JP3613069B2 - 周波数選択性電波遮蔽体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電波遮蔽体に関するもので、特に特定波長の電波を選択的に遮蔽する電波遮蔽体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、事業所内PHSや無線LANの利用が広がりを見せるなか、情報の漏洩防止や外部からの侵入電波による誤動作やノイズ防止といった点から、オフィス内での電波環境を整えることが不可欠になっており、そのような電波環境の整備用部材として、既に種々のタイプのものが提案されている。
【0003】
例えば、特公平6−99972号公報には、金属やフェライトなどの電磁シ−ルド部材をビルの躯体に付加することで、広い周波数帯域で任意の周波数の電波を使って情報通信が出来る電磁シ−ルド・インテルジェントビルを提供することが述べられている。
【0004】
しかし、このような鉄板、金属網、金属メッシュ、金属箔などの電波反射体やフェライトなどの電波吸収体を電磁シ−ルド部材として用いたものでは、それらの電磁シ−ルド性に周波数選択性が無いため、遮蔽しようとする周波数以外の電波まで遮蔽してしまう。
【0005】
また前記電波反射体はテレビ電波を反射し、受信障害(ゴ−ストの発生)の原因となるため用いることが出来る箇所が制限される。さらに、電磁シ−ルド部材間の隙間によってシ−ルド性能が大きく低下するため、個々の部材が持つシ−ルド性能を十分発揮させるには、部材間の接続や接地など施工面での厳密性が要求される。
【0006】
特開平10−169039号公報は、このような問題点を解消するもので、線状のアンテナ素子を定期的に配列させることで遮蔽しようとする特定周波数の電波のみを遮蔽し、部材間の接続や接地も必要ないという優れたものである。しかし、その遮蔽は反射損失によるものが大部分であるため、オフィス内部において反射電波による画面の揺らぎや誤動作などが起こる場合があるのが問題である。
【0007】
特開平9−162589号公報や特開平5−335832号公報の発明は、共にこのようなオフィス内部における電波反射に起因する問題を解消するもの、即ち特定周波数の電波を選択的に吸収するものであり、特開平9−162589号公報の発明は、導電体より大きく絶縁体より小さい電気抵抗値を持つエレメントを配列させて特定周波数(以上)の電波を吸収するもの、特開平5−335832号公報の発明は、抵抗皮膜と電波反射体とを誘電体(厚さがこの誘電体内における電波波長の4分の1)を挟んで配置し特定周波数の電波のみを選択的に吸収する、いわゆるλ/4型電波吸収体に関するものである。
【0008】
しかし、これらの電波吸収体にもそれぞれ以下に述べるような欠点がある。即ち前者は電波の照射によってエレメント内を流れる交流電流の抵抗損失によるものであるため、微小な体積のエレメントでは、遮蔽しようとする周波数の電波においても実際的には透過が多くなり吸収可能な電波量は僅少になる。
【0009】
また後者は吸収量が前者に比して大きく、周波数選択性にも優れるが、誘電体の裏側を金属箔や金属網などの電波反射体で裏打ちするため、遮蔽しようとする周波数以外の電波は反射してしまう。即ちその周波数選択性は抵抗皮膜側から到来する電波の反射成分に対してのみのものである。
【0010】
さらに反射体側から到来する電波に対しては周波数に関係なく反射してしまい、上述したテレビ電波受信障害の原因となる可能性がある。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記ような従来の電波遮蔽体が持つ不都合を解消することを目的としたものである。
【0012】
即ち、電波遮蔽体間の接続や接地の必要がない施工性に優れた電波遮蔽体であり、この電波遮蔽体を用いて電波遮蔽室を形成した場合に、室内での専用通信(事業所PHSや無線LANなど)に使用する電波の室内での反射や室外からの侵入に起因する画面の揺らぎや誤動作などが起こらず、また上記以外の電波は双方向に透過して外部との通信や公共放送の受信が可能になったり、テレビ電波の受信障害の源となることもないような電波遮蔽体を提供することを目的としたものである。
【0013】
つまり、特定電波のうち、一方から入射するものを反射し、他方から入射するものを吸収するとともにそれ以外の電波はどちらから入射する場合も透過することを特徴とする電波遮蔽体が望まれていた。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記の目的を達成するためのものであって、請求項1記載の発明は、抵抗体皮膜と、波長λの電波に対し、開放端を持ち、開放端間の長さが該波長λの約2分の1であるである金属線素子が配設された電波反射面とを、該電波波長λの約4分の1(但し、該電波波長は誘電体中での波長)の厚さを持つ誘電体を挟んで配置されてなることを特徴とする周波数選択性電波遮蔽体を提供するものである。
【0015】
請求項2記載の発明は、抵抗体皮膜と、波長λの電波に対し、環状でその周囲の長さが該波長と等しい金属線素子が配設された電波反射面とを、該電波波長λの約4分の1(但し、該電波波長は誘電体中での波長)の厚さを持つ誘電体を挟んで配置されてなることを特徴とする周波数選択性電波遮蔽体を提供するものである。
【0016】
請求項3記載の発明は、前記抵抗体皮膜が、その表面での電波の反射が10%以下であるようなインピ−ダンスを持つことを特徴とする請求項1または2に記載の周波数選択性電波遮蔽体を提供するものである。
【0019】
なお、本発明でいう電波は、3000GHz以下の電磁波を示す。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の周波数選択性電波遮蔽体の断面図の一例を示したものであり、電波遮蔽体10は、抵抗体皮膜11、誘電体12、金属線素子13を配設した電波反射面14からなる。また図中の矢印A、Bはそれぞれ電波の到来方向を表したものである。
【0021】
ここで抵抗体皮膜11は、金属箔、金属網や金属、金属酸化物、金属窒化物あるいはその混合物の蒸着膜、スパッタリング膜、CVD膜(CVD:化学的蒸着)あるいはその積層体、炭素粒子などの抵抗体粒子をゴムや高分子樹脂中に分散させた複合型抵抗体など、その形態や製造方法、厚さなどに本質的な限定を受けるものではないが、A方向から到来する遮蔽しようとする電波を十分吸収するため、その表面での反射を約10%程度に抑えるようなインピ−ダンスを持つことが要求される。
【0022】
一般に、電波がある媒体A中から他の媒体Bへ入射する場合、A/B界面での電波の反射係数Sabは(式1)で表される。(図9参照)
【0023】
【式1】
【0024】
ここで媒体BがZB ≒0の導体であった場合、A/B界面での電波の反射係数Sabがほぼ−1となって電波はA/B界面で完全に反射され、媒体A中に大きな定在波が立つ。この時媒体A中での負荷インピ−ダンスZの値は、(式2)で表されるように界面(X=0)で0であり、X=λ/4(λは電波の波長)の所で無限大∞になる。
【0025】
【式2】
【0026】
このX=λ/4の位置にインピ−ダンスRの抵抗体皮膜を置くと、この位置での負荷インピ−ダンスはRと∞との並列合成であるのでほぼRとなり、この位置での反射係数は(式3)で表される値になる。
【0027】
【式3】
【0028】
即ち抵抗体皮膜のインピ−ダンスRが、媒体A中での電波特性インピ−ダンスZA に完全に等しければ反射係数は0となるが、RもZA も周波数によって変化し、完全に一致させることは困難である。そこで実際上問題がない電波遮蔽体を得るには、Rが反射係数を10%以下にするようなものである必要がある。
【0029】
ここで媒体Aが空気や真空であればZA は自由空間の電波特性インピ−ダンス(≒377Ω)となり、図2に図示したように、ガラスや有機高分子などの支持体もしくは保護材15が電波の到来方向にある場合にはその内部での電波特性インピ−ダンスとなる。
【0030】
誘電体12は真空、空気、その他のガス、ガラス、セラミックス、有機高分子などその材質に本質的な制限を受けるものではないが、その厚さは上述した理由から、遮蔽したい周波数の電波の波長λに対して、ほぼλ/4であることが必要である。
【0031】
電波反射面14は、金属線素子13を誘電体12の表面に直接設けたものでも良いが、他の高分子フィルムやガラス、セラミックス、紙などの上に金属線素子を設けたものでも、その金属線素子側を誘電体12側に配置したものであれば良い。
【0032】
電波が到来している場所に、接地されていない金属棒や金属ワイヤ−などの導体を置いた場合、一部の電波は吸収され、他は導体中を流れる交番電流が作る電磁界との相互作用によって反射される。この時電波の吸収量と反射量との比(吸収量/反射量)は導体のインピ−ダンスによって変わり、インピ−ダンスがほぼ0であればその比もほぼ0となる。
【0033】
またこの吸収や反射は直接導体の表面に入射する電波に対してだけでなく、その導体周囲の電波に対しても起こる。但し、導体から離れれば離れる程、吸収や反射量は少なくなる。導体と電波の吸収、反射などの相互作用は導体と電波が共鳴する場合に大きくなる。
【0034】
即ち図3から図5のように開放端を持つ線状形状の導体を配列した面では、導体の開放端間の長さが電波波長の2分の1の場合に共鳴し、相互作用が大きくなってこの面で殆ど反射する。言い換えるとこの長さの導体と共鳴しない波長(周波数)の電波にとってはこの面は反射面とはならずにその大部分が透過する。
【0035】
図3のような直線形状の場合にはその長さが電波波長の2分の1になり、図4や図5のように枝分かれを持つ形状では中心点から開放端までの距離が電波波長の4分の1となる。
【0036】
また図6から図8のような環状の導体を配した場合には、環状導体の周囲長が電波波長とほぼ等しい場合に共鳴し、この配列面が特定周波数の電波に対する反射面となる。
【0037】
本発明は、以上に述べたような線状導体の持つ性質を利用したもので、遮蔽しようとする周波数の電波(但し、その波長は誘電体中での波長)と共鳴するような長さの金属線素子を配列することで電波反射面としたものである。
【0038】
このような電波反射面の反射性能は、実際にはあるインピ−ダンスを持つ個々の金属線素子中を流れる交番電流の大きさによって決まるため、その線幅や厚さは大きい程、個々の金属線素子間の間隔は小さい程良くなる。しかし同時に、遮蔽しようとする周波数の電波以外の(周波数が赤外光以上のものを含む)電波の金属線素子表面における反射も大きくなるため周波数選択性が悪くなる。
【0039】
そこで実用上は、遮蔽しようとする周波数の電波に対する反射性能と周波数選択性を考慮して、金属線素子の線幅、厚さ、個々の金属線素子間の間隔が決定される。
【0040】
ここでは図3から図8まで、6種類の金属線素子を図示したが、金属線素子の形状がこれらに限定されるものでないことは、前記の説明で明らかである。
【0041】
なお、本発明の電波遮蔽体を用いて電波遮蔽室などを作る場合、電波反射面として個々に独立した金属線素子の配列面を用いているため、電波遮蔽体同士の接続や接地は必要ない。このことは施工性を極めて簡便にするもので本発明の電波遮蔽体の大きな利点である。
【0042】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、電波遮蔽体間の接続や接地の必要がない施工性に優れた電波遮蔽体を供給できる。
【0043】
また、本発明の電波遮蔽体は、遮蔽しようとする周波数の電波のうち、抵抗体皮膜側から到来するものは吸収、電波反射面側から到来するものは反射し、さらにその他の周波数の電波(電波)は双方向に透過させるという性質を有しているため、本発明の電波遮蔽体を用いて電波遮蔽室を形成すると、室内での専用通信(事業所PHSや無線LANなど)に使用する電波の室内での反射や室外からの侵入に起因する画面の揺らぎや誤動作などの発生が防止できるとともに、外部との通信や公共放送の受信、外部でのテレビ電波受信障害の発生源となることの防止、などが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる周波数選択性を有する電波遮蔽体の実施の形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係わる周波数選択性を有する電波遮蔽体の他の実施の形態を示す断面図である。
【図3】本発明に係わる周波数選択性を有する電波遮蔽体の電波反射面(金属素子配列面)を示す図である。
【図4】本発明に係わる周波数選択性を有する電波遮蔽体の他の電波反射面(金属素子配列面)を示す平面図である。
【図5】本発明に係わる周波数選択性を有する電波遮蔽体の他の電波反射面(金属素子配列面)を示す平面図である。
【図6】本発明に係わる周波数選択性を有する電波遮蔽体の他の電波反射面(金属素子配列面)を示す平面図である。
【図7】本発明に係わる周波数選択性を有する電波遮蔽体の他の電波反射面(金属素子配列面)を示す平面図である。
【図8】本発明に係わる周波数選択性を有する電波遮蔽体の他の電波反射面(金属素子配列面)を示す平面図である。
【符号の説明】
10…電波遮蔽体
11…抵抗体皮膜
12…誘電体
13…金属線素子
14…金属線素子を配設した電波反射面
15…抵抗体皮膜の支持体または保護材
Claims (3)
- 抵抗体皮膜と、波長λの電波に対し、開放端を持ち、開放端間の長さが該波長λの約2分の1であるである金属線素子が配設された電波反射面とを、該電波波長λの約4分の1(但し、該電波波長は誘電体中での波長)の厚さを持つ誘電体を挟んで配置されてなることを特徴とする周波数選択性電波遮蔽体。
- 抵抗体皮膜と、波長λの電波に対し、環状でその周囲の長さが該波長と等しい金属線素子が配設された電波反射面とを、該電波波長λの約4分の1(但し、該電波波長は誘電体中での波長)の厚さを持つ誘電体を挟んで配置されてなることを特徴とする周波数選択性電波遮蔽体。
- 前記抵抗体皮膜が、その表面での電波の反射が10%以下であるようなインピ−ダンスを持つことを特徴とする請求項1または2に記載の周波数選択性電波遮蔽体。
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