以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。後述するように、本実施形態では、ファンモータ12の空転(以下、フリーランとも呼ぶ)時に生じる誘起電圧の悪影響を抑制する。
本実施形態では、ファンモータ停止中のフリーラン回転数を定期的に検出し、ファンモータに発生しうる誘起電圧の値を検出した回転数情報から演算し、演算した誘起電圧が電源電圧である直流電圧値以上となるか判定し、誘起電圧が電源電圧を超える前に他の負荷を駆動させて消費する。本実施形態では、空転時のモータ電流を、ファンモータに対するブレーキ動作以外の方法で抑制する。
これにより、本実施形態によれば、風などの外乱によってファンモータが空転している状態であっても、電源電圧回路内の平滑コンデンサの電圧許容値以上に直流電圧が昇圧されるのを抑制することができる。したがって、本実施形態によれば、平滑コンデンサの寿命を向上することができ、さらに、ファンモータの永久磁石が減磁してしまうのを抑制することができる。この結果、本実施例によれば、ファンモータの性能が低下するのを防止し、空気調和機の信頼性および寿命を向上することができる。
図1〜図15を用いて実施例を説明する。以下の説明は、本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明は以下の説明に限定されず、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。
図1は、空気調和機ASの室外機ASo(いずれも図4参照)のインバータ制御システムの全体概要を示す構成図である。
室外機ASOのインバータ制御システムは、例えば、室外制御マイクロコンピュータ(以下、室外制御マイコン)1、ファンモータ用インバータ回路11、ファンモータ12、圧縮機用インバータ回路21、圧縮機モータ22、直流電源31を備える。ファンモータ用インバータ回路11は、「ファンモータ用インバータ回路部」に該当する。圧縮機用インバータ回路21は、「圧縮機用インバータ回路部」に該当する。直流電源31は、「電源部」に該当する。ファンモータ用インバータ回路11と圧縮機用インバータ回路21とは、共通の直流電源31から給電されるようになっている。
室外制御マイコン1は、「制御部」に該当する。室外制御マイコン1と、インバータ回路11,21と、直流電源31とは、同一の制御ボックスCNT内に設けられている。制御ボックスCNTは、「同一筐体」に該当する。
ファンモータ用インバータ回路11に流れる電流値は、シャント抵抗(ファンモータ用シャント抵抗)R1により検出されて、ファンモータ制御部10へ入力される。圧縮機用インバータ回路21に流れる電流値は、他のシャント抵抗(圧縮機用シャント抵抗)R2により検出されて、圧縮機モータ制御部20へ入力される。
室外制御マイコン1は、例えば、ファンモータ制御部10、圧縮機モータ制御部20、コンバータ制御部30、冷凍サイクル制御部60を備える。
ファンモータ制御部10は、ファンモータ12を駆動するファンモータ用インバータ回路11を制御する回路である。ファンモータ制御部10の詳細な一例は図3で後述するが、ファンモータ制御部10は、起動時状態推定部115と起動モード設定部116とを有する。
起動時状態推定部115は、ファンモータ12の起動時の電流値に基づいて、ファンモータ12の起動時の状態を推定する。起動モード設定部116は、推定された起動時状態に基づいて、ファンモータ12の起動モードを設定する。さらに、起動モード設定部116は、ファンモータ12の起動時の状態(空転状態)に基づいて、圧縮機モータ制御部20.コンバータ制御部30,制御ボックス内ヒータ70を制御する。
圧縮機モータ制御部20は、圧縮機41(図4参照)の圧縮機モータ22を駆動する圧縮機用インバータ回路21を制御する回路である。圧縮機モータ制御部20は、例えば、位置決め電流制御部201、微弱電流通電制御部202、および通電パターンテーブル203を有する。
位置決め電流制御部201は、空転時にファンモータ12で生じるモータ電流を、圧縮機モータ22の位置決め電流として圧縮機モータ22へ通電する回路である。微弱電流通電制御部202は、空転時にファンモータ12で生じるモータ電流を、圧縮機モータ22の位置決め電流よりも小さい微弱電流として圧縮機モータ22へ通電する回路である。通電パターンテーブル203は、圧縮機モータ22へ位置決め電流を流す際のパターンを定義したテーブルである。通電パターンテーブル203は、位置決め電流制御部201が固定子の持つ3相のコイルのうち電流を流すコイルを切り換えながら位置決め電流を通電するために用いられる。位置決め時の通電パターンを切り換えながら圧縮機モータ22を停止させることにより、特定のコイルにのみ位置決め電流が流れるのを防止して、圧縮機モータ22の寿命を延ばすことができる。
コンバータ制御部30は、交流電源311を直流電源に変換するコンバータとしての直流電源31を制御する回路である。図1に示すように、コンバータとしての直流電源31は、例えば、ダイオードブリッジ312、平滑コンデンサ313、スイッチング素子314、ファストリカバリダイオード(FRD)315、オペアンプ316、電流センサ317、抵抗R3、リアクタLを備える。直流電源31は、出力すべき直流電圧を直流電圧生成部301により決定し、交流電源311からの交流電力を直流電力に変換して平滑コンデンサ313の両端から出力する。
ファンモータ用インバータ回路11には、ヒータ用の抵抗70がスイッチ71,71を介して並列に接続されている。スイッチ71,71は、常時、抵抗70をファンモータ用インバータ回路11から電気的に切り離している。ファンモータ制御部10からの切換信号によりスイッチ71,71が切り換わると、抵抗70は、ファンモータ用インバータ回路11へ電気的に接続される。ファンモータ12の空転時の誘起電圧により生じるモータ電流を抵抗70に流すことにより、電気エネルギを熱エネルギへ変換させる。抵抗70が発熱することで、制御ボックスCNT内を温めることができる。
冷凍サイクル制御部60は、冷凍サイクルを制御する回路である。冷凍サイクルの制御方法については説明を省略する。
図2は、ファンモータ12の空転時の誘起電圧により生じるモータ電流を抑制する処理を示すフローチャートである。
ファンモータ制御部10は、ファンモータ用インバータ回路11に流れる電流値を定期的に監視しており、その電流値に基づいてファンモータ12の回転数や回転方向を検出し、ファンモータ12が空転状態であるか判定する(S11)。ファンモータ空転時にファンモータ用インバータ回路11に流れる微少電流から、ファンモータ12の空転状態を検出する方法については後述する。
ファンモータ制御部10は、ファンモータ12が空転状態であると判定すると(S11:YES)、ファンモータ12により発生する誘起電圧が所定の閾値ThV以上となるか判定する(S12)。閾値ThVは、例えば、平滑コンデンサ313の耐えうる最大電圧(電圧許容値)と等しいか、または、それよりも少し低い値に設定できる。
ファンモータ制御部10は、ファンモータ12の誘起電圧が閾値ThV以上になると判定すると(S12:YES)、誘起電圧によりファンモータ12で生じるモータ電流を抑制するための抑制処理を実行する(S13)。
本実施例では、ファンモータ12の誘起電圧により発生するモータ電流を抑制するための方法として、以下に述べる複数の方法のうちいずれか少なくとも一つを実施可能になっている。以下に列挙する方法のいずれを用いてもよいし、複数の方法を組み合わせて用いてもよい。複数の方法を組み合わせる場合は、複数の方法を同時に実施してもよいし、または、ある方法を実施した後で他の方法を実施してもよい。
第1の抑制方法は、圧縮機用インバータ回路21により、ファンモータ12の誘起電圧で生じたモータ電流を、圧縮機モータ22の位置決め電流として用いることで消費する方法である。第1の抑制方法は、圧縮機モータ制御部20の位置決め電流制御部201により実行される。位置決め電流を圧縮機モータ22へ通電する際に、3相のコイルへの通電パターンを切り換える。これにより、特定のコイルに位置決め電流が流れて当該コイルが劣化するのを抑制することができる。
第2の抑制方法は、圧縮機用インバータ回路21により、ファンモータ12の誘起電圧で生じたモータ電流を、位置決め電流よりも小さい微弱電流として圧縮機モータ22へ通電することにより消費する方法である。第2の抑制方法は、圧縮機モータ制御部20の微弱電流通電制御部202により実行される。
第3の抑制方法は、直流電源31の出力する直流電圧を、ファンモータ12の誘起電圧よりも高く設定することにより、ファンモータ12の誘起電圧およびモータ電流を抑制する方法である。第3の抑制方法は、コンバータ制御部30の直流電圧生成部301により実行される。
第4の抑制方法は、制御ボックスCNT内の抵抗70をファンモータ用インバータ回路11へ接続し、ファンモータ12の誘起電圧で生じたモータ電流を抵抗70に流して発熱させることで消費する方法である。第4の抑制方法は、ファンモータ制御部10により実行する。制御ボックスCNT内に設けた抵抗70をヒータとして機能させることにより、寒冷地などでの温度性能を向上できる。
このように、本実施例では、ファンモータ12の空転時に生じる誘起電圧に起因するモータ電流を、圧縮機モータ22のブレーキ動作以外の方法で抑制する。このため、過大なモータ電流が圧縮機モータ22へ流れるのを抑制することができ、圧縮機モータ22が減磁してモータ性能が低下するのを防止できる。
なお、第5の抑制方法として、空転時にファンモータ12からモータ電流が発生すると予測できる場合、圧縮機41を起動させてもよい。これにより、ファンモータ12で生じたモータ電流を、圧縮機用インバータ回路21を介して圧縮機モータ22へ通電することにより消費できる。この場合、圧縮機41内部の機構部に油切れが生じないように事前に対策を取ることが望ましい。
第5の抑制方法に関連して、圧縮機41の作動中に、つまり圧縮機モータ22の駆動中に、ファンモータ12が空転して誘起電圧が発生した場合を説明する。この場合、ファンモータ12のモータ電流は、圧縮機用インバータ回路21を介して圧縮機モータ22へ通電され、消費される。
以下、ファンモータ12を起動する際に、ファンモータ12の電機子が備える複数相のコイルのうち一相を基準として、dq座標系でd軸に沿う位置決め電流を流す指令をインバータ回路11へ出力し、当該指令に応じてシャント抵抗R1で検出される電流値に基づいて、少なくとも前記電機子に流れるモータ電流の位相角及び電気角周波数を推定する方法を説明する。
以下、室内機ASiと室外機ASoを有する空気調和機AS(図4参照)において、室外機ASoに連結されるファンモータ12の制御について説明する。
図3は、本実施例に係るファンモータ制御部10の構成図である。ファンモータ制御部10は、ファンモータ用インバータ回路11の直流側に設置されるシャント抵抗R1の電流検出値に基づき、ファンモータ用インバータ回路11に制御信号を出力して、ファンモータ12を位置センサレスで駆動する装置である。
以下では、まず、ファンモータ制御部10の制御対象であるファンモータ用インバータ回路11およびファンモータ12について簡単に説明する。次に、ファンモータ12に連結される室外ファン13等について説明し、この室外ファン13の状態推定に関する概要を説明した後、本実施形態に係るファンモータ制御部10について詳細に説明する。
図3に示すファンモータ用インバータ回路11は、直流電源31から入力される直流電圧(直流電力)を3相交流電圧(3相交流電力)に変換し、この3相交流電圧をファンモータ12に出力する電力変換器である。ここで、直流電源31は、交流電源311から入力される交流電力が、整流回路312および平滑コンデンサ313によって直流電力に変換されたものである。
ファンモータ用インバータ回路11は、スイッチング素子Tr_Pu,Tr_Nuを備える第1レグと(図6参照)、スイッチング素子Tr_Pv,Tr_Nvを備える第2レグと、スイッチング素子Tr_Pw,Tr_Nwを備える第3レグと、が互いに並列接続されることで構成される。以下では、任意のスイッチング素子を単に「スイッチング素子Tr」と記すことがあるものとする。 スイッチング素子Trには、転流によるスイッチング素子Trの破壊を防止するため、還流ダイオードD_Pv,D_Nu等が逆並列に接続されている(図6参照)。
ファンモータ用インバータ回路11が有する下アームのスイッチング素子Tr_Nu,Tr_Nv,Tr_Nw(図6参照)の共通接続点と、直流電源31の負極と、の間(つまり、ファンモータ用インバータ回路11の直流側に接続される母線PL)には、シャント抵抗R1(電流検出器)が設置されている。シャント抵抗R1に流れる電流の検出値は、ファンモータ制御部10の電流再現処理部101に出力される。
ファンモータ12は、例えば、ブラシレス直流モータであり、3相巻線Lu,Lv,Lw(図6参照)が巻回される固定子(電機子:図示せず)と、この固定子に対して回転可能に軸支される回転子(永久磁石:図示せず)と、を有している。 ファンモータ用インバータ回路11が駆動することで、3相巻線Lu,Lv,Lwに流れる電流の向きが切り替わり、回転子との間で吸引力・反発力が生じるようになっている。ファンモータ12の回転子の軸131は、空気調和機ASの室外ファン13に連結されている。
図4は、ファンモータ12に連結された室外ファン13を備える空気調和機ASのシステム構成図である。図4中の矢印は、冷房運転時に冷媒が流れる向きを表している。 空気調和機ASは、圧縮機41と、四方弁42と、室外熱交換器43と、膨張弁44と、室内熱交換器45と、室外ファン13と、室内ファン131と、を備えている。四方弁42、圧縮機41、室外熱交換器43、膨張弁44、および室内熱交換器45が環状に順次接続されることで、冷媒回路40が構成される。
室外ファン13は、室外熱交換器43に室外空気を送り込むファンであり、室外機ASoに設置されている。室外ファン13が回転することで、室外熱交換器43を通流する冷媒と、外気と、が熱交換する。上述したように、室外ファン13には、本実施形態に係るファンモータ12の回転子(図示せず)が連結されている。
室内ファン47は、室内熱交換器45へ室内空気を送り込むファンであり、室内機ASiに設置されている。室内ファン47が回転することで、室内熱交換器45を通流する冷媒と、室内空気と、が熱交換する。室内ファン47には、別のファンモータ46が設置されている。
室外機ASoは屋外に設置されているため、室外ファン13に向けて自然風が流入することが多い。したがって、ファンモータ12が停止している状態(つまり、次回起動時)でも、自然風によって室外ファン13が正転又は逆転していることがある。そこで、本実施形態では、ファンモータ12の起動前において、ファンモータ12に流れる電流の位相角等をシャント抵抗R1の電流検出値に基づいて推定するようにした。以下では、室外ファン13(つまり、ファンモータ12の回転子)が空転することを単に、「ファンモータ12が空転する」と記すことがあるものとする。
<モータ駆動中の相電流>
図5は、モータの3相巻線に流れる相電流の位相角と、3相巻線に流れる電流の向きと、の関係を示す説明図である。なお、図5に示す「吸込側」および「吐出側」は、ファンモータ12を基準とした電流の向きを表している。
ファンモータ制御部10は、PWM制御に基づき、電気角で120°ずつ位相角が異なる電流を3相巻線Lu,Lv,Lwに流してファンモータ12を駆動させる。つまり、ファンモータ制御部10は、3相巻線Lu,Lv,Lwに流れる電流が電流位相区間L0〜L5の順序で推移するように各スイッチング素子Trのオンデューティを変化させる。これによって、回転子の磁極との間で吸引力・反発力を生じさせる磁界が3相巻線Lu,Lv,Lwに発生する。
<モータの空転に伴う相電流>
上述したように、ファンモータ12の駆動を停止させた状態で自然風が吹き込むと、ファンモータ12の回転子に作用する慣性力・摩擦力や、3相巻線Lu,Lv,Lwに生じる逆起電力に抗して、室外ファン13が空転(フリーラン)することがある。室外ファン13が空転すると、この室外ファン13に連結された回転子も空転し、回転子と固定子との間で生じる逆起電力によって、3相巻線Lu,Lv,Lwに電流が流れる。
図1,図2で述べたように、ファンモータ12の空転時に生じる逆起電力(誘起電圧)に起因する電流を、圧縮機モータ22で消費したり、抵抗70で消費したり、直流電源31の出力を昇圧させたりする。
<空転状態の推定処理の概要>
図6(a)は、ファンモータ12の停止中に、室外ファン13の空転によって3相巻線に電流が流れている状態を示す説明図である。スイッチング素子Trが全てオフの状態で室外ファン13が空転(逆転)すると、ある時刻において図6(a)に示す向きの電流が流れる。つまり、直流電源31の起電力に打ち勝つ逆起電力(誘起電圧。以下同じ)が発生し、母線PLおよび還流ダイオードD_Nuを介して、コイルLuへU相電流Iuが流れ込む。
一方、コイルLvを流れるV相電流Ivは、還流ダイオードD_Pvを介して直流側に押し出される。コイルLwを流れるW相電流Iwは、還流ダイオードD_Pwを介して直流側に押し出される。なお、電流Iu,Iv,Iwの向きは、回転子の磁極位置に応じて時々刻々と変化する。
次に、ファンモータ12の駆動を停止した状態で、U相を基準とする微少な位置決め電流(d軸電流指令)を3相巻線Lu,Lv,Lwに流した場合について考える。つまり、ファンモータ制御部10によって、U相を基準としてdq座標系でd軸に沿う位置決め電流指令をファンモータ用インバータ回路11に入力する。
図6(b)は、上アームのスイッチング素子をオンにした状態を示す説明図である。室外ファン13が空転している状態において、例えば、ディーティ比10%でスイッチング素子Tr_Puをオンにし、ディーティ比5%でスイッチング素子Tr_Pv,Tr_Pwをオンにする。
ファンモータ12が空転していない状態では、図6(b)に示すように、スイッチング素子Tr_Puを流れるU相電流IuがコイルLuに流入した後、コイルLv,Lwに向けて分流する。コイルLvから流出するV相電流Ivは、還流ダイオードD_Pvを介してスイッチング素子Tr_Puに向かう(W相電流Iwについても同様)。この場合、ファンモータ12の電機子に逆起電力が発生せず、3相巻線Lu,Lv,Lwにトルク電流(q軸成分)が流れることはない。
図6(c)に示すように、下アームのスイッチング素子Trをオンした場合についても同様である(図6(b)、(c)に示す区間K1,K2については後記する)。
一方、ファンモータ12が空転している状態で、上述した位置決め電流を3相巻線Lu,Lv,Lwに流すと、この位置決め電流に対応する電流(d軸成分)のみならず、回転子の空転に伴う逆起電力の影響で、シャント抵抗R1に電流が流れる。 本実施形態では、このように微少な位置決め電流を与えたときにシャント抵抗R1に流れる電流を検出し、その電流検出値に基づいて3相巻線Lu,Lv,Lwの電流位相角、電気角周波数、および空転の向き(正転/停止/逆転)を推定するようにした。
<ファンモータ制御部10の構成>
再び、図3に戻って説明を続ける。ファンモータ制御部10は、シャント抵抗R1から入力される電流検出値Istに基づいてPWM信号を生成し、このPWM信号をファンモータ用インバータ回路11に出力する装置である。ファンモータ制御部10は、マイコン1に設けられており、例えばROM(Read Only Memory)に記憶されたコンバータプログラムを読み出してRAM(Random Access Memory)に展開し、CPU(Central Processing Unit)が各種処理を実行するようになっている。ROM、RAM、CPUについては図示を省略する。
なお、図3に示す構成図のうち、起動時状態推定部115および起動モード設定部116は、ファンモータ12を起動する際(つまり、停止中)に用いられ、ファンモータ12の駆動中は用いられない。
図7(a)はモータの実軸と制御軸との関係を示す説明図である。図7(a)に示すd軸は、永久磁石である回転子の磁束方向を表す軸である。q軸は、d軸と直交する軸である。位置センサレス制御を行う場合、推定されるd軸としてのdc軸、および、推定されるq軸としてのqc軸上で、電流制御を行う。以下では、d軸およびq軸を「実軸」と記し、dc軸およびqc軸は「制御軸」と記すことがあるものとする。
ファンモータ制御部10は、主として、電流再現処理部101と、3相/2軸変換器102と、軸誤差推定器103と、電圧指令演算器112と、2軸/3相変換器113と、PWM信号発生器114と、起動時状態推定部115と、起動モード設定部116と、を備えている。
電流再現処理部101は、シャント抵抗R1から入力される電流検出値Istと、ファンモータ用インバータ回路11が有するスイッチング素子Tr(図6参照)のON/OFF信号と、からファンモータ12に流れる3相電流Iuc,Ivc,Iwcを再現する。電流再現処理部101は、再現した3相電流Iuc,Ivc,Iwcを3相/2軸変換器102に出力する。
3相/2軸変換器102は、ファンモータ12の駆動中において、以下の処理を実行する。すなわち、3相/2軸変換器102は、再現された3相電流Iuc,Ivc,Iwcと、積分器107から入力される位相θdcと、に基づいて、制御系のdc軸電流idcおよびqc軸電流iqcを算出する。
そして、3相/2軸変換器102は、dc軸電流idcをd軸電流指令発生器108へ出力し、qc軸電流iqcをq軸電流指令発生器109へ出力する。また、3相/2軸変換器102は、dc軸電流idcおよびqc軸電流iqcを、軸誤差推定器103へ出力する。
なお、図3では、dc軸電流idcの信号線と、qc軸電流iqcの信号線と、を途中から同一の信号線として記載しているが、実際にはそれぞれ別の信号として軸誤差推定器103等に入力される(後記するVdc*,Vqc*についても同様)。
また、3相/2軸変換器102は、ファンモータ12を起動する際(つまり、ファンモータ12の駆動停止中)、以下の処理を実行する。すなわち、3相/2軸変換器102は、電流再現処理部101から入力される3相電流Iuc,Ivc,Iwcからフィードバック電流Idfb,Iqfbを算出する。そして、起動時状態推定部115は、算出したフィードバック電流Idfb,Iqfbを起動時状態推定部115に出力する。このように、3相/2軸変換器102の処理内容は、モータ起動時と、モータ駆動中と、で異なっている。
軸誤差推定器103は、dc軸電圧指令Vdc*と、qc軸電圧指令Vqc*と、dc軸電流idcと、qc軸電流iqcと、電気角周波数ω1cと、に基づいて軸誤差Δθcを推定する。つまり、軸誤差推定器103は、ファンモータ12の実軸と制御軸との軸誤差Δθcを、シャント抵抗R1から入力される電流値Istに基づいて推定する。なお、当該推定処理についての詳細な説明は省略する。軸誤差推定器103は、推定した軸誤差Δθcを符号反転器104に出力する。
符号反転器104は、軸誤差推定器103から入力される軸誤差Δθcの符号を反転させる(つまり、軸誤差指令値であるゼロから軸誤差Δθcを減算する)。符号反転器104は、値(−Δθc)をPLL回路105に出力する。
PLL(Phase Locked Loop)回路105は、符号反転器104から入力される値(−Δθc)を用いてPI(Proportional Integral)制御を実行し、ファンモータ12の角周波数補正値Δω1を算出する。PLL回路105は、算出した角周波数補正値Δω1を加算器106に出力する。
加算器106は、角周波数指令演算器111から入力される電気角周波数指令ω1*と、PLL回路105から入力される角周波数補正値Δω1と、を加算し、角周波数補正値Δω1を算出する。加算器106は、角周波数補正値Δω1を積分器107および軸誤差推定器103に出力する。
積分器107は、加算器106から入力される電気角周波数ω1cを積分して位相推定値θdcを算出する。積分器107は、算出した位相推定値θdcを3相/2軸変換器102および2軸/3相変換器113に出力する。
d軸電流指令発生器108は、3相/2軸変換器102から入力されるdc軸電流idcに基づいてd軸電流指令Id*を算出する。d軸電流指令発生器108は、算出したd軸電流指令Id*を電圧指令演算器112に出力する。
q軸電流指令発生器109は、3相/2軸変換器102から入力されるqc軸電流iqcに基づいてq軸電流指令Iq*を算出する。q軸電流指令発生器109は、算出したq軸電流指令Iq*を電圧指令演算器112に出力する。
また、d軸電流指令発生器108およびq軸電流指令発生器109は、リモコン5から起動指令が入力された際(つまり、実際にファンモータ12を駆動させる直前に)、所定の位置決め電流を生成する。上述の通り、位置決め電流は、室外ファン13の空転状態を検出するための微小な電流である。なお、位置決め電流を用いた処理の詳細については後記する。
角周波数指令発生器110は、室外熱交換器43に所定の風量の外気を送り込むように、予め設定されたプログラムに従ってファンモータ12を駆動させるための角周波数指令ωr*を発生させる。角周波数指令発生器110は、発生させた角周波数指令ωr*を角周波数指令演算器111に出力する。
また、角周波数指令発生器110は、ファンモータ12の起動直前に位置決め電流(d軸電流指令)を電機子に流す際、角周波数指令ωr*=0を発生させる。さらに、角周波数指令発生器110は、起動時状態推定部115によって推定される電気角周波数Frqと、起動モード設定部116から入力される状態情報と、に基づいて、角周波数指令ωr*を生成する。
角周波数指令演算器111は、角周波数指令発生器110から入力される角周波数指令ωr*に、ファンモータ12の極対数(P/2)を乗算し、電気角周波数指令ω1*を算出する。角周波数指令演算器111は、算出した電気角周波数指令ω1*を加算器106および電圧指令演算器112に出力する。
電圧指令演算器112は、上述したd軸電流指令Id*と、q軸電流指令Iq*と、電気角周波数指令ω1*と、に基づいてd軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*を算出する。電圧指令演算器112は、算出したd軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*を、軸誤差推定器103および2軸/3相変換器113に出力する。
2軸/3相変換器113は、電圧指令演算器112から入力されるd軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*と、積分器107から入力される位相推定値θdcと、に基づいて、ファンモータ12の3相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を算出する。2軸/3相変換器113は、算出した3相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*をPWM信号発生器114に出力する。
PWM信号発生器114は、2軸/3相変換器113から入力される3相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に基づいてPWM信号を生成する。PWM信号発生器114は、生成したPWM信号をファンモータ用インバータ回路11のスイッチング素子Tr(図6参照)に出力する。
起動時状態推定部115は、上述した位置決め電流の入力に伴ってシャント抵抗R1に流れるフィードバック電流Idfb,Iqfbに基づき、起動時におけるファンモータ12の空転状態を推定する。ここで、「ファンモータ12の空転状態」には、3相巻線Lu,Lv,Lwに流れるモータ電流の位相角、電気角周波数、および回転子が空転する向き(正転・停止・逆転)が含まれる。
図7(b)は、モータに位置決め電流を流した際の電流ベクトルを表す。ファンモータ12が空転していない場合、d軸を基準とする位置決め電流に応じた電流Iがシャント抵抗R1に流れる。この場合、q軸成分のフィードバック電流Iqfbはゼロになる。
一方、ファンモータ12が空転している場合、逆起電力による影響分の電流ΔIが上述した電流Iに加わり、ベクトルとして加算された電流(I+ΔI)がシャント抵抗R1に流れる。つまり、図7(b)に示すように、ファンモータ12が空転する速度や向きに応じて電流(I+ΔI)の位相角が変化する。
このように本実施形態では、シャント抵抗R1を流れるフィードバック電流Idfb,Iqfbが室外ファン13の空転状態に応じて変化することを利用して、ファンモータ12の空転状態を推定する。
図8は、ファンモータ制御部10が備える起動時状態推定部の構成図である。起動時状態推定部115は、電流位相演算部115aと、d軸位相変換部115bと、減算器115cと、位相差演算部115dと、状態判定部115eと、周波数演算部115fと、を有している。
電流位相演算部115aは、ファンモータ12を起動する際に3相/2軸変換器102から入力されるフィードバック電流Idfb,Iqfbに基づき、モータ電流の位相角を算出する。なお、電流位相演算部115aは、所定周期(例えば、0.01sec毎)に位相角φを演算する。電流位相φは、以下に示す(数式1)に基づいて算出される。ちなみに、本実施形態でq軸基準で演算処理を実行するため、(数式1)では分母をq軸のフィードバック電流Iqfbとしている。
電流位相演算部115aは、リモコン5(図3参照)から起動指令が入力された後、最初に算出した位相角φをd軸位相変換部115bに出力する。また、所定周期で算出する電流位相φを記憶手段(図示せず)に格納する。
d軸位相変換部115bは、電流位相演算部115aから入力される電流位相φに基づき、d軸位相θdを算出する。位置決め電流はd軸起動(d軸電流指令Id*≠0、q軸電流指令Iq*=0)として与えられ、回転周波数指令ωr*=0[Hz]である。したがって、ファンモータ12の電流位相φと、d軸位相θdと、は相互に対応していると考えられる。
状態判定部115eから「正転」を示す情報が入力されると、d軸位相変換部115bは、以下に示す(数式2)に基づいてd軸位相θdを算出する(図7(a)参照)。
また、回転子が逆転(空転)している場合、d軸位相は正転時と比較してπ[rad]だけ位相がずれる。状態判定部115eから「逆転」を示す情報が入力された場合、d軸位相変換部115bは、以下に示す(数式3)に基づいてd軸位相θdを算出する。
d軸位相変換部115bは、算出したd軸位相θd(つまり、モータ電流の位相角)を、図3に示す積分器107に出力する。
減算器115cは、今回(2回目以後に)算出された位相角φnと、前回の位相角φn−1と、の位相差Δφnを算出する。減算器115cは、算出した位相差Δφnを位相差演算部115dに出力する。
位相差演算部115dは、以下に示す(数式4)に基づいて、所定周期で算出される位相差Δφnに関してN個の和をとり、位相差Δφsumを算出する。上述した値Nは、ファンモータ12の演算精度を確保するために予め設定された値(例えば、N=16)である。すなわち、N段のバッファ(図示せず)に電流位相を格納して位相差Δφsumを求めることで、回転子が低速回転で空転している場合でも周波数Frq等を精度良く算出できる。
位相差演算部115dは、算出した位相差Δφsumを状態判定部115eおよび周波数演算部115fに出力する。状態判定部115eは、位相差演算部115dから入力される位相差Δφsumに基づいて、回転子(つまり、室外ファン13)が正回転で空転/停止/逆回転での空転のいずれであるかを判定する。位相差Δφsumと、回転子の状態と、の関係を以下の表1に示す。なお、位相差Δφsumの絶対値が所定値以下である場合に、状態判定部115eによって「停止」と判定するようにしてもよい。
状態判定部115eは、判定した結果をd軸位相変換部115b、周波数演算部115f、および起動モード設定部116(図3参照)に出力する。
周波数演算部115fは、位相差演算部115dから入力される位相差Δφsumに基づき、回転子が空転する際の電気角周波数Frqを算出する。すなわち、周波数演算部115fは、上述した値Nと、位相角φの演算周期ΔTと、を乗算した値NΔTで位相差Δφsumを除算し、さらに所定の定数を掛けることで電気角周波数Frqを算出する。周波数演算部115fは、算出した電気角周波数Frqを角周波数指令発生器110(図3参照)および起動モード設定部116に出力する。
図3に示す起動モード設定部116は、起動時状態推定部115から入力される電気角周波数Frqと、上述した状態情報と、に基づいて、ファンモータ12の起動モードを設定する。なお、起動モード設定部116が実行する処理の詳細については後記する。起動モード設定部116は、設定した起動モードを角周波数指令演算器111に出力する。
<ファンモータ制御部10の動作>
図9は、ファンモータ制御部10が実行する処理のフローチャートである。ステップS101においてファンモータ制御部10は、ファンモータ12の起動指令があったか否かを判定する。なお、ファンモータ12の起動指令は、リモコン5を介した操作(例えば、冷房運転オン)に応じて、室内機ASi側の制御装置(図示せず)から入力される。
ファンモータ12の起動指令があった場合(S101:YES)、ファンモータ制御部10の処理はステップS102に進む。一方、ファンモータ12の起動指令がない場合(S101:NO)、ファンモータ制御部10はステップS101の処理を繰り返す。
ステップS102においてファンモータ制御部10は、起動時状態推定処理を実行し、起動直前におけるファンモータ12の状態を推定する。
ステップS103においてファンモータ制御部10は、ステップS102の推定結果に基づき、起動モード設定処理を実行する。なお、起動モード設定処理の詳細については後述する。
図10は、ファンモータ制御部10が実行する起動時状態推定処理(S102:図9参照)の流れを示すフローチャートである。
ステップS1021においてファンモータ制御部10は、ファンモータ12の電機子に位置決め電流を流すために位置決め電流指令(Id*≠0,Iq*=0,ω*=0)を生成する。この位置決め電流指令をdq座標系で表わすと、図11(a)のようになる。
ファンモータ制御部10は、位置決め電流を3相巻線Lu,Lv,Lwに流すように、上アームのスイッチング素子Tr_Pu,Tr_Pv,Tr_Pwをオンにする(図6(b)参照)。例えば、ファンモータ制御部10は、ディーティ比10%でスイッチング素子Tr_Puをオンにし、その半分のディーティ比5%で、スイッチング素子Tr_Pv,Tr_Pwをオンにする。
なお、この状態は、回転子に対して微少なブレーキ力として作用する。したがって、ファンモータ12の空転状態を変化させないようにするために(つまり、位置決め電流を与えることで大きな外乱が発生しないように)、位置決め電流は微少であることが好ましい。この状態は図12(c)に示す区間K1に対応している。
次に、ファンモータ制御部10は、上述した区間K1の状態からスイッチング素子Tr_Pu,Tr_Nuのオン/オフを切り替える。そうすると、図13(a)に示すように、各コイルに蓄えられていた電気エネルギが放出され、シャント抵抗R1を介して電流Iu(=Iv+Iw)が流れる。この状態は、図12(c)に示す区間K2に対応する。
続いて、ファンモータ制御部10は、上述した区間K2の状態からスイッチング素子Tr_Pv,Tr_Nvのオン/オフを切り替える。そうすると、図13(b)に示すように、シャント抵抗R1を介して電流Iwが流れる。この状態は、図12(c)に示す区間K3に対応している。
つまり、ファンモータ制御部10は、U相のスイッチング素子Tr_Pu又はTr_Nuを、V相およびW相に対して2倍のオンディーティで駆動しつつ電流経路を切り替える。このように電流経路を経時的に切り替えることによって、一つのシャント抵抗R1で、3相分の電流Iu,Iv,Iwに関する情報が得られる。なお、電流Ivは、区間K2で取得される電流値(Iv+Iw)から、区間K3で取得される電流値Iwを減算することで得られる。
また、図12(a)に示す時間Δtは、例えば、ファンモータ制御部10の回路が組み込まれたマイコンのサンプリング周期(またはその整数倍)である。
次に、ファンモータ制御部10は、上述した区間K4の状態(図6(c)、図12(c)参照)からU相のスイッチング素子Tr_Pu,Tr_Nuのオン/オフを切り替える。そうすると、図14(a)に示すように、各コイルに蓄えられていた電気エネルギが放出され、シャント抵抗R1を介して電流Iu(=Iv+Iw)が流れる。この状態は、図12(c)に示す区間K5に対応している。
続いて、ファンモータ制御部10は、上述した区間K5の状態からスイッチング素子Tr_Pv,Tr_Nvのオン/オフを切り替える。そうすると、図14(b)に示すように、シャント抵抗R1を介して電流Iwが流れる。この状態は、図12(c)に示す区間K6に対応している。
さらにファンモータ制御部10は、区間K6の状態からW相のスイッチング素子Tr_Pw,Tr_Nwのオン/オフを切り替えて、区間K1の状態に戻す(図6(b)、図12(c)参照)。
このようにファンモータ制御部10は、ファンモータ用インバータ回路11が有する複数のスイッチング素子Trのうち、位置決め電流を流すためにオン信号を入力するスイッチング素子Trを切り替えることで、3相巻線Lu,Lv,Lwの電流値を算出する。これによって、dq座標系におけるモータ電流の位相角φを算出できる(図8参照)。
なお、このような一連の処理は、非常に短時間(PWM制御の一周期分の時間)で実行される。ファンモータ制御部10は、d軸電流指令Id*(図11(a)参照)を生成しつつ、上述した区間K1〜K6を順次推移させるPWM制御を、所定周期で実行する。そうすると、上述したフィードバック電流Idfb,Iqfbは、時間の経過とともに以下のように変化する。
すなわち、ファンモータ12が正方向に空転(正転)している場合、逆起電力の影響でフィードバック電流Idfb,Iqfbが時々刻々と変化する。例えば、フィードバック電流のq軸成分は、時間の経過とともに正弦波状に変化する(図11(b)参照)。
また、ファンモータ12が空転していない場合、シャント抵抗R1には、上述したd軸電流指令Id*に対応するフィードバック電流(磁束方向であるd軸成分)が流れる。なお、ファンモータ12で逆起電力は発生しておらず、かつ、q軸電流指令Iq*はゼロである。したがって、フィードバック電流のq軸成分Iqfbは略ゼロになる(図11(c)参照)。また、ファンモータ12が逆方向に空転(逆転)している場合、フィードバック電流のq軸成分Iqfbは、正転の場合とは逆位相で正弦波状に変化する(図11(d)参照)。
再び図10に戻って説明を続ける。ステップS1022においてファンモータ制御部10は、値n=1とする。この値nは、ファンモータ12の電流位相角が算出されるたびにインクリメントされる自然数である(S1025)。
ステップS1023においてファンモータ制御部10は、モータ電流の位相角φnを算出する。すなわちファンモータ制御部10は、電流位相演算部115aによって、ステップS1021のd軸指令に応じたフィードバック電流Idfb,Iqfbに基づき、モータ電流の位相角φnを算出する。ファンモータ制御部10は、算出した位相角φnを記憶手段(図示せず)に格納する。
ステップS1024においてファンモータ制御部10は、値n=1であるか否かを判定する。値n=1である場合(S1024→YES)、ファンモータ制御部10の処理はステップS1025へ進む。ステップS1025においてファンモータ制御部10は、値nを1つインクリメントし、ステップS1023の処理に進む。
一方、値n=1でない、つまり、値nが2以上である場合(S1024:NO)、ファンモータ制御部10の処理はステップS1026に進む。ステップS1026においてファンモータ制御部10は、減算器115cによって、今回の位相角φnから前回の位相角φn−1を減算して位相差Δφnを算出する。
ステップS1027においてファンモータ制御部10は、位相差演算部115dによって、n=1から今回まで算出した位相差Δφnの和Δφsum(n)を算出する。すなわち、ファンモータ制御部10は、前回までの和Δφsum(n−1)に、今回算出した位相差Δφnを加算することで、和Δφsum(n)を算出する。
ステップS1028においてファンモータ制御部10は、n=Nであるか否かを判定する。上述の通り、値Nは、演算精度を確保するために設定された値(例えば、N=16)である。n<Nである場合(S1028:NO)、ステップS1025においてファンモータ制御部10は値nをインクリメントし、ステップS1023の処理に進む。
一方、n=Nである場合(S1028:YES)、ファンモータ制御部10の処理はステップS1029に進む。ステップS1029においてファンモータ制御部10は、状態判定部115eによって、ファンモータ12の状態(正転/停止/逆転)を判定する。当該判定処理は、ステップS1027で最終的に得られる位相差の総和Δφsum(N)の符号に基づいて判定される(表1参照)。
ステップS1030においてファンモータ制御部10は、周波数演算部115fによって、空転または停止しているファンモータ12の電気角周波数Frqを算出する。
このようにしてファンモータ制御部10は、空転(または停止)しているファンモータ12の電流位相角、電気角周波数、回転の向き(正転/停止/逆転)を算出する。ファンモータ制御部10は、これらの算出結果に基づき、ファンモータ12の起動モードを設定する。
図15は、ファンモータ制御部10が実行する制御モード設定処理(S103:図9参照)の流れを示すフローチャートである。
ステップS1031においてファンモータ制御部10は、ステップS1030(図10参照)で算出した電気角周波数Frqが所定値Frq1以上であるか否かを判定する。ここで、所定値Frq1は、室外ファン13が空転することで、室外熱交換器43を介した熱交換が適切に行われるか否かの判定基準となる閾値である。なお、所定値Frq1以上で室外機ASoが逆転(空転)している場合でも、室外熱交換器43を介して空気と冷媒との間で熱交換される。
電気角周波数Frqが所定値Frq1以上である場合(S1031:YES)、ファンモータ制御部10の処理はステップS1032に進む。ステップS1032においてファンモータ制御部10は、ファンモータ用インバータ回路11を駆動せずにファンモータ12の空転を継続させる。
ステップS1033においてファンモータ制御部10は、ステップS1032の処理を開始してから所定時間Δt1が経過したか否かを判定する。所定時間Δt1は、空転状態のファンモータ12を監視する際の周期であり、予め設定されている。
所定時間Δt1が経過していない場合(S1033:NO)、ファンモータ制御部10の処理はステップS1032に進む。一方、所定時間Δt1が経過した場合(S1033:YES)、ファンモータ制御部10の処理は、図10のステップS1021に進む。このようにしてファンモータ制御部10は、所定時間Δt1毎にファンモータ12の空転状態を監視する。
図15のステップS1031において電気角周波数Frqが所定値Frq1未満である場合(S1031:NO)、ファンモータ制御部10の処理はステップS1034に進む。ステップS1034においてファンモータ制御部10は、ファンモータ12が正転フリーランしているか否かを判定する。当該処理には、上述したステップS1029(図10参照)の処理結果が用いられる。
ステップS1034でファンモータ12が正転フリーランしていると判定した場合(S1034:YES)、ステップS1035においてファンモータ制御部10は、正転センサレス運転を実行する。つまり、ファンモータ制御部10は、ファンモータ12の磁極位置を推定し、上述した軸誤差ΔθをゼロにするようにPWM制御を実行する。
ステップS1034でファンモータ12が正転フリーランしていないと判定した場合(S1034:NO)、ファンモータ制御部10の処理はステップS1036に進む。ステップS1036においてファンモータ制御部10は、ファンモータ12が停止しているか否かを判定する。なお、上述した「停止」には、ファンモータ12が微動している場合も含まれる。
ファンモータ12が停止していると判定した場合(S1036:YES)、ステップS1037においてファンモータ制御部10は、ブレーキ電流を流すことでファンモータ12を完全に停止させ、位置決めする。
ステップS1038においてファンモータ制御部10は、正転同期運転を実行する。すなわち、ファンモータ制御部10は、ステップS1023で算出した位相角φ1、およびステップS1030で算出した電気角周波数Frqに基づいて同期運転を行い、ファンモータ12を徐々に加速させる。正転同期運転を行った後、ファンモータ制御部10の処理はステップS1035(正転センサレス運転)に進む。
ステップS1036においてファンモータ12が停止していない(つまり、逆転フリーランしている)と判定した場合、ファンモータ制御部10の処理はステップS1039に進む。
ステップS1039においてファンモータ制御部10は、ステップS1030(図10参照)で算出した電気角周波数Frqが所定値Frq2以上であるか否かを判定する。ここで、所定値Frq2(<Frq1)は、逆転センサレスを行うことなく所定のブレーキ電流でファンモータ12の空転を停止可能か否かの判定基準となる閾値である。
電気角周波数Frqが所定値Frq2以上である場合(S1039:YES)、ファンモータ制御部10は、ステップS1040において逆転センサレス運転を実行する。つまり、ファンモータ制御部10は、ファンモータ12の空転(逆転)に抗してファンモータ12を正転させる電圧指令をファンモータ用インバータ回路11に出力する。これによってファンモータ12を逆転させる力が強制的に打ち消され、ファンモータ12の空転が徐々に減速する。
ステップS1041においてファンモータ制御部10は、ファンモータ12の回転子をいったん停止させ、回転子の位置(機械角)を保持する。このように位置決めした後、ファンモータ制御部10は、正転同期運転(S1038)および正転センサレス運転(S1035)を順次実行する。
一方、電気角周波数Frqが所定値Frq2未満である場合(S1039:NO)、ファンモータ制御部10は、ステップS1042においてブレーキ電流を増加させる。つまり、ファンモータ制御部10は、回転トルクを与えるq軸電流指令Iq*をゼロとしつつ、d軸電流指令Id*を徐々に増加させてファンモータ12にブレーキ電流を流す。そうすると、例えば、図6(b)または図6(c)に示す向きにブレーキ電流が流れ、ファンモータ12の空転に対して制動力が発生する。
その後、ファンモータ制御部10は位置決めした後(S1041)、正転同期運転(S1038)および正転センサレス運転(S1035)を順次実行する。
このようにしてファンモータ制御部10は、起動時におけるファンモータ12の空転状態に応じた制御モードを実行して室外ファン13を駆動したり(S1035)、その空転を継続させたりする(S1032)。その結果、室外熱交換器43を通流する冷媒と、室外ファン13から送り込まれる空気と、を適切に熱交換させることができる。
<効果>
本実施形態に係るファンモータ制御部10によれば、ファンモータ12を起動する際、U相を基準とする位置決め電流(d軸電流指令Id*)をファンモータ用インバータ回路11に流すことで、ファンモータ12の空転状態を適切に検出できる。
つまり、ファンモータ12が空転していない状態で検出されるフィードバック電流(d軸電流Idfb:図3参照)を基準として空転に伴う電流変動をシャント抵抗R1で検出し、モータ電流の位相角、電気角周波数、および回転の向きを正確に算出できる。また、当該処理は複雑な演算を要しないため、ファンモータ制御部10(マイコン)の処理負荷を従来よりも低減できる。ファンモータ12の空転状態を的確に検出することができるため、空転に伴って生じるモータ電流を圧縮機用インバータ回路21などで消費させることができ、モータの性能低下を抑制し、空気調和機の信頼性および寿命を向上させることができる。
また、本実施形態では、ファンモータ12の空転状態を検出するための誘起電圧検出回路が不要であるため、その分ファンモータ制御部10の回路面積を低減できるとともに、ファンモータ制御部10(ひいては、空気調和機)の製造コストを削減できる。
また、ファンモータ12の空転状態(正転/停止/逆転)に応じた制御モードを実行することで、ファンモータ12を適切かつスムーズに起動させることができる。
≪変形例≫
以上、本発明に係るファンモータ制御部10について、前記実施形態により説明したが、本発明の実施態様はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変更などを行うことができる。
例えば、前記実施形態では、ファンモータ12の空転状態を推定する際、ファンモータ制御部10は3相巻線のうちU相を基準とするd軸電流指令Id*を生成する場合について説明したが、これに限らない。すなわち、V相またはW相を基準とするd軸電流指令Id*を生成するようにしてもよい。
また、前記実施形態では、ファンモータ12の電機子が3相巻線Lu,Lv,Lwを有する場合について説明したが、これに限らない。例えば、ファンモータ12の電機子が2相巻線を有する構成にも、前記実施形態を適用できる。
また、前記実施形態では、ファンモータ用インバータ回路11の直流側の母線PLにシャント抵抗R1を設置する場合について説明したが、これに限らない。例えば、シャント抵抗に代えて、電流センサ(電流検出器)を母線PLに設置してもよい。
また、前記実施形態では、ファンモータ制御部10によって、空気調和機ASの室外ファン13に連結されるファンモータ12を制御する場合について説明したが、これに限らない。例えば、洗濯機、乾燥機、掃除機等の家電製品に設置されるファンをファンモータ制御部10によって制御してもよい。
また、前記実施形態では、ファンモータ制御部10によって制御されるファンモータ12がブラシレス直流モータである場合について説明したが、これに限らない。同期モータ等、他の種類のモータにも前記実施形態を適用できる。
また、前記実施形態では、空気調和機ASが四方弁42(図4参照)を備える構成にについて説明したが、これに限らない。すなわち、四方弁42を省略し、圧縮機41と、室外熱交換器43と、膨張弁44と、室内熱交換器45と、が環状に順次接続される構成にしてもよい。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の範囲内で、種々の追加や変更等を行うことができる。上述の実施形態において、添付図面に図示した構成例に限定されない。本発明の目的を達成する範囲内で、実施形態の構成や処理方法は適宜変更することが可能である。
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれる。さらに特許請求の範囲に記載された構成は、特許請求の範囲で明示している組合せ以外にも組み合わせることができる。