JP3749329B2 - インクジェットプリンターヘッド用ノズル板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はインクジェットプリンターヘッドに用いるノズル板の表面処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、コンピュータ出力の応用分野におけるノンインパクトプリンターの一方式であるインクジェットプリンターにおいて圧電体の圧電作用をインク吐出の駆動力に応用した手段が特公平4−48622号公報や特開昭63−247051号公報等に提案されている。
【0003】
これらの公報に記載の製造方法および構造は、圧電性基板にインク流路のための微細な貫通した溝の加工を施した後、その表面に電極膜を形成、表面を研磨加工し、溝内部に電極膜を残す。
【0004】
さらに溝内面に絶縁膜として気相合成法によるポリパラキシリレン樹脂からなるパリレン膜を形成する。この絶縁膜はインクの不安定吐出の原因となるインクの電気分解による気泡発生およびインクの変質を防ぐための重要な構成体として位置づけられている。
【0005】
以上のように作製した圧電性基板の溝を有する面どうしを対向させて接着、あるいは溝を有する面上にガラス、セラミック、金属あるいはプラスチック製の平板状の蓋を接着することによってインク流路を形成する。
【0006】
さらにインク流路の一方の端部に直径30〜60ミクロンのインク吐出孔を有した厚さ0.1mmのノズル板を接着した後、電極に駆動回路を接続することによってインクジェットプリンターヘッドが構成される。この時、ノズル板の材質としては、金属、プラスチック、セラミックス製ノズル板が使われる。
【0007】
圧電作用を利用したインクジェットプリンターヘッドの駆動原理は各溝中に形成された電極に電圧を印加すると溝を形成する隔壁がその圧電作用のためにインク流路の容積を増大または減少せしめるように変形する。そして、この減少の変形によって生じた圧力が溝内部に充填されたインクに伝播し、インク吐出孔からインク滴として吐出するものである。
【0008】
一般に、インク滴を安定に真っ直ぐ吐出させるためにはノズル板において吐出後のインク吐出孔周囲への残留インクの付着を防止し、さらに水性あるいは非水性インクに対して化学的に安定でなければならないことが要求されている。
【0009】
そのための手段として、インクの吐出面にインクに対して撥液性の被膜表面を形成することが提案されており、撥液性を発現する材料としてはシリコーン樹脂やフッ素樹脂、またはテフロン共析メッキ被膜などが知られている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のような撥液性被膜を形成する場合、撥液性被膜のインク吐出孔内部への入り込み位置によってインクのメニスカスの位置が決定し、インクの吐出特性に大きな影響を与えることが知られている。したがって、撥液性被膜のインク吐出孔内部への入り込み量を精密に制御し、メニスカス位置を一定にしなければならないことが要求される。すなわち、撥液性被膜の入り込み量がインク吐出面に近いと外部からの機械的振動によって誤吐出を生じ易く、また入り込み量がインク吐出面から遠いとインク滴を吐出後、気泡を巻き込み易くなり、吐出特性が不安定になる。さらに撥液性被膜の入り込み量によって決定されるメニスカス位置はインク流路の寸法、ノズル板の厚み、インク吐出孔の大きさ、インクの種類、駆動方法、駆動力などのパラメータに大きく依存するため、その位置を可変できる形成技術が要求される。
【0011】
その方法として例えば特開平7−125220に感光性樹脂フィルムをノズル板のインク吐出裏面から圧接し、フィルムの一部をインク吐出孔内部に入り込ませて硬化し、テフロン共析メッキを行い、その後フィルムを除去する方法が開示されているが、この方法では感光性樹脂フィルムの入り込み量を温度で調節するために境界位置の正確な制御が困難であり、さらに印字解像度を上げるためインク吐出孔の径を小さくした場合、インク吐出孔内部への感光性樹脂フィルムの入り込みが困難となり、撥水性被膜のインク吐出孔内部への入り込み量を正確に制御することが困難である。
【0012】
本発明の目的は、上記課題を解決して、撥液性被膜のインク吐出孔内部への入り込み量を精密に制御し、メニスカス位置を一定にするためのインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の表面処理方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明のインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の表面処理方法では下記記載の手段を採用する。
【0014】
本発明のインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の表面処理方法はインク吐出面を一方に有する平板状部材からなり、平板状部材の所定の位置にインクが吐出される貫通したインク吐出孔を有するインクジェットプリンターヘッド用ノズル板に、ポジ型感光性樹脂をインク吐出面からインク吐出面とインク吐出孔内部を被覆充填し硬化させる工程と、インク吐出面の裏側をポジ型感光性樹脂によって被覆し硬化させる工程と、インク吐出面より紫外線を露光しポジ型感光性樹脂を現像する工程と、撥液性被膜を被覆する工程と、ポジ型感光性樹脂を除去する工程とを有することを特徴とする。
【0015】
また本発明のインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の表面処理方法では、ポジ型感光性樹脂のインク吐出孔内部への入り込み量を露光量と露光時間によって制御することを特徴とする。
【0016】
また本発明のインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の表面処理方法では、ポジ型感光性樹脂の粘度が100センチポイズ以下であることを特徴とする。
【0017】
(作用)
本発明のノズル板の表面処理方法は、まず最初にインク吐出面とインク吐出孔内部をポジ型感光性樹脂、具体的には液状のポジ型感光性レジストによって被覆充填し硬化させる。この時ポジ型感光性樹脂はインク吐出孔内部に充填する必要があるため、粘度の低い、具体的には100センチポイズ以下の液状レジストを用いる。
【0018】
ポジ型感光性樹脂をインク吐出面からスピンナーで塗布しインク吐出面とインク吐出孔内部を充填被覆し硬化する。続いてインク吐出裏面をポジ型感光性樹脂をスピンナーで被覆し硬化する。インク吐出面はポジ型感光性で被覆されているのでインク吐出裏面にポジ型感光性樹脂を被覆する際にスピンナーの基台に触れることによる表面の汚染が防止される。
【0019】
次に、インク吐出面より紫外線を露光する。この時、露光強度と露光時間とを制御することにより、現像よるポジ型感光性樹脂の溶解量を制御することができる。すなわち、形成する撥液性被膜はポジ型感光性樹脂がマスキング材となるため、ポジ型感光性樹脂のインク吐出孔内部への入り込み量を露光量と露光時間によって制御することにより、撥液性被膜の回り込み量を制御することが可能となる。
【0020】
撥液性被膜を形成するためには予めインク吐出面が清浄に保っておくことが重要である。マスキング後に洗浄する場合、洗浄剤によってはマスキング材であるポジ型感光性樹脂を破壊してしまう。そのためマスキング前にインク吐出面を強力に洗浄し、撥液性被膜の形成時までインク吐出面を汚染せず清浄に保つことが望ましい。インク吐出孔裏面からポジ型本発明によればインク吐出裏面にポジ型感光性樹脂を被覆する際に、インク吐出面がスピンナーの基台に触れることがなく、汚染されずに清浄に保つことができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、図面を用いて本発明の実施例におけるインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の表面処理方法を説明する。
【0022】
図1は本発明の実施例におけるインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の構造を示す模式断面図である。本インクジェットプリンターヘッド用ノズル板はインク吐出面30に撥液性被膜50が被覆されており、撥液性被膜50の一部はインク吐出孔内部70の中へ入り込んでいる。この構造によってインク吐出時のメニスカス位置が安定となる。図2から図6は本発明の実施例におけるインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の表面処理方法を示す工程断面図である。
【0023】
はじめに図2に示すように、長さ50mm、幅15mm、厚さ0.1mmのインク吐出のための円形の貫通した孔を有するノズル板10のインク吐出面30とインク吐出孔内部70にポジ型感光性樹脂40を被覆充填し、硬化させる。
【0024】
ノズル板10は電鋳法によって作製したニッケル板であるが、他の材質、例えば塑性加工によってインク吐出孔20を形成したステンレス鋼板や、あるいは射出成型法によって作製したプラスチック材料のノズル板でも良い。
【0025】
インク吐出面30のインク吐出孔20の直径は35ミクロン、その裏面の直径は100ミクロンであり、インクをスムーズに供給し、まっすぐに吐出させるため、その断面はテーパー状になっており、本実施例で用いたノズル板には30個のインク吐出孔20が開いている。
【0026】
ポジ型感光性樹脂40はインク吐出孔内部70まで充填する必要があるため、粘度の低い、具体的には100センチポイズ以下の液状レジストを用いる。
【0027】
本実施例では粘度30センチポイズの東京応化製OFPR−800のポジ型感光性レジストを用い、インク吐出裏面60をシリコンゴムシートに圧着した状態でインク吐出面30よりレジストを滴下した。その後スピンコート法によって被覆充填した。この状態で60℃〜100℃の温度で硬化させる。
【0028】
次にインク吐出裏面60を上にしてシリコンゴムシートに圧着し、ポジ型感光性レジストをインク吐出裏面60に滴下しスピンコート法により被覆すると図3に示す状態となる。この状態で60℃〜100℃の温度で硬化させる。
【0029】
次にインク吐出面30より紫外線(波長365nm)を照射する。その後アルカリ性の現像液に浸漬することにより、紫外線によって露光された部分が溶解し、図4に示す状態となる。
【0030】
本実施例で用いた紫外線の露光強度は10mW/cm2 であり、露光時間を5秒、10秒、20秒と長くすることにより、インク吐出面30から感光性樹脂40までの距離Lはそれぞれ5μm、8μm、15μmとなることが確認された。本実施例では露光時間を5秒に設定し、インク吐出面30から感光性樹脂40までの距離Lを5μmとした。
【0031】
次に図5に示すようにこのノズル板10に撥水性被膜50を形成するためテフロン共析メッキを行う。
【0032】
このメッキ処理は電気メッキあるいは無電解メッキのいずれのメッキ方法でも可能である。本実施例では商品名カニフロン(日本カニゼン(株))と呼ばれる無電解メッキを採用した。
【0033】
テフロン共析メッキのメッキ厚は、メッキ液への浸漬時間によってコントロール可能であり、本発明の実施例では3μmとした。
【0034】
このテフロン共析メッキの被膜中には直径0.2μmのフッ素樹脂微粒子が20〜30vol%の範囲で均一に分散含有していることが電子顕微鏡観察によって確認されている。
【0035】
次にポジ型感光性樹脂40を溶剤を用いて溶解除去する。本実施例ではアセトンを用いた。
【0036】
このようにして図1に示すように撥液性被膜50がインク吐出孔内部70に入り込み、入り込み位置が一定であるインクジェットプリンターヘッド用ノズル板が完成する。
【0037】
さらに、テフロン共析メッキ表面の硬度を高くし、耐摩耗性を上昇させるためにポジ型感光性樹脂40を溶解除去後、350℃から400℃で熱処理することが好ましい。
【0038】
本発明の実施例の効果を確認するために、比較用サンプル1として実施例で用いたポジ型感光性樹脂40の代わりに感光性樹脂フィルムをノズル板10のインク吐出裏面60から圧接し、フィルムの一部をインク吐出孔内部70に入り込ませて硬化し、テフロン共析メッキを行い、フィルムを除去し、熱処理を行ったノズル板を作製し、インク吐出孔内部70の断面SEM観察を行った結果、本発明によるノズル板はインク吐出孔内部70に入り込んだテフロン共析メッキのインク吐出面30からの距離はすべてのインク吐出孔20で5μmであった。しかしながら、比較サンプル1のノズル板ではインク吐出孔内部70に入り込んだテフロン共析メッキのインク吐出面30からの距離は5μmから20μmの範囲で不規則にばらついていることが確認された。
【0039】
また、本発明の実施例の効果を確認するために、比較用サンプル2としてインク吐出面30にはポジ型感光性樹脂40を被覆せずに、インク吐出裏面60からポジ型感光性樹脂40をインク吐出裏面60とインク吐出孔内部70に充填被覆し硬化し、他は実施例と同様の処理を行った。テフロン共析メッキ面の表面のSEM観察を行った結果、メッキ斑の発生が見られた。
【0040】
また、本発明によるノズル板と比較用サンプル1のノズル板を用いてヘッドを組み立て、顔料系インクを注入し、連続吐出試験を行った結果、本発明によるノズル板を用いたヘッドは安定に吐出したが、比較用サンプルのノズル板を用いたヘッドはインクの吐出方向が曲がったり、全くインクが吐出しなくなる現象が生じた。
【0041】
以上の結果からわかるように本発明によるインクジェットプリンターヘッド用ノズル板は撥液性被膜50のインク吐出孔内部70への入り込み位置が精密に制御され、メニスカス位置が一定であり、インクの安定吐出を可能にすることが確認された。
【0042】
【発明の効果】
以上の実施例から明らかなように、本発明によるインクジェットプリンターヘッド用ノズル板はインク吐出面とインク吐出孔内部にポジ型感光性樹脂をインク吐出面から被覆充填し硬化させ、インク吐出裏面をポジ型感光性樹脂により被覆して硬化し、インク吐出面より露光、現像を行い、撥液性被膜を被覆し、その後ポジ型感光性樹脂を除去することにより撥液性被膜のインク吐出孔内部への入り込み位置が精密に制御され、メニスカス位置が一定となる。その結果、インクの安定吐出が可能となり、インクジェットプリンターの信頼性を向上させる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例におけるインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の構造と表面処理方法を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例におけるインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の表面処理方法を示す断面図である。
【図3】本発明の実施例におけるインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の表面処理方法を示す断面図である。
【図4】本発明の実施例におけるインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の表面処理方法を示す断面図である。
【図5】本発明の実施例におけるインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の表面処理方法を示す断面図である。
【符号の説明】
10 ノズル板
20 インク吐出孔
30 インク吐出面
40 ポジ型感光性樹脂
50 撥液性被膜
60 インク吐出裏面
70 インク吐出孔内部
Claims (3)
- 所定の位置にインクが吐出される貫通したノズル吐出孔を有する平板状部材のインク吐出面からポジ型感光性樹脂をインク吐出面とインク吐出孔内部に充填被覆し硬化させる工程と、インク吐出面の裏側をポジ型感光性樹脂によって被覆し硬化させる工程と、インク吐出面よりインク吐出孔内部の入り込み位置まで紫外線を露光しポジ型感光性樹脂を現像する工程と、撥液性被膜をインク吐出面よりインク吐出孔内部の入り込み位置まで被覆する工程と、ポジ型感光性樹脂を除去する工程とを有することを特徴とするインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の製造方法。
- ポジ型感光性樹脂のインク吐出孔内部への入り込み量を露光強度と露光時間によって制御することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の製造方法。
- ポジ型感光性樹脂の粘度が100センチポイズ以下であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の製造方法。
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