JP3602637B2 - 浄水器用中空糸膜の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は次世代の浄水器に応用できる重金属除去用中空糸膜の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
20年ほど前までは水道管として鉛管が敷設されていたが、近年になってそれが原因で飲料水中に微量の鉛が溶出してきており、その有害性が問題になっている。だが、従来の浄水器は活性炭と中空糸膜との組み合わせから成る部材のものが主で、それらの部材は残留塩素やカビ臭、濁質成分や細菌類は除去するが、鉛管から溶出した鉛の塩類を吸着・除去する機能はなかった。
【0003】
浄水器はその使用状況を考慮すると、装置はなるべく小さいものでかつ大きな流量のものを処理できるものを必要とする。又、浄水器に組み込む部材はその性格から、水を流すと溶出するような物質や、容易に破損してしまう物質が含まれていてはならない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、上記目的により浄水器に鉛を除去する機能を導入しようとした場合、その除去率は90%以上で、かつ寿命の長いものでなくてはならない。さらに、水道水中には他にもカルシウム、マグネシウムといった体内に必須の物質を多量に含んでおり、それらを吸着せずに、鉛のような有害な金属のみを選択的に除去してくれるものでなくてはならない。
【0005】
かかる従来技術としては、例えば特開平2−187136号公報に関する発明があるが、そこでは放射線グラフト重合法によりイミノジ酢酸基を導入した複合機能濾過膜により、コバルトイオン等を吸着しているが、重金属に対する選択除去性がないためカルシウム、マグネシウム等の物質も除去することになり、これを浄水器に適用する場合には不適当である。また同公報では金属除去のための官能基を導入する基材である多孔性中空糸膜として、内径0.62mmφ、外径1.24mmφの大きさのものを使用しているが、この大きさでは浄水器として使用する場合に非常に大きいものになり、家庭等の小規模施設において使用するには不適当である。さらに同公報では電子線照射量を200kGyとしているが、このような大きさの照射量を使用する場合には、得られた濾過膜の強度が低下してしまい、浄水器に搭載するにははなはだ不適当である等の問題点があった。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明では上記の問題点を解決することを目的として詳細に検討し、以下の発明を得た。
【0007】
即ち、本発明は、ポリオレフィンまたはオレフィンとハロゲン化オレフィンとの共重合体からなる中空糸膜に、放射線グラフト重合法により、重金属を除去する官能基であるイミノジ酢酸基を導入するにより浄水器用中空糸膜を製造するものである。そして、特に、中空糸膜にグリシジルメタクリレートをグラフト重合した後に、イミノジ酢酸基に変換反応を行うものであり、その際のグラフト重合用の電離性放射線量を5〜100kGyに調整し、そのグリシジルメタクリレートの膜へのグラフト率(G)を30〜130%であるようにするものである。
【0008】
又、グリシジルメタクリレートをイミノジ酢酸基に変換反応を行う際に、中空糸膜に導入されるイミノジ酢酸基の濃度を1.30〜2.60mmol/g膜に調整するものであり、この変換反応においては、ジメチルスルホキシドを反応溶媒中に10〜90%存在させたものを使用し、且つその変換反応温度を60〜80℃に維持して行うものである。更に又、飲料水として適切な水質を得るために、予め2%水酸化ナトリウム水溶液、5%塩化カルシウム水溶液を順に通水させて、この官能基をカルシウム型に置換することも行われるものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
放射線グラフト重合法により上記機能を導入する場合、あらゆる基材ポリマーに対して適用可能であり、それが放射線グラフト重合法の長所であるが、浄水器という用途を考慮した場合、膜の非腐食性(安定性)やコスト、反応性という観点から、ポリオレフィンまたはハロゲン化オレフィンの共重合体からなる中空糸膜を使用することが望ましい。また、そのサイズは、同様に浄水器としての用途を考慮してなるべく細いものが望ましいが、強度との兼ね合いから、基材外径は0.2mm〜1mm、内径は0.1mm〜0.9mmのものが望ましい。
【0010】
放射線グラフト重合法を適用した場合、照射線量の増加に伴って膜の引張り強さが低下し、100kGy以上では膜1本当たりの引張り強さが140g以下(原糸の引張り強さは約200g)となり、このような膜を浄水器に用いる場合にはその強度の点でその使用目的を達成しない。また照射線量5kGy未満では、膜に金属除去機能を導入する反応に供せないことが明確になった。これらの検討結果から、浄水器に組み込むためには照射線量は5〜100kGyが適切であり、望ましくは30〜80kGyが最適であることを見出した。
【0011】
また、中空糸膜の引張り強さと、グリシジルメタクリレートのグラフト率との関係を詳細に検討した結果、グラフト率が130%を超えた中空糸膜は、イミノジ酢酸基を導入した場合その膜1本当たりの引張り強度が100g以下と非常に弱くなってしまい、浄水器への適用には耐えられないことを発見した。
【0012】
また、発明者らが、中空糸膜へ導入したイミノジ酢酸基の濃度と重金属除去特性を詳細に検討した結果、LV(流速)=1[m/h]で透過試験を行ったところ、1.30mmol/g膜未満の官能基濃度では重金属除去率が90%以下となり、浄水器としての使用に耐えることはできないことを見出した。さらに2.60mmol/g膜以上の官能基濃度を得るためには、グラフト率を130%以上にする必要があり、その強度が膜1本当たり100g以下となってしまうことがわかった。
【0013】
さらに発明者らが、グリシジルメタクリレートのイミノジ酢酸基への変換反応を行う際の反応溶媒におけるジメチルスルホキシドの割合もしくは反応溶媒温度と、中空糸膜に導入されたイミノジ酢酸基濃度との関係とを詳細に検討した結果、反応溶媒中のジメチルスルホキシドの割合は10〜90%、望ましくは20〜70%で、変換反応温度は60〜80℃、望ましくは70〜80℃であることを発見した。
【0014】
以下、実施例により本発明の構成および効果を具体的に述べるが、いずれも本発明を限定するものではない。
【0015】
【実施例1】
ポリエチレン製の多孔質中空糸膜(内径0.3mmφ、外径0.4mmφ、平均孔径0.1μm)に電子加速器(加速電圧2MeV、電子線電流1mA)を用いて窒素雰囲気下で30kGyを照射したのち、減圧下でグリシジルメタクリレートと接触させ、グラフト重合反応を行い、質量増加率(グラフト率)128%の膜を得た。ジメチルスルホキシドが70%含まれるイミノジ酢酸0.05M水溶液中にこのグラフト膜を浸し、80℃で24h反応させ、イミノジ酢酸基量が基材1gあたり1.36mmolのキレート形成基を有する中空糸膜を得た。
【0016】
この中空糸膜を用いて透水試験を行った。まず前処理として2%水酸化ナトリウム水溶液、5%塩化カルシウム水溶液を順に通水させることによって官能基をカルシウム型に置換した。その後、50ppbの鉛と、妨害物質として40ppmのカルシウム、20ppmのマグネシウムの入った水溶液を膜の外面から内面に向かって透過させた。膜内面から出てくる透過液を50mlずつ分画した結果、6分画においても、透過液中の鉛濃度は5ppb以下であった。一方カルシウムとマグネシウムは供給液と透過液の濃度が等しく、膜に全く吸着されなかった。
【0017】
【比較例1】
実施例1と同様の膜を用い、200kGyの電子線照射を行い、以下グラフト率229%、イミノジ酢酸基量が基材1gあたり1.08mmolの中空糸膜を得た。ところが得られた膜は反応前の膜とは全く形状が異なり、いわば縮れた部分が多く、また脆くもなっていた。よって、この中空糸膜は浄水器には全く不適当であることがわかった。
【0018】
【比較例2】
実施例1と同一の膜を用いて、2%水酸化ナトリウム水溶液、5%塩化カルシウム水溶液を順に通水するという前処理を施さない場合には、透過液中の鉛濃度が通水初期にも高くなり、吸着能がはなはだ低かった。また透過液のpHも供給液のそれに比べて著しく低下し、飲料水としては不適切であった。
【0019】
【比較例3】
ポリエチレン製の多孔質中空糸膜(内径0.3mmφ、外径0.4mmφ、平均孔径0.1μm)に電子加速器(加速電圧2MeV、電子線電流1mA)を用いて窒素雰囲気下で5kGyを照射したのち、減圧下でグリシジルメタクリレートと接触させたが、グラフト重合反応は行われず、質量増加は見られなかった。
【0020】
【実施例2】
ポリプロピレン製の多孔質中空糸膜(内径0.3mmφ、外径0.4mmφ、平均孔径0.1μm)に実施例1と同様に電子線を照射、グラフト重合反応を行い、質量増加率(グラフト膜)58%の膜を得た。ジメチルスルホキシドが30%含まれるイミノジ酢酸1.0M水溶液中に、このグラフト膜を浸し、80℃で96h反応させ、イミノジ酢酸基量が基材1gあたり1.44mmolの、キレート形成基を有する中空糸膜を得た。
【0021】
この中空糸膜を用いて実施例1と同様の透水試験を行ったところ、実施例1の結果と同様、6分画においても、透過液中の鉛濃度は5ppb以下であった。また、カルシウム、マグネシウムの濃度は供給液と透過液とで等量であった。
【0022】
【実施例3】
実施例1と同様の基材を用いて、電子線照射線量を30〜200kGy照射し、グリシジルメタクリレートと反応させてグラフト率80〜100%のグラフト膜を得た。得られた中空糸膜により引張試験を行った結果、図1に示すように、照射線量が50kGyを超える中空糸膜では強度劣化が著しく、浄水器としては不適当であることがわかった。
【0023】
【発明の効果】
本発明により、従来困難であった中空糸膜への放射線グラフト重合法による重金属除去用官能基を導入することができ、これにより浄水器やその他、上下水道の浄化槽、原発の復水処理といった幅広い応用展開においてその大幅な減容を望むことができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】放射線量の中空糸膜の引張り強さへの影響を示す図である。
Claims (1)
- ポリオレフィン又はオレフィンとハロゲン化オレフィンとの共重合体からなる中空糸膜に、放射線グラフト重合法により、重金属を除去する官能基であるイミノジ酢酸基を導入することにより浄水器用中空糸を製造する方法において、
グリシジルメタクレレートを中空糸膜にグラフト重合させる際に、中空糸膜に線量5〜100kGyの電離性放射線を照射してグリシジルメタクリレートの膜へのグラフト率を30〜130%に調整し、グラフト重合したグリシジルメタクリレートをイミノジ酢酸基に変換反応を行う際に、ジメチルスルホキシドが10〜90%含まれるイミノジ酢酸水溶液を使用し、且つその変換反応温度を60〜80℃に維持して、中空糸に導入されるイミノジ酢酸基の濃度を1.30〜2.60mmol/g膜に調整し、更に飲料水として適切な水質を得るために、水酸化ナトリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液を順次通水し、イミノジ酢酸基をカルシウム型に置換することを特徴とする方法。
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