JP3583822B2 - アイドラプーリ - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明はアイドラプーリに関し、特に自動車のエンジンのタイミングベルト、及び補機駆動用ベルトに係止されるアイドラプーリに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
アイドラプーリは、自動車のエンジンのタイミングベルトや補機駆動用ベルト等において、ベルトの巻掛け角を増大させ、また、ベルトに適当な張力を与えるために配置される。アイドラプーリとしては、ベルトが接触するプーリ周面を玉軸受の外輪の外径に直接設けたもの(笠型外輪)もあるが、図8に示すように、プーリ周面11a1を有するプーリ本体11と玉軸受12とを嵌合一体化した構成のものが多く使用されている。
【0003】
プーリ本体11は鋼板プレス製のもので、ベルトを掛けるための外径円筒部11a、玉軸受12の外輪12bを嵌合する内径円筒部11bを有する。プーリ周面11a1は、外径円筒部11aの外径に設けられる。玉軸受12は深溝玉軸受で、プーリ本体11の内径円筒部11bに嵌合された外輪12b、固定軸(図示省略)に嵌合される内輪12a、内・外輪12a、12bの軌道面間に組込まれた複数のボール12c、ボール12cを保持する保持器12d、グリースを密封するシール12eを有する。
【0004】
この種のアイドラプーリでは、プーリ本体11がベルトから回転駆動力を受けて回転すると、これに嵌合された玉軸受12の外輪12bがプーリ本体11と一体となって回転する。
【0005】
上記のようなアイドラプーリにおいて、ベルトの中心が接触するプーリ周面11a1の幅方向中心位置は、玉軸受12の軸受中心線Yと一致するように設計するのが通例である。これは、ベルト荷重が玉軸受2に偏荷重として作用し、玉軸受2に好ましくない影響が生じるのを回避するためにそうするもので、従来より踏襲されてきたいわば設計上の基本的事項ともいうべきものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記のようなアイドラプーリを寒冷時に運転すると特異音(笛吹き音)が発生する場合がある。この寒冷時の特異音、いわゆる冷時異音は市場において必ずしも100%発生するわけではなく、気温等に左右され、国内では北海道など限られた地域でのみ発生する。また、自動車のエンジン始動時からごく短時間(長いものでも1分間程度)に発生し、その後は皆無である。冷時異音はこのような複雑な性質を有し、再現するのが困難であったため、その発生原因については、未だ明確には解明されていない。しかも、自動車等に使用されるアイドラプーリは高温、高速で運転されるものであり、その耐久性も重要な特性の一つであるから、耐久性低下につながるような対策手段は採れない。このような理由から、現在、アイドラプーリの冷時異音対策としてこれといって決め手となる有効な手段が提供されていないのが実状である。
【0007】
従来より、冷時異音対策として、低温特性に優れたグリース(寒冷時においても、転動体と内・外輪の軌道面との接触部に油膜がむらなく形成されるもの)を軸受に使用することが検討されている。この対策手段は、寒冷時におけるグリースの潤滑性能を高めることによって、冷時異音の発生を抑制しようとするものであり、かなりの効果が期待できる。しかし、グリースの粘度が低くなるため、高温時の潤滑性能に懸念があり、耐久性低下につながる可能性がある。
【0008】
また、内・外輪の軌道面の曲率半径を大きくしたり、軸受すきまを大きくすることで、冷時異音の発生が抑制されたとの報告もあるが、軌道面の曲率半径や軸受すきまの増大は、プーリ本体の角振れを増幅する結果となり、アイドラプーリとしての機能を害するおそれがある。
【0009】
さらに、プーリ本体のボス部(玉軸受の外輪を嵌合する部分)の外径に吸音効果を有する部材(ゴム状弾性体)を装着した事例(実開平3−41247号)、あるいは、プーリ本体の内径と玉軸受を嵌合するベアリングケースの外径との間に弾性体を介在させた事例もある(実開昭62−91056号)。これらの事例は、弾性体の内部減衰性を利用して、冷時異音の発生要因であると考えられる軸受の自励振動を吸収しようとしたものであるが、冷時においては弾性体の内部減衰性が低下すると考えられるため、冷時異音対策として充分な効果が期待できるかは定かではない。
【0010】
そこで、本発明は、アイドラプーリの耐久性、プーリとしての機能を確保しつつ、コスト面をも考慮に入れ、冷時異音の発生を効果的に抑制又は防止し得る手段を提供しようとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明では、ベルトが接触するプーリ周面を有するプーリ本体を玉軸受の外輪の外径に嵌合し、又は、ベルトが接触するプーリ周面を玉軸受の外輪の外径に一体に有する自動車のアイドラプーリにおいて、ベルトにより負荷されるラジアル荷重の荷重中心が玉軸受の軸受中心線からずれるように、ベルトの中心と玉軸受の軸受中心線とを軸方向にオフセットさせ、玉軸受の転動体がベルト荷重の非負荷領域を含む全ての公転移動領域において外輪の軌道面および内輪の軌道面と接触面圧をもって接触し、かつ、転動体の自転軸がその公転移動に伴って刻々変化する構成とした。
【0012】
また、本発明では、ベルトが接触するプーリ周面を有するプーリ本体を玉軸受の外輪の外径に嵌合し、又は、ベルトが接触するプーリ周面を玉軸受の外輪の外径に一体に有する自動車のアイドラプーリにおいて、ベルトにより負荷されるラジアル荷重の荷重中心が玉軸受の軸受中心線からずれるように、ベルトの中心が接触するプーリ周面の接触位置と軸受中心線とを軸方向にオフセットさせ、玉軸受の転動体がベルト荷重の非負荷領域を含む全ての公転移動領域において外輪の軌道面および内輪の軌道面と接触面圧をもって接触し、かつ、転動体の自転軸がその公転移動に伴って刻々変化する構成とした。
【0013】
寒冷時には、グリースの基油粘度上昇・稠度低下による軌道面の油膜むら・不均一化が生じやすい。油膜むら・不均一化があると、転動体と軌道面との間の摩擦係数が微小な周期的変化を起こし、これにより転動体に自励振動が生じる。特に、油膜切れ部分が存在すると、その部分で転動体がスティク滑りを起こし、転がり・滑りの状態変化を周期的に繰り返すために、ある一定の振動数で転動体の自励振動の振幅はより大きくなる。しかも、深溝玉軸受においては、ラジアル荷重によって転動体が負荷域から非負荷域に、あるいは、非負荷域から負荷域に移行する瞬間は、その挙動が特に不安定になり(転動体の遅れ進み等)、これが自励振動を一層助長させる。そして、このような自励振動をする転動体と内・外輪の軌道面との接触部分において異音が発生すると思われる。さらに、転動体の自励振動が外輪を介してプーリ本体に伝わり、プーリ本体の固有振動と共振して増幅され、共鳴音となって拡大する場合もある。
【0014】
冷時異音の発生メカニズムは未だ完全には解明されていないが、上記のように、転動体の自励振動が大きな要因になっていると考えられる。このような推論に基づき、いくつかの検証を試みたところ、以下の事象が判明した(表1、表2参照)。
【0015】
(1)軸受B(深溝玉軸受)を組込んだアイドラプーリに比べ、軸受A(複列アンギュラ玉軸受)を組込んだアイドラプーリは冷時異音の発生頻度が低い(表1参照)。
【0016】
(2)低温時の粘度が高いグリースを封入したアイドラプーリは、粘度の低いグリースを封入したアイドラプーリに比べ、冷時異音の発生頻度が高い(表2参照)。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
上記(1)(2)の事象から、転動体の挙動の自由度、冷時における軌道面の油膜形成状態が、冷時異音の発生に大きな影響を及ぼしていることが裏付けられる。
【0020】
本発明は、上記のような推論及び検証結果に基づき、ベルト中心と玉軸受の軸受中心線とをオフセットさせた構成、ベルトの中心が接触するプーリ周面の接触位置と軸受中心線とを軸方向にオフセットさせ構成を採用することにより、冷時異音の発生を効果的に抑制又は防止したものである。
【0021】
【作用】
ベルト中心と玉軸受の軸受中心線とをオフセットさせることにより、ベルトにより負荷されるラジアル荷重の荷重中心が軸受中心線からずれる。この荷重中心のずれにより、玉軸受にモーメント荷重が作用し、外輪に傾き回転が生じる。そして、外輪が軸受中心線に対して傾くことにより、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に斜行状態が生じ、そのため、転動体は内・外輪の軌道面と所定面圧以上で接触角をもって(溝底をはずれた位置で)接触しながら転動する。このような転動体の挙動は、以下の解析結果により裏付けされる。
【0022】
図12は、オフセット量{ベルト中心と軸受中心線との軸方向のずれ量(荷重負荷時)}と接触角分布との関係、図13および図14は、オフセット量と外輪、内輪の接触面圧との関係を示す。尚、これらの解析結果は玉軸受として深溝玉軸受を用いた場合のものであり、オフセット量=0の構成が従来のアイドラプーリに該当する。また、これら図における周方向角度(位相角)は、ベルトの接触中央位置(プーリ周面との接触部分における円周方向中央位置)を基準(0°)とし、そこから固定軸回りにとった角度である。
【0023】
まず、図12に示す結果から、オフセット量=0の構成では、転動体の接触角が全ての周方向角度においてゼロであるのに対し、オフセット量を設けた構成では、転動体が殆ど全ての周方向角度において接触角をもって内・外輪の軌道面と接触する。しかも、転動体の接触角は周方向角度によって異なっており、このことは、転動体の自転軸が公転に伴って刻々変化することを示している。
【0024】
つぎに、図13および図14に示す結果から、オフセット量=0の構成では、ベルト荷重の非負荷領域付近において接触面圧がゼロになるのに対し(周方向角度100°〜250°付近)、オフセット量を設けた構成では、転動体が非負荷領域を含む全領域において所定値以上の接触面圧をもって内・外輪の軌道面と接触する。特に、ベルトの接触中央位置からもっとも離れた周方向角度180°の位置において、接触面圧の小ピーク状態が表れるのが特徴的である。この状態は、図12の接触角分布に対応している。
【0025】
以上の解析結果から明らかなように、本発明のアイドラプーリにおいては、▲1▼全ての転動体が内・外輪の軌道面と所定面圧以上で接触角をもって接触し、▲2▼各転動体の自転軸(接触角)がその公転移動に伴って刻々変化する。
【0026】
▲1▼全ての転動体が内・外輪の軌道面と所定面圧以上で接触角をもって接触することにより、転動体はその挙動、特に、軸方向への挙動が抑制されるため、仮に何らの起振要因が作用した場合でも、自励振動を生じにくい。しかも、▲2▼各転動体の自転軸がその公転移動に伴って刻々変化することにより、転動体に付着した新しい潤滑剤が軌道面との接触部分に常に供給され、油膜が形成され易くなるので、起振要因となる摩擦係数の周期的変化、転動体のスティック滑りが生じにくい。本発明において、冷時異音の発生が効果的に抑制又は防止されるメカニズムは、このような転動体の挙動抑制機能、油膜形成促進機能の相互作用によるものと考えられる。そして、図12〜図14から明らかなように、接触角および接触面圧の大きさはオフセット量に関係するので、オフセット量を管理することにより、周囲環境、運転条件等に応じた最適設定、変更等を極めて容易に行なうことができる。
【0027】
尚、上記▲1▼▲2▼は、冷時異音発生防止のための最も好ましい状態を示すもので、必ずしも全ての転動体が上記▲1▼▲2▼の状態に該当する必然性はなく、少なくともベルト荷重の負荷域にある転動体が上記▲1▼▲2▼の状態に該当すれば、かなりの抑制効果が期待できる。
【0028】
ベルトの中心が接触するプーリ周面の接触位置と軸受中心線とを軸方向にオフセットさせたアイドラプーリは、プーリ周面にベルトを接触させると、ベルトにより負荷されるラジアル荷重の荷重中心が軸受中心線からずれる。すなわち、その幾何学的構造により、荷重中心を軸受中心線からずれせる機能を有している。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。
【0030】
図1に示すアイドラプーリは、自動車の補機駆動ベルト等に使用されるものである。このアイドラプーリは、例えば鋼板プレス製のプーリ本体1と、プーリ本体1の内径に嵌合された玉軸受2とで構成される。プーリ本体1は、円筒部1a、円筒部1aの一端から外径側に延びたフランジ部1b、円筒部1aの他端から内径側に延びた鍔部1cからなる環体である。円筒部1aの内径には、玉軸受2の外輪2aが嵌合され、円筒部1aの外径には、図示されていないベルトが接触するプーリ周面1a1が設けられている。フランジ部1bは、プーリ周面1a1に接触するベルトを案内するために設けられている。プーリ周面1a1にベルトが接触することにより、アイドラとしての役割を果たす。
【0031】
玉軸受2は深溝玉軸受で、プーリ本体1の円筒部1aの内径に嵌合された外輪2a、図示されていない固定軸に嵌合される内輪2b、内・外輪2a、2bの軌道面間に組込まれた複数のボール2c、および、ボール2cを円周等間隔に保持する保持器(図示省略)、グリースを密封する一対のシール(図示省略)で構成される。
【0032】
ベルト中心が接触するプーリ周面1a1の接触位置(幅方向中心位置)Zと、玉軸受2の軸受中心線Yとは、軸方向に寸法δだけオフセットされている。そのため、ベルトにより負荷されるラジアル荷重の荷重中心が玉軸受2の軸受中心線Yから所定量だけずれる。この荷重中心のずれにより、玉軸受2にモーメント荷重が作用し、外輪2aに傾き回転が生じる。そして、外輪2aが軸受中心線Yに対して傾くことにより、外輪2aの軌道面と内輪2bの軌道面との間に斜行状態が生じ、そのため、全てのボール2cが内・外輪2a、2bの軌道面と所定面圧以上で接触角をもって(溝底をはずれた位置で)接触しながら転動する。これにより、前述したメカニズムに基づき、冷時異音の発生が防止される。尚、この実施例において、接触位置Zは、プーリ周面1a1の軸方向中心と一致する。
【0033】
上記構成のアイドラプーリについて試験を行なった。その結果を表3、表4、および、図9、図10、図11に示す。
【0034】
まず、表3、表4は、オフセット量δ’(mm){δ’はベルト中心と軸受中心線との軸方向のずれ量(荷重負荷時)}と冷時異音の発生率(%)との関係を示している。表3は玉軸受2にグリースAを封入した場合、表4は玉軸受2にグリースBを封入した場合の試験結果である。運転条件は両者とも同じである。
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
表3、表4において、オフセット量δ’=2.0mmで、冷時異音の発生率は激減し、δ’=3.0mm以上ではゼロになっている。
【0038】
つぎに、図9〜図11は、オフセット量δ’(mm)と音響の音圧レベル(dB)との関係を示している。音圧がNdB以上の音響が冷時異音である。図9は玉軸受2にグリースCを封入した場合、図10は玉軸受2にグリースDを封入した場合、図11は玉軸受2にグリースEを封入した場合の試験結果である。運転条件はすべて同じである。
【0039】
図9〜図11において、オフセット量δ’=2.0mm以下では冷時異音の発生が認められたが、2mm〈δ’の領域では、冷時異音の発生が完全に防止されている。尚、図9〜図11における右端のデータは、オフセット量δ’=0mmの構成について再評価したものである。
【0040】
以上の試験結果から、オフセット量δ’を所定以上の値に設定することにより、封入グリースの種類に関係なく、冷時異音の発生を完全に防止できることが明らかになった。一方、オフセット量δ’を所定の限界値以下の値とすることにより、耐久性等の要求との均衡を図ることができると考えられる。
【0041】
図2に示すアイドラプーリでは、プーリ本体1の形状が、図1に示す構成とは異なっている。この実施例のプーリ本体1は、玉軸受2を嵌合する内径円筒部1d、ベルトを掛けるための外径円筒部1e、内径円筒部1dと外径円筒部1eとを連結する連結部1f、内径円筒部1dの両端からそれぞれ内径側に延びた鍔部1g、1hからなる環体である。玉軸受2の外輪2aは内径円筒部1dの内径に嵌合され、鍔部1g、1hによって軸方向の両側に位置決めされる。外径円筒部1eの外径には、ベルトが接触するプーリ周面1e1が設けられている。ベルト中心が接触するプーリ周面1e1の接触位置Zと、玉軸受2の軸受中心線Yとは、軸方向に寸法δだけオフセットされている。そのため、図1に示す構成と同様の作用効果を奏する。
【0042】
図3に示すアイドラプーリでは、プーリ本体1のプーリ周面1j1にクラウニングが設けられ、かつ、このクラウニングの凸中心Uと、玉軸受2の軸受中心線Yとが、軸方向に寸法δだけオフセットされている。ベルトの走行時、ベルト中心はクラウニングの凸中心Uと一致し、軸方向中心線に対して所定量だけオフセットされる。そのため、図1に示す構成と同様の作用効果を奏する。尚、この実施例のプーリ本体1は、円筒部1jからなる環体で、円筒部1jの内径に玉軸受2の外輪2aが嵌合され、円筒部1jの外径にプーリ周面1j1が設けられる。プーリ周面1j1の軸方向中心は、玉軸受2の軸受中心線Yと一致する。
【0043】
図4に示すアイドラプーリでは、プーリ本体1の形状が、図3に示す構成とは異なっている。この実施例のプーリ本体1は、例えば2つの鋼板プレス部材を突き合わせ結合したもので、玉軸受2を嵌合する内径円筒部1k、ベルトを掛けるための外径円筒部1m、内径円筒部1kと外径円筒部1mとを連結する連結部1n、内径円筒部1kの両端からそれぞれ内径側に延びた鍔部1p、1qからなる環体である。玉軸受2の外輪2aは内径円筒部1kの内径に嵌合され、鍔部1p、1qによって軸方向の両側に位置決めされる。外径円筒部1mの外径に、ベルトが接触するプーリ周面1m1が設けられている。そして、プーリ周面1m1に設けられたクラウニングの凸中心Uと、玉軸受2の軸受中心線Yとが、軸方向に寸法δだけオフセットされている。そのため、図1に示す構成と同様の作用効果を奏する。
【0044】
図5に示すアイドラプーリでは、玉軸受2が左右非対称形状になっている。プーリ本体1の形状は、図1に示す構成と同様である。玉軸受2が左右非対称形状であることにより、ベルト中心が接触するプーリ周面1a1の接触位置Zと、玉軸受2の軸受中心線Yとが、軸方向に寸法δだけオフセットされる。そのため、図1に示す構成と同様の作用効果を奏する。
【0045】
図6に示すアイドラプーリでは、ベルトの接触するプーリ周面2a1が玉軸受2の外輪2a(笠型外輪)の外径に直接設けられ、かつ、ベルト中心が接触するプーリ周面2a1の接触位置Vと、玉軸受2の軸受中心線Yとが、軸方向に寸法δだけオフセットされている。そのため、図1に示す構成と同様の作用効果を奏する。尚、この実施例のアイドラプーリは、以上の実施例におけるプーリ本体1は備えていない。
【0046】
図7に示すアイドラプーリは、ベルト3のベルト中心が接触するプーリ周面1r1の接触位置Wと、玉軸受2の軸受中心線Yとが、軸方向に寸法δだけオフセットされるように、エンジンブロック4に装着されている。そのため、図1に示す構成と同様の作用効果を奏する。尚、この実施例のプーリ本体1は、円筒部1rからなる環体で、円筒部1rの内径に玉軸受2の外輪2aが嵌合され、円筒部1rの外径にベルト3が接触するプーリ周面1r1が設けられている。
【0047】
尚、以上の実施例において、種々の形状のプーリ本体1を例示してあるが、本発明は、プーリ本体の形状は特に問わない。また、固定軸の外径に固定側軌道面(内輪の軌道面に相当)を直接設けたアイドラプーリにも同様に適用可能である。
【0048】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、ベルトにより負荷されるラジアル荷重の荷重中心が玉軸受の軸受中心線からずれるように、ベルト中心と玉軸受の軸受中心線とをオフセットさせた構成、ベルトの中心が接触するプーリ周面の接触位置と軸受中心線とを軸方向にオフセットさせた構成を有するので、アイドラプーリとして以下に挙げる特有の効果を奏する。
【0049】
(1)オフセットを設けることにより、少なくともベルト荷重の負荷域にある転動体が、▲1▼内・外輪の軌道面と所定面圧以上で接触角をもって接触し、▲2▼各転動体の接触角(自転軸)がその公転移動に伴って刻々変化するので、転動体はその挙動を抑制され、しかも、転動体の自転軸の変化に伴い、軌道面に新たな潤滑剤が常時供給され、油膜形成が促進される。このような、転動体の挙動抑制機能、油膜形成促進機能の相互作用によって、冷時異音の発生が効果的に抑制又は防止される。
【0050】
(2)特に、オフセット量を所定値以上の値に設定することにより、冷時異音の発生が完全に防止できることが実験により確認されており、従来、困難とされていた冷時異音発生の完全防止を実現できたことは、きわめて大きな技術意義をもつ。
【0051】
(3)オフセット量を管理するだけで、周囲環境、運転条件等に応じた最適設定、変更等を極めて容易に行なうことができる。
【0052】
(4)上記効果は封入グリースの種類を問わず実現できるので、低温グリース等を使用した従来構成のように、高温耐久性の低下につながる心配がない。
【0053】
(4)構造を複雑化させる要因が少なく、コスト的にも有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例を示す断面図である。
【図3】本発明の実施例を示す断面図である。
【図4】本発明の実施例を示す断面図である。
【図5】本発明の実施例を示す断面図である。
【図6】本発明の実施例を示す断面図である。
【図7】本発明の実施例を示す断面図である。
【図8】従来のアイドラプーリを示す断面図である。
【図9】オフセット量(δ’)と音圧レベルとの関係を示す図である。
【図10】オフセット量(δ’)と音圧レベルとの関係を示す図である。
【図11】オフセット量(δ’)と音圧レベルとの関係を示す図である。
【図12】オフセット量と接触角分布との関係を示す図である。
【図13】オフセット量と外輪の接触面圧との関係を示す図である。
【図14】オフセット量と内輪の接触面圧との関係を示す図である。
【符号の説明】
1 プーリ本体
2 玉軸受
Y 軸受中心線
Z 接触位置
U 接触位置
V 接触位置
W 接触位置
δ オフセット量
Claims (2)
- ベルトが接触するプーリ周面を有するプーリ本体を玉軸受の外輪の外径に嵌合し、又は、ベルトが接触するプーリ周面を玉軸受の外輪の外径に一体に有する自動車のアイドラプーリにおいて、
上記ベルトにより負荷されるラジアル荷重の荷重中心が玉軸受の軸受中心線からずれるように、上記ベルトの中心と玉軸受の軸受中心線とが軸方向にオフセットされ、上記玉軸受の転動体がベルト荷重の非負荷領域を含む全ての公転移動領域において上記外輪の軌道面および内輪の軌道面と接触面圧をもって接触し、かつ、上記転動体の自転軸がその公転移動に伴って刻々変化することを特徴とするアイドラプーリ。 - ベルトが接触するプーリ周面を有するプーリ本体を玉軸受の外輪の外径に嵌合し、又は、ベルトが接触するプーリ周面を玉軸受の外輪の外径に一体に有する自動車のアイドラプーリにおいて、
上記ベルトにより負荷されるラジアル荷重の荷重中心が玉軸受の軸受中心線からずれるように、上記ベルトの中心が接触するプーリ周面の接触位置と軸受中心線とが軸方向にオフセットされ、上記玉軸受の転動体がベルト荷重の非負荷領域を含む全ての公転移動領域において上記外輪の軌道面および内輪の軌道面と接触面圧をもって接触し、かつ、上記転動体の自転軸がその公転移動に伴って刻々変化することを特徴とするアイドラプーリ。
Priority Applications (5)
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