JP2888501B2 - 磁性変態金属でなる物品 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】この発明は、パチンコ店、ゲーム
店等で顧客に渡す換金用特殊景品やメダル或いは有名ブ
ランド商品など、偽造や改ざん又は模造に対してセキュ
リティを要求される物品に関する。

【０００２】

【従来の技術】一般に、パチンコ店、ゲーム店等の遊技
場では顧客が獲得したパチンコ玉、メダルを景品（商
品）に交換しているが、その景品の内、現金と交換でき
る特殊景品を希望する顧客も多い。この現金交換用景品
は、例えばプラスチックケースに入った万年筆，プラス
チックケース入りの文鎮（薄い金属）等、種々の品物が
店毎あるいは、ある一定の地域毎に統一して使用されて
おり、顧客はこの現金交換用特殊景品を別途交換場へ持
っていき、所定の比率の現金に交換してもらっている。

【０００３】最近ではパチンコ玉等を計数して、その計
数値に応じた現金交換用特殊景品を顧客に対して自動的
に払い出すようにした景品交換装置も出現している。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】現金交換用特殊景品の
現金への交換は、景品交換場の係員が目で見て判断して
おり、一度に多数持ち込まれた場合には数え間違いを生
じたり、価値（金額）が異なる多種の現金交換用特殊景
品が使用されているときは、換金金額の計算間違いを生
じていた。また、外のケースはそのままで中身の商品が
すり換えられた偽造景品が持ち込まれても確実に発見で
きないこともあった。

【０００５】さらに、換金を自動的に行ない得るように
したシステムが特開平１−１１５３８１号公報に開示さ
れているが、これは特殊景品に磁気テープを貼付してお
き、景品払い出し時にこの磁気テープに金額等を記録
し、現金交換機にて磁気テープの金額を読取って現金を
払い出している為、磁気テープの情報を解析することに
よりデータの改ざんが容易になされてしまうという問題
点がある。また改ざんはしなくても、磁気テープの情報
をコピーして別の磁気テープに写し、偽の特殊景品に貼
付されて使用されても発見できないという問題点もあ
る。

【０００６】また、遊技用メダルでは、大きさ（直径）
だけで判別しているため偽造が容易であり、他店のメダ
ルが混入することも多かった。

【０００７】その他、有名ブランド品のベルトのバック
ル、ネクタイピン、カフスボタンなどの装身具やバッグ
類の金具等にはメーカ名や商標が記入されているが、し
ばしば模造品が出回っており、それらは外観的に精巧に
出来ているので、目視だけで見分けることは困難であっ
た。

【０００８】この発明は上述のような事情に鑑みてなさ
れたものであり、この発明の目的は、偽造や改ざんがで
きず、セキュリティの高い記録機能を持った物品を提供
することにある。

【０００９】

【課題を解決するための手段】この発明は偽造に対して
セキュリティを有する記録媒体から成る物品に関するも
ので、この発明の上記目的は、機械的変形によって非磁
性から強磁性に磁性変態を生じる金属を用いて、部分的
に強磁性への磁性変態を生ぜしめ、記録を行なうように
した磁性変態金属でなる物品によって達成される。

【００１０】

【作用】鋼をオーステナイト域から臨界冷却速度以上で
焼入れすると、マルテンサイトが得られる。このマルテ
ンサイトの発生温度をＭ_ｓ点といい、鋼の化学成分に依
存する。しかし、マルテンサイトは不安定なオーステナ
イトを加工しても誘発されることがあり、加工度によっ
てその発生温度はＭ_ｓ点より高温にずれるが、Ｍ_ｓ点よ
り余り高くなると、加工によるマルテンサイト化が生じ
なくなる。この点をＭ_ｄ点といい、加工によって生じる
マルテンサイト化を加工誘発変態という。この場合、オ
ーステナイトを加工するために応力が負荷されていて、
この加工ひずみによってマルテンサイト変態が誘発・進
行する。マルテンサイト変態の進行に伴って大きな塑性
が生じるが、これは変態誘起塑性（ｔｒａｎｓｆｏｒｍ
ａｔｉｏｎ−ｉｎｄｕｃｅｄ ｐｌａｓｔｉｃｉｔｙ，
略称ＴＲＩＰ）と名付けられており、この変態誘起塑性
は超塑性の一種である。すなわち、加工によってオース
テナイト→マルテンサイト変態が発生し、加工誘発変態
の起因となった応力集中が変態の発生によって緩和さ
れ、かなり大きい延性を示すことになる。

【００１１】この発明は上述のような加工誘発変態があ
り、機械的変形によって非磁性から強磁性に磁性変態を
生じる金属をセキュリティを要する物品又はその一部と
して用いるものである。尚、ここで言う「金属」とは合
金も含むものとする。

【００１２】ところで、ステンレス鋼は次の表１のよう
に分類される。

【００１３】

【表１】 また、オーステナイトステンレスはＳＵＳ３０１，３０
４，３１６，３２１の如く種々に分かれており、この発
明に用いるステンレスは準安定なオーステナイト相を室
温で有するステンレス鋼、つまりＭ_ｄ点は室温以上であ
り、Ｍ_ｓ点は室温以下のオーステナイトステンレス鋼で
ある。そして、室温において圧延，エンボス，パンチ穴
等の機械的変形を上記オーステナイトステンレス鋼に与
えることにより、非磁性のオーステナイトが強磁性のマ
ルテンサイトに変態する。これは、数百°Ｃ以上に加熱
しない限り非可逆性である。

【００１４】図１０は、一例としてプレス又はエンボス
によってオーステナイトステンレス鋼１の凹部２が強磁
性化された様子を示している。このようにしてセキュリ
ティが必要な物品上の任意の部分に強磁性部分を形成す
ることにより、偽造が不可能な情報記録を行なう。

【００１５】

【実施例】図１はこの発明の１実施例として、現金交換
用特殊景品１０の外観を透明ケース１１に収納した状態
で示しており、パチンコ店では顧客の獲得したパチンコ
球数に応じて上記ケース１１に入った現金交換用特殊景
品１０を顧客に渡すことになる。ここに、現金交換用特
殊景品１０は底部に樹脂，布１２等を敷設された透明ケ
ース１１内に収容されており、現金交換用特殊景品１０
に記録されている球数データ又は金額データは、ケース
１１の外側より非接触センサで磁気的に読取られる。
尚、強磁性，非磁性のパターンは景品の価値により変え
る（例えば２００円，５００円，１０００円等）。この
とき、顧客が目で見て分るように表面に数字を明示する
こともできる。また、現金交換用特殊景品１０は必ずし
も透明ケース１１に収容されてなくても良い。

【００１６】次に、現金交換用特殊景品１０の製造工程
を図２を参照して説明すると、上述したようなオーステ
ナイトステンレス鋼を機械加工して同図（Ａ）の如き景
品部材２０を得る。この場合、凸部２０Ａの位置によっ
て最終的な強磁性の位置が決まり、凸部２０Ａの高さの
違い、つまり機械加工における圧延率の違いによって最
終的に磁性（磁気的強度）の違いが生じる。凸部２０Ａ
が高いほど圧延率が大きくなって磁性が強くなる。図２
（Ａ）の機械加工が終了した時点では、機械加工のため
に景品部材２０の表面全体或は一部が強磁性化されてい
るので、熱処理によって非磁性化、つまりオーステナイ
ト単相にする（図２（Ｂ）の状態）。熱処理によって非
磁性化された景品部材２１に対して、凸部のみ圧延を行
なうことによって、その部分のみを強磁性化させた図２
（Ｃ）の如き景品部材２２を得る。図の斜線部が強磁性
化された部分を示している。そして、かかる図２（Ｃ）
の景品部材２２に対して表面研磨して汚れ（油，酸化膜
等），凹凸等を取り除き、最終的には電解研磨，化学研
磨等の残留ひずみが残らない研磨で仕上げることが望ま
しい。その後に表面装飾して、図２（Ｄ）の如き現金交
換用特殊景品10を得る。

【００１７】ここで、表面研磨は砥石，研磨紙等によっ
て研磨したい面を擦り、機械的に削って行くもので、数
μｍの変形ダメージ層（変質層）が生じる。また、電解
研磨は研磨を行ないたい材料を正極として、正負両極を
同時に電解液に浸して電圧を印加するものである。この
場合、正極からは電子が奪われるため、材料表面の原子
はイオン化して電解液中に溶け出す。機械的ダメージが
ないため変質相が生じることはなく、この電解研磨は機
械研磨によって生じた変質相を取り除くために行な
う。、更に化学研磨は特定の腐食液（塩酸，硫酸，王水
等）に材料を浸し、表面を溶かして行くもので、目的は
電解研磨と同一である。従って、電解研磨又は化学研磨
のいずれか一方を行なえば良い。表面装飾は、例えば金
メッキ等のように表面に高級感のあるものを成膜した
り、表面彫刻又は表面塗装でも良い。なお、表面彫刻に
よって生じた強磁性は、電解研磨等により取り除いても
良い。最終的に得られた図２（Ｄ）の如き現金交換用特
殊景品１０のＸ−Ｘ断面構造は、図３のようになってい
る。

【００１８】尚、上述の実施例では現金交換用特殊景品
の長手方向に対して直交するように強磁性体化部を形成
しているが、図４に示すように長手方向に沿って強磁性
体化部を形成してコード化しても良い。

【００１９】この発明の現金交換用特殊景品１０に記録
されている情報は、図５（Ａ）に示す如く現金交換用特
殊景品１０の上方（又は側面）に金属の強磁性部を磁化
させ得る磁化力を持つバイアス磁石を備えた磁気抵抗
（ＭＲ）センサ３０を設置し、相対的にいずれかを移動
することによって磁気出力を検出し、信号処理すると同
図（Ｂ）のような磁気抵抗信号ＭＳが得られるので、こ
の磁気抵抗信号ＭＳを所定のスレッショルドＴＨｏで２
値化して計数等することによって読取ることができる。
実際には図６に示すように景品１０の入ったケース１１
を複数個立てて搬送させ、ＭＲセンサアレイ３１で同時
に読取るようにする。その際、景品１０の強磁性，非磁
性のパターンを図６に示すように左右上下対称にしてお
けば、ケース１１の向きがどの方向であっても読取を容
易に行なうことができる。

【００２０】ところで、上述したように圧延率の大小に
よって磁性に大小が生じるが、この現象は図７に示され
ている（日本金属学会会報 Ｖｏ１．２４（１９８５）
年参照）。このことから上記金属に対して多値情報記録
が可能であり、図８で示すように複数のスレッショルド
ＴＨ１及びＴＨ２で多値情報を読取ることができる。な
お、読取はホールセンサによっても可能である。

【００２１】また、この発明の現金交換用特殊景品の製
造工程は、図９（Ａ）に示すように先ずオーステナイト
ステンレス鋼で成る平板４を切り出し、熱処理を施して
非磁性化した後にプレスで加工し、図９（Ｂ）のように
加工部のみを強磁性化するようにしても良い。この場合
もその後、研磨によって表面を平面化，装飾する。

【００２２】尚、熱により強磁性から非磁性に磁性変態
を生じる金属を用いて、レーザー等により非磁性の部分
を形成した特殊景品を作成しても良い。

【００２３】次に、この発明の他の実施例として遊技用
メダルの概要構成を図１１に示す。すなわち、非磁性の
メダルに同心円のリング状強磁性部を形成したもので、
リングの径及び数によって情報を記録することができ
る。製造方法は前述の現金交換用特殊景品と同じ工程を
用いることができ、図１２によって示される。オーステ
ナイトステンレス鋼を機械加工して同図（Ａ）のような
メダル部材を得る。機械加工によって強磁性化された部
分は熱処理によって非磁性化し、図１２（Ｂ）のように
オーステナイト単相とする。更に凸部のみ圧延を行なう
ことによって部分的に強磁性化させ、図１２（Ｃ）のご
ときメダル部材を得る。図の斜線部は強磁性化された部
分を示している。その表面を機械研磨及び電解乃至化学
研磨して仕上げを行なったあと、表面装飾して図２
（Ｄ）の如き遊技用メダル４０を得る。あるいは非磁性
化したステンレス円板から図１２（Ａ）の形状をプレス
加工で作れば凹部が強磁性化するので、これを研磨、装
飾してもよい。この場合には図１２（Ｃ）の白抜き部が
強磁性となる。

【００２４】メダルに記録された情報の読取り方法を図
１３に示す。メダルＡ及びＢが傾斜した搬送路４１を転
動しながら搬送される時、ＭＲセンサー又はホールセン
サ等磁気センサ４２の検出位置をメダル中心の軌跡４３
上におくようにすれば、メダルＡ及びＢに対してそれぞ
れ図１４（Ａ），（Ｂ）のような出力変化が得られる。
図において、メダルの中心位置から見た強磁性部分の数
及び位置でメダルの種類，真偽が判別できる。

【００２５】更に他の実施例として、ブランド品の金具
類に適用する例を挙げる。図１５は本発明による金具を
用いたハンドバッグを示したものである。非磁性オース
テイナイトステンレス鋼の金具５０に記録した強磁性部
の位置によって本物と偽物とを識別できる。また金具を
使わないハンドバッグの場合でも図１６のように表皮の
内側に部分的に強磁性化したステンレス箔５１を添付す
ることにより、磁気センサを用いて真偽の判定ができ
る。

【００２６】ブランド品識別のための磁気センサとして
は、図１７に示すようなハンディタイプの検知器を用い
ると便利である。検知器はホール素子から成るプローブ
５２，バイアス磁石５３，駆動用電池５４，出力表示部
５５及びスイッチ５６から構成されており、プローブ５
２を当てるとバイアス磁石５３により磁化された金具の
磁気出力をホール素子が検出し、その点のホール素子出
力が表示部５５に示されるようになっている。プローブ
を移動すれば、金具上の強磁性部の分布状態がわかる。

【００２７】その他、紙幣を収納する金箱の一部に金種
を示すコードとして使用してもよい。

【００２８】

【発明の効果】以上のようにこの発明の物品によれば、
機械的変形により非磁性から強磁性に磁性変態を生じる
金属を用いており、部分的に強磁性に磁性変態させてい
るので、表面から見ても磁性変態は見やぶることはでき
ず、磁気ヘッド等によってはエンコードできない為セキ
ュリティが極めて高い。また、景品にエンコードする磁
気量を加工度，加工温度により調整するようにすれば、
偽造を完全に防止できる物品を提供することができる。

【図面の簡単な説明】

【図１】現金交換用特殊景品の外観図である。

【図２】現金交換用特殊景品の製造工程示す図である。

【図３】図２（Ｄ）のＸ−Ｘ断面構成図である。

【図４】現金交換用特殊景品の他の形態を示す外観図で
ある。

【図５】この発明の情報読出の例を示す図である。

【図６】ＭＲセンサアレイを用いて複数の景品のデータ
を読取る例を示す図である。

【図７】Ｎ_ｉ当量に対する透磁率の変化を示す図であ
る。

【図８】多値情報の読出を説明するための図である。

【図９】現金交換用特殊景品の他の製造工程を示す図で
ある。

【図１０】機械的変形によって局部的な磁性変態を生じ
た様子を示す図である。

【図１１】遊技用メダルの概要構成を示す図である。

【図１２】遊技用メダルの製造工程を示す図である。

【図１３】遊技用メダルの情報読取方法を示す図であ
る。

【図１４】磁気センサ出力のタイムチャートである。

【図１５】この発明の金具を用いたハンドバッグを示す
図である。

【図１６】この発明の物品を用いたハンドバッグを示す
図である。

【図１７】ハンディタイプの検知器の外観図である。

【符号の説明】

１ オーステナイトステンレス綱 ２ 凹部 ４ 平板 １０ 現金交換用特殊景品 １１ 透明ケース １２ 布 ２０ 景品部材 ２１ 景品部材 ２２ 景品部材 ３０ ＭＲセンサ ３１ ＭＲセンサアレイ ４１ 搬送路 ４２ 磁気センサ ４３ メダル中心の軌跡 ５０ 金具 ５１ ステンレス箔 ５２ プローブ ５３ バイアス磁石 ５４ 電池 ５５ 表示部 ５６ スイッチ

Claims (5)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 機械的変形によって非磁性から強磁性に
   磁性変態を生じる金属を用いて、部分的に強磁性への磁
   性変態を生ぜしめ記録を行なうようにしたことを特徴と
   する磁性変態金属でなる物品。
2. 【請求項２】 請求項１に記載の磁性変態金属を用いた
   現金交換用特殊景品。
3. 【請求項３】 請求項１に記載の磁性変態金属を用いた
   遊技用メダル。
4. 【請求項４】 請求項１に記載の磁性変態金属を用いた
   ブランド商品の金具。
5. 【請求項５】 加熱処理によって強磁性から非磁性に磁
   性変態を生じる金属を用いて、部分的に非磁性への磁性
   変態を生ぜしめ記録を行なうようにしたことを特徴とす
   る磁性変態金属でなる物品