JP3630072B2 - 車両用自動変速機のクリープ力制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両用自動変速機のクリープ力制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、自動車等の車両に備えられたトルクコンバータ式の自動変速機において、シフトレンジが走行レンジ(以下、Dレンジという)のままで停車すると、低速段(例えば、第1速段)を達成するために係合されていた摩擦要素(フォワードクラッチ)をスリップさせて、ニュートラル状態に近づけるように制御する技術が提案されている。
【0003】
このような制御は、一般にアイドルニュートラル制御又はクリープ力制御と呼ばれるものであり、このようなアイドルニュートラル制御(以下、単にニュートラル制御という)を実行することでエンジン負荷を低減し、燃料消費量及びアイドル振動の低減を図ることができる。
上述のようなニュートラル制御では、例えばフォワードクラッチへの係合油圧の供給状態を調整するソレノイド弁をデューティ制御することでフォワードクラッチの係合力が制御される。そして、このようにフォワードクラッチの係合力を制御することにより、フォワードクラッチのスリップ量が制御されて、Dレンジであってもニュートラル状態に近い状態を実現することができるのである。
【0004】
ニュートラル制御の開始条件としては、例えば、車速0km/h,フットブレーキ操作中,スロットル開度0%及び第1速段達成から所定時間経過していること、等が設定されており、上記全ての条件が成立すると、コントローラからの指令に基づきニュートラル制御が開始される。
また、フットブレーキ操作の解除,アクセルペダルの操作,車速が所定値以上となった、等のニュートラル制御解除条件がいずれか1つでも成立すると、ニュートラル制御が解除される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、このようなニュートラル制御の実行中(定常制御中)には、トルクコンバータのタービンランナの回転速度(タービン回転速度)Ntと、エンジン回転速度(=トルクコンバータのポンプインペラの回転速度)Neとのスリップ量NS=Ne−Ntが一定となるように、フォワードクラッチ用のソレノイドのデューティ率(係合力指令値)をフィードバック制御することが考えられる。
【0006】
また、ニュートラル制御を解除する際には、例えば以下のようにソレノイドのデューティ率を設定することが考えられる。すなわち、ニュートラル制御解除条件が成立すると、まず、ニュートラル制御解除判定時のデューティ率D0 に所定量(例えばD0 の5%)を加算した値D1 を所定時間(例えば48msec程度)だけ出力する。
【0007】
その後、上記の解除判定時デューティ率D0 に所定量(例えばD0 の3%)を加算した値D2 を初期値としてタービン回転速度変化率dNt/dtが目標変化率に一致するようにフィードバック制御を行なう。
なお、車速が生じた場合には、フォワードクラッチのスリップ量変化率が目標変化率に一致するようにフィードバック制御が行なわれる。ここでフォワードクラッチのスリップ量変化率は、変速機の入力側回転速度変化率(即ちタービン回転速度変化率)dNt/dtと、フォワードクラッチ直後の変速機の回転速度変化率dNT1/dtとの差(dNt/dt−dNT1/dt)で算出することができる。また、上記回転速度NT1は、変速機の出力側回転速度Noと、1速のギア比i1 とを用いて、NT1=i1 ・Noと表すことができ、フォワードクラッチのスリップ量変化率は、dNt/dt−i1・dNo/dtと表すことができる。そして車速が生じた場合には、この値が目標変化率に一致するようにフィードバック制御が行なわれるのである。
【0008】
そして、タービン回転速度Ntが所定値以下となるか、またはフォワードクラッチのスリップ量(Nt−i1・No)が所定値以下となると、フォワードクラッチが同期した(即ち、フォワードクラッチが係合した)と判定して、所定デューティ率ΔDE を所定時間だけ加算して出力する。また、デューティ率ΔDE の出力後、所定時間経過するとデューティ率を100%に設定(全圧供給)し、これによりニュートラル制御の解除制御を終了するのである。
【0009】
しかしながら、上述のように、ニュートラル制御解除条件成立後に所定のデューティ率D1 を所定時間出力してから、すぐにタービン回転速度変化率dNt/dtが一定となるようなフィードバック制御を実行した場合、以下のような課題があった。
▲1▼油圧の応答遅れやフォワードクラッチのピストンのフリクション等により、タービン回転速度Ntに変化が生じ始めるまでにはある程度の時間(0.1sec程度)がかかるが、その間、上記のフィードバック制御を実行してしまうと、タービン回転速度Ntに変化が生じるまでの間は、デューティ率が不足していると判定され、この結果、デューティ率が必要以上に高く設定されてしまう。これにより、油圧が応答したとき、あるいは、フォワードクラッチのピストンが動き始めたときにフォワードクラッチが急結合してショックが発生してしまう。
▲2▼上記▲1▼によりフォワードクラッチの係合ショックが発生した後、フィードバック制御がオーバシュートし、今度はデューティ率が必要以上に低く設定されフォワードクラッチが解放側に制御されてしまう。そして、このようにフォワードクラッチが解放側に制御されているときにドライバがアクセルペダルを踏みこむと、フォワードクラッチがスリップしてしまい、ドライバビリティを損なうことになる。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、クリープ力制御(ニュートラル制御)解除条件成立後の摩擦要素の係合ショックを防止して、ドライバビリティを向上させるようにした、車両用自動変速機のクリープ力制御装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
請求項1〜3記載の本発明の車両用自動変速機のクリープ力制御装置では、自動変速機のシフトレンジが走行レンジであるときに所定の条件が成立すると、走行時に係合される摩擦要素の係合力が低下してクリープ力が低下し、その後、自動変速機がニュートラル状態に近い状態に保持される。
【0012】
特に、シフトレンジが非走行レンジ(例えばニュートラル)から走行レンジ(例えばDレンジ)に切り替えられた直後に、開始判定手段により所定の条件が成立したと判定された場合、初期係合力指令値出力手段により上記摩擦要素に対する指令値として、摩擦要素が僅かに係合しうる状態(微少係合状態)となる初期係合力指令値が出力され、その後は、摩擦要素の係合力がフィードバック制御される。
【0013】
そして、解除判定手段により、上記クリープ力低下状態を解除する解除条件が成立したと判定されると、係合判定手段により摩擦要素が特定の係合状態となったと判定されるまで、上記開始判定直後に出力された初期係合力指令値が再出力手段から再度出力される。
このとき、再出力手段から摩擦要素に対して出力される係合力指令値は、摩擦要素を微少係合状態に保持するのに適した値であるので、摩擦要素の係合時のレスポンスが向上して、係合ショックが防止される。
なお、特定の係合状態とは、自動変速機の入力側回転速度とエンジン回転速度との間のスリップ量が前回の制御周期でのスリップ量よりも大きくなったときの目標スリップ量に所定量を加えた値よりも今回のスリップ量が大きい係合状態である。
また、該特定の係合状態が、該自動変速機の入力側回転速度とエンジン回転速度との間のスリップ量NSが、前回の制御周期でのスリップ量(NS) n-1 と今回の制御周期でのスリップ量(NS) n との関係が(NS) n-1 <(NS) n となったときの目標スリップ量(NS) 0 に対して(NS) n >(NS) o +A(Aは定数)を満足する係合状態としてもよい。
【0014】
また、請求項4記載の本発明の車両用自動変速機のクリープ力制御装置では、学習補正手段により初期係合力指令値が運転状態に応じて学習補正されるので、最適な初期係合力を設定することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、図面により、本発明の一実施形態にかかる車両用自動変速機のクリープ力制御装置について説明すると、図1はその全体構成を示す模式図である。
図1に示すように、自動変速機1はエンジン2と結合された状態で図示しない車両に搭載されている。エンジン2の出力軸2aはトルクコンバータ(流体継手)3を介して変速機構4に連結され、その変速機構4は図示しないディファレンシャルギアを介して車両の駆動輪と接続されている。
【0016】
また、エンジン2の出力軸2aは、トルクコンバータ3のポンプインペラ3aに接続されており、この出力軸2aの回転に伴いポンプインペラ3aが回転すると、ATF(オートマチック・トランスミッション・フルード)を介してタービンランナ3bが回転駆動され、その回転が変速機構4に伝達されるようになっている。
【0017】
詳細は説明しないが、変速機構4は、複数組の遊星歯車機構及びそれらの構成要素(サンギア,ピニオンギア及びリングギア)の動作を許容又は規制するクラッチやブレーキ類から構成されており、これらのクラッチやブレーキの係合状態を油圧源(オイルポンプ)から供給されるATFにより適宜切り換えて、所望の変速段を達成するようになっている。なお、この変速機構4の構造については、一般に広く知られたものであるので、フォワードクラッチ7以外の構成については図示を省略する。
【0018】
一方、車室内には、図示しない入出力装置,制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM,BURAM等),中央処理装置(CPU)及びタイマカウンタ等を備えたA/T−ECU(自動変速機制御ユニット、以下、単にECUという)11が設置されており、後述する各種センサからの情報に基づいて各種の制御信号が設定されて、自動変速機1の総合的な制御が行なわれるようになっている。
【0019】
ECU11の入力側には、エンジン2の回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ12、タービンランナ3bの回転速度Nt(即ち、フォワードクラッチ7の入力回転速度)を検出するタービン回転速度センサ13、車両の走行速度(車速)Vsを検出する車速センサ14、ブレーキオイルの圧力に基づいてオンオフが切り換わるブレーキ圧スイッチ20、エンジン2のスロットル開度θTH(=アクセル操作量)を検出するスロットルセンサ16、ATFの油温TOIL を検出する油温センサ17、及び運転者にて選択されたシフトポジション(例えば、Nレンジ,Dレンジ,Pレンジ及びRレンジ等)を検出するためのシフトポジションセンサ18等の各種センサやスイッチ類が接続されている。なお、ブレーキ圧スイッチ20に代えてブレーキペダルを踏んだときにオンとなるブレーキスイッチを設けてもよい。
【0020】
また、ECU11の出力側には、上述のオイルポンプからの作動油を切換制御して変速機構4のクラッチやブレーキの係合要素を作動させるための多数のソレノイドや圧力調整弁(プレッシャコントロールバルブ)が接続されている。
そして、ECU11では、スロットルセンサ16で検出されたスロットル開度θTH及び車速センサ14で検出された車速Vsを用いて図示しない変速マップから目標変速段を設定し、この目標変速段を達成すべく上記ソレノイドや圧力調整弁を制御して変速機構4の係合要素(クラッチ及びブレーキ等)の係合状態を切り換え、変速制御を実行するようになっている。なお、図1中では、このような多数のソレノイドや圧力調整弁のうち、フォワードクラッチ7の係合状態を切り換えるソレノイド19及び圧力調整弁21のみを図示しており、他のソレノイド及び圧力調整弁については図示を省略する。
【0021】
ソレノイド19はECU11によりその作動がデューティ制御されるようになっており、このソレノイド19の作動に応じて圧力調整弁21へのパイロット圧(制御圧)の供給状態が調整されるようになっている。具体的には、ソレノイド19により圧力調整弁21へパイロット圧が供給されると、圧力調整弁21のスプール21aが図中左側に移動してフォワードクラッチ7のライン圧が排出され、フォワードクラッチ7の係合力が低下する。また、これとは逆に、ソレノイド19によりパイロット圧が排出されると、フォワードクラッチ7にライン圧が供給されて係合力が大きくなる。このように、ソレノイド19のデューティ率(係合力指令値)を制御することで、フォワードクラッチ7の係合力を調整できるのである。なお、本実施形態では、ソレノイド19のデューティ率が増加するほど、フォワードクラッチ7の係合力が大きくなるように設定されている。
【0022】
次に、ニュートラル制御(クリープ力制御)について簡単に説明すると、このニュートラル制御は、Dレンジで車両が停止中であるとフォワードクラッチ7の係合力を低下させてニュートラル状態に近い状態に制御するものであり、摩擦係合要素としてのフォワードクラッチ7をスリップさせることでニュートラル制御(クリープ力制御)が実行されるようになっている。
【0023】
そして、本実施形態では、ニュートラル制御の開始条件として以下の(1)〜(3)の条件が設定されている。
(1)ブレーキ圧スイッチ20がオン(ブレーキ圧が所定値Pa以上)。
(2)スロットルセンサ16によりアクセル非操作(スロットル開度が所定量以下)が検出された。
(3)車速センサ14により検出された車速Vsが所定値未満。
【0024】
そして、シフトポジションセンサ18により検出されたシフトレンジがDレンジであることを前提に、以上の条件(1)〜(3)が全て成立したと判定されると、ニュートラル制御が開始されるようになっている。なお、以下では開始条件(1)〜(3)が全て成立した場合を、単に、開始条件が成立したという。
一方、ニュートラル制御の解除条件としては、以下の(1)〜(3)が設定されており、Dレンジを保持していることを前提に、そのいずれかが満たされると、運転者に発進意志があるものとして解除条件が成立し、ニュートラル制御が解除されて第1速段に切り換えられるようになっている。
(1)ブレーキ圧スイッチ20がオフ(ブレーキ圧が所定値Pa未満)になった場合。
(2)スロットルセンサ16によりアクセル操作(スロットル開度θthが所定値以上)が検出された場合。
(3)車速センサ14で検出された走行速度Vsが所定値以上になった場合。
【0025】
なお、上記の解除条件(1)〜(3)のいずれか1つでも満たされた場合を、単に、解除条件が成立したという。
また、ここでは特に説明しないが、上述以外にもシフトレンジがDレンジからNレンジに操作された場合にももちろんニュートラル制御は解除されるようになっている。
【0026】
次に、本発明の要部について説明すると、本装置は、ニュートラル制御解除条件が成立したときに、ソレノイド19に対して最適なデューティ率を設定することにより、ニュートラル制御解除時の係合ショックを防止するように構成されたものである。
以下、主に図2及び図3(a)〜(c)を用いて本装置の要部の構成及びその作用について説明すると、図2は本装置の要部機能に着目した機能ブロック図、図3はその制御特性を示す図であり、(a)はエンジン回転速度Ne及びタービン回転速度Ntの特性を示す図、(b)はフォワードクラッチに対するソレノイドのデューティ率の特性を示す図、(c)はフォワードクラッチに供給される係合油圧の特性を示す図である。
【0027】
図2に示すように、ECU11内には、開始判定手段51,初期係合力指令値出力手段52,解除判定手段53,係合判定手段54及び再出力手段55等が設けられており、さらに、この初期係合力指令値出力手段52には、学習補正手段52aが設けられている。
このうち、開始判定手段51には、ブレーキ圧スイッチ20,スロットルセンサ16,車速センサ14及びシフトポジションセンサ18が接続されており、開始判定手段51ではこれらのセンサからの情報に基づいて上記ニュートラル制御の開始条件が成立したか否かが判定されるようになっている。
【0028】
また、シフトレンジがNレンジからDレンジに切り替えられた直後に開始条件が成立すると〔図3(a)〜(c)のSS参照〕、初期係合力指令値出力手段52によりデューティ率が設定されて、ソレノイド19に出力されるようになっている。
ところで、ニュートラル制御開始条件が成立する状況としては、主に以下の2通りの場合が考えられる。第1は、走行中の車両がDレンジのまま減速して停止し、上記のニュートラル制御開始条件が成立する場合であり、第2は、車両がNレンジで停車しているときにドライバがブレーキを踏んだままDレンジにシフトしてニュートラル制御開始条件が成立する場合である。なお、以下ではこのような第2の場合のニュートラル制御を、特にN−D制御という。
【0029】
第1の場合には、車両の停止直前に変速段が1速に変速されており、ニュートラル制御の開始条件成立後は、この状態からフォワードクラッチ7の係合力を弱めてタービンランナ3bの回転を許容する制御が実行されるようになっている。一方、第2の場合(N−D制御)には、その直前において、すでに変速段はニュートラルになっており、フォワードクラッチ7は係合が解除された状態(デューティ率0%)となっている。したがって、ニュートラル制御の開始条件が成立しても特にフォワードクラッチ7の制御は必要ないと考えることもできるが、実際にはニュートラル制御中は、制御解除時(発進時)のレスポンスを考慮してフォワードクラッチ7を僅かに係合状態にする必要がある。
【0030】
上記の初期係合力指令値出力手段52は、このようなN−D制御開始時のデューティ率を設定するものであり、この場合には、図3(b)に示すように、初期フィルとして所定デューティ率を所定時間tF だけ出力した後、フォワードクラッチ7を微少係合状態にするための初期デューティ率(初期係合力指令値)DA をソレノイド19に出力するようになっている。なお、この初期デューティ率DA は、開放状態のフォワードクラッチ7を微少係合状態に保持できる程度の値に設定されている。また、図3(b)に示すように、初期フィルはここではデューティ率100%に設定されている。
【0031】
そして、このような初期デューティ率DA を出力することにより、図3(a)に示すように、FB近傍でタービン回転速度Ntがわずかに低下するのである。また、初期係合力指令値出力手段52には学習補正手段52aが設けられており、初期デューティ率DA はこの学習補正手段52aで学習補正されて出力されるようになっている。具体的には、学習補正手段52aにはエンジン回転速度Ne及びATF油温TOIL をパラメータとした3次元マップが格納されており、N−D制御開始が判定されると、このときのエンジン回転速度Ne及びATF油温TOIL が読み込まれて、3次元マップから初期デューティ率DA が設定されるようになっている。
【0032】
そして、その後タービン回転速度Ntが低下してタービン回転速度Ntとエンジン回転速度Neとの比(Nt/Ne、以下、単に速度比という)が所定値まで達すると(図3中のFB参照)、定常制御が実行されるようになっている。この定常制御では、タービン回転速度Ntとエンジン回転速度Neとのスリップ量NS(=Ne−Nt)が一定となるようにフィードバック制御が実行されるようになっており、具体的には、スリップ量NSの変化率dNS/dtに対して周期的に目標値が設定され、上記スリップ量変化率dNS/dtが目標値となるようにフィードバック制御が実行されるようになっている。なお、このような定常制御は、ニュートラル制御の解除条件が成立するまで実行される。
【0033】
一方、解除判定手段53には、ブレーキ圧スイッチ20,スロットルセンサ16及び車速センサ14が接続されており、解除判定手段53ではこれらのセンサからの情報に基づいて、ニュートラル制御の解除条件が成立したか否かが判定されるようになっている。そして、この解除判定手段53でニュートラル制御の解除条件が成立したと判定されると〔図3(a)〜(c)のES参照〕、これ以降は解除制御が実行されるようになっている。
【0034】
ところで、このようなニュートラル制御の解除条件成立時(ES)には、再出力手段55により、解除条件成立時のエンジン回転速度Ne及びATF油温TOIL からN−D制御開始時に使用される3次元マップに基づいて設定される初期デューティ率DA が基準デューティ率として出力されるようになっている。つまり、再出力手段55では、直前のN−D制御開始時の初期デューティ率DA を記憶しておくとともに、ニュートラル制御の解除時には、上記初期デューティ率DA を基準デューティ率として出力するようになっているのである。
【0035】
これは、ニュートラル制御解除時の油圧応答遅れやフォワードクラッチ7のピストン(図示省略)のフリクション等によるフォワードクラッチ7の作動の遅れを防止するためである。つまり、N−D制御開始直後に出力される初期デューティ率DA は、上述したようにフォワードクラッチ7を微少係合状態に保持するのに適した値であり、このデューティ率DA を、解除条件成立直後に基準デューティ率として再出力することで、フォワードクラッチ7のピストンのガタ詰めを行なうことができ、フォワードクラッチ7の応答性を確保することができるのである。
【0036】
また、ニュートラル制御解除時には、初期フィルとして基準デューティ率DA に対してさらに所定デューティ率ΔDAFを加えた値が短時間t1だけソレノイド19に出力されるようになっている。なお、この所定デューティ率ΔDAFは、解除条件成立時に、エンジン回転速度Ne及びATF油温TOIL に応じて設定されるものである。
【0037】
そして、ニュートラル制御解除時に、このような初期フィルDA +ΔDAFを出力することにより、図3(c)に示すように、ES以降はフォワードクラッチ7の油圧が速やかに立ち上がり、その後の基準デューティ率DA を出力することで、図3(a)に示すように、速やかにタービン回転速度Ntが低下するのである。
【0038】
また、解除条件成立後に係合判定手段54によりフォワードクラッチ7が特定の係合状態となったと判定されると〔図3(a)〜(c)のSB参照〕、これ以降は、タービン回転速度変化率dNt/dtが目標変化率に一致するようにフィードバック制御が実行されるようになっている。ここで、特定の係合状態とは、前周期のスリップ量(NS)n-1 と現周期のスリップ量(NS)n との関係が(NS)n-1 <(NS)n となったときの目標スリップ量(NS)o に対して、(NS)n >(NS)o +A(Aは130rpm程度)を満足した状態をいう。また、この特定の係合状態を判定したとき(SB)を、クラッチ係合開始点という。
【0039】
そして、タービン回転速度Ntが所定値以下となるとフォワードクラッチ7の同期が判定され(FF)、このときのデューティ率に対してさらに所定デューティ率ΔDE を加算した値が出力されるようになっている。また、デューティ率ΔDE の出力から所定時間tE が経過すると、デューティ率が100%に設定(全圧供給)されて、ニュートラル制御の解除制御が終了する。これにより、図3(c)に示すように、フォワードクラッチ7の油圧が上昇して、フォワードクラッチ7が係合されるのである。
【0040】
また、クラッチ係合開始点(SB)以降、車速が生じた場合には、発明が解決しようとする課題の欄で説明したように、フォワードクラッチ7におけるスリップ量変化率が目標変化率に一致するようにフィードバック制御が行なわれる。なお、フォワードクラッチ7のスリップ量変化率は、タービン回転速度変化率dNt/dtと変速機の出力側回転速度変化率(即ち車両加速度)dNo/dtとを用いて、dNt/dt−i1・dNo/dt(i1 は変速機のギア比)で表される。そして、フォワードクラッチ7のスリップ量(Nt−i1・No)が所定値以下となると、フォワードクラッチ7の同期が判定されるようになっている。
【0041】
本発明の一実施形態にかかる車両用自動変速機のクリープ力制御装置は、上述のように構成されているので、ニュートラル制御(クリープ力制御)の解除時には、例えば図4に示すようなフローチャートにしたがってデューティ率Dが設定される。
まず、ステップS1においてニュートラル制御の解除条件成立が判定されると、ステップS2で初期フィルとしてデューティ率DA +ΔDAFが出力される。なお、デューティ率DA は、解除条件成立時のエンジン回転速度Ne及びATF油温TOIL からN−D制御開始時に使用される3次元マップに基づいて設定される初期デューティ率であり、デューティ率ΔDAFは、解除条件成立時のエンジン回転速度Ne及びATF油温TOIL に応じて設定されるデューティ率である。次に、ステップS3に進み、デューティ率DA +ΔDAFが出力されてから所定時間t1(例えば32msec)経過すると、ステップS4に進み、デューティ率DA が出力される。
【0042】
そして、解除条件成立時のエンジン回転速度Ne及びATF油温TOIL からN−D制御開始時に使用される3次元マップに基づいて設定されるデューティ率DA をニュートラル制御解除時の初期デューティとして設定することにより、それまで開放状態であったフォワードクラッチ7のピストンのガタ詰めを行なうことができ、フォワードクラッチ7が微少係合状態に保持される。
【0043】
その後、ステップS5でフォワードクラッチ7の係合開始が判定されるまでデューティ率DA が出力され、係合開始が判定される(SB)とステップS6に進んで、タービン回転速度変化率dNt/dtが目標変化率に一致するようにフィードバック制御が開始される。
そして、ステップS7でタービン回転速度Ntが所定値以下となったことが判定されると、フォワードクラッチ7の同期が判定される(FF)。そして、同期判定が行われると、ステップS8で、同期判定時のデューティ率に対してさらに所定デューティ率ΔDE を加算した値が出力され、ステップS9で所定時間tE 経過したと判定されると、ステップS10でデューティ率が100%に設定(全圧供給)されて、ニュートラル制御の解除制御が終了する(図中のSF)。
【0044】
なお、ステップS6で車速が生じた場合には、タービン回転速度変化率と変速機の出力側回転速度変化率(即ち車両加速度)との差(dNt/dt−i1・dNo/dt,i1 は変速機のギア比)が目標変化率に一致するようにフィードバック制御が行なわれる。
したがって、本発明の一実施形態にかかる車両用自動変速機のクリープ力制御装置によれば、解除条件成立時には、解除条件成立時のエンジン回転速度Ne及びATF油温TOIL からN−D制御開始時に使用される3次元マップに基づいて設定される初期デューティ率DA を再出力した後、タービン回転速度変化率dNt/dtが一定となるようなフィードバック制御が実行されるので、この初期デューティ率DA により油圧の応答遅れやフォワードクラッチ7のピストンのガタ(遊び)をなくすことができ、タービン回転速度Ntに変化が生じ始めるまでの時間を大幅に短縮することができるようになる。
【0045】
これにより、フィードバック制御の過補正(タービン回転速度Ntに変化が生じるまでの間にデューティ率が必要以上に高く設定されるような現象)が確実に回避され、フォワードクラッチ7の急結合によるショックを防止することができる利点がある。また、フィードバック制御のオーバシュートによるフォワードクラッチ7の解放を防止でき、フォワードクラッチ7のスリップを防止できる利点があるほか、これによりドライバビリティを高めることができるという利点がある。
【0046】
また、学習補正手段52aにより初期係合力指令値が運転状態(エンジン回転速度及びATF油温)に応じて学習補正されるので、変速機1の個体差による初期デューティ率DA のバラツキを吸収することができ、最適なデューティ率を設定することができる。
なお、本発明の車両用自動変速機のクリープ力制御装置は、上述のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、本発明は、流体クラッチ(トルクコンバータ)を介してエンジンの駆動力を伝達する自動変速機に広く適用可能である。
【0047】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1〜3記載の本発明の車両用自動変速機のクリープ力制御装置によれば、クリープ力が低下した状態を解除する解除条件が成立すると、摩擦要素を僅かに係合しうる微少係合状態にするための初期係合力指令値を出力することにより、油圧の応答遅れや摩擦要素のガタ(遊び)をなくすことができ、その後のフィードバック制御の過補正を確実に回避することができる利点がある。また、これにより摩擦要素の急結合によるショックを防止することができる利点があるほか、フィードバック制御のオーバシュートによる摩擦要素の解放を防止でき、ドライバビリティを高めることができるという利点がある。
【0048】
また、請求項4記載の本発明の車両用自動変速機のクリープ力制御装置によれば、上記請求項1記載の利点に加えて、学習補正手段により運転状態に応じて初期係合力指令値が学習補正されるので、変速機の個体差を吸収することができ最適な初期係合力を設定することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用自動変速機のクリープ力制御装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両用自動変速機のクリープ力制御装置の要部機能に着目した機能ブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る車両用自動変速機のクリープ力制御装置の制御特性を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る車両用自動変速機のクリープ力制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
1 自動変速機
7 摩擦要素(フォワードクラッチ)
51 開始判定手段
52 初期係合力指令値出力手段
52a 学習補正手段
53 解除判定手段
54 係合判定手段
55 再出力手段
Claims (4)
- 自動変速機のシフトレンジが走行レンジにあるときに所定の条件が成立すると、走行時に係合される摩擦要素の係合力を低下させてクリープ力を低下させるように構成された車両用自動変速機のクリープ力制御装置において、
該所定の条件が成立したか否かを判定する開始判定手段と、
該シフトレンジが非走行レンジから走行レンジに切り替えられた直後に該開始判定手段により該所定の条件が成立したと判定されると、該摩擦要素を僅かに係合しうる微少係合状態にするための初期係合力指令値を出力する初期係合力指令値出力手段と、
該クリープ力が低下した状態を解除する解除条件が成立したか否かを判定する解除判定手段と、
該解除条件成立後、該摩擦要素が特定の係合状態となったか否かを判定する係合判定手段と、
該解除条件成立後から該特定の係合状態が判定されるまで該初期係合力指令値を再度出力する再出力手段とをそなえるとともに、
該特定の係合状態が、該自動変速機の入力側回転速度とエンジン回転速度との間のスリップ量が前回の制御周期でのスリップ量よりも大きくなったときの目標スリップ量に所定量を加えた値よりも今回のスリップ量が大きい係合状態である
ことを特徴とする、車両用自動変速機のクリープ力制御装置。 - 自動変速機のシフトレンジが走行レンジにあるときに所定の条件が成立すると、走行時に係合される摩擦要素の係合力を低下させてクリープ力を低下させるように構成された車両用自動変速機のクリープ力制御装置において、
該所定の条件が成立したか否かを判定する開始判定手段と、
該シフトレンジが非走行レンジから走行レンジに切り替えられた直後に該開始判定手段により該所定の条件が成立したと判定されると、該摩擦要素を僅かに係合しうる微少係合状態にするための初期係合力指令値を出力する初期係合力指令値出力手段と、
該クリープ力が低下した状態を解除する解除条件が成立したか否かを判定する解除判定手段と、
該解除条件成立後、該摩擦要素が特定の係合状態となったか否かを判定する係合判定手段と、
該解除条件成立後から該特定の係合状態が判定されるまで該初期係合力指令値を再度出力する再出力手段とをそなえるとともに、
該特定の係合状態が、該自動変速機の入力側回転速度とエンジン回転速度との間のスリップ量NSが、前回の制御周期でのスリップ量(NS) n-1 と今回の制御周期でのスリップ量(NS) n との関係が(NS) n-1 <(NS) n となったときの目標スリップ量(NS) 0 に対して(NS) n >(NS) o +A(Aは定数)を満足する係合状態である
ことを特徴とする、車両用自動変速機のクリープ力制御装置。 - エンジンに接続され該エンジンの回転速度を変速して出力する自動変速機であって、該自動変速機のシフトレンジが走行レンジにあるときに所定の条件が成立すると、走行時に係合される摩擦要素の係合力を低下させてクリープ力を低下させるように構成された車両用自動変速機のクリープ力制御装置において、
該所定の条件が成立したか否かを判定する開始判定手段と、
該シフトレンジが非走行レンジから走行レンジに切り替えられた直後に該開始判定手段により該所定の条件が成立したと判定されると、該摩擦要素を僅かに係合しうる微少係合状態にするための初期係合力指令値を出力する初期係合力指令値出力手段と、
該クリープ力が低下した状態を解除する解除条件が成立したか否かを判定する解除判定手段と、
該解除条件成立後、該摩擦要素が特定の係合状態となったか否かを判定する係合判定手段と、
該解除条件成立後から該特定の係合状態が判定されるまで該初期係合力指令値を再度出力する再出力手段とをそなえるとともに、
該エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度センサと、
該自動変速機の入力側回転速度を検出する入力側回転速度センサと、
該エンジン回転速度センサで得られるエンジン回転速度と該入力側回転速度センサで得られる入力側回転速度との差で規定されるスリップ量に対して目標値を設定する目標スリップ量設定手段とを備え、
該特定の係合状態が、該スリップ量が前回の制御周期でのスリップ量よりも大きくなったときの目標スリップ量に所定量を加えた値よりも今回のスリップ量が大きい係合状態である
ことを特徴とする、車両用自動変速機のクリープ力制御装置。 - 該初期係合力指令値を運転状態に応じて学習補正する学習補正手段をそなえていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の車両用自動変速機のクリープ力制御装置。
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