JP2024034383A - オイルリング、オイルリングの製造方法 - Google Patents

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Tomohiro Ito
肇 安藤
Hajime Ando
信哉 金沢
Shinya Kanazawa
誠人 梶原
Masato Kajiwara
義洋 伊東
Yoshihiro Ito
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Abstract

【課題】オイルリングの摺動抵抗を低減し、更なる燃費向上を実現する。【解決手段】内燃機関のピストンに設置され、レールを有するリング本体72及びエキスパンダを有する複数ピースタイプのオイルリング70であって、リング本体72のレールには、物理蒸着処理によって形成される皮膜92が形成されており、皮膜92によって形成されるレールの外周面81A,81Bは、周方向に延びる帯形状に形成されて、内燃機関のシリンダの内壁面に当接且つ摺動する実当たり面83A,83Bと、実当たり面実当たり面83A,83Bの軸方向の縁から軸方向外側に連続し、軸方向外側に向かうにつれて内壁面との距離が大きくなる傾斜面84A,84B,85A,85Bとを有する。この傾斜面84A,84B,85A,85Bは、皮膜92の表面が周方向に沿って研磨又は研削された面によって構成される。【選択図】図3

Description

本発明は、シリンダとピストンを有する内燃機関におけるオイルリング及びその製造方法等に関する。
エンジンの燃費低減には、ピストンリングとシリンダライナ間の摩擦低減が有効である。近年、ピストンリングの一種となるオイルリングに対して、窒化処理や、低摩擦係数材となるPVD処理による窒化クロムコーティング、DLCコーティング等を施して摩擦低減を図ることが行われている。
また、オイルリングの外周面をステップランド(階段)形状で構成し、その突端となる摺動面と、シリンダライナとの実当たり幅を小さくすることで、小さい張力でも十分な接触面圧を確保することが行われている。この場合は、摺動面の面圧が高くなるので、窒化処理のみでは耐摩耗性が劣ることになり、高硬度皮膜が得られるPVD処理等が採用されることもある(特許文献1参照)。
特許第5871277号
本出願時に未公知の課題ではあるが、オイルリングの摺動面に、物理蒸着処理によって高硬度皮膜を形成すると摩擦低減効果が得られるものの、更なる改良の余地が残っていることが明らかとなった。本発明は、斯かる実情に鑑み、オイルリングの摺動抵抗を一層低減し、燃費向上を実現できるオイルリングを提供することを目的とする。
上記目的を達成する本発明は、内燃機関のピストンに設置され、レールを有するリング本体、及び、前記リング本体に張力を付与するエキスパンダを有する複数ピースタイプのオイルリングであって、前記リング本体の前記レールには、物理蒸着処理によって形成される皮膜が形成されており、前記皮膜によって形成される前記レールの外周面は、周方向に延びる帯形状に形成されて、前記内燃機関のシリンダの内壁面に当接且つ摺動する実当たり面と、前記実当たり面の軸方向の縁から軸方向外側に連続し、軸方向外側に向かうにつれて前記内壁面との距離が大きくなる傾斜面と、を有しており、前記傾斜面は、前記皮膜の表面が周方向に沿って研磨又は研削された面によって構成されることを特徴とする、オイルリングである。
上記オイルリングに関連して、前記実当たり面は、前記皮膜の表面が軸方向に沿って研磨又は研削された面によって構成されることを特徴としても良い。
上記オイルリングに関連して、前記傾斜面における、軸方向を基準とした傾斜角度が7°となる位置を評価位置と定義する際に、前記評価位置を周方向に沿って測定して得られる突出山部高さRpkが、0.15μm以下となることを特徴としても良い。
上記オイルリングに関連して、前記傾斜面における、軸方向を基準とした傾斜角度が7°となる位置を評価位置と定義する際に、前記評価位置を周方向に沿って測定して得られる、0.5%位置を起点として0.3μm高さ減少を生じさせる際の負荷長さ率Rmrが35%以上となることを特徴としても良い。
上記オイルリングに関連して、前記傾斜面は、前記研磨又は前記研削によって形成される、周方向に延びるヘアラインを有することを特徴としても良い。
上記オイルリングに関連して、前記実当たり面は、研磨又は研削によって形成される、軸方向に延びるヘアラインを有することを特徴としても良い。
上記オイルリングに関連して、前記皮膜は、窒化クロム系合金皮膜または硬質炭素皮膜であることを特徴としても良い。
上記目的を達成する本発明は、内燃機関のピストンに設置され、レールを有するリング本体、及び、前記リング本体に張力を付与するエキスパンダを有する複数ピースタイプのオイルリングの製造方法であって、前記リング本体の前記レールに、物理蒸着処理によって皮膜を形成する工程と、前記皮膜によって形成される前記レールの外周面を周方向に沿って研磨又は研削することで、前記皮膜の表面に周方向摩耗面を形成する工程と、前記周方向摩耗面の一部を、軸方向に沿って研磨又は研削することで、前記皮膜の表面に、前記内燃機関のシリンダの内壁面に当接且つ摺動する実当たり面を形成する工程と、を備え、前記実当たり面の軸方向の縁から軸方向外側に前記周方向摩耗面を残存させることで、前記周方向摩耗面を、軸方向外側に向かうにつれて前記内壁面との距離が大きくなる傾斜面とすることを特徴とするオイルリングの製造方法である。
本発明によれば、オイルリングの摺動抵抗を一層低減し、燃費を向上させるという優れた効果を奏し得る。
(A)は、 本発明の実施形態に係るオイルリングが適用されるピストン及びピストンリングを示す側面図であり、(B)は同ピストン及びピストンリングを示す部分拡大断面図であり、(C)はトップリングの部分拡大断面図であり、(D)はセカンドリングの部分拡大断面図である。 本実施形態の2ピースタイプのオイルリングの断面図である。 同オイルリングの外周面近傍を拡大して示す軸方向断面図である。 (A)は同オイルリングの製造工程における物理蒸着処理後のオイルリングの外周面近傍を拡大して示す軸方向断面図であり、(B)はオイルリングにバフ加工を行う態様を示す部分断面図であり、(B)はバフ加工後のオイルリングの外周面近傍を拡大して示す斜視図である。 (A)は本オイルリングにラップ加工を行う態様を示す部分断面図であり、(B)はラップ加工後のオイルリングの外周面近傍を拡大して示す斜視図である。 (A)は、本実施形態のオイルリングの変形例となる3ピースタイプのオイルリングの断面図であり、(B)は同オイルリングの外周面近傍を拡大して示す軸方向断面図である。 一般的な内燃機関の摺動に関する(A)ストライベック線図、及び(B)FMEP線図である。 同オイルリングが適用される内燃機関のシリンダライナの軸方向に沿う断面図である。 (A)及び(B)は同シリンダライナの内周壁を周方向に展開した状態を示す展開図である。 同シリンダライナの内周壁の軸直角方向の断面図である。 (A)~(C)は、第1,第2実施例となるオイルリングの周方向の表面性状パラメータの実測結果を示すグラフ図である。 (A)及び(B)は、第1,第2実施例となるオイルリングの周方向の表面性状パラメータの実測結果を示すグラフ図である。 (A)~(C)は、第1,第2実施例となるオイルリングの周方向の表面性状パラメータの実測結果を示すグラフ図である。 (A)~(D)は、第1実施例となるオイルリングの周方向の表面性状を三次元撮像した結果を示す撮像図である。 (A)~(D)は、第2実施例となるオイルリングの周方向の表面性状を三次元撮像した結果を示す撮像図である。 (A)~(D)は、比較例となるオイルリングの周方向の表面性状を三次元撮像した結果を示す撮像図である。 実施例及び比較例となるオイルリングを利用して実測した内燃機関のFMEP線図である。
以下、本発明の実施の形態に係るオイルリング及びその製造方法について添付図面を参照して説明する。
まず、本実施形態のオイルリングを備えた内燃機関の摺動構造について説明する。
<ピストン及びピストンリングの構造>
図1(A)及び図1(B)に、ガソリンエンジンの一部として、ピストン30及びこのピストン30のリング溝に設置されるピストンリング40(トップリング50、セカンドリング60、オイルリング70)を示す。ピストンリング40は、シリンダライナ10の内壁面12に対して、外周面42が対向する状態でシリンダ軸方向に往復運動する。トップリング50は、ピストン30とシリンダライナ10との間のすき間を無くし、燃焼室からクランクケース側へと圧縮ガスが抜けるガス漏洩現象(ブローバイ)を防ぐ。セカンドリング60は、トップリング50と同様に、ピストン30とシリンダライナ10との間のすき間を無くす役割と、シリンダライナ10の内壁面12に付着する余分なエンジンオイルをかき落とす役割を兼ねる。なお、トップリング50及びセカンドリング60を、コンプレッションリングと称する場合もある。
オイルリング70は、シリンダライナ10の内壁面12についている余分なエンジンオイルをかき落として、適度な油膜を形成することで、ピストン30の焼きつきを防止する。
<トップリングの形状>
図1(C)に拡大して示すように、トップリング50は、単一の環状部材であり、外周面52を断面視すると、径方向外側に緩やかな凸となる、いわゆる弱バレル形状となっている。なお、図1(C)では、説明の便宜上、軸方向の寸法に対して径方向の寸法を大幅に誇張することで、外周面の凸形状が強調されるようにしている。
トップリング50の厚さ(径方向幅)aは、例えば6.0mm以下に設定され、望ましくは4.5mm以下とする。幅(軸方向幅)hは、例えば3.5mm以下に設定され、望ましくは3.0mm以下とする。
外周面52の軸方向の一部には、実当たり面53が形成される。実当たり面53は、外周面52の周方向に延びる帯形状の領域となる。実当たり面53は、シリンダライナ10の内壁面12と接触して摺動する摺動領域(摺動面)を意味する。更に外周面52には、外周面52には、実当たり面53の軸方向(帯幅方向)の両縁から外側に向かって、それぞれ、傾斜面54及び隅部55が形成される。この傾斜面54及び隅部55は、シリンダライナ10の内壁面12から離反する領域となる。
なじみ運転前の実当たり面53の実当たり幅fの寸法は、0.15mm以上に形成することが好ましい。より望ましくは、0.3mm以上に形成し、さらに望ましくは、0.3mmよりも大きく設定し、一層望ましくは0.4mm以上とする。
なじみ運転によって積極的にダレ形状を形成するために、外周面52の表面硬さは、2000Hv以下にすることが好ましく、ここでは1800Hvとする。
<セカンドリングの形状>
図1(D)に拡大して示すように、セカンドリング60は、単一の環状部材であり、外周面62を断面視すると、いわゆるテーパ形状となっている。このテーパ形状の先端側の平面は、径方向外側に緩やかな凸となるいわゆる弱バレル形状となっている。なお、図1(D)では、説明の便宜上、軸方向の寸法に対して径方向の寸法を大幅に誇張することで、外周面の凸形状が強調されるようにしている。
セカンドリング60の厚さ(径方向幅)aは、例えば6.0mm以下に設定され、望ましくは4.5mm以下とする。幅(軸方向幅)hは、例えば3.0mm以下に設定され、望ましくは2.5mm以下とする。
トップリング50と同様に、外周面62の軸方向の一部には、実当たり面63が形成される。実当たり面63は、外周面62の周方向に延びる帯形状の領域となる。実当たり面63は、シリンダライナ10の内壁面12と接触して摺動する摺動領域(摺動面)を意味する。更に外周面62には、実当たり面63における軸方向(帯幅方向)の両縁から外側に向かって、それぞれ、傾斜面64及び隅部65が形成される。この傾斜面64及び隅部65は、シリンダライナ10の内壁面12から離反する領域となる。
なじみ運転前の実当たり面63の実当たり幅fの寸法は、0.15mm以上に形成することが好ましい。より望ましくは、0.3mm以上に形成し、さらに望ましくは、0.3mmよりも大きく設定し、一層望ましくは0.4mm以上とする。
なじみ運転によって積極的にダレ形状を形成するために、外周面62の表面硬さは、1600Hv以下にすることが好ましく、ここでは1400Hvとする。
<オイルリングの形状>
図2に、本実施形態にかかる2ピースタイプのオイルリング70を拡大して示す。このオイルリング70は、リング本体72と、コイルばね状のコイルエキスパンダ76Cを有する。
リング本体72は、軸方向両端に配置される環状の上方側レール73A及び下方側レール73Bと、この上方側レール73A及び下方側レール73Bの間に配置されてこれらを連結する環状の柱部75を一体的に有する。一対の上方側レール73A及び下方側レール73B及び柱部75を合わせた断面形状は略I形状又はH形状となっており、この形状を利用して、内周面側には、コイルエキスパンダ76Cを収容するための断面半円弧形状の内周溝79が形成される。
上方側レール73A及び下方側レール73Bの各外周には、それぞれ、柱部75を基準として径方向外側に突出する上方側環状突起74A及び下方側環状突起74Bが形成される。この上方側環状突起74A及び下方側環状突起74Bの突端近傍は、上方側外周面81A及び下方側外周面81Bを有することになる。
コイルエキスパンダ76Cは、内周溝79に収容されることで、リング本体72を径方向外側に押圧付勢する。なお、リング本体72の柱部75には、油戻し孔77が、周方向に複数形成される。
図3に拡大して示すように、上方側外周面81A及び下方側外周面81Bは、それぞれ、母材90の表面に対して物理蒸着処理によって形成される硬質皮膜(以下、PVD皮膜)92の表面となる。母材90の材料は、例えば8Cr鋼、10Cr鋼、13CrSUS等となる。また、PVD皮膜92は、例えばCr-N系、Cr-B-N系、Cr-B-V-N系、Cr-B-Ti-V-(Mn,Mo)-N系等の窒化クロム系合金皮膜、硬質炭素皮膜(ダイヤモンドライクカーボン皮膜又はDLC皮膜ともいう)を採用できる。なお、硬質炭素皮膜の水素含有量は10原子%以下が好ましい。PVD皮膜92の表面硬さは、2000Hv以下にすることが好ましく、ここでは1800Hvとする。
(実当たり面の説明)
上方側外周面81A及び下方側外周面81Bの一部には、シリンダライナ10の内壁面12と実際に当接する上方側実当たり面83A及び下方側実当たり面83Bが形成される。上方側実当たり面83A及び下方側実当たり面83Bは、周方向に延びる帯形状の領域となる。上方側実当たり面83A及び下方側実当たり面83Bは、軸方向(帯幅方向)に沿って研磨または研削するラップ加工によって、PVD皮膜92の表面側の一部が摩耗されて創出する平坦面である(点線V参照)。図5(B)に示すように、上方側実当たり面83A及び下方側実当たり面83Bの表面には、研磨痕となる、軸方向(帯幅方向)に延びる細かな軸方向ヘアラインH1が形成される。
上方側実当たり面83A及び下方側実当たり面83Bにおける軸方向中央部分におけるPVD皮膜92の径方向厚さt1は、5μm以上であることが望ましく、更に望ましくは10μm以上とする。PVD皮膜92の同厚さt1は、50μm以下であることが望ましく、更に望ましくは40μm以下とする。ここでは20μmに設定されている。
なお、上方側外周面81A及び下方側外周面81Bは、リング本体72に一体的に形成されている。結果、両外周面81A,81Bを合わせて単一外周面81と定義することもできる(図2参照)。なお、単一外周面81の中央には隙間が形成される。
図3に戻って、上方側実当たり面83Aにおける軸方向の柱部75側(下方側)には、上方側外周面81Aの一部が縮径するように凹む凹状段差98を有する。同様に、下方側実当たり面83Bにおける軸方向の柱部75側(上方側)には、下方側外周面81Bの一部が縮径するように凹む凹状段差98を有する。これらの凹状段差98によって、上方側外周面81A及び下方側外周面81Bが階段状となる。これにより、上方側実当たり面83A及び下方側実当たり面83Bの実当たり幅(帯幅)f1、f2を小さく設定できる。換言すると、上方側環状突起74A及び下方側環状突起74Bは、二段階の突起形状となっており、この形状をステップランド形状と称する。凹状段差98は、例えば、母材90を研削加工することで形成することができるが、線材の引抜き加工時に予め形成することもできる。
(傾斜面の説明)
上方側外周面82Aにおいて、上方側実当たり面83Aにおける軸方向(帯幅方向)の両縁には、上方側第一傾斜面84Aと上方側第二傾斜面85Aが形成される。上方側第一傾斜面84Aは、スペーサエキスパンダ76Cから遠位側となり、上方側第二傾斜面85Aは、スペーサエキスパンダ76Cから近位側となる。上方側第一傾斜面84Aは、上方側実当たり面83Aから上方に離れるに連れて、シリンダライナ10の内壁面12からの距離が大きくなる傾斜領域となる。上方側第二傾斜面85Aは、上方側実当たり面83Aから下方に離れるに連れて、シリンダライナ10の内壁面12からの距離が大きくなる傾斜領域となる。上方側第一傾斜面84A及び上方側第二傾斜面85Aは、それぞれ、周方向に延びる帯形状の領域となる。
また、上方側第一傾斜面84Aの軸方向外側(上方側)には、上方側第一隅部86Aが形成される。軸方向断面視すると、上方側第一隅部86Aは、上方側第一傾斜面84Aから上方側環状突起74Aの上方側の側面に向かって、傾斜の勾配が急峻に変化する領域となる。
上方側第二傾斜面85Aの軸方向外側(下方側)には、上方側第二隅部87Aが形成される。軸方向断面視すると、上方側第二隅部87Aは、上方側第二傾斜面85Aから上方側環状突起74Aの下方側の側面に向かって、傾斜の勾配が急峻に変化する領域となる。
下方側外周面82Bにおいて、下方側実当たり面83Bにおける軸方向(帯幅方向)の両縁には、下方側第一傾斜面84Bと下方側第二傾斜面85Bが形成される。下方側第一傾斜面84Bは、スペーサエキスパンダ76Cから遠位側となり、下方側第二傾斜面85Bは、スペーサエキスパンダ76Cから近位側となる。下方側第一傾斜面84Bは、下方側実当たり面83Bから下方に離れるに連れて、シリンダライナ10の内壁面12からの距離が大きくなる傾斜領域となる。下方側第二傾斜面85Bは、下方側実当たり面83Bから上方に離れるに連れて、シリンダライナ10の内壁面12からの距離が大きくなる傾斜領域となる。下方側第一傾斜面84B及び下方側第二傾斜面85Bは、それぞれ、周方向に延びる帯形状の領域となる。
また、下方側第一傾斜面84Bの軸方向外側(下方側)には、下方側第一隅部86Bが形成される。軸方向断面視すると、下方側第一隅部86Bは、下方側第一傾斜面84Bから下方側環状突起74Bの下方側の側面に向かって、傾斜の勾配が急峻に変化する領域となる。
下方側第二傾斜面85Bの軸方向外側(上方側)には、下方側第二隅部87Bが形成される。軸方向断面視すると、下方側第二隅部87Bは、下方側第二傾斜面85Bから下方側環状突起74Bの上方側の側面に向かって、傾斜の勾配が急峻に変化する領域となる。
図5(B)に示すように、少なくとも上方側第一傾斜面84A及び下方側第一傾斜面84Bは、後述するバフ加工によって、PVD皮膜92の表面側の一部が周方向に沿って研磨又は研削された表面となる。結果、上方側第一傾斜面84A及び下方側第一傾斜面84Bは、周方向に沿って平滑化される。上方側第一傾斜面84A及び下方側第一傾斜面84Bの表面には、研磨痕となる、周方向(帯長手方向)に延びる細かな周方向ヘアラインH2が形成される。
なお、本実施形態では、上方側第一傾斜面84A及び下方側第一傾斜面84B、並びに、上方側第二傾斜面85A及び下方側第二傾斜面85Bのすべてが、バフ加工によって研磨又は研削されることで平滑化されており、その表面に細かな周方向ヘアラインH2が形成される。
図1に戻って、オイルリング70の組み合わせ径方向厚さa11(図1(B)参照)は、例えば5.0mm以下に設定され、望ましくは4.5mm以下とする。組み合わせ軸方向幅(呼び幅)h(図1(B)参照)は、例えば4.0mm以下に設定され、望ましくは3.0mm以下とする。上方側レール73A又は下方側レール73Bの単体の厚さ(径方向幅)a(図1(B)参照)は、例えば4.0mm以下に設定され、望ましくは3.0mm以下とする。同単体の幅(軸方向幅)h12(図1(B)参照)は、例えば0.40mm以下に設定され、望ましくは0.30mm以下とし、さらに好ましくは0.20mm以下とする。
なじみ運転前の上方側実当たり面83Aの上方側実当たり幅f1、及び、下方側実当たり面83Bの下方側実当たり幅f2の寸法は、0.05mm以上に形成することが好ましい。より望ましくは0.10mm以上に形成し、さらに望ましくは、0.13mmよりも大きく設定する。また、上方側実当たり幅f1及び下方側実当たり幅f2の寸法は、0.40mm以下に形成することが好ましい。より望ましくは0.35mm以下に形成し、さらに望ましくは、0.30mmよりも小さく設定する。
また、上方側実当たり幅f1及び下方側実当たり幅f2を合計した総実当たり幅Fは、0.10mm以上に形成することが好ましい。より望ましくは0.20mm以上に形成し、さらに望ましくは、0.26mmよりも大きく設定する。総実当たり幅Fは、0.80mm以下に形成することが好ましい。より望ましくは0.70mm以下に形成し、さらに望ましくは、0.60mmよりも小さく設定する。更に、上方側実当たり面83A及び下方側実当たり面83Bに作用する面圧は、0.8MPa以上に設定することが好ましく、より望ましくは1.0MPa以上とする。更に同面圧は、2.5MPa以下に設定することが好ましく、より望ましくは2.2MPa以下とする。
(傾斜面の周方向の表面粗さの評価)
本実施形態では、上方側第一傾斜面84A及び下方側第一傾斜面84Bの周方向に沿う表面粗さを評価するために、評価位置Wを定義する。図3に示すように、軸方向断面視の状態において、オイルリング70の軸方向Jを基準とした上方側第一傾斜面84A及び下方側第一傾斜面84Bの傾斜角度θが7°となる点を評価位置Wと定義する。触針式表面粗さ測定機(JIS B 0651:2001)によって、この評価位置Wを周方向に沿って測定することで得られる表面性状値を「傾斜面の周方向表面性状パラメータ」と定義する。なお、測定針の先端半径は標準的な2μm、先端形状は60°ナイフエッジ形状を採用し、断面曲線用のカットオフ波長λcを0.8mmに選択して測定する。
本実施形態では、上方側第一傾斜面84A及び下方側第一傾斜面84Bにおいて、周方向表面性状パラメータとなる算術平均粗さRa(JIS B 0601:2013)を、0.18μm未満とすることが好ましく、より望ましくは0.10μm以下とする。
本実施形態では、上方側第一傾斜面84A及び下方側第一傾斜面84Bにおいて、周方向表面性状パラメータとなる最大高さRz(JIS B 0601:2013)を、1.40μm未満とすることが好ましく、より望ましくは1.00μm以下とする。
本実施形態では、上方側第一傾斜面84A及び下方側第一傾斜面84Bにおいて、周方向表面性状パラメータとなる十点平均粗さRzJIS(JIS B 0601:2013)を、1.10μm以下とすることが好ましく、より望ましくは0.80μm以下とする。
本実施形態では、上方側第一傾斜面84A及び下方側第一傾斜面84Bにおいて、周方向表面性状パラメータとなる突出山部高さRpk(JIS B 0671-2:2002)を0.15μm以下とすることが好ましく、より望ましくは0.10μm以下とする。
本実施形態では、上方側第一傾斜面84A及び下方側第一傾斜面84Bにおいて、周方向表面性状パラメータとなるコア部レベル差Rk(JIS B 0671-2:2002)を0.50μm以下とすることが好ましく、より望ましくは0.30μm以下とする。
本実施形態では、上方側第一傾斜面84A及び下方側第一傾斜面84Bにおいて、周方向表面性状パラメータとなる、0.5%位置を起点として0.3μm高さ減少を生じさせる際の負荷長さ率Rmr(JIS B 0601:2013)を35%以上とすることが好ましく、より望ましくは75%以上とする。
本実施形態では、上方側第一傾斜面84A及び下方側第一傾斜面84Bにおいて、周方向表面性状パラメータとなる、0.5%位置を起点として0.4μm高さ減少を生じさせる際の負荷長さ率Rmr(JIS B 0601:2013)を55%以上とすることが好ましく、より望ましくは80%以上とする。
本実施形態では、上方側第一傾斜面84A及び下方側第一傾斜面84Bにおいて、周方向表面性状パラメータとなる、0.5%位置を起点として0.5μm高さ減少を生じさせる際の負荷長さ率Rmr(JIS B 0601:2013)を70%以上とすることが好ましく、より望ましくは85%以上とする。
なお、上方側第一傾斜面84A及び下方側第一傾斜面84Bの評価位置WにおけるPVD皮膜92の径方向厚さt2は、5μm以上であることが望ましく、更に望ましくは10μm以上とする。PVD皮膜92の同厚さt2は、50μm以下であることが望ましく、更に望ましくは40μm以下とする。ここでは20μmに設定されている。
(なじみ運転による実当たり面の微修正)
ちなみに、上方側実当たり面83A及び下方側実当たり面83Bは、製作完了時の状態を意味している。このオイルリング70をピストン30に装着し、シリンダライナ10とともに、実際のなじみ運転を行うと、その接触摩耗によって、上方側実当たり面83A及び下方側実当たり面83Bの形状は、微細に修正される。具体的に、上方側実当たり面83A及び下方側実当たり面83Bのそれぞれは、なじみ運転の摩耗によって、シリンダ軸方向の中央から両外側に向かって微細に傾斜するバレル形状となる。上方側実当たり面83A及び下方側実当たり面83B内に形成されるこれらの傾斜は、いわゆるダレ形状と称され、その勾配は、1/2000~1/500程度と極めて小さい。なじみ運転後における上方側実当たり面83A及び下方側実当たり面83Bは、微細な傾斜や変形を伴いつつ、実質的に、シリンダライナ10の内壁面12と接触して摺動する摺動領域(摺動面)となる。
<オイルリングのリング本体の製造方法>
(母材の製作)
次に、本実施形態のオイルリング70のリング本体72の製造方法について説明する。まず、所望の断面形状となる直線状の線材を、特に図示しない曲げ加工機によってリング状に曲げ成形することで母材90を製作する。
(母材へのバフ加工)
次に、リング状の母材90の外周面に対して、バフ加工することで、外周面を周方向に沿って研磨又は研削する。これによって、母材90の外周面となる下地を滑らかにする。なお、母材90の外周面に窒化処理を施しても良い。
(物理蒸着処理)
その後、図4(A)に示すように、母材90の外周面(将来の上方側外周面81A及び下方側外周面81B)に対して、物理蒸着処理によってPVD皮膜92を形成し、今回は窒化クロム皮膜を施した。なお、ここでは特に図示しないが、物理蒸着処理直後のPVD皮膜92の皮膜外周面92Aは、全体的に微細凹凸がランダムに形成された状態となる。この微細凹凸は、物理蒸着処理によって蒸着用物質が堆積する構造に起因している。
(PVD皮膜へのバフ加工)
次に、図4(B)に示すように、PVD皮膜92の皮膜外周面92A(将来の上方側外周面81A及び下方側外周面81B)に対して、バフ加工を行う。本実施形態では、複数のリング本体72を、特に図示しない回転具にまとめてセットし、これらを、中心軸Eを中心に強制回転させる。また、綿やフェルトで作られた円柱形状の研磨具となるバフ100を、自身の回転軸Zが、リング本体72の中心軸Eと平行となる姿勢で、リング本体72に併設する。
このバフ100の外周面100Aを、リング本体72の皮膜外周面92Aに押し当てながら、バフ100を、中心軸Zを中心に強制回転させる。これと同時に、バフ100とリング本体72を、中心軸E、Z方向に相対移動させる。なお、リング本体72とバフ100の回転方向を一致させることで、互いの接点におけるバフ100の外周面100Aとリング本体72の皮膜外周面92Aの移動方向が反対となり、研磨効率が向上する。
結果、図4(C)に示すように、PVD皮膜92の皮膜外周面92Aの全部または一部(バフ100が接触し得る範囲)が、研磨又は研削によって摩耗する。この摩耗によって生じた面を、ここでは周方向摩耗面92Bと定義する。この周方向摩耗面92Bの表面には、周方向に延びる周方向ヘアラインH2が形成される。周方向摩耗面92Bにより、上方側第一傾斜面84Aと上方側第二傾斜面85A、下方側第一傾斜面84Bと下方側第二傾斜面85Bが形成されることになる。
なお、上方側第一傾斜面84Aと上方側第二傾斜面85Aの間には、上方側ラップ加工対象領域83A'が形成される。同様に、下方側第一傾斜面84Bと下方側第二傾斜面85Bの間には、下方側ラップ加工対象領域83B'が形成される。
(ラップ加工)
次に、図5(A)に示すように、複数のリング本体72を、特に図示しない固定具にまとめてセットしてから、円筒状の研削具(ラップ盤)120の内周研削面120Aに挿入し、軸方向に相対的に摺動させる。内周研削面120Aの内径と、リング本体72を近似させつつ、両者の間に所定の砥粒を介在させることで、リング本体72の上方側外周面82A及び下方側外周面81Bが研削又は研磨する。具体的に、周方向摩耗面92Bにおける上方側ラップ加工対象領域83A'及び下方側ラップ加工対象領域83B'を摩耗させる。還元すると、周方向摩耗面92Bにおける、上方側ラップ加工対象領域83A'及び下方側ラップ加工対象領域83B'の外側は、そのまま周方向摩耗面92Bを残存させるようにする。
結果、図5(B)に示すように、ラップ加工によって摩耗した領域によって、上方側実当たり面83A及び下方側実当たり面83Bが形成される。上方側実当たり面83A及び下方側実当たり面83Bには、研削痕となる軸方向ヘアラインH1が形成される。
<オイルリングの面圧設定>
次にオイルリング70とシリンダライナ10の間の面圧設定について説明する。ここで、オイルリング70の面圧とは、ピストンリング40の外周面42において、実当たり幅f1、f2を構成する摺動面に作用する面圧を意味する。具体的に面圧は、(2×張力)/(シリンダライナ径×実当たり幅f)によって算出される。
本実施形態では、オイルリング70の面圧は、0.8MPa以上に設定することが好ましく、より望ましくは1.0MPa以上とする。更に同面圧は、2.5MPa以下に設定することが好ましく、より望ましくは2.2MPa以下とする。
<オイルリングの変形例>
なお、上記実施形態のオイルリング70は、2ピースタイプを例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図6(A)に拡大して示すオイルリング70のように、3ピースタイプのオイルリングを採用できる。このオイルリング70は、上下に分離している環状のサイドレール73a,73bと、このサイドレール73a,73bの間に配置されるスペーサエキスパンダ76sを有する。一対のサイドレール73a,73bがセットとなって、リング本体を構成する。
スペーサエキスパンダ76sは、鋼材をシリンダ軸方向に凹凸を繰り返す波形形状に塑性加工して形成される。この波型形状を利用して、上方側支持面78aと下方側支持面78bが形成され、一対のサイドレール73a,73bがそれぞれ軸方向に支持される。スペーサエキスパンダ76sの内周側端部には、軸方向外側に向かってアーチ状に立設される耳部74mを有する。この耳部74mは、サイドレール73a,73bの内周面に当接する。なお、スペーサエキスパンダ76sは、合口が付き合わされて、周方向に収縮状態でピストン30のリング溝に組み込まれる。結果、スペーサエキスパンダ76sの復元力によって、耳部74mがサイドレール73a,73bを径方向外側に押圧付勢する。この付勢を受けると、点線に示されるように、サイドレール73a,73bが、オイルリング70の軸方向(組み合わせ呼び幅方向)の内側に傾斜する。つまり、一対の外周面82,82がその分だけ接近することになる。
オイルリング70の組み合わせ径方向厚さa11は、例えば4.0mm以下に設定され、望ましくは3.0mm以下とする。組み合わせ軸方向幅(呼び幅)hは、例えば4.0mm以下に設定され、望ましくは2.0mm以下とする。サイドレール73a,73bの単体の厚さ(径方向幅)aは、例えば4.0mm以下に設定され、望ましくは3.0mm以下とする。単体の幅(軸方向幅)h12は、例えば1.0mm以下に設定され、望ましくは0.5mm以下とし、さらに好ましくは0.4mm以下とする。
図6(B)に更に拡大して示すように、サイドレール73a,73bの各々の外周面82は、径方向外側に緩やかな凸となるいわゆる弱バレル形状となっている。なお、ここでは説明の便宜上、軸方向の寸法に対して径方向の寸法を大幅に誇張することで、外周面の凸形状が強調されるようにしている。
外周面82は、母材90に対して、物理蒸着処理によって形成される硬質皮膜(以下、PVD皮膜)92の表面となる。外周面82の軸方向の一部には、シリンダライナ10の内壁面12と実際に当接する実当たり面83が形成される。実当たり面83Bは、軸方向(帯幅方向)に沿って研磨または研削するラップ加工によって、PVD皮膜92の表面側の一部が摩耗されて創出する平坦面となる(点線V参照)。実当たり面83は、外周面82の周方向に延びる帯形状の領域となる。実当たり面83の表面は、研磨痕となる、軸方向(帯幅方向)に延びる細かな軸方向ヘアラインH1が形成される。
更に、外周面82において、実当たり面83における軸方向(帯幅方向)の両縁には、それぞれ、傾斜面84が形成される。傾斜面84は、シリンダライナ10の内壁面12から離反する傾斜領域となる。この傾斜面84は、周方向に延びる帯形状の領域となる。
また、各傾斜面84の更に軸方向外側には隅部86が形成される。軸方向断面視すると、隅部86は、傾斜面84からサイドレール73a,73bの側面に向かって、傾斜の勾配が急峻に変化する領域となる。
傾斜面84は、バフ加工によって、PVD皮膜92の表面側の一部が周方向に沿って研磨又は研削された表面となる。結果、傾斜面84は、周方向に沿って平滑化される。傾斜面84の表面には、研磨痕となる、周方向(帯長手方向)に延びる細かな周方向ヘアラインが形成される。
なじみ運転前の実当たり面83の実当たり幅fの寸法は、0.05mm以上に形成することが好ましい。より望ましくは0.10mm以上に形成し、さらに望ましくは、0.13mmよりも大きく設定する。また、実当たり幅fの寸法は、0.40mm以下に形成することが好ましい。より望ましくは0.35mm以下に形成し、さらに望ましくは、0.30mmよりも小さく設定する。
一対の外周面82、82の実当たり幅fを合計した総実当たり幅Fは、総実当たり幅Fは、0.10mm以上に形成することが好ましい。より望ましくは0.20mm以上に形成し、さらに望ましくは、0.26mmよりも大きく設定する。総実当たり幅Fは、0.80mm以下に形成することが好ましい。より望ましくは0.70mm以下に形成し、さらに望ましくは、0.60mmよりも小さく設定する。更に、実当たり面83に作用する面圧は、0.8MPa以上に設定することが好ましく、より望ましくは1.0MPa以上とする。更に同面圧は、2.5MPa以下に設定することが好ましく、より望ましくは2.2MPa以下とする。
<シリンダライナとオイルリングの摩擦態様>
次に、シリンダライナとオイルリングの摩擦態様について説明する。一般的な摺動時の摩擦係数の変化は、図7(A)に示すストライベック線図として表現される。このストライベック線図では、直接接触して摺動する固体接触領域110の摩擦態様、油膜を介して摺動する境界潤滑領域112の摩擦態様、粘性潤滑油膜を介して摺動する流体潤滑領域114における摩擦態様に分別される。また、境界潤滑領域112と流体潤滑領域114の間には、双方の状態が混在する混在潤滑領域113の摩擦態様が存在する。なお、このストライベック線図は、横軸が、「動粘度(動粘性率)μ」×「速度Q」/「接触荷重W」を対数表示したものであり、縦軸が、摩擦係数(f)となる。従って、摩擦力が最も小さくなり得るのは流体潤滑領域114または混在潤滑領域113であり、この領域114、113を有効利用することが、低摩擦化、即ち、低燃費に有効となる。一方、速度Qが上昇しても、境界潤滑領域112の途中から流体潤滑領域114に移行できない場合は、点線に示すように、境界潤滑領域112がそのまま高速領域まで継続する状態になる。
ちなみに、流体潤滑領域114の摩擦力の大部分は、オイルのせん断抵抗であり、このせん断抵抗は、(粘度)×(速度)×(面積)/(油膜厚さ)で定義される。結果、せん断面積を低減することが、摩擦力の低減に直結する。
そこで、本実施形態では、オイルリング70の上方側実当たり面83A及び下方側実当たり面83Bに対して、その両脇に形成される上方側第一傾斜面84A、上方側第二傾斜面85A、下方側第一傾斜面84B、下方側第二傾斜面85Bから、オイルを積極的に流入させることで、素早く流体潤滑領域114に移行して低摩擦化を実現する。また、これに加えて、詳細は後述するが、シリンダライナ10に対していわゆるディンプルライナ技術を適用することで、シリンダライナ10の行程中央部領域に凹部を形成して、オイルのせん断抵抗が生じる実質面積を減少させることで、より効率的に摩擦力の低下を達成する。
図7(A)のストライベック線図は、ピストン30の1ストローク中の摩擦係数(f)の動的変化を示すものであるが、摩擦態様を評価する他の指標として、摩擦損失平均有効圧力(FMEP:Friction Mean Effective Pressure)がある。この摩擦損失平均有効圧力は、1サイクルあたりの摩擦仕事を行程容積で割った値を示す。この摩擦損失平均有効圧力の線図(FMEP線図)を図7(B)に示す。FMEP線図では、横軸が、回転数(N)となり、縦軸が摩擦損失平均有効圧力(kPa)となる。回転数(N)が高いほど、1ストローク中の流体潤滑領域114が占める割合が増える。一方、回転数(N)が低くなると、1ストローク中の流体潤滑領域114が占める割合が減って、混在潤滑領域113(または境界潤滑領域112)が占める割合が増える。従って、図7(B)のFMEP線図の形状は、図7(A)のストライベック線図の流体潤滑領域114及び混在潤滑領域113の形状と比較的近似する。
<シリンダライナのディンプル技術>
次に、本実施形態のオイルリング70を組み合わせる際に好適なシリンダライナ10について説明する。図8に示すように、シリンダライナ10の内壁面12には、複数の凹部14が形成される。凹部14は、内壁面12における行程中央部領域20に形成される。この行程中央部領域20とは、ピストン30の上死点Tにおける最下位のピストンリングのリング溝の下面位置から、ピストン30の下死点Uおける最上位のピストンリングのリング溝の上面位置までの範囲を最大とし、その内の全部または一部領域となる(ここでは全部の範囲が行程中央部領域20となり、その全体に凹部14が形成される場合を例示する)。行程中央部領域20の外側の領域を外部領域25と定義すると、この外部領域25は、行程中央部領域20の上死点側に隣接する上側外部領域25Aと、行程中央部領域20の下死点側に隣接する下側外部領域25Bから構成される。ピストン30がシリンダライナ10内を往復運動する際、上側外部領域25A、行程中央部領域20、下側外部領域25B、行程中央部領域20、上側外部領域25Aをこの順に繰り返し通過する。なお、上側外部領域25Aと行程中央部領域20の境界を上側境界27A、下側外部領域25Bと行程中央部領域20の境界を下側境界27Bと定義する。
勿論、行程中央部領域20を超えて、複数の凹部14を形成することも可能であるが、オイル消費量(LOC)の観点では、行程中央部領域20の内部に限定的に凹部14を形成することが好ましい。
<シリンダライナに形成されるディンプル>
凹部14は、行程中央部領域20の内壁面12において、どの場所の軸直角方向の断面をとっても、少なくとも一つの凹部14がその断面に存在するように配置される。即ち、凹部14は、軸方向に重なり合うように配置される。この結果、行程中央部領域20を通過するピストンリングの外周面は、常に、少なくとも1つの凹部14と対向している。一方、上側外部領域25Aと下側外部領域25Bには凹部14が形成されない。
凹部14の形状は、軸方向に対して斜めに配置される方形(正方形又は長方形)となっており、結果として、複数の凹部14全体が斜め格子状に配置される。このようにすると、図9(A)の展開図に示すように、ある特定の凹部14に着目する場合、その凹部14の軸方向の最下点14bが、他の凹部14の軸方向の最上点14aよりも軸方向下側に位置する。このように、複数の凹部14が軸方向に重なり合うので、行程中央部領域20におけるあらゆる場所(例えば、矢視A、矢視B、矢視C)の軸直角方向断面において、凹部14が常に存在できる。ここでは、行程中央部領域20において、同じ面積となる複数の凹部14が、面方向(軸方向及び周方向)に均一に配置されている。
なお、図9(B)の展開図に示すように、同一面積となる複数の凹部14が、面方向に不均一に配置されていても良い。ここでは行程中央部領域20の軸方向端部における周方向の帯状領域20Pは、複数の凹部14が占める面積が小さくなっており、行程中央部領域20の軸方向中央部における周方向の帯状領域20Qは、複数の凹部14が占める面積が大きくなっている。
凹部14の寸法や形状は特に限定されないが、シリンダやピストンリングの寸法や目的に応じて適宜選択される。例えば、凹部14は、行程中央部領域20のシリンダ軸方向に貫く(又は延びる)ようにスリット状又は帯状に形成されることができる。一方、シリンダの気密性の観点に鑑みると、凹部14のシリンダ軸方向の最大平均長さD(図9(A)参照)を、ピストンの最も上位に位置するピストンリング(トップリング)のシリンダ軸方向長さ(幅)以下、具体的にはその5~100%程度とすることが好ましい。凹部14の平均長さDとは、複数の凹部14の軸方向の最大寸法にバラつきがある場合はその平均値を意味する。
凹部14のシリンダ周方向の最大平均長さSは、0.1mm~15mmの範囲内が好ましく、0.3mm~5mmの範囲内が望ましい。これらの範囲より小さくなると、凹部14自体による摺動面積低減効果が十分に得られない場合がある。一方、これらの範囲より大きくなると、ピストンリングの一部が凹部内に入り込みやすくなり、ピストンリングが変形する等の不具合が発生する場合がある。
図10に示すように、凹部14のシリンダ径方向の最大平均長さR(最大平均深さR)は、0.1μm~1000μmの範囲内が好ましく、0.1μm~500μmの範囲内が望ましい。より望ましくは0.1μm~50μmに設定する。凹部14のシリンダ径方向の最大平均長さRが、これらの範囲より小さくなると、凹部14自体の摺動面積低減効果が十分に得られない場合がある。一方、これらの範囲より大きくしようとすると、加工が困難となり、また、シリンダの肉厚を厚くする必要がある等の不具合が生じ得る。なお、図10の凹部14は、説明の便宜上、シリンダの周方向に対して、シリンダ径方向を大幅に誇張して描いている。
図9に戻って、軸方向に同位置で周方向に隣り合う凹部14間のシリンダ周方向の最小の間隔Hcの平均値は、0.05mm~15mmの範囲内が好ましく、0.1mm~5.0mmの範囲内が特に好ましい。これらの範囲より小さくなると、ピストンリングとシリンダライナの接触面積(摺動面積)が小さすぎて、安定して摺動できない可能性が有る。一方、これらの範囲より大きいと、凹部14自体の摺動面積低減効果が十分に得られない場合がある。
周方向に同位置で軸方向に隣り合う凹部14間のシリンダ軸方向の最小の間隔Haの平均値は、0.05mm~15mmの範囲内が好ましく、0.1mm~5.0mmの範囲内が特に好ましい。これらの範囲より小さくなると、ピストンリングとシリンダライナの接触面積(摺動面積)が小さすぎて、安定して摺動できない可能性が有る。一方、これらの範囲より大きいと、凹部14自体の摺動面積低減効果が十分に得られない場合がある。
更に、方向を問わずに、隣接する凹部14間の最小の間隔Hmの平均値は、0.001mm~15mmの範囲内が好ましく、0.001mm~5.0mmの範囲内が特に好ましい。これらの範囲より大きいと、凹部14自体の摺動面積低減効果が十分に得られない場合がある。
これらの間隔Hc、Ha、Hmは、換言すると、隣接する凹部14の間に残存する内壁面12の各方向の最小幅と同義となる。
なお、本実施形態では、シリンダ軸方向の間隔Haの平均値を0.05mm~15mmの範囲内にすることが好ましく、0.1mm~5.0mmの範囲内にすることが一層に好ましい。凹部14及びその周囲の内壁面12に対して、図7(A)に示すシリンダ軸方向に摺動するピストンリング40の流体潤滑領域114の範囲を広げる際に、このシリンダ軸方向の内壁面12の間隔Haを確保することによって、ピストンリング40に作用する局所的な面圧変動を抑制することが可能となる。
本実施形態の2ピースタイプのオイルリング70のリング本体72について、PVD皮膜92に対するバフ加工の製造条件を2種類設定して製造し、その上方側第一傾斜面84A、上方側第二傾斜面85A、下方側第一傾斜面84B、下方側第二傾斜面85Bの周方向表面性状パラメータを測定した。第1の製造条件で製造したものオイルリング70を第1実施例、第2の製造条件で製造したものオイルリング70を第2実施例とする。また、PVD皮膜92に対するバフ加工を一切に行わないオイルリングを比較例とする。
第1実施例となる第1の製造条件では、アルミナ(Al2O3)を砥粒とし、回転軸に対して放射状に研磨生地が固定されたフラップタイプ構造で、硬さが柔らかいバフ100を採用した。バフ加工は、バフ100を軸方向に一往復して終了し、その軸方向の送り速度を一定とした。バフ100とリング本体72の双方の回転速度を300rpmとし、往路の回転方向と、復路の回転方向を逆転させた。リング本体72に対するバフ100の押し付け力は、非接触時と比較して、モータへの供給電流が上昇し一定の負荷がかかるレベルに設定した。
第2実施例となる第2の製造条件では、シリコンカーバイド(SiC)を砥粒とし、回転軸に対してスパイラル状に研磨生地が巻き付けられたノーマルタイプ構造で、硬さが硬いバフ100を採用した。バフ加工は、バフ100を軸方向に一往復して終了し、その軸方向の送り速度を第1の製造条件と同じにした。バフ100とリング本体72の双方の回転速度を300rpmとし、往路の回転方向と、復路の回転方向を逆転させた。リング本体72に対するバフ100の押し付け力は、非接触時と比較して、モータへの供給電流が上昇し一定の負荷がかかるレベルに設定した。
なお、第1実施例、第2実施例及び比較例のすべてについて、ラップ加工の条件として、内周面にらせん溝が入っているホーニングスリーブを用い、砥粒を介在させながら、所定回数、上下軸方向に往復させて研削又は研磨した。
(周方向表面性状パラメータの測定)
第1実施例、第2実施例及び比較例について、周方向表面性状パラメータの測定を測定した。測定は、各傾斜面について3回実行した。上方側第一傾斜面84A、上方側第二傾斜面85A、下方側第一傾斜面84B、下方側第二傾斜面85Bの合計12回の測定結果について、その上限値及び下限値と、その平均値を図11~図13に示す。
図11(A)に示すように、算術平均粗さRaは、実施例1、2について、測定値が0.14μm以下となった。具体的には実施例1の平均値が0.10μm、実施例2の平均値が0.06μmとなった。一方で、比較例の平均値は0.23μmとなった。
図11(B)に示すように、最大高さRzは、実施例1、2について、測定値が1.16μm以下となった。具体的には実施例1の平均値が0.95μm、実施例2の平均値が0.68μmとなった。一方で、比較例の平均値は1.62μmとなった。
図11(C)に示すように、十点平均粗さRzJISは、実施例1、2について、測定値が0.92μm以下となった。具体的には実施例1の平均値が0.78μm、実施例2の平均値が0.54μmとなった。一方で、比較例の平均値は1.29μmとなった。
図12(A)に示すように、突出山部高さRpkは、実施例1、2について、測定値が0.10μm以下となった。具体的には実施例1の平均値が0.09μm、実施例2の平均値が0.06μmとなった。一方で、比較例の平均値は0.24μmとなった。
図12(B)に示すように、コア部レベル差Rkは、実施例1、2について、測定値が0.40μm以下となった。具体的には実施例1の平均値が0.32μm、実施例2の平均値が0.17μmとなった。一方で、比較例の平均値は0.57μmとなった。
図13(A)に示すように、0.5%位置を起点として0.3μm高さ減少を生じさせる際の負荷長さ率Rmrは、実施例1、2について、測定値が41.7%以上となった。具体的には実施例1の平均値が60.4%、実施例2の平均値が95.2%となった。一方で、比較例の平均値は12.2%となった。
図13(B)に示すように、0.5%位置を起点として0.4μm高さ減少を生じさせる際の負荷長さ率Rmrは、実施例1、2について、測定値が67.6%以上となった。具体的には実施例1の平均値が81.6%、実施例2の平均値が99.0%となった。一方で、比較例の平均値は21.6%となった。
図13(C)に示すように、0.5%位置を起点として0.5μm高さ減少を生じさせる際の負荷長さ率Rmrは、実施例1、2について、測定値が84.8%以上となった。具体的には実施例1の平均値が92.5%、実施例2の平均値が99.7%となった。一方で、比較例の平均値は33.8%となった。
(表面性状の三次元撮像)
次に、第1実施例、第2実施例及び比較例について、リング本体72の表面性状を三次元撮像した。撮像機械としてレーザーテック株式会社製共焦点顕微鏡OPTELICS HYBRID C3(対物レンズ100倍)を用いた。
図14(A)~(D)は、第1実施例の三次元撮像結果であり、(A)はリング本体72の上方側第一傾斜面84A及び上方側実当たり面83A、(B)はリング本体72の上方側第二傾斜面85A及び上方側実当たり面83A、(C)はリング本体72の下方側第二傾斜面85B及び下方側実当たり面83B、(D)は下方側第一傾斜面84Bを及び下方側実当たり面83Bとなる。
上方側第一傾斜面84A、上方側第二傾斜面85A、下方側第二傾斜面85B、下方側第一傾斜面84Bのすべてにおいて、周方向ヘアラインが形成されており、周方向に沿って平滑となる。結果、上方側実当たり面83Aと上方側第一傾斜面84Aの境界、上方側実当たり面83Aと上方側第二傾斜面85Aの境界、下方側実当たり面83Bと下方側第二傾斜面85Bの境界、下方側実当たり面83Bと下方側第一傾斜面84Bの境界も直線状となる。これにより、オイルが、各傾斜面から実当たり面に侵入しやすい状態となっており、油膜が維持されやすい構造となる。
図15(A)~(D)は、第2実施例の三次元撮像結果であり、(A)はリング本体72の上方側第一傾斜面84A及び上方側実当たり面83A、(B)はリング本体72の上方側第二傾斜面85A及び上方側実当たり面83A、(C)はリング本体72の下方側第二傾斜面85B及び下方側実当たり面83B、(D)は下方側第一傾斜面84Bを及び下方側実当たり面83Bとなる。
上方側第一傾斜面84A、上方側第二傾斜面85A、下方側第二傾斜面85B、下方側第一傾斜面84Bのすべてにおいて、周方向ヘアラインが形成されており、周方向に沿って平滑となる。結果、上方側実当たり面83Aと上方側第一傾斜面84Aの境界、上方側実当たり面83Aと上方側第二傾斜面85Aの境界、下方側実当たり面83Bと下方側第二傾斜面85Bの境界、下方側実当たり面83Bと下方側第一傾斜面84Bの境界も直線状となる。これにより、オイルが、各傾斜面から実当たり面に侵入しやすい状態となっており、油膜が維持されやすい構造となる。
図16(A)~(D)は、比較例の三次元撮像結果であり、(A)はリング本体72の上方側第一傾斜面84A及び上方側実当たり面83A、(B)はリング本体72の上方側第二傾斜面85A及び上方側実当たり面83A、(C)はリング本体72の下方側第二傾斜面85B及び下方側実当たり面83B、(D)は下方側第一傾斜面84Bを及び下方側実当たり面83Bとなる。
物理蒸着処理は、金属や化合物などを蒸発させて、オイルリングに堆積させて皮膜形成する手法であることから、上方側第一傾斜面84A、上方側第二傾斜面85A、下方側第二傾斜面85B、下方側第一傾斜面84Bのすべてにおいて、表面にランダムな微細凹凸が形成される。これにより、第1、第2実施例と比較して平滑に劣る。結果、上方側実当たり面83Aと上方側第一傾斜面84Aの境界、上方側実当たり面83Aと上方側第二傾斜面85Aの境界、下方側実当たり面83Bと下方側第二傾斜面85Bの境界、下方側実当たり面83Bと下方側第一傾斜面84Bの境界が、ランダムな鋸刃状となる。これにより、オイルが、各傾斜面から実当たり面に侵入する際、油膜が破壊されやすい構造となる。
(FMEP線図)
次に、図17に、第2実施例のオイル本体72を採用したオイルリング70を用いてFMEPを測定した結果と、比較例のオイル本体を利用したオイルリングを用いてFMEPを測定した結果を示す。なお、測定時には、コイルエキスパンダ76Cによって、オイルリング70に22.6Nの張力を作用させた(実当たり面の面圧を1.75Mpaとした)。シリンダライナ10は、図10で示すディンプルライナ技術を採用したものを使用した。
図17からわかるように、第2実施例のオイルリング70を採用すると、比較例よりも、FMEPが平均して1kPa~2kPa程度減少することが分かる。特に、低回転数の帯域でも値が減少していることから、混在潤滑領域113(または境界潤滑領域112)が低回転側に広がっており、比較例よりも油膜が破壊されにくい潤滑状態であると推定される。
以上の通り、本実施形態のオイルリング70によれば、PVD皮膜92によって構成される上方側第一傾斜面84A、上方側第二傾斜面85A、下方側第一傾斜面84B及び下方側第二傾斜面85Bに、周方向に沿うバフ加工が施されており、その表面が平滑化されている。これにより、シリンダライナ10との摺動時に摩擦抵抗が低減する。また、これらの傾斜面によって、油膜が破壊されにくいので、油膜のせん断抵抗も減少する。
更に本実施形態では、PVD皮膜92に対して周方向に沿うバフ加工を施してから、その一部に、軸方向に沿うラップ加工を施すとこで、上方側実当たり面83Aと下方側実当たり面83Bを形成している。結果、上方側第一傾斜面84A、上方側第二傾斜面85A、下方側第一傾斜面84B及び下方側第二傾斜面85Bと、上方側実当たり面83A及び下方側実当たり面83Bの境界が、周方向に直線的に延びる。この境界の直線精度の向上によって、シリンダライナ10との摺動時に摩擦抵抗が低減する。
なお、本実施形態では、物理蒸着処理で形成する皮膜として、窒化クロム合金皮膜を例示したが、本発明はこれに限定されず、硬質炭素皮膜等の他の物理蒸着皮膜に適用することができる。また、本オイルリングは、ディーゼルエンジンに適用することが好ましいが、シリンダボアを採用するガソリンエンジンに適用することもできる。更に本発明はこれに限定されず、他の内燃機関に適用することも可能である。
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
10 シリンダライナ
12 内壁面
30 ピストン
40 ピストンリング
50 トップリング
60 セカンドリング
70 オイルリング
73a,73b サイドレール
76C コイルエキスパンダ
76s スペーサエキスパンダ
82 外周面
82A 上方側外周面
82B 下方側外周面
83A 上方側実当たり面
83B 下方側実当たり面
84A 上方側第一傾斜面
84B 下方側第一傾斜面
85A 上方側第二傾斜面
85B 下方側第二傾斜面
90 母材
92 PVD皮膜
92A 皮膜外周面
92B 周方向摩耗面
100 バフ
120 研削具
(傾斜面の説明)
上方側外周面8Aにおいて、上方側実当たり面83Aにおける軸方向(帯幅方向)の両縁には、上方側第一傾斜面84Aと上方側第二傾斜面85Aが形成される。上方側第一傾斜面84Aは、スペーサエキスパンダ76Cから遠位側となり、上方側第二傾斜面85Aは、スペーサエキスパンダ76Cから近位側となる。上方側第一傾斜面84Aは、上方側実当たり面83Aから上方に離れるに連れて、シリンダライナ10の内壁面12からの距離が大きくなる傾斜領域となる。上方側第二傾斜面85Aは、上方側実当たり面83Aから下方に離れるに連れて、シリンダライナ10の内壁面12からの距離が大きくなる傾斜領域となる。上方側第一傾斜面84A及び上方側第二傾斜面85Aは、それぞれ、周方向に延びる帯形状の領域となる。
下方側外周面8Bにおいて、下方側実当たり面83Bにおける軸方向(帯幅方向)の両縁には、下方側第一傾斜面84Bと下方側第二傾斜面85Bが形成される。下方側第一傾斜面84Bは、スペーサエキスパンダ76Cから遠位側となり、下方側第二傾斜面85Bは、スペーサエキスパンダ76Cから近位側となる。下方側第一傾斜面84Bは、下方側実当たり面83Bから下方に離れるに連れて、シリンダライナ10の内壁面12からの距離が大きくなる傾斜領域となる。下方側第二傾斜面85Bは、下方側実当たり面83Bから上方に離れるに連れて、シリンダライナ10の内壁面12からの距離が大きくなる傾斜領域となる。下方側第一傾斜面84B及び下方側第二傾斜面85Bは、それぞれ、周方向に延びる帯形状の領域となる。
(ラップ加工)
次に、図5(A)に示すように、複数のリング本体72を、特に図示しない固定具にまとめてセットしてから、円筒状の研削具(ラップ盤)120の内周研削面120Aに挿入し、軸方向に相対的に摺動させる。内周研削面120Aの内径と、リング本体72を近似させつつ、両者の間に所定の砥粒を介在させることで、リング本体72の上方側外周面8A及び下方側外周面81Bが研削又は研磨する。具体的に、周方向摩耗面92Bにおける上方側ラップ加工対象領域83A'及び下方側ラップ加工対象領域83B'を摩耗させる。還元すると、周方向摩耗面92Bにおける、上方側ラップ加工対象領域83A'及び下方側ラップ加工対象領域83B'の外側は、そのまま周方向摩耗面92Bを残存させるようにする。
10 シリンダライナ
12 内壁面
30 ピストン
40 ピストンリング
50 トップリング
60 セカンドリング
70 オイルリング
73a,73b サイドレール
76C コイルエキスパンダ
76s スペーサエキスパンダ
81 単一外周面
A 上方側外周面
B 下方側外周面
82 外周面
83A 上方側実当たり面
83B 下方側実当たり面
84A 上方側第一傾斜面
84B 下方側第一傾斜面
85A 上方側第二傾斜面
85B 下方側第二傾斜面
90 母材
92 PVD皮膜
92A 皮膜外周面
92B 周方向摩耗面
100 バフ
120 研削具

Claims (8)

  1. 内燃機関のピストンに設置され、レールを有するリング本体、及び、前記リング本体に張力を付与するエキスパンダを有する複数ピースタイプのオイルリングであって、
    前記リング本体の前記レールには、物理蒸着処理によって形成される皮膜が形成されており、
    前記皮膜によって形成される前記レールの外周面は、
    周方向に延びる帯形状に形成されて、前記内燃機関のシリンダの内壁面に当接且つ摺動する実当たり面と、
    前記実当たり面の軸方向の縁から軸方向外側に連続し、軸方向外側に向かうにつれて前記内壁面との距離が大きくなる傾斜面と、を有しており、
    前記傾斜面は、前記皮膜の表面が周方向に沿って研磨又は研削された面によって構成されることを特徴とする、
    オイルリング。
  2. 前記実当たり面は、前記皮膜の表面が軸方向に沿って研磨又は研削された面によって構成されることを特徴とする、
    請求項1に記載のオイルリング。
  3. 前記傾斜面における、軸方向を基準とした傾斜角度が7°となる位置を評価位置と定義する際に、前記評価位置を周方向に沿って測定して得られる突出山部高さRpkが、0.15μm以下となることを特徴とする、
    請求項2に記載のオイルリング。
  4. 前記傾斜面における、軸方向を基準とした傾斜角度が7°となる位置を評価位置と定義する際に、前記評価位置を周方向に沿って測定して得られる、0.5%位置を起点として0.3μm高さ減少を生じさせる際の負荷長さ率Rmrが35%以上となることを特徴とする、
    請求項2に記載のオイルリング。
  5. 前記傾斜面は、前記研磨又は前記研削によって形成される、周方向に延びるヘアラインを有することを特徴とする、
    請求項1に記載のオイルリング。
  6. 前記実当たり面は、研磨又は研削によって形成される、軸方向に延びるヘアラインを有することを特徴とする、
    請求項5に記載のオイルリング。
  7. 前記皮膜は、窒化クロム系合金皮膜または硬質炭素皮膜であることを特徴とする、
    請求項1に記載のオイルリング。
  8. 内燃機関のピストンに設置され、レールを有するリング本体、及び、前記リング本体に張力を付与するエキスパンダを有する複数ピースタイプのオイルリングの製造方法であって、
    前記リング本体の前記レールに、物理蒸着処理によって皮膜を形成する工程と、
    前記皮膜によって形成される前記レールの外周面を周方向に沿って研磨又は研削することで、前記皮膜の表面に周方向摩耗面を形成する工程と、
    前記周方向摩耗面の一部を、軸方向に沿って研磨又は研削することで、前記皮膜の表面に、前記内燃機関のシリンダの内壁面に当接且つ摺動する実当たり面を形成する工程と、を備え、
    前記実当たり面の軸方向の縁から軸方向外側に前記周方向摩耗面を残存させることで、前記周方向摩耗面を、軸方向外側に向かうにつれて前記内壁面との距離が大きくなる傾斜面とすることを特徴とする、
    オイルリングの製造方法。
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