JP2975176B2 - チップソー - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、円板状乃至多角形板状
の回転台座の外周に複数個の刃体チップを所定間隔毎に
固着してなるチップソーに関するものである。

【０００２】

【従来の技術】従来より、この種のチップソーは鋼板等
の金属板により回転台座を形成し、この回転台座の外周
部に超硬合金やセラミック等の高硬度材料により形成さ
れた刃体チップを所定間隔毎に固着してなるものであっ
て、回転台座外周部に刃体を一体に刻設した旧来の回転
刃と比較して切削性が遥かに優れていることから、手持
ち式の電動切断機や丸鋸盤等の回転刃として木工用や外
壁材の切断用に使用されているだけでなく、近年では、
金属材の切断用にもその用途を広げている。

【０００３】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、金属板
製の回転台座を用いた従来のチップソーの場合、切断機
等に取付けて高速回転させたとき、切断時の振動が台座
を構成する金属板に伝播して同調、共鳴することにより
異常に高い金属性の激しい騒音を生じ、作業環境を著し
く悪化させるという問題点があり、特にこの金属騒音の
発生は硬い被削材を切断するとき程、顕著である。

【０００４】また、このような金属板製の回転台座外周
部への複数個の刃体チップの取付けは、通常、個々の刃
体チップをそれぞれ台座外周の所定部位に鑞付けするこ
とによって行なっているため、刃体チップ数の多いもの
程、鑞付け作業に手間と時間を要している。その上、回
転台座外周部の刃体チップとの鑞付け部分は局部的に加
熱するため、台座部の一片に硬度斑が生じ、欠けやすい
難点があり、且つ刃体チップの鑞付け後には、その接合
個所に歪が生じるのを避けられないため、その歪取り工
程が必要となる。このように従来構成のチップソーの場
合、その製造工程が煩雑な上に多大な手間と時間を要す
るため、製造コストが高くつくという問題点があった。

【０００５】更に、回転台座が金属板により形成されて
いるため、必然的に重量が大きくなる。このため、特に
手持ち式切断機等に装着されるものでは、重いチップソ
ーのために作業負担が大きくなるという不利を招いてい
た。

【０００６】本発明は、上記のような問題点を一挙に解
決するためになされたもので、高速回転時における耳障
りな金属性騷音の発生を極力抑制することができ、且つ
製造工程が簡略化されて量産に適し、安価に作製できる
上、著しく軽量化できるものでありながら、その強度、
耐久性において金属板製回転台座を使用した従来のもの
と比較して遜色のない優れた強度を備えたチップソーを
提供することを目的とするものである。

【０００７】

【課題を解決するための手段】このような目的を達成す
るために本発明に係るチップソーの構成は、実施例に対
応する図面に示すように、円形状や多角形状を呈する板
状の回転台座１を、耐熱性を有するエンジニアリングプ
ラスチックにより形成する。

【０００８】一方、前記回転台座１の外周部に配設され
る高硬度材料からなる複数個の刃体チップ５はその外周
面に、該台座１外周部における刃体チップ５との接合部
位に係止させる係合部を形成したものとする。この刃体
チップ５外周面に形成される係合部としては、該外周面
から突出または凹入する凸部や凹陥部、または凹凸形状
を組合せたものとするか、或いはを刃体チップ５外周面
の回転台座１との接合部分全体の形状が回転台座１の外
周接合部位に離脱不能に抱持されるような形状に形成す
るとよい。

【０００９】そして、前記回転台座１の成形時におい
て、溶融乃至半溶融状態とした該台座１の各刃体チップ
５との接合部位を、前記複数個の刃体チップ５の各係合
部に密着させることにより、これらの刃体チップ５を回
転台座１に離脱不能な状態で一体的に固着してなるもの
である。この回転台座１への各刃体チップ５の固着は、
例えば回転台座１を射出成形により作製する際に、複数
個の刃体チップ５をそれぞれ所定位置に配し、回転台座
１に成形される溶融乃至半溶融状態のエンジニアリング
プラスチックを各刃体チップ５の係合部に密着状態で接
合させることにより達成できる。

【００１０】

【作用】刃体チップ５が固着されている回転台座１が耐
熱性を有するエンジニアリングプラスチックによって形
成されていることにより、該台座１の軽量化を実現でき
ると共に、台座１を射出成形法等の樹脂加工法によって
効率よく量産することが可能となる。しかも、この成形
時において各刃体チップ５の外周接合面を台座１外周部
における刃体チップ５の接合部位に密着状態で固着する
ことができる。

【００１１】更に、この固着状態においては、刃体チッ
プ５の接合面に形成された係合部が回転台座１の外周接
合面に離脱不能な状態で一体的に結合しているから、各
刃体チップ５に強力な外力が加わる被切断物の切断加工
時において、刃体チップ５が台座１から離脱して飛散す
るといった危険な事態は全く生じないものであり、ま
た、エンジニアリングプラスチックが備えている高耐熱
性により切断加工時における刃体チップ５と被切断物間
で発生する摩擦熱によって、台座１の接合面部分が軟化
変形するような事態は生じない。

【００１２】また、チップソーの高速切断時において同
種金属による振動と共鳴による金属性の騒音は、高硬度
材料からなる刃体チップ５とエンジニアリングプラスチ
ックからなる回転台座１との異質材料において遮断さ
れ、振動による台座１への伝播による同調・共鳴が回避
されるので、使用時における騒音の発生を極力抑制でき
て、静粛な作業環境を実現できる。

【００１３】

【実施例】以下、本発明の実施例を図面を参照しながら
詳細に説明する。図１〜図４に示された本実施例のチッ
プソーは、例えば手持ち式電動カッターや丸鋸盤の回転
刃として、気泡コンクリートパネル、型鋼材、金属系或
いは窯業系サイディング等の切断用に供されるものであ
る。

【００１４】図１〜図３において、１は円板形状の回転
台座であって、エンジニアリングプラスチックにより形
成されるものである。この台座１に使用されるエンジニ
アリングプラスチックとしては結晶性熱可塑性樹脂であ
るＰＥＥＫが高融点(334℃)で、240〜260℃で常用でき
る高耐熱性を有し、且つ強度が大きく、射出成形に好適
な加工性を備えている点で代表的に挙げられるものであ
る。

【００１５】上記回転台座１は中心部に、切断機駆動軸
への取付用孔2aを有するボス部２を該台座１の両面から
突出させて形成してあると共に、両面にボス部２外周面
から放射状に延びる複数本の凹溝3a、3bをそれぞれ形成
してある。図４に示すようにこの回転台座１の両面に一
体に設けられた凹溝3a、3bは台座１の一面側と他面側と
で台座回転方向に一定角度だけ位相をずらせて配設して
あり、このように構成することにより、凹溝3a、3bの形
成部位の強度低下並びに成形歪を極力抑制している。ま
た、これらの凹溝3a、3bが放射状に配設されていること
により、台座１の回転時において各凹溝3a、3bが空冷作
用を果たし、台座１の過熱が効果的に防止されるもので
ある。

【００１６】更に、回転台座１の外周部複数個所にはＵ
字形状の切欠凹入部４が一定間隔毎に放射状に形成され
ており、この各切欠凹入部４の対向端面4a、4bのうち、
台座回転方向（図１の矢印ａ方向）後方側となる端面4a
側にそれぞれ刃体チップ５が配設されるものである。

【００１７】これらの刃体チップ５は耐摩耗性に優れた
超硬合金やセラミック等の高硬度材料からなる成形品で
あって、その尖端刃先部６が回転台座１の外周面から突
出すると共に該刃先部６と連続する基端部７が台座１に
抱持、固着されている。

【００１８】即ち、図５〜図８に示すように、刃体チッ
プ５の刃先部６はその両側面6a、6b間の稜角部が鋭角を
成す三角形状に形成されている。また、基端部７は刃先
部６の両側面6a、6bからやや角度を変えて末広がり状に
連続するテーパ面部7a、7bを有し、これら両テーパ面部
7a、7bの端部間を円弧状曲面部7cを介して連続させてな
る先細りの馬蹄形状に形成されていて、一方のテーパ面
部7aから円弧状曲面部7cを経て他方のテーパ面部7bに至
る馬蹄形状基端部７の外周面部分の幅方向中央部に、台
座１の外周部における刃体チップ５との接合部位に係止
させる係合部としてのＶ字形状の係合溝８が形成されて
いる。

【００１９】また、図６に示すように、この刃体チップ
５の厚さ寸法t₁は回転台座１の厚さ寸法t₂よりも若干厚
く、具体的には該刃体チップ５の両側が台座１の両側か
らそれぞれ0.5〜1.0mm程度突出するように設計されてお
り、このようにすることによってチップソーを高速回転
させて切断加工するとき、台座１の両側面6a、6bが被切
断物に接触することなく、良好な切断加工が行なえるも
のである。

【００２０】上記のように構成された複数個の刃体チッ
プ５はそれぞれ回転台座１の成形時において、該台座１
の射出成形金型内における台座１と刃体チップ５との接
合部位に対応する位置に配設される。そして、該金型内
に溶融乃至半溶融状態のエンジニアリングプラスチック
を注入したとき、この流動状態の樹脂が刃体チップ５の
係合溝８に流入し、該溝８とその両側のチップ５外周面
部分と密着状態で接合する。この後、樹脂を硬化させる
ことにより、刃体チップ５の刃先部６の一方の側面6aが
回転台座１のＵ字状切欠凹入部４の一方の対向端面4aと
面一となる状態で該凹入部４に臨んで露出すると共に、
他方の側面6bが回転台座１の外周面から傾斜状に突出す
るものであり、また、刃体チップ５の基端部７はその外
周面が先細りのなっているため、台座１を構成する樹脂
に抱持された状態では刃先部６の突出方向への抜脱が阻
止されるものであり、更に係合溝８に流入後、硬化した
樹脂部分が該係合溝８に係止されることにより、厚さ方
向両側への抜脱が阻止される。このように両方向への抜
脱が阻止されることにより、各刃体チップ５はそれぞれ
回転台座１に離脱不能な状態で一体的に固着されるもの
である。

【００２１】このように本実施例によれば、金型内に配
設した刃体チップ５の基端部７が台座１を構成する注入
樹脂によって抱持されることによる刃先部６の突出方向
への抜止めと、刃体チップ５基端部７の係合溝８と注入
樹脂との係合による厚さ方向への抜止めとが回転台座１
の成形時において、同時に達成されるものであり、その
固着形態も接着剤等を介して行なうものではなく、刃体
チップ５の外周形状に樹脂が食い込むという構造的な形
態となっているので、完全な離脱不能状態とすることが
でき、チップソーを高速回転させて行なう切断加工時に
おいて刃体チップ５の刃先部６に加わる強力な切削反力
を台座１に確実に受止させることができるものである。

【００２２】図９に示されたチップソーは、主として木
工用の切断刃として使用されるものであって、刃体チッ
プ５の刃先部６をＵ字形状の切欠凹入部端面4aと回転台
座１の外周面の両面外方に突出させたものである。その
他の構成は上記実施例と共通しているので、重複を避け
るためにその説明を省略する。

【００２３】刃体チップ５の基端部７に形成される係合
部は、上記実施例のようなＶ字溝の他、図１０に示すよ
うに、複数個の突起8aにより形成したものや、図１１に
示すように、長方形状に形成された刃体チップ５の基端
部７に該基端部７の後面と下面とに開口する鈎孔状の貫
通係合孔8bを設けて、該係合孔8bと台座１を構成する樹
脂との係合により刃体チップ５の突出方向並びに厚さ方
向両側への抜脱を阻止するようにしたものなど、諸種の
変形態様が考えられる。

【００２４】

【発明の効果】以上説明したように本発明のチップソー
は、板状の回転台座を耐熱性を有するエンジニアリング
プラスチックにより形成し、この回転台座の外周部に配
設される高硬度材料からなる複数個の刃体チップの外周
面に、前記回転台座外周部における刃体チップとの接合
部位に係止させる係合部を形成し、前記回転台座の成形
時において溶融乃至半溶融状態とした回転台座の各刃体
チップとの接合部位を前記複数個の刃体チップの各係合
部に密着させることにより、これらの刃体チップを回転
台座に離脱不能な状態で一体的に固着してなるものとし
た。このように刃体チップが固着される回転台座をエン
ジニアリングプラスチックによって形成することによ
り、該台座の軽量化を実現できると共に、台座を射出成
形法等の樹脂加工法を用いて効率よく量産できるもので
ある。

【００２５】また、この台座成形時において各刃体チッ
プの外周接合面を台座外周部における刃体チップの接合
部位に密着状態で固着することができる。即ち、エンジ
ニアリングプラスチックは成形時において、溶融乃至半
溶融状態となるものであるから、樹脂注入時に台座の各
刃体チップとの接合部位が前記複数個の刃体チップの各
係合部に密着し、これによって各刃体チップを回転台座
に離脱不能な状態で一体的に固着することができる。

【００２６】更に、この固着状態においては、刃体チッ
プの接合面に形成された係合部が回転台座の外周接合面
に離脱不能な状態で一体的に結合しているから、チップ
ソーを高速回転させながら各刃体チップによって被切断
物の切断加工を行なう駆動時において、刃体チップに加
わる強力な反力は回転台座に確実に受止されるものであ
り、刃体チップが離脱、飛散するという危険な事態は全
く生じない。また、エンジニアリングプラスチックが備
えている、高強度、高耐熱性により切断加工時における
刃体チップと被切断物間で発生する摩擦熱によって、台
座の接合面部分が軟化変形したり、破壊したりするとい
う危険性も全く生じないものである。

【００２７】更にまた、チップソーの高速切断時におい
て、従来見られたような同種金属による振動と共鳴によ
る金属性騒音は、高硬度材料からなる刃体チップとエン
ジニアリングプラスチックからなる回転台座との異質材
料において遮断され、風切り音の台座への伝播による同
調・共鳴が回避されるので、使用時における騒音の発生
を極力抑制できて、静粛な作業環境を実現できる。

【００２８】このように本発明のチップソーは、高速切
断時における騷音をなくして静粛な作業環境を実現でき
るだけでなく、製造工程が簡略化されて量産に適し、且
つ安価に作製できるものであり、更に、樹脂を使用する
ことにより著しく軽量化できるものでありながら、その
強度、耐久性において金属板製回転台座を使用した従来
のものと比較して遜色のない優れた強度を備えたチップ
ソーを実現できるという優れた効果を発揮するものとな
った。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明にかかるチップソーの正面図

【図２】その側面図

【図３】図１における切断線Ａ−Ａに沿って厚さ方向に
拡大した断面図

【図４】図１における切断線Ｂ−Ｂに沿う拡大断面図

【図５】刃体チップの取付部を示す拡大正面図

【図６】図５における切断線Ｃ−Ｃに沿う断面図

【図７】刃体チップの拡大斜視図

【図８】別方向から見た刃体チップの拡大斜視図

【図９】木工用に使用されるチップソーへの適用例を示
す刃体チップ部分の拡大正面図

【図１０】刃体チップの係合部の変形例を示す拡大斜視
図

【図１１】刃体チップの係合部の他の変形例を示す一部
切欠拡大正面図

【符号の説明】

１ 回転台座 ５ 刃体チップ ８ 係合部 8a 係合部 8b 係合部

Claims (1)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 板状の回転台座を耐熱性を有するエンジ
   ニアリングプラスチックにより形成すると共に、この回
   転台座の外周部に配設される高硬度材料からなる複数個
   の刃体チップの外周面に、前記回転台座外周部における
   刃体チップとの接合部位に係止させる係合部を形成し、
   前記回転台座の成形時において溶融乃至半溶融状態とし
   た回転台座の各刃体チップとの接合部位を、前記複数個
   の刃体チップの各係合部に密着させることにより、これ
   らの刃体チップを回転台座に離脱不能な状態で一体的に
   固着してなることを特徴とするチップソー。