JP3589811B2 - 液晶表示装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はMLA法(複数ライン同時選択駆動法の略である。特開平6−27907号公報、US5262881明細書、又は特開平8−234164号公報等参照)によるマルチプレクス駆動を用いた単純マトリクス型液晶表示装置の改良に関する。特に、TFTと同等の高速・動画表示を行う超ねじれネマティック(STN)型液晶表示装置の新規な構造について説明を行う。
【0002】
【従来の技術】
高度情報化時代の進展にともない情報表示媒体の需要はますます高まっている。種々の用途、使用に応じてさまざまな表示装置が用いられているが、液晶表示装置は薄型、軽量、低消費電力など長所を有し、半導体技術を用いた駆動回路との整合性もよく、さらに広く普及すると考えられる。
【0003】
現在、液晶表示装置のなかでも、STN型液晶表示装置(以下、STNと略記する。)、及び薄膜トランジスタを各画素に設けたアクティブマトリクス液晶表示装置(以下、TFTと略記する。)が主流となっている。両者を比較するとSTNはTFTに比べて製造工程が簡素であり、一定の歩留と良好な生産性を安定して維持でき、また、コストパフォーマンスがよいことが長所である。
【0004】
近年、特に高密度情報端末の仕様に適合するため、液晶表示装置の画面の大型化、高精細化、大容量表示、及び高速表示が求められるようになり、それを実現するための探索が始まっている。
【0005】
従来、STNで大容量表示をするためには線順次マルチプレクス駆動が行われている。この方法は各行電極を1本ずつ順次選択するとともに、列電極を表示したいパターンと対応させて選択するもので、1順して全行電極が選択されることによって一画面の表示を終える(以下、本発明では走査電極を行電極と呼び、データ電極を列電極と呼ぶ)。
【0006】
しかし、線順次駆動法では表示容量が大きくなるにつれて、フレーム応答と呼ばれる問題が起こる。線順次駆動法では、選択時には比較的大きく、非選択時には比較的小さい電圧が画素に印加される。この電圧比は一般に行ライン数が大きくなるほど、つまり高デューティ条件での駆動になるほど大きくなる。
【0007】
このため、電圧比が小さいときには電圧実効値に応答していた液晶が印加波形そのものに応答するようになる。すなわち、フレーム応答は選択パルスでの振幅が大きいためオフ時の透過率が上昇し、選択パルスの周期が長いためオン時の透過率が減少し、結果としてコントラストの低下を引き起こす現象が発生する。
【0008】
このフレーム応答の発生を抑制するために、用いるフレーム周波数を高くして選択パルスの周期を短くする方法が知られているが、これには重大な欠点がある。つまり、フレーム周波数を高くすると、印加波形の周波数スペクトルが高くなり、表示の不均一を引き起こし、消費電力が上昇する。したがって選択パルス幅が狭くなりすぎるのを防ぐことを目的として、フレーム周波数を上げることは制限がある。
【0009】
周波数スペクトルを高くせずに、フレーム応答を解消することが重要となった。この問題を解決するために、複数の行電極(選択電極)を同時に選択する上記のMLA法と呼ばれる駆動法が提案された。この方法は複数の行電極を同時に選択し、かつ、列方向の表示パターンを独立に制御できる方法であり、選択幅を一定に保ったままフレーム周期を短くできる。すなわちフレーム応答を抑制した高コントラスト表示ができる。
【0010】
MLA法においては、列表示パターンを独立に制御するために、同時に印加される各行電極には一定の電圧パルス列が印加される。複数のラインを同時に選択するこのMLA法では、複数の行電極に同時に電圧パルスが印加されることになる。このとき、列方向の表示パターンを同時にかつ独立に制御するために、行電極には各々極性の違うパルス電圧が印加される必要がある。
【0011】
行電極には極性を持つパルスが何回か印加され、列電極にはデータに応じた電圧が印加される。こうして、全体として各画素にはオン、オフに応じた実効電圧が印加される。
【0012】
この各行電極に印加される選択パルス電圧群はL行K列の行列(これを以後、選択行列(A)という)として表せる。選択パルス電圧系列は互いに直交なベクトル群として表せるため、これらを列要素として含む行列は直交行列となる。このとき行列内の各行ベクトルは互いに直交である。行の数Lは同時選択行本数に対応し、各行はそれぞれのラインに対応する。
【0013】
例えば、L本の選択ラインの中のライン1には、選択行列(A)の1行目の要素が適応され、1列目の要素、2列目の要素の順に選択パルスが印加される。本明細書では、選択行列(A)の表記において、1は正の選択パルスを、−1は負の選択パルスを意味することとする。選択行列(A)の代表的な例としてアダマール行列を図4に示す。図4(a)は4行4列のもの、図4(b)は8行8列のもの、図4(c)は8行8列のものの第1行を除いた7行8列のものである。
【0014】
列電極には、この行列の各列要素及び列表示パターンに対応した電圧レベルが印加される。すなわち、列電極電圧系列はこの行電極電圧系列を決める行列と表示パターンによって決まる。
【0015】
列電極に印加される電圧波形のシーケンスは以下のように決定される。図3はその概念を示した説明図である。4行4列のアダマール行列を例にとって説明する。列電極i及び列電極jにおける表示データが図3(a)に示したようになっているとする。列表示パターンは図3(b)に示すようにベクトル(d)として表される。ここで列要素が−1の時はオン表示を表し、1はオフ表示を表す。
【0016】
行電極に、行列の列の順に順次行電極電圧が印加されていくとすると、列電極電圧レベルは図3(b)に示すベクトル(v)のようになり、その波形は図3(c)のようになる。図3(c)において縦軸、横軸はそれぞれ任意単位である。
【0017】
部分ライン選択の場合、液晶表示素子のフレーム応答を抑制するために、1表示サイクル内で分散して電圧印加されることが好ましい。具体的には、例えば、1番目の同時選択される行電極群(これを以下、サブグループという)に対するベクトル(v)の第1番目の要素が印加された次には、2番目の同時選択される行電極群に対するベクトル(v)の第1番目の要素が印加され、以下同様のシーケンスをとる。
【0018】
したがって、実際に列電極に印加される電圧パルスシーケンスは、電圧パルスを1表示サイクル内でどのように分散するか、また同時選択される行電極群に対してそれぞれどのような選択行列(A)が選ばれるかによって決定される。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、最近非常に頻繁に使用されるウインドウパターン表示などを行う場合、クロストークと呼ばれる現象がおき、液晶表示装置での表示上の問題となっている。クロストークの影響が最も顕著な場合となって現れるのが図2のようなバー表示をさせたときである。領域Cのバーの下の領域Bには表示ムラが出現する。
【0020】
STNなどの単純マトリクスに通常用いられている液晶の誘電異方性はΔε>0である。したがって、画素間に電圧が印加され、液晶分子が電界に平行になり、オン表示させられた場合、液晶の等価容量成分は最大になる(ε(垂直)>ε(平行))。このとき、列電極電圧波形は最も歪んだ状態になる。つまり、同じオン状態に関わらず領域A<領域Bという輝度差が表示ムラとなって現れる。
【0021】
これは液晶に印加される実効電圧が領域A<領域Bとなっていることを示している。ウインドウ表示などの表示パターンは図4の表示の組合せであり、最も頻繁に使われることが想定され、この表示ムラ(クロストーク)低減が大きな課題となる。
【0022】
このクロストークの大きさは、バーの幅W又は長さHが変化することにより、変化する。表示パターンのバーの幅Wを大きくすると、領域Aと領域Bの輝度差は減少する。またバーの長さHを大きくすると、領域Aと領域Bの輝度差は増加する。
【0023】
これらの現象は列電極波形の歪みがオン波形とオフ波形とで異なることに起因すると考えられる。つまり、オン波形はある程度歪んだ波形となるのに対し、オフ波形はほぼ理想に近い波形となる。
【0024】
オン波形が歪む原因は主に二つある。一つは、液晶層を挟持するマトリクス電極を駆動する駆動回路(以下、駆動系という)が、理想的な電源及び理想的なドライバでは構成されていないことである。図2の表示では大部分がオン状態なので大部分の列電極(W O に相当する部分)ではオン波形を出力している。このとき駆動系では各列電極電圧レベルの中でオン波形を出力する電圧レベルに大きな負荷がかかり、これが歪みの原因になる。
【0025】
もう一つは、液晶パネル内部の容量による影響である。オン状態で、列電極に直列に接続する液晶の容量は最大となるため、オン波形が多いと液晶パネル内での波形は最も歪んだ状態となる。一方、オフ波形は理想に近い波形が出力される。オン波形に比べると波形が歪む条件に当てはまらないからである。
【0026】
図2において、領域Aでは、ほぼオンの列電極波形のみが印加されるが、領域Bでは、オンとオフの両方の列電極波形が印加される。したがって、領域Aの列電圧波形は非常に歪んだ波形のみが出力されるのに対し、領域Bでは領域Aに比べて全体としての列電圧の歪みは大きくない。したがって、領域Bでは液晶に印加される実効電圧の減少が少ない。
【0027】
前述のように、MLA法はフレーム応答を抑制するためにきわめて有効な方法ではあるが、従来の駆動法に比べてクロストークによる表示ムラが目立つことが多いことがわかってきた。
【0028】
これは、複数の行を同時に選択する駆動法では、行電極電圧レベルが線順次駆動に比べて低いことに由来すると推察される。つまり、複数行を同時に選択すると、行電極電圧と列電極電圧とのバイアス比が小さくなり、実効電圧に列電極電圧が与える影響は従来の駆動法に比べてきわめて大きくなる。この結果、列電極電圧系列に波形歪みがあれば、これが表示品位に与える影響は従来のものに比べて大きい。
【0029】
実際には駆動系で使用される電源、最終段でのドライブ能力は有限なので入力端では電圧波形は必ず歪みを持ち、液晶パネルの電気インピーダンスは液晶自身の容量成分と電極抵抗の直列結合と考えられるので、列電極に出力されるべき電圧波形はかなりなまって出力される。したがって、複数行を同時選択すると、クロストークによる表示ムラが目立つ場合があることになる。この現象は、同時選択する行電極本数Lが5以上になると顕著になる。
【0030】
もう一つの大きな課題は中間調表示におけるクロストークである。中間調表示の方式としては、フレームレートコントロール方式、振幅変調方式、ディザ法との組合せなどが挙げられるが、フレームレートコントロール方式が液晶表示装置の駆動方法として、最も多く用いられている。この際、フリッカーの発生を目立たなくするために、空間的に(隣接する画素間で)位相の差をつけフリッカーをキャンセルさせる空間変調との組み合わせが頻繁に用いられる。
【0031】
この場合、2値表示を基本とするモノクロのべた表示とは異なり、各フレーム毎に画像の空間的な周波数が非常に高くなる場合がある。このために、クロストークが生じ画像の品位を劣化させていた。同様にディザ方式を用いた場合にも空間周波数が高くクロストークの問題が存在していた。
【0032】
さらに、ビデオ表示など動画を表示する場合にも画像の劣化の問題がある。ビデオ表示においては、ウインドウなどの基本的に幾何学的な表示とは異なり、空間的に複雑な(すなわち空間周波数の高い)表示が多く出現する。
【0033】
したがって、特に、特定のウインドウ内でビデオ表示を表示しようとした場合には、発生するクロストークによりビデオ表示自体の品位を劣化させるだけでなく、周辺のウインドウにも影響する問題が生じていた。
【0034】
ここで、液晶層の状態変化を利用して、表示を実現する液晶表示装置、特にSTNなどの単純マトリクス駆動方式において、負荷として作用する液晶層自身の挙動に関し説明する。
【0035】
液晶は上述したように、容量負荷と抵抗負荷の直列結合として近似される。前者は液晶容量(オフ時とオン時)、後者は電極抵抗によるものである。表示面積、表示の解像度はこれらの負荷と強く関与し、面積が大きくなると容量負荷の増大により高周波特性が悪化し、波形歪みが増えクロストークは増大する。
【0036】
また、解像度が高くなると駆動の高周波成分が増大することにより、こちらも、クロストークの増大につながる。一般に、現実的に問題となるのは、対角9インチサイズ以上、表示本数が200走査ライン以上(2画面駆動の時は400ライン以上に対応)の場合である。
【0037】
また、解像度が高くなると、必要な行電圧(振幅値)が増大するため、使用できる駆動用ドライバー回路の実現性(主に、半導体IC技術における技術限界、例えば耐圧、電流値、スイッチング速度、消費電力など)から駆動電圧を下げる必要があり、クロストーク条件はますます厳しくなる一方であった。
【0038】
そのため、透明電極の抵抗値の方を低下させる手段が用いられてきたが、光学的に透明性を保ったまま電気抵抗値を下げることはかなり限界に近づいてきている。また、生産コスト上昇と性能のばらつきを引き起こし、汎用品の製造に適さないことは明らかである。次にMLA法に特有な表示の不良現象を説明する。
【0039】
MLA法においては、ゴーストと呼ばれる特殊なクロストークが存在する。ゴーストとは、ある画像がその近傍の場所にうっすらと表示されてしまう現象であり、TVの電波障害によるゴーストと同様に二重像となって見える。この原因を解明し、以下のような結論を得た。
【0040】
MLA法におけるゴーストは、選択(行)波形の波形歪みに起因する。本来非選択期間であるべきタイムインターバルに、選択波形がかかってしまうために生ずる現象であり、MLA法においては、複数(L本)のラインが同時に選択されるために複数ライン分のゴーストが見え従来駆動法よりもゴーストが視認しやすくなっている。
【0041】
従来の駆動法APT法でも同様のことが発生しているが、行の選択が1ライン単位であるのでゴーストも1ライン分しか生じない。したがって、若干の像のにじみ(すなわち解像度の低下)という程度に発現するだけなので、「二重像」には見えない。したがって、APT法では、ゴーストはほぼ観察されないといってもよい。
【0042】
この課題を解決する一つの手段として、上記の特開平8−234164号公報で、クロストークを低減するMLAの駆動方法が提案された。直交行列を最適化しパターンにより信号電圧波形が大きく変化するのを抑制することによりクロストークの低減が達成可能であることが示された。
【0043】
しかし、最近の動画を含むマルティメディア対応、パソコンのウインドウズ表示などのように、高解像度で高品位の画像を提供する高度な表示システムを構築するには、駆動系、液晶セル構造、液晶材料、回路設計を統合したより高度な画質改善が必要であることがわかった。
【0044】
【課題を解決するための手段】
本発明は前述の問題点を解決するもので、すなわち、請求項1の発明は、マトリクス状に配置されたN本(Nは200以上の整数)の行電極と複数の列電極との間に液晶層が挟持された液晶セルが備えられ、液晶層のツイスト角θは100〜360°とされ、行電極はL本ごと(Lは2、3又は4)のサブグループに分割され、そのサブグループが一括して選択され、L行M列の選択直交行列(A)の選択列ベクトル(A1,A2,A3,A4)を時系列で展開した信号に基づく行選択電圧が行電極に印加され、画素に印加される電圧の実効値に対して表示が行われ、液晶の誘電率ε(垂直)<4.5、かつ、誘電率異方性Δε=3.5〜6.5としたことを特徴とする液晶表示装置である。
【0045】
また、請求項2の発明は、液晶セルのギャップd=4〜6μm、ツイスト角θ=220〜260°としたことを特徴とする請求項1の液晶表示装置である。
【0046】
また、請求項3の発明は、行選択電圧ならびに列電圧の極性が選択パルス幅のS倍の周期性を持って反転される駆動方式が用いられ、式(1)の関係を満たすことを特徴とする請求項1又は2の液晶表示装置である。
【0047】
【数3】
S<(N/L)*M*0.5 ・・・(1)
【0048】
また、請求項4の発明は、行電圧の電圧振幅Vr(pp)と列電圧の電圧振幅Vc(pp)が、式(2)の関係を満たすことを特徴とする請求項1、2又は3の液晶表示装置である。
【0049】
【数4】
N0.5 /L≦Vr/Vc(max)≦1.4*N0.5 /L ・・・(2)
【0050】
以下に、本発明の説明を行う。単純マトリクス駆動方式を採用した液晶表示装置において、各種のクロストークの低減を図る場合、重要なのは、そのクロストークというムラが生ずるときの、波形の特徴と、負荷(液晶容量と電極抵抗など)、液晶への電流供給電源等のパラメータである。それらが強く関与し、かつ互いに相互作用して実際に画素に印加される電圧が決まるという点にある。
【0051】
なかでも、波形の特徴や、負荷の特徴によっては、外部の電流供給電源をいかに強化してもクロストーク低減が困難となる。この意味で、波形と負荷の関係がクロストーク低減に関する本質的要素である。
【0052】
本発明においては、MLA法を用いた液晶表示装置で高品位の画像を提供するために、MLA法の波形を決定する要素と駆動系から見た場合の負荷として作用する液晶セルとの総合的な最適構成を示す。
【0053】
MLA法のクロストークに関与する波形の特徴を考える場合、まず、同時選択数が重要となる。MLA法においては、従来表示フレーム内で行ラインあたり1つであった選択波形を複数回に分けて印加しそれに対応するように列電圧を決定する。
【0054】
したがって、同時選択ライン数に応じて、行、列の電圧バランスが変化し、クロストークの発生状況が変化することとなる。まず、簡単な理解を促すため、オン波形とオフ波形の電圧比が理論的に最大となる最適バイアスを条件として説明する。
【0055】
液晶表示装置の中の液晶層は、一定のしきい値電圧(Vth,rms)を持つ。これを、マルチプレクス駆動で供給する場合、最終的な行、列波形の合成による実効電圧を考慮する必要がある。従来の線順次駆動法であるAPT法の、列電圧Vcを1とおいたとき、MLA法における行電圧Vr、列電圧Vcの最大値は、同時選択数Lに対して、次の表1で与えられる。
【0056】
【表1】
【0057】
ここで、Nは総選択ライン数であり、上述したように最適バイアスの場合である。表1より明らかなように、Lの増大につれ行電圧は低下し、列電圧は上昇する。したがって、Lが変化すると行方向、列方向へ発生するクロストークの種類により、その強度が変化することになる。
【0058】
MLA法においては、特定の列電極上の同時選択される行電極に対応する表示パターン(オフが1、オンが−1)を要素とする列電極表示パターンベクトル(x)=(x1,x2,x3,x4・・)と、選択列ベクトル(Ai:i=1,2,3,4・・)の内積であるyi=(x1,x2,x3,x4・・)Aiに比例した電圧が列電極に印加されるので、(x)のパターンが電圧を直接的に決める重要な要素である。
【0059】
本発明者は、このような波形の特徴を検討し、液晶セルの負荷がどうあるべきか、駆動波形はどうあるべきか、そのときの駆動系、主に実際の回路構成・ドライバーなどへの影響がどうなるかなどを考慮し、それらの最適構成を得るに至った。主要な因子のクロストークなどへの影響を次の表2にまとめる。
【0060】
【表2】
【0061】
表2の(1)、(2)は従来の液晶技術の理論からいえば明らかに矛盾する。なぜならば、液晶の駆動電圧は、液晶の誘電率異方性Δεに依存し、液晶の電圧を下げるためには、誘電率異方性Δεを大きくする必要があり、容量負荷の増大につながるからである。
【0062】
これらより、MLA法の特徴を生かし、かつクロストーク低減を達成できる構成を考察する。この際、MLA法の駆動波形と負荷としての液晶セルの好ましい構成を同時に考える。表3に主要な因子を示す。
【0063】
【表3】
【0064】
(3)と(4)とのトレードオフ関係は、MLA法における駆動方式と液晶負荷に最適点が存在することを意味している。本発明では、これらの関係を理論的に考察し、ならびに実験的に検証し、以下のような結論に達した。
【0065】
MLA法によりクロストーク低減は可能で、それは次の表4の(a)(b)(c)の3つの条件を満たす場合である。
【0066】
【表4】
【0067】
表4の(a)、(b)、(c)の基本構成により、従来のSTNに比べて、3〜5割の容量負荷低減となり、透明電極を著しく低抵抗化することなくクロストーク全体が低減できるのである。
【0068】
さらに、好ましくは、表4の(d)駆動波形の極性反転周期Sを、1/2フレーム長以下とすることが有効である。これは波形の周波数成分を中間的な周波数領域に設定するためである。最後の条件は、S<(N/L)*M*0.5 ・・・(1)の関係を満たすこと意味する。
【0069】
この構成は、特に高速応答を要求される場合に有効である。高速応答を達成するには、液晶自体の粘性を下げるとともに液晶に対する基板からの界面規制力を強めて高速化するのが一般的であるが、この規制力の増加は、すなわち、液晶セルのギャップを低減することであり、容量負荷の増大につながる。ギャップの低減は駆動電圧そのものはほとんど変えないので、負荷の増大にともなうクロストーク増加が非常に顕著になる。
【0070】
本発明の構成では、本質的に電圧の絶対値と負荷の大きさを最適化してあるので、このようにギャップを低減し高速化するためのマージンが大きくとれる。例えば、他のパラメータが等しい場合、従来構成ではギャップdが6.5μm、誘電率異方性Δε=9(ε垂直=4)であったものを、MLA法を用いると、ギャップdを4.5μm、誘電率異方性Δε=4.5(ε垂直=4)と設定できる。
【0071】
したがって、負荷の低減(最大負荷は約6%低下)と、最大電圧(行電圧)の低減(4ライン同時選択の場合、約30%低下)と、高速化(応答時間を約50%低下できる)の全てが同時に達成できる。
【0072】
特に、液晶セルのギャップdが4〜6μm、及びツイスト角θ=220〜260°の範囲において、用いる液晶の物性値をε(垂直)≦4.5、Δε=3.5〜6.5とすることが好ましい。さらには、Δε=4.0〜6.0がより好ましい。
【0073】
また、当然ながら、MLA法のコントラスト増大が同時に達成され、従来は、20:1〜30:1程度であった、コントラスト比(オンとオフの輝度比)は40:1以上が可能となった。
【0074】
このように、MLA法の駆動波形と、それに適合した液晶表示素子の構成により、従来の駆動方式と液晶表示素子構成の場合よりも、高コントラスト、高速を達成したうえで、さらに、低クロストーク、電源最大電圧の低減が達成される。このことは、低コスト、低消費電力で従来よりも高品位の画像が提供できることを示す。
【0075】
本発明においては、上記のような負荷要件を採用するため、従来とは異なるバイアス比での駆動が可能となる。ここで、バイアス比とは、行電圧/列電圧の最大値で定義され、既に述べた最適バイアスでは、(N)0.5 /Lとなる。APT駆動法では、列電圧が極端に高くなるため、一般にバイアス比は最適バイアスより小さくして用いるのが普通であるが、MLA法ではその波形の特徴より、むしろこの電圧比を最適バイアスより大きくして使うことが好ましい。
【0076】
その理由は次の2点である。(1)APT法ではフレーム応答があるのでバイアスは小さくした方がコントラストが高いがMLA法では方式そのものでフレーム応答を抑制していること。(2)MLA法では行電圧がAPT法よりも低いこと。
【0077】
したがって行電圧の電圧振幅Vrと列電圧の最大電圧Vc(max)が、式(2)の関係を満たすことが本発明の液晶表示装置おいてより高品位な画像を得るためのより好ましい条件である。
【0078】
本発明の駆動法は、公知のMLA用の回路を使って簡単に実現できる。例えば、階調方式としてFRC(Frame Rate Control:フレーム レート コントロール)を用いる場合、空間変調FRCは、初段の多ビットデータをメモリに格納する前段にいれて、FRC後の1ビット(1フレーム)データをメモリに格納し、それを順次読み出しMLA演算により列電極電圧波形を計算してもよい。あるいは、多ビットデータのままメモリに格納し、列電圧演算の前段で空間変調FRCのテーブルとの参照により1ビットのFRCデータとしてもよい。
【0079】
空間変調テーブルは、ROMに格納して順次読み出して用いればよいが、論理回路での構成も簡単に実現できる。これらの回路により演算された列電圧波形を複数の電圧レベルをもつ列信号ドライバーに入力し液晶に電圧を印加することにより表示が達成される。
【0080】
なお、本発明の液晶表示装置の階調表示手法としては、上記のFRC以外に、AM(Amplitude Modulation:振幅変調)、PWM(Pulse Width Modulation)などの手法を使用できる。階調の表示時には、一般には駆動波形が複雑化するためにクロストークが増大したり、電圧の変動による階調のずれが発生したりするが、本発明においてはクロストーク低減が達成されるために、階調表示時にもその表示品位を損なうことなく細やかな階調が実現できる。
【0081】
【実施例】
(実施例1)
VGA(640×480×3(RGB))サイズのカラーSTNを上下2画面に分割し2画面駆動とした。1画面の、行ラインは240であり、同時選択数L=4(すなわちサブグループ数=60)でMLA法の駆動を行った。表示画面のサイズは対角10.4インチサイズ、用いた透明電極はITOで、シート抵抗5Ωのものであった。
【0082】
液晶セルは、ギャップ4μm、液晶の誘電率(垂直)が3.7、誘電率(平行)が9.0(誘電率異方性Δε=5.3)であり、最大駆動電圧(Vr)は約16Vであった。なお、バイアス比は、最適バイアス条件の3.9とした。
【0083】
図1に本例の構成の説明図を示す。液晶セルは表側偏光板、表側基板、行電極4、液晶層6、列電極5を備えている。また、駆動系として、MLAコントローラ、外部インターフェースが備えられている。外部からはTFTインターフェース信号が供給され、外部インターフェース、MLAコントローラ(データ変換などを行う。また、FRC階調方式を採用した。)を経由し、行駆動ドライバー、列駆動ドライバーに駆動信号が与えられる。このようにして、MLA法による液晶表示装置の駆動が行われる。MLA法の駆動方式で用いた直交行列は、数5に示したものであり、階調表示はFRC方式を用いた。
【0084】
【数5】
【0085】
ウインドウズ上でビデオ表示を行ったところ、フリッカー、クロストークのほとんど見られない、繊細な階調表示が得られた。なお、フレーム周波数は120Hzとして駆動し、コントラスト比50:1、応答時間(立ち上がり、立ち下がりの平均)は50msであった。
【0086】
(実施例2)
SVGA(800×600×3(RGB))のカラーSTNを上下2画面に分割し2画面駆動とした。1画面の、行ラインは300であり、同時選択数L=4(すなわちサブグループ数=75)でMLA駆動を行った。表示画面のサイズは対角12.1インチサイズ、用いた透明電極はITOで、シート抵抗4Ωのものであった。
【0087】
用いた直交行列は数5に示したものであり、階調表示はFRC方式を用いた。液晶表示素子は、ギャップ5μm、液晶の誘電率は垂直が3.5、水平が8.5(Δε=5.0)であり、最大駆動電圧(Vr)は約18Vであった。なお、バイアス比は(最適バイアス×1.2)の5.2とした。
【0088】
ウインドウズ上でビデオ表示を行ったところ、フリッカー、クロストークのほとんど見られない、繊細な階調表示が得られた。なお、フレーム周波数は120Hzとして駆動し、コントラスト比50:1、応答時間(立ち上がり、立ち下がりの平均)は65msであった。
【0089】
(比較例)
SVGA(800×600×3(RGB))のカラーSTN表示素子を上下2画面に分割し2画面駆動とした。1画面の行ラインは300であり、線順次駆動(APT)を行った。表示画面のサイズは対角12.1インチサイズ、用いた透明電極はITOで、シート抵抗4Ωのものであった。階調表示はFRC方式を用いた。
【0090】
液晶表示素子は、ギャップ6μm、液晶の誘電率は垂直が4.0、水平が13.0(Δε=9.0)であり、最大駆動電圧(Vr)は約26Vであった。なお、バイアス比は最適バイアスとした。
【0091】
ウインドウズ上でビデオ表示を行ったところ、フリッカーのほとんど見られない、繊細な階調表示が得られたがクロストークのレベルは実施例2より悪いレベルであった。なお、フレーム周波数は120Hzとして駆動し、コントラスト比30:1、応答時間(立ち上がり、たち下がりの平均)は150msでありビデオ表示では強い残像が見られた。
【0092】
【発明の効果】
請求項1の発明は、複数ライン同時選択法(MLA)と高速液晶表示素子の性能を完全に引き出し、低クロストークの高速・高コントラスト表示を可能とする。
従来にない単純マトリクスでの動画・多階調表示を可能とする。また、従来の駆動法に比して電源電圧の低減なども達成できる。
【0093】
請求項2の発明では、特定の構成の液晶セルにおいて、より高品位の表示を得ることができる。
【0094】
請求項3の発明では、容量負荷を低減せしめることができ、透明電極を著しく低抵抗化することなくクロストーク全体を低減できる。
【0095】
請求項4の発明では、電源電圧系を複雑にせず、かつ、駆動系を簡素化できる。
【0096】
また、本発明はその効果を損しない範囲で、他の液晶表示素子等に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の構成を示す説明図。
【図2】クロストークを説明するための概念図。
【図3】(a)〜(c)はMLA法での電圧印加方法を説明する概念図および波形図。
【図4】(a)〜(c)はアダマール行列を示す説明図。
Claims (4)
- マトリクス状に配置されたN本(Nは200以上の整数)の行電極と複数の列電極との間に液晶層が挟持された液晶セルが備えられ、液晶層のツイスト角θは100〜360°とされ、行電極はL本ごと(Lは2、3又は4)のサブグループに分割され、そのサブグループが一括して選択され、L行M列の選択直交行列(A)の選択列ベクトル(A1,A2,A3,A4)を時系列で展開した信号に基づく行選択電圧が行電極に印加され、画素に印加される電圧の実効値に対して表示が行われ、液晶の誘電率ε(垂直)<4.5、かつ、誘電率異方性Δε=3.5〜6.5としたことを特徴とする液晶表示装置。
- 液晶セルのギャップd=4〜6μm、ツイスト角θ=220〜260°としたことを特徴とする請求項1の液晶表示装置。
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