本発明を以下で詳細に記述する前に、本明細書に記述される特定の方法論、プロトコルおよび試薬は様々であり得るため、本発明はこれらに限定されないことが理解されるはずである。本明細書で使用される用語は特定の実施態様を記述するためのものにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図していないことが理解されるはずであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲のみによって限定される。他に定義されない限り、本明細書で使用されるあらゆる技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
好ましくは、本明細書で使用される用語は、"A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)", Leuenberger, H.G.W, Nagel, B. and Kolbl, H. eds. (1995), Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerlandに記載されているように定義される。
複数の文書が本明細書の文章のあらゆる箇所で引用される。本明細書で引用される各文書(あらゆる特許、特許出願、科学的刊行物、製造者の仕様書、説明書、GenBankアクセッション番号配列提出書(submission)などを含む)は上記または下記に関わらず、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる記載も、本発明が先行発明によるこのような開示に先行する権利を有しないことを承認するものと解釈されるべきではない。
定義
単語「含む」およびその変化形(「含んでいる」など)は、記載されている整数もしくは工程または整数もしくは工程の群を包含するが、いかなる他の整数もしくは工程または整数もしくは工程の群も除外しないことを示唆することが理解される。
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は文脈上明らかな他の指示がない限り、複数の指示対象を含む。
濃度、量および他の数値データは本明細書において、「範囲」の形式で表現または提示され得る。このような範囲の形式は単に簡便さおよび簡潔さのために使用され、したがって範囲の限界として明確に記載された数値だけでなく、その範囲内に包含されるあらゆる個々の数値または部分範囲もまた、各数値および部分範囲が明確に記載されているように含まれると柔軟に解釈されるべきであることが理解されるはずである。実例として、「150mg〜600mg」の数値範囲は、150mg〜600mgという明確に記載された値だけでなく、指定された範囲内の個々の値および部分範囲も含むと解釈されるはずである。したがって、150、160、170、180、190、…580、590、600mgなどの個々の値、および150〜200、150〜250、250〜300、350〜600などの部分範囲は、この数値範囲に含まれる。これと同一の原理が単一の数値のみを記載している範囲に適用される。さらに、このような解釈は範囲の幅または記載されている特徴にかかわらず適用されるべきである。
数値に関連して使用される場合、用語「約」は、示された数値よりも5%小さい下限を有し、示された数値よりも5%大きい上限を有する範囲内の数値を包含することを意味する。
用語「核酸」および「核酸分子」は本明細書において同義的に使用され、デオキシリボヌクレオチド塩基もしくはリボヌクレオチド塩基またはその両方の一本鎖または二本鎖のオリゴマーまたはポリマーとして理解される。ヌクレオチドモノマーは、核酸塩基、五炭糖(限定されないが、リボースまたは2’−デオキシリボースなど)および1〜3つのリン酸基から構成される。通常、核酸は個々のヌクレオチドモノマー間のホスホジエステル結合を介して形成される。本発明の文脈において、核酸という用語は、限定されないがリボ核酸(RNA)分子およびデオキシリボ核酸(DNA)分子を含み、他の結合を含む核酸の合成型(例えば、Nielsen et al. (Science 254:1497-1500, 1991)に記述されるペプチド核酸)を含む。通常、核酸は一本鎖分子または二本鎖分子であり、天然に存在するヌクレオチドから構成される。核酸の一本鎖の描写は相補鎖の配列を(少なくとも部分的に)規定する。核酸は一本鎖もしくは二本鎖であり得、または二本鎖配列および一本鎖配列の両方の部分を含み得る。例示される二本鎖核酸分子は3’または5’オーバーハングを有し得、そのようなものとして、その全長にわたって完全に二本鎖であることは必要とされず、または想定されない。核酸は、生物学的合成法、生化学的合成法もしくは化学的合成法、または当分野で公知のあらゆる方法(限定されないが、増幅法およびRNAの逆転写法を含む)によって取得され得る。核酸という用語は、染色体もしくは染色体セグメント、ベクター(例えば発現ベクター)、発現カセット、ネイキッドDNAもしくはRNAポリマー、プライマー、プローブ、cDNA、ゲノムDNA、組換えDNA、cRNA、mRNA、tRNA、マイクロRNA(miRNA)または低分子干渉RNA(siRNA)を含む。核酸は、例えば一本鎖、二本鎖または三本鎖であり得、いかなる特定の長さにも限定されない。他の指示がない限り、ある核酸配列は、明確に示されている任意の配列に加えて、相補的配列を含むか、またはコードする。
核酸は、エンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼ(特に、細胞中に見出され得るDNaseおよびRNase)によって分解され得る。したがって、核酸を分解に対して安定化するために修飾することは有利であり得、これにより高濃度の核酸が細胞中に長期間にわたって維持されることが保証され得る。通常、このような安定化は、1以上のヌクレオチド間リン基(internucleotide phosphorus group)を導入すること、または1以上のヌクレオチド間非リンを導入することによって得られ得る。したがって、核酸は、天然に存在しないヌクレオチド、および/または天然に存在するヌクレオチドへの修飾、および/または分子の骨格への変化から構成され得る。核酸における修飾されたヌクレオチド間リン酸ラジカルおよび/または非リン架橋には、限定されないが、メチルホスホン酸、ホスホロチオエート、ホスホルアミダート、ホスホロジチオエートおよび/またはリン酸エステルが含まれ、非リンヌクレオチド間類似体には、限定されないが、シロキサン架橋、カーボネート架橋、カルボキシメチルエステル、アセトアミダート架橋および/またはチオエーテル架橋が含まれる。ヌクレオチド修飾のさらなる例には、限定されないが:連結またはエキソヌクレアーゼ分解/ポリメラーゼ伸長の防止をそれぞれ可能にする5’または3’ヌクレオチドのリン酸化;共有結合および近似的共有結合(near covalent attachment)のためのアミノ、チオール、アルキンまたはビオチニル修飾;フルオロフォアおよび消光剤;ならびに修飾塩基(デオキシイノシン(dI)、5−ブロモ−デオキシウリジン(5−ブロモ−dU)、デオキシウリジン、2−アミノプリン、2,6−ジアミノプリン、逆位dT、逆位ジデオキシT、ジデオキシシチジン(ddC)、5−メチルデオキシシチジン(5−メチルdC)、ロックド核酸(LNA)、5−ニトロインドール、イソdCおよびイソdG塩基、2’−O−メチルRNA塩基、ヒドロキシメチルdC、5−ヒドロキシブチニル−2’−デオキシウリジン(5-hydroxybutynl-2’-deoxyuridine)、8−アザ−7−デアザグアノシンおよびフッ素修飾塩基など)が含まれる。したがって、核酸は人工核酸であり得、これは限定されないが、ポリアミドもしくはペプチド核酸(PNA)、モルフォリノおよびロックド核酸(LNA)、ならびにグリコール核酸(GNA)およびトレオース核酸(TNA)を含む。
核酸は、別の核酸配列と機能的な関係において配置されている場合、「動作可能に連結」されている。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは配列の転写に影響を与える場合、コード配列に動作可能に連結されている;または、リボソーム結合部位は翻訳を促進するように配置されている場合、コード配列に動作可能に連結されている。
本発明の文脈において、用語「オリゴヌクレオチド」は、最大で約50ヌクレオチド(例えば2〜約50ヌクレオチド長)の核酸配列を指す。
本発明の文脈において使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、約50ヌクレオチド長よりも長い核酸(例えば51以上のヌクレオチド長)を指す。
オリゴヌクレオチドおよびポリペプチドはあらゆる適切な方法(限定されないが、既存の配列もしくは天然配列の単離、DNA複製もしくは増幅、逆転写、適切な配列のクローニングおよび制限消化、または(Narang et al. (Meth. Enzymol. 68:90-99, 1979)のホスホトリエステル法;Brown et al. (Meth. Enzymol. 68:109-151, 1979)のホスホジエステル法;Beaucage et al. (Tetrahedron Lett. 22:1859-1862, 1981)のジエチルホスホロアミダート法;Matteucci et al. (J. Am. Chem. Soc. 103:3185-3191, 1981)のトリエステル法;自動合成法;もしくは米国特許第4,458,066号の固相担体法、または当業者に公知の他の方法などの方法による)直接的な化学合成を含む)によって調製される。
本明細書において、用語「ベクター」は、細胞に導入でき、またはその中に含まれるタンパク質および/または核酸を細胞に導入できるタンパク質もしくはポリヌクレオチドまたはそれらの混合物を指す。ベクターの例には、限定されないが、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスまたは人工染色体が含まれる。特に、ベクターは、対象の遺伝子産物(例えば、外来DNAまたは異種DNAなど)を適切な宿主細胞に輸送するために使用される。ベクターは、宿主細胞におけるベクターの自己複製を促進する「レプリコン」ポリヌクレオチド配列を含み得る。外来DNAは異種DNAとして定義され、これは宿主細胞において天然に見出されないDNAであり、この宿主細胞は例えばベクター分子を複製し、選択可能またはスクリーニング可能なマーカーをコードし、または導入遺伝子をコードしている。宿主細胞に存在する場合、ベクターは宿主染色体DNAとは独立に、または宿主染色体DNAと同時に複製し得、ベクターおよびその挿入されたDNAのいくつかのコピーが作成され得る。さらにベクターは、挿入されたDNAのmRNA分子への転写を可能にし、またはさもなければ挿入されたDNAの複数のコピーのRNAへの複製を生じるのに必要な要素を含み得る。ベクターはさらに、対象の遺伝子の発現を調節する「発現制御配列」を包含し得る。通常、発現制御配列はポリペプチドまたはポリヌクレオチド(限定されないが、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、インスレーターまたはリプレッサーなど)である。1以上の対象の遺伝子産物をコードする2以上のポリヌクレオチドを含むベクターにおいて、発現は1以上の発現制御配列によって共にまたは別々に制御され得る。より具体的には、ベクター上に含まれる各ポリヌクレオチドは別々の発現制御配列によって制御されてもよく、ベクター上に含まれる全てのポリヌクレオチドは単一の発現制御配列によって制御されてもよい。単一の発現制御配列によって制御される単一のベクター上に含まれるポリヌクレオチドは、オープンリーディングフレームを形成し得る。いくつかの発現ベクターは、発現したmRNAの半減期を増加させ、かつ/またはmRNAのタンパク質分子への翻訳を可能にする、挿入されたDNAに隣接する配列要素をさらに含む。したがって、挿入されたDNAによってコードされるmRNAおよびポリペプチドの多数の分子が迅速に合成され得る。
用語「アミノ酸」は一般に、未置換もしくは置換されたアミノ基、未置換もしくは置換されたカルボキシ基、および1以上の側鎖もしくは基、またはあらゆるこれらの基の類似体を含むあらゆるモノマー単位を指す。例示的な側鎖には、例えば、チオール、セレノ、スルホニル、アルキル、アリール、アシル、ケト、アジド、ヒドロキシル、ヒドラジン、シアノ、ハロ、ヒドラジド、アルケニル、アルキニル、エーテル、ホウ酸塩、ボロン酸塩、ホスホ、ホスホノ、ホスフィン、複素環、エノン、イミン、アルデヒド、エステル、チオ酸、ヒドロキシルアミン、またはこれらの基のあらゆる組合せが含まれる。他の代表的なアミノ酸には、限定されないが、光活性化可能な架橋剤を含むアミノ酸、金属結合アミノ酸、スピン標識アミノ酸、蛍光アミノ酸、金属含有アミノ酸、新規官能基を有するアミノ酸、他の分子と共有結合的または非共有結合的に相互作用しているアミノ酸、光ケージされたアミノ酸および/または光異性化可能なアミノ酸、放射性アミノ酸、ビオチンまたはビオチン類似体を含むアミノ酸、グリコシル化アミノ酸、他の炭水化物で修飾されたアミノ酸、ポリエチレングリコールまたはポリエーテルを含むアミノ酸、重原子置換アミノ酸、化学的に切断可能なアミノ酸および/または光切断可能なアミノ酸、炭素結合糖(carbon-linked sugar)含有アミノ酸、レドックス活性アミノ酸、アミノチオ酸含有アミノ酸、ならびに1以上の毒性成分を含むアミノ酸が含まれる。本明細書において、用語「アミノ酸」は、以下の20種の天然または遺伝的にコードされたアルファアミノ酸を含む:アラニン(AlaまたはA)、アルギニン(ArgまたはR)、アスパラギン(AsnまたはN)、アスパラギン酸(AspまたはD)、システイン(CysまたはC)、グルタミン(GlnまたはQ)、グルタミン酸(GluまたはE)、グリシン(GlyまたはG)、ヒスチジン(HisまたはH)、イソロイシン(IleまたはI)、ロイシン(LeuまたはL)、リジン(LysまたはK)、メチオニン(MetまたはM)、フェニルアラニン(PheまたはF)、プロリン(ProまたはP)、セリン(SerまたはS)、スレオニン(ThrまたはT)、トリプトファン(TrpまたはW)、チロシン(TyrまたはY)、およびバリン(ValまたはV)。「X」残基が定義されていない場合、これらは「任意のアミノ酸」として定義されるべきである。これら20種の天然アミノ酸の構造は、例えばStryer et al., Biochemistry, 5th ed., Freeman and Company (2002)に示されている。さらなるアミノ酸(セレノシステインおよびピロリジンなど)が遺伝的にコードされ得る(Stadtman (1996) "Selenocysteine," Annu Rev Biochem. 65:83-100およびIbba et al. (2002) "Genetic code: introducing pyrrolysine," Curr Biol. 12(13):R464-R466)。用語「アミノ酸」はまた、非天然アミノ酸、(例えば修飾された側鎖および/または骨格を有する)修飾アミノ酸、およびアミノ酸類似体を含む。例えば、Zhang et al. (2004) "Selective incorporation of 5-hydroxytryptophan into proteins in mammalian cells," Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 101(24):8882-8887, Anderson et al. (2004) "An expanded genetic code with a functional quadruplet codon" Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 101(20):7566-7571, Ikeda et al. (2003) "Synthesis of a novel histidine analogue and its efficient incorporation into a protein in vivo," Protein Eng. Des. Sel. 16(9):699-706, Chin et al. (2003) "An Expanded Eukaryotic Genetic Code," Science 301(5635):964-967, James et al. (2001) "Kinetic characterization of ribonuclease S mutants containing photoisomerizable phenylazophenylalanine residues," Protein Eng. Des. Sel. 14(12):983-991, Kohrer et al. (2001) "Import of amber and ochre suppressor tRNAs into mammalian cells: A general approach to site-specific insertion of amino acid analogues into proteins," Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 98(25):14310-14315, Bacher et al. (2001) "Selection and Characterization of Escherichia coli Variants Capable of Growth on an Otherwise Toxic Tryptophan Analogue," J. Bacteriol. 183(18):5414-5425, Hamano-Takaku et al. (2000) "A Mutant Escherichia coli Tyrosyl-tRNA Synthetase Utilizes the Unnatural Amino Acid Azatyrosine More Efficiently than Tyrosine," J. Biol. Chem. 275(51):40324-40328, およびBudisa et al. (2001) "Proteins with {beta}-(thienopyrrolyl) alanines as alternative chromophores and pharmaceutically active amino acids," Protein Sci. 10(7):1281-1292参照。アミノ酸は併合され、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質になり得る。
本発明の文脈において、用語「ペプチド」は、ペプチド結合によって連結したアミノ酸の短いポリマーを指す。これはタンパク質と同一の化学結合(ペプチド結合)を有するが、一般に長さがより短い。最も短いペプチドはジペプチドであり、単一のペプチド結合によって結合した2つのアミノ酸からなる。トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチドなども存在し得る。通常、ペプチドは最大で8、10、12、15、18または20アミノ酸長を有する。ペプチドは環状ペプチドでない限り、アミノ末端およびカルボキシ末端を有する。
本発明の文脈において、用語「ポリペプチド」はペプチド結合によって互いに結合したアミノ酸の単一の直鎖を指し、典型的に少なくとも約21個のアミノ酸を含む。ポリペプチドは2以上の鎖から構成されるタンパク質の1つの鎖であり得、またはタンパク質が1つの鎖から構成される場合、タンパク質自体であり得る。
本発明の文脈において、タンパク質またはポリペプチドの「一次構造」は、ポリペプチド鎖のアミノ酸配列である。タンパク質の「二次構造」は、タンパク質の局所セグメントの一般的な3次元形状である。しかしながら、これは、三次構造が考慮される3次元空間における具体的な原子配置を記述しない。タンパク質において、二次構造は、骨格のアミド基とカルボキシ基との間の水素結合のパターンによって規定される。タンパク質の「三次構造」は、原子座標によって決定されるタンパク質の3次元構造である。「四次構造」は、マルチサブユニット複合体における複数のフォールドされた、またはコイル状のタンパク質分子またはポリペプチド分子の配置である。
本明細書における用語「フォールディング」または「タンパク質フォールディング」は、タンパク質がその3次元形状または立体構造をとるプロセスを指す(すなわち、これによりタンパク質は非共有結合性相互作用(限定されないが、水素結合、金属配位、疎水性力、ファンデルワールス力、π−π相互作用、および/または静電効果など)を介して特定の3次元形状を形成するように導かれる)。したがって、用語「フォールドされたタンパク質」は、その3次元形状(その二次構造、三次構造または四次構造など)のタンパク質を指す。
本明細書における用語「フラグメント」は、天然に存在するフラグメント(例えばスプライスバリアント)および人工的に作成されたフラグメント(特に遺伝子工学の手段によって取得されたフラグメント)を指す。通常、フラグメントは親のポリペプチドと比較して、そのN末端および/またはそのC末端および/または内部(好ましくはそのN末端、そのNおよびC末端、またはそのC末端)において、最大で1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290または300アミノ酸の欠失を有する。
抗原決定基としても知られる「エピトープ」は、免疫系(具体的には抗体、B細胞またはT細胞)によって認識される高分子のセグメントである。そのようなエピトープは、抗体またはその抗原結合フラグメントに結合できる高分子の一部またはセグメントである。この文脈において、用語「結合」は好ましくは特異的結合に関する。本発明の文脈において、用語「エピトープ」は、免疫系によって認識されるタンパク質またはポリタンパク質のセグメントを指す。エピトープは通常、分子(アミノ酸または糖側鎖など)の化学的に活性な表面の基からなり、通常、特定の三次元構造の特徴および特定の電荷の特徴を有する。立体構造エピトープおよび非立体構造エピトープは、変性溶媒の存在下において立体構造エピトープへの結合は失われるが、非立体構造エピトープへの結合は失われない点で区別される。
本明細書において、「立体構造エピトープ」は、直鎖高分子(例えばポリペプチド)の3次元構造によって形成される、直鎖高分子のエピトープを指す。本願の文脈において、「立体構造エピトープ」は、「不連続エピトープ」(すなわち、高分子の一次配列(例えばポリペプチドのアミノ酸配列)における少なくとも2つの別々の領域から形成される高分子(例えばポリペプチド)上の立体構造エピトープ)である。換言すれば、エピトープが、本発明の結合部分(例えば抗体またはその抗原結合フラグメント)が同時に結合する一次配列中の少なくとも2つの別々の領域(これらは、本発明の結合部分が結合しない一次配列中のさらなる1つの領域によって分断されている)からなる場合、エピトープは本発明の文脈において「立体構造エピトープ」とみなされる。特に、このような「立体構造エピトープ」はポリペプチド上に存在し、一次配列中の2つの別々の領域は、本発明の結合部分(例えば抗体またはその抗原結合フラグメント)が結合する2つの別々のアミノ酸配列であり、これらの少なくとも2つの別々のアミノ酸配列は、本発明の結合部分が結合しない一次配列中のさらなる1つのアミノ酸配列によって分断されている。特に、分断しているアミノ酸配列は、結合部分が結合しない2以上のアミノ酸を含む連続したアミノ酸配列である。本発明の結合部分が結合する少なくとも2つの別々のアミノ酸配列は、その長さに関して特に限定されない。前記少なくとも2つの別々のアミノ酸配列内のアミノ酸の総数が、結合部分と立体構造エピトープとの間の特異的結合をもたらすのに十分大きい限り、このような別々のアミノ酸配列は単一のアミノ酸のみからなっていてもよい。
「パラトープ」は、エピトープを認識する抗体の一部である。本発明の文脈において、「パラトープ」は、エピトープを認識する本明細書に記載される結合部分(例えば抗体またはその抗原結合フラグメント)の一部である。
本発明の文脈において、「ペプチドリンカー」は、複合体の2つの部分または成分(例えば2つのペプチドまたはタンパク質)を立体的に分離するアミノ酸配列を指す。通常、このようなリンカーは1〜100アミノ酸からなり、これは最小で少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30アミノ酸長、および最大で少なくとも100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16または15アミノ酸長またはそれ未満を有する。本発明におけるペプチドリンカーの示される好ましい最小長および最大長は(そのような組合せが数学的意味を持つ場合に)組み合わされ得る(例えばこのようなリンカーは1〜15または12〜40または25〜75または1〜100アミノ酸からなり得る)。ペプチドリンカーはまた、連結されている2つの部分の間に柔軟性を与え得る。このような柔軟性は一般に、アミノ酸が小さい場合に増加する。したがって、柔軟なペプチドリンカーは、小さなアミノ酸(特にグリシンおよび/またはアラニン、および/または親水性アミノ酸(セリン、スレオニン、アスパラギンおよびグルタミンなど))の含有量の増加を含む。好ましくは、ペプチドリンカーのアミノ酸のうち20%、30%、40%、50%、60%またはそれ以上が小さなアミノ酸である。
本明細書における用語「変異体」は、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドが由来するポリペプチドまたはポリヌクレオチドと比較して、その長さまたは配列における1以上の変化により異なっているポリペプチドまたはポリヌクレオチドとして理解されるはずである。ポリペプチド変異体またはポリヌクレオチド変異体が由来するポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、親のポリペプチドまたはポリヌクレオチドとしても知られる。用語「変異体」は親分子の「フラグメント」または「誘導体」を含む。通常、「フラグメント」は親分子よりも長さまたはサイズが小さく、「誘導体」は親分子と比較してその配列において1以上の差異を示す。限定されないが、翻訳後修飾タンパク質(例えばグリコシル化、ビオチニル化、リン酸化、ユビキチン化、パルミトイル化、またはタンパク分解により切断されたタンパク質)および修飾核酸(メチル化DNAなど)などの修飾分子もまた包含される。種々の分子の混合物(限定されないが、RNA−DNAハイブリッドなど)もまた、用語「変異体」に包含される。通常、変異体は(好ましくは遺伝子工学の手段によって)人工的に作成されるが、親のタンパク質またはポリヌクレオチドは野生型タンパク質もしくはポリヌクレオチドまたはその共通配列である。しかしながら、天然に存在する変異体もまた、本明細書における用語「変異体」に包含されることが理解されるはずである。さらに、本発明に使用できる変異体はまた、親分子の少なくとも1つの生物活性を示す(すなわち機能的に活性である)場合、親分子のホモログ、オルソログもしくはパラログ、または人工的に作成された変異体に由来し得る。
特に、用語「ペプチド変異体」、「ポリペプチド変異体」、「タンパク質変異体」は、それが由来するペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質と比較して、アミノ酸配列における1以上の変化によって異なっているペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質として理解されるはずである。ペプチド変異体、ポリペプチド変異体またはタンパク質変異体が由来するペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質は、親ペプチド、親ポリペプチドまたは親タンパク質としても知られている。さらに、本発明に使用できる変異体はまた、親ペプチド、親ポリペプチドまたは親タンパク質の少なくとも1つの生物活性を示す場合、親ペプチド、親ポリペプチドまたは親タンパク質のホモログ、オルソログもしくはパラログ、または人工的に作成された変異体に由来し得る。アミノ酸配列の変化は、アミノ酸交換、挿入、欠失、N末端切断もしくはC末端切断、またはこれらの変化のあらゆる組合せであり得、これは1つまたはいくつかの部位において生じ得る。ペプチド変異体、ポリペプチド変異体またはタンパク質変異体は、アミノ酸配列において最大で200個(最大で1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、または200個)の変化(すなわち、交換、挿入、欠失、N末端切断および/またはC末端切断)の総数を示し得る。アミノ酸交換は保存的および/または非保存的であり得る。あるいは、またはさらに、本明細書における「変異体」は、由来する親ペプチド、親ポリペプチドまたは親タンパク質とのある程度の配列同一性によって特徴付けられ得る。より正確には、本発明の文脈におけるペプチド変異体、ポリペプチド変異体またはタンパク質変異体は、その親ペプチド、親ポリペプチドまたは親タンパク質と少なくとも80%の配列同一性を示す。ペプチド変異体、ポリペプチド変異体またはタンパク質変異体の配列同一性は、20、30、40、45、50、60、70、80、90、100またはそれ以上のアミノ酸の連続した区間にわたる。
「配列同一性の割合」は、比較窓を通して最適にアラインされた2つの配列を比較することによって決定され、ここで比較窓における配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントのために基準配列(これは付加または欠失を含まない)と比較して付加または欠失(すなわちギャップ)を含み得る。割合は、一致した位置の数を得るために両方の配列において同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が生じている位置の数を決定し、一致した位置の数を比較の窓における位置の総数で割り、結果に100を掛けて配列同一性の割合を得ることによって算出される。
2以上の核酸配列またはポリペプチド配列の文脈における用語「同一」は、同一である(すなわち、ヌクレオチドまたはアミノ酸の同一の配列を含む)2以上の配列または部分配列を指す。比較窓、または以下の配列比較アルゴリズムのうち1つを用いて、もしくは手動のアラインメントおよび目視検査によって測定される指定された領域にわたって最大の一致のために比較およびアラインされた場合に、配列が特定の割合の同一のヌクレオチドまたはアミノ酸残基(例えば、特定の領域にわたって少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性)を有する場合、互いに「実質的に同一」である。これらの定義はまた、テスト配列の相補体を指す。したがって、用語「少なくとも80%の配列同一性」はポリペプチドおよびポリヌクレオチドの配列比較に関して、本明細書のあらゆる箇所で使用される。この表現は好ましくは、各基準ポリペプチドまたは各基準ポリヌクレオチドとの少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を指す。
用語「配列比較」は、ある配列を基準配列として、テスト配列と比較させるプロセスを指す。配列比較アルゴリズムを用いる場合、テスト配列および基準配列をコンピュータに入力し、必要であれば部分配列座標を指定し、配列アルゴリズムパラメータを指定する。初期設定のプログラムパラメータが一般的に使用され、または代替のパラメータが指定され得る。配列比較アルゴリズムは、プログラムパラメータに基づいて基準配列に対するテスト配列の配列同一性または類似性の割合を計算する。2つの配列を比較し、基準配列が配列同一性の割合を計算すべき配列と比較して特定されていない場合、具体的な他の指示がなければ、配列同一性は比較される2つの配列のうちより長い配列を基準として計算されるべきである。
配列アラインメントにおいて、用語「比較窓」は、同数の位置を有する配列の連続した位置の基準区間と比較される、配列の連続した位置の区間を指す。選択される連続した位置の数は、10〜1000個の範囲であり得る(すなわち、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、または1000個の連続した位置を含み得る)。通常、連続した位置の数は、約20〜800個の連続した位置、約20〜600個の連続した位置、約50〜400個の連続した位置、約50〜約200個の連続した位置、約100〜約150個の連続した位置である。
比較のために配列をアラインメントする方法は当分野で周知である。例えば、Smith and Waterman (Adv. Appl. Math. 2:482, 1970)の局所相同性アルゴリズム、Needleman and Wunsch (J. Mol. Biol. 48:443, 1970)の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson and Lipman (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444, 1988)の類似性検索の方法、これらのアルゴリズムのコンピュータ化された実施(例えば、the Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, Wis.におけるGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)、または手動のアラインメントおよび目視検査(例えばAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology (1995 supplement)参照)によって、比較のための配列の最適なアラインメントが行われ得る。配列同一性の割合および配列類似性の割合を決定するのに適したアルゴリズムはBLASTおよびBLAST2.0アルゴリズムであり、これらはそれぞれAltschul et al. (Nuc. Acids Res. 25:3389-402, 1977)およびAltschul et al. (J. Mol. Biol. 215:403-10, 1990)に記述されている。BLAST解析を実行するためのソフトウェアは、国立生物工学情報センター(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)によって公開されている。このアルゴリズムは、検索配列中の長さWの短い文字列を同定することによって高いスコアの配列対(HSP)を最初に同定することを含み、これはデータベース配列中の同じ長さの文字列とアラインさせた場合に、ある正の閾値スコアTに一致するか、またはこれを満たす。Tは近傍文字列スコア閾値(neighborhood word score threshold)と呼ばれる(Altschul et al.、上記)。これらの最初の近傍文字列ヒットは、これらを含むより長いHSPを見出すための検索を開始するためのシードとして働く。文字列ヒットは、累積アラインメントスコアが増加され得る限り、各配列に沿って両方向に伸長される。累積スコアは、ヌクレオチド配列について、パラメータM(一致する残基の対についての報酬スコア;常に>0)およびN(ミスマッチ残基についてのペナルティスコア;常に<0)を用いて計算される。アミノ酸配列については、スコアマトリックスを用いて累積スコアが計算される。各方向における文字列ヒットの伸長は、以下の場合に停止する:累積アラインメントスコアがその最大達成値から量X低下する場合;1以上の陰性スコア残基アラインメントの蓄積により、累積スコアが0以下になる場合;またはいずれかの配列の末端に達した場合。BLASTアルゴリズムのパラメータW、TおよびXは、アラインメントの感度および速度を決定する。(ヌクレオチド配列用の)BLASTNプログラムは、文字列長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=−4および両鎖の比較を初期設定として使用する。アミノ酸配列について、BLASTPプログラムは、文字列長3、期待値(E)10、およびBLOSUM62スコアマトリックス(Henikoff and Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915, 1989参照)アラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=−4、および両鎖の比較を初期設定として使用する。BLASTアルゴリズムはまた、2つの配列間の類似性の統計解析を実行する(例えば、Karlin and Altschul, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-87, 1993参照)。BLASTアルゴリズムによって提供される1つの類似性の尺度は最小和確率(smallest sum probability)(P(N))であり、これは、2つのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列間の一致が偶然によって起こる確率の指標を与える。例えば、テスト核酸と基準核酸との比較における最小和確率が約0.2未満、典型的には約0.01未満、より典型的には約0.001未満である場合、核酸は基準配列と類似しているとみなされる。
アミノ酸が化学的に関連するアミノ酸に置換される、準保存的アミノ酸置換および特に保存的アミノ酸置換が好ましい。典型的な置換は、脂肪族アミノ酸間、脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸間、酸性残基を有するアミノ酸間、アミド誘導体間、塩基性残基を有するアミノ酸間または芳香族残基を有するアミノ酸間の置換である。典型的な準保存的置換および保存的置換は以下である。
A、F、H、I、L、M、P、V、WまたはYからCへの交換は、新たなシステインが遊離チオールとして残る場合、準保存的である。さらに、当業者は、立体的に嵩高い位置におけるグリシンを置換すべきでなく、αヘリックス構造またはβシート構造を有するタンパク質の部分にPを導入すべきでないことを認識している。
EGF受容体ファミリーは4種のメンバーEGFR(erbB1、HER1)、ErbB2(HER2)、ErbB3(HER3)およびErbB4(HER4)を含む。受容体は、4つのドメイン(I〜IV)から構成される細胞外領域、膜貫通領域、ならびにチロシンキナーゼドメインおよびチロシン残基を含むカルボキシ末端鎖から構成される細胞内領域からなる(Baselga & Swain 2009, Novel anticancer targets: revisiting ErbB2 and discovering ErbB3. Nat. Rev. Cancer 9: 463-475)。細胞外ドメインIおよびIIIはリガンド結合に関与し、ドメインIIおよびIVは受容体の二量体化に関与している。ドメインIIは二量体化ループ(いわゆる二量体化アーム)を介して受容体−受容体接触を仲介する(Garrett et al., 2002, Combination of antibody that inhibits ligand-independent HER3 dimerization and a p110 alpha inhibitor potently blocks PI3K signaling and growth of HER2+ breast cancers. Cancer Res. 73: 6013-6023)。EGFリガンドファミリーに属する様々なリガンドが受容体に結合し得る。EGF、形質転換増殖因子−α(TGF−α)およびアンフィレグリンはEGFR/ErbB1に特異的に結合する。ベータセルリン(BTC)、ヘパリン結合EGF(HB−EGF)およびエピレグリン(EPR)は二重特異性を示し、EGFR/ErbB1およびErbB4の両方に結合する。ニューレグリン(NRG)は、ErbB3およびErbB4(NRG−1およびNRG−2)またはErbB4のみ(NRG−3およびNRG−4)に結合するそれらの能力に基づいて2つのサブグループを形成する。いずれのリガンドもErbB2に結合しないが、ErbB2は他のあらゆるErbB受容体の好ましい二量体化パートナーである。ErbB3はキナーゼ活性を損なっており、ErbB受容体ファミリーの別のメンバーと二量体化する場合にのみシグナル伝達能を獲得する。ErbB受容体へのリガンド結合は大きな立体構造変化を誘導し、これは受容体ホモ二量体およびヘテロ二量体の形成ならびに内在性キナーゼドメインの活性化を導き、細胞質側末端における特定のチロシン残基のリン酸化をもたらす。これらのリン酸化された残基は、細胞内シグナル伝達分子のドッキング部位として働く。リガンドはリン酸化されたチロシン残基を確定させ、したがって補充されたシグナル伝達分子を確定させる。ErbBの活性化によって刺激され得る3つの主要な経路:マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)−AKT経路、およびヤヌスキナーゼ(JAK−STAT)経路。これらの経路は全て、細胞代謝、増殖および生存の調節に関与している(Hervent & De Keulenaer, 2012, Molecular mechanisms of cardiotoxicity induced by ErbB receptor inhibitor cancer therapeutics. Int. J. Mol. Sci. 13: 12268-12286)。
タグ(またはマーカーまたは標識)は、別の物質または物質の複合体の存在を示すことができるあらゆる種類の物質である。マーカーは、検出される物質に結合し、または該物質中に導入される物質であり得る。検出可能なマーカーは、例えば、タンパク質、酵素反応産物、二次メッセンジャー、DNA、分子の相互作用などを検出するために、分子生物学およびバイオテクノロジーにおいて使用される。適切なタグまたは標識の例には、フルオロフォア、発色団、放射性標識、金属コロイド、酵素、または化学発光分子もしくは生物発光分子が含まれる。本発明の文脈において、適切なタグは好ましくはタンパク質タグであり、そのペプチド配列は組換えタンパク質中または上に遺伝的に移植される。タンパク質タグは、例えば、アフィニティータグ、可溶化タグ、クロマトグラフィータグ、エピトープタグまたは蛍光タグを包含し得る。
「アフィニティータグ」は、タンパク質をその未精製の生物学的供給源からアフィニティー技術を用いて精製できるように、タンパク質に付加される。これらには、キチン結合タンパク質(CBP)、マルトース結合タンパク質(MBP)、およびグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)が含まれる。ポリ(His)タグは、金属マトリックスに結合する広く使用されているタンパク質タグである。
「可溶化タグ」は、特にシャペロン欠損種において発現される組換えタンパク質のために使用され、タンパク質の適切なフォールディングを補助し、それらを沈殿しないようにする。これらにはチオレドキシン(TRX)およびポリ(NANP)が含まれる。いくつかのアフィニティータグ(MBPおよびGSTなど)は、可溶化剤として二重の役割を有する。
「クロマトグラフィータグ」はタンパク質のクロマトグラフ特性を変化させ、特定の分離技術にわたって異なる分解能を与えるために使用される。しばしば、これらはポリアニオン性アミノ酸(FLAG−タグなど)からなる。
「エピトープタグ」は、高親和性抗体が多くの異なる種において確実に産生され得るために選択される短いペプチド配列である。これらは通常ウイルス遺伝子に由来し、これはその高い免疫反応性を説明する。エピトープタグには、V5タグ、MycタグおよびHAタグが含まれる。これらのタグは、ウエスタンブロッティング法、免疫蛍光法および免疫沈降実験に特に有用であるが、抗体精製にも使用される。
「蛍光タグ」はタンパク質の視覚的読み取りを与えるために使用される。GFPおよびその変異体は最も一般的に使用されている蛍光タグである。GFPのより高度な応用には、(フォールドされている場合は蛍光性であるが、フォールドされていない場合は非蛍光性である)フォールディングレポーターとしての使用が含まれる。フルオロフォアのさらなる例には、フルオレセイン、ローダミンおよびスルホインドシアニン色素Cy5が含まれる。
本明細書において、用語「抗原結合タンパク質」は、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分(すなわち、抗原に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含む分子)を指す。例えば、標的分子または標的エピトープに特異的に結合するファージディスプレイを含む技術によって選択された免疫グロブリン様タンパク質もまた含まれる。抗原結合タンパク質(例えば、抗体またはその免疫学的に機能的なフラグメント)の結合および/または特異性の評価において、(例えば、インビトロでの競合結合アッセイにおいて測定されるように)過剰量の抗体がリガンドに結合している結合パートナーの量を少なくとも約1〜20、20〜30%、30〜40%、40〜50%、50〜60%、60〜70%、70〜80%、80〜85%、85〜90%、90〜95%、95〜97%、97〜98%、98〜99%またはそれ以上減少させる場合、抗体またはフラグメントはリガンドとその結合パートナーとの結合を実質的に阻害し得る。中和能力はIC50値またはEC50値に関して記述され得る。
「IC50」値は、物質の50%阻害濃度(half maximal inhibitory concentration)を指し、したがって特定の生物学的機能または生化学的機能の阻害における物質の有効性の尺度である。この値は通常、モル濃度として表される。薬物のIC50は、用量反応曲線を作成し、試験する物質の阻害効果を種々の濃度において調べることによって、機能的拮抗アッセイにおいて決定され得る。あるいは、競合結合アッセイはIC50値を決定するために実行され得る。通常、抑制性抗体は、50nM〜1pM(すなわち、50nM、10nM、1nM、900pM、800pM、700pM、600pM、500pM、400pM、300pM、200pM、100pM、50pM、1pM)のIC50値を示す。
「EC50」値は、物質の50%効果濃度(half maximal effective concentration)を指し、したがって、ベースラインと特定の曝露時間後の最大値の中間の反応を誘導する前記物質の濃度の尺度である。これは薬物の効力の尺度として一般に使用される。したがって、段階的用量反応曲線のEC50は、最大効果の50%が観察される物質の濃度を表す。計数的(quantal)用量反応曲線のEC50は、特定の曝露期間後に集団の50%が反応を示す化合物の濃度を表す。通常、抑制性抗体は、50nM〜1pM(すなわち、50nM、10nM、1nM、900pM、800pM、700pM、600pM、500pM、400pM、300pM、200pM、100pM、50pM、または1pM)のEC50値を示す。
本発明における用語「結合」は、好ましくは特異的結合に関する。用語「結合親和性」は一般に、分子(例えば抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば標的または抗原)との間の非共有結合性相互作用の合計の強度を指す。他の指示がない限り、本明細書において「結合親和性」は、結合対(例えば抗体および抗原)のメンバー間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのパートナーYに対する親和性は、一般に解離定数(Kd)によって表され得る。「特異的結合」は、結合部分(例えば抗体)が標的(エピトープなど)により強く結合し、これが別の標的との結合と比較して特異的であることを意味する。結合部分が第2の標的についての解離定数(Kd)よりも低い解離定数で第1の標的と結合する場合、結合部分は第2の標的と比較して、第1の標的により強く結合する。結合部分が特異的に結合する標的についての解離定数(Kd)は、結合部分が特異的に結合しない標的についての解離定数(Kd)よりも、10倍を超えて、好ましくは20倍を超えて、より好ましくは50倍を超えて、さらにより好ましくは100倍、200倍、500倍または1000倍を超えて小さい。
したがって、(「M」と省略されることがある「mol/L」において測定される)用語「Kd」は、結合部分(例えば抗体またはそのフラグメント)と標的分子(例えば抗原またはそのエピトープ)との間の特定の相互作用の解離平衡定数を指すことが意図される。親和性は当分野で公知の一般的な方法によって測定され得、これは限定されないが、表面プラズモン共鳴に基づくアッセイ(BIAcoreアッセイなど);水晶振動子マイクロバランスアッセイ(例えばAttanaアッセイ);酵素結合免疫吸着測定法(ELISA);および競合アッセイ(例えばRIA)を含む。低親和性抗体は一般に、抗原に遅く結合し、容易に解離する傾向があり、高親和性抗体は抗原により迅速に結合し、より長期間結合し続ける傾向がある。結合親和性を測定する様々な方法が当分野で公知であり、これらのあらゆる方法が本発明の目的のために使用され得る。
通常、抗体はその標的に十分な結合親和性(例えば、500nM〜1pM(すなわち、500nM、450nM、400nM、350nM、300nM、250nM、200nM、150nM、100nM、50nM、10nM、1nM、900pM、800pM、700pM、600pM、500pM、400pM、300pM、200pM、100pM、50pM、または1pM)のKd値)を伴って結合する。
同一のエピトープに対して競合する抗原結合タンパク質(例えば、中和抗原結合タンパク質または中和抗体)の文脈において使用される場合、用語「競合する」は、テストされる抗原結合タンパク質(例えば、抗体またはその免疫学的に機能的なフラグメント)が、基準抗原結合タンパク質(例えば、リガンドまたは基準抗体)と共通の抗原との特異的結合を妨げ、または阻害する(例えば減少させる)アッセイによって決定された、抗原結合タンパク質間の競合を意味する。多数の種類の競合結合アッセイが、ある抗原結合タンパク質が別の抗原結合タンパク質と競合するか否かを決定するのに使用され得る(例えば:固相直接または間接ラジオイムノアッセイ(RIA)、固相直接または間接酵素イムノアッセイ(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ(例えば、Stahli et al., 1983, Methods in Enzymology .2:242-253参照);固相直接ビオチン−アビジンEIA(例えば、Kirkland et al., 1986, J. Immunol. 137:3614-3619参照);固相直接標識アッセイ、固相直接標識サンドイッチアッセイ(例えば、Harlow and Lane, 1988, Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press参照);I−125標識を用いた固相直接標識RIA(例えば、Morel et al., 1988, Molec. Jmmunol. 25:7-15参照);固相直接ビオチンアビジンEIA(例えば、Cheung, et al., 1990, Virology 176:546-552参照);および直接標識RIA(Moldenhauer et al., 1990, Scand. J Immunol. 32:77-82))。通常、このようなアッセイは、これらの非標識テスト抗原結合タンパク質および標識基準抗原結合タンパク質のいずれかを有する固相表面または細胞に結合した精製抗原の使用を含む。競合阻害は、テスト抗原結合タンパク質の存在下において、固相表面または細胞に結合した標識の量を決定することによって測定される。通常、テスト抗原結合タンパク質は過剰に存在する。競合アッセイによって同定された抗原結合タンパク質(競合する抗原結合タンパク質)は、基準抗原結合タンパク質と同一のエピトープに結合する抗原結合タンパク質、および基準抗原結合タンパク質によって結合されるエピトープと立体障害が生じるほど十分近位にある隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質を含む。競合結合を決定する方法に関するさらなる詳細が本明細書の実施例において提供される。通常、競合する抗原結合タンパク質が過剰に存在する場合、これは基準抗原結合タンパク質と共通抗原との特異的結合を少なくとも40〜45%、45〜50%、50〜55%、55〜60%、60〜65%、65〜70%、70〜75%、または75%以上阻害する(例えば減少させる)。例えば、結合は、少なくとも80〜85%、85〜90%、90〜95%、95〜97%、または97%以上阻害される。
本明細書における用語「免疫グロブリン(Ig)」は、免疫グロブリンスーパーファミリーの免疫を与える糖タンパク質を指す。「表面免疫グロブリン」はその膜貫通領域によってエフェクター細胞の膜に付着し、限定されないが、B細胞受容体、T細胞受容体、クラスIおよびII主要組織適合遺伝子複合体(MHC)タンパク質、β2ミクログロブリン(β2M)、CD3、CD4およびCD8などの分子を包含する。
通常、本明細書における用語「抗体」は膜貫通領域を持たない分泌型免疫グロブリンを指し、したがって血流および体腔に放出され得る。ヒト抗体はそれらが有する重鎖に基づいて種々のアイソタイプに分類される。ギリシャ文字で示される5種類のヒトIg重鎖が存在する;α、γ、δ、εおよびμ。現在の重鎖の種類は抗体のクラスを規定する(すなわち、これらの鎖はそれぞれIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM抗体において見出され、それぞれが異なる役割を果たし、異なる種類の抗原に対して適切な免疫応答を導く)。別々の重鎖はサイズおよび構成が異なり、約450アミノ酸を含み得る(Janeway et al. (2001) Immunobiology, Garland Science)。IgAは粘膜領域(腸、気道および尿生殖路など)ならびに唾液、涙液および母乳において見出され、病原体の定着を防ぐ(Underdown & Schiff (1986) Annu. Rev. Immunol. 4:389-417)。IgDは、抗原に曝露されたことがないB細胞上の抗原受容体として主に機能し、好塩基球および肥満細胞を活性化して抗菌因子を産生することに関与している(Geisberger et al. (2006) Immunology 118:429-437; Chen et al. (2009) Nat. Immunol. 10:889-898)。IgEは、肥満細胞および好塩基球からのヒスタミンの放出をもたらす、アレルゲンとの結合によるアレルギー反応に関与している。IgEはまた、寄生虫に対する保護にも関与している(Pier et al. (2004) Immunology, Infection, and Immunity, ASM Press)。IgGは侵入病原体に対する抗体に基づく免疫の大部分を提供し、胎盤を通過して胎児に受動免疫を与えることができる唯一の抗体アイソタイプである(Pier et al. (2004) Immunology, Infection, and Immunity, ASM Press)。ヒトには4種のIgGサブクラス(IgG1、2、3および4)が存在し、これらは血清中の存在量の順に命名され、IgG1が最も豊富であり(約66%)、次いでIgG2(約23%)、IgG3(約7%)およびIgG4(約4%)である。種々のIgGクラスの生物学的プロファイルはそれぞれのヒンジ領域の構造によって決定される。IgMは、単量体型および非常に高い結合活性を持つ分泌される五量体型においてB細胞の表面上に発現する。IgMは、十分なIgGが産生される前に、B細胞媒介性(体液性)免疫の初期段階において病原体を排除することに関与している(Geisberger et al. (2006) Immunology 118:429-437)。抗体は単量体として見出されるだけでなく、2つのIg単位の二量体(例えばIgA)、4つのIg単位の四量体(例えば硬骨魚のIgM)、または5つのIg単位の五量体(例えば哺乳類IgM)を形成することも知られている。抗体は通常、ジスルフィド結合によって連結した2つの同一の重鎖および2つの同一の軽鎖を含む4つのポリペプチド鎖から構成され、「Y」字型の高分子のようである。各鎖は多くの免疫グロブリンドメインを含み、そのうちのいくつかは定常ドメインであり、その他は可変ドメインである。免疫グロブリンドメインは、2つのβシートに配置された7〜9個の逆平行β鎖間の2層のサンドイッチからなっている。通常、抗体の重鎖は4つのIgドメインを含み、そのうち3つは定常ドメイン(CHドメイン:CH1、CH2、CH3)であり、1つは可変ドメイン(VH)である。軽鎖は通常、1つの定常Igドメイン(CL)および1つの可変Igドメイン(VL)を含む。VH領域およびVL領域は、より保存された領域(フレームワーク領域(FR)と呼ばれる)が散在している、超可変領域(相補性決定領域(CDR)と呼ばれる)にさらに細分され得る。各VHおよびVLは3つのCDRおよび4つのFRで構成され、これらはアミノ末端からカルボキシ末端まで以下の順番で配置される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫グロブリンの宿主組織または因子(免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的補体系の第1成分(C1q)を含む)との結合を仲介し得る。
本明細書において、抗体の用語「抗原結合フラグメント」(または単に「結合部分」)は、抗原に特異的に結合する能力を保持している抗体の1以上のフラグメントを指す。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体のフラグメントによって果たされ得ることが示されている。
本明細書において、「ヒト抗体」はヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変領域および定常領域を有する抗体を含む。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えば、インビトロにおけるランダム変異もしくは部位特異的変異、またはインビボにおける体細胞変異によって導入される変異)を含み得る。本発明のヒト抗体は、ヒト免疫グロブリンライブラリーから、または(例えばKucherlapati & Jakobovitsによって米国特許第5,939,598号に記載される)内在性免疫グロブリンを発現しない、1以上のヒト免疫グロブリンを遺伝子導入した動物から単離される抗体を含む。
本明細書における用語「モノクローナル抗体」は、単一分子組成の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体は、特定のエピトープに対する単一の結合特異性および親和性を示す。ある実施態様において、モノクローナル抗体は、不死化細胞と融合した、非ヒト動物(例えばマウス)から得られたB細胞を含むハイブリドーマによって産生される。
本明細書において、用語「組換え抗体」は、組換え手段によって調製、発現、作成または単離されたあらゆる抗体((a)免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックもしくはトランスクロモソーマル(transchromosomal)である動物(例えばマウス)またはそれから調製されるハイブリドーマから単離された抗体、(b)抗体を発現するように形質転換された宿主細胞(例えばトランスフェクトーマ(transfectoma))から単離された抗体、(c)組換えコンビナトリアル抗体ライブラリーから単離された抗体、および(d)免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む他のあらゆる手段によって調製、発現、作成または単離された抗体など)を含む。
用語「キメラ抗体」は、重鎖および軽鎖の各アミノ酸配列の一部が、特定の種由来の抗体または特定のクラスに属する抗体の対応する配列に対して相同であり、該鎖の残りのセグメントが別の種またはクラスの対応する配列に対して相同である抗体を指す。通常、軽鎖および重鎖の両方の可変領域は、哺乳類のある種に由来する抗体の可変領域を模倣しており、定常部分は別の種に由来する抗体の配列に対して相同である。このようなキメラ型の1つの明らかな利点は、その可変領域が、非ヒト宿主生物から容易に入手可能なB細胞またはハイブリドーマを用いた現在公知の供給源から、例えばヒト細胞調製物由来の定常領域と組み合わせて都合良く取得できることである。可変領域は調製し易いという利点を有しており、その特異性は供給源によって影響されない。ヒトの定常領域は、非ヒト供給源由来の定常領域よりも、抗体を注入した場合にヒト対象からの免疫応答を誘発する可能性が低い。しかしながら、この定義はこの特定の例に限定されない。
用語「ヒト化抗体」は、非ヒト種由来の免疫グロブリンに実質的に由来する抗原結合部位を有する分子を指し、ここでこの分子の残りの免疫グロブリン構造はヒト免疫グロブリンの構造および/または配列に基づく。抗原結合部位は、定常ドメイン上に融合された完全な可変ドメイン、または可変ドメインにおける適切なフレームワーク領域上に移植された相補性決定領域(CDR)のみのいずれかを含み得る。抗原結合部位は野生型であってもよく、または1以上のアミノ酸置換によって修飾されていてもよい(例えば、ヒト免疫グロブリンにより類似するように修飾されていてもよい)。いくつかの形態のヒト化抗体は全てのCDR配列を保存している(例えば、マウス抗体由来の6つのCDRを全て含むヒト化マウス抗体)。他の形態は、元の抗体に対して変更された1以上のCDRを有する。
Almagro & Fransson, 2008(この内容は参照によってその全体が本明細書に組み込まれる)によって概説されるように、抗体をヒト化する種々の方法が当業者に公知である。Almagro & Franssonによる総説を以下に簡潔に要約する。Almagro & Franssonは、理論的手法と経験的手法とを区別している。理論的手法は、改変した抗体の僅かな変異体を作成し、対象の結合または他のあらゆる性質を評価することを特徴とする。設計された変異体が期待される結果をもたらさない場合、設計および結合評価の新たなサイクルが開始される。理論的手法は、CDRグラフティング、リサーフェシング(Resurfacing)、超ヒト化(Superhumanization)およびヒトストリング含有量最適化(Human String Content Optimization)を含む。対照的に、経験的手法は、ヒト化変異体の大規模ライブラリの作成、および濃縮技術またはハイスループットスクリーニングを用いた最良のクローンの選択に基づく。したがって、経験的手法は、抗体変異体の広大な空間全体にわたって探索できる、信頼性のある選択および/またはスクリーニングシステムに依存している。インビトロでのディスプレイ技術(ファージディスプレイおよびリボソームディスプレイなど)はこれらの要求を満たし、当業者に周知である。経験的手法は、FRライブラリー、誘導選択(Guided selection)、フレームワークシャッフリング(Framework-shuffling)およびヒューマニアリング(Humaneering)を含む。
「二価抗体」は2つの抗原結合部位を含む。二価抗体は単一特異性または二重特異性であり得る。二価抗体が単一特異性である場合、抗体の2つの結合部位は同一の抗原特異性を有する。「二重特異性」または「二機能性」抗原結合タンパク質または抗体は、2つの異なる抗原結合部位を有するハイブリッド抗原結合タンパク質またはハイブリッド抗体である。二重特異性抗原結合タンパク質または二重特異性抗体の2つの結合部位は、同一の抗原上または異なる抗原上のいずれかに存在する2つの異なるエピトープに結合する。二重特異性抗原結合タンパク質または二重特異性抗体は、多特異性抗原結合タンパク質または多特異性抗体の一種であり、様々な方法(限定されないが、ハイブリドーマの融合、IgGもしくはIgGフラグメント(Fab’など)の化学結合、または遺伝的手段による方法を含む)によって作成され得る。例えば、Songsivilai and Lachmann, 1990, Clin. Exp. lmmunol. 79:315-321; Kostelny et al., 1992, J. lmmunol. 148:1547-1553; Kontermann, 2014, MAbs 4:182-197参照。
「三機能性抗体」は、異なる抗原を標的とする2つの結合部位、およびアクセサリー細胞(例えば、単球/マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞または他の細胞)上のFc受容体に結合できる無傷のFc部分を含む二重特異性抗体の一種である。例えば、三機能性抗体はがん細胞の表面上のエピトープを標的とする結合部位を含み得、第2の結合部位はT細胞の表面(例えばCD3)上のエピトープを標的とし得、Fc部分はマクロファージの表面上のFc受容体に結合し得る。したがって、このような三機能性抗体はT細胞およびマクロファージを腫瘍細胞に連結でき、これは腫瘍細胞の破壊を導く。
抗体のパパイン消化は、それぞれが単一の抗原結合部位を有する「Fabフラグメント」(「Fab部分」または「Fab領域」とも呼ばれる)と呼ばれる2つの同一の抗原結合フラグメント、およびその名前が容易に結晶化する能力を反映している残りの「Feフラグメント」(「Fe部分」または「Fe領域」とも呼ばれる)を生成する。ヒトIgG Fe領域の結晶構造が決定されている(Deisenhofer (1981) Biochemistry 20:2361-2370)。IgG、IgAおよびIgDアイソタイプにおいて、Fe領域は2つの同一のタンパク質フラグメントから構成され、これらは抗体の2つの重鎖のCH2およびCH3ドメインに由来する;IgMおよびIgEアイソタイプにおいて、Fe領域は各ポリペプチド鎖における3つの重鎖定常ドメイン(CH2〜4)を含む。さらに、より小さな免疫グロブリン分子が天然に存在し、または人工的に作成されている。用語「Fab’フラグメント」はIg分子のヒンジ領域をさらに含むFabフラグメントを指し、「F(ab’)2フラグメント」は、化学的に結合されているか、またはジスルフィド結合によって連結されているかのいずれかである2つのFab’フラグメントを含むことが理解される。「単一ドメイン抗体(sdAb)」(Desmyter et al. (1996) Nat. Structure Biol. 3:803-811)および「ナノボディ」は単一のVHドメインのみを含むが、「単鎖Fv(scFv)」フラグメントは、軽鎖可変ドメインと短いリンカーペプチドを介して連結された重鎖可変ドメインを含む(Huston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85, 5879-5883)。二価単鎖可変フラグメント(di−scFv)は、2つのscFv(scFvA−scFvB)を連結することによって設計され得る。これは2つのVH領域および2つのVL領域を含む単一のペプチド鎖を作成することによって行われ得、「タンデムscFv」(VHA−VLA−VHB−VLB)を生じる。別の可能性は、2つの可変領域が共にフォールドするには短すぎるリンカーを含むscFvの作成であり、これはscFvが二量体化することを強いる。通常、5残基長のリンカーがこれらの二量体を生成するのに使用される。この種類は「ダイアボディ(diabody)」として知られる。VHドメインとVLドメインとの間のさらに短いリンカー(1または2アミノ酸)は、単一特異性三量体(いわゆる「トリアボディ」または「トリボディ(tribady)」)の形成を導く。二重特異性ダイアボディは、それぞれVHA−VLBおよびVHB−VLAまたはVLA−VHBおよびVLB−VHAの配置を有する鎖を発現することによって形成される。単鎖ダイアボディ(scDb)は、12〜20アミノ酸(好ましくは14アミノ酸)のリンカーペプチド(P)によって連結されたVHA−VLBおよびVHB−VLAフラグメント(VHA−VLB−P−VHB−VLA)を含む。「二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)」は、異なる抗体の2つのScFvからなる融合タンパク質であり、scFvのうち一方がCD3受容体を介してT細胞に結合し、他方は腫瘍特異的分子を介して腫瘍細胞に結合する(Kufer et al. (2004) Trends Biotechnol. 22:238-244)。二重親和性再標的化分子(Dual affinity retargeting molecule)(「DART」分子)は、C末端ジスルフィド架橋によってさらに安定化されたダイアボディである。二価単鎖可変フラグメントは1以上のホモまたはヘテロ二量体化ドメインと連結され得、四価、六価、八価の分子またはさらに高い価数の分子を作成し得る。1以上のホモまたはヘテロ二量体化ドメインを介して連結された単鎖可変フラグメントのそれぞれの特異性に依存して、得られた二量体タンパク質または多量体タンパク質は二重、三重、四重またはそれ以上の特異性を有する。
本明細書に記述される抗体は好ましくは単離されている。本明細書において、「単離抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指すことが意図される。さらに、単離抗体は他の細胞性物質および/または化学物質を実質的に含まなくてもよい。本発明のある実施態様において、「単離された」モノクローナル抗体の組合せは、種々の特異性を有し、明確に規定された組成で組み合わされた抗体に関する。
本明細書において、用語「抗体様タンパク質」は、標的分子に特異的に結合するように(例えばループの変異によって)設計されているタンパク質を指す。通常、このような抗体様タンパク質は、両端がタンパク質骨格と結合している少なくとも1つの可変ペプチドループを含む。この二重の構造的制約は、抗体様タンパク質の結合親和性を抗体の結合親和性に匹敵するレベルまで大幅に増加させる。可変ペプチドループの長さは通常、10〜20アミノ酸からなる。骨格タンパク質は、良好な溶解特性を有するあらゆるタンパク質であり得る。好ましくは、骨格タンパク質は小さい球状タンパク質である。抗体様タンパク質は、アフィボディ(affibody)、アンチカリン(anticalin)、および設計されたアンキリンリピートタンパク質(概説に関してはBinz H.K. et al. (2005) Engineering novel binding proteins from nonimmunoglobulin domains. Nat. Biotechnol. 23(10):1257-1268参照)を含むがこれらに限定されない。抗体様タンパク質は、変異体の大規模ライブラリー由来であってもよく(例えば大規模ファージディスプレイライブラリーからパニング(panned)されてもよい)、通常の抗体と同様に単離されてもよい。また、抗体様結合タンパク質は、球状タンパク質の表面露出残基のコンビナトリアル変異によって取得され得る。抗体様タンパク質は「ペプチドアプタマー」と呼ばれることもある。
本明細書において、「ペプチド模倣物」は、ペプチドを模倣するように設計された小さいタンパク質様の鎖である。ペプチド模倣物は通常、分子の性質を変化させるための既存のペプチドの修飾によって生じる。例えば、ペプチド模倣物は、分子の安定性または生物活性を変化させる修飾によって生じ得る。これは既存のペプチドからの薬物様化合物の開発に関与し得る。これらの修飾は天然に存在しないペプチドへの変化(骨格の変化および非天然アミノ酸の組込みなど)を含む。
用語「標的」は、抗原結合タンパク質が結合できる分子または分子の一部を指す。ある実施態様において、標的は1以上のエピトープを有し得る。ある実施態様において、標的は抗原である。語句「抗原結合タンパク質」における「抗原」の使用は、抗原を含むタンパク質配列が抗体によって結合され得ることを単に意味する。この文脈において、タンパク質が外来性であること、またはタンパク質が免疫応答を誘導できることは必要とされない。
用語「組換え体」は、組換え法によって意図的に修飾されているアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を指す。本明細書における用語「組換え核酸」は、インビトロで形成される(例えばエンドヌクレアーゼによってさらに操作され、天然には通常見出されない核酸分子を形成する)核酸を指す。例示的な組換え核酸は、直鎖状のcDNA、および通常連結されていないDNA分子を連結することによってインビトロで形成されたベクターを含む。組換え核酸が作製され、宿主細胞中に導入されると、組換え核酸は非組換え的に(すなわち、インビトロでの操作ではなくインビボでの宿主細胞の細胞機構を用いて)複製する。したがって、組換えで作製された核酸は、その後非組み換え的に複製され得る。「組換えタンパク質」は、組み換え技術を用いて(例えば、上記で示された組換え核酸の発現によって)作製されたタンパク質である。本明細書における用語「組換えベクター」は当業者に公知のあらゆるベクターを含み、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクター(ラムダファージなど)、ウイルスベクター(アデノウイルスまたはバキュロウイルスベクターなど)、または人工染色体ベクター(細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、またはP1人工染色体(PAC)など)を含む。前記ベクターは発現ベクターおよびクローニングベクターを含む。発現ベクターはプラスミドベクターおよびウイルスベクターを含み、一般に所望のコード配列、および特定の宿主生物(例えば、細菌、酵母、植物、昆虫または哺乳類)またはインビトロでの発現系において動作可能に結合されたコード配列の発現に必要な適切なDNA配列を含む。クローニングベクターは通常、特定の所望のDNAフラグメントを設計および増幅するのに使用され、所望のDNAフラグメントの発現に必要とされる機能的配列を持たない場合がある。
用語「宿主細胞」は、ベクター(例えばプラスミドまたはウイルス)を保有する細胞を指す。このような宿主細胞は、原核細胞(例えば細菌細胞)または真核細胞(例えば真菌、植物または動物細胞)のいずれかであり得る。宿主細胞には、単細胞原核生物および単細胞真核生物(例えば、細菌、酵母および放線菌)の両方、ならびに細胞培養で増殖させる場合には高次植物または動物由来の単細胞が含まれる。本明細書において、「組換え宿主細胞」は、対象のポリペプチドフラグメント(すなわち、本発明におけるウイルスPAサブユニットのフラグメントまたはその変異体)をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を指す。このポリヌクレオチドは宿主細胞の内部で見出され得、(i)それ自体が自由に分散してい得るか、(ii)組換えベクターに組み込まれてい得るか、または(iii)宿主細胞ゲノムもしくはミトコンドリアDNAに組み込まれてい得る。組換え細胞は、対象のポリヌクレオチドの発現のために、または本発明のポリヌクレオチドもしくは組換えベクターの増幅のために使用され得る。用語「組換え宿主細胞」は、本発明のポリヌクレオチドまたは組換えベクターで形質転換、遺伝子導入、または感染させた元の細胞の子孫を含む。組換え宿主細胞は、細菌細胞(大腸菌細胞など)、酵母細胞(出芽酵母またはピキア・パストリスなど)、植物細胞、昆虫細胞(SF9もしくはHigh Five細胞など)または哺乳動物細胞であり得る。哺乳類細胞の好ましい例は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、アフリカミドリザル(green African monkey)腎臓(COS)細胞、ヒト胎児腎臓(HEK293)細胞、およびHELA細胞などである。
用語「個体」、「対象」または「患者」は本明細書において互換的に使用され、本発明から恩恵を受け得るあらゆる哺乳類、爬虫類または鳥類を指す。特に、個体は、実験動物(例えば、マウス、ラットまたはウサギ)、家畜(例えば、モルモット、ウサギ、ウマ、ロバ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ニワトリ、アヒル、ラクダ、ネコ、イヌ、カメ、ヘビまたはトカゲ)、または霊長類(チンパンジー、ボノボ、ゴリラおよびヒトを含む)からなる群から選択される。特に「個体」はヒトである。
用語「疾患」および「障害」は本明細書において互換的に使用され、異常状態(特に病気または傷害などの異常な病状)を指し、組織、臓器または個体はもはやその機能を効率的に果たすことができない。通常、必ずではないが、疾患は、そのような疾患の存在を示す特定の症状または徴候に関連している。したがって、そのような症状または徴候の存在は、疾患に罹患した組織、臓器または個体を示し得る。これらの症状または徴候の変化は、そのような疾患の進行を示し得る。疾患の進行は通常、疾患の「悪化」または「改善」を示し得るそのような症状または徴候の増加または減少によって特徴付けられる。疾患の「悪化」は、組織、臓器または生物がその機能を効率的に果たす能力の減少によって特徴付けられ、疾患の「改善」は、組織、臓器または個体がその機能を効率的に果たす能力の増加によって通常特徴付けられる。疾患が「発生するリスク」がある組織、臓器または個体は健常状態にあるが、疾患が発生する可能性を示す。通常、疾患が発生するリスクは、そのような疾患の早期または弱い徴候または症状に関連する。そのような場合、疾患の発症は未だ処置によって予防され得る。疾患の例には、限定されないが、感染症、外傷性疾患、炎症性疾患、皮膚疾患、内分泌疾患、腸疾患、神経障害、関節疾患、遺伝性障害、自己免疫疾患、および様々な種類のがんが含まれる。
「腫瘍」は、急速で無制限な細胞増殖によって増殖し、新たな増殖を開始させる刺激が止まった後も成長し続ける異常な細胞または組織の群を意味する。腫瘍は、正常組織による構造的機構および機能的協調の部分的または完全な欠如を示し、通常、良性または悪性のいずれかであり得る明確な組織の塊を形成する。
「転移」は、身体の元の部位から別の部分へのがん細胞の拡散を意味する。転移の形成は非常に複雑なプロセスであり、原発腫瘍からの悪性細胞の解離、細胞外マトリクスの浸潤、体腔および血管に進入するための内皮基底膜の浸透、ならびに血液によって輸送された後における標的臓器の浸潤に依存する。最終的に、標的部位における新たな腫瘍の増殖は血管新生に依存する。腫瘍細胞または腫瘍成分は残存して転移能を発達させ得るため、腫瘍の転移は多くの場合、原発腫瘍の除去後にさえ起こる。ある実施態様において、本発明における用語「転移」は、原発腫瘍および局所リンパ節系から離れた転移に関する「遠隔転移」に関する。
疾患または障害の「症状」は、そのような疾患または障害を有する組織、臓器または生物に顕著な疾患または障害の影響であり、限定されないが、組織、臓器または個体の疼痛、衰弱、圧痛、緊張、硬直およびけいれん、ならびに特定の指標(バイオマーカーまたは分子マーカーなど)の存在、非存在、増加、減少を含む。本明細書における用語「疾患」および「障害」は異常状態(特に病気または傷害などの異常な病状)を指し、組織、臓器または個体はもはやその機能を効率的に果たすことができない。通常、必ずではないが、疾患または障害は、そのような疾患または障害の存在を示す特定の症状または徴候に関連している。疾患または障害は限定されないが、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、がんの種類の疾患、皮膚疾患、内分泌疾患、血液の疾患および障害、眼の疾患および障害、遺伝性障害、炎症性疾患、感染症、腸疾患、神経障害および精神疾患を含む。例示的ながんの種類の疾患には、限定されないが、基底細胞がん、膀胱がん、骨がん、脳腫瘍、乳がん、バーキットリンパ腫、子宮頸がん、結腸がん、皮膚T細胞リンパ腫、食道がん、網膜芽細胞腫、胃がん、消化管間質腫瘍、神経膠腫、ホジキンリンパ腫、カポジ肉腫、白血病、リンパ腫、黒色腫、中咽頭がん、卵巣がん、膵がん、胸膜肺芽腫、前立腺がん、咽喉がん、甲状腺がんおよび尿道がんが含まれる。
本明細書において、疾患または障害の「処置する」、「処置している」、「処置」または「治療」は、以下のうち1つ以上を達成することを意味する:(a)障害の重症度を減少させること;(b)処置される障害に特徴的な症状の発症を制限または予防すること;(c)処置される障害に特徴的な症状の悪化を抑制すること;(d)以前に障害を有していた個体における障害の再発を制限または予防すること;および(e)以前に障害の症状を示した個体における症状の再発を制限または予防すること。したがって、治療効果を有する成分は上記で指定された効果(a)〜(e)のうち1つ以上を達成することによって、疾患または障害の症状を処置する。
本明細書において、疾患または障害の「予防する」、「予防している」、「予防」または「予防法」は、そのような疾患または障害が患者に生じることを予防することを意味する。
「薬学的に許容され得る」とは、連邦政府もしくは州政府の監督官庁によって承認されていること、または米国薬局方もしくは動物(特にヒト)における使用のための一般的に認められた他の薬局方に記載されていることを意味する。
本明細書における用語「薬学的に活性な部分」は、高分子または複合体(すなわち、ポリペプチド、ポリヌクレオチドまたはその複合体)の一部または部分を指すことが理解され、これは薬理効果(限定されないが、予防効果、治療効果および/または診断効果を含む)を媒介する。薬学的に活性な部分は通常、生物学的医薬品および/または化学的医薬品(例えば、リガンド、エフェクター分子、半減期延長モジュールおよび造影分子)を含む。用語「リガンド」は別の分子と複合体を形成し、特定の生物学的機能を果たす化学物質または生物学的物質を指す。リガンドには、限定されないが、基質、阻害剤および活性化剤(抗原結合分子、足場タンパク質、天然リガンド、リガンド結合受容体フラグメントおよびアプタマーなど)が含まれる。用語「エフェクター分子」は通常、タンパク質に結合し、それによりタンパク質の活性を変化させる小分子、ペプチドまたはポリペプチドを指す。エフェクター分子には、限定されないが、サイトカイン、ケモカイン、免疫(共)刺激分子、免疫抑制分子、デスリガンド、アポトーシス誘導タンパク質、キナーゼ、プロドラッグ変換酵素、RNase、アゴニスト抗体またはアゴニスト抗体フラグメント、アンタゴニスト抗体またはアンタゴニスト抗体フラグメント、毒素、増殖因子、ホルモン、凝固因子、線維素溶解性タンパク質、これらを模倣するペプチド、およびそれらのフラグメント、融合タンパク質または誘導体が含まれる。「半減期延長モジュール」は半減期(例えば、化学物質または生物学的物質の「血漿半減期」または「血清半減期」)を延長する。造影分子は特定の標的分子に結合し、それにより分子の位置の可視化を可能にする分子である。
用語「医薬品」、「薬剤」および「薬物」は本明細書において互換的に使用され、疾患または障害の同定、予防または処置のために使用される物質および/または物質の組合せを指す。
用語「調製物」および「組成物」は、担体として封入材料を含む活性化合物の製剤を含むことが意図され、これは他の担体を含むか、または含まない活性成分が担体によって包まれ、したがって活性化合物に関連しているカプセルを提供する。
「化学的医薬品」は通常、障害または疾患の予防、処置または診断に有効な人工的に合成された化学化合物を指すことが理解される。
「生物製剤」は通常、生物工学的手段を用いて製造され、予防、治療および/またはインビボでの診断の目的のために使用される医薬を指すことが理解される。生物製剤には、限定されないが、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質および核酸(例えばDNA、RNAまたはそのハイブリッド)が含まれる。承認されている治療用生物製剤には、限定されないが、ホルモン(例えば、インスリン、hGH、FSH、グルカゴン様ペプチド1、副甲状腺ホルモン、カルシトニン、ルトロピン、グルカゴン)、増殖因子(例えば、エリスロポエチン、G−CSF/GM−CSF、IGF−1)、インターフェロン(例えばIFN−α、IFN−β、IFN−γ)、インターロイキン(例えばIL−2、IL−11、IL−1Ra)、凝固因子(例えば第VIII因子、第IX因子、第VIIa因子、トロンビン)、血栓溶解剤および抗凝固剤(例えばt−PA、ヒルジン、活性化プロテインC)、酵素(例えばα−グルコシダーゼ、グルコセレブロシダーゼ、イズロン酸−2−スルファターゼ、ガラクトシダーゼ、尿酸オキシダーゼ、DNase)、抗体および抗体フラグメントなどの抗原結合分子(例えばIgG、Fab)、ならびにそれらの融合タンパク質(例えばTNFR2−Fc、TMP−Fc、CTLA−4−Fc、IL−1R−Fc、LFA−3−Fc、IL−2−DT)が含まれる。
用語「活性成分」は、生物学的に活性な(すなわち、医薬的価値を与える)医薬品組成物または製剤中の物質を指す。医薬組成物は、互いに組み合わせて、または独立に作用し得る1以上の活性成分を含み得る。活性成分は、中性または塩の形態として製剤化され得る。薬学的に許容され得る塩には、遊離アミノ基で形成される塩(限定されないが、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸および酒石酸などに由来する塩など)および遊離カルボキシル基で形成される塩(限定されないが、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジンおよびプロカインなどに由来する塩など)が含まれる。
本明細書における用語「担体」は、治療有効成分と共に投与される薬理学的に不活性な物質(限定されないが、希釈剤、賦形剤、界面活性剤、安定剤、生理的緩衝液または溶剤など)を指す。このような医薬担体は液体または固体であり得る。液体担体は限定されないが、水および油(限定されないが、ピーナッツ油、大豆油、鉱物油およびゴマ油などの石油起源、動物起源、植物起源または合成起源の油を含む)中の生理食塩水などの滅菌液を含む。生理食塩水、水性デキストロースおよびグリセロール溶液もまた、(特に注射用溶液のために)液体担体として利用され得る。生理食塩水は、医薬組成物を静脈内投与する場合に好ましい担体である。適切な医薬担体の例は、E. W. Martin による"Remington's Pharmaceutical Sciences"に記載されている。
適切な医薬品「賦形剤」には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水およびエタノールなどが含まれる。
「界面活性剤」には、アニオン性、カチオン性、および非イオン性界面活性剤(限定されないが、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、Triton X−100およびポリソルベート(ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65およびポリソルベート80など)など)が含まれる。
「安定剤」には、限定されないが、マンニトール、スクロース、トレハロース、アルブミンならびにプロテアーゼおよび/またはヌクレアーゼアンタゴニストが含まれる。
「生理的緩衝液」には、限定されないが、塩化ナトリウム溶液、脱塩水、ならびに適切な有機または無機緩衝溶液(限定されないが、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、tris緩衝液(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、HEPES緩衝液([4 (2 ヒドロキシエチル)ピペラジノ]エタンスルホン酸)またはMOPS緩衝液(3 モルホリノ−1 プロパンスルホン酸)など)が含まれる。一般に、各緩衝液の選択は所望する緩衝液モル濃度に依存する。例えば、リン酸緩衝液は注射液および輸液に適している。
用語「アジュバント」は、組成物の活性成分に対する免疫応答を、細胞レベルまたは液性レベルのいずれかにおいて増大、刺激、活性化、増強または調節する物質を指す(例えば、免疫アジュバントは実際の抗原に対する免疫系の応答を刺激するが、それ自体は免疫学的効果を有さない)。このようなアジュバントの例には、限定されないが、無機アジュバント(例えばリン酸アルミニウムまたは水酸化アルミニウムなどの無機金属塩)、有機アジュバント(例えばサポニンまたはスクアレン)、油性アジュバント(例えばフロイント完全アジュバントおよびフロイント不完全アジュバント)、サイトカイン(例えばIL−1β、IL−2、IL−7、IL−12、IL−18、GM−CFSおよびINF−γ)、粒子アジュバント(例えば、免疫刺激複合体(ISCOM)、リポソームまたは生分解性マイクロスフェア)、ビロソーム、細菌アジュバント(例えば、モノホスホリルリピドAまたはムラミルペプチド)、合成アジュバント(例えば、非イオン性ブロックコポリマー、ムラミルペプチド類似体または合成リピドA)または合成ポリヌクレオチドアジュバント(例えばポリアルギニンまたはポリリジン)が含まれる。
「有効量」または「治療有効量」は、意図される目的を達成するのに十分な治療物質の量である。所定の治療物質の有効量は、治療物質の性質、投与経路、治療物質を投与される動物のサイズおよび種、ならびに投与目的などの要因によって変動する。各場合の個体の有効量は、当分野で確立された方法に従って当業者により経験的に決定され得る。
実施態様
第1の態様において、本発明は、ヒト上皮成長因子受容体3(HER3)のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープに特異的に結合する抗原結合タンパク質を提供する。語句「ドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープ」は、ドメインIIIの少なくとも1つのアミノ酸およびドメインIVの少なくとも1つのアミノ酸が抗原結合タンパク質によって結合されることを意味する。したがって、ドメインIIIおよびIVの全てのアミノ酸が立体構造エピトープの一部であることを示唆するのではなく、両ドメイン内のアミノ酸が結合されることを示唆する。通常、抗体のエピトープは12〜20アミノ酸を含み、したがって特定の実施態様において、ドメインIIIの1〜19アミノ酸およびドメインIVの1〜19アミノ酸が抗原結合タンパク質によって結合され、好ましくはドメインIIIの3〜17アミノ酸およびドメインIVの3〜17アミノ酸が抗原結合タンパク質によって結合される。それぞれの場合において、結合されるエピトープは12〜20アミノ酸を含むことが好ましい。
ある実施態様において、立体構造エピトープは、HER3の完全なドメインIIIおよび完全なドメインIVによって形成される。代替の実施態様において、立体構造エピトープは、HER3の完全なドメインIIIおよびドメインIVのフラグメントによって形成される。代替の実施態様において、立体構造エピトープは、HER3のドメインIIIのフラグメントおよび完全なドメインIVによって形成される。代替の実施態様において、立体構造エピトープは、HER3のドメインIIIのフラグメントおよびドメインIVのフラグメントによって形成される。
特定の実施態様において、ドメインIIIは、配列番号1記載のHER3の329〜531位のアミノ酸からなる。
特定の実施態様において、ドメインIVのフラグメントは、配列番号1記載のHER3の532〜587位のアミノ酸を含むか、またはからなる。
特定の実施態様において、ドメインIVは、配列番号1記載のHER3の532〜643位のアミノ酸からなる。
したがって、特定の実施態様において、本発明は、HER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープに特異的に結合する抗原結合タンパク質を提供し、ここでドメインIIIは配列番号1記載のHER3の329〜531位のアミノ酸からなり、ドメインIVのフラグメントは配列番号1記載のHER3の532〜587位のアミノ酸を含むか、またはからなる。
特定の実施態様において、本発明は、HER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープに特異的に結合する抗原結合タンパク質を提供し、ここでドメインIIIは配列番号1記載のHER3の329〜531位のアミノ酸からなり、ドメインIVは配列番号1記載のHER3の532〜643位のアミノ酸からなる。
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様の抗原結合タンパク質と、HER3との結合について競合する抗原結合タンパク質を提供する。
特定の実施態様において、本発明は、ヒト上皮成長因子受容体3(HER3)のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープに特異的に結合する抗原結合タンパク質と競合する抗原結合タンパク質を提供する。
ある実施態様において、立体構造エピトープは、HER3の完全なドメインIIIおよび完全なドメインIVによって形成される。代替の実施態様において、立体構造エピトープは、HER3の完全なドメインIIIおよびドメインIVのフラグメントによって形成される。代替の実施態様において、立体構造エピトープは、HER3のドメインIIIのフラグメントおよび完全なドメインIVによって形成される。代替の実施態様において、立体構造エピトープは、HER3のドメインIIIのフラグメントおよびドメインIVのフラグメントによって形成される。
特定の実施態様において、ドメインIIIは、配列番号1記載のHER3の329〜531位のアミノ酸からなる。
特定の実施態様において、ドメインIVのフラグメントは、配列番号1記載のHER3の532〜587位のアミノ酸を含むか、またはからなる。
特定の実施態様において、ドメインIVは、配列番号1記載のHER3の532〜643位のアミノ酸からなる。
したがって、特定の実施態様において、本発明は、HER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープに特異的に結合する抗原結合タンパク質に競合する抗原結合タンパク質を提供し、ここでドメインIIIは配列番号1記載のHER3の329〜531位のアミノ酸からなり、ドメインIVのフラグメントは配列番号1記載のHER3の532〜587位のアミノ酸を含むか、またはからなる。
特定の実施態様において、本発明は、HER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープに特異的に結合する抗原結合タンパク質に競合する抗原結合タンパク質を提供し、ここでドメインIIIは配列番号1記載のHER3の329〜531位のアミノ酸からなり、ドメインIVは配列番号1記載のHER3の532〜643位のアミノ酸からなる。
特定の実施態様において、第2の態様の前記抗原結合タンパク質は、第1の態様の抗原結合タンパク質と、HER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープとの結合について競合する。
特定の実施態様において。第2の態様の前記抗原結合タンパク質は、HER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープとの結合について、第1の態様の抗原結合タンパク質よりも高いエピトープとの親和性を示すことによって競合する。
さらなる実施態様において、第2の態様の抗原結合タンパク質は、HER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープとの結合について、第1の態様の抗原結合タンパク質の結合を立体的に妨げることによって競合する。ある実施態様において、第2の態様の抗原結合タンパク質は、第1の態様の抗原結合タンパク質がHER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープに結合できないように、同一のエピトープまたは隣接エピトープに結合することによって第1の態様の抗原結合タンパク質との結合を立体的に妨げる。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は以下の特徴のうち1つ以上を示す:
(a)抗原結合タンパク質は、(特にHER3発現細胞に対するフローサイトメトリーによって分析される)15nM未満のEC50値でHER3に結合する。特に、抗原結合タンパク質は、10nM未満、5nM未満、1nM未満、500pM未満、100pM未満、50pM未満または30pM未満のEC50値でHER3に結合する。
(b)抗原結合タンパク質は、(特に、水晶振動子マイクロバランス測定、表面プラズモン共鳴、光干渉法(Octet)または競合ELISAによって分析される)100nM未満のKDで単量体HER3に結合する。特に、抗原結合タンパク質は、50nM未満、30nM未満または20nM未満のKD値で単量体HER3に結合する。
(c)抗原結合タンパク質は、10nM未満のIC50値でヘレグリン誘導性HER3リン酸化を阻害する。特に、抗原結合タンパク質は、5nM未満、1nM未満、500pM未満、300pM未満、200pM未満または100pM未満のIC50値でヘレグリン誘導性HER3リン酸化を阻害する。特に、抗原結合タンパク質は、80pMのIC50値でヘレグリン誘導性HER3リン酸化を阻害する。
したがって、本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は:
(a)(HER3発現細胞に対するフローサイトメトリーによって分析される)15nM未満(特に、10nM未満、5nM未満、1nM未満、500pM未満、100pM未満、50pM未満または30pM未満)のEC50値でHER3に結合する;および/または
(b)(水晶振動子マイクロバランス測定によって分析される)100nM未満(特に、50nM未満、30nM未満または20nM未満)のKD値で単量体HER3に結合する;および/または
(c)10nM未満のIC50値(特に、5nM未満、1nM未満、500pM未満、300pM未満、200pM未満または100pM未満のIC50値、特に80pMのIC50値)でヘレグリン誘導性HER3リン酸化を阻害する。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は以下のうち1つ以上を阻害する:
(i)HER3のそのリガンドへの結合、
(ii)受容体の活性化および/またはシグナル伝達、
(iii)HER3インターナリゼーションを誘導する、
(iv)細胞増殖を阻害する、および/または
(v)腫瘍増殖を阻害する。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は以下からなる群から選択される:
a)抗体またはその抗原結合フラグメント、
b)抗体様タンパク質、および
c)ペプチド模倣物。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一価抗体、二重特異性抗体、ヘテロコンジュゲート抗体(heteroconjugate antibody)、多特異性抗体、脱免疫化抗体(deimmunized antibody)、キメラ抗体、ヒト化抗体およびヒト抗体(特にヒトIgG1抗体)からなる群から選択される抗体である。
特定の実施態様において、抗体の抗原結合フラグメントは、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fdフラグメント、Fvフラグメント、ジスルフィド結合Fv(dsFv)、単一ドメイン抗体、一本鎖Fv(scFv)抗体、および単一ドメイン抗体(VH、VL、VHH、ナノボディ、VNAR)からなる群から選択される。
特定の実施態様において、抗体様タンパク質は、リポタンパク質関連凝固阻害因子(LACI−D1);affilin(例えば、ヒトγBクリスタリン(crystalline)またはヒトユビキチン);シスタチン;スルホロブス・アシドカルダリウス由来のSac7D;リポカリンおよびリポカリン由来のアンチカリン;設計されたアンキリンリピートドメイン(DARPin);FynのSH3ドメイン;プロテアーゼ阻害剤のクニッツ(Kunits)ドメイン;モノボディ(monobody)(例えばフィブロネクチンの10番目のIII型ドメイン);アドネクチン(adnectin);システインノットミニタンパク質;アトリマー;エビボディ(evibody)(例えばCTLA4に基づく結合剤);アフィボディ(例えば、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのZドメイン由来の3ヘリックスバンドル;トランスボディ(Trans-body)(例えばヒトトランスフェリン);テトラネクチン(例えば、単量体または三量体ヒトC型レクチンドメイン);ミクロボディ(例えばトリプシンインヒビターII);affilin;アルマジロリピートタンパク質からなる群から選択される。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、単一特異性、二重特異性または多特異性である。特定の実施態様において、二重特異性または多特異性抗原結合タンパク質は、第2の細胞標的に特異的に結合する。特定の実施態様において、第2の細胞標的は、免疫細胞の表面上に発現されるタンパク質(好ましくはCD3)、腫瘍細胞の表面上に発現されるタンパク質(特に成長受容体(特に上皮成長因子受容体(EGFR)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、ヒト上皮成長因子受容体(HER4)、インスリン様成長因子1−受容体(IGF−1R)、肝細胞成長因子受容体(HGFR、c−MET)およびそれらの誘導体、特にEGFRまたはHER2)の細胞外領域)からなる群から選択される。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は三価または四価である。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、特にFc受容体、胎児性Fc受容体(FcRn)または補体系によって結合されるエフェクタードメインを含む。特定の実施態様において、Fcドメインは、Fcガンマ受容体(特にCD16、CD32および/またはCD64)によって結合されるドメインである。特定の実施態様において、Fcドメインは、補体系を(特に補体系のC1qに結合することによって)活性化するドメインである。
本発明の好ましい実施態様において、抗原結合タンパク質は二価である。他の指示がない限り、以下の抗原結合タンパク質の実施態様における配置は、左側のN末端から右側のC末端に記載される。抗原結合タンパク質は二価かつ二重特異性であることがさらに好ましい。さらに好ましい実施態様において、二価かつ二重特異性の抗原結合タンパク質はダイアボディである。二重特異性ダイアボディは2つの鎖を含み、各鎖は異なる抗体由来のVHおよびVLドメインを含む。2つの可変ドメインVHおよびVLは3〜5残基の短いリンカーによって好ましくは連結されている。
ダイアボディは2つの鎖のダイアボディ(Db)または単鎖のダイアボディ(scDb)であり得る。2つの鎖のダイアボディのために、2つの鎖はVHA−VLBおよびVHB−VLAまたはVLA−VHBおよびVLB−VHAの配置を有し得、ここでAおよびBは2つの異なる特異性を表す。単鎖ダイアボディのために、第1の鎖VHA−VLBまたはVLA−VHB、および第2の鎖VHB−VLAまたはVLB−VHAが共有結合されている。好ましくは、第1の鎖および第2の鎖は10〜15アミノ酸長のペプチドリンカーによって連結されている。好ましくは、二重特異性ダイアボディはscDbである。好ましくは、抗原結合タンパク質は、(VHA−VLB−VHB−VLA)scDbの配置を有する。特に好ましい実施態様において、抗原結合タンパク質は配列番号12または配列番号34のアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
さらに好ましい実施態様において、抗原結合タンパク質は、1以上のscFv(好ましくは1つまたは2つのscFv)と連結した二重特異性Dbまたは二重特異性scDbであり、好ましくは二重特異性scDbである。2以上のscFvが直列に連結されてもよい。scFvは、(好ましくは、約10〜25アミノ酸のペプチドリンカーで連結された)同じ抗体のVHおよびVLドメインを含む。scFvはVH−VLまたはVL−VHの配置を有し得る。好ましくは、1以上のscFvは、二重特異性Dbまたは二重特異性scDbの一方または両方の特異性を有する。したがって、scFvは、好ましくはVHA−VLAもしくはVLA−VHAの配置を有し、または好ましくはVHB−VLBもしくはVLB−VHBの配置を有する。さらなる好ましい実施態様において、1以上のscFvは、二重特異性Dbまたは二重特異性scDbの特異性とは異なる特異性を有し得る。したがって、1以上のscFvは、VHC−VLCもしくはVLC−VHC、またはVHD−VLDもしくはVLD−VHDの配置などを有し得る。好ましい実施態様において、抗原結合タンパク質は、二重特異性三価抗原結合タンパク質である。好ましくは、抗原結合タンパク質は、(VHA−VLB−VHB−VLA)scDb−(VHA−VLA)scFvの配置を有する。特に好ましい実施態様において、抗原結合タンパク質は配列番号13のアミノ酸配列を含むか、またはからなる。好ましい実施態様において、抗原結合タンパク質は二重特異性四価抗原結合タンパク質である。好ましい実施態様において、抗原結合タンパク質は、(VHA−VLA)scFv−(VHA−VLB−VHB−VLA)scDb−(VHA−VLA)scFvの配置を有する。特に好ましい実施態様において、抗原結合タンパク質は配列番号35のアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
さらに好ましい実施態様において、抗原結合タンパク質は、それぞれがFc領域に連結されている二重特異性Dbまたは二重特異性scDb(好ましくは二重特異性scDb)から構成され、ここでFc領域はホモ二量体化ドメインとして働く。好ましい実施態様において、抗原結合タンパク質は、2つの配置(VHA−VLB−VHB−VLA)scDb−Fcの部分を含む。2つの部分は共有結合的または非共有結合的に結合されてい得る。特に好ましい実施態様において、抗原結合タンパク質は、配列番号8、配列番号9、配列番号10、または配列番号33のアミノ酸配列を含むか、またはからなる2つの部分を含む。
二重特異性抗原結合タンパク質のさらに好ましい実施態様において、第2の特異性の追加のVHドメインおよびVLドメインがそれぞれ軽鎖および重鎖に連結され、ここで重鎖のFc領域は二量体化ドメインとして働く。異なる特異性の2つのVHドメインおよび2つのVLドメインがそれぞれ軽鎖および重鎖に様々な組合せで連結され得、種々の配置をもたらし得る。抗原結合タンパク質の好ましい実施態様において、軽鎖はVHA−VHB−CLkの配置を有し、重鎖はVLA−VLB−CH1−CH2−CH3の配置を有する。特定の構成は、VHドメインおよびVLドメインのクロスオーバー対合(crossover pairing)を可能にする。好ましい実施態様において、軽鎖はVHA−VLB−CLkの配置を有し、重鎖はVHB−VLA−CH1−CH2−CH3の配置を有する。好ましい実施態様において、軽鎖はVLA−VLB−CLkの配置を有し、重鎖はVHB−VHA−CH1−CH2−CH3の配置を有する。特に好ましい実施態様において、抗原結合タンパク質は、配列番号31の鎖および配列番号32の鎖を含む。
上記の各例において、文字「A」、「B」、「C」および「D」は、本発明の抗原結合タンパク質の抗原特異性を表す。本発明の各抗原結合タンパク質内の「A」、「B」、「C」および「D」のうち少なくとも1つは、ヒト上皮成長因子受容体3(HER3)のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープに特異的に結合する。他の特異性は同一であってもよく、または異なっていてもよい。好ましい第2の特異性およびさらなる特異性を以下に概説する。
二重特異性抗体のさらなる例は、Brinkmann U & Kontermann RE, MABS, 2017, 9(2), 182-212に記載され、本明細書に具体的に組み込まれる。
特定の実施態様において、本発明の抗原結合タンパク質は多量体化ドメインを含む。好ましい例は、二量体化ドメイン、三量体化ドメインまたは四量体化ドメインである。2つのタンパク質鎖が互いに結合している場合、それぞれのタンパク質鎖は他のタンパク質内の少なくとも1つの二量体化ドメインに結合できる少なくとも1つの二量体化ドメインを含む。したがって、抗原結合タンパク質が3つのタンパク質鎖を含む場合、それぞれのタンパク質鎖は、それぞれの他の三量体化ドメインに相互作用できる少なくとも1つの三量体化ドメインを含む。特定の実施態様において、二量体化ドメインは、IgM(MHD2)またはIgE(EHD2)の重鎖ドメイン2(CH2)、免疫グロブリンFc領域、IgGまたはIgAの重鎖ドメイン3(CH3)、IgMまたはIgEの重鎖ドメイン4(CH4)、Fab、Fab2、ロイシンジッパーモチーフ、バルナーゼ−バルスター二量体、ミニ抗体、およびZIPミニ抗体からなる群から選択される;三量体化ドメインは、テネイシンC(TNC)、コラーゲンXVIIIのC末端非コラーゲン性ドメイン(NC1)の三量体化領域、Fab3様分子、およびTriBiミニボディからなる群から選択される;または四量体化ドメインは、p53の四量体化ドメイン、統制タンパク質4(general control protein 4)(GCN4)の四量体化ドメイン、VASP(血管拡張因子刺激リン酸化タンパク質)の四量体化ドメイン、タンデムダイアボディ、およびジダイアボディ(di-diabody)からなる群から選択される。いくつかの実施態様において、特に、異なる抗原特異性を持つ2つのタンパク質鎖が使用されるべきである場合、ヘテロ二量体化ドメインの使用が好ましい。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質はADCCが改善された重鎖配列を含む。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は以下を含む:
(a)配列番号2記載の32〜37位のアミノ酸を含むCDRH1および1つのアミノ酸交換を含むその変異体、配列番号2記載の52〜69位のアミノ酸を含むCDRH2および1つのアミノ酸交換を含むその変異体、ならびに配列番号2記載の102〜112位のアミノ酸を含むCDRH3および1つのアミノ酸交換を含むその変異体、および/または
(b)配列番号3記載の23〜33位のアミノ酸を含むCDRL1および1つのアミノ酸交換を含むその変異体、配列番号3記載の49〜55位のアミノ酸を含むCDRL2および1つのアミノ酸交換を含むその変異体、ならびに配列番号3記載の88〜98位のアミノ酸を含むCDRL3および1つのアミノ酸交換を含むその変異体。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は以下を含む:
(a)配列番号2記載の1〜31位のアミノ酸を含むFRH1および少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を含むその変異体、38〜51位のアミノ酸を含むFRH2および少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を含むその変異体、70〜101位のアミノ酸を含むFRH3および少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を含むその変異体、ならびに113〜123位のアミノ酸を含むFRH4および少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を含むその変異体、および/または
(b)配列番号3記載の1〜22位のアミノ酸を含むFRL1および少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を含むその変異体、配列番号3記載の34〜48位のアミノ酸を含むFRL2および少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を含むその変異体、配列番号3記載の56〜87位のアミノ酸を含むFRL3および少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を含むその変異体、ならびに配列番号3記載の99〜109位のアミノ酸を含むFRL4および少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を含むその変異体。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は以下を含む:
(a)配列番号2記載の32〜37位のアミノ酸からなるCDRH1および1つのアミノ酸交換を含むその変異体、配列番号2記載の52〜69位のアミノ酸からなるCDRH2および1つのアミノ酸交換を含むその変異体、配列番号2記載の102〜112位のアミノ酸からなるCDRH3および1つのアミノ酸交換を含むその変異体、配列番号2記載の1〜31位のアミノ酸からなるFRH1および少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を含むその変異体、配列番号2記載の38〜51位のアミノ酸を含むFRH2および少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を含むその変異体、配列番号2記載の70〜101位のアミノ酸を含むFRH3および少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を含むその変異体、ならびに配列番号2記載の113〜123位のアミノ酸を含むFRH4および少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を含むその変異体を含む重鎖
(b)配列番号3記載の23〜33位のアミノ酸からなるCDRL1および1つのアミノ酸交換を含むその変異体、配列番号3記載の49〜55位のアミノ酸を含むCDRL2および1つのアミノ酸交換を含むその変異体、配列番号3記載の88〜98位のアミノ酸を含むCDRL3および1つのアミノ酸交換を含むその変異体、配列番号3記載の1〜22位のアミノ酸を含むFRL1および少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を含むその変異体、配列番号3記載の34〜48位のアミノ酸を含むFRL2および少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を含むその変異体、配列番号3記載の56〜87位のアミノ酸を含むFRL3および少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を含むその変異体、ならびに配列番号3記載の99〜109位のアミノ酸を含むFRL4および少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を含むその変異体を含む軽鎖。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、配列番号2記載の1〜123位のアミノ酸、または配列番号2記載のアミノ酸配列と少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有するその変異体における重鎖を含む可変ドメインを含む。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、配列番号3記載の1〜109位のアミノ酸、または配列番号3記載のアミノ酸配列と少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有するその変異体における軽鎖を含む可変ドメインを含む。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、配列番号2記載の1〜123位のアミノ酸における重鎖、および配列番号3記載の1〜109位のアミノ酸または配列番号3記載のアミノ酸配列と少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有するその変異体における軽鎖を含む可変ドメインを含む。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、配列番号4記載の1〜453位のアミノ酸、または配列番号4記載のアミノ酸配列と少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有するその変異体を含むか、またはからなる重鎖を含む。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、配列番号5記載の1〜215位のアミノ酸、または配列番号5記載のアミノ酸配列と少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有するその変異体を含むか、またはからなる軽鎖を含む。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、配列番号4記載の1〜453位のアミノ酸、または配列番号4記載のアミノ酸配列と少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有するその変異体を含むか、またはからなる重鎖、および配列番号5記載の1〜215位のアミノ酸、または配列番号5記載のアミノ酸配列と少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有するその変異体を含むか、またはからなる軽鎖を含む。
特定の実施態様において、抗原結合タンパク質はリンカー(特にペプチドリンカー)をさらに含む。特定の実施態様において、ペプチドリンカーは、5〜40アミノ酸長(すなわち、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40アミノ酸長)、特に5〜20アミノ酸長(すなわち、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20アミノ酸長)、特に8〜15アミノ酸長(すなわち、8、9、10、11、12、13、14、15アミノ酸長)である。
可動性ペプチドリンカーが特に好ましい。可動性リンカーは、アミノ酸鎖の回転または屈曲を妨げる嵩高い側鎖を持たないアミノ酸から構成される。可動性リンカーは、好ましくはG、S、T、およびA残基を含む。特定の実施態様において、可動性リンカーペプチドのアミノ酸の少なくとも50%は、G、S、TおよびAからなる群から選択されるアミノ酸からなる。特定の実施態様において、リンカーのアミノ酸の少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または100%は、G、S、TおよびAからなる群から選択されるアミノ酸からなる。多数のペプチドリンカーが当分野において記述されている(Robinson & Sauer, 1998; Volkel et al., 2001; Kavoosi et al., 2007; Watanabe et al., 2011)。特定の実施態様において、ペプチドリンカーは限定されないが、リンカーペプチド1:GGGGS(配列番号14)、リンカーペプチド2:GGGGSGGGGS(配列番号15)、リンカーペプチド3:GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号16)、リンカーペプチド4:GSLGGSGG(配列番号17)、リンカーペプチド5:GGGSGGGT(配列番号18)、リンカーペプチド6:GGGSGGGTGS(配列番号19)、リンカーペプチド7:GGGSGGGTGSGG(配列番号20)、リンカーペプチド8:GGGGSGGRASGGGGSGGGGS(配列番号21)、リンカーペプチド9:GGGSGGGS(配列番号22)、リンカーペプチド10:EFTRG(配列番号23)、およびリンカーペプチド11:AAA(配列番号24)またはその多量体、誘導体およびフラグメントを含む。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、抗原結合タンパク質は、配列番号2記載の1〜123位のアミノ酸における重鎖、配列番号3記載の1〜109位のアミノ酸、またはアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性をその変異体における軽鎖、およびペプチドリンカー(特に配列番号16記載のペプチドリンカー)を含む可変ドメインを含む。
特定の実施態様において、ペプチドリンカーは可変ドメインの重鎖と軽鎖との間に位置している。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は配列番号6記載のscFvを含むか、またはからなる。
さらに好ましい実施態様において、1以上のリンカーは1以上の切断部位(すなわち、リンカー配列が1以上のペプチド結合の切断によって化学的または酵素的に切断され得る1以上の配列領域)を含む。酵素的切断はタンパク質分解酵素によって達成され得、これは限定されないが、制限エンドヌクレアーゼ(例えば、I型、II型、III型、IV型または人工制限酵素)およびエンドまたはエキソペプチダーゼまたはプロテアーゼ(例えば、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ)を含む。特に好ましい実施態様において、1以上の切断部位は1以上のエンドペプチダーゼ切断部位(すなわち、配列がエンドペプチダーゼ(限定されないが、トリプシン、ペプシン、エラスターゼ、トロンビン、コラゲナーゼ、フーリン、サーモリシン、エンドペプチダーゼV8、および/またはカテプシンなど)によって切断される、または切断可能である切断部位)を含む。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は1以上のタグをさらに含む。特定の実施態様において、1以上のタグは、アフィニティータグ、可溶化タグ、クロマトグラフィータグ、エピトープタグおよび蛍光タグからなる群から選択される。特定の実施態様において、タグは、FLAGタグ(配列番号25)、Hisタグ(配列番号26)およびMycタグ(配列番号27)から選択される。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質はリーダー配列をさらに含む。特定の実施態様において、リーダー配列は、細菌発現のための(特に配列番号28記載の)PelBリーダー配列、哺乳類細胞における発現のための(特に配列番号29記載の)IgKリーダー配列またはIL−2リーダー配列(配列番号30)であり得る。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、配列番号6記載のscFv、MycタグおよびHisタグを含む。本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、配列番号7記載の23〜310位のアミノ酸を含むか、またはからなる。
本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、配列番号6記載のscFv、Mycタグ、Hisタグおよびリーダー配列(特に、PelB、IgGKまたはIL−2リーダー配列)を含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、配列番号7記載の1〜310位のアミノ酸を含むか、またはからなる。
本発明の第1または第2の態様のある実施態様において、抗原結合タンパク質は、HER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープおよびEGFRに対する二重特異性抗原結合タンパク質である。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は単鎖ダイアボディであり、ここである抗原結合部位は、上記で詳述されているHER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープに対する部位であり、第2の抗原結合部位はEGFRに対する部位である。特定の実施態様において、EGFRに対する第2の抗原結合部位は、EGFR特異性ヒト化抗体hu225(すなわち、C225(セツキシマブ、アービタックス)のヒト化型)に由来している。さらなる実施態様において、抗原結合タンパク質は三機能性であり、Fcドメイン(特にFcガンマ受容体(特にCD16、CD32および/またはCD64)によって認識されるFcドメイン)をさらに含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は配列番号8記載の23〜738位のアミノ酸におけるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。さらなる実施態様において、抗原結合タンパク質はリーダー配列(特にIgKリーダー配列)をさらに含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は配列番号8記載の1〜738位のアミノ酸におけるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
本発明の第1または第2の態様のある実施態様において、抗原結合タンパク質は、HER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープおよびHER2に対する二重特異性抗原結合タンパク質である。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は単鎖ダイアボディであり、ここである抗原結合部位は、上記で詳述されているHER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープに対する部位であり、第2の抗原結合部位はHER2に対する部位である。特定の実施態様において、第2の抗原結合部位はHER2特異性ヒト化抗体2−35に由来している。さらなる実施態様において、抗原結合タンパク質は三機能性であり、Fcドメイン(特にFcガンマ受容体(特にCD16、CD32および/またはCD64)によって認識されるFcドメイン)をさらに含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は配列番号9記載の23〜744位のアミノ酸におけるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。さらなる実施態様において、抗原結合タンパク質はリーダー配列(特にIgKリーダー配列)をさらに含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は配列番号9記載の1〜744位のアミノ酸におけるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
本発明の第1または第2の態様のある実施態様において、抗原結合タンパク質は、HER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープおよびHER2に対する二重特異性抗原結合タンパク質を含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は単鎖ダイアボディであり、ここである抗原結合部位は、上記で詳述されているHER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープに対する部位であり、第2の抗原結合部位はHER2に対する部位である。特定の実施態様において、HER2に対する第2の抗原結合部位はHER2特異性抗体4D5(トラスツズマブ、ハーセプチン)に由来している。さらなる実施態様において、抗原結合タンパク質は三機能性であり、Fcドメイン(特にFcガンマ受容体(特にCD16、CD32および/またはCD64)によって認識されるFcドメイン)をさらに含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は配列番号10記載の23〜477位のアミノ酸におけるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。さらなる実施態様において、抗原結合タンパク質はリーダー配列(特にIgKリーダー配列)をさらに含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は配列番号10記載の1〜477位のアミノ酸におけるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
本発明の第1または第2の態様のある実施態様において、抗原結合タンパク質は、HER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープに対する抗原結合部位を含み、単鎖TRAIL(scTRAIL)ドメインをさらに含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、上記で詳述されているHER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープに対する抗原結合部位を含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、(特に配列番号6に記載の)scFv3−43をさらに含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質はFlagタグをさらに含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、配列番号11の23〜1020位のアミノ酸におけるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。さらなる実施態様において、抗原結合タンパク質はリーダー配列(特にIgKリーダー配列)をさらに含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は配列番号11の1〜1020位のアミノ酸におけるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
本発明の第1または第2の態様のある実施態様において、抗原結合タンパク質は、HER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープおよびCD3に対する二重特異性抗原結合部位を含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は単鎖ダイアボディであり、ここである抗原結合部位は、上記で詳述されているHER3のドメインIIIおよびドメインIVによって形成される立体構造エピトープに対する部位であり、第2の抗原結合部位はCD3に対する部位である。特定の実施態様において、CD3に対する第2の抗原結合部位はCD3特異性ヒト化型のUCHT1に由来している。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質はHisタグをさらに含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は配列番号12の23〜515位のアミノ酸におけるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。さらなる実施態様において、抗原結合タンパク質はリーダー配列(特にIgKリーダー配列)をさらに含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は配列番号12の1〜515位のアミノ酸におけるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は(特に配列番号6記載の)scFv3−43をさらに含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、配列番号13の23〜776位のアミノ酸におけるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。さらなる実施態様において、抗原結合タンパク質はリーダー配列(特にIgKリーダー配列)をさらに含む。特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は配列番号13の1〜776位のアミノ酸におけるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、配列番号6、配列番号7の23〜310位のアミノ酸、配列番号8の23〜738位のアミノ酸、配列番号9の23〜724位のアミノ酸、配列番号10の23〜744位のアミノ酸、配列番号11の23〜1020位のアミノ酸、配列番号12の23〜515位のアミノ酸、および配列番号13の23〜776位のアミノ酸からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
特定の実施態様において、抗原結合タンパク質は、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12および配列番号13からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
特にCDR、超可変領域および可変領域の配列は、HER3に結合する能力を失うことなく修飾され得ることが当業者に理解される。例えば、CDR領域は、本明細書に記載される領域と同一であるか、または高度に相同であるかのいずれかである。「高度に相同である」とは、CDR内に1〜5個、好ましくは1〜4個(1〜3個または1もしくは2個など)の置換、欠失または付加がなされてい得ることが想定される。さらに、超可変領域および可変領域は、本明細書に具体的に開示される領域との実質的な相同性を示すように修飾され得る。
さらに、本発明において、本明細書に記載のアミノ酸配列(特にヒト重鎖定常領域のアミノ酸配列)を修飾し、該配列を所望のアロタイプ(例えばコーカサス人集団において見出されるアロタイプ)に適合させることが望まれ得る。
本発明は、抗体の機能的性質または薬物動態の性質を変化させるために、Fc領域に変化がなされた抗体をさらに含む。このような変化は、C1q結合およびCDCまたはFcγR結合およびADCCの減少または増加をもたらし得る。例えば、置換は重鎖定常領域の1以上のアミノ酸残基において行われ得、これにより修飾抗体と比較して抗原に結合する能力を保持しながらエフェクター機能の変化を生じ得る(米国特許第5,624,821号および米国特許第5,648,260号参照)。
抗体のインビボにおける半減期は、該分子が無傷のCH2ドメインまたは無傷のIg Fcドメインを含まないようにIg定常ドメインまたはIg様定常ドメインのサルベージ受容体エピトープを修飾することによって改善され得る(米国特許第6,121,022号および米国特許第6,194,551号参照)。インビボにおける半減期は、Fc領域に変異を起こすことによって(例えば、252位のロイシンをスレオニンに置換することによって、254位のセリンをスレオニンに置換することによって、または256位のフェニルアラニンをスレオニンに置換することによって)さらに増加され得る(米国特許第6,277,375号参照)。
さらに、抗体の糖鎖付加パターンは、抗体のエフェクター機能を変化させるために修飾され得る。例えば、抗体は、Fc受容体に対するFc領域の親和性を増強させ、次いでNK細胞の存在下において抗体のADCCの増大をもたらすために、Fc領域の297位のAsnに通常結合しているフコース単位を付加しないトランスフェクトーマにおいて発現され得る(Shield et al. (2002) JBC, 277: 26733参照)。さらに、ガラクトシル化の修飾がCDCを修飾するために行われ得る。
したがって、本発明の第1または第2の態様の特定の実施態様において、変異体は所定のアミノ酸配列と少なくとも85%の配列同一性を示す。特定の実施態様において、変異体は所定のアミノ酸配列と少なくとも90%、95%または98%の配列同一性を示す。
第3の態様において、本発明は、上記で詳述された本発明の第1および/または第2の態様における抗原結合タンパク質を含み、少なくとも1つの薬剤活性部分をさらに含む融合タンパク質を提供する。
特定の実施態様において、少なくとも1つの薬剤活性部分は化学的医薬品または生物製剤である。少なくとも1つの薬剤活性部分が生物製剤である、ある実施態様において、このような生物製剤はペプチド、ポリペプチド、タンパク質および/または核酸(例えばDNA、RNAまたはそのハイブリッド)であることが好ましい。特定の実施態様において、このような生物製剤は、ホルモン(例えば、インスリン、hGH、FSH、グルカゴン様ペプチド1、副甲状腺ホルモン、カルシトニン、ルトロピン、グルカゴン);増殖因子(例えば、エリスロポエチン、トロンボポエチン、G−CSF/GM−CSF、IGF−1);インターフェロン(例えばIFN−α、IFN−β、IFN−γ)およびインターロイキン(例えばIL−2、IL−11、IL−1Ra)などのサイトカイン(例えば、TNF、TRAIL、FasL、TGF−β);共刺激および免疫刺激リガンド(例えば、4−1BBL、CD40L、CD27L、OX40L、GITRL、LIGHT);凝固因子(例えば第VIII因子、第IX因子、第VIIa因子、トロンビン);血栓溶解剤および抗凝固剤(例えばt−PA、ヒルジン、活性化プロテインC);酵素(例えばα−グルコシダーゼ、グルコセレブロシダーゼ、イズロン酸−2−スルファターゼ、ガラクトシダーゼ、尿酸オキシダーゼ、DNase);抗体および抗体フラグメントなどの抗原結合分子(例えばIgG、Fab、Fc);ならびにそれらの融合タンパク質(例えばTNFR2−Fc、TMP−Fc、CTLA−4−Fc、IL−1R−Fc、LFA−3−Fc、IL−2−DT)からなる群から選択される。
特定の実施態様において、少なくとも1つの薬剤活性部分は、リガンド、エフェクター分子、半減期延長モジュールおよび造影分子からなる群から選択される。
特定の実施態様において、リガンドは別の分子と複合体を形成し、特定の生物学的機能を果たすあらゆる化学物質または生物学的物質(基質、阻害剤および活性化剤など)である。特に、リガンドには、限定されないが、抗原結合分子、足場タンパク質、天然リガンド(例えば、EGF、VEGF、PDGF、FGF、EPO、TPO、TGF−β、TNF、TRAIL)、リガンド結合受容体フラグメント(例えば、TNFR1、TNFR2、VEGFR、CTLA−4、LFA−3、BR3、CD95R、IL−1R、FGFR1)およびアプタマー(例えば、抗トロンビン、抗FIXa、抗C3b、抗VEGF、抗CD40L)が含まれる。足場タンパク質は重要なシグナル伝達経路の制御因子であり、限定されないが、KSR、MEKK1、BCL−10、MAPK、AHNAK−1、HOMER、Pellino、NLRP、DLG1、スピノフィリン、植物FLU制御タンパク質を含む。
特定の実施態様において、抗原結合分子は、抗体フラグメント、Fabフラグメント(IgMまたはIgE由来のFabフラグメントを除く)、Fab’フラグメント(IgMまたはIgE由来のFab’フラグメントを除く)、重鎖抗体、単一ドメイン抗体(sdAb)、重鎖抗体の可変ドメイン、VHH、ナノボディ、単鎖可変フラグメント(scFv)、タンデムscFv、二重特異性T細胞エンゲージャー(BITE)、ダイアボディ、単鎖ダイアボディ、DART分子、トリプルボディ(triple body)、ナノ抗体、代替足場タンパク質(例えばDARPin、アンチカリン、アフィボディ分子、ミクロボディ、モノボディ、フィノマー(Fynomer)、アドネクチン、テトラネクチン、クニッツドメイン、Affilin、アビマー(Avimer))およびそれらの融合タンパク質からなる群から選択される。抗原結合分子は、薬学的に関連する抗原(すなわち、疾患または疾患もしくは障害の症状を予防、診断および/または処置するのに適した抗原)に結合することが好ましい。好ましい実施態様において、疾患はがんの種類の疾患である。好ましくは、抗原結合分子は腫瘍関連抗原(限定されないが、EGFR、HER2、HER4、がん胎児性抗原(CEA)、アルファフェトプロテイン(AFP)、CA−125、上皮性腫瘍抗原(ETA)、チロシナーゼ、黒色腫関連抗原(MAGE)、rasおよびp53の異常産物、エストロゲン受容体、5−アルファ−レダクターゼ、プロスタグランジンエンドペルオキシド合成酵素2、VEGFR、インテグリン受容体ファミリー、線維芽細胞活性化タンパク質、ガレクチン、EpCAM、CEA、CD44、CD44v、CD2、CD5、CD7、CD19、CD20、CD21、CD22、CD24、CD25、CD30、CD33、CD38、CD40、CD52、CD56、CD71、CD72、CD73、CD105、CD117、CD123、クローディン、c−Met、PDGFR、IGF1−R、HMW−MAA、TAG−72、GD2、GD3、GM2、葉酸受容体、Ley、MUC−1、MUC−2、PSMA、PSCAならびにuPARなど)を認識する。好ましい実施態様において、抗原結合分子はIgMまたはIgE由来のFabまたはFcフラグメントではないことが想定される。
特定の実施態様において、抗原結合分子はscFv(好ましくは、抗HER2 scFvまたは抗EGFR scFv)である。
特定の実施態様において、エフェクター分子(すなわち、タンパク質に結合し、それによりタンパク質の活性を変化させる小分子、ペプチドまたはポリペプチド)には、限定されないが、サイトカイン、ケモカイン、免疫(共)刺激分子、免疫抑制分子、デスリガンド、アポトーシス誘導タンパク質、酵素(例えばキナーゼ)、プロドラッグ変換酵素、RNase、アゴニスト抗体またはアゴニスト抗体フラグメント、アンタゴニスト抗体またはアンタゴニスト抗体フラグメント、毒素、増殖因子、ホルモン、凝固因子、線維素溶解性タンパク質、これらを模倣するペプチド、およびそれらのフラグメント、融合タンパク質または誘導体が含まれる。
特定の実施態様において、サイトカインはインターロイキンおよび/またはインターフェロンである。インターロイキン(IL)には、限定されないが、インターロイキン−1、インターロイキン−2、インターロイキン−3、インターロイキン−4、インターロイキン−5、インターロイキン−6、インターロイキン−7、インターロイキン−8、インターロイキン−9、インターロイキン−10、インターロイキン−11、インターロイキン12、インターロイキン−13、インターロイキン−14、インターロイキン−15、インターロイキン−16、インターロイキン−17、インターロイキン−18、インターロイキン−19、インターロイキン−20、インターロイキン−21、インターロイキン−22、インターロイキン−23、インターロイキン−24、インターロイキン−25、インターロイキン−26、インターロイキン−27、インターロイキン−28、インターロイキン−29、インターロイキン−30、インターロイキン−31、インターロイキン−32、インターロイキン−33、インターロイキン−34およびインターロイキン−35が含まれる。インターフェロン(IFN)には、限定されないが、I型インターフェロン(例えばIFN−α、IFN−βおよびIFN−ω)、II型インターフェロン(例えばIFN−γ)およびIII型インターフェロンが含まれる。特に、インターフェロンA1、インターフェロンA2、インターフェロンA4、インターフェロンA5、インターフェロンA6、インターフェロンA7、インターフェロンA8、インターフェロンA10、インターフェロンA13、インターフェロンA14、インターフェロンA16、インターフェロンA17、インターフェロンA21、インターフェロンB1、TNF、TRAILおよびFasLが含まれる。
特定の実施態様において、ケモカインには、限定されないが、CCケモカイン、CXCケモカイン、CケモカインおよびCX3Cケモカインが含まれる。特に、ケモカインには、限定されないが、CCL1、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9/CCL10、CCL11、CCL12、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCL17、XCL1、XCL2およびCX3CL1が含まれる。
特定の実施態様において、免疫(共)刺激タンパク質には、限定されないが、B7.1、B7.2、4−1BBL、LIGHT、ICOSL、GITRL、CD40L、OX40LおよびCD70が含まれる。
免疫抑制タンパク質は、IL1−Ra、IL−10、CTLA−4、PD−L1およびPD−L2からなる群から選択され得る。毒素は、シュードモナス外毒素A、ジフテリア毒素およびリシンからなる群から選択され得る。
特定の実施態様において、アポトーシス誘導タンパク質は、Bid、Bik、PumaおよびBim、ならびにアポトーシス促進性サイトカイン(デスリガンド)(限定されないが、TNF、scTNF、TRAIL、scTRAILおよびFasLなど)からなる群から選択され得る。特定の実施態様において、サイトカインはTNFである。さらなる実施態様において、サイトカインはTRAILまたはscTRAILである。
特定の実施態様において、酵素は、オキシドレダクターゼ、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、リガーゼからなる群から選択され得る。キナーゼには、限定されないが、AGCキナーゼ(PKA、PKCおよびPKGなど)、CaMキナーゼ(カルシウム/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼおよびセリン/スレオニンタンパク質キナーゼ(例えばDAPK2)など)、CK1(カゼインキナーゼ1群など)、CMGC(CDK、MAPK、GSK3およびCLKキナーゼなど)、STE(酵母ステライル7、ステライル11およびステライル20キナーゼのホモログなど)、チロシンキナーゼ(TK)、チロシンキナーゼ様群のキナーゼ(TKL)、受容体関連チロシンキナーゼ、MAPキナーゼおよびヒスチジンキナーゼが含まれる。
プロドラッグ変換酵素は、エステラーゼ(限定されないが、アセチルエステラーゼ、チオールエステルヒドロラーゼ、リン酸モノエステルヒドロラーゼ、リン酸ジエステルヒドロラーゼ、三リン酸モノエステルヒドロラーゼ、硫酸エステルヒドロラーゼ(スルファターゼ)、二リン酸モノエステルヒドロラーゼおよびリン酸三エステルヒドロラーゼなど);ホスファターゼ(限定されないが、チロシン特異的ホスファターゼ、セリン/スレオニン特異的ホスファターゼ、二重特異性ホスファターゼ、ヒスチジンホスファターゼおよび脂質ホスファターゼなど);およびレダクターゼ(限定されないが、5−アルファレダクターゼ、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、HMG−CoAレダクターゼ、メトヘモグロビンレダクターゼ、リボヌクレオチドレダクターゼ、チオレドキシンレダクターゼ、大腸菌ニトロレダクターゼ、メチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼおよびカルボキシペプチダーゼG2、シトシンデアミナーゼ、ニトロレダクターゼ、チミジンキナーゼなど)からなる群から選択され得る。
RNaseは、(特に、RNase A、RNase H、RNase I、RNase III、RNase L、RNase P、RNase PhyM、RNase T1、RNase T2、RNase U2、RNase V1およびRNase Vからなる群から選択される)エンドリボヌクレアーゼ、およびエキソリボヌクレアーゼ(限定されないが、ポリヌクレオチドホスホリラーゼ(PNPase)、RNase PH、RNase II、RNase R、RNase D、RNase T、オリゴリボヌクレアーゼ、エキソリボヌクレアーゼIおよびエキソリボヌクレアーゼIIなど)を含む。
アゴニスト抗体またはアゴニスト抗体フラグメントは、組織、臓器または個体において(例えば、TRAIL受容体、抗グルココルチコイド誘導性腫瘍壊死因子ファミリー受容体(GITR)およびCD40に対して)作用(限定されないが、受容体シグナル伝達、遺伝子発現、タンパク質合成およびタンパク質分解など)を生じるものを含む。アゴニスト抗体またはアゴニスト抗体フラグメントは、受容体分子の活性部位またはアロステリック部位に結合することによって作用し、それにより特異的反応を引き起こす。
アンタゴニスト抗体またはアンタゴニスト抗体フラグメントは、アゴニストの作用を遮断するものを含む。通常、アンタゴニスト抗体またはアンタゴニスト抗体フラグメントは、受容体分子の活性部位またはアロステリック部位に結合することによって作用し、または受容体(例えば抗CTLA−4、抗TNFR1、抗VEGFR、抗PDGFR、抗EGFR、抗Her2)の活性の制御に通常関与しない特有の結合部位と相互作用する。通常、アンタゴニスト抗体またはアンタゴニスト抗体フラグメントは、構造的に規定された結合部位においてアゴニストと競合し、またはアゴニストがその結合によって通常生じる作用を生じることができない様式でアゴニストの結合部位を変化させる。
特定の実施態様において、増殖因子は、アドレノメデュリン(AM)、アンジオポエチン(Ang)、自己分泌型細胞運動刺激因子、骨形成タンパク質(BMP)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、エリスロポエチン(EPO)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、増殖分化因子−9(GDF9)、肝細胞増殖因子(HGF)、肝がん由来増殖因子(HDGF)、インシュリン様増殖因子(IGF)、遊走刺激因子ミオスタチン(GDF−8)、神経成長因子(NGF)および他のニューロトロフィン、血小板由来増殖因子(PDGF)、トロンボポエチン(TPO)、トランスフォーミング増殖因子アルファ(TGF−α)、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、Wntシグナル伝達経路および胎盤増殖因子(PlGF)からなる群から選択され得る。
特定の実施態様において、凝固因子は、トロンビン、第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子、第XII因子および第XIII因子ならびにそれらの活性フラグメントからなる群から選択され得る。
特定の実施態様において、線維素溶解性タンパク質は、プラスミン、ウロキナーゼ、プラスミノーゲン、α2−抗プラスミン、組織プラスミノーゲンアクチベーター(t−PA)およびプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター−1(PAI−1)からなる群から選択され得る。
模倣ペプチドおよびタンパク質は、他のペプチドまたはタンパク質(特に本明細書において上記または下記で指定されたペプチドまたはタンパク質)の活性を模倣するペプチドおよびタンパク質(特に、トロンボポエチン模倣ペプチド、エリスロポエチン模倣ペプチド)を含む。
さらなる実施態様において、半減期延長モジュールは、本発明のポリペプチドの半減期(例えば「血漿半減期」または「血清半減期」)を変化させる化学物質または生物学的物質である。特に、半減期延長モジュールは、免疫グロブリン結合ドメイン(IgBD)、アルブミン、アルブミン結合ドメイン(ABD)、ペプチド、小分子、脂肪酸、抗体フラグメント、単一ドメイン抗体、VHH、足場タンパク質および長期循環血漿タンパク質に対する親和性を示す天然リガンドからなる群から選択され、これらはいずれも任意にペグ化、HES化(HESylate)、ポリシアル酸化、N−グリコシル化、O−グリコシル化され、またはPEG模倣したポリペプチドである。好ましくは、IgBDはIg分子のあらゆるドメイン(すなわち、Ig分子の可変ドメインVHまたはVLおよび/または定常ドメインCH1、CH2、CH3、CH4および/またはCL)に結合し得る。IGBDは、限定されないが、黄色ブドウ球菌のプロテインA(SpA)、連鎖球菌プロテインG(SpG)、ペプトストレプトコッカス・マグヌス由来のプロテインL(PpL)、大腸菌由来のプロテインEib、ブドウ球菌由来のプロテインSbi、ならびに連鎖球菌プロテインMAG、MIG、H、MおよびZAGに由来するドメインを含む。
さらなる実施態様において、造影分子は特定の標的分子に結合し、それによりその分子の位置の可視化を可能にする分子である。特に、造影分子は、生物発光試薬、化学発光試薬、蛍光造影剤、光増感剤、キレート試薬および放射性部分からなる群から選択される。
造影分子には、生物発光試薬、化学発光試薬および蛍光造影剤(限定されないが、ウミシイタケおよび/またはメトリディア・ロンガ(Metridia Longa)由来のルシフェラーゼ、過シュウ酸塩(peroxalate)、ポリメチン(例えばCy3、Cy5、Cy5.5、Cy7などのシアニン色素)、スクアライン誘導体、フタロシアニン、ポルフィリン誘導体およびBODIPY類似体(BODIPY FL、BODIPY R6G、BODIPY TR、BODIPY TMR、BODIPY 581/591、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665)など)、ならびに蛍光タンパク質(限定されないが、GFP、EGPF、CFP、BFP、YFP、DsREDなど)が含まれる(Chudakov et al. (2010) Physiol. Rev. 90:1103-1163)。
キレート試薬は、少なくとも1つの金属イオン(限定されないが、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム、亜鉛、銅、ヒ素、鉛、タリウムおよび水銀イオンなど)をキレート化により結合できる。このようなキレート試薬は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン四酢酸(カルシウム二ナトリウムベルサンテ(calcium disodium versante))(CaNa2−EDTA)、ジメルカプロール(BAL)、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、ジメルカプトプロパンスルホン酸塩(DMPS)、フェリチン、デフェロキサミンおよびデフェラシロクス、デフェリプロン(1,2−ジメチル−3−ヒドロキシル−4−ピリジノン)、DOTA、DTPA、DADT、DADS、DO3A、N2S2MAMA、トリアミドチオール(Triamidethiol)、ホスホネート、有機ガドリニウム錯体、ペニシラミンおよびテトラサイクリンファミリーの抗生物質を含み得る。
特定の実施態様において、放射性部分は放射性核種を含む。放射性部分は、F、Br、Mn、Co、Ga、As、Zr、P、C、S、H、I、In、Lu、Cu、Rh、Bi、At、Y、Re、Ac、TcまたはHg原子の同位体であり得る。放射性部分は本発明のポリペプチドを放射性標識し、その検出を(例えばヒト体内において)可能にし、それを診断手法(放射免疫検出法:RAID)に有用なものとするだけでなく、治療応用(放射免疫療法:RAIT)にも適したものとする。
光増感剤は、特定の波長の光で励起された後、発光またはフリーラジカルおよび一重項酸素の形成が可能な化学物質である。光増感剤は、例えば光線力学療法のために使用される。好ましい実施態様において、光増感剤には、限定されないが、ポルフィリンファミリー、テキサフィリンファミリー、クロリンファミリーおよびフタロシアニンファミリーの化合物(特にHpD、ALA、M−ALA、ベルテポルフィン、ルテキサフィリン(Lutexaphyrin)、テモポルフィン、タラポルフィン、HPPH、フタロシアニンおよびナフタロシアニンを含む)が含まれる。
第4の態様において、本発明は、本発明の第1または第2の態様の抗原結合タンパク質、および/または本発明の第3の態様の融合タンパク質をコードする配列を含む核酸分子を提供する。特定の実施態様において、このような核酸分子はDNA分子および/またはRNA分子を含む。
第5の態様において、本発明は、本発明の第4の態様の核酸分子を含むベクターを提供する。特定の実施態様において、ベクターは、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスおよび/または人工染色体からなる群から選択される。
第6の態様において、本発明は、本発明の第1または第2の態様の抗原結合タンパク質、本発明の第3の態様の融合タンパク質、本発明の第4の態様の核酸、および/または本発明の第5の態様のベクターを含む組換え宿主細胞を提供する。特定の実施態様において、宿主細胞はHEK293、CHO、BHKまたはPerC6細胞である。
第7の態様において、本発明は、本発明の第1または第2の態様の抗原結合タンパク質、本発明の第3の態様の融合タンパク質、本発明の第4の態様の核酸、および/または本発明の第5の態様のベクターを含み、薬学的に許容され得る担体、希釈剤、賦形剤、充填剤、結合剤、潤滑剤、流動促進剤、崩壊剤、吸着剤および/または保存剤のうち1つ以上をさらに含む医薬組成物を提供する。
特定の実施態様において、第7の態様の組成物は、患者への適切な投与のための形態を提供するために、適切な量の担体および/または賦形剤と共に治療有効量の活性成分(すなわち、好ましくは精製された形態における、本発明の第1または第2の態様の抗原結合タンパク質、本発明の第3の態様の融合タンパク質、本発明の第4の態様の核酸、および/または本発明の第5の態様のベクター)を含む。製剤は投与方法に適しているべきである。
医薬組成物は、溶液、懸濁液、乳濁液、錠剤、丸剤、カプセル剤、粉末および徐放性製剤などの形態を取り得る。医薬組成物は、トリグリセリドなどの伝統的な結合剤および担体と共に坐薬として処方され得る。
本発明の医薬組成物を調製するために、薬学的に許容される担体は固体または液体のいずれかであり得る。固形組成物には、粉末、錠剤、丸剤、カプセル剤、ロゼンジ、カシェ剤、坐薬および分散性顆粒剤が含まれる。固形賦形剤は1以上の物質であり得、これはまた希釈剤、香味剤、結合剤、保存剤、錠剤崩壊剤または封入材料としても作用し得る。粉末において、賦形剤は好ましくは微粉固体であり、これは本発明の微粉化された阻害剤と混合される。錠剤において、活性成分は必要とされる結合特性を有する担体と適切な比率で混合され、所望の形状およびサイズに圧縮される。適切な賦形剤は、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、デンプン、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ワックスおよびカカオバターなどである。坐薬を調製するために、低融点ワックス(脂肪酸グリセリドまたはカカオバターの混合物など)を最初に融解し、活性成分を撹拌などによってその中に均一に分散させる。次に、融解した均一な混合物を都合のよいサイズの型に注ぎ、冷却し、それにより固化させる。錠剤、粉末、カプセル剤、丸剤、カシェ剤およびロゼンジは、経口投与に適した固体投与形態として使用され得る。
液状組成物には、溶液、懸濁液および乳濁液(例えば、水、生理食塩水、水性デキストロース、グリセロール溶液または水/プロピレングリコール溶液)が含まれる。非経口注射(例えば静脈内、動脈内、骨内注入、筋肉内、皮下、腹腔内、皮内および髄腔内注射)のために、液体製剤は、溶液(例えば水溶性ポリエチレングリコール溶液)中で製剤化され得る。医薬組成物が静脈内投与される場合、生理食塩水が好ましい担体である。
特定の実施態様において、医薬組成物は単位投与形態である。このような形態において、組成物は適切な量の活性成分を含む単位投与量に細分され得る。単位投与量形態はパッケージ化された組成物(パッケージ化された錠剤、カプセル剤およびバイアルまたはアンプル中の粉末など)であり得、パッケージは個別の量の組成物を含む。また、単位投与量形態はカプセル剤、注射用バイアル、錠剤、カシェ剤またはロゼンジ自体であり得、またはパッケージ化された形態におけるこれらのうち適切な数のいずれかであり得る。
所望の場合、組成物は、少量の湿潤剤もしくは乳化剤またはpH緩衝剤を含み得る。
さらに、このような医薬組成物はまた、他の薬理活性物質(限定されないが、アジュバントおよび/またはさらなる活性成分など)を含み得る。本発明の文脈におけるアジュバントには、限定されないが、無機アジュバント、有機アジュバント、油性アジュバント、サイトカイン、粒子アジュバント、ビロソーム、細菌アジュバント、合成アジュバントまたは合成ポリヌクレオチドアジュバントが含まれる。
第8の態様において、本発明は、医薬における使用のための、本発明の第1または第2の態様の抗原結合タンパク質、本発明の第3の態様の融合タンパク質、本発明の第4の態様の核酸、本発明の第5の態様のベクター、または本発明の第7の態様の医薬組成物を提供する。特定の実施態様において、医薬における使用は、障害または疾患の予防、処置または診断(特に増殖性障害または増殖性疾患の予防、処置または診断)における使用である。
特定の実施態様において、本発明の第1または第2の態様の抗原結合タンパク質、本発明の第3の態様の融合タンパク質、本発明の第4の態様の核酸、本発明の第5の態様のベクター、または本発明の第7の態様の医薬組成物は、腫瘍増殖を阻害し、またはがんを処置するのに使用される。
増殖性障害または増殖性疾患には、限定されないが、基底細胞がん、膀胱がん、骨がん、脳腫瘍、乳がん、バーキットリンパ腫、子宮頸がん、結腸がん、皮膚T細胞リンパ腫、食道がん、網膜芽細胞腫、胃がん、消化管間質腫瘍、神経膠腫、ホジキンリンパ腫、カポジ肉腫、白血病、リンパ腫、黒色腫、中咽頭がん、卵巣がん、膵がん、胸膜肺芽腫、前立腺がん、咽喉がん、甲状腺がんおよび尿道がんが含まれる。
第9の態様において、本発明は、治療有効量の本発明の第1または第2の態様の抗原結合タンパク質、本発明の第3の態様の融合タンパク質、本発明の第4の態様の核酸、本発明の第5の態様のベクター、または本発明の第7の態様の医薬組成物をそれを必要とする患者に投与することを含む、腫瘍増殖を阻害し、またはがんを処置する方法を提供する。
本発明のあらゆる態様の実施において、上述の医薬組成物または結合部分(例えば抗体またはその抗原結合フラグメント)は、患者に十分なレベルの結合部分を提供する当分野で確立された任意の経路によって患者に投与され得る。これは全身投与または局所投与され得る。このような投与は、非経口的、経粘膜的に(例えば経口的、経鼻的、直腸内、膣内、舌下、粘膜下、経皮的、または吸入によって)なされ得る。好ましくは、投与は(例えば静脈内注射または腹腔内注射による)非経口投与であり、限定されないが、動脈内投与、筋肉内投与、皮内投与および皮下投与を含む。本発明の医薬組成物が局所投与される場合、医薬組成物は処置される臓器または組織(例えば腫瘍に罹患した臓器)に直接注射され得る。
経口投与に適した医薬組成物は、カプセル剤もしくは錠剤として;粉末もしくは顆粒剤として;(水性液体または非水性液体における)溶液、シロップもしくは懸濁液として;食用フォームもしくはホイップとして;または乳濁液として提供され得る。錠剤または硬ゼラチンカプセルは、ラクトース、デンプンまたはその誘導体、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、ステアリン酸またはその塩を含み得る。軟ゼラチンカプセルは、植物油、ワックス、脂肪、半固体または液体ポリオールなどを含み得る。溶液およびシロップは、水、ポリオールおよび糖を含み得る。
経口投与を意図した活性物質は、消化管における活性物質の崩壊および/または吸収を遅延させる物質でコーティングされ得、または該物質と混合され得る(例えば、モノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリンが使用され得る)。したがって、活性物質の徐放が長時間にわたって達成され得、必要に応じて活性物質は胃内における分解から保護され得る。経口投与のための医薬組成物は、特定のpHまたは酵素条件によって特定の胃腸の位置における活性物質の放出を促進するように処方され得る。
経皮投与に適した医薬組成物は、レシピエントの表皮と長期間密接に接触したままにすることが意図される個別のパッチとして提供され得る。局所投与に適した医薬組成物は、軟膏、クリーム、懸濁液、ローション、粉末、溶液、ペースト、ゲル、噴霧剤、エアロゾルまたは油として提供され得る。皮膚、口、眼または他の外部組織への局所投与のために、好ましくは局所用の軟膏またはクリームが使用される。軟膏において処方される場合、活性成分はパラフィン系軟膏基剤または水混和性軟膏基剤のいずれかと共に利用され得る。あるいは、活性成分は、水中油型基剤または油中水型基剤と共にクリームにおいて処方され得る。眼への局所投与に適した医薬組成物は点眼剤を含む。これらの組成物において、活性成分は適切な担体(例えば水性溶媒)に溶解または懸濁され得る。口における局所投与に適した医薬組成物には、ロゼンジ、トローチおよび口腔洗浄剤が含まれる。
経鼻投与に適した医薬組成物は、(好ましくは20〜500ミクロンの範囲の粒子径を有する)粉末などの固体担体を含み得る。粉末は、嗅ぎタバコを吸う様式で(すなわち、鼻の近くに保持された粉末の容器からの鼻を介した急速な吸入によって)投与され得る。あるいは、経鼻投与に適した組成物は液体担体(例えば鼻腔用噴霧剤または点鼻剤)を含み得る。これらの組成物は活性成分の水溶液または油剤を含み得る。吸入による投与のための組成物は特別に適応された装置(限定されないが、加圧エアロゾル、噴霧器または吸入器を含む)中に供給され得、これは所定の投与量の活性成分を提供するように構築されてい得る。好ましい実施態様において、本発明の医薬組成物は鼻腔を介して肺に投与される。
直腸内投与に適した医薬組成物は、坐薬または注腸剤として提供され得る。膣内投与に適した医薬組成物は、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォームまたは噴霧剤の製剤として提供され得る。
非経口投与に適した医薬組成物は水性および非水性の無菌の注射用溶液または懸濁液を含み、これは抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および組成物を対象のレシピエントの血液と実質的に等張にする溶質を含み得る。このような組成物中に存在し得る他の成分には、例えば、水、アルコール、ポリオール、グリセリンおよび植物油が含まれる。非経口投与に適した組成物は、単位投与量または複数投与量の容器(例えば密封されたアンプルおよびバイアル)中に示され得、使用直前に無菌液体担体(例えば注射用無菌生理食塩水)の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)条件で保存され得る。即時の注射溶液および懸濁液は、無菌の粉末、顆粒および錠剤から調製され得る。
好ましい実施態様において、組成物は、ヒトへの静脈内投与に適した医薬組成物として日常的な手順に従って処方される。通常、静脈内投与用の組成物は、無菌の等張水性緩衝液中の溶液である。必要に応じて、組成物は、可溶化剤、および注射部位における疼痛を緩和するための局所麻酔薬(リドカインなど)を含み得る。一般に、成分は別々に、または単位投与形態中に混合して(例えば、活性物質の量を示す密封容器(アンプルまたは小袋(sachette)など)中における凍結乾燥粉末または水を含まない濃縮物として)供給される。組成物が注入によって投与される場合、組成物は無菌の医薬品グレードの水または生理食塩水を含む注入ボトルを用いて分注され得る。組成物が注射によって投与される場合、成分が投与前に混合され得るように、無菌生理食塩水のアンプルが提供され得る。
別の実施態様において、例えば、化学誘引の阻害剤が制御放出システムにおいて送達され得る。例えば、阻害剤は、静脈内注入、埋込み型浸透圧ポンプ、経皮パッチ、リポソームまたは他の投与方法を用いて投与され得る。ある実施態様において、ポンプが使用され得る(Sefton (1987) CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14: 201; Buchwald et al. (1980) Surgery 88:507; Saudek et al. (1989) N. Eng. J. Med. 321: 574参照)。別の実施態様において、化合物は、小胞(特にリポソーム)において送達され得る(Langer (1990) Science 249:1527-1533; Treat et al. (1989) in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer, Lopez-Berestein and Fidler (eds.), Liss, N.Y., 353-365; WO 91/04014; U.S. 4,704,355参照)。別の実施態様において、ポリマー材料が使用され得る(Medical Applications of Controlled Release (1974) Langer and Wise (eds.), CRC Press: Boca Raton, Fla.; Controlled Drug Bioavailability, Drug Product Design and Performance, (1984) Smolen and Ball (eds.), Wiley: N.Y.; Ranger and Peppas (1953) J. Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23: 61参照; Levy et al. (1985) Science 228:190; During et al. (1989) Ann. Neurol. 25: 351; Howard et al. (1989) J. Neurosurg. 71: 105も参照)。
さらなる別の実施態様において、制御放出システムは治療標的(すなわち標的細胞、標的組織または標的臓器)の近くに配置され得、したがって全身投与の用量のほんの一部を必要とし得る(例えば、Goodson (1984) 115-138 in Medical Applications of Controlled Release, vol. 2参照)。他の制御放出システムが、Langerによる総説(1990, Science 249: 1527-1533)において議論されている。
具体的な実施態様において、本発明の医薬組成物を、処置を必要とする領域に局所投与することが望まれ得る;これは例えば、限定されないが、注射、カテーテル、坐薬、埋込み剤を用いた手術中の局所注入、(例えば手術後に創傷被覆材と組み合わせた)局所適用によって達成され得、ここで前記埋込み剤は、多孔質物質、非多孔質物質またはゼラチン質物質(シラスティック膜などの膜または繊維を含む)である。
好ましい有効量の選択は、当業者に公知のいくつかの因子の考慮に基づいて当業者によって決定される。このような因子は医薬組成物の特定の形態(例えばポリペプチドまたはベクター)およびその薬物動態パラメータ(バイオアベイラビリティ、代謝および半減期など)を含み、これらは医薬化合物についての規制認可を取得するのに通常利用される通常の開発手順中に確立される。用量を考慮する際のさらなる因子には、予防および/または処置される病状もしくは疾患、または正常な個体において達成される利益、患者の体重、投与経路、投与が急性であるかまたは慢性であるか、併用薬、および投与される医薬品の有効性に影響を与えることが周知である他の因子が含まれる。したがって、正確な投与量は、施術者の判断および各患者の状況に従って(例えば、標準的な臨床技術に従って、個々の患者の状態および免疫状態に依存して)決定されるべきである。
以下の実施例は本発明の単なる説明であり、いかなる方法においても添付の特許請求の範囲によって示される本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
実施例1:抗HER3抗体3−43の結合およびエピトープ特異性
真核生物発現のために最適化された3−43可変ドメイン配列を含む完全ヒトIgG1分子(IgG3−43)をクローン化し、懸濁培養に適応したHEK293−6E細胞中に発現させた。タンパク質を、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって一過性にトランスフェクトした細胞の上清から精製した。SDS−PAGE分析およびサイズ排除クロマトグラフィーにより、タンパク質の完全性を確認した。精製したIgG3−43のSDS−PAGE分析は、非還元条件下において無傷のIgG(約150kDa)の分子量を伴う単一のバンド、ならびに非還元条件下において重鎖(50kDa)および軽鎖(25kDa)に対応する2つのバンドを示した(図1A)。サイズ排除クロマトグラフィーにより、IgG3−43の純度を確認した(図1B)。IgG3−43の抗原結合を、ヒトHER3の細胞外ドメイン(aa27〜599)を含む固定化されたHER3−Fc融合物を用いてELISAにおいて分析した。HER3−Fc融合タンパク質をPBS中、3μg/mlにおいてポリスチレンマイクロタイタープレート上にコーティングした。残存している結合部位をPBS、2%スキムミルク(MPBS)で遮断した。次いでプレートをMPBS中のIgG3−43の段階希釈物と共にインキュベートした。洗浄後、結合した抗体をHRP標識抗ヒトFc抗体および基質としてのTMB、H2O2を用いて検出した。IgG3−43は、サブナノモル濃度範囲のEC50値(0.4±0.2nM)を有するHER3への特異的かつ濃度依存的な結合を示した(図1C)。IgG3−43の単量体受容体HER3に対する親和性を、Attana 200 cell装置を用いて水晶振動子マイクロバランス測定によって決定した。IgG3−43を、約90Hzの振動数変化をもたらす密度において低非特異的結合のカルボキシルチップの表面上にアミン結合によって固定化した。測定を、PBST(0.1%Tween)pH7.4の25μl/分の流速で25℃において行った。結合の再生を、3M MgCl2を用いて15分間、2回行った。2回の測定毎に、緩衝液の注入を行い、ベースラインを決定し、次いでベースラインを隣接する測定値から差し引いた。可溶性Hisタグ付きHER3を2.5〜20nMの濃度で、PBSTにおける2倍希釈系列において無作為な順番で注入した(図1D)。11nMのKd値が決定された(表1)。
実施例2:抗HER3抗体3−43のエピトープマッピングおよび交差反応性
抗体のエピトープを特定するために、ヒトHER3細胞外ドメイン(DII〜DIV aa208〜643、DIII〜DIV aa329〜643、DIV aa532〜643)の完全長型(aa20〜643)および切断型をクローン化し、トランスフェクトしたHEK293細胞においてFc融合タンパク質として産生させた。プロテインAクロマトグラフィーで精製した融合タンパク質の非還元条件および還元条件下でのSDS−PAGEにより、融合タンパク質の正確なサイズおよび二量体会合が確認された。IgG3−43が種々のドメイン欠失HER3融合タンパク質に結合する能力を、ELISAおよび非還元条件下での免疫ブロット実験において評価した(図2Aに要約されている)。ELISAのために、HER3−Fc融合タンパク質をPBS中、10μg/mlにおいてポリスチレンマイクロタイタープレート上にコーティングした。残存している結合部位をPBS、2%スキムミルク(MPBS)で遮断した。次いでプレートをMPBS中のIgG3−43の段階希釈物と共にインキュベートした。洗浄後、結合した抗体をHRP標識抗ヒトFab抗体および基質としてのTMB、H2O2を用いて検出した。結合は、完全長HER3−Fc融合タンパク質(aa20〜643)ならびにDII〜DIV(aa208〜643)FcおよびDIII〜DIV(aa329〜643)Fc融合タンパク質について検出されたが、DIV−Fc(aa532〜643)とは検出されなかった。この知見は、IgG3−43のエピトープがHER3のドメインIIIに存在することを示す。DIIIの一部およびDIV全体を含むフラグメント(aa359〜643、395〜643、458〜643)は結合を示さず、これはDIIIドメイン全体が抗体結合に必要とされることを示す。驚くべきことに、DI〜DIII(aa20〜531;DIVを持たない)またはDI〜DIIおよびDIIIの短い部分(aa20〜358)を含むFc融合タンパク質をテストしても結合は観察されなかった。この知見は、DIVもまた抗体結合に必要であることを示す。DI〜DIIIプラスDIVの一部(aa20〜587、20〜550)を含むフラグメントのテストは、3−43とaa20〜587との結合を示したが、aa20〜550との結合は示さず、これらはエピトープが少なくともaa328〜587内に存在し、少なくともaa328〜587を必要とすることを示した。これはaa329〜587から構成されるフラグメントを用いて確認され、このフラグメントはELISAにおいて結合を示した。対照的に、aa359〜587またはaa329〜550から構成されるフラグメントは結合を示さず、したがってエピトープがaa329〜587内に存在し、aa329〜587を必要とすることが確認された。
IgG3−43は、変性および還元されたHER3−Fc融合タンパク質を免疫ブロット実験において検出できなかったが、変性しているが還元されていないフラグメントとの結合が見出され、これはIgG3−43のエピトープが還元に敏感である(すなわち、ジスルフィド結合によって安定化されている)ことを示した。さらに、本発明者らは、ヒトおよびマウスHER3−Fc融合タンパク質との結合をELISAにおいて分析した(図2B)。両方のHER3−Fc融合タンパク質との結合が検出され、これはIgG3−43がHER3と交差反応性であり、したがってIgG3−43のエピトープはこれら2つの種において保存されていることを示した。
実施例3:抗HER3抗体3−43のHER3発現腫瘍細胞株への結合
フローサイトメトリー研究を、HER3発現MCF−7、FaDu、BT474、A431、NCI−N87およびA549細胞を用いて行った(図3)。細胞を37℃で短時間トリプシン処理した。トリプシンをFCS含有培地でクエンチし、遠心分離により除去し、プローブ毎に200,000個の細胞を播種した。次いで、細胞を様々な濃度のIgG3−43と共に少なくとも1時間4℃でインキュベートした。洗浄をPBA(1x PBS中の2%(v/v)FCS、0.02%(w/v)NaN3)を用いて2回行った。マウス由来のPE標識抗ヒトFc抗体をさらに1時間インキュベートし、結合した抗体分子を可視化した。さらなる2回の洗浄工程後、蛍光をMACSQuant(登録商標) Analyzer 10を用いて測定し、無染色細胞に対する蛍光強度の中央値をFlowJoソフトウェアを用いて計算した。これらの実験は、26〜74pMの範囲の驚くほど低いEC50値を有するIgG3−43の細胞受容体への結合を示した。
実施例4:IgG3−43はヘレグリンリガンド結合を阻害する
組換えhisタグ付きヒトHRG−β1をMCF−7細胞と共にインキュベートし、結合したタンパク質をPE標識抗his抗体によって検出した。過剰量のIgG3−43(3μM)とのプレインキュベーションは、細胞の蛍光強度を著しく減少させ、これはHRG結合の遮断を示した。一方、陰性対照としてのセツキシマブとのプレインキュベーションは同様の効果をもたらさなかった(図4)
実施例5:抗HER3抗体3−43によるヘレグリン誘導性HER3リン酸化およびシグナル伝達の阻害
IgG3−43を、HER3のHRG誘導性リン酸化を妨げる能力についてさらに分析した。セミコンフルエントの細胞をIgG3−43と共に1時間インキュベートし、その後HRG(50ng/ml)で15分間刺激した。細胞溶解物のウェスタンブロット解析は、種々の細胞株(MCF−7、BT−474、NCI−N87、A431、A549、FaDu)におけるHER3リン酸化の効率的な遮断ならびにHRG誘導性ErkおよびAktリン酸化の抑制を明らかにした(図5)。IgG3−43の滴定はさらに、HRG誘導性HER3リン酸化の遮断のための低ピコモル濃度範囲のIC50値を明らかにした。バンドの密度をFusion Solo Sソフトウェア(Vilber)を用いて分析し、チューブリンローディング対照に対する相対値を用いてIC50値を計算した。MCF−7細胞について、80pMのIC50値が決定された。MCF−7細胞上における抗HER3 IgG 3M6(これはセリバンツマブと同一の可変ドメインを含む)との比較は、IgG3−43の優れた活性を示した。ここで、3M6はHER3リン酸化を270pMのIC50値で阻害した。
実施例6:抗HER3抗体3−43によって誘導されるHER3インターナリゼーション
IgG3−43のインキュベーション後における細胞のHER3発現レベルおよびIgGの局在化をそれぞれウェスタンブロットおよび免疫蛍光顕微鏡によって分析した。ウェスタンブロット解析のために、MCF−7細胞を2日前に6ウェルプレートに播種し、実験当日にセミコンフルエントにした。細胞を一晩血清飢餓させ、100nM IgG3−43と共に図中に示す時間インキュベートした。HER3レベルをウェスタンブロットによって解析した。バンドの密度をFusion Solo Sソフトウェア(Vilber)を用いて分析した。値をチューブリンローディング対照との相対化によってローディング差について補正し、未処理プローブの相対値に対して正規化した。IgG3−43はMCF−7細胞中のHER3レベルの減少を迅速に導く(図6)。さらに、Cy5標識IgG3−43は共焦点顕微鏡によって示されるように、MCF−7細胞中に迅速にインターナライズされた(データ示さず)。1時間後、IgG3−43の強い細胞内蓄積が検出可能であった。
実施例7:抗HER3 IgG3−43による細胞増殖の阻害
IgG3−43を、インビトロにおいて腫瘍細胞増殖を減少させる能力に関して、さらに評価した。この効果をモニターするために、様々なヒトがん細胞株(MCF−7、BT−474、NCI−N87、FaDu)を96ウェルプレートに低密度で播種し、一晩接着させ、その後低い血清濃度下でIgG3−43または対照としての他の抗体と共にインキュベートした。1週間のインキュベーション後において、増殖を測定した。全4種の細胞株について、対照抗体と比較した増殖の減少が観察された(図7)。FaDuについて、273pMのIC50値がこれらの条件下で決定された。
実施例8:IgG3−43はSCIDマウスにおいて皮下異種移植FaDu腫瘍の増殖を効率的に阻害する
IgG3−43の抗腫瘍活性をSCIDマウスの皮下FaDu異種移植モデルにおいてテストした。5x106個の細胞をマウスの両方の側腹部に注射し、腫瘍が約80mm3の体積に達した際(腫瘍細胞接種の14日後)に処理を開始した。マウスは、静脈内注射を3週間、30、100および300μgの用量(陰性対照としてPBSを含む)で週に2回受けた。抗腫瘍効果が、IgG3−43の全3種の投与量のレジメンについて生存率の増加(より高い2種の濃度についてのみ生存率の中央値が増加した)および有意な腫瘍増殖の阻害を伴って観察された(図8)。
実施例9:EGFRおよびHER3を標的とする二重特異性単鎖ダイアボディ−Fc融合タンパク質は、EGFRおよびHER3の活性化の強力な阻害を誘導する
本発明者らは、hu225(C225(セツキシマブ、アービタックス)のヒト化型)および3−43の抗体部分を含む、単鎖ダイアボディ−Fcの形式におけるEGFRおよびHER3を標的とする二重特異性抗体を作製した(図9A、C)。scDb−Fc融合タンパク質をHEK293−6E浮遊細胞において産生させ、プロテインAアフィニティー精製によって細胞培養上清から精製した。scDb hu225x3−43−FcのSDS−PAGE分析により、作製物の単量体および二量体会合に対応する、還元条件下における約82kDaの見かけの分子量の単一のバンド、および非還元条件下における約200kDaの見かけの分子量の単一のバンドが明らかとなった(図9B)。対照的に、セツキシマブおよびIgG3−43は、還元条件下において重鎖および軽鎖を示す2つのバンドを示した。純度をサイズ排除クロマトグラフィーによって確認した(図9C)。scDb−Fcのその抗原との結合活性およびErbB受容体を発現する細胞との結合活性をそれぞれELISAおよびフローサイトメトリーによって評価した。ELISA分析は、親抗体とEGFRおよびHER3の細胞外ドメイン(ECD)との結合活性がscDb−Fc形式において保持されていることを明らかにした(図10A参照)。scDb−Fc分子および親抗体はそれらの対応する抗原に、サブモル濃度範囲の類似のEC50値で結合していた(表3)。フローサイトメトリー分析は、セツキシマブおよびscDb hu225x3−43−FcはFaDu細胞に0.2nMのEC50値で結合したが、IgG3−43は0.006nMのEC50値で結合したことを示した(図10B)。
次に、MCF−7細胞においてシグナル伝達阻害アッセイを行い、受容体活性化がscDb hu225x3−43−Fcでの処理によって阻害されるか否かを決定した(図11)。ヘレグリンはHER3リン酸化ならびに下流のエフェクターAktおよびErk1/2の活性化を誘導した。IgG3−43ならびにIgG3−43およびセツキシマブの組合せでの前処理は、HER3リン酸化ならびにAktおよびErk1/2の活性化を効率的に遮断し、HER3を分解した。scDb hu225x3−43−Fcでの処理はまた、HER3シグナル伝達の強力な阻害を示し、HER3分解をもたらした。また、シグナル伝達阻害アッセイを他のErbB過剰発現細胞株(A−431、A549、FaDu、NCI−N87、SK−BR−3)において行い、EGFで刺激したEGFRの阻害をさらに評価した(図12A〜F)。二重特異性scDb hu225x3−43−FcならびにセツキシマブおよびIgG3−43の組合せは、全ての細胞株においてEGF存在下におけるEGFRのリン酸化およびヘレグリン存在下におけるHER3のリン酸化の両方を阻害した。scDb−Fcと親抗体との間のHER3シグナル伝達阻害における差異の可能性をさらに調べるため、シグナル伝達阻害アッセイを、ヘレグリン存在下におけるFaDu細胞において抗体の段階希釈物を用いて行った(図13参照)。scDb−FcはHER3リン酸化を0.008nMのIC50値で阻害したが、IgG3−43およびセツキシマブの組合せはHER3リン酸化を0.081nMのIC50値で遮断し、これは、二重特異性抗体が単一特異性親抗体の組合せと比較してHER3リン酸化の優れた阻害活性を有することを示した。
実施例10:抗体2−35および3−43に由来するHER2およびHER3を標的とする二重特異性単鎖ダイアボディ−Fc融合タンパク質
本発明者らは、抗体2−35および3−43の抗体部分を含む、単鎖ダイアボディ−Fcの形式におけるHER2およびHER3を標的とする二重特異性抗体を作製した。2−35部分をファージディスプレイによって同定した。2−35部分はHER2の細胞外ドメインに特異的である。scDb−Fc融合タンパク質をHEK293−6E浮遊細胞において産生させ、プロテインAアフィニティー精製によって細胞培養上清から精製した。scDb 2−35x3−43−FcのSDS−PAGE分析により、還元条件下における約82kDaの見かけの分子量の単一のバンド、および非還元条件下における約200kDaの見かけの分子量の単一のバンドが明らかとなった(図14A参照)。純度をサイズ排除クロマトグラフィーによって確認した(図14B参照)。親抗体IgG2−35およびIgG3−43と比較した、scDb−FcのHER2およびHER3の細胞外ドメインとの結合をELISAによって決定した。ELISA分析は、親抗体のHER2およびHER3のECDタンパク質への結合活性がscDb−Fc形式において保持されていることを明らかにした(図15参照)。scDb 2−35x3−43−FcおよびIgG2−35はHER2−ECDに約1.5nMのEC50値で結合し、二重特異性抗体はHER3−ECDと0.24nMのEC50値で結合し、IgG3−43はHER3−ECDと0.33nMのEC50値で結合した。MCF−7細胞におけるシグナル伝達阻害アッセイは、IgG2−35がHER3リン酸化をわずかに減少させたことを示したが、これはHER2とのHER3のヘテロ二量体化の阻害による可能性がある(図11参照)。二重特異性抗体の形式における2−35部分および3−43部分の組合せは、HER3シグナル伝達の強力な阻害を示した。これらの結果は、scDb 2−35x3−43−Fcが代償性シグナル伝達軸(compensatory signaling axis)を遮断し、したがって腫瘍回避を防ぐさらなる候補となり得ることを示す。
実施例11:抗HER3 scTRAIL融合タンパク質は、標的依存性細胞毒性を仲介する
TNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)は、がん細胞に対するその選択的毒性のために有望なエフェクター分子であると考えられる。単鎖型のTRAILをヒトIgG1 Fc部分のC末端と融合させて(Fc−scTRAIL)二量体会合を誘導し、これは抗腫瘍効果を大きく増加させた。生物活性をさらに改善するために、scFv3−43のN末端をFc部分と融合させ、scFv3−43−Fc−scTRAILを作製した。融合タンパク質を安定にトランスフェクトしたHEK293細胞において産生させ、抗FLAGアフィニティークロマトグラフィーによって上清から精製した。SDS−PAGE分析およびサイズ排除クロマトグラフィーにより、タンパク質の純度および完全性を確認した(図16参照)。
新たなscFv3−43−Fc−scTRAIL融合タンパク質を、対応する標的抗原およびヒトTRAIL−R2に結合する能力に関してELISAおよび無傷のColo205およびHCT−116細胞を用いたフローサイトメトリーによって評価した。抗原結合およびTRAIL受容体結合を、対応する細胞外ドメインのFc融合タンパク質を用いてELISAにおいて分析した。scFv3−43−Fc−scTRAILは、サブナノモル濃度範囲のEC50値を有するHER3への特異的かつ濃度依存的な結合を示した(図17A、表4参照)。さらなるELISA研究は、2.84nMのEC50値を有するヒトTRAIL−R2との強力な結合を明らかにした(図M2B、表M1参照)。したがって、scFv3−43との融合はTRAIL−R2結合を妨げない。ELISAの結果を、抗原およびTRAIL受容体発現Colo205およびHCT−116細胞を用いたフローサイトメトリー研究によって確認した(図17C、D参照)。これらのデータは、scFv3−43−Fc−scTRAILが、精製および細胞表面に発現したHER3およびTRAIL−R2への結合に関して完全な機能性を有することを示す。
scFv3−43−Fc−scTRAILの細胞死誘導をColo205細胞を用いて分析し、非標的化Fc−scTRAILと比較した。処理の1日前に、50,000個のColo205細胞/ウェルを96ウェルプレートに播種した。細胞を感作物質ボルテゾミブ(650nM)または培地で30分間前処理した後、細胞を融合タンパク質の段階希釈物で16時間インキュベートした。細胞死をクリスタルバイオレット染色によって分析した。scFv3−43−Fc−scTRAILはColo205に対して細胞死の強力な誘導を示し、これはボルテゾミブ存在下においてさらに増強できた(図18参照)。非標的化Fc−scTRAILとの比較は、ボルテゾミブ非存在下および存在下におけるscFv3−43−Fc−scTRAILのより良い効果を明らかにした(図18、表5参照)。この優位性がscFv3−43標的化部分によって生じることを確認するために、対応する遮断抗体scFv3−43−Fc(200倍モル過剰)を前処理の細胞に添加し、実験を繰り返した。遮断抗体の存在下において、scFv3−43−Fc−scTRAILの効果は、非標的化Fc−scTRAILの効果のレベルまで減少した(図18、表5参照)。これにより、抗腫瘍効果を改善する細胞毒性融合タンパク質の標的化についての3−43抗体部分の適合性が確認された。
実施例12:T細胞再標的化のための抗HER3x抗CD3二重特異性抗体
二重特異性scDb分子を、抗HER3 3−43の結合部位を抗ヒトCD3抗体UCHT1のヒト化型と組み合わせることによって作製した。したがって、scDb 3−43xCD3は、HER3のための1つの結合部位およびCD3のための1つの結合部位を示す(図19AおよびB)。scDb 3−43xCD3をHEK293細胞において産生させ、IMACで精製した。scDb 3−43xCD3のSDS−PAGE分析により、還元条件下における約55kDaの見かけの分子量の単一のバンド、および非還元条件下における約50kDaの見かけの分子量の単一のバンドが明らかとなった(図19C)。サイズ排除クロマトグラフィーにより、約50kDaの見かけの分子量を有するタンパク質(流体力学半径:2.96nm)の純度および完全性が確認された(図19D)。
新たなscDb作製物の結合を、ELISAおよびフローサイトメトリーによって評価した。scDb 3−43xCD3の抗原結合を、ELISAにおいてヒトHER3の細胞外ドメイン(aa27〜599)を含む固定化されたHER3−Fc融合物を用いて分析した。HER3−Fc融合タンパク質をPBS中、2μg/mlにおいてポリスチレンマイクロタイタープレート上にコーティングした。残存している結合部位をPBS、2%スキムミルク(MPBS)で遮断した。次いでプレートをMPBS中のscDb 3−43xCD3の段階希釈物と共にインキュベートした。洗浄後、結合した抗体をHRP標識抗His抗体および基質としてのTMB、H2O2を用いて検出した。scDb 3−43xCD3は、より低いナノモル濃度範囲のEC50値(3.3nM)を有するHER3への特異的かつ濃度依存的な結合を示した(図19E)。
フローサイトメトリー研究を、HER3発現MCF−7(図19F)およびCD3発現Jurkat(図19G)を用いて行った。接着性MCF−7について、細胞を37℃で短時間トリプシン処理し、トリプシンをFCS含有培地でクエンチし、遠心分離により除去した。MCF−7およびJurkatの両方について、1ウェル当たり100,000個の細胞を播種し、PBA(1x PBS中の2%(v/v)FCS、0.02%(w/v)NaN3)中のscDb 3−43xCD3の滴定と共に4℃で1時間インキュベートした。洗浄をPBAで2回行った。結合したタンパク質を、4℃でさらに1時間インキュベートしたPE標識抗His抗体を用いて検出した。洗浄後、蛍光をMACSQuant(登録商標) Analyzer 10を用いて測定した。(無染色細胞に対する)相対的な蛍光強度の中央値をMACSQuant(登録商標)ソフトウェアを用いて計算した。MCF−7について1.1nMのEC50値およびJurkatについて3.1nMのEC50値を有しており、両方の抗原結合部位についてより低いナノモル濃度範囲における類似の結合活性が観察された(図19FおよびG)。
T細胞の活性化を、IL−2放出アッセイにおいてHER3発現Colo205細胞およびPBMCを用いて分析した。処理の1日前に、1ウェル当たり20,000個のColo205細胞を96ウェルプレートに播種した。培地を除去し、scDb 3−43xCD3の滴定を伴って新鮮な培地に置換した。室温での1時間のインキュベーション後に、1ウェル当たり200,000個のPBMCを添加し、37℃でさらに24時間インキュベートした。上清を回収し、IL−2の濃度を製造者によって供給された説明書に従ってELISA(ヒトIL−2キット、R&D)によって決定した。scDb 3−43xCD3は、0.3nMのEC50値を有するサブナノモル濃度範囲においてIL−2の用量依存的な放出(T細胞の活性化)を示した(図19H)。
実施例13:T細胞再標的化のための三価の二重特異性抗HER3x抗CD3二重特異性抗体
三価の二重特異性scDb3−43xCD3−scFv343(scDb−scFv)分子を、HER3(3−43)およびCD3(UCHT1のヒト化型)に特異的なscDb分子を抗HER3特異的scFv(3−43)と組み合わせることによって作製した。したがって、scDb−scFvは、HER3に対する2つの結合部位およびCD3に対する1つの結合部位を示す(図20A)。scDb−scFvをHEK293E細胞において産生させ、IMACで精製した。scDb−scFvのSDS−PAGE分析により、還元条件下における約80kDaの見かけの分子量の単一のバンド、および非還元条件下における約75kDaの見かけの分子量の単一のバンドが明らかとなった(図20B)。サイズ排除クロマトグラフィーにより、約62kDaの見かけの分子量を有するタンパク質(流体力学半径:3.83nm)の純度および完全性が確認された(図20C)。
scDb−scFvの抗原結合を、ELISAにおいてヒトHER3の細胞外ドメイン(aa27〜599)を含む固定化されたHER3−Fc融合物を用いて分析した。HER3−Fc融合タンパク質をPBS中、2μg/mlにおいてポリスチレンマイクロタイタープレート上にコーティングした。残存している結合部位をPBS、2%スキムミルク(MPBS)で遮断した。次いでプレートをMPBS中のscDb−scFvおよび対照としての二価および二重特異性scDb3−43xCD3の段階希釈物と共にインキュベートした。洗浄後、結合した抗体をHRP標識抗His抗体および基質としてのTMB、H2O2を用いて検出した。scDb−scFvは、サブナノモル濃度範囲のEC50値(0.81nM)を有するHER3への特異的かつ濃度依存的な結合を示し、scDb3−43xCD3は低ナノモル濃度範囲のEC50値(4.87nM)を示した(図20D)。
フローサイトメトリー研究を、HER3発現MCF−7(図20E)およびCD3発現Jurkat(図20F)を用いて行った。接着性MCF−7について、細胞を37℃で短時間トリプシン処理し、トリプシンをFCS含有培地でクエンチし、遠心分離により除去した。MCF−7およびJurkatの両方について、1ウェル当たり100,000個の細胞を播種し、PBA(1x PBS中の2%(v/v)FCS、0.02%(w/v)NaN3)中のscDb−scFvの滴定と共に4℃で1時間インキュベートした。洗浄をPBAで2回行った。結合したタンパク質を、4℃でさらに1時間インキュベートしたPE標識抗His抗体を用いて検出した。洗浄後、蛍光をMACSQuant(登録商標) Analyzer 10を用いて測定した。(無染色細胞に対する)相対的な蛍光強度の中央値をMACSQuant(登録商標)ソフトウェアを用いて計算した。MCF−7細胞との結合は31.6pMのEC50値を有するピコモル濃度範囲において観察され、これはIgG3−43分子全体の結合特性と同等であり、Jurkat細胞との結合は13.2nMのEC50値を有するナノモル濃度範囲において観察された(図20EおよびF)。
実施例14:抗体4D5および3−43に由来するHER2およびHER3を標的とする二重特異性単鎖ダイアボディ−Fc融合タンパク質
本発明者らは、4D5(トラスツズマブ、ハーセプチン)および3−43の抗体部分を含む、単鎖ダイアボディ−Fcの形式におけるHER2およびHER3を標的とする二重特異性抗体を作製した(図21)。scDb−Fc融合タンパク質をHEK293−6E浮遊細胞において産生させ、プロテインAアフィニティー精製およびその後のFPLC SECによって細胞培養上清から精製した。scDb 4D5x3−43−FcのSDS−PAGE分析により、作製物の単量体および二量体ポリペプチド鎖に対応する、還元条件下における約85kDaの見かけの分子量の単一のバンド、および非還元条件下における約200kDaの見かけの分子量の単一のバンドが明らかとなった(図21A)。約175kDaの見かけの分子量を用いて、純度および完全性をサイズ排除クロマトグラフィーによって確認した(図21B)。scDb 4D5x3−43−Fcの抗原結合を、ELISAにおいてヒトHER2またはHER3の細胞外ドメインを含む固定化されたHER2−HisまたはHER3−Hisを用いて分析した。抗原をPBS中、2μg/mlにおいてポリスチレンマイクロタイタープレート上にコーティングした。残存している結合部位をPBS、2%スキムミルク(MPBS)で遮断した。次いでプレートをMPBS中のscDb−Fc融合タンパク質の段階希釈物と共にインキュベートした。洗浄後、結合した抗体をHRP標識抗ヒトFc抗体および基質としてのTMB、H2O2を用いて検出した。ELISA分析により、HER2−Hisについて2.5nMのEC50値およびHER3−Hisについて1.9nMのEC50値を有するscDb 4D5x3−43−Fc融合タンパク質のナノモル濃度範囲における結合が明らかとなった(図21C参照)。
フローサイトメトリー研究を、HER2およびHER3発現FaDu細胞を用いて行った(図21D)。FaDu細胞を37℃で短時間トリプシン処理し、トリプシンをFCS含有培地でクエンチし、遠心分離により除去した。1ウェル当たり100,000個の細胞を播種し、PBA(1x PBS中の2%(v/v)FCS、0.02%(w/v)NaN3)中のscDb−Fcの滴定と共に4℃で1時間インキュベートした。洗浄をPBAで2回行った。結合したタンパク質を、4℃でさらに1時間インキュベートしたPE標識抗ヒトFc抗体を用いて検出した。洗浄後、蛍光をMACSQuant(登録商標) Analyzer 10を用いて測定した。(無染色細胞に対する)相対的な蛍光強度の中央値をMACSQuant(登録商標)ソフトウェアを用いて計算した。FaDu細胞との結合は2.9nMのEC50値を伴ってナノモル濃度範囲において観察され、これはELISA分析から得られた結合特性と同等であった。
実施例15:IgG3−43と共にインキュベートされたSKBR3およびBT474腫瘍細胞のリガンド非依存的なコロニー形成の阻害
SKBR3およびBT474は高レベルのHER2を発現し、したがってリガンド非依存的な様式で増殖し得る。IgG3−43が細胞増殖のマーカーとしてのコロニー形成を阻害する可能性を、これら2種の細胞株に対して分析した(図22)。細胞(1ウェル当たり1,000個の細胞)を12ウェルプレートのRPMI培地中に播種した。翌日、細胞を、2%FCSを含むRPMI培地中において50nMの濃度の抗体(IgG3−43またはトラスツズマブ)と共にインキュベートした。7日後に培地を除去し、同濃度の抗体を含む新鮮な培地を添加した。12日目において、細胞をHistofixを用いて室温で10分間固定し、細胞をクリスタルバイオレットで10分間染色した(図22A)。未処理細胞(con)を陰性対照として含めた。全てのインキュベーションを3通り行った。HER2に対するトラスツズマブを陽性対照として含めた。コロニー形成の強力な阻害が、IgG3−43およびトラスツズマブについて両細胞株に対して観察された(図22B)。これらの知見は、HER3がヘレグリン非存在下においてでさえHER2とシグナル伝達能を有するヘテロ二量体を形成し、これはIgG3−43によって阻害できることを示す。
実施例16:EGFR(hu225)およびHER3(3−43)を標的とする四価の二重特異性ダイアボディ−Ig融合タンパク質(Db−Ig)
四価の二重特異性Db3−43xhu225−Ig分子を、EGFR(hu225;C225(セツキシマブ、アービタックス)のヒト化型)およびHER3(3−43)に特異的なDb分子をIgG抗体の定常ドメインと組み合わせることによって作製した。したがって、Db3−43xhu225−Ig分子は、2種のポリペプチドVH3−43xVLhu225−CL(軽鎖、配列番号31)およびVHhu225xVLhu3−43−CH1−CH2−CH3(重鎖、配列番号32)からなる(図23A)。二重特異性Db3−43xhu225−Igは、EGFRに対する2つの抗原結合部位およびHER3に対する2つの抗原結合部位を示す(図23B)。遺伝子導入試薬としてポリエチレンイミンを用いて軽鎖または重鎖のいずれかをコードする2つのプラスミドを同時投与した後、一過性にトランスフェクトしたHEK293−6E細胞においてDb3−43xhu225−Igを発現させた。細胞培養上清中に分泌されたタンパク質をCH1−CaptureSelectアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した。SDS−PAGE分析により、還元条件下における重鎖および軽鎖に対応する約65kDaおよび35kDaの2つのバンド、ならびに非還元条件下における二重特異性Db−Ig分子に対応する約220kDaの1つの主要なバンドが明らかとなった(図23C)。サイズ排除クロマトグラフィーにより、Db3−43xhu225−Ig分子の完全性および均一性が確認された(図23D)。Db3−43xhu225−Igおよび単一特異性親抗体(セツキシマブ(抗EGFR)および3−43−IgG(抗HER3))の、EGFR(aa20〜643)およびHER3(aa27〜599)の細胞外ドメイン(ECD)との結合をELISAによって決定した。Hisタグ付きEGFRまたはHER3融合タンパク質をPBS中に希釈した2μg/mlの濃度においてポリスチレンマイクロタイタープレート上にコーティングした。残存している結合部位をPBS、2%スキムミルク(MPBS)で遮断した。次いでプレートを二重特異性Db3−43xhu225−Igまたは単一特異性親抗体の段階希釈物と共にインキュベートした。洗浄後、結合した抗体をHRP標識抗ヒトFc抗体および基質としてのTMB、H2O2を用いて検出した。ELISA分析は、EGFRおよびHER3の細胞外ドメインに対する親抗体の結合活性がDb−Ig形式において保持されていることを明らかにした。四価の二重特異性Db3−43xhu225−Igは、サブナノモル濃度範囲のEC50値(EGFRについて0.19nM;HER3について0.26nM)を有するEGFRおよびHER3への濃度依存的な結合を示した(図23E)。親抗体は対応する抗原に類似のEC50値で結合した(表6)。両方の抗原(EGFRおよびHER3)への同時結合が第2の結合のELISA分析によって確認された。第1の抗原として、EGFR−Fc融合タンパク質をPBS中、2μg/mlにおいてポリスチレンマイクロタイタープレート上にコーティングした。残存している結合部位をPBS、2%スキムミルク(MPBS)で遮断した。次いでプレートをMPBSで希釈された二重特異性Db3−43xhu225−Igの段階希釈物と共にインキュベートした。洗浄後、第2の抗原HER3−His(ヘキサヒスチジルタグとC末端において融合したHER3の細胞外ドメイン(aa27〜599);MPBSで300nMに希釈した)をプレートに添加した。洗浄後、結合したHER3−His(第2の抗原)をHRP標識抗Hisタグ抗体および基質としてのTMB、H2O2を用いて検出した。Db3−43xhu225−IgとコーティングされたHER3−Fcとの結合に類似して、第2の抗原は、サブナノモル濃度範囲のEC50値(0.85nM)で濃度依存的な様式において二重特異性Db3−43xhu225−Igに結合された(図23F)。したがって、この結果は、Db−Ig分子内の両方の抗原結合部位のアクセスしやすさが制限されていないことを示す。
さらに、Db3−43xhu225−Igおよび親のモノクローナル抗体(セツキシマブおよび3−43−IgG)の、EGFRおよび/またはHER3発現細胞(MCF−7、SKBR−3およびFaDu)への結合研究をフローサイトメトリーによって分析した(図23G)。接着細胞をPBSで洗浄し、37℃で短時間トリプシン処理した。トリプシンをFCS含有培地でクエンチし、遠心分離により除去した(500xg、5分間)。1ウェル当たり100,000個の細胞を播種し、PBA(2%(v/v)FCS、0.02%(w/v)NaN3を含むPBS)で希釈したDb3−43xhu225−Igまたは親のモノクローナル抗体の段階希釈物と共に4℃で1時間インキュベートした。細胞をPBAを用いて2回洗浄した。結合した抗体を、PE標識抗ヒトFc二次抗体(これは4℃でさらに1時間インキュベートされた)を用いて検出した。洗浄後、蛍光強度の中央値(MFI)をMilltenyi MACSQuant(登録商標) Analyzer 10を用いて測定した。(無染色細胞に対する)相対的なMFIをMACSQuant(登録商標)ソフトウェアおよびExcelによって計算した。HER3陽性MCF−7細胞株について、二重特異性Db3−43xhu225−Igは0.054nMのEC50値を伴ってサブナノモル濃度範囲において結合した。親の抗HER3 3−43−IgGは類似のEC50値(0.021nM)で結合したため、親の抗HER3抗体の結合活性はDb−Ig形式において保持されている。MCF−7細胞との結合は、抗EGFR抗体であるセツキシマブについて観察されなかった。類似の範囲においてEGFRおよびHER3を発現する細胞株SKBR−3に関して、二重特異性Db3−43xhu225−Ig分子は0.047nMのEC50値で結合し、これは両方の親抗体セツキシマブ(0.031nM)および3−43−IgG(0.022nM)の結合に類似していた。FaDuとの結合に関して、Db3−43xhu225−Igは0.14nMのEC50値で結合した。親の抗EGFR抗体セツキシマブは類似のEC50値(0.13nM)で細胞に結合したため、親抗体セツキシマブの結合活性もまた、Db−Ig形式において保持されている。FaDu細胞は非常に多量のEGFRおよび比較的少量のHER3を発現するため、Db3−43xhu225−Igは細胞のhu225部分に優先的に結合した可能性が最も高い。しかしながら、親の抗HER3 3−43−IgGはまた、比較的低い蛍光信号を伴って0.003nMのEC50値で細胞に結合した(図23G、表1)
四価の二重特異性Db3−43xhu225−Ig分子の薬物動態プロファイルを、SWISSマウスにおいて分析した。25μgのタンパク質を100μlの無菌PBSで希釈し、尾部に静脈内注射した。種々の時点(3分、30分、1時間、2時間、6時間、1日、3日および7日)後において、血液試料を尾部から採取し、氷上で10分間インキュベートした。血餅を遠心(16,000x g、20分間、4℃)し、血清試料を−20℃で保存した。タンパク質血清濃度をELISAによって決定した。EGFR−FcまたはHER3−Fc融合タンパク質をPBSで希釈した2μg/mlの濃度においてポリスチレンマイクロタイタープレート上にコーティングした。残存している結合部位をPBS、2%スキムミルク(MPBS)で遮断した。次いでプレートをMPBSで希釈した血清と共にインキュベートした。洗浄後、結合した抗体をHRP標識抗ヒトFab抗体および基質としてのTMB、H2O2を用いて検出した。Db3−43xhu225−Ig分子の血清濃度を、精製した融合タンパク質の検量線から内挿した(図24)。コーティングされた抗原としてEGFR−FcまたはHER3−Fc融合タンパク質のいずれかを用いたDb3−43xhu225−Igの血清濃度について、差異は観察されなかった。二重特異性Db3−43xhu225−Ig分子は、約2.7時間の初期の半減期および87〜92時間の範囲の末期の半減期を有していた。
実施例17:抗HER3 scFv−Fc−scTRAIL融合タンパク質は、様々なメラノーマ細胞株に対してインビトロにおいて標的依存性細胞毒性を仲介する
メラノーマ細胞株のパネルをHER3の発現についてフローサイトメトリーによってスクリーニングし、これはQIFIKIT(Dako)を用いて定量化された(図25A)。分析されたほとんどのメラノーマ細胞株は、様々な程度でHER3発現を示した。中程度のHER3発現を有するA375を、抗HER3 scFv−Fc−scTRAIL融合タンパク質の結合を分析するために選択した(実施例11;図25B、C参照)。scFv3−43−Fc−scTRAILのHER3陽性細胞株A375への結合をフローサイトメトリーによって分析した。1.19±0.31nMのEC50値を有するscFv3−43−Fc−scTRAILの濃度依存的な結合が観察された(図25D)。scFv3−43−Fc−scTRAILのscFv3−43−Fc融合タンパク質との競合阻害を行い、標的化の形式における結合の改善が3−43結合ドメインに起因することを検証した(図25E)。したがって、scFv3−43−Fc−scTRAILの結合ドメインは200倍モル過剰のscFv3−43−Fc(阻害剤)で遮断された。scFv3−43−Fc−scTRAILの結合は阻害剤存在下において非標的化タンパク質のレベルまで減少したが、Fc−scTRAIL自体の結合は影響されなかった。この結果により、TRAIL融合タンパク質の標的化部分(scFv3−43)がHER3陽性細胞への結合を増加させることが確認された。
次に、抗HER3 scFv−Fc−scTRAIL融合タンパク質を、ボルテゾミブの存在下または非存在下における種々のメラノーマ細胞株の死滅についてインビトロで分析した(図26)。処理の1日前に、30,000〜60,000個の細胞/ウェルを96ウェルプレートに播種した。ボルテゾミブとの併用処理のために、50ng/mlのボルテゾミブで30分間前処理したA375を除いて、細胞を250ng/ml(650nM)のボルテゾミブで前処理した。次いで、細胞を融合タンパク質の段階希釈物と共に16時間インキュベートした。細胞生存率をクリスタルバイオレット染色で分析した。
ボルテゾミブ非存在下において、scFv3−43−Fc−scTRAILは、W793(4.25pMのEC50値)、MW1366(48.2pMのEC50値)およびWM35(4.96pMのEC50値)に対する細胞死の強い誘導、ならびにA375、MelJusoおよびMeWoに対する細胞死の(50%死滅に達していない)部分的な誘導を示した(図26参照)。一方、ボルテゾミブの添加はテストした全てのメラノーマ細胞株を感作させ、これらは0.17〜4.63pMのEC50値を伴う死滅を示した(図26)。非標的化Fc−scTRAILと比較して、ボルテゾミブ非存在下および存在下の両方においてEC50値は減少した(表7)。さらに、細胞生存率アッセイで用いたメラノーマ細胞のHER3発現をボルテゾミブ非存在下または存在下において、QIFIKIT(Dako)を用いてフローサイトメトリーによって分析した。ボルテゾミブでの処理は、メラノーマ細胞によるHER3の発現に対して全くまたはわずかな効果しか与えなかった(図26)。
実施例18:抗HER3 scFv−Fc−scTRAIL融合タンパク質は強力な抗腫瘍活性を示し、インビボのColo205異種移植腫瘍モデルにおいて良好な耐容性を示す
scFv3−43−Fc−scTRAIL融合タンパク質(実施例11参照)を、腫瘍を有するマウスにおいて、その抗腫瘍活性、安全性および薬物動態プロファイルについて評価した。(100μl DPBS中の)3x106個のColo205細胞を雌性NMRIヌードマウスの左側腹部および右側腹部に皮下注射した。腫瘍の長さ(a)および幅(b)をノギスで測定し、腫瘍体積(V=a x b2/2)を計算することによって腫瘍増殖をモニターした。腫瘍が約100mm3のサイズに達した際に処理を開始した。(150μl DPBS中の)融合タンパク質を静脈内注射した。対照の動物は各150μl DPBSの注射を受けた。マウス(9または11週齢、各群当たり6匹のマウス)を3週間、0.2nmolタンパク質(0.4nmol scTRAIL単位)で週に2回(14、18、21、25、28、32日目)処理した。血液試料を、最後の処理の4時間および24時間後に採取し、タンパク質濃度およびALTレベルを分析した。
scFv3−43−Fc−scTRAILおよび非標的化Fc−scTRAILでの処理について完全な腫瘍寛解が観察された。腫瘍寛解は、scFv3−43−Fc−scTRAILで処理された動物について約100日間のモニタリング期間にわたって安定しており、Fc−scTRAILについて実験の終わりにごくわずかな再増殖が検出された(図27A、B)。最後の処理の4時間および24時間後における血清中のALT活性が未処理群またはPBS処理群と比較して類似していたため、TRAIL融合タンパク質処理群について肝臓の毒性効果は観察されなかった(図27C)。タンパク質の血清濃度を、最後の処理の4時間および24時間後に決定した(図27D)。scFv3−43−Fc−scTRAILとFc−scTRAILとの間で差異は観察されなかった。
実施例19:EGFRおよびHER3を標的とするG4Sリンカーを含む二重特異性単鎖ダイアボディ−Fc融合タンパク質
EGFRおよびHER3を標的とする二重特異性単鎖ダイアボディ−Fc融合タンパク質のVL3−43とVH3−43を連結するリンカーL2を配列GGGGSGGRASGGGGS(配列番号21)からGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号16)に改変した(図28A、B)。改変したscDb−Fc融合タンパク質をHEK293−6E浮遊細胞において産生させ、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーおよび高速タンパク質液体クロマトグラフィーによって細胞培養上清から精製した。精製したscDbhu225x3−43−FcのSDS−PAGE分析により、分子の単量体および二量体会合に対応する、還元条件下における約82kDaの見かけの分子量の単一のバンド、および非還元条件下における約200kDaの見かけの分子量の単一のバンドが明らかとなった(図28C)。純度をサイズ排除クロマトグラフィーによって確認した(図28D)。scDb−FcとEGFR(aa20〜643)およびHER3(aa27〜599)のHisタグ付き細胞外ドメインとの結合を、ELISAによって親抗体(hu225−Igおよび3−43−IgG)と比較して評価した。EGFR−HisまたはHER3−His融合タンパク質を、PBSで希釈した2μg/mlの濃度においてポリスチレンマイクロタイタープレート上にコーティングした。残存している結合部位をPBS、2%スキムミルク(MPBS)で遮断した。次いでプレートを二重特異性scDb−Fcまたは単一特異性親抗体の段階希釈物と共にインキュベートした。洗浄後、結合した抗体をHRP標識抗ヒトFc抗体および基質としてのTMB、H2O2を用いて検出した。ELISA分析は、親抗体とEGFRおよびHER3の細胞外ドメイン(ECD)との結合活性が改変されたscDb−Fc形式において保持されていることを明らかにした(図28E参照)。scDb−Fc分子は、EGFRに0.16nMのEC50値で結合し、HER3に0.20nMのEC50値で結合した。親抗体は、対応する抗原にサブナノモル濃度範囲における類似のEC50値(hu225−IgG:0.20nM;3−43−IgG:0.54nM)で結合した。
実施例20:EGFRおよびHER3を標的とする二重特異性ダイアボディ−Ig(Db−Ig)と二重特異性単鎖ダイアボディ−Fc融合タンパク質との比較
EGFRおよびHER3を標的とする2種の形式の四価の二重特異性抗体、単鎖ダイアボディ−Fc(scDb−Fc)(実施例19参照)およびダイアボディ−Ig(Db−Ig)(実施例16)を、EGFR、HER2、HER3、AktおよびErkの阻害活性について分析した。FaDu細胞を用いてシグナル阻害アッセイを行った。細胞を、50nMの親抗体(単独または組合せ(50nMの各抗体))、二重特異性抗体(scDbhu225x3−43−Fc(GGGGS)配列番号33、Db3−43xhu225−Ig)で1時間処理した後、ヘレグリン(50ng/ml)で37℃で15分間刺激した。細胞を、プロテアーゼ阻害剤カクテルを含むRIPA緩衝液(50mM Tris pH7.5、150mM NaCl、10mM NaF、20mM βグリセロリン酸、1mM EDTA、1%NP−40、1mM Na3VO4、0.5mM PMSF、0.25% DOC、0.1%SDS)を用いて溶解し、溶解物を免疫ブロット法によって解析した。HER2およびHER3のリン酸化はヘレグリン刺激非存在下において二重特異性抗体および3−43−IgGによって阻害されたが、受容体リン酸化はヘレグリン存在下において、3−43−IgGと比較して両方の二重特異性抗体によってより効率的に阻害された。さらに、二重特異性抗体は、ヘレグリン非存在下および存在下においてAktおよびErkのリン酸化を効率的に阻害した(図29)。
次に、結腸がん細胞株(SW620、HCT116、およびLoVo)における増殖アッセイを、2つの異なる二重特異性抗体の形式または親抗体(hu225−IgGおよび3−43−IgG)を単独または組合せで用いて行った。細胞を2次元培養または3次元培養のいずれかにおいて増殖させた。2000個の細胞/ウェルを96ウェルプレート(3次元培養用:1:2のマトリゲル:コラーゲン混合物、RPMIまたはDMEM+10%FCS+2%マトリゲル)に播種した。24時間後に培地を捨て、飢餓培地(RPMIまたはDMEM+0.2%FCS+1%P/S)を加えた。さらに24時間のインキュベーション後、細胞を、MEK阻害剤(AZD6244、セルメチニブ)および/または抗体(50nM、組合せ:各50nM)を用いて/用いずに処理した。1時間後、細胞をHRG(6ng/ウェル)で刺激するか、または未刺激のまま保持した。細胞の播種後8日目に、アッセイをCelltiterGlo 3Dキット(ウェル毎に25μlのCelltiterGlo2.0を混合した25μlの飢餓培地)で展開し、発光をプレートリーダー(tecan infinite)で測定した。SW620およびHCT116細胞では、増殖においてわずかな差異のみが全ての抗体で観察された。しかしながら、細胞をヘレグリン存在下でMEK阻害剤と組み合わせて処理した場合、二重特異性抗体は他の抗体と比較して増殖効果の減少を示した。HRGの未刺激LoVo細胞では、MEK阻害剤の存在下または非存在下のいずれにおいても、3次元培養における両方の二重特異性抗体およびhu225−IgGまたは両方の親抗体の組み合わせについて、増殖効果の著しい減少が観察された。HRG刺激後、二重特異性抗体のみがMEK阻害剤存在下または非存在下のいずれにおいても細胞の増殖を効率的に減少させることができた。
実施例21:HER2およびHER3を標的とする二価の二重特異性単鎖ダイアボディ(scDb)
二重特異性scDb分子を、抗HER3 3−43の結合部位をヒト化抗HER2抗体4D5(トラスツズマブ)の結合部位と組み合わせることによって作製した。scDb4D5x3−43−LLは、HER3に対する1つの結合部位およびHER2に対する1つの結合部位を示す(図31AおよびB)。VL3−43をVH3−43と連結するリンカー(L2)は、20アミノ酸(GGGGSGGRASGGGGSGGGGS、配列番号21)からなる。scDb4D5x3−43−LL(配列番号34)をHEK293E浮遊細胞において産生させ、IMACおよび高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)によって精製した。精製したscDb4D5x3−43−LLのSDS−PAGE分析により、還元条件下における約53kDaの見かけの分子量の単一のバンド、および非還元条件下における約50kDaの見かけの分子量の単一のバンドが明らかとなった(図31C)。タンパク質の純度および完全性をサイズ排除クロマトグラフィーによって確認した(図31D)。
親抗体(トラスツズマブおよび3−43IgG)と比較したscDb4D5x3−43−LLの結合を、ヒトHER2(aa23〜652)またはHER3(aa27〜599)の細胞外ドメイン(ECD)を含む固定化されたHER2−FcまたはHER3−Fc融合タンパク質を用いてELISAによって評価した。ECD−Fc融合タンパク質をPBS中、2μg/mlにおいてポリスチレンマイクロタイタープレート上にコーティングした。残存している結合部位をPBS、2%スキムミルク(MPBS)で遮断した。次いでプレートをMPBS中のscDb4D5x3−43−LLまたは親抗体の段階希釈物と共にインキュベートした。洗浄後、結合した抗体を、scDb4D5x3−43−LLの場合にHRP標識抗His抗体、またはHRP標識抗ヒトFab抗体のいずれかおよび基質としてのTMB、H2O2を用いて検出した。scDb4D5x3−43−LLは、低いナノモル濃度範囲のEC50値(HER2:1.54nM;HER3:0.93nM)を有するHER2およびHER3への濃度依存的な結合を示した(図31E)。親抗体は各抗原への結合(HER2に対するトラスツズマブ:0.80nM;HER3に対する3−43−IgG:0.27nM)を示し、したがってscDb4D5x3−43−LLタンパク質の結合は保持されている。
MCF−7細胞においてシグナル阻害アッセイを行い、HER2、HER3、AktおよびErkの受容体活性化が、単独処理または併用処理のいずれかとしての親抗体と比較して、二重特異性scDb4D5x3−43−LL分子での処理によって阻害されるか否かを決定した。さらに、この実験において四価の二重特異性scDb4D5x3−43−Fc融合タンパク質を使用し、受容体のリン酸化を決定した。細胞を、50nMの親抗体(単独または組合せ(50nMの各抗体))または二重特異性scDb4D5x3−43−LLで1時間処理した後、ヘレグリン(50ng/ml)で37℃で15分間刺激した。細胞を、プロテアーゼ阻害剤カクテルを含むRIPA緩衝液(50mM Tris pH7.5、150mM NaCl、10mM NaF、20mM βグリセロリン酸、1mM EDTA、1%NP−40、1mM Na3VO4、0.5mM PMSF、0.25% DOC、0.1%SDS)を用いて溶解し、溶解物を免疫ブロット法によって解析した。HRG未刺激細胞について、二価の二重特異性scDb4D5x3−43−LL分子のみがHER2、AktおよびErkのリン酸化の減少を示し、単独処理または併用処理としての親抗体についてAktの活性化が観察された。さらに、Erkの活性化が、二重特異性であるが四価のscDb4D5x3−43−Fc融合タンパク質について検出された(図32)。類似の結果がHRG刺激細胞において観察された。さらに、二価の二重特異性scDb4D5x3−43分子のみが、HER2、HER3、AktおよびErkのリン酸化の効率的な減少を示した。
実施例22:T細胞再標的化のための種々の価数を有する抗HER3x抗CD3二重特異性抗体
本発明者らは、一方でヒトCD3(UCHT1のヒト化型)に一価で結合し、他方でHER3に、scDb3−43huU3(実施例12も参照)として一価、scDb3−43xhuU3−scFv3−43(実施例13も参照)として二価、またはscFv3−43−scDb3−43xhuU3−scFv3−43(配列番号35、図33A、B)として三価のいずれかで結合する二重特異性抗体を作製した。二重特異性多価抗体をHEK293細胞において産生させ、IMACで精製した。三価(scDb3−43xhuU3−scFv3−43)および四価(scFv3−43−scDb3−43xhuU3−scFv3−43)の抗体を高速タンパク質液体クロマトグラフィーによってさらに精製し、これは抗体の1つの均一な集団をもたらした。
二重特異性抗体の結合を、CD3発現Jurkat細胞(図33C)およびHER3発現MCF−7細胞(図33D)を用いてフローサイトメトリーによって分析した。接着性MCF−7について、細胞を37℃で短時間トリプシン処理し、トリプシンをFCS含有培地でクエンチし、遠心分離により除去した。JurkatおよびMCF−7の両方の細胞株について、1ウェル当たり100,000個の細胞を播種し、PBA(1x PBS中の2%(v/v)FCS、0.02%(w/v)NaN3)中の種々の二重特異性多価抗体の滴定と共に4℃で1時間インキュベートした。洗浄をPBAで2回行った。結合したタンパク質を、4℃でさらに1時間インキュベートしたPE標識抗His抗体を用いて検出した。洗浄後、蛍光をMACSQuant(登録商標) Analyzer 10を用いて測定した。(無染色細胞に対する)相対的な蛍光強度の中央値をMACSQuant(登録商標)ソフトウェアを用いて計算した。全3種の抗体について、CD3陽性Jurkat細胞との結合が濃度依存的な様式で観察され、これはナノモル濃度範囲における類似のEC50値(scDb3−43xhuU3:2.4nM;scDb3−43xhuU3−scFv3−43:4.2nM;scFv3−43−scDb3−43xhuU3−scFv3−43:5.2nM)をもたらした。MCF−7細胞との結合もまた濃度依存的な様式で観察されたが、二重特異性抗体の結合はHER3結合の価数に依存していた。一価のHER3結合剤(scDb3−43xhuU3)のEC50値は1.1nMと決定されたが、二価および三価のHER3結合剤は、scDb3−43xhuU3−scFv3−43について31.4pM、およびscFv3−43−scDb3−43xhuU3−scFv3−43について17.3pMのEC50値を伴うピコモル濃度範囲の結合を示した。
T細胞の活性化を、IL−2放出アッセイにおいてHER3発現MCF−7細胞およびヒトPBMCを用いて分析した。処理の1日前に、1ウェル当たり20,000個のMCF−7細胞を96ウェルプレートに播種した。培地を除去し、種々の二重特異性抗体の滴定を伴って新鮮な培地に置換した。室温での1時間のインキュベーション後に、1ウェル当たり200,000個のPBMCを添加し、37℃でさらに24時間インキュベートした。上清を回収し、IL−2の濃度を製造者によって供給された説明書に従ってELISA(ヒトIL−2キット、R&D)によって決定した。全3種の二重特異性抗体は、0.48nM(scDb3−43xhuU3)、0.29nM(scDb3−43xhuU3−scFv3−43)および0.22nM(scFv3−43−scDb3−43xhuU3−scFv3−43)のEC50値を伴うサブナノモル濃度範囲におけるIL−2の用量依存的な放出(T細胞の活性化)を示した(図33E)。
種々の二重特異性抗体による標的細胞の死滅を、HER3発現MCF−7細胞およびヒトPBMCを用いて分析した。処理の1日前に、1ウェル当たり20,000個のMCF−7細胞を96ウェルプレートに播種した。培地を除去し、種々の二重特異性多価抗体の滴定を伴って新鮮な培地に置換した。室温での1時間のインキュベーション後に、1ウェル当たり200,000個のPBMCを添加し、37℃でさらに48時間インキュベートした。細胞生存率をMTTアッセイにより測定した。全3種の二重特異性抗体は、84pM(scDb3−43xhuU3)、34pM(scDb3−43xhuU3−scFv3−43)および32pM(scFv3−43−scDb3−43xhuU3−scFv3−43)のEC50値を伴うピコモル濃度範囲におけるMCF−7細胞の用量依存的な死滅を示した(図33F;黒色の線)。PBMC非存在下において、MCF−7細胞の細胞生存率の減少は観察されなかった(図33F;灰色の線)。
実施例23:IgG3−43はドメインIIIおよびIVが変異したHER3−Fc融合タンパク質に結合する
ドメインIIIおよびIVにおけるHER3体細胞変異体を、Q5(登録商標)部位特異的変異誘発キット(NEB)によってクローン化した。1つのホットスポット変異体(T335A)に加えて、ドメインIIIおよびIVにおける他の6つの変異体(T389I、M406K、R453H、Y464C、D492H、K498I)をHER3−Fc融合タンパク質として発現し、これらを一過性にトランスフェクトしたHEK293−6E細胞において産生させ、プロテインAクロマトグラフィーによって精製した。SDS−PAGE分析により、タンパク質の純度を確認し、還元条件下における約140kDaの単一のバンドが示された(図34A)。3−43−IgGが種々の変異したHER3−Fc融合タンパク質に結合する能力をELISAで分析し、野生型(変異していない)HER3−Fc融合タンパク質との結合と比較した。種々のHER3−Fc融合タンパク質をPBSで希釈した2μg/mlの濃度においてポリスチレンマイクロタイタープレート上にコーティングした。残存している結合部位をPBS、2%スキムミルク(MPBS)で遮断した。次いでプレートを抗HER3抗体3−43−IgGおよび3M6−IgGの段階希釈物と共にインキュベートした。洗浄後、結合した抗体をHRP標識抗ヒトFab抗体および基質としてのTMB、H2O2を用いて検出した。IgG3−43は、ホットスポット変異体T335Aを含む全てのテストされた変異体との結合を示した。HER3のドメインIに結合するIgG 3M6を陽性対照として含め、これは野生型HER3−Fcについて観察された信号と同様に100nMにおいて結合を示した。IgG3−43はHER3の全ての変異型に結合でき、いくつかの変異体では固定化されたHER3−Fc変異体を用いたELISAにおいて飽和結合の減少が観察されたが、EC50値は全てのHER3変異体について類似の範囲内(0.1〜0.3nM)であった。
表:
表1:一価および二価の親和性。KDをAttanaシステムを用いて測定した。
表2:IgG3−43の細胞結合特性。表中に示される細胞との結合のEC
50値をフローサイトメトリーによって評価した。
表3:scDb hu225x3−43−Fcの結合特性。EGFR−ECDおよびHER3−ECDタンパク質との結合のEC
50値[nM二量体]をELISAによって決定した。FaDu細胞との結合のEC
50値[nM二量体]をフローサイトメトリーによって評価した。
表4:scFv3−43−Fc−scTRAILの結合特性。HER3およびヒトTRAIL−R2との結合のEC
50値[nM単量体]をELISAによって決定した。HER3の細胞外ドメインまたはヒトTRAIL−R2のFc融合タンパク質を抗原として用いた。
表5:scFv3−43−Fc−scTRAILによる細胞死誘導。Colo205に対する細胞死誘導のEC
50値[nM単量体]を、ボルテゾミブ(650nM)非存在下および存在下、ならびに遮断抗体(200倍モル過剰)の非存在下および存在下において決定した。scFv3−43−Fc−scTRAILの効果を非標的化Fc−scTRAIL融合タンパク質と比較した。
表6:Db3−43xhu225−Igの結合特性。EGFRおよびHER3融合タンパク質の細胞外ドメイン(ECD)との結合のEC
50値[nM]をELISAによって決定した。MCF−7、SKBR−3およびFaDu細胞との結合のEC
50値[nM]をフローサイトメトリーによって評価した。
表7:ボルテゾミブ(BTB)存在下または非存在下におけるscFv3−43−Fc−scTRAILおよびFc−scTRAILの細胞死誘導アッセイのEC
50値。細胞をタンパク質単独またはボルテゾミブとの組合せで16時間処理した後、EC
50値[pM]を決定した。−、50%未満の細胞死;平均値±SD。