JP2024007157A - 鋼材 - Google Patents

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Yasuharu Aragai
裕嗣 崎山
Hirotsugu Sakiyama
美百合 梅原
Miyuri Umehara
直樹 松井
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Abstract

【課題】水素の侵入を抑制可能な鋼材を提供する。【解決手段】本開示による鋼材は、棒状又は線状であり、長手方向に垂直な断面が円形状である鋼材であって、質量%で、C:0.50~0.80%、Si:0.010~0.500%、Mn:0.50~2.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Al:0.005~0.080%、Ti:0.005~0.100%、B:0.0003~0.0050%、Cu:0.02~0.50%、Ni:0.01~0.50%、N:0.0150%以下、及び、O:0.0100%以下、を含有し、残部はFe及び不純物からなり、ミクロ組織は主としてベイナイトからなり、鋼材の長手方向及び径方向を含む断面のうち、鋼材の表面から径方向に1000μm、長手方向に1000μmの矩形観察領域において、Cu偏析度σが、0.050以下である。【選択図】図1

Description

本開示は、鋼材に関する。
ボルト等に代表される機械部品は、産業機械、自動車、橋梁及び建築物等に用いられる。これらの用途のうち、橋梁や建築物等は、海浜地域に建てられたり、寒冷地に建てられたりする場合がある。海浜地域は塩分の多い腐食環境である。また、寒冷地では、融雪塩や凍結防止剤が使用される場合がある。融雪塩や凍結防止剤は、機械部品を構成する鋼材を腐食する。つまり、寒冷地も腐食環境である場合が多い。
このような腐食環境では、水素脆化が起こりやすい。したがって、腐食環境で用いられる機械部品では、優れた耐水素脆性が求められる。
耐水素脆性の向上に関する技術が、特開2008-274367号公報(特許文献1)に提案されている。
特許文献1に開示された鋼材は、質量%で、C:0.15~0.6%、Si:0.05~0.5%、Mn及びCr:合計で0.5~3.5%、P:0.05%以下、S:0.03%以下、Cu:0.3%未満、Ni:1%未満、O:0.01%以下、及び、Sn:0.05~0.50%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、Cu/Sn比が1以下である組成を有する。この文献では、Snを含有することで水素の鋼材への侵入を抑制し、その結果、耐水素脆性を高めている。
特開2008-274367号公報
特許文献1にも開示されているとおり、鋼材への水素の侵入を抑制できれば、鋼材の耐水素脆性が高まることが知られている。鋼材の耐水素脆性を高めるために、特許文献1とは異なる手段により、鋼材への水素の侵入を抑制してもよい。
また、最近では、ボルト等に代表される機械部品の製造工程において、調質処理(焼入れ及び焼戻し)を省略した、非調質機械部品が提案されている。そこで、このような非調質機械部品の素材として適用可能な鋼材が求められている。
本開示の目的は、水素の侵入を抑制可能な鋼材を提供することである。
本開示による鋼材は、次の構成を有する。
棒状又は線状であり、長手方向に垂直な断面が円形状である鋼材であって、
質量%で、
C:0.50~0.80%、
Si:0.010~0.500%、
Mn:0.50~2.00%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.005~0.080%、
Ti:0.005~0.100%、
B:0.0003~0.0050%、
Cu:0.02~0.50%、
Ni:0.01~0.50%、
N:0.0150%以下、及び
O:0.0100%以下、を含有し、残部はFe及び不純物、からなり、
前記鋼材の前記長手方向に垂直な前記断面の直径をDと定義したとき、前記鋼材の表面からD/4深さ位置でのミクロ組織において、ベイナイトの面積率が100%であり、又は、ベイナイトの面積率が95%以上であって残部はフェライト及び/又はパーライトからなり、
前記鋼材の前記長手方向及び径方向を含む断面のうち、前記鋼材の表面から前記径方向に1000μm、前記長手方向に1000μmの矩形観察領域において、
前記径方向に400分割、前記長手方向に400分割された16万個の測定区域に対して、電子線マイクロアナライザによる面分析を実施し、得られた各測定区域での質量%でのCu含有量を、[Cu]MAとし、
全ての前記測定区域の前記[Cu]MAの算術平均値を、[Cu]AVEとし、
各測定区域の前記[Cu]MAの前記[Cu]AVEに対する比を、[Cu]とし、
複数の前記測定区域のうち、前記長手方向に一列に配列された一行分の複数の前記測定区域を測定行と定義したとき、各測定行において、前記測定行を構成する複数の前記測定区域の前記[Cu]の合計の、前記測定行を構成する複数の前記測定区域の総数に対する比を、[Cu]とし、
全ての前記測定行の前記[Cu]の標本標準偏差を、Cu偏析度σとしたとき、
前記Cu偏析度σは、0.050以下である、
鋼材。
本開示による鋼材は、水素の侵入を抑制できる。
図1は、Cu偏析度σを説明するための模式図である。 図2は、図1中の矩形観察領域内でのCu偏析度σの測定方法を説明するための模式図である。
本発明者らは、水素の侵入を抑制可能な鋼材について、調査及び検討を行った。その結果、次の知見を得た。
初めに、本発明者らは、水素侵入を抑制可能な鋼材について、化学組成の観点から検討を行った。その結果、本発明者らは、鋼材にCuを含有することが有効であると考えた。鋼材への水素の侵入は、鋼材表面に発生した水素によって生じる現象である。Cuは鋼材の腐食を抑制する。腐食の抑制により、鋼材表面での水素の発生を抑制できる。そのため、Cuにより、鋼材への水素の侵入が抑制される。
以上の知見に基づいて、水素の侵入を抑制可能な鋼材の化学組成を検討した。その結果、本発明者らは、質量%で、C:0.50~0.80%、Si:0.010~0.500%、Mn:0.50~2.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Al:0.005~0.080%、Ti:0.005~0.100%、B:0.0003~0.0050%、Cu:0.02~0.50%、Ni:0.01~0.50%、N:0.0150%以下、O:0.0100%以下、Cr:0~1.50%、Mo:0~0.50%、Nb:0~0.050%、V:0~0.20%、Ca:0~0.0100%、Mg:0~0.0100%、及び、Sn:0~0.0020%、及び、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する鋼材であれば、水素の侵入を十分に抑制できる可能性があると考えた。
また、仮に、鋼材を非調質機械部品の素材として適用する場合、製造された非調質機械部品には高い強度が求められる。さらに、非調質機械部品の製造工程中の冷間加工工程において、鋼材では優れた冷間加工性が求められる。非調質機械部品での十分な強度及び非調質機械部品の製造工程での鋼材の十分な冷間加工性を得るためには、上述の化学組成を有する鋼材のミクロ組織が、ベイナイト主体の組織であることが好ましい。
しかしながら、上述の化学組成及びミクロ組織を有する鋼材であっても、依然として水素の侵入を十分に抑制できない場合があることが判明した。そこで、本発明者らは、水素侵入量を十分に低減できない理由について、さらに調査及び検討を行った。
ここで、本発明者らは、鋼材の特に表層部分でのCu濃度分布の均一度に注目した。水素は外部から侵入するため、鋼材の表層でのCu濃度分布が影響する。化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であったとしても、表層のCu濃度分布が不均一であれば、表層のうち、Cu濃度の薄い領域から水素が侵入しやすくなる。さらに、Cu濃度分布が不均一であれば、鋼材表面が不均一に腐食される。この場合、鋼材表面に凹凸が生じ、腐食反応が生じる表面積が増大する。そのため、腐食反応が増大してしまい、水素侵入量を十分に抑えることができなくなる。
そこで、本発明者らは表層のCu濃度分布と水素侵入量との関係について、さらに調整を行った。その結果、後述の電子線マイクロアナライザを用いて面分析により得られる、表層でのCu偏析度σが0.050以下であれば、表層でのCu濃度が十分に均一となり、その結果、水素の侵入を十分に抑制できることを、本発明者らは知見した。
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による鋼材は、次の構成を有する。
[1]
棒状又は線状であり、長手方向に垂直な断面が円形状である鋼材であって、
質量%で、
C:0.50~0.80%、
Si:0.010~0.500%、
Mn:0.50~2.00%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.005~0.080%、
Ti:0.005~0.100%、
B:0.0003~0.0050%、
Cu:0.02~0.50%、
Ni:0.01~0.50%、
N:0.0150%以下、及び
O:0.0100%以下、を含有し、残部はFe及び不純物、からなり、
前記鋼材の前記長手方向に垂直な前記断面の直径をDと定義したとき、前記鋼材の表面からD/4深さ位置でのミクロ組織において、ベイナイトの面積率が100%であり、又は、ベイナイトの面積率が95%以上であって残部はフェライト及び/又はパーライトからなり、
前記鋼材の前記長手方向及び径方向を含む断面のうち、前記鋼材の表面から前記径方向に1000μm、前記長手方向に1000μmの矩形観察領域において、
前記径方向に400分割、前記長手方向に400分割された16万個の測定区域に対して、電子線マイクロアナライザによる面分析を実施し、得られた各測定区域での質量%でのCu含有量を、[Cu]MAとし、
全ての前記測定区域の前記[Cu]MAの算術平均値を、[Cu]AVEとし、
各測定区域の前記[Cu]MAの前記[Cu]AVEに対する比を、[Cu]とし、
複数の前記測定区域のうち、前記長手方向に一列に配列された一行分の複数の前記測定区域を測定行と定義したとき、各測定行において、前記測定行を構成する複数の前記測定区域の前記[Cu]の合計の、前記測定行を構成する複数の前記測定区域の総数に対する比を、[Cu]とし、
全ての前記測定行の前記[Cu]の標本標準偏差を、Cu偏析度σとしたとき、
前記Cu偏析度σは、0.050以下である、
鋼材。
[2]
棒状又は線状であり、長手方向に垂直な断面が円形状である鋼材であって、
質量%で、
C:0.50~0.80%、
Si:0.010~0.500%、
Mn:0.50~2.00%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.005~0.080%、
Ti:0.005~0.100%、
B:0.0003~0.0050%、
Cu:0.02~0.50%、
Ni:0.01~0.50%、
N:0.0150%以下、及び
O:0.0100%以下、を含有し、
さらに、第1群~第3群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部はFe及び不純物、からなり、
前記鋼材の前記長手方向に垂直な前記断面の直径をDと定義したとき、前記鋼材の表面からD/4深さ位置でのミクロ組織において、ベイナイトの面積率が100%であり、又は、ベイナイトの面積率が95%以上であって残部はフェライト及び/又はパーライトからなり、
前記鋼材の前記長手方向及び径方向を含む断面のうち、前記鋼材の表面から前記径方向に1000μm、前記長手方向に1000μmの矩形観察領域において、
前記径方向に400分割、前記長手方向に400分割された16万個の測定区域に対して、電子線マイクロアナライザによる面分析を実施し、得られた各測定区域での質量%でのCu含有量を、[Cu]MAとし、
全ての前記測定区域の前記[Cu]MAの算術平均値を、[Cu]AVEとし、
各測定区域の前記[Cu]MAの前記[Cu]AVEに対する比を、[Cu]とし、
複数の前記測定区域のうち、前記長手方向に一列に配列された一行分の複数の前記測定区域を測定行と定義したとき、各測定行において、前記測定行を構成する複数の前記測定区域の前記[Cu]の合計の、前記測定行を構成する複数の前記測定区域の総数に対する比を、[Cu]とし、
全ての前記測定行の前記[Cu]の標本標準偏差を、Cu偏析度σとしたとき、
前記Cu偏析度σは、0.050以下である、
鋼材。
[第1群]
Cr:1.50%以下、
Mo:0.50%以下、
Nb:0.050%以下、及び、
V:0.20%以下、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
Ca:0.0100%以下、及び、
Mg:0.0100%以下、からなる群から選択される1種以上
[第3群]
Sn:0.0020%以下
[3]
[2]に記載の鋼材であって、
前記第1群を含有する、
鋼材。
[4]
[2]又は[3]に記載の鋼材であって、
前記第2群を含有する、
鋼材。
[5]
[2]~[4]のいずれか1項に記載の鋼材であって、
前記第3群を含有する、
鋼材。
以下、本実施形態による鋼材について詳述する。
なお、元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
[本実施形態の鋼材の特徴]
本実施形態の鋼材は、次の特徴を含む。
(特徴1)
化学組成が、質量%で、C:0.50~0.80%、Si:0.010~0.500%、Mn:0.50~2.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Al:0.005~0.080%、Ti:0.005~0.100%、B:0.0003~0.0050%、Cu:0.02~0.50%、Ni:0.01~0.50%、N:0.0150%以下、O:0.0100%以下、Cr:0~1.50%、Mo:0~0.50%、Nb:0~0.050%、V:0~0.20%、Ca:0~0.0100%、Mg:0~0.0100%、及び、Sn:0~0.0020%、及び、残部はFe及び不純物からなる。
(特徴2)
長手方向に垂直な断面が円形状である鋼材の当該断面の直径をDと定義したとき、鋼材の表面からD/4深さ位置でのミクロ組織において、ベイナイトの面積率が100%である、又は、ベイナイトの面積率が95%以上であって残部はフェライト及び/又はパーライトからなる。
(特徴3)
長手方向に垂直な断面が円形状である鋼材の長手方向及び径方向を含む断面のうち、鋼材の表面から径方向に1000μm、長手方向に1000μmの矩形観察領域において、
径方向に400分割、長手方向に400分割された16万個の測定区域に対して、電子線マイクロアナライザによる面分析を実施し、得られた各測定区域での質量%でのCu含有量を、[Cu]MAとし、
全ての測定区域の[Cu]MAの算術平均値を、[Cu]AVEとし、
各測定区域の[Cu]MAの[Cu]AVEに対する比を、[Cu]とし、
複数の測定区域のうち、鋼材の長手方向に一列に配列された一行分の複数の測定区域を測定行と定義したとき、各測定行において、測定行を構成する複数の測定区域の[Cu]の合計の、測定行を構成する複数の測定区域の総数に対する比を、[Cu]とし、
全ての測定行の[Cu]の標本標準偏差を、Cu偏析度σとしたとき、
Cu偏析度σは、0.050以下である。
以下、各特徴について説明する。
[(特徴1)化学組成について]
本実施形態による鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.50~0.80%
炭素(C)は、鋼材を素材として製造される機械部品の引張強さを高める。C含有量が0.50%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、C含有量が0.80%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の冷間加工性が低下する。
したがって、C含有量は0.50~0.80%である。
C含有量の好ましい下限は0.51%であり、さらに好ましくは0.52%であり、さらに好ましくは0.56%であり、さらに好ましくは0.61%である。
C含有量の好ましい上限は0.78%であり、さらに好ましくは0.75%であり、さらに好ましくは0.73%である。
Si:0.010~0.500%
シリコン(Si)は、固溶強化により、鋼材を素材として製造される機械部品の引張強さを高める。Si含有量が0.010%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Si含有量が0.500%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間圧延時の延性が低下し、疵が発生する場合がある。さらに、加工性が低下して、加工割れが発生しやすくなる。
したがって、Si含有量は0.010~0.500%である。
Si含有量の好ましい下限は0.012%であり、さらに好ましくは0.022%であり、さらに好ましくは0.051%である。
Si含有量の好ましい上限は0.460%であり、さらに好ましくは0.430%であり、さらに好ましくは0.400%である。
Mn:0.50~2.00%
マンガン(Mn)は、鋼材のベイナイト変態を促進する。その結果、鋼材を素材として製造される機械部品の引張強さが高まる。Mn含有量が0.50%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Mn含有量が2.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中にMn偏析が生じる。この場合、鋼材に局所的にマルテンサイトが生成する。その結果、鋼材の冷間加工性が低下する。
したがって、Mn含有量は0.50~2.00%である。
Mn含有量の好ましい下限は0.54%であり、さらに好ましくは0.57%であり、さらに好ましくは0.60%である。
Mn含有量の好ましい上限は1.90%であり、さらに好ましくは1.70%であり、さらに好ましくは1.50%である。
P:0.030%以下
燐(P)は不純物である。P含有量が0.030%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Pが粒界に偏析する。その結果、機械部品の耐水素脆性が低下する。P含有量が0.030%を超えればさらに、鋼材の冷間加工性が低下する。
したがって、P含有量は0.030%以下である。
P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0%超(0.000%超)であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.005%である。
P含有量の好ましい上限は0.024%であり、さらに好ましくは0.019%であり、さらに好ましくは0.014%である。
S:0.030%以下
硫黄(S)は不純物である。S含有量が0.030%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Sが粒界に偏析する。その結果、機械部品の耐水素脆性が低下する。S含有量が0.030%を超えればさらに、鋼材の冷間加工性が低下する。
したがって、S含有量は0.030%以下である。
S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0%超(0.000%超)であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.005%である。
S含有量の好ましい上限は0.024%であり、さらに好ましくは0.019%であり、さらに好ましくは0.014%である。
Al:0.005~0.080%
アルミニウム(Al)は、Nと結合してAl窒化物を形成する。Al窒化物はピン止め粒子として作用し、結晶粒を微細化する。その結果、鋼材の冷間加工性が高まる。Alはさらに、Al窒化物を形成することにより、鋼材中の固溶Nを低減する。その結果、動的ひずみ時効による鋼材の冷間加工性の低下が抑制される。Al含有量が0.005%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Al含有量が0.080%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なAl酸化物が生成する。粗大なAl酸化物は破壊の起点になる。そのため、鋼材の冷間加工性が低下する。
したがって、Al含有量は0.005~0.080%である。
Al含有量の好ましい下限は0.006%であり、さらに好ましくは0.008%であり、さらに好ましくは0.010%である。
Al含有量の好ましい上限は0.075%であり、さらに好ましくは0.070%であり、さらに好ましくは0.060%である。
Ti:0.005~0.100%
チタン(Ti)は、Nと結合してTi窒化物を形成する。Ti窒化物はピン止め粒子として作用し、結晶粒を微細化する。その結果、鋼材の冷間加工性が高まる。Tiはさらに、Ti窒化物を形成することにより、鋼材中の固溶Nを低減する。その結果、動的ひずみ時効による鋼材の冷間加工性の低下が抑制される。Ti含有量が0.005%未満であれば、上記効果が十分に得られない。
一方、Ti含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中にTi介在物が過剰に生成する。この場合、鋼材の冷間加工性が低下する。
したがって、Ti含有量は0.005~0.100%である。
Ti含有量の好ましい下限は0.006%であり、さらに好ましくは0.007%であり、さらに好ましくは0.010%である。
Ti含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.060%であり、さらに好ましくは0.040%である。
B:0.0003~0.0050%
ボロン(B)は、ベイナイト変態を促進し、機械部品の引張強さを高める。B含有量が0.0003%未満であれば、上記効果が十分に得られない。
一方、B含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なB窒化物やFe炭硼化物が生成する。粗大なB窒化物やFe炭硼化物は破壊の起点になる。そのため、鋼材の冷間加工性が低下する。
したがって、B含有量は0.0003~0.0050%である。
B含有量の好ましい下限は0.0005%であり、さらに好ましくは0.0007%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
B含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
Cu:0.02~0.50%
銅(Cu)は、鋼材の腐食を抑制する。これにより、鋼材表面での水素の発生が抑制される。その結果、鋼材への水素の侵入が抑制される。Cu含有量が0.02%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Cu含有量が0.50%を超えれば、鋼材が脆化する。そのため、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、Cu含有量は、0.02~0.50%である。
Cu含有量の好ましい下限は0.03%であり、さらに好ましくは0.04%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Cu含有量の好ましい上限は0.46%であり、さらに好ましくは0.43%であり、さらに好ましくは0.40%である。
Ni:0.01~0.50%
ニッケル(Ni)は、Cuとともに含有されて、Cuを含有した場合の鋼材の熱間加工性の低下を抑制する。Ni含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Ni含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、Ni含有量は0.01~0.50%である。
Ni含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Ni含有量の好ましい上限は0.46%であり、さらに好ましくは0.43%であり、さらに好ましくは0.40%である。
N:0.0150%以下
窒素(N)は、不純物である。N含有量が0.150%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、動的ひずみ時効により鋼材の冷間加工性を低下する。
したがって、N含有量は0.0150%以下である。
N含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、N含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、N含有量の好ましい下限は0%超(0.0000%超)であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
N含有量の好ましい上限は0.0120%であり、さらに好ましくは0.0100%であり、さらに好ましくは0.0080%であり、さらに好ましくは0.0040%である。
O:0.0100%以下
酸素(O)は、不純物である。O含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中に酸化物系介在物が形成される。この場合、鋼材の冷間加工性が低下する。
したがって、O含有量は0.0100%以下である。
O含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、O含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、O含有量の好ましい下限は0%超(0.0000%超)であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
O含有量の好ましい上限は0.0080%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0050%である。
本実施形態による鋼材の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、化学組成における不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、意図せずに含有されるものであり、本実施形態による鋼材に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素(Optional Elements)]
本実施形態の鋼材はさらに、Feの一部に代えて、第1群~第3群からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
[第1群]
Cr:1.50%以下、
Mo:0.50%以下、
Nb:0.050%以下、及び、
V:0.20%以下、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
Ca:0.0100%以下、及び、
Mg:0.0100%以下、からなる群から選択される1種以上
[第3群]
Sn:0.0020%以下
これらの元素はいずれも任意元素であり、含有されなくてもよい。以下、これらの任意元素について説明する。
[第1群:Cr、Mo、Nb及びV]
本実施形態の鋼材は、Feの一部に代えて、Cr、Mo、Nb及びVからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、ベイナイト変態を促進し、鋼材を素材として製造される機械部品の引張強さを高める。
Cr:1.50%以下
クロム(Cr)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cr含有量は0%(0.00%)であってもよい。
含有される場合、つまり、Cr含有量が0%超(0.00%超)である場合、Crは、ベイナイト変態を促進し、鋼材を素材として製造される機械部品の引張強さを高める。Cr含有量が少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Cr含有量が1.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Crが偏析して、鋼材に局所的にマルテンサイトが生成する。そのため、鋼材の冷間加工性が低下する。
したがって、Cr含有量は0(0.00)~1.50%であり、含有される場合、Cr含有量は1.50%以下である。
Cr含有量の好ましい下限は0%超(0.00%超)であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Cr含有量の好ましい上限は1.40%であり、さらに好ましくは1.30%であり、さらに好ましくは1.20%である。
Mo:0.50%以下
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は0%(0.00%)であってもよい。
含有される場合、つまり、Mo含有量が0%超(0.00%超)である場合、Moは、ベイナイト変態を促進し、鋼材を素材として製造される機械部品の引張強さを高める。Mo含有量が少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Mo含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Moが偏析して、鋼材に局所的にマルテンサイトが生成する。そのため、鋼材の冷間加工性が低下する。
したがって、Mo含有量は0(0.00)~0.50%であり、含有される場合、Mo含有量は0.50%以下である。
Mo含有量の好ましい下限は0%超(0.00%超)であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Mo含有量の好ましい上限は0.46%であり、さらに好ましくは0.43%であり、さらに好ましくは0.40%である。
Nb:0.050%以下
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は0%(0.000%)であってもよい。
含有される場合、つまり、Nb含有量が0%超(0.000%超)である場合、Nbはベイナイト変態を促進し、鋼材を素材として製造される機械部品の引張強さを高める。Nbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Nb含有量が0.050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の加工性が低下し、表面疵が発生しやすくなる。表面疵が発生した場合さらに、鋼材の冷間加工性が低下する。
したがって、Nb含有量は0(0.000)~0.050%であり、含有される場合、Nb含有量は0.050%以下である。
Nb含有量の好ましい下限は0%超(0.000%超)であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。
Nb含有量の好ましい上限は0.046%であり、さらに好ましくは0.043%であり、さらに好ましくは0.040%である。
V:0.20%以下
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%(0.00%)であってもよい。
含有される場合、つまり、V含有量が0%超(0.00%超)である場合、Vは、ベイナイト変態を促進し、鋼材を素材として製造される機械部品の引張強さを高める。Vが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、V含有量が0.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、V析出物による析出強化が過剰に大きくなる。そのため、鋼材の冷間加工性が低下する。
したがって、V含有量は0(0.00)~0.20%であり、含有される場合、V含有量は0.20%以下である。
V含有量の好ましい下限は0%超(0.00%超)であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。
V含有量の好ましい上限は0.18%であり、さらに好ましくは0.16%であり、さらに好ましくは0.15%である。
[第2群:Ca及びMg]
本実施形態の鋼材は、Feの一部に代えて、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼材中のMnSを球状化して、鋼材の冷間加工性や被削性を高める。
Ca:0.0100%以下
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%(0.0000%)であってもよい。
Caが含有される場合、つまり、Caが0%超(0.0000%超)である場合、CaはMnSを球状化する。そのため、鋼材の冷間加工性及び被削性が高まる。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ca含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なCa系介在物が生成する。粗大なCa系介在物は鋼材の冷間加工性を低下する。
したがって、Ca含有量は0(0.0000)~0.0100%であり、含有される場合、Ca含有量は0.0100%以下である。
Ca含有量の好ましい下限は0%超(0.0000%超)であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
Ca含有量の好ましい上限は0.0080%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0050%である。
Mg:0.0100%以下
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%(0.0000%)であってもよい。
Mgが含有される場合、つまり、Mgが0%超(0.0000%超)である場合、MgはMnSを球状化する。そのため、鋼材の冷間加工性及び被削性が高まる。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Mg含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なMg系介在物が生成する。粗大なMg系介在物は鋼材の冷間加工性を低下する。
したがって、Mg含有量は0(0.0000)~0.0100%であり、含有される場合、Mg含有量は0.0100%以下である。
Mg含有量の好ましい下限は0%超(0.0000%超)であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
Mg含有量の好ましい上限は0.0080%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0050%である。
[第3群:Sn]
Sn:0.0020%以下
本実施形態の鋼材は、Feの一部に代えて、スズ(Sn)を含有してもよい。Snは任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sn含有量は0%(0.0000%)であってもよい。
Snが含有される場合、つまり、Snが0%超(0.0000%超)である場合、Snは、鋼材への水素侵入を抑制する。そのため、鋼材の耐水素脆性がさらに高まる。Snが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Sn含有量が0.0020%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、Sn含有量は0(0.0000)~0.0020%であり、含有される場合、Sn含有量は0.0020%以下である。
Sn含有量の好ましい下限は0%超(0.0000%超)であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
Sn含有量の好ましい上限は0.0018%であり、さらに好ましくは0.0016%であり、さらに好ましくは0.0014%である。
[鋼材の化学組成の測定方法]
本実施形態の鋼材の化学組成は、JIS G0321:2017に準拠した周知の成分分析法で測定できる。具体的には、ドリルを用いて、鋼材の表面から1mm深さ以上の内部から、切粉を採取する。採取された切粉を酸に溶解させて溶液を得る。溶液に対して、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)を実施して、化学組成の元素分析を実施する。C含有量及びS含有量については、周知の高周波燃焼法(燃焼-赤外線吸収法)により求める。N含有量については、周知の不活性ガス溶融-熱伝導度法を用いて求める。O含有量については、周知の不活性ガス溶融-赤外線吸収法を用いて求める。
なお、各元素含有量は、本実施形態で規定された有効数字に基づいて、測定された数値の端数を四捨五入して、本実施形態で規定された各元素含有量の最小桁までの数値とする。たとえば、本実施形態の鋼材のC含有量は小数第二位までの数値で規定される。したがって、C含有量は、測定された数値の小数第三位を四捨五入して得られた小数第二位までの数値とする。
本実施形態の鋼材のC含有量以外の他の元素含有量も同様に、測定された値に対して、本実施形態で規定された最小桁までの数値の端数を四捨五入して得られた値を、当該元素含有量とする。
なお、四捨五入とは、端数が5未満であれば切り捨て、端数が5以上であれば切り上げることを意味する。
[(特徴2)ミクロ組織について]
鋼材の長手方向に垂直な円形状の断面の直径をDと定義する。鋼材の表面からD/4深さ位置でのミクロ組織において、ベイナイトの面積率が100%である、又は、ベイナイトの面積率が95%以上であって残部はフェライト及び/又はパーライトからなる。
本実施形態の鋼材は、非調質機械部品の素材として適用してもよい。つまり、本実施形態の鋼材は、非調質機械部品の素材として用いられた場合に、機械部品の製造工程中で鋼材に対して焼入れ及び焼戻しが実施されない。
ベイナイトは、高い強度と優れた加工性とを両立する組織である。鋼材の表面からD/4深さ位置を「内部位置」と定義する。本実施形態の鋼材の内部位置でのミクロ組織は、鋼材全体のミクロ組織を代表する。鋼材の内部位置でのミクロ組織において、ベイナイト面積率が95%以上であれば、ベイナイト以外の他のミクロ組織がほとんど存在しない均質なミクロ組織となり、非調質機械部品の素材として用いた場合であっても、非調質機械部品の製造工程中の鋼材の冷間加工性は高い。さらに、製造された非調質機械部品において、十分な強度が得られる。一方、鋼材のミクロ組織において、ベイナイトが主体の組織であるが、ベイナイト面積率が95%未満であり、残部がフェライト及び/又はパーライトからなる場合、ベイナイト組織中にフェライト及び/又はパーライトが混在した不均質なミクロ組織となる。この場合、鋼材の冷間加工性が低下する場合がある。また、鋼材のミクロ組織において、ベイナイト面積率が低く、パーライトが主体のミクロ組織となる場合も、鋼材の冷間加工性が低下する場合がある。鋼材のミクロ組織において、ベイナイト面積率が低く、フェライト及びパーライトが主体のミクロ組織となる場合、鋼材を素材として製造される非調質機械部品において、十分な引張強さが得られない場合がある。なお、ベイナイト面積率が95%以上であっても、残部のミクロ組織にマルテンサイトが含まれる場合、鋼材の冷間加工性が低下する場合がある。
内部位置でのミクロ組織におけるベイナイト面積率の好ましい下限は96%であり、さらに好ましくは97%であり、さらに好ましくは98%である。内部位置でのミクロ組織におけるベイナイト面積率は、上述のとおり、100%であってもよい。
内部位置でのミクロ組織におけるベイナイト面積率が95%以上100%未満である場合、ミクロ組織の残部はフェライト及び/又はパーライトからなる。ベイナイト面積率が95%以上100%未満であって、ベイナイト以外の残部がフェライト及び/又はパーライトからなる場合、鋼材において十分な冷間加工性が得られる。さらに、鋼材を素材として製造される非調質機械部品では、十分な引張強さ及び十分な耐水素脆性が得られる。
[鋼材のミクロ組織観察方法]
本実施形態の鋼材の内部位置でのミクロ組織は、次の方法で観察する。
鋼材の長手方向に垂直な円形状の断面のうち、鋼材表面からD/4深さ位置を含む試験片を採取する。採取した試験片の表面のうち、鋼材の長手方向に垂直な断面であって、D/4深さ位置を含む面を「観察面」とする。
観察面を鏡面研磨する。鏡面研磨後の観察面を、ピクラール(エタノール100mlに対しピクリン酸4gの混合溶液)を用いてエッチングして、ミクロ組織を現出させる。エッチング後の観察面のうち、D/4深さ位置から、観察面の円周方向に90°おきに4つの観察視野を選択する。選択された各観察視野にて、FE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡:Field Emission-Scanning Electron Microscope)を用いて1000倍の倍率でSEM画像(二次電子像)を生成する。各観察視野(SEM画像)の面積は112μm×84μmとする。
各観察視野のSEM画像において、ミクロ組織の組織を特定する。各相のうち、ベイナイト以外の組織(フェライト、パーライト、マルテンサイト)は、コントラスト及び形態から特定することができる。なお、本実施形態では、疑似パーライト(組織中のラメラ構造が崩れて、炭化物が分断された状態で析出したパーライト)をベイナイトに含める。そこで、SEM画像中のベイナイト以外の組織(フェライト、パーライト、マルテンサイト)を特定する。そして、4つの観察視野の全てにおける、フェライトの総面積、パーライトの総面積、ベイナイトの総面積、及び、マルテンサイトの総面積を求める。そして、以下の式(A)に基づいて、ベイナイトの面積率(%)を求める。なお、ベイナイトの面積率は、小数第1位の数値を四捨五入して得られる整数とする。
ベイナイト面積率(%)={4つの観察視野の総面積-(フェライトの総面積+パーライトの総面積+マルテンサイトの総面積)}/4つの観察視野の総面積×100
[(特徴3)鋼材表層部でのCu偏析度σについて]
本実施形態の鋼材ではさらに、鋼材の長手方向及び径方向を含む断面のうち、鋼材の表面から径方向(深さ方向)に1000μm、長手方向に1000μmの矩形観察領域において、径方向に400分割、長手方向に400分割された16万個の測定区域に対して、電子線マイクロアナライザによる面分析を実施し、得られた各測定区域での質量%でのCu含有量を、[Cu]MAとし、全ての測定区域の[Cu]MAの算術平均値を、[Cu]AVEとし、各測定区域の[Cu]MAの[Cu]AVEに対する比を、[Cu]とし、複数の測定区域のうち、長手方向に一列に配列された一行分の複数の測定区域を測定行と定義したとき、各測定行において、測定行を構成する複数の測定区域の[Cu]の合計の、測定行を構成する複数の測定区域の総数に対する比を、[Cu]とし、全ての測定行の[Cu]の標本標準偏差を、Cu偏析度σとしたとき、Cu偏析度σは、0.050以下である。
以下、Cu偏析度σについて説明する。
[Cu偏析度σについて]
図1は、Cu偏析度σを説明するための模式図である。図1を参照して、鋼材の長手方向L及び径方向Dを含む断面10のうち、鋼材の表面10Sから径方向Dに1000μm、長手方向Lに1000μmの矩形観察領域100を選択する。
図1中に矩形観察領域100の拡大図を示す。鋼材表層のミクロな領域(矩形観察領域100)において、Cu偏析領域SEGが存在する場合、Cu偏析領域SEGは、鋼材の長手方向Lに延びている。ここで、Cu偏析領域SEGとは、Cu偏析領域SEG以外の他の領域と比較して、Cu濃度が高い領域である。
断面10のうち、表面10Sから径方向Dに1000μm深さまでの領域を表層10Lと称する。矩形観察領域100は、表層10Lの任意の一部である。矩形観察領域100において1又は複数のCu偏析領域SEGが存在する場合、矩形観察領域100内でCu濃度にばらつきが生じている。この場合、表層10LでCu濃度のばらつきが生じていることを意味する。表層10L内にこのようなCu濃度のばらつきが生じている場合、表層10Lのうち、Cu濃度の低い領域で、外部から水素が侵入しやすくなる。したがって、表層10L内において、Cu濃度の分布はなるべく均一であることが、水素の侵入抑制には有効である。
そこで、本実施形態の鋼材では、鋼材の表層10LのCu濃度分布の均一性を示す指標として、次の測定方法で求められる「Cu偏析度σ」を用いる。
[Cu偏析度σの測定方法]
本実施形態の鋼材のCu偏析度σは次の方法で測定できる。
図1を参照して、表層10L内において、任意の矩形観察領域100を選択する。上述のとおり、矩形観察領域100は、鋼材の表面10Sから径方向Dに1000μm、長手方向Lに1000μmの矩形とする。
図2は、図1中の矩形観察領域100内でのCu偏析度σの測定方法を説明するための模式図である。図2を参照して、矩形観察領域100に対して、電界放出型電子線マイクロアナライザ(FE-EPMA)を用いた面分析を実施する。具体的には、矩形観察領域100を、長手方向Lに400分割し、かつ、径方向Dに400分割して、矩形観察領域100を16万個の測定区域MAに区画する。
各測定区域MAに対して、元素分析を実施する。元素分析では、加速電圧を15kV、照射電流を400nA、ビーム径を2μm、積算時間を0.1秒とする。測定対象元素を、Cuとし、各測定区域MAでの質量%でのCu含有量を求め、当該Cu含有量を[Cu]MAと定義する。
得られた各測定区域MAでの[Cu]MAを用いて、次の方法で、矩形観察領域100でのCu偏析度σを求める。
全ての測定区域MAでの質量%のCu含有量[Cu]MAの算術平均値を、[Cu]AVEと定義する。さらに、各測定区域MAでのCu含有量[Cu]MAの[Cu]AVEに対する比を、[Cu]と定義する。要するに、[Cu]は、Cu含有量の影響を除いた、各測定区域での規格化されたCu量を意味する。
図2を参照して、400×400個の測定区域MAのうち、長手方向Lに一列に配列された一行分の測定区域を「測定行」ML1~ML400と定義する。各測定行MLj(jは1~400までの整数)は、長手方向Lに一列に配列された400個の測定区域MAで構成される。図2において、破線で囲まれた領域の複数の測定区域MAは、測定行ML1を構成する。
各測定行MLjを構成する複数の測定区域MAの[Cu]の合計の、当該測定行MLjを構成する複数の測定区域MAの総数(すなわち400)に対する比を、[Cu]と定義する。[Cu]は、規格化されたCu量の測定行MLjにおける算術平均値を意味する。
全ての測定行MLjの[Cu]の標本標準偏差を求める。得られた値を「Cu偏析度σ」と定義する。Cu偏析度σの有効数字は、小数第三位とする。つまり、Cu偏析度σは小数第四位の数値を四捨五入して得られた値である。
[Cu偏析度σの意義について]
図1及び図2の矩形観察領域100に示すとおり、Cu偏析領域SEGは、鋼材の長手方向Lに延びている。そのため、各測定行MLjでのCu量[Cu]の標本標準偏差σは、Cuの偏析度を示す指標となる。
Cu偏析度σが0.050を超えれば、表層10Lにおいて、Cu濃度分布の十分な均一性が得られていない。つまり、Cu濃度分布が過剰にばらついている。この場合、特徴1を有する鋼材であっても、水素の侵入を十分に抑制できない。
Cu偏析度σが0.050以下であれば、特徴1を有する鋼材の表層10LでのCu濃度分布が十分に均一である。そのため、水素の侵入を十分に抑制できる。
Cu偏析度σの好ましい上限は0.045であり、さらに好ましくは0.040であり、さらに好ましくは0.035であり、さらに好ましくは0.030である。Cu偏析度σはなるべく低い方が好ましい。Cu偏析度σの好ましい下限は0.000であり、さらに好ましくは0.005であり、さらに好ましくは0.010である。
[本実施形態の鋼材の形状]
本実施形態の鋼材は、棒鋼又は線材である。棒鋼又は線材は、棒状又は線状の鋼材である。鋼材はコイル状に巻かれたものであってもよいし、所定の長さに切断されたものであってもよい。
[本実施形態の鋼材の用途]
本実施形態の鋼材は、特徴1~特徴3を満たすことにより、水素の侵入を十分に抑制できる。そのため、本実施形態の鋼材は、産業機械、自動車、橋梁及び建築物等の機械部品の素材として適用可能である。上述のとおり、本実施形態の鋼材では、内部位置でのミクロ組織において、ベイナイト面積率が95%以上である。そのため、本実施形態の鋼材は、非調質機械部品の素材として好適である。非調質機械部品は例えば、非調質ボルトである。なお、本実施形態の鋼材が上記用途以外の用途に用いられてもよい。
[鋼材の製造方法]
本実施形態の鋼材の製造方法の一例を説明する。以降に説明する鋼材の製造方法は、本実施形態の鋼材を製造するための一例である。したがって、上述の特徴1~特徴3を有する鋼材は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態の鋼材の製造方法の好ましい一例である。
本実施形態の鋼材の製造方法の一例は、次の工程を含む。
(工程1)素材準備工程
(工程2)粗圧延工程
(工程3)仕上げ圧延工程
(工程4)組織調整工程
本製造方法の一例ではさらに、仕上げ圧延工程において次の条件1を満たし、組織調整工程おいて次の条件2及び条件3を満たす。
条件1:鋼材温度が1000~880℃の範囲内で、25%以上の減面率でのパス数を2以上とする。
条件2:800~500℃までの範囲での鋼材の平均冷却速度CRを10℃/秒以上とする。
条件3:450~500℃の保持温度T1の恒温槽に45秒以上の保持時間t1浸漬する恒温変態処理を実施する。
以下、各工程について説明する。
[(工程1)素材準備工程]
素材準備工程では、本実施形態の鋼材の素材を準備する。具体的には、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内である溶鋼を製造する。精錬方法は特に限定されず、周知の方法を用いればよい。たとえば、周知の方法で製造された溶銑に対して転炉での精錬(一次精錬)を実施する。転炉から出鋼した溶鋼に対して、周知の二次精錬を実施する。以上の工程により、特徴1を満たす化学組成の溶鋼を製造する。
製造された溶鋼を用いて、周知の鋳造法により素材を製造する。たとえば、溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造してもよい。また、溶鋼を用いて連続鋳造法によりブルームを製造してもよい。以上の方法により、素材(インゴット又はブルーム)を製造する。
[(工程2)粗圧延工程]
粗圧延工程では、素材準備工程で準備された素材(インゴット又はブルーム)に対して粗圧延を実施して、ビレットを製造する。
粗圧延工程は、次の工程を含む。
(工程21)加熱工程
(工程22)圧延工程
以下、各工程21及び工程22について説明する。
[(工程21)加熱工程]
加熱工程では、周知の方法で加熱炉を用いて素材を加熱する。加熱温度は特に限定されない。加熱温度は周知の温度で足りる。加熱温度は例えば、1000~1200℃である。
[(工程22)圧延工程]
圧延工程では、加熱工程で加熱された素材を、分塊圧延機、又は、分解圧延機及び連続圧延機を用いて圧延(粗圧延)して、ビレットを製造する。
具体的には、加熱された素材を、分塊圧延機を用いてリバース圧延して、ビレットを製造する。分塊圧延機は一対の水平ロールを備える。分塊圧延機では、リバース圧延を実施する。リバース圧延とは、素材が分塊圧延機を上流から下流に通過するときに分解圧延機から圧下を受け、さらに、素材が分解圧延機を下流から上流に通過するときにも分解圧延機から圧下を受けることが可能な圧延方法を意味する。
分塊圧延機の下流に連続圧延機が配置されている場合、分塊圧延後のビレットに対してさらに、連続圧延機を用いてタンデム圧延を実施して、さらにサイズの小さいビレットを製造してもよい。連続圧延機では、複数の圧延スタンドを含む。各圧延スタンドは一対のワークロールを含む。各ワークロールにはカリバーが形成されており、一対のワークロールのカリバーで孔型を形成する。連続圧延機では、上流から下流にタンデム圧延が実施される。
以上の粗圧延工程により製造されたビレットは、仕上げ圧延工程前に、常温まで放冷(空冷)される。
[(工程3)仕上げ圧延工程]
仕上げ圧延工程では、粗圧延工程で製造されたビレットに対して仕上げ圧延を実施して、鋼材を製造する。ここで、鋼材は線材又は棒鋼である。仕上げ圧延工程は、次の工程を含む。
(工程31)加熱工程
(工程32)圧延工程
仕上げ圧延工程ではさらに、圧延工程において、次の条件を満たす。
条件1:鋼材温度が1000~880℃の範囲内で、25%以上の減面率でのパス数を2以上とする。
以下、仕上げ圧延工程での加熱工程及び圧延工程について説明する。
[(工程31)加熱工程]
加熱工程では、常温まで冷却されたビレットを、加熱炉を用いて周知の方法で加熱する。加熱温度は特に限定されないが、例えば、900~1050℃である。
[(工程32)圧延工程]
圧延工程では、加熱工程で加熱されたビレットに対して、連続圧延機を用いて、仕上げ圧延(連続圧延)を実施して、鋼材を製造する。連続圧延機は、上流から下流に一列に配列された複数の圧延スタンドを含む。各圧延スタンドは一対のワークロールを含む。各ワークロールにはカリバーが形成されており、一対のワークロールのカリバーで孔型を形成する。
連続圧延機を用いた連続圧延において、各圧延スタンドを上流から下流に向かってビレットが通過するときに、当該圧延スタンドでビレットを減面することを、「1パス」圧下する、と定義する。
連続圧延とは、連続圧延機を用いて、複数のパス数で圧下することを意味する。なお、連続圧延機中の全ての圧延スタンドでビレットを圧下しなくてもよい。例えば、連続圧延機が15台の圧延スタンドを含む場合であって、最後の圧延スタンドではビレットを圧下することなく通過させる場合、14パスの圧下が実行される。
[条件1について]
仕上げ圧延工程では、鋼材温度が1000~880℃の範囲内で、25%以上の減面率でのパス数を2以上とする。ここで、減面率は次の式で定義される。
減面率=(1-当該圧延スタンドの出側でのビレットの長手方向に垂直な断面積)/(当該圧延スタンドの入側でのビレットの長手方向に垂直な断面積)×100
一般的に、加熱炉での加熱温度を調整して、Mn等の元素の偏析を低減することは知られている。しかしながら、Cuの場合、加熱温度を調整して拡散させやすくするよりも、特定の温度域で圧下して歪を多く導入した方が、鋼材表層において、均一に拡散しやすいことが本発明者らの調査により判明した。
具体的には、鋼材温度が1000~880℃の範囲内で25%以上の減面率でのパス数が2未満である場合、歪の導入量が不足している。この場合、仕上げ圧延工程において、鋼材表層において、Cuが十分均一に拡散しない。その結果、Cu偏析度σが0.050を超える。
鋼材温度が1000~880℃の範囲内で25%以上の減面率でのパス数が2以上であれば、Cuの拡散に適した温度域において、鋼材の表層に歪が十分に導入される。この場合、Cuが鋼材の表層に均一に拡散する。その結果、Cu偏析度σが0.050以下になる。
したがって、鋼材温度が1000~880℃の範囲内で25%以上の減面率でパス数を2以上とする。
鋼材温度が1000~880℃の範囲内で25%以上の減面率でのパス数の好ましい下限は3であり、さらに好ましくは4である。
鋼材温度が1000~880℃の範囲内で25%以上の減面率でのパス数の好ましい上限は特に限定されない。
連続圧延機の各圧延スタンドの入側及び/又は出側には、測温計が配置されている。測温計は周知の装置であり、例えば、放射温度計、サーモグラフィー等である。各圧延スタンドでの入側及び/又は出側で、鋼材温度が測定される。また、各圧延スタンドでの減面率は予め設定されている。したがって、各圧延スタンドでの入側及び/又は出側で測定された鋼材温度、及び、各圧延スタンドでの減面率に基づいて、鋼材温度が1000~880℃の範囲内で25%以上の減面率でのパス数を求めることができる。
[(工程4)組織調整工程]
組織調整工程では、仕上げ圧延工程で仕上げ圧延された鋼材に対して冷却及び恒温変態処理を実施して、鋼材のミクロ組織を、ベイナイト主体の組織にする。組織調整工程は、次の工程を含む。
(工程41)冷却工程
(工程42)恒温変態処理工程
以下、各工程について説明する。
[(工程41)冷却工程]
仕上げ圧延後の鋼材は、巻取されてコイル状となった後、搬送路上に載置されて搬送される。冷却工程では、仕上げ圧延後の鋼材を冷却する。冷却工程では、次の条件2を満たす。
条件2:800~500℃までの範囲での平均冷却速度CRを10℃/秒以上とする。
[条件2について]
平均冷却速度CRが10℃/秒未満である場合、冷却速度が遅すぎる。この場合、特徴1を満たす鋼材の連続冷却変態線図(CCT線図)において、冷却曲線がフェライトノーズ又はパーライトノーズと交差する。この場合、鋼材のミクロ組織において、フェライト及び/又はパーライトが過剰に生成する。その結果、鋼材のミクロ組織において、ベイナイト面積率が95%未満となる。
平均冷却速度CRが10℃/秒以上であれば、鋼材温度が800~500℃になるまでの冷却速度が適切である。そのため、後述の条件3を満たすことを前提として、鋼材の内部位置でのミクロ組織において、ベイナイト面積率が100%となる、又は、ベイナイト面積率が95%以上であって残部がフェライト及び/又はパーライトとなる。なお、平均冷却速度CR(℃/秒)は、鋼材温度が800~500℃に下がるまでの時間を測定し、得られた時間に基づいて求めることができる。
[(工程42)恒温変態処理工程]
冷却工程後の鋼材に対して、速やかに恒温変態処理工程を実施する。恒温変態処理工程では、鋼材に対して保持温度T1(℃)、保持時間t1(秒)で恒温変態処理を実施する。恒温変態処理は例えば、上記温度T1に保持された浸漬槽に鋼材を浸漬することにより実施する。浸漬槽は、溶融塩槽であってもよいし、鉛浴槽であってもよいし、流動床であってもよい。恒温変態処理後の鋼材を冷却する。冷却は水冷であってもよいし、放冷であってもよい。恒温変態処理工程では、次の条件3を満たす。
条件3:保持温度T1を450~500℃とし、保持時間t1を45秒以上とする。
[条件3について]
保持温度T1が450℃未満である場合、鋼材でベイナイト変態が完了するまでの時間が過剰に長くなる。この場合、ベイナイト変態が完了しない状態で鋼材が冷却される。その結果、鋼材にマルテンサイトが生成し、鋼材の冷間加工性が低下する。同様に、保持時間t1が45秒未満である場合、ベイナイト変態が完了しない状態で鋼材が冷却される。その結果、鋼材にマルテンサイトが生成し、鋼材の冷間加工性が低下する。
一方、保持温度T1が500℃超である場合、鋼材中にパーライトが過剰に生成する場合がある。この場合、冷間加工性が低下する場合がある。
保持温度T1が450~500℃であり、かつ、保持時間t1が45秒以上であれば、条件2を満たすことを前提として、鋼材の内部位置でのミクロ組織において、ベイナイトの面積率が100%となる、又は、ベイナイトの面積率が95%以上であり、残部はフェライト及び/又はパーライトからなる組織となる。
以上の製造工程により、特徴1~特徴3を満たす鋼材を製造できる。
[本実施形態の鋼材を素材とした非調質機械部品の製造方法]
本実施形態の鋼材を素材とした非調質機械部品の製造方法は、周知の製造方法である。非調質機械部品の一例として、非調質ボルトの製造方法を説明する。非調質ボルトの製造方法は例えば、次の工程を含む。
・鋼線製造工程
・冷間加工工程(圧造工程、転造工程)
・ブルーイング工程
・めっき工程
・ベーキング工程
上記工程のうち、ブルーイング工程、めっき工程、ベーキング工程は任意の工程である。つまり、ブルーイング工程、めっき工程、ベーキング工程は実施しなくてもよい。
以下、各工程について説明する。
[鋼線製造工程]
鋼線製造工程では、初めに、鋼材に対して周知の潤滑処理を実施する。具体的には、鋼材に対して周知の潤滑処理を実施して、鋼材の表面に周知の潤滑皮膜を形成する。潤滑皮膜は例えば、周知のリン酸塩皮膜及び周知の石鹸潤滑皮膜である。潤滑皮膜が形成された鋼材に対して、周知の伸線加工を実施して鋼線を製造する。伸線加工は、一次伸線のみであってもよいし、二次伸線等、複数回の伸線加工を実施してもよい。伸線加工での総減面率は特に限定されないが、例えば、5~65%である。
[冷間加工工程]
冷間加工工程では、鋼線に対して、周知の圧造工程及び転造工程を実施して、ボルト形状の中間品を製造する。具体的には、周知の圧造工程を実施して、鋼線を、ねじ形状にする。さらに、周知の転造工程を実施して、ボルト形状の軸部にねじを形成する。以上の工程により、ボルト形状の中間品を製造する。
[ブルーイング工程]
ブルーイング工程は任意の工程である。つまり、ブルーイング工程は実施しなくてもよい。実施する場合、ブルーイング工程では、中間品を200~600℃の温度域で10~300分保持する。ブルーイング工程を実施した場合、非調質ボルトの引張強さや降伏比が高まる。
[めっき工程]
めっき工程は任意の工程である。つまり、めっき工程は実施しなくてもよい。実施する場合、めっき工程では、中間品に対して周知のめっき処理を実施して、中間品の表面にめっき層を形成する。めっき層の形成により、非調質ボルトの耐食性が高まる。めっき層は特に限定されないが、例えば、亜鉛めっき皮膜(JIS B1044:2001、JIS B1048:2007)や亜鉛フレーク皮膜(JIS B1046:2020)である。
[ベーキング工程]
ベーキング工程は任意の工程である。つまり、ベーキング工程は実施しなくてもよい。めっき工程で中間品に水素が侵入する場合、ベーキング工程も実施する。ベーキング工程では、めっき工程後の中間品を、150~250℃の温度域で60~480分保持する。ベーキング工程により、めっき工程で鋼材中に侵入した水素を外部に放出する。
以上の製造方法により、本実施形態の鋼材を素材とした非調質ボルトを製造することができる。上述の製造工程では、調質処理(焼入れ及び焼戻し)を実施しない。したがって、上述のボルトの製造工程において、素材である鋼材のミクロ組織は変態しない。したがって、製造された非調質ボルトのミクロ組織は鋼材のミクロ組織と実質的に同じであり、ベイナイト主体の組織である。そして、鋼材と同様に特徴1~特徴3を満たす。そのため、非調質ボルトでは、腐食環境下での水素侵入が抑制される。
実施例により本実施形態の鋼材の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の鋼材の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の鋼材はこの一条件例に限定されない。
[素材準備工程]
表1-1及び表1-2に示す化学組成を有する鋼材を、次の方法で製造した。
Figure 2024007157000002
Figure 2024007157000003
表1-2中の「-」は、対応する元素含有量が、実施形態に規定の有効数字(最小桁までの数値)において、0%であることを意味する。換言すれば、対応する元素含有量において、上述の実施形態で規定の有効数字(最小桁までの数値)での端数を四捨五入した場合に0%であることを意味する。
例えば、本実施形態で規定されたCr含有量は小数第二位までの数値で規定されている。したがって、表1-2中の試験番号1では、測定されたCr含有量を小数第三位で四捨五入した場合に、0%であったことを意味する。
なお、四捨五入とは、規定された最小桁の下の桁(端数)が5未満であれば切り捨て、5以上であれば切り上げることを意味する。
[粗圧延工程]
製造したブルームに対して粗圧延工程を実施して、ビレットを製造した。具体的には、加熱炉を用いてブルームを1100℃に加熱した。加熱後のブルームを、分塊圧延機及び連続圧延機を用いて圧延(粗圧延)して、ビレットを製造した。粗圧延工程で製造されたビレットを常温まで放冷した。
[仕上げ圧延工程]
製造されたビレットに対して、仕上げ圧延工程を実施した。具体的には、各試験番号のビレットを950~1050℃に加熱した。加熱されたビレットに対して、連続圧延機を用いて、仕上げ圧延(連続圧延)を実施して、鋼材(丸棒)を製造した。このとき、鋼材温度が1000~880℃の範囲内で、25%以上の減面率のパス数PNは表2に示すとおりであった。
Figure 2024007157000004
仕上げ圧延後の鋼材(丸棒)に対して、組織調整工程を実施した。組織調整工程中の冷却工程において、鋼材温度が800~500℃までの範囲での平均冷却速度CRは、表2に示すとおりであった。
初期冷却工程後の鋼材に対して、速やかに恒温変態処理工程を実施した。恒温変態処理工程での保持温度T1(℃)、保持時間t1(秒)は表2に示すとおりであった。恒温変態処理工程後、鋼材を220℃になるまで水冷し、その後、鋼材を放冷した。
以上の製造工程により、各試験番号の直径が10.0mmの鋼材(丸棒)を製造した。
[評価試験について]
製造された各試験番号の鋼材に対して、次の鋼材評価試験(試験1~試験6)を実施した。
[鋼材評価試験]
(試験1)鋼材の化学組成測定試験
(試験2)鋼材のミクロ組織観察試験
(試験3)Cu偏析度σ測定試験
(試験4)拡散性水素濃度測定試験
(試験5)引張強さ評価試験
(試験6)冷間加工性評価試験
以下、各試験について説明する。
[(試験1)鋼材の化学組成測定試験]
各試験番号の鋼材(丸棒)に対して、上述の[鋼材の化学組成の測定方法]に基づいて化学組成を分析した。その結果、いずれの試験番号の化学組成も、表1-1、表1-2に示すとおりであった。
[(試験2)鋼材のミクロ組織観察試験]
各試験番号の鋼材(丸棒)に対して、上述の[鋼材のミクロ組織観察方法]に基づいて、D/4深さ位置でのミクロ組織中のベイナイト面積率(%)を求め、ベイナイト面積率が100%未満である場合は残部の組織を特定した。得られたベイナイト面積率(%)及び残部の組織を表2の「ベイナイト面積率(%)」欄及び「残部組織」欄に示す。「残部組織」欄において、「F」はフェライトを意味する。「P」はパーライトを意味する。「M」はマルテンサイトを意味する。当該欄に「F,P」と表記している場合、残部組織がフェライト及びパーライトからなる組織であることを意味する。
[(試験3)Cu偏析度σ測定試験]
各試験番号の鋼材(丸棒)に対して、上述の[Cu偏析度σの測定方法]に基づいて、Cu偏析度σを求めた。求めた結果を表2に示す。
[(試験4)拡散性水素濃度測定試験]
各試験番号の鋼材に対して、次の拡散性水素濃度測定試験を実施した。
[非調質機械部品模擬材の製造]
初めに、各試験番号の鋼材を用いて、非調質機械部品模擬材を製造した。具体的には、各試験番号の鋼材に対して、周知の潤滑処理を実施して鋼材の表面に潤滑皮膜(リン酸塩皮膜及び石鹸潤滑皮膜)を形成した。各試験番号での潤滑処理の条件は同じとした。その後、潤滑皮膜が形成された鋼材に対して、周知の伸線加工を実施した。伸線加工の総減面率は36%とした。以上の製造工程により、非調質機械部品模擬材(丸棒)を製造した。
[測定試験]
各試験番号の非調質機械部品模擬材を長手方向に垂直に切断し、長さ100mmの複数の丸棒試験片を採取した。伸線加工前に鋼線表面に形成した潤滑皮膜の影響を省くため、丸棒試験片に対してブラスト処理を実施して、丸棒試験片の表面の潤滑皮膜を除去した。
ブラスト処理後の丸棒試験片を用いて、JASO M609(1991)で規定されている複合サイクル腐食試験(CCT)を実施した。各試験番号ごとに、腐食試験での試験サイクルは、21サイクル、42サイクル、84サイクル、及び、126サイクルの4パターンとした。各パターンごとに別個の丸棒試験片を用いた。
各サイクルでの試験において、試験終了後に丸棒試験片を取り出した。取り出した丸棒試験片に対してブラスト処理を実施して、腐食試験によって丸棒試験片の表面に生成した腐食生成物を除去した。湿式切断機を用いて、ブラスト処理後の丸棒試験片の長手方向の中央部分30mmを切り出した。
切り出した試験片部分に対して、ガスクロマトグラフ式昇温脱離水素分析装置(Thermal Desorption Analysis:TDA)を用いて、拡散性水素濃度を分析した。具体的には、切り出した試験片部分を100℃/hrの昇温速度で、室温から200℃まで加熱した。加熱により試験片部分から外部に放出された水素量を測定した。
測定された水素量を、加熱前の試験片部分の質量で除して、拡散性水素濃度(単位:mass ppm)を求めた。各試験番号において、上述の4パターンの各々での拡散性水素濃度を求めた。4つの拡散性水素濃度のうち、最も高い値を、その試験番号での拡散性水素濃度と定義した。得られた拡散性水素濃度を、表2中の「拡散性水素濃度(mass ppm)」に示す。
[(試験5)引張強さ評価試験]
各試験番号の鋼材を素材とした非調質機械部品の一例として、非調質ボルトを次の製造方法で製造した。
各試験番号の鋼材(丸棒)に対して、周知の潤滑処理を実施して鋼材の表面に潤滑皮膜(リン酸塩皮膜及び石鹸潤滑皮膜)を形成した。潤滑処理の条件は、各試験番号で同じとした。その後、潤滑皮膜が形成された鋼材に対して、周知の伸線加工を実施した。伸線加工の総減面率は36.0%とした。以上の製造工程により鋼線を製造した。
鋼線に対して、周知の冷間圧造を実施して、JIS B1189:2014に規定されるM8フランジ付き六角ボルトの形状の中間品を製造した。中間品の軸部直径(D)は8.0mmとした。冷間圧造の条件は、各試験番号で同じとした。冷間圧造後の中間品に対して、周知の冷間転造を実施して、中間品の軸部の一部に、ねじの呼び(M)が8.0mmであり、ピッチ(P)が1.25mmである、ねじ部を形成した。冷間転造の条件は、各試験番号で同じとした。
冷間転造後の中間品に対して、350℃の温度で1時間保持するブルーイング処理を実施した。以上の製造工程により、非調質ボルトを製造した。
製造された非調質ボルトに対して、JIS B 1051:2014に準拠した引張試験を常温、大気中で実施して、引張強さ(MPa)を測定した。引張試験時のクロスヘッド変位速度は3.0mm/minとした。得られた引張強さを表2中の「引張強さ(MPa)」欄に示す。引張強さが1100MPa以上であれば、十分な強度が得られたと判断した。
[(試験6)冷間加工性評価試験]
上述の非調質ボルトの製造工程において、冷間圧造後の中間品のボルト頭部に相当する部分又はボルト頭部と軸部との移行域に相当する部分に割れが発生しているか否かを目視で確認した。0.5mm以上の長さの割れが確認されなかった場合、十分な冷間加工性が得られたと判断した(表2中の「冷間加工性」欄で「○」で表記)。一方、0.5mm以上の長さの割れが確認された場合、十分な冷間加工性が得られなかったと判断した(表2中の「冷間加工性」欄で「×」で表記)。目視での割れの判断が困難である場合、拡大率が10倍のルーペを用いて該当部分を観察して、割れの有無を確認した。なお、十分な冷間加工性が得られなかったと判断した試験番号では、冷間圧造後の製造工程の実施を中止して、引張試験を実施しなかった(表2中の「引張強さ(MPa)」欄に「-」で表記)。
[評価結果]
評価結果を表2に示す。
試験番号1~32では、化学組成が適切であった。さらに製造条件も適切であった。そのため、鋼材の内部位置でのミクロ組織におけるベイナイト面積率は95%以上であり、残部がフェライト及び/又はパーライトであり、Cu偏析度が0.050以下であった。その結果、拡散性水素濃度が0.30mass ppm未満であり、水素の侵入を抑制できた。さらに、引張強さは1100MPa以上であり、非調質機械部品において十分な強度が得られた。さらに、十分な冷間加工性も得られた。
一方、試験番号33では、Mn含有量が高すぎた。そのため、鋼材のミクロ組織において、マルテンサイトが確認された。その結果、十分な冷間加工性が得られなかった。
試験番号34では、Cu含有量が低すぎた。そのため、拡散性水素濃度が0.30mass ppm以上となり、水素の侵入を十分に抑制できなかった。
試験番号35及び36では、化学組成は適切であったものの、鋼材温度が1000~880℃の範囲内で、25%以上の減面率のパス数PNが2未満であった。そのため、Cu偏析度σが0.050を超えた。その結果、そのため、拡散性水素濃度が0.30mass ppm以上となり、水素の侵入を十分に抑制できなかった。
試験番号37では、放冷のため、平均冷却速度CRが遅すぎた。そのため、鋼材のミクロ組織は、フェライト及びパーライトからなるミクロ組織となった。その結果、非調質ボルトの引張強さが低かった。
試験番号38では、平均冷却速度CRが遅すぎた。そのため、鋼材のミクロ組織において、ベイナイトの面積率が95%未満となり、残部がフェライトからなる組織となった。その結果、不均質なミクロ組織となり、十分な冷間加工性が得られなかった。
試験番号39では、恒温変態処理工程での保持温度T1が低すぎた。そのため、鋼材のミクロ組織において、ベイナイトの面積率が95%未満となり、残部がフェライト及びマルテンサイトからなる組織となった。その結果、十分な冷間加工性が得られなかった。
試験番号40では、恒温変態処理工程での保持温度T1が高すぎた。そのため、鋼材のミクロ組織には、パーライトからなる組織となった。その結果、十分な冷間加工性が得られなかった。
試験番号41では、恒温変態処理工程での保持時間t1が短すぎた。そのため、鋼材のミクロ組織において、ベイナイトの面積率が95%未満となり、残部がフェライト及びマルテンサイトからなる組織となった。その結果、十分な冷間加工性が得られなかった。
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (5)

  1. 棒状又は線状であり、長手方向に垂直な断面が円形状である鋼材であって、
    質量%で、
    C:0.50~0.80%、
    Si:0.010~0.500%、
    Mn:0.50~2.00%、
    P:0.030%以下、
    S:0.030%以下、
    Al:0.005~0.080%、
    Ti:0.005~0.100%、
    B:0.0003~0.0050%、
    Cu:0.02~0.50%、
    Ni:0.01~0.50%、
    N:0.0150%以下、及び
    O:0.0100%以下、を含有し、残部はFe及び不純物、からなり、
    前記鋼材の前記長手方向に垂直な前記断面の直径をDと定義したとき、前記鋼材の表面からD/4深さ位置でのミクロ組織において、ベイナイトの面積率が100%であり、又は、ベイナイトの面積率が95%以上であって残部はフェライト及び/又はパーライトからなり、
    前記鋼材の前記長手方向及び径方向を含む断面のうち、前記鋼材の表面から前記径方向に1000μm、前記長手方向に1000μmの矩形観察領域において、
    前記径方向に400分割、前記長手方向に400分割された16万個の測定区域に対して、電子線マイクロアナライザによる面分析を実施し、得られた各測定区域での質量%でのCu含有量を、[Cu]MAとし、
    全ての前記測定区域の前記[Cu]MAの算術平均値を、[Cu]AVEとし、
    各測定区域の前記[Cu]MAの前記[Cu]AVEに対する比を、[Cu]とし、
    複数の前記測定区域のうち、前記長手方向に一列に配列された一行分の複数の前記測定区域を測定行と定義したとき、各測定行において、前記測定行を構成する複数の前記測定区域の前記[Cu]の合計の、前記測定行を構成する複数の前記測定区域の総数に対する比を、[Cu]とし、
    全ての前記測定行の前記[Cu]の標本標準偏差を、Cu偏析度σとしたとき、
    前記Cu偏析度σは、0.050以下である、
    鋼材。
  2. 棒状又は線状であり、長手方向に垂直な断面が円形状である鋼材であって、
    質量%で、
    C:0.50~0.80%、
    Si:0.010~0.500%、
    Mn:0.50~2.00%、
    P:0.030%以下、
    S:0.030%以下、
    Al:0.005~0.080%、
    Ti:0.005~0.100%、
    B:0.0003~0.0050%、
    Cu:0.02~0.50%、
    Ni:0.01~0.50%、
    N:0.0150%以下、及び
    O:0.0100%以下、を含有し、
    さらに、第1群~第3群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部はFe及び不純物、からなり、
    前記鋼材の前記長手方向に垂直な前記断面の直径をDと定義したとき、前記鋼材の表面からD/4深さ位置でのミクロ組織において、ベイナイトの面積率が100%であり、又は、ベイナイトの面積率が95%以上であって残部はフェライト及び/又はパーライトからなり、
    前記鋼材の前記長手方向及び径方向を含む断面のうち、前記鋼材の表面から前記径方向に1000μm、前記長手方向に1000μmの矩形観察領域において、
    前記径方向に400分割、前記長手方向に400分割された16万個の測定区域に対して、電子線マイクロアナライザによる面分析を実施し、得られた各測定区域での質量%でのCu含有量を、[Cu]MAとし、
    全ての前記測定区域の前記[Cu]MAの算術平均値を、[Cu]AVEとし、
    各測定区域の前記[Cu]MAの前記[Cu]AVEに対する比を、[Cu]とし、
    複数の前記測定区域のうち、前記長手方向に一列に配列された一行分の複数の前記測定区域を測定行と定義したとき、各測定行において、前記測定行を構成する複数の前記測定区域の前記[Cu]の合計の、前記測定行を構成する複数の前記測定区域の総数に対する比を、[Cu]とし、
    全ての前記測定行の前記[Cu]の標本標準偏差を、Cu偏析度σとしたとき、
    前記Cu偏析度σは、0.050以下である、
    鋼材。
    [第1群]
    Cr:1.50%以下、
    Mo:0.50%以下、
    Nb:0.050%以下、及び、
    V:0.20%以下、からなる群から選択される1種以上
    [第2群]
    Ca:0.0100%以下、及び、
    Mg:0.0100%以下、からなる群から選択される1種以上
    [第3群]
    Sn:0.0020%以下
  3. 請求項2に記載の鋼材であって、
    前記第1群を含有する、
    鋼材。
  4. 請求項2に記載の鋼材であって、
    前記第2群を含有する、
    鋼材。
  5. 請求項2に記載の鋼材であって、
    前記第3群を含有する、
    鋼材。
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