JP2022157455A - フラックス入りワイヤ及び溶接継手の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】フラックス入りワイヤ及び溶接継手の製造方法を提供する。【解決手段】鋼製外皮と前記鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを備える溶接用のフラックス入りワイヤであって、窒化物を含み、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、N含有量が0.003~40.00%であり、式1と式2をともに満足するフラックス入りワイヤ。0.03<[W]+[Sn]+[Sb]≦30.00 ・・・式10.05≦[Cu]+[Ni]+[Cr]+[Mo]+[W]+[Sn]+[Sb]≦55.00 ・・・式2式1、式2中の角括弧で囲まれた元素記号は、前記フラックス入りワイヤに含まれる各元素の、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量である。【選択図】なし

Description

本開示は、フラックス入りワイヤ及び溶接継手の製造方法に関する。
近年、建設機械、産業機械の大型化、軽量化の要求が増加しており、それに伴って使用される鋼板も780MPa級鋼、980MPa級鋼などの超高張力鋼板が使用されるようになっている。これらの超高張力鋼板が使用される理由は、製品の軽量化、そして鋼材使用量が減ることで鋼材費用や運搬費用が減少すること、鋼材が薄手になり単重が減ることで、鋼材の取り回しが良く、溶接量も軽減することから、製造工期短縮、施工コスト削減が期待されるためである。
高強度の極厚鋼板の溶接では、低温割れ、すなわち溶接後、溶接部の温度が常温付近に低下してから溶接部に発生する割れを抑制するために予熱作業が行われている。
また、超高張力鋼板の溶接では、溶接金属の耐食性、耐高温割れ性も求められる場合がある。
例えば、特許文献1には、溶接作業性、溶接金属の耐低温割れ性などを考慮してフラックスが金属弗化物等を含むフラックス入りワイヤが開示されている。
特許文献2には、溶接作業性、溶接金属の耐高温割れ性などを考慮してBaF等を所定量含むフラックス入りワイヤが開示されている。
特許文献3には、溶接金属の耐食性、耐高温割れ性などを考慮したフラックス入りワイヤとして、ワイヤの総重量を基準として、コアとなるフラックスが約3重量%~約20重量%の間の濃度のアルミニウム(Al)を含む溶接ワイヤが開示されている。
さらに、特許文献4には、コアがCr、Mn、Ni、Cをそれぞれ所定量含む溶接ワイヤが開示されている。
特開2001-300768号公報 特開2017-24032号公報 特開2019-63870号公報 特開2019-34340号公報
特許文献1~4のように、溶接作業性、溶接金属の耐低温割れ性、高温割れ性、耐食性などを考慮したフラックス入りワイヤが種々提案されているが、これらの性質をいずれも満たすフラックス入りワイヤが望ましい。なお、低温割れの発生を抑制しつつ且つ予熱作業を省略又は簡易化するためには、溶接時の拡散性水素を低減することが有効である。
本開示は、上記のような状況に鑑みて成されたものであり、鋼材の予熱作業を行うことなく又は簡易的な予熱作業のみで溶接を行うことができ、溶接金属の耐食性に優れ、溶接金属中の拡散性水素量を低減することで低温割れを抑制し、かつ、高温割れも抑制することができるフラックス入りワイヤ及び溶接継手の製造方法を提供することを目的とする。
本開示の要旨は次のとおりである。
<1> 鋼製外皮と前記鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを備える溶接用のフラックス入りワイヤであって、
窒化物を含み、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、N含有量が0.003~40.00%であり、式1と式2をともに満足するフラックス入りワイヤ。
0.03<[W]+[Sn]+[Sb]≦30.00 ・・・式1
0.05≦[Cu]+[Ni]+[Cr]+[Mo]+[W]+[Sn]+[Sb]≦55.00 ・・・式2
式1、式2中の角括弧で囲まれた元素記号は、前記フラックス入りワイヤに含まれる各元素の、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量である。
<2> 前記フラックス入りワイヤの、前記窒化物、酸化物、弗化物、及び炭酸塩を除く化学成分が、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、
C:0.003~0.500%、
Si:0~3.50%、
Mn:0~10.00%、
P:0~0.030%、
S:0~0.020%、
W:0~10.00%、
Sn:0~10.00%、
Sb:0~10.00%、
Cu:0~10.00%、
Ni:0~50.00%、
Cr:0~50.00%、
Mo:0~50.00%、
Nb:0~0.50%、
V:0~0.50%、
Ti:0~0.50%、
Al:0~1.00%、
B:0~0.100%、
Mg:0~2.00%、
Ca:0~2.00%、
Zr:0~0.50%、
REM:0~0.50%、
Bi:0~0.300%、並びに
残部:Fe及び不純物からなる<1>に記載のフラックス入りワイヤ。
<3> 前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、Ti酸化物を0.20~8.00%含み、かつ、Fe酸化物、Ba酸化物、Na酸化物、Si酸化物、Zr酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Mn酸化物、K酸化物及びCa酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0~3.0%含む<1>又は<2>に記載のフラックス入りワイヤ。
<4> 弗化物を含み、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、F含有量が0.002~30.000%である<1>~<3>のいずれか1つに記載のフラックス入りワイヤ。
<5> MgCO、NaCO、LiCO、CaCO、KCO、BaCO、FeCO、MnCO及びSrCOからなる群から選択される1種又は2種以上の炭酸塩を含み、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、前記炭酸塩の合計含有量が5.000%以下である<1>~<4>のいずれか1つに記載のフラックス入りワイヤ。
<6> 表面にポリテトラフルオロエチレン油及びパーフルオロポリエーテル油の一方又は両方が塗布されている<1>~<5>のいずれか1つに記載のフラックス入りワイヤ。
<7> 前記窒化物が、AlN、BN、Ca、CeN、CrN、CuN、FeN、FeN、FeN、MgN、MoN、NbN、Si、TiN、VN、ZrN、MnN、及びMnNからなる群より選択される1種又は2種以上である<1>~<6>のいずれか1つに記載のフラックス入りワイヤ。
<8> <1>~<7>のいずれか1つに記載のフラックス入りワイヤを用いて鋼材をガスシールドアーク溶接する工程を備える溶接継手の製造方法。
本開示によれば、鋼材の予熱作業を行うことなく又は簡易的な予熱作業のみで溶接を行うことができ、溶接金属の耐食性に優れ、溶接金属中の拡散性水素量を低減することで低温割れを抑制し、かつ、高温割れも抑制することができるフラックス入りワイヤ及び溶接継手の製造方法が提供される。
実施例における溶接金属の耐食性評価用の耐食試験片の切出位置Aを示す説明図である。 実施例における全面腐食試験に用いた腐食試験装置の様子を説明するための模式図である。 実施例における局部腐食(孔食)試験に用いた腐食試験装置の様子を説明するための模式図である。
本開示の一例である実施形態について説明する。
なお、本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値に「超」及び「未満」が付されていない場合は、これらの数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、「~」の前後に記載される数値に「超」又は「未満」が付されている場合の数値範囲は、これらの数値を下限値又は上限値として含まない範囲を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階的な数値範囲の上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。さらに、ある段階的な数値範囲の下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、含有量について、「%」は「質量%」を意味する。
含有量(%)として「0~」は、その成分は任意成分であり、含有しなくてもよいことを意味する。
まず、本開示に係るフラックス入りワイヤ及び溶接継手の製造方法の完成に至った経緯及びメカニズムについて説明する。
高強度の極厚鋼板の溶接では、低温割れを抑制するために予熱作業が行われている。低温割れの発生を抑制しつつ且つ予熱作業を省略又は簡易化するためには、溶接時の拡散性水素を低減することが有効となる。
例えば、拡散性水素量を低減するために、フラックス又は溶接ワイヤに弗化物を添加することが報告されている。このメカニズムは、溶接材料中の弗化物がアークで乖離し、アーク雰囲気の水素分圧が弗素により低下し、溶融プール中に溶ける水素が低減するからだと考えられている。
しかし、ワイヤが弗化物を含む場合、溶接作業時にヒュームが多く発生し、作業性の低下につながり得る。そこで、本発明者は弗化物以外の材料を用いることを検討したところ、ワイヤが窒化物を含むことで弗化物と同等の効果が得られることを見出した。すなわち、溶接材料中の窒化物がアークで乖離して窒素が生じることで、アーク雰囲気の水素分圧が下がり、溶融プール中に溶ける水素が低減すると推定される。また、窒化物中のNが溶接中に水素(H)と結合してアンモニア(NH)となり、このNHが溶接金属外に放出されることも理由の一つであると推測される。そして、窒化物を含むワイヤであれば、溶接時にヒュームの発生が抑制される。
一方、溶接部の耐食性を向上させるには、耐食性の向上に寄与する元素(本明細書において「耐食元素」と称する場合がある。)、例えば、W、Sn、Sb、Cu、Ni、Cr、Moなどをフラックス入りワイヤに含ませることが有効である。
ところが、これらの耐食元素を含むフラックス入りワイヤを用いると、W、Sn、Sbは溶接金属における低温割れや高温割れ(本明細書では、低温割れ及び高温割れを合わせて「割れ」と称する場合がある。)を助長してしまう。しかし、ワイヤが窒化物を含むことで溶接金属における割れの発生も抑制されることが分かった。そのメカニズムは定かでないが、ワイヤのフラックス中に含まれる窒化物及び鋼製外皮に含まれる窒素に起因するNにより、溶接金属における旧オーステナイト粒径が微細化することで割れの発生が抑制されると考えられる。溶接金属における旧オーステナイト粒径が微細化する原因としては、引きずり効果(ソリュートドラッグ効果)の発生、すなわち、Nが粒界に偏析し、粒界移動速度が小さくなり、旧オーステナイト粒径が微細化するためと推測される。
<フラックス入りワイヤ>
本開示に係るフラックス入りワイヤは、鋼製外皮と前記鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを備える溶接用のフラックス入りワイヤであり、窒化物を含み、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、N含有量が0.003~40.00%であり、式1と式2をともに満足する。
0.03<[W]+[Sn]+[Sb]≦30.00 ・・・式1
0.05≦[Cu]+[Ni]+[Cr]+[Mo]+[W]+[Sn]+[Sb]≦55.00 ・・・式2
式1、式2中の角括弧で囲まれた元素記号は、フラックス入りワイヤに含まれる各元素の、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量である。
なお、式1、式2における上記各元素の含有量とは、各元素が金属元素の単体として含有される場合の量に加えて、窒化物、酸化物、弗化物、及び炭酸塩等の化合物として含有される場合の元素としての量との合計量を表す。
以下、本開示に係るフラックス入りワイヤを構成する要件(任意要件も含む)の限定理由について具体的に説明する。
本開示に係るフラックス入りワイヤは、上述のように、窒化物を含み、N含有量が0.003~40.00%であり、式1と式2をともに満足する。
0.03<[W]+[Sn]+[Sb]≦30.00 ・・・式1
0.05≦[Cu]+[Ni]+[Cr]+[Mo]+[W]+[Sn]+[Sb]≦55.00 ・・・式2
本開示に係るフラックス入りワイヤ(特にフラックス)は、好ましくは、上記以外に、酸化物、弗化物、及び/又は炭酸塩を含む。以下に、これらの成分について詳細に説明する。なお、以下の説明において「%」は、特に説明がない限り、「フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%」を意味する。
0.03<[W]+[Sn]+[Sb]≦30.00 ・・・式1
W、Sn、Sb(本明細書において、これらの元素を「第1耐食元素群」と総称する場合がある。)は、それぞれ耐食性を向上させる元素である。ただし、第1耐食元素群の合計含有量が少な過ぎると溶接金属の耐食性を十分向上させることができない。そこで、本開示に係るフラックス入りワイヤは、溶接金属の耐食性を向上させる観点から、第1耐食元素群の合計含有量は0.03%超とする。第1耐食元素群の合計含有量の下限は0.05%、0.10%、又は0.15%であってもよい。
一方、第1耐食元素群の合計含有量が高過ぎると、溶接金属の高温割れが発生し易くなる。そのため、第1耐食元素群の合計含有量は30.00%以下とする。第1耐食元素群の合計含有量の上限値は20.00%、15.00%、又は10.00%であってもよい。
なお、本開示に係るフラックス入りワイヤは、耐食性を確保する観点から、Sn及びSbの少なくとも一方を含有することが好ましい。
0.05≦[Cu]+[Ni]+[Cr]+[Mo]+[W]+[Sn]+[Sb]≦55.00 ・・・式2
Cu、Ni、Cr、Mo(本明細書において、これらの元素を「第2耐食元素群」と総称する場合がある。)は、第1耐食元素群ほどではないが、それぞれ耐食性を向上させる元素である。そこで、本開示に係るフラックス入りワイヤは、第1耐食元素群による耐食性の向上に加え、さらに耐食性を向上させるため、第1耐食元素群と第2耐食元素群との合計含有量を0.05%以上とする。第1耐食元素群と第2耐食元素群との合計含有量の下限値は0.08%、0.10%、又は0.15%であってもよい。
一方、第1耐食元素群と第2耐食元素群との合計含有量が高過ぎると溶接金属の高温割れが発生し易くなる。そのため、第1耐食元素群と第2耐食元素群との合計含有量は55.00%以下とする。第1耐食元素群と第2耐食元素群との合計含有量の上限値は50.00%、40.00%、又は30.00%であってもよい。
なお、式1と式2を満たすため、第2耐食元素群の合計含有量は、0%以上、かつ54.97%未満となる。
第1耐食元素群及び第2耐食元素群の各元素の好ましい含有量については後述する。
(窒化物)
本開示に係るフラックス入りワイヤは窒化物を含んでおり、窒化物は溶接金属における割れの発生の抑制に寄与する。鋼製外皮に窒化物を含んでもよいが、ワイヤの全質量に対するN含有量を後述する範囲に制御し易い観点から、少なくともフラックス中に窒化物を含むことが好ましい。フラックス入りワイヤ中(特にフラックス中)の窒化物は、溶接金属中の拡散性水素量を減少させて、溶接金属の耐低温割れ性を顕著に向上させる働きを有する。この理由は明らかではないが、溶接材料中の窒化物がアークで乖離して窒素が生じることで、アーク雰囲気の水素分圧が下がり、溶融プール中に溶ける水素が低減すると推定される。また、窒化物中のNが溶接中に水素(H)と結合してアンモニア(NH)となり、このNHが溶接金属外に放出されることも理由の一つであると推測される。
一方、本開示に係るフラックス入りワイヤに含まれる第1耐食元素群のW、Sn、Sbは低温割れや高温割れを助長する元素である。これらの耐食元素は融点が低く、溶接作業の際、溶接金属中で固まり難く、偏析し易いことが割れを助長する原因と考えられる。しかし、本開示に係るフラックス入りワイヤは窒化物を含むことで、低温割れや高温割れの発生が抑制される。
本開示に係るフラックス入りワイヤに含ませることができる窒化物としては、例えば、AlN、BN、Ca、CeN、CrN、CuN、FeN、FeN、FeN、MgN、MoN、NbN、Si、TiN、VN、ZrN、MnN、及びMnNが挙げられる。本開示に係るフラックス入りワイヤが、これらの窒化物のいずれか1種又は2種以上を含有し、且つ、これら以外の窒化物を含まない場合、N含有量は下記の式Aにより表される。
式A:N含有量=0.342×AlN+0.564×BN+0.189×Ca+0.091×CeN+0.212×CrN+0.068×CuN+0.059×FeN+0.077×FeN+0.111×FeN+0.161×MgN+0.068×MoN+0.131×NbN+0.399×Si+0.226×TiN+0.216×VN+0.133×ZrN+0.113×MnN+0.06×Mn
ここで、式A中の窒化物の化学式は、各化学式に対応する窒化物の、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%を示す。各窒化物の化学式の係数は、各窒化物の化学式量から算出したものである。
また、上記に列挙した窒化物以外の窒化物を含む場合、N含有量は各窒化物の化学式量から、上記式Aに準じて算出する。
(N:0.003~40.00%)
本開示に係るフラックス入りワイヤは、フラックス入りワイヤの全質量に対して0.003~40.00%のNを含む。
フラックス入りワイヤに含まれる窒素量は、JIS G1228:1997を用いて分析して、測定する。
フラックス入りワイヤ全体中のN含有量の合計が0.003%以上であれば、溶接金属中の拡散性水素量が十分に低減され、溶接金属の耐低温割れ性が向上する。従って、本開示に係るフラックス入りワイヤは、窒化物を含み、N含有量を0.003%以上にする。
溶接金属の拡散性水素量をさらに低減させるために、N含有量の下限を0.005%、0.008%、0.010%、0.015%、0.020%又は0.022%としてもよい。
本開示におけるフラックス入りワイヤは、拡散性水素量を低減する観点では、N含有量の上限は特に制限されないが、鋼製外皮の内部にフラックスの充填がなされることを考慮すると、N含有量の上限は40.00%である。N含有量の上限は、35.00%であってもよく、30.00%であってもよく、25.00%であってもよい。
なお、鋼製外皮に含まれるNはワイヤ全体に対する比率が小さく、本開示に係るフラックス入りワイヤにおけるN含有量は、主にフラックス中に含まれる窒化物の種類、含有量によって調整することができる。
なお、本開示に係るフラックス入りワイヤは、フラックス中に窒化物として含まれる窒素のN含有量がフラックス入りワイヤの全質量に対して0.002%以上であることが好ましい。また、溶接金属の拡散性水素量をさらに低減させるために、フラックス中に窒化物として含まれる窒素のN含有量の下限を、フラックス入りワイヤの全質量に対して0.005%、0.008%、0.010%、0.015%、0.020%又は0.022%としてもよい。また、鋼製外皮の内部にフラックスの充填がなされることを考慮すると、実質的に、フラックス中に窒化物として含まれる窒素のN含有量の上限は、フラックス入りワイヤの全質量に対して15.00%であることが好ましく、10.00%であってもよく、8.00%であってもよく、5.00%であってもよい。
次に、本開示に係るフラックス入りワイヤにおける、窒化物、酸化物、弗化物、及び炭酸塩を除く化学成分について説明する。
以下に説明する化学成分は、鋼製外皮に含まれてもよいし、フラックスに含まれてもよい。また、本開示に係るフラックス入りワイヤが鋼製外皮の外表面にめっき層を有する場合は、めっき層に含まれてもよい。以下の説明において「窒化物、酸化物、弗化物、及び炭酸塩を除く化学成分」を単に「化学成分」と称する場合がある。
本開示に係るフラックス入りワイヤの窒化物、酸化物、弗化物、及び炭酸塩を除く化学成分は、
C:0.003~0.500%、
Si:0~3.50%、
Mn:0~10.00%、
P:0~0.030%、
S:0~0.020%、
W:0~10.00%、
Sn:0~10.00%、
Sb:0~10.00%、
Cu:0~10.00%、
Ni:0~50.00%、
Cr:0~50.00%、
Mo:0~50.00%、
Nb:0~0.50%、
V:0~0.50%、
Ti:0~0.50%、
Al:0~1.00%、
B:0~0.100%、
Mg:0~2.00%、
Ca:0~2.00%、
Zr:0~0.50%、
REM:0~0.50%、
Bi:0~0.300%、並びに
残部:Fe及び不純物からなることが好ましい。
(C:0.003~0.500%)
Cは、固溶強化によって溶接金属の耐力及び引張強さを確保するために重要な元素である。フラックス入りワイヤの化学成分のC含有量が0.003%以上であることで、溶接金属の耐力及び引張強さを十分に確保できる。
一方、フラックス入りワイヤの化学成分のC含有量が0.500%以下であることで、溶接金属中のC含有量が適量に保たれ、溶接金属の耐力及び引張強さの過度な上昇が抑制され、溶接金属の靭性が高められる。
そのため、溶接金属の靭性、耐力、及び引張強さの全てを安定的に確保するためには、フラックス入りワイヤの化学成分のC含有量の下限値を0.003%にすることが好ましく、フラックス入りワイヤの化学成分のC含有量の上限値を0.500%にすることが好ましい。必要に応じて、C含有量の下限を0.010%、0.020%、0.030%、0.040%、0.050%、又は0.060%としてもよい。同様に、C含有量の上限を0.450%、0.400%、0.350%、0.300%、又は0.250%としてもよい。
(Si:0~3.50%)
Siは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のSi含有量の下限値は0%である。
一方、Siは脱酸元素であり、溶接金属の酸素量を低減して溶接金属の清浄度を高める働きを有する。ただし、Siが3.50%以下であることで溶接金属の靱性低下を抑制できるため、これを上限とすることが好ましい。また、溶接金属の靭性を安定して確保するには、Siの上限は、3.00%、2.00%又は1.00%としてもよい。上記の効果を得るため、Si含有量の下限を0.40%、0.45%、0.50%、又は0.60%としてもよい。
(Mn:0~10.00%)
Mnは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のMn含有量の下限値は0%である。
一方、Mnは、溶接金属の焼入性を確保して溶接金属の強度を高めるために有効な元素である。フラックス入りワイヤの化学成分のMn含有量が10.00%以下であることで、溶接金属の粒界脆化感受性が低減され、溶接金属の靱性低下を抑制できる。従って、Mn含有量の上限値を10.00%とすることが好ましい。好ましくは、Mn含有量の上限値は9.50%、9.00%、8.00%、又は6.00%である。上記の効果を得るため、Mn含有量の下限を0.40%、0.45%、0.50%、又は0.60%としてもよい。
(P:0~0.030%)
Pは不純物元素であり、溶接金属の靱性低下を抑制する観点で、フラックス入りワイヤ中のP含有量は極力低減させることが好ましい。従って、フラックス入りワイヤの化学成分のP含有量の下限値は0%である。また、フラックス入りワイヤの化学成分のP含有量が0.030%以下であれば、溶接金属の靱性の低下を抑制できる。溶接金属の凝固割れを効果的に抑制するために、フラックス入りワイヤの化学成分のP含有量は、より好適には、0.020%以下、0.015%以下、又は0.010%以下である。
(S:0~0.020%)
Sも不純物元素であり、溶接金属の靱性と延性との低下を抑制する観点で、フラックス入りワイヤ中のS含有量は極力低減させることが好ましい。従って、フラックス入りワイヤの化学成分のS含有量の下限値は0%である。また、フラックス入りワイヤの化学成分のS含有量が0.020%以下であれば、溶接金属の靱性及び延性の低下を抑制できる。フラックス入りワイヤの化学成分のS含有量は、より好適には、0.015%以下、0.010%以下、0.008%以下、0.006%以下、又は0.005%以下である。
(W:0~10.00%)
Wは溶接金属の耐食性を向上させるために有効な元素であるが、前述したようにフラックス入りワイヤ中にW、Sn、及びSbの合計含有量として0.03%超~30.00%の範囲で含有すればよく、Wは必須成分ではない。そのため、フラックス入りワイヤの化学成分のW含有量の下限値は0%である。一方、フラックス入りワイヤの化学成分のW含有量が10.00%以下であることで、溶接金属での割れの発生が抑制できる。従って、フラックス入りワイヤの化学成分のW含有量の上限値を10.00%とすることが好ましい。より好ましくは、W含有量の上限値は9.50%、9.00%、8.00%、又は6.00%である。必要に応じて、W含有量の下限を0.01%、0.03%、0.50%、又は0.60%としてもよい。
(Sn:0~10.00%)
Snは溶接金属の耐食性を向上させるために有効な元素であるが、フラックス入りワイヤ中にW、Sn、及びSbの合計含有量として0.03%超~30.00%の範囲で含有すればよく、Snは必須成分ではない。そのため、フラックス入りワイヤの化学成分のSn含有量の下限値は0%である。一方、フラックス入りワイヤの化学成分のSn含有量が10.00%以下であることで、溶接金属での割れの発生が抑制できる。従って、フラックス入りワイヤの化学成分のSn含有量の上限値を10.00%とすることが好ましい。より好ましくは、Sn含有量の上限値は9.50%、9.00%、8.00%、又は6.00%である。必要に応じて、Sn含有量の下限を0.01%、0.03%、0.50%、又は0.60%としてもよい。
(Sb:0~10.00%)
Sbは溶接金属の耐食性を向上させるために有効な元素であるが、フラックス入りワイヤ中にW、Sn、及びSbの合計含有量として0.03%超~30.00%の範囲で含有すればよく、Sbは必須成分ではない。そのため、フラックス入りワイヤの化学成分のSb含有量の下限値は0%である。一方、フラックス入りワイヤの化学成分のSb含有量が10.00%以下であることで、溶接金属での割れの発生が抑制できる。従って、フラックス入りワイヤの化学成分のSb含有量の上限値を10.00%とすることが好ましい。より好ましくは、Sb含有量の上限値は9.50%、9.00%、8.00%、又は6.00%である。必要に応じて、Sb含有量の下限を0.01%、0.03%、0.50%、又は0.60%としてもよい。
なお、前述したように、第1耐食元素群として、Sn及びSbの少なくとも1種を含むことが好ましい。
(Cu:0~10.00%)
Cuは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のCu含有量の下限値は0%である。
一方、Cuは、溶接金属の強度と靭性を向上させる効果を有する。その効果を十分に得るためには、フラックス入りワイヤの化学成分のCu含有量を0.01%以上とすることが好ましい。Cuは、フラックス入りワイヤの鋼製外皮の表面のめっきに含まれてもよく、フラックスに単体又は合金として含まれてもよい。Cuめっきは、防錆性、通電性、及び、耐チップ磨耗性を向上させる効果も有する。
従って、フラックス入りワイヤの化学成分のCu含有量は、鋼製外皮及びフラックスに含有されているCuと、ワイヤ表面のめっきに含まれるCuとの合計量である。
一方、フラックス入りワイヤの化学成分のCu含有量が10.00%以下であることで、溶接金属の靭性の低下を抑制できる。そのため、Cu含有量を10.00%以下とすることが好ましい。フラックス入りワイヤの化学成分のCu含有量の上限値は、好ましくは9.00%、8.00%、7.00%、6.00%、5.00%、4.00%、3.00%、又は2.00%である。
(Ni:0~50.00%)
Niは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のNi含有量の下限値は0%である。
一方、Niは、溶接金属の靭性を向上させるために有効な元素である。ただし、フラックス入りワイヤの化学成分のNi含有量が50.00%以下であることで、溶接金属の耐高温割れ性の低下を抑制できる。従って、フラックス入りワイヤの化学成分のNi含有量の上限値を50.00%以下とすることが好ましい。より好ましくは、Ni含有量の上限値は45.00%、40.00%、35.00%、又は30.00%である。溶接金属の靭性を向上させる効果を得るため、Ni含有量は、0.10%以上、0.30%以上、0.50%以上、又は1.00%以上とすることが好ましい。
(Cr:0~50.00%)
Crは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のCr含有量の下限値は0%である。
一方、Crは、溶接金属の焼入性を確保して溶接金属の強度を高めるために有効な元素である。ただし、フラックス入りワイヤの化学成分のCr含有量が50.00%以下であることで、溶接金属の靱性の低下を抑制できる。従って、Cr含有量の上限値を50.00%とすることが好ましい。より好ましくは、Cr含有量の上限値は45.00%、40.00%、35.00%、又は30.00%である。溶接金属の強度を高める効果を得るため、必要に応じて、本開示に係るフラックス入りワイヤにおけるCr含有量の下限を0.01%、0.05%、0.10%、又は0.20%としてもよい。
(Mo:0~50.00%)
Moは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のMo含有量の下限値は0%である。
一方、Moは、溶接金属の焼入性を向上させる効果を有するので、溶接金属の高強度化に有効な元素である。その効果を得るためには、フラックス入りワイヤの化学成分のMo含有量の下限値を0.01%、0.05%、0.10%又は0.15%とすることが好ましい。一方、フラックス入りワイヤの化学成分のMo含有量が50.00%以下であることで、溶接金属の靭性の低下を抑制できる。従って、フラックス入りワイヤの化学成分のMo含有量は、50.00%以下とすることが好ましい。フラックス入りワイヤの化学成分のMo含有量の上限値は、好ましくは48.00%、45.00%、40.00%、30.00%、又は10.00%である。
(Nb:0~0.50%)
Nbは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のNb含有量の下限値は0%である。
一方、Nbは、溶接金属において微細炭化物を形成し、この微細炭化物が溶接金属中で析出強化を生じさせるので、Nbは溶接金属の引張強さを向上させる。その効果を十分に得るためには、フラックス入りワイヤの化学成分のNb含有量の下限値を0.005%、0.010%、0.015%又は0.020%とすることが好ましい。
一方、フラックス入りワイヤの化学成分のNb含有量が0.50%以下であることで、Nbによる溶接金属中での粗大な析出物の形成が抑制され、溶接金属の靭性の低下を抑制できる。そのため、フラックス入りワイヤの化学成分のNb含有量の上限値は、好ましくは0.50%であり、より好ましくは0.45%、0.40%、0.30%、又は0.20%である。
(V:0~0.50%)
Vは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のV含有量の下限値は0%である。
一方、Vは溶接金属の焼入性を向上させるので、溶接金属の高強度化に有効な元素である。その効果を十分に得るためには、フラックス入りワイヤの化学成分のV含有量の下限値を0.001%、0.01%、0.03%又は0.05%とすることが好ましい。
一方、フラックス入りワイヤの化学成分のV含有量が0.50%以下であることで、溶接金属中のV炭化物の析出量が増え過ぎず、溶接金属の過剰な硬化が抑制されて、溶接金属の靭性の低下を抑制できる。そのため、フラックス入りワイヤの化学成分のV含有量の上限値は、好ましくは0.50%であり、より好ましくは0.40%、0.30%、0.20%、0.10%、又は0.08%である。
(Ti:0~0.50%)
Tiは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のTi含有量の下限値は0%である。
一方、Tiは脱酸元素であり、溶接金属中の酸素量を低減させる効果がある。また、フラックス入りワイヤの化学成分に含まれるTiは、溶接金属中に僅かに残留して固溶Nを固定するので、固溶Nが溶接金属の靱性に及ぼす悪影響を緩和する効果を有する。従って、フラックス入りワイヤの化学成分が0.001%以上、0.01%以上、0.03%以上、又は0.05%以上のTiを含有してもよい。
一方、フラックス入りワイヤの化学成分のTi含有量が0.50%以下であることで、溶接金属において過度な析出物の生成が抑制されて、靱性の低下を抑制できる。なお、フラックス入りワイヤの化学成分にTiを含有させる場合、一般的には、フェロチタン(鉄とチタンとの合金)をフラックス中に含有させる。フラックス入りワイヤの化学成分のTi含有量の上限値は、好ましくは0.50%であり、より好ましくは0.40%、0.30%、0.20%、0.10%、又は0.08%である。
なお、本開示に係るフラックス入りワイヤは、後述するようにTi酸化物を0.20~8.00%含有することが好ましいが、Ti酸化物を含む場合、上記Ti含有量は、Ti酸化物を構成するTi以外の含有量である。
(Al:0~1.00%)
Alは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のAl含有量の下限値は0%である。
一方、Alは脱酸元素であり、Siと同様に、溶接金属中の酸素量を低減させ、溶接金属の清浄度向上効果を有する。ただし、Al含有量が1.00%以下であることで溶接金属の靱性の低下を抑制できる。そのため、フラックス入りワイヤの化学成分のAl含有量は1.00%以下とすることが好ましい。また、溶接金属の靭性を安定して確保するには、Al含有量の上限は、0.95%、0.90%、0.85%又は0.80%としてもよい。必要に応じて、Al含有量の下限を0.005%、0.01%、0.05%、0.10%、0.15%又は0.20%としてもよい。
(B:0~0.100%)
Bは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のB含有量の下限値は0%である。
一方、Bは、溶接金属において固溶Nと結びついてBNを形成するので、固溶Nが溶接金属の靭性に及ぼす悪影響を減じる効果を有する。また、Bは溶接金属の焼入性を高めるので溶接金属の強度を向上させる効果も有する。従って、フラックス入りワイヤの化学成分が0.0005%以上のBを含有してもよい。
一方、フラックス入りワイヤの化学成分のB含有量が0.100%以下であることで、溶接金属中のBが増え過ぎず、粗大なBN及びFe23(C、B)等のB化合物の形成が抑制され溶接金属の靭性の低下を抑制できる。そのため、フラックス入りワイヤの化学成分のB含有量の上限値は、好ましくは0.100%であり、より好ましくは0.050%、0.030%、又は0.010%である。
(Mg:0~2.00%)
Mgは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のMg含有量の下限値は0%である。
一方、Mgは脱酸元素であり、Alと同様に、溶接金属中の酸素量を低減させ、溶接金属の清浄度向上効果を有する。ただし、フラックス入りワイヤの化学成分のMg含有量が2.00%以下であることで、アーク中で激しくMgと酸素とが反応することで生じるスパッタ及びヒュームの発生量を抑制できる。従って、フラックス入りワイヤの化学成分のMg含有量を2.00%以下とすることが好ましい。なお、フラックス入りワイヤの化学成分のMg含有量の好ましい下限値は、0.15%、0.20%、0.25%、又は0.30%である。フラックス入りワイヤの化学成分のMg含有量の好ましい上限値は、1.70%、1.60%、1.50%、1.40%、1.00%又は0.90%である。
(Ca:0~2.00%)
(Zr:0~0.50%)
(REM:0~0.50%)
Ca、Zr及びREMは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のCa含有量、Zr含有量及びREM含有量の下限値はいずれも0%である。
一方、Ca、Zr及びREMは、いずれも溶接金属中での硫化物の構造を変化させ、また、硫化物及び酸化物のサイズを微細化させ、これにより溶接金属の延性及び靭性を向上させる働きを有する。従って、フラックス入りワイヤの化学成分のCa含有量を0.002%以上としてもよく、フラックス入りワイヤの化学成分のZr含有量を0.0002%以上としてもよく、フラックス入りワイヤの化学成分のREM含有量を0.0002%以上としてもよい。
一方、フラックス入りワイヤの化学成分のCa含有量、Zr含有量及びREM含有量を低減することで、スパッタ量を抑制でき、溶接性を高められる。従って、フラックス入りワイヤの化学成分のCa含有量の上限値は2.00%であることが好ましく、フラックス入りワイヤの化学成分のZr含有量の上限値は0.50%であることが好ましく、フラックス入りワイヤの化学成分のREM含有量の上限値は0.50%であることが好ましい。
なお、REMは、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量はREMの合計含有量を指す。また、REMは一般的にミッシュメタルに含有される。このため例えば、合金にミッシュメタルを添加して、REMの含有量が上記の範囲となるようにしてもよい。
(Bi:0~0.300%)
Biは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のBi含有量の下限値は0%である。
一方、Biは、スラグの剥離性を改善する元素である。その効果を十分に得るために、フラックス入りワイヤの化学成分のBi含有量を0.005%以上、0.010%以上又は0.012%以上とすることが好ましい。
一方、フラックス入りワイヤの化学成分のBi含有量が0.300%以下であることで、溶接金属での凝固割れの発生が抑制できる。そのため、フラックス入りワイヤの化学成分のBi含有量の上限値は好ましくは0.300%である。フラックス入りワイヤの化学成分のBi含有量の上限値は、好ましくは0.200%、0.150%、又は0.100%であってもよい。
(残部:Fe及び不純物)
本開示に係るフラックス入りワイヤにおけるその他の残部成分はFeと不純物である。残部のFeは、例えば鋼製外皮に含まれるFe、及びフラックス中に含有された合金粉中のFe等である。
また、不純物とは、フラックス入りワイヤを工業的に製造する際に、原料に由来して、又は製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本開示に係るフラックス入りワイヤに悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
(Ti酸化物:0.20~8.00%)
本開示に係るフラックス入りワイヤは、フラックス入りワイヤの全質量に対して0.20~8.00%のTi酸化物を含有することが好ましい。なお、本開示に係るフラックス入りワイヤにおける上記Ti酸化物の含有量とは、TiO換算での量を表す。
Ti酸化物の含有量は、蛍光X線分析装置を用いて、フラックス入りワイヤに含まれる酸化物として存在するTiの質量を分析する。具体的には、ワイヤを研磨してワイヤ径φの1/2位置の長手方向断面(ワイヤの長手方向に平行な断面:L断面)を露出させ、該断面を分析する。例えば、分析によってTiO、Ti、Tiが検出された場合であれば、各Ti酸化物の質量%を[TiO]、[Ti]、[Ti]で表し、Ti酸化物のTiO換算値の合計を[換算TiO]で表すと、以下の式C1により計算される。
[換算TiO]=(0.60×[TiO]+0.67×[Ti]+0.64×[Ti])×1.67・・・式C1
式C1における係数(0.60、0.67、0.64)は、各酸化物中に含まれるTi量を算出するための係数であり、末尾の乗数(1.67)は、ワイヤに酸化物として存在するTiの総量からTiO換算値を算出するための乗数である。
ここで、係数の求め方について説明する。M(例;TiO、Ti、Ti)の酸化物が検出されたとすると、Mにかかる係数は下記式C2で計算する。
[M元素の原子量]×x/([M元素の原子量]×x+[酸素の原子量]×y)・・・式C2
式C1における0.60、0.67、0.64が、上記式C2で求められる係数に相当する。
また、換算値を算出するための乗数の求め方について説明する。M(例;TiO)に換算するための乗数は下記式C3で計算する。
([M元素の原子量]×a+[酸素の原子量]×b)/[M元素の原子量×a]・・・式C3
式C1における1.67が、上記式C3で求められる乗数に相当する。
なお酸化物は、2種の金属元素と結合した化合物である場合も考えられる。その場合の係数の求め方は、M (例;TiO・Fe、つまりM=Ti、M=Fe、x=1、y=3、z=1の酸化物)が検出されたとすると、下記式C4で計算する。
[M元素の原子量]×x/([M元素の原子量]×x+[酸素の原子量]×y+[M元素の原子量]×z)・・・式C4
Ti酸化物は主にスラグ形成剤として作用する。本開示に係るフラックス入りワイヤは、酸化物は必須成分ではないので、フラックス入りワイヤにおけるTi酸化物の含有量の下限値は0%であるが、Ti酸化物の含有量が0.20%以上であるフラックス入りワイヤを用いて立向上進溶接を行う場合、溶融金属が垂れ落ちないように支えるために十分な量のスラグを確保することができ、立向溶接性を確保することができる。従って、本開示に係るフラックス入りワイヤがTi酸化物を含む場合、Ti酸化物の含有量の下限値を0.20%とすることが好ましい。Ti酸化物の含有量の下限値は、より好適には1.00%であり、さらに好適には2.00%である。立向溶接性を向上させるために、Ti酸化物の含有量の下限値を、3.00%、3.50%、4.00%、又は4.50%としてもよい。
一方、スラグ量の増大を抑制して、スラグ巻き込みの欠陥(溶接金属にスラグが残る現象)を抑制する観点からTi酸化物の含有量の上限値を8.00%とすることが好ましい。Ti酸化物の含有量の上限値は、より好適には7.00%である。必要に応じて、Ti酸化物の含有量の上限値を、6.70%、6.40%、6.20%、6.00%、5.90%、又は5.80%としてもよい。
なお、Ti酸化物は、ルチル型酸化チタンとアナターゼ型酸化チタンがあるが、本開示に係るフラックス入りワイヤがTi酸化物を含む場合、ルチル型に限定されず、アナターゼ型でもよい。
(Ti酸化物以外の酸化物の合計:0~3.0%)
本開示に係るフラックス入りワイヤは、Fe酸化物、Ba酸化物、Na酸化物、Si酸化物、Zr酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Mn酸化物、K酸化物及びCa酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上の酸化物を含んでもよく、その合計含有量が3.0%以下であることが好ましい。本開示において、Fe酸化物、Ba酸化物、Na酸化物、Si酸化物、Zr酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Mn酸化物、K酸化物及びCa酸化物からなる群に含まれる酸化物を単に「特定酸化物」と略す場合がある。また特定酸化物の各々の含有量の合計値を、「特定酸化物の合計含有量」と略す場合がある。
本開示に係るフラックス入りワイヤが、上記いずれかの特定酸化物として、FeO、BaO、NaO、SiO、ZrO、MgO、Al、MnO、KO及びCaOの1種又は2種以上の酸化物のみを含む場合、特定酸化物の合計含有量は、FeO、BaO、NaO、SiO、ZrO、MgO、Al、MnO、KO及びCaOの各含有量の合計として求める。
なお、本開示に係るフラックス入りワイヤは、酸化物は必須成分ではないので、フラックス入りワイヤにおける特定酸化物の合計含有量の下限値は0%である。
一方、酸化物は、溶接ビード形状を良好に維持する効果と、立向溶接性を向上させる効果とを有する。また、Na酸化物、K酸化物、Mg酸化物、及びFe酸化物等は、アークを安定させる効果も有する。そのような効果を得るためには、特定酸化物を含有させること、つまり特定酸化物の合計含有量を0%超にしてもよい。これらの効果をより発揮させるために、特定酸化物の合計含有量の下限を、0.05%、0.10%、0.15%、又は0.20%、としてもよい。一方、特定酸化物の合計含有量が3.0%以下であることで、スラグの巻き込みの発生を抑制できる。そのため、特定酸化物の合計含有量の上限値は3.0%とすることが好ましく、2.0%、1.0%又は0.5%としてもよい。
本開示に係るフラックス入りワイヤにおける特定酸化物の含有量は、酸化物の種類ごとに限定する必要はないが、溶接金属中の酸素量の過度な増加による靭性劣化を抑制する観点から、例えば、Si酸化物:0.08%以上0.95%以下、Zr酸化物:0.8%以下、Al酸化物:0.5%以下である組成が好適である。
なお、本開示に係るフラックス入りワイヤにおける各酸化物の含有量及び酸化物の合計含有量は、前述したTi酸化物の含有量と同様に蛍光X線分析を用いることによって測定する。
本開示に係るフラックス入りワイヤにおける特定酸化物の合計含有量とは、全Fe酸化物の含有量のFeO換算値、全Ba酸化物の含有量のBaO換算値、全Na酸化物の含有量のNaO換算値、全Si酸化物の含有量のSiO換算値、全Zr酸化物の含有量のZrO換算値、全Mg酸化物の含有量のMgO換算値、全Al酸化物の含有量のAl換算値、全Mn酸化物の含有量のMnO換算値、全K酸化物の含有量のKO換算値、及び全Ca酸化物の含有量のCaO換算値の合計を表す。
なお、本開示に係るフラックス入りワイヤは、溶接ビード形状を良好に維持する効果、および立向溶接性を向上させる効果を得るため、Ti酸化物を0.20~8.00%含み、かつ、特定酸化物の合計含有量が0~3.0%であることが好ましい。
(F含有量:0.002~30.000%)
本開示に係るフラックス入りワイヤは、弗化物を含む必要がない。従って、本開示に係るフラックス入りワイヤにおいて、弗化物の含有量の下限値は0%である。
一方、弗化物は、溶接金属中の拡散性水素量を減少させて、溶接金属の耐低温割れ性を顕著に向上させる働きを持つ。これは、フラックス入りワイヤで溶接した際に、そのフラックス中の弗素(F)が水素(H)と結合して弗化水素(HF)となり、このHFが溶接金属外に放出されるためと推測される。この効果を得るためには、F含有量の合計が0.002%以上であることが好ましい。
その反面、弗化物は溶接時のヒュームの発生原因になる。しかし、本開示に係るフラックス入りワイヤは、窒化物を含有することで、弗化物を含有していても溶接時にヒュームの発生が抑制される。この原因は明らかではないが、窒素は弗化水素(HF)よりも沸点が低いことから(N;-196℃、フッ化水素(HF);+20℃)、窒化物がアークによって分解して窒素(N)が発生し、窒素分子(N)として結合し、アーク温度を低温化させることによって、アーク中の高温蒸気量が減少し、これによりヒュームの発生が抑制されるためと推定される。
本開示に係るフラックス入りワイヤが弗化物を含む場合、弗化物の種類は限定されないが、好ましくは、フラックス中にCaF、MgF、LiF、NaF、KZrF、KSiF、及びNaAlFからなる群から選ばれる1種又は2種以上の弗化物を含むのがよい。これらの弗化物によれば、電離して生じるCa、Mg、Li、Na、K、Zr、Si、及びAlが、いずれも酸素と結合して溶接金属中の酸素量を低減させることができ、脱酸元素として作用する。これにより、溶接金属の靭性や伸びを改善する点で有利である。
本開示に係るフラックス入りワイヤが弗化物を0.002%以上含む場合、本開示に係るフラックス入りワイヤ(好ましくはフラックス)に含まれる弗化物の質量割合の合計がF含有量で0.002%以上となる限り、各弗化物の含有量の下限値は特に制限されるものではない。また、F含有量は、弗化物に含まれる弗素(F)の量をフラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で示すものであることから、弗化物の種類が上述した好ましい例の弗化物である場合には、F含有量は次の式Bより求める。
式B:0.487×CaF+0.610×MgF+0.732×LiF+0.452×NaF+0.402×KZrF+0.517×KSiF+0.543×NaAlF
ここで、式B中の弗化物の化学式は、各化学式に対応する弗化物の、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%を示す。各弗化物の化学式の係数は、各弗化物の化学式量から算出したものである。
また、上述した好ましい例以外の弗化物を含む場合、F含有量は各弗化物の化学式量から、上記式Bに準じて算出する。
F含有量の下限値は、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量割合で0.002%であることが好ましく、0.005%、0.010%、0.015%、0.020%、0.025%、又は0.030%であるのがよい。
F含有量の好ましい上限値は、溶接時のヒュームの発生を抑制する観点から、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量割合で30.000%、20.000%、10.000%、3.000%、2.000%、1.000%、0.500%、0.100%、又は0.050%である。
なお、本開示に係るフラックス入りワイヤにおけるF含有量は、蛍光X線分析によって測定する。
(炭酸塩の合計含有量:0~5.000%)
本開示に係るフラックス入りワイヤは、炭酸塩を含む必要がない。従って、本開示に係るフラックス入りワイヤにおいて、炭酸塩の含有量の下限値は0%である。
一方、炭酸塩は、アークによって電離し、COガスを発生させる。COガスは、溶接雰囲気中の水素分圧を下げ、溶接金属中の拡散性水素量を低減させる。この効果を得るために、本開示に係るフラックス入りワイヤは、炭酸塩を含んでもよい。特に、フラックス入りワイヤのフラックス中に炭酸塩を含むことが好ましい。
本開示に係るフラックス入りワイヤに含まれる金属炭酸塩の種類及び組成は限定されない。ただし、フラックス入りワイヤに含まれる金属炭酸塩の種類は、MgCO、NaCO、LiCO、CaCO、KCO、BaCO、FeCO、MnCO3、及びSrCOからなる群(以下、この群に含まれる炭酸塩を「特定炭酸塩」と略す場合がある)から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
上記のような効果を得るため上記特定炭酸塩を含有させることが好ましく、つまり特定炭酸塩の合計含有量を0%超とすることが好ましい。これらの効果をより発揮させるために、特定炭酸塩の合計含有量の下限を、0.050%としてもよい。
一方、特定炭酸塩の含有量が5.000%以下であることで、溶接ビードの垂れの発生を抑制して溶接作業性を向上させることができる。従って、本開示に係るフラックス入りワイヤが特定炭酸塩を含む場合、特定炭酸塩の合計含有量の上限値は5.000%とすることが好ましい。必要に応じて、特定炭酸塩の含有量の上限値を、4.000%、3.000%、2.000%、1.000%又は0.500%としてもよい。
なお、本開示に係るフラックス入りワイヤにおける各特定炭酸塩の含有量及び特定炭酸塩の合計含有量は、前述したTi酸化物の含有量と同様に蛍光X線分析を用いることによって測定する。
本開示に係るフラックス入りワイヤは、ワイヤ表面に塗布された潤滑剤をさらに備えてもよい。ワイヤ表面に塗布された潤滑剤は、溶接時のワイヤの送給性を向上させる効果を有する。溶接ワイヤ用の潤滑剤としては、様々な種類のもの(例えばパーム油等の植物油)を使用できるが、溶接金属の低温割れを抑制するためには、Hを含有しないポリテトラフルオロエチレン油(PTFE油)及びパーフルオロポリエーテル油(PFPE油)の一方又は両方を使用することが好ましい。
また、上述したように、本開示に係るフラックス入りワイヤは、ワイヤ表面に形成されためっきをさらに備えてもよい。この場合、潤滑剤はめっきの表面に塗布される。
本開示に係るフラックス入りワイヤに含まれる水素量は特に限定されないが、溶接金属の拡散性水素量を低減するためには、フラックス入りワイヤの全質量に対して12ppm以下であることが好ましい。フラックス入りワイヤ中の水素量は、フラックス入りワイヤの保管の間に、フラックス入りワイヤ内に水分が侵入することにより増大するおそれがある。従って、ワイヤ製造からワイヤ使用までの期間が長い場合は、後述の手段によって水分の浸入を防止することが望ましい。
(鋼製外皮)
上述された事項が満たされる限り、本開示に係るフラックス入りワイヤの鋼製外皮は特に限定されないが、例えば軟鋼外皮であって、その化学組成がC:0~0.1%、Si:0~0.10%、Mn:0~3.00%、P:0~0.030%、S:0~0.020%、Al:0~0.1%、及びN:0~0.030%を含み、残部が鉄及び不純物であるものとしてもよい。
なお、通常、鋼製外皮にも不純物としてNが含まれるが、鋼製外皮中に含まれるNよりもフラックス中に窒化物として含まれるNの方が、溶接金属の拡散性水素量を低減する効果が高い。この詳細なメカニズムは不明であるが、鋼製外皮はシールドガスに触れているので、フラックスよりも温度が低いため、鋼製外皮中のNは溶滴に拡散するものの、アーク中には乖離しにくいからである、と推定される。
以上の観点から、本開示に係るフラックス入りワイヤは、フラックス中に窒化物として含まれる窒素のN含有量がフラックス入りワイヤの全質量に対して0.002%以上であることが好ましい。また、鋼製外皮に窒素を多量に含ませると伸線加工性に劣り、断線する可能性も考えられる。そのため、一般に、鋼製外皮におけるN含有量(%)は低いほうが好ましい。
(ワイヤ形状)
次に、本開示に係るフラックス入りワイヤの形状(ワイヤ構造)について説明する。
通常、フラックス入りワイヤは、鋼製外皮の継目が溶接されているのでスリット状の隙間がない形状(シームレス形状)を有するワイヤ(シームレスワイヤと呼ぶことがある)と、鋼製外皮の継目が溶接されていないのでスリット状の隙間を含む形状を有するワイヤとのいずれかに区別される。
本開示に係るフラックス入りワイヤでは、いずれの形状も採用することができる。しかしながら、溶接金属の低温割れの発生を抑制するためには、鋼製外皮にスリット状の隙間がないことが好ましい。溶接時に溶接部に侵入するH(水素)は、溶接金属及び被溶接材中に拡散し、応力集中部に集積して低温割れの発生原因となる。Hの供給源は様々であるが、溶接部の清浄度、及びガスシールドの条件が厳密に管理された状態で溶接が行われる場合、ワイヤ中に含まれる水分(HO)が主なHの供給源となり、この水分の量が、溶接継手の拡散性水素量に強く影響する。
鋼製外皮がシームを有する場合、大気中の水分がシームを通じてフラックス中に侵入しやすい。このため、鋼製外皮のシームを除去することにより、ワイヤ製造後からワイヤ使用までの間に、大気中の水分が鋼製外皮を通じてフラックス中に侵入することを抑制することが望ましい。鋼製外皮がシームを有し、且つワイヤ製造からワイヤ使用までの期間が長い場合は、水分等のHの供給源が侵入することを防止するために、フラックス入りワイヤ全体を真空包装するか、乾燥した状態に保持できる容器内でフラックス入りワイヤを保存することが望ましい。
(ワイヤ直径)
本開示に係るフラックス入りワイヤの直径は特に限定されないが、例えばφ1.0~φ2.0mmである。なお、一般的なフラックス入りワイヤの直径はφ1.2~φ1.6mmである。
(充填率)
本開示に係るフラックス入りワイヤの充填率は、上述された条件が満たされる限り、特に限定されない。一般的なフラックス入りワイヤの充填率に鑑みて、本開示に係るフラックス入りワイヤの充填率の下限値を、例えば8%、10%、又は12%としてもよい。また、本開示に係るフラックス入りワイヤの充填率の上限値を、例えば28%、25%、22%、20%、又は17%としてもよい。
<フラックス入りワイヤの製造方法>
次に、本開示に係るフラックス入りワイヤの製造方法について説明する。
なお、以下に説明する製造方法は一例であり、本開示に係るフラックス入りワイヤを製造する方法は、以下の方法に限定されるものではない。
(シームレス形状を有するフラックス入りワイヤの場合)
シームレス形状を有するフラックス入りワイヤの製造方法は、フラックスを調製する工程と、鋼帯を長手方向に送りながら、成形ロールを用いて成形してU字型のオープン管を得る工程と、オープン管の開口部を通じてオープン管内にフラックスを供給する工程と、オープン管の開口部の相対するエッジ部(周方向両端部)を突合せ溶接してシームレス管を得る工程と、シームレス管を伸線して所定の線径を有するフラックス入りワイヤを得る工程と、伸線する工程の途中又は完了後にフラックス入りワイヤを焼鈍する工程とを備える。
フラックスは、フラックス入りワイヤの窒化物量、N量、第1耐食元素群量、第2耐食元素群量、さらに必要に応じて含有される弗化物量、Ti酸化物量、特定酸化物量、特定炭酸塩量、及び化学成分などが上述された所定の範囲内になるように調製される。なお、鋼製外皮の材料である鋼帯の幅及び厚さ、並びにフラックスの充填量等によって決定されるフラックスの充填率も、フラックス入りワイヤの窒化物量、弗化物量、Ti酸化物量、特定酸化物量、特定炭酸塩量、及び化学成分などに影響することに留意する必要がある。
突合せ溶接は、電縫溶接、レーザ溶接、又はTIG溶接等により行われる。
また、伸線工程の途中又は伸線工程の完了後に、フラックス入りワイヤ中の水分を除去するために、フラックス入りワイヤは焼鈍される。フラックス入りワイヤのH含有量を12ppm以下とするためには、焼鈍温度は、650℃以上とし、焼鈍時間は、4時間以上とすることが好ましい。なお、フラックスの変質を防ぐために、焼鈍温度は900℃以下とすることが好ましい。
突合せシーム溶接された、スリット状の隙間がないフラックス入りワイヤの断面は、研磨して、エッチングすれば、溶接跡が観察されるが、エッチングしないと溶接跡は観察されない。そのため、上記のようにシームレスと呼ぶことがある。例えば、溶接学会編「新版 溶接・接合技術入門」(2008年)産報出版、p.111には、突合せシーム溶接された、スリット状の隙間がないフラックス入りワイヤは、シームレスタイプのワイヤと記載されている。フラックス入りワイヤの鋼製外皮の隙間をろう付けしても、スリット状の隙間がないフラックス入りワイヤが得られる。
(スリット状の隙間を有するフラックス入りワイヤの場合)
スリット状の隙間を有するフラックス入りワイヤの製造方法は、オープン管の周方向の両端部を突き合わせ溶接してシームレス管を得る工程の代わりに、オープン管を成形してオープン管の端部を突き合わせてスリット状の隙間有りの管を得る工程を有する点以外は、シームレス形状を有するフラックス入りワイヤの製造方法と同じである。スリット状の隙間を有するフラックス入りワイヤの製造方法は、突き合わせられたオープン管の端部をかしめる工程をさらに備えてもよい。
スリット状の隙間を有するフラックス入りワイヤの製造方法では、スリット状の隙間有りの管を伸線する。
<溶接継手の製造方法>
次に、本開示に係る溶接継手の製造方法(溶接方法)について説明する。
本開示に係る溶接継手の製造方法は、上述された本開示に係るフラックス入りワイヤを用いて鋼材をガスシールドアーク溶接する工程を備える。
本開示のフラックス入りワイヤは、あらゆる種類の鋼材の溶接に対して適用可能であり、本開示に係るフラックス入りワイヤは、予熱なしで、あるいは予熱温度50℃以下で、低温割れ及び高温割れを効果的に抑制でき、かつ、耐食性を有する溶接金属を有する溶接継手を製造することができる。
本開示に係る溶接継手の製造方法において溶接継手の母材となる鋼材(被溶接材)の種類は特に限定されないが、例えば、PCM(溶接割れ感受性組成)が0.24%以上である低温割れ感受性が高い鋼材、特に、引張強さが590MPa以上1700MPa以下であり、板厚30mm以上の高強度鋼板を好適に用いることができる。このような鋼板は低温割れ感受性及び高温割れ感受性が高いので、通常の溶接継手の製造方法でこれらの鋼板を溶接した場合、十分な予熱なしに低温割れ及び高温割れの発生を抑制することは困難である。
一方、本開示に係る溶接継手の製造方法は、低温割れ及び高温割れを抑制することができる本開示に係るフラックス入りワイヤを用いるので、低温割れ感受性及び高温割れ感受性が高い鋼材を本開示に係る溶接継手の製造方法で溶接した場合、予熱を行わずに、又は予熱を著しく軽減しながら低温割れの発生を抑制することができる。また、本開示に係る溶接継手の製造方法によって得られる継手は、溶接金属の引張強さが鋼板母材の引張強さより低いアンダーマッチの継手となってもよい。
本開示に係る溶接継手の製造方法では、1パスから最終パスのいずれか1つ以上において、本開示に係るフラックス入りワイヤを用いて母材鋼板をガスシールドアーク溶接する工程を備える。溶接が1パスのみである場合、その1パスにおいて本開示に係るフラックス入りワイヤが用いられる。
母材鋼板(母材)の種類は特に限定されない。
フラックス入りワイヤの極性は、溶接金属の拡散性水素量及びスパッタ発生量に及ぼす影響が無視できる程度に小さいので、プラス及びマイナスのいずれであってもよいが、プラスであることが好ましい。
本開示に係る溶接継手の製造方法において用いられるシールドガスの種類は特に限定されない。本開示に係る溶接継手の製造方法は、シールドガスの種類に関わらず、優れた溶接作業性を発揮し、耐食性、耐割れ性のほか、高強度、高靱性、及び高疲労強度を有する溶接継手を得ることができる。本開示に係る溶接継手の製造方法におけるシールドガスとして、一般的に多用されている100体積%の炭酸ガス、及びArと3~30体積%COとの混合ガス等を好ましく使用することができる。また、本開示に係るフラックス入りワイヤを用いた溶接の際のシールドガスは5体積%以下のOガスを含んでいてもよい。これらのガスは廉価であるので、これらのガスを用いた溶接は産業利用上有利である。
本開示に係る溶接継手の製造方法における溶接姿勢は特に限定されない。本開示に係る溶接継手の製造方法は、溶接姿勢が下向姿勢、横向姿勢、立向姿勢、及び上向姿勢のいずれであっても、良好な溶接作業性を発揮することができる。
本開示に係る溶接継手の製造方法によって得られる溶接継手は、母材鋼板(母材)と、溶接金属及び溶接熱影響部から構成される溶接部とを備える。溶接継手の母材は特に限定されない。本開示に係る溶接継手は、耐食元素量、窒化物量等が好ましく制御された本開示に係るフラックス入りワイヤを用いて製造されるので、耐食性及び耐割れ性を有し、良好なビード形状を有する溶接金属を備える。
本開示に係るフラックス入りワイヤを用いてガスシールドアーク溶接することで、予熱作業を省略又は簡易化でき、耐食性及び耐割れ性に優れる溶接部を得ることができる。
次に、実施例及び比較例により、本開示の実施可能性及び効果についてさらに詳細に説明するが、下記実施例は本開示を限定するものではなく、前・後記の趣旨に徹して設計変更することはいずれも本開示の技術的範囲に含まれるものである。
(フラックス入りワイヤの製造)
実施例及び比較例のフラックス入りワイヤは、以下に説明する方法により製造した。
まず、鋼帯を長手方向に送りながら、成形ロールを用いて成形してU型のオープン管を得た。このオープン管の開口部を通じてオープン管内にフラックスを供給し、オープン管の開口部の相対するエッジ部を突合わせ溶接してシームレス管を得た。
このシームレス管を伸線して、スリット状の隙間がないフラックス入りワイヤを得た。ただし、一部の試料は、シーム溶接をしないスリット状の隙間有りの管とし、それを伸線した。
このようにして、最終のワイヤ径がφ1.2mmのフラックス入りワイヤを試作した。 なお、これらフラックス入りワイヤの伸線作業の途中で、フラックス入りワイヤを650~950℃の温度範囲内で4時間以上焼鈍した。試作後、ワイヤ表面には潤滑剤を塗布した。これらフラックス入りワイヤの構成を表に示す。
表1~表4に窒化物、化学成分(窒化物、酸化物、弗化物、及び炭酸塩を除く成分として含まれる各元素の含有量)、酸化物、弗化物、及び炭酸塩の含有量、並びに鉄粉の含有量を示す。なお、表1~表4に開示されたこれらの含有量の単位は、フラックス入りワイヤ全質量に対する質量%である。表中において「フラックス入りワイヤ全質量に対する質量%」は、「質量%」と略し、「窒化物、酸化物、弗化物、及び炭酸塩を除く化学成分」は、「化学成分」と略した。
表1に示された「フラックス中のN合計含有量」は、フラックス中の窒化物に含まれる窒素(N)の量を、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で示すものであり、上述の式Aによって求められた値(N換算値)である。「ワイヤ中のN合計含有量」は、フラックス中の窒化物に含まれる窒素及び鋼製外皮に含まれる窒素の合計含有量を、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で示すものである。
表2に示された「第1耐食元素群Aの内化学成分として含まれる量」、「第2耐食元素群Bの内化学成分として含まれる量」とは、フラックス入りワイヤに含まれる第1および第2耐食元素群であって、窒化物、酸化物、弗化物、及び炭酸塩を除く成分として含まれる各元素の含有量を示す。「第1耐食元素群Aの合計」とは、フラックス入りワイヤに含まれる全ての第1耐食元素群の合計含有量を示し、「第1および第2耐食元素群A+Bの合計」とは、フラックス入りワイヤに含まれる全ての第1および第2耐食元素群の合計含有量を示す。「A+Bの合計の内窒化物として含まれる量」とは、フラックス入りワイヤに含まれる第1および第2耐食元素群であって、化学成分以外(具体的には窒化物)として含まれる成分における、第1および第2耐食元素群の元素の合計含有量を示す。
表3に示されたF含有量は、フラックス中の弗化物に含まれる弗素(F)の量を、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で示すものであり、上述の式Bによって求められた値(F換算値)である。
表3に示されたTi酸化物以外の特定酸化物の合計とは、Fe酸化物、Ba酸化物、Na酸化物、Si酸化物、Zr酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Mn酸化物、K酸化物及びCa酸化物として用いた、FeO、BaO、NaO、SiO、ZrO、MgO、Al、MnO、KO及びCaOの各々の含有量での合計値である。
Figure 2022157455000001

Figure 2022157455000002

Figure 2022157455000003

Figure 2022157455000004
表に示されたフラックス入りワイヤの残部(すなわち、表に示された各成分以外の成分)は、鉄及び不純物である。
表に示されたフラックス入りワイヤのうち、「ワイヤ構造」欄で「シームレス」と記載されたフラックス入りワイヤは、シームレス形状を有し、「備考」欄で特に断りが無い限り、潤滑剤としてパーム油が塗布されたワイヤである。また、「ワイヤ構造」欄で「スリット状隙間有」と記載されたフラックス入りワイヤは、スリット状の隙間を有するワイヤであり、「備考」欄で「PTFE塗布」と記載されたワイヤは、PTFE油が塗布されたワイヤである。
表2に示されたフラックス入りワイヤに化学成分として含まれる各元素(第1耐食元素群Aおよび第2耐食元素群Bの内、化学成分として含まれる元素を含む)は、鋼製外皮又は金属粉の形態である。なお、表においては、本開示で規定される範囲から外れる数値に下線を付してある。
また、表1~表4において、化学成分や化合物などの含有量に係る表中の空欄は、その化学成分や化合物などが意図的に含有されていないことを意味する。これらの化学成分や化合物などが不可避的に混入されるか生成することもある。
[評価]
実施例及び比較例のフラックス入りワイヤを用いてガスシールドアーク溶接することにより評価を行った。具体的には、以下に説明する方法により評価された。
溶接する鋼板として板厚が50mmである引張強さ780MPa級鋼を用い、評価の際の溶接ガスの種類は、Ar-20%COガスとした。また、評価の際に、溶接電流は全て直流とし、ワイヤの極性は全てプラスとした。
Figure 2022157455000005
(溶接金属の耐食性の評価)
(1)全面腐食試験
タンカー上甲板裏面における全面腐食に対する耐食性を評価するため、溶接金属のみとなるように、幅15mm×長さ60mm×厚さ5mmの矩形の小片(耐食性評価のための耐食試験片11)を、表5に示す溶接条件で製造された図1の評価用の継手の切出位置Aから切り出し、その表面を600番手のエメリー紙で研磨した。裏面および端面は腐食しないよう、テープでシールし、図2に示した腐食試験装置を用いて全面腐食試験を行った。なお、図1において、符号1および2は母材(鋼材)を、5は裏当材を、7は溶接金属を示す。
この腐食試験装置は、腐食試験槽12と温度制御プレート13とから構成されており、腐食試験槽12には温度が36℃に保持された水16が注入されており、また、その水16中には、4vol%O、13vol%CO、0.01vol%SO、0.05vol%HS、残部Nからなる混合ガス(導入ガス14)を導入して腐食試験槽12内を過飽和の水蒸気で充満し、原油タンク上甲板裏の腐食環境を再現したものである。そして、この試験槽の上裏面にセットした耐食試験片11に、ヒーターと冷却装置を内蔵した温度制御プレート13を介して25℃×3時間+50℃×21時間を1サイクルとする温度変化を180日間繰り返して付与し、耐食試験片11の表面に結露水を生じさせて、全面腐食を起こさせるようにしたものである。図2中、15は試験槽からの排出ガスを示す。
上記試験後、各耐食試験片表面の錆を除去し、試験前後の質量変化から、腐食による質量の減少量を求め、この値から1年当たりの板厚減量(片面の腐食速度)に換算した。その結果、下記の基準で3段階評価を行い、腐食速度が0.20mm/y以下(A又はB)の場合を耐全面腐食性が良好と評価した。
A:腐食速度が0.10mm/y以下
B:腐食速度が0.10mm/y超0.20mm/y以下
C:腐食速度が0.20mm/y超
(2)局部腐食(孔食)試験
タンカー油槽部底板における孔食に対する耐食性を評価するため、溶接金属のみとなるように、幅15mm×長さ60mm×厚さ5mmの矩形の小片(耐食性評価のための耐食試験片17)を、表5の溶接条件で製造された図1の評価用の継手の切出位置Aから切り出し、その全面を600番手のエメリー紙で研磨した。
次いで、10mass%NaCl水溶液を、濃塩酸を用いてClイオン濃度10mass%、pH0.85に調製した試験溶液を作製し、耐食試験片の上部に開けた3mmφの孔にテグスを通して吊るし、1耐食試験片につき2Lの試験溶液中に168時間浸漬する腐食試験を行った。なお、試験溶液は、予め30℃に加温・保持し、24時間毎に新しい試験溶液と交換した。
上記腐食試験に用いた装置を図3に示す。この腐食試験装置は、腐食試験槽18、恒温槽19の二重型の装置で、腐食試験槽18には上記試験溶液20が入れられ、その中に耐食試験片17がテグス21で吊るされて浸漬されている。試験溶液20の温度は、恒温槽19に入れた水22の温度を調整することで保持している。
上記腐食試験後、耐食試験片表面に生成した錆を除去した後、試験前後の質量差を求め、この差を全表面積で割り戻し、1年当たりの板厚減少量(両面の腐食速度)を求めた。その結果、下記の基準で3段階評価を行い、腐食速度が0.50mm/y以下(A又はB)の場合を耐局部腐食性が良好と評価した。
A:腐食速度が0.30mm/y以下
B:腐食速度が0.30mm/y超0.50mm/y以下
C:腐食速度が0.50mm/y超
(溶接金属の拡散性水素量の評価)
実施例及び比較例のフラックス入りワイヤを用いてガスシールドアーク溶接することにより得られる溶接金属の拡散性水素量を評価した、評価する際の溶接条件は、表5記載の条件とした。
溶接金属の拡散性水素量の測定は、JIS Z 3118:2007(鋼溶接部の水素量測定方法)に準拠したガスクロマトグラフ法によって実施した。溶接金属の拡散性水素量が1.0ml/100g以下となるフラックス入りワイヤを、拡散性水素量に関し「合格」とした。0.5ml/100g以下をA、0.5ml/100g超1.0ml/100g以下をB、1.0ml/100g超はCとした。
(耐割れ性の評価)
(1)T形溶接割れ試験(耐高温割れ性)
耐高温割れ性の評価は、温度20℃かつ湿度60%の一定雰囲気管理下において、板厚が50mmである引張強さ780MPa級鋼板に、表5の溶接条件で溶接を行い、これにより得られた溶接継手にJIS Z 3153―1993(T形溶接割れ試験方法)に準拠した試験を行うことにより実施した。
T形溶接割れ試験で割れが生じなかった溶接継手にかかるフラックス入りワイヤを、耐高温割れ性に関し「合格」とした。
(2)y形溶接割れ試験(耐低温割れ性)
耐低温割れ性の評価は、温度0℃かつ湿度60%の一定雰囲気管理下において、板厚が50mmである引張強さ780MPa級鋼板に、表5の溶接条件で溶接を行い、これにより得られた溶接継手にJIS Z 3158:2016(y形溶接割れ試験方法)に準拠した試験を行うことにより実施した。
y形溶接割れ試験で割れが生じなかった溶接継手にかかるフラックス入りワイヤを、耐低温割れ性に関し「合格」とした。
上述の方法により得られた試験結果を表6に示す。なお、全ての評価項目で合格の場合は、総合判定で合格とし、1つでも合格に満たない場合は総合判定を不合格とした。
Figure 2022157455000006
実施例のフラックス入りワイヤは、優れた耐食性および優れた機械特性を有する溶接金属を製造することができる。
さらに、表6の試験結果に示されるように、実施例のフラックス入りワイヤは、溶接金属中の拡散性水素量の評価項目においても合格(A又はB)であり、優れた機械特性を有する溶接金属を製造することができる。
また、実施例のフラックス入りワイヤを用いて溶接を行った場合、T形溶接割れ試験のすべての断面において、断面割れ無し(高温割れつまり溶接中または溶接後の冷却中での高温度域で発生する断面割れが発生していないこと)であった。従って、実施例のフラックス入りワイヤが極めて高い耐高温割れ性を有している。
実施例のフラックス入りワイヤを用いて溶接を行った場合、たとえ鋼材の予熱が行われなくても、y形溶接割れ試験のすべての断面において、断面割れ無し(低温割れつまり溶接後の冷却中または冷却後の低温度域で発生する断面割れが発生していないこと)であった。従って、実施例のフラックス入りワイヤが極めて高い耐低温割れ性を有している。
一方、比較例は、本開示で規定する要件のいずれかを満たしていなかったので、1つ以上の評価項目において不合格となった。
1,2:母材(鋼材)、5:裏当材、7:溶接金属、11,17:耐食試験片、12,18:腐食試験槽、13:温度制御プレート、14:導入ガス、15:排出ガス、16,22:水、19:恒温槽、20:試験溶液、21:テグス、A:耐食性試験片の切出位置。

Claims (8)

  1. 鋼製外皮と前記鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを備える溶接用のフラックス入りワイヤであって、
    窒化物を含み、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、N含有量が0.003~40.00%であり、式1と式2をともに満足するフラックス入りワイヤ。
    0.03<[W]+[Sn]+[Sb]≦30.00 ・・・式1
    0.05≦[Cu]+[Ni]+[Cr]+[Mo]+[W]+[Sn]+[Sb]≦55.00 ・・・式2
    式1、式2中の角括弧で囲まれた元素記号は、前記フラックス入りワイヤに含まれる各元素の、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量である。
  2. 前記フラックス入りワイヤの、前記窒化物、酸化物、弗化物、及び炭酸塩を除く化学成分が、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、
    C:0.003~0.500%、
    Si:0~3.50%、
    Mn:0~10.00%、
    P:0~0.030%、
    S:0~0.020%、
    W:0~10.00%、
    Sn:0~10.00%、
    Sb:0~10.00%、
    Cu:0~10.00%、
    Ni:0~50.00%、
    Cr:0~50.00%、
    Mo:0~50.00%、
    Nb:0~0.50%、
    V:0~0.50%、
    Ti:0~0.50%、
    Al:0~1.00%、
    B:0~0.100%、
    Mg:0~2.00%、
    Ca:0~2.00%、
    Zr:0~0.50%、
    REM:0~0.50%、
    Bi:0~0.300%、並びに
    残部:Fe及び不純物からなる請求項1に記載のフラックス入りワイヤ。
  3. 前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、Ti酸化物を0.20~8.00%含み、かつ、Fe酸化物、Ba酸化物、Na酸化物、Si酸化物、Zr酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Mn酸化物、K酸化物及びCa酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0~3.0%含む請求項1又は請求項2に記載のフラックス入りワイヤ。
  4. 弗化物を含み、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、F含有量が0.002~30.000%である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のフラックス入りワイヤ。
  5. MgCO、NaCO、LiCO、CaCO、KCO、BaCO、FeCO、MnCO及びSrCOからなる群から選択される1種又は2種以上の炭酸塩を含み、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、前記炭酸塩の合計含有量が5.000%以下である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のフラックス入りワイヤ。
  6. 表面にポリテトラフルオロエチレン油及びパーフルオロポリエーテル油の一方又は両方が塗布されている請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のフラックス入りワイヤ。
  7. 前記窒化物が、AlN、BN、Ca、CeN、CrN、CuN、FeN、FeN、FeN、MgN、MoN、NbN、Si、TiN、VN、ZrN、MnN、及びMnNからなる群より選択される1種又は2種以上である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のフラックス入りワイヤ。
  8. 請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のフラックス入りワイヤを用いて鋼材をガスシールドアーク溶接する工程を備える溶接継手の製造方法。
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