JP3750749B2 - 有機フッ素化合物の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は炭素−炭素不飽和化合物あるいはシクロプロパン化合物を出発原料として用いる有機フッ素化合物の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
有機フッ素化合物は高分子材料、冷媒、医薬、農薬等、工業的に幅広く用いられている。炭素−炭素不飽和化合物あるいはシクロプロパン化合物にフッ化水素を付加する反応は有機化合物にフッ素を導入する最も基本的かつ代表的な手法の一つであり、この方法で製造された有機フッ素化合物は高分子モノマー、冷媒、医薬、農薬等、あるいはそれらの中間生成物として有用である。
【0003】
いくつか例を挙げると、本発明の対象とする後記一般式(V)で表される有機フッ素化合物のうち、R5=R6=Hのもの(CH3CHF2)から、フッ素樹脂のモノマーであるフッ化ビニル(CH2CHF)やフッ化ビニリデン(CH2CF2)を製造することができる(フッ素の化合物、講談社、第4章、1979年)。また、本発明の対象とする後記一般式(IV)で表される有機フッ素化合物のうち、R1=H、R2=R3=R4=Fのもの(CF3CH2F、HFC−134a)はフロン代替物として用いられている(フロンの環境化学と対策技術、季刊化学総説、11、第6章、1991年)。さらに、本発明の対象とする後記一般式(VI)で表される有機フッ素化合物のうち、R7=R11=H、R8=Br、R9=R10=R12=Fのもの(CH2BrCF2CHF2)は麻酔作用をもつ(Chem.Tech.,753(1974))。
【0004】
従来、炭素−炭素不飽和化合物あるいはシクロプロパン化合物からフッ化水素を付加反応させて有機フッ素化合物を合成する方法としては、無水フッ化水素を用いる方法と、有機アミン−フッ化水素付加体を用いる方法が知られている(Tetrahedron,47,5329(1991))。
【0005】
しかしながら、前者の無水フッ化水素は安価であるが毒性が高く、取り扱いが難しい。しかも、基質の重合が起こり易く選択性が低いという問題点を有している(日本化学会誌、1951(1985))。また、後者の有機アミン−フッ化水素付加体を用いる方法では、例えばメラミン−フッ化水素付加体を用いる方法(Chem.Lett.,1135(1983))などが知られているが、このメラミン−フッ化水素付加体の場合では特定のフッ化水素含有量(81%)に反応の極大点を有することから、反応進行に伴う組成変動を最小限にするために、腐食性あるフッ素化剤を基質に対して大過剰に用いなければならず、その為に反応時の取り扱いが困難であったり、また、これら大量のフッ化水素付加体が液体、または有機層に溶解する為に反応後の目的物の精製などにおいて多大な労力を要する等の欠点を有していた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、上記事情に鑑み選択性に優れ且つ取り扱いが容易なフッ素化剤を目的に鋭意検討を重ねた結果、フッ化ナトリウム、フッ化カリウムなどにフッ化水素を付加させた安定な無機−水素フッ化物塩が、炭素−炭素不飽和結合あるいはシクロプロパン構造に対して選択的なフッ素化能を有し、しかも、これらの無機フッ素化剤が固体状且つ反応層に溶解しない為に、反応操作および反応後の分離操作などが容易である等の利点を有すること、そしてこれらの水素フッ化物塩のフッ素化能が四フッ化ケイ素を併用することで格段に向上し、少量のフッ素化剤量でも充分な目的化合物の収率が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
【課題を解決するための手段】
かくして、本発明によれば、
〔1〕以下の一般式(I):
【化13】
(式中、R 1 〜R 4 は水素原子;ハロゲン原子;または、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、ニトロ基またはハロゲン原子により置換してもよい、アルキル基、アリール基またはアラルキル基;を示し、R 1 とR 2 、R 1 とR 3 、R 2 とR 4 、及びR 3 とR 4 は結合して環を形成してもよい。)で表されるアルケン類からなる基質化合物と一般式M1Fm(HF)n(式中、M1はアンモニウム基、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、mはM1がアンモニウム基またはアルカリ金属の場合は1、アルカリ土類金属の場合は2、nは1〜10の数を示す。)で表される水素フッ化物塩のみを反応させることを特徴とする、以下の一般式(IV):
【化14】
(式中、R 1 〜R 4 は前記と同じ意味を持つ。)で表される有機フッ素化合物の製造方法、
〔2〕以下の一般式(II):
【化15】
(式中、R 5 とR 6 は水素原子;ハロゲン原子;または、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、ニトロ基またはハロゲン原子により置換してもよい、アルキル基、アリール基またはアラルキル基;を示す。)で表されるアルキン類からなる基質化合物と一般式M 1 Fm(HF)n(式中、M 1 はアンモニウム基、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、mはM 1 がアンモニウム基またはアルカリ金属の場合は1、アルカリ土類金属の場合は2、nは1〜10の数を示す。)で表される水素フッ化物塩のみを反応させることを特徴とする、以下の一般式(V):
【化16】
(式中、R 5 とR 6 は前記と同じ意味を持つ。)で表される有機フッ素化合物の製造方法、
〔3〕以下の一般式(III):
【化17】
(式中、R 7 〜R 12 は水素原子;ハロゲン原子;または、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、ニトロ基またはハロゲン原子により置換してもよい、アルキル基、アリール基またはアラルキル基;を示す。)で表されるシクロプロパン誘導体からなる基質化合物と一般式M 1 F m (HF) n (式中、M 1 はアンモニウム基、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、mはM 1 がアンモニウム基またはアルカリ金属の場合は1、アルカリ土類金属の場合は2、nは1〜10の数を示す。)で表される水素フッ化物塩のみを反応させることを特徴とする、以下の一般式(VI):
【化18】
(式中、R 7 〜R 12 は前記と同じ意味を持つ。)で表される有機フッ素化合物の製造方法、
〔4〕以下の一般式(I):
【化19】
(式中、R 1 〜R 4 は水素原子;ハロゲン原子;または、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、ニトロ基またはハロゲン原子により置換してもよい、アルキル基、アリール基またはアラルキル基;を示し、R 1 とR 2 、R 1 とR 3 、R 2 とR 4 、及びR 3 とR 4 は結合して環を形成してもよい。)で表されるアルケン類からなる基質化合物と一般式M 2 F m (HF) n (式中、M 2 は少なくとも1つの水素原子が窒素原子に結合した第4級アンモニウム基、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、mはM 2 が第4級アンモニウム基またはアルカリ金属の場合は1、アルカリ土類金属の場合は2、nは1〜10の数を示す。)で表される水素フッ化物塩を、四フッ化ケイ素の存在下に反応させることを特徴とする、以下の一般式(IV):
【化20】
(式中、R 1 〜R 4 は前記と同じ意味を持つ。)で表される有機フッ素化合物の製造方法、
〔5〕以下の一般式(II):
【化21】
(式中、R 5 とR 6 は水素原子;ハロゲン原子;または、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、ニトロ基またはハロゲン原子により置換してもよい、アルキル基、アリール基またはアラルキル基;を示す。)で表されるアルキン類からなる基質化合物と一般式M 2 F m (HF) n (式中、M 2 は少なくとも1つの水素原子が窒素原子に結合した第4級アンモニウム基、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、mはM 2 が第4級アンモニウム基またはアルカリ金属の場合は1、アルカリ土類金属の場合は2、nは1〜10の数を示す。)で表される水素フッ化物塩を、四フッ化ケイ素の存在下に反応させることを特徴とする、以下の一般式(V):
【化22】
(式中、R 5 とR 6 は前記と同じ意味を持つ。)で表される有機フッ素化合物の製造方法、
〔6〕以下の一般式(III):
【化23】
(式中、R 7 〜R 12 は水素原子;ハロゲン原子;または、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、ニトロ基またはハロゲン原子により置換してもよい、アルキル基、アリール基またはアラルキル基;を示す。)で表されるシクロプロパン誘導体からなる基質化合物と一般式M 2 F m (HF) n (式中、M 2 は少なくとも1つの水素原子が窒素原子に結合した第4級アンモニウム基、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、mはM 2 が第4級アンモニウム基またはアルカリ金属の場合は1、アルカリ土類金属の場合は2、nは1〜10の数を示す。)で表される水素フッ化物塩を、四フッ化ケイ素の存在下に反応させることを特徴とする、以下の一般式(VI):
【化24】
(式中、R 7 〜R 12 は前記と同じ意味を持つ。)で表される有機フッ素化合物の製造方法、
が提供される。
【0008】
本発明に使用される基質化合物としては、分子中に少なくとも一つの炭素−炭素不飽和結合を有するもの、あるいは分子中に少なくとも一つのシクロプロパン環構造を有するものであれば特に制限はなく、例えばアルケン類、アルキン類、シクロプロパン誘導体などが例示される。これら基質化合物の炭素数は、特に制限はないが、通常30個以下、好ましくは2〜20個、さらに好ましくは3〜15個の範囲である。具体的には、例えば一般式(I)
【化1】
(式中、R1〜R4は水素原子、ハロゲン原子、置換してもよいアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示し、R1とR2、R1とR3、R2とR4、及びR3とR4は結合して環を形成してもよい。)で表されるアルケン類、一般式(II)
【化2】
(式中R5、R6は水素原子、ハロゲン原子、置換してもよいアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。)で表されるアルキン類、一般式(III)
【化3】
(式中、R7〜R12は水素原子、ハロゲン原子、置換してもよいアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を示す。)で表されるシクロプロパン誘導体などが挙げられる。
【0009】
これらの基質から製造される有機フッ素化合物としては、それぞれ、一般式(IV)
【化4】
(式中、R1〜R4は前記と同じ意味を持つ。)で表される有機フッ素化合物、あるいは一般式(V)
【化5】
(式中、R5、R6は前記と同じ意味を持つ。)で表される有機フッ素化合物、あるいは一般式(VI)
【化6】
(式中、R7〜R12は前記と同じ意味を持つ。)で表される有機フッ素化合物などが例示される。
【0010】
上記一般式中のR1〜R12は、水素原子、ハロゲン原子、置換されてもよいアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示し、好ましくは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基などであり、さらに好ましくは水素原子またはアルキル基である。
【0011】
ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。アルキル基としては、特に制限はなく、直鎖状あるいは分岐状のアルキル基が用いられるが、その炭素数は通常20個以下、好ましくは2〜15個、更に好ましくは3〜10個の範囲である。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、1−メチルブチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基などの鎖状アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基などの環状アルキル基などを挙げられる。アリール基またはアラルキル基としては、特に制限はないが、通常炭素数が20個以下、好ましくは6〜15個、さらに好ましくは6〜10個の範囲である。具体的には、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基、トリル基、キシリル基などが例示される。
【0012】
アルキル基、アリール基およびアラルキル基の置換基としては、本反応に関与しないものであれば特に制限はなく、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、アルキルまたはアリールスルホニル基、ニトロ基、ハロゲンなどが例示される。また、一般式(I)および(IV)におけるR1とR2、R1とR3、R2とR4およびR3とR4は、結合して環を形成してもよく、例えば炭素数が10個以下、好ましくは1〜8個、さらに好ましくは2〜6個の分岐してもよいアルキレン基などとして示すことができる。このようなアルケン類としては、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、1−メチル−1−シクロヘキセンなどを例示することができる。
【0013】
本発明で使用される水素フッ化物塩としては、一般式M1Fm(HF)nまたはM2Fm(HF)nで表されるものが用いられる。式中のM1は、アンモニウム(NH4)基、アルカリ金属またはアルカリ土類金属で、好ましくはアンモニウム基またはアルカリ金属である。式中のM2は、少なくとも1つの水素原子が窒素原子に結合した第4級アンモニウム基、アルカリ金属またはアルカリ土類金属で、好ましくはアンモニウム基、アルカリ金属、アルカリ土類金属などで、さらに好ましくはアンモニウム基、アルカリ金属などである。mは、M(M1、M2)が第4級アンモニウム基またはアルカリ金属の場合は1、アルカリ土類金属の場合は2である。nは、1〜10、好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜4の範囲である。
【0014】
アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどが例示され、好ましくはナトリウム、カリウムなどである。アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどが例示され、好ましくはカルシウム、バリウムなどである。
【0015】
少なくとも1つの水素原子が窒素原子に結合した第4級アンモニウム基としては、例えば一般式NHR3で表される。式中のRは、水素原子またはアルキル基を示し、アルキル基としては前記R1のアルキル基と同様である。かかる第4級アンモニウム基の具体例としては、メチルアンモニウム基、エチルアンモニウム基、ジメチルアンモニウム基、ジエチルアンモニウム基、ジイソプロピルエチルアンモニウム基、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、トリプロピルアンモニウム基、トリイソプロピルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、トリイソブチルアンモニウム基、ピロリジニウム基、ピペリジニウム基、ピリジニウム基、ジメチルアミノピリジニウム基、ルチジニウム基およびアンモニウム(NH4)基などが例示される。これらの中で、第4級アンモニウム基がアンモニウム基である場合の水素フッ化物塩は、反応系に溶解せず、反応終了後の分離が容易となり好ましい。
【0016】
水素フッ化物塩の具体例としては、例えば一水素二フッ化ナトリウム、二水素三フッ化ナトリウム、三水素四フッ化ナトリウム、四水素五フッ化ナトリウムなどのナトリウム水素フッ化物塩、一水素二フッ化カリウム、二水素三フッ化カリウム、三水素四フッ化カリウム、四水素五フッ化カリウムなどのカリウム水素フッ化物塩、一水素二フッ化ルビジウム、二水素三フッ化ルビジウム、三水素四フッ化ルビジウムなどのルビジウム水素フッ化物塩、一水素二フッ化セシウム、二水素三フッ化セシウム、三水素四フッ化セシウムなどのセシウム水素フッ化物塩などのアルカリ金属水素フッ化物塩、一水素三フッ化カルシウム、二水素四フッ化カルシウムなどのカルシウム水素フッ化物塩、一水素三フッ化ストロンチウム、二水素四フッ化ストロンチウムなどのストロンチウム水素フッ化物塩、一水素三フッ化バリウム、二水素四フッ化バリウム、四水素六フッ化バリウム、六水素八フッ化バリウムなどのバリウム水素フッ化物塩などのアルカリ土類金属水素フッ化物塩、一水素二フッ化アンモニウムなどのアンモニウム水素フッ化物塩などの無機−水素フッ化物塩、およびトリエチルアミン−フッ化水素、メラミン−フッ化水素などの有機アミン−水素フッ化物などを挙げることができ、好ましくは無機−水素フッ化物塩などであり、その中でもアルカリ金属水素フッ化物塩、アンモニウム水素フッ化物塩など、とりわけナトリウム水素フッ化物塩、カリウム水素フッ化物塩、アンモニウム水素フッ化物塩などが好ましい。これらは、単独、または2種以上を併用して使用することができる。
【0017】
かかる水素フッ化物塩は、常法に従って製造される。例えば、対応するMFmと無水フッ化水素を混合するだけで簡便に調製され、前記一般式中のnは混合するフッ化水素量を加減することで調製できる。調製温度は、特に制限はないが、通常−50〜100℃、好ましくは−20〜50℃の範囲である。
【0018】
水素フッ化物塩の使用量は、基質に対して、通常当量以上、好ましくは1〜30当量、さらに好ましくは2〜10当量の範囲である。
【0019】
本発明においては、基質と上記M1Fm(HF)nの水素フッ化物塩を反応させて有機フッ素化合物を製造することができる。M1Fm(HF)nは、フリーのフッ化水素が遊離し難い為に取り扱いが容易で、しかも反応後も固体である為、反応終了後の目的物の分離が容易である。このことから、反応、生成物分離、反応、生成物分離などの繰り返し操作も容易に行うことができる。
【0020】
また、本発明においては、上記M2Fm(HF)nに四フッ化ケイ素を併用することで反応性を著しく向上させることができる。四フッ化ケイ素は、通常ガラス等のSiO2を含む安価な化合物にフッ化水素を加えることで簡便に発生することができ、有機ケイ素化合物の合成原料として一般に使用するものを用いることが出来る。
【0021】
四フッ化ケイ素の使用量は、特に制限はないが、基質に対して通常0.1〜20当量、好ましくは0.5〜10当量、さらに好ましくは1〜5当量の範囲である。
【0022】
反応に際しては溶媒を存在させることができる。溶媒としては反応に不活性であるものであれば特に限定されず、例えばn−ペンタン、n−ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類などが例示される。
【0023】
反応条件は、溶媒の有無、基質の種類などによって適宜選択されるが、反応温度が通常−30〜100℃、好ましくは0〜60℃、さらに好ましくは15〜50℃の範囲で、反応時間が通常1〜40時間、好ましくは5〜30時間、さらに好ましくは10〜20時間の範囲である。
【0024】
反応終了後、過剰のフッ素化剤などをろ過等により分離した後、有機層に溶存している酸性成分を中和後、有機層を濃縮するなどにより生成物が容易に単離できる。フッ素化剤が有機アミン−水素フッ化物の場合は、フッ素化剤が液体なので、過剰のフッ素化剤を中和後、有機層を蒸留等することにより有機アミンとの分離を行い生成物を単離することができる。
【0025】
以下に、好ましい態様を示す。
(1)分子中に少なくとも一つの炭素−炭素不飽和結合を有するあるいは分子中に少なくとも一つのシクロプロパン構造を有する基質化合物と一般式M1Fm(HF)n(式中、M1はアンモニウム基、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、mはM1がアンモニウム基またはアルカリ金属の場合は1、アルカリ土類金属の場合は2、nは1〜10の数を示す。)で表される水素フッ化物塩を反応させることを特徴とする有機フッ素化合物の製造方法。
(2)分子中に少なくとも一つの炭素−炭素不飽和結合を有するあるいは少なくとも一つのシクロプロパン構造を有する基質化合物と一般式M2Fm(HF)n(式中、M2は少なくとも1つの水素原子が窒素原子に結合した第4級アンモニウム基、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、mはM2が第4級アンモニウム基またはアルカリ金属の場合は1、アルカリ土類金属の場合は2、nは1〜10の数を示す。)で表される水素フッ化物塩及び四フッ化ケイ素を反応させることを特徴とする有機フッ素化合物の製造方法。
(3)基質化合物がアルケン類、アルキン類またはシクロプロパン誘導体である。
(4)基質化合物の炭素数が30個以下、好ましくは2〜20個、さらに好ましくは3〜15個の範囲である。
(5)基質化合物が一般式(I)
【化7】
(式中、R1〜R4は水素原子、ハロゲン原子、置換してもよいアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示し、R1とR2、R1とR3、R2とR4、及びR3とR4は結合して環を形成してもよい。)で表されるアルケン類であり、生成物が一般式(IV)
【化8】
(式中、R1〜R4は上記と同じ意味を持つ。)で表される有機フッ素化合物である。
(6)基質化合物が一般式(II)
【化9】
(式中、R5、R6は水素原子、ハロゲン原子、置換してもよいアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。)で表されるアルキン類であり、生成物が一般式(V)
【化10】
(式中、R5、R6は上記と同じ意味を持つ。)で表される有機フッ素化合物である。
(7)基質化合物が一般式(III)
【化11】
(式中、R7〜R12は水素原子、ハロゲン原子、置換してもよいアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。)で表されるシクロプロパン誘導体であり、生成物が一般式(VI)
【化12】
(式中、R7〜R12は上記と同じ意味を持つ。)で表される有機フッ素化合物である。
(8)アルキル基の炭素数が20個以下、好ましくは2〜15個、さらに好ましくは3〜10個の範囲でる。
(9)アリール基およびアラルキル基の炭素数が20個以下、好ましくは2〜15個、さらに好ましくは3〜10個の範囲でる。
(10)水素フッ化物塩がM1Fm(HF)nまたはM2Fm(HF)nである。
(11)nが1〜6、さらに好ましくは1〜4の範囲である。
(12)M1がアンモニウム基またはアルカリ金属である。
(13)M2がアンモニウム基、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であり、さらに好ましくはアンモニウム基またはアルカリ金属である。
(14)アルカリ金属がナトリウムまたはカリウムである。
(15)水素フッ化物塩の使用量が、基質に対して1当量以上、好ましくは1〜30当量、さらに好ましくは2〜10当量の範囲である。
(16)四フッ化ケイ素の使用量が、基質に対して0.1〜20当量、好ましくは0.5〜10当量、さらに好ましくは1〜5当量の範囲である。
【0026】
【実施例】
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。尚、生成物の収率は、基質化合物に対するモル%を示した。
【0027】
実施例1
ストップバルブとステンレススチール反応管よりなる反応容器に一水素二フッ化カリウム(KHF2)(471mg、6.0mmol)をいれ、次いで真空ラインを用いてシクロヘキセン(2.0mmol)と四フッ化ケイ素(SiF4)(4.0mmol)を加え、室温で16時間振とうした。揮発成分を、フッ化ナトリウム(0.9g、21mmol)をいれた反応容器に移し、さらに室温で1.5時間振とうしたのち、高真空下(10-3〜10-4mmHg)、−20℃、−60℃、−196℃でトラップ・ツー・トラップ精製蒸留を行い、−60℃でトラップされるフルオロシクロヘキサン(1.45mmol、収率73%)を単離した。生成物は1H−NMRスペクトル、19F−NMRスペクトル、およびIRスペクトルにより同定した。
【0028】
IR:2949、2870、1460、1372、1065、1027、963、954 cm-1
【0029】
1H−NMR(CDCl3、TMS) δ:1.3−2.0(m、10H)、4.57(dm、J2=48.8Hz、1H)
【0030】
19F−NMR(CDCl3、CFCl3) φ:173.3(br)
【0031】
実施例2
基質としてシクロヘキセンの代わりにプロペン(1.0mmol)を用いる以外は実施例1と同様に反応を行った。トラップ・ツー・トラップの精製蒸留は、高真空下(10-3〜10-4mmHg)、−60℃、−134℃、−196℃で行い、−134℃でトラップされる2−フルオロプロパン(0.51mmol、収率51%)を得た。生成物は1H−NMRスペクトル、19F−NMRスペクトル、およびIRスペクトルにより同定した。
【0032】
IR:2989、2934、1456、1395、1384、1138、943、819cm-1
【0033】
1H−NMR(CDCl3、TMS) δ:1.33(dd、J=6.1、23.6Hz、6H)、4.83(d・sept、J2=48.5、J7=6.1Hz、1H)
【0034】
19F−NMR(CDCl3、CFCl3) φ:165.9(d・sept、J2=47.2、J7=23.6Hz)
【0035】
実施例3
基質としてシクロヘキセンの代わりに2,3−ジメチル−2−ブテン(2.0mmol)を用いる以外は実施例1と同様に反応を行った。トラップ・ツー・トラップの精製蒸留は、高真空下(10-3〜10-4mmHg)、−60℃、−97℃、−196℃で行い、−97℃でトラップされる2−フルオロ−2,3−ジメチルブタン(1.82mmol、収率91%)を得た。生成物は1H−NMRスペクトル、19F−NMRスペクトル、およびIRスペクトルにより同定した。
【0036】
IR:2988、2904、1473、1385、1165、1104、904、851cm-1
【0037】
1H−NMR(CDCl3、TMS) δ:0.93(d、J=6.9Hz、6H)、1.28(d、J=22.1Hz、6H)、1.86(d・sept、J2=11.9、J7=6.9Hz、1H)
【0038】
19F−NMR(CDCl3、CFCl3) φ:140.3(d・sept、J2=12.9、J7=22.1Hz)
【0039】
実施例4
ストップバルブとステンレススチール反応管よりなる反応容器にKHF2(473mg、6.1mmol)をいれ、次いで真空ラインを用いて2−ブチン(1.0mmol)とSiF4(4.0mmol)を加え、室温で17時間振とうした。揮発成分を、フッ化ナトリウム(0.9g、21mmol)をいれた反応容器に移し、さらに室温で1.5時間振とうしたのち、高真空下(10-3〜10-4mmHg)、−60℃、−134℃、−196℃でトラップ・ツー・トラップ精製蒸留を行い、−134℃でトラップされる2,2−ジフルオロブタン(0.61mmol、収率61%)を得た。生成物は1H−NMRスペクトル、19F−NMRスペクトル、およびIRスペクトルにより同定した。
【0040】
IR:2995、2960、2902、1474、1398、1358、1246、1201、1044、924cm-1
【0041】
1H−NMR(CDCl3、TMS) δ:1.02(t、J=7.6Hz、3H)、1.57(t、J=18.3Hz、3H)、1.86(tq、J3=15.7、J7=7.6Hz、2H)
【0042】
19F−NMR(CDCl3、CFCl3) φ:93.1(tq、J3=15.7、J4=18.4Hz)
【0043】
実施例5
ストップバルブとステンレススチール反応管よりなる反応容器にKHF2(473mg、6.1mmol)をいれ、次いで真空ラインを用いてシクロプロパン(2.0mmol)とSiF4(4.0mmol)を加え、室温で16時間振とうした。揮発成分を、フッ化ナトリウム(0.8g、20mmol)をいれた反応容器に移し、室温で1.5時間振とうしたのち、高真空下(10-3〜10-4mmHg)、−60℃、−123℃、−196でトラップ・ツー・トラップ精製蒸留を行い、−123℃でトラップされる1−フルオロプロパン(1.90mmol、収率95%)を得た。生成物は1H−NMRスペクトル、19F−NMRスペクトル、およびIRスペクトルにより同定した。
【0044】
IR:2977、2963、1474、1399、1060、966cm-1
【0045】
1H−NMR(CDCl3、TMS) δ:0.98(t、J=7.4Hz、3H)、1.72(dtq、J2=24.4、J3=6.3、J4=7.4Hz、2H)、2.40(dt、J2=47.5、J3=6.3Hz、2H)
【0046】
19F−NMR(CDCl3、CFCl3) φ:219.0(tt、J=23.7、47.3Hz)
【0047】
実施例6
ストップバルブとステンレススチール反応管よりなる反応容器に一水素二フッ化ナトリウム(375mg、6.1mmol)をいれ、次いで真空ラインを用いてシクロヘキセン(2.0mmol)とSiF4(4.0mmol)を加え、室温で16時間振とうした。反応混合物から四塩化炭素で生成物を抽出し、無水炭酸ナトリウムで乾燥した。この溶液の1H−NMRスペクトル、および19F−NMRスペクトルを測定したところ、フルオロシクロヘキサンが生成しており、その収率は33%であることがわかった。この収率はベンゾトリフルオリドを内部標準として19F−NMRスペクトルから決定した。
【0048】
実施例7
水素フッ化物塩として一水素二フッ化ナトリウムの代わりに一水素二フッ化アンモニウム(6.2mmol)を用いる以外は実施例6と同様に行い、フルオロヘキサン(収率74%)を得た。
【0049】
実施例8
ストップバルブとポリクロロトリフルオロエチレン製反応管よりなる反応容器に四水素五フッ化カリウム(KH4F5)(1.43g、10.4mmol)をいれ、次いで真空ラインを用いて2−ブチン(2.9mmol)とSiF4(3.0mmol)を加え、室温で16時間振とうした。揮発成分を、フッ化ナトリウム(1.77g、42mmol)をいれた反応容器に移し、さらに室温で0.5時間振とうしたのち、実施例4と同様の精製蒸留を行い、2,2−ジフルオロブタン(収率58%)を得た。
【0050】
実施例9
ストップバルブとポリクロロトリフルオロエチレン製反応管よりなる反応容器にKH4F5(1.22g、8.8mmol)を入れ、次いで真空ラインを用いて2−ブチン(2.9mmol)を加え、室温で16時間振とうした。揮発成分を、フッ化ナトリウム(1.56g、87mmol)をいれた反応容器に移し、さらに室温で1.6時間振とうしたのち、高真空下(10-3〜10-4mmHg)で精製蒸留を行い、2,2−ジフルオロブタン(収率5%)を得た。この収率はトリクロロフルオロメタンを内部標準として19F−NMRスペクトルから決定した。
【0051】
【発明の効果】
本発明を実施することにより、安価で、取り扱いの容易なフッ素化剤を用いて、炭素−炭素不飽和化合物あるいはシクロプロパン化合物から炭素陽イオンがより安定に生成する位置にフッ素原子を選択的に導入した有機フッ素化合物、例えば、1−アルケンからは2−フルオロ化合物を、1−アルキンからは2,2−ジフルオロ化合物を製造することができる。特に、フッ素化剤として一水素二フッ化素カリウム、一水素二フッ化アンモニウムなどの無機−水素フッ化物塩を用いる場合は、無機−水素フッ化物塩が固体状態で反応層に溶解しない為に、反応後の反応混合物からの分離が容易で、その後の反応生成物の単離が容易となる。また、フッ素化剤に加えて四フッ化ケイ素を併用することで、フッ素化能が格段に向上し、フッ素化剤の少量の使用量でも充分に高い収率で目的化合物を得ることができる。これら得られる有機フッ素化合物は、高分子モノマー、冷媒、医薬、農薬等、あるいはそれらの中間生成物として有用である。
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