JP2024511199A - 嚥下障害の治療 - Google Patents

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Abstract

本発明は、自律神経系機能不全を患う対象における嚥下障害の治療又は予防における使用のためのオキシトシン受容体アゴニストに関する。

Description

本発明は、特に自律神経系機能不全を有する対象における、嚥下障害の治療管理に関する。
成人及び小児の嚥下は、口、咽頭、食道の協調的な動作に基づく複雑な機構である。嚥下機構は3つの段階、すなわち口腔段階、咽頭段階、及び食道段階を含む。嚥下プロセスの各段階は、脳神経のサブセットによって神経支配される主要な筋肉群に依存している。
口腔段階では、食物が口に運ばれ、顎と舌の動きによって咀嚼されて唾液と混合され、嚥下のための食塊が生成される。咽頭段階は、食塊が舌上に押し戻されるときに始まる。咽頭の筋肉は、喉頭を前方に引っ張り、舌骨を持ち上げて喉頭蓋を閉じ、食塊が咽頭を通過するときに気道を保護する。連動して、軟口蓋筋が上昇して鼻咽頭を閉じ、鼻副鼻腔への誤嚥を防ぐ。最後に、食道段階では、食塊が食道に入るように食道括約筋が弛緩した後、蠕動波が食物を胃液に向かって押し出すにつれて閉じる。
口腔段階のみが、意識的な努力を必要とする。咽頭に入ると、食塊は不随意反射によって胃の中に入る(Maynardら、Annual Review of Neuroscience、2020、4:316~36頁)。
嚥下障害は、嚥下作用の障害、すなわち嚥下プロセスの1つ以上の段階における機能不全を示す医学用語である。嚥下障害は、飲み込む前後の咳、窒息、声がれ、逆流、持続的な唾液の垂れ流し、誤嚥、食物の侵入、及び不適切な咀嚼等のいくつかの症状によって特徴付けられ得る。嚥下障害の患者は、食べ物が喉若しくは胸に貼り付く若しくは詰まる感覚、及び/又は胸若しくは喉の不快感を訴えることが多い。時として、嚥下障害は重篤な健康上の合併症を引き起こしつつも、無症候性であり得る(すなわち、器具無しには医師にも同定できない)。
実際、栄養不良及び脱水、誤嚥性肺炎、全身状態の悪化、慢性肺疾患、窒息、そして死亡さえも、嚥下障害の結果として起こりうる。
今日現在、集団における嚥下障害の発生率とそれに関連する罹患率を考慮すると、嚥下障害は健康上の大きな懸念事項である。
この点に関して、最近、自律神経系の機能不全を有する患者、例えば、ある種の神経変性疾患の患者において、又はプラダー・ウィリ症候群のような何らかの神経発達障害を患う患者において、嚥下障害が高い有病率を有することが示されている。
プラダー・ウィリ症候群(PWS)は、染色体15q11-q13上の父方から受け継いだ刷り込み遺伝子の発現の喪失から生じ、視床下部の機能不全を引き起こす複雑な遺伝性神経発達障害である。
出生から9か月までの間、PWSの乳児は哺乳障害と食欲不振を示し、重度の筋緊張低下も併発する。逆に、2年後には、PWSの幼児は次に早期の過剰な体重増加を示し、過食症と満腹感欠乏を伴う重度の肥満に至る。
全ての年齢において、表現型は、内分泌障害(成長ホルモン欠乏症、性腺機能低下症、甲状腺機能低下症)、学習障害、並びに行動障害及び精神障害も含んでいる。PWSの患者はまた、口腔咽頭及び腸の運動障害、体温調節の異常、睡眠制御の変化、低酸素及び高炭酸ガス血に対する不感受性、痛覚の変化、唾液分泌の減少等といった、自律神経系(ANS)の機能不全の証拠となるいくつかの臨床症状も示す(Haqqら、2012、clinical obesity 1、175~183頁)。
乳児における哺乳障害は詳しく報告されているが、PWSの小児及び成人における嚥下障害は、この集団における肺感染症及び突然死の発生率が高いにもかかわらず、最近まで評価されていなかった。
最近の研究は、無症候性(無症状)の嚥下障害がPWSの小児及び成人において非常に蔓延していることを示している。嚥下ビデオ蛍光透視法(VFS)により行われたこの研究は、PWSの小児及び成人が、障害された咽頭及び食道の嚥下を有し、嚥下のタイミング、クリアランス、及び呼吸周期と嚥下の協調に障害があることを示した。この研究において登録された患者は全て、食道うっ滞を有しており、そのほとんどが咽頭残留物を有していたが、それに気づいていなかった(Grossら、American Journal of Genetics、2016、パートA、1~11頁)。
今日現在、特にANS機能不全を有する患者において、嚥下障害を管理する選択肢はほとんどない。既存の治療アプローチは、窒息及び肺感染症のリスクを最小限に抑えながら、適切な栄養及び水分補給を安全にサポートすることを目的としている。これらのアプローチは主に、食事の改変並びに手技、姿勢/***技術、バイオフィードバック、及び口腔運動訓練等の代償技術に基づいている。場合によっては、逆流防止薬及び運動促進薬も投与され得る。しかしながら、これらのアプローチは治癒的なものではなく、認知障害又は知的障害のある患者には実施できない場合もある。残念ながら、患者の嚥下の安全性及び効率が十分な機能レベルに達しない場合、又は嚥下機能が栄養及び水分の補給を十分にサポートできない場合には、例えば、経鼻胃チューブ又は胃瘻等の経管栄養が、残された唯一の選択肢となる。
今日現在、嚥下障害、特にANS機能不全を有する患者の嚥下障害、を管理するための新たな治療法が必要とされている。
WO2009/122285 WO2014/111356 WO2016/044131 WO2011/035330 国際公開第2012042371号 WO2016112205 米国特許第5,988,449号
Maynardら、Annual Review of Neuroscience、2020、4:316~36頁 Haqqら、2012、clinical obesity 1、175~183頁 Grossら、American Journal of Genetics、2016、パートA、1~11頁 Tauberら、2017、Pediatrics、139、2 e2 0162976 L. van den Engel-Hoekら(Journal of Neuromuscular Disease 2(2015)357~369頁 Manningら(J. Neuroendocrinol、2012、24(4):609~628頁) Busnelliら(The journal of Biological Chemistry、2012、vol. 287、3617~3629頁) OXYTOCIN: ADOPTED TEXT FOR THE INTERNATIONAL PHARMACOPOEIA、WHO、2010年6月 Remington: The Science and Practice of Pharmacy (Lippincott Williams & Wilkins; 第21版、2005) Handbook of Pharmaceuticals Excipients, American Pharmaceutical Association (Pharmaceutical Press; 第6改訂版、2009) Avantiら(AAPS J. 2011年6月;13(2):284~90頁) Avantiら(Int J Pharm. 2013年2月28日;444(1-2):139~45頁) Gunay-Aygunら、Pediatrics. 2001;108(5):E92 Millerら(Am J Med Genet A. 2011年5月; 155A(5):1040~1049頁) RochaとPaiva(2014、Genetics and Molecular Research 13(1): 2290~2298頁)
本発明は、自律神経系機能不全を患う対象における嚥下障害の治療又は予防におけるオキシトシン受容体アゴニストの使用に関する。
いくつかの実施形態では、嚥下障害は、口腔咽頭及び/又は食道の運動障害により特徴付けられる。嚥下障害は、固体及び/又は液体、好ましくは両方に関連しうる。好ましい実施形態では、対象は神経発達障害を患っている。追加の又は代替の実施形態では、対象は視床下部機能不全を患っている。
いくつかの実施形態では、神経発達障害は、好ましくはプラダー・ウィリ症候群及びプラダー・ウィリ様症候群、脆弱X症候群、DiGeorge/22q11.2欠失症候群、ダウン症候群、レット症候群、ヌーナン症候群、CHARGE症候群、カブキ症候群、トロイヤー症候群、クリスチャンソン症候群、スミス・マゲニス症候群、アルストローム症候群、症候性肥満、家族性自律神経失調症、及びウィリアムズ症候群からなる群から選択される遺伝性神経発達障害である。他の実施形態では、神経発達障害は、自閉症スペクトラム障害、脳性麻痺、知的障害、胎児性アルコールスペクトラム障害(FSAD)からなる群から選択される。
好ましい実施形態では、対象は少なくとも生後6か月齢であり、食事多様化の移行期にあるか、又は既に多様化した食事下にある。好ましくは、対象は少なくとも1歳である。例えば、対象は幼児、小児、又はティーンエイジャーでありうる。なお、対象は成人あってもよい。
いくつかの実施形態では、嚥下障害は、以下の臨床徴候:
- 咽頭又は食道のうっ滞
- 咽頭の残留物、
- 食道括約筋、特に上部食道括約筋の異常な閉鎖
- 食道拡張、好ましくは上部食道拡張又は巨大食道
- 推進障害
- 嚥下開始の遅れ
- 呼吸周期との脱同調
- 侵入、無症候性吸入を含む吸入、
- 減少した蠕動運動、
- 遷延性の食道通過、並びに
- 鼻咽頭又は食道の逆流
の少なくとも1つにより特徴付けられ、前記臨床徴候は場合によりビデオ蛍光透視法(videofluoroscopy)によって評価可能である。
いくつかの更なる実施形態において、対象は食道食塊閉塞、肺誤嚥、再発性肺感染症、誤嚥性肺炎、窒息、逆流、鼻逆流、及び反芻症のうちの1つ又はいくつかの障害を経験したことがあるか、経験しているか、又は経験するリスクがある。
対象となるオキシトシン受容体アゴニストは、オキシトシン、カルベトシン、[Thr4]OT、HO[Thr4]OT、[Thr4, Gly7]OT、HO[Thr4, Gly7]OT、リポ-オキシトシン-1(LOT-1)、デモキシトシン、メロトシン、デモキシトシン、リポ-オキシトシン-1(LOT-1)、TC OT 39、及びWAY-267464、LIT-001を包含する。好ましいオキシトシン受容体アゴニストは、オキシトシン、カルベトシン、及びそれらの組み合わせである。
本発明の別の目的は、神経発達障害を患う対象における嚥下障害の治療におけるオキシトシンの使用である。神経発達障害は、好ましくはプラダー・ウィリ症候群又はプラダー・ウィリ様障害である。対象は好ましくは、少なくとも生後6か月齢であり、食事多様化の移行期にあるか、又は既に多様化した食事下にある。対象は、無症候性の嚥下障害を患っていてもよい。オキシトシンは、鼻腔内経路により、好ましくは2IU~48IUの1日投与量で投与され得る。
臨床研究の異なる工程を示す図である(実施例セクションを参照)。 臨床試験中に使用された嚥下及び食道通過に関するビデオ蛍光透視スコアリングチャートを示す図である。
上記の背景セクションで説明されているように、プラダー・ウィリ症候群(PWS)は複雑な遺伝性神経発達障害であり、PWSの乳児が哺乳障害、食欲不振、及び成長障害を示す新生児段階、並びに小児又は成人が過食及び満腹感の欠如を伴う肥満に至る過度の体重増加を示すその後の段階を含む、いくつかの明確な栄養段階によって特徴付けられる。PWSの対象はまた、口腔咽頭、食道及び腸の運動障害、体温調節の異常、睡眠制御の変化、低酸素及び高炭酸ガス血に対する不感受性、痛覚の変化、唾液分泌の減少等といった、自律神経系(ANS)の機能不全を強く示唆するいくつかの臨床症状も示す。
PWSの集団では、健常者及び同様な知的障害のある患者と比較して、肺感染症及び突然死の高い発生率が報告されている。
最近の研究は、PWSの成人及び小児は、食道うっ滞、咽頭残留物、不顕性誤嚥の高いリスク及び呼吸周期と嚥下の協調における障害により特徴付けられる無症候性嚥下障害を患っていることを実証している。
出願人らは、PWSの小児において体系的なビデオ蛍光透視法(VFS)を実施し、この集団における嚥下障害及び誤嚥のリスク因子の高い割合を確認した。したがって、出願人らは、PWSの患者、より一般的にはANS機能不全を有する対象における嚥下障害を管理するための治療オプションを模索した。
オキシトシン(OT)は、天然に存在する視床下部ホルモンである。それは、末梢ホルモン作用を有し、OT受容体を介して脳内において神経伝達物質及び神経調節物質として作用する。OTは、社会的相互作用及び母子の絆を調整する上で重要な役割を果たす。合成OTは、Syntocinon(登録商標)又はPitocin(登録商標)という商品名で、分娩誘発、産後ケア、及び授乳促進用に販売されている。OTは、例えば、自閉症の患者における社会性障害の治療、又は成人PWS患者における過食症及び強迫性障害の治療について、いくつかの臨床試験で評価されているか、又は評価中である。出願人らは最近、第II相臨床試験を完了し、生後6か月齢未満のPWSの乳児において、OTの鼻腔内投与が良好に忍容され、摂食及び社会的スキルを有意に改善することを示した(Tauberら、2017、Pediatrics、139、2 e2 0162976)。
しかしながら、出願人らの知る限り、小児及び成人、特にPWSにおける嚥下障害に対するOTの効果の可能性は、従来技術において一度も報告又は示唆されたことがない。
実施例セクションに示されているように、出願人らは、オキシトシンがANS機能不全の対象における嚥下障害の管理に有効であることを実証した。
特に、出願人は、強い嚥下障害の臨床症状を有するプラダー・ウィリ症候群の6歳の患者において、3週間にわたるオキシトシンの毎日の投与が、蠕動運動及び上部食道括約筋の閉鎖を完全に正常化して、食道通過を改善することを可能とすることを示した。
興味深いことに、出願人らはまた、神経発達障害に関連する視床下部障害を呈し、嚥下障害を患っている14歳の患者におけるオキシトシンの毎日の投与の有効性も示した。オキシトシンによる治療は、口腔咽頭の開始及び同期、並びに食道通過を正常化することができた。
更に、出願人らは、2歳から14歳までのPWSの小児及び青少年におけるオキシトシン(OT)の慢性投与の嚥下障害に対する効果を評価することを目的とした臨床試験を実施中である。
これらのデータに基づいて、出願人らは、オキシトシンが口腔咽頭食道の運動性を向上することによってPWSの対象及び自律神経系機能不全を有する他の患者における嚥下パターンを向上できると考えている。
したがって、本発明は、特にPWSを有する対象等の自律神経系機能不全を患う対象における、嚥下障害の治療又は予防におけるオキシトシン受容体のアゴニストの使用に関する。
本発明はまた、特に自律神経系機能不全を患う対象、例えばPWSの対象における、嚥下障害の治療又は予防における使用のための、オキシトシン受容体のアゴニストを含む医薬組成物にも関する。
別の態様において、本発明はまた、特に自律神経系機能不全を患う対象、例えばPWSを有する対象における嚥下障害の治療又は予防(例えば発症の遅延)のための方法であって、治療有効量のオキシトシン受容体アゴニストを対象に、好ましくは鼻腔内経路で投与することを含む方法に関する。
更なる態様において、本発明は、特に自律神経系機能不全を患う対象、例えばPWSを患う対象等といった神経発達障害を有する対象において、嚥下障害を治療又は予防するための薬剤の製造におけるオキシトシン受容体アゴニストの使用に関する。
特定の態様において、本発明は、嚥下障害を有する対象における口腔及び/又は咽頭及び/又は食道の運動障害及び/又は嚥下-呼吸脱同調を治療するための、オキシトシン受容体アゴニスト又はその医薬組成物の使用に関する。
更なる態様において、本発明は、咽頭残留、鼻及び/又は食道逆流、誤嚥、侵入、推進障害及びそれらの組み合わせからなる群から選択される嚥下障害の症状を治療するため、又はその発生を減少させるための、オキシトシン受容体アゴニスト又はその医薬組成物の使用に関する。
別の態様において、本発明は、嚥下障害を有する対象、好ましくは自律神経系機能不全、例えばPWS等といった神経発達障害を有する対象において、誤嚥性肺炎を含む呼吸器感染症、及び/又は窒息を予防するためのオキシトシン受容体アゴニスト又はその医薬組成物の使用に関する。
以下に更に詳述されるように、対象は、好ましくは多様化した食事下にあるか、又は食事多様化下にあり、少なくとも生後6か月齢である。
嚥下障害を有する対象の好ましいサブグループは、神経発達障害、特にPWS及びPW様障害等といった遺伝性神経発達障害を有する患者である。
本発明の詳細な説明が以下に提供される:
・定義
本明細書で使用される「嚥下障害の治療」又は「嚥下障害を治療する」は、嚥下障害の治癒、遅延、緩和、若しくは進行を遅らせること、又は関連する症状及び/若しくは障害の1つ以上を治癒、遅延、緩和、若しくは進行を遅らせること、並びに嚥下障害に関連する症状若しくは障害の1つ以上を予防、軽減、減速、逆転、若しくは除去することを含む。例えば、本発明の文脈において、オキシトシン受容体アゴニストは、不顕性誤嚥、口腔咽頭運動障害及び食道運動障害、推進障害、呼吸周期との脱同調、食道逆流及び/若しくは鼻咽頭逆流、遷延性の食道胃通過、及び/又は食道若しくは咽頭の残留物を含む誤嚥等といった対象における嚥下障害の1つ又はいくつかの症状を軽減又は緩和するために使用され得る。
「嚥下障害の予防」は、嚥下障害又は嚥下障害に関連する1つ以上の症状若しくは合併症を予防すること、又はその発症を遅延させることを含む。いくつかの実施形態において、この用語は、本発明の化合物を投与されていない患者と比較して、患者が前記症状又は合併症を発症するリスク(又は確率)を最小限に抑えることも指す。例えば、本発明の文脈において、オキシトシン受容体アゴニストは、神経発達障害を更に患っている可能性のある、嚥下障害を有する対象において、誤嚥性肺炎等といった呼吸器感染症、又は窒息を経験するリスクを予防又は最小化するために使用されうる。更なる例として、オキシトシン受容体アゴニストは、神経変性障害を患う対象における嚥下障害の発症を遅らせるか、又は進行を遅らせるために使用され得る。
本明細書で使用される「治療有効量」とは、対象における嚥下障害の1つ又はいくつかの症状又は合併症を予防、除去、減速、低減、治療又は遅延させるオキシトシン受容体アゴニストの量を意味する。
用語「薬学的に許容される」とは、健全な医学的判断の範囲内で、対象の組織と接触させるのに適しているか、又は対象に投与することができ、妥当な利益/リスク比に見合った過度の毒性又は他の合併症を伴わない組成物、化合物、塩等を指す。
・嚥下障害
本明細書で使用される「嚥下障害」という用語は、あらゆる嚥下障害、すなわち、嚥下過程の1つ以上の段階、すなわち口腔、咽頭、及び/又は食道の段階における機能障害を指す。
背景のセクションで説明されているように、成人及び小児の嚥下は、口、咽頭、食道の協調的な動作に基づく複雑な機構である。嚥下機構は3つの段階、すなわち口腔段階、咽頭段階、及び食道段階を含む。
本発明の文脈において、対象は、嚥下障害が起こる段階に応じて、口腔咽頭嚥下障害、食道嚥下障害、又は口腔咽頭食道嚥下障害を患い得る。
好ましい実施形態では、対象は口腔咽頭食道嚥下障害を患っている。
口腔咽頭嚥下障害は、一般に口腔咽頭及び食道の最上部(上部食道括約筋の周囲)に生じる障害を指す一方、食道嚥下障害は食道(下部食道括約筋を含む)に生じる障害を指す。口腔咽頭食道嚥下障害とは、口腔咽頭と食道の両方に生じる疾患を指す。
実際、障害は各嚥下段階で起こり得る。例えば、L. van den Engel-Hoekら(Journal of Neuromuscular Disease 2(2015)357~369頁)は、各段階で起こり得る次の問題について記述している(リストは網羅的ではない):
- 口腔(準備)段階において:不十分な***閉鎖と舌の動きの乱れは、口腔からの食物の喪失と咀嚼の問題、舌の力が低下することによる食塊形成と口腔内の輸送の遷延の問題をもたらし、これは、口腔咽頭への導入の遅延を導きうる、
- 咽頭段階において:舌の挙上低下による咽頭内の貯留、口腔内食塊制御の不良、及び咽頭嚥下開始の遅れを引き起こす舌後方推進力の低下、咽頭収縮の調整不全又は鼻咽頭領域の不十分な閉鎖による鼻逆流、タイミングと協調性の障害による喉頭蓋下への食物の侵入又は(不顕性の)誤嚥、顎下筋群の活動低下による谷部及び梨状洞の嚥下後残留物、舌根の後退の低下、又は咽頭収縮の低下(咽頭運動障害)。
- 食道段階において:括約筋の開口制限による上部食道括約筋上の残留物、運動性の問題による近位食道内の残留物又は貯留。
特定の実施形態では、対象は、口腔咽頭食道の運動障害(OPOD)に関連する嚥下障害を患っている。
特定の実施形態では、嚥下障害を有する対象は、図2に示されるチャートに列挙されているような、口腔及び咽頭の推進、開始及び同期、並びに/又は食道の運動性における1つ又はいくつかの機能不全を示しうる。
本発明の文脈において、嚥下障害は、固体及び/又は液体、好ましくは両方に関連してもよく、すなわち、対象は液体と固体の両方で嚥下障害を示す。
嚥下障害の対象は、食べ物が喉若しくは胸に貼り付く若しくは詰まる感覚、及び/又は胸若しくは喉の不快感を訴え得る。対象は、嚥下前後の咳、窒息、声がれ、逆流、唾液の持続的なよだれ、不適切な咀嚼、息切れ、喉の痛み、及び胸やけといった、目に見える、又は直接観察可能な症状を患っていてもよい。
しかしながら、一部の対象では、嚥下障害は無症候性であってもよく、すなわち、嚥下障害は対象において目に見える症状を示さず、対象は嚥下障害に関連する感覚をまったく感じない。例えば、対象は、食物が喉若しくは食道にくっついたり閉塞したりする感覚をまったく経験せず、及び/又は重篤な誤嚥/侵入が起こったとしても、誤嚥や侵入の存在を認識できない。これは、プラダー・ウィリ症候群の対象の場合のように、付随する認知の問題又は、例えば、痛みの知覚障害等の感覚障害のためでありうる。
本明細書で使用される「誤嚥」は、胃に入るべき食物、液体、又は唾液が代わりに気道又は肺に入り込む嚥下障害を記述する。これが起こると、対象はなおも呼吸するが、一般に、肺から食物又は体液を取り除くために咳をする。しかしながら、時として、対象は誤嚥が起こっていることに気づかず、まったく咳をしない。そのようなケースは「不顕性誤嚥」として知られている。
本明細書で使用される「窒息」とは、食物が気道に詰まり、空気の流れを遮断する嚥下障害を記述する。時として、気道に詰まった食物を排出するために、ハイムリッヒ法が必要になる。
本発明のいくつかの実施形態では、嚥下障害を有する対象は、食物がくっつく感覚を含む胸又は喉の不快感を有し、並びに/又は嚥下前後の咳、窒息、声がれ、反芻症を含む逆流、持続的な唾液のよだれ、不適切な咀嚼、誤嚥又は侵入の認識、及び胸やけからなる群から選択される嚥下障害の1つ又はいくつかを有する。
他の実施形態では、対象は無症候性の嚥下障害を患っている。
本発明の文脈では、「嚥下障害」という用語は一般的に「機能的嚥下障害」を指し、これは、病因論的観点から、嚥下障害が頭頸部腫瘍、ツェンカー憩室、管腔狭窄、中咽頭/喉頭の外科的切除、放射線損傷、頸椎前方手術、或いは外因性の圧迫(例えば、甲状腺腫、頸椎骨棘、又はルソリア嚥下障害の場合におけるような食道の血管圧迫)等といった構造的、粘膜的、又は組織的病変若しくは異常によっては説明されないことを意味する。特に、本発明の文脈における「嚥下障害」という用語は、ルソリア嚥下障害又は大動脈嚥下障害を包含しない。
本発明の文脈では、「嚥下障害」という用語は、自己免疫性結合組織疾患、例えば、強皮症等といった結合組織を障害する疾患によって引き起こされる嚥下障害も同様に包含しない。
機能性嚥下障害の正確なメカニズムは不明であるが、嚥下器官における不適切な知覚及び筋運動障害、又は中枢性統合センターの機能不全に関連している可能性がある。
更に、いくつかの実施形態では、対象は、口、唇、及び舌を含む口腔、咽頭、気道、並びに食道とその括約筋(上部及び下部の両方)を包含する嚥下器官において、重度の先天性奇形を有していない。
しかしながら、特定の実施形態では、対象は、健康な対象と比較して、嚥下器官にいくつかの軽度の先天異常、例えば、オジー形若しくは高口蓋、又は軽度の顔の非対称を示しうる。更に、対象の長期にわたる嚥下障害は、嚥下器官の1つ又はいくつかの部分に変化を生じさせ得る。例えば、長期間にわたって嚥下困難が続くPWSの対象は、巨大食道を発症し得る。
以下で更に説明するように、本発明の文脈では、嚥下障害を患う対象は自律神経系機能不全も呈する。
ANSの機能不全は、例えば、口腔咽頭及び食道の運動性、嚥下及び呼吸周期の間の同期、感覚認識、並びに中枢性統合センターにおける情報の統合及び制御を損なうことによって、嚥下障害の一因となる可能性がある。
特定の態様において、対象の嚥下障害は、少なくとも部分的に、好ましくは、口腔咽頭及び/又は食道の運動障害、呼吸と嚥下周期との間の脱同調、嚥下器官及び中枢性統合センターにおける知覚障害、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択されるANS機能不全によって引き起こされる障害に起因する。
本明細書で使用される「運動障害」とは、口腔、及び/又は咽頭、及び/又は食道の収縮/弛緩及び筋肉活動の調整における異常を指す。「運動障害」という用語は、咽頭及び/又は食道の蠕動運動の異常、特に食道の蠕動運動の低下を包含し得る。
上述のように、嚥下障害を有する対象は、以下の特徴のうちの1つ又はいくつかによって特徴付けられ得る食道の運動障害を患っていてもよい:遅い食道通過、乏しい食道クリアランス(例えば、食道残留物の存在によって証明される)、食道逆流(例えば、下部食道から上部食道への逆行性食塊移動)、異常な蠕動運動、及びそれらの組み合わせ。
嚥下障害は、食道マノメトリー、ビデオ蛍光透視法(VFS)又はX線撮影法による造影剤を用いたX線検査(バリウムX線)、光ファイバー内視鏡による嚥下評価(FEES)、pHモニタリング、咽頭鏡検査又は食道鏡検査等といった内視鏡検査、食道胃通過、及び画像検査等といったいくつかの手法で診断及び調査され得る。
注目すべきことに、ビデオ蛍光透視法(VFS)は、嚥下障害の口腔、咽頭及び食道の機構を動的に研究するための代表的な方法である。VFSは、実施例で例示されているように、嚥下障害を特徴付け、プラダー・ウィリ症候群を患っている患者におけるオキシトシンの有効性を評価するために本発明者らによって使用された。
実際、VFSは、口腔咽頭機能不全の主な徴候、特に咽頭嚥下遅延、誤嚥、鼻咽頭逆流、食道の運動障害、及び咽頭残留物を特徴付けることを可能とする。
VFSによって対象における嚥下障害を定量化するには、例えば、図2に示されている嚥下及び食道通過のビデオ蛍光透視スコアリングチャートを用いてもよい。
いくつかの他の又は追加の実施形態では、嚥下障害は、以下のような1つ又はいくつかの臨床徴候によって特徴付けられる:
- 口腔咽頭運動障害及び/又は食道の運動障害、特に咽頭及び/又は食道のうっ滞
- 食道括約筋、特に上部食道括約筋の異常な閉鎖、
- 食道拡張、好ましくは上部食道拡張、又は巨大食道
- 推進障害、
- 呼吸周期との脱同調、
- 食道逆流症及び/又は鼻咽頭逆流症、
- 不顕性誤嚥を含む誤嚥
- 侵入、例えば、食物の喉頭侵入
- 遷延性の食道胃通過、例えば、食道通過、及び/又は
- 食道又は咽頭の残留物。
そのような臨床徴候は、好ましくはVFSによって証明される。
好ましい実施形態では、嚥下障害を有する対象は、以下の臨床症状の少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、更には全て)を示す:
- 口腔咽頭運動障害及び食道の運動障害、特に咽頭及び/又は食道のうっ滞
- 呼吸周期との脱同調、
- 鼻咽頭及び/又は食道の逆流、
- 不顕性誤嚥を含む誤嚥
- 侵入、例えば、食物の喉頭侵入、及び
- 食道又は咽頭の残留物。
そのような臨床症状は、VFSによって証明され得る。
本発明の特定の実施形態では、嚥下障害は、口腔、及び/又は咽頭及び/又は食道を苦しめる運動障害によって特徴付けられ得る。例えば、嚥下障害は、口腔咽頭運動障害と食道の運動障害の両方によって特徴付けられることがあり、そのような運動障害は、好ましくはVFS及び/又はマノメトリー試験によって証明される。
別の実施形態では、嚥下障害は、例えば、咽頭残留物を伴う遅い咽頭通過、例えば、食道残留物を伴う遅い食道通過、食道逆流、上部食道括約筋閉鎖異常、口腔咽頭開始及び同調の遅延、及びそれらの組み合わせによって特徴付けられ得る。言うまでもなく、前記患者におけるオキシトシン受容体アゴニストの投与は、上記の臨床症状の少なくとも1つを軽減し、更には治療することを可能にする。
例えば、オキシトシン受容体アゴニストは、不顕性誤嚥を含む誤嚥、口腔咽頭運動障害、食道運動障害、食道うっ滞、上部食道括約筋閉鎖異常、咽頭残留物、逆流、呼吸周期との脱同調、推進障害及びそれらの組み合わせからなる群から選択される嚥下障害症状を軽減、予防又は治療することができる。
例えば、オキシトシン受容体アゴニストは、嚥下障害を有する対象における食道の運動性、口腔及び咽頭の推進及び/又は口腔咽頭の開始及び同期を改善又は正常化するために使用され得る。症例報告に示されているように、オキシトシン受容体アゴニストは、食道の運動性、例えば、食道通過及び蠕動運動、上部食道括約筋閉鎖及び/又は咽頭通過を改善し、更には正常化するために使用され得る。
無症候性の場合でも、嚥下障害は、特に誤嚥、とりわけ不顕性誤嚥が原因で、重篤な健康上の問題及び合併症を引き起こし得る。
いくつかの実施形態において、嚥下障害を有する対象は、食道食塊閉塞、再発性肺感染症を含む慢性呼吸器感染症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)及び誤嚥性肺炎の増悪、窒息、突然死、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される嚥下障害合併症を経験しているか、又は経験するリスクがある。
嚥下障害は、特に不顕性誤嚥に関連する場合、窒息による突然死のリスクも高め得る。
別の態様では、嚥下障害は、小児の栄養失調、脱水による体重減少、及び成長障害を導き得る。
対象におけるオキシトシン受容体アゴニストの投与は、上に挙げた合併症の1つ又はいくつか、特に誤嚥性肺炎を含む呼吸器感染症、及び窒息を治療又は予防することができる。
・対象となる自律神経系の機能不全及び嚥下障害パターンを伴う障害
本発明の文脈において、嚥下障害を有する対象は、自律神経系(ANS)の機能不全又は調節障害を更に示しうる。
自律神経系(ANS)は、以前は植物性神経系であったもので、平滑筋と腺を補給する末梢神経系の一部門であり、内臓の機能に影響を与える。自律神経系は、主に無意識的に働き、心拍数、消化、呼吸数、瞳孔反応、及び排尿等といった身体機能、並びに咳、くしゃみ、嚥下、及び嘔吐等といった反射を調節する制御システムである。ANSは末梢ニューロンと中枢ニューロンを含む。それは、1)感覚情報を伝達する求心性経路、2)例えば、脳幹(孤独路を含む)、視床下部、及び大脳辺縁系のレベルの統合中枢、並びに3)筋肉又は腺への遠心性制御経路を含む。
ANSは、交感神経系と副交感神経系に分けることができる。腸神経系をANSに含めている著者もいる。生理学的には、交感神経系と副交感神経系は両方とも、安静時及びストレスに応答して動的バランスを保って機能する。
ANS機能不全とは、身体機能に1つ又はいくつかの調節不全を引き起こし得る自律神経系の機能の変化を意味する。ANSの機能不全は、頻脈、睡眠障害、嚥下障害、低血圧、起立性低血圧及びその他等とった、複数の臓器系に現れる様々な重篤な問題を導き得る。
特定の態様では、嚥下障害を有する対象は、自律神経失調症とも呼ばれる、自律神経系障害として分類される疾患を患っている。
自律神経失調症とは、ANSの全体又は一部に影響を与え得る障害を指す。自律神経失調症は、血圧の問題、呼吸の問題、又は嚥下障害等といった様々な問題を引き起こす可能性があり、遺伝することもあれば、怪我によって、又は糖尿病、パーキンソン病等といった神経変性疾患、自己免疫疾患、アルコール依存症、ライリー・デイ症候群等といった症状によって引き起こされることもあり、これは家族性自律神経失調症とも呼ばれる。
より具体的な態様では、嚥下障害を有する対象は、特に神経変性疾患から選択される自律神経系障害を患っている。
したがって、本発明の文脈において、嚥下障害は、対象における自律神経失調症、好ましくは神経変性障害の症状又は合併症であり得る。
好ましい神経変性疾患は、筋萎縮性側索硬化症、筋ジストロフィー、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症、ハンチントン病、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、皮質基底変性症及びクロイツフェルト・ヤコブ病を包含するが、これらに限定はされない。
自律神経系の機能不全は、自律神経失調症として分類されない、又はまだ分類されていない病態においても見られ得る。
自律神経系の調節不全は、自閉症スペクトラム障害(ASD)、レット症候群、及びプラダー・ウィリ症候群(PWS)等といった様々な神経発達障害において証明されている。
一方、嚥下障害は、周産期だけでなくその後にも観察され得る神経発達障害の頻繁な合併症である。そのような事実は、乳児の哺乳、摂食及び嚥下(SFS)機構、並びに小児/成人の摂食及び嚥下への移行に関連する遺伝子ネットワークが、遺伝子変異及び環境破壊に対して脆弱であることの根底にある。出願人らは、ANSの調節不全又は機能不全が、例えば、口腔咽頭及び食道の運動性、嚥下及び呼吸周期の間の同期、嚥下器官又は中枢性統合センターにおける感覚を損なうことによって、神経発達障害で観察される嚥下障害の一因となっている可能性があると考えている。
したがって、本発明のいくつかの態様では、嚥下障害を有する対象は神経発達障害を患っている。したがって、嚥下障害は、対象における神経発達障害の症状又は合併症であり得る。
本明細書で使用される場合、神経発達障害とは、初期の脳発達における変化によって引き起こされる、重篤な影響を受けた行動特徴を有する一群の障害を指す。ほとんどの神経発達障害は、神経細胞の機能と神経ネットワークの構築に影響を及ぼす神経系の発達と成熟の変化により特徴付けられるが、そのどちらも、i)感覚情報の知覚と統合、ii)適応した対応の構築及び調整、iii)エフェクターの制御(すなわち、運動反応及び内分泌反応)、並びにiv)学習及び記憶プロセスに関与する機能的なニューロンネットワークの構築及び維持のために必要とされる。神経発達障害は、感覚系又は運動系における障害、発話、言語、或いはより一般的な口腔の変化、多くの認知障害(例えば、学習、記憶、組織化、及び/又は計画化能力におけるもの)、又はその組み合わせ等といった、脳の機能不全を引き起こす。
いかなる理論にも束縛されるものではないが、視床下部の機能不全は、対象の嚥下障害の一因であり得る。
いくつかのより特定の実施形態では、対象は、視床下部機能不全を伴う、又はそれに関連する神経発達障害を患っている。
そのような神経発達障害については後述するが、例えば、プラダー・ウィリ症候群及びプラダー・ウィリ様症候群、及び胎児性アルコールスペクトラム障害(FSAD)を包含する。
「神経発達」障害という用語は、遺伝性及び非遺伝性の両方の神経発達障害を包含する。
いくつかの実施形態では、対象は、非遺伝性の神経発達障害、すなわち、遺伝的原因が特定されていない神経発達障害を患っている。そのような場合、神経発達障害は、環境破壊、例えば、子宮内でのアルコール、薬物、殺虫剤等といった他の有害物質への曝露が原因となる可能性がある。いくつかの他の実施形態では、神経発達障害は、明確な原因のない特発性又は先天性のものであり、遺伝的及び/又は環境的及び/又はエピジェネティックな要因の組み合わせによって引き起こされることが疑われる。
嚥下障害パターンを伴う非遺伝性神経発達障害は、知的障害、自閉症スペクトラム障害(ASD)、胎児性アルコール症候群を含む胎児性アルコールスペクトラム障害(FSAD)、新生児禁欲症候群、脳性麻痺、及び先天性心疾患を含むが、これらに限定はされない。
別の実施形態では、対象は、遺伝性神経発達障害、すなわち、例えば、ゲノムインプリンティングに影響を与える異数性、ダイソミー、染色体欠失、遺伝子変異及び/又はエピジェネティックな変化によって引き起こされる神経発達障害を患っている。
嚥下障害パターンを伴う遺伝性神経発達障害は、プラダー・ウィリ症候群及びプラダー・ウィリ様症候群、脆弱X症候群、DiGeorge/22q11.2欠失症候群、ダウン症候群、レット症候群、ヌーナン症候群、CHARGE症候群、カブキ症候群、トロイヤー症候群、クリスチャンソン症候群、スミス・マゲニス症候群、アルストローム症候群、症候性肥満、家族性自律神経失調症、及びウィリアムズ症候群を包含するが、これらに限定はされない。嚥下障害は、ピエール・ロバン症候群、視神経中隔異形成(SOD)、ROHHAD(急速発症型肥満、視床下部機能不全、低換気、自律神経失調症)症候群等といった遺伝性神経発達障害を患う患者においても観察され得る。
好ましい実施形態において、嚥下障害を有する対象は、プラダー・ウィリ症候群(PWS)又はPW様障害を患っている。このサブグループの患者に関する詳細は、以下で更に詳しく説明される。
・対象
「対象」又は「患者」という用語は、任意の哺乳動物を指し、ヒト及び獣医学の対象を含む。
嚥下障害を患う対象は、あらゆる年齢及びあらゆる性別でありうる。対象は好ましくはヒトである。
例えば、対象は、幼児、児童、小児、青少年、高齢者を含む成人であってもよい。
注目すべきこととして、乳児における哺乳は、小児及び成人の摂食及び嚥下とは大きく異なる。これは、口腔咽頭領域の未熟さ、より正確には、喉頭と舌骨の位置が高いために、未熟な喉頭蓋が軟口蓋の裏側に引っ掛かり、鼻呼吸と液体の嚥下が同時に生じる別個の経路がつくられ得るためである。したがって、乳児の哺乳は、成人のように呼吸のために止めることのない、継続的な行動である。当初、哺乳は脳幹反射によって制御されているが、これは年齢と共に消失する。最初の1年間で首が成長し、舌骨と喉頭が下がり、喉頭蓋が平らになり、軟口蓋が成熟して、4か月から6か月の間に固形の食物を食べることへの移行が容易になる。その後、口腔咽頭の筋肉の動員が徐々に変化し咽頭が成長することによって、完全な嚥下機構が発達する(Maynardら、Annual Review of Neuroscience、2020、4:316~36頁)。
好ましい実施形態では、対象は、食品多様化移行中であるか、又は既に多様化した食事下にある、すなわち、固形食品と液体食品の両方を食べることができる。より好ましくは、対象は流動食のみを摂取しているのではない。
固形食品への移行は通常、生後4か月から6か月の間に起こる。
したがって、嚥下障害のある対象者は、好ましくは少なくとも生後6か月齢、例えば少なくとも9か月齢又は少なくとも1歳である。
哺乳-摂食-嚥下の機構は生得的かつ反射主導型の行動であるが、その後、乳児期に自発的な行動へと移行する。発根反射は、正常な乳児では生後7か月頃に消失する。生後12か月を過ぎると、哺乳/嚥下反射は完全に失われ、嚥下は随意運動となる。
言い換えれば、生後12か月の子供は、異なる嚥下機構につながる形態的及び機能的な変化を遂げる。
したがって、好ましい実施形態では、対象は少なくとも1歳である。
いくつかの実施形態では、対象は50歳未満、例えば、40歳未満、30歳未満、又は20歳未満である。
特定の実施形態では、対象は18歳未満、好ましくは最高16歳である。
典型的には、嚥下障害を有する対象は、1歳から16歳、好ましくは2歳から15歳の小児である。
上述したように、対象は、神経変性障害又は神経発達障害、好ましくはPWS又はプラダー・ウィリ様症候群等といった遺伝性神経発達障害を患っていてもよい。
いくつかの実施形態では、対象は認知障害及び/又は知的障害を患っている。
いくつかの他の又は更なる実施形態では、対象は口腔のスキルが乏しいことに苦しんでいる。
いくつかの代替又は追加の実施形態では、対象は乳児期、好ましくは新生児期に摂食障害を患っている。前記摂食障害は、好ましくは哺乳障害を指す。
いくつかの他の実施形態では、対象は、乳児期、特に誕生から最初の6か月以内にオキシトシンによる治療を受けていない。
・対象となるオキシトシン受容体アゴニスト
「アゴニスト」という用語は、標的と相互作用して、選択的な方法で前記標的の活性化の増加を引き起こすか、又は促進する任意の化合物を指す。本発明の文脈において、標的は「オキシトシン受容体」、好ましくは「ヒトオキシトシン受容体」である。
注目すべきことに、好ましいオキシトシン受容体アゴニストは、視床下部で発現される哺乳類のノナペプチドであるオキシトシン(OT)そのものであり、これは、非常によく知られた手順によって容易に合成され得る。オキシトシンの式は、以下のとおりである:
或いは、オキシトシン受容体アゴニストは、好ましくは選択的な方法でオキシトシン受容体を活性化できる任意の化合物であり得る。化合物はどのような種類であってもよい。それは、好ましくは最大3000g.mol-1の化学薬剤、抗体及びそのフラグメント、及びアプタマー等といった核酸リガンドから選択され得る。
本明細書で使用される「アプタマー」(核酸アプタマーとも呼ばれる)は、典型的には20~150ヌクレオチドの長さを含み、標的分子と高い親和性で結合できる合成一本鎖ポリヌクレオチドを指す。アプタマーは、標的分子との相互作用において重要な役割を果たしうる三次元立体構造によって特徴付けられる。
本明細書で使用される「抗体」という用語は、免疫グロブリン又はそのフラグメント若しくは誘導体を指し、インビトロ又はインビボで産生されたかどうかに関係なく、抗原結合ドメインを含む任意のポリペプチドを包含する。この用語は、ポリクローナル、モノクローナル、単一特異性、多重特異性(例えば、二重特異性)、ヒト化、単鎖、キメラ、合成、組換え、ハイブリッド、変異、及びグラフト化抗体を含むが、これらに限定はされない。また、「抗体」という用語は、Fab、F(ab')2、Fv、scFv、Fd、dAb等といった抗体フラグメント及び抗原結合機能、すなわち標的と特異的に結合する能力を保持する他の抗体フラグメント(例えば、一本鎖抗体由来のVHH)も含む。
様々なオキシトシン受容体アゴニストが先行技術において記述されている。更に、先行技術は、所与の分子がオキシトシン受容体のアゴニストであるかどうかを評価するためのいくつかのインビボ又はインビトロアッセイも記述している。
例えば、サイクリックAMPの蓄積に基づく、hOT受容体を発現する細胞株における結合及び機能アッセイについて言及しているManningら(J. Neuroendocrinol、2012、24(4):609~628頁)を参照することができる。別の例として、OT受容体に対するアゴニスト活性は、WO2009/122285に記載の方法によって測定されうる。この方法では、ホタルルシフェラーゼの発現を調節する細胞内カルシウム応答性プロモーター要素を含むレポーターDNAと連携してhOT受容体を発現するDNAをチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株に一時的にトランスフェクトすることにより、転写レポーター遺伝子アッセイにおいてhOT受容体に対する化合物のアゴニスト活性が決定される。細胞を、1用量あたり10倍に希釈した化合物の段階希釈液に5時間曝露し、その後、細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性を測定し、そして非線形回帰によって化合物の有効性とEC50値が決定される。オキシトシン(OT)は、各実験の内部対照として使用され、化合物は少なくとも3つの独立した実験において試験される。
より特異的な機能アッセイは、Busnelliら(The journal of Biological Chemistry、2012、vol. 287、3617~3629頁)中に見出され得るが、ここでは、ヒトOT受容体の機能的な選択的リガンドが、BRETベースのバイオセンサーアッセイを用いてスクリーニングされている。OT受容体アゴニストに関する総説については、例えば、Manningら、Journal of Neuroendocrinology、2012、24、609~628頁を参照することができる。
いくつかの実施形態では、オキシトシン受容体アゴニストは、オキシトシン受容体、より正確にはヒトOT受容体に対して選択的であり、これは、他の受容体に有意に結合及び/又は活性化しないことを意味する。
いくつかの他の実施形態において、オキシトシン受容体アゴニストは、V1a、V1b及びV2受容体等といった別の受容体に結合し、更には活性化することもできるが、好ましくは、オキシトシン受容体に対するよりも低い効力(例えば、オキシトシン受容体に対するEC50よりも少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも10倍、20倍、50倍又は100倍高いEC50)で結合しうる。
特定の態様では、本発明はまた、オキシトシン受容体も活性化することができるV1a、V1b及び/又はV2受容体のアゴニストの使用にも関する。そのような対象となる化合物は、例えば、バソプレシン、アルゲニンバソプレシン、アルギニンバソトシン、バソトシン及びそれらの類似体を含む。
好ましい実施形態では、オキシトシン受容体アゴニストは合成化学分子である。それはペプチド又は非ペプチド分子であり、好ましくは最大3000g.mol-1又は最大2000g.mol-1である。
オキシトシン受容体の非ペプチドアゴニストは、例えばWO2014/111356に記載されており、例えばTC OT39、LIT-001、及びWAY-267464を含む。
好ましくは、オキシトシン受容体アゴニストは、ペプチド、特にオキシトシンの類似体、すなわち、オキシトシンのものに近い化学構造を有する化合物である。オキシトシンの類似体は、1つ又はいくつかのアミノ酸修飾(例えば、非天然アミノ酸を含む挿入、欠失又は置換から選択される1、2、3、4又は5個の修飾による)又は1つ又はいくつかの化学修飾によって、オキシトシンと異なり得る。
オキシトシンの類似体は、例えば、WO2016/044131、WO2011/035330及びWO2009/122285に記載されている。
例示のためにのみに示すと、本発明のアゴニストは、WO2016/044131に記載されている式(I)の化合物であり得るが、
ここで、式中、
W及びXの各々は、独立してCH2及びSであるが、ただし、WとXが両方ともCH2ではなく;
Aは、側鎖が5員又は6員の複素芳香環で置換されているアラニン;チロシン;及びフェニル環がハロゲン、C1~4アルコキシ、C1~4アルキルヒドロキシ、C1~4アルキル又はアミノで置換されているフェニルアラニンからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Bは、イソロイシン;及びα-炭素がC4~6シクロアルキルで置換されているグリシンからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Cは、ヒドロキシル、C1~4アルコキシ、ハロゲン又はアジドで側鎖が場合により置換されているプロリン、及びヘテロ原子で側鎖が場合により中断され、その場合により中断された側鎖がC1~4アルキルで場合により置換されているプロリンからなる群から選択されるアミノ酸である;
Dは、ロイシン;ホモロイシン;イソロイシン;及びα-炭素がC4~6シクロアルキルで置換されているグリシンからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Eは、グリシン及びアザグリシンからなる群から選択されるアミノ酸である。いくつかの例では、WはCH2であり、XはSである。いくつかの例では、Aは、フェニル環がC1~4アルコキシで置換されているフェニルアラニンである。
いくつかの実施形態では、オキシトシン受容体アゴニストは、カルベトシン、[Thr4]OT、HO[Thr4]OT、[Thr4, Gly7]OT、HO[Thr4, Gly7]OT、リポ-オキシトシン-1(LOT-1)、デモキシトシン、メロトシン(開発コード名FE-202767)、それらの薬学的に許容される塩、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
いくつかの好ましい実施形態では、オキシトシン受容体アゴニストは、オキシトシン、カルベトシン、それらの薬学的に許容される塩、及びそれらの組み合わせから選択される。
・投与経路、レジメン、及び製剤化
オキシトシン受容体アゴニストは、経口、口腔、舌下、静脈内、筋肉内、鼻腔内、肺(例えば吸入による)、又は皮下経路を含むが、これらに限定されない任意の従来的な経路によって投与されうる。
実際、使用されるアゴニストに応じて、当業者は、特にそのバイオアベイラビリティ及びその安定性の観点から、使用するための最良の経路を決定することができる。
好ましい投与経路は、鼻腔内及び経口のものである。より好ましい投与経路は、鼻/鼻腔内経路である。
本明細書で使用される場合、鼻腔内投与とは、鼻腔内での薬物の送達を指す。
対象に投与するオキシトシン受容体アゴニストの有効量は、従来的な技術を使用し類似の状況下で得られた結果を観察することによって決定され得る。治療有効用量は、対象の遺伝子型、嚥下障害の種類及び付随する障害、対象において観察される嚥下障害の臨床症状、嚥下障害の重篤度、時間の経過による嚥下障害の進展、投与の経路、関与する併用療法、患者の年齢、体重、一般的な病状、病歴等に応じて変化しうる。
対象に投与されるオキシトシン受容体アゴニストの1日量は、そのアゴニスト効力にもよるが、一般に最大500mg、例えば、最大400mg、300mg、200mg、100mg、50mg、40mg、30mg、20mg、10mg、5mg、1mg、0.5mg又は0.2mgである。
慣例により、オキシトシン含有薬のラベル表示の目的で、オキシトシンの投与量は国際単位で表される。1IUは約1,667μgのオキシトシンに相当する(これは、1mgのオキシトシンが600IUに相当すると言うことに等しい)(OXYTOCIN: ADOPTED TEXT FOR THE INTERNATIONAL PHARMACOPOEIA、WHO、2010年6月を参照)。
本発明の文脈において、オキシトシンの1日用量は一般に100IU(すなわち166,7μg)より少なく、好ましくは1IU(1,667μg)から50IU(83,35μg)である。
例えば、オキシトシンの1日用量は、典型的には2IU~50IU、好ましくは4IU~32IU、又は4IU~24IUである。
更なる例として、カルベトシンは、1日あたり最大30mg、典型的には1日あたり3mgから30mgの1日用量で投与され得る。
オキシトシン受容体アゴニストは、1日1回、2日毎、又は1日数回、例えば1日2回、3回又は4回投与され得る。OT受容体アゴニストは、食物の有無にかかわらず、好ましくは食物無しで、例えば食事前に投与され得る。オキシトシン受容体アゴニストの投与は、1週間から数週間、又は1か月から数か月、典型的には必要な限りの期間行われ得る。
オキシトシン受容体アゴニストは、典型的には、対象に投与される医薬組成物へと製剤化される。オキシトシン受容体アゴニストは、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (Lippincott Williams & Wilkins; 第21版、2005)に記載されているような標準的な方法に従って、任意の適切な医薬組成物において製剤化されうる。使用されうる薬学的に許容される賦形剤は、特にHandbook of Pharmaceuticals Excipients, American Pharmaceutical Association (Pharmaceutical Press; 第6改訂版、2009)に記載されている。典型的には、治療薬は、所望の医薬形態を得るために、1つ又はいくつかの賦形剤と混合される。適切な賦形剤の例は、水又は水/エタノール混合物等といった溶媒、充填剤、担体、希釈剤、結合剤、固結防止剤、可塑剤、崩壊剤、滑沢剤、香料、緩衝剤、安定剤、着色剤、染料、酸化防止剤、付着防止剤、軟化剤、保存剤、界面活性剤、ワックス、乳化剤、湿潤剤、等張化剤及び滑沢剤を含むが、これらに限定はされない。希釈剤の例は、これらに限定はされないが、微結晶セルロース、デンプン、変性デンプン、二塩基性リン酸カルシウム二水和物、硫酸カルシウム三水和物、硫酸カルシウム二水和物、炭酸カルシウム、乳糖、ブドウ糖、ショ糖等といった単糖類若しくは二糖類、マンニトール、ガラクトース及びソルビトール、キシリトール、グリセロール、及びそれらの組み合わせを含む。結合剤の例は、限定されるものではないが、デンプン類、例えば、ジャガイモデンプン、小麦デンプン、トウモロコシデンプン;ガム類、例えば、トラガカントガム、アカシアガム、ゼラチン;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース;ポリビニルピロリドン、コポビドン、ポリエチレングリコール及びそれらの組み合わせを含む。滑沢剤の例は、ステアリン酸カルシウム、モノステアリン酸グリセリル、パルミトステアリン酸グリセリル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、若しくはステアリン酸等といった脂肪酸及びその誘導体、又はPEG等といったポリアルキレングリコールを含むが、これらに限定はされない。流動促進剤は、コロイダルシリカ、二酸化ケイ素、タルク等の中から選択されうる。崩壊剤の例は、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム等といったクロスカルメロース塩、デンプン及びそれらの誘導体を包含するが、これらに限定はされない。界面活性剤の例は、シメチコン、トリエタノールアミン、Tween(登録商標)20又はTween(登録商標)40等といったポリソルベート及びその誘導体、ポロキサマー、ラウリルアルコール、セチルアルコール等といった脂肪アルコール、リン脂質、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等といったアルキル硫酸塩を包含するが、これらに限定はされない。特に凍結乾燥に有用な安定剤の例は、マンニトール、スクロース、デキストロース、トレハロース等といった糖類、アミノ酸、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、及び血清アルブミンを包含する。乳化剤の例は、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、オイル、ポリエチレングリコール、及びソルビタンの脂肪酸エステル、又はそれらの物質の混合物を包含する。防腐剤は、パラベン、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウム、安息香酸、ソルビン酸及びそれらの塩を包含するが、これらに限定はされない。抗酸化剤は、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、トコフェロール、及びそれらの組み合わせを包含する。緩衝剤の例は、リン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩(TRIS.HCl)、4-モルフォリンプロパンスルホン酸(MOPS)、4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタンスルホン酸(HEPES)、PIPES、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-2,2',2''-ニトリロトリエタノール(BIS-TRIS)、TRIS-グリシン、ビシン、トリシン、TAPS、TAPSO、MES、クエン酸塩、酢酸塩、ホウ酸塩、クエン酸塩/リン酸塩、炭酸水素塩、グルタル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、及びそれらの組み合わせを包含する。
対象となるオキシトシン受容体アゴニストと組み合わせる賦形剤は、(i)前記治療薬の安定性を含む物理化学的特性、(ii)前記治療薬に求められる薬物動態プロファイル及び/又は放出プロファイル、(iii)剤形及び(iv)投与経路を考慮して選択されうることは言うまでもない。
医薬組成物はどのような種類であってもよい。例えば、医薬組成物は、例えば、錠剤のような固形の経口剤形、例えば、鼻腔内送達のための液体剤形、例えば、静脈内経路のための懸濁剤、坐剤、例えば、肺経路による投与のためのエアロゾル・・・でありうる。医薬組成物はまた、例えば、鼻腔内経路による投与前に適切なビヒクルに溶解又は懸濁させる凍結乾燥粉末であってもよい。
前述のように、好ましい投与経路は鼻腔内経路である。
したがって、特定の実施形態では、本発明の医薬組成物は、鼻腔内投与に適したもの、例えば、点鼻スプレー又は乾燥粉末エアロゾル製剤である。
例えば、鼻腔内送達のための対象となる医薬組成物は、適切な水性緩衝液に溶解された対象となるオキシトシン受容体アゴニストを含む液体組成物の形態であり得る。適切な緩衝剤は、リン酸塩、クエン酸、酢酸、酢酸塩、アスパラギン酸塩及びそれらの組み合わせを包含する。液体組成物は、保存剤、酸化防止剤、界面活性剤、溶媒、等張剤、pH調整剤(例えば、HCl又はNaOH)及び湿潤剤等といった1つ又はいくつかの追加の医薬賦形剤を含み得る。組成物のpHは、pH4.5からpH6.0の間で調整され得る。Ca2+、Mg2+、Zn2+等といった二価イオンは、安定化の目的、又は生体内での吸収を促進する目的で添加され得る。
鼻腔内投与用のオキシトシンの液体組成物は、欧州では商品名Syntocinon(登録商標)で販売されている。Syntocinon(登録商標)は、緩衝剤(例えば、リン酸塩、クエン酸、酢酸塩)と塩化ナトリウム、ソルビトール、グリセロール及び防腐剤(クロロブタノール、メチルパラベン及びプロピルパラベン)の組み合わせを水中に含むオキシトシンの水性緩衝製剤である。
従来技術はまた、本発明を実施するために使用され得る鼻腔内組成物のいくつかの例も提供している。例えば、緩衝剤としてリン酸塩及びクエン酸を、等張剤としてNaClをpH5.5の水中に含むオキシトシン受容体アゴニスト(例えばカルベトシン)の液体組成物を記述している国際公開第2012042371号を参照することができる。組成物は、メチオニン又はEDTAのような抗酸化剤を更に含んでいてもよい。これらの組成物は、鼻腔内投与に適していると記述されている。
他の例は、オキシトシン及びマグネシウム塩を含む鼻腔内投与用の液体組成物に言及するWO2016112205中に見出され得る。この国際出願は、pH4.5の水中にマグネシウム塩(例えばMgCl)、酢酸塩及びクエン酸塩等といった緩衝剤を含むオキシトシンの緩衝水性組成物を具体的に記述している。
追加のオキシトシン製剤は、例えば、Avantiら(AAPS J. 2011年6月;13(2):284~90頁及びInt J Pharm. 2013年2月28日;444(1-2):139~45頁)に記述されている。Avantiらは、クエン酸塩又はアスパラギン酸塩とCa2+、Mg2+、Zn2+等といった二価金属陽イオンを用いて得られるオキシトシンの安定な水溶液について記述している(Int J Pharm 2013年2月28日;444(1-2):139~45頁)。
本発明の鼻腔内組成物は、単回用量として、又は例えば、一方又は両方の鼻孔に送達される1、2、3、4、5又は6回のサブ用量(例えば、パフ)に分割した用量で投与され得る。
オキシトシン受容体アゴニストの鼻腔内組成物は、任意の手段、例えば、任意の適切な経鼻ポンプ器具又は装置を使用して送達され得る。そのような装置は当業者にはよく知られており、様々なモデルが市場で入手可能である。いくつかの実施形態では、経鼻器具又は装置は、ポンプアクチュエータに取り付けられたリザーバボトルを含む。いくつかの実施形態では、経鼻器具又は装置は、エアロゾル発生器に取り付けられたリザーバボトルを含む。鼻腔内送達のための装置は、好ましくは、複数用量のオキシトシン受容体アゴニスト組成物を送達するために設計されている。例えば、経鼻ポンプ器具は、ポンプアクチュエータに取り付けられたリザーバボトルを含んでいてもよく、ここで、リザーバボトルは複数用量の液体製剤を保持し、ポンプアクチュエータは、リザーバボトルに保持された液体製剤の一部分である指定された容量を送達するように計量されている。いくつかの実施形態では、ポンプアクチュエータは、1回の噴霧あたり約5μLから約200μL、好ましくは約25μLから約170μL、例えば約40μLから約150μLの液体製剤を送達するように計量されている。経鼻ポンプ器具は、リザーバボトルの汚染(例えば、細菌)を低減又は防止するために、逆流を防止するフィルタを備えていてもよい。
例えば、鼻腔内送達用の装置は、例えば、米国特許第5,988,449号に記載されているような、微生物フィルタ及びポンプアクチュエータ内の自動遮断機構を含む複数用量ポンプを備えていてもよい。
・本発明の特定の実施形態:プラダー・ウィリ症候群及び関連する障害を患う対象における嚥下障害の治療
特定の態様では、本発明は、プラダー・ウィリ症候群(PWS)又はプラダー・ウィリ様症候群を患う対象における嚥下障害の治療又は予防におけるオキシトシン受容体アゴニストの使用に関する。
プラダー・ウィリ症候群(PWS)は、染色体15q11-q13上の父方から受け継いだ刷り込み遺伝子の発現の欠如から生じ、視床下部の機能不全を引き起こす複雑な遺伝性神経発達障害である。推定発生率は、出生15,000人あたり1人から27,000人あたり1人である。遺伝子発現の欠如は、染色体の欠失、母性ダイソミー、又はインプリンティングの欠陥が原因であり得る。
PWSの臨床的特徴は、新生児期及び乳児期(0から9か月)に頻繁に起こる成長障害(FTT)を説明する哺乳障害を伴う重度の新生児低血圧、生殖機能低下症/性腺機能低下症を伴う全体的な発達遅延(2から6歳)、管理されない場合に病的肥満につながる過食症の発症(6~12歳)と、その後の、依存症及び満腹感の欠如に近い食物への永続的な執着、視床下部及び下垂体の機能不全(成長ホルモン欠乏症、性腺機能低下症、甲状腺機能低下症、及びまれに中枢性副腎不全に関連する低身長)、学習障害、認知欠陥、社会的スキルの欠陥を含む行動上の問題、並びに13歳から成人期までの精神医学的表現型を含む(Gunay-Aygunら、Pediatrics. 2001;108(5):E92)。
PWSは古典的に2つの異なる栄養ステージがあると記述されている。ステージ1では、対象は摂食不良と重度の低血圧を示し、多くの場合、成長障害(FTT)を伴う。次に、約2~4歳で始まるステージ2は、急激な体重増加、過食症の発症と拡大により特徴付けられ、これは肥満、発達遅延、行動障害の発症につながる。摂食不良/FTTから肥満/過食への転換は、完全には解明されておらず、Millerら(Am J Med Genet A. 2011年5月; 155A(5):1040~1049頁)に示されているように、いくつかの栄養段階を含む複雑な進展の結果として生じる。Millerらは、以下のように記述している:
- フェーズ1では、乳児が低張性であるが、肥満ではなく、サブフェーズ1aは、FTTの有無にかかわらず摂食困難により特徴付けられる(完了時年齢の中央値:9か月)。この段階の後には、乳児は成長曲線に沿って着実に成長し、体重が通常の速度で増加するサブフェーズ1bが続く(発症年齢の中央値:9か月)。
- フェーズ2は、体重増加と関連しており、サブフェーズ2aでは、食欲又はカロリー摂取量に有意な変化がなく体重が増加する一方(発症年齢の中央値2.0歳)、サブフェーズ2bでは、体重増加は付随する食への関心の高まりに関連している(発症年齢の中央値:4.5歳)、
- フェーズ3は、過食症により特徴付けられ、典型的には、食物の探索と満腹感の欠如を伴う(発症年齢の中央値:8歳)。
- フェーズ4では、以前はフェーズ3にあった個人が飽くなき食欲を失い、満腹感を感じることができるようになる。
本明細書で使用する場合、プラダー・ウィリ様症候群又はプラダー・ウィリ様障害は、PWSの臨床表現型のほとんどを再現する任意の遺伝性神経発達障害を指す。
プラダー・ウィリ様障害は、シャーフ・ヤン症候群(MAGEL2遺伝子における病原性変異)とSNORD116遺伝子クラスターにおける微小欠失を包含する。以下の遺伝子、SNURF-SNRPN、MKRN3遺伝子、NDN遺伝子及びいくつかのsnoRNAs配列、NPAP1遺伝子、C15orf2遺伝子の欠失又は変異もまた包含される。
他のプラダー・ウィリ様障害は、RochaとPaiva(2014、Genetics and Molecular Research 13(1): 2290~2298頁)に記述されており、Xqの重複、1p36モノソミー、6q欠失、10q26欠失、12qサブテロメア欠失(Niyazovら、2007)、アンジェルマン症候群に関連する染色体異常、2pter欠失、及びSIM1遺伝子に関わる欠失等といった染色体異常を包含する。
いくつかの実施形態では、オキシトシン受容体アゴニスト、好ましくはオキシトシン又はカルベトシンは、PWS又はPWS様障害を有する対象における嚥下障害症状を軽減、予防、又は治療するために使用され、前記症状は、不顕性誤嚥を含む誤嚥、侵入、口腔咽頭運動障害、食道運動障害、咽頭残留物、逆流、呼吸周期との脱同調、推進障害及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
好ましい実施形態では、オキシトシン受容体アゴニスト、好ましくはオキシトシン又はカルベトシンは、PW様症候群のPWSを有する対象における口腔咽頭運動障害、及び/又は食道の運動障害、及び/又は呼吸嚥下脱同調及び/又は推進障害を治療するために使用される。
別の実施形態では、オキシトシン受容体アゴニスト、好ましくはオキシトシン又はカルベトシンは、PWS又はPWS様障害を有する対象において、誤嚥性肺炎を含む呼吸器感染症、窒息及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ又はいくつかの嚥下障害合併症を治療又は予防するために使用される。
好ましい実施形態では、治療される対象は、液体栄養のみを与えられている新生児又は乳児ではない。好ましくは、対象は、食品多様化移行中であるか、又は既に多様化した食事下にある、すなわち、固形食品と液体食品の両方を食べることができる。
特定の実施形態では、少なくとも生後6か月、好ましくは少なくとも9か月、最も好ましくは少なくとも12か月のPWS又はPW様症候群を有する対象である。更に、PWS又はPWS様症候群を有する対象は、最高20歳、好ましくは少なくとも15歳でありうる。
いくつかの実施形態では、対象は、生後6か月以内にオキシトシンによる治療を受けていない。
他の実施形態では、PWSを有する対象は、上記のように栄養段階1b、2、3又は4にあり、特に栄養段階1b、2又は3にあり、より好ましくは栄養段階2又は3にある。
別の実施形態では、PWS又はPWS様症候群を有する対象はまた、過食症を患っている。
上述のように、好ましいOT受容体アゴニストは、オキシトシン、カルベトシン、及びそれらの薬学的に許容されるものである。より好ましくは、OT受容体アゴニストは、オキシトシン又はその薬学的塩である。
オキシトシン受容体アゴニストは、好ましくは、鼻腔内経路により、1日1回又は1日に数回(例えば、1日2回又は3回)投与される。好ましくは、OT受容体アゴニストは1日1回投与される。OT受容体アゴニストの1日の薬学的用量は、最大100IU、好ましくは2IUから50IUである。
2から15歳の対象に対するオキシトシンの適切な1日用量は、典型的には2IUから48IU、好ましくは2IUから32IU、4IUから20IU、例えば、6IUから16IUである。オキシトシンは1日1回、例えば朝、好ましくは食前に投与されうる。
カルベトシンの1日用量は、典型的には3から30mgである。カルベトシンは1日3回、好ましくは食前に投与されうる。
OT受容体アゴニスト、例えば、オキシトシン又はカルベトシンは、典型的には緩衝水性組成物の形態、すなわち経鼻スプレーの形態で投与されうる。
本発明の更なる態様及び利点は、以下の実験セクションに開示されているが、これらは例示であって本願の範囲を限定するものではないとみなされるべきである。
(実施例1)
症例報告
患者1は、出生直後に診断された母性片親性ダイソミーに起因するプラダー・ウィリ症候群を患う6歳であった。
彼は、水を飲み込むのに大きな困難を伴う嚥下障害の臨床症状を呈したが、固形食品はそうではなく、胃酸逆流とおそらく胃酸逆流エピソードに関連した歯の問題を有していた。ビデオ蛍光透視嚥下試験(VFSS)では、食道通過時間の延長、及び蠕動運動の低下、及び上部食道括約筋の異常な閉鎖が見られ、異常であった。
彼は、3週間にわたって毎日8IUの鼻腔内OXTを受けた。
オキシトシンによる治療は忍容性が高く、蠕動の完全な正常化と正常な上部食道括約筋閉鎖を伴う食道通過の改善を含むVFSSの改善を伴った。
患者2は14歳であった。彼は神経発達障害を患っており、視床下部障害を呈していた。彼は嚥下障害の臨床症状を呈し、反芻と口臭のエピソードが頻繁に見られた。
VFSSは、咽頭残留物を伴う遅い咽頭通過、並びに食道逆流及びうっ滞を伴う遅い食道通過を含む異常であった。
彼は3週間、毎日16IUのOXT経鼻投与を受けた。この治療は忍容性が高く、口腔咽頭の開始と同期の正常化及び食道通過の正常化を伴って嚥下障害の臨床症状が改善された。治療後、VFSSはうっ滞も逆流も示さなかった。
(実施例2)
プラダー・ウィリ症候群の小児及び青少年の口腔咽頭食道運動障害に関連する嚥下障害に対する鼻腔内オキシトシンの効果:第3相試験(DYSMOT)
本試験の目的は、系統的なビデオ蛍光透視嚥下試験(VFSS)を用いて、2歳から18歳のプラダー・ウィリ症候群(PWS)の小児における口腔咽頭食道運動障害(OPOD)に関連する嚥下障害に対する鼻腔内OT治療の効果を調べることである。
- 試験デザイン
この前向き多施設共同無作為化二重盲検第3相臨床試験は、フランスの5つの施設からの2~18歳までの約36人のPWS患者を含めることが計画されている。この試験は3つの部分を含む。
第1の部分は、PWSの男女の小児及び青年において嚥下及び食道通過のビデオ蛍光透視法によって評価される、OPODに関連する嚥下障害に対する12週間の鼻腔内OT治療とプラセボの効果を評価するためのプラセボ対照二重盲検期間である。グループ1と3にはOTが投与され、グループ2にはプラセボが投与される。患者は、1:1:1の比率で3つの治療群のうちの1つにランダムに割り当てられる。無作為化は、年齢群毎(2から8歳未満、8から15歳、及び15歳超)に階層化される。
第2の部分である別の二重盲検期間では、グループ1(第1の部分でOTにより治療された患者)には、治療中止後の変化を評価するために12週間のプラセボが投与され、一方、グループ2(第1の部分でプラセボにより治療された患者)にはOTが投与され、グループ3(第1の部分でOTにより治療された患者)には、有効性の維持を評価するためにOT治療が継続される。
第3の部分である鼻腔内OT治療の24週間のオープンラベル期間では、長期的な安全性と有効性の維持を評価するために、全ての患者にOTが投与される。
試験治療が48週間毎日鼻腔内に施される。OTの投与量は、試験開始時の年齢に応じて調整され、2歳から8歳未満の小児には8IU、8歳から15歳の小児には16IU、15歳超の青少年には24IUが投与される。
研究者の一人と上記年齢範囲のPWS患者の親との電話会談がスケジューリングされる。研究者は、目的、制約、予測可能なリスクに関するあらゆる質問に答える。しばらく考えた後、自分の子供が試験に参加することを受け入れた親は、試験への組み入れを調整するために研究者に連絡する。
ベースラインの来院(V1)の際、親はインフォームドコンセントに署名し、適格性の基準が確認される。その後、適格な患者が組み入れられ、無作為化される。VFSSが他の試験手順と共に実施され、患者は、試験治療の最初の投与前に3つの治療群に無作為に割り当てられる。
VFSSがルーチン的な配慮に従って実施され、試験に組み込まれる前4週間以内に品質と取得に関する要件を満たしている場合、VFSSをベースラインとして使用でき、V1では実施されない。
試験の最初の2つの部分では、試験治療(OT又はプラセボ)が鼻腔内経路で12週間毎日投与される。
全てのパラメータの推移が記録され、OTとプラセボの効果、治療中止の効果、及び有効性の維持を評価するために、各群内の1回目と2回目の治療期間が比較される。
OTの鼻腔内投与の長期安全性プロファイルは、長期有効性と同様にオープンラベル期間に評価される。
- 試験介入
この試験の治験薬(IMP)は鼻腔内OTである。これは二重盲検研究であるため、対応する鼻腔内プラセボ溶液も提供される。試験の盲検化を維持するために、IMPとそれ対応するプラセボは両方とも同一のパッケージで提供される。
IMPとそれに対応するプラセボの主な特徴を以下のTable 2(表2)に示す。
試験治療は、パート1とパート2(OT又はプラセボ)では12週間、オープンラベル期間(OTのみ)では24週間、鼻腔内経路で毎日投与される(図1)。
V1では、試験治療は医療チームメンバーの監督の下、親/介護者又は患者によって投与される。スタッフメンバーはまた、治療ポンプの満たし方及び投与の遅れ又は忘れにどのように対処すべきかを含めて、投薬をいつ、どのようにして行うかを親/介護者及び/又は患者に教える。投与のために装置を配置する方法に関する使用説明は、親/介護者によって記入される特定の試験日誌に詳しく記載される。
パート1とパート2での治療コンプライアンスと投与時間を追跡するために、日誌は毎日記入されるべきである。オープンラベル部分では、新たなOTバイアルの開封/使用の度に(28日毎)、投与の遅れ、投与の忘れ、又は過剰投与等の治療に関する問題のみが記録されるべきである。日誌には、使用のための説明と、服用の遅れ、忘れ、過剰摂取への対処方法に関する指示のリマインダーが記載される。
試験治療の各期間の最後の投与は、来院の前日に行われるべきである。V2、V3、及びV4では、試験の前の期間に提供された試験治療ボトルを施設スタッフが回収して管理する必要があるため、親はそれを返却すべきである。V1、V2、及びV3では、親に試験の次の部分の試験治療が提供され、最初の投与は来院時に病院で行われる。
用量は、以下のTable 3(表3)に示されるガイドに従って、年齢に応じて調整される。

Claims (18)

  1. 自律神経系機能不全を患う対象における嚥下障害の治療又は予防における使用のためのオキシトシン受容体アゴニスト。
  2. 嚥下障害が口腔咽頭及び/又は食道の運動障害により特徴付けられる、請求項1に記載のオキシトシン受容体アゴニスト。
  3. 嚥下障害が固体及び/又は液体、好ましくはその両方に関連している、請求項1又は2に記載のオキシトシン受容体アゴニスト。
  4. 対象が神経発達障害を患っている、請求項1から3のいずれか一項に記載のオキシトシン受容体アゴニスト。
  5. 対象が視床下部機能不全を患っている、請求項1から4のいずれか一項に記載のオキシトシン受容体アゴニスト。
  6. 対象が、好ましくはプラダー・ウィリ症候群及びプラダー・ウィリ様症候群、脆弱X症候群、DiGeorge/22q11.2欠失症候群、ダウン症候群、レット症候群、ヌーナン症候群、CHARGE症候群、カブキ症候群、トロイヤー症候群、クリスチャンソン症候群、スミス・マゲニス症候群、アルストローム症候群、症候性肥満、家族性自律神経失調症、及びウィリアムズ症候群からなる群から選択される遺伝性神経発達障害を患っている、請求項4又は5に記載のオキシトシン受容体アゴニスト。
  7. 対象が、自閉症スペクトラム障害、脳性麻痺、胎児性アルコールスペクトラム障害及び知的障害からなる群から選択される神経発達障害を患っている、請求項4又は5に記載のオキシトシン受容体アゴニスト。
  8. 対象が少なくとも生後6か月齢、好ましくは少なくとも1歳であり、食事多様化の移行期にあるか、又は既に多様化した食事下にある、請求項1から7のいずれか一項に記載のオキシトシン受容体アゴニスト。
  9. 対象が幼児、小児又はティーンエイジャーである、請求項1から8のいずれか一項に記載のオキシトシン受容体アゴニスト。
  10. 嚥下障害が以下の臨床徴候:
    - 咽頭又は食道のうっ滞、
    - 咽頭又は食道の残留物、
    - 食道括約筋、特に上部食道括約筋の異常な閉鎖、
    - 食道拡張、好ましくは上部食道拡張又は巨大食道、
    - 推進障害、
    - 嚥下開始の遅れ
    - 呼吸周期との脱同調、
    - 侵入、無症候性吸入を含む吸入
    - 遷延性又は遅い食道通過、
    - 減少した蠕動運動、及び
    - 鼻咽頭又は食道の逆流
    の少なくとも1つによって特徴付けられ、前記臨床徴候は場合によりビデオ蛍光透視法によって評価可能である、請求項1から9のいずれか一項に記載のオキシトシン受容体アゴニスト。
  11. 対象が食道食塊閉塞、肺誤嚥、再発性肺感染症、誤嚥性肺炎、窒息、逆流、鼻逆流、及び反芻症のうちの1つ又はいくつかの障害を経験したことがあるか、経験しているか、又は経験するリスクがある、請求項1から10のいずれか一項に記載のオキシトシン受容体アゴニスト。
  12. 前記オキシトシン受容体アゴニストが、オキシトシン、カルベトシン、[Thr4]OT、HO[Thr4]OT、[Thr4, Gly7]OT、HO[Thr4, Gly7]OT、リポ-オキシトシン-1(LOT-1)、デモキシトシン、メロトシン、デモキシトシン、リポ-オキシトシン-1(LOT-1)、TC OT 39、及びWAY-267464、LIT-001からなる群から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載のオキシトシン受容体アゴニスト。
  13. 神経発達障害を患っている対象における嚥下障害の治療における使用のためのオキシトシン。
  14. 神経発達障害がプラダー・ウィリ症候群又はプラダー・ウィリ様障害である、請求項13に記載のオキシトシン。
  15. 対象が少なくとも生後6か月齢であり、食事多様化の移行期にあるか、又は既に多様化した食事下にある、請求項14に記載のオキシトシン。
  16. 対象が少なくとも1歳である、請求項13又は14に記載のオキシトシン。
  17. 対象が無症候性嚥下障害を患っている、請求項13から16のいずれか一項に記載のオキシトシン。
  18. 鼻腔内経路により、好ましくは2IUから48IUの1日投与量で投与される、請求項13から17のいずれか一項に記載のオキシトシン。
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