JP3746121B2 - 医用画像診断装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、被検体内の断層面を時系列に超音波スキャンして得られた画像上にROIを設定し、ROI内の生体計測情報を得るようにした医用画像診断装置に係り、とくに、ROIの時系列的な移動制御に関する。なお、この医用画像診断装置は、かかる生体計測の機能を備えた超音波診断装置として形成されることも多い。
【0002】
【従来の技術】
近年、被検体の断層像の輝度画像や血流画像など種々の形態の超音波画像が豊富に得られており、この超音波画像を用いて画像診断を行うときに、その画像情報の定量計測に対する重要性が増してきている。この計測項目には例えば、生体の血流情報、画像信号強度(輝度)、面積、容積など、種々のものがある。
【0003】
被検体の機能評価を行うには、それら計測項目の時間変化を観測することが多い。そのような場合、画像全体を計測対象とすることは殆どなく、画像上の関心のある特定領域を指示して、この特定領域の生体情報の時間変化を観測・計測している。この特定領域を指示するには、通常、画像上にROI(re- gion of interest:関心領域)を設定している。
【0004】
具体的には例えば、医用モダリティとしての超音波診断装置により最初に被検体のBモード断層像のフレーム毎の時系列画像データが得られ、この画像データが医用画像診断装置のイメージメモリに格納される。検査者は、この時系列の画像データのの内の関心時相範囲(period of interest:POI)の画像データを指示するとともに、生体計測用のROIをあるフレームの画像上に設定する。関心時相範囲の時系列の画像データは適宜なフレームレートでモニタに表示されるとともに、その各フレームの画像データについてROI内の画像データに基づき生体情報(例えばタイムデンシティカーブに供する輝度変化情報)が時系列に演算される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来の生体計測法を実施する画像診断においては、画像上に設定したROIの位置はモニタ画面上では固定であるものの、組織の運動(心筋の収縮や拡張)に因って表示対象そのものの位置が相対的に移動することから、画像の更新に伴って、ROIの位置が検査者が最初に意図した表示対象上の特定場所からずれてしまうという事態が頻発している。このような事態が発生すると、ROI内の画像データに基づく時系列の生体情報を正確に測定することができないか、または、計測結果に対する信頼性が非常に低いものになってしまう。
【0006】
この問題を改善して高精度に計測しようとするならば、その1つの対応策として、関心時相範囲のフレーム毎にROIの位置をマニュアルで修正する必要がある。しかし、これには、表示フレームのフリーズやROI移動のためのマウス操作を修正フレーム毎に繰り返す必要があり、その操作量は画像診断にとって大きなウエイトを占め、かつ操作を繁雑化させてしまう。このため、操作時間が長期化し、すなわち画像診断の時間が長くなって、画像診断のスループットが低下するとともに、検査者(操作者)の操作上の労力も著しく大きくなる。また、ROIの位置をマニュアルで修正するので、修正し忘れのフレームが生じ易いことなどの理由から、計測結果に対する信頼性も不十分であった。反対に、信頼性の高い計測を行おうとすると、かかるマニュアル修正に相当の熟練を要し、これがため操作者の適格性の面で融通性に欠けるという問題もあった。
【0007】
また、前述の基本的な問題を緩和する便宜的な方法としては、生体計測用のROIの位置ずれを見越して、ROIを予め広く設定しておくことが考えられる。しかし、そのように広く設定することは、格別に関心の無い部位も予めROIに含んでしまう妥協的な部位設定となり、計測結果の信頼性および精度の両面で物足りないという問題がある。
【0008】
本発明は、上述した従来のROI使用法の問題に鑑みてなされたもので、とくに、組織運動があっても、生体計測用のROIを精度良く最初に意図した部位に追従させることができ、これにより、高精度で高信頼性の生体計測が可能になるとともに、操作上の労力を著しく軽減できる画像診断装置を提供することを、その目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の一つの態様に係る医用画像診断装置は、被検体内の断面を超音波信号でスキャンして得て記憶させた時系列の複数フレーム分の画像データに基づき、この画像データを表示した画像上の当該被検体の血流部位に操作者からの操作情報に応じて設定されたROI(関心領域)の生体情報を計測する医用画像診断装置において、前記画像上の前記被検体の組織部位に操作者からの操作情報に応じて設定された参照部位の運動情報を得る運動情報取得手段と、前記運動情報に基づいてフレーム毎の前記ROIの位置の移動量を演算する移動量演算手段と、この移動量演算手段により演算された移動量を用いてフレーム毎の前記ROIの位置を制御する位置制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の別の態様に係る医用画像診断装置は、被検体内の断面を超音波信号でスキャンして得た時系列の複数フレーム分の画像データを記憶する記憶手段と、前記複数フレーム分の画像データの内の任意フレームの画像データをモニタに表示する表示手段と、前記モニタに表示された画像上の前記被検体の組織部位に操作者からの操作情報に応じて設定された参照部位の運動情報を得る運動情報取得手段と、操作者からの操作情報を受けて前記画像上の前記被検体の血流部位に生体計測用のROI(関心領域)を設定するROI設定手段と、前記参照部位の運動情報に基づいて前記複数フレーム分の残りフレームの画像データに対する前記ROIの位置の移動量を演算する移動量演算手段と、この移動量演算手段により演算された移動量を用いて前記残りフレームの画像データの表示像上の前記ROIの位置を制御する位置制御手段と、前記複数フレーム分の画像データに基づき前記ROI内の画像データによる生体情報を計測する計測手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
好適な一例としては、前記記憶手段、前記表示手段、前記運動情報取得手段、前記ROI設定手段、前記移動量演算手段、前記位置制御手段、および前記計測手段は超音波診断装置に一体に搭載される。これにより、通常は超音波診断装置として使用しながら、本発明の医用画像診断装置としても使用できる。
【0014】
さらに好適には、前記複数フレーム分の画像データの内の関心時相範囲のフレームの画像データを指定するデータ指定手段を、前記2つの態様の装置に付加的に備えることである。
【0015】
前記移動量演算手段は、例えば、前記複数フレーム分の残りフレームの内の時間的に隣接する2枚のフレームの画像データから前記移動量を推定演算する手段に形成することができる。また、この移動量演算手段は、前記複数フレーム分の残りフレームにおける複数枚のフレームの画像データから関数を媒介にして前記移動量を推定演算する手段に形成してもよい。さらに、この移動量演算手段は、前記超音波信号の方向と前記参照部位の運動の方向との角度差に応じて前記画像データを補正する補正手段を含むように形成してもよい。
【0016】
さらに好適には、前記位置制御手段により制御された前記ROIの位置をマニュアルで調整可能なマニュアル調整手段を備えてもよい。
【0017】
さらに例えば、前記ROI設定手段により前記ROIを複数個、設定するようにしてもよい。
【0018】
以上の様々な態様や変形の構成により、超音波画像上の血流部位に設定した生体計測用のROIの位置を組織の運動に応じて制御して、生体上の所望位置を常に追従させることができる。したがって、的外れな画像データにより生体計測が実施されるという自体を的確に排除でき、高精度で信頼性の高い生体計測を実施できる。また、検査者の操作上の労力も著しく軽減できる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の1つの実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0020】
装置構成の概要
最初に、本実施形態に係る医用画像診断装置の構成の概要を説明する。
【0021】
この医用画像診断装置は、図1に示す超音波診断装置に一体に組み込まれ、その超音波診断装置において各種の超音波画像の取得と生体計測に代表される医用画像診断との両方を行えるようになっている。以下、この医用画像診断装置を機能的に搭載した超音波診断装置について説明する。
【0022】
図1に示す超音波診断装置は、超音波信号と電気信号の間で双方向に信号変換可能な超音波プローブ1と、この超音波プローブ1に接続された送信系回路2および受信系回路3、この受信系回路3の出力側に装備された画像データおよび生体計測情報の処理・演算系回路4、この処理・演算系回路4の出力側に装備された表示系回路5、および装置全体の演算および処理の動作を制御する制御系回路6とを備える。
【0023】
超音波プローブ1は、その先端に配置されたアレイ型圧電振動子を備える。アレイ型振動子は複数の圧電素子を並列に配置し、その配置方向を走査方向としたもので、複数の圧電素子それぞれが送受信の各チャンネルを形成する。
【0024】
送信系回路2は、図示していないが、基準レートパルスを発生するパルス発生器と、このパルス発生器から出力された基準レートパルスをチャンネル毎に遅延して駆動パルスを発生させる送信回路とを備える。送信回路から出力されたチャンネル毎の駆動パルスは、超音波プローブ1の複数の振動子のそれぞれに供給される。駆動パルスの送信遅延時間は各チャンネル毎に制御され、レート周波数毎に繰返し供給される。駆動パルスの供給に応答して各振動子から超音波パルスが出射される。この超音波パルスは被検体内を伝搬しながら、制御された送信遅延時間に因り送信ビームを形成し、音響インピーダンスの異なる境界面でその一部を反射してエコー信号になる。戻ってきたエコー信号の一部または全部は1つまたは複数の振動子で受信され、対応する電気信号に変換される。
【0025】
受信系回路3は、図示していないが、プローブ1の各振動子に接続されたチャンネル毎のプリアンプと、このプリアンプのそれぞれに接続された遅延時間変更可能な遅延回路と、その遅延回路の遅延出力を加算する加算器とを備える。このため、プローブ1により受信されたエコー信号は、その対応する電気量のアナログ信号が受信系回路3に取り込まれ、チャンネル毎に増幅された後、受信フォーカスのために遅延制御され、加算される。これにより、受信遅延時間の制御に応じて決まるフォーカス点を有する受信ビームが演算上で形成され、所望の指向性が得られる。
【0026】
受信系回路3の出力端は、Bモード処理回路11、CFMモード処理回路12、TDIモード処理回路13、およびPWDモード処理回路14に並列に接続されている。これらの処理回路11〜14は処理・演算系回路4の一部の構成要素を成す。処理・演算系回路4は、かかる画像データの取得モード別の処理回路11〜14のほか、これらの処理回路11〜14の出力側に装備した電子式の切換スイッチ15、デジタルスキャンコンバータ(DSC)16、イメージメモリユニット17、生体計測器18、移動量演算器19、ROI発生器20、およびデータ合成器21を備える。
【0027】
この内、Bモード処理回路22はBモードの白黒の断層像データの作成を担うもので、図示していないが、対数増幅器、包絡線検波器、およびA/D変換器を備えている。このため、受信系回路3で整相加算されたエコー信号は対数増幅器で対数的に圧縮増幅され、その増幅信号の包絡線が包絡線検波器で検波され、さらにA/D変換器でデジタル信号に変換されてBモード画像データとして出力される。
【0028】
CFMモード処理器12は、カラーフローマッピング(CFM:カラードプラ断層法の一種)のモードにより2次元的に血流情報の検出を行う従来周知の回路で構成される。このCFMモード処理器12は具体的には、図示してはいないが、直交位相検波器、A/D変換器、MTIフィルタ、および自己相関器を備えるとともに、この自己相関出力に基づく演算を行う平均速度演算器、分散演算器、パワー演算器を備える。受信エコー信号から直交位相検波器によりドプラ信号が検出され、そのドプラ信号はA/D変換器によりデジタルデータに変換された後、MTIフィルタのフレームメモリに一次的に記憶される。
【0029】
CFMモードでは、血流情報を得るために、同一断面が複数回、超音波スキャンされるから、そのフレームメモリにはビームスキャン方向、超音波ビーム方向、スキャン回数方向の3つの次元を有するドプラデータが格納される。MTIフィルタには、フレームメモリの読出し側にハイパスフィルタを備えている。このため、3つの次元を有する画像データの内、各ピクセル位置に対応したスキャン回数方向の複数個のドプラデータ列それぞれに対して組織エコーのドプラ成分を除去して血流エコーのドプラ成分が良好に抽出される。
【0030】
ハイパスフィルタリングされたドプラデータ列は自己演算器でそのデータ列の平均ドプラ周波数が解析される。この平均ドプラ周波数に基づき、平均速度演算器でスキャン断面の各サンプル点の血流平均速度を、分散演算器で血流速度分布の分散値を、さらにパワー演算器で血流からのエコー信号のパワー値をそれぞれ演算している。これらの演算情報はカラードプラ情報として出力される。
【0031】
さらに、TDIモード処理回路13は組織ドプライメージング(TDI:カラードプラ断層法の一種)により2次元的に組織の運動情報の検出を行う。このTDIモード処理回路13の構成は概略、上述したCFMモード処理回路12と同一であるが、心筋などの組織からのエコー信号のドプラ成分を抽出可能になるようにMTIフィルタに設けるフィルタ回路の特性を設定してある。すなわち、組織のエコー信号と血流のエコー信号との間には、その強度およびドプラ偏移周波数(運動速度)に相違があることを利用した特性になっている。組織のエコー信号の強度は血流のそれに比して大きいが、ドプラ偏移周波数(つまり速度)は通常小さい。このため、MTIフィルタに搭載するフィルタ回路を、その低域のドプラ偏移周波数を抽出できるローパースフィルタに構成している。そのほかの構成はCFMモード処理回路12と同等である。
【0032】
さらに、PWDモード処理回路14はパルスドプラ(PWD)法に基づいてドプラスペクトラムデータを生成する機能を担う。具体的には、直交位相検波器、サンプルホールド回路、帯域フィルタ、A/D変換器、FFTなどを備える。
【0033】
さらに、切換スイッチ15は、制御信号に応答して装置の動作モード別に経路を切り換える電子スイッチング素子で成る接点を有して構成される。この接点としては、オン・オフ動作する3つのノーマルオープンの接点a−a′,b−b′,c−c′が設けられている。接点a−a′は前述した4つの処理回路11〜14とDSC16とを共通に接続すべく介挿されている。別の接点b−b′は4つの処理回路11〜14とイメージメモリユニット17との間に介挿されている。残りの接点c−c′はイメージメモリユニット17とDSC16の間に介挿されている。
【0034】
この画像診断装置を兼ねる超音波診断装置では、その動作モードとして、通常の超音波診断装置としての機能させる「通常表示モード」、超音波スキャンに拠る画像データを一次記憶させる「データ記憶モード」、および一次記憶した画像データを元にして生体情報を計測する「計測モード」が用意されている。「通常表示モード」を指令するときには、制御信号により、切換スイッチ15の接点a−a′のみがオン、そのほかの接点b−b′、c−c′がオフに切り換えられる。「データ記憶モード」を指令するときには、同様に、接点b−b′のみがオン、そのほかの接点a−a′、c−c′がオフに切り換えられる。「計測モード」を指令するときには、接点c−c′のみがオン、そのほかの接点a−a′、b−b′がオフに切り換えられる。さらに好適には、「通常モード」下でも、最新の画像が常に自動的にデータ記憶されていることが望ましい。
【0035】
DSC16はフレームメモリ16aを備えており、このフレームメモリ16aへの書込みおよび読出しを制御することでスキャン方式を変更するようになっている。
【0036】
イメージメモリユニット17は、複数の取得モードの画像データを1次的に記憶する複数枚のフレームメモリを備えており、制御信号に呼応してその画像データの書込みおよび読出しを行うようになっている。
【0037】
生体計測器18は例えば専用のプロセッサを有して構成される。この生体計測器18は、供給される制御信号に呼応して、関心時相範囲における生体情報をフレーム毎に計測するようになっている。この計測データはデータ合成器21に送られる。ここで言う「計測」とは、血流速度情報、組織の運動速度情報、超音波散乱強度(輝度)情報に基づく種々の生体の診断情報(生体情報)の計測を指す。生体情報としては例えば、距離、面積、容積、速度、血流量、タイムデンシティカーブに供する輝度値などがある。
【0038】
また移動量演算器19は例えば専用のプロセッサとして形成される。これにより、移動量演算器19は、オペレータが画面上に設定した参照部位としての参照用ROIの移動量(移動方向および移動距離)を関心時相範囲(POI:Period of interest)にてフレーム毎に(すなわち、経時的に)演算する。演算した移動量は移動制御信号に変換され、ROI発生器20に出力される。この移動量は、後述するように、設定した生体情報計測のためのROIの画像上の(すなわち、フレームメモリに記憶された2次元画像データ上の)位置を制御する制御量となる。
【0039】
ここで、参照部位の移動量の推定手法を説明する。最も簡単な手法は図2に示すように、1フレーム前の参照部位の運動速度を利用して連続する2フレーム間の移動量を決めるものである。同図に示すように、参照部位を示す参照用ROI:ROIref が画像の組織上に設定されているものとする。参照用ROI:ROIref の1フレーム前の時間tでの速度がV(t)であったとすると、移動量dxはこの速度V(t)にフレーム間隔時間dTを乗じた値、すなわち
【数1】
dx=V(t)・dT … (1)
になる。ただし、ドプラ法の場合、通常、速度は走査線方向の成分Vdとして検出されるので、移動方向を加味する場合、角度補正が必要になる。走査線の方向と参照用ROI:ROIref の運動方向の成す角度をθ、実際の運動速度をV (t)とすると、
【数2】
Vd=V(t)・cosθ … (2)
であるから、角度補正した移動量dxは、
【数3】
で求められる。
【0040】
撮像対象が心臓である場合の角度補正について説明する。心臓の運動は左室短軸像の場合、ある1点の収縮中心を持つ略同心円状の動きとなる。この性質を利用して角度補正を次のように行うことができる。第1の方法は図3に示すような角度マーカ(例えば矢印か線)を用いるもので、角度マーカを運動方向に向けて運動方向の速度V(t)を求め、式(3a)から角度補正された移動量dxを求める。第2の方法は、画像上で心筋の収縮中心Oを指定し、参照用ROI:ROIref を通る走査線と、参照用ROI:ROIref と収縮中心Oを結ぶ運動方向との成す角度θを決定し、式(2)から参照用ROI:ROIref の運動速度V(t)を求める。これにより、式(3a)から角度補正された移動量dxを求めることができる。移動方向は参照部位ROIref と収縮中心Oを結ぶ運動方向である。
【0041】
例えば、フレームレート40Hz,参照部位(組織)としての参照用ROI:ROIref の運動速度V(t)=100mm/sとすれば、フレーム間の参照用ROI:ROIref の移動距離は、25msec×100mm/s=2.5mmとなる。
【0042】
さらに、移動量推定の別の手法は複数フレームの速度情報を用いるものである。例えばサンプリング間隔(フレーム間隔時間dT)で参照用ROI:ROIref 内の(平均)速度が過去の複数フレームにわたり得られていたとする。この経時的な過去複数個の速度値を用いて現フレームにおける参照部位ROIrefの運動速度を例えばスプライン関数により推定する。スプライン関数は3階までの導関数が各サンプリング点で連続となる関数である。このようにして得られた現フレームの推定速度を前記式(3a)に適用して、より高精度に移動距離dxを推定することができる。
【0043】
さらに図1に戻って説明する。ROI設定器20には、オペレータから制御系回路6を通してROI設定信号が供給されるとともに、移動量演算器19からフレーム毎のROI(関心領域)の2次元的な移動量(移動方向および移動距離)を表す移動制御信号が供給される。この供給に応答して、ROI設定器20は、表示画像上に設定したいROIのグラフィックデータをROI設定信号に応じて発生するとともに、その画面上の位置を移動制御信号に応じて調整する。この位置調整されたROIのグラフィックデータはデータ合成器21に送られる。
【0044】
データ合成器21は、ROI発生器20から送られてくるROIのグラフィックデータと生体計測器18から送られてくる計測データ(グラフィックデータ)とを、画面上の各指定位置に表示可能なフレームデータに変換する。
【0045】
一方、表示系回路5はフレーム合成器31および表示ユニット32を備える。フレーム合成器31は、DSC16から供給される画像データのフレームとデータ合成器21から供給されるグラフィックデータのフレームとをピクセル毎に合成して、画像データにグラフィックデータが重畳したフレーム画像データを形成する。この画像データは表示ユニット32に送られ、カラー処理され、アナログデータに変換されて、カラーモニタに表示される。
【0046】
最後に、制御系回路6の構成を説明する。制御系回路6は、装置全体の制御/処理の中枢としてのCPU(コントローラ)41、検査者が必要な情報を与えるコンソール42、および時相検出器43を備える。CPU41はコンソール42とインターラクフィブに、送受信に関わる遅延制御などの必要な制御のほか、例えば図4〜図6に例示する処理を実行してROIの移動を制御する機能を担っている。コンソール42はここでは、キーボードKY、マウスMU、調整つまみNB、メモリスタートボタンMR、再生開始ボタンDS、および計測開始ボタンMSを備える。キーボードKYやマウスMUは主に、ROIの形状や大きさ、関心時相範囲、生体計測情報の種別などを入力に使われる。調整つまみNBは表示フレームレートの調整信号をCPU41に与える機能を有する。メモリスタートボタンMRはイメージメモリユニット17への画像データの書込み指示用に、再生開始ボタンDSはイメージメモリユニット17に記憶してある画像データを表示ユニット32のモニタに表示させる指令用に、および計測開始ボタンMSは生体計測器18に生体計測開始の指示用にそれぞれ設置されている。
【0047】
時相検出器43は例えば心電情報を検出するECGで構成され、心時相を検出するために設けられている。この検出器43は心音検出器であってもよい。
【0048】
動作の説明
本超音波診断装置を通常の超音波イメージング用として使用する場合、操作者はコンソール42の例えばキーボードKYから「スキャン・表示モード」の動作モードを指令する。この指令に応答し、CPU41は切換スイッチ15に制御信号を送り、その接点a−a′をオンに、そのほかの接点はオフに切り換えさせる。その結果、B,CFM,TDI,およびPWDのモード処理回路11〜14がDSC16に電気的に繋がるとともに、イメージメモリユニット17側は切り離される。
【0049】
CPU41からの遅延時間制御に基づいて、送信系回路2はプローブ1を駆動し、超音波ビームによる例えば電子セクタスキャンを実行させる。このスキャンにより得られた被検体内部からのエコー信号は再びプローブ1を介して電気量の信号として受信系回路3に入力する。エコー信号は受信系回路3でCPU41からの遅延時間制御により受信フォーカスが掛けられた後、各モードの処理回路11〜14に送らる。
【0050】
前述した各処理回路の構成およびその機能により、Bモード処理回路11では前述した構成および機能により超音波散乱強度のBモード断層像データが生成される。CFMモード処理回路12ではスキャン断面の血流の2次元分布像データが、またTDIモード処理回路13ではスキャン断面の組織の2次元分布像データがそれぞれ生成される。PWDモード処理回路14からはドプラスペクトラルデータが出力される。
【0051】
これらの画像データはDSC16に供給される。検査者はCPU41を介して観測画像をDSC16に指令している。これにより、DSC16はスキャン方式を超音波方式から標準TV方式に変更すると共に、観測画像に沿ったフレーム画像を合成する。この画像は表示ユニット32のモニタで表示される。この結果、Bモード断層像に血流分布像が重畳した画像や、組織分布像単独の画像などが得られる。
【0052】
続いて、この超音波診断装置を画像診断装置として動作させる「データ記憶モード」および「計測モード」を説明する。CPU41は図4〜図6に分けて記載の一連の処理を順に実行する。
【0053】
まず、CPU41は切換スイッチ15に制御信号を送り、このスイッチ15の接点b−b′のみをオンに、ほかの接点をオフに切り換えさせる(図4のステップS1)。これにより、処理回路11〜14とイメージメモリユニット17とが接続され、DSC16側の回路は切り離される。次いで、CPU41はキーボードKYなどからの操作信号を読み込んで計測対象画像の種類および計測項目などを決め、その情報をイメージメモリユニット17に通知する(ステップS2)。イメージメモリユニット17は通知された計測対象画像の種類に応じて、後述の処理において一次記憶させる画像の種類を変えることができる。
【0054】
本実施形態における「参照部位」は心筋などの組織上の部位に定めるため、後述するデータ格納処理において、計測対象画像が組織像のときは、TDIモード処理回路13から組織の運動情報データおよびBモード処理回路11からBモード断層像を記憶させる。また、計測対象画像がBモード断層像や血流像のときは、「参照部位」としての「組織上の指定部位」の運動速度を検出するために、Bモード処理回路11および/またはCFMモード処理回路12からBモード断層像および/または血流像の画像データを記憶させると同時に、TDIモード処理回路13から組織の運動情報データも記憶させる。
【0055】
次いでCPU41はメモリスタートボタンMRの信号を読み込み(ステップS3)、画像データのイメージメモリユニット17への記憶(格納)が指令されているか否かを判断しながら(ステップS4)待機する。画像データの記憶指令を判断できたとき、CPU41は送信系回路2、受信系回路3、および各モード処理回路11〜14に所望の診断部位の断層面の超音波スキャンを指令し(ステップS5)、さらに、一定時間分の画像データのイメージメモリユニット17への記憶を指令する(同図ステップS6)。この画像データの記憶には種々の態様がある。その一つに、時相検出器43の検出時相信号を用いて、予め決めた一定時間分(例えば10心拍分)の画像データをフレーム毎に記憶させる方法がある。また別の方法としては、一定時間を過ぎたデータはオーバフローさせながら、常に一定時間分の画像データを更新しながら記憶するもので、イメージメモリユニット17に記憶ストップを指令した時点で記憶している一定時間内の最新データを採用する方法である。
【0056】
さらにCPU41は、再生開始ボタンDSの信号を読み込み(ステップS7)、再生開始か否かを判断しながら待機する(ステップS8)。この判断で再生開始(YES)を判断できると、CPU41は切換スイッチ15の接点c−c′をオンに、それ以外の接点をオフにするべく指令する(ステップS9)。これにより、イメージメモリユニット17の読出し側とDSC16とが接続される。さらに、CPU41はその時点の調整つまみNBの信号を読み込む(ステップS10)。この信号は、イメージメモリユニット17から画像データを読み出すときのフレームレートなどの調整に使用される。つまり、検査者が調整つまみNBを調整することで、スロー再生、コマ送り再生、静止などの再生状態を指令できる。
【0057】
このように再生準備が整うと、CPU41はイメージメモリユニット17およびDSC16にループ再生表示を指令する(ステップS11)。イメージメモリユニット17に記憶されている一定時間分の画像データは調整されたフレームレートでDSC16のフレームメモリ16aに読み出され、表示ユニット32のモニタに表示される。この表示はループ再生であるから、例えば10心拍目の最後のフレームが表示されると再び1心拍目の最初のフレームに戻る。一例として図7(a)に示すように、Bモード断層像が例えば1心拍目から10心拍目までの一定時間、エンドレスに表示される。
【0058】
検査者は、かかるループ再生表示のモニタ画面を見ながら、次に関心時相範囲(POI)の設定に入る。関心時相範囲は、生体計測の情報収集範囲を診断的に関心のある時間領域(フレーム範囲)に絞るために設定する。このため、イメージメモリユニット17に記憶している全フレームの画像データの内、通常、任意の時間範囲のフレーム時相が指定される。具体的には、CPU41はキーボードKYからの操作信号を読み込みながら、関心時相範囲の設定信号が入力したかどうかを判断する(ステップS12,S13)。この設定信号が入力したとき(YES)は、CPU41はイメージメモリユニット17に画像データに対する関心時相範囲の設定を指示する(ステップS14)。この関心時相範囲により、例えば図7(a)(b)に示すt=a1〜amの特定フレーム範囲の画像データに絞り込まれる。関心時相範囲は通常、「ある心拍の収縮期」といった具合に診断目的に基づいて設定される。
【0059】
関心時相範囲の設定が終わると、今度は、生体情報の計測領域を定める計測用のROI(関心領域):ROImea と、このROI:ROImea の移動制御のパラメータとして使用する移動量を知るための参照用のROI:ROIref (参照部位)との設定に入る。
【0060】
具体的には、CPU41は、キーボードKYなどからの信号を読み込み、ROI設定の指令が出されているかどうかを判断する(図5ステップS15,S16)。ROIの設定指令が出されている場合、その操作信号に基づいて計測用および参照用のROIの形状、大きさを表すROI設定信号がROI発生器20に送られる(ステップS17)。
【0061】
具体的には、ROI発生器20はROI設定信号で指定された、例えば矩形状のROIのグラフィックデータをその初期位置に発生する。このROIデータはデータ合成器21、フレーム合成器31を介して表示ユニット32に送られ、モニタに表示されている現在の任意フレーム(最初のフレーム)のBモード断層像上に重畳される。つまり、関心時相範囲の任意フレームの画像上に計測用および参照用のROI:ROIref 、ROImea が初期設定される。
【0062】
このステップS17のROI設定処理において、検査者はさらにROIの位置を自動的に表示された初期位置から所望位置に移動させる。操作者がROIの位置を移動させる操作をマウスMUなどから行うと、この操作内容がCPU41からROI発生器20に伝えられ、現フレーム画像に重畳表示されている2つのROIをそれぞれ所望位置まで移動できる。
【0063】
なお、計測用ROI:ROImea と参照用ROI:ROIref とは必ずしも別々に設定する必要はない。血流計測の場合、計測用ROI:ROImea を血流上に設定し、かつ参照用ROI:ROIref を組織上に設定することが望ましいが、組織計測や輝度計測の場合、両者とも組織上に設定し、しかもその位置を一致させて同一ROIにまとめることができる(図2、3、7参照)。
【0064】
ROIの設定が終了すると、CPU41は再生開始ボタンDSの信号を読み込み(ステップS18)、その読込み信号に基づいて再生開始か否かを判断する (ステップS19)。再生開始の場合、CPU41は再びその時点の調整つまみNBの調整信号を読込み、指令されているフレームレートを記憶する(ステップS20)。次いで、いま表示しているフレームがROIを設定した最初のフレームか否かを判断する(ステップS21)。ROIを設定したばかりで、まだROIを設定した最初のフレームからの更新がなされていないとき(YES)には、調整されたフレームレートに拠るループ再生表示がイメージメモリユニット17およびDSC16に指令される(ステップS22)。これにより、ROIを設定したフレーム(最初のフレーム)からエンドレスのループ再生表示が開始されていく。なお、ステップS21でYESと判定した最初のフレームが、後述する手動によるROI位置修正直後の最初のフレームに該当するときは、ステップS22の表示指令はスキップされる。
【0065】
この表示開始指令の後、CPU41は計測開始ボタンMSの信号を読み込み、生体計測の開始が指令されたか否かを判断する(図6ステップS23,S24)。計測開始が指令されていないときは(NO)、キーボードKYなどからの操作信号を判読して、検査者がマニュアルでROI位置の修正を欲しているかどうかを判断する(ステップS25)。
【0066】
本実施形態では、後述するように計測用ROIの位置を自動的に参照部位(参照用ROI)に追従させる。しかし、なんらかの理由により計測用ROIの位置が予期している追従コースから大幅にずれたような場合や、途中でROIの所望位置を訂正したい場合に、このマニュアル修正を活用できる。
【0067】
上記ステップS25の判断でYES(マニュアル修正)となった場合、CPU41はループ再生表示を一時ストップさせ(ステップS26)、計測用および参照用ROIの位置を修正する(ステップS27)。この処理もCPU41がマウスMUからの操作信号を読み込み、修正位置を判読して、それをROI発生器20に伝えることで実施される。マニュアル修正が終わると、再生開始ボタンDSからの操作信号に基づきループ再生表示の再スタートが指令される(ステップS28)。この後、CPU41の処理は再びステップS20に戻される。
【0068】
このため、ループ再生表示の中で、検査者がROIを所望位置に設定した最初のフレームの表示が終わると、CPU41の処理はステップ20、21を通ってステップ29に至る。ここでは、調整されているフレームレートに従う次フレームのタイミングまで待機する。2枚目のフレーム表示のタイミングが到来すると、ステップ29でYESと判断され、次いで2枚目のフレーム表示か否かが判断される(ステップS30)。
【0069】
最初のフレームの次のフレーム、すなわち2枚目フレーム表示の場合、ステップS30の判断はYESとなるから、以下、ステップS31〜S33に係る自動追従の処理が順に実行される。
【0070】
まず、参照用ROI:ROIref の部位の速度の読込みが移動量演算器19に指令される(ステップS31)。この指令に応答し、移動量演算器19は、イメージメモリユニット17に記憶されている複数のフレームの組織分布像の中から、上記2枚目フレームと同一の時刻におけるフレームの組織速度分布像の画像データを指定し、その画像データの中の参照用ROI:ROIref の部位の対応する領域の画像データ、すなわち速度データを読み込む。
【0071】
次いで、参照用ROIの移動量の演算および記憶が移動量演算器19に指令される(ステップS32)。これにより、この演算器19は、読込んだ速度データに基づき参照用ROI:ROIref の部位の例えば平均速度を演算し、その演算値を参照部位(組織部位)の速度として認識するとともに、この速度に基づき参照用ROI:ROIref の前(最初の)フレームから今回(2枚目)フレームにわたる2枚のフレーム間の移動量を演算する。この移動量は例えば前述した図2の手法などで演算される。
【0072】
次いで、計測用および参照用ROIの自動的な移動制御が移動量演算器19およびROI発生器20に指令される(ステップS33)。このため、移動量演算器19は、演算した移動量をROI発生器20に送る。ROI発生器20はその移動量に応じた分だけ位置修正した計測用ROI:ROImea および参照用ROI:ROIref のグラフィックデータを発生させ、データ合成器21に送る。これにより、表示ユニット32のモニタの例えば断層像に重畳されている計測用ROI:ROImea および参照部位として参照用ROI:ROIref 自体の2次元位置が2枚目(次)フレームにおいて自動的に修正される。
【0073】
ステップS30の判断でNOとなるときは、「最初のフレーム」から数えて3枚目以降のフレームの表示となるときである。この場合は、ステップS31の処理をスキップして直接ステップS32に移行する。3枚目移行のフレーム表示の場合、前フレーム表示のときの参照用ROI:ROIref の部位の速度を記憶しているので、この速度を読み出して図2で説明した手法などを用いて移動量を演算する(ステップS32)。そして、この移動量を基に、計測用および参照用ROIの自動的な移動をフレーム毎に指令する(ステップS33)。
【0074】
この結果、関心時相範囲のフレームは所望のフレームレートでループ再生される中で、設定した計測用ROIおよび参照用ROIが組織の運動に自動的に追従して移動する。
【0075】
ステップS33の処理の後は、前述したステップS23,S24の生体計測を行うか否かの判断に付される。このため、検査者が計測開始ボタンMSを操作しない限り、関心時相範囲のフレームの画像データがエンドレスにループ再生されている。この間に、検査者は再生画像を観察しながら計測用ROIが所望位置を自動追従しているかどうかを目視で確認でき、必要に応じてマニュアルでその位置を修正できる(ステップS25〜S28)。このとき、参照用ROIも合わせてマニュアル修正することもできる。さらに、この目視観察の間に、ループ再生のフレームレートを任意に調整できる(ステップS20)。
【0076】
このようにして計測用ROIが所望位置を自動追従していることが確認できたならば、検査者は計測開始ボタンMSを操作して計測開始を知らせる。これにより、CPU41の処理はステップS24から抜けてステップS34に移行する。ステップ34では、CPU41から生体計測器18に対して所定の生体計測実行が指令される。生体計測器18はその指令に応答し、イメージメモリユニット17から関心時相範囲のフレームの画像データ(例えば断層像データ)を読み込むとともに、移動量演算器19から計測用ROI:ROIref の移動量データを読み込む。そして、移動制御された計測用ROI:ROIref の部位の画像データをフレーム毎に特定し、その部位に関して所望の生体計測項目(例えばタイムデンシティカーブに供する輝度変化データ)をフレーム毎(すなわち時系列)に演算する。
【0077】
この演算が終わると、CPU41は生体計測器18に計測結果の表示を指令する(ステップS35)。これにより、計測結果のデータがデータ合成器21を介してフレーム合成器31、表示ユニット32へと送られる。この結果、例えば、計測項目が輝度情報であり、関心時相範囲が1心拍であれば、その1心拍内の輝度変化曲線(TDC)が得られ、その結果が例えばBモード断層像上への重畳画像としてモニタに表示され、検査者、医師に供される。
【0078】
以上の生体計測処理は、必要に応じて繰り返して実施できる(ステップS36参照)。したがって、画像データ記憶から再計測することもできるし、イメージメモリユニット17に一度取り込んだ画像データを使って別項目の生体計測を行うこともできる。
【0079】
上記の一連の処理に係る具体的な計測用ROIの追従例を図7に示す。
【0080】
いま、計測対象画像がBモード断層像で、計測項目が散乱強度(輝度)計測であるとする。この場合、イメージメモリユニット17にはBモード断層像と組織の2次元分布像の2種類の画像データが一定時間の複数フレーム分、それぞれ取り込まれる。この一定時間の時相をt=11〜t=nnのn心拍分とすると、このn心拍分のBモード断層像が同図(a)に示すようにループ再生される。
【0081】
この再生画像を見ながら検査者によって関心時相範囲が、例えば「ある1心拍の収縮期」の時相t=a1〜amの如く設定される。次いで、この関心時相範囲の特定フレーム上に計測用および参照用のROIが設定される。いまの場合、計測項目が輝度情報であるので、計測用ROI:ROImea と参照用ROI:ROIref とを一つのROIで代用できる。それは、計測部位が組織上に在り、また参照部位としても組織上の部位を採用できるからである。
【0082】
この後、関心時相範囲のフレーム画像をループ再生しながら、参照部位としてのROI(=ROIref の意味として関心領域)の移動量が推定され、この推定量を使って計測部位としてのROI(=ROImea の意味としての関心領域)が図7(b)に示す如く追従制御される。この追従制御により得られるROIの位置データを基に、例えば輝度変化データの計測が実施される。
【0083】
例えばスキャン部位が心臓の場合、その左室は収縮拡張運動をしており、図3に示すように収縮中心に向かって組織が動く。このため従来の場合、あるフレームで設定した計測用ROIは別のフレームでは被写体に対して相対的に移動してしまい、所望位置での生体計測が困難であるか、または計測精度の著しい低下を招いていたが、上述した構成および処理により、そのような不都合を回避できる。検査者が特定の表示フレーム上で計測用および参照用の、または両者を兼ねるROIを設定するだけで、ほとんどの場合、計測用ROIは所望部位を自動的に追従する。しかも、この追従状態をモニタ画面で確認でき、なんらかの理由によりROI設定に不具合があれば、それをマニュアルで修正または変更できる。したがって、関心時相範囲内の全フレームについて計測用ROIは常に検査者の意図した位置に置かれるから、その後に実行される生体計測の精度は従来計測に比べて格段に向上する。これにより、計測データの信頼性も非常に上がる。
【0084】
また、マニュアル修正が必要な場合でも、従来のように1フレーム毎に修正する必要は無いから、検査者(観察者)の操作量が激減する。操作が簡単になり、画像診断そのものの時間短縮化も図られ、画像診断のスループット向上に寄与する。マニュアル修正が実際上ほとんど不要になるので、操作上の熟練度に対する要件も緩和される。
【0085】
さらに、従来のように計測用ROIの位置ずれを見越して、ROIを予め広く設定しておくとことも不要になる。真に診断的に関心のある特定部位のみをROI設定できるから、これによっても計測結果の信頼性および精度を向上させることができる。
【0086】
さらに、本装置の場合、検査者は画像収集と生体計測を別々に行うシステム構成になっているので、それぞれの作業に専念できる。
【0087】
(そのほかの実施形態)
本発明に係るそのほかに実施形態を説明する。
【0088】
前述した実施形態の場合、計測用ROIは1つであったが、計測用ROIとして複数個を設定することもできる。例えば図8に示すように、2個の計測用ROI:ROImea1、ROImea2を設定(各ROIは参照用ROI:ROIref1(ROIref2)と共通)してもよい。この複数の計測用ROIについて前述した図4〜図6の処理を適用すれば、計測用ROIそれぞれから与えられた項目の生体計測を行うことができる。また、複数の計測用ROIの各計測結果から別の特徴量(例えば輝度比、輝度差、血流量の入出比)を同時に計算できる。
【0089】
前述した各実施形態では計測用ROIと参照用ROI(参照部位)とを1つのROIで兼用する手法を採用しているが、これを独立のROIに分けて設定することもできる。この形態はとくに血流計測の場合に必要である。この例を図9、図10に示す。
【0090】
いま、心臓の左室流出路での血流計測の場合で、計測項目がその流出路での速度プロファイルであるとする。図9に示すように、Bモード断層像に血流分布像を重畳させた画像上で、速度プロファイルを計測すべき細長い計測用ROI:ROImea を左室流出路に設定する。同時に、このROI:ROImea を周囲の心筋組織の動きに追従させるため、周囲の運動速度の解析に供する別の参照用ROI:ROIref を例えば図示の如く、大動脈弁輪部に設定する。
【0091】
この2つのROIを設定したときの移動量推定は、例えば図10の幾何学的関係に基づき以下のように行う。演算を簡単化するには、計測用ROIは超音波走査線方向に動くものと仮定する。前述した実施形態と同様に組織の運動速度をvとすると、ドプラ速度vdはvd=v・cosθである。計測用ROIの移動速度をv′とすれば、v′=v・cosαである(αは、速度vとv′の成す角度である)。故に計測用ROIの移動距離dxは、dx=v′・dTで求められる(dTはフレーム間時間)。この移動量(移動距離はdxで、移動方向は走査線方向)を用いて計測用ROIをフレーム毎に移動させることで、周囲組織との相対的な位置関係が変わらないように計測用ROIを自動追従させることできる。この一連の追従制御は前述した図4〜図6と同等の処理によって実現できる。
【0092】
この結果、計測用ROIの位置は常に的確に左室流出路をカバーするから、確実にかつ正確に速度プロファイルを計測でき、この計測値を用いて、例えば日本国特許第1926682号に示されている如く拍出量を演算できる。
【0093】
さらに、関心時相範囲の設定の仕方については以下のような変形が可能である。前述した実施形態では関心のある時相範囲をループ再生画像を見ながらマニュアルで指定する構成を説明した。これについては、時相検出器43の検出信号をそのまま用いて、例えばCPU41に収縮期と拡張期とを自動判定させ、時相範囲を自動的に指定させるようにしてもよい。これにより、検査者は計測用、参照用のROIのみを指定すればよく、操作がさらに簡単になる。このとき、どの辺りの時相が自動設定されたかを検査者が認識できるように、例えば心電波形と併せて表示する。この表示法としては、設定時相範囲を始点と終点のマーカで示す方法や、設定時相範囲全体をカラーや模様で強調表示する方法を採用し、その認識度を上がることができる。これらの表示に要する処理は、例えば図1のCPU41およびROI発生器20に実行させればよい。
【0094】
なお、上述した装置構成において、切換スイッチ15を設けず、処理回路11〜14、DSC16、およびイメージメモリユニット17の3者間の読込み、書込みをCPU41が制御することで、3方向のデータのやり取りを制御するようにしてもよい。
【0095】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る医用画像診断装置は、1)超音波画像の組織上の参照部位の運動情報に基づいて、血流部位のフレーム毎の生体計測用のROIの位置の移動量を演算し、この移動量を用いてフレーム毎の当該ROIの位置を制御する構成や、2)被検体内の断面を超音波信号でスキャンして得た時系列の複数フレーム分の画像データを記憶し、その複数フレーム分の画像データの内の任意フレームの画像データをモニタに表示し、表示画像の組織上の参照部位の運動情報を得るとともに、画像上の血流部上に生体計測用の関心領域(ROI)を設定し、前記参照部位の運動情報に基づいて前記複数フレーム分の残りフレームの画像データに対する当該ROIの位置の移動量を演算し、この移動量に応じて当該ROIの位置を制御し、前記複数フレーム分の画像データに基づき前記関心領域内の画像データによる生体情報を計測することを、主要部としている。これにより、組織の運動に影響されずに、生体計測用のROIの位置を常に精度良く最初に意図した部位を追従させることができる。したがって、従来のROI設定に比べて、比較的簡単な追従制御により、高精度で信頼性の高い生体計測を可能にするとともに、操作上の労力を著しく軽減でき、操作能率を向上させ、操作の熟練度に対する制限も緩和された医用画像診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の1つの実施形態に係る画像診断装置を機能的に搭載した超音波診断装置のブロック図。
【図2】参照部位の移動量の推定法の1つを示す模式図。
【図3】参照部位の移動量を推定するときの角度補正についての一例を示す模式図。
【図4】図5および図6と共に、ROIの自動追従処理を示すフローチャート。
【図5】図4および図6と共に、ROIの自動追従処理を示すフローチャート。
【図6】図4および図5と共に、ROIの自動追従処理を示すフローチャート。
【図7】ROIの自動追従処理の過程を模式的に示す図。
【図8】複数の計測用ROIの設定の一例を示す図。
【図9】血流計測に関する計測用ROIと参照用ROIの設定の一例を示す図。
【図10】図9に示す2つのROIの幾何学的関係を説明する図。
【符号の説明】
1 超音波プローブ
2 送信系回路
3 受信系回路
4 処理・演算系回路
5 表示系回路(表示手段)
6 制御系回路
11〜12 処理回路
13 処理回路(運動情報取得手段)
15 切換スイッチ(記憶手段/表示手段/運動情報取得手段)
16 DSC(表示手段)
17 イメージメモリユニット(記憶手段)
18 生体計測器(計測手段)
19 移動量演算器(移動量演算手段)
20 ROI発生器(ROI設定手段/位置制御手段/マニュアル調整手段)
41 CPU(記憶手段/表示手段/運動情報取得手段/ROI設定手段/移動量演算手段/位置制御手段/計測手段/データ指定手段/マニュアル調整手段)
42 コンソール(ROI設定手段/データ指定手段/マニュアル調整手段)
Claims (10)
- 被検体内の断面を超音波信号でスキャンして得て記憶させた時系列の複数フレーム分の画像データに基づき、この画像データを表示した画像上の当該被検体の血流部位に操作者からの操作情報に応じて設定されたROI(関心領域)の生体情報を計測する医用画像診断装置において、
前記画像上の前記被検体の組織部位に操作者からの操作情報に応じて設定された参照部位の運動情報を得る運動情報取得手段と、
前記運動情報に基づいてフレーム毎の前記ROIの位置の移動量を演算する移動量演算手段と、
この移動量演算手段により演算された移動量を用いてフレーム毎の前記ROIの位置を制御する位置制御手段と、を備えたことを特徴とする医用画像診断装置。 - 被検体内の断面を超音波信号でスキャンして得た時系列の複数フレーム分の画像データを記憶する記憶手段と、
前記複数フレーム分の画像データの内の任意フレームの画像データをモニタに表示する表示手段と、
前記モニタに表示された画像上の前記被検体の組織部位に操作者からの操作情報に応じて設定された参照部位の運動情報を得る運動情報取得手段と、
操作者からの操作情報を受けて前記画像上の前記被検体の血流部位に生体計測用のROI(関心領域)を設定するROI設定手段と、
前記参照部位の運動情報に基づいて前記複数フレーム分の残りフレームの画像データに対する前記ROIの位置の移動量を演算する移動量演算手段と、
この移動量演算手段により演算された移動量を用いて前記残りフレームの画像データの表示像上の前記ROIの位置を制御する位置制御手段と、
前記複数フレーム分の画像データに基づき前記ROI内の画像データによる生体情報を計測する計測手段と、を備えたことを特徴とする医用画像診断装置。 - 前記記憶手段、前記表示手段、前記運動情報取得手段、前記ROI設定手段、前記移動量演算手段、前記位置制御手段、および前記計測手段は超音波診断装置に一体に搭載してある請求項2に記載の医用画像診断装置。
- 前記参照部位の位置を前記生体計測用のROIの位置とは独立して指定する参照部位指定手段を備えている請求項1または2に記載の医用画像診断装置。
- 前記複数フレーム分の画像データの内の関心時相範囲のフレームの画像データを指定するデータ指定手段を備えた請求項1または2に記載の医用画像診断装置。
- 前記移動量演算手段は、前記複数フレーム分の残りフレームの内の時間的に隣接する2枚のフレームの画像データから前記移動量を推定演算する手段である請求項1または2に記載の医用画像診断装置。
- 前記移動量演算手段は、前記複数フレーム分の残りフレームにおける複数枚のフレームの画像データから関数を媒介にして前記移動量を推定演算する手段である請求項1または2に記載の医用画像診断装置。
- 前記移動量演算手段は、前記超音波信号の方向と前記参照部位の運動の方向との角度差に応じて前記画像データを補正する補正手段を含む請求項1または2に記載の医用画像診断装置。
- 前記位置制御手段により制御された前記ROIの位置をマニュアルで調整可能なマニュアル調整手段を備えた請求項1または2に記載の医用画像診断装置。
- 前記ROI設定手段により設定される前記ROIの数は複数個である請求項2記載の医用画像診断装置。
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