JP3602960B2 - 金属板貼合せ成形加工用ポリエステルフィルム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は金属板貼合せ成形加工用ポリエステルフィルムに関し、更に詳しくは金属板と貼合せて絞り加工などの製缶加工をする際優れた成形加工性を示し、かつ耐熱性、耐レトルト性、保味保香性、耐衝撃性などに優れた金属缶、例えば飲料缶、食品缶などを製造し得る金属板貼合せ成形加工用ポリエステルフィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
金属缶には内外面の腐蝕防止として一般に塗装が施されているが、最近、工程簡素化、衛生性向上、公害防止などの目的で、有機溶剤を使用せずに防錆性を得る方法の開発が進められ、その一つとして熱可塑性フィルムによる被覆が試みられている。
【0003】
すなわち、ブリキ、ティンフリースチール、アルミニウム等の金属板に熱可塑性樹脂フィルムをラミネートした後、絞り加工等により製缶する方法の検討が進められている。
【0004】
この熱可塑性樹脂フィルムとしては、成形加工性、耐熱性、耐衝撃性、保味保香性などの点で、共重合ポリエステルフィルムが適していることが次第に明らかになりつつある。しかしながら、このポリエステルフィルムは緑茶類など極めて微妙な味わいが重要な飲料、さらには無味無臭が要求されるミネラルウォーターを内容物とした場合、必ずしも十分な保味保香性を示さず、臭気や味に対する変化が感知される。
【0005】
これに対し、特開平6−116376号では、特定量のアルカリ金属元素とゲルマニウム元素を含有する共重合ポリエステルからなる、フレーバー性を向上せしめた金属板成形加工用ポリエステルフィルムが提案されている。しかし、このフィルムを用いた場合、コールドパックシステムのような内容物をつめた段階で熱のかからない工程では優れた保味保香性を示すが、レトルト処理のような内容物をつめた段階で熱処理が行われる工程においては、必ずしも十分な保味保香性が得られない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点を解消し、共重合ポリエステルフィルムが持っている優れた耐熱性、耐衝撃性、耐レトルト性を保持しながら、成形加工性に優れ、保味保香性、特にレトルト処理後の保味保香性を改善した金属板貼合せ成形加工用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ある特定の融点を有する共重合ポリエチレンテレフタレートを用い、特定のガラス転移温度、動的粘弾性を有すると共に、特定の真球状単分散の滑剤を含有するフィルムとすれば、優れた成形加工性を保持しながら、保味保香性、特にレトルト処理後の保味保香性が顕著に改善できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、融点が210〜245℃である2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合ポリエチレンテレフタレートからなる二軸延伸フィルムであって、フィルムの損失弾性率の最高温ピーク温度(Te)と、DSC測定においてガラス転移温度(Tg)が下記式(1)および下記式(2)を満足し、フィルムをイオン交換水で121℃、2時間抽出処理したときの抽出量が0.5mg/inch 2 以下、かつ平均粒径が2.5μm以下であり粒径比(長径/短径)が1.0〜1.2である真球状単分散の滑剤を含有することを特徴とする金属板貼合せ成形加工用ポリエステルフィルムである。
【0009】
【数3】
83≧Tg≧78 (1)
Te−Tg≦30 … (2)
(ここで、Tgは290℃加熱溶融−急冷後のDSC測定におけるガラス転移温度(℃)、Teはフィルムの損失弾性率の最高温ピーク温度(℃)である。)
【0011】
さらに、滑剤の好ましい態様としては以下の構成が挙げられる。
(a)滑剤が真球状シリカである。
(b)滑剤の平均粒径が0.05〜0.6μmであり、かつ含有量(C;重量%)が下記式(3)を満足する範囲にある。
【0012】
【数4】
0.0072d−0.65≦C≦0.80d−0.44 … (3)
(ここで、dは、滑剤の平均粒径(μm)である。)
(c)滑剤が、平均粒径(dA)0.05〜0.6μmの滑剤Aと、平均粒径(dB)0.3〜2.5μmの滑剤Bとからなり、滑剤Aの平均粒径と滑剤Bの平均粒径の比(dB/dA)が2.5以上であり、滑剤Aの含有量が0.01〜0.3重量%、かつ滑剤Bの含有量が0.001〜0.2重量%である。
【0013】
本発明においては、種々の共重合ポリエステルのなかでも、優れた耐熱性、耐衝撃性、耐レトルト性を保持しながら、保味保香性、特にレトルト処理後の保味保香性を改善することができることから、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とする共重合ポリエステル、すなわち共重合ポリエチレンテレフタレート(以下共重合PETと略することがある)を使用する。
【0014】
本発明における共重合PETは、主たるジカルボン酸成分としてテレフタル酸、および主たるグリコール成分としてエチレングリコールからなる実質的に線状となる共重合ポリエステルである。
【0015】
本発明において、共重合PETの共重合成分としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸である。
【0016】
2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合ポリエチレンテレフタレートは、2,6−ナフタレンジカルボン酸以外にさらに共重合成分を使用してもよく、このジカルボン酸成分としてはイソフタル酸、フタル酸等の如き芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸等が例示でき、またジオール成分としては1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等の如き脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオール、ビスフェノールAの如き芳香族ジオールが例示できる。これらは単独または二種以上を使用することができる。
【0017】
共重合成分の割合は、その種類にもよるが、結果としてポリマー融点が210〜245℃、好ましくは215〜240℃の範囲になる割合である。融点が210℃未満では耐熱性が劣ることになる。一方、融点が245℃を超えると、ポリマーの結晶性が大きすぎて成形加工性が損なわれる。
【0018】
ここで、共重合PETの融点測定は、Du Pont Instruments 910 DSCを用い、昇温速度20℃/分で融解ピークを求める方法による。なおサンプル量は20mgとする。
【0019】
さらに、本発明で用いる共重合PETの固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)は0.52〜1.50であることが好ましく、さらに好ましくは0.57〜1.00、特に好ましくは0.60〜0.80である。この固有粘度が0.52未満の場合には耐衝撃性が不足することがあり好ましくない。他方、固有粘度が1.50を超える場合には、成形加工性が損なわれることがある。
【0020】
本発明における共重合PETは、その製法により限定されることはないが、テレフタル酸、エチレングリコールおよび共重合成分をエステル化反応させ、ついで得られた反応生成物を目的とする重合度になるまで重縮合反応させて共重合PETとする方法、あるいはテレフタル酸ジメチルエステル、エチレングリコールおよび共重合成分をエステル交換反応させ、ついで得られた反応生成物を目的とする重合度になるまで重縮合反応させて共重合PETとする方法を好ましく挙げることができる。また、上記の方法(溶融重合)により得られた共重合PETは、必要に応じて固相状態での重合方法(固相重合)により、さらに重合度の高いポリマーとすることができる。
【0021】
前記共重合PETには必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、粘度調整剤、可塑剤、色相改良剤、滑剤、核剤、紫外線吸収剤などの添加剤を加えることができる。
【0022】
前記重縮合反応に使用する触媒としては、アンチモン化合物(Sb化合物)、チタン化合物(Ti化合物)、ゲルマニウム化合物(Ge化合物)などが好ましく挙げられ、これらの中、チタン化合物、ゲルマニウム化合物はフィルムの保味保香性の点でさらに好ましい。チタン化合物としては、例えばチタンテトラブトキシド、酢酸チタンなどが好ましく挙げられる。また、ゲルマニウム化合物としては、(イ)無定形酸化ゲルマニウム、(ロ)微細な結晶性酸化ゲルマニウム、(ハ)酸化ゲルマニウムをアルカリ金属またはアルカリ土類金属もしくはそれらの化合物の存在下にグリコールに溶解した溶液、(ニ)酸化ゲルマニウムを水に溶解した溶液などが好ましく挙げられる。さらに、アンチモン化合物および/またはチタン化合物と組み合わせて使用すると、保味保香性の改善と共に、製造コストを低減することもできるので好ましい。
【0023】
本発明のポリエステルフィルムは、二軸延伸、熱固定した状態で使用される。
このとき、ポリエステルフィルムの損失弾性率の最高温ピーク温度(Te)と、DSC測定におけるガラス転移温度(Tg)は下記式(1)および下記式(2)を満足する必要がある。
【0024】
【数5】
83≧Tg≧78 (1)
Te−Tg≦30 … (2)
(ここで、Tgは290℃加熱溶融−急冷後のDSC測定におけるガラス転移温度(℃)、Teはフィルムの損失弾性率の最高温ピーク温度(℃)である。)
【0025】
フィルムのTgが78℃未満であると、耐熱性が劣るようになりレトルト後の保味保香性が悪化する。このため、共重合PETの共重合成分としては、少なくとも1成分に、共重合成分の割合を増加させたときにガラス転移温度が変化しないか、もしくは上昇するような成分を用いることが好ましい。共重合成分の割合を増加させたときにガラス転移温度を上昇させるような成分としては、ジカルボン酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸が、ジオール成分としては1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましく例示できる。
【0026】
ここで、ポリエステルのTgは、DSC測定用パンに20mgのフィルムサンプルを入れ、290℃加熱ステージ上で5分間加熱溶融後、すばやく試料パンを氷の上に敷いたアルミ箔上で急冷固化し、Du Pont Instruments 910 DSCを用い、昇温速度20℃/分でガラス転移点を求める方法による。
【0027】
さらに、Te−Tgの値が30を超えると、フィルムの分子配向性や結晶性が高くなりすぎるために成形加工性が著しく低下する。Teの値は共重合成分および共重合量にもよるが、製膜条件により、特に二軸延伸の倍率、延伸温度、熱固定温度で調整する方法が好ましく挙げられる。
【0028】
ここで、Teは動的粘弾性測定装置を用いて測定周波数10Hz、動的変位±25×10−4cmにて求められる。
【0029】
本発明のフィルムは、平均粒径が2.5μmであり、粒径比(長径/短径)が1.0〜1.2である真球状単分散の滑剤を含有する。この滑剤は無機、有機の如何を問わないが、無機系が好ましい。
【0030】
無機系滑剤としては、真球状シリカ、真球状酸化チタン、真球状ジルコニウムなどが例示でき、有機系滑剤としては、真球状シリコーン粒子などが例示できる。これらの中、真球状シリカが好ましい。
これらの滑剤は単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0031】
本発明のフィルムに含有される滑剤は、平均粒径が2.5μm以下であって、粒径比(長径/短径)が1.0〜1.2である真球状単分散であることを要する。滑剤の平均粒径が2.5μmを超えると、深絞り成形加工などにより変形した部分において、滑剤粒子が起点となり、ピンホールを生じたり、場合によっては破断が生じるので不適当である。
【0032】
また、真球状単分散でない一般の滑剤を用いた場合には、滑剤の平均粒径が2.5μmであっても、個々の粒径に分布があり、2.5μmを超える粗大粒子を含むため、上記と同様にピンホールや破断を生じるので不適当である。
【0033】
ここで、真球状単分散の滑剤の平均粒径及び粒径比は、先ず粒子表面に金属を蒸着してのち電子顕微鏡にて例えば1万〜3万倍に拡大した像から、長径、短径及び面積円相当径を求め、次いでこれらを次式にあてはめることによって、算出される。
【0034】
【数6】
平均粒径=測定粒子の面積円相当径の総和/測定粒子の数
粒径比=粒子の平均長径/該粒子の平均短径
【0035】
また、球状滑剤粒子は粒径分布がシャープであることが好ましく、分布の急峻度を表わす相対標準偏差が0.5以下、更には0.3以下であることが好ましい。
この相対標準偏差は次式で表わされる。
【0036】
【数7】
【0037】
真球状単分散滑剤の添加量は、フィルム製造工程の取扱い性(巻取り性)、製缶時の深絞り加工性などに応じて決めればよい。一般に粒径の大きい滑剤は少量、粒径の小さい滑剤は多量添加するのが好ましい。例えば、平均粒径が2.3μmの真球状シリカの場合は、0.1重量%程度添加するのが好ましい。
【0038】
また、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の滑剤を併用してもよい。
さらに、本発明で用いる真球状単分散滑剤は、平均粒径が0.05〜0.6μm、さらに0.08〜0.5μm、特に0.1〜0.4μmであり、かつ、含有量(C;重量%)が下記式(3)を満足する範囲にあることが好ましい。
【0039】
【数8】
0.0072d−0.65≦C≦0.80d−0.44 … (3)
(ここで、dは、滑剤の平均粒径(μm)である。)
【0040】
滑剤の平均粒径が小さすぎる場合、あるいは含有量(C)が少なすぎる場合は、フィルムの滑り性が不足し、フィルム製造工程での取扱い性が低下し、他方滑剤の平均粒径が大きすぎる場合、あるいは含有量Cが多すぎる場合は、製缶時の深絞り加工においてピンホールやフィルム破断が生じ易くなる。
【0041】
また、本発明で用いる真球状単分散滑剤は、平均粒径(dA)0.05〜0.6μmの滑剤Aと、平均粒径(dB)0.3〜2.5μmの滑剤Bとからなり、滑剤Aの平均粒径と滑剤Bの平均粒径の比(dB/dA)が2.5以上であり、滑剤Aの含有量が0.01〜0.3重量%、かつ滑剤Bの含有量が0.001〜0.2重量%であることが好ましい。
【0042】
滑剤Aの平均粒径(dA)が0.05μm未満では、滑り性の向上効果が不十分であり、フィルム製造工程において巻取り性が悪くなる。また、この平均粒径(dA)が0.6μmを超える場合は、深絞り製缶等の加工により変形した部分に、粗大粒子(例えば10μm以上の粒子)が起点となり、ピンホールを生じたり、場合によっては破断が生じることがある。
【0043】
滑剤Aの含有量が0.01重量%未満では滑り性の向上効果が不十分であり、一方、3重量%を超えるとフィルムの破断が多発することがある。
【0044】
滑剤Aは、平均粒径(dA)0.08〜0.5μm、特に0.1〜0.4μmで、含有量0.1〜1.0重量%、特に0.2〜0.5重量%であることがさらに好ましい。
【0045】
また、滑剤Bの平均粒径(dB)が0.3μm未満では、滑り性を更に向上させることができず、一方2.5μmを超えると、深絞り加工により変形した場合、粒子の脱落が生じ、ピンホールが生じたり、フィルムが破断したりして、耐削れ性が悪化することがある。
【0046】
また、滑剤Bの含有量が0.001重量%未満では小粒子滑剤のみの場合と滑り性が変らず、0.2重量%を超えると耐削れ性が悪化することがある。
【0047】
滑剤Bは、平均粒径(dB)0.5〜2.0μm、特に0.6〜1.8μmで、含有量0.002〜0.1重量%、特に0.005〜0.05重量%であることがさらに好ましい。
【0048】
さらに、滑剤Aの平均粒径と滑剤Bの平均粒径比(dB/dA)が2.5未満では滑剤B添加による滑り性向上効果が発現しないことがある。
この平均粒径比(dB/dA)は、3.0以上がさらに好ましい。
【0049】
共重合PETフィルムに滑剤を含有させる手段としては、従来から知られている手段を用いることができ特に限定されないが、共重合PETの製造時に滑剤を添加する方法が好ましい。
【0050】
本発明のフィルムの表面粗さ(Ra)は、フィルムの巻取り性、保味保香性の点で15nm以下、特に4〜15nmとするのが好ましい。
【0051】
なお、フィルムの表面粗さ(Ra)は、JIS−B0601に準じて求めた中心線平均粗さであり、フィルム表面粗さ曲線からその中心線の方向に測定長さLの部分を抜き取り、この抜き取り部分の中心線をX軸とし、縦倍率の方向をY軸として、粗さ曲線Y=f(x)で表わしたとき、次の式で与えられる値(Ra;nm)をフィルム表面粗さとして定義する。
【0052】
【数9】
【0053】
本発明においては、基準長を2.5mmとして5個測定し、値の大きい方から1個を除いた4個の平均値としてRaを表わす。
【0054】
本発明のポリエステルフィルムは、特に食品缶または飲料缶に用いられるものであるから、該フィルムより溶出あるいは飛散する物質が少ないほど良いが、それらの物質を全くなくすことは実質的に不可能である。そこで、食品缶または飲料缶用途に使用するためには、例えばイオン交換水で121℃、2時間抽出したときのフィルム1平方インチ当りの抽出量が0.5mg以下である必要があり、0.1mg以下であることが更に好ましい。
【0055】
上記抽出量を少なくするには、フィルムのガラス転移温度を高くすればよい。
フィルムのガラス転移温度は該フィルムを構成するポリマーのガラス転移温度と配向度によって決まるが、配向度を上げると成形加工性が悪化するので、ポリマー(共重合PET)のガラス転移温度を高くするのが好ましい。
【0056】
また、フィルムの厚さ方向の屈折率は1.500〜1.540であることが好ましく、1.505〜1.530であることが更に好ましい。この屈折率が低すぎると成形加工性が不十分となり、一方高すぎると非晶に近い構造となるため、耐熱性が低下することがある。
【0057】
ここで、フィルムの厚さ方向の屈折率は、アッベの屈折計の接眼側に偏光板アナライザーを取り付け、単色光NaD線で測定する。マウント液は、ヨウ化メチレンを用い、測定温度は25℃である。
【0058】
本発明のフィルムは、好ましくは厚みが6〜75μmである。更に8〜75μm、特に10〜50μmであることが好ましい。厚みが6μm未満では加工時に破れなどが生じやすくなり、一方75μmを超えるものは過剰品質であって不経済である。
【0059】
本発明のフィルムが貼合せられる金属板、特に製缶用金属板としては、ブリキ、ティンフリースチール、アルミニウム等の板が適切である。金属板へのポリエステルフィルムの貼合せは、例えば下記▲1▼、▲2▼の方法で行うことができる。
▲1▼ 金属板をフィルムの融点以上に加熱しておいてフィルムを貼合せた後冷却し、金属板に接するフィルムの表層部(薄層部)を非晶化して密着させる。
▲2▼ フィルムに予め接着剤層をプライマーコートしておき、この面と金属板を貼合せる。接着剤層としては公知の樹脂接着剤、例えばエポキシ系接着剤、エポキシ−エステル系接着剤、アルキッド系接着剤等を用いることができる。
【0060】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に説明する。なお、フィルムの特性は下記の方法で測定した。
(1)ポリエステルの固有粘度
オルトクロロフェノール中、35℃で測定する。
【0061】
(2)ポリエステルの融点
Du Pont Instruments 910 DSCを用い、昇温速度20℃/分で融解ピークを求める方法による。なおサンプル量は20mgとする。
【0062】
(3)ポリエステルのガラス転移温度(Tg)
DSC測定用パンに20mgのフィルムサンプルを入れ、290℃加熱ステージ上で5分間加熱溶融後、すばやく試料パンを氷の上に敷いたアルミ箔上で急冷固化し、Du Pont Instruments 910 DSCを用い、昇温速度20℃/分でガラス転移点を求める方法による。
【0063】
(4)フィルムの損失弾性率の最高温ピーク温度(Te)
動的粘弾性測定装置を用いて測定周波数10Hz、動的変位±25×10−4cmにて損失弾性率を求め、このときの最高温ピーク温度をもって示す。
【0064】
(5)粒子の平均粒径
公知の方法でフィルムサンプルから内部析出粒子を分離し、個々の粒子ができるだけ重ならないように散在させ、金スパッタ装置によりこの表面に金属蒸着膜を20〜30nmで形成させ、操作型電子顕微鏡で1万〜3万倍で観察し、日本レギュレーター(株)製ルーゼックス500にて画像処理し、100個の粒子から平均粒径を求める。
【0065】
(6)巻取り性
フィルム製造工程で、フィルムをロール状に巻き取る際、滑り不良によって発生するロール表面の小突起を観察し、下記の基準で評価した。
◎:小突起は全く認められない。
○:多少小突起が認められるが、取扱い上特に問題はない。
×:小突起が多数発生し、取扱い性が悪化する。
【0066】
(7)深絞り加工性
フィルムをポリエステルの融点以上に加熱した板圧0.25mmのティンフリースチールの両面に貼合せ、水冷した後150mm径の円板状に切り取り、絞りダイスとポンチを用いて4段階で深絞り加工し、55mm径の側面無継目容器(以下、缶と略す)を作成した。この缶について以下の観察および試験を行い、各々下記の基準で評価した。
▲1▼深絞り加工性−1
○:フィルムに異常なく加工されたフィルムに白化や破断が認められない。
△:フィルムの缶上部に白化認められる。
×:フィルムの一部にフィルム破断が認められる。
▲2▼深絞り加工性−2
○:異常なく加工され、缶内フィルム面の防錆性試験(1%NaCl水溶液を缶内に入れ、電極を挿入し、缶体を陽極にして6Vの電圧をかけた時の電流値を測定する。以下、ERV試験と略す)において0.2mA以下を示す。
×:フィルムに異常はないが、ERV試験では電流値が0.2mAを超えており、通電箇所を拡大観察するとフィルムの粗大滑剤を起点としたピンホール状の割れが認められる。
【0067】
(8)耐衝撃性
深絞り成形が良好な缶について、水を満注し、0℃に冷却した後、各テストにつき10個ずつを高さ30cmから塩ビタイル床面に落とした後、缶内のERV試験を行った結果、
○:全10個について0.2mA以下であった。
△:1〜5個について0.2mAを超えていた。
×:6個以上について0.2mAを超えているか、あるいは落下後既にフィルムのひび割れが認められた。
【0068】
(9)耐熱脆化性
深絞りが良好であった缶を200℃×5分間加熱保持した後、前述の耐衝撃性評価を行った結果、
○:全10個について0.2mA以下であった。
△:1〜5個について0.2mAを超えていた。
×:6個以上について0.2mAを超えているか、あるいは200℃×5分間加熱後既にフィルムのひび割れが認められた。
【0069】
(10)耐レトルト性
深絞り成形が良好な缶について、水を満注し、蒸気滅菌器で120℃、1時間レトルト処理を行い、しかる後、50℃で30日間保存した。得られた缶を各テストにつき10個ずつ高さ50cmから塩ビタイル床面に落とした後、缶内のERV試験を行った。
○:全10個について0.2mA以下であった。
△:1〜5個について0.2mAを超えていた。
×:6個以上について0.2mAを超えているか、あるいは落下後既にフィルムのひび割れが認められた。
【0070】
(11)保味保香性−1
深絞り成形が良好な缶について、イオン交換水を充填し、常温下(20℃)30日間保管する。その浸漬液を用いて30人のパネラーにて試飲テストを行い、比較用のイオン交換水と比較し、下記基準で評価した。
◎:30人中3人以下が比較液と比べて味、香りの変化を感じた。
〇:30人中4人〜6人が比較液と比べて味、香りの変化を感じた。
△:30人中7人〜9人が比較液と比べて味、香りの変化を感じた。
×:30人中10人以上が比較液と比べて味、香りの変化を感じた。
【0071】
(12)保味保香性−2
深絞り成形が良好な缶について、イオン交換水を充填し、蒸気滅菌器で120℃、1時間レトルト処理を行い、しかる後、常温下(20℃)30日間保管する。その浸漬液を用いて30人のパネラーにて試飲テストを行い、比較用のイオン交換水と比較し、下記基準で評価した。
◎:30人中3人以下が比較液と比べて味、香りの変化を感じた。
〇:30人中4人〜6人が比較液と比べて味、香りの変化を感じた。
△:30人中7人〜9人が比較液と比べて味、香りの変化を感じた。
×:30人中10人以上が比較液と比べて味、香りの変化を感じた。
【0072】
[実施例1〜3,5、比較例1〜2および参考例1]
表1に示す共重合成分を共重合した共重合PET(固有粘度0.64で、平均粒径1.8μm、粒径比1.09、相対標準偏差0.08の真球状単分散シリカ0.08重量%含有)を乾燥した後溶融押出し、急冷固化して未延伸フィルムを得た。次いで、この未延伸フィルムを表1に示す温度および倍率で縦延伸した後、表1に示す温度および倍率で横延伸し、更に180℃で熱固定して二軸延伸フィルムを得た。
【0073】
得られたフィルムの厚みは25μm、表面粗さ(Ra)は26nmであった。
また、フィルムのガラス転移温度(Tg)と損失弾性率の最高ピーク温度(Te)、フィルム厚さ方向の屈折率およびイオン交換水抽出量を表2に、評価結果を表3に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
表3の評価結果から明らかなように、共重合PETの融点が210〜245℃である本発明の場合(実施例1〜3,5)は、良好な結果が得られたが、融点が210℃未満の場合(比較例1)は、耐熱性が劣り、レトルト処理後の保味保香性が悪く、245℃を超える場合(比較例2)は、成形加工性が不良であった。
【0078】
[実施例6〜8,10、比較例3〜4および参考例2]
表4に示す共重合成分を共重合した共重合PET(固有粘度0.64で、平均粒径0.3μm、粒径比1.08、相対標準偏差0.10の真球状単分散シリカ0.3重量%含有)を乾燥した後溶融押出し、急冷固化して未延伸フィルムを得た。次いで、この未延伸フィルムを表4に示す温度および倍率で縦延伸した後、表4に示す温度および倍率で横延伸し、更に180℃で熱固定して二軸延伸フィルムを得た。
【0079】
得られたフィルムの厚みは25μm、表面粗さ(Ra)は6nmであった。また、フィルムのガラス転移温度(Tg)と損失弾性率の最高ピーク温度(Te)、フィルム厚さ方向の屈折率およびイオン交換水抽出量を表5に、評価結果を表6に示す。
【0080】
【表4】
【0081】
【表5】
【0082】
【表6】
【0083】
表6の評価結果から明らかなように、共重合PETの融点が210〜245℃である本発明の場合(実施例6〜8,10)は、良好な結果が得られたが、融点が210℃未満の場合(比較例3)は、耐熱性が劣り、レトルト処理後の保味保香性が悪く、245℃を超える場合(比較例4)は、成形加工性が不良であった。
【0084】
[実施例11〜13,15、比較例5〜6および参考例3]
表7に示す共重合成分を共重合した共重合PET(固有粘度0.64であり、滑剤Aとして平均粒径0.2μm、粒径比1.07、相対標準偏差0.09の真球状単分散シリカを0.4重量%、滑剤Bとして平均粒径1.2μm、粒径比1.09、相対標準偏差0.10の真球状単分散二酸化チタンを0.02重量%含有)を乾燥した後溶融押出し、急冷固化して未延伸フィルムを得た。次いで、この未延伸フィルムを表7に示す温度および倍率で縦延伸した後、表7に示す温度および倍率で横延伸し、更に180℃で熱固定して二軸延伸フィルムを得た。
【0085】
得られたフィルムの厚みは25μm、表面粗さ(Ra)は11nmであった。
また、フィルムのガラス転移温度(Tg)と損失弾性率の最高ピーク温度(Te)、フィルム厚さ方向の屈折率およびイオン交換水抽出量を表8に、評価結果を表9に示す。
【0086】
【表7】
【0087】
【表8】
【0088】
【表9】
【0089】
表9の評価結果から明らかなように、共重合PETの融点が210〜245℃である本発明の場合(実施例11〜13,15)は、良好な結果が得られたが、融点が210℃未満の場合(比較例5)は、耐熱性が劣り、レトルト処理後の保味保香性が悪く、245℃を超える場合(比較例6)は、成形加工性が不良であった。
【0090】
[実施例16〜21および比較例7〜12]
実施例5、10、15において、それぞれ表10に示すように共重合比を変更した共重合PETを溶融押出しし、急冷固化して得た未延伸フィルムを、それぞれ表10に示す条件で延伸、熱固定して二軸延伸フィルムを得た。
【0091】
得られたフィルムの厚みは25μmであり、表面粗さ(Ra)、フィルムのガラス転移温度(Tg)と損失弾性率の最高ピーク温度(Te)、フィルム厚さ方向の屈折率およびイオン交換水抽出量を表11に、評価結果を表12に示す。
【0092】
表12の評価結果から明らかなように、Tgが78℃以上、かつTe−Tgが30℃以下の本発明の場合(実施例16〜21)は、良好な結果が得られたが、Tgが78℃未満の場合(比較例7、9、11)は、耐熱性が劣り、レトルト後の保味保香性が悪く、Te−Tgが30℃を超える場合(比較例8、10、12)は、成形加工性が低下した。
【0093】
【表10】
【0094】
【表11】
【0095】
【表12】
【0096】
[実施例22〜23および比較例13〜14]
実施例2において、シリカ粒子の平均粒径、粒径比および含有量を表13に示すように変更した二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの表面粗さ(Ra)を表13、評価結果を表14に示す。
【0097】
シリカ粒子の平均粒径が2.5μm以下、粒径比が1.2以下である本発明の場合(実施例22〜23)は、良好な結果が得られたが、平均粒径が2.5μmを超える場合(比較例13)および粒径比が1.2を超える場合(比較例14)は、深絞り加工時にピンホールや破断が生じやすく、不適当であった。
【0098】
【表13】
【0099】
【表14】
【0100】
[実施例24〜37]
実施例7において、真球状単分散シリカの平均粒径および含有量を表15に示すように変更し、その他の条件は実施例7と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
【0101】
得られたフィルムの厚みは25μmであり、フィルムの表面粗さ(Ra)を表15に、評価結果を表16に示す。
【0102】
真球状単分散シリカの平均粒径が0.05μmで、かつ含有量が前述の式(3)を満足する場合に、特に良好な結果が得られた。
【0103】
【表15】
【0104】
【表16】
【0105】
[実施例38〜61]
実施例12において、滑剤A(真球状単分散シリカ)と滑剤B(真球性単分散二酸化チタン)の平均粒径および含有量を表17に示すように変更し、その他の条件は実施例12と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
【0106】
評価結果は表18に示すとおりであり、滑剤Aの平均粒径(dA)が0.05〜0.6μm、滑剤Bの平均粒径(dB)が0.3〜2.5μm、滑剤Aの平均粒径と滑剤Bの平均粒径の比(dB/dA)が2.5以上であり、滑剤Aの含有量が0.01〜0.3重量%、かつ滑剤Bの含有量が0.001〜0.2重量%である場合に、特に良好な結果が得られた。
【0107】
【表17】
【0108】
【表18】
【0109】
【発明の効果】
本発明の金属板貼合せ成形加工用ポリエステルフィルムは、金属板と貼合わせた後製缶加工、例えば深絞り加工して金属缶を成形するにあたり、共重合ポリエステルが持っている優れた耐熱性、耐衝撃性、耐レトルト性を保持しながら、成形加工性に優れ、保味保香性、特にレトルト後の保味保香性が改善されたものであり、金属容器用フィルムとして極めて有用である。
Claims (4)
- 融点が210〜245℃である2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合ポリエチレンテレフタレートからなる二軸延伸フィルムであって、フィルムの損失弾性率の最高温ピーク温度(Te)と、DSC測定におけるガラス転移温度(Tg)が下記式(1)および下記式(2)を満足し、フィルムをイオン交換水で121℃、2時間抽出処理したときの抽出量が0.5mg/inch 2 以下、かつ平均粒径が2.5μm以下であり粒径比(長径/短径)が1.0〜1.2である真球状単分散の滑剤を含有することを特徴とする金属板貼合せ成形加工用ポリエステルフィルム。
- 滑剤が真球状シリカである請求項1に記載の金属板貼合せ成形加工用ポリエステルフィルム。
- 滑剤が、平均粒径(dA)0.05〜0.6μmの滑剤Aと、平均粒径(dB)0.3〜2.5μmの滑剤Bとからなり、滑剤Aの平均粒径と滑剤Bの平均粒径の比(dB/dA)が2.5以上であり、滑剤Aの含有量が0.01〜0.3重量%、かつ滑剤Bの含有量が0.001〜0.2重量%である請求項1に記載の金板貼合せ成形加工用ポリエステルフィルム。
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