JP3579722B2 - 布帛の漂白法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は布帛の漂白を、薬液と紫外線、及び/又は可視光(以下、紫外・可視光ともいう)の光源からの光エネルギーを用いて行う方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、布帛の漂白は、布帛に付着している着色物質を酸化剤、又は還元剤で処理し発色に関与する共役π電子系を切断することにより行われている。
これらの工程は、上記酸化剤、又は還元剤による0.5ないし2時間程度の煮沸とその後の洗浄を行うか、これらの薬剤の適当濃度の溶液をパディングにより布重量の80〜110%量を布帛に付着させた後、これを95℃前後の蒸気雰囲気中で0.5〜1時間前後蒸熱することにより行っていが、一般的には木綿や麻などの植物性繊維織物の場合には酸化剤が多く用いられ、絹や毛織物の場合には還元剤が多く用いられている。
【0003】
このような従来の漂白方法では、酸化剤、又は還元剤と繊維内着色物質との反応は、溶媒である水の加熱を通した熱エネルギーにより行っている。この方法は熱容量の大きい水を沸点まで加熱し、かつその温度を反応に要する時間保持する必要がある為に大きな熱量を要するものである為に反応塔全体が大型化されてしまう等の不具合があった。
【0004】
また、これらの漂白過程は高温で行われるので、大量のエネルギーを要する多消費型プロセスであり、その為に多量の二酸化炭素の放出を伴うという問題も有している。
【0005】
また、現在では酸化剤として多くの場合、亜塩素酸塩や次亜塩素酸塩等のハロゲン系薬剤を用いた方法が用いられているが、これらのハロゲン原子を含む薬剤は環境に対する負荷が大きいという問題を有している。
【0006】
また、これらのハロゲン原子を含む薬剤は人体に対する危険性も大きいので、操業安全性にも問題を有している。
【0007】
その為に非ハロゲン系酸化剤として過酸化水素が用いられているが、過酸化水素は急激な反応により繊維を脆化する恐れがあるので、分解抑止剤を添加して分解を遅延させながら長時間掛けて徐々に反応させなければならないことから、蒸気熱を長時間に亘って使用しなければならず、その上繊維の仕上りが硬くなるという問題点がある。
【0008】
また還元剤としては、ハイドロサルファイトやSO2が使われるが、これらは漂白カが弱く漂白に対して十分な漂白効果が得られないという問題点もあった。
【0009】
以上述べた問題点を解決するために、水素化ホウ素ナトリウム又は過酸化水素とレーザー照射(特開平11−43861)、及び水素化ホウ素ナトリウムと通常の紫外光源による光照射(特開平11−43862)が報告されているが、ホウ素は1999年2月より環境基準健康項目に指定された為、その大量の使用は避ける必要が生じた。また、過酸化水素とレーザー照射では、布帛の脆化が認められるという問題点が有る。
【0010】
この様に、いずれの場合も、(I)布帛の脆化が起こりやすい、(II)環境負荷物質を用いる、(III)高温処理を要する、(IIII)処理時間が長い、等の少なくとも一つの問題点をかかえている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、高温下での長時間の処理を要することなく室温で脆化を伴うことなく布帛を効率的に漂白できると共に環境負荷が小さく操業安全性に優れ、しかも二酸化炭素排出の削減が可能な省エネルギー的漂白方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはこのような、布帛の漂白に際しての難点を克服するため鋭意研究を重ねた結果、有機光化学的知見、レーザー反応、及びシリルヒドリド系薬剤の特徴を組み合わせることにより、その目的が達成しうることを見い出し、この知見に基づき本発明をなすに至った。
【0013】
すなわち本発明は、
(1)布帛を還元剤の存在下、紫外線、及び/又は可視光照射により漂白する方法において、該還元剤としてシリルヒドリド系化合物を用いたことを特徴とする布帛の漂白方法、
(2)シリルヒドリド系化合物が有機シラン化合物であることを特徴とする上記(1)に記載の方法、
(3)紫外線、及び/又は可視光の波長が190〜600nmであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の方法、
(4)紫外線、及び/又は可視光がそのレーザ光であることを特徴とする上記(1)乃至(3)3何れかに記載の方法、
を提供するものである。
【0014】
本発明方法は布帛に含まれている着色物質の芳香環や多重結合から成るπ電子共役系有機化合物が、紫外・可視光照射により基底状態から励起状態への電子励起が起こり、その結果、より活性な性質を有する状態に転じ、そのことにより還元剤との反応性が高まり該着色物質の分解反応若しくは無色化反応が促進される現象、あるいは、その逆に該紫外・可視光照射により還元剤がより活性な物質に転じ、そのことにより着色物質との反応性が向上し、該着色物質の分解若しくは無色化反応が増大する現象を巧みに利用したものとあるが、必ずしもこの反応機構に限定されるものではなく、シリルヒドリド系化合物の存在下で紫外・可視光を照射することにより起こる反応を包括する。
【0015】
本発明方法は、布帛とシリルヒドリド系化合物を接触させた所に紫外・可視光を照射すればよく、特にその実施の態様に制限はない。
【0016】
本発明でいう、シリルヒドリド系化合物とは、ケイ素に直接結合した水素原子を有する化合物と定義され、このような構造を有する、有機化合物、無機化合物、有機と無機の複合体等いずれの化合物も包含される。また、単量体、二量体以上の多量体、オリゴマー、ポリマーのいずれであっても良い。
【0017】
このようなシリルヒドリド系化合物としては、アルコキシシリルヒドリド、トリアルキルシリルヒドリド、モノアルキルシリルヒドリド、アルコキシ水素シロキサンの繰り返し単位を有するポリシロキサン、アルコキシ水素シロキサンを含むポリシロキサン、アルキル水素シロキサンの繰り返し単位を有するポリシロキサン、アルキル水素シロキサンを含むポリシロキサン、無機シロキサン、無機ポリシロキサン、及びこれらの混合物等が挙げられる。
本発明で特に好ましく用いられるシリルヒドリド系化合物は、トリエトキシシシリルヒドリド、トリメトキシシシリルヒドリド、トリブチルシリルヒドリド、オクタデシルシリルヒドリド、テトラメチルジシロキサン等の有機シラン化合物である。
【0018】
シリルヒドリド系化合物はそのままの形で使用しても良いが、紫外・可視光を透過する溶媒に分散若しくは溶解させて使用することが望ましい。
溶媒としては水、アルコール類、鎖状または環状のアルカン類、エーテル類、等の紫外・可視光を透過する溶媒、或いはそれらの混合溶媒を用いることができる。
【0019】
シリルヒドリド系化合物の濃度は、溶媒に対する飽和濃度以下であれば特に制限はないが、好ましくは溶媒に対して、0.01〜40重量%、より好ましくは0.1〜20重量%とするのが適当である。
【0020】
本発明の漂白方法を行うには、これらのシリルヒドリド系化合物又はその溶液をパディングやスプレー等により布帛に含ませ、この布帛が静止した状態、又は移動している状態で光照射を行えばよい。光照射温度には特に制限は無く、用いた溶媒の凝固点以上、沸点以下であればよいが、好ましくは−80℃〜100℃、より好ましくは0〜50℃である。
【0021】
紫外・可視光源としては特に制限はなく、波長が180〜800nm、好ましくは190〜600nm程度のものを用いることが望ましい。光源として低圧水銀灯、高圧水銀灯、キセノン灯等の通常の光源や、各種エキシマランプ等を用いることができる。照射光強度にも特に制限は無いが、紫外・可視光として0.1mW〜10kWの光源が適している。
【0022】
レーザー光源としては特に制限はなく、レーザー光はパルス光でも連続照射光でもよいが、エキシマレーザー(ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザー、XeClエキシマレーザー、XeFエキシマレーザー等)、アルゴンイオンレーザー、クリプトンイオンレーザー、YAGレーザーの第2、及び第3高調波等を用いることができる。紫外・可視レーザー光としては、特別な制約はないが、波長が180〜800nm、好ましくは190〜600nm程度のものを用いることが望ましい。レーザー照射光強度にも特に制限は無いが、パルス光では0.1mJ/パルス〜1kJ/パルス、連続光は0.1mW〜10kWの光源が適している。
【0023】
光照射時間は、布帛の着色度、シリルヒドリド系化合物あるいは溶媒の種類やその濃度更には、照射紫外・可視光の種類や光強度等を考慮することにより適宜定められるが、通常、1〜60分もあれば充分である。光照射後に、シリルヒドリド系化合物、及びその光反応等により生じた化合物等を、溶媒等により除去し、引き続き乾燥する事により布帛の漂白を完了することができる。
【0024】
【実施例】
次に実施例に基づき、本発明を更に詳細に説明する。
【0025】
実施例1
糊抜精錬済み綿布を3%トリエトキシシリルヒドリドの水溶液にてパディングした後、40mJ/cm2・パルス、5Hzのクリプトンフッ素エキシマレーザーを1分間照射した後洗浄し、乾燥後に拡散反射装置の付いた紫外可視分光光度計により布帛(1枚)の白色度(JIS Z 8715)と黄色度(JIS K 7103)は、それぞれ39.21と6.46であった。
【0026】
実施例2
実施例1と同様の操作を、3%トリエトキシシリルヒドリドの水溶液の代わりに6%トリエトキシシリルヒドリドのエタノール溶液を用いて行った所、布帛(1枚)の白色度(JIS Z 8715)と黄色度(JIS K 7103)は、それぞれ41.31と4.99であった。
【0027】
実施例3
実施例1と同様の操作を、3%トリエトキシシリルヒドリドの水溶液の代わりに6%トリメトキシシリルヒドリドのエタノール溶液を用いて行った所、布帛(1枚)の白色度(JIS Z 8715)と黄色度(JIS K 7103)を測定したところ、それぞれ44.37と4.49であった。
【0028】
実施例4
実施例1と同様の操作を、3%トリエトキシシリルヒドリドの水溶液の代わりに6%トリブチルシリルヒドリドのエタノール溶液を用いて行った所、布帛(1枚)の白色度(JIS Z 8715)と黄色度(JIS K 7103)は、それぞれ40.90と6.53であった。
【0029】
実施例5
実施例1と同様の操作を、3%トリエトキシシリルヒドリドの水溶液の代わりに6%オクタデシルシリルヒドリドのエタノール溶液を用いて行った所、布帛(1枚)の白色度(JIS Z 8715)と黄色度(JIS K 7103)は、それぞれ41.82と6.44であった。
【0030】
実施例6
実施例1と同様の操作を、3%トリエトキシシリルヒドリドの水溶液の代わりに6%テトラメチルジシロキサンのエタノール溶液を用いて行った所、布帛(1枚)の白色度(JIS Z 8715)と黄色度(JIS K 7103)は、それぞれ41.19と6.44であった。
【0031】
実施例7
実施例1と同様の操作を、3%トリエトキシシリルヒドリドの水溶液の代わりに6%SM8707(ダウ コーニング社製)のエタノール溶液を用いて行った所、布帛(1枚)の白色度(JIS Z 8715)と黄色度(JIS K 7103)は、それぞれ38.13と7.27であった。
【0032】
比較例1
糊抜精錬済み綿布を水で洗浄し、乾燥後に拡散反射装置の付いた紫外可視分光光度計により布帛(1枚)の白色度(JIS Z 8715)と黄色度(JIS K 7103)を測定したところ、それぞれ31.63と9.74であった。
【0033】
比較例2
実施例1と同様の操作を、3%トリエトキシシリルヒドリドの水溶液の代わりに水を用いて行ったところ、布帛(1枚)の白色度(JIS Z 8715)と黄色度(JIS K 7103)は、それぞれ34.55と8.32であった。
【0034】
比較例3
実施例1と同様の操作を、3%トリエトキシシリルヒドリドの水溶液の代わりにエタノールを用いて行ったところ、布帛(1枚)の白色度(JIS Z 8715)と黄色度(JIS K 7103)は、それぞれ34.56と8.22であった。
【0035】
【発明の効果】
以上説明したように本発明に従うと、高温下での長時間の処理を要することなく室温で布帛の脆化をもたらすことなく効率よく漂白できる。
また、布帛の漂白を紫外・可視光照射下で環境負荷の小さいシリルヒドリド系化合物を用いて行うことができので、従来法の欠点であるハロゲン原子を含む漂白剤を用いることによる環境への大きな負荷と操業安全性の問題、及び高温で処理を行うことによる大量の二酸化炭素排出と多量のエネルギーの消費、という難点が除かれる。従って、本発明は布帛の漂白法として工業的に極めて好適なものである。
Claims (4)
- 布帛を還元剤の存在下、紫外線、及び/又は可視光照射により漂白する方法において、該還元剤としてシリルヒドリド系化合物を用いたことを特徴とする布帛の漂白方法。
- シリルヒドリド系化合物が有機シラン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 紫外線、及び/又は可視光の波長が190〜600nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
- 紫外線、及び/又は紫外可視光がそのレーザ光であることを特徴とする請求項1乃至3何れかに記載の方法。
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