JP7425299B2 - オーステナイト系ステンレス鋼材 - Google Patents

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Description

本開示は、オーステナイト系ステンレス鋼材に関する。
化石燃料に代えて、水素をエネルギーとして利用する燃料電池自動車に代表される輸送機器や、この輸送機器に水素を供給する水素ステーションの実用化研究が活発に進められている。これらの水素ステーションや輸送機器は、高圧水素を貯蔵するタンクや、高圧水素用の配管を備える。高圧水素用のタンクや配管では、水素が鋼材中へ侵入することで延性や靱性が著しく損なわれる、水素脆性が問題となる。そのため、高圧水素用のタンクや配管に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼材には、高圧水素ガス環境下での優れた耐水素脆性が求められる。さらに、高圧水素用のタンクや配管に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼材には、高圧の水素に耐えるために高強度を有することが求められる。
たとえば、特開2018-135592号公報(特許文献1)は、オーステナイト系ステンレス鋼の耐水素脆性及び耐力を高める技術を提案する。
特許文献1に記載の高圧水素用オーステナイト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.40~1.00%、Si:1.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Ni:8.00~14.00%、Cr:16.00~21.00%、N:0.09%以下を含有し、残部Fe及び不純物元素からなり、さらに、54.8C+3.7Ni+2.5Mn-1.6Cr-0.9Si+266N-39.6>0の条件(式1)を満足し、固溶化熱処理ままで用いられ、鋼中にCr炭化物が、面積率で23%以上存在することを特徴とする。これにより、高価なMoを添加する必要がない等、成分的に安価な鋼とすることができる。さらに、冷間加工による強度向上に頼ることなく、固溶化熱処理ままで優れた耐力、硬さを得ることができる。その結果、低温での耐水素脆性も優れた高圧水素用オーステナイト系ステンレス鋼が得られる、と特許文献1に記載されている。
特開2018-135592号公報
上述の特許文献1に開示されたオーステナイト系ステンレス鋼材では、優れた耐水素脆性を得るために、Niを多く含有している。具体的には、特許文献1の実施例では、12.00質量%よりも高いNiが含有されている。Ni含有量を高めれば、耐水素脆性が高まる。しかしながら、Ni含有量を高めれば、製品コストも高まってしまう。したがって、Ni含有量を抑えつつ、高い強度及び優れた耐水素脆性の両立が得られる方が好ましい。
さらに、上述の輸送機器用途にオーステナイト系ステンレス鋼材が適用される場合、高い強度及び優れた耐水素脆性の両立に加えて、降伏強度が安定していることが望まれる。その理由は次のとおりである。
水素ステーションの構造物は、疲労寿命設計(無限寿命設計)を前提とする場合が多い。つまり、水素ステーションの構造物では、S-N曲線における疲労限度以下(つまり、応力振幅が疲労限度以下の領域)でオーステナイト系ステンレス鋼材が使用される。水素ステーションの場合、定期点検時に部品を容易に交換することは困難であるためである。これに対して、輸送機器では、定期点検が実施され、かつ、部品交換が比較的容易である。そのため、輸送機器では、有限寿命設計を前提とすることができる。したがって、輸送機器用途では、S-N曲線における有限寿命領域内(S-N曲線の傾斜部に相当)でオーステナイト系ステンレス鋼材を使用できる。
しかしながら、S-N曲線の有限寿命領域では、応力(応力振幅)にばらつきがでやすい。そのため、S-N曲線の有限寿命領域内で鋼材を使用する場合、工業生産を考慮すれば、降伏強度が安定していることが求められる。たとえば、1本のオーステナイト系ステンレス鋼材から、輸送機器用の複数の部品を製造する場合、各部品の降伏強度のばらつきは少ない方が、工業生産的には好ましい。
本開示の目的は、高強度及び優れた耐水素脆性を両立可能であり、かつ、降伏強度が安定しているオーステナイト系ステンレス鋼材を提供することである。
本開示のオーステナイト系ステンレス鋼材は、
化学組成が、質量%で、
C:0.100%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:1.50~6.00%、
P:0.050%以下、
S:0.030%以下、
Ni:4.0~12.0%、
Cr:17.0~19.0%、
N:0.12~0.30%、
Nb:0.01~0.20%、
V:0.01~0.10%、
Mo:0~0.10%、
Cu:0~0.5%、及び、
残部はFe及び不純物からなり、式(1)~式(3)を満たし、
前記オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向に垂直な断面において、前記オーステナイト系ステンレス鋼材の表面から5mm深さ位置でのオーステナイト面積率A1(%)に対する、前記断面の中心位置でのオーステナイト面積率A0(%)の比A0/A1が0.990~1.010である。
-7.1+2.7Ni+0.49Cr+2.0Mo-2.0Si+0.75Mn-5.7C-24N≧10.00 (1)
Ni+0.72Cr+0.88Mo+1.11Mn-0.27Si+12.93C+0.53Cu+7.55N≧25.00 (2)
C+N≧0.22 (3)
ここで、式(1)~式(3)の各元素記号には、前記化学組成中の対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本開示のオーステナイト系ステンレス鋼は、高強度及び優れた耐水素脆性を両立可能であり、かつ、降伏強度が安定している。
図1は、オーステナイト系ステンレス鋼材が鋼管である場合の、断面表層部と断面中心部の位置を説明するためのオーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向に垂直な断面図である。 図2は、オーステナイト系ステンレス鋼材が鋼板である場合の、断面表層部と断面中心部の位置を説明するためのオーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向に垂直な断面図である。 図3は、オーステナイト系ステンレス鋼材が棒鋼である場合の、断面表層部と断面中心部の位置を説明するためのオーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向に垂直な断面図である。
本発明者らは、強度及び優れた耐水素脆性を両立可能であり、かつ、降伏強度が安定しているオーステナイト系ステンレス鋼材について、調査及び検討を行った。その結果、本発明者らは、次の知見を得た。
従来の研究により、水素脆化が生じるメカニズムとして、加工誘起マルテンサイトによる水素脆化が知られている。オーステナイト系ステンレス鋼材の加工時に加工誘起マルテンサイト変態が生じると、耐水素脆性が著しく低下する。この加工誘起マルテンサイト変態の生じ難さを示す指標として、Ni当量が用いられている。Ni当量が高い程、オーステナイト安定度が高く、耐水素脆性に有害な加工誘起マルテンサイト変態が生じ難くなる。
加工誘起マルテンサイト変態は、水素脆化の支配的な要因である。そのため、従前では、特許文献1のオーステナイト系ステンレス鋼材のように、Ni当量を高めるために、多量のNiが含有されている。しかしながら、多量のNiを含有すれば、製品コストが高くなる。そこで、本発明者らは、単にNi含有量を高めるのではなく、他の方法により、強度と耐水素脆性とを両立する方法を検討した。その結果、本発明者らは、次の知見を得た。
水素脆化が生じるメカニズムとして、従来知られてきた加工誘起マルテンサイトの他に、オーステナイト系ステンレス鋼材中の転位が影響する。塑性変形によって導入された転位は、全体の弾性エネルギーが最小となる配置となるように移動する。このとき、プラナーな転位組織が形成されると、金属組織中のすべり変形の方向が一定方向となる。その結果、水素脆化が生じ易くなる。
水素脆化に対して、加工誘起マルテンサイトは支配的な要因である。そのため、Ni含有量が12.00%を超えるオーステナイト系ステンレス鋼材では、転位組織まで考慮せずとも耐水素脆性を高めることができる。しかしながら、Ni含有量を12.00%以下まで抑えた場合、転位構造の影響まで考慮しなければ、耐水素脆性を十分に高めることができないことが、本発明者らの検討により明らかとなった。
そこで本発明者らは、Ni含有量が12.00%以下であっても、加工誘起マルテンサイト変態を抑制し、かつ、プラナーな転位組織の形成を抑制することにより、耐水素脆性を高めることができる、オーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成について調査及び検討した。その結果、オーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成が以下の式(1)及び式(2)を満たせば、Ni含有量を12.00%以下まで低減した場合であっても、優れた耐水素脆性が得られることが分かった。
-7.1+2.7Ni+0.49Cr+2.0Mo-2.0Si+0.75Mn-5.7C-24N≧10.00 (1)
Ni+0.72Cr+0.88Mo+1.11Mn-0.27Si+12.93C+0.53Cu+7.55N≧25.00 (2)
ここで、式(1)及び式(2)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
式(1)は、上述の化学組成において、プラナー転位構造を抑制するための式であり、式(2)は、上述の化学組成において、加工誘起マルテンサイト変態を抑制するための式である。
ところで、Niは耐水素脆性を高めるだけでなく、強度も高める元素である。そのため、Ni含有量を12.0%以下に抑える場合、Ni以外の元素で、強度を高める必要がある。そこで、本発明者らは、C及びNの固溶強化によって、強度を高めることを考えた。そこで、本発明者らは、上述の化学組成において、適切なC含有量とN含有量との関係を調査した。その結果、上述の化学組成が式(1)及び式(2)を満たし、さらに、式(3)を満たせば、高い強度及び優れた耐水素脆性の両立が可能であることを見出した。
C+N≧0.22 (3)
ここで、式(3)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
上述のとおり、式(1)~式(3)を満たす化学組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼材であっても、S-N曲線の有限寿命領域で使用される場合、降伏強度のばらつきをより抑える必要がある。有限寿命領域で使用する場合に降伏強度がばらつけば、強度設計に影響が出るためである。
そこで、本発明者らは、高強度及び優れた耐水素脆性の両立が可能な式(1)~式(3)を満たすオーステナイト系ステンレス鋼材において、降伏強度ばらつきをさらに抑制できる方法について検討を行った。その結果、本発明者らは、次の知見を得た。
降伏強度のばらつきは、鋼材中のミクロ組織の均一性と相関がある。上述の化学組成の場合、鋼材のミクロ組織は実質的にオーステナイトであり、具体的には、オーステナイト面積率は95.00%以上である。しかしながら、例えば、鋼材の長手方向に垂直な断面に注目した場合、断面表層部でのオーステナイト面積率と、断面中心部でのオーステナイト面積率とは、わずかではあるが、ばらつきがある。このわずかなミクロ組織のばらつきが、降伏強度のばらつきの要因となっていると、本発明者らは考えた。
そこで、本発明者らは、断面表層部でのオーステナイト面積率A1と、断面中心部でのオーステナイト面積率A0と、降伏強度ばらつきとの関係について、調査を行った。その結果、断面表層部でのオーステナイト面積率A1に対する、断面中心部でのオーステナイト面積率A0の比(=A0/A1)が0.990~1.010の範囲内であれば、有限寿命領域での使用を考慮した場合であっても、降伏強度ばらつきを十分に抑えることができることが判明した。
以上の知見に基づいて完成した本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の構成は次のとおりである。
[1]のオーステナイト系ステンレス鋼材は、
化学組成が、質量%で、
C:0.100%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:1.50~6.00%、
P:0.050%以下、
S:0.030%以下、
Ni:4.0~12.0%、
Cr:17.0~19.0%、
N:0.12~0.30%、
Nb:0.01~0.20%、
V:0.01~0.10%、
Mo:0~0.10%、
Cu:0~0.5%、及び、
残部はFe及び不純物からなり、式(1)~式(3)を満たし、
前記オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向に垂直な断面において、前記オーステナイト系ステンレス鋼材の表面から5mm深さ位置でのオーステナイト面積率A1(%)に対する、前記断面の中心位置でのオーステナイト面積率A0(%)の比A0/A1が0.990~1.010である。
-7.1+2.7Ni+0.49Cr+2.0Mo-2.0Si+0.75Mn-5.7C-24N≧10.00 (1)
Ni+0.72Cr+0.88Mo+1.11Mn-0.27Si+12.93C+0.53Cu+7.55N≧25.00 (2)
C+N≧0.22 (3)
ここで、式(1)~式(3)の各元素記号には、前記化学組成中の対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
[2]のオーステナイト系ステンレス鋼材は、
[1]に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材であって、
前記化学組成は、
Mo:0.01~0.10%を含有する。
[3]のオーステナイト系ステンレス鋼材は、
[1]又は[2]に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材であって、
前記化学組成は質量%で、
Cu:0.1~0.5%を含有する。
以下、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材について詳述する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
[化学組成]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼の化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.100%以下
炭素(C)は不可避に含有される。つまり、C含有量は0%超である。本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材において、Cは積極的に添加される元素ではない。C含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、炭化物が粒界に析出して鋼の靱性が低下する。したがって、C含有量は0.100%以下である。C含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.085%であり、さらに好ましくは0.082%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.060%であり、さらに好ましくは0.040%である。C含有量はできるだけ低い方が好ましい。しかしながら、C含有量を過剰に低減すれば、製造コストが高くなる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、C含有量の好ましい下限は0.001%である。
Si:1.00%以下
シリコン(Si)は不可避に含有される。つまり、Si含有量は0%超である。Siは、鋼を脱酸する。しかしながら、Si含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Siは、Ni及びCr等と結合して金属間化合物を形成する。Si含有量が高すぎればさらに、シグマ相等の金属間化合物が生成する。その結果、鋼材の熱間加工性及び靭性が低下する。したがって、Si含有量は1.00%以下である。Si含有量の好ましい上限は0.98%であり、さらに好ましくは0.96%であり、さらに好ましくは0.94%であり、さらに好ましくは0.92%である。Si含有量を過剰に低減すれば、製造コストが高くなる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、Si含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。
Mn:1.50~6.00%
マンガン(Mn)はオーステナイトを安定化して、水素脆化感受性の高いマルテンサイトの生成を抑制する。Mnはさらに、Nの溶解量を高め、Nの固溶強化の作用を高める。Mn含有量が1.50%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が6.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の延性及び熱間加工性が低下する。したがって、Mn含有量は1.50~6.00%である。Mn含有量の好ましい下限は1.60%であり、さらに好ましくは1.65%であり、さらに好ましくは1.70%であり、さらに好ましくは1.75%である。Mn含有量の好ましい上限は5.80%であり、さらに好ましくは5.50%であり、さらに好ましくは5.00%であり、さらに好ましくは4.50%であり、さらに好ましくは4.00%である。
P:0.050%以下
燐(P)は不可避に含有される不純物である。つまり、P含有量は0%超である。Pは鋼材の熱間加工性及び靭性を低下する。したがって、P含有量は0.050%以下である。P含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.035%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.028%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は、製造コストを高める。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
S:0.030%以下
硫黄(S)は不可避に含有される不純物である。つまり、S含有量は0%超である。Sは鋼材の熱間加工性及び靭性を低下する。したがって、S含有量は0.030%以下である。S含有量の好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.022%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.018%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の過剰な低減は、製造コストを高める。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、S含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
Ni:4.0~12.0%
ニッケル(Ni)は、オーステナイトを安定化させて、加工誘起マルテンサイトの生成を抑制する。これにより、Niは鋼材の耐水素脆性を高める。Ni含有量が4.0%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Ni含有量が12.0%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Ni含有量は4.0~12.0%である。Ni含有量の好ましい下限は4.5%であり、さらに好ましくは4.8%であり、さらに好ましくは5.0%であり、さらに好ましくは5.5%である。Ni含有量の好ましい上限は11.5%であり、さらに好ましくは11.0%であり、さらに好ましくは10.5%であり、さらに好ましくは10.0%であり、さらに好ましくは9.5%である。
Cr:17.0~19.0%
クロム(Cr)は鋼の耐食性を高める。Crはさらに、Nの溶解量を高め、Nの固溶強化の作用を高める。Cr含有量が17.0%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が19.0%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、M23型の炭化物が過剰に生成する。この場合、鋼材の延性及び靭性が低下する。したがって、Cr含有量は17.0~19.0%である。Cr含有量の下限は好ましくは17.5%であり、さらに好ましくは17.8%であり、さらに好ましくは18.0%である。Cr含有量の上限は好ましくは18.8%であり、さらに好ましくは18.7%であり、さらに好ましくは18.6%である。
N:0.12~0.30%
窒素(N)はオーステナイトを安定化する。Nはさらに、固溶強化により鋼材の強度を高める。N含有量が0.12%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、N含有量が0.30%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靭性及び加工性が低下する。したがって、N含有量は0.12~0.30%である。N含有量の下限は好ましくは0.15%であり、さらに好ましくは0.18%であり、さらに好ましくは0.20%である。N含有量の上限は好ましくは0.28%であり、さらに好ましくは0.27%であり、さらに好ましくは0.26%である。
Nb:0.01~0.20%
ニオブ(Nb)は炭窒化物を生成し、析出強化により鋼材の強度を高める。Nb含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Nb含有量が0.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が飽和し、製造コストが高くなるだけである。したがって、Nb含有量は0.01~0.20%である。Nb含有量の好ましい上限は0.18%であり、さらに好ましくは0.15%であり、さらに好ましくは0.12%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.03%である。
V:0.01~0.10%
バナジウム(V)は炭窒化物を生成し、析出強化により鋼材の強度を高める。V含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、V含有量が0.10%を超えれば、その効果が飽和し、製造コストが高くなるだけである。したがって、V含有量は0.01~0.10%である。V含有量の好ましい上限は0.09%であり、さらに好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.06%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.04%であり、さらに好ましくは0.03%である。
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、オーステナイト系ステンレス鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素について]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材はさらに、Feの一部に代えて、Moを含有してもよい。
Mo:0~0.10%
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は0%であってもよい。含有される場合、Moは鋼材の耐水素脆性及び強度を高める。Moはさらに、鋼材の耐食性を高める。Mo含有量が少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mo含有量が0.10%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、金属間化合物が析出しやすくなる。この場合、鋼材の延性及び靭性が低下する。したがって、Mo含有量は0~0.10%である。Mo含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%である。Mo含有量の好ましい上限は0.08%であり、さらに好ましくは0.06%であり、さらに好ましくは0.05%である。
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材はさらに、Feの一部に代えて、Cuを含有してもよい。
Cu:0~0.5%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuはオーステナイトを安定化する。Cuはさらに、固溶強化により鋼材の強度を高める。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が0.5%を超えれば、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Cu含有量は0~0.5%である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.1%である。Cu含有量の好ましい上限は0.4%であり、さらに好ましくは0.3%である。
[式(1)~式(3)について]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成は、上記各元素の含有量を満たすことを前提として、さらに、式(1)~式(3)を満たす。これにより、高強度を有し、優れた耐水素脆性を両立できるオーステナイト系ステンレス鋼材が得られる。以下、式(1)~式(3)について詳述する。
[式(1)について]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成は、式(1)を満たす。
-7.1+2.7Ni+0.49Cr+2.0Mo-2.0Si+0.75Mn-5.7C-24N≧10.00 (1)
ここで、式(1)の各元素記号には、化学組成中の対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
F1=-7.1+2.7Ni+0.49Cr+2.0Mo-2.0Si+0.75Mn-5.7C-24Nと定義する。F1は、上述の化学組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼材でのプラナー転位構造の抑制の度合いを示す指標である。F2が10.00未満である場合、鋼材中にプラナー転位構造が形成されやすくなる。プラナー転位構造は鋼材の耐水素脆性を低下する。
F1が10.00以上である場合、プラナー転位構造の形成を抑制できる。その結果、Ni含有量を低減した場合であっても、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐水素脆性を高めることができる。F1の好ましい下限は10.50であり、さらに好ましくは11.00であり、さらに好ましくは11.20である。F1の上限は特に限定されない。上述の化学組成の場合、F1の上限値はたとえば、36.43である。F1の上限は27.50であってもよい。
[式(2)について]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成は、式(2)を満たす。
Ni+0.72Cr+0.88Mo+1.11Mn-0.27Si+12.93C+0.53Cu+7.55N≧25.00 (2)
ここで、式(2)の各元素記号には、化学組成中の対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
F2=Ni+0.72Cr+0.88Mo+1.11Mn-0.27Si+12.93C+0.53Cu+7.55Nと定義する。F2は、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材におけるNi当量を意味する。F2が25.00未満であれば、鋼材の耐水素脆性が低くなる。F2が25.00以上であれば、鋼材の耐水素脆性が高まる。F2の好ましい下限は25.05であり、さらに好ましくは25.10であり、さらに好ましくは25.20であり、さらに好ましくは25.50である。F2は高いほど好ましい。F2の上限は特に限定されないがたとえば、36.25である。
[式(3)について]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成は、式(3)を満たす。
C+N≧0.22 (3)
ここで、式(3)の各元素記号には、化学組成中の対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
F3=C+Nと定義する。F3は、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材における、固溶強化の指標である。F3が0.22未満であれば、鋼材の強度が低くなる。F3が0.22以上であれば、上述の化学組成の鋼材において、固溶強化により鋼材の強度が十分に高まる。F3の好ましい下限は0.23であり、さらに好ましくは0.24であり、さらに好ましくは0.26である。F3は高いほど好ましい。F3の上限は特に限定されないがたとえば、0.40である。
[ミクロ組織におけるオーステナイト組織均一比A0/A1について]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材のミクロ組織は、面積率で95.00%以上のオーステナイトを含有する。ミクロ組織の残部はたとえば、フェライトである。なお、ミクロ組織中には、析出物及び介在物も存在するが、無視できるほど少ない。本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材のミクロ組織において、オーステナイト面積率の好ましい下限は95.20%であり、さらに好ましくは95.30%であり、さらに好ましくは95.40%であり、さらに好ましくは95.50%である。
ここで、オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向に垂直な断面において、表面から5mm深さ位置でのミクロ組織におけるオーステナイト面積率(%)を、「断面表層部のオーステナイト面積率A1」と定義する。さらに、オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向に垂直な断面の中心位置でのミクロ組織におけるオーステナイト面積率(%)を、「断面中心部のオーステナイト面積率A0」と定義する。このとき、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材では、断面表層部のオーステナイト面積率A1に対する、断面中心部のオーステナイト面積率A0の比(=A0/A1)が0.990~1.010である。以下、A0/A1を、オーステナイト組織均一比という。
オーステナイト組織均一比A0/A1は、1.000に近いほど、オーステナイト系ステンレス鋼材でのオーステナイト面積率のばらつきが小さく、オーステナイトの分布が均一であることを意味する。オーステナイト組織均一比A0/A1が0.990未満、又は、1.010超である場合、オーステナイト系ステンレス鋼材でのオーステナイト分布にばらつきがある。この場合、オーステナイト系ステンレス鋼材の降伏強度が鋼材の場所によってばらつく。具体的には、降伏強度ばらつきΔYSが14.0MPaを超える。
オーステナイト組織均一比A0/A1が0.990~1.010である場合、オーステナイト系ステンレス鋼材でのオーステナイト面積率のばらつきが小さく、オーステナイトの分布が均一である。そのため、ΔYSが14.0MPa以下となり、降伏強度が安定化する。
オーステナイト組織均一比A0/A1の好ましい下限は0.992であり、さらに好ましくは0.993であり、さらに好ましくは0.994であり、さらに好ましくは0.995である。オーステナイト組織均一比A0/A1の好ましい上限は1.007であり、さらに好ましくは1.006であり、さらに好ましくは1.005である。
オーステナイト組織均一比A0/A1は次の方法で求めることができる。オーステナイト系ステンレス鋼材を長手方向に3等分に区分する。
ここで、オーステナイト系ステンレス鋼材が鋼管である場合、図1に示すとおり、オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向に垂直な断面において、肉厚をt(mm)と定義する。外面から肉厚方向に5mm深さの位置を、断面表層部P1と定義する。外面から肉厚方向にt/2位置(つまり、肉厚中央位置)を、断面中心部P0と定義する。
オーステナイト系ステンレス鋼材が鋼板である場合、図2に示すとおり、オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向に垂直な断面において、板厚をt(mm)と定義する。上面から板厚方向に5mm深さ位置を、断面表層部P1と定義する。上面から板厚方向にt/2の位置を、断面中心部P0と定義する。
オーステナイト系ステンレス鋼材が棒鋼である場合、図3に示すとおり、オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向に垂直な断面において、半径をR(mm)と定義する。表面から径方向に5mm深さ位置を、断面表層部P1と定義する。表面から径方向にR位置、つまり、断面の中心位置を、断面中心部P0と定義する。
3等分に区分された各区画領域において、断面表層部P1及び断面中心部P0から、丸棒引張試験片を採取する。丸棒引張試験片の平行部の直径Dは6.0mmとし、標点間距離は5D(つまり平行部の直径の5倍)とする。丸棒引張試験片の長手方向は、オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向と平行とする。各丸棒引張試験片に対して、常温(20℃±15℃)、大気中において、JIS Z2241(2011)に準拠した引張試験を実施して、6つの降伏強度(MPa)を求める。断面表層部P1から採取した丸棒引張試験片で得られた3つの降伏強度(MPa)のうち、降伏強度が最大値であった区画領域と、断面中心部P0から採取した丸棒引張試験片で得られた3つの降伏強度(MPa)のうち、降伏強度が最小値であった区画領域とを特定する。
断面表層部P1から採取した丸棒引張試験片で得られた3つの降伏強度(MPa)のうち、降伏強度が最大値となった区画領域の断面表層部P1から、ミクロ組織観察用サンプルを採取する。さらに、断面中心部P0から採取した丸棒引張試験片で得られた3つの降伏強度(MPa)のうち、降伏強度が最小値となった区画領域の断面中心部P0から、ミクロ組織観察用サンプルを採取する。各サンプルの被検面は、オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向に垂直な断面と平行とする。断面表層部P1のサンプルの被検面、及び、断面中心部P0のサンプルの被検面を、鏡面研磨する。鏡面研磨後の被検面を陽極として、10%水酸化カリウム溶液中に浸漬する。エッチング面積1cm当たりの電流を0.1Aに調整して、5~30秒間エッチングする。エッチング後、サンプルを試験溶液から取り出す。サンプルを流水で洗浄し、乾燥する。
乾燥後の断面表層部P1のサンプルの被検面のうち、任意の1視野(1000μm×1000μm)を100倍の光学顕微鏡で観察して、写真画像を生成する。写真画像のミクロ組織の各相(オーステナイト及びフェライト)はコントラストにより区別可能である。オーステナイトを特定して、視野中のオーステナイトの面積を求める。求めたオーステナイトの面積の、視野総面積に対する比(面積%)を、断面表層部でのオーステナイト面積率A1(%)と定義する。
同様に、乾燥後の断面中心部P0のサンプルの被検面のうち、任意の1視野(1000μm×1000μm)を100倍の光学顕微鏡で観察して、写真画像を生成する。写真画像のミクロ組織の各相(オーステナイト及びフェライト)はコントラストにより区別可能である。オーステナイトを特定して、視野中のオーステナイトの面積を求める。求めたオーステナイトの面積の、視野総面積に対する比(面積%)を、断面中心部でのオーステナイト面積率A0(%)と定義する。
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材のミクロ組織のオーステナイト面積率が95.00%以上とは、断面表層部のオーステナイト面積率A1、及び、断面中心部のオーステナイト面積率A0がいずれも、95.00%以上であることを意味する。
[降伏強度ばらつきΔYSについて]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の降伏強度ばらつきΔYSは、次の方法で求める。オーステナイト系ステンレス鋼材を長手方向に3等分に区画する。各区画領域において、断面表層部P1及び断面中心部P0から、丸棒引張試験片をそれぞれ採取する。丸棒引張試験片の平行部の直径Dは6.0mmとし、標点間距離は5D(つまり平行部の直径の5倍)とする。丸棒引張試験片の長手方向は、オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向と平行とする。
以上の方法により、断面表層部P1から3つの丸棒引張試験片を作製する。そして、断面中心部P0から3つの丸棒引張試験片を作製する。各丸棒引張試験片に対して、常温(20℃±15℃)、大気中において、JIS Z2241(2011)に準拠した引張試験を実施して、降伏強度(MPa)を求める。降伏強度は0.2%オフセット耐力とする。得られた6つの降伏強度の最大値と最小値との差分を、降伏強度ばらつきΔYS(MPa)と定義する。
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材では、上述の方法により求めた降伏強度ばらつきΔYSが14.0MPa以下となる。降伏強度ばらつきΔYSの好ましい上限は12.0MPaであり、さらに好ましくは11.0MPaであり、さらに好ましくは10.0MPaである。
[引張強度について]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の引張強度は好ましくは650MPa以上である。引張強度の下限はより好ましくは660MPaであり、さらに好ましくは670MPaである。引張強度の上限は特に限定されないが、たとえば900MPaであり、好ましくは800MPaであり、より好ましくは700MPaである。
[引張強度の測定方法]
引張強度は次の方法で求めることができる。上述の引張試験により6つの引張強度(MPa)が得られる。得られた6つの引張強度の算術平均値を、引張強度(MPa)と定義する。
[本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の形状]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の形状は特に限定されない。本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材は、鋼管であってもよいし、鋼板であってもよいし、棒鋼であってもよい。
[本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の用途について]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材は、高強度及び耐水素脆性が要求される用途に広く適用可能である。特に、高強度及び耐水素脆性が要求され、降伏強度の安定性を求められる用途に好適である。このような用途としては、たとえば水素をエネルギーとして利用する輸送機器の燃料タンク用鋼材、燃料タンクから燃焼室までをつなぐ配管用鋼材等である。水素をエネルギーとする輸送機器用途に用いられる鋼材の多くは、S-N曲線の有限寿命領域で使用される。なお、当然ではあるが、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材は、無限寿命領域で使用してもよい。たとえば、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材を、水素ステーション用途として用いてもよい。また、実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材は、高圧水素ガスをエネルギーとして利用する輸送機器用途や、輸送機器に水素ガスを供給する水素ステーション用途に限定されない。上述のとおり、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼は、強度及び/又は耐水素脆性が要求される用途に広く適用可能である。
[本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法]
以下、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法を説明する。以降に説明するオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法は、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法のあくまでも一例である。したがって、上述の構成を有するオーステナイト系ステンレス鋼材は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法の好ましい一例である。
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法は、素材を準備する工程(準備工程)と、準備された素材を長時間加熱する工程(長時間加熱工程)と、長時間加熱工程後の素材に対して熱間加工を実施して中間鋼材を製造する工程(熱間加工工程)と、必要に応じて、熱間加工工程後の中間鋼材に対して酸洗処理を実施した後冷間加工を実施する工程(冷間加工工程)と、冷間加工工程後の中間鋼材に対して、熱処理を実施する工程(熱処理工程)とを含む。以下、各工程について説明する。
[準備工程]
準備工程では、上述の式(1)~式(3)を満たす化学組成を有する素材を準備する。素材は第三者から供給されてもよいし、製造してもよい。素材はインゴットであってもよいし、スラブ、ブルーム、ビレットであってもよい。素材を製造する場合、たとえば、次の方法により、素材を製造する。上述の式(1)~式(3)を満たす化学組成を有する溶鋼を製造する。製造された溶鋼を用いて、造塊法によりインゴットを製造する。製造された溶鋼を用いて、連続鋳造法によりスラブ、ブルーム、ビレットを製造してもよい。製造されたインゴット、スラブ、ブルームに対して熱間加工を実施して、ビレットを製造してもよい。たとえば、インゴットに対して熱間鍛造を実施して、円柱状のビレットを製造し、このビレットを素材としてもよい。この場合、熱間鍛造開始直前の素材の温度は特に限定されないが、たとえば、1000~1200℃である。熱間鍛造後の素材の冷却方法は特に限定されない。
[長時間加熱工程]
長時間加熱工程では、準備工程で準備された素材を、1150~1290℃で7.0時間以上保持する。具体的には、素材をバッチ式の加熱炉に装入する。加熱炉に装入した後、上述の加熱温度(1150~1290℃)に素材を加熱する。その後、素材を1150~1290℃で7.0時間以上保持する。
長時間加熱工程により、オーステナイト系ステンレス鋼材のミクロ組織中のオーステナイト面積率を高めることができる。さらに、ミクロ組織中のオーステナイト面積率のばらつきも低減できる。
加熱温度が1290℃を超えれば、鋼材の強度が低下する。加熱温度が1150℃未満であれば、ミクロ組織中のオーステナイト面積率のばらつきを十分に抑えることができない。具体的には、上述のオーステナイト組織均一比A0/A1が0.990未満となったり、1.010を超えたりする。
1150~1290℃の加熱温度での保持時間が7.0時間未満であれば、式(1)~式(3)を満たす化学組成の鋼材において、ミクロ組織中のオーステナイト面積率のばらつきを十分に抑えることができない。具体的には、オーステナイト組織均一比A0/A1が0.990未満となったり、1.010を超えたりする。
1150~1290℃の加熱温度での保持時間が7.0時間以上であれば、式(1)~式(3)を満たす化学組成の鋼材において、ミクロ組織中のオーステナイト面積率のばらつきを十分に抑えることができる。具体的には、オーステナイト組織均一比A0/A1が0.990~1.010の範囲内となる。
加熱温度の好ましい下限は1160℃であり、さらに好ましくは1170℃であり、さらに好ましくは1180℃である。加熱温度の好ましい上限は1280℃であり、さらに好ましくは1270℃であり、さらに好ましくは1260℃である。
1150~1290℃の加熱温度での保持時間の好ましい下限は7.5時間であり、さらに好ましくは8.0時間である。1150~1290℃の加熱温度での保持時間の上限は特に限定されない。しかしながら、1150~1290℃の加熱温度での保持時間が長すぎれば、生産性が低下し、製造コストも高くなる。したがって、1150~1290℃の加熱温度での保持時間の好ましい上限は48.0時間であり、さらに好ましくは32.0時間であり、さらに好ましくは24.0時間である。
長時間加熱工程は、1回実施してもよいし、複数回実施してもよい。長時間加熱工程を複数回実施する場合、1150~1290℃の保持時間は、各長時間加熱工程での1150~1290℃の保持時間の合計値を意味する。
なお、長時間加熱工程を実施することにより、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材のミクロ組織におけるオーステナイト面積率は高まる。具体的には、長時間加熱工程を実施することにより、断面表層部のオーステナイト面積率A1が95.00%以上となり、かつ、断面中心部のオーステナイト面積率A0が95.00%以上となる。
[熱間加工工程]
熱間加工工程では、長時間加熱工程により加熱された素材に対して、熱間加工を実施して、中間鋼材を製造する。中間鋼材はたとえば鋼管であってもよいし、鋼板であってもよいし、棒鋼であってもよい。
中間鋼材が鋼管である場合、熱間加工工程では、次の加工を実施する。素材として、円柱素材を準備する。機械加工により、円柱素材の中心軸に沿った貫通孔を形成する。貫通孔が形成された円柱素材に対して、上述の長時間加熱工程を実施する。長時間加熱工程後の円柱素材に対して、ユジーンセジュルネ法に代表される熱間押出を実施して、中間鋼材(鋼管)を製造する。
熱間押出に代えて、マンネスマン法による穿孔圧延を実施して、鋼管を製造してもよい。この場合、長時間加熱工程後の素材を、穿孔機を用いて穿孔圧延する。穿孔圧延する場合、穿孔比は特に限定されないが、たとえば、1.0~4.0である。穿孔圧延された素材をさらに、マンドレルミル、レデューサ、サイジングミル等により熱間圧延して素管にする。熱間加工工程での累積の減面率は特に限定されないが、たとえば、20~80%である。
中間鋼材が鋼板である場合、熱間加工工程では、次の熱間圧延を実施する。一対のワークロールを備える1又は複数の圧延機を用いる。長時間加熱工程後の素材に対して圧延機を用いて熱間圧延を実施して、鋼板を製造する。
中間鋼材が棒鋼である場合、熱間加工工程では、たとえば、粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とを含む。粗圧延工程では、長時間加熱工程後の素材を熱間圧延してビレットを製造する。粗圧延工程はたとえば、分塊圧延機を用いる。分塊圧延機により素材に対して分塊圧延を実施して、ビレットを製造する。分塊圧延機の下流に連続圧延機が設置されている場合、分塊圧延後のビレットに対してさらに、連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、さらにサイズの小さいビレットを製造してもよい。連続圧延機では、たとえば、一対の水平ロールを有する水平スタンドと、一対の垂直ロールを有する垂直スタンドとが交互に一列に配列される。仕上げ圧延工程では、粗圧延工程後のビレットを周知の温度で再加熱する。このとき、ビレットに対して、再び上述の長時間加熱工程を実施してもよい。仕上げ圧延工程では、加熱後のビレットに対して、連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、棒鋼を製造する。
なお、熱間加工工程として熱間鍛造を実施して、中間鋼材(鋼管、鋼板、棒鋼)を製造してもよい。
[冷間加工工程]
冷間加工工程は必要に応じて実施する。つまり、冷間加工工程は実施しなくてもよい。実施する場合、中間鋼材に対して、酸洗処理を実施した後、冷間加工を実施する。中間鋼材が鋼管又は棒鋼である場合、冷間加工はたとえば、冷間抽伸である。中間鋼材が鋼板である場合、冷間加工はたとえば、冷間圧延である。冷間加工工程を実施することにより、熱処理工程前に、中間鋼材に歪を付与する。これにより、熱処理工程時において再結晶の発現及び整粒化を行うことができる。冷間加工工程での減面率は特に限定されないが、たとえば、10~90%である。
[熱処理工程]
熱処理工程では、熱間加工工程後、又は、冷間加工工程後の中間鋼材に対して熱処理を実施する。熱処理温度はたとえば、1000~1250℃である。熱処理温度が1000℃以上であれば、合金元素を十分に固溶させることができる。一方、熱処理温度が1250℃以下であれば、オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制できる。保持時間は、たとえば5~360分である。熱処理で保持した後、中間鋼材を急冷する。急冷はたとえば、水冷又は油冷である。
以上の工程により、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材を製造できる。上述の製造方法は、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法の一例である。したがって、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法は、上述の製造方法に限定されない。上述の式(1)~式(3)を満たす化学組成を有し、断面表層部のオーステナイト面積率A1に対する、断面中心部のオーステナイト面積率A0の比(=A0/A1)が0.990~1.010の範囲内であれば、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材は、上述の製造方法に限定されない。
表1に示す化学組成を有するインゴットを製造した。
Figure 0007425299000001
表1中の空欄は、対応する元素の含有量が検出限界未満であったことを意味する。各試験番号のインゴットを、表2に記載の加熱温度で、表2に記載の保持時間保持した。加熱後のインゴットに対して熱間加工工程を模擬した熱間鍛造を実施して、中間鋼材(丸棒)を製造した。中間鋼材に対して、冷間加工を実施して、直径100mmの中間鋼材(丸棒)を製造した。試験番号1~11では、冷間加工工程での断面減少率を10%とした。試験番号12では、冷間加工工程での断面減少率を20%とした。冷間加工後の中間鋼材に対して、熱処理を実施した。いずれの試験番号においても、熱処理温度を1100℃とし、熱処理温度での保持時間を30分とした。保持時間経過後の中間鋼板を水冷し、常温まで冷却した。以上の工程により、オーステナイト系ステンレス鋼材(棒鋼)を製造した。
Figure 0007425299000002
[評価試験]
製造した各試験番号のオーステナイト系ステンレス鋼材に対して、次の評価試験を実施した。
[ミクロ組織観察試験]
オーステナイト系ステンレス鋼材を長手方向に3等分に区分した。3等分に区分された各区画領域において、断面表層部P1及び断面中心部P0から、丸棒引張試験片を採取した。丸棒引張試験片の平行部の直径Dは6.0mmとし、標点間距離は5D(つまり平行部の直径の5倍)とした。丸棒引張試験片の長手方向は、オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向と平行とした。各丸棒引張試験片に対して、常温(20℃±15℃)、大気中において、JIS Z2241(2011)に準拠した引張試験を実施して、降伏強度(MPa)を求めた。断面表層部P1から採取した丸棒引張試験片で得られた3つの降伏強度(MPa)のうち、降伏強度が最大値であった区画領域と、断面中心部P0から採取した丸棒引張試験片で得られた3つの降伏強度(MPa)のうち、降伏強度が最小値であった区画領域とを特定した。
断面表層部P1から採取した丸棒引張試験片で得られた3つの降伏強度(MPa)のうち、降伏強度が最大値となった区画領域の断面表層部P1から、ミクロ組織観察用サンプルを採取した。さらに、断面中心部P0から採取した丸棒引張試験片で得られた3つの降伏強度(MPa)のうち、降伏強度が最小値となった区画領域の断面中心部P0から、ミクロ組織観察用サンプルを採取した。具体的には、図3に示すとおり、オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向に垂直な断面において、表面から5mm深さ位置の断面表層部P1からサンプルを採取した。さらに、図3に示すとおり、断面の中心位置である断面中心部P0からサンプルを採取した。サンプルの被検面は、オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向に垂直な断面と平行とした。断面表層部P1のサンプルの被検面、及び、断面中心部P0のサンプルの被検面を、鏡面研磨した。鏡面研磨後の被検面を陽極として、20~50℃の10%蓚酸試験溶液中に浸漬した。エッチング面積1cm当たりの電流を1Aに調整して、90秒エッチングした。エッチング後、サンプルを試験溶液から取り出した。サンプルを流水で洗浄し、乾燥した。
乾燥後の断面表層部P1のサンプルの被検面のうち、任意の1視野(1000μm×1000μm)を100倍の光学顕微鏡で観察して、写真画像を生成した。写真画像のミクロ組織の各相はコントラストにより区別可能であった。そこで、オーステナイトを特定して、視野中のオーステナイトの面積を求めた。求めたオーステナイトの面積の、視野の総面積に対する比(面積%)を、断面表層部でのオーステナイト面積率A1(%)と定義した。
同様に、乾燥後の断面中心部P0のサンプルの被検面のうち、任意の1視野(1000μm×1000μm)を100倍の光学顕微鏡で観察して、写真画像を生成した。オーステナイトを特定して、視野中のオーステナイトの面積を求めた。求めたオーステナイトの面積の、視野の総面積に対する比(面積%)を、断面中心部でのオーステナイト面積率A0(%)と定義した。
得られた断面表層部のオーステナイト面積率A1、及び、断面中心部のオーステナイト面積率A0を用いて、オーステナイト組織均一比(=A0/A1)を求めた。結果を表2の「A0/A1」欄に示す。
[降伏強度ばらつきΔYS及び引張強度測定試験]
各試験番号のオーステナイト系ステンレス鋼材を長手方向に3等分に区画し、各区画領域において、断面表層部P1及び断面中心部P0から、丸棒引張試験片をそれぞれ採取した。丸棒引張試験片の平行部の直径Dは6mmとし、標点間距離は5Dmm(つまり、30mm)とした。丸棒引張試験片の長手方向は、オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向と平行とした。
以上の方法により、断面表層部P1から3つの丸棒引張試験片を作製し、断面中心部P0から3つの丸棒引張試験片を作製した。各丸棒引張試験片に対して、常温(20℃±15℃)、大気中において、JIS Z2241(2011)に準拠した引張試験を実施して、降伏強度(MPa)及び引張強度(MPa)を求めた。降伏強度は0.2%オフセット耐力とした。得られた6つの降伏強度の最大値と最小値との差分を、降伏強度ばらつきΔYS(MPa)と定義した。また、得られた引張強度の算術平均値を、その試験番号のオーステナイト系ステンレス鋼材の引張強度(MPa)とした。得られた降伏強度ばらつきを表2の「ΔYS」欄に示す。得られた引張強度を、表2の「TS」欄に示す。
[耐水素脆性評価試験]
各試験番号のオーステナイト系ステンレス鋼材の耐水素脆性を評価するため、低ひずみ速度引張試験を実施した。各試験番号の鋼材の長手方向に垂直な断面での断面中心部P0から、2つの丸棒引張試験片(第1及び第2試験片)を採取した。丸棒引張試験片の平行部はいずれも、鋼材(棒鋼)の長手方向に平行であった。丸棒引張試験片の平行部の直径は3mmであった。第1試験片に対して、常温(20℃±15℃)の大気中にて引張試験(大気引張試験という)を実施し、破断伸びBEAirを測定した。さらに、第2試験片に対して、常温(25℃)、90MPaの高圧水素雰囲気中で引張試験(水素引張試験という)を実施し、破断伸びBEを測定した。大気引張試験及び水素引張試験のいずれにおいても、ひずみ速度を3×10-6/sとした。得られた破断伸びBEAir及びBEを式(4)に代入し、相対破断絞りRRA(Relationship between relative reduction of area)(%)を算出した。結果を表2の「RRA」の欄に示す。
相対破断絞りRRA(%)=BE/BEAir×100 (4)
[評価結果]
表1及び表2を参照して、試験番号1~試験番号5及び試験番号13のオーステナイト系ステンレス鋼材では、化学組成中の各元素の含有量が適切であり、かつ、式(1)~式(3)を満たした。さらに、断面表層部のオーステナイト面積率A1及び断面中心部のオーステナイト面積率A0はいずれも95.00%以上であり、かつ、オーステナイト組織均一比A1/A0が0.990~1.010の範囲内であった。そのため、引張強度は650MPa以上であり、相対破断絞りが80%以上であった。つまり、高強度及び優れた耐水素脆性の両立が可能であった。さらに、降伏強度ばらつきΔYSが14.0MPa以下であり、降伏強度が安定していた。
一方、試験番号6のオーステナイト系ステンレス鋼材では、N含有量が低すぎ、さらに、式(3)を満たさなかった。そのため、引張強度が613MPaであり、強度が低かった。
試験番号7のオーステナイト系ステンレス鋼材では、化学組成中の各元素の含有量は適切であったものの、式(3)を満たさなかった。そのため、引張強度が637MPaであり、強度が低かった。
試験番号8のオーステナイト系ステンレス鋼材では、化学組成中の各元素の含有量は適切であったものの、式(2)を満たさなかった。そのため、相対破断絞りが78%であり、耐水素脆性が低かった。
試験番号9のオーステナイト系ステンレス鋼材では、化学組成中の各元素の含有量は適切であったものの、式(1)及び式(2)を満たさなかった。そのため、相対破断絞りが67%であり、耐水素脆性が低かった。
試験番号10のオーステナイト系ステンレス鋼材では、Ni含有量が低すぎ、さらに、式(1)を満たさなかった。そのため、相対破断絞りが53%であり、耐水素脆性が低かった。
試験番号11及び12のオーステナイト系ステンレス鋼材では、化学組成中の各元素含有量は適切であり、式(1)~式(3)を満たした。しかしながら、加熱工程での加熱温度での保持時間が短すぎた。そのため、オーステナイト組織均一比A1/A0が0.990~1.010の範囲外となった。そのため、降伏強度ばらつきΔYSが14.0MPaを超え、降伏強度のばらつきが大きかった。
試験番号14のオーステナイト系ステンレス鋼材では、化学組成中の各元素の含有量は適切であったものの、式(1)を満たさなかった。そのため、相対破断絞りが68%であり、耐水素脆性が低かった。
試験番号15のオーステナイト系ステンレス鋼材では、化学組成中の各元素の含有量は適切であったものの、式(2)を満たさなかった。そのため、相対破断絞りが70%であり、耐水素脆性が低かった。
試験番号16のオーステナイト系ステンレス鋼材では、化学組成中の各元素の含有量は適切であったものの、式(3)を満たさなかった。そのため、引張強度が597MPaであり、強度が低かった。
試験番号17のオーステナイト系ステンレス鋼材では、化学組成中の各元素含有量は適切であり、式(1)~式(3)を満たした。しかしながら、加熱工程での加熱温度での保持時間は4.0時間であり、短すぎた。そのため、オーステナイト組織均一比A1/A0が0.990~1.010の範囲外となった。そのため、降伏強度ばらつきΔYSが14.0MPaを超え、降伏強度のばらつきが大きかった。
以上、本実施形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (3)

  1. オーステナイト系ステンレス鋼材であって、
    化学組成が、質量%で、
    C:0.100%以下、
    Si:1.00%以下、
    Mn:1.50~6.00%、
    P:0.050%以下、
    S:0.030%以下、
    Ni:4.0~12.0%、
    Cr:17.0~19.0%、
    N:0.12~0.30%、
    Nb:0.01~0.20%、
    V:0.01~0.10%、
    Mo:0~0.10%、
    Cu:0~0.5%、及び、
    残部はFe及び不純物からなり、式(1)~式(3)を満たし、
    前記オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向に垂直な断面において、前記オーステナイト系ステンレス鋼材の表面から5mm深さ位置でのオーステナイト面積率A1(%)に対する、前記断面の中心位置でのオーステナイト面積率A0(%)の比A0/A1が0.990~1.010である、
    オーステナイト系ステンレス鋼材。
    -7.1+2.7Ni+0.49Cr+2.0Mo-2.0Si+0.75Mn-5.7C-24N≧10.00 (1)
    Ni+0.72Cr+0.88Mo+1.11Mn-0.27Si+12.93C+0.53Cu+7.55N≧25.00 (2)
    C+N≧0.22 (3)
    ここで、式(1)~式(3)の各元素記号には、前記化学組成中の対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
  2. 請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材であって、
    前記化学組成は、
    Mo:0.01~0.10%を含有する、
    オーステナイト系ステンレス鋼材。
  3. 請求項1又は請求項2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材であって、
    前記化学組成は質量%で、
    Cu:0.1~0.5%を含有する、
    オーステナイト系ステンレス鋼材。
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