JP3713806B2 - 非調質鋼からなる破断分離が容易な高強度コンロッドの製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
本発明は、高強度コンロッドの製造方法に関する。詳しくは、自動車エンジンのような往復動内燃機関のコネクティングロッド(この明細書では「コンロッド」と略称する)を、鍛造によって成形し、鍛造品を2個以上の部品に破断分離したのち組み合わせて使用するコンロッドの製造方法であって、切欠きを設けて衝撃荷重を加え、この切欠きを起点にして容易に破断分離をさせる手法を採用した製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、コンロッドは、最終形状に一体鍛造した成形品に、必要によっては仕上げの機械加工を施したのち、機械加工を行なって、ロッド本体とカップ部分との2個の部材に分離し、それらを再度組み合わせることにより製造していた。この方法は、切断部分に切り代として余分な材料を要するとともに、切断後、内面を切削または研磨して真円に仕上げる必要があるから、製造に多大な時間を要する上、コストも高いものになっていた。
【0003】
こうした問題を解決する手段の一つとして、粉末焼結鍛造が提案されているが、粉末焼結鍛造自体が複雑なプロセスであり、生産性が低いから、コストの低減にはつながらない。
【0004】
一方、破断分離には固有の問題があった。それは、一般の溶製材を熱間鍛造して得られる部品は、機械構造部品として必要とされる25〜35HRCの硬さ範囲では高い靭性を有しているため、破断による分離を行なうと、破断面の一部に、衝撃試験時に見られるシアーリップのような大きな塑性変形が生じ、破断分離ままでは破面を正確に密着させることが困難である、という問題である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、製造に要する時間を短縮し、材料の歩留まりを向上させることを意図して、焼入れ−焼戻しの熱処理を加える必要がない非調質鋼を使用し、溶製材を熱間鍛造により一体の部品に成形し、機械加工による切断でなく、破断による分離で前記のロッド本体とカップ部分とに分離することができるようにした、高強度のコンロッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の高強度コンロッドの製造方法は、質量%で、C:0.35〜0.60%、Si:0.01〜2.00%、Mn:0.10〜0.80%、P:0.05〜0.20%、Cr:0.10〜0.50%およびV:0.10〜0.50%を含有し、残部Feおよび不純物からなる合金組成の高強度コンロッド用非調質鋼を材料として使用し、熱間鍛造によりコンロッド素材を成形し、冷却後にこの素材に応力集中係数が2以上の切欠き溝を切削加工または塑性加工により設け、衝撃荷重を加えて切欠き溝を起点に素材を破断して2個の部品に分離させることを特徴とする。最後に破面を合わせてコンロッドを形成することは、いうまでもない。
【0007】
本発明の高強度コンロッドの製造方法に使用する鋼は、被削性をより高くするために必要であれば、上記の合金成分に加え、重量%で、Pb:0.30%以下、S:0.20%以下、Te:0.30%以下、Ca:0.01%以下およびBi:0.30%以下の1種または2種以上を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の高強度コンロッドの製造方法によるときは、衝撃荷重を加えたときに、切欠きを起点とする破断が好適に進行し、鍛造品を容易に2個の部品に分離させることができる。破断分離した破面の塑性変形量は小さく、したがって破面の密着性もよい。
【0009】
本発明の高強度コンロッド製造の材料とする、破断分離が容易な非調質鋼における、各合金成分のはたらきと、組成範囲(重量%)の限定理由について説明する。
【0010】
C:0.35〜0.60%
Cは鍛造品の強度を確保するのに有効な元素であり、十分な効果を得るためには0.35%以上のCを含有させることが必要である。しかし、多すぎると硬さが高くなりすぎて被削性が低下するので、0.60%以下にする必要がある。
【0011】
Si:0.01〜2.00%
Siは鋼の溶製時に脱酸作用および脱硫作用をするとともに、フェライト中に固溶して、破断分離時に塑性変形を引き起こす主因である、軟質なフェライト相の強度を向上させることによって塑性変形量を低減させ、破断面の密着性を向上させるのに役立つ。含有量が多すぎると、熱間加工性および硬さが高くなりすぎて被削性を低くするので、2.00%以下とすることが必要である。好ましい範囲は、0.5〜1.5%である。
【0012】
Mn:0.10〜0.80%、Cr:0.10〜0.50%
MnおよびCrは、パーライト部分の靭性を高める働きをもつ元素である。しかし、破断分離を行なう場合には、パーライトの靭性は低いほうが破断面の塑性変形が少なく、密着性が高くて好ましいため、上限をそれぞれ0.10〜0.80%、0.10〜0.50%とした。
【0013】
P:0.05〜0.20%
Pは粒界への偏析により靭性を低下させる元素であるとして、その含有量は低く抑えられるのが一般であるが、破断分離を行なう本発明においては、塑性変形量を抑え、破断面の密着性を向上させる元素として非常に有効に作用するため、積極的な添加を行っている。添加量があまり多くない場合は疲れ強さを向上させる作用もあるが、多量に添加すると疲れ限度を低下させる。そこで、0.05〜0.20%の範囲から添加量を選択する。
【0014】
V:0.10〜0.50%
VはSiと同様にフェライトを強化する元素であり、破断面の密着性を向上させる。Vはまた、疲労強度を大きく向上させる元素でもあり、これらの効果を得るためには0.10%以上を添加する必要がある。しかし、多量の添加は経済的に不利となるため、0.50%を上限として設けた。
【0015】
Pb:0.30%以下、S:0.20%以下、Te:0.30%以下、Ca:0.01%以下、Bi:0.30%以下から選ばれる1種または2種以上
これらはいずれも被削性を向上させる元素である。鍛造品に対してさらに良好な被削性が要求される場合には、必要に応じてこれらのうちから選ばれる1種または2種以上を適量添加するとよい。しかし、これらの被削性改善元素は、添加量が多すぎると熱間加工性や疲れ限度を低下させるので、添加量は、Pbは0.30%以下、Sは0.20%以下、Teは0.30%以下、Caは0.01%以下、Biは0.30%以下とする必要がある。
【0016】
切欠き溝の応力集中係数2以上:
本発明の高強度コンロッドの製造方法に使用する非調質鋼は、破断分離が容易であって、従来の高強度コンロッド用の非調質鋼に比べて靭性は低下しており、塑性変形量は小さく、破断面の密着性は高い。しかし、破断分離に先だって切欠き溝を設ける必要があり、それがないと、破断分雌による塑性変形量は大きくなり、破断面の密着性はよくない。そこで、切欠き溝を施し、これを起点として、衝撃荷重による破断分離の進行をさせることが必要となる。切欠き溝は、破断を好適に進行させるために、大きな応力集中係数をもつ形状であることが必要であり、応力集中係数が小さいと、破断分離性および破断面の密着性の向上は望めない。後記する実施例のデータが示すように、適切な応力集中係数の値には臨界性があり、2以上でなければならないことがわかった。
【実施例】
【0017】
表1に示す合金組成をもつ、本発明に従う鋼および比較のため用いた本発明の範囲外の鋼を溶製し、インゴットに鋳造したのち熱間鍛造を行なって、50mm角の棒状の鍛造素材とした。これを1200℃で60分間加熱保持してから熱間鍛造し、コンロッドの素材形状にした。
【0018】
【表1】
【0019】
つぎの測定および試験を行なった。結果を表2に示す。
[硬さ]
コンロッド素材の中心部の硬さをロックウェル硬度計で測定した。
[破断分離性]
室温まで放冷したコンロッド素材から厚さ15mm×幅110mmの板材を得、そこから、図1に示す形状・寸法の試験片を切り出した。すべての鋼について、切欠き溝の応力集中係数を3.5と一定にしたものを用意したほか、No.1,3,4の鋼については、2.2および1.8のものも用意した。図の矢印の方向に衝撃的に引っ張って切欠き溝を起点に破断分離させ、試験片の引張方向の塑性変形量を測定した。
[疲れ限度]
上記した50mm角の鍛造素材を、1200℃で60分間加熱保持してから熱間鍛造し、直径22mmの丸棒にしたものから平行部直径8mmの平滑回転曲げ疲労試験片を製作し、試験に供した。
[被削性]
下記の条件でドリル試験を行なって測定し、No.1を100とした場合の相対的な値をドリル加工能率とした。
工具:SKH51 送り:0.1mm/rev.
穴深さ:10mm 工具寿命判定:切削不能
【0020】
【表2】
【0021】
表2の試験結果から、以下のことがわかる。まず、比較例のNo.Aは実施例のNo.1および2に比べてC含有量が低いため、塑性変形量が大きく疲れ強さが低い。逆に比較例のNo.Bでは、C含有量が高すぎるために硬さが高く、ドリル加工能率が低い。比較例のNo.CはSi量が高すぎるために硬さが高く、やはりドリル加工能率が低下している。
【0022】
比較例のNo.Dは実施例No.1よりもP量が少ないため、塑性変形量が大きい。比較例のNo.EはP量が多すぎるため、疲労強度が低下している。
【0023】
比較例No.FはMnを多量に含むため、また比較例No.GはCrを多量に含むため、どちらも硬さが高くなりすぎて、ドリル加工能率が低い。また、MnおよびCr、とくに後者を大量に含有していてパーライトの靭性が高いため、硬さが高いにもかかわらず、塑性変形量が大きい。比較例No.HはV含有量が少ないため、No.2と比べて塑性変形量が大きく、また疲れ限度が低下している。
【0024】
Pbを過剰に添加した比較例No.1は、他の合金元素をほぼ同一のレベルで含有する実施例No.1に比べて疲れ限度が著しく低い。このことから、Pb,S,Te,Ca,Biなどの被削性改善元素の過剰な添加は好ましくないことがわかる。
【0025】
切欠き溝の応力集中係数を変動させた例についてみると、実施例のNo.1および3において、切欠き溝の応力集中係数を2.2および3.5とした場合の塑性変形量は小さい(0.2mm以内)が、1.8とした場合は、塑性変形量が大きくなる(5mm内外)。この傾向は、実施例のNo.1に対してCおよびPの含有量を増加させて破断分離性を向上させた実施例No.4においても同様であり、いっそう顕著であるとさえいえる。こうした事実は、切欠き溝の応力集中係数が1.8から2.2に高まる領域において、破断分離性の臨界的な変化があることを物語っており、これが、応力集中係数を2以上と定めた理由である。
【0026】
実施例のNo.1〜No.7においては、実用的な硬さ範囲、つまり25HRC〜35HRCで、疲れ限度、塑性変形量ともに、比較例のNo. A〜No. Iよりもすぐれた結果が得られている。実施例No.5〜No.7をみれば、Pb,S,Caの適度な添加が、疲れ限度を大きく低下させることなく、被削性を改善していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】破断分離性を試験するための試験片の形状・寸法を示す斜視図。
Claims (2)
- 質量%で、C:0.35〜0.60%、Si:0.01〜2.00%、Mn:0.10〜0.80%、P:0.05〜0.20%、Cr:0.10〜0.50%およびV:0.10〜0.50%を含有し、残部Feおよび不純物からなる合金組成の高強度コンロッド用非調質鋼を材料として使用し、熱間鍛造によりコンロッド素材を成形し、冷却後にこの素材に応力集中係数が2以上の切欠き溝を切削加工または塑性加工により設け、衝撃荷重を加えて切欠き溝を起点に素材を破断して2個の部品に分離させることを特徴とする高強度コンロッドの製造方法。
- 請求項1に記載の合金成分に加えて、さらにPb:0.30%以下、S:0.20%以下、Te:0.30%以下、Ca:0.01%以下およびBi:0.30%以下から選ばれる1種または2種以上を含有する合金組成の高強度コンロッド用非調質鋼を材料として使用する請求項1の高強度コンロッドの製造方法。
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