JP3757659B2 - 超電導線材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、超電導線材およびその製造方法に関し、特に超電導フィラメントが酸化物超電導材料からなり、金属被覆中で螺旋状の経路を有する超電導線材およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
超電導体を複数に分割してフィラメントとし、それらを金属でマトリックス状に被覆した金属被覆超電導線材が知られている。高温で超電導特性を有する酸化物超電導線材も同様の構造が提案されており、銀または銀合金をマトリックスで被覆したいわゆる銀シース多芯超電導線材の開発が進められている。この場合、酸化物超電導体としては、たとえばBi−2212,Bi−2223,Tl−1223,Tl−2223,Y123,Nd−123,等の酸化物粉末を出発原料とし、銀または銀合金の被覆材と複合させ、さらに超電導化熱処理を施して、超電導線材が得られる。通常、このような複合化構造は、例えば図11にその断面を示すように、超電導体を複数のフィラメント1の組織に分割し、これらを銀または銀合金2で被覆した断面円形すなわち丸線のマルチフィラメント超電導線材3とする方法が多く用いられている(例えば、特開平4-292809を参照)。また、このような断面円形の線材に圧延加工を施し、図12に示すような断面が矩形状のテープ状酸化物超電導線材4とすることも多い。
【0003】
酸化物超電導線材の場合、丸形状線材の77Kにおける臨界電流密度をJc1 、テープ状線材のそれをJc2 とすると、Jc1 <Jc2 となるのが普通である。つまり、酸化物超電導体の場合、個々の超電導フィラメントの断面形状を丸(フィラメントのアスペクト比が1)でなく、楕円またはテープ(フィラメントのアスペクト比1以上)にした方がJcを大きくすることができる。
【0004】
ところで、線材の最終断面形状としては丸線の方がテープ状線材に比べ汎用性があり、しかも取り扱いが容易となるとの理由から、別の断面構造として、図13に示すように、超電導フィラメント1がテープ状(アスペクト比1より大)で線材の断面は円形とした酸化物超電導線材5が提案されている(特開平9-223418号)。このような構造の超電導線材は、断面円形の線材に圧延加工を施して断面が矩形状のテープ状線材とし、そのテープ状線材の複数本を金属パイプないしビレット中に組込み、その後、縮径加工を行うことで長尺で丸形状の超電導線材を得ている。
【0005】
また、超電導線材は交流損失低減対策や機械歪み耐性向上を目的として、線材の製作途中で線材をツイスト加工することにより、超電導フィラメントの経路を金属被覆中で長手方向に螺旋状に構成することがある。さらに、交流損失低減対策の他の手法として、超電導フィラメント間に電気的絶縁層を介在させることでフィラメント相互の電気的結合を抑制する、いわゆるバリアー層を形成する場合がある。このバリアー層の材料としては、通常BaZrO3 ,SrZrO3 ,MgO,MnOなどの酸化物材料がある。
【0006】
こうした超電導線材においては、製造工程における減面加工時に超電導フィラメントが緻密化されることによって、高いJc特性が得られている。横断面がテープ状の超電導フィラメントを有する超電導線材のJcが、横断面円形の超電導フィラメントを有する超電導線材のそれより高いのは、前者の場合、減面加工時の圧下力が超電導フィラメントの横断面内で均一にかかり緻密化も均一に行われるのに対し、後者の場合、超電導フィラメント横断面の中心部は外層部に比べて圧下力が小さくなって、十分に緻密化されないからである。つまり、後者の場合、各フィラメント横断面の超電導組織を均一に緻密化できないために、Jcが制限されるのである。
【0007】
ここで更に重要なのは、超電導フィラメントの長手方向での超電導組織の緻密度のばらつき、ムラの発生であり、これもJcを制限する原因となる。これは、線材の製造中における何らかの外乱や素材寸法のばらつき等に起因して、素材に許容される応力を超える局部的な応力が線材の塑性加工の際に素材に加わるためと考えられる。従って、高Jcの超電導線材を安定的に歩留まり良く製造するためには、線材の長手方向において超電導フィラメントの超電導組織が均一かつ高い緻密度で形成されることが必要である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記の欠点を解消し、線材の長手方向において超電導フィラメントの超電導組織が均一かつ高い緻密度で形成でき、かつ、横断面が略円形の超電導線材においても横断面がテープ状の超電導線材と同等の臨界電流密度を達成できる超電導線材とその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明では、横断面が略円形の外形を有する超電導線材であって、超電導線材は、その横断面が略半円形または中心角が略120度である扇形のセグメントの2本または3本が長手方向に所定のピッチで螺旋状に集合された集合体からなり、前記セグメントは酸化物超電導体からなる超電導フィラメントと当該超電導フィラメントを覆う金属被覆とからなる横断面が略円形の素線を螺旋状に撚り合せて縮径加工したものであり、前記超電導フィラメントは前記セグメント内でセグメントと異なる方向の螺旋状に所定のピッチで配置され、横断面のアスペクト比が1.5以上であることを特徴とする超電導線材を提供する。ここで、セグメントの各々の間に電気的絶縁層が設けられていることが好ましい。
【0010】
さらにまた、本発明では、横断面が略半円形または中心角が略120度である扇形のセグメントの2本または3本が長手方向に所定ピッチで螺旋状に集合された集合体からなる超電導線材の製造方法であって、酸化物超電導材料からなる超電導フィラメントが金属で被覆され横断面が略円形の素線に所定のピッチP0でツイスト加工を施し、そのツイスト加工された素線n本(n=2、3)を所定のピッチで螺旋状に撚り合わせ、次いで当該撚線を所定の外径を有する横断面が略円形の線材に縮径加工して前記超電導フィラメントをアスペクト比が1.5以上の横断面にすることを特徴とする超電導線材の製造方法を提供する。ここで、素線外径をd0、縮径加工前の撚線ピッチをP1、縮径加工後の線材外径をdSとすると、
n=2の場合、P1/d0=3〜30、dS<1.2d0、
n=3の場合、P1/d0=8〜40、dS<1.7d0
であり、ピッチP0とピッチP1の螺旋の方向は反対とする。
【0011】
なお、本発明において、横断面が略円形とは、円形のみならず、対称N角形(Nは6以上)を含む概念である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
図3、図6、図7、図8及び図10は、本発明に係る超電導線材の実施の態様を、酸化物超電導線材を例にとり、横断面図で示したものである。
【0014】
図3に示す例は、アスペクト比が1.5以上で好ましくは20以下である酸化物超電導フィラメント1を55本と、酸化物超電導フィラメント1を覆う金属被覆2を有し、かつ横断面が略半円形であるセグメント8a,8bの2本を、長手方向に所定のピッチで螺旋状に集合した集合体9からなり、横断面が略円形の外形を有している酸化物超電導線材である。そして、各酸化物超電導フィラメント1は、各セグメント8a,8b内において、セグメントの螺旋の方向と反対方向の螺旋状に、所定のピッチに配置されている。
【0015】
図6は、他の例であって、アスペクト比が1.5以上で好ましくは20以下である酸化物超電導フィラメント21を55本と、酸化物超電導フィラメント21を覆う金属被覆22を有し、かつ横断面において中心角が略120度であるセグメント30a,30b,30cの3本を、長手方向に所定のピッチで集合した集合体31からなり、横断面が略円形の形状を有している。そして、この例においても、図3と同様に、各酸化物超電導フィラメント21は、各セグメント30a,30b,30c内において、セグメントの螺旋の方向と反対方向の螺旋状に、所定のピッチに配置されている。
【0016】
図7は、さらに別の例であって、横断面において中心角が略120度であるセグメント32a,32b,32cのそれぞれに含まれる酸化物超電導フィラメント21の本数を19とし、これらセグメント32a,32b,32cを長手方向に所定のピッチで螺旋状に集合した集合体33としたものであり、各セグメント32a,32b,32cの間には、電気的絶縁材料(例えば、BaZrO3 ,SrZrO3 ,MgO,MnO等の酸化物)で構成されるバリアー層44が設けられており、これにより各セグメントは電気的に絶縁されている。この例において、各フィラメント21は、そのアスペクト比が1.5以上好ましくは20以下であり、かつ、各セグメント32a,32b,32c内において、セグメントの螺旋と反対方向の螺旋状に配置されている。
【0017】
図8は、さらに別の例であって、横断面において中心角が略120度であるセグメント34a,34b,34cのそれぞれに含まれる酸化物超電導フィラメント41の本数を55とし、これらセグメント34a,34b,34cを長手方向に所定のピッチで螺旋状に集合した集合体47としたものであり、各フィラメント41の表面には、電気的絶縁材料(例えば、BaZrO3 ,SrZrO3 ,MgO,MnO等の酸化物)で構成されるバリアー層44が設けられており、これにより各フィラメントは電気的に絶縁されている。そして、各フィラメント41は、そのアスペクト比が1.5以上好ましくは20以下であり、かつ、各セグメント34a,34b,34c内において、セグメントの螺旋と反対方向の螺旋状に配置されている。
【0018】
図10は、さらに別の例であって、ほぼ中心に金属芯材53が配置された酸化物超電導フィラメント51と、酸化物超電導フィラメント51の19本を覆う金属被覆(フィラメント被覆)54と、その外側を覆うもう一つの金属被覆(セグメント被覆)55からなる、横断面において中心角が120度であるセグメント36a、36b、36cを長手方向に所定のピッチ螺旋状に集合した集合体57よりなる。金属芯材53は、その硬さが金属被覆54、55よりも小さい、すなわち柔らかい材料が選ばれ、かつ金属被覆54はその硬さが金属被覆55よりも小さい、すなわち柔らかい材料が選ばれている。この例においても、金属芯材53を含む酸化物超電導フィラメント51の各々は、アスペクト比が1.5以上このましくは20以下であり、かつセグメント36a、36b、36c内において、セグメントの螺旋の方向と反対方向の螺旋状に配置されている。
【0019】
以上の、本発明の実施の態様による酸化物超電導線材によれば、各超電導フィラメントはセグメント内においてセグメントの螺旋と異なる方向の螺旋状に所定のピッチで配置されるので、その製造工程において、撚線加工後の外観形状(撚線の最外径と撚線ピッチ)のばらつきが小さくなり、縮径加工時の素材の断線やキンク等の欠陥を減らすことができる。その結果、超電導線材の長手方向において超電導フィラメントの超電導組織が均一かつ高い緻密度で形成できる。
【0020】
また、各超電導フィラメントが長手方向において線材の内層部側、外層部側に交互に配置されているので、線材の製造工程における縮径加工時の超電導フィラメントの圧下力、それに伴う超電導フィラメントの緻密化度が、各々の超電導フィラメント間で均一化される。しかも、超電導フィラメントは、アスペクト比が1.5以上である横断面が板状または楕円状に形成されるので、横断面が略円形の超電導線材においても横断面がテープ状の超電導線材と同等の臨界電流密度を達成できる。
【0021】
特に、図10の例では、各セグメントを構成する金属材料において、金属被覆(セグメント被覆)55の硬さが、金属芯材53および金属被覆(フィラメント被覆)54の硬さよりも大きく選ばれているので、超電導フィラメントの界面における凹凸が減少して平滑化され、臨界電流密度Jcの向上に寄与する。
【0022】
次に、本発明に係る超電導線材の製造方法について、実施の態様を説明する。
【0023】
図1は、本発明に係る製造方法の工程を示すフローチャートであり、金属被覆内部に1本の酸化物超電導体の芯を含む単フィラメントを作製する工程と、その単フィラメントの複数本を金属管内に複数本組み込んで多芯ビレット化し、それを静水圧押出しにより多芯フィラメント複合体を形成する工程と、その多芯フィラメント複合体を縮径加工し横断面が略円形の素線を作成する工程と、その素線に所定のピッチでツイスト加工する工程と、その素線を2本または3本撚り合わせる工程と、その撚線を更に縮径加工する工程を含む。
【0024】
以下、仕様外径ds、仕様撚線ピッチPsの酸化物超電導線材を得ることを例に、各工程について詳細に説明する。
【0025】
A.単フィラメント作製
まず、1本の酸化物超電導フィラメントと金属被覆からなる単フィラメントを作製する。フィラメントを構成する物質は、公知の酸化物超電導材料、例えば、Bi−2212、Bi−2223、Tl−1223、Tl−2223、Y−123、Nb-123からなる。一方、金属被覆は、特に限定するものではないが、芯となる酸化物超電導材料と反応して超電導特性を低下させない材料が好ましく、例えば、Bi−2212、Bi-2223の酸化物超電導材料のときは、銀または銀合金(Agを主成分としてAu、Pd、Ti、Mg、Ni、Sb、Al、Mnより選ばれた少なくとも1種を添加したもの)であることが好ましい。本工程の一例として、超電導材料は超電導化熱処理を施していない粉末または一旦焼結後に粉砕した粉末(以下、前駆体粉末という)を所定の長さの金属管に充填し、次いで縮径加工することにより、横断面が略円形の単フィラメントを作製する。ここで、単フィラメントの最外層には金属被覆が設けられている(フィラメント被覆)。また、単フィラメントの中心には金属芯材を配置しても良く、この場合、金属芯材は、その硬さがフィラメント被覆よりも小さい、すなわち柔らかい材料に選ぶことが好ましい。これにより、後述の工程Lにおけるフィラメントの変形がスムースに起こる。さらに、交流損失低減効果を重視する場合は、フィラメント被覆の表面に金属または酸化物等であって後述する超電導化熱処理によって良導体とならない材料を、例えばペースト状にして200μm以下の厚さで塗布してもよい。
【0026】
B.多芯フィラメント複合体の作製
工程Aで得た単フィラメントを複数本、所定の長さの別の金属管に組み込んで多芯ビレット化する。金属管は、その材料を特に限定するものではないが、好ましくは銀または銀合金(Agを主成分としてAu、Pd、Ti、Mg、Ni、Sb、Al、Mnより選ばれた少なくとも1種を添加したもの)であり、その材料の硬さは、フィラメント被覆を構成する材料と同じとするか、より好ましくは、金属芯材およびフィラメント被覆を構成する材料の硬さより大きいものとする。多芯ビレット化に際し、中心に金属被覆と同様の材料からなり超電導材料を含まない金属芯材をさらに配置してもよい。この多芯ビレットは静水圧押出しにより、横断面が略円形の多心フィラメント複合体に成形される。これにより、金属管は多芯フィラメント複合体の最外層を構成する金属被覆となり、後工程の撚線加工、撚線の縮径加工を経てセグメント化されたときの金属被覆(セグメント被覆)となる。
【0027】
C.縮径加工
次いで、工程Bの多芯フィラメント複合体を、押出し、スウェージャーまたは伸線により減面加工し、横断面が略円形で多芯フィラメントを有する素線を作製する。ここで、交流損失低減効果を重視する場合は、この素線の表面に、金属または酸化物等であって後述する超電導化熱処理によって良導体とならない材料を、例えばペースト状にして所定の厚さで塗布してもよい。この層は、線材化したときの各セグメント間の電気的接続を遮断するためのものである。なお、ここで塗布する材料は、塗布することによって潤滑性の向上するものが望ましいが、それに限定されるものではない。以下の工程での説明の便宜上、ここで得られた素線の外径をd0 、長さをL0 とする。
【0028】
D.素線のツイストと撚線加工
工程Cで得られた素線にツイスト加工(ツイスト加工後のフィラメントの螺旋ピッチをP0 とする)を施し、次いで、図4に示すように、そのツイスト加工された素線の2本または3本を、素線のツイスト加工の方向と反対方向に所定のピッチP1 で螺旋状に撚り合わせる。図において、61は素線、62a,62b,62cは撚線46の進行方向を軸としてその周囲を公転する素線ボビンである。なお、ツイスト加工の直後に伸線または所定の熱処理のいずれか1つを施してから撚り合わせてもよい。
【0029】
また、図5にあるように、別の態様として、素線ボビン63a、63b、63cを素線61の送出し方向を軸にして回転させることによって素線をツイスト加工しつつ、素線ボビンを撚線46の進行方向を軸としてその周囲に公転させることで、ツイスト加工と反対方向に撚り合わせを行うことも可能である。
【0030】
素線の撚り合わせピッチは、素線が2本の場合、P1 /d0 =1.5〜30、素線が3本の場合は、P1 /d0 =4〜40を満足する範囲とする。通常の撚線で形状を維持するためには、P1 /d0 の上限は約100まで可能である。しかしながら、本発明では、撚線が次の縮径加工を経るので、P1 /d0 が100程度まで大きいと、縮径加工の際に素線がばらけてしまい、加工が困難になる。そこで、撚線に縮径加工を施すことができる上限として、P1 /d0 は、素線が2本の場合30、素線が3本の場合40が選ばれる。一方、P1 /d0 が小さすぎると、撚線加工時に素線が過度の加工歪を受け、金属被覆中のフィラメント組織に乱れや破壊が生じ、そのために最終的に得られた超電導線材において超電導特性の低下を招くおそれがある。しかしながら、撚線加工に先立って素線にツイスト加工を施すことにより、フィラメント組織の乱れや破壊がかなり防止されることがわかった。発明者らの実験の結果、撚線加工によって問題の生じないP1 /d0 の下限が、素線が2本の場合1.5、素線が3本の場合4まで拡大できることがわかった。
【0031】
図2および図9は撚線加工後の状態を示し、図2は2本の例を、図9は3本の例をそれぞれ示しており、6,56はそれぞれ撚線である。図示のとおり、撚線加工後の外径をd1 とすると、d1 は幾何学的に一義に決定し、2本の場合(図2)ではd1 =2d0 、3本の場合(図9)ではd1 =2.31d0 である。また、素線のツイストピッチ(即ちフィラメントの螺旋ピッチ)P0 および素線の撚り合わせピッチP1 の回転方向は、いわゆるS巻またはZ巻のいずれでもよいが、共に反対方向であるよう選択する。
【0032】
このように素線のツイストピッチとP0 および素線の撚り合わせピッチP1 の回転方向を反対方向に選択すると、撚線加工後の外観形状(撚線の最外径d1 と撚線ピッチP1 )のばらつきが小さくなり、次の縮径加工時の素材の断線やキンク等の欠陥を減らすことができる。このメカニズムは、次のように考えている。すなわち、素線のツイスト加工後は、被覆金属とその内部の各超電導フィラメントにせん断の残留応力が分布している。そして、その後の撚り合せ加工においては、その残留応力成分が開放されるような応力を受けて加工される。その結果、素材の力学的ポテンシャルエネルギーを大きくすることなく次の縮径加工を安定して行うことができるのである。
【0033】
E.縮径加工
工程Dで得られた撚線に、ダイスを用いた伸線装置またはスウェージャー等公知の手段によって縮径加工を行なう。この縮径加工は1回でも複数回の繰り返しでもよいが、1回の縮径加工による外径の減少率は2〜20%となるよう、ダイス口径を選定することが好ましい。縮径加工を複数回繰り返すときは、縮径加工の途中で、焼鈍処理や超電導化のための中間熱処理、あるいは前駆体粉末組織の脱ガス処理を施してもよい。中間熱処理を行なうときは、その後の縮径加工は、1回のパスによる外径の減少率は2〜5%とするのが好ましい。
【0034】
縮径加工によって得られる複合線材の外径をdとすると、素線が2本の場合d<1.3d0 、素線が3本の場合d<1.8d0 に達すると、外径が略円形に成形された線材が得られる。この際、縮径加工によって2本または3本の素線はつぶされて横断面が半円形または中心角が略120度の扇形に変形し、略半円形または中心角が略120度である扇形のセグメントを長手方向に所定のピッチで螺旋状に集合した集合体を構成する。さらに、各々の超電導フィラメントは、各々のセグメント内で所定のピッチで反対方向の螺旋状に配置されているので、結果として、各超電導フィラメントは2次螺旋状に集合している。
【0035】
一方、金属被覆内の超電導フィラメントの横断面形状は、アスペクト比が高い(好ましくは1.5以上の)板状、楕円状に変形させられる。これは、本工程の減面加工によって、2本または3本の撚線の隣接素線同士と撚線外径d1 の円筒内面で形成される空隙を埋めるように素線材料の一部が円周方向に展性変形するからである。
【0036】
ところで、縮径加工時には、通常、潤滑材、例えば合成油、石油、モリブデン、2硫化モリブデン等が使用される。この潤滑材は、セグメント間の隙間に浸透し残留物となる。通常は、潤滑油を除去するために縮径加工後に拭き取り作業等の洗浄作業を行うが、本発明の実施の形態にかかる超電導線材の製造方法では、交流損失低減効果を重視する場合に限り、この残留潤滑材を残しておくことが好ましい。この残留潤滑材は、適切な材料を選択することによって、後述する超電導加熱処理を経ることによって、各セグメント間の電気的絶縁層を形成するよう変化するからである。したがって、縮径加工中では、潤滑材を豊富に使い、その後、セグメント間の潤滑材除去を目的とする洗浄作業をあえて行わないようにすることが好ましい。
【0037】
今、撚線直後の空隙率vを、撚線外径d1 に等しい円筒空間内での空隙(素線の占有しない体積)の割合と定義し、素線が2本の場合と3本の場合についてそれぞれ計算すると、素線が2本の場合、P1 /d0 =3〜30の範囲でv=0.44〜0.55、素線が3本の場合、P1 /d0 =8〜40の範囲でv=0.38〜0.43となる。この空隙率が略0%となった時点で、空隙のないセグメントの集合体となる。
【0038】
一般に、縮径加工を施す毎に被加工材の撚線ピッチは長くなる。この繰り返しの縮径加工においても、加工前の撚線ピッチPと外径dの比P/dが大きすぎると、縮径加工の際に素線がばらけてしまい、加工が困難になる。その限界値をP2 /dで表現すると、P/d<P2 /dであり、発明者の実験によれば、好ましくは、2本の素線の場合P2 /d=20〜30、3本の素線の場合P2 /d=30〜60である。
【0039】
集合体が横断面で略円形になると、外径dと撚ピッチPは縮径加工の前後で数値的に略次式が成立する。
【0040】
P・d2 =一定 (1)
この(1)の関係式に基づいて、縮径加工を制御すれば、異なる仕様外径ds、撚線ピッチPsに応じた集合体が得られる。
【0041】
一方、縮径加工後の集合体の総長については、長さL0 、外径d0 の素線を撚り合わせ、次いで縮径加工すると、歩留まりを無視した場合、集合体外径がdsで長さn×Lmaxとなる。但し、nL0 d0 2 =Lmaxds2 である。
【0042】
F.縮径加工途中のツイスト加工
工程Eの縮径加工において、外径dと撚線ピッチPがP/d>P2 /d、すなわち繰り返しの縮径加工が困難なとき、または、所定のピッチPsを縮径加工以外の方法でより短く調整しようとするときは、縮径加工の途中で撚線にツイスト加工を施し、P/dを小さくすることができる。この加工は、通常、撚線の撚りが締まる方向に回転する(ツイストする)ことで行なう。
【0043】
ツイスト加工前の撚線のピッチP2 、ツイスト加工後のピッチをP3 、ツイスト加工時の撚線外径をdとすると、ツイスト加工に必要な単位長さあたりの回転数dnは、次式で与えられる。
【0044】
dn=1/P3 −1/P2 (2)
このツイスト加工に先立ち、ツイストをやり易くするために、金属被覆に焼鈍処理を施してもよい。
【0045】
ツイスト加工は、加工度が大きすぎると超電導フィラメントの組織に乱れが生じたり、破壊に至ることがある。これを防止するために、加工度は制約される。発明者の実験によれば、2本の素線の場合P3 /d>3であり、3本の場合P3 /d>5である。
【0046】
G.超電導化熱処理
超電導化熱処理は、超電導フィラメントの超電導特性を発現させるために必要な処理である。この熱処理の条件は、一般に超電導材料の種類に依存するが、超電導フィラメントの厚さ(断面積)、アスペクト比、金属被覆マトリックスの組成によっても若干左右される。図4、図6および図8に示したように、本発明の酸化物超電導線材においては、超電導フィラメント自体は従来の線材(例えば図12)の超電導フィラメントと同様、板状ないし断面楕円状に成形されているため、従来の線材における最適熱処理条件と略同様の熱処理を施せばよい。ここで、最適熱処理条件とは、臨界電流密度を最大にできかつ熱処理によって線材に膨れが生じたりしない条件である。
【0048】
【実施例】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0049】
[実施例1]
組成としてBi2 Sr1 Ca2 Cu2 Ox(以下Bi−2212という)が得られるようにBi2 O3 ,SrCO3 ,Ca2 CO3 ,CuOの各粉末を混合し、これを大気中で820℃、20時間の熱処理を施した後、それを粉砕してBi−2212相の前駆体粉末を用意した。外径15mm、内径13.5mm、長さ500mmの銀合金パイプに前駆体粉末を充填した。この粉末と銀合金の複合体を、対辺寸法7.64mmの6角棒形状にまで伸線加工し、素材Aを得た。
【0050】
この素材Aの55本を、外径71.1mm、内径64mm、長さ500mmの銀合金パイプに組み込み、銀合金被覆酸化物ビレットX(外径71.1mm、長さ500mm、体積Vx=2×106 mm3 )を得た。ビレットXに、押出し加工、スウェージャー加工、伸線加工を施し、外径d0 =1.7mmの銀合金被覆酸化物の丸型素線(素材B)を得た。素材Bは、酸化物ビレットXの体積Vxの歩留まり約80%で作製されるので、体積がVxB =0.8Vxとなっている。したがって、素材Bの長さはL0 =VxB /(πd0 2 /4)≒700000mm=700mである。また、素材Bの被覆材である銀合金の占有率は66%であった。長さ約700mの素線を2ロッド作製した(素材B)。この素線にZ方向のツイスト加工を施し、表面のピッチがP0 =7.5mmとなるようにした。
【0051】
2ロッドのツイスト素線を用いて、図2に示すように、最外径約2d0 =3.4mmで2本束ね、S方向の撚線加工を施しピッチP1 =15mmの撚線を作製した。撚線の体積は2VxB である。
【0052】
上記の撚線に伸線加工を施すと、2本の丸型素線は徐々に潰され、最外径が約半分のds=1.6mmまで縮径されると、図3に示すように、2個の半円形のセグメントが互いに合わさった丸型成形集合体(素材C)となった。この成形集合体は、体積を略維持したまま縮径加工されるので、外径dsにおける線材単長Lsは、Ls=2VxBB/(πds2 /4)=1.6×106 mm=1580mである。図3に示すように、素材Cの超電導フィラメントの横断面は、多くがアスペクト比1.5から20くらいの板型、または楕円型となっていることがわかる。また、素材Cの銀合金占有率は、素線(素材B)より若干大きくなり、68%であった。
【0053】
素材Cは、超電導フィラメントが銀合金で被覆されたセグメント撚線であって、さらに各セグメント内で超電導フィラメントがセグメントの螺旋の方向と反対方向の螺旋状に配置されている、2次螺旋配置構造である。
【0054】
セグメント内のフィラメントの螺旋ピッチを1次ピッチPs1 、セグメン撚線の螺旋のピッチをPs2 とすると、両ピッチは縮径加工によって伸びるので、Ps1 =Ls/L0 ×P0 =17mm、Ps2 =Ls/L0 ×P1 =34mmであった。セグメント横断面における各超電導フィラメントの位置は、撚線長手方向の場所によって内層部と外層部で周期的に入れ替わるよう変化する。
【0055】
撚線の縮径加工時には、横断面における外層部と内層部で加工変形度は異なり、外層部に行くほど加工度は大きい。この例では、超電導フィラメントは長手方向で内層部と外層部を周期的に延びるので、縮径加工による変形は、フィラメント長手方向全体として均一に起こるとみなすことができる。
【0056】
素材Cを、1atm ,大気中で880℃、10分間保持後、5℃/時間の冷却速度で830℃まで徐冷し、さらに1時間保持して炉冷した。この熱処理により、素材Cは超電導特性を有する超電導線材に変化した。この超電導線材の一部を長さ約50mmに切断し、試料Cとした。試料Cを液体ヘリウム、外部磁場10T中で、臨界電流密度Jcを1μV/cmの定義で測定した。その結果、超電導フィラメントについてJc=2500A/mm2 、線材断面積で除した臨界電流密度overall−Jc=800A/mm2 であった。
【0057】
一方、比較のため、素材Bをそのまま圧延し、テープ状の複合素材を得た。この複合素材に、上記と同様の超電導化熱処理を施し、テープ状超電導線材を得た。その一部を切り出し、比較材とした。比較材を試料Cと同様に、液体ヘリウム、外部磁場10T中で、臨界電流密度Jcを1μV/cmの定義で測定した。その結果、超電導フィラメントについてJc=1600A/mm2 、線材断面積で除した臨界電流密度overall−Jc=600A/mm2 であった。
【0058】
試料Cと比較材から明らかなように、本発明による試料Cの丸型超電導線材は、従来のテープ状超電導線材よりも磁場中でのJcが大きく向上していることがわかった。
【0059】
[実施例2]
実施例1で作製した丸型素線丸型素線(素材B、単長L0 =705m、外径1.7mm)に、ピッチP0 =7.5mmにてS方向のツイスト加工を施し、その3本を束ねて図4に示すようにピッチP1 =36mmでZ方向に撚り合わせた。撚線の最外径d1 は約2.3d0 =3.39mmであり、体積は3VxB である。
【0060】
上記の撚線に伸線加工を施すと、3本の丸型素線は徐々に潰され、最外径がds=2.4mmまで縮径されると、図6に示すように、3個の中心角が略120度の扇形のセグメントが互いに合わさった丸型成形集合体(素材E)となった。この成形集合体は、体積を略維持したまま縮径加工されるので、外径dsにおける線材単長LsはLs=3VxBB/(πds2 /4)=1.0×106 mm=1000mである。図6に示すように、素材Eの超電導フィラメントの横断面は、多くがアスペクト比2から20くらいの板型、または楕円型となっていることがわかる。
【0061】
素材Eは、実施例1と同様に、超電導フィラメントが銀合金で被覆されたセグメント撚線であって、さらに各セグメント内で超電導フィラメントがセグメントの螺旋の方向と反対方向の螺旋状に配置されている、2次螺旋配置構造である。
【0062】
セグメント内のフィラメントの螺旋ピッチ(1次ピッチ)は、Ps1 =Ls/L0 ×P0 =10.6mm、セグメン撚線の螺旋のピッチ(2次ピッチ)Ps2 =Ls/L0 ×P1 =51mmであった。実施例1と同様にして、セグメント横断面における各超電導フィラメントの位置は、撚線長手方向の場所によって内層部と外層部で周期的に入れ替わるよう変化する。
【0063】
この素材Eに超電導化熱処理を施し、超電導線材を得た。この超電導線材の一部を長さ約50mmに切断し、試料Mとした。試料Mを実施例1と同様の測定方法で線材断面積で除した臨界電流密度overall−Jcを測定した。その結果、overall−Jc=700A/mm2 であり、テープ状の線材のそれを超える値であった。
【0064】
[実施例3]
実施例1で作製した丸型素線(素材B、単長L0 =705m、外径1.7mm)にピッチP0 =7.5mmにてZ方向のツイスト加工を施し、さらに、その表面に2硫化モリブデン粉末を含むペーストを約30μmの厚さに塗布した。この2硫化モリブデンを含む層を塗布により形成する目的は、第1には、その後の縮径加工の際の潤滑性を確保するためであり、第2には、素線間に電気的絶縁層(薄い膜)を設けるためである。
【0065】
このような素線を3本を束ねて、図4に示すように、ピッチP1 =36mmでS方向に撚り合わせた。撚線の最外径d1 は約2.3d0 =3.39mmであり、体積は3VxB である。
【0066】
上記の撚線に伸線加工を施すと、3本の丸型素線は徐々に潰され、最外径がds=2.4mmまで縮径されると、図7に示すように、3個の中心角が略120度の扇形のセグメントが互いに合わさり、かつセグメント間に2硫化モリブデンを主成分とするバリアー層が介在した丸型成形集合体(素材F)となった。セグメントは、このバリアー層によって、相互に電気的に絶縁されている。
【0067】
先に説明したように、従来は潤滑材を十分に除去してから次の超電導化熱処理を行う。しかし、この例では、あえて2硫化モリブデンは残留させたまま超電導化熱処理を行った。この熱処理により、2硫化モリブデンは酸化モリブデンに変化し、電気的絶縁層、すなわちバリアー層としての機能が保証される。
【0068】
この素材Fに超電導化熱処理を施し、超電導線材を得た。この超電導線材の一部を長さ約50mmに切断し、試料Fとした。試料Fを実施例1と同様の測定方法で線材断面積で除した臨界電流密度overall−Jcを測定した。その結果、overall−Jc=700A/mm2 であり、テープ状の線材のそれを超える値であった。また、超電導特性は、バリアー層を有しない試料Eと同等であることも確認した。
【0069】
この例では、バリアー層を交流損失低減のために設けているが、その効果を確かめるために、実施例2で作製した試料E、従来のテープ状の線材、および試料Fの交流損失特性を比較した。評価は、各試料を液体窒素中のゼロ磁場下に置き、交流通電損失を測定する方法で行った。試料に、直流臨界電流値の半分の実効値電流を50Hzの交流で通電し、その時の損失電圧を測定した。結果は、電圧タップ100mmで、従来のテープ状線材が10μV、試料Eが1μV、試料Fが0.3μVであった。試料E、試料Fでは、超電導フィラメントがインダクタンス的に等価に配置されているため、テープ状線材よりも交流損失が小さく、特に試料Fではセグメント間の電気的絶縁が確保されたことによって、さらに交流損失が小さくなったと考えられる。
【0070】
[実施例4]
組成としてBi1.8Pb0.34Sr1.9Ca2.2Cu3.1Ox(以下Bi−2223という)の前駆体粉末を用意した。外径15mm、内径13.5mm、長さ500mmの銀合金パイプに前駆体粉末を充填した。この粉末と銀合金の複合体を、対辺寸法7.64mmの6角棒形状にまで伸線加工し、素材Nを得た。
【0071】
この素材Nの表面にペースト状のモリブデンを塗布し塗膜を形成した後、その55本を、外径71.1mm、内径64mm、長さ500mmの銀合金パイプに組み込み、銀合金被覆酸化物ビレットYを得た。ビレットYに、押出し加工、スウェージャー加工、伸線加工を施し、外径d0 =1.4mmの銀合金被覆酸化物の丸型素線(素材P)とし、さらに、長さあたり333回転(ピッチP0 =3mm)のS方向のツイスト加工を施した。このツイスト加工した素材を3本用意し、最外径約2.3d0 =3.2mmで3本束ね、Z方向の撚線加工を施しピッチP1 =12mmの撚線を作製した。
【0072】
上記の撚線に伸線加工を施すと、3本の丸型素線は徐々に潰される。本実施例では、伸線のパスは、外径3.2mmから始まり、2.8mm、2.6mm、2.45mmと順次伸線し、外径2.45mmで、成形集合体に超電導化のための中間熱処理を施した。熱処理条件は、1atm 、空気中で840℃、50時間とした。この第1回目の中間熱処理は、フィラメントの前駆体組織をBi−2223相へ超電導化するためのものである。この熱処理によって、モリブデンの塗布膜は酸化モリブデンの電気的絶縁層に変化し、フィラメント間のバリアー層として機能する。
【0073】
次いで、1回のパスの最外径dの減少率を4%とし、伸線加工を経て、最外径を2.35mmとした後、第2回目の中間熱処理を施した。熱処理条件は、1atm 、空気中で845℃、50時間とした。その後、それに伸線加工を施し、最外径を2.3mmの成形集合体(素材Q)とした。この素材Qは、空隙率が略0%の3本撚りの丸型成形集合体で、最外径2.3mm、単長1100mである。セグメント内における超電導フィラメントの螺旋ピッチ(1次ピッチ)Ps1 =Ls/L0 ×P0 =1100/1000×3=3.3mm、セグメントの螺旋のピッチ(2次ピッチ)Ps2 =Ls/L0 ×P1 =1100/1000×12=13.2mmであった。
【0074】
次いで、素材Qに酸化物Bi−2223相生成のための最後の超電導化熱処理を施し、丸型超電導線材を得た。
【0075】
一方、比較材として、素線(素材P)を用いて、圧延加工、中間熱処理、再圧延加工、第2回目の中間熱処理、再々圧延加工を施し、厚さ0.2mmのテープ状素材(素材R)とし、次いで最後の超電導加熱処理を施し、テープ状の超電導線材を得た。ここで、素材Q,素材Rの中間熱処理と最終熱処理は、ともに同一のバッチで行なった。両線材の一部を長さ約200mm切断し、それぞれ試料Q、比較材Rとした。液体窒素中、外部磁場無しの状態で、線材断面積で除した臨界電流密度overall−Jcを1μV/cmの定義で測定した。試料Qでoverall−Jc=100A/mm2 であり、比較材Rでoverall−Jc=120A/mm2 であった。酸化物バリアー層を含まないテープ状の線材に比べ若干低いJc特性であった。
【0076】
[実施例5]
組成としてBi−2212が得られるようにBi2O3、SrCO3、Ca2Co3、CuOの各粉末を混合し、これを大気中で820℃、20時間の熱処理を施した後、それを粉砕してBi−2212相の前駆体粉末を用意した。外径15mm、内径14mm、長さ500mmの純銀パイプと、外径3mm純銀丸棒を用意した。純銀丸棒を中心に配置して純銀パイプに前駆体粉末を充填した。この粉末と純銀の複合体を外径12.3mmの丸棒に伸線加工し、素材Sを得た。
【0077】
この素材Sの19本を、外径71.1mm、内径64mm、長さ500mmの銀合金パイプ(合金組成:Ag−0.05wt%Mg−0.05wt%Ni)に組み込み、銀合金被覆酸化物ビレットZを得た。ビレットZに、押出し加工、スウェージャー加工、伸線加工を施し、外径d0 =1.7mmの銀合金被覆酸化物の丸型素線(素材T)を得た。素材Tを3本用意し、それにピッチP0 =3mmのS方向のツイスト加工を施した。
【0078】
ツイスト加工された3本のロッドを用いて、図4に示すように、最外径d1 が約2.3d0 =3.2mmで3本束ね、Z方向の撚線加工を施し、ピッチP1 =12mmの撚線を作製した。
【0079】
上記の撚線に伸線加工を施すと、3本の丸型素線は徐々に潰され、最外径がds=2.4mmまで縮径されると、図10に示すように、3個の中心角が略120度の扇形のセグメントが互いに合わさった丸型成形集合体(素材U)となった。図10に示すように、素材Uの超電導フィラメントの横断面は、中心に配置された純銀の金属芯材とともに多くがアスペクト比2から20くらいの板型、または楕円型となっていることがわかる。また、フィラメントの経路は、セグメントの撚り方向と反対方向でかつセグメント内で螺旋状に延びる2次螺旋状である。
【0080】
この素材Uに超電導化熱処理を施し、超電導線材を得た。この超電導線材の一部を切断し、試料Uとした。試料Uを実施例1と同様の測定方法で線材断面積で除した臨界電流密度overall−Jcを測定した。その結果、overall−Jc=1000A/mm2 であった。
【0081】
この実施例では、各フィラメントの中心に配置される金属芯材とフィラメント被覆には純銀が、セグメント被覆には銀合金(合金組成:Ag−0.05wt%Mg−0.05wt%Ni)が使用されている。このため、セグメント被覆は、超電導化熱処理を経ることにより酸化分散型銀合金となり、その内側に使用されるフィラメント被覆および金属芯材よりも降伏応力、ビッカース硬さがともに大きな材料となる。したがって、縮径加工と同時に起こるフィラメントの円形断面から矩形または楕円形への変形挙動が安定して、線材長手方向のばらつきを抑制し、超電導特性の向上に寄与するものである。
【0082】
本発明の超電導線材は、それ自体導体として、あるいはその複数本の集合化した導体として用いる場合の他、それらを他の部材と複合化した構成にしてもよい。その応用例としては、マグネット、コイル、ケーブル、ブスバー、電流リード、磁気シールド、永久電流スイッチ等の超電導デバイスがあげられる。さらに、前記の応用として使用する場合、その作製法はReact&Wind法あるいはWind&React法のいずれであってもよい。
【0083】
また、セグメント間にバリアー層を有する超電導線材においては、そのまま3相一括の電力ケーブルとして使用することが可能である。
【0084】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、超電導フィラメントはセグメント内でセグメントの撚り合わせ方向と反対方向に螺旋状に配置されるので、線材の長手方向において超電導フィラメントの超電導組織が均一かつ高い緻密度で形成できる。その結果、横断面が略円形の超電導線材においても横断面がテープ状の超電導線材と同等の臨界電流密度を達成できる超電導線材が安定的に歩留まり良く得られるという効果があり、その工業的意義は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る超電導線材の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る超電導線材の製造工程における、撚線加工後の状態を示す説明図である。
【図3】図2の撚線より得られる超電導線材の一例を示す横断面図である。
【図4】撚線方法の一例を示す説明図である。
【図5】撚線方法の他の例を示す説明図である。
【図6】本発明に係る超電導線材の他の例を示す横断面図である。
【図7】本発明に係る超電導線材のさらに他の例を示す横断面図である。
【図8】本発明に係る超電導線材のさらに他の例を示す横断面図である。
【図9】本発明に係る超電導線材の製造工程における、撚線加工後の他の状態を示す説明図である。
【図10】図9の撚線より得られるさらに別の超電導線材の例を示す横断面図である。
【図11】従来の超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。
【図12】従来の超電導線材の例を示す横断面図である。
【図13】従来の超電導線材の別の例を示す横断面図である。
【符号の説明】
1,21,41,51 超電導体フィラメント
2,22,42,54 金属被覆
6,56 撚線
8a,8b,30a,30b,30c,32a,32b,32c,34a,34b,34c,36a,36b,36c セグメント
9,31,33,47,57 集合体
53 金属芯材
44 バリアー層
Claims (8)
- 横断面が略円形の外形を有する超電導線材であって、前記超電導線材は、その横断面が略半円形または中心角が略120度である扇形のセグメントの2本または3本が長手方向に所定のピッチで螺旋状に集合された集合体からなり、前記セグメントは酸化物超電導材料からなる超電導フィラメントと当該超電導フィラメントを覆う金属被覆とからなる横断面が略円形の素線を螺旋状に撚り合せて縮径加工したものであり、前記超電導フィラメントは前記セグメント内でセグメントと異なる方向の螺旋状に所定のピッチで配置され、横断面のアスペクト比が1.5以上であることを特徴とする超電導線材。
- 前記セグメントの各々の間に電気的絶縁層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材。
- 前記セグメントは、超電導フィラメントの中心に配置される金属芯材とフィラメントの周囲を覆う金属被覆と、最外層の金属被覆を含み、前記金属芯材及びフィラメントを覆う金属被覆の硬さが、最外層の金属被覆の硬さよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の超電導線材。
- 横断面が略半円形または中心角が略120度である扇形のセグメントの2本または3本が長手方向に所定ピッチで螺旋状に集合された集合体からなる超電導線材の製造方法であって、酸化物超電導材料からなる超電導フィラメントが金属で被覆され横断面が略円形の素線に所定のピッチP0でツイスト加工を施し、そのツイスト加工された素線n本(n=2、3)を所定のピッチで螺旋状に撚り合わせ、次いで当該撚線を所定の外径を有する横断面が略円形の線材に縮径加工して前記超電導フィラメントをアスペクト比が1.5以上の横断面にすることを特徴とする超電導線材の製造方法。ここで、素線外径をd0、縮径加工前の撚線ピッチをP1、縮径加工後の線材外径をdSとすると、
n=2の場合、P1/d0=3〜30、dS<1.2d0、
n=3の場合、P1/d0=8〜40、dS<1.7d0
であり、ピッチP0とピッチP1の螺旋の方向は反対とする。 - 横断面が略半円形または中心角が略120度である扇形のセグメントの2本または3本が長手方向に所定ピッチで螺旋状に集合された集合体からなる超電導線材の製造方法であって、酸化物超電導材料からなる超電導フィラメントが金属で被覆され横断面が略円形の素線に所定のピッチP0でツイスト加工を施し、次いで、伸線加工工程と熱処理工程のうちいずれか1工程を施し、その後、その素線n本(n=2、3)を所定のピッチで螺旋状に撚り合わせ、次いで当該撚線を所定の外径を有する横断面が略円形の線材に縮径加工して前記超電導フィラメントをアスペクト比が1.5以上の横断面にすることを特徴とする超電導線材の製造方法。ここで、素線外径をd0、縮径加工前の撚線ピッチをP1、縮径加工後の線材外径をdSとすると、
n=2の場合、P1/d0=1.5〜30、dS<1.3d0、
n=3の場合、P1/d0=4〜40、dS<1.8d0
であり、ピッチP0とピッチP1の螺旋の方向は反対とする。 - 横断面が略半円形または中心角が略120度である扇形のセグメントの2本または3本が長手方向に所定ピッチで螺旋状に集合された集合体からなる超電導線材の製造方法であって、酸化物超電導材料からなる超電導フィラメントが金属で被覆され横断面が略円形の素線に所定のピッチP0でツイスト加工を施し、次いで、その素線n本(n=2、3)を各々の素線間に潤滑材層を介在させつつ所定のピッチで螺旋状に撚り合わせ、次いで当該撚線を所定の外径を有する横断面が略円形の線材に縮径加工して前記超電導フィラメントをアスペクト比が1.5以上の横断面にすることを特徴とする超電導線材の製造方法。ここで、素線外径をd0、縮径加工前の撚線ピッチをP1、縮径加工後の線材外径をdSとすると、
n=2の場合、P1/d0=1.5〜30、dS<1.3d0、
n=3の場合、P1/d0=4〜40、dS<1.8d0
であり、ピッチP0とピッチP1の螺旋の方向は反対とする。 - 前記潤滑材層を、超電導化熱処理によって電気絶縁性を発現する材料で構成したことを特徴とする請求項6に記載の超電導線材の製造方法。
- 前記縮径加工が複数回の縮径加工と中間熱処理の繰り返しからなることを特徴とする請求項4、5または6のいずれかに記載の超電導線材の製造方法。
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