JP3692585B2 - スラストころ軸受 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明に係るスラストころ軸受(ニードル軸受を含む。)は、自動車のトランスミッションやカークーラ用コンプレッサ等の回転部分に装着してスラスト荷重を支承するのに利用する。
【0002】
【従来の技術】
トランスミッションやカークーラ用コンプレッサ等の回転部分には、例えば図4に示す様なスラストころ軸受1を装着して、回転軸等に加わるスラスト荷重を支承する。このスラストころ軸受1は、放射方向に配列された複数のころ2と、全体を円輪状に造られてこの複数のころ2を転動自在に保持する保持器3と、この複数のころ2を左右(左右は図面による。使用状態での左右位置を表すものではない。本明細書全体で同じ。)両側から挟持する外輪4及び内輪5とから成る。これら外輪4及び内輪5はそれぞれ、十分な硬度を有する金属板により円輪状に造られている。このうちの外輪4は、円輪状の外輪レース部6と、この外輪レース部6の外周縁に全周に亙って形成された円筒状の外側フランジ7とから成る。一方、上記内輪5は、円輪状の内輪レース部8と、この内輪レース部8の内周縁に全周に亙って形成された円筒状の内側フランジ9とから成る。
【0003】
又、上記保持器3は、それぞれが断面コ字形で全体を円輪状に造られた金属板を最中状に組み合わせて成り、上記ころ2と同数のポケット10を放射方向に配列している。上記外側フランジ7の先端縁には、全周若しくは円周方向複数個所を部分的に、直径方向内方に折り曲げる事により、外側係止部11を形成している。そして、この外側係止部11と上記保持器3の外周縁との係合により、上記保持器3と外輪4との分離防止を図っている。一方、上記内側フランジ9の先端縁には、全周若しくは円周方向複数個所を部分的に、直径方向外方に折り曲げる事により、内側係止部12を形成している。そして、この内側係止部12と上記保持器3の内周縁との係合により、上記保持器3と内輪5との分離防止を図っている。従って、スラストころ軸受1を構成する上記各部材が分離する事はない。
【0004】
上述の様に構成されるスラストころ軸受1は、例えば図4に示す様に、上記外輪4の外周縁に形成した外側フランジ7を、ケーシング13の保持部14に内嵌した状態で、スラスト荷重が発生する回転部分に装着する。この状態で上記外輪4を構成する外輪レース部6は上記保持部14の段部15に当接し、内輪5を構成する内輪レース部8は、軸16の段部17に当接する。この結果、この軸16がケーシング13に対し回転自在に支持されると共に、これら両部材16、13同士の間に作用するスラスト荷重が支承される。尚、上記保持器3の外周面と上記外側フランジ7の内周面との間には外側隙間18を、同じく保持器3の内周面と上記内側フランジ9の外周面との間には内側隙間19を、それぞれ介在させている。これら両隙間18、19の存在に基づき上記保持器3は、上記外輪4及び内輪5に対して、直径方向に亙る若干の変位を自在である。従って、上記ケーシング13に対して上記軸16が偏心していた場合にも、この偏心を吸収しつつ、これら両部材13、16同士の回転を許容する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述の様に構成され作用する従来のスラストころ軸受1の場合には、ケーシング13に対する軸16の偏心量が多くなる(偏心量が外側隙間18、内側隙間19の幅寸法よりも大きくなる)と、この偏心を吸収し切れなくなる。そして、偏心を吸収し切れなくなると、保持器3の外周面又は内周面が、外側フランジ7の内周面又は内側フランジ9の外周面と干渉し、干渉した周面同士が強く擦れ合ったり、更には保持器3に過大なラジアル荷重が加わる。この結果、スラストころ軸受部分での発熱量が大きくなり、焼き付き等の故障の原因となったり、或は保持器3の損傷が発生する原因となる。
【0006】
上述の様な不都合の原因となる干渉を防止する為に、上記外側隙間18及び内側隙間19の幅寸法を大きくする事が考えられる。但し、図4に示す様な構造のままこの様な方法を採用した場合には、ころ2を保持した保持器3と外輪4及び内輪5との分離防止を図る事ができなくなる。この結果、ケーシング13と軸16との間にスラストころ軸受1を組み込む作業が面倒になる。本発明のスラストころ軸受は、この様な事情に鑑みて、組み込み作業が面倒になるのを防止しつつ、より大きな偏心量も吸収可能な構造を提供すべく考えたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明のスラストころ軸受は何れも、前述した従来のスラストころ軸受と同様に、放射方向に配列された複数のころと、全体を円輪状に造られてこの複数のころを転動自在に保持する保持器と、円輪状の外輪レース部とこの外輪レース部の外周縁に全周に亙って形成された円筒状の外側フランジとから成る外輪と、円輪状の内輪レース部とこの内輪レース部の内周縁に全周に亙って形成された円筒状の内側フランジとから成る内輪とを備える。そして、上記外輪レース部と上記内輪レース部との間で上記複数のころを挟持する事により構成される。
【0008】
特に、本発明のスラストころ軸受に於いては、上記保持器の外周面と上記外側フランジの内周面との間の外側隙間とこの保持器の内周面と上記内側フランジの外周面との間の内側隙間とのうちの少なくとも一方の隙間を、上記外輪を支持する部材と上記内輪を支持する部材との偏心量よりも大きくしている。
又、請求項1に記載したスラストころ軸受の場合には、上記外側フランジと内側フランジとのうちの少なくとも一方のフランジに円輪部を、上記偏心量よりも大きな隙間を越えて設けている。そして、この円輪部の先端部と上記保持器の周縁部との係合に基づき、当該フランジを形成した外輪又は内輪とこの保持器との分離防止を図っている。これと共に、上記円輪部の一部で上記隙間に対向する部分に複数の通油孔を、円周方向に亙って間欠的に形成している。
一方、請求項2に記載したスラストころ軸受の場合には、上記外側フランジと内側フランジとのうちの少なくとも一方のフランジの先端縁に複数の突片を、円周方向に亙って間欠的に、それぞれ上記偏心量よりも大きな隙間を越えて設けている。そして、これら各突片の先端部と上記保持器の周縁部との係合に基づき、当該フランジを形成した外輪又は内輪とこの保持器との分離防止を図っている。
【0009】
【作用】
上述の様に構成される本発明のスラストころ軸受の軸受作用自体は、従来のスラストころ軸受と同様である。特に、本発明のスラストころ軸受の場合には、外側隙間と内側隙間とのうちの少なくとも一方の隙間を、ケーシング等、外輪レース部を当接支持する部材と、軸等、内輪レース部を当接支持する部材との偏心量よりも大きくしている為、この隙間が偏心に基づく上記両部材同士の変位を吸収する。しかも、この隙間を大きくした場合でも、円輪部又は複数の突片が保持器と外輪又は内輪との分離防止を図る為、スラストころ軸受の組み込み作業が面倒になる事はない。又、複数の通油孔(請求項1の場合)或いは円周方向に隣り合う突片同士の間部分(請求項2の場合)を通じて、外輪レース部と内輪レース部との間で複数のころを設けた部分に、十分な量の潤滑油を流通させる事ができる。
【0010】
【実施例】
図1は、請求項1に対応する、本発明の第一実施例を示している。尚、本発明のスラストころ軸受1aの特徴は、組み付け以前に外輪4及び内輪5と保持器3とが分離するのを防止しつつ、保持器3の内外両周面と外側フランジ7の内周面及び内側フランジ9の外周面とが干渉するのを防止すると共に、複数のころ2を設けた部分に十分な量の潤滑油を流通させる為の構造にある。その他の部分の構造及び作用は、前記図4に示した従来のスラストころ軸受1と同様であるから、同等部分には同一符号を付して重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本発明の特徴部分を中心に説明する。
【0011】
上記保持器3の内周面と内側フランジ9の外周面との間には、ラジアル方向(図1の上下方向)に亙って十分な幅寸法W19a を有する内側隙間19aを設けている。又、内側フランジ9には、係止リング20を内嵌固定している。この係止リング20は、例えば耐油性及び耐熱性を有する合成樹脂を射出成形する事により、断面L字形で全体を円環状に形成したもので、円筒部21と、この円筒部21の一端縁(図1の右端縁)から連続する円輪部22とから成る。この様な係止リング20は、上記円筒部21を上記内側フランジ9に内嵌する事により、上記内輪5に固定する。この状態で上記内側フランジ9の先端縁(図1の右端縁)を、上記円輪部22の片側面外周寄り端部(図1の左側面下端部)に突き当てる。
【0012】
上記係止リング20を、この様に上記内側フランジ9に内嵌固定した状態で、上記円輪部22はこの内側フランジ9の内周面から、L22分だけ直径方向外方(図1の上方)に突出する。この部分の突出量L22は、上記内側隙間19aの幅寸法W19a よりも大きい(L22>W19a )。言い換えれば、上記円輪部22の外径D22は、前記保持器3の内径R3 よりも大きい(D22>R3 )。従って、スラストころ軸受1aを組み立てた状態で、上記円輪部22の外周縁部と上記保持器3の内周縁部とは、スラスト方向に亙って互いに重畳し、保持器3と内輪5とが分離するのを防止する。保持器3と外輪4との分離防止は、前述した従来構造と同様に、外側フランジ7に形成した外側係止部11と保持器3の外周縁との係合により図っている。この結果、スラストころ軸受1aを構成する保持器3と外輪4及び内輪5とが、互いに非分離に結合される。
【0013】
尚、上記円輪部22の外径D22は、この円輪部22と保持器3との係り代を十分に確保し、且つこの円輪部22の外周縁と上記外輪4の内周縁との間の隙間24の寸法L24を十分に確保すべく、設計的に規制する。即ち、ケーシング13に対して軸16が振れ回り運動した場合に、上記円輪部22の外周縁と上記外輪4の内周縁とが衝合しない様にすべく、上記外輪4の内径R4 と円輪部22の外径D22との差(R4 −D22)を十分に確保する。内輪レース部8の外周縁と外側係止部11の先端部との間の隙間26に就いても同様である。更に、図示の実施例の場合には、上記円輪部22の一部で上記内側隙間19aに対向する部分に複数の通油孔23を、円周方向に亙って間欠的に形成している。これら複数の通油孔23は、外輪レース部6と内輪レース部8との間で複数のころ2を設けた部分に、十分な量の潤滑油を流通させる為に設けている。
【0014】
上述の様に構成される本発明のスラストころ軸受1aの使用時には、例えば、外輪4の外周縁に形成した外側フランジ7を、ケーシング13の保持部14に内嵌した状態で、スラスト荷重が発生する回転部分に装着する。この状態で上記外輪4を構成する外輪レース部6は上記保持部14の段部15に当接し、内輪5を構成する内輪レース部8は、軸16の段部17に当接する。この結果、この軸16がケーシング13に対し回転自在に支持されると共に、これら両部材16、13同士の間に作用するスラスト荷重が支承される。上記ケーシング13と軸16とが偏心している場合には、この軸16の回転に伴って上記内輪5が、上記外輪4に対して振れ回り運動を行なう。この振れ回り運動に基づく、上記外輪4に対する内輪5の直径方向に亙る変位は、上記内側隙間19aにより吸収する。そして、上記振れ回り運動により、上記保持器3の周面に過大な荷重が加わる事を防止して、この保持器3の損傷を防止する。
【0015】
特に、本発明のスラストころ軸受1aの場合には、ころ2を保持した保持器3と外輪4及び内輪5とを非分離状態として一体的に取り扱える様にしているにも拘らず、内側隙間19aのラジアル方向に亙る幅寸法W19a を十分に確保しているので、上記ケーシング13と軸16との偏心量を大きくして、十分に上記変位を吸収できる。又、上記外輪レース部6と上記内輪レース部8との間で前記複数のころ2を設けた部分に、前記複数の通油孔23を通じて、十分な量の潤滑油を流通させる事ができる。
【0016】
次に、図2も、請求項1に対応する、本発明の第二実施例を示している。本実施例は、スラストころ軸受1bを軸16で案内する構造に、本発明を適用したものである。この為に本実施例は、第一実施例と直径方向の内外を逆にした如き構造を有する。即ち、本実施例の場合には、保持器3の外周面と外側フランジ7の内周面との間に、ラジアル方向(図2の上下方向)に亙って十分な幅寸法W18a を有する外側隙間18aを設けている。そして、上記外側フランジ7に、係止リング20aの円筒部21aを外嵌固定し、この係止リング20aの円輪部22aの内周縁部と保持器3の外周縁部との係合により、保持器3と外輪4との分離防止を図っている。その他の構成及び作用は、直径方向に亙る内外が逆になった以外、上述した第一実施例と同様である。
【0017】
次に、図3は、請求項2に対応する、本発明の第三実施例を示している。前述した第一実施例及び上述した第二実施例が何れも、外側フランジ7又は内側フランジ9に嵌合固定した係止リング20、20aの円輪部22、22aにより、外輪4又は内輪5と保持器3との分離防止を図っているのに対して、本実施例のスラストころ軸受1cの場合には、内側フランジ9の先端縁に突片25を、直径方向外側(図3の上側)に向け形成している。この突片25は、円周方向に亙って間欠的に、複数個設けている。そして、これら各突片25の先端縁と保持器3の内周縁とを係合させる事により、上記内輪5と保持器3との分離防止を図っている。保持器3と内輪5との分離防止を図る為の部材が、係止リング20の円輪部22から複数の突片25に変わった以外の構成及び作用は、前述した第一実施例と同様である。従って、本実施例の場合には、外輪レース部6と内輪レース部8との間で複数のころ2を設けた部分に、円周方向に隣り合う突片25同士の間部分を通じて、十分な量の潤滑油を流通させる事ができる。
【0018】
【発明の効果】
本発明のスラストころ軸受は、以上に述べた通り構成され作用する為、偏心した状態で相対回転する部材同士の間のスラスト荷重を受けるスラストころ軸受の耐久性を確保できる。更には、特に構成各部の寸法精度及び組み付け精度を高くしなくても、外輪及び内輪と保持器との干渉を防止して、この保持器の損傷防止を図れる。又、組み付け作業が面倒になる事もない。又、外輪レース部と内輪レース部との間で複数のころを設けた部分に、十分な量の潤滑油を流通させる事ができる。従って、高い信頼性及び耐久性を有する回転支持部を低コストで得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第一実施例を示す部分断面図。
【図2】 同第二実施例を示す部分断面図。
【図3】 同第三実施例を示す部分断面図。
【図4】 従来のスラストころ軸受の1例を示す部分断面図。
【符号の説明】
1、1a、1b、1c スラストころ軸受
2 ころ
3 保持器
4 外輪
5 内輪
6 外輪レース部
7 外側フランジ
8 内輪レース部
9 内側フランジ
10 ポケット
11 外側係止部
12 内側係止部
13 ケーシング
14 保持部
15 段部
16 軸
17 段部
18、18a 外側隙間
19、19a 内側隙間
20、20a 係止リング
21、21a 円筒部
22、22a 円輪部
23 通油孔
24 隙間
25 突片
26 隙間
Claims (2)
- 放射方向に配列された複数のころと、全体を円輪状に造られてこの複数のころを転動自在に保持する保持器と、円輪状の外輪レース部とこの外輪レース部の外周縁に全周に亙って形成された円筒状の外側フランジとから成る外輪と、円輪状の内輪レース部とこの内輪レース部の内周縁に全周に亙って形成された円筒状の内側フランジとから成る内輪とを備え、上記外輪レース部と上記内輪レース部との間で上記複数のころを挟持して成るスラストころ軸受に於いて、上記保持器の外周面と上記外側フランジの内周面との間の外側隙間とこの保持器の内周面と上記内側フランジの外周面との間の内側隙間とのうちの少なくとも一方の隙間を、上記外輪を支持する部材と上記内輪を支持する部材との偏心量よりも大きくすると共に、上記外側フランジと内側フランジとのうちの少なくとも一方のフランジに円輪部を、上記偏心量よりも大きな隙間を越えて設け、この円輪部の先端部と上記保持器の周縁部との係合に基づき、当該フランジを形成した外輪又は内輪とこの保持器との分離防止を図る共に、上記円輪部の一部で上記隙間に対向する部分に複数の通油孔を、円周方向に亙って間欠的に形成した事を特徴とするスラストころ軸受。
- 放射方向に配列された複数のころと、全体を円輪状に造られてこの複数のころを転動自在に保持する保持器と、円輪状の外輪レース部とこの外輪レース部の外周縁に全周に亙って形成された円筒状の外側フランジとから成る外輪と、円輪状の内輪レース部とこの内輪レース部の内周縁に全周に亙って形成された円筒状の内側フランジとから成る内輪とを備え、上記外輪レース部と上記内輪レース部との間で上記複数のころを挟持して成るスラストころ軸受に於いて、上記保持器の外周面と上記外側フランジの内周面との間の外側隙間とこの保持器の内周面と上記内側フランジの外周面との間の内側隙間とのうちの少なくとも一方の隙間を、上記外輪を支持する部材と上記内輪を支持する部材との偏心量よりも大きくすると共に、上記外側フランジと内側フランジとのうちの少なくとも一方のフランジの先端縁に複数の突片を、円周方向に亙って間欠的に、それぞれ上記偏心量よりも大きな隙間を越えて設け、これら各突片の先端部と上記保持器の周縁部との係合に基づき、当該フランジを形成した外輪又は内輪とこの保持器との分離防止を図った事を特徴とするスラストころ軸受。
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