JP3661456B2 - 低圧蒸気タービンの最終段動翼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、低圧蒸気タービンの最終段動翼に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、蒸気タービン用動翼には12Cr−Mo−Ni−V−N鋼が使用されている。近年、省エネルギーの観点からガスタービンの熱効率の向上が、省スペースの観点から機器のコンパクト化が望まれている。
【0003】
熱効率の向上及び機器のコンパクト化には蒸気タービン翼の長翼化が有効な手段である。そのために低圧蒸気タービン最終段の翼長は年々上昇の傾向にある。これに伴って、蒸気タービンの翼の使用条件も厳しくなり、これまでの12Cr−Mo−Ni−V−N鋼では強度不足で、より強度の高い材料が必要である。長翼材の強度としては、機械的特性の基本である、引張強さが要求される。
【0004】
また、破壊に対する安全性確保の観点から、高強度で高靭性が要求される。
【0005】
引張強さが従来の12Cr−Mo−Ni−V−N鋼(マルテンサイト系鋼)より高い構造材料として、Ni基合金及びCo基合金が一般に知られているが、熱間加工性,切削性及び振動減衰特性が劣るので、翼材としては望ましくない。
【0006】
また、低圧蒸気タービン用最終段動翼材とそれを用いた低圧蒸気タービン及び蒸気タービン発電プラントはWO97/30272号公報に開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前述の公報には低圧蒸気タービンの最終段動翼として、回転数3000
rpmに対し翼部長さ1092 mm (43インチ),3600rpmに対し909 mm (35.8インチ)翼について示されているが、それ以上の翼部長さに対しては具体的に開示されていない。
【0008】
本発明の目的は、翼部長さとして3000rpm に対して1168 mm (46インチ)以上又は3600rpm に対して909 mm (38インチ)以上を達成することができるマルテンサイト鋼からなる低圧蒸気タービン最終段動翼を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、翼部長さが3000 rpm に対し1143 mm 以上又は3600 rpm に対し952 mm 以上である低圧蒸気タービン最終段動翼であって、重量でC0 . 19〜0 . 25% ,Si0 . 25%以下,Mn0 . 90%以下,Cr8 . 0〜13 . 0%,Ni2〜3 . 5%,Mo1 . 5〜3 . 5%,V0 . 05〜0 . 35% ,Nb及び
Taの1種又は2種の合計量が0 . 02〜0 . 20%、及びN0 . 04〜0 . 15%を含有し、全焼戻しマルテンサイト組織を有するマルテンサイト鋼よりなることを特徴とする。
本発明の一例による低圧蒸気タービン最終段動翼は、翼部の幅方向の傾きが植え込み部近傍では回転軸の軸方向に対してほぼ平行であり、翼部先端では前記軸方向に対して65〜85度、好ましくは70〜80度傾いている。
【0010】
本発明において、前記マルテンサイト鋼は20℃Vノッチシャルピー衝撃値が以下の式によって求められる値以上であることが望ましい。
【0011】
y=−0 . 29x+45
(ここで、yは20℃Vノッチシャルピー衝撃値 (kg −m/ cm 2 )、xは室温の引張強さ( kg / mm 2 ))
本発明は、植込み部が1143 mm(45インチ)以上に対し9本以上及び952 mm(37.5インチ)以上に対し7本以上であるフォーク型又は4段以上の突起を有する逆クリスマスツリー型の低圧蒸気タービン最終段翼に使用することができる。
【0012】
本発明は、翼部先端の幅に対する植込み部幅が2.1〜2.5倍である低圧蒸気タービン最終段動翼に使用することができる。
【0013】
本発明は、翼部先端部のリーデング側にエロージョン防止シールド部が設けられ、植込み部がフォーク型で、ロータシャフトへの固定用ピン挿入孔が複数段に設けられ、該挿入孔の直径は前記翼部側がその反対側より大きい低圧蒸気タービン最終段動翼に使用することができる。
【0014】
本発明は、高圧タービン,中圧タービン及び2台の低圧タービンをタンデムに結合し、前記高圧タービン及び中圧タービンへの蒸気入口温度が593℃以上及び回転数が3000又は3600rpm である蒸気タービン発電プラントにおいて、前記低圧タービンのいずれも最終段動翼は〔翼部長さ(インチ)×前記回転数(rpm)〕が129000以上で、マルテンサイト鋼よりなり、前記最終段動翼の平均直径が前記3000rpm に対し3520mm以上好ましくは3600〜3750mm又は前記3600rpm に対し2930mm以上好ましくは3000〜3130mmであることを特徴とし、前述の蒸気タービン翼を最終段動翼に用いるのが好ましい。
【0015】
本発明は、高圧タービンと低圧タービンと発電機及び中圧タービンと低圧タービンと発電機をタンデムに結合し、前記高圧タービン及び中圧タービンへの蒸気入口温度が593℃以上及び回転数が3000又は3600rpm である蒸気タービン発電プラントにおいて、前記低圧タービンのいずれも最終段動翼は〔翼部長さ(インチ)×前記回転数(rpm)〕が129000以上で、マルテンサイト鋼よりなり、前記最終段動翼の平均直径が前記3000rpm に対し2800mm以上好ましくは3000〜3040mm又は前記3600rpm に対し2330mm以上好ましくは2400〜2530mmであることを特徴とし、最終段動翼に前述の蒸気タービン翼を用いるのが好ましい。
【0016】
本発明は、高圧部・中圧部一体型タービン及び1台又は2台の低圧タービンをタンデムに結合し、前記高圧部及び中圧部への蒸気入口温度が593℃以上及び回転数が3000rpm又は3600rpmである蒸気タービン発電プラントにおいて、前記低圧タービンのいずれも最終段動翼は〔翼部長さ(インチ)×前記回転数(rpm)〕が129000以上で、マルテンサイト鋼よりなり、前記最終段動翼の平均直径が前記3000rpm に対し2540mm以上好ましくは2610〜2770mm又は前記3600rpm に対し2120mm以上好ましくは2170〜2310mmであることを特徴とし、最終段動翼として前述の蒸気タービン翼を用いるのが好ましい。
【0017】
本発明は、ロータシャフトと、該ロータシャフトに植設された動翼と、該動翼への水蒸気の流入を案内する静翼及び該静翼を保持するケーシングを有し、回転数が3000rpm 又は3600rpm である低圧蒸気タービンにおいて、前記動翼は左右対称に各5段以上有し、前記ロータシャフト中心部に初段が植設された複流構造であり、最終段動翼は〔翼部長さ(インチ)×前記回転数(rpm)〕が
129000以上で、マルテンサイト鋼よりなり、前記最終段動翼の平均直径が前記3000rpm に対し3520mm以上又は前記3600rpm に対し2930mm以上であること、最終段動翼は〔翼部長さ(インチ)×前記回転数(rpm)〕が
129000以上で、マルテンサイト鋼よりなり、前記最終段動翼の平均直径が前記3000rpm に対し2800mm以上又は前記3600rpm に対し2330mm以上であること、又は最終段動翼は〔翼部長さ(インチ)×前記回転数(rpm)〕が129000以上で、マルテンサイト鋼よりなり、前記最終段動翼の平均直径が前記3000rpm に対し2540mm以上又は前記3600rpm に対し2120mm以上であることを特徴とする低圧蒸気タービンにある。
【0018】
本発明は、ロータシャフトと、該ロータシャフトに植設された動翼と、該動翼への水蒸気の流入を案内する静翼及び該静翼を保持するケーシングを有する低圧蒸気タービンにおいて、前記動翼の最終段が前述の蒸気タービン翼からなることを特徴とする。
【0020】
本発明は、高圧タービン,中圧タービン及び低圧タービンとを別々に備えた蒸気タービン発電プラントにおいて、前記低圧タービンの最終段動翼の翼部長さに対する前記高圧タービン及び中圧タービンをタンデムに結合した軸受間距離及びタンデムに結合した2台の前記低圧タービンの軸受間距離の合計の比が26〜
30であること、前記低圧タービンの最終段動翼の翼部長さに対する前記高圧タービンの軸受間距離の比が3.5〜6.0であること、前記低圧タービンの最終段動翼の翼部長さに対する前記中圧タービンの軸受間距離の比が4.0〜6.0であること、前記低圧タービンの最終段動翼の翼部長さに対するタンデムに結合した2台の前記低圧タービンの軸受間距離の合計の比が15.5〜17.5であることのいずれか又は組合せが好ましい。
【0021】
本発明は、蒸気タービン発電プラントにおいて、該発電プラントの定格出力
(MW)に対する前記高圧タービン及び中圧タービンをタンデムに結合した軸受間距離、及びタンデムに結合した2台の前記低圧タービンの軸受間距離の合計距離(mm)の比が28.0〜32.0であること、高圧タービンが、該発電プラントの定格出力(MW)に対する前記高圧タービンの軸受間距離(mm)の比が3.5〜6.5であること、中圧タービンが該発電プラントの定格出力(MW)に対する前記中圧タービンの軸受間距離(mm)の比が4.0〜7.0であること、低圧タービンが該発電プラントの定格出力(MW)に対するタンデムに結合した2台の前記低圧タービンの軸受間距離(mm)の比が16.0〜19.0であることのいずれか又は組合せが好ましい。
【0022】
本発明は、高圧タービンと中圧タービンとを一体にした高中圧一体タービン及び低圧タービンを備えた蒸気タービン発電プラントであって、前記低圧タービンの最終段動翼の翼部長さに対する前記高中圧一体タービンの軸受間距離及びタンデムに結合した2台の前記低圧タービンの軸受間距離の合計の比が24〜28であること、前記低圧タービンの最終段動翼の翼部長さに対する前記高中圧一体タービンの軸受間距離の比が5.5〜7.0であること、前記低圧タービンの最終段動翼の翼部長さに対するタンデムに結合した2台の前記低圧タービンの軸受間距離の比が15.0〜17.5であることのいずれか又は組合せが好ましい。
【0023】
本発明は、高圧タービンと中圧タービンとを一体にした高中圧一体タービン及び低圧タービンを備えた蒸気タービン発電プラントであって、前記低圧タービンの最終段動翼の翼部長さに対する前記高中圧一体タービンの軸受間距離及び1台の前記低圧タービンの軸受間距離の合計の比が11.5〜15.5であること、前記低圧タービンの最終段動翼の翼部長さに対する前記高中圧一体タービンの軸受間距離の比が4.5〜6.0であること、前記低圧タービンの最終段動翼の翼部長さに対する前記1台の低圧タービンの軸受間距離の比が4.5〜6.5であることのいずれか又は組合せが好ましい。
【0024】
本発明は、高圧タービンと中圧タービンとを一体にした高中圧一体タービン及び低圧タービンを備えた蒸気タービン発電プラントであって、前記発電プラントの定格出力(MW)に対する前記高中圧一体タービンの軸受間距離及びタンデムに結合した2台の前記低圧タービンの軸受間距離の合計距離(mm)の比が35.0〜39.5であること、前記発電プラントの定格出力(MW)に対する前記高中圧一体タービンの軸受間距離(mm)の比が8.0〜11.0であること、前記発電プラントの定格出力(MW)に対するタンデムに結合した2台の前記低圧タービンの軸受間距離の合計距離(mm)の比が21.0〜25.5であることのいずれか又は組合せが好ましい。
【0025】
本発明は、高圧タービンと中圧タービンとを一体にした高中圧一体タービン及び低圧タービンを備えた蒸気タービン発電プラントであって、前記発電プラントの定格出力(MW)に対する前記高中圧一体タービンの軸受間距離及び1台の前記低圧タービンの軸受間距離の合計の比が22.0〜26.5であること、前記発電プラントの定格出力(MW)に対する前記高中圧一体タービンの軸受間距離
(mm)の比が8.0〜11.0であること、前記発電プラントの定格出力(MW)に対する前記1台の低圧タービンの軸受間距離(mm)の比が8.5〜11.5であることのいずれか又は組合せが好ましい。
【0026】
上述の要件は以下の発明に適用できるものである。
【0027】
本発明は、前述の蒸気タービン発電プラントにおいて、前記高圧タービン及び中圧タービン又は高中圧タービンは初段動翼への水蒸気入口温度が593〜660℃(好ましくは610〜620℃,620〜630℃,630〜640℃)の範囲に対し、前記低圧タービンは初段動翼への水蒸気入口温度が350〜400℃の範囲に対し、前記高圧タービン及び中圧タービン又は高中圧タービンの前記水蒸気入口温度にさらされるロータシャフト又はロータシャフト,動翼,静翼及び内部ケーシングの全部がCr8〜13重量%を含有する高強度マルテンサイト鋼によって構成され、又はこれらのうち前記動翼の初段又は2段、又は3段までをNi基合金によって構成されることが好ましい。
【0028】
本発明は、ロータシャフトと、該ロータシャフトに植設された動翼と、該動翼への水蒸気の流入を案内する静翼及び該静翼を保持する内部ケーシングを有し、前記水蒸気の前記動翼の初段に流入する温度が593〜660℃及び圧力が250 kgf/cm2以上(好ましくは246〜316kgf/cm2)又は170〜200kgf/cm2 であって、前記ロータシャフト又はロータシャフトと動翼及び静翼の少なくとも初段とが各蒸気温度(好ましくは610℃,625℃,640℃,650℃,660℃)に対応した温度での105 時間クリープ破断強度が10kgf/mm2 以上(好ましくは17kgf/mm2 以上)であるCr8.5〜13重量%(好ましくは10.5〜11.5重量%)を含有する全焼戻しマルテンサイト組織を有する高強度マルテンサイト鋼からなり、又はこれらのうち前記動翼の初段又は2段又は3段までをNi基合金からなり、前記内部ケーシングが前記各蒸気温度に対応した温度での105時間クリープ破断強度が10kgf/mm2以上(好ましくは10.5kgf/mm2以上)であるCr8〜9.5重量%を含有するマルテンサイト鋳鋼からなる高圧蒸気タービン,中圧蒸気タービン又は高圧側タービンより出た蒸気を加熱し、高圧側入口温度と同等以上に加熱して中圧側タービンに送る高中圧一体型蒸気タービンとするのが好ましい。
【0029】
高圧タービン及び中圧タービン又は高中圧一体型蒸気タービンにおいて、前記ロータシャフト又は前記動翼及び静翼の少なくとも一方の初段が重量で、C0.05〜0.20%,Si0.6%以下、好ましくは0.15%以下,Mn1.5%以下、好ましくは0.05〜1.5%,Cr8.5〜13%、好ましくは9.5〜13%,Ni0.05〜1.0%,V0.05〜0.5%、好ましくは0.05〜0.35%,Nb及びTaの少なくとも1種0.01〜0.20%,N0.01〜0.1%、好ましくは0.01〜0.06%,Mo1.5%以下、好ましくは0.05〜1.5%,W0.1〜4.0%、好ましくは1.0〜4.0%,Co10%以下、好ましくは
0.5〜10%,B0.03%以下、好ましくは0.0005〜0.03%を含み、78%以上のFeを有する高強度マルテンサイト鋼が好ましく、593〜660℃の蒸気温度に対応するのが好ましく、又はC0.1〜0.25%,Si0.6%以下,Mn1.5%以下,Cr8.5〜13%,Ni0.05〜1.0%,V0.05〜0.5%,W0.10〜0.65%,Nb及びTaの少なくとも1種0.01〜
0.20% ,Al0.1%以下,Mo1.5%以下,N0.025〜0.1%を有し、80%以上のFeを有する高強度マルテンサイト鋼が好ましく、600〜620℃未満に対応するのが好ましい。前記内部ケーシングは重量でC0.06〜0.16%,Si0.5% 以下,Mn1%以下,Ni0.2〜1.0%,Cr8〜12%,V0.05〜0.35%,Nb及びTaの少なくとも1種0.01〜0.15%,
N0.01〜0.8%,Mo1%以下,W1〜4%,B0.0005〜0.003%を含み、85%以上のFeを有する高強度マルテンサイト鋼からなるのが好ましい。
【0030】
本発明に係る高圧蒸気タービンは、前記動翼が9段以上、好ましくは10段以上有し、初段が複流であり、前記ロータシャフトは軸受中心間距離(L)が5000mm以上(好ましくは5100〜6500mm)及び前記静翼が設けられた部分での最小直径(D)が660mm以上(好ましくは680〜740mm)であり、前記(L/D)が6.8〜9.9(好ましくは7.9〜8.7)であるCr9〜13重量%を含有する高強度マルテンサイト鋼からなるのが好ましい。
【0031】
本発明に係る中圧蒸気タービンは、前記動翼が左右対称に各6段以上を有し、前記ロータシャフト中心部に初段が植設された複流構造であり、前記ロータシャフトは軸受中心間距離(L)が5000mm以上(好ましくは5100〜6500mm)及び前記静翼が設けられた部分での最小直径(D)が630mm以上(好ましくは650〜710mm)であり、前記(L/D)が7.0〜9.2(好ましくは
7.8〜8.3)であるCr9〜13重量%を含有する高強度マルテンサイト鋼からなるのが好ましい。
【0032】
本発明に係る低圧蒸気タービンは、前記動翼が左右対称に各5段以上、好ましくは6段以上有し、前記ロータシャフト中心部に初段が植設された複流構造であり、前記ロータシャフトは軸受中心間距離(L)が6500mm以上(好ましくは6600〜7500mm)及び前記静翼が設けられた部分での最小直径(D)が
750〜1300mm(好ましくは760〜900mm)であり、前記(L/D)が5〜10、好ましくは7〜10(より好ましくは8.0〜9.0)である前述の
Ni3.25〜4.25重量%を含有するNi−Cr−Mo−V低合金鋼からなるものが好ましい。
【0033】
さらに、本発明は、前述の蒸気タービン発電プラントにおいて、前記高圧タービン及び中圧タービン又は高中圧タービンは初段動翼への水蒸気入口温度が593〜660℃、前記低圧タービンは初段動翼への水蒸気入口温度が350〜400℃であり、前記高圧タービンのロータシャフトの初段動翼植設部及び前記初段動翼のメタル温度が前記高圧タービンの初段動翼への水蒸気入口温度より40℃以上(好ましくは水蒸気温度より20〜35℃低くし)下まわらないようにし、前記中圧タービンのロータシャフトの初段動翼植設部及び初段動翼のメタル温度が前記中圧タービンの初段動翼への水蒸気入口温度より75℃以上(好ましくは水蒸気温度より50〜70℃低くし)下まわらないようにするのが好しい。
【0034】
さらに、本発明は、石炭燃焼ボイラと、該ボイラによって得られた水蒸気によって駆動する蒸気タービンと、該蒸気タービンによって駆動する単機又は2台以上、好ましくは2台で1000MW以上の発電出力を有する発電機を備えた石炭燃焼火力発電プラントにおいて、前記蒸気タービンは前述の構成からなり、前記ボイラの過熱器によって前記高圧タービンの初段動翼への水蒸気入口温度より3℃以上(好ましくは3〜10℃、より好ましくは3〜7℃)高い温度に加熱した水蒸気を前記高圧タービンの初段動翼に流入し、前記高圧タービンを出た水蒸気を前記ボイラの再熱器によって前記中圧タービンの初段動翼への水蒸気入口温度より2℃以上(好ましくは2〜10℃、より好ましくは2〜5℃)高い温度に加熱して前記中圧タービンの初段動翼に流入し、前記中圧タービンより出た水蒸気を好ましくは前記ボイラの節炭器によって前記低圧タービンの初段動翼への水蒸気入口温度より3℃以上(好ましくは3〜10℃、より好ましくは3〜6℃)高い温度に加熱して前記低圧タービンの初段動翼に流入させるものが好ましい。
【0035】
前述の低圧蒸気タービンにおいて、前記初段動翼への水蒸気入口温度は350〜400℃(好ましくは360〜380℃)が好ましい。
【0036】
前述の高圧蒸気タービンにおいて、前記動翼は7段以上(好ましくは9〜12段)及び翼部長さが前記水蒸気流の上流側から下流側で25〜180mm有し、前記ロータシャフトの前記動翼の植込み部直径は前記静翼に対応する部分の直径より大きく、前記植込み部の軸方向の幅は前記下流側が上流側に比べ3段階以上
(好ましくは4〜7段階)段階的に大きく、前記翼部長さに対する比率が0.2〜1.6(好ましくは0.30〜1.30、より好ましくは0.65〜0.95)で前記上流側から下流側に従って小さくなっていること、隣り合う各段の前記翼部長さの比は2.3 以下で、該比率が徐々に下流側で大きく、前記翼部長さは前記下流側が上流側に比べて大きくなっていること、前記ロータシャフトの前記静翼部に対応する部分の軸方向の幅は前記下流側が上流側に比べ2段階以上(好ましくは2〜4段階)段階的に小さく、前記動翼の下流側翼部長さに対する比率が4.5以下の範囲で前記下流側になるに従って段階的に前記比率が小さくなっていることのいずれか又は組合せが好ましい。
【0037】
前述の中圧蒸気タービンにおいて、前記動翼は左右対称に6段以上(好ましくは6〜9段)有する複流構造及び翼部長さが前記水蒸気流の上流側から下流側で60〜300mm有し、前記ロータシャフトの前記動翼の植込み部直径は前記静翼に対応する部分の直径より大きく、前記植込み部の軸方向の幅は前記下流側が上流側に比べ2段階以上(好ましくは2〜6段階)で段階的に大きくなっており、前記翼部長さに対する比率が0.35〜0.80(好ましくは0.5〜0.7)で前記上流側から下流側に従って小さくなっていること、隣り合う前記翼部長さは前記下流側が上流側に比べて大きくなっており、その比は1.3 以下(好ましくは1.1〜1.2)で徐々に前記下流側で大きくなっていること、前記ロータシャフトの前記静翼部に対応する部分の軸方向幅は前記下流側が上流側に比べ2段階以上(好ましくは3〜6段階)で段階的に小さくなっており、前記動翼の下流側翼部長さに対する比率が0.80〜2.50(好ましくは1.0〜2.0)の範囲で前記下流側になるに従って段階的に前記比率が小さくなっていることのいずれか又は組合せが好ましい。
【0038】
本発明に係る前述の低圧蒸気タービンにおいて、前記動翼は左右対称に各6段以上(好ましくは8〜10段)有する複流構造及び翼部長さが前記水蒸気流の上流側から下流側に従って80〜1300mm有し、前記ロータシャフトの前記動翼の植込み部直径は前記静翼に対応する部分の直径より大きく、前記植込み部の軸方向の幅は前記下流側が上流側に比べ好ましくは3段階以上(より好ましくは4〜7段階)で段階的に大きくなっており、前記翼部長さに対する比率が0.2〜0.7(好ましくは0.3〜0.55)で前記上流側から下流側に従って小さくなっていること、隣り合う各段の前記翼部長さは前記下流側が上流側に比べて大きくなっており、その比は1.2〜1.8(好ましくは1.4〜1.6)の範囲で徐々に前記下流側で前記比率が大きくなっていること、前記ロータシャフトの前記静翼部に対応する部分の軸方向の幅は前記下流側が上流側に比べ好ましくは3段階以上(より好ましくは4〜7段階)で段階的に大きくなっており、前記動翼の隣り合う下流側翼部長さに対する比率が0.2〜1.4(好ましくは0.25〜1.25特に0.5〜0.9)の範囲で前記下流側になるに従って段階的に前記比率が小さくなっていることのいずれか又は組合せが好ましい。
【0039】
前述の高圧蒸気タービンにおいて、ロータシャフトは前記静翼に対応する部分の直径が前記動翼植込み部に対応する部分の直径より小さく、前記静翼に対応する前記直径の軸方向の幅は前記水蒸気流の上流側が下流側に比較して2段階以上(好ましくは2〜4段階)で段階的に大きくなっており、前記動翼の最終段とその手前との間の幅は前記動翼の2段目と3段目との間の幅の0.75〜0.95倍(好ましくは0.8〜0.9倍より好ましくは0.82〜0.88)であり、前記ロータシャフトの前記動翼部植込み部軸方向の幅は前記水蒸気流の下流側が上流側に比較して3段階以上(好ましくは4〜7段階)で段階的に大きくなっており、前記動翼の最終段の軸方向の幅は前記2段目の軸方向の幅に対して1〜2倍(好ましくは1.4〜1.7倍)であるのが好ましい。
【0040】
前述の中圧蒸気タービンにおいて、前記動翼は6段以上有し、前記ロータシャフトは前記静翼に対応する部分の直径が前記動翼植込み部に対応する部分の直径より小さく、前記静翼に対応する前記直径の軸方向の幅は前記水蒸気流の上流側が下流側に比較して好ましくは2段階以上(より好ましくは3〜6段階)で段階的に大きくなっており、前記動翼の最終段とその手前との間の幅は前記動翼の初段と2段目との間の幅の0.5〜0.9倍(好ましくは0.65〜0.75倍)であり、前記ロータシャフトの前記動翼部植込み部軸方向の幅は前記水蒸気流の下流側が上流側に比較して好ましくは2段階以上(好ましくは3〜6段階)で段階的に大きくなっており、前記動翼の最終段の軸方向の幅は前記初段の軸方向の幅に対して0.8〜2倍(好ましくは1.2〜1.5倍)であるのが好ましい。
【0041】
前述の低圧蒸気タービンにおいて、前記動翼は左右対称に8段以上とする複流構造を有し、前記ロータシャフトは前記静翼に対応する部分の直径が前記動翼植込み部に対応する部分の直径より小さく、前記静翼に対応する前記直径の軸方向の幅は前記水蒸気流の上流側が下流側に比較して好ましくは3段階以上(より好ましくは4〜7段階)で段階的に大きくなっており、前記動翼の最終段とその手前との間の幅は前記動翼の初段と2段目との間の幅の1.5〜3.0倍(好ましくは2.0〜2.7倍)であり、前記ロータシャフトの前記動翼部植込み部軸方向の幅は前記水蒸気流の下流側が上流側に比較して好ましくは3段階以上(より好ましくは4〜7段階)で段階的に大きくなっており、前記動翼の最終段の軸方向の幅は前記初段の軸方向の幅に対して5〜8倍(好ましくは6.2〜7.0倍)であるのが好ましい。
【0042】
本発明に係る高圧,中圧及び高中圧タービンのロータ材においては、全焼戻しマルテンサイト組織として、高い高温強度と低温靭性並びに高い疲労強度を得るために、Cr当量を4〜8に成分調整することが好ましい。
【0043】
本発明に係る高中圧一体型蒸気タービンは、高圧側前記動翼は7段以上好ましくは8段以上及び中圧側前記動翼は5段以上好ましくは6段以上有し、前記ロータシャフトは軸受中心間距離(L)が6000mm以上(好ましくは6100〜7000mm)及び前記静翼が設けられた部分での最小直径(D)が660mm以上(好ましくは620〜760mm)であり、前記(L/D)が8.0〜11.3(好ましくは9.0〜10.0)であるCr9〜13重量%を含有する高強度マルテンサイト鋼からなることが好ましい。
【0044】
本発明に係る低圧タービン用動翼は左右対称に各5段以上好ましくは6段以上有する複流構造及び翼部長さが前記水蒸気流の上流側から下流側に従って80〜1300mmの範囲内にあり、前記ロータシャフトの前記動翼の植込み部直径は前記静翼に対応する部分の直径より大きく、前記植込み部の軸方向付根部の幅は末広がりに前記翼部植込み部の幅より大きく、前記下流側から上流側に従って段階的に小さくなっており、前記翼部長さに対する比率が0.25〜0.80であること、隣り合う各段の前記翼部長さは前記下流側が上流側に比べて大きくなっており、その比は1.2〜1.7の範囲で、前記下流側で前記翼部長さが徐々に大きくなっていること、前記ロータシャフトの前記動翼の植込み部付根部の軸方向の幅は少なくとも3段階で前記下流側が上流側に比べ大きくなっており、末広がりに前記翼部植込み部の幅より大きくなっていることのいずれか又は組合せが好ましい。
【0045】
本発明に係る高中圧一体型蒸気タービンは高圧側の前記動翼が6段以上、好ましくは7段以上及び翼部長さが前記水蒸気流の上流側から下流側で25mmから
200mm有し、前記ロータシャフトの前記動翼の植込み部直径は前記静翼に対応する部分の直径より大きく、前記植込み部の軸方向付根部の幅は前記上流側が下流側に比べ段階的に大きく、前記翼部長さに対する比率が0.20〜1.60、好ましくは0.25〜1.30で前記上流側から下流側に従って大きくなっており、中圧側の前記動翼は左右対称に5段以上有し、翼部長さが前記水蒸気流の上流側から下流側で100〜350mm有し、前記ロータシャフトの前記動翼の植込み部直径は前記静翼に対応する部分の直径より大きく、前記植込み部付根部の軸方向の幅は最終段を除き前記下流側が上流側に比べ大きくなっており、前記翼部長さに対する比率が0.35〜0.80、好ましくは0.40〜0.75で前記上流側から下流側に従って小さくなっていること、隣り合う各段の前記翼部長さの比は
1.05〜1.35で、前記翼部長さは前記下流側が上流側に比べて徐々に大きくなっており、中圧部前記動翼は5段以上有し、翼部長さが前記水蒸気流の上流側から下流側で100〜350mm有し、隣り合う前記翼部長さは前記下流側が上流側に比べて大きくなっており、その比は1.10〜1.30で徐々に前記下流側で大きくなっていること、前記ロータシャフトは前記静翼に対応する部分の直径が前記動翼植込み部に対応する部分の直径より小さく、前記動翼の植込み部付根部の軸方向の幅は初段部が最も大きく、前記水蒸気流の上流側から下流側に従って2段以上、好ましくは3段階以上で段階的に大きくなっており、中圧側の前記動翼は5段以上有し、前記ロータシャフトは前記静翼に対応する部分の直径が前記動翼植込み部に対応する部分の直径より小さく、前記動翼の植込み部付根部の軸方向の幅は前記水蒸気流の上流側が下流側に比較して好ましくは4段階以上で段階的に異なっており、前記動翼の初段は2段より、最終段が他の段より大きく、初段及び2段目は末広がりになっていることのいずれか又は組合せが好ましい。本発明に係る高圧,中圧,高中圧タービン用内部ケーシング材は95%以上の焼戻しマルテンサイト組織(δフェライト5%以下)となるように合金組成を調整して高い高温調度と低温靭性並びに高い疲労強度を得るために、次式の各元素の含有量を重量%として計算されるCr当量を4〜10に成分調整した8〜12%Cr鋳鋼において、特に、625℃,105hクリープ破断強度10kgf/mm2以上,室温衝撃吸収エネルギー1kgf−m以上にすることが好ましい。
【0046】
(1)低圧蒸気タービン用長翼材の成分について
本発明に係る低圧タービン用最終段動翼の組成は、重量比で、C0 . 19 〜
0.25%,Si0.25%以下,Mn0.90%以下,Cr8.0〜13.0%,Ni2〜3.5%,Mo1.5〜3.5%,V0.05〜0.35% ,Nb及びTaの1種又は2種の合計量が0.02〜0.20%、及びN0.04〜0.15%を含有するマルテンサイト鋼からなる。
【0047】
この蒸気タービン長翼は、高速回転による高い遠心応力と振動応力に耐えるため引張強さが高いと同時に、高サイクル疲労強度が高くなければならない。そのために、翼材の金属組織は、有害なδフェライトが存在すると、疲労強度を著しく低下させるので、全焼戻しマルテンサイト組織でなければならない。
【0048】
本発明鋼は前述した式で計算されるCr当量が10以下になるように成分調整され、δフェライト相を実質的に含まないようにすることが必要である。
【0049】
本発明の長翼材の室温の引張強さは、好ましくは138.5kgf/mm2以上である。
【0050】
また均質で高強度の蒸気タービン長翼材を得るために、調質熱処理として、溶解・鍛造後に、1000℃〜1100℃(好ましくは1000〜1055℃)で好ましくは0.5〜3 時間加熱保持後室温まで急冷する(特に油焼入れが好ましい)焼入れを行い、次に、550〜620℃で焼戻し、特に550℃〜570℃で好ましくは1〜6時間加熱保持後室温まで冷却する1次焼戻しと、560℃〜590℃で好ましくは1〜6時間加熱保持後室温まで冷却する2次焼戻しの2回以上の焼戻し熱処理が施されるのが好ましい。2次焼戻し温度は1次焼戻し温度より高くするのが好ましく、特に10〜30℃高くするのが好ましく、より15〜20℃高くするのが好ましい。
【0053】
また本発明の低圧蒸気タービン最終段動翼材は、高い強度と低温靭性並びに疲労強度を得るために、前述の式によって計算されるCr当量を4〜10に成分調整することが好ましい。Cは高い引張強さを得るために必要であるが、あまり多くすると靭性を低下させるので、0 . 19〜0 . 25%にする。特に0 . 19〜
0 . 23%が好ましい。
【0054】
Siは脱酸剤、Mnは脱硫酸・脱酸剤で鋼の溶解の際に添加するものであり、少量でも効果がある。Siはδフェライト生成元素であり、多量の添加は、疲労及び靭性を低下させる有害なδフェライト生成の原因になるので、0.25% 以下が好ましい。なお、カーボン真空脱酸法及びエレクトロスラグ溶解法などによればSi添加の必要がなく、Si無添加がよい。特に、0.10% 以下、より
0.05% 以下が好ましい。
【0055】
少量のMn添加は靭性を向上するが多量の添加は靭性を低下させるので、0.9%以下が好ましい。特に、Mnは脱酸剤として有効なので、靭性向上の点から
0.4%以下、より0.2%以下が好ましい。
【0056】
Crは耐食性と引張強さを高めるが、13%以上添加するとδフェライト組織生成の原因になる。8%より少ないと耐食性と引張強さが不十分なので、Crは8〜13%が好ましい。特に強度の点から10.5〜12.5%が、より11〜
12%好ましい。
【0057】
Moは固溶強化及び析出強化作用によって引張強さを高める効果がある。Moは引張強さ向上効果が不十分であり3%以上になるとδフェライト生成原因になるので1.5〜3.5%が好ましい。特に、1.8〜2.7%、より2.0〜2.5%が好ましい。なお、W及びCoもMoと同じ様な効果があり、より高強度化のために上限で同等の含有量まで含有させることができる。
【0058】
V及びNbは炭化物を析出し引張強さを高めると同時に靭性向上効果がある。V0.05%,Nb0.02%以下ではその効果が不十分であり、V0.35% ,Nb0.2%以下がδフェライト生成の抑制から好ましい。特にVは0.15〜
0.30%、より0.25〜0.30%、Nbは0.10〜0.20%、より0.12〜0.18% が好ましい。Nbの代わりにTaを全く同様に添加でき、複合添加においても合計量で同様の含有量とすることができる。
【0059】
Niは低温靭性を高めると共に、δフェライト生成の防止効果がある。この効果は、Ni2%以下では不十分で、3.5% を越える添加で効果が飽和する。特に、2.6〜3.2%が好ましい。
【0060】
Nは引張強さの向上及びδフェライトの生成防止に効果があるが0.04% 未満ではその効果が十分でなく、0.15% を越えると靭性を低下させる。特に、0.06〜0.10%の範囲で優れた特性が得られる。
【0061】
Si,P及びSの低減は、引張強さを損なわず、低温靭性を高める効果があり、極力低減することが望ましい。低温靭性向上の点からSi0.25% 以下、好ましくは0.1% 以下,P0.015%以下,S0.015%以下が好ましい。特に、Si0.05%以下,P0.010%以下,S0.010% 以下が望ましい。Sb,Sn及びAsの低減も、低温靭性を高める効果があり、極力低減することが望ましいが、現状製鋼技術レベルの点から、Sb0.0015% 以下,Sn
0.01%以下、及びAs0.02%以下に限定した。特に、Sb0.001% 以下,Sn0.005%及びAs0.01%以下が望ましい。
【0062】
さらに、本発明においては、Mn/Ni比を0.11 以下にすること、又Ti,Zr,Hf,Ta等のMC炭化物形成元素を1種又は2種,3種,4種の各々の組合せで合計で0.5% 以下含むものが好ましい。
【0063】
本発明材の熱処理は、まず完全なオーステナイトに変態するに十分な温度,最低1000℃,最高1100℃に均一加熱し、急冷し(好ましくは油冷)、次いで550〜570℃の温度に加熱保持・冷却し(第1次焼戻し)、次いで560〜680℃の温度に加熱保持・冷却し(第2次焼戻し)を行い、全焼戻しマルテンサイト組織とするものが好ましい。第2次焼戻しは第1次焼戻し温度より高い温度とするものである。
【0064】
最終段動翼の先端リーデングエッヂ部にはCo基合金からなるエロージョン防止層が設けられているのが好ましい。Co基合金は重量でCr25〜30%,W1.5〜7.0%,C0.5〜1.5%を有する板材を溶接によって設けるのが好ましい。
【0066】
(2)本発明における620〜660℃蒸気タービンの高圧と中圧又は高中圧一体型のロータシャフト,動翼,静翼,内部ケーシング締付ボルト及び中圧部初段ダイヤフラムを構成するマルテンサイト系耐熱鋼の組成について説明する。特に、ロータシャフトに好適である。
【0067】
Cは焼入れ性を確保し、焼戻し熱処理過程で炭化物を析出させて高温強度を高めるのに不可欠の元素であり、また高い引張強さを得るためにも0.05% 以上必要な元素であるが、0.25% を越えると高温に長時間さらされた場合に金属組織が不安定になり長時間クリープ破断強度を低下させるので、0.05〜0.20%が好ましい。望ましくは0.08〜0.20%であり、特に0.09〜0.15%が好ましい。
【0068】
Mnは脱酸剤等のために添加するものであり、少量の添加でその効果は達成され、1.5% を越える多量の添加はクリープ破断強度を低下させるので好ましくない。特に0.03〜0.20%又は0.3〜0.7%が好ましく、多い方に対しては0.35〜0.65%がより好ましい。Mnの少ない方が620℃以上で高強度が得られる。また、Mn量の多い方は620℃未満の加工性がよい方が選ばれる。
【0069】
Siも脱酸剤として添加するものであるが、真空C脱酸法などの製鋼技術によれば、Si脱酸は不要である。Siを低くすることにより有害なδフェライト組織生成防止と結晶粒界偏析等による靭性低下を防止する効果がある。したがって、添加する場合には0.25%以下、好ましくは0.15%以下に抑える必要があり、望ましくは0.07%以下であり、特に0.04%未満が好ましい。
【0070】
Niは靭性を高め、かつ、δフェライトの生成を防止するのに非常に有効な元素であるが、0.05%未満ではその効果が十分でなく、1.0%を越える添加はクリープ破断強度を低下させるので好ましくない。特に0.3〜0.7%、より
0.4〜0.65%が好ましい。
【0071】
Crは高温強度及び高温耐酸化を高めるのに不可欠の元素であり、最低9%必要であるが、13%を越えると有害なδフェライト組織を生成し高温強度及び靭性を低下させるので、8〜13%が好ましい。特に10〜12%、より10.8〜11.8%が好ましい。
【0072】
Mo添加は、高温強度向上のために行われる。しかし、本発明鋼の様に1%を越えるWを含む場合には、1.5% 以上のMo添加は靭性及び疲労強度を低下させるので、1.5%以下が好ましい。特に620℃以上に対しては0.05〜1.0%、より0.1〜0.5%が好ましい。更に、620℃未満に対しては0.75〜1.5%が好ましい。
【0073】
Wは高温での炭化物の凝集粗大化を抑制し、またマトリックスを固溶強化するので、620℃以上の高温長時間強度を顕著に高める効果がある。620℃では1〜1.5% 、630℃では1.6〜2.0%、640℃では2.1〜2.5%、
650℃では2.6〜3.0%、660℃では3.1〜3.5%とするのが好ましい。またWが3.5% を越えるとδフェライトを生成して靭性が低くなるので、1〜3.5% に限定される。特に2.4〜3.0%が好ましく、より2.5〜2.7%が好ましい。蒸気入口温度が620℃未満に対してはW0.1〜0.65%、好ましくは0.2〜0.45%である。
【0074】
Vは、Vの炭窒化物を析出してクリープ破断強度を高める効果があるが、0.05%未満ではその効果が不十分で0.35% を越えるとδフェライトを生成して疲労強度を低下させる。特に0.10〜0.30%が好ましく、より0.15〜0.25%が好ましい。
【0075】
Nb及びTaはNbC,TaC炭化物を析出し、高温強度を高めるのに非常に効果的な元素であるが、あまり多量に添加すると、特に大型鋼塊では粗大な共晶NbC又はTaC炭化物が生じ、かえって強度を低下させたり、疲労強度を低下させるδフェライトを析出させる原因になるので0.20% 以下が好ましい。また0.01% 未満のNb又はTaでは効果が不十分である。特に単独又は複合で0.02〜0.15%が、より0.04〜0.10%が好ましい。
【0076】
Coは本発明を従来の発明から区別して特徴づける重要な元素である。本発明においては、Co添加により高温強度が著しく改善されるとともに、靭性も高める。これは、Wとの相互作用によると考えられ、Wを1%以上含む本発明合金において特徴的な現象である。このようなCoの効果を実現するために、本発明合金におけるCoは0.5% 以上が好ましいが、過度に添加してもより大きな効果が得られないだけでなく、延性が低下するので、10%以下が好ましい。望ましくは593℃未満では無添加、600〜610℃未満では0.5〜2% 未満、
610〜620℃に対しては2〜3%、620℃を越え630℃に対しては3.5〜4.5% 、630℃を越え640℃に対しては5〜6%、640℃を越え650℃に対しては6.5〜7.5%、650℃を越え660℃に対しては8〜10%が望ましい。
【0077】
Nも本発明を従来の発明から区別して特徴づける重要な元素である。Nはクリープ破断強度の改善及びδフェライト組織の生成防止に効果があるが0.01%以下又は0.1% を越えてもその効果が十分でなく、特に、620℃以上に対しては0.06% を越えると靭性を低下させると共に、クリープ破断強度も低下させるので、0.06%以下が好ましい。特に0.01〜0.03%が、より0.015〜0.025% が好ましい。更に、620℃未満に対しては0.04〜0.08%が好ましい。
【0078】
Bは粒界強度作用とM23C6炭化物中に固溶し、M23C6型炭化物の凝集粗大化を妨げる作用により高温強度を高める効果があり、0.0005% を越える添加が有効であるが、0.03%を越えると溶接性や鍛造性を害するので、0.0005〜0.03%が好ましい。望ましくは0.001〜0.01%、又は0.01〜0.02%が好ましい。
【0079】
Ti及びZrの添加は、靭性を高める効果があり、Ti0.1% 以下及びZr0.1%以下の単独または複合添加で十分な効果が得られる。
【0080】
本発明におけるロータシャフト及び動翼と静翼の少なくとも初段は610〜
630℃の蒸気温度に対してはC0.09〜0.20%,Si0.15% 以下,
Mn0.05〜1.0%,Cr9.5〜12.5%,Ni0.1〜1.0%,V0.05〜0.30%,N0.01〜0.06%,Nb及びTaを単独又は複合で0.01〜0.20%,Mo0.05〜1.0%,W2.0〜3.5%,Co1.0〜4.5%,B0.001〜0.030%,77%以上のFeを有する全焼戻しマルテンサイト組織を有する鋼によって構成されるものが好ましい。また、635〜660℃の蒸気温度に対しては前述のCo量を5〜9%とし、78%以上のFeを有する全焼戻しマルテンサイト組織を有する鋼によって構成されるのが好ましい。特に、両者の温度に対してMn量を0.03〜0.2%及びB量を0.001〜0.01%と少なくすることによって高強度が得られる。特に、C0.09〜0.20%,Mn0.1〜0.7%,Ni0.1〜1.0%,V0.10〜0.30%,Nb及びTaの単独又は複合で0.01〜0.20%,N0.02〜0.05%,Mo0.05〜0.5%,W2〜3.5%を含有し、593〜620℃に対してはCo1.0〜2.0%,620〜630℃に対してはCo3.5〜4.5%,B0.001〜0.01%及び630〜660℃に対してはCo5.5〜9.0%,B0.01〜0.03%とするのが好ましい。
【0081】
Alを脱酸剤として含むことができ、0.02% 以下が好ましい。
【0082】
本発明のマルテンサイト鋼よりなる動翼は高圧,中圧,高中圧タービンの好ましくは初段,2段又は3段まで用いることができる。また、静翼は強度があまり要求されないが、2段まで用いることができる。本発明の動翼の3段目までをマルテンサイト鋼が用いられるが、これに代えて同様に後述のNi基合金を用いることができる。
【0083】
本発明の蒸気タービンの高圧,中圧,高中圧ロータ材,動翼,静翼,内部ケーシング等は、δフェライト組織が混在すると、疲労強度及び靭性が低くなるので、組織は均一な焼戻しマルテンサイト組織が好ましい。焼戻しマルテンサイト組織を得るために、前述の式で計算されるCr当量を、成分調整により4〜10.5、好ましくは10以下が好ましい。Cr当量をあまり低くするとクリープ破断強度が低下してしまうので、4以上が好ましい。特に、Cr当量は5〜9.5 より
6.5〜8が好ましい。
【0084】
本発明のロータは、目標組成とする合金原料を電気炉で溶解し、カーボン真空脱酸し、金型鋳型に鋳込み、鍛伸して電極棒を作製する。この電極棒をエレクトロスラグ再溶解し、ロータ形状に鍛伸して成型する。この鍛伸は、鍛造割れを防ぐために、1150℃以下の温度で行われる。またこの鍛鋼を焼鈍熱処理後、
1000〜1100℃に加熱し急冷する焼入れ処理,550〜650℃及び670〜770℃の順序で2回焼戻しを行うことにより、620℃以上の蒸気中で使用可能な蒸気タービンロータが製造できる。
【0085】
本発明における動翼,静翼,内部ケーシング締付ボルト,中圧部初段ダイヤフラムは真空溶解によって溶解され、真空下で金型に鋳造され、インゴットが製造される。インゴットは前述と同様の温度で所定形状に熱間鍛造され、1050〜1150℃で加熱後水冷又は油焼入れされ、次いで700〜800℃で焼戻し処理が施され、切削加工によって所望の形状のブレードとなる。真空溶解は10-1〜10-4mmHg下で行われる。特に、本発明における耐熱鋼は高圧部及び中圧部のブレード及びノズルの全段に用いることができるが、特に、両者の初段には必要なものである。
【0086】
本発明に係る高圧,中圧又は高中圧一体蒸気タービンロータシャフトは、ジャーナル部及び低温域部が胴部より溶接性良好な12%Cr系合金鋼で、胴部がジャーナル部より高温強度の高い12%Cr系合金鋼で一体に構成するものが好ましい。特に、超々臨界圧タービン用ロータシャフトは、ジャーナル部及び低温部が前述の組成において、Bを無添加又は0.003% 以下が好ましく、特に重量比でC0.05〜0.20% 、好ましくは0.06〜0.14%,Si0.6%以下、好ましくは0.5%以下,Mn2%以下,Cr8〜13%,Ni0.2〜2.0%、好ましくは0.2〜1.0%,V0.05〜0.35%,Nb及びTaを単独又は複合で0.01〜0.20%,N0.005〜0.05%,Mo1.5% 以下,W0.1〜4.0%、好ましくは1.0〜3.0%,B無添加又は0.003% 以下及びCo10%以下、好ましくは5%以下を含むマルテンサイト鋼が好ましく、胴部が重量比でC0.05〜0.20%、好ましくは0.06〜0.14%,Si0.6%以下、好ましくは0.15%以下,Mn1.5%以下、好ましくは0.03〜1.5%,Cr8〜13%,Ni0.05〜1.0%,V0.05〜0.35%,Nb及び
Taを単独又は複合で0.01〜0.20%,N0.005〜0.1%、好ましくは0.005〜0.06%,Mo0.05〜1.5%,W0.1〜4.0%、好ましくは1.0〜3.5%,B0.0005〜0.03%及びCo10%以下、好ましくは2〜10%を含むマルテンサイト鋼が好ましく、ジャーナル部より高温強度の高い12%Cr系合金鋼によって構成されるのが好ましい。
【0087】
本発明の超々臨界圧タービン用ロータシャフトは、ジャーナル部が胴部にくらべ溶接性が高いか、胴部がジャーナル部より高温強度が高い合金鋼の2種又はそれ以上の消耗電極を別々に準備し、まず前者のジャーナル部に相当する消耗電極をエレクトロスラグ溶解し、所望の長さが得られ次第直ちに後者の胴部に相当する消耗電極をエレクトロスラグ溶解して接合し、その後再び前者のジャーナル部に相当する消耗電極をエレクトロスラグ溶解し継ぎ足し一体に接合することによって製造できる。
【0088】
また、本発明の超々臨界圧タービン用ロータシャフトは、ジャーナル部及び低温域部を溶接性良好な合金鋼(上端部及び下端部)で胴部(中央部)を高温強度の高い合金鋼で製作した一体の消耗電極を準備し、この消耗電極をエレクトロスラグ溶解することによっても製造することができる。
【0089】
(3)本発明における12重量%Cr系マルテンサイト鋼からなる蒸気タービンロータシャフトはそのジャーナル部を形成する母材表面に軸受特性の高いCr−Mo低合金鋼の肉盛溶接層を形成することが好ましく、溶接材を用いて好ましくは3層〜10層の前記肉盛溶接層を形成し、初層から2層目〜4層目のいずれかまでの前記溶接材のCr量を順次低下させるとともに、4層目以降を同じCr量を有する鋼からなる溶接材を用いて溶接し、前記初層の溶接に用いられる溶接材のCr量を前記母材のCr量より2〜6重量%程度少なくし、4層目以降の溶接層のCr量を0.5〜3重量%(好ましくは1〜2.5重量%)とするものである。
【0090】
本発明においては、ジャーナル部の軸受特性の改善には肉盛溶接が最も安全性が高い点で好ましい。また、Cr量1〜3%を有する低合金鋼からなるスリーブの焼ばめ,はめ込みとする構造とすることもできる。
【0091】
溶接層数を多くして徐々にCr量を下げるのに3層以上が好ましく、10層以上溶接してもそれ以上の効果は得られない。一例として最終仕上げで約18mmの厚さが要求される。このような厚さを形成するには切削による最終仕上げ代を除いても少なくとも5層の肉盛溶接層が好ましい。3層目以降は主に焼戻しマルテンサイト組織を有し、炭化物が析出していることが好ましい。特に、4層目以降の溶接層の組成として重量で、C0.01〜0.1%,Si0.3〜1%,Mn0.3〜1.5%,Cr0.5〜3%,Mo0.1〜1.5%を含み残部Feからなるものが好ましい。
【0092】
(4)本発明の高圧タービン,中圧タービン及び高中圧タービンの内部ケーシング加減弁弁箱,組合せ再熱弁弁箱,主蒸気リード管,主蒸気入口管,再熱入口管,高圧タービンノズルボックス,中圧タービン初段ダイヤフラム,高圧タービン主蒸気入口フランジ,エルボ,主蒸気止め弁を構成するフェライト系耐熱鋼が好ましい。
【0093】
フェライト系耐熱鋳鋼内部ケーシング材においては、特にNi/W比を0.25〜0.75に調整することにより、621℃,250kgf/cm2以上の超々臨界圧タービン高圧及び中圧内部ケーシング並びに主蒸気止め弁及び加減弁ケーシングに要求される、625℃,105hクリープ破断強度9kgf/mm2以上,室温衝撃吸収エネルギー1kgf−m以上の耐熱鋳鋼ケーシング材が得られる。そして、高い高温強度と低温靭性並びに高い疲労強度を得るために、前述の式で計算される
Cr当量を4〜10に成分調整することが好ましい。621℃以上の蒸気中で使用される場合には、625℃,105hクリープ破断強度9kgf/mm2以上,室温衝撃吸収エネルギー1kgf−m以上、更に、より高い信頼性を確保するためには、625℃,105hクリープ破断強度10kgf/mm2以上,室温衝撃吸収エネルギー2kgf−m以上であることが好ましい。
【0094】
具体的な組成は、重量で、C0.06〜0.16%(好ましくは0.09〜0.14%),N0.01〜0.1%(好ましくは0.02〜0.06%),Mn1%以下
(好ましくは0.4〜0.7%),Si無添加又は0.5%以下(好ましくは0.1〜0.4%),V0.05〜0.35%(好ましくは0.15〜0.25%),Nb
0.15% 以下(好ましくは0.02〜0.1%),Ni0.2〜1%(好ましくは0.4〜0.8%),Cr8〜12%(好ましくは8〜10%、より好ましくは
8.5〜9.5%),W1〜3.5%,Mo1.5%以下(好ましくは0.4〜0.8%)及び残部Feからなるマルテンサイト鋼が好ましい。
【0095】
1%より少ないWでは、620〜660℃で使用する耐熱鋼としては効果が不十分である。またWが4%を越えると靭性が低くなる。620℃では1.0〜1.5%、630℃では1.6〜2.0%、640℃では2.1〜2.5%、650℃に対しては2.6〜3.0%、660℃では3.1〜3.5%が好ましい。
【0096】
Ta,Ti及びZrの添加は、靭性を高める効果があり、Ta0.15%以下,Ti0.1%以下及びZr0.1%以下の単独または複合添加で十分な効果が得られる。Taを0.1% 以上添加した場合には、Nbの添加を省略することができる。
【0097】
本発明の耐熱鋳鋼ケーシング材等も、δフェライトは5%以下とすることにより、疲労強度及び靭性の低下を防止でき、組織は均一な焼戻し全マルテンサイト組織が好ましい。焼戻しマルテンサイト組織を得るために、前述の式で計算されるCr当量を、成分調整により4〜10、好ましくは6〜9である。
【0098】
B添加は高温(620℃以上)クリープ破断強度を著しく高める。B含有量が0.003%を越えると、溶接性が悪くなるため、上限は0.003%に制限される。特に、大型ケーシングのB含有量の上限は0.0028%、更に0.0005〜0.0025%が好ましく、特に0.001〜0.002%が好ましい。
【0099】
ケーシングは、620℃以上の高圧蒸気に対しては、内圧による高応力が作用する為、クリープ破壊防止の観点から、10kgf/mm2以上の105hクリープ破断強度が要求される。また、起動時には、メタル温度が低い時に熱応力が作用するので、脆性破壊防止の観点から、1kgf−m以上の室温衝撃吸収エネルギーが要求される。より高温度側に対してはCoを10%以下含有させることにより強化が図れる。特に、620℃以下に対しては1〜2%、630℃に対しては2.5〜3.5% 、640℃に対しては4〜5%、650℃に対しては5.5〜6.5%、660℃に対しては7〜8%が好ましい。600〜620℃では無添加でもよい。
【0100】
欠陥の少なく、鋳塊重量50トン前後と大型ケーシングを作製するには、高度な製造技術が要求される。本発明フェライト系耐熱鋳鋼ケーシング材は、目標組成とする合金原料を電気炉で溶解し、とりべ精錬後、砂型鋳型に鋳込み成形することにより健全なものが作製できる。鋳込み前に、十分な精錬及び脱酸を行うことにより、引け巣等の鋳造欠陥の少ないものにできる。
【0101】
また、前記のケーシングにおける鋳鋼を1000〜1150℃で焼鈍熱処理後、1000〜1100℃に加熱し急冷する焼準熱処理,550〜750℃及び
670〜770℃の順序で2回焼戻しを行うことにより、621℃以上の蒸気中で使用が可能となり、また他は鍛鋼が好ましい。
【0102】
Oは0.015%を越えると高温強度及び靭性値を低下させるので、0.015%以下が好ましく、特に0.010%以下が好ましい。
【0103】
(5)低圧蒸気タービンロータシャフトは重量で、C0.2〜0.3%,Si0.15%以下,Mn0.25%以下,Ni3.25〜4.25%,Cr1.6〜2.5%,Mo0.25〜0.6%,V0.05〜0.25%を有し、Fe92.5% 以上の全焼戻しベーナイト組織を有する低合金鋼が好ましく、前述の高圧,中圧ロータシャフトと同様の製法によって製造されるのが好ましい。特に、Si量は0.05%以下,Mn0.1% 以下の他P,S,As,Sb,Sn等の不純物を極力低めた原料を用い、総量0.025%以下、好ましくは0.015%以下とするように用いられる原材料の不純物の少ないものを使用するスーパークリーン化した製造とするのが好ましい。P,S各0.010%以下,Sn,As0.005%以下,Sb0.001% 以下が好ましい。本ロータシャフトは前述の特定の長さを有するマルテンサイト鋼を有する最終段動翼と密接な関係を有する。前述の129000以上に対しては室温の引張強さが92kg/mm2 以上、FATTが−5℃以下を有するもの、138000以上に対しては95kg/mm2 以上で同じくFATTを有するもの、144000以上に対しては同じく103kg/mm2 以上、同じくFATTを有するものが好ましい。本発明に係るロータシャフトには中心孔を有するものに対しては最終段動翼としてフォーク型のもの、中心孔を設けないものに対しては逆クリスマスツリー型のものを設けるのが好ましい。
【0104】
(6)低圧タービン用ブレードの最終段以外及びノズルは、C0.05〜0.2%,Si0.1〜0.5%,Mn0.2〜1.0%,Cr10〜13%,Mo0.04〜0.2%を有する全焼戻しマルテンサイト鋼が好ましい。
【0105】
(7)低圧タービン用内部及び外部ケーシングともにC0.2〜0.3%,Si
0.3〜0.7%,Mn1%以下を有する炭素鋳鋼が好ましい。
【0106】
(8)主蒸気止め弁ケーシング及び蒸気加減弁ケーシングはC0.1〜0.2%,Si0.1〜0.4%,Mn0.2〜1.0%,Cr8.5〜10.5%,Mo0.3〜1.0% ,W1.0〜3.0%,V0.1〜0.3%,Nb0.03〜0.1%,N
0.03〜0.08%,B0.0005〜0.003%を含む全焼戻しマルテンサイト鋼が好ましい。
【0107】
(9)高圧タービン,中圧タービン及び高中圧タービン用外部ケーシングにはC0.10〜0.20%,Si0.05〜0.6%,Mn0.1〜1.0%,Ni0.1〜0.5%,Cr1〜2.5%,Mo0.5〜1.5%,V0.1〜0.35%を含み、好ましくはAl0.025%以下,B0.0005〜0.004%及びTi0.05〜0.2% の少なくとも一方を含み、全焼戻しベーナイト組織を有する鋳鋼によって製造するのが好ましい。特に、C0.10〜0.18%,Si0.20〜0.60%,Mn0.20〜0.50%,Ni0.1〜0.5%,Cr1.0〜1.5%,Mo0.9〜1.2%,V0.2〜0.3%,Al0.001〜0.005%,Ti0.045〜0.10% 及びB0.0005〜0.0020%を含む鋳鋼が好ましい。より好ましくはTi/Al比が0.5〜10である。
【0108】
(10)蒸気温度625〜650℃における高圧,中圧,高中圧タービン(高圧側と中圧側)の初段ブレード、好ましくは高圧タービン及び高中圧タービンの高圧側は2段又は3段まで、中圧タービン及び高中圧タービンの中圧側は2段までを前述のマルテンサイト鋼に代えて重量で、C0.03〜0.20%(好ましくは
0.03〜0.15%),Cr12〜20%,Mo9〜20%(好ましくは12〜20%),Co12%以下(好ましくは5〜12%),Al0.5〜1.5%,Ti1〜3%,Fe5%以下,Si0.3%以下,Mn0.2%以下,B0.003〜0.015%の他,Mg0.1%以下,希土類元素0.5%以下,Zr0.5%以下の1種以上を含むNi基合金を用いることができる。以下については0%も含む。鍛造後、溶体化処理され、時効処理される。
【0109】
溶体化処理は、1050〜1200℃で30分〜10時間保持後水冷又は空冷等によって行うこと、水冷は合金を所定温度より水中に投入するか、又は板の場合には所定温度の合金面に水をスプレーすることにより行うことが好ましい。
【0110】
時効処理は前述の溶体化処理後、700〜870℃で4〜24時間加熱保持することにより行うのが好ましい。
【0111】
本発明におけるNi基析出強化合金は室温での抗張力が90kg/mm2 以上、好ましくは100kg/mm2以上、732℃抗張力が80kg/mm2以上、その伸び率が10%以上が好ましい。
【0112】
【発明の実施の形態】
〔実施例1〕
表1は蒸気タービン用長翼材に係る12%Cr鋼の化学組成(重量%)を示し、残部はFeである。各試料はそれぞれ150kg真空アーク溶解し、1150℃に加熱し鍛造して実験素材とした。試料No.1は、1000℃で1h加熱後油焼入れにより室温まで冷却し、次いで、570℃に加熱し2h保持後室温まで空冷した。No.2は、1050℃で1h加熱後油焼入れにより室温まで冷却し、次いで、570℃に加熱し2h保持後室温まで空冷した。試料No.3〜No.11は、1050℃で1h加熱後油焼入れ、No.12〜14は1075℃で1時間加熱後油焼入れにより室温まで冷却し、次いで、560℃(低温戻し)に加熱し2h保持後室温まで空冷し(1次焼戻し)、更に580℃(高温戻し)に加熱し2h保持後室温まで空冷した(2次焼戻し)。いずれのものも全焼戻しマルテンサイト組織を有していた。
【0113】
表1において、N o. 9,10,13及び14は本発明に係る材料、N o. 1及び2は現用の長翼材、それ以外は比較材である。
【0114】
表2はこれらの試料の室温(20℃)の機械的性質を示す。本発明に係る材料(N o. 9,10,13及び14)は、3000 rpm に対し1143 mm (45インチ)以上または3600 rpm に対し952 mm (37 . 5インチ)以上の翼部長さを有する低圧蒸気タービン最終段動翼材に要求される引張強さ(140 kg f/ mm 2 以上又は138 . 5 kg f/ mm 2 以上)及び低温靭性(20℃Vノッチシャルピー衝撃値4kgf−m/cm2 以上)を十分満足することが確認された。尚、表中No.1〜11及びNo.12〜14の上段は高温戻し材、及びNo.12〜14の下段は低温戻し材である。
【0115】
これに対し、No.1及び6は、蒸気タービン用長翼に使用するには、引張強さと衝撃値とで示される値が低い。No.2は、引張強さと靭性が低い。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
図1は引張強さとC量との関係を示す線図である。図に示す様に引張強さは
0.13〜0.15%の範囲でその増加によって急激に増加し、0.13% 前後で130〜138kg/mm2であるのに対し、0.15%以上ではいずれも140kg/mm2以上の高い強度が得られる。
【0119】
図2は引張強さとMo量との関係を示す線図である。図に示す様に引張強さはMo量の増加とC量の増加によって顕著に高くなる。C量が0.13〜0.14%ではMo量が2.0〜3.2%で引張強さが132〜138kg/mm2 の高い値が得られ、更にC量が0.15〜0.21%ではMo量が2.0〜3.3%で140kg/mm2 以上、特に142kg/mm2 以上の高い値が得られる。より2.4〜3.1%のMoでは145kg/mm2 以上のきわめて高いものが得られる。尚、No.12〜
14を図中に示していないのは、他のものと焼入温度が異なること及びCr量が異なることからである。
【0120】
図3は衝撃値と引張強さとの関係を示す線図である。図中の式は衝撃値(kg−m/cm2)をyとし、引張強さ(kg/mm2)をxとして求められるものである。
【0121】
(1)y=−0.29x+43.8によって求められる値以上では3000rpm で翼部長さ1092 mm (43インチ)又は3600rpmで914 mm (36インチ)として必要な強度128.5kg/mm2 を満足し、更に衝撃値4kg−m/cm2以上を満たすことができる。そして、この式より上では3000rpm では1143 mm (45インチ)以上、3600rpmでは952 mm (37.5インチ)以上のも
のを達成できる。
【0122】
(2)y=−0.29x+45によって求められる値以上では3000rpmで翼部長さ1168 mm (46インチ)以上、3600rpmでは952 mm (37.5インチ)以上として必要な引張強さ138.5kg/mm2 以上、衝撃値4kg−m/cm2以上を満たすことができる。
(3)y=−0.29x+46.5によって求められる値以上では3000rpm で翼部長さ1193 mm (47インチ)以上、3600rpm で990 mm (39インチ)として必要な引張強さ142kg/mm2以上及び衝撃値4kg−m/cm2以上を
満たすことができる。
【0123】
図中、いずれの線上に対して目標の翼部長さを有するものを達成するには熱処理温度を調整することによって目標の機械的特性を得ることができる。
【0124】
(実施例2)
図4は実施例1のNo.3〜7に記載の鋼を用いた3000rpm 用の翼部長さ
1092mm(43″)長翼の正面図及び図5はその側面図である。51は、高速蒸気が突き当たる翼部、52はロータシャフトへの翼植え込み部、53は翼の遠心力を支えるためのピンを挿入するピン挿入孔、54は蒸気中の水滴によりエロージョンを防止するための翼部リーデング側に設けられたエロージョンシールド(Co基合金のステライト板を溶接で接合)、55はタイボス及び57はコンティニュアスカバーである。本実施例においては全体一体の鍛造後に切削加工によって形成されたものである。尚、コンティニュアスカバー57は機械的に一体に形成することもできる。エロージョンシールドは局部的な焼入れによって他の翼部より硬さを高めることによって設けることができる。
【0125】
1092 mm (43″)長翼は、エレクトロスラグ再溶接法により溶製し、鍛造熱・処理を行ったものである。鍛造は850〜1150℃の温度範囲内で、熱処理は実施例1に示した条件で行った。この長翼の金属組織は全焼戻しマルテンサイト組織であった。翼部51は植込み部の厚さが最も大きく、先端部になるに従って徐々に薄肉となっている。
【0126】
図4及び図5に示す様に、翼植込み部52は8本の植込み部を有するフォーク型になっている。図5の側面にはフォーク型にピンを挿入するピン挿入孔53が3段に設けられ、それに対応して凹部が設けられている。ピン挿入孔53は翼部側が最も直径が大きく、徐々に小さくなっている。翼部51はその幅方向の傾きが車軸の軸方向に対して翼植込み部52がほぼ平行であり、翼先端部で約75度に徐々に傾いている。本実施例における翼植込み部52の最大幅は翼部先端の幅に対して約2.4 倍であり、2.2〜2.6が好ましい。58は翼部51の翼植込み部52近傍に対する接線の延長上の幅を示し、翼部51の有効幅となるもので、翼部先端の幅に対して約1.79 倍有するものであり、1.60〜1.85倍が好ましい。
【0127】
図6は蒸気タービンに配置されたタービン翼におけるコンティニュアスカバー57の互いの位置関係を示す円周面の上面から見た正面図である。翼部51は隣り同志で重り合うように配置されている。また、翼部51は水蒸気の流れをふさぐように配置されている。このコンティニュアスカバー57は本体の材料と同一の一体に成形加工によって作られたものである。
【0128】
図7は実施例1のNo.8〜14に記載のマルテンサイト鋼を用いた3000 rpm 用翼部長さが1168mm(46インチ)である長翼の正面図及び図8はその側面図である。この長さの長翼の製造法及び構造は図4及び図5とほぼ同じであり、特に翼植込み部が9本有するフォーク型である点が異なるだけ他は前述と同様である。翼部51は翼植込み部52の正面図に対して前述と同様に軸方向に対し約75度ねじられている。また、翼植込み部52の最大幅は翼部先端の幅に対して同等の倍率であり、58の幅も同等の倍率である。コンティニュアスカバー57は同様に本体材と一体の塑性加工によって形成されたものである。ピン挿入孔53及びエロージョンシールド54は前述と同様である。このフォーク型の植込み部に対しロータシャフトにはこれに対応した8本のリング状の溝が円周上に形成され、円周方向に沿って翼が植込まれる。そして、固定用のピンが挿入される。
【0129】
尚、実施例1のNo.12に記載のマルテンサイト鋼は焼入れ温度を若干高めることによって引張強さを目標の138.5kg/mm2以上及び衝撃値を4kg−m/ cm2 以上のものを得ることができる。
【0130】
図9は翼動込み部を逆クリスマスツリータイプとしたもので、平面図及び図
10はその側面図である。本図面に示す蒸気タービン翼は前述の図4及び図5とは翼植込み部52の型が違うだけで、他の構造は同様である。本図に示す様に翼植込み部52は両側に4段のストレートな突起を有し、この突起によって高速回転による翼部をロータシャフトに植設され固定されるものである。そして、ロータシャフトにはこの外形と同一の空間を有する溝がロータシャフトの軸方向に沿って植込まれるように形成されている。
【0131】
〔実施例3〕
オイルショック後の燃料高騰を契機に、蒸気条件の向上による熱効率向上を図るため蒸気温度593℃〜649℃微粉炭直接燃焼ボイラ及び蒸気タービンが要求される。このような、蒸気条件のボイラの一例を表3に示す。
【0132】
【表3】
【0133】
大容量化とともに微粉炭燃焼火炉が大型化し、1050MW級で火炉幅31m,火炉奥行き16m,1400MW級で火炉幅34m,火炉奥行き18mとなる。
【0134】
表4は蒸気温度625℃,1050MW蒸気タービンの主な仕様である。本実施例は、クロスコンパウンド型4流排気,低圧タービンにおける最終段動翼の翼部長さが1092 mm (43インチ)であり、AはHP−IP及びLP2台で3000r/min、BはHP−LP及びIP−LPで各々同じく3000r/minの回転数を有し、高温部においては表に示す主な材料によって構成される。高圧部(HP)の蒸気温度は625℃,250kgf/cm2 の圧力であり、中圧部(IP)の蒸気温度は625℃に再熱器によって加熱され、45〜65kgf/cm2 の圧力で運転される。低圧部(LP)は蒸気温度は400℃で入り、100℃以下,722mmHgの真空で復水器に送られる。
【0135】
本実施例における低圧タービンの最終段動翼の翼部長さに対する高圧タービン及び中圧タービンをタンデムに結合した軸受間距離、及びタンデムに結合した2台の前記低圧タービンの軸受間距離の合計は約31.5mであり、その比が28.8であり、コンパクトになっている。
【0136】
また、本実施例における蒸気タービン発電プラントの定格出力(MW)に対する前記高圧タービン及び中圧タービンをタンデムに結合した軸受間距離、及びタンデムに結合した2台の前記低圧タービンの軸受間距離の合計距離(mm)の比が30である。
【0137】
【表4】
【0138】
図11は表4のタービン構成のAにおける高圧及び中圧蒸気タービンの断面構成図である。高圧蒸気タービンは高圧内部車室18とその外側の高圧外部車室
19内に高圧動翼16を植設した高圧車軸(高圧ロータシャフト)23が設けられる。前述の高温高圧の蒸気は前述のボイラによって得られ、主蒸気管を通って、主蒸気入口を構成するフランジ,エルボ25より主蒸気入口28を通り、ノズルボックス38より初段複流の動翼に導かれる。初段は複流であり、片側に8段設けられる。これらの動翼に対応して各々静翼が設けられる。動翼は鞍型ダブティル型式,ダブルティノン,初段翼長約35mmである。車軸間の長さは約5.8m及び静翼部に対応する部分で最も小さい部分の直径は約710mmであり、直径に対する長さの比は約8.2である。
【0139】
ロータシャフトの初段と最終段の動翼植込み部分の幅はほぼ等しく、2段目,3〜5段目,6段目,7〜8段目の5段階で下流側に従って段階的に小さくなっており、2段目の植込み部の軸方向の幅は最終段のそれに対して0.71 倍の大きさである。
【0140】
ロータシャフトの静翼に対応する部分は動翼植込み部に対してロータシャフトの直径が小さくなっている。その部分の軸方向の幅は2段目動翼と3段目動翼との間の幅に対して最終段動翼とその手前の動翼との間の幅まで段階的に小さくなっており、後者の幅は前者の幅に対して0.86 倍と小さくなっている。2段目〜6段目までと、6段目〜9段目までとの2段階で小さくしたものである。
【0141】
本実施例においては後述する表3に示す材料を初段ブレード及び初段ノズルを使用し、他のブレード及びノズルはいずれもW,Co及びBを含まない12%
Cr系鋼によって構成したものである。本実施例における動翼の翼部の長さは初段が35〜50mm、2段目から最終段になるに従って各段で長くなっており、特に蒸気タービンの出力によって2段から最終段までの長さが65〜180mmであり、段数は9〜12段で、各段の翼部の長さは下流側が上流側に対して隣り合う長さで1.10〜1.15の割合で長くなっているとともに、下流側でその比率が徐々に大きくなっている。
【0142】
本実施例における高圧タービンは軸受間距離が約5.3m であり、低圧タービンの最終段動翼の翼部長さに対するその軸受間距離の比が4.8 である。また、発電プラントの定格出力(MW)に対する前記高圧タービンの軸受間距離(mm)の比は5.0である。
【0143】
中圧蒸気タービンは高圧蒸気タービンより排出された蒸気を再度625℃に再熱器によって加熱された蒸気によって高圧蒸気タービンと共に発電機を回転させるもので、3000回/min の回転数によって回転される。中圧タービンは高圧タービンと同様に中圧内部第2車室21と中圧外部車室22とを有し、中圧動翼17と対抗して静翼が設けられる。動翼17は6段で2流となり、中圧車軸(中圧ロータシャフト)の長手方向に対しほぼ対称に左右に設けられる。軸受中心間距離は約5.8m であり、初段翼長さ約100mm,最終段翼長さ約230mmである。初段,2段のダブティルは逆クリ型である。最終段動翼前の静翼に対応するロータシャフトの直径は約630mmであり、その直径に対する軸受間距離の比は約9.2倍である。
【0144】
本実施例の中圧蒸気タービンのロータシャフトは動翼植込み部の軸方向幅が初段から4段,5段及び最終段に従って3段階で段階的に大きくなっており、最終段での幅は初段に対して約1.4倍と大きくなっている。
【0145】
また、本蒸気タービンのロータシャフトは静翼部に対応した部分の直径が小さくなっており、その幅は初段動翼,2〜3段及び最終段動翼側に従って4段階で段階的に小さくなっており、前者に対する後者の軸方向の幅が約0.75 倍と小さくなる。
【0146】
本実施例においては後述する表5に示す材料を初段ブレード,ノズルに使用される他はW,Co及びBを含まない12%Cr系鋼が用いられる。本実施例における動翼の翼部の長さは初段から最終段になるに従って各段で長くなっており、蒸気タービンの出力によって初段から最終段までの長さが60〜300mmで、6〜9段で、各段の翼部の長さは下流側が上流側に対して隣り合う長さで1.1〜1.2の割合で長くなっている。
【0147】
動翼の植込み部は静翼に対応する部分に比較して直径が大きくなっており、その幅は動翼の翼部長さの大きい程その植込み幅は大きくなっている。その幅の動翼の翼部長さに対する比率は初段から最終段で0.35〜0.8であり、初段から最終段になるに従って段階的に小さくなっている。
【0148】
本実施例における中圧タービンは、その軸受間距離が約5.5mであり、低圧タービンの最終段動翼の翼部長さに対する中圧タービンの軸受間距離の比が5.0であり、また、発電プラントの定格出力(MW)に対するその軸受間距離(mm)の比が5.2である。
【0149】
図12は高圧タービンの初段に植込まれるタービン翼及び図13は高圧タービンの2段以降及び中圧タービンの全段に植込まれるタービン翼の斜視図である。図12は鞍型の植込み形式及び図13は逆クリスマスツリー型のものである。
【0150】
図14は低圧タービンの断面図である。低圧タービンは2基タンデムに結合され、ほぼ同じ構造を有している。各々動翼41は左右に8段あり、左右ほぼ対称になっており、また動翼に対応して静翼42が設けられる。最終段動翼には実施例2に示した翼部長さが1092 mm (43インチ)である蒸気タービン翼を用いた。ノズルボックス45は複流型である。
【0151】
ロータシャフト44には表5に示すスーパークリーンされたベーナイト鋼の鍛鋼が用いられる。表5に示す鋼は5kgの鋼塊を用い各種特性を調べた。これらの鋼は熱間鍛造後840℃×3h加熱後、100℃/hで冷却する焼入れ後、575℃×32h加熱する焼戻しを施したものである。表6は室温の特性である。
【0152】
【表5】
【0153】
【表6】
【0154】
いずれの試料も全焼戻しベーナイト組織を有する。引張強さはいずれも100kg/mm2 以上、FATTは−20℃以下と高強度及び高靭性を有し、本実施例の最終段動翼として翼部長さ1092 mm (43インチ)以上は勿論、1168 mm
(46インチ)の植設を満足するものであった。Cr量が若干高いNo.4は強度が低くなっており、Crは2.20%位までが好ましい。
【0155】
最終段以外の動翼及び静翼にはいずれもMoを0.1% 含有する12%Cr鋼が用いられる。内外部ケーシング材にはC0.25% の鋳鋼が用いられる。本実施例における軸受43での中心間距離は7500mmで、静翼部に対応するロータシャフトの直径は約1280mm,動翼植込み部での直径は2275mmである。このロータシャフト直径に対する軸受中心間の距離は約5.9 である。
【0156】
蒸気中の水滴によるエロージョンを防止するためのエロージョンシールドには重量で、C1.0%,Cr28.0%及びW4.0% を含むCo基合金のステライト板を電子ビーム溶接で接合した。コンティニュアスカバー57は本実施例においては全体一体の鍛造後に切削加工によって形成されたものである。尚、コンティニュアスカバー57は機械的に一体に形成することもできる。
【0157】
本実施例の低圧タービンは動翼植込み部の軸方向の幅が初段〜3段,4段,5段,6〜7段及び8段の4段階で徐々に大きくなっており、最終段の幅は初段の幅に比べ約6.8倍と大きくなっている。
【0158】
また、静翼部に対応する部分の直径は小さくなっており、その部分の軸方向の幅は初段動翼側から5段目,6段目及び7段目の3段階で徐々に大きくなっており、最終段側の幅は初段と2段の間に対して約2.5倍大きくなっている。
【0159】
本実施例における動翼は6段であり、その翼部長さは初段の約76 . 2 mm
(3″)から1092 mm (43″)の最終段になるに従って各段で長くなっており、蒸気タービンの出力によって初段から最終段の長さが80〜1100mmで、8段又は9段で、各段の翼部長さは下流側が上流側に対して隣り合う長さで1.2〜1.8倍の割合で長くなっている。
【0160】
動翼の植込み部は静翼に対応する部分に比較して直径が大きくなっており、その幅は動翼の翼部長さの大きい程その植込み幅は大きくなっている。その幅の動翼の翼部長さに対する比率は初段から最終段で0.15〜0.91であり、初段から最終段になるに従って段階的に小さくなっている。
【0161】
また、各静翼に対応する部分のロータシャフトの幅は初段と2段目との間から最終段とその手前との間までの各段で段階的に大きくなっている。その幅の動翼の翼部長さに対する比率は0.25〜1.25で上流側から下流側になるに従って小さくなっている。
【0162】
本実施例における低圧タービンはタンデムに2台連結され、その合計の軸受間距離は約18.3m であり、低圧タービンの最終段動翼の翼部長さに対するタンデムに結合した2台の前記低圧タービンの軸受間距離の合計の比が16.7 であり、更に発電プラントの定格出力1050(MW)に対するタンデムに結合した2台の両端での低圧タービンの軸受間距離(mm)の合計の比が17.4である。 本実施例の他、高圧蒸気タービン及び中圧蒸気タービンへの蒸気入口温度610℃,2基の低圧蒸気タービンへの蒸気入口温度385℃とする1000MW級大容量発電プラントに対しても同様の構成とすることができる。
【0163】
本実施例における高温高圧蒸気タービンプラントは主として石炭専焼ボイラ,高圧タービン,中圧タービン,低圧タービン2台,復水器,復水ポンプ,低圧給水加熱器系統,脱気器,昇圧ポンプ,給水ポンプ,高圧給水加熱器系統などより構成されている。すなわち、ボイラで発生した超高温高圧蒸気は高圧タービンに入り動力を発生させたのち再びボイラにて再熱されて中圧タービンへ入り動力を発生させる。この中圧タービン排気蒸気は、低圧タービンに入り動力を発生させた後、復水器にて凝縮する。この凝縮液は復水ポンプにて低圧給水加熱器系統,脱気器へ送られる。この脱気器にて脱気された給水は昇圧ポンプ,給水ポンプにて高圧給水加熱器へ送られ昇温された後、ボイラへ戻る。
【0164】
ここで、ボイラにおいて給水は節炭器,蒸発器,過熱器を通って高温高圧の蒸気となる。また一方、蒸気を加熱したボイラ燃焼ガスは節炭器を出た後、空気加熱器に入り空気を加熱する。ここで、給水ポンプの駆動には中圧タービンからの抽気蒸気にて作動する給水ポンプ駆動用タービンが用いられている。
【0165】
このように構成された高温高圧蒸気タービンプラントにおいては、高圧給水加熱器系統を出た給水の温度が従来の火力プラントにおける給水温度よりもはるかに高くなっているため、必然的にボイラ内の節炭器を出た燃焼ガスの温度も従来のボイラに比べてはるかに高くなってくる。このため、このボイラ排ガスからの熱回収をはかりガス温度を低下させないようにする。
【0166】
本実施例における低圧タービンの最終段動翼での平均直径は3000rpm 、
1092 mm (43″)翼で3570mm及び3600rpm 、914 mm (36″)翼で2975mm、更に前者に対し1168 mm (46″)翼で3645mm、後者に対し965 mm (38″)翼で3040mmとした。平均直径は動翼の翼部長さの中心間の直径である。
【0167】
また、本実施例に代えて同じ高圧タービン及び中圧タービンの各々に対し1基の低圧タービンをタンデムに連結し、各々に1台の発電機を連結して発電するタンデムコンパウンド型発電プラントとしても同様に構成することができる。本実施例の出力1050MW級の発電機においてはその発電機シャフトとしてはより高強度のものが用いられる。特に、C0.15〜0.30%,Si0.1〜0.3%,Mn0.5%以下,Ni3.25〜4.5%,Cr2.05〜3.0%,Mo0.25〜0.60%,V0.05〜0.20%を含有する全焼戻しベーナイト組織を有し、室温引張強さ93kgf/mm2以上、特に100kgf/mm2以上,50%FATTが0℃以下、特に−20℃以下とするものが好ましく、21.2KG における磁化力が985AT/cm以下とするもの、不純物としてのP,S,Sn,Sb,Asの総量を0.025%以下,Ni/Cr比を2.0以下とするものが好ましい。
【0168】
高圧タービンシャフトは多段側の初段ブレード植設部を中心に9段のブレードが植設される構造である。中圧タービンシャフトは多段ブレードが左右に各6段ほぼ対称にブレード植設部が設けられ、ほぼ中心を境にしたものである。低圧タービン用ロータシャフトは図示されていないが、高圧,中圧,低圧タービンのいずれのロータシャフトにおいても中心孔が設けられ、この中心孔を通して超音波検査,目視検査及びけい光探傷によって欠陥の有無が検査される。また、外表面から超音波検査により行うことができ、中心孔が無でもよい。
【0169】
本実施例における低圧タービンの最終段動翼での平均直径は、3000rpm 、1092 mm (43″)翼で2855mm、3600rpm 、914 mm (36″)翼で2380mm、更に3000rpm、1168 mm(46″)翼で2930mm、3600rpm 、965 mm (38″)翼で2440mmとした。
【0170】
表7は上述の本実施例の高圧タービン,中圧タービン及び低圧タービンの主要部に用いた化学組成(重量%)を示す。本実施例においては、高圧部及び中圧部の高温部を全部フェライト系の結晶構造を有する熱膨張係数約12×10-6/℃のものにしたので、熱膨張係数の違いによる問題は全くなかった。
【0171】
高圧タービン及び中圧タービンのロータシャフトは、表7に記載の耐熱鋳鋼を電気炉で30トン溶解し、カーボン真空脱酸し、金型鋳型に鋳込み、鍛伸して電極棒を作製し、この電極棒として鋳鋼の上部から下部に溶解するようにエレクトロスラグ再溶解し、ロータ形状(直径1050mm,長さ3700mm)に鍛伸して成型した。この鍛伸は、鍛造割れを防ぐために、1150℃以下の温度で行った。またこの鍛鋼を焼鈍熱処理後、1050℃に加熱し水噴霧冷却焼入れ処理,
570℃及び690℃で2回焼戻しを行い、後述の図15及び図16に示す形状に切削加工によって得たものである。本実施例においてはエレクトロスラグ鋼塊の上部側を初段翼側にし、下部を最終段側にするようにした。いずれのロータシャフトも中心孔を有しており、不純物を低下させることにより中心孔をなくすことができる。
【0172】
高圧部及び中圧部のブレード及びノズルは、同じく表7に記載の耐熱鋼を真空アーク溶解炉で溶解し、ブレード及びノズル素材形状(幅150mm,高さ50mm,長さ1000mm)に鍛伸して成型した。この鍛伸は、鍛造割れを防ぐために、1150℃以下の温度で行った。またこの鍛鋼を1050℃に加熱し油焼入れ処理,690℃で焼戻しを行い、次いで所定形状に切削加工したものである。
【0173】
高圧部及び中圧部の内部ケーシング,主蒸気止め弁ケーシング及び蒸気加減弁ケーシングは、表7に記載の耐熱鋳鋼を電気炉で溶解し、とりべ精錬後、砂型鋳型に鋳込み作製した。鋳込み前に、十分な精錬及び脱酸を行うことにより、引け巣等の鋳造欠陥のないものができた。このケーシング材を用いた溶接性評価は、JIS Z3158に準じて行った。予熱,パス間及び後熱開始温度は200℃に、後熱処理は400℃×30分にした。本発明材には溶接割れが認められず、溶接性が良好であった。
【0174】
【表7】
【0175】
表8は、上述したフェライト系鋼製高温蒸気タービン主要部材を切断調査した機械的性質及び熱処理条件を示す。
【0176】
このロータシャフトの中心部を調査した結果、高圧,中圧タービンロータに要求される特性(625℃,105h強度≧10kgf/mm2,20℃衝撃吸収エネルギー≧1.5kgf−m)を十分満足することが確認された。これにより、620℃以上の蒸気中で使用可能な蒸気タービンロータが製造できることが実証された。またこのブレードの特性を調査した結果、高圧,中圧タービンの初段ブレードに要求される特性(625℃,105h強度≧15kgf/mm2)を十分満足することが確認された。これにより、620℃以上の蒸気中で使用可能な蒸気タービンブレードが製造できることが実証された。
【0177】
さらにこのケーシングの特性を調査した結果、高圧,中圧タービンケーシングに要求される特性(625℃,105h強度≧10kgf/mm2,20℃衝撃吸収エネルギー≧1kgf−m)を十分満足することと溶接可能であることが確認された。これにより、620℃以上の蒸気中で使用可能な蒸気タービンケーシングが製造できることが実証された。
【0178】
【表8】
【0179】
本実施例においては、ロータシャフトのジャーナル部にCr−Mo低合金鋼を肉盛溶接し、軸受特性を改善させた。肉盛溶接は次の通りである。
【0180】
供試溶接棒として被覆アーク溶接棒(直径4.0φ)を用いた。その溶接棒を用いて溶接したものの溶着金属の化学組成(重量%)を表9に示す。この溶着金属の組成は溶接材の組成とほぼ同じである。
【0181】
溶接条件は溶接電流170A,電圧24V,速度26cm/minである。
【0182】
【表9】
【0183】
肉盛溶接を上述の供試母材表面に表10に示すごとく、各層ごとに使用溶接棒を組合せて、8層の溶接を行った。各層の厚さは3〜4mmであり、全厚さは約
28mmであり、表面を約5mm研削した。
【0184】
溶接施工条件は、予熱,パス間,応力除去焼鈍(SR)開始温度が250〜
350℃及びSR処理条件は630℃×36時間保持である。
【0185】
【表10】
【0186】
溶接部の性能を確認するために板材に同様に肉盛溶接し、160゜の側曲げ試験を行ったが、溶接部に割れは認められなかった。
【0187】
更に、本発明における回転による軸受摺動試験を行ったが、いずれも軸受に対する悪影響もなく、耐酸化性に対しても優れたものであった。
【0188】
本実施例に代えて高圧蒸気タービン,中圧蒸気タービン及び1基又は2基の低圧蒸気タービンをタンデムに結合し、3000回転としたタンデム型発電プラント及び表4のタービン構成Bにおいても本実施例の高圧タービン,中圧タービン及び低圧タービンを同様に組合せて構成できるものである。
【0189】
前述のいずれの例においても、低圧タービンの最終段動翼の翼部植込み部はいずれも逆クリスマスツリー型とした。
【0190】
〔実施例4〕
表11は蒸気温度600℃,定格出力700MW蒸気タービンの主な仕様である。本実施例は、タンデムコンパウンドダブルフロー型、低圧タービンにおける最終段翼長が1168 mm (46インチ)であり、HP(高圧)・IP(中圧)一体型及びLP1台(C)又は2台(D)で3000rpm の回転数を有し、高温部においては表に示す主な材料によって構成される。高圧部(HP)の蒸気温度は
600℃,250kgf/cm2 の圧力であり、中圧部(IP)の蒸気温度は600℃に再熱器によって加熱され、45〜65kgf/cm2 の圧力で運転される。低圧部(LP)は蒸気温度は400℃で入り、100℃以下,722mmHgの真空で復水器に送られる。
【0191】
本実施例における高圧タービンと中圧タービンとを一体にした高中圧一体タービン及び2台の低圧タービンを備えた蒸気タービン発電プラントは、軸受間距離が約22.7mであり、その低圧タービンの最終段動翼の翼部長さ(1168mm)に対する高中圧一体タービンの軸受間距離及びタンデムに結合した2台の前記低圧タービンの軸受間距離の合計の比が19.4 であり、また発電プラントの定格出力1050MWにおける1MWに対する高中圧一体タービンの軸受間距離及びタンデムに結合した2台の低圧タービンの軸受間距離の合計距離(mm)の比が
21.6である。
【0192】
更に、本実施例における高圧タービンと中圧タービンとを一体にした高中圧一体タービン及び1台の低圧タービンを備えた蒸気タービン発電プラントは、軸受間距離が約14.7mであり低圧タービンの最終段動翼の翼部長さ(1168mm)に対する高中圧一体タービンの軸受間距離及び1台の前記低圧タービンの軸受間距離の合計の比が12.6 である。また発電プラントの定格出力700MWにおける1MWに対する高中圧一体タービンの軸受間距離及び1台の前記低圧タービンの軸受間距離の合計の比が21.0である。
【0193】
【表11】
【0194】
図15は高圧中圧一体型蒸気タービンの断面構成図及び図16はそのロータシャフトの断面図である。高圧側蒸気タービンは高圧内部車室18とその外側の高圧外部車室19内に高圧動翼16を植設した高中圧車軸(高圧ロータシャフト)33が設けられる。前述の高温高圧の蒸気は前述のボイラによって得られ、主蒸気管を通って、主蒸気入口を構成するフランジ,エルボ25より主蒸気入口28を通り、ノズルボックス38より初段の動翼に導かれる。蒸気はロータシャフトの中央側より入り、軸受側に流れる構造を有する。動翼は図中左側の高圧側に8段及び(図中右側約半分の)中圧側に6段設けられる。これらの動翼に対応して各々静翼が設けられる。動翼は鞍型又はゲタ型,ダブティル型式,ダブルティノン,高圧側初段翼長約40mm,中圧側初段翼長が100mmである。軸受43間の長さは約6.7m 及び静翼部に対応する部分で最も小さい部分の直径は約740mmであり、直径に対する長さの比は約9.0である。
【0195】
高圧側ロータシャフトの初段と最終段の動翼植込み付根部分の幅は初段が最も広く、2段目〜7段目がそれより小さく、初段の0.40〜0.56倍でいずれも同等の大きさであり、最終段が初段と2〜7段目の大きさの間にあり、初段の
0.46〜0.62倍の大きさである。
【0196】
高圧側においてはブレード及びノズルを後述する表7に示す12%Cr系鋼によって構成したものである。本実施例における動翼の翼部の長さは初段が35〜50mm、2段目から最終段になるに従って各段で長くなっており、特に蒸気タービンの出力によって2段から最終段までの長さが50〜150mmの範囲内であり、段数は7〜12段の範囲内にあり、各段の翼部の長さは下流側が上流側に対して隣り合う長さで1.05〜1.35倍の範囲内で長くなっているとともに、下流側でその比率が徐々に大きくなっている。
【0197】
中圧側蒸気タービンは高圧側蒸気タービンより排出された蒸気を再度600℃に再熱器によって加熱された蒸気によって高圧蒸気タービンと共に発電機を回転させるもので、3000rpm の回転数によって回転される。中圧側タービンは高圧側タービンと同様に中圧内部第2車室21と中圧外部車室22とを有し、中圧動翼17と対抗して静翼が設けられる。中圧動翼17は6段である。初段翼長さ約130mm,最終段翼長さ約260mmである。ダブティルは逆クリ型である。
【0198】
中圧蒸気タービンのロータシャフトは動翼植込み付根部の軸方向幅が初段が最も大きく、2段目がそれより小さく、3〜5段目が2段目より小さくいずれも同じで、最終段の幅は3〜5段目と2段目の間の大きさで、初段の0.48〜0.64倍である。初段は2段目の1.1〜1.5倍である。
【0199】
中圧側においてはブレード及びノズルを前述の表7に示す12%Cr系鋼が用いられる。本実施例における動翼の翼部の長さは初段から最終段になるに従って各段で長くなっており、蒸気タービンの出力によって初段から最終段までの長さが90〜350mm、段数が6〜9段の範囲内にあり、各段の翼部の長さは下流側が上流側に対して隣り合う長さで1.10〜1.25の割合で長くなっている。
【0200】
動翼の植込み部は静翼に対応する部分に比較して直径が大きくなっており、その幅は動翼の翼部長さと位置に関係する。その幅の動翼の翼部長さに対する比率は初段が最も大きく、1.35〜1.80倍,2段目が0.88〜1.18倍,3〜6段目が最終段になるに従って小さくなっており、0.40〜0.65倍である。本実施例におけるタンデムに結合した2台の低圧タービンを備えた蒸気タービン発電プラント用高中圧一体タービンは、軸受間距離が約5.7m であり、低圧タービンの最終段動翼の翼部長さ(1168mm)に対する軸受間距離の比が5.7であり、またその発電プラントの定格出力1050MWにおける1MWに対する高中圧一体タービンの軸受間距離(mm)の比が6.4である。
【0201】
本実施例においても、軸受部27には実施例3と同様に低合金鋼の肉盛溶接層が設けられる。更に、ロータシャフトには動翼の植込み部45が符号を省略しているが全段に高圧側及び中圧側で実施例3と同様に設けられる。
【0202】
図17は低圧タービンの断面図及び図18はそのロータシャフトの断面図である。低圧タービンは1基又はタンデムに2基あり、いずれも高中圧にタンデムに結合される。動翼41は左右に6段あり、左右ほぼ対称になっており、また動翼に対応して静翼42が設けられる。最終段の動翼長さは1168 mm(46インチ)あり、実施例2に示すNo.9〜14に記載の12%Cr鋼からなる蒸気タービン翼が使用される。この形状は実施例2の図7及び図8に示すものであり、翼部先端でのねじれ角度についても同様である。ロータシャフト43は実施例3の表5のNo.5からなるスーパークリーン材の全焼戻しベーナイト組織を有する鍛鋼が用いられる。最終段とその前段以外の動翼及び静翼にはいずれもMoを0.1% 含有する12%Cr鋼が用いられる。内外部ケーシング材にはC0.25% の前述の組成の鋳鋼が用いられる。本実施例における軸受43での中心間距離は8mで、静翼部に対応するロータシャフトの直径は約800mm,動翼植込み部での直径は各段同じである。静翼部に対応するロータシャフト直径に対する軸受中心間の距離は10倍である。
【0203】
本実施例においてもロータシャフトには動翼の植込み部45が設けられ、実施例3と同様に最終段にはフォーク型又は逆クリスマスツリー型の動翼に対する植込み部が形成される。他の動翼についても実施例3と同様に植込み部が設けられる。
【0204】
低圧タービンは動翼植込み付根部の軸方向の幅が初段が最も小さく、下流側に従って2,3段が同等、4段,5段が同等で4段階で徐々に大きくなっており、最終段の幅は初段の幅に比べ6.2〜7.0倍と大きくなっている。2,3段は初段の1.15〜1.40倍、4,5段が2,3段の2.2〜2.6倍、最終段が4,5段の2.8〜3.2倍となっている。付根部の幅は末広がりの延長線とロータシャフトの直径とを結ぶ点で示す。
【0205】
本実施例における動翼の翼部長さは初段の4″から46″の最終段になるに従って各段で長くなっており、蒸気タービンの出力によって初段から最終段の長さが100〜1270mmの範囲内で、最大で8段で、各段の翼部長さは下流側が上流側に対して隣り合う長さで1.2〜1.9倍の範囲内で長くなっている。
【0206】
動翼の植込み付根部は静翼に対応する部分に比較して直径が大きく末広がりになっており、その幅は動翼の翼部長さの大きい程その植込み幅は大きくなっている。その幅の動翼の翼部長さに対する比率は初段から最終段の前までが0.30〜1.5であり、その比率は初段から最終段の前になるに従って徐々に小さくなっており、後段の比率はその1つ手前のものより0.15〜0.40の範囲内で徐々に小さくなっている。最終段は0.50〜0.65の比率である。
【0207】
本実施例における最終段動翼における平均直径は、3000rpm 、1092 mm (43″)翼で2590mm、3600rpm 、914 mm (36″)翼で2160mm、3000rpm 、1168 mm (46″)翼で2665mm、3600rpm 、965 mm (38″)翼で2220mmとした。
【0208】
本実施例におけるエロージョンシールド(ステライト合金)54は電子ビーム溶接又はTIG溶接56によって接合した。エロージョンシールド54は湿り蒸気が直接当たる表とその反対の裏側との2個所でエロージョンシールドの全長に渡って溶接される。表側は幅が裏側より大きく、上下端部も溶接される。
【0209】
本実施例の他、高中圧蒸気タービンの蒸気入口温度610℃以上,低圧蒸気タービンへの蒸気入口温度約400℃及び出口温度が約60℃とする1000MW級大容量発電プラントに対しても同様の構成とすることができる。
【0210】
本実施例における高温高圧蒸気タービン発電プラントは主としてボイラ,高中圧タービン,低圧タービン,復水器,復水ポンプ,低圧給水加熱器系統,脱気器,昇圧ポンプ,給水ポンプ,高圧給水加熱器系統などより構成される。すなわち、ボイラで発生した超高温高圧蒸気は高圧側タービンに入り動力を発生させたのち再びボイラにて再熱されて中圧側タービンへ入り動力を発生させる。この高中圧タービン排気蒸気は、低圧タービンに入り動力を発生させた後、復水器にて凝縮する。この凝縮液は復水ポンプにて低圧給水加熱器系統,脱気器へ送られる。この脱気器にて脱気された給水は昇圧ポンプ,給水ポンプにて高圧給水加熱器へ送られ昇温された後、ボイラへ戻る。
【0211】
ここで、ボイラにおいて給水は節炭器,蒸発器,過熱器を通って高温高圧の蒸気となる。また一方、蒸気を加熱したボイラ燃焼ガスは節炭器を出た後、空気加熱器に入り空気を加熱する。ここで、給水ポンプの駆動には中圧タービンからの抽気蒸気にて作動する給水ポンプ駆動用タービンが用いられている。
【0212】
このように構成された高温高圧蒸気タービンプラントにおいては、高圧給水加熱器系統を出た給水の温度が従来の火力プラントにおける給水温度よりもはるかに高くなっているため、必然的にボイラ内の節炭器を出た燃焼ガスの温度も従来のボイラに比べてはるかに高くなってくる。このため、このボイラ排ガスからの熱回収をはかりガス温度を低下させないようにする。
【0213】
本実施例の定格出力1050MW級の発電においてその発電機シャフトとしてはより高強度のものが用いられる。特に、C0.15〜0.30%,Si0.1 〜0.3%, Mn0.5%以下,Ni3.25〜4.5%,Cr2.05〜3.0%,
Mo0.25〜0.60%,V0.05〜0.20%を含有する全焼戻しベーナイト組織を有し、室温引張強さ93kgf/mm2以上,、に100kgf/mm2以上,50%FATTが0℃以下、特に−20℃以下とするものが好ましく、21.2KG における磁化力が985AT/cm以下とするもの、不純物としてのP,S,Sn,Sb,Asの総量を0.025%以下,Ni/Cr比を2.0以下とするものが好ましい。
【0214】
前述の表7は本実施例の高中圧タービン及び低圧タービンの主要部に用いた化学組成(重量%)を示す。本実施例においては、高圧側及び中圧側とを一体にしたロータシャフトを後述の実施例5のNo.7のマルテンサイト鋼を使用した他は表7のものを用い、全部フェライト系の結晶構造を有する熱膨張係数12×10-6/℃のものにしたので、熱膨張係数の違いによる問題は全くなかった。
【0215】
高中圧タービンのロータシャフトとして蒸気温度620℃以上に対しては、実施例3又は後述の実施例5の表12の材料を用いることができる。本実施例では表12のNo.1は625℃に好適で、耐熱鋳鋼を電気炉で30トン溶解し、カーボン真空脱酸し、金型鋳型に鋳込み、鍛伸して電極棒を作製し、この電極棒として鋳鋼の上部から下部に溶解するようにエレクトロスラグ再溶解し、ロータ形状(直径1450mm,長さ5000mm)に鍛伸して成型した。この鍛伸は、鍛造割れを防ぐために、1150℃以下の温度で行った。またこの鍛鋼を焼鈍熱処理後、1050℃に加熱し水噴霧冷却焼入れ処理、570℃及び690℃で2回焼戻しを行い、図16に示す形状に切削加工によって得たものである。他の各部の材料及び製造条件は実施例3と同様である。更に、軸受部27へのCr−Mo低合金鋼の肉盛溶接層も実施例3と同様に形成した。
【0216】
本実施例におけるタンデムに結合した2台の低圧タービンを備えた蒸気タービン発電プラント用低圧タービンは合計の軸受間距離が16mであり、低圧タービンの最終段動翼の翼部長さ(1168mm)に対するタンデムに結合した2台の低圧タービンの軸受間距離の比が13.7 であり、またその発電プラントの定格出力1050MWにおける1MWに対するタンデムに結合した2台の低圧タービンの軸受間距離の合計距離(mm)の比が15.2である。
【0217】
本実施例における高圧タービンと中圧タービンとを一体にした高中圧一体タービン及び1台の低圧タービンを備えた蒸気タービン発電プラント用低圧タービンは軸受間距離が6mであり、その低圧タービンの最終段動翼の翼部長さ(1168mm)に対する比が6.8 であり、また1台の低圧タービンの軸受間距離の発電プラントの定格出力700MWにおける1MWに対する1台の低圧タービンの軸受間距離(mm)の比が11.4である。
【0218】
本実施例における高中圧一体型ロータシャフト又は後述する実施例5〜9のいずれのロータシャフトにおいても中心孔を有しているが、特に、P0.010%以下,S0.005%以下,As0.005%以下,Sn0.005% 以下,Sb0.003% 以下とすることによりいずれの実施例においても高純化によって中心孔をなくすことができる。
【0219】
〔実施例5〕
実施例3及び4のロータシャフトに代えて表12に示す蒸気温度に対応した好適な組成の合金を真空溶解によって、10kgのインゴットに鋳造し、30mm角に鍛造したものである。大型蒸気タービンロータシャフトの場合には、その中心部を模擬して1050℃×5時間保持後、中心部での冷却速度100℃/h冷却の焼入れ,570℃×20時間の1次焼戻しと690℃×20時間の2次焼戻し及びブレードにおいては1100℃×1時間の焼入れ,750℃×1時間の焼戻しを行って、625℃,30kgf/mm2 でクリープ破断試験を実施した。結果を表12に合わせて示す。
【0220】
表12のNo.1〜No.7の本発明合金は、620℃以上の蒸気条件に適用するのに好ましいもので、クリープ破断寿命が長いことがわかる。Co量が多い程クリープ破断時間が向上するが、Coの多量の増加は600〜660℃で加熱を受けると加熱脆化が生じる傾向を有するので、強化と靭性の両方を高めるには600〜630℃に対しては1〜3.5% ,630〜660℃に対しては4〜8%が好ましい。Bは0.03% 以下が優れた強度を示す。600〜630℃ではB量を0.001〜0.01%及びCo量を1〜3.5% 、630〜660℃のより高温側ではB量を0.01〜0.03%とし、Co量を4〜8.5% と高めることにより高強度が得られる。
【0221】
Nは本願実施例における600℃を越える温度では少ない方が強化され、N量の多いものに比べて強度が高いことが明らかとなった。N量は0.01〜0.04%が好ましい。真空溶解においてはNはほとんど含有されないので、母合金によって添加したものである。より強化のためにはMn量を0.03〜0.20%とするのが好ましい。
【0222】
【表12】
【0223】
同じく、表13は593〜610℃に適したロータシャフト用材料の化学組成(重量%)である。熱処理は、1100℃×2h→100℃/hで冷却後、565℃×15h→20℃/hで冷却,665℃×45h→20℃/hで冷却した。熱処理はいずれも回転軸を中心に回転しながら行った。
【0224】
表14はロータシャフト材の機械的特性を示すものである。衝撃値はVノッチシャルピー値、FATTは50%破面遷移温度である。
【0225】
【表13】
【0226】
【表14】
【0227】
クリープ破断強度を見ると本発明材の600℃,105h クリープ破断強度は11kgf/mm2で、高効率タービン材として必要な強度(10kgf/mm2)以上及び靭性も1kgf−m以上の高い値を示している。
【0228】
No.9はAlが0.015%を越えたものであるが、105時間クリープ破断強度が11kgf/mm2以下と強度が若干低下する。Wが1.0%程度多くなるとδフェライトが析出し、強度と靭性がともに低く、発明の目的が達成されないことも確認された。Wは0.1〜0.65%で高い強度が得られる。
【0229】
FATTに及ぼすWの影響はWは0.1〜0.65%の範囲でFATTが低く、高い靭性を有するが、それ以下及び以上でも靭性が低下する。特に0.2〜0.5%で低いFATTが得られる。
【0230】
本実施例のマルテンサイト鋼は600℃付近の高温クリープ破断強度は著しく高く、超高温高圧蒸気タービン用ロータシャフトとして要求される強度を十分満足し、好適である。また、600℃付近での高効率タービン用ブレードとしても好適である。
【0231】
〔実施例6〕
表15は実施例3及び4における本発明の高圧,中圧及び高中圧タービン用内部ケーシング材に係る化学組成(重量%)を示す。試料は大型ケーシングの厚肉部を想定して、高周波誘導溶解炉を用い200kg溶解し、最大厚さ200mm,幅380mm,高さ440mmの砂型に鋳込み,鋳塊を作製した。試料は、1050℃×8h炉冷の焼鈍処理後、大型蒸気タービンケーシングの厚肉部を想定して焼準(1050℃×8h→空冷),焼戻し(710℃×7h→空冷,710℃×7h→空冷の2回)の熱処理を行った。
【0232】
溶接性評価は、JIS Z3158に準じて行った。予熱,パス間及び後熱開始温度は150℃に、後熱処理は400℃×30分にした。
【0233】
【表15】
【0234】
表16は室温の引張特性、20℃におけるVノッチシャルピー衝撃吸収エネルギー、650℃,105hクリープ破断強度及び溶接割れ試験結果を示す。
【0235】
適量のB,Mo及びWを添加した本発明材のクリープ破断強度及び衝撃吸収エネルギーは、高温高圧タービンケーシングに要求される特性(625℃,105h強度≧8kgf/mm2,20℃衝撃吸収エネルギー≧1kgf−m)を十分満足する。特に、9kgf/mm2 以上の高い値を示している。また、本発明材には溶接割れが認められず、溶接性が良好である。B量と溶接割れの関係を調べた結果、B量が0.0035% を越えると、溶接割れが発生した。No.1のものは若干割れの心配があった。機械的性質に及ぼすMoの影響を見ると、Mo量を1.18% と多いものは、クリープ破断強度は高いものの、衝撃値が低く、要求される靭性を満足できなかった。一方、Mo0.11% のものは、靭性は高いものの、クリープ破断強度が低く、要求される強度を満足できなかった。
【0236】
機械的性質に及ぼすWの影響を調べた結果、W量を1.1% 以上にするとクリープ破断強度が顕著に高くなるが、逆にW量を2%以上にすると室温衝撃吸収エネルギーが低くなる。特に、Ni/W比を0.25〜0.75に調整することにより、温度621℃,圧力250kgf/cm2 以上の高温高圧タービンの高圧及び中圧内部ケーシング並びに主蒸気止め弁及び加減弁ケーシングに要求される、625℃,105hクリープ破断強度9kgf/mm2以上,室温衝撃吸収エネルギー1kgf−m以上の耐熱鋳鋼ケーシング材が得られる。特に、W量1.2〜2%,Ni/W比を0.25〜0.75に調整することにより、625℃,105h クリープ破断強度10kgf/mm2 以上,室温衝撃吸収エネルギー2kgf−m以上の優れた耐熱鋳鋼ケーシング材が得られる。
【0237】
【表16】
【0238】
W量は1.0%以上とすることによって顕著に強化されるとともに、特に1.5%以上では8.0kgf/mm2以上の値が得られる。本発明のNo.7は640℃以下で十分要求の強度を満足するものであった。
【0239】
本発明の耐熱鋳鋼を目標組成とする合金原料を電気炉で1トン溶解し、とりべ精錬後、砂型鋳型に鋳込み実施例3に記載の高中圧部の内部ケーシングを得た。このケーシングを1050℃×8h炉冷の焼鈍熱処理後、1050℃×8h衝風冷の焼準熱処理,730℃×8h炉冷の2回焼戻しを行った。全焼戻しマルテンサイト組織を有するこの試作ケーシングを切断調査した結果、250気圧,625℃高温高圧タービンケーシングに要求される特性(625℃,105h 強度≧9kgf/mm2 ,20℃衝撃吸収エネルギー≧1kgf−m)を十分満足することと溶接可能であることが確認できた。
【0240】
〔実施例7〕
本実施例においては、特に実施例3の625℃の高圧蒸気タービン及び中圧蒸気タービン又は実施例4の600℃及び625℃の高中圧蒸気タービンの蒸気温度に代えて649℃としたものであり、構造及び大きさを実施例3又は4とほぼ同じ設計で得られるものである。ここで実施例3又は4と変わるものはこの温度に直接接する高圧,中圧又は高中圧一体型蒸気タービンのロータシャフト,初段動翼及び初段静翼と内部ケーシングである。内部ケーシングを除くこれらの材料としては前述の表8に示す材料のうちB量を0.01〜0.03%及びCo量を5〜7%と高め、更に内部ケーシング材としては実施例2のW量を2〜3%に高め、Coを3%加えることにより、要求される強度が満足し、従来の設計が使用できる大きなメリットがある。即ち、本実施例においては高温にさらされる構造材料が全てフェライト系鋼によって構成される点に従来の設計思想がそのまま使用できるのである。尚、2段目の動翼及び静翼の蒸気入口温度は約610℃となるので、これらには実施例3の初段に用いた材料を用いることが好ましい。
【0241】
更に、低圧蒸気タービンの蒸気温度は実施例3又は4の約380℃に比べ若干高い約405℃となるが、そのロータシャフト自身は実施例3の材料が十分に高強度を有するので、同じくスーパークリーン材が用いられる。
【0242】
更に、本実施例におけるクロスコンパウンド型に対し、タンデムコンパウンド型で3600rpmの回転数においても実施できる。
【0243】
表17は蒸気温度640℃以上の高圧タービンでは3段までと中圧タービンでは初段の動翼の各々に用いたNi基析出強度化型合金の化学組成を示す。これらの合金は真空アーク再溶解によってインゴットを製造後、熱間鍛造し、次いで合金組成に応じて溶体化処理1070〜1200℃で1〜8時間加熱後空冷し、
700〜870℃で4〜24時間加熱する時効処理を施したものである。
【0244】
高圧タービンでは4段及び5段、及び中圧タービンの2段及び3段に本発明における高強度マルテンサイト鋼を用いた。別の例として蒸気温度610〜638℃の高圧タービン及び中圧タービンの初段に前述のNi基合金を用い、高圧タービンの2段及び3段、中圧タービンの2段目に本発明の高強度マルテンサイト鋼を用いることができる。
【0245】
本実施例は実施例5及び6に適用できるものである。
【0246】
【表17】
【0247】
〔実施例8〕
実施例3及び4の発電プラントにおける高圧タービン,中圧タービン及び高中圧タービン用ロータシャフトを胴部と軸受部に各々B量を変えて製造した。他の構成は実施例3及び4と全く同一である。表18(重量%)に記載の胴部及び軸受部に係る耐熱鋳鋼を電気炉で30トン溶解し、カーボン真空脱酸し、金型鋳型に鋳込み、鍛伸して電極棒を作製し、この電極棒を用い、先ず軸受部をエレクトロスラグ溶解した後、直ちに胴部についてエレクトロ再溶解し、更に軸受部をその上にエレクトロスラグ再溶解し、ロータ形状(直径1050mm,長さ3700mm)に鍛伸して成型した。この鍛伸は、鍛造割れを防ぐために、1150℃以下の温度で行った。またこの鍛鋼を焼鈍熱処理後、1050℃に加熱し水噴霧冷却焼入れ処理、570℃及び690℃で2回焼戻しを行い、図19及び図20に示す形状に切削加工によって得たものである。胴部と軸受部とは点線に示す位置で接合したものである。図19に示すように高圧蒸気タービン用ロータシャフトではブレードの下流側最終段とその手前との間、図20に示す中圧蒸気タービン用ロータシャフトでは下流側最終段とその手前との間で各々接合したものである。本実施例においてはエレクトロスラグ鋼塊の上部側を胴部の初段翼側にし、下部を最終段側にするようにした。
【0248】
本実施例においても、軸受部27には低合金鋼が設けられ、更に動翼の植込み部45がリング状に8段形成され、実施例3と同様に動翼の植込み形状に沿って形成される。
【0249】
高圧部及び中圧部のブレード及びノズルは、同じく表18に記載の耐熱鋼を真空アーク溶解炉で溶解し、ブレード及びノズル素材形状(幅150mm,高さ50mm,長さ1000mm)に鍛伸して成型した。この鍛伸は、鍛造割れを防ぐために、1150℃以下の温度で行った。またこの鍛鋼を1050℃に加熱し油焼入れ処理し、690℃で焼戻しを行い、次いで所定形状に切削加工したものである。高圧部及び中圧部の内部ケーシング,主蒸気止め弁ケーシング及び蒸気加減弁ケーシングは、表17に記載の耐熱鋳鋼を電気炉で溶解し、とりべ精錬後、砂型鋳型に鋳込み作製した。鋳込み前に、十分な精錬及び脱酸を行うことにより、引け巣等の鋳造欠陥のないものができた。このケーシング材を用いた溶接性評価は、JIS Z3158に準じて行った。予熱,パス間及び後熱開始温度は200℃に、後熱処理は400℃×30分にした。本発明材には溶接割れが認められず、溶接性が良好であった。
【0250】
【表18】
【0251】
表19は、上述したロータシャフトの胴部の機械的性質を示す。熱処理は、
1050℃×15h加熱保持後、水噴霧冷却し、次いで570℃×20h加熱後炉冷及び690℃×20h加熱後炉冷を行った。
【0252】
このロータシャフトの中心部を調査した結果、高圧,中圧タービンロータに要求される特性(625℃,105h強度≧13kgf/mm2,20℃衝撃吸収エネルギー≧1.5kgf−m)を十分満足することが確認された。これにより、620℃以上の蒸気中で使用可能な蒸気タービンロータが製造できることが実証された。またこのブレードの特性を調査した結果、高圧,中圧タービンの初段ブレードに要求される特性(625℃,105h強度≧15kgf/mm2)を十分満足することが確認された。これにより、620℃以上の蒸気中で使用可能な蒸気タービンブレードが製造できることが実証された。
【0253】
さらにこのケーシングの特性を調査した結果、高圧,中圧タービンケーシングに要求される特性(625℃,105h強度≧10kgf/mm2,20℃衝撃吸収エネルギー≧1kgf−m)を十分満足することと溶接可能であることが確認された。これにより、620℃以上の蒸気中で使用可能な蒸気タービンケーシングが製造できることが実証された。
【0254】
【表19】
【0255】
本実施例においても実施例3及び4と同様にロータシャフトのジャーナル部にCr−Mo低合金鋼を肉盛溶接し、軸受特性を改善させた。
【0256】
溶接部の性能を確認するために板材に同様に肉盛溶接し、160゜の側曲げ試験を行ったが、いずれも溶接部に割れは認められなかった。いずれも6層目以降が各々の表に示す組成を有するものである。
【0257】
更に、本発明における回転による軸受摺動試験を行ったが、いずれも軸受に対する悪影響もなく、耐酸化性に対しても優れたものであった。
【0258】
本実施例に代えて高圧蒸気タービン,中圧蒸気タービン及び2基の低圧蒸気タービンをタンデムに結合し、3600回転としたタンデム型発電プラントにおいても同様に構成できるものである。
【0259】
本実施例は実施例5〜7に同様に適用できる。
【0260】
〔実施例9〕
本実施例は、実施例4と同様のタンデムコンパウンドダブルフロー型,低圧タービンにおける最終段翼長が1168 mm (46インチ)であり、HP(高圧)・IP(中圧)一体型及びLP1台又は2台で3000rpm の回転数を有し、実施例4と同様に主な材料によって構成される。左側の高圧部(HP)の蒸気温度は600℃,250kg/cm2 の圧力であり、右側の中圧部(IP)の蒸気温度は
600℃に再熱器によって加熱され、170〜180kg/cm2 の圧力で運転される。低圧部(LP)は蒸気温度は450℃で入り、100℃以下,722mmHgの真空で復水器に送られる。
【0261】
図20は本実施例において用いた高圧中圧一体型蒸気タービンのロータシャフトの断面図である。図に示すように、水蒸気は高圧部及び中圧部ともにロータシャフト中心部より入り、いずれも軸受部側に流れるような配置を有し、従って軸受部側で温度が低くなっている。本実施例におけるロータシャフトは実施例8と同様に軸受部と胴部とで合金組成を変えてエレクトロスラグ再溶解法によって製造したものであり、いずれも最終段の前で組成を変えたものである。図21の構造は図16と全く同じものである。本実施例における胴部組成を表12のNo.5とし、軸受部をB量のみを0.003% とし、他の成分を同じものにしたものである。鍛造後の熱処理は前述と同様である。
【0262】
本実施例においても実施例3又は4と同様に軸受部にCr−Mo低合金鋼の肉盛溶接層が形成されているものである。
【0263】
本実施例に対して実施例2,4及び5が適用でき、更に実施例6の蒸気温度に対しても同様に適用できるものである。
【0264】
【発明の効果】
本発明によれば、593〜660℃の蒸気温度を有する蒸気タービンの低圧タービンに高強度及び高靭性のマルテンサイト鋼を用いることによりその最終段動翼をより長翼化できるので高効率の発電が達成される。
【図面の簡単な説明】
【図1】引張強さとC(%)との関係を示す線図。
【図2】引張強さとMo(%)との関係を示す線図。
【図3】衝撃値と引張強さとの関係を示す線図。
【図4】本発明に係る蒸気タービン動翼の正面図。
【図5】図4の側面図。
【図6】図4及び図5の先端部を上部から見た平面図。
【図7】本発明の蒸気タービン動翼の正面図。
【図8】図7の側面図。
【図9】本発明の蒸気タービン翼の正面図。
【図10】図9の側面図。
【図11】本発明に係る高圧,中圧蒸気タービンの断面図。
【図12】本発明に係る蒸気タービン翼の斜視図。
【図13】本発明に係る蒸気タービン翼の斜視図。
【図14】本発明に係る低圧蒸気タービンの断面構造図。
【図15】本発明に係る高中圧蒸気タービンの断面図。
【図16】本発明に係る高中圧蒸気タービン用ロータシャフトの断面図。
【図17】本発明に係る低圧蒸気タービンの断面図。
【図18】本発明に係る低圧蒸気タービン用ロータシャフトの断面図。
【図19】高圧タービン用ロータシャフトの正面図。
【図20】中圧タービン用ロータシャフトの正面図。
【図21】高中圧タービン用ロータシャフトの断面図。
【符号の説明】
1…第1軸受、2…第2軸受、3…第3軸受、4…第4軸受、5…推力軸受、10…第1シャフトパッキン、11…第2シャフトパッキン、12…第3シャフトパッキン、13…第4シャフトパッキン、14…高圧隔板、15…中圧隔板、16…高圧動翼、17…中圧動翼、18…高圧内部車室、19…高圧外部車室、20…中圧内部第1車室、21…中圧内部第2車室、22…中圧外部車室、23…高圧車軸、24…中圧車軸、25…フランジ,エルボ、26…前側軸受箱、
27…軸受部、28…主蒸気入口、29…再熱蒸気入口、30…高圧蒸気排気口、31…気筒連絡管、33…高中圧車軸、38…ノズルボックス(高圧第1段)、39…推力軸受摩耗遮断装置、40…暖機蒸気入口、41…動翼、42…静翼、43…軸受、44…ロータシャフト、51…翼部、52…翼植込み部、53…ピン挿入孔、54…エロージョンシールド、55…タイボス、56…溶接部、
57…コンティニュアスカバー。
Claims (4)
- 翼部長さが3000rpmに対し1143mm以上又は3600rpmに対し952mm以上である低圧蒸気タービン最終段動翼であって、重量でC0.19%以上0.25%以下,Si0.1%以下,Mn0.4%以下,Cr8.0%以上13.0%未満,Ni2%より大きく3.5%以下,Mo2%より大きく3.5%以下,V0.05%以上0.35%以下,Nb及びTaの1種又は2種の合計量が0.02%以上0.20%以下、及びN0.04以上0.15%以下を含有し、全焼戻しマルテンサイト組織を有するマルテンサイト鋼よりなることを特徴とする低圧蒸気タービンの最終段動翼。
- 請求項1において、前記マルテンサイト鋼の室温の引張強さが138.5kgf/mm2以上であることを特徴とする低圧蒸気タービンの最終段動翼。
- 請求項2において、前記マルテンサイト鋼の20℃Vノッチシャルピー衝撃値が4kgf−m/cm2 以上であることを特徴とする低圧蒸気タービンの最終段動翼。
- 請求項1〜3のいずれかにおいて、前記最終段動翼の翼部先端部のリーデング側にエロージョン防止シールド部を有することを特徴とする低圧蒸気タービンの最終段動翼。
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