JP3542012B2 - 薄膜ガスセンサ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はフォスフィン、アルシン、ジボラン、シラン、ゲルマン、ジシラン、及びセレン化水素等の人体に有害な半導体用特殊材料ガスを高感度で検知する半導体ダイヤモンドを使用した薄膜ガスセンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
ダイヤモンドは耐熱性が優れており、通常は絶縁体であるが、不純物元素のドーピングにより半導体化できる。このような特徴によりダイヤモンドは高温用のセンサ材料として注目されている。
【0003】
このようなダイヤモンド膜を形成するためのダイヤモンド膜の気相合成法としては、マイクロ波化学気相蒸着(CVD)法(例えば、特公昭59−27754、特公昭61−3320)、高周波プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法、直流プラズマCVD法、プラズマジェット法、燃焼法及び熱CVD法等がある。気相合成法は、天然ダイヤモンド及び高温高圧合成による単結晶ダイヤモンドに比べ、膜状のダイヤモンドを大面積且つ低コストで得ることができるという利点がある。
【0004】
通常のダイヤモンド膜は粒子がランダムに配向した多結晶膜である。しかし、合成条件を調整することにより、膜表面の殆ど全ての領域がダイヤモンド(111)結晶面又は(100)結晶面から構成される高配向性ダイヤモンド膜を形成することができる。また、基板に(100)方位の単結晶シリコンを使用し、「バイアス核発生」とよばれる前処理を施すと、この基板上にはダイヤモンド(100)結晶面が膜面内で配向した高配向性膜を合成することができる。また、基板に白金を使用すると、結晶欠陥が少ないダイヤモンド膜を合成することができる。更に、基板が単結晶白金でその表面が白金(111)結晶面である場合には、気相合成によりダイヤモンド(111)結晶面が融合し、単結晶ダイヤモンドに近い高品質のダイヤモンド薄膜を合成することができる。
【0005】
ダイヤモンドの電気的特性はダイヤモンド表面処理により強く影響されることが知られている。ダイヤモンド表面を水素プラズマで処理すると、ダイヤモンド表面が導電性を帯びる。逆に、表面を酸素プラズマ等で酸化すると、ダイヤモンド表面は電気的絶縁性となる。
【0006】
而して、このようなダイヤモンド膜を使用した薄膜ガスセンサが公知である(特開平5−72163)。この従来のガスセンサは、基板上にダイヤモンド半導体層を積層し、このダイヤモンド半導体層上に1対の電極を形成して構成されている。この電極間の抵抗を測定することにより、センサが置かれた雰囲気のガスの存在及びガス濃度を検知することができる。
【0007】
なお、検知対象となるガスの濃度をxppm、検知対象となるガスの濃度がゼロのときにガスセンサにより検出された電極間の抵抗値をR0、検知対象となる濃度xppmのガスに曝した場合のガスセンサの抵抗値をR(x)とし、実用温度(通常は150℃〜400℃)におけるガスセンサの感度Sを下記数式1により定義する。
【0008】
【数1】
S=|R(x)−R0|×100/(x×R0) (%/ppm)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この定義により得られるガスセンサの感度Sは、前述の従来技術においては通常1%/ppm以下であり、最高でも約7%/ppm以下にすぎない。このため、従来の薄膜ガスセンサは、極めて感度が低いという欠点を有する。
【0010】
特に、フォスフィン、ジボラン及びシラン等のように、人体に対し毒性が高いガスの漏洩が生じた場合、ガス濃度が低い段階(例えば0.1ppm)でこれを検出しなければならないのに対し、従来のガスセンサでは感度が低いために、0.1ppmでは電極間抵抗値がノイズに隠れて検知できない。このため、従来のガスセンサは、実際上、このような安全性が問題となるガスセンサとして実用化することは困難である。
【0011】
前記公報に記載の従来のガスセンサの実施例では、基板に単結晶を使用しており、この単結晶基板上に気相合成により積層した半導体ダイヤモンド膜の結晶性は、一般には非ダイヤモンド基板上に合成した半導体ダイヤモンド膜より優れていると考えられる。それにも拘わらず、単結晶ダイヤモンドを基板とした従来のガスセンサが、前述の非実用的な感度しか得られていないのは、その素子構造に致命的な欠陥があるからである。
【0012】
なお、前記公報には、その実施例としてバルク単結晶ダイヤモンドを基板として使用したものがある。しかし、このようにバルク単結晶ダイヤモンドを使用する場合は、製造コストが極めて高価になり、この点からも実用化が極めて困難である。
【0013】
従来技術における薄膜ガスセンサでは、基板はその電気抵抗が10,000Ωcm以上の電気絶縁性材料であり、感ガス薄膜が形成されている基板面と反対側の面に白金からなるヒータが形成され、ヒータの電気抵抗を参照してガスセンサの温度を推測している。このために、ヒータと感ガス部の温度は大きく異なっていることが普通であり、またヒータから感ガス部への熱伝達による時間的遅れが生じ、温度制御が困難であるという問題がある。
【0014】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、ホスフィン、ジボラン及びシラン等のように、人体に対し毒性が高いガスの漏洩が生じた場合にも、ガス濃度が低い段階(例えば0.1ppm)でこれを検出することができる高感度の薄膜ガスセンサを提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る薄膜ガスセンサは、アンドープ・ダイヤモンド層と、このアンドープ・ダイヤモンド層上に形成されたp型半導体ダイヤモンド層と、このp型半導体ダイヤモンド層の上に形成された第2のアンドープ・ダイヤモンド層と、この第2のアンドープ・ダイヤモンド層の上に形成され前記p型半導体ダイヤモンド層における電気抵抗の変化を検出する1対の電極とを有し、この電極の検出結果によりガスの存在又はその濃度を検知することを特徴とする。また、本発明に係る他の薄膜ガスセンサは、アンドープ・ダイヤモンド層と、このアンドープ・ダイヤモンド層上に形成されたp型半導体ダイヤモンド層と、このp型半導体ダイヤモンド層の上に形成された非ダイヤモンド性カーボン層と、この非ダイヤモンド性カーボン層の上に形成され前記p型半導体ダイヤモンド層における電気抵抗の変化を検出する1対の電極とを有し、この電極の検出結果によりガスの存在又はその濃度を検知することを特徴とする。
【0016】
本発明においては、ガス検知部としてのp型半導体ダイヤモンド層を、アンドープ・ダイヤモンド層上に形成しているので、その結晶性が優れており、また気相合成ダイヤモンド膜を使用するので、バルク単結晶ダイヤモンドを使用する場合に比して製造コストが極めて低い。そして、本発明の薄膜ガスセンサは、極めて高感度であるので、フォスフィン、アルシン、ジボラン、シラン、ゲルマン、ジシラン及びセレン化水素等の人体に有害な半導体用特殊材料ガスを高感度で検知することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例について添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は本発明の第1実施例に係る薄膜ガスセンサを示す断面図である。非ダイヤモンドからなる基板4上に、気相合成により、アンドープ・ダイヤモンド層1と、厚さが1μm以下のp型半導体ダイヤモンド層2が順次積層されている。このような2層膜をセンサ部とすることにより、p型半導体ダイヤモンド層2が厚さ1μm以下の薄膜でも、ダイヤモンドの連続膜として形成できる。このp型半導体ダイヤモンド層2上には、1対の例えば白金からなる電極6が適長間隔をおいて、形成されている。これらの電極6には夫々配線7がペースト8により被覆されて接着されている。また、基板4の裏面には、抵抗材料を薄膜でパターン形成することにより、ヒータ11が設けられている。
【0018】
このように構成された薄膜ガスセンサにおいては、ヒータ11によりセンサ部を所定温度に加熱しておき、センサ部が動作状態にあるときに、センサ部表面にガス種が吸着すると、p型半導体ダイヤモンド層2に空乏層が拡がり、電気抵抗が変化する。この電気抵抗の変化を電極6間に電圧を印加することにより検知する。これにより、ガスの存在がp型半導体ダイヤモンド層2における電気抵抗値の変化として検出される。また、この電気抵抗値と、ガス濃度との関係を予め求めておけば、その関係をもとに、検出電気抵抗値からガス濃度を検知することができる。
【0019】
図11に示すように、p型半導体ダイヤモンド層2の厚さが1μm以上であると、空乏層の割合が小さいために電気抵抗の変化に及ぼす影響も相対的に小さくなり、結果的に感度が低くなる。一方、ダイヤモンドはその表面エネルギーが大きいので、通常、異種材料からなる基板上にダイヤモンドを合成する場合は3次元的に成長し、1μm以下の連続膜を形成することは難しい。しかし、本発明のように絶縁性のアンドープダイヤモンド層1を予め成膜し、その上にセンサ部の中心である半導体ダイヤモンド層2を形成することにより、厚さが1μm以下の半導体ダイヤモンド層2を形成することができる。また、本発明においては、アンドープ・ダイヤモンド層1の上に積層される半導体層がp型半導体ダイヤモンド層2であるので、この半導体層の結晶性が優れている。更に、p型半導体ダイヤモンド層2は気相合成により形成できるために、製造コストが極めて低い。
【0020】
本発明のアンドープ・ダイヤモンド膜1が合成される基板4は、シリコン、窒化シリコン、酸化珪素、アルミナ、炭化珪素、チタン酸ストロンチウム及び酸化マグネシウムからなる群から選択された材料の単結晶、多結晶、非晶質、焼結体又は薄膜であることが好ましい。特に、基板4の材料としては、シリコン、窒化シリコン、酸化珪素、アルミナ又は炭化珪素が好ましい。これは、ダイヤモンド気相合成の最適な基板温度が700〜1000℃であり、しかも気相合成が化学的に活性な水素プラズマ雰囲気中で行われるので、基板材料としてはこのような条件に耐える必要があるからである。また、基板裏面には白金ヒータを形成するので、基板材料は電気絶縁性でなければならない。上述の材料はこれらの条件を満たしている。これらの材料はバルク材料を加工することにより基板に成形してもしてもよいが、母材上に薄膜をコーティングしたものであっても良い。
【0021】
図2は本発明の第2の実施例に係る薄膜ガスセンサを示す断面図である。この第2実施例においては、p型半導体ダイヤモンド層2上にアンドープ・ダイヤモンド層3(第2のアンドープ・ダイヤモンド層)が形成されており、電極6はこのアンドープ・ダイヤモンド層3上に形成されている点のみが、第1の実施例と異なる。従って、第2実施例において、第1実施例と同一構成物には同一符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0022】
このように、基板4上に第1層のアンドープ・ダイヤモンド層1、第2層のp型半導体ダイヤモンド層2、及び第3層のアンドープ・ダイヤモンド層3が順次積層された三層膜をセンサ部とすることにより、この第3層のアンドープ・ダイヤモンド層3はセンサ作製プロセスにおいて、ガス検知層の中核である第1層のアンドープ・ダイヤモンド層1と第2層のp型半導体ダイヤモンド層2を保護する作用を有する。また、後述するように、ダイヤモンド層表面にアルコール分解能力がある金属を蒸着する場合にも、第3層のアンドープ・ダイヤモンド層3は第1層のアンドープ・ダイヤモンド層1と第2層のp型半導体ダイヤモンド層2を保護する効果を有する。
【0023】
図3は本発明の第3実施例に係る薄膜ガスセンサを示す断面図である。本実施例は、基板4とアンドープ・ダイヤモンド層1との間に、下地層として耐熱性金属膜5が形成されている点のみが第1実施例と異なる。この耐熱性金属膜5は、白金又は白金合金からなる。
【0024】
本発明によりガスセンサの感度が向上したのは、気相合成により蒸着されるアンドープ・ダイヤモンド層1及びp型半導体ダイヤモンド層2の結晶性が向上したからである。而して、本願発明者等は、基板母材表面に膜厚0.05μm〜10μmの白金又は白金合金を蒸着し、この上にダイヤモンド膜を気相合成すると、ダイヤモンド膜の膜質(欠陥密度)がその他の基板上に直接合成した場合より、大幅に低減することを見出した。また、本願発明者等は、基板母材として(111)結晶面を表面とするチタン酸ストロンチウム又は酸化マグネシウムを使用すると、(111)結晶面を表面とする単結晶の白金又は白金合金膜を形成できることを見出した。更に、このような単結晶の白金又は白金合金の薄膜上には、融合膜とよばれる単結晶に近いダイヤモンド膜を形成できることを見出した。このような融合膜をガスセンサに使用することにより、センサ感度が更に一層向上する。よって、本第3実施例においては、アンドープ・ダイヤモンド層1の下地層として、白金又は白金合金からなる耐熱性金属膜5を形成する。
【0025】
図4は本発明の第4実施例に係る薄膜ガスセンサを示す断面図である。本実施例は、図2に示す第2実施例の薄膜ガスセンサに対し、基板4とアンドープ・ダイヤモンド層1との間に、下地層として、耐熱性金属膜5を形成した点のみが前記第2実施例と異なる。
【0026】
本実施例においては、第1の実施例に対し、第3層アンドープ・ダイヤモンド層3を形成する第2実施例及び耐熱性金属膜5を形成する第3実施例の双方の作用効果を組み合わせた作用効果が得られる。
【0027】
上述の各実施例において、第1層のアンドープ・ダイヤモンド層1の膜厚には格別の制限はないが、実際上、このアンドープ・ダイヤモンド層1の膜厚は、1乃至20μmが適当である。膜厚が1μmより小さいと、連続膜の合成が困難であったり、膜質が悪くなる。膜厚が20μmを超えると、ダイヤモンド膜の合成時間が長くなり、製造コストが高くなる要因となる。
【0028】
また、図12に示すように、第3層のアンドープ・ダイヤモンド層3の膜厚は、ガスセンサ製造プロセス条件に依存するが、0.1乃至1μmが適当である。第3層のアンドープ・ダイヤモンド層3はセンサの感度を高める作用を有する。但し、この第3層の膜厚が0.1μm以下であれば、ダイヤモンドの連続膜にはならない。一方、第3層の膜厚が1μmより大きいと、センサ表面へのガス種の吸着によって拡がる空乏層がp型半導体ダイヤモンド層2に達しないので、結果的には感度が低下してしまう。
図5は本発明の第5実施例に係る薄膜ガスセンサを示す断面図である。本実施例は、図1に示す第1実施例に対し、最上層のp型半導体ダイヤモンド層2上に、非ダイヤモンド性カーボン膜9が形成されている点のみが異なる。この非ダイヤモンド性カーボン膜9は、グラファイト又は非晶質カーボン等からなる膜であり、同様に気相合成により形成することができる。この非ダイヤモンド性カーボン膜9を形成することによって、実質的な感度が向上する。
【0029】
図6は本発明の第6実施例を示す断面図である。本実施例は、図2に示す本発明の第2実施例の薄膜ガスセンサに対し、最上層のアンドープ・ダイヤモンド層3上に非ダイヤモンド性カーボン膜9を形成した点のみが異なる。
【0030】
図7は本発明の第7実施例を示す断面図である。本実施例は、図3に示す本発明の第3実施例の薄膜ガスセンサに対し、最上層のp型半導体ダイヤモンド層2上に非ダイヤモンド性カーボン膜9を形成した点のみが異なる。
【0031】
図8は本発明の第8実施例を示す断面図である。本実施例は、図4に示す本発明の第4実施例の薄膜ガスセンサに対し、最上層のアンドープ・ダイヤモンド層3上に非ダイヤモンド性カーボン膜9を形成した点のみが異なる。
【0032】
これらの図5乃至図8に示す第5乃至第8実施例の薄膜ガスセンサにおいて、センサ部の最表面部に積層されている非ダイヤモンド性カーボン層9は、その直下のダイヤモンド層2又は3との密着性が優れており、ダイヤモンドと反応せず、化学的安定性が優れている。そして、この非ダイヤモンド性カーボン層9は、電気抵抗率が小さい保護層の役割を果たし、センサの長期安定性に著しい効果を及ぼす。
【0033】
本発明においては、p型半導体ダイヤモンド層2のドーピング元素であるボロン(B)のドーピング濃度及びp型半導体ダイヤモンド層2の膜厚を最適なものにすることにより、更に一層センサ感度を高めることができる。
【0034】
本発明者等の研究によれば、図13に示すように、第2層のp型半導体ダイヤモンド層2内のBの原子濃度を5×1016〜1019/cm3、p型半導体ダイヤモンド層2の膜厚を50nm乃至1μmとすることにより、高感度のガスセンサを得ることができる。
【0035】
図14は横軸にp型半導体ダイヤモンド層2内の原子Bの濃度をとり、縦軸にその膜厚をとって、高感度のガスセンサを得ることができる範囲をハッチングにて示すグラフ図である。この高感度とは、センサ感度Sが50%/ppm以上の場合をいう。この図14から明らかなように、第2層のp型半導体ダイヤモンド層2内のBの原子濃度が5×1017〜1019/cm3、p型半導体ダイヤモンド層2の膜厚を50nm乃至1μmである場合に、極めて高いセンサ感度を得ることができる。
【0036】
また、本発明において、前記p型半導体ダイヤモンド層2は、気相合成により形成された多結晶膜であり、その結晶粒の平均粒径が3μm以上であることが好ましい。図15は横軸にp型半導体ダイヤモンド層2の結晶粒径をとり、縦軸にセンサ感度をとって両者の関係を示すグラフ図である。この図15に示すように、結晶粒径が3μm以上の場合に、センサ感度が極めて高い。
【0037】
一般にガスセンサは、水分などの吸着を防ぎ、またセンサの応答速度を早めるために200乃至500℃で運転される。このような条件下では、ダイヤモンド表面には徐々に酸素が化学吸着し、ガスセンサとしての特性が安定しない。これを防ぐためには、予めダイヤモンド層の表面を酸化し、酸素を化学吸着させておくことが有効である。酸化の方法としては、酸素プラズマ処理又はクロム酸処理等を使用することができる。
【0038】
本発明においては、センサ表面に検知対象となるガス以外のガスが吸着することを防止するために、アルコールを分解する金属をアイランド状に蒸着することができる。本発明者等の実験によると、検知対象となるガス以外のガスで最も問題となるのはアルコール類である。この阻害ガスとしてのアルコールの影響を除去するために、ダイヤモンド層の表面にアルコールを分解する作用を有する金属をアイランド状に蒸着することが有効である。即ち、フォスフィン、アルシン、セレン化水素、ゲルマン、シラン、ジシラン又はジクロロシラン等の半導体製造ガスを除去せず、エチルアルコール等のアルコール類を除去する金属酸化物を形成する。このようなアルコールを除去する金属酸化物としては、タングステン、モリブデン及びセレンからなる群から選択された少なくとも一種の金属の酸化物がある。このようなアルコール除去層は、アルミナ、シリカ又はシリカアルミナ等の担体に担持させてダイヤモンド層の表面に配置すればよい。
【0039】
一方、ダイヤモンド膜として多結晶膜を使用した場合、ガス感度が多結晶膜を構成するダイヤモンド粒子の平均粒径に強く依存する。本発明者等は、平均粒径が3μm以上である場合に、そのセンサ感度SがS≧50%/ppmとなることを見出した。
【0040】
更に、多結晶ダイヤモンド膜であっても、その結晶配向性が高く、その結果、ダイヤモンド膜表面の殆どが、ダイヤモンド(111)結晶面又は(100)結晶面から構成されている場合に、ガスセンサ感度が向上する。前述のごとく、ダイヤモンド膜表面が、隣接した結晶面が融合したダイヤモンド(111)結晶面から構成されている「融合膜」である場合、及びダイヤモンド膜表面が、面内で配向したダイヤモンド(100)結晶面から構成されている「高配向膜」である場合には、感度が更に一層向上する。
【0041】
但し、従来技術を示す前記公報に示されているように、基板としてバルク単結晶ダイヤモンドを使用すると、センサ感度は逆に低下する。これは単結晶バルクダイヤの表面が平坦であるため、検知対象ガスの吸着面積が小さいことによると考えられる。これに対し、本発明ではダイヤモンド粒子が集合したダイヤモンド膜を用いるために、その表面の凹凸が大きく、実効的な表面積が大きいために、感度が向上する。
【0042】
以上の融合膜及び高配向膜の作用効果は、図5乃至8に示すように、センサ表面に非ダイヤモンド性カーボン層が形成されている場合であっても同様である。非ダイヤモンド性カーボン層は多孔質であるため、ガス吸着表面積が一層増大し、センサの感度が向上する。この非ダイヤモンド性カーボン層9の膜厚は10nm乃至1μmが好ましい。
【0043】
本発明においては、ダイヤモンド層の表面に1対の電極を形成し、ガス吸着による電気抵抗値の変化を測定して、ガス検知を行う。電極間隔は任意に選べるものではなく、第1層アンドープ・ダイヤモンド層1及び第2層p型半導体ダイヤモンド層2から構成されるダイヤモンド層の電気抵抗と関連している。実際的には、信号処理との関係で動作中のガスセンサの電気抵抗値は0.1kΩ〜100kΩが望ましい。このような好ましい電気抵抗値を得るためには、通常のBドーピング濃度及びダイヤモンド層膜厚を考慮すると、電極間隔は5μm乃至5mmとなる。
【0044】
導電性電極は特にはその材質を選ばないが、白金等のような耐熱性金属薄膜であっても良いし、またBが高濃度にドープされた低抵抗のダイヤモンド層であってもよい。
【0045】
更に、導電性電極の平面形状は矩形であるばかりでなく、櫛形にすることも可能である。一般に、ガスセンサは金属ワイヤで宙吊りにされている。センサの支持には、信号取出電極を兼ねる配線(例えば直径100μmの白金線)ワイヤを使用する。このためには、配線ワイヤとガスセンサとの密着強度が問題となる。そこで、上記各実施例のように、導電性電極6及びダイヤモンド層2若しくは3又は非ダイヤモンド性カーボン層9の上に、銀ペースト又は金ペースト8を塗布して配線7を埋め込み、大気中又は真空中で焼成して配線7を固定するようにすれば、十分な密着強度が得られる。
【0046】
更にまた、検知対象となるガスが吸着した場合のガスセンサの電気抵抗変化を鋭敏に測定するには、金属電極とダイヤモンド層の接触がオーミックであり、しかも接触抵抗が小さいことが必要である。このため、金属電極6が接触するダイヤモンド層2又は3の表面の接触部分に、ボロンを1019/cm3以上の高濃度でドーピングすればよい。このドーピングはBのイオン注入か、高濃度にBがドーピングされたダイヤモンド層を選択的に気相合成することにより達成できる。これに対し、前記公報に記載されているように、電極特性として、一方をオーミック接触に、他方をショットキー接触にすると、逆にガス検知感度が大幅に低下する。
【0047】
図3,4,7及び8に示す第3,4,7及び8実施例のように、下地層として耐熱性金属膜5を有する実施例においては、この耐熱性金属膜の下地層を第3電極とし、この第3電極に正又は負の電圧を印加することにより、センサ感度を制御することができる。このように、センサ感度を制御できることにより、ガス感度の選択性を向上できる。これはガス吸着により生じる表面の空乏層を、第3電極(耐熱性金属膜5)の電界で制御できるからである。
【0048】
以上の各実施例に係る薄膜ガスセンサにおいては、前記数式1にて定義されるセンサ感度S=|R(x)−R0|×100/(x×R0)≧50%/ppmが達成され、ガスリークの前段階でアラームを発せられる実用的なセンサを得ることができる。特に、本発明の薄膜ガスセンサにおいては、オスフィン、アルシン、ジボラン、シラン、ゲルマン又はジシランのうち、1種類又は2種類以上のガスが大気中の全濃度0.1ppm以上存在するとき、ガスセンサの電気抵抗の変化値が50%/ppm以上となる。
【0049】
図9は本発明の第9実施例に係る薄膜ガスセンサを示す断面図である。この第9実施例において、感ガス部10は第1実施例乃至第8実施例のダイヤモンド層1,2又は3を示し、耐熱性金属膜5を有する場合はそれも含むものである。第1乃至第8実施例は、図10に示すように、基板4の裏面、即ち、感ガス部10が形成されていない基板4の面にヒータ11が形成されているのに対し、本実施例においては、基板4と感ガス部10との間にヒータ11が形成されている。
【0050】
この図9及び図10に示す構造においては、ヒータ11により温度制御が行われ、このセンサ温度を高精度で制御することができる。このように、基板4の表面又は裏面に直接ヒータを形成する場合に、基板4の電気抵抗を2000Ωcm以下とすると、ヒータ11への通電により、ヒータ11と共に基板4が通電加熱され、基板4はヒータ4の一部として動作する。なお、感ガス部10はその下層に電気的絶縁性である第1層のアンドープ・ダイヤモンド層1が存在するので、ヒータ11に通電しても、表面電極6によるガス感知に影響は及ばない。
【0051】
耐熱性金属膜5を下地層として形成した場合には、この下地層をヒータとして利用することもできる。この耐熱性金属膜5に通電して抵抗発熱させても、同様にアンドープ・ダイヤモンド層1が存在するために、電極6間の抵抗検出値に影響が出ることはない。
【0052】
このように、ヒータを設けることにより、ヒータから生じる熱が熱伝導率が大きいダイヤモンド層を伝導するので、ヒータ温度と表面温度との差が小さく、ガスセンサの温度制御を高速化することが可能になる。
【0053】
本発明のガスセンサの動作原理は、半導体表面付近に形成される空乏層の変化に起因する電気抵抗の変化を検知することにある。更に詳述すると以下のようになる。
【0054】
一般に、熱平衡状態においては、ダイヤモンド表面に存在する表面準位にキャリア(p型の場合はホール)がトラップされており、電荷中性条件を満たすため、バンドに曲がりが生じる。このバンドが曲がった領域は空乏層と呼ばれ、キャリアは空乏層内に存在する電界のため存在できない。この表面にガス種が吸着すると、その電荷に偏りが生じ、この生じた新たな電荷を打ち消すためのバンドの曲がりが変化する。ダイヤモンド表面に設けられた電極から注入されたキャリアは、p型半導体層を流れるが、このときの空乏層の変化によりその流れることができる領域(チャンネル)が制限され、結果として抵抗が変化する。例えば、p型半導体の場合、ガスの吸着によりバンドが下向きに曲がると、空乏層領域が広がり、抵抗が上昇する。
【0055】
このような現象はほとんどの半導体で観察される現象であるが、ガスセンサにおいて実用的な感度を得るためには、ドーピングされたBの濃度、膜厚、更には多結晶を使用した場合、その粒径の制御が必要となる。前記数式1に示すように、ガスセンサの感度は抵抗値が大きいほど、また同程度の場合でもベース抵抗値が小さいほうが高感度になる。一般に、形成される空乏層の幅はドーピングされたBの濃度によって決まり、通常は0.01〜1μm程度である。従って、半導体ダイヤモンド層の膜厚がこの空乏層の幅及び変化と同程度であれば、電流の流れを相対的に大きく制限でき、高感度を得ることができる。空乏層の幅及びその変化の割合を大きくすることはB濃度を減らすことにより可能であるが、B濃度を減らしていくとベース抵抗は高くなる。そして、最終的に、ガス吸着による抵抗値の変化量に比べてベース抵抗が十分高くなると、抵抗変化は実質的に観察できなくなる。逆に、半導体層の低抵抗化はドーピングする不純物(P型の場合、典型的にはB(ボロン))を増やすことによって達成される。しかし、ダイヤモンドにBを高濃度(1×1019/cm3以上)にドーピングしていくと、犬島らの結果の研究(NEW DIAMONDO,Vol.13,No.3,p.34(1997))によってバンド内に不純物バンドが形成されることがわかっている。この不純物バンドの形成は図16に示す大槻らの実験結果(まてりあ Vol.33,No.6,p.744(1994))で活性化率の上昇として観測されるが、このことは伝導が金属的になることを意味し、半導体センサとしてはもはや機能しなくなる。
【0056】
多結晶膜を用いた場合、その粒径の違いが感度に影響を与える。例えば、結晶性の違いによりベース抵抗が変化する。即ち、結晶粒の大きさが小さい場合では、粒界の存在などでバンド間に発生するドナーライクな局在準位によってBのアクセプターが補償されてしまうために、抵抗が上昇してしまう。また、粒界の両側には粒界に存在する界面準位のため空乏層ができる。結晶粒の大きさが小さい場合には、この粒界によって形成される空乏層が粒内を支配することになりガス吸着による空乏層変化は無視される。更に、動作温度(典型的には300〜400℃)での雰囲気中に存在する酸素などによるエッチングの効果の考慮する必要がある。粒界が多い場合には、酸素などで粒界が選択的にエッチングされダイヤモンドの特性を劣化させてしまう。ダイヤモンドの粒径が1μm以上のものが望ましいのは以上の理由による。
【0057】
半導体ダイヤモンドを使用したガスセンサが、特に、ホスフィン、アルシン、ジボランなどの半導体材料ガスに対する感度があることについては、その理由が明確ではないが、酸素終端されたダイヤモンド表面に存在する表面準位の影響であると考えられる。即ち、PH3のような分子がダイヤモンド構造をとってその表面に吸着するために、表面準位にトラップされた電子を奪いとるか、又は表面準位に電子を与える必要がある。そのため、表面近傍での電気的バランスがくずれ、電荷中性条件を満たすべくこれを補うようにバンドが広がる。
【0058】
これにより、フォスフィン、アルシン、ジボラン、シラン、ゲルマン、ジシラン及びセレン化水素などの人体に有害な半導体用特殊材料ガスを高感度で検知することができる。
【0059】
【実施例】
次に、本発明の薄膜ガスセンサを実際に製造した実施例について、その特性を比較例と比較した結果について説明する。
【0060】
実施例1
直径1インチ径の窒化珪素焼結体を基板に使用し、熱フィラメント気相合成装置を用いて、多結晶アンドープ・ダイヤモンド層1(膜厚:約5μm)を成膜した。続いて、マイクロ波プラズマ気相合成装置を用いて、膜厚0.2μmの半導体ダイヤモンド層2を積層した。合成条件は、原料ガスに水素希釈したメタン0.5〜5%、ドーピングガスとしてジボランを用い、ガス中のB原子と炭素原子との比B/Cを1〜100とした。
【0061】
成膜後、走査型電子顕微鏡にてダイヤモンド膜の表面を観察したところ、平均粒径4μmの(111)結晶面が支配的に出現した多結晶ダイヤモンド膜であった。次いで、表面伝導層を除去するためにクロム酸処理を行った。この処理により、表面が洗浄化されると共に、ダイヤモンド表面が酸化された。
【0062】
更に、基板裏面に白金のヒータをスパッタ蒸着し、次いでダイヤモンド膜表面に白金電極をスパッタ蒸着した。電極形成後、センサユニット(2mm×1mm)に切断した。続いて、100μm径の白金リード線を用いてスポット溶接を行い、白金ヒータとセンサマウントユニットの端子、白金電極とセンサマウントユニットの端子とを接続した。更に、白金電極と白金リード線を固定するために、接続部を金ペーストで被覆し、高温でペーストを焼結した。
【0063】
このようにして作製したガスセンサの構造は図1と同様である。5個のガスセンサを大気中で350℃に保ち、フォスフィンガスを0.1、0.3、0.5ppmと順に曝露して電気抵抗値を測定した。この結果を下記表1乃至4の素子構造:図1欄に示す。本センサは0.1ppmのフォスフィンガスに対して、S=100%/ppmであった。
【0064】
また、アルコール除去層として、アルミナ、シリカ又はシリカアルミナ等の担体に、タングステン、モリブデン及びセレンからなる群から選択された少なくとも一種の金属酸化物を担持させた結果、アルコールに対する除去効果があることが確認された。
【0065】
実施例2
実施例1と同様の方法で、図2乃至図8に示した構造を有するガスセンサを製作した。このガス検知結果を下記表1の素子構造及び図2乃至図8に示す。センサ感度は250℃で測定した。
【0066】
この表1に示すように、本発明の実施例のセンサ感度は、フォスフィン、ジボラン及びシランのいずれのガスに対しても100%/ppm以上であり、極めて高感度であった。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例3
大きさ1×2cmのSi基板を4枚用意した。このうちの2枚の基板には下地層として白金膜をスパッタリング及びアニール工程により形成した。続いて、熱フィラメント気相合成装置を使用して、多結晶アンドープダイヤモンド膜を成膜した。膜厚は白金下地を持たないものは約5μm、白金下地を持つものは約10μmである。その後、マイクロ波プラズマ気相合成装置を用いて、膜厚0.2μmの半導体ダイヤモンド層を積層した。合成条件は、原料ガスに水素希釈したメタン0.5〜5%、ドーピングガスとしてジボランを用い、ガス中のB原子と炭素原子との比B/Cを1〜100ppmとした。更に、下地あり及びなしの基板のうち1枚に、第3層として膜厚0.1μmのダイヤモンド層を積層した。
【0069】
成膜後、走査型電子顕微鏡により、ダイヤモンド膜の表面を観察したところ、平均粒径が3.1μmの多結晶ダイヤモンド膜が得られていることがわかった。次いで、表面伝導層を除去するためにクロム酸処理を行った。この処理により表面の洗浄化と共に、ダイヤモンド表面が酸化された。ダイヤモンドの積層構造を下記表2に示す。
【0070】
次に、センサを作製した。先ず、ダイヤモンド膜表面に白金電極を金属マスクを介してスパッタリングにより蒸着し、次に、基板裏面にアルミナ層を蒸着して更に白金のヒータをスパッタリングにより蒸着した。更に、センサユニット(2mm×1mm)に切断した後、100μm径の白金リード線を使用してスポット溶接し、引き続き、固定のために、金ペーストで被覆し、高温でペーストを焼結した。最後に、ステムに固定し、白金ヒータとセンサマウントユニットの端子、白金電極とセンサマウントユニットの端子とを接続した。
【0071】
このようにして作製したガスセンサの構造は図1及び図4と同様である。4個のガスセンサを大気中で350℃に保ち、フォスフィン、アルシン、ジボランガスを表2に示す濃度で曝露して電気抵抗値を測定した。この結果を表2に合わせて示す。
【0072】
【表2】
【0073】
実施例4
フォスィンに対する感度の粒径依存性を見るために、Si基板を使用して図5に示す構造を有するガスセンサを製作した。図17はこのガスセンサの製造方法を示すフローチャートである。図17に示すように、大きさ1×2cmのSi基板上に、熱フィラメント気相合成装置を用いて、多結晶アンドープダイヤモンド膜を成膜した(ステップS1)。膜厚は約5μmである。次に、電極形成、ヒータ形成、リード付けを行い、その後、マイクロ波プラズマ気相合成装置を用いて、膜厚0.2μmの半導体ダイヤモンド層を積層した。合成条件は、原料ガスに水素希釈したメタン0.5〜5%、ドーピングガスとしてジボランを用い、ガス中のB原子と炭素原子との比B/Cを1〜100ppmとした。さらに、センサ上に非ダイヤモンドカーボン層の積層を行い(ステップS5)、非ダイヤモンド成分を持たないセンサと共に、フォスフィンに対する感度を測定した。
【0074】
このフォスフィン(PH3)に対する感度の測定値を図18に示す。センサ感度は250℃で測定した。この図18に示すように、平均粒径が3μm以上になると、非ダイヤモンド性カーボン層を有するセンサは感度が800%/ppmに達した。これに対し、非ダイヤモンドカーボン層を有しないものは、センサ感度が低い。
【0075】
実施例5
実施例4と同様の方法で、下記表3に示すように、平均粒径が異なるガスセンサを製作した。走査型電子顕微鏡にてダイヤモンド膜の表面を観察した結果を図19に示す。作製したセンサを350℃に保持し、アルシン、ジボラン、フォスフィンに対する感度を測定した。この結果を表3に合わせて示す。この表3から明らかなように、これより粒径が大きく、非ダイヤモンド成分を持つセンサにおいて半導体材料ガスに対する感度が高かった。
【0076】
【表3】
【0077】
実施例6
単結晶SrTiO3(111)単結晶基板上に白金膜を1μmの厚さでスパッタリングにより蒸着し、(111)結晶方位をもった白金単結晶膜を形成した。続いてマイクロ波プラズマCVD法を用いてアンドープ・ダイヤモンド層1を約5μm成膜し、更にBドープ半導体ダイヤモンド層2を約0.1μm積層した。成膜後、ダイヤモンド膜表面を走査型電子顕微鏡で観測したところ、ダイヤモンド表面は面内で方位整合した(111)結晶面で覆いつくされ、結晶面同士が融合していた。その後、実施例1と同様の方法を用いて、図3の構造をもつガスセンサを製作した。その結果、0.1ppmのホスフィンガスに対しセンサ感度Sは500%/ppmであった。
【0078】
実施例7
シリコン(100)単結晶基板上に、マイクロ波プラズマによるバイアス核発生法を用いて、アンドープ・ダイヤモンドの(100)高配向膜を形成した。膜厚は約5μmであった。更に、膜厚0.1μmのp型半導体ダイヤモンド層を積層した。走査型電子顕微鏡でダイヤモンド膜の表面を観察したところ、ダイヤモンド膜表面は基板に対して平行な(100)結晶面で覆い尽くされ、面内でも方位整合している高配向膜であることが確認できた。その後、実施例1と同様の方法を用いてガスセンサを作製した。このセンサに0.1ppmのホスフィンガスを曝露し、センサの感度を測定したところ、センサ感度S=300%/ppmが得られた。
【0079】
実施例8
上記実施例1及び2において、基板と感ガス層の間に白金ヒータを設けたガスセンサを作製した。いずれの場合も、ヒータ温度と表面温度の差は測定限界以下であり、また温度応答時間も測定限界以下の高速であった。
【0080】
実施例9
1×2cm2の単結晶Si基板上に熱フィラメント気相合成装置を使用して、多結晶アンドープダイヤモンド膜(膜厚:約5μm)を成膜した。続いて、マイクロ波プラズマ気相合成装置を使用して、膜厚0.2μmの半導体ダイヤモンド層を積層した。合成条件は、原料ガスが水素希釈したメタン0.5%、基板温度が800℃、圧力が50Torrである。ドーピングガスとして、ジボランを原料ガス中に0.1ppm添加した。
【0081】
成膜後、走査型電子顕微鏡によりダイヤモンド膜の表面を観察したところ、平均粒径4μmの(111)結晶面が支配的に出現した多結晶ダイヤモンド膜であることがわかった。次いで、表面伝導層を除去するためにクロム酸処理を行った。この処理により表面の洗浄化と共に、ダイヤモンド表面を酸化することができる。
【0082】
次に、ダイヤモンド膜表面に白金電極をスパッタ蒸着した。電極形成後、裏面にスパッタによりアルミナを1μmの厚さで蒸着した後、引き続きヒーター形成用に5000 の白金を蒸着した。エッチングによりヒーターをパターニングした後、センサユニット(2mm×1mm)に切断した。
【0083】
続いて、100μm径の白金リード線を使用して、スポット溶接により、白金ヒータとセンサマウントユニットの端子とを接続すると共に、白金電極とセンサマウントユニットの端子とを接続した。
【0084】
更に、白金電極と白金リード線を固定するために、接続部を金ペーストで被覆し、高温でペーストを焼結した。
【0085】
このようにして作製したガスセンサの構造は図1と同様である。5個のガスセンサを大気中で350℃に保ち、0.3ppmのフォスフィンガスに曝露して電気抵抗値を測定したところ抵抗値の変化は平均で27%(センサ感度S=90%/ppm)であった。
【0086】
実施例10
実施例9と同様の方法でボロン(B)が原子濃度1×1016〜1×1020/cm3でドーピングされたガスセンサを製作し、400℃で0.3ppmのフォスフィンガスに対する抵抗値の変化を測定した。この結果を図20に示す。これによりボロン(B)が原子濃度5×1017〜1×1019/cm3でドーピングされている場合に高い感度を得ることができることがわかった。
【0087】
実施例11
実施例9と同様の方法でボロン(B)が原子濃度3×1018/cm3でドーピングされたガスセンサを製作し、0.1ppmのジボラン、0.05ppmアルシン、0.3ppmのフォスフィンに対する感度の温度依存性を測定した。この測定結果を図21に示す。本実施例のガスセンサはいずれのガスに対しても実用上十分な感度が得られた。
【0088】
実施例12
実施例9と同様の方法で図2に示した構造を有するガスセンサを製作した。第3層のアンドープ・ダイヤモンド膜の膜厚は1μmとした。250℃で、0.3ppmのフォスフィンガスに曝露して電位抵抗値を測定したところ、抵抗値の変化は17%(センサ感度S=56%/ppm)であった。
【0089】
実施例13
実施例9と同様の方法でガスセンサを製作し、更にセレン酸化物を含むアルコール除去層を形成した。フォスフィンガス及びアルコールに対する反応を評価した結果、フォスフィンガスに対する感度を落とすことなく、アルコールを有効に除去できていることが確認できた。
【0090】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、フォスフィン、アルシン、ジボラン、シラン、ゲルマン、ジシラン及びセレン化水素などの人体に有害な半導体用特殊材料ガスを、ダイヤモンド薄膜を使用した低コストのセンサで高感度で検知することができる。このため、本発明は、フォスフィン、ジボラン及びシラン等のように、人体に対し毒性が高いガスの漏洩が生じた場合にも、そのガス濃度が低い段階(例えば0.1ppm)でこれを検出することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例に係る薄膜ガスセンサを示す断面図である。
【図2】本発明の第2実施例に係る薄膜ガスセンサを示す断面図である。
【図3】本発明の第3実施例に係る薄膜ガスセンサを示す断面図である。
【図4】本発明の第4実施例に係る薄膜ガスセンサを示す断面図である。
【図5】本発明の第5実施例に係る薄膜ガスセンサを示す断面図である。
【図6】本発明の第6実施例に係る薄膜ガスセンサを示す断面図である。
【図7】本発明の第7実施例に係る薄膜ガスセンサを示す断面図である。
【図8】本発明の第8実施例に係る薄膜ガスセンサを示す断面図である。
【図9】本発明の第9実施例に係る薄膜ガスセンサを示す断面図である。
【図10】第1乃至第8実施例の薄膜ガスセンサを総体的に示す断面図である。
【図11】p型半導体ダイヤモンド層の膜厚とセンサ感度との関係を示すグラフ図である。
【図12】非ダイヤモンド性カーボン層の膜厚とセンサ感度との関係を示すグラフ図である。
【図13】p型半導体ダイヤモンド層のB原子濃度とセンサ感度との関係を示すグラフ図である。
【図14】p型半導体ダイヤモンド層のB原子濃度及び膜厚とセンサ感度との関係を示すグラフ図である。
【図15】p型半導体ダイヤモンド層の結晶粒径とセンサ感度との関係を示すグラフ図である。
【図16】アクセプタ濃度とキャリア濃度との関係を示すグラフ図である。
【図17】実施例4のセンサの製造方法を示すフローチャート図である。
【図18】平均粒径とPH3感度との関係を示すグラフ図である。
【図19】実施例5において、走査型電子顕微鏡によりダイヤモンド膜の表面を観察した結果を示す金属顕微鏡写真である。
【図20】実施例10において、原子B濃度と感度との関係を示すグラフ図である。
【図21】実施例11において、測定温度と感度との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
1;アンドープ・ダイヤモンド層
2;p型半導体ダイヤモンド層
3;アンドープ・ダイヤモンド層
4;基板
5;耐熱性金属膜
6;電極
7;配線
8;ペースト
9;非ダイヤモンド性カーボン層
10;感ガス部
11;ヒータ
Claims (23)
- アンドープ・ダイヤモンド層と、このアンドープ・ダイヤモンド層上に形成されたp型半導体ダイヤモンド層と、このp型半導体ダイヤモンド層の上に形成された第2のアンドープ・ダイヤモンド層と、この第2のアンドープ・ダイヤモンド層の上に形成され前記p型半導体ダイヤモンド層における電気抵抗の変化を検出する1対の電極とを有し、この電極の検出結果によりガスの存在又はその濃度を検知することを特徴とする薄膜ガスセンサ。
- アンドープ・ダイヤモンド層と、このアンドープ・ダイヤモンド層上に形成されたp型半導体ダイヤモンド層と、このp型半導体ダイヤモンド層の上に形成された非ダイヤモンド性カーボン層と、この非ダイヤモンド性カーボン層の上に形成され前記p型半導体ダイヤモンド層における電気抵抗の変化を検出する1対の電極とを有し、この電極の検出結果によりガスの存在又はその濃度を検知することを特徴とする薄膜ガスセンサ。
- 前記アンドープ・ダイヤモンド層は、基板上に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記p型半導体ダイヤモンド層と前記非ダイヤモンド性カーボン層との間に第2のアンドープ・ダイヤモンド層が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記アンドープ・ダイヤモンド層の下地層として、耐熱性金属膜を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記耐熱性金属膜は白金又は白金合金からなる膜であることを特徴とする請求項5に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記非ダイヤモンド性カーボン層の厚さは10nm乃至1μmであることを特徴とする請求項2に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記p型半導体ダイヤモンド層にはボロンが原子濃度5×1016乃至1019/cm3でドーピングされ、そのドーピング層の厚さが10nm乃至1μmであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記p型半導体ダイヤモンド層の表面が酸化され、酸素が化学吸着していることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記非ダイヤモンド性カーボン層の表面が酸化され、酸素が化学吸着していることを特徴とする請求項2に記載の薄膜ガスセンサ。
- 最上層の上に、フォスフィン、アルシン、ジボラン、セレン化水素、ゲルマン、シラン、ジシラン及びジクロロシランからなる半導体製造ガスを除去せず、エチルアルコールを含むアルコール類を除去するアルコール除去層が形成されており、このアルコール除去層は、タングステン、モリブデン及びセレンからなる群から選択された少なくとも一種の金属酸化物を含むことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記p型半導体ダイヤモンド層は、気相合成により形成された多結晶膜であり、その結晶粒の平均粒径が3μm以上であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記p型半導体ダイヤモンド層は、気相合成により、基板面に対し実質的に垂直の方向に配向成長するように形成され、その表面がダイヤモンド(111)結晶面から構成されていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記p型半導体ダイヤモンド層は、気相合成により、基板面に対し実質的に垂直の方向に配向成長するように形成され、その表面がダイヤモンド(100)結晶面から構成されていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記p型半導体ダイヤモンド層は、気相合成により形成され、面内で配向したダイヤモンド(111)結晶面から構成されていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記p型半導体ダイヤモンド層は、気相合成により形成され、面内で配向したダイヤモンド(100)結晶面から構成されていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記基板は、シリコン、窒化シリコン、酸化珪素、アルミナ、炭化珪素、チタン酸ストロンチウム及び酸化マグネシウムの単結晶、多結晶、非晶質、焼結体及び薄膜からなる群から選択された1種類以上の材料で構成されていることを特徴とする請求項3に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記電極の間隔が5μm乃至5mmであることを特徴とする請求項1乃至17のいずれか1項に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記電極の上に銀ペースト又は金ペーストを塗布して配線を埋め込み、大気中又は真空中で焼成して配線が固定されていることを特徴とする請求項1乃至18のいずれか1項に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記電極が接触するp型半導体ダイヤモンド層又は非ダイヤモンド性カーボン層の表面に、ボロンが1019/cm3以上の濃度でドーピングされていることを特徴とする請求項1乃至19のいずれか1項に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記耐熱性金属からなる下地層は、この下地層に電圧を印加することにより感度を制御する第3電極として機能することを特徴とする請求項5に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記基板は、その室温における電気抵抗が2000Ωcm以下であり、前記p型半導体ダイヤモンド層を加熱するヒータを前記基板に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の薄膜ガスセンサ。
- 検知対象となるガスの濃度をxppm、検知対象となるガスの濃度がゼロの場合に前記電極により検出された抵抗値をR0、検知対象となるガスに曝した場合に前記電極により検出された抵抗値をR(x)としたとき、実用センサ温度域において|R(x)−R0|×100/(x×R0)≧50%/ppmであることを特徴とする請求項1乃至22のいずれか1項に記載の薄膜ガスセンサ。
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