JP3626589B2 - ポリエステル系ブロックポリマー - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、成形性、特に加熱滞留安定性を改良した、2種類以上のポリエステルをエステル交換反応させてなるポリエステル系ブロックポリマー、および該ポリエステル系ブロックポリマーの製造方法に関する。また本発明は該ポリエステル系ブロックポリマーからなる成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】
近似した構成成分で構成される2種類以上の原料ポリエステルを適度にエステル交換反応させてなるポリエステル系ブロックポリマーは、原料ポリエステル間の親和性が高いために均質性に優れ、原料ポリエステルが別々に有していた特性を良好に保持するという利点が期待される反面、短時間の溶融ブレンドや成形時の加熱溶融で、エステル交換反応によりブロック性が損なわれ、ランダムポリマーへと構造が変化するために、本来の特長である成形性、機械的物性などが発現しないという問題点を有している。
【0003】
熱的に安定なポリエステル系ブロックポリマーの製造方法については、芳香族ポリエステルおよび脂肪族ポリエステルの溶融混合によるブロック化反応が実質的に終了した後に、エステル交換反応を抑制するために、N−アシルラクタムを添加する方法(特開昭51−111895号公報)や、ジカルボン酸ジアリールエステル、炭酸エステルおよびオルソカーボネートの少なくとも1種を添加する方法(特開昭52−29892号公報)が提案されている。しかしながら、近似した構成成分の2種類以上のポリエステルを溶融混合した場合、両ポリエステルの親和性が高いため、上記方法では前記したランダムポリマーへの変化を抑制することは実質的に不可能である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、近似した構成成分からなる2種類以上のポリエステルをエステル交換反応させてなり、2種類のポリエステル間で少なくとも一部がブロック化反応しており、安定した成形性と優れた機械的物性が両立し、加熱滞留安定性などに優れ、中でも特に、加熱滞留安定性に優れたポリエステル系ブロックポリマーおよびその製造方法を提供することにある。さらにもう1つの目的は該ポリエステル系ブロックポリマーからなる成形品を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、互いに異なる近似した構成成分からなり、固有粘度が0.4〜1.5dl/gの範囲であり、少なくとも1種以上が結晶性ポリエステルである2種類の原料ポリエステルを、エステル交換反応させてなり、水酸基濃度が10μ当量/g以下であって、原料ポリエステルの結晶融解温度とポリエステル系ブロックポリマーの結晶融解温度が特定の関係を満たすポリエステル系ブロックポリマーにより、本目的が達成されることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、2種類以上の原料ポリエステルを、エステル交換反応させてなるポリエステル系ブロックポリマーであって、
(1)原料ポリエステルが、ジカルボン酸単位およびジオール単位から主としてなるポリエステルであり、
(a)該ジカルボン酸単位の70モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であり;
(b)該ジオール単位の70モル%以上が炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位であり;
(c)固有粘度が0.4〜1.5dl/gの範囲であり;
(d)少なくとも1種以上が結晶性ポリエステル;であって、
(2)このポリエステル系ブロックポリマーが、
(e)水酸基濃度が10μ当量/g以下であって;
(f)下記の式1および式2を満たすこと
MP2−MP1≦50 (式1)
MP1≧210 (式2)
(式中、MP1はポリエステル系ブロックポリマーの結晶融解温度(℃)を表し、MP2は該ブロックポリマーを構成する原料ポリエステルのうち融点の最も高い原料ポリエステルの結晶融解温度(℃)を表す。);
を特徴とするポリエステル系ブロックポリマーに関するものである。
【0007】
また本発明は、ジカルボン酸単位およびジオール単位から主としてなる原料ポリエステルが、
(a’)該ジカルボン酸単位の70モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であり;
(b’)該ジオール単位の70モル%以上が炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位であり;
(c’)固有粘度が0.4〜1.5dl/gの範囲であり;
(d’)少なくとも1種以上が結晶性ポリエステル;
である2種類以上の原料ポリエステルを、
(e’)エステル交換によって生成するポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度が10μ当量/g以下となる量の水酸基封鎖剤の存在下;
にエステル交換反応させることを特徴とするポリエステル系ブロックポリマーの製造方法に関するものである。
【0008】
さらに本発明は上記したポリエステル系ブロックポリマーからなる成形品に関するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステル系ブロックポリマーの製造に用いられる2種類以上の原料ポリエステルは、いずれもジカルボン酸単位およびジオール単位から主としてなっていて、該ジカルボン酸単位の70モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であり(構成要件(a))、且つ該ジオール単位の70モル%以上が炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位から選ばれる少なくとも1種のジオール単位であることが必要である(構成要件(b))。
【0010】
該原料ポリエステルにおいて、芳香族ジカルボン酸単位の割合が、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸単位に基づいて70モル%未満であると、ブロックポリマーの結晶性などが低下し、成形性、機械的物性などに優れるポリエステル系ブロックポリマーが得られない。ポリエステル系ブロックポリマーの成形性、機械的物性などをより良好なものにする点から、ジカルボン酸単位の80モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であるのが好ましく、90モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であるのがより好ましい。
【0011】
ジカルボン酸単位としては、分子量が400以下の芳香族ジカルボン酸に由来する芳香族ジカルボン酸単位であれば特に制限されず、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、スルホイソフタル酸ナトリウムなどの芳香族ジカルボン酸に由来する単位を挙げることができる。各原料ポリエステルは、これらの芳香族ジカルボン酸単位の1種または2種以上を有していることができ、好ましい芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸を挙げることができる。
【0012】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーの製造に用いられる原料ポリエステルは、必要に応じて、30モル%未満、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下の他のジカルボン酸単位、例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位などの脂環式ジカルボン酸単位、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸よりなる脂肪族ジカルボン酸単位の1種または2種以上を有していてもよい。
【0013】
また、原料ポリエステルを構成するジオール単位としては、炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位から選ばれる少なくとも1種のジオール単位の割合が、ポリエステルを構成する全ジオール単位に基づいて、70モル%未満であると、やはりブロックポリマーの結晶性が低下し、成形性、機械的物性などに優れるポリエステル系ブロックポリマーが得られない。ポリエステル系ブロックポリマーの成形性、機械的物性などをより良好なものにする点から、炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位から選ばれる少なくとも1種のジオール単位の割合が各原料ポリエステルを構成する全ジオール単位の80モル%以上であるのが好ましく、90モル%以上であるのがより好ましい。
【0014】
炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位としては、1,2−エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール,ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる単位などを挙げることができ、各原料ポリエステルは、これらのジオール単位のうちの1種のみを有していても、または2種以上を有していてもよい。好ましい炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位としては、1,2−エチレングリコール、1,4−ブタンジール、1,4−シクロヘキサンジメタノールを挙げることができる。
【0015】
また、原料ポリエステルは必要に応じて、30モル%未満、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下の他のジオール単位、例えば、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの脂肪族ジオール;トリシクロデカンジメタノールなどの脂環式ジオール;ビスフェノールAエチレンオキシド付加物、ビスフェノールSエチレンオキシド付加物、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、p−キシレングリコールなどの芳香族ジオールなどからなるジオール単位の1種または2種以上を有していてもよい。
また、各原料ポリエステルは、少量(好ましくは全ポリオールの1モル%以下)であれば、必要に応じて、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールからなる単位を含んでいてもよい。
【0016】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーにおいて、原料ポリエステルの固有粘度は、いずれも0.4〜1.5dl/gの範囲であることが必要である(構成要件(c))。原料ポリエステルの固有粘度が0.4dl/gに満たない場合は、末端基濃度が高すぎ、ポリエステル系ブロックポリマーを製造する際にエステル交換反応を制御することが困難になるのに加え、得られたポリエステル系ブロックポリマーが機械的強度に劣ることがある。また、固有粘度が1.5dl/gを超えると、溶融粘性が高くなりすぎ、ポリエステル系ブロックポリマーを製造する際に均一に溶融混合することが困難になる。得られるポリエステル系ブロックポリマーの機械的物性、製造の容易性等の観点から、原料ポリエステルの固有粘度は、好ましくは0.5〜1.3dl/g、より好ましくは0.6〜1.2dl/gが適当である。
【0017】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーにおいて、機械的物性、成形性などを良好にする観点より、原料ポリエステルの少なくとも1種類は結晶性ポリエステルである必要がある(構成要件(d))。また、本発明のポリエステル系ブロックポリマーは、結晶融解温度(MP1)が単一で210℃以上の結晶相を有していることが必要であり(構成要件(f))、好ましくは230℃以上、さらに240℃以上の結晶相を有しているのがより好ましい。そのようなポリエステル系ブロックポリマーを与える好ましい結晶性の原料ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリブチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートなどを挙げることができる。
【0018】
2種類以上の原料ポリエステルの組合せとしては、上記要件を満たしていれば特に制限はない。好ましい原料ポリエステルの組合せとしては、耐熱性、成形性、機械的物性などが優れる、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートの組合せ、耐熱性、成形性、機械的物性、紫外線吸収性などが優れる、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの組合せ、およびポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートとポリブチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの組合せなどを挙げることができる。
【0019】
2種類以上の原料ポリエステルの配合の割合は、結晶性ポリエステルが主要原料あることが重要であり、結晶性ポリエステルの重量分率が50重量%以上であるのが好ましい。結晶性ポリエステルの重量分率が50重量%未満である場合には、得られるポリエステル系ブロックポリマーの機械的物性、成形性などが劣り好ましくない。結晶性ポリエステルの重量分率が70重量%以上であるのがより好ましく、90重量%以上であるのがさらに好ましい。
【0020】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーは、原料ポリエステルから誘導される2種類以上のブロックセグメントからなるマルチブロック共重合体を形成していることが極めて重要である。ポリエステル系ブロックポリマーを構成する原料ポリエステルのうち融点の最も高い原料ポリエステルの結晶融解温度(MP2)と、該ブロックポリマーの結晶融解温度(MP1)の差(MP2−MP1)が50℃以下であることが必要である(構成要件(f))。(MP2−MP1)が50℃を超える場合は、原料ポリエステル間でエステル交換反応が過度に進行しており、本来、改良または両立を目的とする機械的物性、成形性などの性能がむしろ低下し、好ましくない。機械的物性、成形性の改良効果が大きいため、(MP2−MP1)の値としては40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがさらに好ましい。なお、本発明でいう「結晶融解温度」の値は、下記の実施例に記載した方法によって測定した結晶融解温度をいう。
【0021】
そして、本発明のポリエステル系ブロックポリマーでは、その水酸基濃度が10μ当量/g以下であることが極めて重要である(構成要件(e))。ポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度が10μ当量/gを超えると、溶融成形する時に、ポリエステル系ブロックポリマー中に存在するブロックセグメントの間でエステル交換反応が進んでランダムポリマーへと移行し、ポリエステル系ブロックポリマーが本来有する機械的物性、成形性、耐熱性などが低下し、好ましくない。溶融成形中のエステル交換反応(ランダム化)をより抑制するために、ポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度が5μ当量/g以下であるのが好ましく、3μ当量/g以下であるのがより好ましい。なお、本発明でいう「水酸基濃度」の値は、下記の実施例に記載した方法によって測定した水酸基濃度をいう。
【0022】
また本発明のポリエステル系ブロックポリマーの分子量分布Mw/Mn(重量平均分子量/数平均分子量)の値は、3.0以上であることが、機械的物性、成形性が共に優れるため好ましい。より好ましいMw/Mnの値としては3.5以上であり、さらに好ましくは4.0以上である。
なお、数平均分子量または固有粘度の異なる原料ポリエステルの単位間でエステル交換反応が進み過ぎた場合には、反応生成物のMw/Mnの値は、一度のランダム共重合で得られたポリエステルと同じ値である2.0にまで最終的に狭くなる。このため、Mw/Mnの値が3.0未満になると機械的物性、熱的物性等の特徴が失われる傾向となる。
【0023】
さらに、本発明のポリエステル系ブロックポリマーは、そのカルボキシル基濃度が20μ当量/g以下であることが好ましい。ポリエステル系ブロックポリマーのカルボキシル基濃度が20μ当量/gを超えると、270℃以上の高温で溶融滞留させるような溶融成形をするときに、エステル交換反応(ランダム化)を助長させる場合があり好ましくなく、また、ポリエステル系ブロックポリマーの耐加水分解性、耐熱老化性も劣り好ましくない。ポリエステル系ブロックポリマーのカルボキシル基濃度は10μ当量/g以下であるのが好ましく、5μ当量/g以下であるのがより好ましい。なお、本発明でいう「カルボキシル基濃度」の値は、下記の実施例に記載した方法によって測定したカルボキシル基濃度をいう。
【0024】
そして、本発明のポリエステル系ブロックポリマーは、上記した(a)〜(f)の要件を備えていることによって、加熱滞留安定性、機械的物性、成形性、耐熱性など種々の特性に優れ、特に溶融成形機内などで高温で溶融状態に長時間保っても、エステル交換反応によるランダム化反応が生じずに、ポリエステル系ブロックポリマー自体が本来的に備える優れた特性を、高温での溶融状態に晒された後も良好に保つことができる。
【0025】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーを製造するには、
ジカルボン酸単位およびジオール単位から主としてなる原料ポリエステルが、
(a’)該ジカルボン酸単位の70モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であり;
(b’)該ジオール単位の70モル%以上が炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位であり、
(c’)固有粘度が0.4〜1.5dl/gの範囲であり、
(d’)少なくとも1種類以上が結晶性ポリエステル;
である2種類以上の原料ポリエステルを、
(e’)該ポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度が10μ当量/g以下となる量の水酸基封鎖剤;および必要に応じて
(f’)原料ポリエステルの合計重量に対して0.001〜1.0%のリン化合物の存在下;
にエステル交換反応させることにより製造できる。
【0026】
ここで、上記した本発明の製造方法において、原料ポリエステルのジカルボン酸単位およびジオール単位の内容は、本発明のポリエステル系ブロックポリマーについて上記で詳細に説明したのと同じである。
【0027】
また、2種類以上の原料ポリエステルのうち、少なくとも1種類は結晶性のポリエステルである必要があり、結晶性ポリエステルの重量分率が50重量%以上であることが、得られるポリエステル系ブロックポリマーの機械的物性、成形性などが優れるため好ましい。より好ましくは結晶性ポリエステルの重量分率が70重量%以上、さらには90重量%以上であるのが好ましい。
【0028】
また、本発明のポリエステル系ブロックポリマーの製造に用いられる原料ポリエステルの固有粘度は、いずれも0.4〜1.5dl/gの範囲である必要がある。原料ポリエステルの固有粘度が0.4dl/gに満たない場合は、末端水酸基濃度が高すぎ、ポリエステル系ブロックポリマーを製造する際に、エステル交換反応を制御することが困難になるのに加え、得られたポリエステル系ブロックポリマーが機械的強度に劣ることがある。また、固有粘度が1.5dl/gを超えると、溶融粘性が高くなりすぎ、ポリエステル系ブロックポリマーを製造する際に、均一に溶融混合することが困難になる。得られるポリエステル系ブロックポリマーの機械的物性、製造の容易性等の観点から、原料ポリエステルの固有粘度は、好ましくは0.5〜1.3dl/g、より好ましくは0.6〜1.2dl/gが適当である。
【0029】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーの製造方法に用いられる原料ポリエステルのうち、少なくとも1種類のポリエステルがシュウ酸チタンカリウム触媒を使用して製造されたポリエステルである場合、2種類以上の原料ポリエステルを溶融混合してポリエステル系ブロックポリマーを製造する際の、ランダム化反応を抑制し易い効果があり好ましい。また得られるポリエステル系ブロックポリマーの成形時の溶融滞留によるポリエステルセグメント間のランダム化反応を抑制し、かつ耐加水分解性、耐熱老化性などの耐久性や色調により優れたポリエステル系ブロックポリマーが得られるので好ましい。
ここでいうシュウ酸チタンカリウムとは、シュウ酸のカルボキシル基がチタンおよびカリウムによって塩の形態になっているものをいい、一般にシュウ酸1モル当たり、チタン原子が約0.5モルおよびカリウム原子が約1モル結合しており、典型的には化学式;K2TiO(C2O4)2・nH2Oで表される。そのようなシュウ酸チタンカリウムは、例えば、シュウ酸を充分に加水分解させたチタン酸カリウムと反応させることにより製造することができるが、勿論その製法は限定されず、前記した化学式で表されるシュウ酸チタンカリウムはいずれも使用できる。
【0030】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーを製造するにあたっては、得られるポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度が10μ当量/g以下となる量の水酸基封鎖剤を添加しなけばならない。その場合の水酸基濃度が10μ当量/g以下となる水酸基封鎖剤の量とは、溶融混合する2種類以上の原料ポリエステルの水酸基濃度(μ当量/g)を実施例に示す方法で予め測定し、合計の水酸基濃度を求め、目的とするポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度(μ当量/g)を引き算して求めた濃度以上の当量である。
【0031】
水酸基封鎖剤は、まず2種類以上の原料ポリエステルを溶融混合し、ポリエステル間のエステル交換反応が開始した時点から、エステル交換反応が終結するまでの任意の時期に添加して作用させることができる。
【0032】
ポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度は、水酸基封鎖剤を水酸基と反応させることにより低減できる。水酸基封鎖剤としては、反応系に存在する水酸基と反応し、且つ反応後は再度水酸基を遊離することのない化合物であればいずれでもよい。
【0033】
水酸基封鎖剤の具体例としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、安息香酸、トルイル酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのカルボキシル基を有する化合物;無水コハク酸、無水フタル酸などの酸無水物;アセチルカプロラクタム、アセチルラウロラクタム、ベンゾイルカプロラクタム、ベンゾイルラウロラクタム、テレフタロイルビスカプロラクタム、テレフタロイルビスラウロラクタムなどのN−アシルラクタムを挙げることができ、中でもベンゾイルカプロラクタムなどのN−アシルラクタムが好ましい。水酸基封鎖剤としては、これらの水酸基反応性化合物の1種または必要により2種以上を反応系に添加する。
【0034】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーを製造するに当たっては、エステル交換反応時に、得られるポリエステル系ブロックポリマーの重量に対して0.001〜1.0%のリン化合物を、水酸基封鎖剤とともに作用させることができる。このリン化合物は、原料ポリエステルの重縮合触媒として添加されているチタン等の金属の化合物と結合し、その後の工程において金属化合物がエステル交換反応の触媒として作用する活性を失活させる働きがある。リン化合物の添加量が0.001%に満たない場合、原料ポリエステル間のエステル交換反応を制御しづらくなるのに加え、得られたポリエステル系ブロックポリマーが加熱滞留安定性を欠くものになる場合がある。また、添加量が1.0%を超えると、得られたポリエステル系ブロックポリマーが耐加水分解性に劣ったものとなり好ましくない。
【0035】
リン化合物の添加時期は任意に選定することができ、まず2種類以上の原料ポリエステルを溶融混合し、ポリエステル間のエステル交換反応が開始した時点から、エステル交換反応が終結するまでの任意の時期に作用させることができる。
【0036】
本発明の製造方法に用いられるリン化合物としては、各種ホスフィン、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸及びそのエステル類を用いることができ、その具体例としては、トリフェニルホスフィン、亜リン酸、リン酸、ホスホン酸、トリメチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリメチルホスホネート、トリフェニルホスホネート、トリデシルホスホネート、ジメチルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジデシルホスファイト、ジメチルホスフェート、ジフェニルホスフェート、ジデシルホスフェート、ジメチルホスホネート、ジフェニルホスホネート、ジデシルホスホネートなどを挙げることができる。この中では、トリデシルホスフェートなどの高級アルコールリン酸エステルが好ましい。これらのリン化合物は1種または2種以上を必要に応じて反応系に添加することができる。
【0037】
上記した2種類以上の原料ポリエステルを溶融混合してポリエステル系ブロックポリマーを製造する際の温度、圧力などは、使用する原料ポリエステルなどの内容に応じて調整することができるが、一般に、結晶融解温度の最も高い原料ポリエステルの結晶融解温度(MP2)よりも、約10〜30℃程度高い温度で両方のポリエステルを溶融混練して、窒素下または減圧下に反応させるとよい。
【0038】
原料ポリエステルの溶融混練によるエステル交換反応は、通常のポリエステルの重合に用いる重縮合槽や単軸、二軸などの押出機を用いて行うことができる。重縮合槽で製造する場合には、例えば重縮合槽の中で1種目のポリエステルを重合し、重合後に、別に製造しておいた2種目以降のポリエステルを添加し、エステル交換反応によりブロック化せしめた後、水酸基封鎖剤及びリン化合物を添加反応させ、製造することができる。また、押出機を用いる場合は、2種類以上の原料ポリエステルを、予めドライブレンドし、溶融混練しながら、水酸基封鎖剤及びリン化合物を作用させることにより上記構成要件を満たすポリエステル系ブロックポリマーを得ることができる。なお、混合に際して、耐光性、耐熱性などをさらに向上させるための安定剤、加熱剤、滑剤、充填剤、帯電防止剤、顔料などの添加剤を本発明の効果を損なわない量で添加してもよい。
【0039】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーは、必要に応じて、カチオン染色が可能なようにスルホン酸塩基を有する化合物で変性されていたり、原料ポリエステルをリン含有化合物で変性して難燃性にしておいてもよく、さらには必要に応じて従来からポリエステル系ブロックポリマーに添加し得ることが知られている添加剤、例えば着色剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐加水分解安定剤、防黴剤、内部離型剤などの各種添加剤、ガラス繊維、有機繊維などの各種繊維、タルク、シリカ、その他の無機充填剤、各種カップリング剤などを、ポリエステル系ブロックポリマー製造の際の溶融混練前、溶融混練中、溶融混練後に適宜添加してもよい。
【0040】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーは、熱可塑性であって溶融成形性に優れ、高温、例えば270℃以上の高温下で溶融状態に長時間滞留させても、ランダム化反応による物性低下が生じない。そのため、本発明のポリエステル系ブロックポリマーを単独で用いて溶融成形や溶融紡糸などを行って各種の成形品などを円滑に製造することができる。
また、本発明のポリエステル系ブロックポリマーを、高温で溶融することが必要なポリエチレンテレフタレートやその他の高融点重合体と併用して、高温で溶融成形して、ポリエステル系ブロックポリマーと高融点重合体との複合成形品などを製造することができる。
【0041】
限定されるものではないが、本発明のポリエステル系ブロックポリマーは、単独で、または他の重合体と併用して、シート、フイルム、ベルト、ロール、カールコード、ホース、チューブ等の押出成形品、パッキング材、防振材、制振材、クッション材、靴底、スポーツシューズ、機械部品、自動車部品、電気・電子部品、スポーツ用品等の射出成形品などの各種成形品、接着剤の原料などの広範な用途に、有効に使用することができる。そして、本発明のポリエステル系ブロックポリマーから上記した成形品などを製造するに当たっては、熱可塑性樹脂などに対して従来から使用されている各種の溶融成形法、例えば押出成形、射出成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、カレンダー成形、プレス成形などの種々の成形法を採用することができる。
【実施例】
次に実施例で本発明の熱可塑性樹脂組成物について詳細に説明するが、これによって、本発明は何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各測定値は以下の方法により測定算出された値である。
【0042】
[固有粘度]
ポリエステル系ブロックポリマーおよび原料ポリエステルを、フェノール/テトラクロロエタンの混合溶媒(1/1重量比)に溶解し、ウベローデ型粘度計を用いて30℃で測定した。
【0043】
[水酸基濃度]
ポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度は、プロトンNMR(日本電子社製「GX−500」)の測定により水酸基隣接メチレンプロトンの強度比から求めた。
【0044】
[カルボキシル基濃度]
ポリエステル系ブロックポリマーのカルボキシル基濃度は、ポリエステル系ブロックポリマーのペレットを乾燥し、ベンジルアルコールに215℃の温度で3分間かけて溶解させ、溶解後にクロロホルムを投入した後、水酸化カリウムのメタノール溶液を用いてフェノールレッドを指示薬として滴定を行って中和点を求め、カルボキシル基濃度を算出した。
【0045】
[結晶融解温度]
原料ポリエステル、ポリエステル系ブロックポリマーおよび成形品の結晶融解温度(融点)は、示差走査熱量計(メトラー社製「TA−3000」)を用いて、窒素気流下で下記の表1に示す行程1〜行程3を順次行って、行程3での融解ピーク温度として求めた。
【0046】
【表1】
【0047】
[分子量分布(GPC測定)]
ポリエステル樹脂組成物をHFIP(ヘキサフロロイソプロパノール)/クロロホルム(20/80体積%)に溶解し、溶離液にはHFIP/クロロホルム(20/80体積%)に酢酸を5体積%を加えた溶液を使用し、GPC装置(WATERS社製「GPC−510」、カラム:ZORBAK社製「TRIMODAL−S」)を用いて紫外検出器により測定した。なお、分子量分布の解析は、オリゴマー部分のピークを除いて実施した。
【0048】
[溶融混練前後の結晶融解温度変化]
ラボプラストミル(東洋精機製作所製「20R200」)を用いて、270℃の温度で、窒素を流しながら30分間溶融混練し、溶融混練処理後のポリエステル系ブロックポリマーの結晶融解温度を、上記した結晶融解温度の測定と同様の方法で測定し、溶融混練前後の結晶融解温度変化を算出した。
【0049】
[射出成形時における結晶融解温度変化]
ポリエステル系ブロックポリマーを、単軸押出機を備えた射出成形装置を使用してシリンダー温度280℃、金型温度60℃で射出成形し、長さ5cm、幅2cm、厚み5mmの平板を成形した。これの結晶融解温度を前述した方法で測定し、射出成形前後の結晶融解温度変化を算出した。射出成形における結晶融解温度変化から、下記の基準に従って、ポリエステル系ブロックポリマーの熱安定性を評価した。
【0050】
○:射出成形時における結晶融解温度変化は3℃未満で、加工時のブロック構造のランダム化は著しく抑制されて加熱滞留安定性に優れ、かつ金型離型性が良好である。
△:射出成形時における結晶融解温度変化は3℃以上9℃未満であり、加工時のブロック構造のランダム化はやや抑制されている。
×:射出成形時における結晶融解温度変化が9℃以上であり、加工時のブロック構造のランダム化が著しく加熱滞留安定性に極めて劣り、金型離型性が射出回数を重ねるにつれて経時的に悪化する。
【0051】
[参考例1]原料ポリエステルAの合成
テレフタル酸ジメチル100.00重量部、1,4−ブタンジオール55.67重量部、シュウ酸チタンカリウム[K2TiO(C2O4)2・nH2O]0.02重量部からなるスラリーを形成し、このスラリーを200℃の温度でエステル交換率95%以上になるまでエステル交換させた。続いて、1mmHgの減圧下に、250℃の温度で前記の低重合体を重縮合し、固有粘度が0.91dl/gであるポリブチレンテレフタレートポリマーを生成させ、これをノズルから押出して切断し、円柱状チップ(直径約2.5mm、長さ約3.5mm)とした。得られたポリマーは215℃の結晶融解温度を有していた。このポリマーの使用原料、固有粘度、水酸基濃度、結晶融解温度は表3に示した。
【0052】
[参考例2]原料ポリエステルBの合成
テレフタル酸ジメチル80.0重量部、イソフタル酸ジメチル20.0重量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール81.65重量部、テトライソプロピルチタネート0.02重量部からなるスラリーを形成し、このスラリーを200℃の温度でエステル交換率95%以上になるまでエステル交換させた。続いて、1mmHgの減圧下に、280℃の温度で前記の低重合体を重縮合し、固有粘度が0.75dl/gであるポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレートポリマーを生成させ、これをノズルから押し出して切断し、円柱状チップ(直径約2.5mm、長さ約3.5mm)とした。得られたポリマーは255℃の結晶融解温度を有していた。このポリマーの使用原料、固有粘度、水酸基濃度、結晶融解温度は表3に示した。
【0053】
[参考例3]原料ポリエステルCの合成
テレフタル酸100.00重量部、エチレングリコール39.22重量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール28.63部、3酸化2アンチモン0.035重量部、亜リン酸0.01重量部からなるスラリーを形成し、このスラリーを加圧下(絶対圧2.5kg/cm2)に250℃の温度でエステル化率95%以上になるまでエステル化反応を行って低重合度体を製造した。続いて、1mmHgの減圧下に、280℃の温度で前記の低重合体を重縮合し、固有粘度が0.85dl/gであるシクロヘキサンジメタノール変性ポリエチレンテレフタレートポリマーを生成させ、これをノズルから押し出して切断し、円柱状チップ(直径約2.5mm、長さ約3.5mm)とした。得られたポリマーはガラス転移温度が80℃の非晶状ポリマーであった。このポリマーの使用原料、固有粘度、水酸基濃度、ガラス転移温度は表3に示した。
【0054】
以下の表3〜表5に用いた略号については下記の表2にまとめた。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
[実施例1]
(1)テレフタル酸100.00重量部、エチレングリコール48.73重量部からなるスラリーを形成し、これに3酸化2アンチモン0.035重量部、亜リン酸0.01重量部を加えた。このスラリーを加圧下(絶対圧2.5kg/cm2)に250℃の温度でエステル化率95%以上になるまでエステル化反応を行って低重合度体を製造した。続いて、1mmHgの減圧下に、280℃の温度で前記の低重合体を重縮合し、固有粘度が0.73dl/gであるポリエチレンテレフタレートポリマーを生成させた(工程1)。このポリマーの水酸基濃度は135μ当量/gであった。
一旦、系内を窒素で充填して常圧とした後に、参考例1で製造した原料ポリエステルA115.0重量部を投入して溶融させ、280℃で15分間の間、ポリエチレンテレフタレートポリマーと原料ポリエステルAとの間でエステル交換反応せしめた(工程2)。
続いて、N−ベンゾイルカプロラクタム6.0重量部(工程1のポリエチレンテレフタレートポリマーと原料ポリエステルAに由来する水酸基濃度の合計モル数に対して1.06倍モル当量に相当する量)、高級脂肪族アルコールリン酸エステル〔旭電化工業(株)社製、AX−71〕0.3重量部を添加し、重合体を再び1mmHgの減圧下に、280℃の温度で30分間だけ重縮合させ、固有粘度0.85dl/gのポリエステル系ブロックポリマーを製造した。これをノズルから押し出して切断し、円柱状チップ(直径約2.5mm、長さ約3.5mm)とした(工程3)。得られたポリエステル系ブロックポリマーは、結晶融解温度(MP1)が241℃であった。このポリエステル系ブロックポリマーの固有粘度、結晶融解温度は表4に示した。
【0058】
(2)上記(1)で得られたポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度、カルボキシル基濃度、分子量分布(GPC測定)、溶融混練前後の結晶融解温度変化、射出成形時における結晶融解温度変化を前述した方法で測定し、結果を表4に示した。
【0059】
[実施例2]
実施例1で用いた原料ポリエステルAの使用重量部を49.6重量部に替えた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系ブロックポリマーを得た。得られたポリエステル系ブロックポリマーは、結晶融解温度(MP1)が243℃であった。得られたポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度、カルボキシル基濃度、分子量分布(GPC測定)、溶融混練前後の結晶融解温度変化、射出成形時における結晶融解温度変化を前述した方法で測定し、結果を表4に示した。
【0060】
[実施例3]
実施例1で用いた原料ポリエステルAを原料ポリエステルBに替えた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系ブロックポリマーを得た。得られたポリエステル系ブロックポリマーは、結晶融解温度(MP1)が243℃であった。得られたポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度、カルボキシル基濃度、分子量分布(GPC測定)、溶融混練前後の結晶融解温度変化、射出成形時における結晶融解温度変化を前述した方法で測定し、結果を表4に示した。
【0061】
[実施例4]
実施例1で用いた原料ポリエステルAを原料ポリエステルCに替えた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系ブロックポリマーを得た。得られたポリエステル系ブロックポリマーは、結晶融解温度(MP1)が238℃であった。得られたポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度、カルボキシル基濃度、分子量分布(GPC測定)、溶融混練前後の結晶融解温度変化、射出成形時における結晶融解温度変化を前述した方法で測定し、結果を表4に示した。
【0062】
【表4】
【0063】
[比較例1および2]
(1)N−ベンゾイルカプロラクタム、高級脂肪族アルコールリン酸エステルの使用量を変更して、実施例1と同様にしてポリエステル系ブロックポリマーを得た。使用したN−ベンゾイルカプロラクタム、高級脂肪族アルコールリン酸エステルの重量部は表5に示した。得られたポリエステル系ブロックポリマーの固有粘度、結晶融解温度(MP1)は表5に示した。
【0064】
(2)上記(1)で得られたポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度、カルボキシル基濃度、分子量分布(GPC測定)、溶融混練前後の結晶融解温度変化、射出成形時における結晶融解温度変化を前述した方法で測定し、結果を表5に示した。
【0065】
[比較例3〜5]
(1)N−ベンゾイルカプロラクタム、高級脂肪族アルコールリン酸エステルの使用量を変更して、実施例3と同様にしてポリエステル系ブロックポリマーを得た。使用したN−ベンゾイルカプロラクタム、高級脂肪族アルコールリン酸エステルの重量部は表5に示した。得られたポリエステル系ブロックポリマーの固有粘度、結晶融解温度(MP1)は表5に示した。
【0066】
(2)上記(1)で得られたポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度、カルボキシル基濃度、分子量分布(GPC測定)、溶融混練前後の結晶融解温度変化、射出成形時における結晶融解温度変化を前述した方法で測定し、結果を表5に示した。
【0067】
【表5】
【0068】
上記の表4の結果から、(1)ジカルボン酸単位およびジオール単位から主としてなり、(a)該ジカルボン酸単位の70モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であり、(b)該ジオール単位の70モル%以上が炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位であり、且つ固有粘度が0.4〜1.5dl/gの範囲であり、且つ少なくとも1種以上が結晶性ポリエステルである2種類以上の原料ポリエステルをエステル交換反応させてなるブロックポリマーであって、且つこのポリエステル系ブロックポリマーが、水酸基濃度が10μ当量/g以下であって、下記の式1および式2を満たすポリエステル系ブロックポリマーは、溶融混練における結晶融解温度変化、および射出成形時における結晶融解温度変化が極めて小さいことがわかる。
MP2−MP1≦50 (式1)
210≦MP1 (式2)
(式中、MP1はポリエステル系ブロックポリマーの結晶融解温度(℃)を表し、MP2は該ブロックポリマーを構成する原料ポリエステルのうち結晶融解温度の最も高い原料ポリエステルの結晶融解温度(℃)を表す。)
【0069】
これに対して、上記の表5の比較例1〜5の結果から、(1)ジカルボン酸単位およびジオール単位から主としてなり、(a)該ジカルボン酸単位の70モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であり、(b)該ジオール単位の70モル%以上が炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位であり、且つ固有粘度が0.4〜1.5dl/gの範囲であり、且つ少なくとも1種以上が結晶性ポリエステルである2種類以上の原料ポリエステルをエステル交換反応させてなるブロックポリマーであるが、このポリエステル系ブロックポリマーが、水酸基濃度が10μ当量/gを越えているか、前記の式1および式2を満たしていない、すなわち本発明の構成要件を満たしていないポリエステル系ブロックポリマーは、溶融混練における結晶融解温度変化、および射出成形時における結晶融解温度変化が極めて大きいことがわかる。
【0070】
【発明の効果】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーは、互いに異なる近似した構成成分で構成される2種類以上の原料ポリエステルを適度にエステル交換反応させてなるポリエステル系ブロックポリマーであり、原料ポリエステル間の親和性が高いために均質性に優れ、原料ポリエステルの特性を良好に保持するという利点を有することに加え、成形性、特に加熱滞留安定性に優れている。
従って、射出成形に代表される溶融成形に供した際も、エステル交換反応によりブロック性が損なわれることがなく、安定した成形性と優れた機械的物性とを両立することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、成形性、特に加熱滞留安定性を改良した、2種類以上のポリエステルをエステル交換反応させてなるポリエステル系ブロックポリマー、および該ポリエステル系ブロックポリマーの製造方法に関する。また本発明は該ポリエステル系ブロックポリマーからなる成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】
近似した構成成分で構成される2種類以上の原料ポリエステルを適度にエステル交換反応させてなるポリエステル系ブロックポリマーは、原料ポリエステル間の親和性が高いために均質性に優れ、原料ポリエステルが別々に有していた特性を良好に保持するという利点が期待される反面、短時間の溶融ブレンドや成形時の加熱溶融で、エステル交換反応によりブロック性が損なわれ、ランダムポリマーへと構造が変化するために、本来の特長である成形性、機械的物性などが発現しないという問題点を有している。
【0003】
熱的に安定なポリエステル系ブロックポリマーの製造方法については、芳香族ポリエステルおよび脂肪族ポリエステルの溶融混合によるブロック化反応が実質的に終了した後に、エステル交換反応を抑制するために、N−アシルラクタムを添加する方法(特開昭51−111895号公報)や、ジカルボン酸ジアリールエステル、炭酸エステルおよびオルソカーボネートの少なくとも1種を添加する方法(特開昭52−29892号公報)が提案されている。しかしながら、近似した構成成分の2種類以上のポリエステルを溶融混合した場合、両ポリエステルの親和性が高いため、上記方法では前記したランダムポリマーへの変化を抑制することは実質的に不可能である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、近似した構成成分からなる2種類以上のポリエステルをエステル交換反応させてなり、2種類のポリエステル間で少なくとも一部がブロック化反応しており、安定した成形性と優れた機械的物性が両立し、加熱滞留安定性などに優れ、中でも特に、加熱滞留安定性に優れたポリエステル系ブロックポリマーおよびその製造方法を提供することにある。さらにもう1つの目的は該ポリエステル系ブロックポリマーからなる成形品を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、互いに異なる近似した構成成分からなり、固有粘度が0.4〜1.5dl/gの範囲であり、少なくとも1種以上が結晶性ポリエステルである2種類の原料ポリエステルを、エステル交換反応させてなり、水酸基濃度が10μ当量/g以下であって、原料ポリエステルの結晶融解温度とポリエステル系ブロックポリマーの結晶融解温度が特定の関係を満たすポリエステル系ブロックポリマーにより、本目的が達成されることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、2種類以上の原料ポリエステルを、エステル交換反応させてなるポリエステル系ブロックポリマーであって、
(1)原料ポリエステルが、ジカルボン酸単位およびジオール単位から主としてなるポリエステルであり、
(a)該ジカルボン酸単位の70モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であり;
(b)該ジオール単位の70モル%以上が炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位であり;
(c)固有粘度が0.4〜1.5dl/gの範囲であり;
(d)少なくとも1種以上が結晶性ポリエステル;であって、
(2)このポリエステル系ブロックポリマーが、
(e)水酸基濃度が10μ当量/g以下であって;
(f)下記の式1および式2を満たすこと
MP2−MP1≦50 (式1)
MP1≧210 (式2)
(式中、MP1はポリエステル系ブロックポリマーの結晶融解温度(℃)を表し、MP2は該ブロックポリマーを構成する原料ポリエステルのうち融点の最も高い原料ポリエステルの結晶融解温度(℃)を表す。);
を特徴とするポリエステル系ブロックポリマーに関するものである。
【0007】
また本発明は、ジカルボン酸単位およびジオール単位から主としてなる原料ポリエステルが、
(a’)該ジカルボン酸単位の70モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であり;
(b’)該ジオール単位の70モル%以上が炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位であり;
(c’)固有粘度が0.4〜1.5dl/gの範囲であり;
(d’)少なくとも1種以上が結晶性ポリエステル;
である2種類以上の原料ポリエステルを、
(e’)エステル交換によって生成するポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度が10μ当量/g以下となる量の水酸基封鎖剤の存在下;
にエステル交換反応させることを特徴とするポリエステル系ブロックポリマーの製造方法に関するものである。
【0008】
さらに本発明は上記したポリエステル系ブロックポリマーからなる成形品に関するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステル系ブロックポリマーの製造に用いられる2種類以上の原料ポリエステルは、いずれもジカルボン酸単位およびジオール単位から主としてなっていて、該ジカルボン酸単位の70モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であり(構成要件(a))、且つ該ジオール単位の70モル%以上が炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位から選ばれる少なくとも1種のジオール単位であることが必要である(構成要件(b))。
【0010】
該原料ポリエステルにおいて、芳香族ジカルボン酸単位の割合が、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸単位に基づいて70モル%未満であると、ブロックポリマーの結晶性などが低下し、成形性、機械的物性などに優れるポリエステル系ブロックポリマーが得られない。ポリエステル系ブロックポリマーの成形性、機械的物性などをより良好なものにする点から、ジカルボン酸単位の80モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であるのが好ましく、90モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であるのがより好ましい。
【0011】
ジカルボン酸単位としては、分子量が400以下の芳香族ジカルボン酸に由来する芳香族ジカルボン酸単位であれば特に制限されず、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、スルホイソフタル酸ナトリウムなどの芳香族ジカルボン酸に由来する単位を挙げることができる。各原料ポリエステルは、これらの芳香族ジカルボン酸単位の1種または2種以上を有していることができ、好ましい芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸を挙げることができる。
【0012】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーの製造に用いられる原料ポリエステルは、必要に応じて、30モル%未満、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下の他のジカルボン酸単位、例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位などの脂環式ジカルボン酸単位、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸よりなる脂肪族ジカルボン酸単位の1種または2種以上を有していてもよい。
【0013】
また、原料ポリエステルを構成するジオール単位としては、炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位から選ばれる少なくとも1種のジオール単位の割合が、ポリエステルを構成する全ジオール単位に基づいて、70モル%未満であると、やはりブロックポリマーの結晶性が低下し、成形性、機械的物性などに優れるポリエステル系ブロックポリマーが得られない。ポリエステル系ブロックポリマーの成形性、機械的物性などをより良好なものにする点から、炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位から選ばれる少なくとも1種のジオール単位の割合が各原料ポリエステルを構成する全ジオール単位の80モル%以上であるのが好ましく、90モル%以上であるのがより好ましい。
【0014】
炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位としては、1,2−エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール,ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる単位などを挙げることができ、各原料ポリエステルは、これらのジオール単位のうちの1種のみを有していても、または2種以上を有していてもよい。好ましい炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位としては、1,2−エチレングリコール、1,4−ブタンジール、1,4−シクロヘキサンジメタノールを挙げることができる。
【0015】
また、原料ポリエステルは必要に応じて、30モル%未満、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下の他のジオール単位、例えば、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの脂肪族ジオール;トリシクロデカンジメタノールなどの脂環式ジオール;ビスフェノールAエチレンオキシド付加物、ビスフェノールSエチレンオキシド付加物、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、p−キシレングリコールなどの芳香族ジオールなどからなるジオール単位の1種または2種以上を有していてもよい。
また、各原料ポリエステルは、少量(好ましくは全ポリオールの1モル%以下)であれば、必要に応じて、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールからなる単位を含んでいてもよい。
【0016】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーにおいて、原料ポリエステルの固有粘度は、いずれも0.4〜1.5dl/gの範囲であることが必要である(構成要件(c))。原料ポリエステルの固有粘度が0.4dl/gに満たない場合は、末端基濃度が高すぎ、ポリエステル系ブロックポリマーを製造する際にエステル交換反応を制御することが困難になるのに加え、得られたポリエステル系ブロックポリマーが機械的強度に劣ることがある。また、固有粘度が1.5dl/gを超えると、溶融粘性が高くなりすぎ、ポリエステル系ブロックポリマーを製造する際に均一に溶融混合することが困難になる。得られるポリエステル系ブロックポリマーの機械的物性、製造の容易性等の観点から、原料ポリエステルの固有粘度は、好ましくは0.5〜1.3dl/g、より好ましくは0.6〜1.2dl/gが適当である。
【0017】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーにおいて、機械的物性、成形性などを良好にする観点より、原料ポリエステルの少なくとも1種類は結晶性ポリエステルである必要がある(構成要件(d))。また、本発明のポリエステル系ブロックポリマーは、結晶融解温度(MP1)が単一で210℃以上の結晶相を有していることが必要であり(構成要件(f))、好ましくは230℃以上、さらに240℃以上の結晶相を有しているのがより好ましい。そのようなポリエステル系ブロックポリマーを与える好ましい結晶性の原料ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリブチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートなどを挙げることができる。
【0018】
2種類以上の原料ポリエステルの組合せとしては、上記要件を満たしていれば特に制限はない。好ましい原料ポリエステルの組合せとしては、耐熱性、成形性、機械的物性などが優れる、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートの組合せ、耐熱性、成形性、機械的物性、紫外線吸収性などが優れる、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの組合せ、およびポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートとポリブチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの組合せなどを挙げることができる。
【0019】
2種類以上の原料ポリエステルの配合の割合は、結晶性ポリエステルが主要原料あることが重要であり、結晶性ポリエステルの重量分率が50重量%以上であるのが好ましい。結晶性ポリエステルの重量分率が50重量%未満である場合には、得られるポリエステル系ブロックポリマーの機械的物性、成形性などが劣り好ましくない。結晶性ポリエステルの重量分率が70重量%以上であるのがより好ましく、90重量%以上であるのがさらに好ましい。
【0020】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーは、原料ポリエステルから誘導される2種類以上のブロックセグメントからなるマルチブロック共重合体を形成していることが極めて重要である。ポリエステル系ブロックポリマーを構成する原料ポリエステルのうち融点の最も高い原料ポリエステルの結晶融解温度(MP2)と、該ブロックポリマーの結晶融解温度(MP1)の差(MP2−MP1)が50℃以下であることが必要である(構成要件(f))。(MP2−MP1)が50℃を超える場合は、原料ポリエステル間でエステル交換反応が過度に進行しており、本来、改良または両立を目的とする機械的物性、成形性などの性能がむしろ低下し、好ましくない。機械的物性、成形性の改良効果が大きいため、(MP2−MP1)の値としては40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがさらに好ましい。なお、本発明でいう「結晶融解温度」の値は、下記の実施例に記載した方法によって測定した結晶融解温度をいう。
【0021】
そして、本発明のポリエステル系ブロックポリマーでは、その水酸基濃度が10μ当量/g以下であることが極めて重要である(構成要件(e))。ポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度が10μ当量/gを超えると、溶融成形する時に、ポリエステル系ブロックポリマー中に存在するブロックセグメントの間でエステル交換反応が進んでランダムポリマーへと移行し、ポリエステル系ブロックポリマーが本来有する機械的物性、成形性、耐熱性などが低下し、好ましくない。溶融成形中のエステル交換反応(ランダム化)をより抑制するために、ポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度が5μ当量/g以下であるのが好ましく、3μ当量/g以下であるのがより好ましい。なお、本発明でいう「水酸基濃度」の値は、下記の実施例に記載した方法によって測定した水酸基濃度をいう。
【0022】
また本発明のポリエステル系ブロックポリマーの分子量分布Mw/Mn(重量平均分子量/数平均分子量)の値は、3.0以上であることが、機械的物性、成形性が共に優れるため好ましい。より好ましいMw/Mnの値としては3.5以上であり、さらに好ましくは4.0以上である。
なお、数平均分子量または固有粘度の異なる原料ポリエステルの単位間でエステル交換反応が進み過ぎた場合には、反応生成物のMw/Mnの値は、一度のランダム共重合で得られたポリエステルと同じ値である2.0にまで最終的に狭くなる。このため、Mw/Mnの値が3.0未満になると機械的物性、熱的物性等の特徴が失われる傾向となる。
【0023】
さらに、本発明のポリエステル系ブロックポリマーは、そのカルボキシル基濃度が20μ当量/g以下であることが好ましい。ポリエステル系ブロックポリマーのカルボキシル基濃度が20μ当量/gを超えると、270℃以上の高温で溶融滞留させるような溶融成形をするときに、エステル交換反応(ランダム化)を助長させる場合があり好ましくなく、また、ポリエステル系ブロックポリマーの耐加水分解性、耐熱老化性も劣り好ましくない。ポリエステル系ブロックポリマーのカルボキシル基濃度は10μ当量/g以下であるのが好ましく、5μ当量/g以下であるのがより好ましい。なお、本発明でいう「カルボキシル基濃度」の値は、下記の実施例に記載した方法によって測定したカルボキシル基濃度をいう。
【0024】
そして、本発明のポリエステル系ブロックポリマーは、上記した(a)〜(f)の要件を備えていることによって、加熱滞留安定性、機械的物性、成形性、耐熱性など種々の特性に優れ、特に溶融成形機内などで高温で溶融状態に長時間保っても、エステル交換反応によるランダム化反応が生じずに、ポリエステル系ブロックポリマー自体が本来的に備える優れた特性を、高温での溶融状態に晒された後も良好に保つことができる。
【0025】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーを製造するには、
ジカルボン酸単位およびジオール単位から主としてなる原料ポリエステルが、
(a’)該ジカルボン酸単位の70モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であり;
(b’)該ジオール単位の70モル%以上が炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位であり、
(c’)固有粘度が0.4〜1.5dl/gの範囲であり、
(d’)少なくとも1種類以上が結晶性ポリエステル;
である2種類以上の原料ポリエステルを、
(e’)該ポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度が10μ当量/g以下となる量の水酸基封鎖剤;および必要に応じて
(f’)原料ポリエステルの合計重量に対して0.001〜1.0%のリン化合物の存在下;
にエステル交換反応させることにより製造できる。
【0026】
ここで、上記した本発明の製造方法において、原料ポリエステルのジカルボン酸単位およびジオール単位の内容は、本発明のポリエステル系ブロックポリマーについて上記で詳細に説明したのと同じである。
【0027】
また、2種類以上の原料ポリエステルのうち、少なくとも1種類は結晶性のポリエステルである必要があり、結晶性ポリエステルの重量分率が50重量%以上であることが、得られるポリエステル系ブロックポリマーの機械的物性、成形性などが優れるため好ましい。より好ましくは結晶性ポリエステルの重量分率が70重量%以上、さらには90重量%以上であるのが好ましい。
【0028】
また、本発明のポリエステル系ブロックポリマーの製造に用いられる原料ポリエステルの固有粘度は、いずれも0.4〜1.5dl/gの範囲である必要がある。原料ポリエステルの固有粘度が0.4dl/gに満たない場合は、末端水酸基濃度が高すぎ、ポリエステル系ブロックポリマーを製造する際に、エステル交換反応を制御することが困難になるのに加え、得られたポリエステル系ブロックポリマーが機械的強度に劣ることがある。また、固有粘度が1.5dl/gを超えると、溶融粘性が高くなりすぎ、ポリエステル系ブロックポリマーを製造する際に、均一に溶融混合することが困難になる。得られるポリエステル系ブロックポリマーの機械的物性、製造の容易性等の観点から、原料ポリエステルの固有粘度は、好ましくは0.5〜1.3dl/g、より好ましくは0.6〜1.2dl/gが適当である。
【0029】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーの製造方法に用いられる原料ポリエステルのうち、少なくとも1種類のポリエステルがシュウ酸チタンカリウム触媒を使用して製造されたポリエステルである場合、2種類以上の原料ポリエステルを溶融混合してポリエステル系ブロックポリマーを製造する際の、ランダム化反応を抑制し易い効果があり好ましい。また得られるポリエステル系ブロックポリマーの成形時の溶融滞留によるポリエステルセグメント間のランダム化反応を抑制し、かつ耐加水分解性、耐熱老化性などの耐久性や色調により優れたポリエステル系ブロックポリマーが得られるので好ましい。
ここでいうシュウ酸チタンカリウムとは、シュウ酸のカルボキシル基がチタンおよびカリウムによって塩の形態になっているものをいい、一般にシュウ酸1モル当たり、チタン原子が約0.5モルおよびカリウム原子が約1モル結合しており、典型的には化学式;K2TiO(C2O4)2・nH2Oで表される。そのようなシュウ酸チタンカリウムは、例えば、シュウ酸を充分に加水分解させたチタン酸カリウムと反応させることにより製造することができるが、勿論その製法は限定されず、前記した化学式で表されるシュウ酸チタンカリウムはいずれも使用できる。
【0030】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーを製造するにあたっては、得られるポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度が10μ当量/g以下となる量の水酸基封鎖剤を添加しなけばならない。その場合の水酸基濃度が10μ当量/g以下となる水酸基封鎖剤の量とは、溶融混合する2種類以上の原料ポリエステルの水酸基濃度(μ当量/g)を実施例に示す方法で予め測定し、合計の水酸基濃度を求め、目的とするポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度(μ当量/g)を引き算して求めた濃度以上の当量である。
【0031】
水酸基封鎖剤は、まず2種類以上の原料ポリエステルを溶融混合し、ポリエステル間のエステル交換反応が開始した時点から、エステル交換反応が終結するまでの任意の時期に添加して作用させることができる。
【0032】
ポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度は、水酸基封鎖剤を水酸基と反応させることにより低減できる。水酸基封鎖剤としては、反応系に存在する水酸基と反応し、且つ反応後は再度水酸基を遊離することのない化合物であればいずれでもよい。
【0033】
水酸基封鎖剤の具体例としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、安息香酸、トルイル酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのカルボキシル基を有する化合物;無水コハク酸、無水フタル酸などの酸無水物;アセチルカプロラクタム、アセチルラウロラクタム、ベンゾイルカプロラクタム、ベンゾイルラウロラクタム、テレフタロイルビスカプロラクタム、テレフタロイルビスラウロラクタムなどのN−アシルラクタムを挙げることができ、中でもベンゾイルカプロラクタムなどのN−アシルラクタムが好ましい。水酸基封鎖剤としては、これらの水酸基反応性化合物の1種または必要により2種以上を反応系に添加する。
【0034】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーを製造するに当たっては、エステル交換反応時に、得られるポリエステル系ブロックポリマーの重量に対して0.001〜1.0%のリン化合物を、水酸基封鎖剤とともに作用させることができる。このリン化合物は、原料ポリエステルの重縮合触媒として添加されているチタン等の金属の化合物と結合し、その後の工程において金属化合物がエステル交換反応の触媒として作用する活性を失活させる働きがある。リン化合物の添加量が0.001%に満たない場合、原料ポリエステル間のエステル交換反応を制御しづらくなるのに加え、得られたポリエステル系ブロックポリマーが加熱滞留安定性を欠くものになる場合がある。また、添加量が1.0%を超えると、得られたポリエステル系ブロックポリマーが耐加水分解性に劣ったものとなり好ましくない。
【0035】
リン化合物の添加時期は任意に選定することができ、まず2種類以上の原料ポリエステルを溶融混合し、ポリエステル間のエステル交換反応が開始した時点から、エステル交換反応が終結するまでの任意の時期に作用させることができる。
【0036】
本発明の製造方法に用いられるリン化合物としては、各種ホスフィン、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸及びそのエステル類を用いることができ、その具体例としては、トリフェニルホスフィン、亜リン酸、リン酸、ホスホン酸、トリメチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリメチルホスホネート、トリフェニルホスホネート、トリデシルホスホネート、ジメチルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジデシルホスファイト、ジメチルホスフェート、ジフェニルホスフェート、ジデシルホスフェート、ジメチルホスホネート、ジフェニルホスホネート、ジデシルホスホネートなどを挙げることができる。この中では、トリデシルホスフェートなどの高級アルコールリン酸エステルが好ましい。これらのリン化合物は1種または2種以上を必要に応じて反応系に添加することができる。
【0037】
上記した2種類以上の原料ポリエステルを溶融混合してポリエステル系ブロックポリマーを製造する際の温度、圧力などは、使用する原料ポリエステルなどの内容に応じて調整することができるが、一般に、結晶融解温度の最も高い原料ポリエステルの結晶融解温度(MP2)よりも、約10〜30℃程度高い温度で両方のポリエステルを溶融混練して、窒素下または減圧下に反応させるとよい。
【0038】
原料ポリエステルの溶融混練によるエステル交換反応は、通常のポリエステルの重合に用いる重縮合槽や単軸、二軸などの押出機を用いて行うことができる。重縮合槽で製造する場合には、例えば重縮合槽の中で1種目のポリエステルを重合し、重合後に、別に製造しておいた2種目以降のポリエステルを添加し、エステル交換反応によりブロック化せしめた後、水酸基封鎖剤及びリン化合物を添加反応させ、製造することができる。また、押出機を用いる場合は、2種類以上の原料ポリエステルを、予めドライブレンドし、溶融混練しながら、水酸基封鎖剤及びリン化合物を作用させることにより上記構成要件を満たすポリエステル系ブロックポリマーを得ることができる。なお、混合に際して、耐光性、耐熱性などをさらに向上させるための安定剤、加熱剤、滑剤、充填剤、帯電防止剤、顔料などの添加剤を本発明の効果を損なわない量で添加してもよい。
【0039】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーは、必要に応じて、カチオン染色が可能なようにスルホン酸塩基を有する化合物で変性されていたり、原料ポリエステルをリン含有化合物で変性して難燃性にしておいてもよく、さらには必要に応じて従来からポリエステル系ブロックポリマーに添加し得ることが知られている添加剤、例えば着色剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐加水分解安定剤、防黴剤、内部離型剤などの各種添加剤、ガラス繊維、有機繊維などの各種繊維、タルク、シリカ、その他の無機充填剤、各種カップリング剤などを、ポリエステル系ブロックポリマー製造の際の溶融混練前、溶融混練中、溶融混練後に適宜添加してもよい。
【0040】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーは、熱可塑性であって溶融成形性に優れ、高温、例えば270℃以上の高温下で溶融状態に長時間滞留させても、ランダム化反応による物性低下が生じない。そのため、本発明のポリエステル系ブロックポリマーを単独で用いて溶融成形や溶融紡糸などを行って各種の成形品などを円滑に製造することができる。
また、本発明のポリエステル系ブロックポリマーを、高温で溶融することが必要なポリエチレンテレフタレートやその他の高融点重合体と併用して、高温で溶融成形して、ポリエステル系ブロックポリマーと高融点重合体との複合成形品などを製造することができる。
【0041】
限定されるものではないが、本発明のポリエステル系ブロックポリマーは、単独で、または他の重合体と併用して、シート、フイルム、ベルト、ロール、カールコード、ホース、チューブ等の押出成形品、パッキング材、防振材、制振材、クッション材、靴底、スポーツシューズ、機械部品、自動車部品、電気・電子部品、スポーツ用品等の射出成形品などの各種成形品、接着剤の原料などの広範な用途に、有効に使用することができる。そして、本発明のポリエステル系ブロックポリマーから上記した成形品などを製造するに当たっては、熱可塑性樹脂などに対して従来から使用されている各種の溶融成形法、例えば押出成形、射出成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、カレンダー成形、プレス成形などの種々の成形法を採用することができる。
【実施例】
次に実施例で本発明の熱可塑性樹脂組成物について詳細に説明するが、これによって、本発明は何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各測定値は以下の方法により測定算出された値である。
【0042】
[固有粘度]
ポリエステル系ブロックポリマーおよび原料ポリエステルを、フェノール/テトラクロロエタンの混合溶媒(1/1重量比)に溶解し、ウベローデ型粘度計を用いて30℃で測定した。
【0043】
[水酸基濃度]
ポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度は、プロトンNMR(日本電子社製「GX−500」)の測定により水酸基隣接メチレンプロトンの強度比から求めた。
【0044】
[カルボキシル基濃度]
ポリエステル系ブロックポリマーのカルボキシル基濃度は、ポリエステル系ブロックポリマーのペレットを乾燥し、ベンジルアルコールに215℃の温度で3分間かけて溶解させ、溶解後にクロロホルムを投入した後、水酸化カリウムのメタノール溶液を用いてフェノールレッドを指示薬として滴定を行って中和点を求め、カルボキシル基濃度を算出した。
【0045】
[結晶融解温度]
原料ポリエステル、ポリエステル系ブロックポリマーおよび成形品の結晶融解温度(融点)は、示差走査熱量計(メトラー社製「TA−3000」)を用いて、窒素気流下で下記の表1に示す行程1〜行程3を順次行って、行程3での融解ピーク温度として求めた。
【0046】
【表1】
【0047】
[分子量分布(GPC測定)]
ポリエステル樹脂組成物をHFIP(ヘキサフロロイソプロパノール)/クロロホルム(20/80体積%)に溶解し、溶離液にはHFIP/クロロホルム(20/80体積%)に酢酸を5体積%を加えた溶液を使用し、GPC装置(WATERS社製「GPC−510」、カラム:ZORBAK社製「TRIMODAL−S」)を用いて紫外検出器により測定した。なお、分子量分布の解析は、オリゴマー部分のピークを除いて実施した。
【0048】
[溶融混練前後の結晶融解温度変化]
ラボプラストミル(東洋精機製作所製「20R200」)を用いて、270℃の温度で、窒素を流しながら30分間溶融混練し、溶融混練処理後のポリエステル系ブロックポリマーの結晶融解温度を、上記した結晶融解温度の測定と同様の方法で測定し、溶融混練前後の結晶融解温度変化を算出した。
【0049】
[射出成形時における結晶融解温度変化]
ポリエステル系ブロックポリマーを、単軸押出機を備えた射出成形装置を使用してシリンダー温度280℃、金型温度60℃で射出成形し、長さ5cm、幅2cm、厚み5mmの平板を成形した。これの結晶融解温度を前述した方法で測定し、射出成形前後の結晶融解温度変化を算出した。射出成形における結晶融解温度変化から、下記の基準に従って、ポリエステル系ブロックポリマーの熱安定性を評価した。
【0050】
○:射出成形時における結晶融解温度変化は3℃未満で、加工時のブロック構造のランダム化は著しく抑制されて加熱滞留安定性に優れ、かつ金型離型性が良好である。
△:射出成形時における結晶融解温度変化は3℃以上9℃未満であり、加工時のブロック構造のランダム化はやや抑制されている。
×:射出成形時における結晶融解温度変化が9℃以上であり、加工時のブロック構造のランダム化が著しく加熱滞留安定性に極めて劣り、金型離型性が射出回数を重ねるにつれて経時的に悪化する。
【0051】
[参考例1]原料ポリエステルAの合成
テレフタル酸ジメチル100.00重量部、1,4−ブタンジオール55.67重量部、シュウ酸チタンカリウム[K2TiO(C2O4)2・nH2O]0.02重量部からなるスラリーを形成し、このスラリーを200℃の温度でエステル交換率95%以上になるまでエステル交換させた。続いて、1mmHgの減圧下に、250℃の温度で前記の低重合体を重縮合し、固有粘度が0.91dl/gであるポリブチレンテレフタレートポリマーを生成させ、これをノズルから押出して切断し、円柱状チップ(直径約2.5mm、長さ約3.5mm)とした。得られたポリマーは215℃の結晶融解温度を有していた。このポリマーの使用原料、固有粘度、水酸基濃度、結晶融解温度は表3に示した。
【0052】
[参考例2]原料ポリエステルBの合成
テレフタル酸ジメチル80.0重量部、イソフタル酸ジメチル20.0重量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール81.65重量部、テトライソプロピルチタネート0.02重量部からなるスラリーを形成し、このスラリーを200℃の温度でエステル交換率95%以上になるまでエステル交換させた。続いて、1mmHgの減圧下に、280℃の温度で前記の低重合体を重縮合し、固有粘度が0.75dl/gであるポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレートポリマーを生成させ、これをノズルから押し出して切断し、円柱状チップ(直径約2.5mm、長さ約3.5mm)とした。得られたポリマーは255℃の結晶融解温度を有していた。このポリマーの使用原料、固有粘度、水酸基濃度、結晶融解温度は表3に示した。
【0053】
[参考例3]原料ポリエステルCの合成
テレフタル酸100.00重量部、エチレングリコール39.22重量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール28.63部、3酸化2アンチモン0.035重量部、亜リン酸0.01重量部からなるスラリーを形成し、このスラリーを加圧下(絶対圧2.5kg/cm2)に250℃の温度でエステル化率95%以上になるまでエステル化反応を行って低重合度体を製造した。続いて、1mmHgの減圧下に、280℃の温度で前記の低重合体を重縮合し、固有粘度が0.85dl/gであるシクロヘキサンジメタノール変性ポリエチレンテレフタレートポリマーを生成させ、これをノズルから押し出して切断し、円柱状チップ(直径約2.5mm、長さ約3.5mm)とした。得られたポリマーはガラス転移温度が80℃の非晶状ポリマーであった。このポリマーの使用原料、固有粘度、水酸基濃度、ガラス転移温度は表3に示した。
【0054】
以下の表3〜表5に用いた略号については下記の表2にまとめた。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
[実施例1]
(1)テレフタル酸100.00重量部、エチレングリコール48.73重量部からなるスラリーを形成し、これに3酸化2アンチモン0.035重量部、亜リン酸0.01重量部を加えた。このスラリーを加圧下(絶対圧2.5kg/cm2)に250℃の温度でエステル化率95%以上になるまでエステル化反応を行って低重合度体を製造した。続いて、1mmHgの減圧下に、280℃の温度で前記の低重合体を重縮合し、固有粘度が0.73dl/gであるポリエチレンテレフタレートポリマーを生成させた(工程1)。このポリマーの水酸基濃度は135μ当量/gであった。
一旦、系内を窒素で充填して常圧とした後に、参考例1で製造した原料ポリエステルA115.0重量部を投入して溶融させ、280℃で15分間の間、ポリエチレンテレフタレートポリマーと原料ポリエステルAとの間でエステル交換反応せしめた(工程2)。
続いて、N−ベンゾイルカプロラクタム6.0重量部(工程1のポリエチレンテレフタレートポリマーと原料ポリエステルAに由来する水酸基濃度の合計モル数に対して1.06倍モル当量に相当する量)、高級脂肪族アルコールリン酸エステル〔旭電化工業(株)社製、AX−71〕0.3重量部を添加し、重合体を再び1mmHgの減圧下に、280℃の温度で30分間だけ重縮合させ、固有粘度0.85dl/gのポリエステル系ブロックポリマーを製造した。これをノズルから押し出して切断し、円柱状チップ(直径約2.5mm、長さ約3.5mm)とした(工程3)。得られたポリエステル系ブロックポリマーは、結晶融解温度(MP1)が241℃であった。このポリエステル系ブロックポリマーの固有粘度、結晶融解温度は表4に示した。
【0058】
(2)上記(1)で得られたポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度、カルボキシル基濃度、分子量分布(GPC測定)、溶融混練前後の結晶融解温度変化、射出成形時における結晶融解温度変化を前述した方法で測定し、結果を表4に示した。
【0059】
[実施例2]
実施例1で用いた原料ポリエステルAの使用重量部を49.6重量部に替えた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系ブロックポリマーを得た。得られたポリエステル系ブロックポリマーは、結晶融解温度(MP1)が243℃であった。得られたポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度、カルボキシル基濃度、分子量分布(GPC測定)、溶融混練前後の結晶融解温度変化、射出成形時における結晶融解温度変化を前述した方法で測定し、結果を表4に示した。
【0060】
[実施例3]
実施例1で用いた原料ポリエステルAを原料ポリエステルBに替えた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系ブロックポリマーを得た。得られたポリエステル系ブロックポリマーは、結晶融解温度(MP1)が243℃であった。得られたポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度、カルボキシル基濃度、分子量分布(GPC測定)、溶融混練前後の結晶融解温度変化、射出成形時における結晶融解温度変化を前述した方法で測定し、結果を表4に示した。
【0061】
[実施例4]
実施例1で用いた原料ポリエステルAを原料ポリエステルCに替えた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル系ブロックポリマーを得た。得られたポリエステル系ブロックポリマーは、結晶融解温度(MP1)が238℃であった。得られたポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度、カルボキシル基濃度、分子量分布(GPC測定)、溶融混練前後の結晶融解温度変化、射出成形時における結晶融解温度変化を前述した方法で測定し、結果を表4に示した。
【0062】
【表4】
【0063】
[比較例1および2]
(1)N−ベンゾイルカプロラクタム、高級脂肪族アルコールリン酸エステルの使用量を変更して、実施例1と同様にしてポリエステル系ブロックポリマーを得た。使用したN−ベンゾイルカプロラクタム、高級脂肪族アルコールリン酸エステルの重量部は表5に示した。得られたポリエステル系ブロックポリマーの固有粘度、結晶融解温度(MP1)は表5に示した。
【0064】
(2)上記(1)で得られたポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度、カルボキシル基濃度、分子量分布(GPC測定)、溶融混練前後の結晶融解温度変化、射出成形時における結晶融解温度変化を前述した方法で測定し、結果を表5に示した。
【0065】
[比較例3〜5]
(1)N−ベンゾイルカプロラクタム、高級脂肪族アルコールリン酸エステルの使用量を変更して、実施例3と同様にしてポリエステル系ブロックポリマーを得た。使用したN−ベンゾイルカプロラクタム、高級脂肪族アルコールリン酸エステルの重量部は表5に示した。得られたポリエステル系ブロックポリマーの固有粘度、結晶融解温度(MP1)は表5に示した。
【0066】
(2)上記(1)で得られたポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度、カルボキシル基濃度、分子量分布(GPC測定)、溶融混練前後の結晶融解温度変化、射出成形時における結晶融解温度変化を前述した方法で測定し、結果を表5に示した。
【0067】
【表5】
【0068】
上記の表4の結果から、(1)ジカルボン酸単位およびジオール単位から主としてなり、(a)該ジカルボン酸単位の70モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であり、(b)該ジオール単位の70モル%以上が炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位であり、且つ固有粘度が0.4〜1.5dl/gの範囲であり、且つ少なくとも1種以上が結晶性ポリエステルである2種類以上の原料ポリエステルをエステル交換反応させてなるブロックポリマーであって、且つこのポリエステル系ブロックポリマーが、水酸基濃度が10μ当量/g以下であって、下記の式1および式2を満たすポリエステル系ブロックポリマーは、溶融混練における結晶融解温度変化、および射出成形時における結晶融解温度変化が極めて小さいことがわかる。
MP2−MP1≦50 (式1)
210≦MP1 (式2)
(式中、MP1はポリエステル系ブロックポリマーの結晶融解温度(℃)を表し、MP2は該ブロックポリマーを構成する原料ポリエステルのうち結晶融解温度の最も高い原料ポリエステルの結晶融解温度(℃)を表す。)
【0069】
これに対して、上記の表5の比較例1〜5の結果から、(1)ジカルボン酸単位およびジオール単位から主としてなり、(a)該ジカルボン酸単位の70モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であり、(b)該ジオール単位の70モル%以上が炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位であり、且つ固有粘度が0.4〜1.5dl/gの範囲であり、且つ少なくとも1種以上が結晶性ポリエステルである2種類以上の原料ポリエステルをエステル交換反応させてなるブロックポリマーであるが、このポリエステル系ブロックポリマーが、水酸基濃度が10μ当量/gを越えているか、前記の式1および式2を満たしていない、すなわち本発明の構成要件を満たしていないポリエステル系ブロックポリマーは、溶融混練における結晶融解温度変化、および射出成形時における結晶融解温度変化が極めて大きいことがわかる。
【0070】
【発明の効果】
本発明のポリエステル系ブロックポリマーは、互いに異なる近似した構成成分で構成される2種類以上の原料ポリエステルを適度にエステル交換反応させてなるポリエステル系ブロックポリマーであり、原料ポリエステル間の親和性が高いために均質性に優れ、原料ポリエステルの特性を良好に保持するという利点を有することに加え、成形性、特に加熱滞留安定性に優れている。
従って、射出成形に代表される溶融成形に供した際も、エステル交換反応によりブロック性が損なわれることがなく、安定した成形性と優れた機械的物性とを両立することができる。
Claims (8)
- 2種類以上の互いに異なる原料ポリエステルを、エステル交換反応させてなるポリエステル系ブロックポリマーであって、
(1)原料ポリエステルが、ジカルボン酸単位およびジオール単位から主としてなるポリエステルであり、
(a)該ジカルボン酸単位の70モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であり;(b)該ジオール単位の70モル%以上が炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位であり;
(c)固有粘度が0.4〜1.5dl/gの範囲であり;
(d)少なくとも1種以上が結晶性ポリエステル;であって、
(2)このポリエステル系ブロックポリマーが、
(e)水酸基濃度が10μ当量/g以下であって;
(f)下記の式1および式2を満たすこと
MP2−MP1≦50 (式1)
MP1≧210 (式2)
(式中、MP1はポリエステル系ブロックポリマーの結晶融解温度(℃)を表し、MP2は該ブロックポリマーを構成する原料ポリエステルのうち融点の最も高い原料ポリエステルの結晶融解温度(℃)を表す。);
を特徴とするポリエステル系ブロックポリマー。 - 分子量分布:Mw/Mn(重量平均分子量/数平均分子量)が、3.0以上である請求項1に記載のポリエステル系ブロックポリマー。
- カルボキシル基濃度が、20μ当量/g以下である請求項1または2に記載のポリエステル系ブロックポリマー。
- テレフタル酸単位およびエチレングリコール単位からなる原料ポリエステルと、テレフタル酸単位および1,4−ブタンジオール単位からなる原料ポリエステルとをエステル交換反応させてなる請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステル系ブロックポリマー。
- ジカルボン酸単位およびジオール単位から主としてなる原料ポリエステルが、
(a’)該ジカルボン酸単位の70モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であり;
(b’)該ジオール単位の70モル%以上が炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位であり;
(c’)固有粘度が0.4〜1.5dl/gの範囲であり;
(d’)少なくとも1種以上が結晶性ポリエステル;
である2種類以上の互いに異なる原料ポリエステルを、
(e’)エステル交換によって生成するポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度が10μ当量/g以下となる量の水酸基封鎖剤の存在下;
にエステル交換反応させることを特徴とするポリエステル系ブロックポリマーの製造方法。 - ジカルボン酸単位およびジオール単位から主としてなる原料ポリエステルが、
(a’)該ジカルボン酸単位の70モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位であり;
(b’)該ジオール単位の70モル%以上が炭素数2〜8の脂肪族または脂環式ジオール単位であり;
(c’)固有粘度が0.4〜1.5dl/gの範囲であり;
(d’)少なくとも1種以上が結晶性ポリエステル;
である2種類以上の互いに異なる原料ポリエステルを、
(e’)エステル交換によって生成するポリエステル系ブロックポリマーの水酸基濃度が10μ当量/g以下となる量の水酸基封鎖剤;および
(f’)原料ポリエステルの合計重量に対して0.001〜1.0%のリン化合物の存在下;
にエステル交換反応させることを特徴とするポリエステル系ブロックポリマーの製造方法。 - 原料ポリエステルのうち少なくとも1種が、シュウ酸チタンカリウム触媒を用いて製造されたことを特徴とする請求項5または6に記載のポリエステル系ブロックポリマーの製造方法。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリエステル系ブロックポリマーからなる成形品。
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