JP3748295B2 - 平版印刷版用アルミニウム支持体の粗面化方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウム板の電気化学的な粗面化方法並びに粗面化装置に関するものである。特に、銅を0.1wt%以上含有するアルミニウム板表面に、均一なハニカムピットを形成させるのに好適な粗面化方法並びに粗面化装置に関する。
本発明の粗面化方法により電気化学的な粗面化を施したアルミニウム板を、更に陽極酸化処理・親水化処理等を施すことにより、平版印刷版用アルミニウム支持体を製造することができる。また、本発明の粗面化方法は、塗装などの樹脂の被覆を形成させる前の下地処理として用いることもできる。更に、機械的な粗面化や化学的なエッチングと組み合わせて、平版印刷版用アルミニウム支持体の製造や塗装などの下地処理に好適な方法を提供する。
【0002】
【従来の技術】
従来から金属板表面に、その深さや分布を制御しながら均一な形状の凹凸を形成して表面積を増加させ、被覆層の密着性や、表面の保水性を向上させる方法が試みられている。そのひとつとして、機械的な粗面化、化学的なエッチング、電気化学的な粗面化の1つ以上を組み合わせた処理を施す方法が知られている。特に、平版印刷版用アルミニウム支持体として好適な表面形状を得る方法として硝酸または塩酸を主体とする水溶液中で、交流または直流を用いた電気化学的な粗面化方法が実用化されている。
【0003】
交流を用いた電気化学的な粗面化で均一なハニカムピットを生成する方法として、特公平5−65360号公報に記載された方法が知られている。前記公報には、アルミニウム板のカソード時の電気量Qcとアノード時の電気量Qaとの比(Qc/Qa)が1〜2.5の範囲であることが好適であり、2.5以上にすると均一な砂目が形成されず、エネルギー効率が低下することが記載されている。また特開昭55−137993号公報には、交流を用いた電気化学的な粗面化方法において、Qc/Qaが0.3〜0.95の範囲であることが好適であると記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記公報に記載の粗面化方法は、不純物の多い(特に銅を0.1wt%以上含有)アルミニウム板や、銅などの金属間化合物が偏析したり、結晶方向の局部的な不揃いが存在するなど、電気化学的な粗面化を均一に行うことができない欠陥を有するアルミニウム板には、均一なハニカムピットを生成することが困難であった。
【0005】
また、最近エネルギー資源の有効活用から汎用材料の利活用が望まれており、平版印刷版用アルミニウム支持体も例外でなく、従来用いられていたアルミニウムの純度が高いJIS A 1050材に代えて、缶材やフィン材として用いられているJIS A 3004材やJIS A 1100材を用いることが望まれている。
ところが、交流を用いてJIS A1050材を電気化学的な粗面化処理を行う際、電極の溶解を防止するためにカソード時の電気量Qcとアノード時の電気量Qaとの比(Qc/Qa)が0.95以下となる条件で粗面化を行うのが一般的であったが、JIS A 3004材やJIS A 1100材は不純物が多く、特に銅成分が多く含まれているためにアルミニウム板のスマット生成量が少なく、(Qc/Qa)を1以上にしないと均一なハニカムピットの生成を行うことができず、その結果主極として一般的に用いるカーボン電極の溶解が著しく、連続操業に適さなかった。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、銅成分を多く含有するアルミニウム材でもその表面に均一なハニカムピットを形成でき、しかもその際電極の劣化も少ないアルミニウム板の粗面化方法並びに粗面化装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下のとおりである。
1.硝酸を主体とする水溶液中で、アルミニウム板に対向して該アルミニウム板の進行経路に沿って交互に陽極と陰極とを配置し、直流を用いて電気化学的に粗面化を行う平版印刷版用アルミニウム支持体の粗面化方法において、
該アルミニウム板としてJIS A 3004材を用い、
(1)前記陽極のアルミニウム板の進行方向に関する長さLpと、前記陰極のアルミニウム板の進行方向に関する長さLnとの比Lp/Lnが1〜20であり、
(2)前記陽極に流れる電流Ipと前記陰極に流れる電流Inとの比Ip/Inが1〜20であり、かつ、
(3)前記陰極長さLnが、アルミニウム板の移動速度をV〔m/sec〕としたときに、0.005V〜2V〔m〕、である条件で行うことを特徴とする平版印刷版用アルミニウム支持体の粗面化方法。
2.陽極と陰極とを、陽極が先頭になるように配置し、直流を用いた電気化学的な粗面化処理をアルミニウム板のカソード反応から開始することを特徴とする前記1.に記載の粗面化方法。
3.コンダクタロールを用いてアルミニウム板に給電することを特徴とする前記1.に記載の粗面化方法。
【0008】
本発明によれば、アルミニウム板、特に銅成分を多く含有するアルミニウム材でもその表面に均一なハニカムピットを形成でき、しかもその際電極の劣化も無い。
【0009】
【発明の実施の態様】
以下、本発明の粗面化方法並びに粗面化装置に関して詳細に説明する。
本発明が対象とするアルミニウム板は、純アルミニウム板、アルミニウムを主成分として微量の異元素を含む合金板、またはアルミニウムがラミネートまたは蒸着されたプラスチックフィルムの中から選ばれる。該アルミニウム合金に含まれる異元素には、珪素、鉄、ニッケル、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、チタン、バナジウムなどがある。通常はアルミニウムハンドブック第4版(1990、軽金属協会)に記載の、従来より公知の素材のもの、例えばJIS A 1050材、JIS A 3103材、JIS A 3005材、JIS A 1100材、JIS A 3004材または引っ張り強度を増す目的でこれらに5wt%以下のマグネシウムを添加した合金を用いることが出来る。
尚、以降の説明において、上記のアルミニウム合金板やラミネート板を含めてアルミニウム板と呼ぶことにする。
【0010】
上記アルミニウム板は通常のDC鋳造法によるアルミニウム板の他、連続鋳造圧延法により製造されたものでも良い。
連続鋳造圧延の方法としては双ロール法、ベルトキャスター法、ブロックキャスター法などを用いることができる。本発明に用いられるアルミニウム板の厚みも特に制限されるものではなく、使用目的に応じて適宜設定された厚さで構わない。例えば平版印刷版用支持体として使用する場合には、およそ0.1〜0.6mm程度である。
【0011】
上記のアルミニウム板は、図1に示される装置により粗面化される。
図示されるように、この粗面化装置1は、硝酸を主体とする電解液2が貯留された電解槽3を複数個並設して構成される。電解槽3内には、ドラム4がその表面の一部を電解液2中に浸没するように配置されており、更にドラム4と所定間隔で対向するように一対の陽極5と陰極6とが配置されている。また、この電解槽3は2個以上、好ましくは3〜50個を直列に配置することが好ましい。
陽極5並びに陰極6には、それぞれ直流電源7a、7bを通じてコンダクタロール8a、8bが接続されている。
アルミニウム板9は、コンダクタロール8a、8bとパスロール10とで挟持され、該コンダクタロール8a、8bにより給電された状態で矢印A方向に搬送される。そして、電解液2中で陽極5と陰極6とを通過する間に、その表面が電気化学的作用により粗面化される。
【0012】
電解槽3は、縦型、フラット型、ラジアル型など公知の表面処理に用いる電解槽が使用可能であるが、ラジアル型電解槽がとくに好ましい。電解槽内を通過する電解液2は、アルミニウム板9の進行に関してパラレルでもカウンターでもよい。
また、ひとつの電解槽3には1個以上の直流電源7a、7bを接続することができる。
【0013】
電解液2となる硝酸を主体とする水溶液は、通常の直流または交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いるものを使用でき、例えば1〜100g/lの濃度の硝酸水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、等の硝酸イオン、塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、等の塩酸イオンを有する塩酸または硝酸化合物の1つ以上を1g/l〜飽和濃度まで添加して使用することができる。
また、この硝酸を主体とする水溶液中には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。好ましくは、硝酸0.5〜2wt%水溶液中にアルミニウムイオンが3〜50g/lとなるように塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムを添加した液を用いることが好ましい。
液温は10〜60℃が好ましく、20〜50℃がより好ましい。
【0014】
上記硝酸を主体とした水溶液中での電気化学的な粗面化では、平均直径0.5〜3μmのピットが1×105 〜6×106 個/mm2 の割合でピットが生成していることが好ましい。但し、電気量を比較的多くした時は、電解反応が集中し、3μmを越えるハニカムピットも生成する。
そこで、電気化学的な粗面化に使用する直流として、リップル率が20%以下の直流を用いることが好ましい。
【0015】
陽極5はフェライト、酸化イリジウム、、白金、白金をチタン、ニオブ、ジルコニウムなどのバルブ金属にクラッドまたはメッキしたものなど公知の酸素発生用電極に用いる電極材料から選定して形成することが出来る。
一方、陰極6はカーボン、白金、チタン、ニオブ、ジルコニウム、ステンレスや燃料電池用陰極に用いる電極材料から選定して形成することができる。
尚、陽極5及び陰極6に使用する大きな電極を継ぎ目なしで作成することは不可能なので、図2に示すように、複数の電極片11を絶縁物からなる厚さ1〜30mmのインシュレータ12を介在させて、後述される所定長さとなるように連結し、各電極片11を電線13で結線した構造とすることが有利である。インシュレータ12の材質には塩化ビニル、テフロンなどが好ましい。
【0016】
コンダクタロール8a、8bを通じてアルミニウム板9に流れる電流密度は10〜200A/dm2 が好ましく、またアルミニウム板9が陽極時の電気量の総和は100〜1000C/dm2 好ましい。
電気化学的な粗面化が終了した時点でのアルミニウム板9のアノード反応にあずかる電気量の総和は10〜1000C/dm2 が好ましく、100〜600C/dm2 がとくに好ましい。
【0017】
本発明は、上記の粗面化装置1において、陽極5のアルミニウム板9の進行方向に関する長さLpと、陰極6のアルミニウム板9の進行方向に関する長さLnとの比(Lp/Ln)が1〜20であり、かつ陽極5の印加電流Ipと陰極6の印加電流Inとの比(Ip/In)が1〜20であり、更に陰極長さLnを、アルミニウム板9の移動速度をV〔m/sec〕とした時に、0.005V〜2V〔m〕の長さとなるように設定することを特徴とする。特に好ましくは、(Lp/Ln)が2〜3、(Ip/In)が2〜3である。
同一材質の一体型の大型電極を作成することは困難なため、電極片11を図2に示したように複数個連結して用いることが好ましい。このとき、個々の電極片11の長さ(a)の合計をそれぞれLp、Lnとする。
【0018】
また、アルミニウム板9は、先に陽極5を通過させる方が、生成するハニカムピットがより均一となり好ましい。即ち、電解槽3内において、アルミニウム板9の進行方向に関して陽極5を先頭に配置し、アルミニウム板9のカソード反応から開始することが好ましい。
アルミニウム板を電気化学的に粗面化するにあたり、アルミニウム板の溶解反応の開始点は、アルミニウム板表面の酸化皮膜の分布、欠陥、性質に依存しやすい。そこで、アルミニウム板のカソード反応を最初に行うと、アルミニウム板表面の酸化皮膜がカソード反応によって溶解し、その結果、アルミニウム板のアノード反応での反応開始点が増え、より均一なハニカムピットの生成が可能となる。
上記した条件で粗面化処理を行うことにより、特に従来技術では困難とされていた、銅を0.1wt%以上含有するするようなアルミニウム板に均一なハニカムピットを生成することができる。
【0019】
また、アルミニウム板9には、電解処理が終了した後に、図示は省略するが、表面に付着した処理液を次工程に持ち込まないために、ニップローラーによる液切りやスプレーによる水洗等の処理を施すことが好ましい。
【0020】
本発明に係る上記の粗面化装置1は、種々の変更が可能である。
例えば、図3に示されるように、ひとつの電解槽3に、陽極5または陰極6のいずれかひとつの電極を配設し、陽極5を備える電解槽3aと陰極6を備える電解槽3bとを交互に配置してもよい。その際、上述した陽極5と陰極6との配置順と同様に、陽極5を備える電解槽3aを先頭に配置することが好ましい。
この場合も同様に、(Lp/Ln)が1〜20、(Ip/In)が1〜20、更にアルミニウム板9の移動速度に関する陰極長さLnが0.005V〜2V〔m〕となるように、陽極5及び陰極6の長さが設定される。
このように、ひとつの電解槽にひとつの電極を配設する構成により、ひとつの電解槽に陽極5と陰極6とを備える場合(図1参照)に比べて、個々の電極長さを長くすることができ(例えば、図示されるように半円弧状に延長)、その結果アルミニウム板9の搬送速度を高速化でき、生産性を高めることができる。
【0021】
また、本発明に係る上記の粗面化装置1は、図4に示されるように、先頭に陽極5のみを備える電解槽3aを配置し、次いで陰極6と陽極5とを陰極6が先頭となるように配置した電解槽3を複数個並設し、最終に陰極6のみを備える電解槽3bを配置してもよい。
この場合も同様に、陽極5のみを備える電解槽3a内の陽極5並びに陰極6のみを備える電解槽3b内の陰極6も含めて、(Lp/Ln)が1〜20、(Ip/In)が1〜20、更にアルミニウム板9の移動速度に関する陰極長さLnが0.005V〜2V〔m〕となるように、陽極5並びに陰極6の長さが設定される。
【0022】
本発明の粗面化方法は、機械的な粗面化、化学的なエッチング、陽極酸化処理、親水化処理などのうち1つ以上と組み合わせて表面処理することにより、平版印刷版用支持体として好適な表面を有するアルミニウム板を得ることができる。
以下に、本発明の粗面化方法を併用した平版印刷版用アルミニウム支持体の製造工程を説明する。
【0023】
[製造工程−その1]
アルミニウム板を下記の(a)〜(e)の順に処理する。
(a)機械的な粗面化処理:
毛径が0.2〜0.9mmの回転するナイロンブラシロールと、アルミニウム板表面に供給されるスラリー液で機械的に粗面化処理することが有利である。もちろんスラリー液を吹き付ける方式、ワイヤーブラシを用いた方式、凹凸を付けた圧延ロールの表面形状をアルミニウム板に転写する方式などを用いても良い。ここで、研磨剤としては公知の物が使用できるが、珪砂、石英、水酸化アルミニウムまたはこれらの混合物が好ましい。
この機械的な粗面化処理に関しては、例えば特開平6−135175号公報、特公昭50−40047号公報に記載された処理条件を好適に採用することができる。
(b)酸性水溶液中での電解研磨処理、または、酸またはアルカリ水溶液中での化学的なエッチング処理:
この処理は、上記の機械的な粗面化により生成した凹凸のエッジ部分を溶解し、滑らかなうねりを持つ表面を得、汚れ性能がよい平版印刷版用を得る目的で行われる。このときのアルミニウム板の溶解量は、5〜20g/m2 が好ましい。
(c)本発明に係る電気化学的な粗面化処理:
この処理は、上記処理されたアルミニウム板の表面に、更に平均直径約0.5〜3μmのハニカム状のピットを30〜100%の面積率で生成する目的で行われる。また、この処理は、平版印刷版の非画像部の汚れにくさと耐刷力を向上する作用がある。
(d)酸性水溶液中での電解研磨処理、または、酸またはアルカリ水溶液中での化学的なエッチング処理:
この処理は、上記の電気化学的な粗面化処理の際に生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分の除去と、生成したピットのエッジ部分を滑らかにし、平版印刷版としたときの汚れ性能を良化させる目的で行われる。このときのアルミニウム板の溶解量は0.05〜5g/m2 溶解することが好ましく、0.1〜3g/m2 溶解することがより好ましい。
(e)陽極酸化処理:
この処理は、アルミニウム板の表面の耐磨耗性を高めるために、陽極酸化皮膜を成膜するために行われる。
【0024】
[製造工程−その2]
アルミニウム板を下記の(f)〜(k)の順に処理する。
(f)酸性水溶液中での電解研磨処理、または、酸またはアルカリ水溶液中での化学的なエッチング処理:
この処理は、アルミニウム板表面の圧延油、自然酸化皮膜、汚れなどを除去し、次の電気化学的な粗面化を均一に行う目的で行われる。このときのアルミニウム板の溶解量は、1〜30g/m2 溶解することが好ましく、1.5〜20g/m2 溶解することがより好ましい。
(g)硝酸を主体とする水溶液中での直流を用いた電気化学的な粗面化処理(但し、本発明外):
この処理は、上記処理されたアルミニウム板の表面に平均直径約1〜20μmのハニカム状のピットを30〜100%の面積率で生成し、平版印刷版の非画像部の汚れにくさと耐刷力を向上させる目的で行われる。
(h)酸性水溶液中での電解研磨処理、または、酸またはアルカリ水溶液中での化学的なエッチング処理:
この処理は、上記の電気化学的粗面化処理により生成したスマットと、ピットのエッジ部分またはピットが生成していないプラトーな部分の溶解を行い、滑らかな凹凸を持つ表面を得る目的で行われる。
またこの処理は、平版印刷版の非画像部の汚れにくさと耐刷力を向上する作用がある。このときのアルミニウム板の溶解量は、1〜30g/m2 溶解することが好ましく、1.5〜20g/m2 溶解することがより好ましい。
(i)本発明に係る電気化学的な粗面化処理:
この処理は、アルミニウム板の表面に平均直径約0.5〜3μmのハニカム状のピットを30〜100%の面積率で生成する目的で行われる。また、この処理は、平版印刷版の非画像部の汚れにくさと耐刷力を向上する作用がある。
(j)酸性水溶液中での電解研磨処理、または、酸またはアルカリ水溶液中での化学的なエッチング処理:
この処理は、上記の本発明による電気化学的粗面化処理の際に生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分の除去と、生成したピットのエッジ部分を滑らかにし、平版印刷版としたときの汚れ性能を良化させる目的で行われる。このときのアルミニウム板の溶解量は、0.05〜5g/m2 溶解することが好ましく、0.1〜3g/m2 溶解することがより好ましい。
(k)陽極酸化処理:
この処理は、アルミニウム板の表面の耐磨耗性を高めるために、陽極酸化皮膜を成膜するために行われる。
【0025】
[製造工程−その3]
アルミニウム板を下記の(l)〜(o)の順に処理する。
(l)酸性水溶液中での電解研磨処理、または、酸またはアルカリ水溶液中での化学的なエッチング処理:
この処理は、アルミニウム板表面の圧延油、自然酸化皮膜、汚れなどを除去し、次の電気化学的な粗面化を均一に行う目的で行われる。このときのアルミニウム板の溶解量は、1〜30g/m2 溶解することが好ましく、1.5〜20g/m2 溶解することがより好ましい。
(m)本発明に係る電気化学的な粗面化処理:
この処理は、アルミニウム板の表面に平均直径約0.5〜3μmのハニカム状のピットを30〜100%の面積率で生成する目的で行われる。また、この処理は、平版印刷版の非画像部の汚れにくさと耐刷力を向上する作用がある。
(n)酸性水溶液中での電解研磨処理、または、酸またはアルカリ水溶液中での化学的なエッチング処理:
この処理は、上記の本発明による電気化学的粗面化処理の際に生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分の除去と、生成したピットのエッジ部分を滑らかにし、平版印刷版としたときの汚れ性能を良化させる目的で行われる。このときのアルミニウム板の溶解量は、0.05〜5g/m2 溶解することが好ましく、0.1〜3g/m2 溶解することがより好ましい。
(o)陽極酸化処理:
この処理は、アルミニウム板の表面の耐磨耗性を高めるために、陽極酸化皮膜を成膜するために行われる。
【0026】
上記に挙げた各処理工程において、本発明に係る電気化学的粗面化以外は、従来より平版印刷版用アルミニウム支持体の製造に用いられている処理条件で構わないが、以下にその代表的なものを述べる。
【0027】
前記処理(b)、(h)、(j)及び(n)の電解研磨に用いる水溶液は、好ましくは硫酸またはリン酸を主体とする水溶液である。この水溶液の硫酸またはリン酸濃度は20〜90wt%、好ましくは40〜80wt%であり、その他の成分として硫酸、リン酸、クロム酸、過酸化水素、クエン酸、硼酸、フッ化水素酸、無水フタール酸などを1〜50wt%含有していても良い。また、アルミニウムはもちろんアルミニウム合金中に含有する合金成分が0〜10wt%含有していてよい。また、液温は10〜90℃、好ましくは50〜80℃である。
電解は、電流密度1〜100A/dm2 、好ましくは5〜80A/dm2 で、1〜180秒行われる。電流は直流、パルス直流、交流を用いることが可能であるが、連続直流が好ましい。電解処理装置はフラット型槽、ラジアル型槽など公知の電解処理に使われているものを用いることができる。流速はアルミニウム板に対して、パラレルフロー、カウンターフローどちらでもよく、0.01〜10000cm/minの間から選定される。アルミニウム板と電極との距離は0.3〜10cmが好ましく、0.8〜2cmがとくに好ましい。給電方法はコンダクタロールを用いた直接給電方式を用いてもよいし、コンダクタロールを用いない間接給電方式(液給電方式)を用いても良い。使用する電極材質、構造は電解処理に使われている公知のものが使用可能であるが、陰極材質はカーボン、陽極材質はフェライト、酸化イリジウムまたは白金が好ましい。アルミニウム板の処理面は、上面でも下面でも両面でもよい。
【0028】
また、同じく前記処理(b)、(h)、(j)及び(n)の、アルカリ水溶液中での化学的なエッチング処理については、米国特許第3834398号明細書に記載の他に公知の手段を用いることが出来る。酸性水溶液に用いることのできる酸またはアルカリとしては、特開昭57−16918号公報などに記載されているものを単独または組み合わせて用いることが出来る。液温は40〜90℃で、1〜120秒間処理することが好ましい。酸性水溶液の濃度は0.5〜25wt%が好ましく、さらに酸性水溶液中に溶解しているアルミニウムは0.5〜5wt%が好ましい。アルカリ水溶液の濃度は5〜30wt%が好ましく、さらにアルカリ水溶液中に溶解しているアルミニウムは1〜30wt%が好ましい。エッチング処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち込まないためにアルミニウム板をニップローラーによる液切りとスプレーによる水洗を行うことが好ましい。
化学的なエッチングを塩基の水溶液を用いて行った場合、一般にアルミニウムの表面にはスマットが生成するので、燐酸、硝酸、硫酸、クロム酸、塩酸またはこれらの2以上の酸を含む混酸で処理する。さらに酸性水溶液中には、アルミニウムが0〜5wt%が溶解していても良い。液温は常温から70℃で実施され、処理時間は1〜30秒が好ましい。デスマット処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち込まないためにアルミニウム板をニップローラーによる液切りとスプレーによる水洗を行うことが好ましい。
【0029】
前記処理(g)の、本発明以外の直流を用いた電気化学的な粗面化処理とは、アルミニウム板とこれに対向する電極間に直流電流を加え、電気化学的に粗面化する方法を言う。硝酸を主体とする水溶液は、通常の直流または交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いるものを使用でき、1〜100g/lの塩酸または硝酸水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、等の硝酸イオン、塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、等の塩酸イオンを有する塩酸または硝酸化合物の1つ以上を1g/l〜飽和濃度まで添加して使用することができる。また硝酸を主体とする水溶液中には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。好ましくは、硝酸0.5〜2wt%水溶液中にアルミニウムイオンが3〜50g/lとなるように塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムを添加した液を用いることが好ましい。温度は10〜60℃が好ましく、25〜50℃がより好ましい。
この直流を用いた電気化学的な粗面化に用いる処理装置は、この種の公知の装置を使用することが出来るが、特開平1ー141094号公報に記載されているように一対以上の陽極と陰極を交互に並べた装置を用いることが好ましい。その他の公知の装置の例としては特開平6−328876号、特開平8−67078号、特開昭61−19115号、特公昭57−44760号各公報などに記載されている装置を挙げることができる。また、アルミニウム板に接触するコンダクタロールと、これに対向する陰極との間に、直流電流を加え、アルミニウム板を陽極にして電気化学的な粗面化処理を行っても良い。
また、使用する直流はリップル率が20%以下であることが好ましい。電流密度は10〜200A/dm2 が好ましく、アルミニウム板が陽極時の電気量は100〜1000C/dm2 が好ましい。陽極はフェライト、酸化イリジウム、、白金、白金をチタン、ニオブ、ジルコニウムなどのバルブ金属にクラッドまたはメッキしたものなど公知の酸素発生用電極から選定して用いることが出来る。陰極はカーボン、白金、チタン、ニオブ、ジルコニウム、ステンレスや燃料電池用陰極に用いる電極から選定して用いることができる。
この粗面化処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち込まないためにアルミニウム板をニップローラーによる液切りとスプレーによる水洗を行うことが好ましい。
【0030】
前記(e)、(k)及び(o)の陽極酸化処理に用いられる電解質としては、多孔質酸化皮膜を形成するものならば、いかなるものでも使用することができ、一般には硫酸、リン酸、シュウ酸、クロム酸、またはそれらの混合液が用いられる。また、それら電解質の濃度は電解質の種類によって適宣決められる。
陽極酸化の処理条件は、用いる電解質によって変わるので一概に特定し得ないが、一般的には電解質の濃度が1〜80wt%、液温は5〜70℃、電流密度1〜60A/dm2 、電圧1〜100V、電解時間10秒〜300秒の範囲にあれば適当である。硫酸法は通常直流電流で処理が行われるが、交流を用いることも可能である。
陽極酸化皮膜の量は、1〜10g/m2 の範囲が適当である。1g/m2 よりも少ないと耐刷性が不十分であったり、平版印刷版の非画像部に傷が付きやすくなって、同時にキズの部分にインキが付着する、いわゆるキズ汚れが生じやすくなる。
【0031】
陽極酸化処理が施された後、アルミニウム板の表面には必要により親水化処理が施される。本発明に使用される親水化処理としては、米国特許第2714066号、第3181461号、第3280734号及び第3902734号各明細書に開示されているようなアルカリ金属シリケート(例えば珪酸ナトリウム水溶液)法がある。この方法においては、アルミニウム板が珪酸ナトリウム水溶液中で浸漬されるか、また電解処理される。他に特公昭36−22063号公報に開示されているフッ化ジルコン酸カリウム、および、米国特許第3276868、第4153461号および第4689272号各明細書に開示されているようなポリビニルホスホン酸で処理する方法などが用いられる。
また、粗面化処理及び陽極酸化処理後、封孔処理を施したものも好ましい。かかる封孔処理は、熱水および無機塩または有機塩を含む熱水溶液への浸漬ならびに水蒸気浴等によって行われる。
【0032】
上記の如く本発明に係る粗面化処理と各種処理とを組み合わせのアルミニウム板の表面処理により、下記の物性値の範囲にある優れた平版印刷版用アルミニウム支持体を製造することができる。
(1)AFM(原子間力顕微鏡)で測定した値を用いて定義した表面形状が下記の範囲にある。
▲1▼水平(X,Y)方向の分解能が0.1μmとしたAFMを用いて100μm角の測定範囲で測定し、近似三点法により求めた表面積をa、上部投影面積をbとしたとき、a/bの値(比表面積)が1.15〜1.5。
▲2▼水平(X,Y)方向の分解能が1.9μmとしたAFMを用いて240μm角の測定範囲で測定した平均表面粗さが0.35〜1.0μm
▲3▼水平(X,Y)方向の分解能が1.9μmとしたAFMを用いて240μm角の測定範囲で測定した傾斜度が30度以上の割合が5〜40%。
(2)感光層を塗布する前のJIS Z9741−1983に規定の85度光沢度が30以下。
(3)走査型電子顕微鏡で、倍率750倍で観察したとき、80μmの視野の中に、平均直径0.5〜20μmのハニカムピットが占める面積の割合が30〜100%の物性値を満足する。
(4)水平(X,Y)方向の分解能が0.1μmまたは1.9μmとしたAFMを用いて100μm角または240μm角の測定範囲で測定したボックスカウンティング法、スケール変換法、カバー法、回転半径法、密度相関関数法などで求めたフラクタル次元が2.1〜2.5である。
【0033】
このようにして得られた平版印刷版用支持体の上には、従来より知られている感光層を設けて、感光性平版印刷版を得ることができ、これを製版処理して得た平版印刷版は優れた性能を有している。この感光層中に用いられる感光性物質は特に限定されるものではなく、通常、感光性平版印刷版に用いられているものを使用できる。例えば特開平6−135175号公報に記載のような各種のものを使用することが出来る。また、感光層はネガ型でもポジ型でもよい。
アルミニウム板は感光層を塗布する前に必要に応じて有機下塗層(中間層)が設けられる。この下塗層に設けられる有機下塗層としては従来より知られているものを用いることができ、例えば特開平6−135175号公報に記載のものを用いることができる。また、感光層の上には真空焼き付け時のリスフィルムとの密着性を良好にするために、マット層を設けるなどしてもよい。更に、現像時のアルミニウムの溶け出しを防ぐ目的で、裏面にバックコート層を設けてもよい。
【0034】
更に、本発明の粗面化方法は、片面のみでなく両面を処理した平版印刷版の製造にも適応できる。
【0035】
以下の実施例により、本発明をより明確にすることができる。但し、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
(実施例1)
厚さ0.24mm、幅1030mmの、JIS A 3004材からなるアルミニウム板を用いて以下の処理を行った。
(a)アルミニウム板を苛性ソーダ濃度26wt%、アルミニウムイオン濃度6.5wt%、液温70℃の水溶液でエッチング処理を行い、アルミニウム板を6.0g/m2 溶解した。その後、水洗を行った。
(b)液温60℃の硫酸濃度25wt%水溶液(アルミニウムイオンを0.5wt%含む)で、デスマット処理を行い、その後水洗した。
(c)硝酸1wt%水溶液(アルミニウムイオン0.5wt%、アンモニウムイオン0.007wt%含む)、液温45℃で、カーボン電極を対極として、直流電流を用いて電気化学的な粗面化処理を行った。使用した直流のリップル率は20%であった。
この時、陽極と陰極はそれぞれ別の電解槽に設置し(図3に示す装置参照)、陰極が設置された電解槽10個と、陽極が設置された電解槽9個はそれぞれ交互に配置した。アルミニウム板にはコンダクタロールを用いて給電した。
アルミニウム板の移動速度Vを0.5m/secとしたとき、それぞれの電解槽において、アルミニウム板の陰極長さLnは、0.2V(m)、陽極長さLpは0.8V(m)であった。また、電流密度は電流のピーク値で50A/dm2 であった。その後、水洗を行った。
このアルミニウム板を、液温60℃の硫酸濃度25wt%水溶液(アルミニウムイオンを0.5wt%含む)に60秒間漬けてデスマット処理を行い、水洗した後に走査型電子顕微鏡を用いて倍率750倍で表面を観察したところ、その表面に平均直径約0.5〜3μmの均一なハニカムピットが生成していた。
【0036】
(実施例2)
実施例1の(a)、(b)及び(c)の処理を行ったアルミニウム板を、苛性ソーダ濃度26wt%、アルミニウムイオン濃度6.5wt%の水溶液でエッチング処理を行い、このアルミニウム板を0.1g/m2 溶解して、(c)の直流を用いて電気化学的な粗面化を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分の除去と、生成したピットのエッジ部分を溶解し、エッジ部分を滑らかにした。その後、水洗した。
次に、液温60℃の硫酸濃度25wt%水溶液(アルミニウムイオンを0.5wt%含む)でデスマット処理をおこない、その後水洗を行った。
次に、液温35℃の硫酸濃度15wt%水溶液(アルミニウムイオンを0.5wt%含む)で、直流電圧を用い、電流密度2A/dm2 で陽極酸化皮膜量が2.4g/m2 になるように陽極酸化処理を行った。その後、水洗を行った。
処理されたアルミニウム板の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、平均直径0.5〜3.0μmのピットが均一に生成していた。
このアルミニウム板に中間層および感光層を塗布、乾燥し、乾燥膜厚1.8g/m2 のポジ型平版印刷版を作成した。この平版印刷版を用いて印刷したところ、良好な印刷画像が得られた。
【0037】
(実施例3)
実施例1の(a)、(b)及び(c)の処理を行ったアルミニウム板を、苛性ソーダ濃度26wt%、アルミニウムイオン濃度6.5wtの水溶液でエッチング処理を行い、このアルミニウム板を0.1g/m2 溶解し、前段の交流を用いて電気化学的な粗面化を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分の除去と、生成したピットのエッジ部分を溶解し、エッジ部分を滑らかにした。その後、水洗した。
次に、液温60℃の硫酸濃度25wt%水溶液(アルミニウムイオンを0.5wt%含む)でデスマット処理を行い、その後水洗を行った。
次に、液温35℃の硫酸濃度15wt%水溶液(アルミニウムイオンを0.5wt%含む)で、直流電圧を用い、電流密度2A/dm2 で陽極酸化皮膜量が2.4g/m2 になるように陽極酸化処理を行った。その後、水洗を行った。
次に、親水化処理する目的で、珪酸ソーダ2.5wt%、70℃の水溶液に14秒間浸漬して、その後水洗、乾燥した。
処理されたアルミニウム板の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、平均直径0.5〜3.0μmのピットが均一に生成していた。
このアルミニウム板に中間層及び感光層を塗布、乾燥し、乾燥膜厚2g/m2 のネガ型平版印刷版を作成した。この平版印刷版を用いて印刷したところ、良好な印刷画像が得られた。
【0038】
【発明の効果】
本発明を実施することで、アルミニウム板に均一なハニカムピットを生成することが可能となる。特に、銅を0.1wt%以上含有するアルミニウム材料に均一なハニカムピットを生成することができ、しかもその際電極の劣化も無く連続操業に有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る粗面化装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】 本発明で用いる電極を示す概略図である。
【図3】 本発明に係る粗面化装置の他の例を示す概略構成図である。
【図4】 本発明に係る粗面化装置の他の例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1 粗面化装置
2 電解液
3、3a、3b 電解槽
4 ドラム
5 陽極
6 陰極
7a、7b 直流電源
8a、8b コンダクタロール
9 アルミニウム板
10 パスロール
11 電極片
12 インシュレータ
Claims (3)
- 硝酸を主体とする水溶液中で、アルミニウム板に対向して該アルミニウム板の進行経路に沿って交互に陽極と陰極とを配置し、直流を用いて電気化学的に粗面化を行う平版印刷版用アルミニウム支持体の粗面化方法において、
該アルミニウム板としてJIS A 3004材を用い、
(1)前記陽極のアルミニウム板の進行方向に関する長さLpと、前記陰極のアルミニウム板の進行方向に関する長さLnとの比Lp/Lnが1〜20であり、
(2)前記陽極に流れる電流Ipと前記陰極に流れる電流Inとの比Ip/Inが1〜20であり、かつ、
(3)前記陰極長さLnが、アルミニウム板の移動速度をV〔m/sec〕としたときに、0.005V〜2V〔m〕、である条件で行うことを特徴とする平版印刷版用アルミニウム支持体の粗面化方法。 - 陽極と陰極とを、陽極が先頭になるように配置し、直流を用いた電気化学的な粗面化処理をアルミニウム板のカソード反応から開始することを特徴とする請求項1に記載の粗面化方法。
- コンダクタロールを用いてアルミニウム板に給電することを特徴とする請求項1に記載の粗面化方法。
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