が保持される条件を個別に説明する。
I)「ブレーキスイッチBSWがONであること」という条件は、ブレーキスイッチBSWがOFFの場合にはホイールシリンダWCに保持すべきブレーキ力が全くないか極わずかしかないからという理由による。
【0085】
II)「ポジションスイッチPSWが、ニュートラル(Nレンジ)、パーキング(Pレンジ)、リバース(Rレンジ)のいずれでもないこと」という条件は、▲1▼Nレンジ、Pレンジでは、ブレーキ力保持装置RUの無駄な動作をなくするため、▲2▼Rレンジでは、強クリープ状態が維持されるので車両の後退の抑制は強クリープ状態における駆動力で行なわれるためという理由による。したがって、Dレンジ(ドライブレンジ)、Lレンジ(ローレンジ)で、ブレーキ力の保持がなされる。
【0086】
IV)「車速が0km/hであること」という条件は、走行中に電磁弁SVを遮断状態にすると任意の位置に車両を停止することができなくなるためという理由による。一方、車速が0km/hであれば車両が停止状態にあるため、ブレーキ力を保持しても運転操作上の支障はない。なお、「車速が0km/h」には、車両がわずかに動いている状態を含む。
【0087】
V)「ブレーキ操作解除速度が閾値を越えたこと」という条件(F_BKTH=1)は、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えることにより、運転者にブレーキペダルの踏み込みを緩める動作、ひいては車両を発進させる意思がはっきりと認められるためという理由による。また、閾値を越えない程度のゆっくりなブレーキ操作解除速度である場合は、車両が下り坂などに位置し、このようなときは、運転者の意に添ったブレーキ操作が行えるように、ブレーキ力制御装置RUを作動させないことが適当であるという理由による。
さらには、車両停止時から運転者がブレーキペダルBPの踏み込みを緩めるまでの間、ブレーキ力保持装置RUを作動してブレーキ力を保持するのは無駄な動作であるという理由による。このため、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えたことを、ブレーキ力が保持される条件に加える。
つまり、ブレーキ力は、運転者が閾値以上のブレーキ操作解除速度でブレーキペダルBPの踏み込みを解除した場合に初めて保持される。
【0088】
ちなみに、ブレーキ力制御装置RUは、電磁弁SVに制御電流Iを供給すると、制御電流Iの値を直ちに漸減して調圧状態にしようとする。しかし、前記したとおり、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧が大きい場合は、しばらく連通状態が維持された後、調圧状態になることがある。一方、ホイールシリンダWCのブレーキ液圧が小さい場合は、しばらく遮断状態が維持された後、調圧状態になることがある。
なお、ブレーキ力の保持(作用)が解除される場合については、後述する。
【0089】
〔弱クリープ指令が発せられる条件〕
本実施の形態の車両は、車両停止時の燃費を節減するため、強クリープ状態の駆動力をブレーキ力で制することによる車体振動の発生を抑制するため、などの理由により、所定の条件で駆動力を弱クリープ状態にする。
以下、弱クリープ指令が発せられる条件について説明する。弱クリープ指令(F_WCRP)が発せられる条件は、次のI)又はII)の条件が満たされた場合である(図4(a)参照)。
I)ポジションスイッチPSWがNレンジ又はPレンジにあること
II)次の▲1▼及び▲2▼が満たされること
▲1▼ 1)ブレーキ力保持装置RUが正常、かつ2)ブレーキスイッチBSWがON、かつ3)ポジションスイッチPSWが前進(D・L)レンジ、かつ4)車速が5km/h以下
▲2▼ 5)強クリープ状態移行後車速>5km/hかつ車速>4km/h、又は6)弱クリープ状態、又は7)車速が0km/hかつ中クリープ状態かつ中クリープ状態移行後所定時間経過
【0090】
前記I)又はII)のいずれかの条件を満たすと弱クリープ指令が発せられ、弱クリープ状態になる。なお、前記の各条件は、駆動力制御装置DCUで判断される。
【0091】
前記した弱クリープ指令が発せられる条件を個別に説明する。
I)「ポジションスイッチPSWがNレンジ又はPレンジにあること」という条件は、非走行レンジ(N・Pレンジ)から走行レンジ(D・L・Rレンジ)への切り換えと同時にアクセルペダルが素早く踏み込まれた場合でも、発進クラッチの駆動力伝達容量の増加が速やかになされ、円滑な発進を行えるようにするためという理由による。つまり、弱クリープ状態では、発進クラッチの油圧室には圧油が既に充填されていて、押し付けピストンの無効ストローク(遊び)が無い。したがって、圧油の値を上昇させれば、駆動力伝達容量は速やかに増加する。なお、N・Pレンジにおいて弱クリープ状態にするといっても、発進クラッチの駆動力伝達容量を予め弱クリープ状態の容量にしておくためであり、エンジン1からの駆動力が駆動輪8に伝達されるわけではない。この点において、D・Lレンジにおける弱クリープ状態と異なる。ちなみに、N・Pレンジでは、駆動力伝達経路上に発進クラッチと直列配置されている前後進切り換え機構によりエンジン1と駆動輪8との連結が完全に遮断されている。つまり、N・Pレンジでは、前進用駆動力伝達経路、後退用駆動力伝達経路とも設定されていない。そのため、エンジン1から駆動力が駆動輪8に全く伝達されない。
【0092】
II)の条件は、▲1▼の1)から4)までの条件が弱クリープ状態になるための基本的な条件であり、さらに弱クリープ状態になる前の状態が▲2▼の5)から7)の何れかの状態であることを弱クリープ状態にする条件とする。
【0093】
1) 「ブレーキ力保持装置RUが正常」という条件は、ブレーキ力保持装置RUに異常があると運転者のブレーキ操作解除後にブレーキ力を保持できず、ブレーキ力が保持されないと弱クリープ状態では坂道における車両後退を抑制することができないからという理由による。例えば、電磁弁SVが遮断位置にならないなどの異常がある場合に弱クリープ指令が発せられて弱クリープ状態になると、ブレーキペダルBPの踏み込み解除後ホイールシリンダWCにブレーキ液圧が保持されない(ブレーキ力が保持されない)。そのため、坂道発進時に、運転者がブレーキペダルBPの踏み込みを解除すると、ブレーキ力が一気になくなり車両が坂道を後退してしまうからである。この場合、強クリープ状態を保つことで、坂道での後退を防止して坂道発進(登坂発進)を容易にする。
【0094】
2) 「ブレーキスイッチBSWがON」という条件は、ブレーキペダルBPが踏み込まれていないときには、運転者は少なくとも駆動力の低下を望んでいないからという理由による。
【0095】
3) 「ポジションスイッチPSWが前進(D・L)レンジ」という条件は、前進レンジでの燃費を向上させるためという理由による。なお、Dレンジでは、Dモード、Sモードの何れのモードでも、弱クリープ状態にする。ちなみに、Rレンジでは、強クリープ走行による車庫入れなどを容易にするために、弱クリープ状態に切り換えない。
【0096】
4) 「車速が5km/h以下」という条件は、5km/hを越える車速ではCVT3の発進クラッチを経由して駆動輪8からの逆駆動力をエンジン1やモータ2に伝達して、エンジンブレーキを効かしたりモータ2による回生発電を行わせることがあるからという理由による。
【0097】
5) 「強クリープ状態移行後車速>5km/hかつ車速>4km/h」という条件は、連続ブレーキ踏み込みによる減速でのみ弱クリープ状態にするためという理由による。強クリープ状態と弱クリープ状態とは駆動力差が大きいため、ブレーキペダルBPを踏み込んだときに強クリープ状態から弱クリープ状態に切り換わると、車両停止前の場合には、運転者の意図しない強い減速感を生じる。また、車両停止時でかつ上り坂の場合、瞬時の後退を生じることがある。したがって、強クリープ状態から弱クリープ状態への切り換えが行われないようにする必要がある。そこで、強クリープ状態になったら車速が5km/hを越えてスロットルがOFF(アクセルペダルの踏み込みが解除)し、走行時強クリープ状態に切り換わるまで、弱クリープ状態に切り換えない。また、強クリープ状態になった後、車速が5km/hを越えて駆動力が低下しても(走行時強クリープ状態)、例えば、上り坂にさしかかっているとブレーキペダルBPが踏み込まれていなくても、車速が再び5km/hに低下することがある。このとき、ブレーキスイッチBSWがOFFであるため、車速が5km/hに低下した時点で強クリープ状態になる。このような場合でも、その後に強クリープ状態から弱クリープ状態の切り換えが実行されないようにするために、車速>4km/hの条件を設け、車速が再び5km/hまで低下した時点でブレーキペダルBPが踏み込まれていなければ、その後、弱クリープ状態への切り換えを実行しないようにする。なお、車速が5km/hまで低下した時点でブレーキペダルBPが踏み込まれていれば(ブレーキスイッチBSWがON)、走行時強クリープ状態から弱クリープ状態への切り換えを実行する。すなわち、車速が再び5km/hまで低下した時点(車速=5km/h)で弱クリープ状態になる機会を逃すと、車速が5km/h以下である限り、強クリープ状態を維持する。
【0098】
6) 「弱クリープ状態」という条件は、一度弱クリープ状態になれば、5)と7)の条件を排除して弱クリープ状態を維持するためという理由による。5)の条件は、車両が5km/hになった時点で弱クリープ状態にするが、車両が5km/hより小さくなると条件を満たさなくなる。そのため、車速が5km/hより小さくなると、5)の条件だけでは弱クリープ状態を維持できなくなる。そこで、車速が5km/h未満になっても弱クリープ状態を維持するために、弱クリープ状態を条件とする。
【0099】
7) 「車速が0km/hかつ中クリープ状態かつ中クリープ状態移行後所定時間経過」という条件は、強クリープ状態で車両停止時における燃費悪化及び車体振動の悪化を防止するためという理由による。車速が再び5km/hまで低下した時点(車速=5km/h)で弱クリープ状態に切り換わる機会を逃したり(5の条件によって)、或いは一度弱クリープ状態になった後にブレーキペダルBPの踏み込みが解除されて強クリープ状態になった後に車速5km/h以下が維持されると、強クリープ状態が維持される。さらに、ブレーキペダルBPが踏み込まれたまま強クリープ状態で車両停止が続くと、燃費が悪化し、車体振動も続く。そこで、車両が完全に停止(車速=0km/h)していて、強クリープ状態と弱クリープ状態の中間程度の駆動力である中クリープ状態になり、さらに中クリープ状態になってから所定時間(本実施の形態では、300msec)経過していれば、弱クリープ状態に切り換える。このように、駆動力を強クリープ状態から中クリープ状態、さらに弱クリープ状態と段階的に下げている間にブレーキペダルBPの踏み込みによるブレーキ力が高まるため、上り坂での瞬時の後退量も可及的に小さく抑えることができる。
【0100】
〔走行時強クリープ指令が発せられる条件〕
走行時強クリープ指令が発せられる条件について説明する。走行時強クリープ指令(F_MSCRP)が発せられるのは、次のI)及びII)の条件が2つとも満たされた場合である(図4(b)参照)。走行時強クリープ指令の後、走行時強クリープ状態になる。
I)車速>5km/hであること
II)スロットルがOFF(アクセルペダルの踏み込みが解除)であること
なお、この各条件は、駆動力制御装置DCUで判断される。また、駆動力を走行時強クリープ状態にするのは、強クリープ状態から弱クリープ状態に切り換える際に生じる車両停止前における運転者に与える強い減速感を生じさせないためである。そのために、弱クリープ状態になる前に、強クリープ状態の駆動力よりも小さい駆動力にしておく。
【0101】
前記の走行時強クリープ指令が発せられる条件を個別に説明する。
I)「車速>5km/hであること」という条件は、強クリープ状態から弱クリープ状態に移行する場合に、強クリープ状態移行後、車速が一度5km/hを越えてから車速が5km/hになった時点で弱クリープ状態にするからという理由による。また、車速が5km/h以下での強クリープ状態と車速が5km/hを越える走行時強クリープ状態とを判別するためである。
【0102】
II)「スロットルがOFFであること(TH OFF)」という条件は、運転者は駆動力の増強を望んでおらず、駆動力を低減しても支障がないからという理由による。
【0103】
〔中クリープ指令が発せられる条件〕
中クリープ指令が発せられる条件について説明する。中クリープ指令(F_MCRP)が発せられる条件は、次のI)、II)及びIII)の条件が3つとも満たされた場合である(図4(c)参照)。
I)ブレーキスイッチBSWがONであること
II)ポジションスイッチPSWが前進(D・L)レンジであること
III)車両完全停止(車速=0km/h)であること
なお、この各条件は、駆動力制御装置DCUで判断される。また、駆動力を中クリープ状態にするのは、車速が再び5km/hまで低下した時点(車速=5km/h)で弱クリープ状態に切り換わる機会を逃したり、或いは一度弱クリープ状態になった後にブレーキペダルBPの踏み込みが解除されて強クリープ状態になった後に車速5km/h以下が維持されると、強クリープ状態が維持される。さらに、強クリープ状態で車両停止が続くと、燃費が悪化し、車体振動も続く。そこで、車両停止時に強クリープ状態から弱クリープ状態に切り換えたのでは前記したように瞬時の後退などを生じるため、強クリープ状態と弱クリープ状態の中間程度の駆動力である中クリープ状態に切り換える。
【0104】
前記した中クリープ指令が発せられる条件を個別に説明する。
I)「ブレーキスイッチBSWがON」という条件は、ブレーキペダルBPが踏み込まれていないときには、運転者は少なくとも駆動力の低下を望んでいないからという理由による。
【0105】
II)「ポジションスイッチPSWが前進(D・L)レンジであること」という条件は、Dレンジ又はLレンジにおいて弱クリープ状態にするので、このレンジのときに中クリープ状態にする必要が生じるためという理由による。なお、N・Pレンジでは変速機の切り換えと同時に弱クリープ状態にするので中クリープ状態にする必要性がない。また、Rレンジでは強クリープ状態を維持するため中クリープ状態にする必要性がない。
【0106】
III)「車両完全停止(すなわち、車速=0km/h)であること」という条件は、車両停止時の強クリープ状態における燃費悪化や車体振動を抑制するために弱クリープ状態にするので、その過渡状態としての中クリープ状態が必要になるからという理由による。
【0107】
なお、弱クリープ状態、走行時強クリープ状態、中クリープ状態であるか否かは、CVT3の発進クラッチに対する油圧指令値により判定する。
【0108】
〔エンジンの自動停止条件〕
燃費をさらに向上させるため、車両の停止時にエンジン1を自動停止するが、この条件について説明する。図5に示す条件が全て満たされた場合に、エンジン停止指令(F_ENGOFF)が発せられ、エンジン1が自動的に停止する。このエンジン1の自動停止は、原動機停止装置が行う。したがって、以下のエンジン自動停止条件は、原動機停止装置で判断される。なお、エンジン1の自動停止条件はFI/MGECU4とCVTECU6で判断され、FI/MGECU4で判断されてI)からVIII)の条件が全て満たされるとF_MGSTBが1となり、CVTECU6で判断されてIX)からXV)の条件が全て満たされるとF_CVTOKが1となる。
【0109】
エンジンの自動停止条件を個別に説明する。
I)「ブレーキスイッチBSWがONであること」という条件は、運転者に注意を促すためという理由による。ブレーキスイッチBSWがONの場合、運転者は、ブレーキペダルBPに足を置いた状態にある。したがって、仮に、エンジン1の自動停止により駆動力がなくなって車両が坂道を後退し始めても、運転者は、ブレーキペダルBPの踏み増しを容易に行い得るからである。
【0110】
II)「エンジン1の水温が所定値以上であること」という条件は、エンジン1の自動停止・自動始動は、エンジン1が安定している状態で実施するのが好ましいからという理由による。水温が低いと、寒冷地では、エンジン1が再始動しない場合があるからである。
【0111】
III)「エンジン1始動後、一旦車速が5km/h以上であること」という条件は、クリープ走行での車庫出し・車庫入れを容易にするためという理由による。車両を車庫から出し入れする際の切り返し操作などで、停止するたびにエンジン1が自動停止したのでは、煩わしいからである。
【0112】
IV)「ポジションスイッチPSW及びモードスイッチMSWがR・D(Sモード)・Lレンジ以外のレンジであること(すなわち、N・D(Dモード)・Pレンジ)」という条件は、以下の理由による。ポジションスイッチPSWがRレンジの場合、車庫入れなどの際に頻繁にエンジン1が自動停止したのでは、煩わしいからである。ポジションスイッチPSWがDレンジかつモードスイッチMSWがSモードの場合又はポジションスイッチPSWがLレンジの場合、運転者は、素早い車両の発進などが行えることを期待しているからである。
【0113】
V)「バッテリ容量が所定値以上であること」という条件は、エンジン1停止後、モータ2でエンジン1を再始動することができないという事態を防止するためという理由による。
【0114】
VI)「電気負荷所定値以下であること」という条件は、負荷への電気の供給を確保するためという理由による。
【0115】
VII)「マスタパワーMPの定圧室の負圧が所定値以上であること」という条件は、マスタパワーMPの定圧室の負圧が小さいと、ブレーキペダルBPを踏み込んだ場合の踏み込み力の増幅が小さくなりブレーキの効きが低下してしまうから(アシストされない)という理由による。すなわち、定圧室の負圧が小さい状態でエンジン1を停止すると、定圧室の負圧はエンジン1の吸気管より導入しているため、定圧室の負圧はさらに小さくなる。そのため、ブレーキペダルBPを踏み込んだ場合の踏み込み力の増幅が小さくなり、ブレーキの効きが低下する。
【0116】
VIII)「アクセルペダルが踏まれていないこと(TH OFF)」という条件は、運転者は駆動力の増強を望んでおらず、エンジン1を停止しても支障がないからという理由による。
【0117】
IX)「FI/MGECU4でのエンジン1の自動停止条件が全て満たされて準備完了していること」という条件は、FI/MGECU4で判断すべきエンジン1の自動停止条件が全て満たされていないと、エンジン1を自動停止することが適当でないためという理由による。
【0118】
X)「車速0km/hであること」という条件は、車両が停止していれば駆動力をなくしても支障がないからという理由による。
【0119】
XI)「CVT3のレシオがローであること」という条件は、CVT3のレシオ(プーリ比)がローでない場合は円滑な発進ができない場合があるためという理由による。
【0120】
XII)「CVT3の油温が所定値以上であること」という条件は、CVT3の油温が低い場合は、発進クラッチの実際の油圧の立ち上がりに後れを生じ、エンジン1の始動から強クリープ状態になるまでに時間がかかり、坂道で車両が後退する場合があるためという理由による。
【0121】
XIII)「アクセルペダルが踏み込まれていないこと(TH OFF)」という条件は、運転者は駆動力の増強を望んでおらず、エンジン1を停止しても支障がないからという理由による。
【0122】
XIV)「ブレーキ力保持装置RUが正常であること」という条件は、ブレーキ力保持装置RUに異常がある場合は、運転者がブレーキペダルBPの踏み込みを解除した際に、ブレーキ力を保持することができないことがあるので、強クリープ状態を維持して坂道で車両が後退しないようにするためという理由による。
【0123】
XV)「〔1)ブレーキスイッチBSWがON〕又は〔2)ポジションスイッチPSWがN・Pレンジ〕であること」という条件は、以下の理由による。
1) ブレーキスイッチBSWがONの場合、ブレーキ力が保持されているため、エンジン1が自動停止して駆動力がなくなっても、上り坂で後退を生じることがない。また、運転者はブレーキペダルBPに足を置いた状態にある。したがって、仮に、エンジン1の自動停止により駆動力がなくなって車両が坂道を後退し始めても、運転者はブレーキペダルBPの踏み増しを容易に行い得るからである。
2) ポジションスイッチPSWがPレンジ又はNレンジで車両が停止している場合、運転者は、車両を完全に停止させる意思があるので、エンジン1を停止しても支障はない。
【0124】
〔ブレーキ力の保持が解除される場合〕
次に、ブレーキ力保持装置RUによりブレーキ力の保持(作用)が解除される場合について説明する。なお、ブレーキ力の保持解除は、車両自体に発進駆動力が生じたことにより解除される場合(図6(a)の条件の場合)と、フェイルアンドセーフなどの観点から解除される場合(図6(b)の条件の場合)がある。
【0125】
車両自体に発進駆動力が生じたことによりブレーキ力の保持を解除するのは、次の条件が満たされた場合である(図6(a)参照)。
I)クリープ立ち上がりかつブレーキ操作解除速度が閾値以上であること
この条件が満たされたときに、制御部CUは、第1の減少速度での調圧状態にある電磁弁SVに供給する制御電流Iの電流値を、第2の減少速度で連通状態になるまで制御電流Iの電流値を低下して、ブレーキ液圧の保持を解除する。
【0126】
I)「クリープ立ち上がり(F_SCDLY=1)かつブレーキ操作解除速度が閾値以上であること(F_BKTH=1)」という条件は、駆動力が強クリープ状態に増加する過程であり、強クリープ状態には至ってはいないが、車両の持つ慣性力及び転がり抵抗(プラス増加過程にある駆動力)を考慮すれば、上り坂での後退を抑制でき、かつ下り坂においては唐突感のない車両の発進を実現することができるからという理由による。
なお、制御電流Iの電流値を減少させる第1及び第2の減少速度は、第2の減少速度の方が減少割合が大きく設定され、ブレーキ力を早く低減させて、無駄なブレーキの引きずりが生じないようにしてある。この第2の減少速度も、第1の減少速度と同様、制御部CUが備えるテーブルに従う。
【0127】
一方、フェイルアンドセーフなどの観点からブレーキ力の保持を解除するのは、次のいずれかの条件が満たされた場合である(図6(b)参照)。
I)ポジションスイッチPSWがN・PレンジかつブレーキスイッチBSWがOFFであること
II)車速が20km/hを越えたこと
これらの条件のいずれかが満たされたときに、制御部CUは、第1の減少速度の調圧状態にある電磁弁SVに供給する制御電流Iの電流値を一気にゼロ(略ゼロ)にして、調圧状態にある電磁弁SVを直接連通状態に切り換えてブレーキ力の保持を一気に解除する。
【0128】
第1の減少速度の調圧状態にある電磁弁SVを直接連通状態に切り換えてブレーキ力の保持を解除する条件を個別に説明する。
I)「ポジションスイッチPSWがN・PレンジかつブレーキスイッチBSWがOFFであること」という条件は、ブレーキ力保持装置RUの無駄な動作を省くためという理由による。
【0129】
II)「車速が20km/hを越えたこと」という条件は、フェイルアンドセーフアクションとして、無駄なブレーキの引きずりをなくするためという理由による。
【0130】
〔クリープ立ち上がりの判断条件〕
クリープ立ち上がりの判断条件について説明する。クリープが立ち上っていると判断されるのは、次のI)又はII)のいずれかが満たされた場合である(図6(c)参照)。
I)CVT3の発進クラッチの油圧指令値が所定値以上であること
II)エンジン1が自動停止後に再始動し所定時間経過したこと
なお、この2つの条件は、駆動力制御装置DCUで判断される。クリープ立ち上がりは、ブレーキ力保持装置RUの作動が解除されてブレーキ力がなくなっても、車両の持つ慣性力及び転がり抵抗(プラス増加過程にある駆動力)を考慮すれば、上り坂での後退を抑制できる程度に駆動力が増加している状態である。また、このクリープ立ち上がりは、車両が多少の後退を生じても増加する駆動力により後退を最小限に抑制できる程度に駆動力が増加している状態を含む。
【0131】
前記したクリープ立ち上がりの判断条件について個別に説明する。
I)「CVT3の発進クラッチの油圧指令値が所定値以上であること」という条件は、CVT3の発進クラッチの油圧指令値が所定値以上であれば、ブレーキ力の保持を解除しても前記理由により上り坂において車両の後退を抑制できる程度に駆動力が増加していると判断されるためという理由による。また、下り坂においても唐突感のない滑らかな発進を行うことができるためという理由による。なお、発進クラッチの油圧司令値が所定値以上とは、弱クリープ状態から強クリープ状態に移行する過程で、発進クラッチの係合力の油圧を制御するリニアソレノイド弁への油圧指令値が弱クリープ状態と強クリープ状態との略中間の値まで増加した時点である。
【0132】
II)「エンジン1が自動停止後に再始動し所定時間経過したこと」という条件は、エンジン1が自動停止後に再始動し所定時間経過すれば、ブレーキ力の保持を解除しても前記理由により上り坂において車両の後退を抑制できる程度に駆動力が増加していると判断されるためという理由による。また、下り坂において唐突感のない滑らかな発進を行うことができるためという理由による。なお、所定時間は、エンジン1が実際に再始動し、CVT3の発進クラッチへの圧油の供給が開始された時点からカウントされ始める。というのは、エンジン1が停止状態ではCVT3の発進クラッチの油圧室内の作動油が抜けているため、エンジン1が始動して圧油の供給が開始した際に、押し付けピストンの無効ストローク(遊び)が有る。そのため、発進クラッチのリニアソレノイド弁への油圧指令値と実際の油圧値(駆動力伝達容量)とが一致しない。その結果、エンジン1の停止状態から駆動力が増加していく場合、CVT3の発進クラッチの油圧指令値によって、クリープ立ち上がりを判断できない。そこで、エンジン1の停止状態から強クリープ状態に移行する場合には、発進クラッチへの圧油の供給が開始された時点からタイマによりカウントし、クリープ立ち上がりを判断する。
【0133】
〔強クリープ指令が発せられる条件〕
強クリープ指令が発せられる条件について説明する。強クリープ指令(F_SCRP)は図7(a)又は図7(b)に示す条件が満たされた時に発せられ、強クリープ状態になる。強クリープ指令が発せられる第1条件は、次のI)又はII)のいずれかが満たされる場合である(図7(a)参照)。
I)〔1)ブレーキスイッチがOFF又はスロットルがON、かつポジションスイッチPSWが前進(D・L)レンジ〕又は〔2)ポジションスイッチPSWが後進(R)レンジ〕、かつ3)車速が5km/h以下であること
II)車両後退が検出されたこと
【0134】
或いは、強クリープ指令が発せられる第2条件は、次のIII)又はIV)のいずれかが満たされた場合である(図7(b)参照)。
III)〔1)ブレーキスイッチがOFF又はスロットルがON、かつポジションスイッチPSWが前進(D・L)レンジ〕又は〔2)ポジションスイッチPSWが後進(R)レンジ〕、かつ3)車速が5km/h以下であること
IV)車速パルス入力かつ車速パルスが入力される前に車両が完全停止であること
【0135】
ちなみに、強クリープ指令が発せられる第1条件と第2条件は、条件I)と条件III)が同一条件であり、条件II)と条件IV)が異なる。したがって、I)の条件と重複する条件III)の説明は省略する。なお、この各条件は、駆動力制御装置DCUで判断される。
【0136】
前記の強クリープ指令が発せられる条件を個別に説明する。
最初にI)の1)から3)の各条件を説明する。なお、この内容はIII)と同じ内容なのでIII)の説明は省略する。
1) 「ブレーキスイッチがOFF又はスロットルがONで、かつポジションスイッチPSWが前進(D・L)レンジ」という条件は、運転者が発進動作に移ったので強クリープ状態に移行するためという理由による。すなわち、運転者は、ポジションスイッチPSWをDレンジ又はLレンジとし、さらに、ブレーキペダルBPの踏み込みを解除したか或いはアクセルペダルを踏み込んでいるので、発進する意思がある。そこで、弱クリープ状態から強クリープ状態に切り換える。
なお、アクセルペダルが踏み込まれている場合、駆動力伝達容量が大きい状態に達した以降の駆動力伝達容量は、原動機で発生した駆動力のすべてを伝達できる容量(大きい状態以上の状態)に増加される。ただし、フラグは、次に別のフラグが立つまでは、強クリープのフラグ(F_SCRPON)が立ち続ける。
ちなみに、「ブレーキスイッチがOFF」という条件に代えて、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えたこと(F_BKTH=1)を条件にするのが、より好ましい。即ち、本実施形態に係る車両のブレーキ力保持装置RUは、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えたことを条件にブレーキ力の保持を行う。従って、状況によっては、ブレーキ操作解除速度が閾値に達するまでに、ブレーキ力がかなり低下していることがあり得るからである。一方、閾値に満たない小さなブレーキ操作解除速度で強クリープ状態にすると、運転者の発進を意図しないちょっとしたブレーキ操作で強クリープ状態になって、駆動力をブレーキ力で制することによる車体振動を生じることがあるからである。
【0137】
2) 「ポジションスイッチPSWが後進(R)レンジ」という条件は、Rレンジでのクリープ走行を円滑に行うためという理由による。すなわち、運転者は、ポジションスイッチPSWをRレンジに切り換えた場合、強クリープ状態の駆動力による走行で車庫入れなどを望んでいる場合がある。そこで、弱クリープ状態から強クリープ状態に切り換える。
【0138】
3) 「車速が5km/h以下」という条件は、車速が5km/hを越える場合の走行時強クリープ状態と車速5km/h以下の場合の強クリープ状態を判断するためという理由による。
【0139】
II)「車両後退検出」という条件は、急勾配の上り坂において車両の自重による移動力がブレーキ力を上回って車両が後退を始めているため、強クリープ状態の駆動力により後退を抑制するためという理由による。上り坂の場合、弱クリープ状態の駆動力(なお、エンジン1が停止の場合は駆動力がゼロ)とブレーキ力の和が、車両の自重による移動力に対する制動力になる。しかし、坂道が急になるほど、車両の自重による移動力が増加する。そのため、急勾配の上り坂では、車両の自重による移動力が弱クリープ状態の駆動力とブレーキ力の和を上回り、車両が後退する。そこで、車両の後退を検出したら、無条件に弱クリープ状態から強クリープ状態にして、上り坂に抗する駆動力を発生させる。
【0140】
ここで、図9を参照して、車両の後退を検出する手段について説明する。例えば、CVT3の発進クラッチの下流側にヘリカルギアHG(A),HG(B)を設ける。なお、ヘリカルギアHG(A),HG(B)を設ける位置は、タイヤと一緒に回転する位置ならよい。図9(a)に示すように、ヘリカルギアHG(A),HG(B)は、歯が螺旋状になっており、周方向に斜めに刻まれている。そのため、歯が▲1▼方向又は▲2▼方向の回転方向によって、歯の位相がずれる。そこで、ヘリカルギアHG(A),HG(B)の同一軸AX上に電磁ピックアップP(A),P(B)を各々設け、電磁ピックアップP(A),P(B)によって歯の先端を検出する。そして、電磁ピックアップP(A),P(B)で検出された2つのパルスに基づいて、パルス位相差の位置から回転方向を判断する。ちなみに、▲1▼方向に回転する場合、図9(b)に示すように、電磁ピックアップP(B)で検出されたパルスが電磁ピックアップP(A)で検出されたパルスより後方にずれる。すなわち、ヘリカルギアHG(A)の歯の先端が、ヘリカルギアHG(B)の歯の先端より先に検出される。他方、▲2▼方向に回転する場合、図9(c)に示すように、電磁ピックアップP(B)された検出したパルスが電磁ピックアップP(A)で検出されたパルスより前方にずれる。すなわち、ヘリカルギアHG(A)の歯の先端が、ヘリカルギアHG(B)の歯の先端より後に検出される。このように、パルス位相差の位置によって、回転方向を検出することができる。そこで、例えば、▲1▼方向の回転が車両後退の場合には、電磁ピックアップP(B)で検出したパルスが電磁ピックアップP(A)で検出したパルスより後方にずれれば、車両後退と判断する。なお、ヘリカルギアHG(A),HG(B)を使用したが、使用するギアとしては、2つのギアの歯に位相差があるギアならよい。
【0141】
IV)「車速パルス入力かつ車速パルスが入力される前に車両が完全停止であること」という条件は、車両が完全停止状態からすこしでも動いた場合には車両の後退(後退するおそれがある)と判断して強クリープ状態にして坂道に抗するためという理由による。すなわち、車両が前進したか、後退したかは判断せず、動いた時点を判断する。坂道の場合、弱クリープの駆動力(なお、エンジン1が停止の場合は駆動力はゼロ)とブレーキ力の和が、車両の自重による移動力に対する制動力になる。しかし、坂道が急になるほど自重による移動力が増加する。そのため、急な坂道では、車両の自重による移動力が弱クリープの駆動力とブレーキ力の和を上回り、車両が前進(下り坂)或いは後退(上り坂)する場合がある。そこで、車両の前進或いは後退(すなわち、車両の移動)を検出し、弱クリープ状態から強クリープ状態にして、坂道に抗する駆動力を発生させる。まず、車速パルスが入力される前に車速パルスが0パルスであることを検出し、車両が完全に停止していることを検出する。その後、車速パルスが1パルスでも入力されると、車両が動いたと判断する。なお、車両が運転者の意図する方向に進行する場合であっても駆動力を強クリープ状態にすることは、運転者の意に反するものではないので支障はない。
【0142】
〔エンジンの自動始動条件〕
エンジン1の自動停止後、エンジン1を自動始動する条件について説明する。図8(a)又は図8(b)に示す条件が満たされた場合に、エンジン始動指令(F_ENGON)が発せられ、エンジン1が自動的に始動する。このエンジン1の自動始動は、原動機停止装置が行う。したがって、以下のエンジン自動始動条件は、原動機停止装置で判断される。なお、エンジン1の自動始動条件はFI/MGECU4とCVTECU6で判断され、FI/MGECU4で判断されてI)からVI)の何れかの条件が満たされるとF_MGSTBが0となり、CVTECU6で判断されてVII)からXI)〔又は、VII)からX)とXII)〕の何れかの条件が満たされるとF_CVTOKが0となる。ちなみに、エンジン1の自動始動条件が発せられる第1条件(図8(a)に示す条件)と第2条件(図8(b)に示す条件)は、CVTECU6で判断するXI)車両後退検出とXII)車速パルス入力かつ車速パルスが入力される前に車両が完全停止の条件のみが異なる。したがって、エンジン1の自動始動条件が発せられる第2条件については、その条件のみ説明する。
【0143】
I)「ブレーキペダルBPの踏み込みが解除されたこと(すなわち、ブレーキスイッチBSWがOFF)」という条件は、ブレーキペダルの踏み込みが解除されることにより運転者の発進操作が開始されたと判断されるからという理由による。つまり、DレンジDモードの場合に運転者がブレーキペダルBPの踏み込みを解除するのは、発進操作を開始したときであるため、エンジン1を自動始動する。また、Pレンジ、Nレンジの場合に運転者がブレーキペダルBPの踏み込みを解除するのは、車両から降りるためなどであるが、この際エンジン1の自動停止により運転者がイグニッションスイッチを切る必要がないものと思い込んで車両を離れてしまうことがないようにエンジン1を自動始動する。
なお、強クリープ指令が発せられる条件と同様、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えたこと(F_BKTH=1)を条件に、エンジンの自動始動を行うのがより好ましい。前記のとおり、本実施形態に係る車両の場合、ブレーキ操作解除速度が閾値に達するまでにブレーキ力がかなり低下していることがあるからである。一方、閾値に満たない小さなブレーキ操作解除速度でエンジンの自動始動を行うと、運転者の発進を意図しないちょっとしたブレーキ操作でエンジンが自動始動してしまうからである。
【0144】
II)「ポジションスイッチPSW及びモードスイッチMSWがR・D(Sモード)・Lレンジに切り換えられたこと」という条件は、エンジン1の自動停止後、ポジションスイッチPSW及びモードスイッチMSWがR・D(Sモード)・Lレンジのいずれかに切り換えられるということは、運転者に即座に発進しようとする意図があるものと判断されるからという理由による。したがって、R・D(Sモード)・Lレンジ以外のレンジでエンジン1が自動停止した後、R・D(Sモード)・Lレンジに切り換えられると、エンジン1を自動始動する。
【0145】
III)「バッテリ容量が所定値以下であること」という条件は、バッテリ容量が低減するとエンジン1を自動始動することができなくなるのでこれを防止するためという理由による。すなわち、バッテリ容量が所定値以上でなければエンジン1の自動停止はなされないが、一旦、エンジン1が自動停止された後でも、バッテリ容量が低減する場合がある。この場合は、バッテリに充電することを目的としてエンジン1が自動始動される。なお、所定値は、これ以上バッテリ容量が低減するとエンジン1を自動始動することができなくなるという限界のバッテリ容量よりも高い値に設定される。
【0146】
IV)「電気負荷が所定値以上であること」という条件は、例えば、照明などの電気負荷が稼動していると、バッテリ容量が急速に低減してしまい、エンジン1を再始動することができなくなってしまうためという理由による。したがって、バッテリ容量にかかわらず電気負荷が所定値以上である場合は、エンジン1を自動始動する。
【0147】
V)「マスタパワーMPの負圧が所定値以下であること」という条件は、マスタパワーMPの負圧が小さくなるとブレーキの制動力が低下するためという理由による。したがって、マスタパワーMPの負圧が所定値以下になった場合は、エンジン1を自動始動する。
【0148】
VI)「アクセルペダルが踏み込まれていること(TH ON)」という条件は、運転者はエンジン1による駆動力を期待しているからという理由による。したがって、アクセルペダルが踏み込まれるとエンジン1を自動始動する。
【0149】
VII)「FI/MGECU4でのエンジン1の自動始動条件を満たしていること」という条件は、FI/MGECU4で判断するエンジン1の自動始動条件をCVTECU6でも判断するためという理由による。
【0150】
VIII)「アクセルペダルが踏み込まれていること(TH ON)」という条件は、運転者はエンジン1による駆動力を期待しているからという理由による。したがって、アクセルペダルが踏み込まれるとエンジン1を自動始動する。
【0151】
IX)「ブレーキペダルBPの踏み込みが解除されていること(すなわち、ブレーキスイッチBSWがOFF)」という条件は、ブレーキペダルBPの踏み込みが解除されることにより運転者の発進操作が開始されたと判断されるからという理由による。つまり、DレンジDモードの場合に運転者がブレーキペダルBPの踏み込みを解除するのは、発進操作を開始したときであるため、エンジン1を自動始動する。
なお、前記のとおり、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えたこと(F_BKTH=1)を条件に、エンジンの自動始動を行うのがより好ましい。
【0152】
X)「ブレーキ力保持装置RUが故障していること」という条件は、ブレーキ力保持装置RUが故障によってブレーキ力が保持されないと、エンジン1が停止した時には坂道で後退(前進)してしまうからという理由による。したがって、電磁弁SVなどが故障している場合は、エンジン1を自動始動して強クリープ状態を作り出す。エンジン1の自動停止後、ブレーキ力保持装置RUに故障が検出された場合は、発進時、ブレーキペダルBPの踏み込みが解除された際に、ブレーキ力を保持することができない場合があるので、強クリープ状態にすべく、故障が検出された時点でエンジン1を自動始動する。すなわち、強クリープ状態で車両が後退するのを防止し、坂道発進を容易にする。なお、ブレーキ力保持装置RUの故障検出は、故障検出装置DUで行う。
【0153】
XI)「車両後退検出」という条件は、急勾配の上り坂において車両の自重による移動力がブレーキ力を上回って車両が後退を始めているため、エンジン1の駆動力により後退を抑制するためという理由による。上り坂の場合、エンジン1が停止時、ブレーキ力が、車両の自重による移動力に対する制動力になる。しかし、坂道が急になるほど自重による移動力が増加する。そのため、急勾配の上り坂では、車両の自重による移動力がブレーキ力を上回り、車両が後退する場合がある。そこで、車両の後退を検出し、無条件にエンジン1の停止状態から強クリープ状態にして、上り坂に抗する駆動力を発生させる。なお、車両の後退を検出する方法は、強クリープ指令が発せられる条件で説明したので省略する。
【0154】
XII)「車速パルス入力かつ車速パルスが入力される前に車両が完全停止であること」という条件は、車両が完全停止状態からすこしでも動いた場合には車両の後退(後退するおそれがある)と判断してエンジン1を自動始動して駆動力により坂道に抗するためという理由による。すなわち、車両が前進したか、後退したかは判断せず、動いた時点を判断する。坂道の場合、エンジン1が停止の場合はブレーキ力のみが車両の自重による移動力に対する制動力になる。しかし、坂道が急になるほど自重による移動力が増加する。そのため、急な坂道では、車両の自重による移動力がブレーキ力を上回り、車両が前進(下り坂)或いは後退(上り坂)する場合がある。そこで、車両の前進或いは後退(すなわち、車両の移動)を検出し、エンジン1を自動始動して(強クリープ状態を作り出し)、坂道に抗する。まず、車速パルスが入力される前に車速パルスが0パルスであることを検出し、車両が完全に停止していることを検出する。その後、車速パルスが1パルスでも入力されると、車両が動いたと判断する。
【0155】
《制御タイムチャート》
次に、前記説明した第1の実施形態に係る車両が走行時にどのような制御を行うのかを、図10及び図11などを参照して説明する。
図10は、第1の実施形態に係る車両のブレーキ力保持装置におけるブレーキ力制御のフローチャートである。図11は、第1の実施形態に係る車両の制御タイムチャートである。
なお、車両は、緩い上り坂もしくは平地に停止する場合(図11の実線部分)と、下り坂に停車する場合(図11の一点鎖線部分)の2通りである。また、車両のポジションスイッチPSW及びモードスイッチMSWはDモードDレンジで変化させないこととする。
【0156】
〔減速→停止〕
先ず、車両走行時(ちなみに、車速>5km/h)、運転者がアクセルペダルの踏み込みを解除すると(すなわち、スロットルがOFFすると)、駆動力制御装置DCUは、走行時強クリープ指令(F_MSCRP)を発し、走行時強クリープ状態(F_MSCRPON)にする(図4(a),(b)参照)。そのため、強クリープ状態(F_SCRPON)よりも駆動力が減少する。
【0157】
さらに、運転者がアクセルペダルの踏み込みを解除すると共にブレーキペダルBPを踏み込むと(ブレーキスイッチBSWがONすると)ブレーキ力が増して行く。そして、継続してブレーキペダルBPが踏み込まれて車速が5km/hになると、駆動力制御装置DCUは、弱クリープ指令(F_WCRP)を発して弱クリープ状態(F_WCRPON)にする(図4(a),(b)参照)。このとき、走行時強クリープ状態から弱クリープ状態になるため、運転者は強い減速感を受けることがない。
【0158】
そして、車両が停止し車速が0km/hになる。運転者は、車両停止状態を維持するため、ブレーキペダルBPを踏みつづける。このため、エンジンが自動停止する(図5参照)。ここで、ブレーキ力制御装置RUは、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えるまで(F_BKTH=1)作動しないので、電磁弁SVは連通状態である(図3参照)。この状態は、図10のフローチャートのS101に相当する。
【0159】
〔停止→発進;緩い上り坂(平地)〕
次に、緩い上り坂もしくは平地から車両を発進させるため(図11の実線部参照)、運転者がブレーキを操作してブレーキペダルBPの踏み込みを開放し始める(図11(a)参照)。するとブレーキ力が低減し始める(図11(d)参照)。このとき、電磁弁SVは調圧状態又は遮断状態のいずれでもないので(S102)、ブレーキ力制御装置RUはブレーキ操作解除速度を計算する(S103)。運転者は、車両が緩い上り坂もしくは平地でのブレーキ操作を行うため、ブレーキペダルBPの踏み込みを普通よりやや早いか通常の早さで開放する。従って、ブレーキ操作を行う過程でブレーキ操作解除速度が閾値を越える(S104、図11(b)参照)。
【0160】
ブレーキ操作解除速度が閾値を越えると(時間t0)、予め定められた電流値I0の制御電流Iを制御部CUが出力して電磁弁SVに供給する(S105、図11(c)参照)。これにより、電磁弁SVは遮断状態になる。
なお、図11(d)に示すように、時間t0からしばらくブレーキ操作量に応じてブレーキ力が低下しているのは、ホイールシリンダWC側に保持されているブレーキ液圧が大きいため、供給された電流値I0では電磁弁SVを遮断状態にすることができず、見かけ上は連通状態が維持されるからである。
【0161】
ところで、制御部CUは、電磁弁SVに電流値I0の制御電流Iが供給されると同時に、予め定められている第1の減少速度でこの電流値I0の制御電流Iを徐々に漸減し始める(S107)。従って、ブレーキ操作量に応じて減少していたブレーキ力は、直ぐに、第1の減少速度で漸減して行く制御電流Iに基づいた電磁弁SVの調圧状態のもと、漸減する(図11(d)参照)。なお、車両は、漸減しつつ保持されるブレーキ力により、後退が抑制される。
【0162】
そして、運転者のブレーキ操作が終了してブレーキスイッチBSWがOFFになるとエンジンが自動始動し(図11(a)参照)、所定のわずかなタイムラグの後に駆動力が増加し始める(図示外)。なお、ブレーキスイッチBSWがOFFになっても、電磁弁SVは調圧状態にあるので、電磁弁SVが連通状態になることはない(S109、S110)。
駆動力が増加してクリープ立ち上がりと判断されると(時間t1、S106)、車両の後退を生じない程度に発進駆動力が生じているので、制御部CUは、第2の減少速度で制御電流Iの電流値を、連通状態になるまで低減する(S108、図11(c)参照)。これにより、車両に作用していたブレーキ力が消滅し(図11(d)参照)、違和感のない円滑な車両の発進が実現される。ところで、図11(c)の二点鎖線で示す小さな値の電流は、電磁弁SVの作動遅れを補償するためのものである(後に説明する図13及び図15において同じ)。
【0163】
〔停止→発進;下り坂〕
一方、下り坂においては(図11の一点鎖線部参照)、ブレーキ操作解除速度が閾値に達しないため(F_BKTH=0)、ブレーキ力保持装置RUは作動しない。従って、ブレーキ力は、運転者のブレーキ操作に応じたものになる。このように、下り坂において、ブレーキ力を運転者のブレーキ操作に応じたものにすることにより、自重による微速前進を円滑に行うことができる。ちなみに、この車両の場合、車両が前進(移動)することにより、エンジンが自動始動する(図8参照)。
【0164】
以上のように、第1の実施形態に係る車両によれば、上り坂では車両の後退がなく、下り坂では自重による微速前進を円滑に行えるなど、状況にかかわらず円滑な車両の発進を行うことができる。
なお、電磁弁が比例電磁弁の場合、設定された制御電流の電流値よりも、マスタシリンダ側のブレーキ液圧が高いときは、電磁弁は遮断状態にはなることができずに連通状態が維持される。従って、下り坂において、制御部がある程度大きな電流値を電磁弁に供給しても、この電流値で電磁弁を遮断状態にすることができるブレーキ液圧よりも高いブレーキ液圧でブレーキ操作を行う場合は、電磁弁の存在が、運転者のブレーキ操作を妨げることがない。
また、電磁弁によりブレーキ力の漸減を行う必要がなければ、通常の連通状態と遮断状態を作り出せるだけの一般的な電磁弁を使用することもできる。
【0165】
◎第2の実施形態;
次に、第2の実施形態に係る車両(ブレーキ力保持装置付車両)の説明を行う。なお、第1の実施形態と同一の部材・要素などについては、第1の実施形態で使用した図面を参酌すると共に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0166】
第2の実施形態に係る車両は、第1の実施形態に係る車両の構成をすべて備える。加えて、第2の実施形態に係る車両は、ブレーキ力制御装置が、ブレーキ操作解除速度(ブレーキ操作解除速度の増加率)が大きいほど、大きなブレーキ力を車両に作用させる。
【0167】
≪車両のシステム構成など≫≪ブレーキ力保持装置≫
第2の実施形態に係る車両のシステム構成など及びブレーキ力保持装置は、図1及び図2を参酌して説明した第1の実施形態に係る車両のシステム構成など及びブレーキ力保持装置と同じであるので、その説明を省略する。
ただし、ブレーキ力制御装置RUの制御部CUは、ブレーキ操作量検出器BGからの検出値V_BGに基づいてブレーキ操作解除速度を算出すると共に、さらにブレーキ操作解除速度を時間微分して、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えた時点におけるブレーキ操作解除速度の増加率を算出する。そして、このブレーキ操作解除速度の増加率が大きいほど、制御部CUは、大きな電流値の制御電流Iを電磁弁SVに供給し、大きなブレーキ力を車両に作用(保持)させる。一方、ブレーキ操作解除速度の増加率が小さいほど、制御部CUは、小さな電流値の制御電流Iを電磁弁SVに供給し、小さなブレーキ力を車両に作用(保持)させる。
【0168】
ここで、ブレーキ操作解除速度(最大値)ではなく、閾値を越えた時点でのブレーキ操作解除速度の増加率をパラメータとするのは次の理由による。
▲1▼本来的には、ブレーキ操作解除速度の最大値に応じてブレーキ力を保持すべきであるが、第2の実施形態に係る車両は、ブレーキ力をブレーキペダルBPの踏み込みに関係なく増加することができない。したがって、閾値を越えた後にブレーキ操作解除速度の最大値が現れた場合、閾値の時点よりもブレーキ力が低減しているため、この時点でブレーキ力を保持しても、保持すべきブレーキ力が小さく、車両の後退を生じることがあり得るからである。ちなみに、閾値がブレーキ操作解除速度の最大値になることは少なく、閾値を越えた後もブレーキ操作解除速度が増加しつづけ、閾値を越えた時点からしばらくしてブレーキ操作解除速度の最大値が現れることがほとんどである。この場合、ブレーキ力は、閾値の時点よりもかなり低減していることになる。
▲2▼閾値を越えた時点でのブレーキ操作解除速度の増加率の値が大きければ、ブレーキ操作解除速度の最大値が大きな値になると推定でき、逆に、閾値を越えた時点でのブレーキ操作解除速度の増加率の値が小さければ、ブレーキ操作解除速度の最大値が小さな値になると推定できるからである。そして、前記のとおり、ブレーキ操作解除速度の最大値と車両が停止している場所の勾配には、強い関連性があるからである。
【0169】
このように、ブレーキ操作解除速度の増加率をパラメータとすることで、車両が停止している場所の勾配の程度に応じてブレーキ力を保持することができる。つまり、ブレーキ操作解除速度の増加率が大きければ急な上り坂であり、車両を後退させる力が大きいので、ブレーキ力を大きく保持する。一方、ブレーキ操作解除速度の増加率が小さければ緩やかな上り坂あるいは平地などであり、車両を後退させる力が小さいので、ブレーキ力を急な上り坂の場合よりも小さく保持する。ちなみに、ブレーキ力解除速度が閾値に満たない場合は下り坂であり、車両には自重による前進力が生じるので、ブレーキ力保持装置RUの作動を禁止して、ブレーキ力の保持を行わない(運転者のブレーキ操作に従う)。
従って、ブレーキ操作解除速度の増加率をパラメータとすることで、車両が停止している場所の勾配に応じて、ブレーキ力の過不足のない一層円滑な車両の発進を行うことができる。
【0170】
なお、ブレーキ力をブレーキペダルBPの踏み込みに関係なく増加することがきる車両の場合は、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えた後に最大値が現れても、その最大値に応じて、あるいは時々刻々と変化するブレーキ操作解除速度に応じてブレーキ力を保持することが可能である(ブレーキ力を増減して保持することも可能)。ちなみに、ブレーキ力をブレーキペダルBPの踏み込みに関係なく増加することがきる車両としては、トラクションコントロールシステム(TCS)を備えた車両、車体挙動安定化装置(VDC)を備えた車両・・・などがある。
【0171】
≪具体的な車両の制御≫
第2の実施形態での具体的な車両の制御についても、第1の実施形態での具体的な車両の制御と同じである。従って、その説明を省略する。
ただし、〔ブレーキ力が保持される場合〕について、制御部CUは、運転者のブレーキ操作量(V_BG)からブレーキ操作解除速度を算出すると共に、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えた場合に閾値を越えた時点でのブレーキ操作解除速度の増加率を計算する。さらに、制御部CUは、計算したブレーキ操作解除速度の増加率から、電磁弁SVに供給すべき制御電流Iの電流値を計算し、この制御電流Iを電磁弁SVに供給する。この制御電流Iの電流値の大きさは、車両が停止している場所の勾配に応じたものになる。
【0172】
《制御タイムチャート》
次に、前記説明した第2の実施形態に係る車両が走行時にどのような制御を行うのかを、図12及び図13などを参照して説明する。
図12は、第2の実施形態に係る車両のブレーキ力保持装置におけるブレーキ力制御のフローチャートである。図13は、第2の実施形態に係る車両の制御タイムチャートである。
なお、車両は、急な上り坂に停止する場合(図13の実線部分)と、緩い上り坂もしくは平地に停止する場合(図13の一点鎖線部分)の2通りである。また、車両のポジションスイッチPSW及びモードスイッチMSWはDモードDレンジで変化させないこととする。
【0173】
〔減速→停止〕
先ず、車両走行時(ちなみに、車速>5km/h)、運転者がアクセルペダルの踏み込みを解除すると(すなわち、スロットルがOFFすると)、駆動力制御装置DCUは、走行時強クリープ指令(F_MSCRP)を発し、走行時強クリープ状態(F_MSCRPON)にする(図4(a),(b)参照)。そのため、強クリープ状態(F_SCRPON)よりも駆動力が減少する。
【0174】
さらに、運転者がアクセルペダルの踏み込みを解除すると共にブレーキペダルBPを踏み込むと(すなわち、ブレーキスイッチBSWがONすると)、ブレーキ力が増して行く。そして、継続してブレーキペダルBPが踏み込まれて車速が5km/hになると、駆動力制御装置DCUは、弱クリープ指令(F_WCRP)を発し、弱クリープ状態(F_WCRPON)にする(図4(a),(b)参照)。このとき、走行時強クリープ状態から弱クリープ状態になるため、運転者は強い減速感を受けることがない。
【0175】
そして、車両が停止し車速が0km/hになる。運転者は、車両停止状態を維持するため、ブレーキペダルBPを踏みつづける。このため、エンジンが自動停止する(図5参照)。ここで、ブレーキ力制御装置RUは、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えるまで(F_BKTH=1)作動しないので、電磁弁SVは連通状態である(図3参照)。この状態は、図12のフローチャートのS201に相当する。
【0176】
〔停止→発進;急な上り坂〕
次に、急な上り坂から車両を発進させるため(図13の実線部参照)、運転者がブレーキを操作してブレーキペダルBPの踏み込みを開放し始める(図13(a)参照)。するとブレーキ力が低減し始める(図13(d)参照)。このとき、電磁弁SVは調圧状態又は遮断状態のいずれでもないので(S202)、ブレーキ力制御装置RUはブレーキ操作解除速度を計算する(S203)。運転者は、急な上り坂でのブレーキ操作を行うため、ブレーキペダルBPの踏み込みを素早く開放する。従って、ブレーキ操作を行う過程でブレーキ操作解除速度が瞬時に閾値を越える(S204、図13(b)参照)。
【0177】
ブレーキ操作解除速度が閾値を越えると(時間t0)、閾値を越えた時点でのブレーキ操作解除速度の増加率(a→a1)が計算される(S205、図13(b)参照)。そして、この計算値a1から電磁弁SVに供給すべき制御電流Iの電流値を計算し(S206)、大きな電流値I1を電磁弁SVに供給する(S207、図13(c)参照)。
なお、供給された電流値I1は、ホイールシリンダWC側に保持されているブレーキ液圧に見合う値であるので、直ちに電磁弁SVが遮断状態になる(図13(d)参照)。
【0178】
次に、制御部CUは、電磁弁SVに電流値I1の制御電流Iが供給されると同時に、予め定められている第1の減少速度でこの電流値I1の制御電流Iを徐々に減少し始める(S209)。従って、第1の減少速度で減少して行く制御電流Iに基づいた電磁弁SVの調圧状態のもと、ブレーキ力が漸減する(図13(d)参照)。なお、車両は、漸減しつつ保持されるブレーキ力により、後退が抑制される。
【0179】
そして、運転者のブレーキ操作が終了してブレーキスイッチBSWがOFFになるとエンジンが自動始動し(図13(a)参照)、所定のわずかなタイムラグの後に駆動力が増加し始める(図示外)。なお、ブレーキスイッチBSWがOFFになっても、電磁弁SVは調圧状態にあるので、電磁弁SVが連通状態になることはない(S211、S212)。
駆動力が増加してクリープ立ち上がりと判断されると(時間t1、S208)、車両の後退を生じない程度に発進駆動力が生じているので、制御部CUは、第2の減少速度で制御電流Iの電流値を、連通状態になるまで低減する(S210、図13(c)参照)。これにより、車両に作用していたブレーキ力が消滅し(図13(d)参照)、円滑な車両の発進が実現される。
【0180】
〔停止→発進;緩い上り坂(平地)〕
一方、緩い上り坂もしくは平地においては(図13の一点鎖線部参照)、急な上り坂に比較してゆっくりブレーキペダルBPの踏み込みを開放する(図13(a)参照)。従って、S203で計算するブレーキ操作解除速度は、急な上り坂の場合よりも小さくなり、同時にブレーキ操作解除速度が閾値を越えるのも急な上り坂の場合よりも遅くなる(時間t0’、図13(b)参照)。このため、ブレーキ操作解除速度の増加率(a→a2)が小さくなる(S205)。制御部CUは、この小さなブレーキ操作解除速度の増加率a2から電磁弁SVに供給すべき制御電流Iの電流値を計算し(S206)、小さな電流値I2を電磁弁SVに供給する(S207)。
【0181】
電磁弁SVは、電流値I2の制御電流Iが供給されるが、ホイールシリンダWC側のブレーキ液圧が高いため、時間t0’において直ちに遮断状態になることができず、しばらく見かけ上の連通状態が続いた後に調圧状態になり、ブレーキ液圧が漸減する(図13(c),(d)参照)。なお、制御電流Iは、所定の第1の減少速度で電流値を減少し続ける(S209)。車両には、漸減しつつ保持されるブレーキ力が作用する。
【0182】
そして、運転者のブレーキ操作が終了してブレーキスイッチBSWがOFFになるとエンジンが自動始動し(図13(a)参照)、所定のわずかなタイムラグの後に駆動力が増加し始め(図示外)、クリープ立ち上がりが達成される(時間t1’)。制御部CUは、クリープ立ち上がりと判断すると(S208)、第2の減少速度で制御電流Iの電流値を、連通状態になるまで低減する(S210、図13(c)参照)。これにより、車両に作用していたブレーキ力が消滅し(図13(d)参照)、円滑な車両の発進が実現される。
なお、クリープ立ち上がりが達成されるまでは、電磁弁SVが調圧状態にあるので、ブレーキスイッチBSWがOFFになっても、直ちに電磁弁SVが連通状態になることはない(S211、S212)。
【0183】
以上のように、第2の実施形態に係る車両によれば、車両の停止場所の状況に応じて過不足なくブレーキ力を作用して、さらに円滑な車両の発進を行うことができる。
【0184】
◎第3の実施形態;
次に、第3の実施形態に係る車両(ブレーキ力保持装置付車両)の説明を行う。なお、第1の実施形態と同一の部材・要素などについては、第1の実施形態で使用した図面を参酌すると共に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0185】
第3の実施形態に係る車両は、第1の実施形態に係る車両の構成をすべて備える。加えて、第3の実施形態に係る車両は、ブレーキ力制御装置が、ブレーキ操作解除速度(ブレーキ操作解除速度の増加率)が大きいほど、ブレーキ力を漸減する漸減速度を小さくして車両に作用させる。
【0186】
≪車両のシステム構成など≫≪ブレーキ力保持装置≫
第3の実施形態に係る車両のシステム構成など及びブレーキ力保持装置は、図1及び図2を参酌して説明した第1の実施形態に係る車両のシステム構成など及びブレーキ力保持装置と同じであるので、その説明を省略する。
ただし、ブレーキ力制御装置RUの制御部CUは、ブレーキ操作量検出器BGからの検出値V_BGに基づいてブレーキ操作解除速度を計算すると共に、さらにブレーキ操作解除速度を時間微分して、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えた時点におけるブレーキ操作解除速度の増加率を計算する。そして、このブレーキ操作解除速度の増加率が大きいほど、制御部CUは、小さな漸減速度でブレーキ力を漸減する。一方、ブレーキ操作解除速度の増加率が小さいほど、制御部CUは、大きな漸減速度でブレーキ力を漸減する。
【0187】
ここで、ブレーキ操作解除速度(最大値)ではなく、閾値を越えた時点でのブレーキ操作解除速度の増加率をパラメータとするのは、第2の実施形態で説明したとおりであり、車両が停止している場所の勾配と強い関連性があるからである。
【0188】
即ち、ブレーキ操作解除速度の増加率をパラメータとすることで、車両が停止している場所の勾配の程度に応じてブレーキ力を保持することができる。つまり、ブレーキ操作解除速度の増加率が大きければ急な上り坂であり、車両を後退させる力が大きいので、ブレーキ力を長く保持する。一方、ブレーキ操作解除速度の増加率が小さければ緩やかな上り坂あるいは平地などであり、車両を後退させる力が小さいので、ブレーキ力を急な上り坂の場合よりも短く保持する。ちなみに、ブレーキ力解除速度が閾値に満たない場合は下り坂であり、車両には自重による前進力が生じるので、ブレーキ力保持装置RUの作動を禁止して、ブレーキ力の保持を行わない(運転者のブレーキ操作に従う)。
従って、ブレーキ操作解除速度の増加率をパラメータとすることで、車両が停止している場所の勾配に応じて、ブレーキ力の過不足のない一層円滑な車両の発進を行うことができる。
【0189】
≪具体的な車両の制御≫
第3の実施形態での具体的な車両の制御についても、第1の実施形態での具体的な車両の制御と同じである。従って、その説明を省略する。
ただし、〔ブレーキ力が保持される場合〕について、制御部CUは、運転者のブレーキ操作量(V_BG)からブレーキ操作解除速度を算出すると共に、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えた場合に閾値を越えた時点でのブレーキ操作解除速度の増加率を計算する。さらに、制御部CUは、計算したブレーキ操作解除速度の増加率から、電磁弁SVに供給した制御電流Iの電流値を漸減する第1の減少速度の減少割合を計算し、この計算値に基づいて電磁弁SVに供給する制御電流Iの電流値を減少する。これにより、ブレーキ力は、計算により求められた第1の減少速度に基づいて漸減して行く。
つまり、第1の減少速度の減少割合が大きければ、ブレーキ力の漸減速度が大きくなり、ブレーキ力は短く保持される。一方、第1の減少速度の減少割合が小さければ、ブレーキ力の漸減速度が小さくなり、ブレーキ力が長く保持される。この制御電流Iの電流値を減少する第1の減少速度の減少割合は、車両が停止している場所の勾配に応じたものになる。
【0190】
《制御タイムチャート》
次に、前記説明した第3の実施形態に係る車両が走行時にどのような制御を行うのかを、図14及び図15などを参照して説明する。
図14は、第3の実施形態に係る車両のブレーキ力保持装置におけるブレーキ力制御のフローチャートである。図15は、第3の実施形態に係る車両の制御タイムチャートである。
なお、車両は、急な上り坂に停止する場合(図15の実線部分)と、緩い上り坂もしくは平地に停止する場合(図15の一点鎖線部分)の2通りである。また、車両のポジションスイッチPSW及びモードスイッチMSWはDモードDレンジで変化させないこととする。
【0191】
〔減速→停止〕
先ず、車両走行時(ちなみに、車速>5km/h)、運転者がアクセルペダルの踏み込みを解除すると(すなわち、スロットルがOFFすると)、駆動力制御装置DCUは、走行時強クリープ指令(F_MSCRP)を発し、走行時強クリープ状態(F_MSCRPON)にする(図4(a),(b)参照)。そのため、強クリープ状態(F_SCRPON)よりも駆動力が減少する。
【0192】
さらに、運転者がアクセルペダルの踏み込みを解除すると共にブレーキペダルBPを踏み込むと(すなわち、ブレーキスイッチBSWがONすると)ブレーキ力が増して行く。そして、継続してブレーキペダルBPが踏み込まれて車速が5km/hになると、駆動力制御装置DCUは、弱クリープ指令(F_WCRP)を発し、弱クリープ状態(F_WCRPON)にする(図4(a),(b)参照)。このとき、走行時強クリープ状態から弱クリープ状態になるため、運転者は強い減速感を受けることがない。
【0193】
そして、車両が停止し車速が0km/hになる。運転者は、車両停止状態を維持するため、ブレーキペダルBPを踏みつづける。このため、エンジンが自動停止する(図5参照)。ここで、ブレーキ力制御装置RUは、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えるまで(F_BKTH=1)作動しないので、電磁弁SVは連通状態である(図3参照)。この状態は、図14のフローチャートのS301に相当する。
【0194】
〔停止→発進;急な上り坂〕
次に、急な上り坂から車両を発進させるため(図15の実線部参照)、運転者がブレーキを操作してブレーキペダルBPの踏み込みを開放し始める(図15(a)参照)。するとブレーキ力が低減し始める(図15(d)参照)。このとき、電磁弁SVは調圧状態又は遮断状態のいずれでもないので(S302)、ブレーキ力制御装置RUは、ブレーキ操作解除速度を計算する(S303)。運転者は、急な上り坂でのブレーキ操作を行うため、ブレーキペダルBPの踏み込みを素早く開放する。従って、ブレーキ操作を行う過程でブレーキ操作解除速度が瞬時に閾値を越える(S304、図15(b)参照)。
【0195】
ブレーキ操作解除速度が閾値を越えると(時間t0)、閾値を越えた時点でのブレーキ操作解除速度の増加率(a→a1)が計算される(S305、図15(b)参照)。
【0196】
同時に、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えると、予め定められた電流値I0の制御電流Iを制御部CUが出力して電磁弁SVに供給する(S306、図15(c)参照)。これにより、電磁弁SVは遮断状態になる。
なお、図15(d)に示すように、時間t0からしばらくブレーキ操作量に応じてブレーキ力が低下しているのは、第1の実施の形態で説明したように、ホイールシリンダWC側に保持されているブレーキ液圧が大きいためである。
【0197】
ところで、制御部CUは、先に計算したブレーキ操作解除速度の増加率から調圧状態における制御電流Iの電流値I0の減少割合、つまり第1の減少速度の減少割合を計算する(S308)。そして、電磁弁SVに供給した制御電流Iの電流値I0から、直ちにこの第1の減少速度で電流値を減少して行く(S309、図15(c)参照)。
従って、ブレーキ操作量に応じて減少していたブレーキ力は、直ぐに、第1の減少速度で減少して行く制御電流Iに基づいた電磁弁SVの調圧状態のもと、漸減する(図15(d)参照)。車両は、緩やかに漸減しつつ保持されるブレーキ力により、後退が抑制される。
【0198】
そして、運転者のブレーキ操作が終了してブレーキスイッチBSWがOFFになるとエンジンが自動始動し(図15(a)参照)、所定のわずかなタイムラグの後に駆動力が増加し始め(図示外)、クリープ立ち上がりが達成される(時間t0)。クリープ立ち上がりと判断されると(S309)、車両の後退を生じない程度に発進駆動力が生じているので、制御部CUは、第2の減少速度で制御電流Iの電流値を、連通状態になるまで低減する(S310、図15(c)参照)。これにより、車両に作用していたブレーキ力が消滅し(図15(d)参照)、円滑な車両の発進が実現される。
なお、クリープ立ち上がりが達成されるまでは、電磁弁SVが調圧状態にあるので、ブレーキスイッチBSWがOFFになっても、直ちに電磁弁SVが連通状態になることはない(S311、S312)。
【0199】
〔停止→発進;緩い上り坂(平地)〕
一方、緩い上り坂もしくは平地においては(図15の一点鎖線部参照)、急な上り坂に比較してゆっくりブレーキペダルBPの踏み込みを開放する(図15(a)参照)。従って、S303で計算するブレーキ操作解除速度は、急な上り坂の場合よりも小さくなり、同時にブレーキ操作解除速度が閾値を越えるのも時間t0’と、急な上り坂の場合の時間t0よりも遅くなる(S304、図15(b)参照)。このため、ブレーキ操作解除速度の増加率(a→a2)が小さくなる。制御部CUは、この小さなブレーキ操作解除速度の増加率a2から第1の減少速度の減少割合を計算する(S308)。この第1の減少速度の減少割合は、上り坂の場合よりも大きい。
従って、ブレーキ力の漸減速度は上り坂の場合よりも大きくなる(図15(d)参照)。これは、漸減速度を大きくすることにより、無駄なブレーキの引きずりをなくするためである。
【0200】
そして、運転者のブレーキ操作が終了してブレーキスイッチBSWがOFFになるとエンジンが自動始動し(図15(a)参照)、所定のわずかなタイムラグの後に駆動力が増加し始め(図示外)、クリープ立ち上がりが達成される(時間t1’)。クリープ立ち上がりと判断されると(S307)、制御部CUは、第2の減少速度で制御電流Iの電流値を、連通状態になるまで減少する(S310、図15(c)参照)。これにより、車両に作用していたブレーキ力が消滅し(図15(d)参照)、円滑な車両の発進が実現される。
なお、クリープ立ち上がりが達成されるまでは、電磁弁SVが調圧状態にあるので、ブレーキスイッチBSWがOFFになっても、直ちに電磁弁SVが連通状態になることはない(S311、S312)。
【0201】
以上のように、第3の実施形態に係る車両によれば、ブレーキ力の漸減速度を変化させることで、車両の停止場所の状況に応じて過不足なくブレーキ力を作用して、さらに円滑な車両の発進を行うことができる。
【0202】
以上、本発明は、前記の実施の形態に限定されることなく、様々な形態で実施される。
例えば、ブレーキ力保持装置はブレーキ力に作用する手段としてブレーキ液圧に作用する手段で構成したが、ブレーキ力に作用できる手段なら特に限定するものではない。
また、自動変速機を搭載した車両に限らず、手動変速機を搭載した車両にも適用することができる。
また、請求項1から請求項4に記載された発明を自由に組み合わせて実施することができる。当然、前記説明した第2の実施形態と第3の実施形態を組み合わせて実施することもできる。
また、ブレーキ力の保持を、車両停止時に開始する構成としてもよい。あるいは、ブレーキ力の保持を、例えば車速10km/h以下や5km/h以下の低車速で行う構成としてもよい。
【0203】
また、例えば、ブレーキ力をブレーキペダルの踏み込みに関係なく増加することができる車両の場合、ブレーキ操作解除速度に応じて、一旦低下したブレーキ力を高めることもできる。例えば、ブレーキペダルの踏み込みを徐々に解除し、車両の後退を感じたところで、一気にブレーキペダルの踏み込みを解除する場合があるとする。この場合、一気にブレーキペダルの踏み込みを解除する際のブレーキ操作解除速度を検知して、後退を生じた時点よりもブレーキ力を大きくして保持することも可能である。
また、ブレーキ力をブレーキペダルの踏み込みに関係なく増加することができる車両の場合、時々刻々と変化するブレーキ操作解除速度に応じてブレーキ力を逐次増減して保持する構成とすることができる。
なお、前記実施の形態で説明した車両の場合、ブレーキ操作解除速度が閾値を越えた後、以後各時点でのブレーキ力の範囲内で、ブレーキ操作解除速度の値に基づいてブレーキ力を逐次変化させる構成とすることもできる。
【0204】
【発明の効果】
本発明の請求項1、請求項3に係るブレーキ力保持装置付車両によれば、上り坂を登る場合に、ブレーキ操作解除後(ブレーキペダルの踏み込み開放後)もブレーキ力が車両に作用し、後退のない車両の発進を行うことができる。また、下り坂を下る場合に、ブレーキ力の保持を小さく行う(ブレーキ力保持装置を作動させない)ので、ブレーキペダルの踏み込みを緩めることによる微速前進を行うことができる。しかも、この構成においては、傾斜検出手段やバックギアスイッチなどを特に必要としない。
【0205】
また、本発明の請求項2に係るブレーキ力保持装置付車両によれば、下り坂における微速前進を一層円滑に行うことができると共に、ブレーキ力保持装置の無駄な動作を排除することができる。
また、本発明の請求項4に係るブレーキ力保持装置付車両によれば、駆動力制御装置により、燃費を低減しつつ円滑な発進を行うことができる。
【0206】
さらに、本発明の請求項5に係るブレーキ力保持装置付車両によれば、勾配の程度に応じてより円滑な車両の発進を行うことができる。
【0207】
そして、本発明の請求項6に係るブレーキ力保持装置付車両によれば、漸次減少するブレーキ力と増加する発進駆動力との調和を図って円滑な車両の発進を行うことができる。かつ、後退を生じやすい急勾配の上り坂ほど(大きな)ブレーキ力が長く保持されるため、上り坂での円滑な車両の発進を行うことができる。一方、ブレーキ操作量の解除速度が小さいほど漸減速度を大きくすることで、下り坂における無駄なブレーキの引きずりをなくすことができる。
また、本発明の請求項7に係るブレーキ力保持装置付車両によれば、保持したブレーキ力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第1の実施形態に係るブレーキ力保持装置付車両のシステム構成図である。
【図2】 第1の実施形態に係るブレーキ力保持装置付車両のブレーキ力保持装置の構成図である。
【図3】 第1の実施形態に係るブレーキ力保持装置付車両のブレーキ力保持装置のブレーキ力を保持する制御ロジックである。
【図4】 第1の実施形態に係るブレーキ力保持装置付車両の駆動力制御装置の(a)は弱クリープ状態にする制御ロジック、(b)は走行時強クリープ状態にする制御ロジック、(c)は中クリープ状態にする制御ロジックである。
【図5】 第1の実施形態に係るブレーキ力保持装置付車両の原動機停止装置のエンジンを自動停止する制御ロジックである。
【図6】 第1の実施形態に係るブレーキ力保持装置付車両のブレーキ力保持装置の(a)は車両自体に発進駆動力が生じたことによりブレーキ力の保持を解除する制御ロジック(第1の減少速度→第2の減少速度→連通状態)、(b)はフェイルアンドセーフなどの観点からブレーキ力の保持を解除する制御ロジック(第1の減少速度→連通状態)、(c)はクリープの立ち上がりを判断する制御ロジックである。
【図7】 第1の実施形態に係るブレーキ力保持装置付車両の駆動力制御装置の(a)は強クリープ状態にする制御ロジック(車両後退検出バージョン)、(b)は強クリープ状態にする制御ロジック(車両移動検出バージョン)である。
【図8】 第1の実施形態に係るブレーキ力保持装置付車両の原動機停止装置の(a)はエンジンを自動始動する制御ロジック(車両後退検出バージョン)、(b)はエンジンを自動始動する制御ロジック(車両移動検出バージョン)である。
【図9】 第1の実施形態に係るブレーキ力保持装置付車両の車両後退検出方法の一例であり、(a)は車両後退検出の構成図、(b)は(a)図の▲1▼方向回転のパルス位相、(c)は(a)図の▲2▼方向回転のパルス位相である。
【図10】 第1の実施形態に係るブレーキ力保持装置付車両のブレーキ力保持装置におけるブレーキ力制御のフローチャートである。
【図11】 第1の実施形態に係るブレーキ力保持装置付車両の制御タイムチャートである。(a)はブレーキ操作量を、(b)はブレーキ操作解除速度を、(c)は電磁弁の電流値を、(d)はブレーキ力をそれぞれ示す。
【図12】 第2の実施形態に係るブレーキ力保持装置付車両のブレーキ力保持装置におけるブレーキ力制御のフローチャートである。
【図13】 第2の実施形態に係るブレーキ力保持装置付車両の制御タイムチャートである。(a)はブレーキ操作量を、(b)はブレーキ操作解除速度を、(c)は電磁弁の電流値を、(d)はブレーキ力をそれぞれ示す。
【図14】 第3の実施形態に係るブレーキ力保持装置付車両のブレーキ力保持装置におけるブレーキ力制御のフローチャートである。
【図15】 第3の実施形態に係るブレーキ力保持装置付車両の制御タイムチャートである。(a)はブレーキ操作量を、(b)はブレーキ操作解除速度を、(c)は電磁弁の電流値を、(d)はブレーキ力をそれぞれ示す。
【符号の説明】
BK・・・ブレーキ装置(ブレーキ)
RU・・・ブレーキ力保持装置
Claims (7)
- 車両の停止時における運転者のブレーキ操作解除後も車両自体に発進駆動力が生じるまで、引き続きこの車両にブレーキ力を作用させるブレーキ力保持装置を備える車両において、
前記運転者の停止時におけるブレーキ操作量を検出して、このブレーキ操作量から単位時間毎のブレーキ操作の解除速度を算出し、
前記ブレーキ力保持装置は、前記解除速度に対応して設定されたブレーキ力を保持すること
を特徴とするブレーキ力保持装置付車両。 - 前記解除速度が所定値を越えたことを条件に、前記ブレーキ力保持装置を作動させてブレーキ力を保持すること
を特徴とする請求項1に記載のブレーキ力保持装置付車両。 - 車両の停止時における運転者のブレーキ操作解除後も車両自体に発進駆動力が生じるまで、引き続きこの車両にブレーキ力を作用させるブレーキ力保持装置を備える車両において、
前記運転者の停止時におけるブレーキ操作量を検出して、このブレーキ操作量から単位時間毎のブレーキ操作の解除速度を算出し、
前記ブレーキ力保持装置は、前記解除速度が所定値を越えたことを条件に前記ブレーキ力保持装置を作動させてブレーキ力を保持すること
を特徴とするブレーキ力保持装置付車両。 - 前記車両は、原動機がアイドリング状態、かつ所定車速以下で、ブレーキペダルの踏込み状態に応じてクリープの駆動力を予め設定された大きい状態と小さい状態に切り換え、
ブレーキペダルの踏込み時は前記クリープの駆動力を、前記予め設定された小さい状態にする駆動力制御装置を備え、
前記発進駆動力は、運転者のブレーキ操作解除により前記駆動力制御装置が前記クリープの駆動力を大きい状態に向けて増加させることにより達成されること
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のブレーキ力保持装置付車両。 - 前記ブレーキ力保持装置は前記解除速度が大きいほど、大きなブレーキ力を前記車両に作用させること
を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のブレーキ力保持装置付車両。 - 前記ブレーキ力保持装置は前記保持したブレーキ力を漸減すると共に、このブレーキ力を漸減する漸減速度を前記解除速度が大きいほど、小さくすること
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のブレーキ力保持装置付車両。 - 前記車両は、ブレーキ力をブレーキペダルの踏み込みに関係なく増加することができる車両であること
を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のブレーキ力保持装置付車両。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP34725999A JP3695687B2 (ja) | 1999-12-07 | 1999-12-07 | ブレーキ力保持装置付車両 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP34725999A JP3695687B2 (ja) | 1999-12-07 | 1999-12-07 | ブレーキ力保持装置付車両 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2001163197A JP2001163197A (ja) | 2001-06-19 |
JP3695687B2 true JP3695687B2 (ja) | 2005-09-14 |
Family
ID=18389013
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP34725999A Expired - Lifetime JP3695687B2 (ja) | 1999-12-07 | 1999-12-07 | ブレーキ力保持装置付車両 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP3695687B2 (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
US20220063625A1 (en) * | 2019-01-24 | 2022-03-03 | Hitachi Astemo, Ltd. | Vehicle control method and vehicle control device |
Families Citing this family (7)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2003276588A (ja) * | 2002-03-20 | 2003-10-02 | Nissan Diesel Motor Co Ltd | 車両のブレーキシステム |
JP4517597B2 (ja) * | 2003-05-23 | 2010-08-04 | トヨタ自動車株式会社 | 車両の発進制御装置 |
JP4515053B2 (ja) | 2003-07-23 | 2010-07-28 | 株式会社トランストロン | ブレーキ液圧保持装置 |
JP2006088733A (ja) * | 2004-09-21 | 2006-04-06 | Honda Motor Co Ltd | ブレーキ力保持装置 |
JP5711620B2 (ja) * | 2011-06-21 | 2015-05-07 | 本田技研工業株式会社 | 車両用油圧センサ故障検知装置及び方法 |
JP6459596B2 (ja) * | 2015-02-16 | 2019-01-30 | 株式会社アドヴィックス | 車両の運転支援装置 |
JP7127522B2 (ja) * | 2018-12-17 | 2022-08-30 | トヨタ自動車株式会社 | 車両用制動力制御装置 |
Family Cites Families (13)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPS51112026A (en) * | 1975-03-27 | 1976-10-04 | Mizuno Kogeisha:Goushi | Vehicular braking mechanism |
JPS61132151U (ja) * | 1985-02-06 | 1986-08-18 | ||
JPS61200054A (ja) * | 1985-03-02 | 1986-09-04 | Daihatsu Motor Co Ltd | 車両の逆行防止装置 |
JPS61200053A (ja) * | 1985-03-02 | 1986-09-04 | Daihatsu Motor Co Ltd | 車両の逆行防止装置 |
JPS62258841A (ja) * | 1986-05-06 | 1987-11-11 | Toyota Motor Corp | 制動力保持装置 |
JPH03118154U (ja) * | 1990-03-16 | 1991-12-05 | ||
JPH05116605A (ja) * | 1991-10-30 | 1993-05-14 | Daikin Ind Ltd | 雪上車のブレーキ装置 |
JP2877689B2 (ja) * | 1994-04-28 | 1999-03-31 | 三洋電機株式会社 | 誘導カート |
JPH08282456A (ja) * | 1995-04-10 | 1996-10-29 | Akebono Brake Ind Co Ltd | 坂道発進補助装置 |
JPH0958428A (ja) * | 1995-08-22 | 1997-03-04 | Isuzu Motors Ltd | 車両の制動力保持装置 |
JP3596138B2 (ja) * | 1996-01-29 | 2004-12-02 | トヨタ自動車株式会社 | 発進クラッチを備えた車両におけるブレーキ力制御装置 |
JPH10329671A (ja) * | 1997-05-28 | 1998-12-15 | Fujitsu Ten Ltd | ブレーキ制御システム |
JPH11124018A (ja) * | 1997-10-23 | 1999-05-11 | Jkc Truck Brake Systems:Kk | 坂道発進補助装置を備えたブレーキ制御システム |
-
1999
- 1999-12-07 JP JP34725999A patent/JP3695687B2/ja not_active Expired - Lifetime
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
US20220063625A1 (en) * | 2019-01-24 | 2022-03-03 | Hitachi Astemo, Ltd. | Vehicle control method and vehicle control device |
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP2001163197A (ja) | 2001-06-19 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP3891467B2 (ja) | ブレーキ液圧保持装置 | |
JP3546401B2 (ja) | 車両の駆動力制御装置 | |
JP3561897B2 (ja) | 車両用ブレーキ装置 | |
JP3413648B2 (ja) | ブレーキ力保持装置 | |
JP3598491B2 (ja) | ブレーキ液圧保持装置 | |
US6338398B1 (en) | Vehicle with braking force retaining unit | |
JP2006088732A (ja) | ブレーキ力保持装置 | |
JP3240560B2 (ja) | 原動機停止装置 | |
JP2006083830A (ja) | エンジン制御装置 | |
JP3574997B2 (ja) | ブレーキ力制御装置 | |
JP3114098B2 (ja) | ブレーキ液圧保持装置 | |
JP3350815B2 (ja) | 車両の駆動力制御装置 | |
JP3102560B1 (ja) | 車両の駆動力制御装置 | |
JP3642507B2 (ja) | 車両の駆動力制御装置 | |
JP3695687B2 (ja) | ブレーキ力保持装置付車両 | |
JP3967850B2 (ja) | ブレーキ力保持装置付きの車両 | |
JP3500603B2 (ja) | ブレーキ液圧保持装置 | |
EP1065115A2 (en) | Driving force control unit for vehicles | |
JP2001047987A (ja) | ブレーキ力保持装置 | |
JP3967847B2 (ja) | ブレーキ力制御装置を有する車両 | |
JP2006082782A (ja) | ブレーキ力保持制御装置 | |
JP3213887B2 (ja) | ブレーキ液圧保持装置付車両 | |
JP2000351360A (ja) | ブレーキ液圧保持装置 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20040513 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20040602 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20040802 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20050622 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20050624 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 Ref document number: 3695687 Country of ref document: JP Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20080708 Year of fee payment: 3 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20090708 Year of fee payment: 4 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20100708 Year of fee payment: 5 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20100708 Year of fee payment: 5 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20110708 Year of fee payment: 6 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20110708 Year of fee payment: 6 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20120708 Year of fee payment: 7 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20120708 Year of fee payment: 7 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20130708 Year of fee payment: 8 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20140708 Year of fee payment: 9 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
EXPY | Cancellation because of completion of term |