JP3539152B2 - シトシンの製法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、副生物からなる不純物を実質的に含有していない、高い純度のシトシン結晶を工業的に容易に製造する方法に係わる。
前記のシトシンは、例えば、抗菌剤、抗ウィルス剤などの医薬品の製造原料として有用な化合物である。
そのシトシンは、一般に、次に示す式(5)で示されるものであり、以下、シトシン結晶(5)と言うこともある。
【0002】
【化5】
【0003】
【従来の技術】
3−アルコキシアクリロニトリル(1)及び/又は3,3−ジアルコキシプロピオニトリル(2)のニトリル化合物と、尿素とを、アルカリ金属アルコラ−ト(3)の存在下に反応させることによりシトシンを生成させるシトシンの製法としては、従来、種々の方法が提案されている。特に、上記の反応において尿素とアルカリ金属アルコラ−トとの混合物が熱に不安定であることから、この熱の問題を解消する目的などで種々の反応溶媒が提案されている。
【0004】
例えば、特開平2−273663号公報には、反応溶媒としてキシレン又はトルエンのような水に対して難溶性の有機溶媒を使用することにより、収率70%以上で生成物としてシトシンのアルカリ金属塩(4)を主として含む反応混合液を得て、その反応混合液からアルコ−ルを除去することにより反応を完結させた後、水を添加し、層分離して得た、シトシンのアルカリ金属塩(4)を含む水層(水溶液)を酸で中和してシトシンを生成させ、水層(水溶液)の中和液からシトシンを析出させて単離するという製法が開示されている。
【0005】
近年、シトシンなどを医薬の原料物質として使用する場合には、特にその純度が高いレベルであるように要求されるようになっている。すなわち、シトシンの合成における副生物は、シトシンと類似した官能基を持つことが多いため、医薬化合物の合成の途中で分離・除去することが困難であり、最終的に目的の医薬化合物中にまで随伴することが多く、シトシンを医薬原料として高い純度にすることが要求されることとなった。
特開平2−273663号公報に開示されている方法では、その反応で得られるシトシン結晶中に、式(6)
【0006】
【化6】
【0007】
で示される7−アミノ−2,3−ジヒドロ−2−オキソ−ピリド〔2,3−d〕ピリミジン〔以下、不純物(6)とも言う〕、及び、そのアルカリ金属塩が微量含まれる。
【0008】
不純物(6)などを微量含むシトシンのアルカリ金属塩(4)の水溶液から不純物を除去することは、特開平2−273663号公報に記載の製法〔シトシンのアルカリ金属塩(4)を含む反応混合液に水を添加し、分離した水層を酸で中和してシトシンを生成させ、シトシン結晶(5)を水層から析出させて、単離する方法〕ではかなり困難である。そして、この製法では不純物(6)がシトシンと同じ官能基を持つために、この不純物(6)などを含むシトシン結晶(5)を医薬品用化合物の製造用の原料として使用した場合、不純物(6)に由来する副生物が生じる恐れがある。
従来公知のシトシンの製法は、高い純度のシトシン結晶(5)を工業的に得る製法としては充分に満足することができないものであった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、第1工程において、3−アルコキシアクリロニトリル(1)及び/又は3,3−ジアルコキシプロピオニトリル(2)のニトリル化合物と、尿素とを、アルカリ金属アルコラ−ト(3)の存在下に、水難溶性有機溶媒中で反応させてシトシンのアルカリ金属塩(4)を含む反応生成物を生成させ、次いで、第2工程において、その反応混合液に水を添加し、層分離させて得られたシトシンのアルカリ金属塩(4)を含む水層(水溶液)を得て、さらに、その水層を酸で中和することにより、『式(5)で示されるシトシン結晶(5)』を中和液から析出させるシトシンの製法において、前述の第1工程の反応でシトシンのアルカリ金属塩(4)と共に生成する『式(6)で示される不純物(6)又はそのアルカリ金属塩』などが充分に除去された高い純度のシトシン結晶(5)を工業的に容易に製造することができる方法を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、第1工程において、式(1)
【0011】
【化7】
(式中、R1 は炭素数1〜6のアルキル基を示す)で表わされる3−アルコキシアクリロニトリル(1)、及び、式(2)
【0012】
【化8】
【0013】
(式中、R2 及びR3 は、同一または異なっていてもよい、炭素数1〜6のアルキル基を示す)で表わされる3,3−ジアルコキシプロピオニトリル(2)からなる群から選ばれた少なくとも1種のニトリル化合物と、尿素とを、式(3)
【0014】
【化9】
【0015】
(式中、R4 は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Xはアルカリ金属を示す)で表わされるアルカリ金属アルコラ−ト(3)の存在下に、水難溶性有機溶媒中で反応させて、式(4)
【0016】
【化10】
【0017】
(式中、Xは前記と同じである)で示されるシトシンのアルカリ金属塩(4)を主成分とする反応生成物を生成させ、次いで、第2工程において、前記の第1工程の反応によって得られた『シトシンのアルカリ金属塩(4)を含む反応混合液』に水を添加・混合して有機溶媒層と水層とに層分離させ、その層分離によって得られた『シトシンのアルカリ金属塩(4)を含む水層(水溶液)』に水可溶性低級アルコールを添加し、さらに、その水溶液を酸で中和することにより、シトシン結晶(5)をその中和液から析出させ、単離することを特徴とするシトシンの製法に関する。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明におけるシトシンの製法は、例えば、次に概略を例示するような、第1工程と第2工程とを少なくとも必須とする反応・操作工程からなっている。
【0019】
【化11】
【0020】
本発明における第1工程は、反応・操作工程(A工程)に例示されているように、3−アルコキシアクリロニトリル(1)及び3,3−ジアルコキシプロピオニトリル(2)からなる群から選ばれた少なくとも1種のニトリル化合物と、尿素とを、式(3)で表わされるアルカリ金属アルコラ−ト(3)の存在下に、水難溶性有機溶媒中で、必要であれば低級アルコール(最初から添加されていた低級アルコール溶媒及び反応で副成する低級アルコール)を留去しながら反応させて、シトシンのアルカリ金属塩(4)を主な反応生成物として含む反応混合液を得る工程である。
【0021】
本発明の第1工程において使用されるニトリル化合物は、式(1)中のR1 が炭素数1〜6(特に炭素数1〜4)のアルキル基である3−アルコキシアクリロニトリル(1)である。また、式(2)中のR2 及びR3 が同一又は異なっていてもよい、炭素数1〜6(特に炭素数1〜4)のアルキル基である3,3−ジアルコキシプロピオニトリル(2)であってもよい。
前述の式(1)におけるR1 、或いは、式(2)におけるR2 及びR3 としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチル、n−ヘキシルなどの直鎖状又は分枝状のアルキル基(炭素数1〜6のアルキル基)をそれぞれ好適に挙げることができる。
【0022】
本発明の第1工程において使用されるニトリル化合物(1)としては、式(1)におけるR1 が炭素数1〜4の低級アルキル基であるような式(1)で示されるアクリロニトリル化合物が好ましく、中でも式(1)におけるR1 がメチル、エチルまたはプロピルである3−アルコキシアクリロニトリル(1)が特に好ましい。また、ニトリル化合物(2)としては、式(2)におけるR2 及びR3 がいずれも炭素数1〜4のアルキル基であるような式(2)で示されるプロピオニトリル化合物が好ましく、中でも式(2)におけるR2 及びR3 がいずれもメチル、エチルまたはプロピルである3,3−ジアルコキシプロピオニトリル(2)が特に好ましい。
【0023】
本発明の第1工程において使用されるニトリル化合物としては、3−アルコキシアクリロニトリル(1)と3,3−ジアルコキシプロピオニトリル(2)とが併用されていてもよく、ニトリル化合物全使用量に対して、これらがどのような割合で使用されても差しつかえない。
【0024】
本発明の第1工程の反応において使用されるアルカリ金属アルコラ−ト(3)は式(3)で表わされるアルコラート化合物であり、その式(3)におけるR4 は炭素数1〜6のアルキル基であるアルカリ金属アルコラ−ト(3)が好ましい。本発明においては、その式(3)中のR4 が、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチル、n−ヘキシルなどの直鎖状又は分枝状のアルキル基であるアルカリ金属アルコラ−ト(3)を好適に使用することができる。
【0025】
第1工程で使用されるアルカリ金属アルコラ−ト(3)において、式(3)中のXはアルカリ金属であり、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム又はルビジウムを挙げることができる。
本発明でのアルカリ金属アルコラ−ト(3)としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムn−プロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムエトキシド、カリウムn−プロポキシド、カリウムイソプロポキシド、カリウムt−ブトキシド等のアルカリ金属の低級アルコラート(炭素数1〜4個の低級アルコールのアルカリ金属アルコラート)が好ましい。
【0026】
本発明の第1工程で使用される水難溶性有機溶媒は、水に対して25℃で10容量%(特に5容量%)以上溶解することができない有機溶媒であることが好ましい。この有機溶媒としては、特に、置換基を有していてもよい脂肪族又は脂環式炭化水素系の水難溶性有機溶媒、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素系の水難溶性有機溶媒、及び、エーテル系の水難溶性有機溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種の水難溶性有機溶媒が好適である。
【0027】
前記の水難溶性有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ニトロエタンなどの置換基を有してもよい脂肪族又は脂環式炭化水素系の水難溶性有機溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、クモール、クロルベンゼン、ニトロベンゼン、エチルベンゼンなどの置換基を有していてもよい芳香族炭化水素系の水難溶性有機溶媒、アニソール、ジベンジルエーテル、ジエチレングリコールエーテルなどのエーテル系の水難溶性有機溶媒などを好適に挙げることができる。本発明では、前記の水難溶性有機溶媒として、中でもトルエン、キシレン、クモールなどのアルキル基を置換基として有する芳香族炭化水素系の水難溶性有機溶媒が好適である。
【0028】
本発明の第1工程において、反応混合物(反応開始時)中のニトリル化合物の濃度は、0.5〜40重量%、特に1.0〜30重量%、更に2〜25重量%程度であることが好ましい。
本発明の第1工程における尿素の使用量は、第1工程で使用されるニトリル化合物1モルに対して、0.2〜10倍モル、特に0.5〜8倍モル、更に1.0〜5倍モル程度となるような割合の量であることが好ましい。
本発明の第1工程におけるアルカリ金属アルコラート(3)の使用量は、第1工程で使用されるニトリル化合物1モルに対して、0.1〜10倍モル、特に0.5〜8倍モル、更に1.0〜5倍モル程度であることが好ましい。
【0029】
本発明の第1工程における反応温度は約50〜150℃程度であればよい。その第1工程においては、ニトリル化合物とアルカリ金属アルコラート(3)とに由来して副生する低級アルコール(例えば、メタノール、エタノールなど)を反応混合液から留去しながら反応させることが好ましい。例えば、低級アルコールが多量に副生する反応初期には、反応温度を該低級アルコールの沸点近くの比較的低い温度(特に約50〜90℃、更に60〜80℃程度)とすることになり、そして、低級アルコールの留出が実質的になくなる反応終了時には、水難溶性有機溶媒の沸点近く(特に90〜130℃、更に95〜120℃程度)まで反応温度を上昇させて、反応混合液から低級アルコールをほとんど(実質的に全量)留去させることが好ましい。
【0030】
本発明では、前述の第1工程における低級アルコール留出時後半における反応温度は、この反応に使用された水難溶性有機溶媒の沸点(B℃)に対して、(B−50)℃〜(B+50)℃の範囲、特に(B−40)℃〜(B+30)℃程度の範囲内で次第に昇温させることが、反応混合液を安定に還流させながら第1工程の反応を行わせると共に副生する低級アルコールを効果的に留去させるために好ましい。
本発明の第1工程における反応時間は0.1〜50時間であればよく、特に0.5〜20時間、更に1〜10時間程度の範囲であることが好ましい。
【0031】
本発明の第1工程において、前記の反応をさせるためには、反応圧力を約0.5〜20気圧とすることが好ましいが、本発明の第1工程においては、反応温度を60〜130℃、特に65〜125℃、更に70〜120℃とすると共に、反応圧力を常圧付近(特に0.8〜1.5気圧、更に0.9〜1.2気圧)とすることが特に好ましい。
【0032】
本発明の第1工程において得られるシトシンのアルカリ金属塩(4)を含む反応混合液はそのまま第2工程に供することが好ましいが、必要であれば、水難溶性有機溶媒を除去して反応混合液中の反応生成物の濃度を調整するなどして第2工程に供することもできる。
【0033】
本発明の第2工程では、前述のような第1工程において得られた『シトシンのアルカリ金属塩(4)を含む反応混合液』に水を添加・混合して、層分離により有機溶媒層と水層(シトシンのアルカリ金属塩(4)を含む水溶液)とに分離し、その層分離により得られた『シトシンのアルカリ金属塩(4)を含む水層(水溶液)』に水可溶性低級アルコールを添加し、更に、その水溶液を適当な酸で中和して、シトシン結晶(5)を析出させて単離することにより、前記の不純物(6)などが除去されている高い純度のシトシン結晶(5)を得るのである。
【0034】
本発明の第2工程において、第1工程で得られた反応混合液に添加される水の使用量は、有機溶媒層と水層とを効果的に層分離させることができればどのような使用量であってもよい。特に、水の使用量が、第1工程の反応で生成するシトシンのアルカリ金属塩(4)の合計量(重量:シトシン換算)に対して、1〜50重量倍、特に2〜40重量倍、更に5〜30重量倍程度であることが、層分離操作により前述の水層(水溶液)を効果的に得るために好ましい。
【0035】
本発明の第2工程において反応混合液に水を添加し層分離により得られた水層(水溶液)へ添加される水可溶性低級アルコ−ルとしては、25℃において水に対して50重量%以上(特に80重量%以上)溶解しうるような『炭素数1〜4(特に好ましくは炭素数1〜3)の脂肪族アルコール』が好ましい。前記の脂肪族アルコールとしては、例えば、メチルアルコ−ル、エチルアルコ−ル、n−プロピルアルコ−ル、イソプロピルアルコ−ル、tert−ブチルアルコ−ル、イソブチルアルコールなどの炭素数1〜4の脂肪族アルコール(特に炭素数1〜3の脂肪族アルコール)を挙げることができ、特にイソプロピルアルコールが好適である。
【0036】
本発明の第2工程において、前記の水可溶性低級アルコ−ルの使用量は、第1工程における反応で生成するシトシンのアルカリ金属塩(4)の合計量(重量:シトシン換算)に対して、0.5〜15重量倍、特に1〜10重量倍、更に1.2〜8重量倍程度となるような量であることが好ましい。
そして、水可溶性低級アルコールの使用量は、水層(水溶液)中の水の総量100重量部に対して0.5〜50重量部、特に1〜30重量部、更に2〜20重量部程度となるような量であることが好ましい。
【0037】
前記の層分離によって得られた水層(水溶液)へ添加される水可溶性低級アルコ−ルの使用量が少なくなり過ぎると、その水層(水溶液)へ酸を加える中和工程及び晶析工程において不純物(6)などがシトシン結晶(5)と共に析出してしまうのでシトシン結晶中の不純物(6)などを効果的に除去できないことがあり、また、該低級アルコールの使用量が余りに多くなり過ぎる場合には、シトシン結晶(5)の析出が少なくなり、濾液側に溶解しているシトシンが増加して、ロスが多くなるので、好ましくない。
【0038】
即ち、第2工程において、水層へ適当な量比で加えられた水可溶性低級アルコールは、酸による水層の中和及びその中和液からシトシン結晶(5)が析出する際に、不純物(6)がシトシン結晶(5)と共に容易に析出するのを防止する。このため、中和液から析出したシトシン結晶(5)に不純物(6)が混入することを低く抑えることができる。その結果、得られたシトシン結晶(5)の純度を高くすると共に不純物(6)の含有率を極めて低くすることができるのである。
【0039】
本発明の第2工程において水層(水溶液)の中和のために使用される酸としては、例えば、塩酸、硫酸、りん酸、硝酸などの無機酸、酢酸、ギ酸、プロピオン酸などの有機カルボン酸を好適に挙げることができ、特に、酢酸などの有機カルボン酸がシトシン結晶(5)の析出操作において好ましい。
前述の水層の中和のための酸の使用量は、水層(水溶液)のpHが7〜9、特に7〜8となる範囲の水層を調製できるような酸の使用量であればよい。
【0040】
本発明の第2工程において、水の添加による層分離、酸添加による水層(水溶液)の中和、シトシン結晶(5)の析出などは0〜100℃という広い温度範囲で行ってもよく、例えば、5〜50℃の温度で水層の中和を行うと共に、その中和液からシトシン結晶(5)を析出させて、更に、必要であれば、中和液を室温(25℃)以下の温度に冷却することが好ましい。
【0041】
なお、例えば、前記の第2工程において水層(水溶液)に酸を添加する中和操作を約60〜100℃、特に70〜90℃の比較的高温で行い、そして、中和された水層(水溶液)からシトシン結晶(5)を析出させる操作は、中和操作における水層の温度よりも約10〜100℃、更に20〜50℃程度低い温度であって、しかも0〜80℃、特に5〜70℃、更に10〜50℃である比較的低い温度にまで冷却することによって行うことができる。
本発明の第2工程においては、前述のいずれの操作も大気圧下で行われるが、減圧下、或いは、加圧下でも行うことができる。
【0042】
本発明の第2工程において析出したシトシン結晶(5)は、例えば、濾過等の常法により単離されるが、更に、必要であれば、その水層から析出したシトシン結晶(5)を減圧下等で充分に乾燥すると共に、シトシン結晶(5)から結晶水(シトシン1分子に対して結晶水1分子)を実質的に除去することが好ましい。このようにして、医薬品原料として十分に高い純度を有しているシトシン結晶(5)を容易に得ることができる。
【0043】
本発明の第2工程において得られたシトシン結晶(5)は、医薬品原料として、十分に高い純度を有しているが、更に高い純度のシトシン結晶(5)を得る場合には、第3工程
【0044】
【化12】
【0045】
で表わされる再結晶化処理(必要であれば活性炭処理を併用する)を前述の第2工程の後に組み合わせることにより達成することができる。
【0046】
本発明の第2工程に更に追加される再結晶操作(第3工程)は、第2工程で得られた『不純物を含むシトシン結晶』を、アルカリ金属水酸化物の水溶液に溶解し攪拌して(必要であれば得られた溶解液に活性炭を添加し、濾過して精製して)、シトシンのアルカリ金属塩(4)を含む水溶液を調製する。そのようにして得られたシトシンのアルカリ金属塩(4)を含む水溶液(又はその濾液)について第2工程と同様に『酸の添加による中和操作』と『シトシン結晶(5)の析出操作』とを行い、最後に濾別により濾液とシトシン結晶(5)とに分離して高い純度のシトシン結晶(5)を得るのである。
【0047】
本発明の第3工程において使用されるアルカリ金属水酸化物としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム又はルビジウムの各水酸化物を挙げることができ、特にリチウム、ナトリウム又はカリウムの各水酸化物が好ましい。この発明の再結晶操作では、アルカリ金属水酸化物として更に好ましいものは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである。
【0048】
本発明の第3工程において使用されるアルカリ金属水酸化物の水溶液は、濃度が5〜30重量%、特に10〜20重量%程度であることが好ましく、そして、その水溶液の使用量は、第3工程で使用するシトシン結晶(5)100重量部に対して、100〜1000重量部、特に150〜800重量部、更に200〜500重量部程度であることが好ましい。
【0049】
本発明の第3工程において使用される活性炭の量は、第3工程で使用するシトシン結晶100重量部に対して、1〜50重量部、特に2〜30重量部、更に5〜20重量部程度であることが好ましい。
【0050】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をさらに詳しく説明する。しかし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例、参考例及び比較例における液体クロマトグラフフィー(以下HPLCと略記する)の分析条件は以下の通りである。
【0051】
【0052】
実施例1
第1工程として、まず、尿素120.4g(2.0モル)と、ナトリウムメトキシドのメタノ−ル溶液231.2g〔NaOCH3 :64.7g(28重量%)、CH3 OH:166.5 g(72重量%)〕と、ニトリル化合物112g(1.01 モル)〔3, 3- ジメトキシプロピオニトリル(89.1重量%)と3−メトキシアクリロニトリル(10.9重量%)との混合物〕とを、トルエン800mlに溶解させて、反応原料液を得た。その反応原料溶液を常圧で約70℃付近まで加熱還流すると共にメタノールを留去しながら4時間反応させ(後半の反応温度は80〜120℃)、シトシンのナトリウム塩を含む反応混合液を得た。
【0053】
第2工程として、その4時間の反応によって得られた反応混合液を室温(25℃)に冷却すると共に、460mlの水を添加して層分離させた後、トルエン層(有機溶媒層)を除去して、シトシンのナトリウム塩などの反応生成物が溶解している水層(水溶液)を得た。
その層分離操作で得られた水層(水溶液)673.6gをHPLCで定量分析したところ、シトシンのナトリウム塩はシトシンに換算して96.9g(0.87モル)含まれていることが確認された。
【0054】
前述のようにして得られたシトシンのナトリウム塩を反応生成物として主として含む水層(水溶液)224g(シトシン換算の含有量:30.93g)にメタノール60.93gを添加した後、この水溶液を40℃に保ちながら、酢酸20.31gをゆっくりと滴下して、該水溶液を中和すると共にシトシン結晶を析出させ、そして、その中和液のpHを7.5まで中和した後、室温(25℃)にまで冷却して、その中和液からシトシン結晶をほぼ全量析出させた。
前記の酢酸の滴下を終了させた後、pH7.5にまで中和した水溶液から析出したシトシン結晶が分散しているスラリー状の水溶液を室温で濾別し、得られたシトシン結晶を減圧乾燥したところ、シトシン結晶26.07gが得られた。
該シトシン結晶をHPLCで定量分析したところ、シトシン結晶はその純度が99.41重量%であって、不純物(6)の含有率が0.04重量%であった。
【0055】
実施例2
実施例1の第1工程及び第2工程に続く第3工程として、実施例1の第2工程で得られたシトシン結晶25.0gを、14重量%の水酸化ナトリウム水溶液78.87gに溶解して、シトシンのナトリウム塩の水溶液を調製した。
そのシトシンのナトリウム塩を含む水溶液にメタノール50gを添加した後、40℃に保ちながら酢酸16.25gをゆっくりと滴下して、該水溶液を中和した。最終的にpH7.5まで中和してシトシン結晶を析出させた。
【0056】
酢酸の滴下を終了した後、pH7.5の該水溶液(中和液)から析出したシトシン結晶を室温で濾別して、得られたシトシン結晶を減圧乾燥したところ、シトシン結晶21.84gが得られた。該シトシン結晶をHPLCで定量分析したところ、シトシン結晶はその純度が99.98重量%であり、不純物(6)の含有率が約0.00重量%であって不純物(6)が実質的に検出されなかった。
【0057】
実施例3
実施例1の第1工程及び第2工程に続く第3工程として、実施例1の第2工程で得られたシトシン結晶23.0gを、14重量%の水酸化ナトリウム水溶液72.5gに溶解して、シトシンのナトリウム塩を含む水溶液を調製した。
そのシトシンのナトリウム塩を含む水溶液に活性炭(商品名;カルボラフィン:武田薬品工業社製)2.3gを添加して、その水溶液を45℃で1時間攪拌した後に、活性炭を濾別して濾液(水溶液)を得た。その濾液にメタノール46gを添加した後、40℃に保ちながら酢酸19.6gをゆっくりと滴下して、該水溶液を中和してシトシン結晶を析出させた。
【0058】
酢酸の滴下を終了した後、pH7.5にまで中和した該水溶液(中和液)から析出したシトシン結晶を室温で濾別して、得られたシトシン結晶を減圧乾燥したところ、シトシン結晶19.7gが得られた。該シトシン結晶をHPLCで定量分析したところ、シトシン結晶は、その純度が99.98重量%であり、不純物(5)の含有率が約0.00重量%であって不純物(6)が実質的に検出されなかった。
【0059】
比較例1
実施例1の第1工程及び第2工程の途中(層分離)まで、実施例1と同様に実施して、シトシンのナトリウム塩を含む水層(水溶液)222gを得た。
その水溶液(シトシンのナトリウム塩のシトシン換算での含有量31.9g)にメタノールの添加をすることなく、40℃に保ちながら酢酸19.6gをゆっくりと滴下して、該水溶液を中和してシトシンを生成させると共に、シトシン結晶を析出させた。
【0060】
酢酸の滴下を終了した後、pH7.5にまで中和した該水溶液(中和液)から析出したシトシン結晶を室温で濾別し、得られたシトシン結晶を減圧乾燥したところ、シトシン結晶25.7gが得られた。該シトシン結晶をHPLCで定量分析したところ、シトシン結晶はその純度が99.41重量%であり、不純物(6)の含有率が0.16重量%であった。
【0061】
実施例4
実施例1と同様にして、第1工程の反応を行って、生成したシトシンのナトリウム塩を含む反応混合液を得た。
第2工程として、その反応混合液を室温に冷却すると共に、水を460ml添加して、層分離させてトルエン層(有機溶媒層)を除去して、シトシンのナトリウム塩などの反応生成物が溶解している水層(水溶液)を分離させ、その層分離操作で得られた水層673.6gをHPLCで定量分析したところ、シトシンのナトリウム塩はシトシン換算で96.9g(0.87モル)含まれていることが確認された。
【0062】
前述のようにして得られた『シトシンのナトリウム塩(シトシン換算で)31.9gを含む水溶液222g』にイソプロピルアルコール63.9gを添加し、その水溶液を40℃に保ちながら酢酸19.6gをゆっくりと滴下して、該水溶液を中和してシトシン結晶を析出させた。
【0063】
酢酸の滴下を終了した後、pH7.5にまで中和した該水溶液から析出したシトシン結晶を室温で濾別し、得られたシトシン結晶を減圧乾燥したところ、シトシン結晶25.0gが得られた。該シトシン結晶をHPLC分で定量分析したところ、シトシン結晶はその純度が99.73重量%であり、不純物(6)の含有率が0.01重量%であった。
【0064】
実施例5
実施例4の第1工程及び第2工程に続く第3工程として、実施例4の第2工程で得られたシトシン結晶23.0gを、14重量%の水酸化ナトリウム水溶液72.5gに溶解して、シトシンのナトリウム塩を含む水溶液を調製した。
そのシトシンのナトリウム塩を含む水溶液にメタノール50gを添加した後、40℃に保ちながら酢酸19.6gをゆっくりと滴下して、該水溶液を中和してシトシン結晶を析出させた。
【0065】
酢酸の滴下を終了した後、pH7.5にまで中和した該水溶液から析出したシトシン結晶を室温で濾別し、得られたシトシン結晶を減圧乾燥したところ、シトシン結晶19.7gが得られた。該シトシン結晶をHPLCで定量分析したところ、シトシン結晶はその純度が99.98重量%であり不純物(6)の含有率が0.00重量%であった。
【0066】
実施例6
実施例5の第3工程と同様に調製したシトシンと水酸化ナトリウムとの水溶液に活性炭(商品名;カルボラフィン:武田薬品工業社製)2.3gを添加して、45℃で1時間攪拌して、活性炭と濾液とに濾別した。その濾液にイソプロピルアルコール46gを添加した後、45℃に保ちながら酢酸19.6gをゆっくりと滴下して、該水溶液を中和してシトシン結晶を析出させた。
【0067】
滴下を終了させた後、pH7.5まで中和した該水溶液から析出したシトシン結晶を室温で濾別して、得られたシトシン結晶を減圧乾燥したところ、シトシン結晶19.2gが得られた。
該シトシン結晶をHPLCで定量分析したところ、シトシン結晶は、その純度が99.98重量%であり、不純物(6)の含有率が0.00重量%であって、実質的に不純物が検出されなかった。
【0068】
実施例7
第1工程として、先ず、尿素30g(0.50モル)と、ナトリウムメトキシド(NaOCH3 :20.3g、28重量%)がメタノール(CH3 OH:52.2g、72重量%)に溶解したメタノール溶液72.5gと、3−メトキシアクリロニトリル16.5g(0.198モル)とを、トルエン130mlに混合して反応原料液を調製した。その反応原料液を加熱還流させて、4時間反応させた。さらに、内部温度が100℃になるまで溶媒に用いたメタノールと反応で生じるメタノールをトルエンと共に留去し、シトシンのナトリウム塩を含む反応混合液を得た。
【0069】
第2工程として、そのシトシンのナトリウム塩を含む反応混合液を室温に冷却すると共に、水を114ml添加して、層分離させてトルエン層(有機溶媒層)を除去して、シトシンのナトリウム塩などの反応生成物が溶解している水層(水溶液)を分離させ、その層分離操作で得られた水層117.5gをHPLCで定量分析したところ、シトシンのナトリウム塩はシトシンとして18.6g(0.167モル)含まれていることが確認された。
前述のようにして得られたシトシンのナトリウム塩を反応生成物として含む水層(水溶液)140.0g(シトシンとして14.69g含有)にメタノール36.8gを添加した後、この水溶液を40℃に保ちながら酢酸15.9gをゆっくりと滴下して該水溶液を中和すると共に、シトシン結晶を析出させた。
前記の酢酸の滴下を終了させた後、その中和した水溶液から析出したシトシン結晶を室温で濾別し、得られたシトシン結晶をHPLCで定量分析したところ、シトシン結晶はその純度が99.57重量%であって、不純物(6)の含有率が0.03重量%であった。
【0070】
比較例2
実施例4の第1工程及び第2工程の途中(層分離)まで実施例4と同様に実施して、『シトシンのナトリウム塩を含む水層(水溶液)224g』を得た。 その水溶液(シトシンのナトリウム塩のシトシン換算での含有量30.5g)にイソプロピルアルコールの添加をすることなく、40℃に保ちながら酢酸20.31gをゆっくりと滴下して、該水溶液を中和してシトシン結晶を析出させた。
【0071】
酢酸の滴下を終了した後、pH7.5まで中和した該水溶液から析出したシトシン結晶を室温で濾別し、得られたシトシン結晶を減圧乾燥したところ、シトシン結晶27.28gが得られた。
該シトシン結晶をHPLCで定量分析したところ、シトシン結晶は、その純度が99.4重量%であり、不純物(6)の含有率が0.17重量%であった。
【0072】
比較例3
第1工程として、先ず、尿素90g(1.50モル)と、ナトリウムメトキシド粉末60.9g(1.13モル)と、ニトリル化合物68.4g(0.62モル)〔3,3-ジアルコキシプロピオニトリル(89.1重量%)と3-アルコキシアクリロニトリル(10.9重量%)との混合物〕とを、トルエン390mlに混合して反応原料液を調製して、その反応原料液を加熱還流させて、6時間反応させて、シトシンのナトリウム塩を生成させた。
第2工程として、そのシトシンのナトリウム塩を含む反応混合物をそのまま室温に冷却すると共に、水を340ml添加して、層分離させてトルエン層(有機溶媒層)を除去して、シトリンのナトリウム塩などの反応生成物が溶解している水層(水溶液)を分離させ、その層分離操作で得られた水層553.0gをHPLCで定量分析したところ、シトシンのナトリウム塩はシトシンとして52.3g(0.471モル)含まれていることが確認された。又、この層分離操作で得られる水層には、GC定量分析によりメタノールが10.8重量%(59.7g、1.86モル)含まれていることが確認された。
【0073】
前述のようにして得られたシトシンのナトリウム塩を反応生成物として含む水層(水溶液)548.0g(シトシンとして51.84g含有し、メタノール59.2g含有する)に、酢酸15.9gをゆっくりと滴下して該水溶液を中和すると共に、シトシンの結晶を析出させた。酢酸の滴下中は、中和される水溶液を40℃に保った。
前述の酢酸の滴下を終了させた後、その中和した水溶液から析出したシトシン結晶を室温で濾別し、得られたシトシン結晶を減圧乾燥したところ、シトシン結晶42.3gが得られた。
該シトシン結晶をHPLCで定量分析したところ、シトシン結晶はその純度が99.25重量%であって、不純物(6)の含有率が0.11重量%であった
【0074】
【本発明の作用効果】
本発明によれば、3−アルコキシアクリロニトリル(1)及び3,3−ジアルコキシプロピオニトリル(2)からなる群から選ばれた少なくとも1種のニトリル化合物と、尿素とを、アルカリ金属アルコラ−ト(3)の存在下に、水難溶性有機溶媒中で反応させてシトシンのアルカリ金属塩(4)を含む反応混合液を得た後、水を添加して層分離して、シトシンのアルカリ金属塩(4)を含む水層(水溶液)に水可溶性低級アルコ−ルを添加しその水層を酸で中和してシトシン結晶(5)を析出させることにより、この反応における副生物である不純物(6)などが効果的に除去された高い純度のシトシン結晶(5)を工業的に容易に得ることができるという優れた効果を有する。
Claims (10)
- 第1工程において、式(1)
- 第1工程において使用する水難溶性有機溶媒が、25℃において水に10容量%以上溶解することができない有機溶媒である請求項1に記載のシトシンの製法。
- 第1工程において、低級アルコールを留去しながら反応させてシトシンのアルカリ金属塩(4)を生成させる請求項1に記載のシトシンの製法。
- 第1工程において使用する水難溶性有機溶媒が、置換基を有していてもよい脂肪族又は脂環式炭化水素系の水難溶性有機溶媒、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素系の水難溶性有機溶媒、及びエーテル系の水難溶性有機溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種の水難溶性有機溶媒である請求項1に記載のシトシンの製法。
- 第2工程において、第1工程で得られたシトシンのアルカリ金属塩(4)を含む反応混合液へ添加される水の添加量が、第1工程の反応で生成するシトシンのアルカリ金属塩(4)の合計量に対して1〜50重量倍である請求項1に記載のシトシンの製法。
- 第2工程において層分離により得られたシトシンのアルカリ金属塩(4)が溶解している水層(水溶液)へ添加される水可溶性低級アルコールの添加量が、第1工程における反応で生成するシトシンのアルカリ金属塩(4)の合計量(重量:シトシン換算)に対して、0.5〜15重量倍である請求項1に記載のシトシンの製法。
- 第2工程において層分離により得られたシトシンのアルカリ金属塩(4)が溶解している水層(水溶液)へ添加される水可溶性低級アルコールが、25℃において水に50容量%以上溶解しうる炭素数1〜4の脂肪族アルコールである請求項1に記載のシトシンの製法。
- 第2工程において水層(水溶液)へ添加される水可溶性低級アルコールが、イソプロピルアルコールである請求項1に記載のシトシンの製法。
- 第2工程で得られたシトシン結晶(5)をアルカリ金属水酸化物の水溶液に溶解し、そして水可溶性低級アルコールを添加して、シトシンのアルカリ水溶液を調製し、次いで、その水溶液に酸を添加し中和してシトシンを生成させ、シトシン結晶(5)を中和液から析出させる請求項1に記載のシトシンの製法。
- 第2工程で得られたシトシン結晶(5)をアルカリ金属水酸化物の水溶液に溶解し、更に活性炭を添加して、活性炭と水溶液とを濾別して、濾液に水可溶性アルコールを添加してシトシンのアルカリ水溶液を調製し、次いで、その水溶液に酸を添加し中和してシトシンを生成させ、シトシン結晶(5)を中和液から析出させる請求項1に記載のシトシンの製法。
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