JP3707199B2 - 車両の自動操舵装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両を車線に沿って走行させるために当該車両の操舵を自動的に行う車両の自動操舵装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
このような従来の車両の自動操舵装置としては、例えば特開平7−81602号公報に記載されるものがある。
【0003】
この従来例に記載される車両の自動操舵装置は、操舵に係る種々の条件,特にカーブに沿って走行するときに、より人為的な操舵が行われるように操舵特性を規定するものである。これにより、乗員に、より自然な走行感や快適な乗心地を与えるようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前記公報に記載される車両の自動操舵装置は、道路情報,より具体的には車線の状態、つまり直線路か曲線路か、曲線路の場合、その曲率はどの程度かといった情報をカメラ等の画像情報から得ることを前提としている。一方、磁気ネイルと呼ばれる磁石などの磁力源を車線に沿って埋設し、これを車両に取付けた磁気センサで検出して、当該車両の横変位(磁力源に対する横位置情報であり、つまり車線に対する自車位置情報である)を検出し、この検出される横変位が目標とする横変位に一致するように、前輪又は後輪をアクチュエータで操舵制御するものもある。なお、原則的に磁力源は車線の中央に埋設されており、磁気センサと車両との相対位置関係は変わらない。
【0005】
そして、このようにして車両の横変位を検出したら、その横変位が目標とする横変位に一致するように操舵アクチュエータを制御する。
しかしながら、実際の車両に、このような自動操舵装置を搭載して自動操舵を行わせると、制御の正確性が低下してしまうことがある。そして、これは、検出される横変位のノイズが車両の走行状態に応じて変化することに起因することや、こうした自動操舵装置が離散化されたシステムで構築されていることが関与していることも分かった。
【0006】
本発明はこれらの諸問題に鑑みて開発されたものであり、例えば車両の走行状態に応じて発生し易い、検出される横変位のノイズ成分を的確に抑制防止して制御の正確性を向上し得る自動操舵装置を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の車両の自動操舵装置は、車線に沿って埋設された磁力源を検出する磁気センサと、この磁気センサの検出信号から車両の横変位を検出する横変位検出手段と、前輪又は後輪を操舵する操舵アクチュエータと、この操舵アクチュエータによって操舵される前輪又は後輪の舵角を検出する舵角検出手段と、前記検出された車両の横変位が目標とする横変位になるように前記操舵アクチュエータを制御する操舵制御手段と、実際の車両の向きに対して前記磁気センサの速度がなす横滑り速度を磁気センサの位置での磁力源に対する車両の横方向へのセンサ横滑り速度とした場合、前記センサ横滑り速度を低減する横滑り速度低減手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0008】
また、前記横滑り速度低減手段は、少なくとも前記操舵アクチュエータで操舵される前輪又は後輪と異なる後輪又は前輪を補助操舵する補助操舵アクチュエータと、車両の走行状態に関する情報を検出する走行状態情報検出手段と、この走行状態情報検出手段で検出された走行状態情報に基づいて前記センサ横滑り速度を低減するように前記補助操舵アクチュエータを制御する補助操舵制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0009】
また、前記補助操舵アクチュエータで補助操舵される後輪又は前輪の舵角を検出する補助舵角検出手段を備えると共に、前記走行状態情報検出手段として、車速を検出する車速検出手段と、車線の曲率を検出する車線曲率検出手段とを備え、前記補助操舵制御手段は、前記車速検出手段で検出された車速及び車線曲率検出手段で検出された車線曲率に基づいて、前記センサ横滑り速度を低減するために必要な、前記補助操舵アクチュエータで補助操舵される後輪又は前輪の目標とする舵角を設定し、この目標とする舵角に前記補助舵角検出手段で検出される舵角が一致するように前記補助操舵アクチュエータを制御することを特徴とするものである。
【0010】
また、前記補助操舵される後輪又は前輪の目標とする舵角を、状態推定器で設定することを特徴とするものである。
【0011】
また、前記状態推定器がカルマンフィルタで構成されることを特徴とするものである。
【0012】
また、前記横滑り速度低減手段は、少なくとも車両に発生する横方向への横運動量を調整可能な横運動量調整手段と、車両の走行状態に関する情報を検出する走行状態情報検出手段と、この走行状態情報検出手段で検出された走行状態情報に応じて前記センサ横滑り速度を低減するように前記横運動量調整手段を制御する横運動量制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0013】
また、前記横運動量調整手段で調整される車両の横運動量を検出する横運動量検出手段を備えると共に、前記走行状態情報検出手段として、車速を検出する車速検出手段と、車線の曲率を検出する車線曲率検出手段とを備え、前記横運動量制御手段は、前記車速検出手段で検出された車速及び車線曲率検出手段で検出された車線曲率に基づいて、前記センサ横滑り速度を低減するために必要な、前記横運動量調整手段で調整される車両の目標とする横運動量を設定し、この目標とする横運動量に前記横運動量検出手段で検出される横運動量が一致するように前記横運動量調整手段を制御することを特徴とするものである。
【0014】
また、前記調整される車両の目標とする横運動量を、状態推定器で設定することを特徴とするものである。
【0015】
また、前記状態推定器がカルマンフィルタで構成されることを特徴とするものである。
【0016】
また、前記横運動量調整手段が、各車輪のトラクションを調整することで車両に発生するヨーモーメントを調整するトラクション調整手段であることを特徴とするものである。
【0017】
【発明の効果】
而して、本発明の車両の自動操舵装置によれば、車線に沿って埋設された磁力源の磁力を磁気センサで検出して、その検出信号から車両の横変位を検出し、この検出された横変位が目標とする横変位に一致するように操舵アクチュエータを制御して前輪又は後輪を自動操舵するにあたり、磁気センサの位置での磁力源に対する車両の横方向へのセンサ横滑り速度を低減する構成としたため、その分だけ車両、つまり磁気センサと磁力源との相対速度が小さくなるので、当該磁気センサと磁力源との相対速度に応じ且つ離散化に伴って発生する横変位のノイズ成分を抑制して制御の正確性を高めることができる。
【0018】
また、操舵アクチュエータで主として操舵される前輪又は後輪と異なる、後輪又は前輪を補助操舵アクチュエータで補助操舵可能とし、車両の走行状態情報に応じて補助操舵アクチュエータを制御することで、車両の運動特性を制御可能とし、主として操舵される前輪又は後輪だけでは低減操作できない、前記磁気センサの位置での磁力源に対する車両の横方向へのセンサ横滑り速度を、より正確に且つ確実に低減可能とする。
【0019】
また、検出される車速及び車線曲率に基づいて補助操舵される後輪又は前輪の目標とする舵角を設定する構成としたため、この目標とする舵角を、前記磁気センサの位置での磁力源に対する車両の横方向へのセンサ横滑り速度が零又は略零となる値に設定することができ、この目標とする舵角に検出される舵角が一致するように補助操舵アクチュエータを制御する構成としたため、当該センサ横滑り速度を、より正確に且つ確実に低減可能とする。
【0020】
また、状態推定器を用いて車両の状態量を正確に推定しながら、前記補助操舵される後輪又は前輪の目標とする舵角を設定する構成としたため、これに追従するように後輪又は前輪の舵角を補助操舵すれば、前記センサ横滑り速度を、より正確に且つ確実に低減可能とする。
【0021】
また、前記状態推定器をカルマンフィルタで構成したため、前記推定される車両の状態量が、出力誤差に応じて補正されて、より正確なものとなるため、前記目標とする舵角をより正確に設定でき、ひいては前記センサ横滑り速度を、より正確に且つ確実に低減可能とする。
【0022】
また、車両に発生する横方向への横運動量を調整可能とし、車両の走行状態情報に応じて横運動量調整手段を制御することで、車両の運動特性を制御可能とし、主として操舵される前輪又は後輪だけでは低減できない、前記磁気センサの位置での磁力源に対する車両の横方向へのセンサ横滑り速度を、より正確に且つ確実に低減可能とする。
【0023】
また、検出される車速及び車線曲率に基づいて調整される車両の目標とする横運動量を設定する構成としたため、この目標とする横運動量を、前記磁気センサの位置での磁力源に対する車両の横方向へのセンサ横滑り速度が零又は略零となる値に設定することができ、この目標とする横運動量に検出される横運動量が一致するように横運動量調整手段を制御する構成としたため、当該センサ横滑り速度を、より正確に且つ確実に低減可能とする。
【0024】
また、状態推定器を用いて車両の状態量を推定しながら、前記調整される車両の目標とする横運動量を設定する構成としたため、これに追従するように車両の横運動量を調整すれば、前記センサ横滑り速度を、より正確に且つ確実に低減可能とする。
【0025】
また、前記状態推定器をカルマンフィルタで構成したため、前記推定される車両の状態量が、出力誤差に応じて補正されて、より正確なものとなるため、前記目標とする横運動量をより正確に設定でき、ひいては前記センサ横滑り速度を、より正確に且つ確実に低減可能とする。
【0026】
また、前記横運動量調整手段をトラクション調整手段で構成し、各輪のトラクションを調整することで車両に発生するヨーモーメントを調整可能とすることにより、前記請求項4又は5の自動操舵装置を実施化できる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ここでは、前輪を主として操舵する自動操舵装置について説明する。
【0028】
図1は、本発明の第1実施形態の自動操舵装置を示す概略構成図である。同図の符号12は前左右輪、15は後左右輪を示し、前左右輪12にはごく一般的なラックアンドピニオン式の操舵機構が付加されている。この操舵機構は、前左右輪12の操舵軸(タイロッド)に接続されるラック11と、これに噛合するピニオン10と、このピニオン10をステアリングホイール14に与えられる操舵トルクで回転させるステアリングシャフト9とを備えている。
【0029】
また、前記ステアリングシャフト9には、前左右輪12を自動操舵するための自動操舵機構も付加されている。この自動操舵機構は、前記ステアリングシャフト9に同軸に取付けられたドリブンギヤ8と、これに噛合するドライブギヤ7と、このドライブギヤ7を回転駆動するモータ5である。なお、モータ5とドライブギヤ7との間にはクラッチ機構6が介装されており、自動操舵制御時にのみクラッチ機構6が接続され、そうでないときにはクラッチ機構6が離間してモータ5の回転力がステアリングシャフト9に入力されないようにしている。そして、前記モータ5を含む自動操舵機構は、後述する自動操舵コントロールユニット13からの制御信号で制御される。
【0030】
一方、本実施形態では、後左右輪15を補助操舵するための補助操舵機構も付加されている。この補助操舵機構は、後左右輪15を連結する操舵杆20と同軸に取付けられたラック19と、このラック19に噛合し且つモータ17の回転駆動力でラック19を往動させて後左右輪15を補助操舵するギヤ18とを備えてなる。このモータ17を含む補助操舵機構も、後述する自動操舵コントロールユニット13からの制御信号で制御される。
【0031】
また、この車両には種々のセンサ類が取付けられている。符号3は舵角センサであり、ステアリングシャフト9の回転角から前左右輪12の実前輪舵角δf を割出して自動操舵コントロールユニット13に出力する。また、図中の符号4は車速センサであり、例えば変速機の出力軸の回転速度から車両の移動速度(車速)vを割出して自動操舵コントロールユニット13に出力する。また、図中の符号16は車線の曲率を検出する車線曲率検出装置であり、例えば車線脇から無線送信される車線曲率情報を得て、その車線曲率ρを自動操舵コントロールユニット13に出力する。なお、この車線曲率検出装置は、コントロールユニット13内で実行される演算処理によって構成されるようにソフト化してもよく、その簡潔な内容については後述する。また、図中の符号21は補助舵角センサであり、前記操舵杆20の移動量から後左右輪15の実後輪舵角δr を割出して自動操舵コントロールユニット13に出力する。
【0032】
一方、磁力源として車線に沿って埋設された図示されない磁石の磁力は、車両の前方下部に取付けられた磁気センサ1で検出される。この磁気センサ1は、単に磁石の磁力の大きさだけでなく、その磁力ベクトルを、車両上下方向に相当する縦成分と、車両幅方向に相当する横成分とに分解して、その夫々の方向と大きさとを検出することができる。
【0033】
この磁気センサ1の検出信号は、横変位検出手段を構成する横変位検出装置2に出力される。この横変位検出装置2は、後述する原理に基づいて、検出される磁力ベクトルの縦横成分比から車両(厳密には磁気センサ1)の車線(厳密には磁石)に対する横変位の方向と大きさとを検出(算出)する。なお、この横変位検出装置2は、図示されないマイクロコンピュータ等の離散化したディジタルシステムで構成されているため、前述したような横変位のサンプリングは、予め設定されたサンプリングタイミングでしか行われない。この横変位検出装置2で検出された車両の横変位yは、制御手段を構成し且つ自動操舵制御を司る自動操舵コントロールユニット13に出力される。
【0034】
前記自動操舵コントロールユニット13は、図示されないマイクロコンピュータのような離散化されたディジタルシステムで構成されている。このディジタルシステムは、既存のマイクロコンピュータと同様に、前記各センサ類からの検出信号を読込むための入力インタフェース回路や、必要なプログラムや演算結果等を記憶するROM,RAM等の記憶装置や、実際に演算処理を行うと共に或る程度のバッファ機構を備えたマイクロプロセサユニット等の演算処理装置や、この演算処理装置で設定した制御信号を前記自動操舵機構のモータ5や補助操舵機構のモータ17に出力するための出力インタフェース回路等を備えている。
【0035】
また、本実施形態では、前記自動操舵コントロールユニット13内のマイクロコンピュータ等のディジタルシステム中に、状態推定器としてのカルマンフィルタが構築されている。ここで、カルマンフィルタについて説明しておく。カルマンフィルタは、現代制御理論に基づいた状態量を、予め設定されたモデルに従って幾つか推定し、その夫々にフィードバック制御を行うことを前提として、結果的に種々の連鎖的な応答をなくして、単独の状態量のフィードバック制御を容易化,正確化する場合に、出力される推定状態量と検出された状態量との出力誤差に応じてモデル,即ち推定される状態量を補正可能としたものである。具体的には図2aに示す構成となる。
【0036】
ここで、本実施形態のカルマンフィルタ中のモデルは、車両の二輪モデルであるから、これを状態空間表現を用いて下記12式に示す。但し、この12式に示す二輪モデルは、後輪を操舵可能とし、更に後輪のトラクションによってヨーモーメントを制御可能としたものであるから、本実施形態のように前輪を主として操舵して車両の横変位を制御する共に、後輪を補助操舵して、前記磁気センサ12の位置における対磁石横方向速度,つまりセンサ横滑り速度を低減するだけのものの場合にはヨーモーメントTr を零に設定すればよい。
【0037】
但し、
a11=−(Cr +Cf )/(m・v) ………(12-1)
a12=(−1+(Cr ・b−Cf ・a))/(m・v2 ) ………(12-2)
a21=(Cr ・b−Cf ・a)/I ………(12-3)
a22=−(Cr ・b2 +Cf ・a2 )/(I・v) ………(12-4)
b11=Cf /(m・v) ………(12-5)
b12=Cr /(m・v) ………(12-6)
b21=Cf ・a/I ………(12-7)
b22=−Cr ・b/I ………(12-8)
b23=1/I ………(12-9)
である。また、
β :車両重心点の横滑り角
r :ヨーレイト
Δψ:車線を基準とするヨー角
Ls :磁気センサと車両重心点との平面視における距離
Cr :後左右二輪のコーナリングスティフネス
Cf :前左右二輪のコーナリングスティフネス
m :車両質量
b :後輪軸と車両重心点との平面視における距離
a :前輪軸と車両重心点との平面視における距離
I :車両の慣性モーメント
である。
【0038】
そして、前記12式で、定常的な走行状態では左辺,つまり車両重心点の横滑り角速度β' (’は時間微分値を示す)も、ヨー角加速度r' も、ヨーレイトΔψ' も、横変位速度y' も全て零になると考えられるから、このときの各物理量,或いは状態量に添字“0”を付けて下記14式を得る。なお、このような定常走行状態における各状態量を平衡点周りの状態量と定義する。
【0039】
すると、前記第1実施形態と同様に、実際に必要な舵角やヨーモーメントは、この平衡点周りの定常的な舵角やヨーモーメントを与えたときに、更にモデル誤差等によって発生する補正分をフィードバックした値になるから、下記15−1〜3式が与えられ、更に同様のことが他の各状態量にも言えることから、ヨー角や横変位等の状態量についても下記16−1〜4式が成立する。
【0040】
δf =δf0+Δδf ………(15-1)
δr =δr0+Δδr ………(15-2)
Tr =Tr0+ΔTr ………(15-3)
β=β0 +Δβ ………(16-1)
r=r0 +Δr ………(16-2)
Δψ=Δψ0 +Δ2 ψ ………(16-3)
y=y0 +Δy ………(16-4)
次に、車線曲率ρには補正分がないことから、Δρが実質的に零である(即ちρ0 =ρ)ことを考慮して以上を総合して解くと、下記17式を得る。つまり、ここで得られる状態量のベクトルx(補正横滑り角Δβ,補正ヨーレイトΔr,補正ヨー角Δ2 ψ、補正横変位Δy)が正確なものであるとすると、このベクトルから補正すべき前輪舵角,つまり補正前輪舵角Δδfdや、補正後輪舵角Δδrdや補正ヨーモーメントΔTrd等を算出可能となる。なお、前述と同様に、ヨーモーメントを補正しない本実施形態のような場合には、前記定常ヨーモーメントTr0或いは補正ヨーモーメントΔTrd等を全て“0”に設定すればよいだけである。
【0041】
この17式を、前記図2aのカルマンフィルタの構成図に合わせて略記すると下記11式のように表れる。
【0042】
dx/dt=Ax+Bu ………(11)
つまり、前記11式で用いられる各ベクトル,x,A,B,uは夫々、以下のように纏められる。
【0043】
ここで、一旦、カルマンフィルタの構成の説明から離れて、前記状態量のベクトルxから車線追従,つまり補正横変位Δy=0を実現するための補正前輪舵角Δδfdや、補正後輪舵角Δδrdや補正ヨーモーメントΔTrdを設定するために、最適レギュレータを用いた最適化制御を考える。ここで、拘束条件は前記11式であり、評価関数Jは下記18式で与えられる。
【0044】
J=∫(xT Qx+uT Ru)dt ………(18)
なお、xT はベクトルxの転置ベクトルを、uT はベクトルuの転置ベクトルを示す。また、Qは対称非負定行列、Rは対称正定行列で、一般に重みと呼ばれる。ベクトルxにおける補正横変位Δyは4行目であるので、当該補正横変位Δyを小さくするためには、前記対称非負定行列Qの4行4列要素を大きくすればよい。但し、ゲインを上げれば、その分だけノイズを拾い易くなるというトレードオフを考慮しなければならないことは言うまでもない。
【0045】
結論として得られるフィードバック則は、図2bに示すブロック図に合わせて下記19式で表され、各要素を列記すると20式が得られる。なお、KR は定数行列である。
【0046】
u=−KR ・x ………(19)
ここで、目標横変位をΔyd とすると、ΔyをΔyd とするためには、
となる。
【0047】
つまり、本実施形態では、制御可能な後輪舵角δr についても、このフィードバック分までは補正しない,つまり目標後輪舵角δrdは前記定常後輪舵角δr0に設定されるため、推定される補正横滑り角Δβ、補正ヨーレイトΔr、補正ヨー角Δ2 ψ、補正横変位Δyに対して、補正前輪舵角Δδfdは下記21式で端的に与えられることになる。
【0048】
なお、前述の状態推定器で補正横変位Δyを除く補正横滑り角Δβ、補正ヨーレイトΔr、補正ヨー角Δ2 ψが検出できない場合には、逆に補正横変位Δyと補正前輪舵角Δδf を用いて状態推定器を構成すれば、それらの状態量を推定することができる。
【0049】
一方、再びカルマンフィルタの説明に戻って、前述のようにして推定した推定横変位y^(^は推定値であることを示す)は、前述したモデルに前記補正前輪舵角Δδfdを代入(直線走行状態から見れば目標前輪舵角δfdを代入すべきであるように考えられるが、既にそれ以前のモデル,つまりそれまでの定常旋回走行状態に相当する平衡点周りのモデルは後述のように補正されているので、実質的に代入されるのは補正前輪舵角Δδfdになる)してみた結果、車両が達成する推定値であるから、これを推定横変位ye とする。しかしながら、前述したモデルと実際の車両とは、必ず誤差がある。そこで、図2aに示すように、この推定横変位ye と前記第1実施形態のようにして検出された実横変位yとの偏差(以下、単に出力誤差とも記す)εを求め、この出力誤差εに出力誤差フィードバックゲインベクトルKe をかけて、前記状態推定器内のモデルを補正する。ここでは、理解を容易化するために、モデルを補正するという表記を用いるが、実質的には各状態量を直接補正しても何ら問題がないことから、広義には状態量を補正するとして取扱う。
【0050】
前記出力誤差フィードバックゲインベクトルKe は、ベクトルの特性上、単純に大小の比較ができないが、以上の説明から明瞭なように、そのゲイン特性が大きければ状態量の補正を速やかにして制御の応答性を高めることができるが、その反面、ノイズ成分の影響を受け易いことが分かる。逆に、出力誤差フィードバックゲインベクトルKe のゲイン特性が小さければ、状態量の補正効果は低下するが、ノイズ成分の影響を抑制防止して制御の正確性が向上可能であることが分かる。
【0051】
次に、前記コントロールユニット13内で実行される本実施形態の演算処理について図3のフローチャートを用いて説明する。なお、このフローチャートでは、特に情報の授受のためのステップを設けていないが、演算処理装置で読込まれた情報や物理量或いは演算された演算結果は随時記憶装置に更新記憶されるし、演算処理に必要なプログラムやマップ,テーブル等は随時記憶装置から演算処理装置のバッファに読込まれる。
【0052】
この演算処理は、例えば10msec. といった予め設定されたサンプリング時間ΔT毎にタイマ割込処理として実行され、まずステップS1で前記車速センサ4からの車速vを読込む。
【0053】
次にステップS2に移行して、前記車線曲率検出装置16からの車線曲率ρを読込む。
次にステップS3に移行して、下記1式に従って定常前輪舵角δf0を算出する。なお、下記1式の算出原理については後段に詳述する。また、この定常前輪舵角δf0は、車両の線形性により、定常ヨーモーメントTr0=0としたときの前記14式で表れる平衡点周りの状態量と等価である。
【0054】
次にステップS4に移行して、下記2式に従って定常後輪舵角δr0を算出する。なお、下記2式の算出原理については後段に詳述する。また、この定常後輪舵角δr0は、車両の線形性により、定常ヨーモーメントTr0=0としたときの前記14式で表れる平衡点周りの状態量と等価である。
【0055】
次にステップS5に移行して、前記舵角センサ3からの前輪舵角δf 及び補助舵角センサ21からの後輪舵角δr を読込む。
【0056】
次にステップS6に移行して、下記22式に従って、実前輪舵角δf ,定常前輪舵角δf0から前輪舵角偏差Δδf を算出する。
Δδf =δf −δf0 ………(22)
次にステップS7に移行して、前記14式に従って、車速v,車線曲率ρから、少なくとも前記平衡点周りに相当する定常横変位y0 を算出する。
【0057】
次にステップS8に移行して、前記横変位検出装置2からの横変位yを読込む。
次にステップS9に移行して、下記23式に従って、前記検出された実横変位y,定常横変位y0 から横変位偏差Δyを算出する。なお、既に状態推定による前輪自動操舵が開始されている場合には算出される定常横変位y0 は略零であり、検出される横変位yは、前述したモデル誤差を補正すべきフィードバック分でしかないことから、検出される横変位yを横変位偏差Δyに直接設定してもよい。
【0058】
Δy=y−y0 ………(23)
次にステップS10に移行して、前記17式から構成されるカルマンフィルタによって各状態量の推定を行い、前記状態推定ベクトルxを算出する。
【0059】
次にステップS11に移行して、前記19式乃至21式から補正前輪舵角Δδfdを算出する。
次にステップS12に移行して、下記24式及び25式に従って、前記算出された補正前輪舵角Δδfd,定常前輪舵角δf0から目標前輪舵角δfdを、或いは定常前輪舵角δr0から目標後輪舵角δrdを、夫々算出する。
【0060】
δfd=δf0+Δδfd ………(24)
δrd=δr0 ………(25)
次にステップS13に移行して、前記設定された目標前輪舵角δfdに実前輪舵角δf を一致させるフィードバック制御の制御信号を創成し出力する。
【0061】
次にステップS14に移行して、前記設定された目標後輪舵角δrdに実後輪舵角δr を一致させるフィードバック制御の制御信号を創成し出力してからメインプログラムに復帰する。
【0062】
次に、前記1式及び2式の算出原理について説明する。本実施形態のように後輪を操舵する場合の運動方程式は、二輪モデルを用いて下記5式及び6式で表される。
【0063】
但し、
β' :車両重心点の横滑り角速度
r' :ヨー角加速度
である。
【0064】
また、旋回運動の定常状態におけるヨーレイトrは車線曲率ρと車速vとから下記7式で表される。
r=ρ・v ……… (7)
また、旋回運動の定常状態では車両重心点の横滑り角速度β' もヨー角加速度r' も共に零であるから、それを下記8式で表す。
【0065】
β' =r' =0 ……… (8)
また、磁気センサ位置での横滑り速度vs は、ヨーレイトψ' 及び横滑り角βを用いて下記9式で与えられるものである。
【0066】
vs =Ls ・r+v・β ……… (9)
前記5式及び6式の前輪舵角δf を前記定常状態における定常前輪舵角δf0とすると共に、後輪舵角δr を前記定常状態における定常後輪舵角δr0とし、これらの夫々について前記5式乃至9式を解けば前記1式及び2式を得る。このような算出原理は、前記変更点周りの状態量,つまり定常状態における各状態量を導出するための原理と同じであるから、前記14式の定常前輪舵角δf0や定常後輪舵角δr0と1式や2式のそれらとが夫々等価であることが理解できる。これは車両の線形性によるものである。
【0067】
なお、補正前輪舵角Δδfdについては、前記定常前輪舵角δf0を与えたときの横変位yのフィードバック制御による補正分と考えて、古典制御理論にいう所謂PID制御に応じて設定してもよい。
【0068】
次に、本実施形態の作用について説明する。
ここで、磁力源として磁石を用いた場合、当該磁石からの磁力に基づいて車線に対する車両の横変位を検出する原理について簡潔に説明する。磁石からの磁力線が図9のように発生しているとき、磁気センサのレベル(高さ)は一定であるから、検出される磁力ベクトルの縦横成分の比が分かれば、磁気センサ,つまり車両は磁石,つまり車線に対してどの程度横方向にずれているかが分かる。即ち、磁気センサが磁石の真上にあれば、検出される磁力ベクトルの縦横成分の比は1:0になるし、それが横方向にずれればずれるほど、検出される磁力ベクトルの横成分が大きくなり、縦成分は小さくなる。また、磁力ベクトルの横成分の発生方向から、磁気センサ,つまり車両が磁石,つまり車線に対して、どちらにずれているかも分かる。
【0069】
次に、この原理を用いて車線に対する車両の横変位を検出するタイミングについて簡潔に説明する。今、車両に取付けられた磁気センサが、図9で説明したように磁石に対して横方向にずれていないとしたとき(ずれていても横変位が同じなら結局は同じ)、図10aに示すように磁気センサと磁石との距離をDとすると、距離Dと磁力との関係は図10bのように表れる。つまり、磁気センサが磁石に最も接近したときに、検出される磁力も最大になる。従って、検出される磁力が最大になったとき、その磁力ベクトルの縦横成分比から車両の横変位を正確に検出することが可能となる。
【0070】
そこで、この検出された横変位を用いて前述のように目標とする横変位に一致するように操舵アクチュエータを制御する場合に、本実施形態では、前述のように出力誤差を補正できるカルマンフィルタのようなオブザーバ(状態推定器)を用いてノイズ成分を除去する。
【0071】
次に、前述のようにして検出される横変位yのノイズ成分について説明する。このような車線に沿って埋設された磁石等の磁力源の磁力を磁気センサで検出して車線に対する車両の横変位を検出する手法では、実際の車両で検出される横変位にノイズ(誤差成分を含む)が多い。これについては、例えば図10に示すように、車線の幅を示す二本の白線の中央に相当する車線中央に磁石等の磁力源が正確に埋設されていないせいだと考えられてきた。つまり、本来、車線中央にあるべき磁石等の磁力源が横方向にずれて埋設されていれば、検出される横変位は図11に示すように、車両(正確には磁気センサ)が仮に車線中央に沿って移動したとしても、恰も横方向にずれているかのように誤認識してしまう。
【0072】
しかしながら、この検出される横変位yのノイズ成分には、この他に、以下のようなノイズ成分もある。即ち、前述のような車両の自動操舵装置は、一般に高度な演算処理を必要とすることから離散化したディジタルシステムで構成される。従って、例えば前述のように磁気センサで磁石の磁力を検出する,そのサンプリングタイミングと、実際に磁気センサが磁石に最も近づくタイミングとがずれてしまう可能性がある。この可能性は、磁石と磁気センサ,つまり車両との相対速度が大きくなればなるほど大きくなる。
【0073】
これを実際の車両で再現すると、例えば車速vが大きくなるほど、或いは車線曲率ρが大きくなるほど、検出される横変位のノイズ成分が大きくなり、結果的に自動操舵制御の正確性が低下する。このうち、車線曲率ρが大きくなるということは、図4に示すように、車線中心線に沿って移動しようとする車両の移動方向と実際に車両が向いている方向との角度,つまりヨー角が大きいということであり、それは同時に磁気センサの横滑り速度が大きいということである。定常的な旋回運動中であれば、両者は互いに等価であると評価できるが、前述した磁力のサンプリングタイミングと磁気センサの最接近タイミングとのずれは、磁石と磁気センサ,つまり車両との相対速度に起因すると考えると、磁気センサの横滑り速度が大きくなるほど、検出される横変位のノイズ成分が大きくなる。
【0074】
こうした磁石と磁気センサ,つまり車両との相対速度のうち、車両の前後方向,つまり前記センサ横滑り速度と直交する方向の速度成分であって、所謂車速に相当する成分は、車両が所望する速度移動するために変更できない、或いは変更すべきでない速度成分である。そこで、本実施形態では、前記センサ横滑り速度を低減し、望ましくは零として、検出される横変位のノイズ成分を低減しようとする。ところが、通常の車両のように、前輪のみを操舵する車両にあっては、車両特性によっては、磁気センサの位置におけるセンサ横滑り速度を制御することができない。つまり、センサ横滑り速度(車両の横滑り速度と同じ)は、舵角と車速が与えられると、車両特性によって一意に決まってしまう(勿論、路面μや路面の形状等の外乱要素は個別の要素である)。
【0075】
そこで、本実施形態では、主として操舵される前輪が、あくまでも車線追従制御を司り、更に後輪を補助操舵することで、前記センサ横滑り速度を低減し、好ましくは零とする。このとき、補助操舵される後輪の目標とする舵角には、前記定常後輪舵角δr0を用いて前記センサ横滑り速度を零に近づけながら車両の挙動を安定させ、一方で前輪には定常前輪舵角δf0を与えて車線に大まかに追従できるようにしながら、更に補正前輪舵角Δδfdを与えて微小横変位Δyを補正して完全な車線追従を達成する。つまり、本実施形態の車両では、図5に示すように一般的な車両とはやや異なる車両旋回運動が達成される。勿論、センサ横滑り速度は零又は略零となるために、その分だけ、検出される横変位yのノイズ成分が低減し、結果的に自動操舵制御の正確性が向上する。
【0076】
このように本実施形態の自動操舵装置では、主として操舵される車輪以外の車輪を補助操舵することでセンサ横滑り速度を低減可能とし、更に車速や車線曲率から、センサ横滑り速度を零とする補助操舵輪の目標舵角を設定し、この目標舵角に実際の舵角が一致するように補助操舵輪用アクチュエータを制御することにより、検出される横変位のノイズ成分を効果的且つ大幅に低減して、制御の正確性を向上することができる。
【0077】
以上より、前記自動操舵機構が本発明の操舵アクチュエータを構成し、以下同様に、前記横変位検出装置及び図3の演算処理のステップS8が横変位検出手段を構成し、前記舵角センサ3及び図3の演算処理のステップS5が舵角検出手段を構成し、図3の演算処理のステップS9乃至13が操舵制御手段を構成し、前記補助操舵機構が補助操舵アクチュエータを構成し、補助舵角センサ21及び図3の演算処理のステップS5が補助舵角検出手段を構成し、車速センサ4及び図3の演算処理のステップS1が車速検出手段及び走行状態情報検出手段を構成し、車線曲率検出装置16及び図3の演算処理のステップS2が車線曲率検出手段及び走行状態情報検出手段を構成し、図3の演算処理のステップS3及びステップS14が補助操舵制御手段を構成し、前記補助操舵機構及び補助舵角センサ21及び車速センサ4及び車線曲率装置16及び図3の演算処理のステップS1及びステップS2及びステップS4及びカルマンフィルタ(状態推定器)に相当するステップS10及びステップS14が横滑り速度低減手段を構成する。
【0078】
なお、前記第1実施形態では、後輪を補助操舵する機構を持ち、更に前記図3の演算処理では、横変位偏差に対する当該後輪の補正後輪舵角まで算出可能としながら、横変位偏差の補正に対しては後輪舵角を制御せず、センサ横滑り速度を零とするための定常後輪舵角のみを目標後輪舵角に設定したが、勿論、横変位を補正するために後輪舵角を補正してもよい。但し、この場合には、定常後輪舵角がセンサ横滑り速度を零とするための値に設定されたのに対して、更に横変位を補正するためにこれを補正するのであるから、センサ横滑り速度の収束性が低下する虞れがあることに留意したい。この場合には、センサ横滑り速度の出力誤差に対する状態量の補正か、若しくはセンサ横滑り速度に対する最適レギュレータが必要となろう。
【0079】
次に、本発明の第2実施形態の自動操舵装置について説明する。まず、車両に設けられた自動操舵装置としての概要は、前記第1実施形態の後輪の補助操舵機構に代えて、横運動量調整手段を構成するトラクション調整機構が取付けられている。このトラクション調整機構は、例えば各車輪に設けられたトラクションコントロールアクチュエータ22によって構成され、各車輪のトラクション(駆動及び制動力)を調整することで車両に発生するヨーモーメントを調整するものである。より具体的には、本出願人が先に提案した特開平6−321087号公報に記載される制動力制御装置や、特開平8−127258号公報に記載される後左右輪の駆動力制御装置や、或いは公知の前後輪間駆動力配分制御装置等を単独で或いは適宜に組み合わせて用いることができる。これらのトラクションコントロールアクチュエータ22の具体的な制御の詳細については、これらの文献を参照されるものとして、ここでは目標とするヨーモーメントTrdを達成するための制御信号が、前記コントロールユニット13から各トラクションコントロールアクチュエータ22に供給されると、各アクチュエータは単独で或いは相互に作動して、当該目標とするヨーモーメントTrdを達成するものとする。それ以外の構成は、前記第1実施形態のものと同様又は略同様であり、同等の構成部材には同等の符号を附してその詳細な説明を省略する。
【0080】
また、本実施形態でも、前記第1実施形態と同様に、前記自動操舵コントロールユニット13内のマイクロコンピュータ等のディジタルシステム中に、状態推定器としてのカルマンフィルタが構築されている。但し、前記12式に示す二輪モデルは、後輪を操舵可能とし、更にヨーモーメントを制御可能としたものであるから、本実施形態のように前輪を主として操舵して車両の横変位を制御する共に、ヨーモーメントを制御して、前記磁気センサ12の位置における対磁石横方向速度,つまりセンサ横滑り速度を低減するだけのものの場合には前記12式中の後輪舵角δr を零に設定すればよい。また、後輪舵角を補正しない本実施形態のような場合には、前記14式,17式,20式中の定常後輪舵角δr0や補正後輪舵角Δδrd等を全て“0”に設定すればよいだけである。また、本実施形態では、前記最適レギュレータ及びカルマンフィルタの説明と同様に、前記12式からなる状態推定器によって、補正横変位Δyと補正前輪舵角ΔδfdとからヨーモーメントTr を推定可能な構成となっている。
【0081】
次に、前記自動操舵コントロールユニット13内で実行される本実施形態の演算処理について図7のフローチャートを用いて説明する。なお、このフローチャートでも、特に情報の授受のためのステップを設けていないが、第1実施形態と同様に、情報の授受は随時実行される。また、この演算処理は、第1実施形態と同様に、例えば10msec. といった予め設定されたサンプリング時間ΔT毎にタイマ割込処理として実行される。
【0082】
この実施形態の演算処理は、前記図3に示す第1実施形態の演算処理のステップS3,S4,S5,S10,S12,S14の夫々が、ステップS3’,S4’,S5’,S10’,S12’,S14に代わっている他は、全て第1実施形態と同様であるので、同等のステップには同等の符号を附してその詳細な説明を省略する。
【0083】
この変更になったステップのうち、ステップS3’では、下記26式に従って定常前輪舵角δf0を算出する。なお、下記26式の算出原理については後段に詳述する。また、この定常前輪舵角δf0は、車両の線形性により、定常後輪舵角δr0=0としたときの前記14式で表れる平衡点周りの状態量と等価である。
【0084】
また、ステップS4’では、下記27式に従って定常ヨーモーメントTr0を算出する。なお、下記27式の算出原理についても後段に詳述する。また、この定常ヨーモーメントTr0は、車両の線形性により、定常後輪舵角δr0=0としたときの前記14式で表れる平衡点周りの状態量と等価である。
【0085】
Tr0=(a+b)・ρ・Cr (b+Ls )+a・m・ρ・v2 ………(27)
また、ステップS5’では、単に、前記舵角センサ3からの前輪舵角δf のみを読込む。
【0086】
また、ステップS10’では、カルマンフィルタによる状態推定と共に、前述のように状態推定器によって現在のヨーモーメントTr を推定する。
また、ステップS12’では、前記24式に従って目標前輪舵角δfdを算出すると共に、下記28式に従って目標ヨーモーメントTrdを算出する。
【0087】
Trd=Tr0 ………(28)
また、ステップS14’では、前記設定された目標ヨーモーメントTrdに実ヨーモーメントTr を一致させるフィードバック制御の制御信号を創成し出力してからメインプログラムに復帰する。
【0088】
次に、前記26式及び27式の算出原理について説明する。本実施形態のように車両のヨーモーメントを制御する場合の運動方程式は、二輪モデルを用いて下記29式及び30式で表される。
【0089】
但し、
Tr :車両に発生する四輪分のヨーモーメント
である。
【0090】
次に、本実施形態の作用について説明する。
まず、検出される横変位yのノイズ成分については、前記第1実施形態での説明と同様であるために、ここでの説明を省略する。
【0091】
本実施形態では、主として操舵される前輪で車線追従制御を行い、更に各車輪のトラクションを調整して車両に発生するヨーモーメントを調整することで、前記センサ横滑り速度を低減し、好ましくは零とする。このとき、目標とするヨーモーメントTrdには、前記定常ヨーモーメントTr0を用いて前記センサ横滑り速度を零に近づけながら車両の挙動を安定させ、一方で前輪には定常前輪舵角δf0を与えて車線に大まかに追従できるようにしながら、更に補正前輪舵角Δδfdを与えて微小横変位Δyを補正して完全な車線追従を達成する。つまり、本実施形態の車両でも、理想的な旋回運動として、図8に示すように磁気センサの横滑り速度もヨー角速度も零であり、一定のヨー角を保ったまま、車両は旋回する。勿論、センサ横滑り速度は零又は略零となるために、その分だけ、検出される横変位yのノイズ成分が低減し、結果的に自動操舵制御の正確性が向上する。
【0092】
このように本実施形態の自動操舵装置では、主として操舵される車輪以外にも、トラクション調整装置等の横運動量調整装置によってヨーモーメント等の車両の横運動量を調整可能とすることでセンサ横滑り速度を低減可能とし、更に車速や車線曲率から、センサ横滑り速度を零とする目標ヨーモーメント等の目標横運動量を設定し、この目標横運動量に実際の横運動量が一致するように横運動量調整装置を制御することにより、検出される横変位のノイズ成分を効果的且つ大幅に低減して、制御の正確性を向上することができる。
【0093】
以上より、前記自動操舵機構が本発明の操舵アクチュエータを構成し、以下同様に、前記横変位検出装置及び図7の演算処理のステップS8が横変位検出手段を構成し、前記舵角センサ3及び図7の演算処理のステップS5’が舵角検出手段を構成し、図7の演算処理のステップS9乃至13が操舵制御手段を構成し、前記トラクション調整機構が横運動量調整手段を構成し、図7の演算処理のステップS10’が横運動量検出手段を構成し、車速センサ4及び図7の演算処理のステップS1が車速検出手段及び走行状態情報検出手段を構成し、車線曲率検出装置16及び図7の演算処理のステップS2が車線曲率検出手段及び走行状態情報検出手段を構成し、図7の演算処理のステップS4’及びステップS14’が横運動量制御手段を構成し、前記トラクション調整機構及び車速センサ4及び車線曲率装置16及び図7の演算処理のステップS1及びステップS2及びステップS4’及びカルマンフィルタ(状態推定器)に相当するステップS10’及びステップS14’が横滑り速度低減手段を構成する。
【0094】
なお、前記第2実施形態では、横運動量としてヨーモーメントを調整する機構を持ち、更に前記図7の演算処理では、横変位偏差に対する補正ヨーモーメントまで算出可能としながら、横変位偏差の補正に対してはヨーモーメントを制御せず、センサ横滑り速度を零とするための定常ヨーモーメントのみを目標ヨーモーメントに設定したが、勿論、横変位を補正するためにヨーモーメントを補正してもよい。但し、この場合には、前記定常ヨーモーメントがセンサ横滑り速度を零とするための値に設定されたのに対して、更に横変位を補正するためにこれを補正するのであるから、センサ横滑り速度の収束性が低下する虞れがあることに留意したい。この場合には、センサ横滑り速度の出力誤差に対する状態量の補正か、若しくはセンサ横滑り速度に対する最適レギュレータが必要となろう。
【0095】
また、上記二つの実施形態を組合わせて車両運動を制御することも勿論可能であるが、制御すべき状態量が二つだとしたら、制御する入力も二つにしておいたほうが、所謂連鎖的な反応を回避して制御の正確性を確保し易い。
【0096】
また、前記第1及び第2実施形態では、共に車線曲率ρを、外部からの情報として読込む場合についてのみ詳述したが、この車線曲率ρは、前述した横変位やヨーレート,ヨー角,車速等の運動方程式で表れることは周知であるから、これらを用いて推定することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の車両の自動操舵装置の第1実施形態を示す車両概略構成図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【図2】(a)はカルマンフィルタの一例を示すブロック図、(b)は推定された状態量から制御量を出力する演算装置の一例を示すブロック図である。
【図3】図1の車両の自動操舵装置で実行される演算処理を示すフローチャートである。
【図4】磁気センサの横滑り速度の説明図である。
【図5】図1の車両で達成される横滑り速度の説明図である。
【図6】本発明の車両の自動操舵装置の第2実施形態を示す車両概略構成図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【図7】図6の車両の自動操舵装置で実行される演算処理を示すフローチャートである。
【図8】図6の車両で達成される横滑り速度の説明図である。
【図9】車線に埋設された磁石からの磁力ベクトルの説明図である。
【図10】車両に取付けられた磁気センサで磁石の磁力を検出する説明図である。
【図11】車線に埋設された磁石の説明図である。
【図12】検出された磁力に応じて得られる車両横変位の説明図である。
【符号の説明】
1は磁気センサ
2は横変位検出装置(横変位検出手段)
3は舵角センサ(舵角検出手段)
4は車速センサ(車速検出手段)
5はモータ
6はクラッチ機構
7はドライブギヤ
8はドリブンギヤ
9はステアリングシャフト
10はピニオン
11はラック
12は前左右輪
13は自動操舵コントロールユニット(制御手段)
14はステアリングホイール
15は後左右輪
16は車線曲率検出装置(車線曲率検出手段)
17はモータ
18はギヤ
19はラック
20は操舵杆
21は補助舵角センサ(補助舵角検出手段)
22はトラクションコントロールアクチュエータ(トラクション調整手段)
Claims (11)
- 車線に沿って埋設された磁力源を検出する磁気センサと、この磁気センサの検出信号から車両の横変位を検出する横変位検出手段と、前輪又は後輪を操舵する操舵アクチュエータと、この操舵アクチュエータによって操舵される前輪又は後輪の舵角を検出する舵角検出手段と、前記検出された車両の横変位が目標とする横変位になるように前記操舵アクチュエータを制御する操舵制御手段と、実際の車両の向きに対して前記磁気センサの速度がなす横滑り速度を磁気センサの位置での磁力源に対する車両の横方向へのセンサ横滑り速度とした場合、前記センサ横滑り速度を低減する横滑り速度低減手段とを備えたことを特徴とする車両の自動操舵装置。
- 前記横滑り速度低減手段は、少なくとも前記操舵アクチュエータで操舵される前輪又は後輪と異なる後輪又は前輪を補助操舵する補助操舵アクチュエータと、車両の走行状態に関する情報を検出する走行状態情報検出手段と、この走行状態情報検出手段で検出された走行状態情報に基づいて前記センサ横滑り速度を低減するように前記補助操舵アクチュエータを制御する補助操舵制御手段とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の車両の自動操舵装置。
- 前記補助操舵アクチュエータで補助操舵される後輪又は前輪の舵角を検出する補助舵角検出手段を備えると共に、前記走行状態情報検出手段として、車速を検出する車速検出手段と、車線の曲率を検出する車線曲率検出手段とを備え、前記補助操舵制御手段は、前記車速検出手段で検出された車速及び車線曲率検出手段で検出された車線曲率に基づいて、前記センサ横滑り速度を低減するために必要な、前記補助操舵アクチュエータで補助操舵される後輪又は前輪の目標とする舵角を設定し、この目標とする舵角に前記補助舵角検出手段で検出される舵角が一致するように前記補助操舵アクチュエータを制御することを特徴とする請求項2に記載の車両の自動操舵装置。
- 前輪を操舵することで車線追従制御を行い、後輪を補助操舵することでセンサ横滑り速度を低減することを特徴とする請求項3に記載の車両の自動操舵装置。
- 前記補助操舵される後輪又は前輪の目標とする舵角を、状態推定器で設定することを特徴とする請求項3に記載の車両の自動操舵装置。
- 前記状態推定器がカルマンフィルタで構成されることを特徴とする請求項5に記載の車両の自動操舵装置。
- 前記横滑り速度低減手段は、少なくとも車両に発生する横方向への横運動量を調整可能な横運動量調整手段と、車両の走行状態に関する情報を検出する走行状態情報検出手段と、この走行状態情報検出手段で検出された走行状態情報に応じて前記センサ横滑り速度を低減するように前記横運動量調整手段を制御する横運動量制御手段とを備えたことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の車両の自動操舵装置。
- 前記横運動量調整手段で調整される車両の横運動量を検出する横運動量検出手段を備えると共に、前記走行状態情報検出手段として、車速を検出する車速検出手段と、車線の曲率を検出する車線曲率検出手段とを備え、前記横運動量制御手段は、前記車速検出手段で検出された車速及び車線曲率検出手段で検出された車線曲率に基づいて、前記センサ横滑り速度を低減するために必要な、前記横運動量調整手段で調整される車両の目標とする横運動量を設定し、この目標とする横運動量に前記横運動量検出手段で検出される横運動量が一致するように前記横運動量調整手段を制御することを特徴とする請求項7に記載の車両の自動操舵装置。
- 前記調整される車両の目標とする横運動量を、状態推定器で設定することを特徴とする請求項8に記載の車両の自動操舵装置。
- 前記状態推定器がカルマンフィルタで構成されることを特徴とする請求項9に記載の車両の自動操舵装置。
- 前記横運動量調整手段が、各車輪のトラクションを調整することで車両に発生するヨーモーメントを調整するトラクション調整手段であることを特徴とする請求項7乃至10の何れかに記載の車両の自動操舵装置。
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