JP3735142B2 - 成形性に優れた熱延鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用の内板のような深絞り加工に供せられる成形性に優れた熱延鋼板の製造方法に関するものである。なお、ここでの熱延鋼板には表面処理原板も含む。
【0002】
【従来の技術】
深絞り用鋼板の標準的な製造工程を以下に記する。本発明は極低炭素鋼を対象にしているので、その製造工程を中心に説明する。
高炉から得られる銑鉄は4%程度のCを含むが、純酸素を吹き込むことにより、転炉精錬段階で0.05%程度まで低減される。極低炭素鋼を製造するにはその後、真空脱ガス装置での脱炭が行なわれ、最近では10ppm 程度までCを下げることが可能になってきた。現在、日本ではほとんどの深絞り用鋼板が連続鋳造により製造されている。
【0003】
連続鋳造で製造されたスラブは3つのルートで熱間圧延へ供される。
1つはCC−DR(Continuous Casting and Direct Rolling )と称され、再加熱することなしに直接熱延される場合で、熱エネルギー的には最も効率的なルートである。この場合、鋳片の温度が大きく下がらないように、設備的な対策が必要なことと、鋳片の手入れができないため、表面品質の劣化を招く可能性があるなどの欠点もある。深絞り用鋼板は外板に使用されることが多いため、表面品質は特に厳しいので、現在のところCC−DRはほとんど適用されていない。
【0004】
2つ目のルートは、スラブを冷塊にし、その後加熱炉で再加熱して熱間圧延に供するルートである。3つ目は、1つ目と2つ目の中間に相当するスラブを完全に冷やす前に加熱炉に入れる方式で、HCR(Hot Chrge )と称されている。
【0005】
スラブ温度がγ→α変態を起こす前に、再加熱される場合をAルート、一度γ/α変態点以下になる場合をBルートと名付けられている。深絞り用極低炭素鋼は、通常2つ目あるいは3つ目のBルートで製造されている。再加熱の温度は、1150℃〜1250℃が一般的に採用されている。
【0006】
熱間圧延は、一般に数回の粗圧延を行なった後、5〜7スタンドの連続熱間圧延機でAr3 変態点以上の仕上温度で行い、板厚2〜4mmの熱延板を製造する。巻取温度は、極低炭素鋼の場合は、700℃以上の高温の方が炭窒化物が粗大に析出するため材質の観点からは好ましいが、酸洗性の劣化や材質のバラツキが起きやすい欠点もあるため、600℃以下の低温巻取でも高温巻取に匹敵する材質が得られる技術の開発が要望されている。
【0007】
冷却は、γ→α変態の時に速く冷やすことにより熱延組織を微細にできるため、ROT(Run-Out Table )の前段で急冷する方式がよく用いられる。熱延コイルは、放冷後酸洗され、冷間圧延により0.8mm前後の板厚に仕上げられる。冷延コイルは、電解清浄により表面に付着した油などを取り除いてから焼鈍に供される。
【0008】
通常、焼鈍は生産性の観点から連続焼鈍によって行なわれる。しかし、連続焼鈍炉の通板には幅や厚さの制限があるため、一般に箱焼鈍も併用されている。深絞り用鋼板は、表面処理を施されて製品となることが多い。主な表面処理は、溶融亜鉛めっきと各種の電気めっきである。
【0009】
また、自動車のガソリンタンクには、鉛・錫合金の溶融めっきであるターンめっきが施される。電気めっき用鋼板とターンめっき用鋼板の場合は上記の焼鈍を完了した冷延鋼板を原板として用いるが、溶融めっきの鋼板の場合は、焼鈍前の冷延鋼板を原板として用い、連続焼鈍と溶融めっきを炉中で行なうことができる連続溶融めっきラインで、焼鈍と表面処理を同時に行なう。
焼鈍されたコイルは、形状矯正とプレスの際に生じるストレッチャーストレインの発生を防止するために、1%程度の調質圧延に供される。
【0010】
以上の標準的な製造工程に対して、最近、IF鋼で熱間圧延を一部Ar3 変態点以下で積極的に行ない、冷延を省略して深絞り用鋼板を製造する技術が開発されている(例えば、特開昭59−59827号公報、特開昭59−226149号公報など)。しかしこの場合、熱延板を再結晶させることが必要となるため、再結晶温度以上の高温巻取が必要になる。
【0011】
高温巻取では、スケールの生成が著しく、それを除去する酸洗時間が長くなることや、Pの粒界偏析が顕著になり2次加工性の劣化を招くなどの欠点が生じる。一方、低温で巻き取ったのでは優れた特性を得ることは難しい。
そこで、これらの問題点を解決する方策として低温巻取した熱延板を連続焼鈍により再結晶処理することが考えられるが、この場合は製造コストが高くなる経済的欠点がある。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
深絞り用熱延鋼板の製造で大きな障害になる問題点は、1)熱延板が再結晶していないと加工性が確保できない。2)鋼板が薄くなり表面積が増えるので酸洗コストが増す。3)冷延鋼板のように短時間熱処理で再結晶をするのと異なり、高温の熱延巻取処理ではPの粒界偏析が顕著になり、2次加工性が劣化する。 本発明は、これらの問題点を解決して、高温巻取相当の材質を達成し、酸洗性および2次加工性の劣化を回避する深絞り用熱延鋼板を製造する方法を提供するものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨とするところは、質量比で、C:0.01%以下、N:0.01%以下、Al:0.005%以上、1.0%以下、必要に応じBを0.0002%以上、0.005%以下含み、TiおよびNbのいずれか一方または双方をC/12+N/14<Ti/48+Nb/93+0.0001なる条件を満足するように含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼のスラブを熱延する際に、Ar3 変態点未満、700℃以上の温度で合計圧下率が50%以上の圧延を、必要に応じ摩擦係数を0.2以下として行ない、700℃以上の温度で一度巻き取り、10秒以上、10分以下の時間保持した後、巻き戻し、再び600℃以下の温度で巻き取ることを特徴とする成形性に優れた熱延鋼板の製造方法にある。
【0014】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明において、CおよびN量を0.01%以下としたのは、これ以上の添加は加工性の劣化を招くためである。
C,N,Ti,Nbの添加量の間に、C/12+N/14<Ti/48+Nb/93+0.0001の関係式を満足するように限定したのは、この条件を満足することにより、鋼中のC,Nを大部分TiあるいはNbの炭窒化物として析出させることができ、熱延時ならびに再結晶時の集合組織形成がr値に好ましい結果になるためである。
【0015】
Alの含有量の下限を0.005%としたのは、脱酸を十分に行なうためである。上限は加工性の観点で1.0%以下に限定した。
Bは、2次加工性の向上に寄与するので、用途によってはその効果が明瞭に現れる0.0002%以上の添加が必要である。また、過剰の添加は加工性を劣化するので、上限を0.005%とした。
【0016】
他の成分については特に限定しないが、強度を強め、加工性を著しく悪くしない範囲であるMn<1%、Si<1%、P<0.1%の添加は、本発明の趣旨を何ら損ずるものではない。
【0017】
熱延条件において、Ar3 変態点未満、700℃以上の温度で合計圧下率が50%以上の圧延を行なうこととしたのは、Ar3 変態点未満で熱延された材料を、Ar3 変態点以上で仕上圧延された材料と同等あるいはそれ以上の材質とするために、深絞り用鋼板として好ましい再結晶集合組織の形成に50%以上の合計圧下率が必要なためである。温度範囲の下限を700℃としたのは、これ以下の温度が仕上圧延温度になると、若干の加工発熱を利用しても700℃以上の温度で巻き取ることが困難になるためである。
【0018】
また、このAr3 変態点未満の熱延を、潤滑を施し摩擦係数を0.2以下にして行なうとしたのは、これにより成品板のr値が顕著に上昇するためである。この理由は表層のせん断変形によって形成される深絞り性に好ましくない集合組織が摩擦係数を小さくすることにより、深絞り性に好ましい集合組織に変化するためである。
【0019】
摩擦係数の下限は特に限定しないが、鋼板の通板性を著しく劣化させないためには、摩擦係数を0.05以上に保つことが好ましい。なお、摩擦係数の積極的な低減策を講じないと、摩擦係数は通常0.2以上になるが、この場合でもγ域熱延材のものより優れた深絞り性が得られる。
【0020】
巻取条件は、本発明の最も重要な条件である。700℃以上の温度で一度巻き取るのは、再結晶を促進し、優れた材質を達成するためである。このときの巻取温度の下限を700℃としたのは、これ未満の温度では再結晶が十分に進行しないためである。巻取保持時間の下限を10秒としたのは、これ未満の保持時間では再結晶が十分に進行しないためである。
【0021】
また上限を10分としたのは、これを超える時間、コイルを高温に保つと酸洗性や2次加工性の劣化が顕在化するためである。ここで、巻取保持時間とは巻取が完了してから、巻き解きを始めるまでの時間を意味する。
【0022】
再び巻き取るときの温度の上限を600℃としたのは、これを超える温度で巻き取ると、酸洗性や2次加工性の劣化を回避することができないためである。
なお、この巻き取り−巻き解き−巻き取りの工程は、鋼板上のスケールの破砕を助長するため、単にスケール厚を薄くするだけでなく、この破砕の効果によっても酸洗性を向上させる可能性がある。
このような巻取条件は、仕上圧延機に比較的近接したコイラーで巻き取り、それからROT(Run-out Table )へ巻き戻し、再び従来のコイラーで巻き取ることで実現する。
【0023】
【実施例】
実施例には、表1に示した成分組成を有する鋼を用いた。鋼種A〜Eは本発明鋼、F,Gは比較鋼である。熱延・巻取条件と成品板のr値、デスケーリング時間、2次加工割れ延性−脆性遷移温度を表2に示す。デスケーリング時間とは、希塩酸に熱延板を浸し、スケールがとれるまでの時間とした。2次加工割れ延性−脆性遷移温度は、絞り比1.7で円筒に絞った円柱を頂角30度の円錐ポンチで押し込んだ時に、円柱壁面が破壊する形態が延性的から脆性的に遷移する温度とした。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
その他の製造条件で、Ar3 変態点以上の仕上温度で圧延した比較材のスラブ加熱温度は、仕上温度確保の観点から1200℃とした。本発明材の場合は、仕上温度が低くてよいため、加熱温度は1000℃から1100℃とした。熱延板の板厚は1.4mmとした。スキンパス圧下率は1%であった。摩擦係数は、先進率、圧延荷重、トルクなどのデータより、圧延理論に基づいて計算によって求めた。
【0027】
本発明の範囲を満足した実験番号1、2、3、6、10、13、14、16、18、20の材料は、高いr値を示すだけでなく、酸洗時間も短く、耐2次加工性も優れている。一方、従来法で製造された実験番号4、5、15、17、19、21の材料は、r値が低く、高温巻取では酸洗性、耐2次加工性が悪い。
【0028】
Ar3 変態点未満、700℃以上の温度域での合計圧下率が40%と低い実験番号7の材料は、適正な集合組織が発達しなかったためか、r値が低い。1回目の巻取温度が低い実験番号8と、1回目の巻取の保持時間が短い実験番号9の材料は、熱延板の組織が十分再結晶しなかったためr値が低く、成品板でリジングも発生した。
【0029】
1回目の巻取保持時間が長い実験番号11と、2回目の巻取温度が高い実験番号12の材料は、共に酸洗性、耐2次加工性が悪かった。また、本発明鋼の成分範囲を逸脱した鋼を用いた実験番号22、23では、高いr値が得られなかった。
【0030】
【発明の効果】
本発明により、深絞り用鋼板を製造するにあたって、スラブ加熱温度の低温化、冷延・焼鈍過程の省略などにより、大幅なエネルギー消費量の低減が可能になり、工業的に高い価値がある。
Claims (3)
- 質量比で、
C :0.01%以下、
N :0.01%以下、
Al:0.005%以上、1.0%以下
を含み、
Ti、Nbのいずれか一方または双方を
C/12+N/14<Ti/48+Nb/93+0.0001
なる条件を満足するように含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼のスラブを熱延する際に、Ar3 変態点未満、700℃以上の温度で合計圧下率が50%以上の圧延を行ない、700℃以上の温度で一度巻き取り、10秒以上、10分以下の時間保持した後、巻き戻し、再び600℃以下の温度で巻き取ることを特徴とする成形性に優れた熱延鋼板の製造方法。 - Ar3 変態点未満、700℃以上の温度で合計圧下率が50%以上の圧延を、潤滑を施し摩擦係数を0.2以下として行なうことを特徴とする請求項1記載の成形性に優れた熱延鋼板の製造方法。
- 鋼のスラブが、さらに、質量比で、B:0.0002%以上、0.005%以下含有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の成形性に優れた熱延鋼板の製造方法。
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