JP3685887B2 - 電解質と非電解質の混合溶液の調合方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水等の水系溶媒に所定濃度の電解質と非電解質を混合した混合溶液の調合方法に関するものである。本発明は、特に、食品工業や製薬工業において使用され、特に、医療分野における透析液の調合などにおいて有効に使用される。
【0002】
【従来の技術】
従来、食品工業や製薬工業において、例えば食塩や炭酸ソーダなどの電解質と砂糖やアルコールなどの非電解質とを、水その他の水系の極性溶媒に溶解して使用することが多い。又、医療分野においても、透析治療に用いる透析液は、電解質の塩化ナトリウム、非電解質のグルコース、及びその他の微量成分を溶解した水溶液が使用されている。
【0003】
これらの製品を製造する場合、従来は、所定量の溶媒に所定量の電解質および非電解質を添加混合する方法が行なわれていたが、添加物質の吸湿による重量の不確実性や添加による溶液量の増加などにより、正確な濃度の混合溶液を調合することが困難である問題があった。
【0004】
そこで、溶液の溶質濃度を測定しながら、溶質の添加、混合を行なえば、正確な濃度の混合溶液を調合することができるが、このためには、溶質の添加、混合に対し溶液の溶質濃度を実時間で測定できることが必要である。
【0005】
従来、塩化ナトリウムなどの電解質溶液の濃度測定には各種の方法があるが、装置が簡単で取扱いやすく、しかも測定値の変動要因が少なく高信頼性であるなど、多くの利点を有するために広く用いられている方法に、電気伝導率計による溶液の電気伝導率測定の方法がある。この溶液の電気伝導率測定の方法は、水などに電解質を添加すると、電解質の添加量に応じて水の電気伝導率が直線的に増加する電気伝導率変化を利用して、その溶液の電解質濃度を測定するもので、溶液の電解質濃度と溶液の電気伝導率の関係(検量線)を予め求めておくことにより、電解質の添加混合に対し実時間で溶液の電解質濃度を測定することができる。
【0006】
一方、グルコースなどの非電解質溶液の濃度測定方法には、溶液の屈折率や偏光度の測定が知られているが、これらの方法は、測定装置が複雑で取扱いが難しく、かつ信頼性が低く、試料の調製によって測定値が変動しやすいなどの欠点があり、溶液の非電解質濃度を添加混合と実時間で測定するには不向きであった。
【0007】
本発明者らは、電解質と非電解質を混合した正確な濃度の混合溶液を作製することを可能にするために、溶液の非電解質濃度を測定する方法を鋭意研究した。その結果、従来、溶液の電気伝導率測定による溶質濃度の測定方法が適用できるのは電解質についてであって、イオン解離しないグルコースなどの非電解質については、電気伝導率測定では溶質の濃度測定ができないと考えられていたのが、電解質溶液に非電解質を添加して行くと、非電解質の添加量の増加に従って溶液の電気伝導率が一定の関係で減少することを見出した。従って、予め電解質と非電解質が同一な系について混合溶液の電気伝導率と非電解質の濃度との相関関係(検量線)を求めておけば、混合溶液の電気伝導率を測定することにより、非電解質濃度を実時間で測定することができることを知見し、先ごろ、「電解質溶液中の非電解質濃度測定方法」と題して出願した(特願平7−70274号)。
【0008】
図7は、透析液A剤のグルコースを除く電解質分の水溶液にグルコースを添加したときの電気伝導率の変化を示すグラフ、図8は、電解質分の水溶液にグルコースを添加した混合水溶液における電気伝導率とグルコース濃度の相関関係を示すグラフである。
【0009】
透析液A剤のグルコースを除く電解質分は、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化カルシウム(CaCl2 ・2H2 O)、塩化マグネシウム(MgCl2 )、酢酸ナトリウム(CH3 COONa)を、NaCl:KCl:CaCl2 ・2H2 O:MgCl2 ・6H2 O:CH3 COONa=1933:47:69:32:258の割合で含んだものである。
【0010】
この電解質分を約289g、20℃の水1リットル中に均一に溶解し(A剤電解質分濃度4.4mol/l)、得られた水溶液を1リットル、ガラス容器に入れ、これに粉末状のグルコースを約13.4gだけ加え(グルコース濃度約74mmol/l)、均一に撹拌混合した後、電気伝導率計を使用して混合水溶液の電気伝導率を測定した。混合水溶液の電気伝導率は最初は時間と共に低下するが、所定時間経過後に一定の値となる。以後、容器内に更にグルコースを約13.4gづつ添加し(グルコース濃度約148、188、221.3及び296mmol/l)、それぞれ混合水溶液の電気伝導率を測定し、図7および図8のグラフを得た。
【0011】
図7から、グルコースの添加量が増えるに従って混合水溶液の電気伝導率が低下することが分かり、図8から、その電気伝導率の低下は混合水溶液のグルコース濃度の増加と直線的な相関関係が存在することが分かる。
【0012】
従って、透析液A剤の電解質分の水溶液にグルコースを添加した混合水溶液について、混合水溶液の電気伝導率とグルコース濃度の検量線(相関関係)を予め求めておけば、混合水溶液の電気伝導率の測定から混合水溶液のグルコース濃度を実時間で直ちにかつ正確に測定することができる。従って、電解質と非電解質(グルコース)を混合した所定濃度の透析液A剤の水溶液を正確に作製することができる。
【0013】
このような濃度測定法を利用した混合溶液、たとえば透析液A剤の調合は、調合槽と、調合槽に水を供給する水供給手段と、調合槽に電解質を供給する電解質供給手段と、調合槽に非電解質を供給する非電解質供給手段と、調合槽に設けられた撹拌手段、排出手段および電気伝導率計とを備えた混合装置を使用して、次のように行なうことができる。
【0014】
まず、調合槽に水を供給して満たし、その水を撹拌手段により撹拌する。その撹拌下に電解質供給手段により電解質を連続的に添加混合するとともに、電気伝導率計によりその電解質を混合した電解質水溶液の電気伝導率を測定して、水溶液の電解質濃度を検知し、所定の電解質濃度を検知した時点で電解質の添加を停止する。これにより所定濃度の電解質水溶液を得る。次いで、得られた電解質水溶液を撹拌したまま、これに非電解質供給手段によりグルコースを連続的に添加混合し、前記の電気伝導率計によりグルコースを溶解した混合水溶液の電気伝導率を測定して、混合水溶液のグルコース濃度を検知し、所定のグルコース濃度を検知した時点でグルコースの添加を停止する。これにより、所定濃度の電解質と所定濃度のグルコースを含む混合水溶液が得られる。その後、このようにして調合された混合水溶液(A剤)を排出手段により調合槽から排出して、他の装置にて調製された所定濃度の電解質溶液(炭酸水素ナトリウム水溶液(B剤))と合するために、調合貯留槽などへと供給し、所定濃度の透析液或いは透析液原液に調製される。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、以上のような透析液のA剤の調合作業、つまり、(a)調合槽への水の供給、(b)水への電解質の連続的な添加混合、およびその水溶液の電気伝導率の測定による所定濃度の電解質水溶液の作製、(c)電解質水溶液へのグルコースの連続的な添加混合、およびその混合水溶液の電気伝導率の測定による所定濃度の電解質と非電解質を含む混合水溶液(A剤)の調合、(d)調合槽からの混合水溶液の排出の一連の工程の調合作業は、作業を1度始めると一連の工程を複数回繰り返して、複数回分の調合を行なう。次に調合作業を再開するときには、調合槽やこれに付帯した管路など、調合装置の各部位の殺菌、洗浄を行なってから、上記(a)以下の作業を開始する。
【0016】
このような調合装置の運用法から、第1回目の調合時には、調合作業開始の際に、調合装置に前の回に調合した混合水溶液を排出した残りの残留液が残っていることはないが、第2回目以降の調合時には、調合装置に前の回の混合水溶液の残留液が不可避的に残存しており、調合槽に水を供給、撹拌し、電解質を添加混合すると、これに残留液が合せられる事態が生じる。
【0017】
この残留液が合せられた電解質水溶液の電気伝導率を測定すると、電解質濃度が同一であっても、電気伝導率計の指示値は、残留液中に含まれるグルコース量の分だけ低目に出る。従って、第2回目以降の調合にあわせて電解質水溶液の電気伝導率と電解質濃度の検量線を作製し、電解質濃度の測定に使用して電解質水溶液を調製すると、得られた電解質水溶液の電解質濃度が第2回目以降よりも第1回目で低くなり、従って、調合した混合水溶液(A剤)の電解質濃度が第2回目以降よりも第1回目で低いという問題があった。
【0018】
本発明の目的は、第1回目の調合における電解質溶液の電解質濃度低下を簡単に防ぐことができ、第1回目から最終回目の調合に亙って電解質濃度の低下がない、所定濃度の電解質と所定濃度の非電解質を含む混合溶液を安定して得ることを可能とした混合溶液の調合方法を提供することである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、本発明に係る混合溶液の調合方法にて達成される。要約すれば、本発明は、調合槽と、調合槽に水系の極性溶媒を供給する溶媒供給手段と、調合槽に電解質を供給する電解質供給手段と、調合槽に非電解質を供給する非電解質供給手段と、調合槽に設けられた撹拌手段と、調合槽に設けられた排出手段と、調合槽に設けられた電気伝導率計とを備えた混合装置を使用して行なう電解質と非電解質の混合溶液の調合方法であって、
(a)調合槽に溶媒を供給し、(b)供給された溶媒に、撹拌手段による撹拌下に電解質供給手段により電解質を連続的に添加混合しながら、電気伝導率計によりその電解質を混合した電解質溶液の電気伝導率を測定して、前記電解質溶液の電解質濃度を検知することにより所定濃度の電解質溶液を作製し、(c)次いでその電解質溶液を撹拌したまま、これに非電解質供給手段により非電解質を連続的に添加混合しながら、前記電気伝導率計によりその非電解質を混合した混合溶液の電気伝導率を測定して、混合溶液の非電解質濃度を検知することにより、所定濃度の電解質と所定濃度の非電解質を含む混合溶液を調合し、(d)然る後に排出手段により混合溶液を排出する、前記(a)、(b)、(c)、(d)の一連の工程を複数回繰り返す、電解質と非電解質の混合溶液の調合方法において、
前記混合溶液の複数回の調合のうちの第1回目の調合においては、前記(a)工程の後(b)工程の前に、前記調合槽に供給した水に、第1回目以降の調合により調合された混合溶液を排出後の前記混合装置に不可避的に残留する残留液に含まれる非電解質量と同量の非電解質を投入することを特徴とする電解質と非電解質の混合溶液の調合方法である。
【0020】
本発明によれば、前記撹拌手段は調合槽に取付けた循環路を含む循環手段とすることができ、前記電気伝導率計は前記循環路に設置される。また、前記溶媒は水であり、前記電解質は塩化ナトリウムを主成分とする電解質薬剤であり、前記非電解質はグルコース薬剤である。
【0021】
本発明の他の態様では、前記混合溶液の複数回の調合のうちの第1回目の調合においては、前記(a)工程の後(b)工程の前に、前記調合槽に供給した溶媒に、第2回目以降の調合時に調合された混合溶液を排出後の前記混合装置に不可避的に残留する残留液に含まれる非電解質量と同量の非電解質を投入する代わりに、前記電気伝導率の測定による電解質溶液の電解質濃度を検知する前記電気伝導率計の濃度設定値を、第1回目以降の調合により調合された混合溶液を排出後の前記混合装置に不可避的に残留する残留液に含まれる非電解質分に相当する変動量だけ変更して設定することを特徴とする。
【0022】
本発明の更に他の態様は、第1の調合槽と、第1の調合槽に水系の極性溶媒を供給する溶媒供給手段と、第1の調合槽に電解質を供給する電解質供給手段と、第1の調合槽に設けられた第1の撹拌手段と、第1の調合槽に設けられた第1の電気伝導率計と、第1の調合槽に設けられた第1の排出手段と、第2の調合槽と、第2の調合槽に非電解質を供給する非電解質供給手段と、第2の調合槽に設けられた第2の撹拌手段と、第2の調合槽に設けられた第2の電気伝導率計と、第2の調合槽に設けられた第2の排出手段とを備えた混合装置を使用して行なう電解質と非電解質の混合溶液の調合方法であって、
(a)第1の調合槽に溶媒を供給し、(b)供給された溶媒に、第1の撹拌手段による撹拌下に電解質供給手段により電解質を連続的に添加混合しながら、第1の電気伝導率計によりその電解質を混合した電解質溶液の電気伝導率を測定して、前記電解質溶液の電解質濃度を検知することにより所定濃度の電解質溶液を作製し、(c)その電解質溶液を第1の排出手段により排出して第2の調合槽に供給し、(d)次いで、供給された電解質溶液に、第2の撹拌手段による撹拌下に非電解質供給手段により非電解質を連続的に添加混合しながら、第2の電気伝導率計によりその非電解質を混合した混合溶液の電気伝導率を測定して、混合溶液の非電解質濃度を検知することにより、所定濃度の電解質と所定濃度の非電解質を含む混合溶液を調合し、(e)然る後に第2の排出手段により混合溶液を排出する、前記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)の一連の工程を複数回繰り返すことを特徴とする電解質と非電解質の混合溶液の調合方法である。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
【0024】
実施例1
図1は、本発明の混合溶液の調合方法を実施するのに使用する混合装置を示す構成図である。本混合装置は、透析液の特にA剤を調合するのに好適に使用できる装置であるが、広く他の種類の混合溶液を調合するのに使用することもできる。
【0025】
図1に示すように、混合装置1は、調合槽15と、透析液のA剤におけるグルコースを除いた電解質分である粉末状の電解質薬剤101を貯留したホッパのような貯留手段11と、非電解質分である粉末状のグルコース102を貯留したホッパのような貯留手段12とを有し、貯留手段11、12はそれぞれ供給装置13、14を介して調合槽15に接続されている。調合槽15には、R/O水(逆浸透膜処理水)などの細菌を含まない水を供給する管路16が電磁弁17を介して接続され、又調合槽15の出口には、管路18を介してポンプ19が接続されている。このポンプ19には、調合槽15から吐出した水溶液を再度調合槽15内へ還流し、循環する管路20と、調合槽15内の調合された所定濃度の混合水溶液(A剤)を図示しない調合貯留槽あるいは透析装置へと送給するための管路21が接続されている。管路20には電磁弁22および電気伝導率計24が設置され、管路21には電磁弁23が設置されている。
【0026】
この混合装置1により透析液A剤の調合を行なうには、まず、電磁弁17が開き、管路16を通してR/O水を調合槽15に導入する。水量は、調合槽15内に設けたフロートスイッチのような計量手段25で計量される。水量が計量されると、弁22を開、弁23を閉とした状態でポンプ19を作動して、調合槽15内の水を管路18及び20を介して循環し、撹拌する。
【0027】
続いて、ホッパ11から電解質薬剤101を供給装置13を介して調合槽15内へと連続的に供給する。この電解質薬剤101は、透析液のA剤におけるグルコースを除いた塩化ナトリウムを主体とした電解質分で、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化カルシウム(CaCl2 ・2H2 O)、塩化マグネシウム(MgCl2 )、酢酸ナトリウム(CH3 COONa)を、NaCl:KCl:CaCl2 ・2H2 O:MgCl2 ・6H2 O:CH3 COONa=1933:47:69:32:258の割合で含む粉末状の薬剤である。
【0028】
電解質薬剤101は、循環する水により調合槽15内にて撹拌、混合される。従って、管路20に設置された電気伝導率計24により、この管路20内を流動する電解質水溶液の電気伝導率を測定すれば、水溶液の電気伝導率と電解質濃度との検量線に基づき、水溶液の電解質濃度を測定することができる。この電気伝導率計24の指示に従い、電解質薬剤101を調合槽15内へと適宜供給して、所定の電解質濃度を検知した時点で電解質薬剤101の供給を停止することにより、塩化ナトリウムを主成分とする所定濃度の電解質水溶液が調製される。
【0029】
所定濃度の電解質水溶液が調合槽15内に調製されると、次に、電解質水溶液の流動による撹拌下に、粉末状のグルコース薬剤102をホッパ12から、供給装置14により所定量づつ調合槽15へと供給する。調合槽15内の電解質水溶液とグルコースとはポンプ19により、管路20を介して循環流動することにより十分に撹拌され、電解質水溶液にグルコースを溶解した混合水溶液となる。この管路20内を流動する混合水溶液の電気伝導率を管路20に設置された電気伝導率計24により測定することにより、例えば上記図8に示すような、透析液のA剤に関し、所定濃度の電解質水溶液にグルコースを添加したときの、混合水溶液の電気伝導率とグルコース濃度の検量線から、混合水溶液のグルコース濃度を測定することができる。
【0030】
このようにして、所定濃度の電解質水溶液に所定濃度のグルコースを含有した混合水溶液(A剤)が調合槽15内にて調製されると、次に弁22を閉とし、弁23を開とすることによって、調合槽15内の混合水溶液は管路21へ排出され、管路21を流動して調合貯留槽(図示せず)などへと供給される。調合貯留槽には、他の装置にて調製された所定濃度の炭酸水素ナトリウムからなる電解質水溶液(B剤)が供給され、所定濃度の透析液、或いは透析液原液が調製される。
【0031】
上述したように、以上のようなA剤の調合作業、つまり、(a)調合槽15への水の供給、(b)水への電解質の連続的な添加混合、およびその水溶液の電気伝導率の測定による所定濃度の電解質水溶液の作製、(c)電解質水溶液へのグルコースの連続的な添加混合、およびその混合水溶液の電気伝導率の測定による所定濃度の電解質と所定濃度のグルコースを含む混合水溶液(A剤)の調合、(d)調合槽からの混合水溶液の排出の一連の工程の調合作業は、一連の工程を複数回繰り返して行なってから終了し、次に調合作業を再開するときには、調合槽やこれに付帯した管路など、混合装置の各部位の殺菌、洗浄を行なってから、上記(a)以下の作業を開始する。
【0032】
このような混合装置1の運用法から、第1回目の調合時には、調合作業開始の際に、混合装置1に前の回に調合した混合水溶液を排出した残りの残留液が残っているということはないが、第2回目以降の調合時は、混合装置1、特に管路20等に前の回の混合水溶液の残留液が不可避的に残存しており、調合槽1に水を供給、循環して撹拌し、電解質を添加混合すると、これに残留液が合せられる事態が生じる。
【0033】
この残留液が合せられた電解質水溶液の電気伝導率ρ(mS/cm)を測定すると、残留液中に含まれるグルコースにより電気伝導率が影響を受け、電解質濃度C(mmol/l)が同一であっても、残留液が合せられない電解質水溶液の電気伝導率よりも、含まれるグルコース量の分だけ低くなる。つまり、電気伝導率と電解質濃度との関係は、第2回目以降の調合時には、第1回目の調合時の図2の直線L1 から直線L2 に変化し、同一電解質濃度C0 に対し、第2回目以降の調合時の電気伝導率計の指示値ρ=ρ2 は、第1回目の調合時の指示値ρ=ρ1 よりも低目に出る。
【0034】
今、説明の簡単のために、図2において、直線L2 が、第2回目以降の調合にあわせて作製した電解質水溶液の電気伝導率と電解質濃度との検量線であるとし、電気伝導率計の指示値ρ2 が水溶液の求める電解質濃度C0 に対応する電気伝導率であるとする。すると、この検量線L2 を電解質水溶液の電解質濃度の測定に使用して、第1回目調合時の電解質水溶液に対する電気伝導率計の指示値がρ=ρ2 となるように電解質を添加したとき、水溶液の電解質濃度は見かけ上は求める電解質濃度C0 になるが、実際の電解質濃度はC0 を下回るC0 ′となって、所定の電解質濃度C0 が正確に得られない。
【0035】
そこで、本実施例では、混合水溶液(A剤)の複数回の調合のうちの第1回目の調合においては、調合槽15に水を供給した後、その水に電解質を添加混合する前に、調合槽15に供給した水に、第1回目以降の調合時に調合された混合溶液を排出後の混合装置1に不可避的に残留する残留液に含まれるグルコース量と同量のグルコースを投入し、その後は、その水に電解質を連続的に添加混合しながら水溶液の電気伝導率を測定し、検量線L2 を使用して電解質濃度を求める。
【0036】
これによれば、第2回目以降の調合時と同量のグルコースを含有した状態にして、第1回目の調合時の電解質水溶液の電解質濃度を測定するので、第1回目の調合時の電解質水溶液の電解質濃度が正確に求まる。従って、電気伝導率ρ=ρ2 により所定の電解質濃度C0 を検知した時点で、電解質薬剤101の供給を停止すれば、第1回目の調合において、塩化ナトリウムを主成分とする濃度が正確な所定濃度の電解質水溶液を調製することができる。これにより、その後のグルコースの添加混合によって、所定濃度の電解質と所定濃度のグルコースを溶解した混合水溶液を調合することができる。
【0037】
本実施例の方法によって透析液のA剤を5回調合したときのNa、グルコースの各濃度の変化を図3に示す。第1回目調合の電解質水溶液の調製時に投入したグルコース量は、調合した混合水溶液を排出後の混合装置1に残留した残留液について、本発明者らが過去に測定した経験値から35gとした。比較例として、第1回目調合時に電解質水溶液の調製をグルコースの投入なしに行なう方法で、透析液A剤を5回調合した。そのときのNa、グルコースの各濃度の変化を図4に示す。
【0038】
図3及び図4に示されるように、本実施例の方法によれば、調合の第1回目から最終回の5回目まで、電解質濃度の低下がない所定濃度の電解質と非電解質とを含む透析液A剤を安定して得ることができた。
【0039】
実施例2
本実施例では、第1回目の調合時の電解質水溶液の電解質濃度低下を防ぐために、第1回目の調合においては、電解質水溶液に対する電気伝導率計の濃度検知の設定値を、第1回目以降の調合時の混合装置1に不可避的に残留する残留溶液に含まれる非電解質分による濃度変動量だけ高く設定した。
【0040】
すなわち、先の図2で説明すれば、第1回目調合時の検量線として関係直線L1 を採用し、水溶液の求める電解質濃度C0 に対する電気伝導率計の指示値の設定値をρ=ρ1 とすることである。
【0041】
これによれば、第1回目調合時の電気伝導率計の電解質水溶液に対する電解質濃度の設定値を、第2回目以降の調合時の残留溶液中の非電解質による濃度低下分だけ高く設定したので、第1回目の調合時の電解質水溶液の電解質濃度が正確に求まる。従って、電気伝導率ρ=ρ1 により所定の電解質濃度C0 を検知した時点で、電解質薬剤101の供給を停止すれば、第1回目の調合において、塩化ナトリウムを主成分とする所定濃度の電解質水溶液を正確に調製することができる。これにより、その後のグルコースの添加混合によって、所定濃度の電解水溶液に所定濃度のグルコースを溶解した混合溶液を調合することができる。
【0042】
本実施例の方法によって透析液A剤を5回調合したときのNa、グルコースの各濃度の変化を図5に示す。第1回目調合時の濃度設定値は216.5mS/cm、第2回目以降の調合時の濃度設定値は212.0mS/cmとした。
【0043】
実施例3
本実施例は、第1回目調合時の水溶液の電解質濃度の低下を防ぐために、混合装置の構成そのものを変更した。図6は、本実施例の調合方法を実施するのに使用する混合装置を示す構成図である。
【0044】
本混合装置1は、実施例1に示したのと同様の透析液の特にA剤の混合装置であるが、本実施例では、電解質薬剤101に対し調合槽15Aを、非電解質薬剤(グルコース薬剤)102に対して調合槽15Bをそれぞれ設けた点が相違する。従って、本混合装置において、実施例1の混合装置と同様な機能をなす部材には同一の符号を付して詳しい説明は省略する。
【0045】
この混合装置1により透析液A剤の調合を行なうには、まず、電磁弁17が開き、管路16を通してR/O水を調合槽15Aに導入する。水量は、調合槽15A内に設けたフロートスイッチのような計量手段25Aで計量される。水量が計量されると、弁22を開、弁31を閉とした状態でポンプ19Aを作動して、調合槽15A内の水を管路18A及び20Aを介して循環し、撹拌する。
【0046】
続いて、ホッパ11から電解質薬剤101を供給装置13を介して調合槽15A内へと連続的に供給する。電解質薬剤101は、循環する水により調合槽15A内にて撹拌、混合される。従って、管路20Aに設置された電気伝導率計24Aにより、この管路20A内を流動する電解質水溶液の電気伝導率を測定すれば、水溶液の電気伝導率と電解質濃度との検量線に基づき、水溶液の電解質濃度を測定することができる。この電気伝導率計24Aの指示に従い、電解質薬剤101を調合槽15A内へと適宜供給して、所定の電解質濃度を検知した時点で電解質薬剤101の供給を停止することにより、塩化ナトリウムを主成分とする所定濃度の電解質水溶液が調製される。
【0047】
所定濃度の電解質水溶液が調合槽15A内に調製されると、弁31を開とし、弁22を閉として、ポンプ19Aを作動させる。これによって、調合槽15B内へと、上記の所定濃度とされた調合槽15A内の電解質水溶液が導入される。フロートスイッチ25Bにより所定量の電解質水溶液が調合槽15B内に導入されたことが検知されると、ポンプ19Aの作動を停止し、弁31が閉とされる。調合槽15B内に導入された電解質水溶液は、弁23を開、弁32を閉として、ポンプ19Bにより管路18C及び20Bを介して循環流動される。
【0048】
次に、水溶液の流動による撹拌下に、粉末状のグルコース薬剤102をホッパ12から、供給装置14により所定量づつ調合槽15Bへと供給する。調合槽15B内の電解質水溶液とグルコースとはポンプ19Bにより、管路20Bを介して循環流動することにより十分に撹拌され、電解質水溶液にグルコースを溶解した混合水溶液となる。この調合槽15B内の混合水溶液中のグルコース濃度は、管路20Bに設置された電気伝導率計24Bにより測定される。
【0049】
このようにして、所定濃度の電解質水溶液に所定濃度のグルコースを含有した混合水溶液(A剤)が調合槽15B内にて調製されると、次に弁32を開、弁23を閉とすることによって、調合槽15B内の混合水溶液は管路21へ排出され、管路21を流動して調合貯留槽(図示せず)などへと供給される。上述と同様、調合貯留槽には、他の装置にて調製された所定濃度の炭酸水素ナトリウムからなる電解質水溶液(B剤)が供給され、所定濃度の透析液、或いは透析液原液が調製される。
【0050】
このような混合装置1を使用した調合によれば、電解質水溶液を調製する調合槽15Aの管路20A等に、グルコースを含有した残留液が残存することがないので、第1回目の調合時は勿論、第2回目以降の調合時にも、調合槽15Aで調製した電解質水溶液の電気伝導率にグルコースによる低下がない。従って、電気伝導率計24Aにより水溶液の電気伝導率を測定し、これに図2の検量線L1 を使用することによって、第1回目から最終回目までの調合における電解質水溶液の電解質濃度を正確に所定の濃度C0 にできる。
【0051】
以上の実施例では、いずれも、透析液のA剤の調合を例にとって説明したが、本発明はこれに限られず、製薬工業や食品工業を初めとする電解質と非電解質の混合溶液の調合を実施する分野において広く適用することができる。
【0052】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、第1回目の調合における電解質溶液の電解質濃度低下を簡単に防いで、第1回目から最終回目の調合に亙って電解質濃度の低下がない、所定濃度の電解質と所定濃度の非電解質を含む混合溶液を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の混合溶液の調合方法の一実施例で使用する混合装置を示す構成図である。
【図2】図1の方法における第1回目調合時の電解質水溶液の電解質濃度低下を防ぐ原理を示す説明図である。
【図3】図1の方法で調合した透析液A剤の電解質及びグルコースの各濃度の変化を示すグラフである。
【図4】比較例の方法で調合した透析液A剤の電解質及びグルコースの各濃度の変化を示すグラフである。
【図5】本発明の他の実施例における方法で調合した透析液A剤の電解質及びグルコースの各濃度の変化を示すグラフである。
【図6】本発明の更に他の実施例で使用する混合装置を示す構成図である。
【図7】透析液A剤のグルコースを除く電解質分の水溶液にグルコースを添加したときの電気伝導率の変化を示すグラフである。
【図8】図7の水溶液の電気伝導率とグルコース濃度との相関関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 混合装置
11、12 貯留手段
13、14 供給装置
15 調合層
16、18、20、21 管路
17、22、23 弁
19 ポンプ
24 電気伝導率計
25 水量計
101 電解質薬剤
102 グルコース薬剤
Claims (12)
- 調合槽と、調合槽に水系の極性溶媒を供給する溶媒供給手段と、調合槽に電解質を供給する電解質供給手段と、調合槽に非電解質を供給する非電解質供給手段と、調合槽に設けられた撹拌手段と、調合槽に設けられた排出手段と、調合槽に設けられた電気伝導率計とを備えた混合装置を使用して行なう電解質と非電解質の混合溶液の調合方法であって、
(a)調合槽に溶媒を供給し、(b)供給された溶媒に、撹拌手段による撹拌下に電解質供給手段により電解質を連続的に添加混合しながら、電気伝導率計によりその電解質を混合した電解質溶液の電気伝導率を測定して、前記電解質溶液の電解質濃度を検知することにより所定濃度の電解質溶液を作製し、(c)次いでその電解質溶液を撹拌したまま、これに非電解質供給手段により非電解質を連続的に添加混合しながら、前記電気伝導率計によりその非電解質を混合した混合溶液の電気伝導率を測定して、混合溶液の非電解質濃度を検知することにより、所定濃度の電解質と所定濃度の非電解質を含む混合溶液を調合し、(d)然る後に排出手段により混合溶液を排出する、前記(a)、(b)、(c)、(d)の一連の工程を複数回繰り返す、電解質と非電解質の混合溶液の調合方法において、
前記混合溶液の複数回の調合のうちの第1回目の調合においては、前記(a)工程の後(b)工程の前に、前記調合槽に供給した水に、第1回目以降の調合により調合された混合溶液を排出後の前記混合装置に不可避的に残留する残留液に含まれる非電解質量と同量の非電解質を投入することを特徴とする電解質と非電解質の混合溶液の調合方法。 - 前記撹拌手段は調合槽に取付けた循環路を含む循環手段からなる請求項1の混合溶液の調合方法。
- 前記電気伝導率計は前記循環路に設置される請求項2の混合溶液の調合方法。
- 前記溶媒は水であり、前記電解質は塩化ナトリウムを主成分とする電解質薬剤であり、前記非電解質はグルコース薬剤である請求項1の混合溶液の調合方法。
- 調合槽と、調合槽に水系の極性溶媒を供給する溶媒供給手段と、調合槽に電解質を供給する電解質供給手段と、調合槽に非電解質を供給する非電解質供給手段と、調合槽に設けられた撹拌手段と、調合槽に設けられた排出手段と、調合槽に設けられた電気伝導率計とを備えた混合装置を使用して行なう電解質と非電解質の混合溶液の調合方法であって、
(a)調合槽に溶媒を供給し、(b)供給された溶媒に、撹拌手段による撹拌下に電解質供給手段により電解質を連続的に添加混合しながら、電気伝導率計によりその電解質を混合した電解質溶液の電気伝導率を測定して、前記電解質溶液の電解質濃度を検知することにより所定濃度の電解質溶液を作製し、(c)次いでその電解質溶液を撹拌したまま、これに非電解質供給手段により非電解質を連続的に添加混合しながら、前記電気伝導率計によりその非電解質を混合した混合溶液の電気伝導率を測定して、混合溶液の非電解質濃度を検知することにより、所定濃度の電解質と所定濃度の非電解質を含む混合溶液を調合し、(d)然る後に排出手段により混合溶液を排出する、前記(a)、(b)、(c)、(d)の一連の工程を複数回繰り返す、電解質と非電解質の混合溶液の調合方法において、
前記混合溶液の複数回の調合のうちの第1回目の調合においては、前記電気伝導率の測定による電解質溶液の電解質濃度を検知する前記電気伝導率計の濃度設定値を、第1回目以降の調合により調合された混合溶液を排出後の前記混合装置に不可避的に残留する残留液に含まれる非電解質分に相当する変動量だけ変更して設定することを特徴とする電解質と非電解質の混合溶液の調合方法。 - 前記撹拌手段は調合槽に取付けた循環路を含む循環手段からなる請求項5の混合溶液の調合方法。
- 前記電気伝導率計は前記循環路に設置される請求項6の混合溶液の調合方法。
- 前記溶媒は水であり、前記電解質は塩化ナトリウムを主成分とする電解質薬剤であり、前記非電解質はグルコース薬剤である請求項5の混合溶液の調合方法。
- 第1の調合槽と、第1の調合槽に水系の極性溶媒を供給する溶媒供給手段と、第1の調合槽に電解質を供給する電解質供給手段と、第1の調合槽に設けられた第1の撹拌手段と、第1の調合槽に設けられた第1の電気伝導率計と、第1の調合槽に設けられた第1の排出手段と、第2の調合槽と、第2の調合槽に非電解質を供給する非電解質供給手段と、第2の調合槽に設けられた第2の撹拌手段と、第2の調合槽に設けられた第2の電気伝導率計と、第2の調合槽に設けられた第2の排出手段とを備えた混合装置を使用して行なう電解質と非電解質の混合溶液の調合方法であって、
(a)第1の調合槽に溶媒を供給し、(b)供給された溶媒に、第1の撹拌手段による撹拌下に電解質供給手段により電解質を連続的に添加混合しながら、第1の電気伝導率計によりその電解質を混合した電解質溶液の電気伝導率を測定して、前記電解質溶液の電解質濃度を検知することにより所定濃度の電解質溶液を作製し、(c)その電解質溶液を第1の排出手段により排出して第2の調合槽に供給し、(d)次いで、供給された電解質溶液に、第2の撹拌手段による撹拌下に非電解質供給手段により非電解質を連続的に添加混合しながら、第2の電気伝導率計によりその非電解質を混合した混合溶液の電気伝導率を測定して、混合溶液の非電解質濃度を検知することにより、所定濃度の電解質と所定濃度の非電解質を含む混合溶液を調合し、(e)然る後に第2の排出手段により混合溶液を排出する、前記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)の一連の工程を複数回繰り返すことを特徴とする電解質と非電解質の混合溶液の調合方法。 - 前記第1の撹拌手段は第1の調合槽に取付けた循環路を含む循環手段からなり、前記第2の撹拌手段は第2の調合槽に取付けた循環路を含む循環手段からなる請求項9の混合溶液の調合方法。
- 前記電気伝導率計は前記循環路に設置される請求項10の混合溶液の調合方法。
- 前記溶媒は水であり、前記電解質は塩化ナトリウムを主成分とする電解質薬剤であり、前記非電解質はグルコース薬剤である請求項9の混合溶液の調合方法。
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